JP4548463B2 - 伝送線路基板及び電気的測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、測定対象試料の電気的特性に係わる情報を取得する技術に関する。より詳しくは、所定構造の伝送線路の導体層部分に形成した微小な断層部において、試料の誘電率を測定する新規技術に関する。
物質の性質(例えば、化学構造、内部構造)などを知るための種々の測定技術がある。例えば、物質の誘電率(dielectric permittivity)は、物質の性質(例えば、化学構造、内部構造)などを知る上で、重要な物性値となり得るものである。誘電測定法は、インピーダンスアナライザやネットワークアナライザを用いて周波数領域で行う方法が一般的であり、また、時間領域反射法(TDR法)を用いて時間領域で測定したデータをフーリエ解析等によって周波数領域に変換する方法もある。また、近年、誘電率測定技術として、減衰全反射分光法(ATR法)が提案され、特許文献1にはその技術の一例が開示されている。
従来、試料の誘電率(誘電スペクトル)を測定する場合には、目的の試料をキャパシタ状の2枚の電極間に挟み込んで測定したり、円筒状又は同軸状をなす電極が存在する空間に試料を注入して測定したり、試料の入った容器に終端型の電極を浸したりして測定するなどの方法が広く一般的である。
このような従来の誘電率測定方法においては、必要となる試料量は、薄膜を形成できる高分子などの場合を除けば、100μL以上となるため、貴重な試料の測定には根本的に不適当である。同軸状の電極を用いて液体試料を測定する場合については、40μL程度の試料量でも測定可能ではあるが、この電極では液体以外の試料(例えば、ゲル状の試料)の測定には不向きである。また、上記従来方法のいずれの場合でも、試料注入の際に気泡の混入を防ぐための熟練技術が必要であるので、自動測定技術への発展性も乏しい。
また、従来の誘電率測定方法の延長線での発想では、電極それ自体の大きさや形状等の制限があるため、コンパクトな測定装置を実現することは困難である。
特開2002−286632号公報。
本発明は、微少量の貴重な試料の電気的特性を測定する技術に適しており、また、低価格で、かつ、コンパクトな測定装置を提供し得る技術を提供することを主な目的とする。
本発明では、まず、所定厚みの絶縁層(誘電体層)と、前記絶縁層を挟むように対向配置され、高周波伝送路として機能する一対の導体層と、その一方側の前記導体層を断線状態にするように形成され、測定対象の試料が導入され得る断層部と、を少なくとも備える伝送線路基板を提供する。なお、この伝送線路基板は、一般に、ストリップ線路(strip line)とも称される概念の範疇に属するものとも言えるが、従来一般のストリップ線路には、前記断層部に相当する構造は存在していないので相違する。
この断層部に対する試料への導入方法については、特に限定されず、例えば、上方から滴下等してもよいし、断層部を、流路の一部とするように形成された試料導入用流路を設けておいて、該流路から試料を断層部に向けて送液等してもよい。
次に、本発明では、上述した高周波伝送路が複数並設された構成のマルチ伝送線路基板を提供する。さらには、このマルチ伝送線路基板において、複数の断層部を通過するような試料導入用流路を形成してもよい。この場合、該流路内を試料が送液され、次々に断層部を通過していくようになるため、時間差を設けて試料の誘電測定を連続的に行うような用途に適している。
また、本発明では、上記した伝送線路基板を用いて、測定対象試料の電気的特性に係わる情報を取得するための装置であって、前記伝送線路基板を構成する前記導体層に対して電力を供給する電源部と、前記断層部へ直接又は流路を介して試料を導入する試料導入部と、前記断層部へ試料が導入されたことで変化し得るインピーダンスを計測する計測部と、を備えた電気的測定装置、そして、前記インピーダンスに基づいて試料の誘電率を得る解析部をさらに備える電気的測定装置を提供する。
本発明によれば、伝送線路基板を構成する一対の導体層の一方側に設けた微小な断層部に試料を導入して該試料のインピーダンス、さらにはこのインピーダンス変化に基づいて該試料の誘電率等の電気的特性を解析する構成であるから、測定のために要求される試料が極少量で済む上に、当該試料の電気特性を効率よく測定することができる。また、本伝送線路基板の構成は非常に簡易であり、材料コスト、製造コストも安いことから、コンパクトで、かつ、低コストの誘電測定装置等の電気的測定装置を提供することが可能となる。
以下、添付した図面を参照しながら本発明に係る伝送線路基板及び該伝送線路基板を利用する誘電測定装置の実施形態の一例ついて説明する。
図1は、伝送線路(strip line)が設けられている、最も簡略な構成の基板(以下、「伝送線路基板」と称する。)を上方から視たときの平面図であり、図2は、図1のA−A線垂直断面の矢視図である。
伝送線路基板1aの上面には、高周波伝送路となる導体層2が露出して形成されており、さらに、この導体層2の所定位置(例えば、中間位置)には、狭小な断層部(隙間)Gが形成されているため、該導体層2は断線された状態となっている(図1参照)。断層部Gの試料と接する部分については、白金黒メッキ等を行っておくことによって電極表面積を増やしたり、電極分極を軽減したりすることもできる。なお、伝送線路基板1aの材料は、絶縁材料(材料は特に限定されない。一例、アルミナ)によって形成する。
続いて、この伝送線路基板1aの垂直断面図(図2)を参照すると、該基板1aの最下層には、導体層3が設けられており(通常、接地される)、該導体層3は、所定厚(例えば、0.5mm程度)の絶縁層4を間に挟んで、上記導体層2と対向している。即ち、絶縁層4を導体層2,3によって挟み込んだサンドイッチ構造となっている。なお、導体層2、3は、例えば、絶縁層4の表面(上面と下面)に対してそれぞれ蒸着等によってプリントすることができる。
導体層2、3の幅は、目的や用途に応じて決定されるが、例えば、導体層2の幅を0.5mm程度、導体層3の幅を基板底面全体に20mm程度に設計され、その厚みも目的や用途に応じて決定され、例えば、数μ程度に設計される。
このような構成の伝送線路(strip line)の特性インピーダンスは、絶縁層4の誘電率、絶縁層4の厚み、及び上面の導体層2の幅などによって決まり、通常、50オーム(Ω)が選択される。このような伝送線路(strip line)の構成によって、電気信号を一般的に準TEMモードで伝送することができる。
ここで、本発明に係る伝送線路(strip line)基板の特徴は、上方側の導体層2の選択された所定位置に狭小な断層部(隙間)Gが形成されて、該導体層2が断線された状態になっていることである。このような断層部Gに対して、測定対象の試料を選択された方法により導入すれば、導体層2、3に電気的信号を送信した結果によって得られたシグナルに対して、一定の解析を加えることによって、該試料の誘電率等の電気的特性を得ることができる。
断層部Gを上方に開口した構成とすれば、粘度の高い試料(例えば、ゲル状の試料)であっても、該断層部Gに当該試料を滴下(スポッティング)、注入又は充填等することによって、該試料の電気的特性を測定することが可能となるという利点をも備える。この断層部Gは、狭小な領域として形成されるので、測定に要求される試料量が非常に少なくて済むという基本的な利点を有している。例えば、断層部Gのギャップ長(隙間の長さ)を10μm程度に設計すれば、数十〜数百ナノリットル程度の試料量で測定充分量を確保できる。断層部Gに対する試料の導入方法として、該断層部Gを通過する流路を設けてもよい。
図3は、本発明に係る電気的測定装置の実施形態例に共通する基本構成を示す図である。図3中の符号5は、高周波交流電源(電気信号の発信機)又はステップパルス発信機(時間領域反射法(TDR)測定用の発信機を流用可能)、符号6は、伝送線路を有する測定部7によって得られるインピーダンス変化を計測するための計測部(受信機)6、符号8は、該計測部6からの電気的信号(シグナル)について解析を行なって、測定対象の試料の誘電率等の電気的情報を得る解析部である。
図4は、伝送線路基板1aの変形形態例(符号1b)を上方から視たときの平面図である。該基板1bには、上下一対の導体層が複数並設されたことによって、マルチ伝送線路を形成している。なお、下方の導体層(図4では図示されない。)は、基板1bの底面全体に共通の導体層として設けてもよい。
この図4では、マルチ伝送線路基板1bの上面に、3本の導体層21、22、23がプリントされている様子が示されている。そして、導体層21、22、23のそれぞれには、狭小な断層部G1、G2、G3がそれぞれ設けられており、さらに、これらの断層部G1、G2、G3の全部を通過する構成の流路9が延設されている。
ここで、流路9は、測定対象の試料Sを加圧、負圧吸引、毛細管現象などの適宜選択された物理的手段によって、断層部G1、G2、G3に向けて順番に、時系列的に導入していくことができる(図4参照)。このようなマルチ伝送線路基板の構成では、該流路9内を試料が通過していくとき、断層部G1、G2、G3を順番に通過していくようになるため、時間差をおいて試料の電気的特性を連続的に測定(例えば、モニタリング)するような用途に大変適している。
例えば、時間の経過によって物質の性状(形状や構造など)が変化する場合、時間変化によって化学反応や相互作用が進行する場合などにおいて、物質の性状の変化、化学反応や相互作用の有無や量を知るための測定系を構築することができる。流路9を用いると、流路9及び断層部G1〜G4の自動洗浄も実施することもできる。
なお、複数の導体層21、22、23に対しては、測定タイミングと同期させるスイッチング手段を使用することによって、順に測定用電気信号を発信していくことが実施可能となる。
図5は、前記スイッチング手段の一実施形態例を備えるマルチ伝送線路基板の主要構成を示す図(上方視、平面図)である。
マルチ伝送線路基板1cには、計4つの導体層21,22,23,24が一定間隔で並設されている。また、導体層21〜24には、それぞれ各一箇所に、断層部G1〜G4が設けられている。また、これらの断層部G1,G2,G3,G4をすべて通過する構成の流路91が設けられ、さらに、該流路91に連通する流路92と、バルブ10によって流路の開閉が行われるように構成された流路93と、が延設されている。
本実施形態において流路92と流路93を設けた理由は、異なる試料等を別ルートから導入可能なようにするためである。例えば、一方(例えば、流路92)から測定対象の物質、もう一方(例えば、流路93)から前記物質を化学変化させ得る薬剤を導入することが可能であり、あるいは、一方(例えば、流路92)から測定対象の物質を、もう一方(例えば、流路93)から前記物質と相互作用(ハイブリダイゼーションを含む。)し得る物質を導入することが可能である。
図5中の符号11,12は、スイッチング用導体である。これらのスイッチング用導体11,12は、所定のタイミングで、自動的に測定用電気信号を送信する導体層21〜24を間欠運動で選択することが可能な構成となっているので(図5の太線矢印を参照)、断層部G1,G2,G3,G4に導入されてきた試料の電気的特性を反映する電気信号を順次取得することができる。
なお、図5中に示す符号13は、電源(発信機)、符号14は、入力波及び反射波測定用の受信機、符号15は、透過波測定用の受信機をそれぞれ示している。ここで、「入力波」は、周波数領域測定においては発信機から一定の周波数で発信される電気信号で例えば正弦波電圧が用いられる。なお、入力する周波数を順次変更して計測を実施することにより、試料の誘電率等電気的性質の周波数依存性を得ることができる(スペクトル計測)。また、時間領域測定では、入力波は、ステップパルス発信機から一定の間隔で繰り返し発信されるステップ電圧もしくはパルス電圧である。時間領域測定の場合は、フーリエ解析を含むデータ解析によって周波数領域測定と等価な試料の誘電率等電気的性質の周波数依存性を得ることができる。「反射波」は、周波数領域測定、時間領域測定共に、入力波がスイッチング用導体11及び導体21、22、23または24を順次伝播してギャップ部に達し、このギャップ部に達した電気信号のうちの一部が反射して今度は逆の順路で戻ってきた電気信号である。ギャップ部に試料が存在する場合には、この反射波には試料の誘電率等電気的性質の情報が含まれている。「透過波」は、入力波がスイッチング用導体11及び導体21、22、23または24を順次伝播してギャップ部に達し、このギャップ部に達した電気信号のうちの一部が、ギャップ部に試料が存在することで一部透過し、それが発信機のある側とは反対側の伝送路を通って観測された電気信号である。この透過波も試料の誘電率等電気的性質の情報を含んでいる。
まず、実験で使用した伝送線路基板は、伝送線路を構成する絶縁層として厚み0.635mmのアルミナを用い、導体層は金で形成し、その幅を0.64mm、その厚みを2.5μm、断層部の間隔幅を500μmに設計した。この基板の両端はプローブ接触を介して同軸ケーブルによって測定装置に接続した。この測定装置は、2チャンネル時間領域測定が可能なオシロスコープであるアジレント社製デジタルオシロスコープ86100Cに、パルスジェネレータ及びサンプリングヘッドを内蔵したTDRモジュール(アジレント社製54754A)をセットした。この測定装置から基板の片端に、電圧200mV立ち上がり時間約40ピコ秒のステップパルスを入射し、導体層の断層部での反射波の測定(S11測定)と該断層部を透過した波形の観測(S21測定)を行った。
本実験は、最初に空気の測定を行い、その後、液体状の試料として、(1)水、(2)ウサギ保存血液、(3)ウサギ保存血液と同じ電気伝導度を持つように調整した食塩水について、それぞれ5μLを断層部へ滴下した。なお、解析に用いるための基礎データを取得する目的で、断層部が形成されていない伝送線路基板(つまり、通常の伝送線路と同じで、断線していないもの)を用いて透過測定(S21測定)を実施した。
ここで、図6は、本実験で得られたS21測定データを、短時間域帯について拡大して示すグラフ(図面代用グラフ)である。このグラフから明らかなように、測定結果は、試料の違いによって明確に異なっている。この違いは、それぞれの試料間の誘電率と導電率の違いを反映している。なお、図6(グラフ)中において、グラフ線1はウサギ赤血球懸濁液、グラフ線2は食塩水、グラフ線3は純水、グラフ線4は空気のS21測定でデータをそれぞれ示している。
次に、測定データの解析手法についての一実施例である。この解析手法は、本発明に係る測定装置を構成する解析部にて利用し得る。ここで、図7は、本実験で使用した基板を用いた測定に係わる等価回路を示す図である。ここで求めようとしている試料の複素誘電率ε*は、複素インピーダンスZXと次の式の関係で関連している。なお、jは虚数単位、ωは角周波数、C1は基板の測定感度に関係するキャパシタンス値である。
一方、伝送線路に形成した断層部で反射された波形Vrと該断層部を透過した波形Vtはそれぞれ複素インピーダンスZによって影響を受けるため、これらの波形を解析することによって、複素誘電率εを求めることができる。この複素誘電率εを求める具体的な方法としては、(A)ダイレクト法、(B)反射・透過コンビネーション法、(C)リファレンス法などがある。
(A)ダイレクト法。入射波形Viと、透過波形Vt又は反射波形Vrを用いることで、下記のいずれかの式により、複素誘電率εを求めることができる。
式中のZoは、伝送線路の特性インピーダンスであり、通常50Ωが選択される。ここで、Zを無限大とすることによって、上記の数式2と数式3は、それぞれ数式4、数式5のように単純化することもできる。
(B)反射・透過コンビネーション法。透過波形Vtと反射波形Vrを両方用いることによって、下記式にて、複素誘電率εを求めることができる。
またこのとき、Zは、次の式によって求めることができる。
(C)リファレンス法。試料の複素誘電率εを求めるために、この試料の他に、既にその複素誘電率が判明しているリファレンス試料(標準試料)を測定することで、より精度よく試料の複素誘電率εを求めることができる。このリファレンスの複素誘電率をεrとし、Vrr、Vrtをそれぞれリファレンス測定における反射波、透過波とすると、下記のいずれかの式によって、試料の複素誘電率εを求めることができる。
ここで、Zが無限大であるとすることで、前掲の数式8と数式9は、それぞれ次の数式10、数式11のように単純化でき、さらに、前掲の数式8と数式9を両方考慮することによって、以下の数式12を導くことができる。
浮遊キャパシタンス補正。断層部の浮遊キャパシタンスCrを補正することで、より精度の高い解析を行うことが可能となる。浮遊キャパシタンスが無視できる場合は、試料の複素誘電率が複素インピーダンスの関係は、上記数式1で表される。しかし、浮遊キャパシタンスCrが無視できない場合、その影響は測定系のインピーダンスに対して、次の数式13の形で入り込む。
この場合、既に複素誘電率が判明している二つのリファレンス試料を用いることにより、浮遊キャパシタンスCrの影響を排除したCを次の数式14又は数式15によって求めることができる。
一度、前掲の数式14又は数式15によってC(測定感度に関するキャパシスタンス値)を決定すれば、数式14又は数式15中の二つのリファレンスサンプルのうちの一つを未知試料として測定して、目的の試料の複素誘電率εを求めることができる。
次ぎに、実際に実験を行って、C及びCrの評価、断層部の間隔依存及びサンプル量依存性を検証した。
まず、伝送線路を設けた基板(図1参照)について、断層部の間隔を変えたサンプルを4種類用意し、複素誘電率が既に分かっている純水とグリセロールについて測定した。その測定データから数式14によってCを求めた。その結果を次の「表1」に示す。また、この結果は、断層部の間隔の長さを変えることによって、C値が変化すること、即ち、それによって測定感度を変えることができることを意味している。
一方、浮遊キャパシスタンスCrの存在を考慮して、上記数式6を書き直すと次の数式16のようになる。
純水の測定結果に関して数式16を用いて解析し、さらに、「表1」に示したCを考慮することによって、浮遊キャパシスタンスCrは、次の「表2」のように求めることができた。この結果から分かるように、浮遊キャパシスタンスCrはC1(測定感度に関するキャパシスタンス値)より十分小さいため、本実験で使用した伝送線路基板においては、測定誤差を考慮すれば、浮遊キャパシスタンスCrを実際の測定において無視しても問題ことが分かった。
次に、赤血球懸濁液の実際の測定実験を行った。まず、図8は、本発明に係る伝送線路基板(図1参照)を用いて赤血球懸濁液とこれと同じ電気伝導度をもつ食塩水を測定し、それらの測定データを解析した結果である。なお、図8中におけるプロットは、本実験による測定結果であり、曲線は、従来の方法による誘電分光測定結果である。なお、従来の方法による誘電分光測定は、次のように行った。約160μLの試料を、白金黒メッキ処理を行った2枚の平行平板型電極(直径8mm、電極間距離3.5mm)の間に注入し、アジレント社製インピーダンスアナライザ(4294Aモデル)によってキャパシタンスとコンダクタンスをそれぞれの周波数で測定した。これらの測定値を既存の解析法(例えば文献「Asami等, Biochim. Biophys. Acta誌 778巻, 559-569ページ (19984年)」によって複素誘電率εを得た。
赤血球は形状を調整したものを二種類用意した。解析は、上記数式14に基づいて行なった。ここでC1値は、上掲した「表1」のデータから求めた。前述したように、数式14は、2つのリファレンス試料を用いてC1値を求める式である。ここでは、既にC1値は分かっているので、2つのリファレンスのうち1つを未知試料(ここでは、赤血球懸濁液)に置き換え、もう一つのリファレンス試料として食塩水を用いることによって、未知試料の複素誘電率を算出した。この結果は、通常の誘電分光測定法によって測定した結果と一致していた。従って、本発明で提供する測定系は、新たな誘電分光測定法となるものである。
一般に、導電性の液体やゲルの誘電測定では、電極分極が生じるためにより低周波測定になるほど誤差が大きくなることが知られている。この電極分極による影響を軽減する手法については、通常の誘電緩和測定法においてはいくつか知られており、食塩水をリファレンスとして用いるのもその一つである。本実験でも、食塩水を用いることで測定精度が向上することが分かった。
本発明は、試料、特に、極少量の貴重な試料の電気的特性、例えば、誘電率を測定する新規な測定技術として利用できる。
本発明に係る伝送線路(strip line)が設けられている、最も簡略な構成の基板(以下、伝送線路基板と称する。)を上方から視たときの平面図である。 図1のA−A線垂直断面の矢視図である。 本発明に係る電気的測定装置の実施形態例に共通する基本構成を示す図である。 伝送線路基板1aの変形形態例(符号1b)を上方から視たときの平面図である。 スイッチング手段の一実施形態例を備えるマルチ伝送線路が設けられた基板の主要構成を示す図(上方視、平面図)である。 実験で得られたS21測定データを、短時間域帯について拡大して示すグラフ(図面代用グラフ)である。 実験で使用した伝送線路基板を用いた測定に係わる等価回路を示す図である。 本発明に係る伝送線路基板(図1参照)を用いて、赤血球懸濁液とこれと同じ電気伝導度を持つ食塩水を測定し、それらの測定データを解析した結果を示すグラフである。
符号の説明
1a,1b,1c 伝送線路が設けられた基板(略称、伝送線路基板)
2、3 導体層
4 絶縁層
G 断層部(断線されている)

Claims (5)

  1. 所定厚みの絶縁層と、
    前記絶縁層を挟むように対向配置され、高周波伝送路として機能する複数対の導体層と、
    前記複数対の導体層の一方側の各導体層を断線状態にするように形成され、測定対象の試料が導入され得る複数の断層部と、
    各断層部を流路の一部とする試料導入用流路と、
    を少なくとも備え、
    前記試料導入用流路は、前記絶縁層上に並設された各導体層に形成された断層部の全てを通過するように延設されており、前記試料が全ての断層部を通過する伝送線路基板。
  2. 更に、前記断層部が設けられた導体層のうちの一の導体層に選択的に接続して電気信号を取得する1対のスイッチング導体を備える請求項1記載の伝送線路基板。
  3. 前記複数対の導体層の他方側の導体層が共通である請求項1又は2に記載の伝送線路基板。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の伝送線路基板を用いて、測定対象試料の電気的特性に係わる情報を取得するための装置であって、
    前記伝送線路基板を構成する各導体層に対して電力を供給する電源部と、
    各断層部へ流路を介して試料を導入する試料導入部と、
    前記断層部へ試料が導入されたことで変化し得るインピーダンスを計測する計測部と、を備える電気的測定装置。
  5. 前記インピーダンスに基づいて試料の誘電率を得る解析部を有する請求項4記載の電気的測定装置。
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