JP4609083B2 - 指紋検出用液、その製造方法およびそれを用いた指紋検出方法 - Google Patents
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Description
新聞紙、リポート用紙、上質紙等の普通紙に付着した指紋を検出する場合には、従来、ケトン類、アルコール類等の有機溶剤を溶媒とするニンヒドリン溶液に指紋の付着した普通紙を浸せきさせる方法、普通紙に前記ニンヒドリン溶液をハケ等で塗布する方法、普通紙に前記ニンヒドリン溶液を噴霧して均一に塗布する方法等により、普通紙に十分な量の溶液を染み込ませ、その後、加熱処理を施すことによって発色反応を促進させていた。
即ち、ニンヒドリンは、アルコール類、ケトン類等の極性溶剤には溶解するが、通常のハイドロカーボン等の無極性溶剤には溶解しない。そのため、ニンヒドリンを用いる方法においては、極性を有する有機溶剤にニンヒドリンを溶解させ、それをもとに調製した指紋検出用液を使用することになる。
その結果、普通紙に油性ボールペン等で文字が書かれていた場合には、ニンヒドリン溶液に含有される有機溶剤によって指紋の検出に悪影響が出るばかりでなく、筆跡鑑定等の指紋以外に得られるべき有力な情報にも損傷を与えることになる。また、感熱紙等の紙に対して用いる場合、極性有機溶媒や熱による変質が生じ、表面がすぐに黒っぽく変色してしまうことから、指紋の検出が困難となってしまう。
特許文献1には、ハイドロフルオロエーテルの具体例として、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタン、および1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンが記載されており、これらのハイドロフルオロエーテルに溶解する水によりニンヒドリンを溶解して指紋検出用溶剤とするという手法が記載されている。
また、本発明は、前記指紋検出用液を効率的に製造する方法および前記指紋検出用液を用いた指紋検出方法を提供することを更なる目的とする。
即ち、(a)HFE−347は、比較的小さい極性を有するため、インク等を溶解させないので、普通紙に書かれた文字に影響を与えない。(b)HFE−347は、単独ではニンヒドリンをほとんど溶解させないが、水を含有する場合には十分な濃度で溶解させる。(c)その場合、含有される水が、HFE−347から遊離しない限り、即ち、HFE−347の飽和水分濃度を超えない限り、水を含有するHFE−347(以下「含水HFE−347」ともいう。)は、感熱紙に影響せず、また、普通紙について指紋以外の有力情報に損傷を与えない。(d)HFE−347は、引火点を持たない不燃性であり、また、飽和水分濃度が比較的高い。
本発明者は、上記知見に基づき、本発明を完成させた。
本発明の指紋検出用液は、HFE−347と、ニンヒドリンと、水とを含有する。
HFE−347は、水素原子、フッ素原子、炭素原子および酸素原子を含むハイドロフルオロエーテルの1種である。HFE−347は、沸点が56℃、凝固点が−94℃であり、25℃における水分飽和濃度が質量基準で900ppmであり、引火点や空気との混合ガスが爆発範囲を持たない不燃性の溶剤である。
ニンヒドリンは、HFE−347自体にはほとんど溶解しないが、含水HFE−347には溶解する。また、ニンヒドリンの溶解しうる量は、HFE−347中の水の含有量が高いほど、多くなる。
本発明の指紋検出用液における水の含有量が上記範囲であると、後述するニンヒドリンの含有量を十分に多くすることができる。
水の含有量は、上限を特に限定されないが、HFE−347の飽和濃度以下であるのが好ましい。即ち、含有される水が、HFE−347から遊離しないのが好ましい。
本発明の指紋検出用液におけるニンヒドリンの含有量が上記範囲であると、検体との接触時間を短くすることができ、指紋のにじみ、感熱紙の変色、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等が発生を防止することができ、潜在指紋を鮮明に発色させることができる。
ニンヒドリンの含有量は、上限を特に限定されないが、含水HFE−347の飽和濃度以下であるのが好ましい。即ち、含有されるニンヒドリンが、含水HFE−347から遊離しないのが好ましい。
他の極性有機溶剤としては、例えば、ケトン類、アルコール類が挙げられる。その含有量は、5000ppm以下であるのが好ましく、500ppm以下であるのがより好ましい。
含水HFE−347は、HFE−347に水を添加することにより得ることができる。添加される水は、特に限定されないが、有機溶剤、酸、アルカリ等を含有しないものが好ましく、蒸留水または限外ろ過等の処理を施した純水がより好ましい。
また、水の添加後にかくはん、振とうなどを行うのが好ましい。それにより、HFE−347の水分濃度を高めることができる。
溶解の時間は、長いほど(例えば、一晩)ニンヒドリンの溶解量を多くすることができるが、通常、30分程度で、指紋の検出に十分な溶解量にすることができる。
また、ニンヒドリンを過剰に添加し、溶解せずに残った固形のニンヒドリンをろ過等により除去することもできる。
中でも、本発明の指紋検出用液に被検体を浸せきさせる方法が、最も一般的な操作であり、好ましい。この方法において、被検体を本発明の指紋検出用液に浸せきさせる時間は、5秒〜1分であるのが好ましい。なお、後述する浸せきを繰り返し行う場合においては、浸せき時間の合計が上記範囲になるのが好ましい。
本発明に用いられる含水HFE−347は、揮散しやすいため、湿潤状態になった被検体は、室温でも容易に乾燥させることができる。
中でも、本発明の指紋検出用液に被検体を浸せきさせ、その後、引き上げて乾燥させる手順を繰り返し行うのが好ましい。この際、指紋の発色の程度を観察しながら、繰り返し回数を決定することができる。
上記手順を繰り返し行うことにより、本発明の指紋検出用液に含有されるニンヒドリンが被検体の指紋と繰り返し接触し、その結果、指紋の発色が促進され、また、発色の鮮明度が向上する。本発明の指紋検出用液は、指紋の発色が短時間に起こるので、このような手順を繰り返しても、指紋検出にかかる時間は十分に短くなる。
繰り返しの手順を行う環境が、高温で高湿度であるときには、乾燥の際にHFE−347が蒸発して被検体から熱(蒸発潜熱)を奪い、その結果、被検体の温度が周囲の環境よりも低くなって、空気中の水分が被検体の表面で凝縮して付着する可能性がある。このような被検体への水分の付着が起こると、発色した指紋が不鮮明になることがある。
本発明の指紋検出用液が40℃以上であると、このような被検体への水分の付着を防止することができる。
また、検出される指紋は肉眼で観察することができるほどに鮮明である。
更に、普指紋以外の有力情報に損傷を与えるおそれが低く、印字の変色による妨害や、印字の消失による警察捜査の証拠物件の消滅が起こりにくい。
1.指紋検出用液の調製
(実施例1)
ガラス製分液漏斗中の1000mLのHFE−347に、10mLの純水を添加して、よくかくはんした後に室温で30分間静置した。その結果、少量の水が液面に浮上し、上層となった。ついで、下層より500mLの含水HFE−347を採取した。
更に、100gの上記で得られた含水HFE−347に、1gのニンヒドリンを添加して50℃で30分間保温し、その後、ろ紙を用いてろ過を行い、ろ液を指紋検出用液とした。
上記で得られた含水HFE−347に、水を添加していないHFE−347を添加して、水の濃度を低下させた後に、ニンヒドリンを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、指紋検出用液を得た。
ガラス製分液漏斗中の1000mLの1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンに、10mLの純水を添加して、よくかくはんした後に室温で30分間静置した。その結果、少量の水が液面に浮上し、上層となった。
ついで、下層より500mLの含水1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを採取した。
更に、100gの上記で得られた含水1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンに、1gのニンヒドリンを添加して50℃で30分間保温し、その後、ろ紙を用いてろ過を行い、ろ液を指紋検出用液とした。
ガラス製分液漏斗中の1000mLの(パーフルオロブトキシ)メタン(HFE−7100、米国3M社製)に、10mLの純水を添加して、よくかくはんした後に室温で30分間静置した。その結果、少量の水が液面に浮上し、上層となった。
ついで、下層より500mLの含水(パーフルオロブトキシ)メタンを採取した。
更に、100gの上記で得られた含水(パーフルオロブトキシ)メタンに、1gのニンヒドリンを添加して50℃で30分間保温し、その後、ろ紙を用いてろ過を行い、ろ液を指紋検出用液とした。
ガラス製分液漏斗中の1000mLの(パーフルオロブトキシ)エタン(HFE−7200、米国3M社製)に、10mLの純水を添加して、よくかくはんした後に室温で30分間静置した。その結果、少量の水が液面に浮上し、上層となった。
ついで、下層より500mLの含水(パーフルオロブトキシ)エタンを採取した。
更に、100gの上記で得られた含水(パーフルオロブトキシ)エタンに、1gのニンヒドリンを添加して50℃で30分間保温し、その後、ろ紙を用いてろ過を行い、ろ液を指紋検出用液とした。
上記で得られた指紋検出用液の水およびニンヒドリンの含有量を以下のようにして求め、第1表に示した。
指紋検出用液の水の含有量は、カールフィッシャー水分計を用いて、電量滴定法により求めた。
指紋検出用液のニンヒドリンの含有量は、指紋検出用液を105℃で60分間保温し、含水HFE−347(実施例1〜8)、含水1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(比較例1)、含水(パーフルオロブトキシ)メタン(比較例2)または含水(パーフルオロブトキシ)エタン(比較例3)を蒸発させて、残留物の質量をニンヒドリンの質量とし、これを蒸発前の指紋検出用液の質量で除して、求めた。
上記で得られた指紋検出用液を用い、指で接触した食料品小売店のレジスターの感熱紙レシートを被検体として、指紋検出試験を行った。指紋検出試験は、以下の検出条件1〜3のそれぞれを行い、その後の被検体の指紋の発色の程度を目視で観察して評価した。また、印字の流れや溶出による不鮮明化および印字されていない部分の変色についても目視で観察した。
検出条件1:被検体を室温(22〜24℃)の指紋検出溶液に15分間浸せきさせた後、恒温器中、50℃で15分間放置した。
検出条件2:被検体を室温(22〜24℃)の指紋検出溶液に5分間浸せきさせた後、恒温器中、50℃で15分間放置した。
検出条件3:被検体を室温(22〜24℃)の指紋検出溶液に1秒間浸せきさせた後、引き上げて5秒間放置するという操作を5回繰り返した後(合計浸せき時間:5秒間)、恒温器中、50℃で15分間放置した。
◎:指紋の発色が濃く鮮明
○:指紋の発色が鮮明
△:指紋の発色が薄い
×:指紋の発色を認識することができない
また、水およびニンヒドリンの含有量が比較的高い本発明の指紋検出用液(実施例1〜6、特に実施例1〜4)を用いた場合、検体との接触時間を短くすることができ、発色性にも優れていた。特に、被検体との短時間の接触を繰り返す本発明の指紋検出方法(検出条件4)を用いた場合に、顕著であった。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例1〜8)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、比較例1で得られた指紋検出用液を用いた場合は、印字されていない部分の一部が黒く変色していた。また、比較例2または3で得られた指紋検出用液を用いた場合は、上記検出条件で指紋の検出を行うことができなかった。
Claims (10)
- 1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンと、ニンヒドリンと、水とを含有する指紋検出用液。
- 前記水の含有量が300ppm以上である請求項1に記載の指紋検出用液。
- 前記ニンヒドリンの含有量が20ppm以上である請求項1または2に記載の指紋検出用液。
- 水を含有する1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンに、ニンヒドリンを溶解させて、請求項1〜3のいずれかに記載の指紋検出用液を得る、指紋検出用液の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の指紋検出用液を被検体に接触させる接触工程と、その後、前記被検体を乾燥させる乾燥工程とを具備する、指紋検出方法。
- 前記接触工程おいて、前記指紋検出用液に前記被検体を浸せきさせることにより接触させる、請求項5に記載の指紋検出方法。
- 前記接触工程および前記乾燥工程を繰り返し行う請求項5または6に記載の指紋検出方法。
- 繰り返し回数が3回以上である請求項7に記載の指紋検出方法。
- 前記被検体を前記指紋検出用液に浸せきさせる時間が1回あたり0.5〜5秒である請求項7または8に記載の指紋検出方法。
- 前記指紋検出用液の温度が40℃以上である請求項7〜9のいずれかに記載の指紋検出方法。
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