図1は、本発明の実施の一形態の音響装置1の構成を示すブロック図である。音響装置1は、この音響装置1に電気的に接続されたイヤホン2に音響データに基づく電圧および電流を印加し、イヤホン2から音響データを音響として出力させる。音響装置1は、制御部3と、読込み部4と、記憶部5と、電源制御部6と、コーデック(CODEC)7と、操作部8と、表示部9と、電圧検出部10と、増幅部11と、電流検出部12とを含んで構成される。図1では、音響装置1に加えて、音響装置1に接続されたイヤホン2も図示している。音響装置1は、携帯型および固定型のいずれであってもよい。また音響装置1は、音響データを音響として出力させる機能以外の機能を有していてもよく、たとえばパーソナルコンピュータによって実現されてもよい。
制御部3は、記憶部5に記憶されたプログラムを読込んで実行し、音響装置1の各部およびCODEC7を制御するとともに演算処理を行う。制御部3は、中央処理装置(
Central Processing Unit:略称CPU)によって実現される。制御部3は、電気特性検知手段と、負荷算出手段と、判定手段と、基準値設定手段とに相当する。
読込み部4は、音響データが記録された記録媒体から音響データを読込んで制御部3に与える。記録媒体は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、MD(Mini Disc)および半導体メモリなどを含む。
記憶部5は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)によって実現される。記憶部5は、制御部3が読込むプログラムを記憶するプログラムメモリ、制御部3が演算処理を行うときに一時的にデータを記憶する動作メモリ、およびデータを記憶するデータメモリを含んで構成される。記録媒体から読込んだ音響データ、この音響データを加工した音響データ、および制御部3が演算した演算結果などは、一時的に動作メモリに記憶される。
電源制御部6は、制御部3の指令に基づいて電源部を制御し、電力を音響装置1の各部およびCODEC7に供給させる。
操作部8は、複数の操作ボタンを含んで構成される。操作部8は、利用者の操作ボタンの操作に応じた情報を制御部3に与える。表示部9は、制御部3の制御に基づいて、画像情報を可視表示する。表示部9は、たとえば予め定めるメッセージを可視表示する。表示部9は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:略称LCD)によって実現される。
CODEC7は、アナログデータをデジタルデータに変換したり、デジタルデータをアナログデータに変換したりするIC(Integrated Circuit)によって実現される。本実施の形態ではCODEC7は、音響装置に用いられる汎用のICから成る。CODEC7は、制御部3から与えられるデジタルデータの音響データをアナログの電気信号に変換するデコーダ(DECODER)13と、電圧検出部10および電流検出部12から入力される電気信号をデジタルデータに変換するA/Dコンバータ14とを含んで構成される。
DECODER13は、符号化された音響データを復号化して電気信号に変換し、増幅部11に与える。増幅部11は、DECODER13から与えられる電気信号を増幅してイヤホン2に与える。音響を発生させるための電圧および電流をイヤホン2に与える電力供給手段は、制御部3と、DECODER13と、増幅部11とに相当する。
電圧検出部10は、イヤホン2の導線部に相当する信号線15の2つの終端15a,15bの間に印加される電圧(以後、イヤホン2に印加される電圧という)を表す電気信号を検出してA/Dコンバータ14に与える。電流検出部12は、イヤホン2の信号線15に流れる電流(以後、イヤホン2に流れる電流という)を表す電気信号を検出してA/Dコンバータ14に与える。A/Dコンバータ14は、電圧検出部10および電流検出部12から与えられる電気信号をサンプリングしてデジタルデータに変換し、制御部3に与える。
イヤホン2は、増幅部11から与えられる復号化された音響データを表す電気信号を音響に変換して出力する。
図2は、CODEC7と電圧検出部10と増幅部11と電流検出部12とイヤホン2とを模式的に示す回路図である。
CODEC7は、復号化した電気信号を出力する音響データ出力(Audio output)端子16と、電圧検出部10からの電気信号が入力される電圧信号入力(LINE input)端子17と、電流検出部12からの電気信号が入力される電流信号入力(MIC input)端子18とを含む。
増幅部11の一端は、音響データ出力端子16に接続され、増幅部11の他端は、イヤホン2に接続される。増幅部11は、音量調整用の可変抵抗器21と、電気信号の直流成分を除去するコンデンサ22と、反転増幅器23と、アブソーバ24と、フィルタ25とを含んで構成される。
可変抵抗器21は、音響データ出力端子16とグランドとの間に直列に接続され、復号化した電気信号を分圧する。反転増幅器23の入力は、コンデンサ22を介して可変抵抗器21に接続される。可変抵抗器21によって分圧された電気信号は、コンデンサ22によって直流成分が除去されて反転増幅器23に入力される。反転増幅器23の出力は、コンデンサ22を介してイヤホン2に接続される。反転増幅器23に入力された電気信号は、電圧が増幅され、コンデンサ22によって直流成分が除去されてイヤホン2に与えられる。反転増幅器23は、演算増幅器30と、増幅率を決定する2つの抵抗器36とを含んで構成される。反転増幅器23には、コンデンサ26と抵抗器27とが直列に接続されて構成されるフィルタ25が接続される。またイヤホン2には、コンデンサ28と抵抗器29とが直列に接続されて構成されるアブソーバ24が、直列に接続される。
電圧検出部10は、イヤホン2の信号線15の一端15aとグランドとの間に、コンデンサ31と、2つの抵抗器32,33とが直列に接続されて構成される。電圧信号入力端子17は、この2つの抵抗器32,33の接続点に電気的に接続される。電圧検出部10のコンデンサ31は、イヤホン2に入力される電気信号の直流成分を除去する。2つの抵抗器32,33は、イヤホン2の信号線15の一方の終端15aの電圧を分圧する。すなわち電圧信号入力端子17からCODEC7に入力される電気信号は、イヤホン2に印加される電圧を表す。
電流検出部12は、電流検出用抵抗器34と、コンデンサ35とを含んで構成される。電流検出用抵抗器34は、イヤホン2の信号線15の他端15bとグランドとの間に直列に接続される。電流検出用抵抗器34のイヤホン2の信号線15の他端15bに接続される側の一端は、コンデンサ35を介して電流信号入力端子18に接続される。電流検出用抵抗器34は、流れる電流を電圧に変換する。具体的には電流検出用抵抗器34のイヤホン2の信号線15の他端15bに接続される側の一端の電圧は、イヤホン2に流れる電流に比例し、イヤホン2に流れる電流を表す。したがって電流信号入力端子18に与えられる電気信号の電圧は、イヤホン2に流れる電流を表す。電流検出用抵抗器34の抵抗値は、電流を検出するために消費される電力を抑制するために、イヤホン2の信号線15の抵抗値よりも十分小さい値に設定される。
図3は、音響装置1に接続されるイヤホン2の断面図である。図4は、イヤホン2が耳40に装着された状態におけるイヤホン2と顔の一部とを模式的に示す図である。図5は、イヤホン2が耳40に装着された状態における振動板38の動作を説明するための図である。
イヤホン2は、音響装置1に着脱可能である。イヤホン2は、いわゆるダイナミック型のイヤホンであって、音響装置1から供給される電流が流れる信号線15と振動板38と、磁界発生部に相当する磁石39とを含んで構成される。信号線15は、コイル部に相当するボイスコイル37を含む。イヤホン2は、耳40への装着状態において外耳道41を塞ぐ。イヤホン2は、たとえばインナーイヤー型であって、特にカナル型のイヤホンである。
磁石39は、磁界を発生する。ボイスコイル37は、一方向Xに変位可能であって、磁石39によって発生する磁界中に配置される。振動板38は、一部がボイスコイル37に固定され、ボイスコイル37の変位にともなって変位する。
ボイスコイル37に電流が流れると、磁界を発生するとともに磁界中に配置されたボイスコイル37にはアンペールの力が作用し、前記一方向Xに変位駆動する。制御部3は、ボイスコイル37に流れる電流の向きおよび大きさを制御することによってボイスコイル37の変位の向きおよび大きさを制御することができる。またボイスコイル37に交流電流が流れると、ボイスコイル37は一方向Xに振動する。振動板38は、ボイスコイル37の変位にともなって変位するので、ボイスコイル37に流れる電流を制御部3が制御することによって、振動板38の変位を制御することができる。
イヤホン2が耳孔に装着された状態では、外耳道41をイヤホン2が塞ぐので、振動板38と、鼓膜42と、外耳道41とによって閉塞された閉塞空間43が形成される。
外耳道41を通して空気の疎密波が鼓膜42に伝わると、人は、空気の疎密波を音として認識する。イヤホン2は、音響データを音響として人に認識させるために、振動板38を一方向Xに振動させて空気の疎密波を発生する。
イヤホン2の装着状態では、閉塞空間43が形成された状態で振動板38が一方向Xに振動する。装着状態において振動板38が鼓膜42に近接する向きに変位するときには、閉塞空間43の圧力が高くなるので、振動板38を押し返す力が働く。また振動板38が鼓膜42から離反する向きに変位するときには、閉塞空間43の圧力が小さくなるので振動板38を鼓膜42側に引きつける力が働く。したがって装着状態では、非装着状態に比べて振動板38が振動する向きと逆向きの力が負荷として働く。図5では、振動板38の振動する方向を矢印44で示している。
図6は、イヤホン2に印加する電圧と、流れる電流との関係を模式的に示すグラフである。図6の横軸は、時間を表し、縦軸は、電圧または電流値を表す。図6においてイヤホン2に印加する電圧の時間変化を実線で表す。また図6において実線で示す電圧をイヤホン2に印加したときの装着状態におけるイヤホン2に流れる電流の時間変化を破線で表し、非装着状態におけるイヤホン2に流れる電流の時間変化を一点鎖線で表す。図6において、破線と一点鎖線との縦軸のスケールは同じである。イヤホン2のインピーダンスは、純抵抗ではないので、電流と電圧との間に位相差が生じる。
装着状態では、振動板38に対して負荷がかかり、制動力が働くので、非装着状態のときと同じ電圧をイヤホン2に印加したとしても、振動板38の変位量が非装着状態のときよりも小さくなる。ボイスコイル37は、磁石39による磁界中を変位するので、逆起電力が生じる。装着状態では、振動板38と同様に変位するボイスコイル37の変位量が非装着状態に比べて小さくなるので、逆起電力も小さくなる。この逆起電力は、イヤホン2に流す電流の向きと逆向きの電流を発生する。したがって、装着状態では、逆起電力に起因してイヤホン2に流す電流の向きと逆向きに生じる電流が、非装着状態のときに比べて小さくなる。結果として、装着状態において、非装着状態のときと同じ電圧をイヤホン2に印加したとすると、イヤホン2に流れる電流が非装着状態のときに比べて大きくなる。すなわち装着状態の方が非装着状態に比べてイヤホン2のインピーダンスが小さくなる。図6では、装着状態の電流の振幅が非装着状態の電流の振幅よりも小さく、装着状態の方が非装着状態に比べてイヤホン2のインピーダンスが小さくなることを示している。
装着状態と非装着状態とのイヤホン2のインピーダンスが異なることから、イヤホン2のインピーダンスを測定することによって、装着状態か非装着状態かを判定することができる。イヤホン2のインピーダンスは、交流のオームの法則に基づいて算出することができるが、電流および電圧の瞬時値では、電圧と電流との位相の関係を求めることができず、また平均値では、オフセットの値となってしまうので、イヤホン2のインピーダンスを求めることができない。したがって本実施の形態では、実効値を求めることによってイヤホン2のインピーダンスを算出する。
時刻tにおける電圧の瞬時値をv(t)とし、電流の瞬時値をi(t)とすると、電圧の実効値Vrmsは、式(1)で表され、電流の実効値Irmsは、式(2)で表され、電力の実効値Prmsは、式(3)で表される。
図7は、インピーダンスをフェーザ表示した図である。図8は、電流をフェーザ表示した図である。インピーダンスの実数の成分は、抵抗成分を表し、インピーダンスの虚数成分は、インダクタンス成分を表す。図8では、実軸をイヤホン2に印加する電圧と同じ位相に設定している。皮相電流は、イヤホン2を流れる電流である。無効電流は、イヤホン2で電力が消費されない電流である。実効電流I(Re)rmsは、イヤホン2で電力が消費される電流である。実効電流I(Re)rmsのうちの大部分は、イヤホン2で電気信号が音響に変換されるときに消費される電流である。イヤホン2は、純抵抗でなくインダクタンス成分を含むので無効電流が生じ、電力の実効値Prmsが、電圧の実効値Vrmsと電流の実効値Irmsとの積とはならない(Prms≠Vrms×Irms)。
イヤホン2が装着状態か非装着状態かの判定は、イヤホン2のインピーダンスの抵抗成分の値に基づいて行うことができる。実行電流I(Re)rmsは、式(4)で表され、イヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZRe(以後、イヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReを抵抗成分ZReという)は、式(5)で表される。
式(4)を式(5)に代入すると、インピーダンスの抵抗成分ZReは、次式(6)に示すように、電力の実効値Prmsと電圧の実効値Vrmsとによって表される。
本実施の形態では、A/Dコンバータ14を用いて電圧および電流の検出を行うので、電圧および電流を連続関数として扱うことができず、式(6)で示すインピーダンスの抵抗成分ZReを、A/Dコンバータ14によってサンプリングした離散データに基づいて算出する。CODEC7が処理するデータが音響データなので、A/Dコンバータ14は、8kHz以上のサンプリングレートで電圧検出部10および電流検出部12から与えられる電気信号を読込む必要がある。
サンプリングレートをFs(sampling/sec)とし、サンプリング個数をN(個)とすると、サンプリング時間T(sec)は、次式(8)で表される。
T=N/Fs …(8)
時刻tにおける電圧v(t)および電流i(t)を、n個目(記号「n」は、自然数を表す)のサンプル値v(n)およびi(n)にそれぞれ置き換えると、式(1)で示される電圧の実効値Vrmsは、式(9)に置き換えられ、式(3)で示される電力の実効値Prmsは、式(10)に置き換えられる。
したがって、式(6)で示されるインピーダンスの抵抗成分ZReは、次式(11)に置き換えられる。
サンプリング時間Tは、音響データの周期に比べて長い時間に設定される。仮にサンプリング時間Tが短く、音響データの周期程度であれば、電圧および電力の実効値を正確に求めることができず、インピーダンスの抵抗成分ZReを正確に検出することができない。またサンプリング時間Tは、音響データの周期に比べて長すぎない時間に設定される。仮にサンプリング時間Tが音響データの周期に比べて長すぎると、音響データのうちの低周波成分に対する応答が悪くなったり、サンプリング数が多くなりすぎて制御部3の負荷が大きくなったりしすぎる。以上のことを考慮すると、音響データを扱う本実施の形態では、サンプリング時間Tは、数十msec(ミリ秒)〜数百msecに選ばれる。具体的には、サンプリングレートが8kHzの場合、サンプリング時間Tは、128msec程度に設定される。このときのサンプリング数は、1024ポイントとなる。サンプリングレートが44.1kHzの場合、サンプリング時間Tは、約91.9msecに選ばれる。このときのサンプリング数は、4096ポイントとなる。
図9は、ZRe検出処理を表すフローチャートである。本実施の形態では、抵抗成分ZReを式(11)に基づいて算出する。抵抗成分ZReを検出するZRe検出処理を開始すると、ステップa0からステップa1に移行する。ステップa1では、制御部3は、記憶部5に記憶される変数V,P,nに数値「0」を代入して変数を初期化する。変数Vは、電圧の二乗の積算値を表し、変数Pは、電圧と電流との乗算の積算値を表す。次にステップa2に移行する。ステップa2では、変数nのインクリメントを行う。すなわち変数nに数値「1」を加算した値を新たな変数nとして設定する。次にステップa3に移行する。
ステップa3では、制御部3は、変数nがサンプリング個数Nよりも大きいか否かを判定し、小さい場合にステップa4に移行する。ステップa4では、制御部3は、A/Dコンバータ14が電圧検出部10および電流検出部12から与えられる電気信号をサンプリングしたサンプリング値を読込む。ステップa4において読込んだサンプリング値は、イヤホン2に印加される電圧v(n)および電流i(n)を表す。次にステップa5に移行する。
ステップa5では、制御部3は、電圧の二乗の積算値と、電圧と電流との乗算値の積算値とを算出する。まず制御部3は、電圧v(n)を二乗した値に変数Vを加算した値を新たな変数Vとして設定する。次に電圧v(n)と電流i(n)とを乗算した値に変数Pを加算した値を新たな変数Pとして設定する。次にステップa2に移行し、変数nがサンプリング個数Nを超えるまでステップa2〜ステップa5までの処理を繰返す。これによってサンプリング個数Nの電圧の二乗の積算値と電圧と電流との乗算の積算値とが求められる。
ステップa3において、変数nがサンプリング個数Nよりも大きいと制御部3が判定すると、ステップa6に移行する。ステップa6では、制御部3は、式(11)に基づいて、変数Vを変数Pおよびサンプリング時間Tで除算することによって抵抗成分ZReを算出する。ここでサンプリング時間Tは、サンプリングレートおよびサンプリング個数Nから、式(8)に基づいて予め算出されている。次にステップa7に移行してZRe検出処理を終了する。
以上説明したZRe検出処理を行うことによって、抵抗成分ZReを算出することができる。制御部3は、算出した抵抗成分ZReに基づいて、装着状態か非装着状態かを判定する。次に抵抗成分ZReに基づいて装着状態か非装着状態かを判定するための判定基準値に相当する判定レベルを設定する処理について説明する。
図10は、制御部3が判定レベルを設定する処理を表すフローチャートである。利用者が操作部8を操作することによって音響装置1の電源が入り、制御部3に電力が供給され始めると、ステップb0からステップb1に移行する。ステップb1では、制御部3は、イヤホン2が音響装置1に接続されているか否かを、イヤホン2のインピーダンスの測定結果に基づいて判定する。具体的には、イヤホン2のインピーダンスが無限大の場合には、イヤホン2が音響装置1に接続されていないと判定し、イヤホン2のインピーダンスが有限の場合には、イヤホン2が音響装置1に接続されていると判定する。イヤホン2が音響装置1に接続されていないと判定すると、ステップb3に移行する。ステップb3では、制御部3は、イヤホン2の接続を促すメッセージを表示させる指令を表示部9に与える。これによって利用者にイヤホン2が音響装置1に接続されていないことを認識させることができる。次にステップb1に移行して、イヤホン2が音響装置1に接続されるまでステップb1〜ステップb3までの処理を繰返す。
ステップb2において、イヤホン2が音響装置1に接続されていると制御部3が判定するとステップb4に移行する。ステップb4では、音響装置1に接続されたイヤホン2が、既に判定レベルが設定されているイヤホン2かつ設定で使用されたものか否かを判定する。この判定は、イヤホン2の種類に応じてインピーダンスの値が異なるので、たとえばイヤホン2のインピーダンスの大きさに基づいて行われる。既に判定レベルが設定されているイヤホン2が音響装置1に接続されていると制御部3が判定すると、判定レベルを再度設定する必要がないので、ステップb20に移行して判定レベルを設定する処理を終了する。音響装置1に接続されたイヤホン2に対して、判定レベルが設定されていないと制御部3が判定すると、ステップb5に移行する。
ステップb5では、制御部3は、判定レベル設定モードに移行し、表示部9に対して判定レベルを設定するか否かを利用者に選択させるためのメッセージを表示させる指示を与える。次にステップb6に移行する。ステップb6では、制御部3は、利用者の操作部8の操作に基づいて判定レベルの設定を行うか否かを判定する。操作部8から判定レベルの設定を行わないことを表す情報が入力されたと制御部3が判定すると、ステップb20に移行して判定レベルを設定する処理を終了する。操作部8から判定レベルの設定を行うことを表す情報が入力されたと制御部3が判定すると、ステップb7に移行する。
ステップb7では、制御部3は、表示部9に対して音楽の再生を開始することを促すメッセージを表示させる指示を与える。次にステップb8に移行する。ステップb8では、制御部3は、操作部8の再生ボタンが押下げられることによって、音楽の再生が開始したか否かを判定する。音楽の再生が開始していないと制御部3が判定すると、ステップb7に移行して、操作部8の再生ボタンが押下げられるまでステップb7の処理を繰返す。ステップb8において音楽の再生が開始されたと制御部3が判定すると、ステップb9に移行する。
ステップb9では、制御部3は、表示部9に対して「再生音量を適切に設定し、装着状態で操作部8の設定ボタンを押し下げる」ことを促すメッセージを表示する指示を与える。ここで適切な再生音量とは、たとえば利用者が音響装置1を通常使用するときに設定される音量である。次にステップb10に移行する。ステップb10では、制御部3は、利用者が操作部8の設定ボタンを押し下げたか否かを判定する。操作部8の設定ボタンが押し下げられていないと制御部3が判定すると、設定ボタンが押下げられるまでステップb9の処理を繰返す。ステップb10において、操作部8の設定ボタンが押下げられたと制御部3が判定すると、再生音量が最適に設定されて、かつ装着状態であると判定してステップb11に移行する。
ステップb11では、制御部3は、図9に示すイヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReを検出するZRe検出処理を行う。これによって適切に設定された再生音量における装着状態の抵抗成分ZReが算出される。次にステップb12に移行する。ステップb12では、制御部3は、ステップb11において算出された抵抗成分ZReを、装着時インピーダンスZ1として記憶部5に記憶させ、ステップb13に移行する。ステップb13では、制御部3は、ステップb11のZRe検出処理において再生された音楽の音量の平均レベルを表すVrmsを、参照レベルVrefとして記憶部5に記憶させる。次にステップb14に移行する。
ステップb14では、制御部3は、表示部9に対して非装着状態で操作部8の設定ボタンを押し下げることを促すメッセージを表示する指示を与えてステップb15に移行する。ステップb15では、制御部3は、利用者が操作部8の設定ボタンを押し下げたか否かを判定する。操作部8の設定ボタンが押し下げられていないと制御部3が判定すると、設定ボタンが押下げられるまでステップb14の処理を繰返す。ステップb15において、操作部8の設定ボタンが押下げられたと制御部3が判定すると、非装着状態であると判定してステップb16に移行する。
ステップb16では、制御部3は、図9に示すイヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReを検出するZRe検出処理を行う。これによって適切に設定された再生音量における非装着状態の抵抗成分ZReが算出される。次にステップb17に移行する。
ステップb17では、制御部3は、ステップb16のZRe検出処理において再生された音楽の音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの±10dB以内か否かを判定する。すなわちステップb11とステップb16とにおいて再生した音量の平均値を比較して、その差が±10dB以内かを判定する。音楽には音量の大きい部分と小さい部分とがあるので、抵抗成分ZReをステップb11とステップb16とで同様の条件で検出できているかを保証することができない。ステップb11とステップb16とのZRe検出処理の検出条件が大きく異なり、音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの±10dB以内ではないと制御部3が判定すると、ステップb16に移行して再度抵抗成分ZReを算出する。ステップb17において、ステップb11とステップb16とのZRe検出処理の検出条件が同様であって、音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの±10dB以内であると制御部3が判定すると、ステップb18に移行する。
ステップb18では、制御部3は、ステップb16において算出された抵抗成分ZReを、非装着時インピーダンスZ2として記憶部5に記憶させ、ステップb19に移行する。ステップb19では、制御部3は、装着時インピーダンスZ1と非装着時インピーダンスZ2とに基づいて、イヤホン装着判定レベルZ3とイヤホン非装着判定レベルZ4とを設定して記憶部5に記憶させる。Z3およびZ4の具体的な求め方は、図11に示すフローチャートを用いて後述する。次にステップb20に移行して判定レベルの設定処理を終了する。
図11は、イヤホン装着判定レベルZ3と、イヤホン非装着判定レベルZ4とを設定する処理を表すフローチャートである。図10に示すフローにおいてステップb19に移行すると、イヤホン装着判定レベルZ3と、イヤホン非装着判定レベルZ4とを設定する処理を開始してステップc0からステップc1に移行する。
ステップc1では、制御部3は、装着時インピーダンスZ1および非装着時インピーダンスZ2を記憶部5から読込んでステップc2に移行する。ステップc2では、制御部3は、非装着時インピーダンスZ2から装着時インピーダンスZ1を減算(Z2−Z1)して、変数DZに代入する。次に制御部3は、非装着時インピーダンスZ2から変数DZの3分の1を減算(Z2−DZ/3)して、変数Z4に代入する。次に制御部3は、装着時インピーダンスZ1に変数DZの3分の1を加算(Z1+DZ/3)して、変数Z3に代入する。次にステップc3に移行する。
ステップc3では、制御部3は、変数Z3をイヤホン装着判定レベルZ3として設定するとともに、変数Z4をイヤホン非装着判定レベルZ4として設定する。次にステップc4に移行して、イヤホン装着判定レベルZ3と、イヤホン非装着判定レベルZ4とを設定する処理を終了する。
図12は、装着時インピーダンスZ1と、非装着時インピーダンスZ2と、イヤホン装着判定レベルZ3と、イヤホン非装着判定レベルZ4との関係を説明するための図である。図12において、縦軸はインピーダンスを表し、紙面の上方ほどインピーダンスが高い。制御部3は、測定したイヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReが、イヤホン非装着判定レベルZ4以上であれば非装着状態と判定する。また制御部3は、測定したイヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReが、イヤホン装着判定レベルZ3未満であれば装着状態と判定する。またイヤホン装着判定レベルZ3以上かつイヤホン非装着判定レベルZ4未満を装着/非装着のグレーゾーンとして設定する。制御部3は、測定したイヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReが、グレーゾーンであれば装着状態か非装着状態かを判定せずに、前回の判定結果をそのまま採用する。
図13は、装着/非装着の判定処理を表すフローチャートである。装着状態か非装着状態かを判定する装着/非装着の判定処理は、本実施の形態では、予め定める時間間隔で行われる。装着/非装着の判定処理が開始すると、ステップd0からステップd1に移行する。ステップd1では、制御部3は、図9に示すイヤホン2のインピーダンスを検出するZRe検出処理を行う。これによって抵抗成分ZReが求められる。次にステップd2に移行する。ステップd2では、制御部3は、ステップd1のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上か否かを判定する。すなわち判定レベルを設定するときの装着時インピーダンスZ1を測定したときに再生した音量の平均値に対して、ステップd1において抵抗成分ZReを測定したときに再生した音量の平均値が−20dB以上かを判定する。判定レベルを設定したときに抵抗成分ZReを測定した音量よりも、ステップd1において抵抗成分ZReを測定した音量が小さすぎると、測定条件が違いすぎるので、装着状態と非装着状態とを正確に判定することができない。したがって、ステップd1のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上ではないと制御部3が判定すると、ステップd1に移行して再度ZRe検出処理を行う。ステップd2においてステップd1のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上であると制御部3が判定すると、ステップd3に移行する。
ステップd3では、制御部3は、抵抗成分ZReがイヤホン非装着判定レベルZ4以上か否かを判定する。抵抗成分ZReがイヤホン非装着判定レベルZ4以上、すなわち非装着状態と判定すると、ステップd4に移行する。ステップd4では、制御部3は、イヤホン2の装着/非装着状態を表す状態フラグを、イヤホン非装着状態に設定してステップd7に移行する。ステップd7では、装着/非装着の判定処理を終了する。
ステップd3において、抵抗成分ZReがイヤホン非装着判定レベルZ4未満であると制御部3が判定すると、ステップd5に移行する。ステップd5では、制御部3は、抵抗成分ZReがイヤホン装着判定レベルZ3未満か否かを判定する。抵抗成分ZReがイヤホン装着判定レベルZ3未満、すなわち装着状態と判定すると、ステップd6に移行する。ステップd6では、制御部3は、イヤホン2の装着/非装着状態を表す状態フラグを、イヤホン装着状態に設定してステップd7に移行する。ステップd7では、装着/非装着の判定処理を終了する。
ステップd5において、抵抗成分ZReがイヤホン装着判定レベルZ3以上と制御部3が判定すると、グレーゾーンであると判定してステップd7に移行し、装着/非装着の判定処理を終了する。抵抗成分ZReがイヤホン装着判定レベルZ3以上かつイヤホン非装着判定レベルZ4未満のグレーゾーンであれば、装着/非装着の判定処理を行っても、装着/非装着状態を表す状態フラグは、変わらない。したがって、抵抗成分ZReがイヤホン非装着判定レベルZ4以上からグレーゾーンに変化しても、状態フラグはイヤホン非装着状態を維持する。また抵抗成分ZReがイヤホン装着判定レベルZ3未満からグレーゾーンに変化しても、状態フラグはイヤホン装着状態を維持する。人為的にイヤホン2の着脱を行うと、イヤホン2の装着状態と非装着状態とが完全に入れ替わるが、イヤホン2が完全に装着されていない不安定な状態では、装着状態と非装着状態とが不安定に入れ替わる。このように装着/非装着状態の判定においてヒステリシスを持たせると、装着状態から完全に非装着状態に遷移したときに非装着状態と判定し、非装着状態から完全に装着状態に遷移したときに装着状態と判定することができる。本実施の形態では、状態フラグは初期設定としてイヤホン装着状態に設定されるので、初めて装着/非装着の判定処理を行ったときに抵抗成分ZReがグレーゾーンであっても、装着状態と判定される。
制御部3は、状態フラグに基づいて種々の制御を行う。たとえば非装着状態のときには、イヤホン2への電力の供給を停止して、イヤホン2から音響を出力しないようにする。制御部3は、状態フラグがイヤホン装着状態からイヤホン非装着状態に変化すると、CODEC7に音響データを与えることを停止して、イヤホン2への電力の供給を停止する。この状態で状態フラグがイヤホン非装着状態からイヤホン装着状態に変化すると、CODEC7に音響データを与えて、イヤホン2への電力の供給を再開する。これによって無駄な電力の消費を抑制することができる。
またたとえば音響を再生しているときにイヤホン2が取り外されると、取り外されたときに再生した音響データの位置を記憶しておき、次にイヤホン2が装着されると、記憶した音響データの位置から音響の再生を再開する。これによって、利用者がイヤホン2を取り外すときに音楽の再生を一時停止したりするなどの処理を行うことなく、イヤホン2を取り外した位置から音響の再生を再開することができ、利用者の利便性が向上する。
本実施の形態の増幅器11は、アブソーバ24およびフィルタ25を備えるとしたけれども、アブソーバ24およびフィルタ25を備えなくてもよい。
以上説明した本実施の形態の音響装置1によれば、イヤホン2の抵抗成分ZReに基づいてイヤホン2が装着状態か非装着状態かを判定することができる。この抵抗成分ZReは、イヤホン2の電圧および電流から求めることができるので、特別な検出器を備えない汎用のイヤホンであっても、装着状態と非装着状態とを判定することができる。
また本実施の形態の音響装置1は、従来の音響装置のハード的な構成に電流検出用抵抗器34を加え、かつ制御部3が実行するプログラムを従来の音響装置のプログラムから変更するだけで、抵抗成分ZReを算出し、装着状態と非装着状態とを判定することができる。このように従来の音響装置から装置の構成を複雑にすることなくイヤホン2の装着状態と非装着状態とを判定する音響装置を実現することができる。
また本実施の形態の音響装置1は、図10に示すフローの処理を行うことによって、装着状態および非装着状態における抵抗成分ZReの大きさに基づいて判定レベルを設定する。制御部3は、このように実際の装着状態と非装着状態との抵抗成分ZReに則して設定された判定レベルに基づいて装着状態か非装着状態かを判定するので、精度の高い判定を行うことができる。
また本実施の形態の音響装置1は、予め定める音量の音響を発生させるための電圧および電流がイヤホン2に流れているときの電圧および電流に基づいて算出された抵抗成分ZReを用いて、装着状態か非装着状態かを判定する。予め定める音量以下の音響を発生させているときには、イヤホン2に印加される電圧および電流が、ノイズの大きさに比べて小さく、抵抗成分ZReを正確に求めることができない場合がある。本発明では予め定める音量以上の音響を発生させているときの電圧および電流を用いて抵抗成分ZReを算出するので、算出した抵抗成分ZReの精度が高い。制御部3は、高精度に算出した抵抗成分ZReに基づいて装着状態か非装着状態かを判定するので、精度の高い判定を行うことができる。
本実施の形態ではグレーゾーンの幅を、非装着時インピーダンスZ2から装着時インピーダンスZ1を減算(Z2−Z1)した値の3分の1としたけれども、この幅に限られずにイヤホン2の装着状態と非装着状態とを判定することができる精度などに応じて設定される。
本発明の他の実施の形態の音響装置1は、前述の実施の形態のシングルエンディッドアンプ回路を用いた増幅部11を、BTL(Bridged Transformer Less)アンプ回路を用いた増幅部53に置換した構成である。アンプ回路の置換にともなって、本実施の形態の音響装置1における電圧検出部52および電流検出部54の構成は、前述の実施の形態の音響装置1における電圧検出部10および電流検出部12の構成とそれぞれ異なる。本実施の形態の音響装置1は、前述の実施の形態の音響装置1と同様の構成であるので、対応する部分については同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
図14は、CODEC51と電圧検出部52と増幅部53と電流検出部54とイヤホン2とを模式的に示す回路図である。
CODEC51は、復号化した電気信号を出力する音響データ出力(Audio output)端子55と、電圧検出部52からの電気信号が入力される電圧信号入力(LINE input A)端子56と、電流検出部54からの電気信号が入力される電流信号入力(LINE input B)端子57とを含む。
増幅部53の入力は、音響データ出力端子16に接続され、増幅部53の出力は、イヤホン2の信号線15の一方の終端15aに接続される。増幅部53は、音量調整用の可変抵抗器21と、電気信号の直流成分を除去するコンデンサ22と、BLT増幅器58と、アブソーバ24とを含んで構成される。
可変抵抗器21は、音響データ出力端子55とグランドとの間に直列に接続され、復号化した電気信号を分圧する。BLT増幅器58の入力は、コンデンサ22を介して可変抵抗器21に接続される。可変抵抗器21によって分圧された電気信号は、コンデンサ22によって直流成分が除去されてBLT増幅器58に入力される。
BLT増幅器58は、入力された電気信号の電圧を増幅して2つの電気信号を出力する。BLT増幅器58から出力される2つの電気信号のうちの一方の電気信号の位相は、入力された電気信号の位相と同じであり、他方の電気信号は、入力された電気信号の位相を反転したものである。BLT増幅器58から出力される2つの電気信号の振幅は、それぞれ互いに等しい。したがってBLT増幅器58から出力される2つの電気信号の差分の波形は、入力された電気信号の波形の振幅を大きくしたものである。BLT増幅器58の電気信号が出力される2つの端子の一方は、信号線15の一方の終端15aに接続される。BLT増幅器58の電気信号が出力される2つの端子の他方は、後述する電流検出用抵抗器61を介して信号線15の他方の終端15bに接続される。イヤホン2には、コンデンサ28と抵抗器29とが直列に接続されて構成されるアブソーバ24が、直列に接続される。
電圧検出部52は、演算増幅器62、4つの抵抗器63および2つのコンデンサ64を含んで構成される差動増幅回路によって実現される。2つのコンデンサ64は、差動増幅回路の2つの入力の端部に設けられ、直流の電気信号を除去する。電圧検出部52には、BLT増幅器58から出力される2つの電気信号が入力される。電圧検出部52は、BLT増幅器58から入力される2つの電気信号の差分を電気信号として出力する。したがって電圧検出部52から出力される電気信号は、イヤホン2の信号線15に印加される電圧を表す。電圧検出部52の出力は、電圧信号入力端子56に接続される。したがって、電圧信号入力端子17からCODEC51に入力される電気信号は、イヤホン2に印加される電圧を表す。
電流検出部54は、演算増幅器66、4つの抵抗器67および2つのコンデンサ68を含んで構成される差動増幅回路と、電流検出用抵抗器61によって実現される。2つのコンデンサ64は、差動増幅回路の2つの入力の端部に設けられ、直流の電気信号を除去する。差動増幅回路の2つの入力の一方は、信号線15の他方の終端15bに接続され、2つの入力の他方は、前述したようにBLT増幅器58の電気信号が出力される2つの端子の他方に接続される。電流検出用抵抗器61は、差動増幅回路の2つの入力部分を接続する。電流検出用抵抗器61には、イヤホン2の信号線15を流れる電流が流れる。したがって電流検出用抵抗器61に生じる電圧降下は、イヤホン2の信号線15を流れる電流の大きさを表す。差動増幅回路は、電流検出用抵抗器61に生じる電圧降下を増幅して出力し、電流信号入力端子58に与える。したがって、電流信号入力端子57からCODEC51に入力される電気信号の電圧は、イヤホン2に流れる電流を表す。
シングルエンディッドアンプ回路を用いた増幅部11から、BTLアンプ回路を用いた増幅部53に置換した構成であっても、イヤホン2に印加される電圧および電流を表す電気信号をCODEC51に入力することができる。これによって前述の実施の形態の音響装置1と同様に、制御部3は、抵抗成分ZReを算出することができ、この抵抗成分ZReを用いて装着状態と非装着状態とを判定することができる。
本実施の形態の音響装置1の増幅部53は、アブソーバ24を備えるとしたけれども、アブソーバ24を備えなくてもよい。
本発明の他の実施の形態の音響装置1は、予め定める周波数以下の音響を発生させるための電圧および電流をイヤホン2に与えているときに、装着状態か非装着状態かを判定する。本実施の形態の音響装置1は、図13に示す装着/非装着の判定処理が前述の実施の形態の音響装置1と異なるので、重複する説明を省略して装着/非装着の判定処理についてのみ説明する。
振動板38の振動数は、主に振動板38の変位する速さではなく振幅によって調整される。具体的には振動数が高いほど振幅が小さく、振動数が低いほど振幅が大きい。振動板38の振動数が低いほど振幅が大きいので、前述した閉塞空間43の体積の変化量も大きくなる。したがって振動板38の振動数が低いほど、負荷の大きさが大きくなる。振動板38に対する負荷が大きくなると、この負荷による抵抗成分ZReへの影響が大きくなる。したがって振動板38の振動数が低いときほど、装着状態と非装着状態との抵抗成分ZReの差が大きくなり、より正確に装着状態と非装着状態とを判定することができる。
図15は、装着/非装着の判定処理を表すフローチャートである。装着状態か非装着状態かを判定する装着/非装着の判定処理は、本実施の形態では、予め定める時間間隔で行われる。装着/非装着の判定処理が開始すると、ステップe0からステップe1に移行する。ステップe1では、制御部3は、図9に示すイヤホン2のインピーダンスを検出するZRe検出処理を行う。これによって抵抗成分ZReが求められる。次にステップe2に移行する。
ステップe2では、制御部3は、ステップe1のZRe検出処理において予め定める周波数以下の周波数成分を含む音響を発生したか否かを判定する。まず制御部3は、CODEC51から与えられるイヤホン2の電圧を表す電気信号を記憶部5に記憶させる。次に、制御部3は、記憶部5に記憶された電圧を表す電気信号のうちの予め定める周波数以下の周波数成分を残して、予め定める周波数よりも高い周波数成分を除去する。すなわち制御部3は、低域通過フィルタとして機能する。制御部3は、FIR(Finite Impulse
Response)デジタルフィルタおよびIIR(Infinite Impulse Response)デジタルフィルタなどによって低域通過フィルタを実現する。次に制御部3は、記憶部5に記憶された電圧を表す電気信号のうちの予め定める周波数以下の周波数成分の実効値を求める。次に制御部3は、求めた実効値が予め定める値以上か否かを判定し、予め定める値未満であればステップe1に移行する。すなわち予め定める周波数以下の音量が、予め定める音量ではない場合には、ステップe1に移行して再度抵抗成分ZReを算出する。求めた実行値が予め定める値以上であれば、ステップe1において算出した抵抗成分ZReを有効なものとしてステップe3に移行する。ステップe3〜ステップe7の処理は、ステップd3〜ステップd7の処理とそれぞれ同じなので、重複する説明を省略する。
ステップe2における予め定める周波数、すなわちカットオフ周波数は、たとえば300Hz〜700Hz程度に選ばれる。より好ましくは、カットオフ周波数は、300Hzに選ばれる。ただし、音響を表す音響データを音響として出力する場合には、300Hz以下の音響データが最初から除去されている場合があるので、このときにはカットオフ周波数は、600Hz〜700Hzに選ばれる。
またステップe2における予め定める音量は、たとえば判定レベルを設定するときにZRe検出処理を行ったときの音量の−20dBに選ばれる。ただしこの判定レベルを設定するときのZRe検出処理における音量には、予め定める周波数以下の周波数成分の電圧の実効値を用いる。
以上説明した本実施の形態の音響装置1によれば、予め定める周波数以下の音響を発生させるための電圧および電流をイヤホン2に与えているときに、測定した抵抗成分ZReに基づいて装着状態か非装着状態かを判定する。すなわち装着状態と非装着状態との抵抗成分ZReの差が大きくなるような状況において測定した抵抗成分ZReに基づいて装着状態か非装着状態かを判定するので、精度の高い判定結果を得ることができる。
本実施の形態の音響装置1は、制御部3が低域通過フィルタとして機能するとしたけれども、制御部3が低域通過フィルタとして機能せずに、低域通過フィルタを実現する専用のハードウエアであるDSP(Digital Signal Processor)をさらに備えてもよい。DSPを備えることによって制御部3の演算の負荷が低減する。
本実施の他の形態の音響装置1は、制御部3が低域通過フィルタとして機能するとともに、予め定める周波数以下の周波数成分のイヤホン2の電圧および電流に基づいてZRe検出処理を行う。具体的には制御部3は、CODEC51から与えられる電圧および電流を表す電気信号のうちの予め定める周波数よりも高い周波数成分を除去して、残余の周波数成分に基づいて抵抗成分ZReを算出する。前述したように低周波数領域において装着状態と非装着状態との抵抗成分ZReの差が大きくなるので、制御部3は、CODEC51から与えられる電気信号のうちの低周波数成分を用いた抵抗成分ZReに基づいて、装着状態と非装着状態とを高精度に判定することができる。
また本発明の他の実施の形態の音響装置1は、制御部3が高速フーリエ変換(Fast
Fourier Transform;略称FFT)を行い、特定の周波数成分のイヤホン2の電圧および電流に基づいてZRe検出処理を行う。音響データは、音源に応じて周波数成分が異なるが、特定の周波数成分を用いて抵抗成分ZReを算出するので、音響データの種類に依存しない抵抗成分ZReを算出することができる。これによって制御部3は、音響データの種類に依存せずに装着状態と非装着状態とを判定することができ、判定精度が向上する。
本発明の他の実施の形態の音響装置1は、イヤホン2のインピーダンスの抵抗成分ZReを検出するZRe検出処理を複数回行って、有効と判定された抵抗成分ZReの平均値を抵抗成分ZReとして利用する。本実施の形態の音響装置1は、図13に示す装着/非装着の判定処理が前述の実施の形態の音響装置1と異なるので、重複する説明を省略して装着/非装着の判定処理についてのみ説明する。
図16は、装着/非装着の判定処理を表すフローチャートである。装着状態か非装着状態かを判定する装着/非装着の判定処理は、本実施の形態では、予め定める時間間隔で行われる。装着/非装着の判定処理が開始すると、ステップf0からステップf1に移行する。ステップf1では、制御部3は、記憶部5に記憶される変数jおよびZを数値「0」に初期化する。次にステップf2に移行する。ステップf2では、制御部3は、図9に示すイヤホン2のインピーダンスを検出するZRe検出処理を行う。これによって抵抗成分ZReが求められる。次にステップf3に移行する。ステップf3では、ステップf2のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上か否かを判定する。すなわち判定レベルを設定するときに装着時インピーダンスZ1を測定したときに再生した音量の平均値に対して、ステップf2において抵抗成分ZReを測定したときに再生した音量の平均値が−20dB以上かを判定する。判定レベルを設定したときの抵抗成分ZReを測定した音量よりも、ステップf2において抵抗成分ZReを測定した音量が小さすぎると、測定条件が違いすぎるので、装着状態と非装着状態とを正確に判定することができない。したがって、ステップf2のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上ではないと制御部3が判定すると、ステップf2において測定した抵抗成分ZReが有効ではないとしてステップf2に移行して再度ZRe検出処理を行う。ステップf3においてステップf2のZRe検出処理における音量の平均レベルを表すVrmsが、参照レベルVrefの−20dB以上であると制御部3が判定すると、ステップf2において測定した抵抗成分ZReが有効であるとしてステップf4に移行する。
ステップf4では、制御部3は、変数Zに測定した抵抗成分ZReを加算した値を新たに変数Zに代入することによって抵抗成分ZReを積算する。次にステップf5に移行する。ステップf5では変数jをインクリメントする。抵抗成分ZReを積算する毎に変数jがインクリメントされるので、変数jは、積算回数を表す。次にステップf6に移行する。ステップf6では、制御部3は、変数jが数値mよりも大きいか否かを判定して、数値m以下であればステップf2に移行する。数値mは、抵抗成分ZReを積算すべき回数を表す。ステップf6において、変数jが数値mよりも大きいと判定すると、抵抗成分ZReを積算すべき回数だけ積算したので、ステップf7に移行する。ステップf7では、制御部3は、抵抗成分ZReを積算した変数Zを、積算回数mで除した値(Z/m)を、抵抗成分ZReとして設定する。ここで設定された抵抗成分ZReは、抵抗成分ZReの相加平均を表す。次にステップf8に移行する。ステップf8〜ステップf12の処理は、それぞれステップd3〜ステップf7の処理とそれぞれ同じなので、重複する説明を省略する。
以上説明した本実施の形態の音響装置1によれば、抵抗成分ZReの相加平均を用いることによって、抵抗成分ZReの誤差を除去することができ、高精度の抵抗成分ZReを算出することができる。制御部3は、高精度の抵抗成分ZReに基づいて装着状態か非装着状態かを判定するので、精度の高い判定結果を得ることができる。