JP4608674B2 - 発癌予防剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌の発生を予防する発癌予防剤に関する。本発明はさらに詳細には、転位骨格を持つ3,4−seco−チルカラン型のトリテルペン系化合物を有効成分とする発癌予防剤に関する。本発明の上記化合物は、好ましくはキク科植物花卉及び/又は花粉を処理して得られる。本発明の上記化合物は、さらに好ましくは、ヒマワリの花粉を処理して得られるものである。
【0002】
【従来の技術】
ある種のトリテルペン系化合物が発癌予防剤として有効であることは、すでに知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし特許文献1は、具体的に発癌予防に関して十分な効果を有するトリテルペン系化合物を開示するものではない。ところが複雑な現代生活に伴って、安全性が高くかつ十分な効果を有する発癌予防剤は、強く求められている。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−25232号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
発癌予防の大きなニーズとに鑑みて、安全で有効な発癌予防剤が得られないものかとの期待は大きい。
そこで本発明の課題は、安全で有効な発癌予防剤を提供することである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
発癌予防剤の探索を行うためには、抗発癌プロモーターの探索を行う方法が最も有用である。この、抗発癌プロモーター探索の一次スクリーニング法としては、EBV活性化抑制検定法が知られている。
【0006】
本発明者等は、キク科植物花卉及び/又は花粉を処理して得られるトリテルペン系化合物に注目して鋭意研究を行った結果、転位骨格を持つ3,4−seco−チルカラン型のトリテルペン系化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の上記化合物が優れた発癌予防効果を持ち、安全性の高い発癌予防剤になり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。特にキク科植物花卉及び/又は花粉を処理して得られる上記化合物は、安全な天然物であるキク科植物花卉及び/又は花粉を起源とすることで、安全性については注目に値するメリットがある。中でもヒマワリの花粉を処理して得られるものは、発癌予防、安全性ともにとりわけ優れている。
よって本発明は、特にキク科植物花卉及び/又は花粉エキス成分の抗発癌プロモーター活性を見出した点に重要な意義がある。
【0007】
発明者はEBVのゲノムを内臓するバーキット・リンパ腫由来の培養細胞であるラジ(Raji)株において、EBV・ゲノムの発現を阻害する化合物の多くがマウス皮膚発癌二段階実験において抗発癌プロモーターとして作用する点に注目した。そしてヒマワリ花粉抽出物からEBV・ゲノムの発現を阻害するウイルス・ゲノム不活性化物質を探索した。
【0008】
EBV・ゲノムの発現阻害作用に着目したこの方法はラジ株培養系に発癌プロモーターであるTPA(テトラデカノイルホルボールアセテート)と活性発現のために相乗作用として働くn−酪酸、それに被検物質を加えて培養し、TPAにより活性化された細胞由来の抗体を用いる間接蛍光抗体法で検出する方法である。この方法は、迅速、かつ定量性に優れ、加えて、微量活性成分の検出が可能な点で優れた方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
活性試験法
以下に、EBV活性化抑制効果検定法の操作手順を、図1のスキームを参照しながら詳細に説明する。なお、本手順は、徳田らの方法[Cancer Letters、40巻、309頁(1988)]に準拠している。
(1) 1x106/mLのラジ細胞に20ng/mL(32pmol)の濃度のTPAを加え、さらにn−酪酸を加えた。
(2) そこに、水、エタノール、又はジメチルスルホキシドに溶解した所定量の被検物質を添加して、37℃で48時間培養した。
(3) 培養終了後、上咽頭癌患者の血清を用いた間接蛍光抗体法によりEBV早期抗原の発現を検出した。
TPAのみを加えた群(コントロール)のEBV早期抗原の発現率を100%として、被検物質添加群のEBV早期抗原の発現率を求め、次式により被検物質のEBV早期抗原の発現率(%)を算出した。
【0010】
【数1】
EBV早期抗原の発現阻害率)(%)= 100 − 被検物質添加群のEBV早期抗原の発現率(%)
なお、被検物質の濃度が1000倍モル濃度の欄の括弧内の数値は、ラジ細胞の生存率(%)を示す。この数値が高い方が正常細胞に対する悪影響が小さい、すなわち安全性が高いと言える。
【0011】
本発明は、好ましくはキク科植物花卉及び/又は花粉を処理して得られるトリテルペン系化合物を含有する発癌予防剤に関する。これらの化合物のうち、トリテルペン系化合物は、転位骨格を持つ3,4−seco−チルカラン型の新規化合物である、サンポレネノール(化合物1)、(24S)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物2)、(24R)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物3)、(23E)−23−デヒドロ−25−ヒドロキシサンポレナノール(化合物4)、(24S)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物5)、及び(24R)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物6)からなる群から選ばれた少なくとも1種のものである。
【0012】
本発明におけるトリテルペン系化合物を得るためのキク科植物花卉及び/又は花粉としては、ヒマワリ、姫ヒマワリ、食用菊、小菊、菊、ジョ菊、オロシャ菊、紅花、貢菊、毫菊、カミツレ、カワラヨモギ、オグルマ、款冬、コスモス、菊イモ、ゴボウ、利根アザミ、朝鮮アザミ、マリアアザミ、キンセンカ、アルニカ、バッカリス、ブタナ、西洋タンポポ、関東タンポポのようなキク科植物のものが挙げられる。
【0013】
本発明においては例えば、キク科植物花卉及び/又は花粉を有機溶媒で抽出してトリテルペン系化合物を得る。
【0014】
抽出用の有機溶媒としては、特にエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、アセトン、n-ヘキサン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル等が好ましく、これらの溶媒を単独又は混合し、または水で希釈して用いることができる。
得られた抽出物はそのまま又は濃縮してエキス状で、又は乾燥して粉末状にして種々の製剤化が可能である。
【0015】
本発明のキク科植物花卉及び/又は花粉抽出物は、適当な医薬用の担体又は希釈剤と組み合わせて医薬とすることができ、通常の如何なる方法によっても製剤化でき、経口又は非経口投与するための固体、半固体又は液体の剤形に処方することができる。処方にあたっては、他の医薬活性成分との配合剤としてもよい。
【0016】
例えば、日本薬局方に記載されている各種製剤、即ち、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、乾燥エキス剤、トローチ剤等の内用固形製剤、流エキス剤、エリキシル剤、酒精剤、シロップ剤、リモナーデ剤等の内用液剤、チンキ剤、リニメント剤、ローション剤等の外用液剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤等の外用剤などに製剤化できる。また、投与可能であるならば、吸入剤、エアゾール剤、注射剤、点眼剤、座剤等にも用途に応じて製剤化してもよい。
【0017】
経口投与においては、成人に対し体重1kg当り0.5〜500 mg/日の範囲で投与するのが好ましい。
【0018】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0019】
ヒマワリ花粉336gをジエチルエーテルによりソックスレー抽出器を用いて48時間抽出し、28gの抽出物を得た。この抽出物は、シリカゲル(600g)カラムクロマトグラフィーにより、n−ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒[1:0(2.4L)、9:1(3.9L)、1:1(2.4L)、0:1(1.0L)]を展開液として用い、順次溶出させながら分画した。これにより、n−ヘキサン/酢酸エチル(9:1)溶出部より画分I[2.0g;シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC;展開液:n−ヘキサン/酢酸エチル(6:1))でRf値0.53]、n−ヘキサン/酢酸エチル(1:1)溶出部より画分II[1.3g;TLCRf値0.10]、及び他の5画分が得られた。
【0020】
画分Iからは、メタノールを展開液としたオクタデシルシリカ(ODS)カラムクロマトグラフィー、続いてのODSカラムHPLC(25cmx内径10mm;展開液:メタノール、4mL/分)を行い、サンポレネノール(化合物1)(117mg;保持時間17.1分)、(23E)−23−デヒドロ−25−ヒドロキシサンポレナノール(化合物4)(18mg;保持時間6.9分)、及び(24S)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物2)と(24R)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物3)の混合物を得た。後者の混合物からは、順相シリカカラムHPLC[25cmx内径4.6mm;展開液:n−ヘキサン/酢酸エチル(92:8)、1mL/分]により化合物2(5mg;保持時間48.8分)および化合物3(11mg;51.4分)を単離した。
【0021】
画分IIは更にODSカラムクロマトグラフィー[展開液:メタノール/水(85:15)]で精製後、ODSカラムHPLC[25cmx内径10mm;展開液:メタノール/水(85:15)、4mL/分]を行い、(24S)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物5)及び(24R)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物6)の混合物(保持時間:14.7分)を得た。この混合物の順相シリカカラムHPLC[25cmx内径10mm;展開液:n−ヘキサン/酢酸エチル(7:3)、4mL/分]により、化合物5(3mg;保持時間36分)及び化合物6(4mg;保持時間38分)を得た。
トリテルペンの化学構造式は図2に示した。
【0022】
6種の新規化合物1〜6の構造はMS,IR,1H NMR,13C NMR,1H−1H COSY,HMQC,HMBC及びNOESY法により決定した。表1に、これらの化合物の1H NMRデータを、表2に、13C−NMRデータを示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
これら6種の新規化合物の化学名を以下に示す。
化合物l:4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucall-24-en-3,5β-oxide
化合物2:(24S)-4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallane-3,5β:24,25-dioxide
化合物3:(24R)-4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallane-3,5β:24,25-dioxide
化合物4:(23E)-4,25-dihydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucall-23-en-3,5β-oxide
化合物5:(24S)-4,24,25-trihydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallan-3,5β-oxide
化合物6:(24R)-4,24,25-trihydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallan-3,5β-oxide
【0026】
新規化合物1〜6の諸性質およびスペクトルデータ(表1及び表2のNMRデータを除く)を次に示した。
【0027】
サンポレネノール(化合物1): 無定形固体;[α]25 D −10.4°(CHCl3; c 0.56); IR (KBr) νmax 3465 (OH), 1079 (C−O), 829 (>C=CH−) cm-1; CIMS m/z 445 [MH]+ (13), 427 (100), 385 (41), 369 (4); 高分解能CIMS m/z 445.4040 (理論値C30H53O2 [MH]+, 445.4045); EIMS m/z 429 [M−Me]+ (1), 411 (6), 385 (100), 315 (1), 287 (6), 274 (2), 273 (2), 205 (13), 179 (6), 163 (3), 149 (13), 111 (32), 69 (20).
【0028】
(24S)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物2): 無定形固体;[α]25 D −27.0°(CHCl3; c 0.20); IR (KBr) νmax 3445 (OH), 1076 (C−O) cm-1; CIMS m/z 443 [MH−H2O]+ (100), 425 (30), 401 (45); 高分解能CIMS m/z 443.3889 (理論値 C30H51O2 [MH−H2O]+, 443.3889).
【0029】
(24R)−24,25−エポキシサンポレネノール(化合物3): 無定形固体; [α]25 D −28.1°(CHCl3; c 0.52); IR (KBr) νmax 3480 (OH), 1076 (C−O) cm-1; EIMS m/z 442 [M−H2O]+ (1), 401 (75), 385 (26), 203 (13), 179 (21), 165 (23), 149 (28), 135 (26), 121 (26), 111 (100); 高分解能EIMS m/z 442.3812 (理論値 C30H50O2 [M−H2O]+, 442.3811).
【0030】
(23E)−23−デヒドロ−25−ヒドロキシサンポレナノール(化合物4): 無定形固体; [α]25 D −22.0°(CHCl3; c 0.2); IR (KBr) νmax 3443 (OH), 1075 (C−O), 970 (−C=CH−) cm-1; 1H NMR (C5D5N) δ 0.83, 0.84, 1.21, 1.53, 1.55, 1.56, 1.57 (各 3H及び s), 0.98 (3H, d, J = 5.1 Hz, H-21), 3.78 (1H, ddd, J = 4.6, 5.6, 11.2 Hz, H-3), 4.47 (1H, ddd, J = 4.6, 6.5, 11.2 Hz, H-3), 5.95 (1H, d, J = 15.0 Hz, H-24), 5.99 (1H, ddd, J = 5.3, 7.0, 15.0 Hz, H-23); CIMS m/z 443 [MH−H2O]+ (6), 425 (23), 401 (85), 383 (100); 高分解能CIMS m/z 443.3882 (理論値 C30H51O2 [MH−H2O]+, 443.3889).
【0031】
(24S)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物5): 無定形固体; [α]25 D −23.4°(CHCl3; c 0.6); IR (KBr) νmax 3435 (OH), 1075 (C−O) cm-1; EIMS m/z 460 [M−H2O]+ (3), 419 (100), 401 (90), 111 (97); 高分解能EIMS m/z 460.3919 (理論値 C30H52O3 [M−H2O]+, 460.3916).
【0032】
(24R)−24,25−ジヒドロキシサンポレネノール(化合物6): 無定形固体;[α]25 D −12.9°(CHCl3; c 1.1); IR (KBr) νmax 3434 (OH), 1075 (C−O) cm-1; EIMS m/z 460 [M−H2O]+ (3), 445 (7), 419 (100), 401 (84), 385 (26), 359 (20), 111 (90); 高分解能EIMS m/z 460.3911 (理論値 C30H52O3 [M−H2O]+, 460.3916).
【0033】
以下には新規化合物1〜6の構造決定について述べた。
化合物1は高分解能CIMS ([M + H]+ m/z 445.4039)及びEIMS ([M - Me]+ m/z 429)、更には13C NMRより分子式C30H52O2を持つ事が示された。IRスペクトルから、水酸基(3465 cm-1)及び三置換二重結合(829 cm-1)の存在が示唆された。本化合物は7個の第3級メチル基 [δH 0.79, 0.85, 1.08, 1.27, 1.30, 1.60, 1.68 (各 s)]、1個の第2級メチル基 [δH 0.91 (d, J = 6.4 Hz)]、1個の酸素化されたメチレン基 [δH 3.65 (ddd, J = 6.4, 8.7, 11.9 Hz)及び3.82 (ddd, J = 4.1, 8.2, 11.9 Hz) (各 1H); δC 58.6]、オレフィン性メチン基 [δH 5.09 (1H, tt, J = 1.4, 6.0 Hz)]、及び第3級水酸基 [δC 78.5 (s)]を有している。これらのうち、酸素化されたメチレンシグナルはピラン環酸素のα‐位に位置するジェミナル結合をしたメチレン基に帰属できる。EIMSはm/z 429 [M - Me]+, 315 [M - 側鎖 (C8H15; C-20-C-27) - H2O]+, 及び 69 [CH2CH=C(Me)2]+ (C-23-C-27)に開裂イオンを示したが、これは、化合物1が2個の酸素原子を含む四環性骨格にC-24位不飽和のC8側鎖を持つことを示唆している。更に、特徴的なm/z 385 [イソプロパニル基 (C3H7O)の脱離]+及び m/z 274 (C20H34)イオン(これらはC-7-C-8及び C-9-C10 結合の開裂によるA及びB環の脱離に相当する)、また、m/z 163 (C12H19; 274 -側鎖)イオンは、イソプロパノール基がC-5位に結合しており、C-10位にはメチル基が存在しないことを示している。上記の知見、及び既知化合物のヘリアノール [3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucalla-4,24-dien-3-ol][秋久ら、J. Nat. Prod.、61巻、409頁(1998)] 及び ターミナリン A (4-hydroxy-3,4-seco-glutinan-3,5β-oxide)[Atta-ur-Rahmanら、Tetrahedron Lett.、43巻、6233頁(2002)]とのスペクトルデータの比較により、化合物1は4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucall-24-en-3,5-oxide構造を持つことが予想された。この予想構造が正しいことは、1H(表1)及び 13C NMR データ(表2)、更には13C DEPT NMR, 1H-1H COSY, HMQC及び HMBCスペクトルの解析により確認した。化合物1の立体化学はNOESY スペクトル法により決定した。化合物1は、図3に示したように、分子のα‐面において[H-29-H-10α-H-8α-H-18 (13α-Me)-H-20]の顕著なNOE 相関を、一方、β‐面においては、[H-3β-H-19 (9β-Me)-H-30 (14β-Me)-H-17β-H-21] の相関を示した。また、[H-12α-H-21]相関も認められることから、化合物1は図2に示した構造を持つことを明らかにした。なお、本化合物はサンポレネノールと命名した。
【0034】
化合物2及び3は13C DEPT NMR法、並びにMS (2: 高分解能CIMS m/z 443.3889 [MH - H2O]+ in 高分解能CIMS; 3: 高分解能EIMS m/z 442.3812 [M - H2O]+ )法により分子式C30H52O3を持つことが示された。これらの化合物は、IRスペクトルで水酸基(2: 3445 cm-1; 3: 3480 cm-1)の吸収を示した。化合物2及び3のトリテルペン骨格部の1H (表1) 及び13C NMR (表2)データは化合物1の対応するものとほぼ同一であり、一方、側鎖NMRシグナルは、24,25-エポキシ化されたC8-側鎖を持つ既知化合物である4α,5α:24,25-ジエポキシヘリアノール [4α,5α:24,25-diepoxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallan-3β-ol]の 24S- 及び 24R-エピマー[浮谷ら、J. Agric. Food Chem.、51巻、2929頁(2003)]に極めて類似していた。化合物2及び3がC-24 及びC-25位にエポキシ基を持つことは、HMBCスペクトルでH-24 (C-22, C-23, C-25, C-26, 及び C-27と相関), H-26 (C-24, C-25, 及びC-27と相関), 及び H-27 (C-24, C-25, 及びC-26と相関)にクロスピークを認めたことにより支持された。これらの事実から、化合物2及び3は4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallane-3,5β:24,25-dioxideのC-24エピマーであることが予想された。C-24位の立体化学の帰属には、化合物2及び3の側鎖13Cシグナルの13C NMR化学シフト差を用いることが有用である。表2の13C NMRデータから、化学シフト差は次のように計算された:C-20 (δ3-δ2 = 0.1), C-21 (0.1), C-22 (0.2), C-23 (0.3), C-24 (0.1), C-25 (-0.3), C-26 (-0.3), 及びC-27 (0.0)。これらは、4α,5α:24,25-ジエポキシヘリアノールのδR - δS 差に一致しており、従って、化合物2及び3はそれぞれ4-hydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallane-3,5β:24,25-dioxideの24S- 及び 24R-エピマーであることが示された。化合物2及び3の 13C DEPT, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC,及びNOESYスペクトルの解析によりこれらの構造が確認された。なお、化合物2及び3はそれぞれ(24S)- 及び (24R)-24,25-エポキシサンポレネノールと命名した。
【0035】
化合物4は13C DEPT NMR及び高分解能CIMSにおける[MH - H2O]+イオンをm/z 443.3882に観測した事から分子式C30H52O3を持つことを確認した。IRスペクトルからは、水酸基(3443 cm-1)及び二置換二重結合(970 cm-1)の存在が示唆された。1H (表1) 及び 13C NMR (表2)データから、本化合物が化合物1と同一の骨格構造を持つことが示された。本化合物は更に、側鎖部分に起因する、含酸素炭素と結合した2個の第3級メチル基[δH 1.31 (s, 6H, H-26, H-27)]、1個の第2級メチル基[δH 0.89 (d, J = 6.1 Hz; H-21)]、及び2個のオレフィン性メチン基[δH (CDCl3) 5.59 (2H, m; H-23, H-24); δH (C5D5N) 5.95 (1H, d, J = 15.0 Hz, H-24), 5.99 (1H, ddd, J = 5.3, 7.0, 15.0 Hz, H-23)]のNMRシグナルを与えた。これは、本化合物がC-23 不飽和 25-ヒドロキシ-C8-側鎖を持つことを示唆し、また、H-23及び H-24シグナル間の大きな結合定数(C5D5N中でJ ~ 15 Hz)は、C-23位の立体配置が“E”(トランス)である事を示している。以上の事実及び1H-1H COSY, HMQC, 及びHMBC スペクトルの解析結果から、化合物4は(23E)-4,25-dihydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucall-23-en-3,5β-oxide((23E)-23-デヒドロ-25-ヒドロキシサンポレナノール)構造を持つ事が明らかとなった。
【0036】
化合物5は、13C DEPT NMRデータ及び高分解能EIMSにおける[M - H2O]+イオンが m/z 460.3919に観察されたことから、分子式C30H54O4を持つ事が明らかとなった。IR吸収(3435 cm-1)からは水酸基の存在が示唆された。化合物5の骨格部の1H (表1) 及び 13C NMR (表2)シグナルは化合物1の対応するシグナルにほぼ一致することから、化合物1と同一の骨格構造を持つ事が示された。一方、化合物5は、1個の第2級メチル基 [δH 0.91 (d, J = 6.0 Hz)]、1個の酸素化されたメチン基[δH 3.34 (t)]、及び2個の含酸素炭素に結合した第3級メチル基 [δH 1.17 (s, H-26) 及び1.22 (s, H-27)]の1H NMRシグナルを持ち、これは24,25-ジヒドロキシル- C8-側鎖構造と矛盾しない。この推定側鎖構造は、HMBC実験においてH-24 (C-22, C-23, C-25, C-26, 及びC-27と相関), H-26 (C-24, C-25, 及びC-27と相関), 及びH-27 (C-24, C-25, 及びC-26と相関)のクロスピークが認められたことから支持された。従って、化合物5は4,24,25-trihydroxy-3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallan-3,5β-oxide (24,25-ジヒドロキシサンポレネノール) の構造を持つことが明らかとなった。
【0037】
化合物6は、13C DEPT NMRデータ及び高分解能EIMSで[M - H2O]+ イオンをm/z 460.3911に示す事により、化合物5と同一の分子式C30H54O4,を持つ事が明らかとなった。また、1H (表1) 及び 13C NMR (表2)は化合物5と殆ど同一であったことから、化合物6は化合物5のC-24位立体異性体である事が示唆された。化合物5と6の立体化学の帰属は、13C NMRにおける側鎖13Cシグナルの化学シフト差から行うことができる。側鎖13Cシグナルの化学シフト差(δ6 - δ5)は次のような値を示し、C-20 (0.4), C-21 (0.3), C-22 (0.4), C-23 (0.3), C-24 (0.9), C-25 (0.0), C-26 (-0.1), 及びC-27 (0.0)、これらは24,25-ジヒドロキシヘリアノール [3,4-seco-19(10→9)-abeo-8α,9β,10α-tirucallane-3,24,25-triol]の(δR - δS)値に一致している。化合物5および6は、従って、それぞれ24,25-ジヒドロキシサンポレネノールの24S-及び24R-エピマーである。これらの構造は13C DEPT, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC, 及びNOESYスペクトルから支持された。
【0038】
結果は、下記表3にみられるように、いずれも高いEBV早期抗原発現阻害率を示す。これらの大部分は従来から知られているグリチルレチン酸やグリチルレチン酸誘導体以上の高い活性を示している。また、これらは検定において高いラジ細胞生存率を示したことから、高い安全性を持つ発癌予防剤として期待できる。
【0039】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【図1】 EBV活性化抑制検定法の概略を示す。
【図2】化合物1〜6の化学構造式を示す。
【図3】化合物1の最安定立体配座と代表的なNOE相関を示す。
Claims (3)
- 4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカル−24−エン−3,5β−オキサイド、
(24S)−4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β:24,25−ジオキサイド、
(24R)−4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β:24,25−ジオキサイド、
(23E)−4,25−ジハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカル−23−エン−3,5β−オキサイド、
(24S)−4,24,25−トリハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β−オキサイド、及び
(24R)−4,24,25−トリハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β−オキサイドからなる群から選んだ少なくとも1種のトリテルペン系化合物。 - 4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカル−24−エン−3,5β−オキサイド、
(24S)−4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β:24,25−ジオキサイド、
(24R)−4−ハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β:24,25−ジオキサイド、
(23E)−4,25−ジハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカル−23−エン−3,5β−オキサイド、
(24S)−4,24,25−トリハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β−オキサイド、及び
(24R)−4,24,25−トリハイドロキシ−3,4−セコ−19(10→9)−アベオ−8α,9β,10α−チルカラン−3,5β−オキサイドからなる群から選んだ少なくとも1種のトリテルペン系化合物を有効成分として含むことを特徴とする発癌予防剤。 - エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)活性化抑制効果を有することを特徴とする請求項2に記載の発癌予防剤。
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