JP4602762B2 - 持続勃起症を処置するためのボツリヌス毒素 - Google Patents

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Description

本発明は持続勃起症を処置する方法に関する。特に本発明は、神経毒を使って持続勃起症を処置する方法に関する。
持続勃起症
持続勃起症は、長時間にわたって持続的に(通常は4時間以上)しばしば痛みを伴って起こる、性的刺激とは無関係な陰茎勃起である。典型的には陰茎海綿体だけが影響を受け、亀頭の尿道海綿体は弛緩したままである。持続勃起症には低血流量型と高血流量型の両方が知られている。持続勃起症(priapism)という名称は、古代ギリシャの愛の女神アフロディテの息子であるプリアポス(Priapus)に由来する。プリアポスはギリシャの豊穣の神であり、当時の彫像、モザイクおよび陶磁器には、巨大な性器を持ち永遠に勃起しているように見える姿が描かれている。
持続勃起症のもっとも一般的な原因は、ある種の薬物、例えば神経弛緩薬(すなわちソラジンおよびクロルプロマジン)や高血圧薬(すなわちプラゾシン)などの副作用である。特に、鎌状赤血球症成人全体の約42%および鎌状赤血球症小児全体の64%が持続勃起症を発症する。その他、持続勃起症は、陰萎の処置を目的とする医薬品(すなわちパパベリン、フェントラミンおよびプロスタグランジンE1)の海綿体内注射の使用、白血病、多発性骨髄腫、ファブリー病、マイコプラズマ肺炎、アミロイド症、一酸化炭素中毒、マラリア、クモ咬傷、シタロプラム(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の使用、ヒドララジン、メトクロプラミド、オメプラゾール、ヒドロキシジン、プラゾシン(特に腎不全患者が使用した場合)、タモキシフェン、テストステロン、カルシウムチャネル遮断薬、抗凝固物質(ワルファリンが誘発する場合と、ヘパリン注入時に起こる場合とがある)、コカイン、エクスタシー(薬物名)、エタノール乱用、アンドロステンジオン(運動競技関係の目的に使用されるもの)、マリファナ、陰茎に浸潤して血液の流出を妨げるある種の癌に関連して観察されている。
小児持続勃起症は、白血病(白血球が陰茎からの血液の流出を妨げる)、鎌状赤血球症、陰茎または会陰への外傷、および脊髄損傷に関連して起こることが知られている。陰核の持続勃起症(女性持続勃起症)も、まれに記載されている。例えば Brodie-Meijer C.C. ら「Nefazodone-induced clitoral priapism(ネファゾドン誘発性陰核持続勃起症)」Int Clin Psychopharmacol 1999 Jul;14(4):257-8 を参照されたい。
持続勃起症は、陰茎弛緩を開始してそれを維持する正常な調節機構に生じた障害の結果として起こりうる。節後(コリン作動性)副交感自律神経の活性化は陰茎の勃起を誘発することができ、陰茎の交感(アドレナリン作動性)神経支配は陰茎萎縮を誘発して勃起を終結させると考えられる。
陰茎平滑筋の副交感神経性弛緩(おそらく細胞質カルシウムの一酸化窒素誘発性低下によってもたらされるもの)は、陰茎構造への血液の流入を許すことによって勃起を引き起こし、陰茎海綿体圧を増加させる。交感(アドレナリン作動性)神経支配の陰茎平滑筋の収縮は、静脈流出路を通した陰茎からの排出量の増加による萎縮(弛緩した陰茎)をもたらし、よって海綿体内圧を低下させる。Compton M.T. ら「Priapism associated with conventional and atypical medications: a review(従来薬および非定型薬に関連する持続勃起症:総説)」J Clin Psychiatry 2001;62:362-366、Rochat M.C.「Priapism: a review(持続勃起症:総説)」Theriogenology 2001;56:713-722、Wagner G. ら「Pathophysiology and diagnosis of male erectile dysfunction(男性勃起不全の病態生理学と診断)」BJU International (2001), 88 (Suppl. 3), 3-10、Lue TF. 「Erectile Dysfunction(勃起不全)」New Engl J Med 2001;342:1802-1813。
発症から4〜6時間以内の持続勃起症は、陰茎への血流を減少させるように作用する鬱血除去剤(すなわちプソイドエフェドリンまたはテルブタリン)でうまく処置できる場合もある。勃起が非応答性である場合は、吸引により、陰茎体部に直接刺した小さな針を通して約50〜150ccの血液を陰茎から除去することで、萎縮を可能にすることができる。
勃起が再発する場合は、エピネフリンを包含する一定の血管作用型薬物を陰茎に点滴注入することにより、血管を収縮させて持続勃起症を防止することができる。これがうまくいかない場合は、α-アドレナリン作動性アゴニスト(例えば酒石酸水素メタラミノール、フェニレフリン、メタラミノール)を試すことができる。αアゴニストは、勃起を引き起こす陰茎平滑筋弛緩に拮抗する。しかしαアゴニストは、有意な全身性高血圧と心室性頻拍を引き起こしうることが知られている。もう一つの処置選択肢は、充血した陰茎から血液が排出されうるようにする短絡形成術である。
残念ながら、薬物、吸引および短絡形成を含む現在の持続勃起症治療法には、例えば持続勃起症の再発、短絡形成術の一部として陰茎に設けた孔からの出血、陰茎体部の感染および陰茎体部を取り囲む皮膚の感染を含む術後感染、陰茎の壊死、尿道の損傷、尿道と皮膚の間の孔、陰茎の喪失、および死など、重大な欠点または短所がある。
陰茎の喪失は、術後感染によって、または有効な処置が開始されるまでの持続勃起症の持続期間に起因する陰茎の壊死によって、起こりうる。持続勃起症が自殺による死をもたらした例や、短絡形成術後に陰茎内に血塊が形成され、それが崩壊して肺閉塞症を引き起こすことにより死亡した例もある。
ボツリヌス毒素
嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌およびその胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを冒すことができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。ボツリヌス菌のHall株に由来するA型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50である。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1単位という事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。換言すると、ボツリヌス毒素1単位は、メスSwiss Websterマウス群の50%を死亡させるボツリヌス毒素量である。
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリンのシナプス前放出を阻止するようである。
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、12歳を越える患者において、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。FDAは2000年に、頸部ジストニーを処置するためのA型およびB型血清型ボツリヌス毒素の市販製剤を承認し、2002年には、ある種の運動過剰性(眉間)顔面皺を美容処置するためのA型ボツリヌス毒素を承認した。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に、また場合によっては数時間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和(すなわち弛緩性筋肉麻痺)の典型的な継続時間は約3ヶ月であり得るが、場合によっては、ボツリヌス毒素がもたらした腺(例えば唾液腺)の神経麻痺が数年間持続したことが報告されている。
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を種々の部位で切断することによって行われる。A型ボツリヌス毒素は、細胞内小胞関連タンパク質SNAP-25のペプチド結合を特異的に加水分解し得る亜鉛エンドペプチダーゼである。E型ボツリヌス毒素も、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、A型ボツリヌス毒素とは異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素が、エンドソーム膜を通って細胞質ゾルに移動する。
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、H鎖およびL鎖を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。毒素複合体は、pH7.3で赤血球で処理することによって、毒素タンパク質とヘマグルチニンタンパク質に分解し得る。毒素タンパク質は、ヘマグルチニンタンパク質を除いた後は著しく不安定である。
すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質としてボツリヌス菌によって合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、CGRP、およびグルタメートのそれぞれの放出を阻害することが報告されている。
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×107U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。硫酸で沈殿させることによって粗毒素を採り、限外精密濾過によって濃縮することができる。この酸沈殿物を塩化カルシウムに溶解することによって精製し得る。次いで、毒素を冷エタノールで沈殿し得る。沈殿物をリン酸ナトリウム緩衝液に溶解し、遠心し得る。乾燥して、比効力3×107LD50U/mgまたはそれ以上の約900kDの結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
医薬製剤の製造に適当な、既に調製および精製されたボツリヌス毒素およびボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。
ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されていることが報告されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標、カリフォルニア州アーヴィンのAllergan, Inc.から入手可能);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
さらに、筋肉内ボツリヌス毒素は、パーキンソン病の患者の振せんの治療にも使用されているが、結果は顕著でないことが報告されている。Marjama-Jyons,J.ら、"Tremor-Predominant Parkinson's Disease",Drugs & Aging 16(4), 273-278, 2000。
ある種の胃腸疾患および平滑筋疾患をボツリヌス毒素で処置することが知られている。例えば米国特許第5427291号および第5674205号(Pasricha)参照。更に、ボツリヌス毒素を膀胱括約筋に経尿道注射して排尿障害を処置することが知られている(例えば、Dykstra D.D.ら、Treatment of detrusor-sphincter dyssynergia with botulinum A toxin: A double-blind study, Arch Phys Med Rehabil 1990年1月;71:24-6参照)。また、ボツリヌス毒素を前立腺に注射して前立腺肥大を処置することが知られている。例えば米国特許第6365164号(Schmidt)参照。
米国特許第5766605号(Sanders)には、種々の自律神経障害、例えば過流涎および鼻炎をボツリヌス毒素で処置することが提案されている。
更に、ボツリヌス毒素で処置し得る種々の疾患、例えば多汗症および頭痛が、WO95/17904(PCT/US94/14717)(Aoki)に論じられている。EP第0605501B1号(Graham)には、ボツリヌス毒素による脳性麻痺の処置が論じられ、米国特許第6063768号(First)にはボツリヌス毒素による神経性炎症の処置が論じられている。
ボツリヌス中毒の一症状として勃起不全が報告されている。Jenzer G. ら、Autonomic dysfunction in Botulism B: a clinical report, Neurology 1975;25:150-153;Naumann M. ら、Pure autonomic dysfunction in botulism type B, Naunyn Schmiedeberg's Archives of Pharmacology 2002年6月(補遺2);365(R31のアブストラクト89)。これは、ボツリヌス中毒患者体内に存在する循環ボツリヌス毒素が、陰茎の海綿体においてコリン作動性の副交感神経の神経終末からアセチルコリンが放出されるのを阻害するよう作用する結果であり得る。このことは、陰茎の平滑筋弛緩の抑制を起こし得、それによって陰茎構造への血流が減少し、従って陰茎弛緩を起こし得る。これに対して、陰茎の勃起を起こすのにボツリヌス毒素を使用し得ると推測されている。Jones D, High performance, Nature 1989;3:348。
ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J. Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(The Laryngoscope 109, 1344-1346, 1999)。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。更に、純粋なボツリヌス毒素がヒトの処置に用いられている。例えば、Kohl A. ら、Comparison of the effect of botulinum toxin (Botox(R)) with the highly-purified neurotoxin(NT201) in the extensor digitorum brevis muscle test, Mov Disord 2000;15(補遺3):165参照。すなわち、純粋なボツリヌス毒素を使用して医薬組成物を調製することができる。
ボツリヌス毒素分子(約150kDa)およびボツリヌス毒素複合体(約300〜9000kDa)、例えばA型毒素複合体はまた、表面変性、熱およびアルカリ性条件による変性に対して非常に感受性である。不活性化された毒素は、免疫原性であり得るトキソイドタンパク質を形成する。生じた抗体は、患者を毒素注射に対して非応答性にし得る。
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N-Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性するので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。BOTOX(登録商標)は、再構成した後4時間以内に投与すべきである。その時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(2〜8℃)内で保管する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与する。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(2〜8℃)内で保管しうる。
他の市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物には、次のものが包含される:Dysport(登録商標)(A型ボツリヌス毒素ヘマグルチニン複合体とアルブミンおよびラクトースを製剤中に含む。使用前に0.9%塩化ナトリウムで再構成する粉末として、イギリス、バークシャーのIpsen Limitedから入手可能。)、およびMyoBloc(登録商標)(B型ボツリヌス毒素、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含むpH約5.6の注射可能な溶液。アイルランド、ダブリンのElan Corporationから入手可能。)。
アセチルコリン
典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
従って、求められているものは、副作用があるとしても少ない、有効で持続期間の長い持続勃起症処置である。
本発明はこの要求を満し、有効で効果が長時間持続し、たとえ副作用があったとしてもごくわずかである、持続勃起症の処置を提供する。
定義
本明細書で使用する以下の単語または用語は下記の定義を持つ。
「約」とは、そのように修飾された事項、パラメータまたは用語が、該事項、パラメータまたは用語の値の上および下にある+または−10%の範囲を包含することを意味する。
神経毒に関する「生物学的活性」には、アセチルコリンのシナプス前放出を減少させるまたは阻害するという神経毒の能力が包含される。
「局所投与」とは、患部もしくは障害部またはその近傍への非全身的経路による直接投与を意味する。したがって、例えば静脈内投与または経口投与などは医薬品の局所投与からは除外されるが、筋肉内注射もしくは皮下注射または植込剤の留置による薬物投与などは局所投与に包含される。ボツリヌス毒素の全身的投与は、ボツリヌス中毒が起こりうるので禁忌である。
「神経毒」には、純粋な毒素であるクロストリジウム神経毒と、1つ以上の非毒素毒素関連タンパク質と複合体を形成したクロストリジウム神経毒が、どちらも包含され、天然のクロストリジウム細菌によって産生されたものであるか、非クロストリジウム種で組換え手段によって産生されたものであるかを問わない。
「精製ボツリヌス毒素または純粋なボツリヌス毒素」とは、ボツリヌス毒素複合体を形成するタンパク質をはじめとする他のタンパク質から分離された、または実質的に分離された、ボツリヌス毒素を意味する。精製ボツリヌス毒素は95%より高い純度を持つことができ、好ましくは99%より高い純度を持つ。
「患者」とは、医療または獣医療を受けるヒトまたは非ヒト対象を意味する。
本発明は、持続勃起症の哺乳動物へのクロストリジウム毒素の局所投与によって持続勃起症を処置する方法を包含する。クロストリジウム毒素として、A型、B型、C型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素を挙げることができる。ボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素であることが好ましい。
ボツリヌス毒素は約1単位〜約10,000単位の量で投与することができ、持続勃起症を約2週間〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減することができる。したがって、例えば約1単位のA型毒素を使って、陰核持続勃起症または幼児持続勃起症を処置することができる。かなり大きい陰茎を持つ大型哺乳動物の処置には、約10,000単位のB型ボツリヌス毒素を使用することができる。特に、局所投与ステップは、哺乳動物の陰茎へのクロストリジウム毒素の直接投与によって行われる。
本発明のもう一つの態様は、持続勃起症の哺乳動物の陰茎へのボツリヌス毒素の局所投与によって持続勃起症を処置する方法である。もっとも好ましい本発明の一態様は、持続勃起症を処置する方法であって、持続勃起症の哺乳動物の陰茎にA型ボツリヌス毒素を局所投与するステップを含む方法である。
本発明は、持続勃起症を患っている哺乳動物に神経毒を局所投与することにより、持続勃起症の長期軽減を達成することができるという発見に基づいている。
処置対象となる哺乳動物は、持続勃起症を示すヒトまたは他の種、例えばイヌやウマなどの家畜化された哺乳動物であることができる。例えば Rochat M.C.「Priapism: a review(持続勃起症:総説)」Theriogenology 2001;56:713-722 を参照されたい。
本発明は、ヒトまたは他の哺乳動物における持続勃起症の治療的処置を目的とする、クロストリジウム毒素などの神経毒、例えばボツリヌス毒素(血清型A、B、C、D、E、FまたはGのいずれか)などの使用を包含する。本発明の一方法は、持続的な陰茎の勃起、すなわち持続勃起症を処置するためにボツリヌス毒素を局所投与することによって、実施することができる。
繰り返すと、本発明の一態様は、処置すべき哺乳動物の陰茎に、ある型のボツリヌス毒素を注射することによって行うことができる。上述のように、コリン作動性副交感神経支配は陰茎勃起を誘発し、交感神経は陰茎萎縮(弛緩)を誘発すると考えられる。理論に束縛されることは望まないが、ボツリヌス毒素は、陰茎海綿体におけるコリン作動性副交感神経終末からのアセチルコリンの放出を阻害することにより、陰茎平滑筋弛緩の阻害を引き起こすという仮説を設けることができる。したがって、影響を受けないアドレナリン作動性交換神経支配が陰茎平滑筋収縮を引き起こし、その結果、陰茎構造への血液の流入が減少することにより、陰茎の弛緩が起こると考えられる。したがって、本発明で処置することができる持続勃起症は、陰茎副交感神経支配のダウンレギュレーションに応答する持続勃起症である。高血流量型持続勃起は本発明による処置には適さないかもしれない。例えば、会陰に傷害を負った患者は、生殖器動脈が破裂しているために、外傷性高血流量型持続勃起を示しうる。血液は動脈に入り、陰茎体部に進行することによって勃起を起こした後、陰茎静脈が収縮していないため、速やかに陰茎から離れる。破裂した動脈から陰茎への血液の絶え間ない流れ(すなわち高血流量)が勃起を維持する。そのような患者では、外陰部動脈系の動脈造影を行って瘻孔の位置を確認し、小さい螺旋状の材料(ステント)を損傷した動脈内に留置することができる。そのような高血流量型持続勃起の処置には、ボツリヌス毒素の注射を行ったとしても、おそらく無効だろう。
A型ボツリヌス毒素は入手が容易であることと、臨床上多くの適応症の処置に用いられて好結果を残しているという経緯から、本発明の一方法には、A型ボツリヌス毒素の局所投与を含めることが好ましい。B型ボツリヌス毒素も市販されているので、B型ボツリヌス毒素を使用することもできるが、B型ボツリヌス毒素はA型毒素よりも高いタンパク質負荷量で使用される。本発明の一方法で使用されるA型ボツリヌス毒素は、全体として約900キロダルトンの総分子量を構成する毒素と非毒素タンパク質との複合体であることができ、1患者あたり1〜100単位の投与量(この範囲は、患者の大きさ、年齢および健康状態、ならびに使用する個々の市販A型ボツリヌス毒素製剤に基づく)で使用される。本発明の一方法で使用されるB型ボツリヌス毒素は、純粋な毒素であるか、または全体として約700キロダルトンの総分子量を構成する毒素と非毒素タンパク質との複合体であることができ、処置される1患者あたり約50〜約20,000単位の投与量で使用される。
他の血清型のボツリヌス毒素は、それぞれの生物学的活性レベルに応じて、ここに例示した投与量および濃度に比例させて使用することができる。本発明は、2つ以上の上記神経毒を含む混合物を同時投与または逐次投与して、持続勃起症の患者を効果的に処置する方法も包含する。
本発明の方法では、ボツリヌス毒素などの神経毒は、その望ましい萎縮効果を達成するのに、約1時間〜7日間を要しうる。
また本発明の方法では、ボツリヌス毒素などの神経毒は、患者(哺乳動物)の陰茎に直接、常に局所的に生体内投与される。この目的に適した既知の局所薬物投与法は、例えば液体医薬品注射用の注射器および制御放出植込剤の挿入である(例えば米国特許第6,383,509号および第6,312,708号(Donovan)を参照されたい)。経口投与や静脈内投与などの全身性薬物投与経路は本発明の範囲からは除外される。なぜなら、ボツリヌス毒素などの神経毒の全身分布は望ましくないからである。
もう一つの態様として、本方法は、自然界に存在する(天然の)神経毒とは少なくとも1つのアミノ酸が異なっている神経毒、例えばクロストリジウム神経毒の患者への投与を含む。例えば、Biochemistry 34;5175-15181:1995 および Eur. J. Biochem, 185;197-203:1989 に開示されているA型ボツリヌス毒素の変異体を投与することができる。本発明の実施により、2週間(すなわちE型毒素を使用した場合)から最長約6ヶ月以上(A型毒素を使用)にわたって有効な持続勃起の処置を提供することができる。
ボツリヌス毒素などの神経毒の投与量は、処置される個々の障害、その重症度、ならびに患者の大きさ、体重、年齢および治療への応答性を含む他の様々な患者変数によって、大きく変動しうる。一般に、投与すべき神経毒の用量は、処置すべき哺乳動物の年齢、主状態および体重によって変動しうる。投与される神経毒の効力も考慮すべき事項である。
本発明の一態様では、神経毒、例えばA型ボツリヌス毒素複合体(Botox(ボトックス)など)の処置有効量は、約1単位〜約500単位の範囲にありうる。約1単位未満では萎縮効果が最適に達しない可能性があり、約500単位を超えるA型製剤は望ましくない全身作用をもたらす可能性がある。
投与経路および投与量の例を挙げるが、適切な投与経路および投与量は一般に主治医によって症例毎に決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的作業である(例えば Anthony Fauci ら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」(1998)第14版(McGraw Hill 発行)を参照されたい)。例えば、本発明における神経毒の投与経路および投与量は、選択した神経毒の溶解特性ならびに患者の年齢および健康状態などの基準に基づいて選択することができる。
好適な神経毒は適当な細菌種を培養することによって得ることができる。例えばボツリヌス毒素は、既知の手法に従って、発酵槽でボツリヌス菌の培養を樹立し、成長させた後、発酵混合物を収集し、それを精製することによって得ることができる。ボツリヌス毒素はどの血清型でも最初は不活性な一本鎖タンパク質として合成され、これが神経活性を持つようになるにはプロテアーゼによって切断されるか切れ目を入れられなければならない。ボツリヌス毒素血清型AおよびGを産生する細菌株は内在性プロテアーゼを持つので、血清型AおよびGは、主にその活性型として、細菌培養物から回収することができる。これとは対照的に、ボツリヌス毒素血清型C、DおよびEは非タンパク質分解株によって合成されるので、培養物から回収した時点では通例、非活性型である。血清型BおよびFはタンパク質分解株によっても、非タンパク質分解株によっても産生されるので、活性型または不活性型として回収することができる。しかし、例えばボツリヌス毒素血清型Bを産生するタンパク質分解株であっても、産生される毒素の一部しか切断しない。切れ目が入っている分子と切れ目が入っていない分子の正確な割合は、培養時間と培養温度とに依存する。
本発明に従って修飾神経毒を使用する場合は、組換え技術を使って所望の神経毒を製造することができる。この技術には、ニューロン結合部分、神経毒またはその一部を移行させるのに有効なアミノ酸配列、および標的細胞(好ましくはニューロン)の細胞質に放出された時に処置活性を持つアミノ酸配列のコードを持つ遺伝物質を、自然源または合成源から取得する工程を含む。
本発明の一方法は患者機能の改善をもたらすことができる。「患者機能の改善」とは、正常な筋緊張が可能にする痛みの軽減、臥床時間の減少、歩行運動の増加、より健全な態度、より変化に富んだ生活様式および/または治癒などの要素によって測定される改善、と定義することができる。患者機能の改善は、生活の質(QOL)の改善と同義である。QOLは、例えば既知のSF−12またはSF−36健康調査採点法を使って評価することができる。SF−36では、身体機能、身体機能不全による役割の制限、社会生活機能、体の痛み、全体的な心の状態、精神的問題による役割の制限、活力、および全体的な健康感という8つの領域で、患者の身体的健康および精神的健康を評価する。得られた得点は、さまざまな一般集団および患者集団について入手可能な公表値と比較することができる。
A型ボツリヌス毒素による持続勃起症の処置
勃起状態が2日間持続している24歳の男性が受診する。検査の結果、陰茎は硬く、亀頭は柔らかいことがわかる。直腸および腹部に癌を示す証拠は認められない。全血球計算値(CBC)、凝固プロファイル、血小板数および尿検査では白血病および鎌状赤血球症の徴候はない。
1%リドカインを陰茎幹の根元周辺に注射することによって陰茎神経遮断を行う。次に両陰茎海綿体の複数部位にボツリヌス毒素を経皮注射する。これにより、ボツリヌス毒素は海綿体内に広く拡散することができる。ボツリヌス毒素注射は、患者が楽なように、極めて細い針(30G以下)を使って行うことができる。ボツリヌス毒素は各海綿体の約4〜8箇所に注射する。好ましくは、両方の陰茎海綿体に注射する。海綿体1つあたりの投与量は20〜40単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBotox(登録商標))である(4〜8箇所に分配)。両側の注射には合計40〜80単位が必要である。注射容積は少なくする必要があり、海綿体1つにつき0.5mlを超えないべきである。もう一つの選択肢として、代替A型ボツリヌス毒素なら、これらの単位数の約4倍(すなわち合計160〜320単位のDysport(登録商標))を、またB型ボツリヌス毒素なら上記単位数の約50倍(すなわち合計1000〜2000単位のMyoBloc(商標))を使用することもできる。ボツリヌス毒素の効果は陰茎萎縮および勃起の終結からなり、注射後最初の24時間以内に起こりうる。効果の持続時間は2〜6ヶ月である。
B型ボツリヌス毒素による持続勃起症の処置
D.E.は陰茎注射による勃起不全の処置について読んだことのある医療専門家だった。彼は自分の必要量をはるかに超える量を自分に注射して、陰茎を極度に硬く勃起させ、その状態を数時間享受した後、痛みを伴う状態になり、自分で病院の救急外来を訪れた。実施例1に記載の手順に従った。ただし、海綿体1つあたりの用量は、1000〜4000単位のB型ボツリヌス毒素(すなわちByoBloc(商標))とする(4〜8箇所に分配)。両側の注射には合計2000〜8000単位を要する。B型ボツリヌス毒素の効果は陰茎萎縮および勃起の終結からなり、注射後最初の24時間以内に起こりうる。効果の持続時間は2〜6ヶ月である。
C〜G型ボツリヌス毒素による持続勃起症の処置
精神障害のために神経遮断薬の投与を受けていて、勃起状態が14時間持続している42歳の男性が受診する。C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素を、両陰茎海綿体の複数部位に経皮注射する。これにより、ボツリヌス毒素は海綿体内に広く拡散することができる。ボツリヌス毒素注射は極めて細い針(30G以下)を使って行うことができる。ボツリヌス毒素は各海綿体の約4〜8箇所に注射する。好ましくは、両方の陰茎海綿体に注射する。海綿体1つあたりの投与量および萎縮の持続時間は、使用するボツリヌス毒素の血清型に依存する。選択したボツリヌス毒素を両側の4〜8箇所に注射する。ボツリヌス毒素の効果は注射後約2時間以内に起り、最長6ヶ月間持続しうる。
ボツリヌス毒素によるウマ持続勃起症の処置
4歳のサラブレッド種馬を、フェノチアジン誘導体精神安定剤の使用に続発して発症する持続勃起症について検査する。この種馬は、ヘパリン加0.9%NaCl溶液による陰茎海綿体洗浄にも、静脈内メタンスルホン酸ベンズトロピンにも、応答しない。
持続勃起症の発症から3日後の時点で、陰茎は硬くて思いどおりにならず、陰茎の痛覚および陰茎を収縮させる能力が失われている。超音波診断法により、陰茎海綿体の血栓症が確認される。20単位のA型ボツリヌス毒素(Botox(登録商標))を各海綿体の2箇所(合計80単位)に注射する。勃起は収まり、陰茎は包皮内に収縮し、その後、種馬は正常な勃起を行えるようになる。
本明細書に開示する発明の方法には、以下に示す利点を含む多くの利点がある。
1.持続勃起症の有効な軽減を迅速に達成することができる。
2.持続勃起症の長期軽減を達成することができる。
3.本発明の実施に起因する副作用は全くないか、またはごくわずかである。
本明細書ではさまざまな刊行物および/または参考文献を挙げたが、その内容はそのまま本明細書に組み込まれるものとする。
特定の好ましい方法に関して本発明を詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の態様、形式および変更も考えられる。例えば、ボツリヌス毒素だけでなく、同じ所望の結果(毒素の局所投与による持続勃起症の処置)を達成することができる他の神経毒も、本発明の範囲に包含される。したがって破傷風毒素、また、組換え、キメラおよび修飾ボツリヌス毒素などの組換え、キメラおよび修飾クロストリジウム毒素も、効力を示すことができる。また、本発明には、2つ以上の神経毒(例えば2つ以上のボツリヌス毒素)を同時にまたは逐次的に局所投与することによる持続勃起症の処置も包含される。例えば、臨床応答が消失するか中和抗体の産生が起こるまではA型ボツリヌス毒素を投与し、その後、B型またはE型ボツリヌス毒素を投与することができる。もう一つの選択肢として、望ましい治療結果の発生および持続を制御するために、血清型A〜Gのボツリヌス毒素のうち任意の2つ以上を組み合わせて、局所投与することもできる。さらにまた、補助効果、例えばボツリヌス毒素などの神経毒がその処置効果を発揮し始める前に除神経を強化したり、除神経をより迅速に生じさせたりする効果などが得られるように、神経毒の投与前に、または神経毒の投与と同時に、または神経毒の投与後に、非神経毒化合物を投与することもできる。最後に、本発明は、短時間作用性毒素の使用が適応となる場合に、比較的短時間作用するボツリヌス毒素、例えばE型ボツリヌス毒を使用することも包含する。
本発明は、クロストリジウム毒素の局所投与によって持続勃起症を処置するための、ボツリヌス毒素などのクロストリジウム毒素を含む医薬品の使用も包含する。
したがって、本願各請求項の精神および範囲を、上述の好ましい態様の説明に限定してはならない。

Claims (6)

  1. 有効成分としてボツリヌス毒素を含有する、持続勃起症を処置するための局所投与用医薬組成物。
  2. ボツリヌス毒素がA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される請求項1に記載の組成物。
  3. ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の組成物。
  4. ボツリヌス毒素を約1単位〜約10,000単位の量で投与する請求項1に記載の組成物。
  5. 持続勃起症を約2週間〜約6ヶ月にわたって実質的に軽減する請求項1に記載の組成物。
  6. 哺乳動物の陰茎に直接投与する請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
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