JP4547324B2 - タンパク質認識構造体、タンパク質認識基板、及びこれらの製造方法 - Google Patents

タンパク質認識構造体、タンパク質認識基板、及びこれらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、タンパク質結晶に配位された官能基部位のみが分子インプリントされたタンパク質認識構造体、及びその製造方法に関する。
近年、バイオセンサーなどのバイオテクノロジー、および病気の診断・治療の分野において、タンパク質を利用してセンシングや診断・治療を行うことが多くなってきている。一般的に、タンパク質は、生体の細胞内において多くの種類が混じった混合物として存在する。バイオセンサーや病気の診断においては、生体内に含まれる複数種のタンパク質から、所望するタンパク質のみを特異的に認識し、検出する必要がある。
従来、特定のタンパク質を識別する方法としては、抗原となるタンパク質と、抗原と特異的に反応(認識)する物質(抗体)と、を用いた抗原抗体反応(免疫分析法)採用していた。しかし、免疫分析法では、ラットやマウス等の生体に特定のタンパク質(抗原)を注入し、生体内で抗原に対する抗体を形成させた後、その抗体を分離・抽出・精製する必要がある。よって、抗体の作成に長時間を要するという問題があった。
また、生体を用いて抗体を生成させなければならないため、生体(ラット、マウス等)の飼育・管理が煩雑でコストがかかる。さらに、このようにして得られた抗体は、熱や酸あるいはアルカリによって変性しやすく、また長時間の保存により失活して、認識能力を失ってしまうおそれがある。
このような背景から、特定のタンパク質を抗体と同程度以上に特異的に認識し、且つ製造が簡単で保存性の良いタンパク質認識構造体の開発が望まれている。
このような中、いわゆる分子インプリント法を用いてタンパク質認識構造体を作製する方法が提案されている。分子インプリント法は、機能性モノマーを用いてポリマー内にタンパク質等の分子を型取り、分子の形状や化学的特性をポリマー内に転写させる方法である。この方法によると、過酷な条件下でも安定して使用できるタンパク質認識構造体を効率よく生産できる。このような分子インプリント法を利用したタンパク質認識構造体に関する技術としては、特許文献1が挙げられる。
特許3527239号公報
特許文献1に係る技術は、標的物質と結合する少なくとも2つのリガンドを、標的物質であるプリント分子(タンパク質)の少なくとも2つの結合部位に結合させ、次いでリガンドを吸着剤に固定化した後、プリント分子を除去することによって、選択的吸着材料を作製する技術である。この技術によると、特異的に配置された結合基を有し、選択的にタンパク質等の生体高分子を吸着できる吸着剤が得られるとされる。
しかし、上記技術に係る吸着材料は、標的とする物質に対する認識特異性が低く、標的としない物質をも吸着してしまうという課題を有している。そこで、本発明者らは、分子インプリント法について鋭意研究したところ、従来技術にかかる分子インプリント法は、タンパク質を溶液に分散または溶かし、この溶液に機能性モノマーを加えて重合させることによりインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)を作製しているが、この方法においては、タンパク質が溶液中で活発に分子運動しているために、本来のタンパク質の形と、インプリントポリマー(タンパク質認識構造体)に型取られたタンパク質の型との間にズレが生じ、またタンパク質の特異的官能基部位がインプリントポリマーに正確に転写できないために、インプリントポリマー(タンパク質認識構造体)と、鋳型として用いたタンパク質と形状が異なる物質(標的物質以外のタンパク質)とも結合してしまうことを知った。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであって、認識特異性や保存安定性に優れたタンパク質認識構造体を提供し、またこの構造体を用いて使い勝手性、生産性に優れたタンパク質認識基板を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための、タンパク質認識構造体にかかる本発明は、タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体である。
この構成によると、タンパク質結晶の表面形状が正確に型取られ、かつタンパク質結晶表面に配位した特異的官能基部位(たとえば、カルボキシル基やアミノ基等)が正確に分子インプリントされているため、当該タンパク質との認識特異性が極めて高く、その他のタンパク質との認識特異性が極めて低いものとなる。
ここで、タンパク質結晶表面とは、タンパク質結晶の外表面を意味し、タンパク質の立体構造における内部表面を意味しない。つまり、結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位とは、タンパク質の立体構造において内部表面に配位した特異的官能基部位ではなく、外表面側に配位した特異的官能基部位を意味する。また、タンパク質結晶の表面形状とは、結晶表面に現れた1分子のみの形状であってもよい。
上記課題を解決するためのタンパク質認識基板に係る第1の本発明は、タンパク質結晶の表面形状およびタンパク質結晶表面に配位した特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体が、基板上にアレイ状に配置されたタンパク質認識基板である。
この基板を用いると、一つの基板で複数回のタンパク質の検出を効率よく行うことができる。
上記課題を解決するためのタンパク質認識基板に係る第2の本発明は、タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体が複数基板上に配置されたタンパク質認識基板であって、前記複数のタンパク質認識構造体のそれぞれが、異なるタンパク質を認識する構造体であることを特徴とする。
この基板を用いると、一回の操作で複数種のタンパク質の検出が可能となる。
上記構成において、前記複数のタンパク質認識構造体が、同種のタンパク質認識構造体ごとに、前記基板上にアレイ状に配置されている構成とすることができる。
この基板を用いると、一つの基板で複数種のタンパク質の検出を複数回効率よく行うことができる。
上記課題を解決するためのタンパク質認識構造体の製造方法に係る本発明は、タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態でプレポリマーを重合させることにより、タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を、前記プレポリマーが重合してなるポリマーに分子インプリントするタンパク質認識構造体の製造方法である。
タンパク質結晶は多数のタンパク質分子が一定の立体構造を形成し、タンパク質が分子運動したり変性したりして構造が変化しない安定した状態になっている。このように構造が一定であるタンパク質にプレポリマーを接触させた状態でプレポリマーを重合させると、タンパク質結晶の表面形状およびタンパク質結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位がプレポリマーが重合してなるインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)に正確に転写することができる。よって、タンパク質認識構造体の認識特異性が飛躍的に向上する。
本発明の効果を、より詳細に説明する。
従来技術のように、タンパク質を溶液に溶かして分子インプリントを行う方法では、タンパク質分子が活発に分子運動しているため、タンパク質が一定の形状を取っておらず、さまざまな形状のタンパク質表面形状がインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)に型取られる。また、タンパク質結晶に配位している特異的官能基部位は、外部表面や内部表面に自由に向きを変えている。このため、鋳型として用いたタンパク質と形状が異なる、標的物質以外のタンパク質とも結合し得る構造体が形成される。
他方、本発明では、タンパク質結晶を用いているが、タンパク質は結晶化することにより安定な一形態をとり、また、タンパク質の特異的官能基部位が、結晶化することにより特定の方向に配位する。よって、タンパク質結晶を用いた分子インプリント法により得られたインプリントポリマーは、タンパク質結晶の表面形状を正確に型取ったものとなるとともに、特定の方向に配位したタンパク質結晶表面の特異的官能基部位を正確に型取ったものとなるので、そのタンパク質認識構造体の結合特異性が飛躍的に向上する。
上記構成においては、前記タンパク質結晶がタンパク質の3次元結晶であるとすることができる。
上記構成においては、前記タンパク質結晶がタンパク質の2次元結晶であるとすることができる。
上記課題を解決するためのタンパク質認識基板の製造方法に係る第1の態様の本発明は、タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態で重合させることにより、タンパク質結晶表面の形状および前記結晶表面に配位した特異的官能基部位を、前記プレポリマーが重合してなるポリマーに分子インプリントするインプリント工程と、前記分子インプリントされたポリマーの塊を粉砕し、微粒子状のタンパク質認識構造体となす粉砕工程と、前記微粒子状のタンパク質認識構造体を基板上にアレイ状に配置する配置工程と、を備えるタンパク質認識基板の製造方法である。
上記課題を解決するためのタンパク質認識基板の製造方法に係る第2の態様の本発明は、タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態でプレポリマーを攪拌しつつ重合させ、直径1000nm以下の微粒子状のタンパク質認識構造体を作製する攪拌インプリント工程と、前記微粒子状のタンパク質認識構造体を基板上にアレイ状に配置する配置工程と、を備えるタンパク質認識基板の製造方法である。
通常、分子インプリントは試験管やバイアル瓶内等で行われるため、重合された分子インプリントされたポリマーの塊は、容器の形状そのままとなる。上記第1の態様の本発明では、分子インプリントされたポリマーの塊を粉砕して微粒子状のタンパク質認識構造体となし、これを基板上に配置する構成を採用する。この製法であると、容易に基板上にアレイ配置することができる。
また、上記第2の態様の製造方法によると、分子インプリントされたポリマーの塊を粉砕することなく直径1000nm以下の微粒子状のタンパク質認識構造体となすことができ、第1の態様よりも効率よく基板上にタンパク質認識構造体を配置できる。
上記2つの態様の本発明の構成においては、前記配置工程が、種類の異なるタンパク質結晶を用いて作製された複数種類のタンパク質認識構造体を、同種のタンパク質認識構造体ごとに、基板上に規則的に配列する工程であるとすることができる。
本発明によると、高い認識特異性を持つタンパク質認識構造体(インプリントポリマー)を低コストで提供できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1を図面に基づいて説明する。実施の形態1では鋳型として3次元結晶を用いてタンパク質認識構造体を作製する。図1は実施の形態1のタンパク質認識構造体の作製手順を示す図である。
最初に、鋳型であるタンパク質の結晶化を行う(図1(a))。具体的には、まず、タンパク質の結晶化は、水もしくは緩衝液にタンパク質を溶かし、沈殿剤を加え、タンパク質を過飽和状態にした結晶化溶液1を作製する。
結晶化方法としては、(1)過飽和状態のタンパク質溶液を調製し、密閉された容器に入れ、静置しておくバッチ法、(2)未過飽和状態のタンパク質溶液を用意し、その溶液より沈殿剤濃度が高いリザーバー溶液とともに密閉容器にいれておき、蒸気拡散によりタンパク質溶液からリザーバー溶液に水が移動していくことで、タンパク質溶液の水を減少させ、タンパク質を過飽和とする蒸気拡散法、(3)未過飽和状態のタンパク質溶液とその溶液より沈殿剤濃度が高い溶液を用意し、その2液の間に透析膜を置くことで、拡散により水や沈殿剤が移動してタンパク質を過飽和とする透析法、等を用いることができる。
タンパク質の結晶化に際しては、タンパク質を変性させないために、タンパク質溶液のpHを一定に保つことが望ましい。このため、タンパク質は緩衝液に溶かすことが好ましい。そのような緩衝液として、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)などのグッズの緩衝液等を用いることができる。
沈殿剤は、タンパク質を過飽和状態にするものであって、塩、ポリエチレングリコール、アルコール等を用いることができる。塩としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。ポリエチレングリコールとしては、分子量100〜100000のものを用いることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルペンタンジオール等を用いることができる。
結晶化溶液1のタンパク質の濃度は、沈殿剤によりタンパク質が過飽和状態になる程度に高いことが望ましい。具体的には、10mg/ml〜100mg/mlの範囲内であることが好ましい。
結晶化溶液1には、タンパク質と結合可能な分子を加えてもよい。例えばタンパク質が酵素である場合は、基質、基質類似物質、阻害剤などを加えてもよい。また、アルミニウム、亜鉛、鉄、銅、銀、金、白金、ニッケル、チタン、マンガン、コバルトなどの金属を加えてもよい。または、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどの金属キレート剤を加えても良い。
このようにして、図1(b)に示すようにタンパク質の結晶2が得られる。
この後、図1(c)に示すように結晶を溶液から分離させる。これは、結晶のみをピペットなどで取ってもよく、結晶を残して溶液だけ除去してもよい。
次に、図1(d)に示すように、重合は、重合溶媒に機能性モノマー、架橋剤を溶かしたプレポリマー溶液3と、タンパク質結晶とを混合し、タンパク質結晶とプレポリマーとが接触した状態で、分子インプリント法により重合を行う。
この重合の具体的方法をさらに詳細に説明する。分子インプリント法では、タンパク質結晶の表面に配位した特異的官能基部位と相補的に結合する特異的結合部位を有する機能性モノマーと、架橋性モノマーとを含むプレポリマーを、鋳型であるタンパク質の存在下で重合させる。この後、鋳型であるタンパク質に溶解性を示す溶液を接触させて、鋳型であるタンパク質を取り除く。このような溶液として、酸またはアルカリを添加して、重合時の溶媒のpHと異なるpHにした溶液や、塩化ナトリウムや硫酸アンモニウムなどの塩を加えて塩濃度を高くした溶液を挙げることができる。これによって、鋳型であるタンパク質結晶の表面形状を正確に型取ることができ、且つタンパク質結晶表面に配位した特異的官能基部位にと相補的な関係を有する部位のみが残存することとなり、認識特異性の高いタンパク質認識構造体が得られる。
このようにして作製されたタンパク質認識構造体は、タンパク質結晶の表面形状を型取ったものではなく、タンパク質表面に存在するカルボキシル基、アミノ基などの特定官能基の位置情報も型取られている。これは、機能性モノマーに含まれる特異的結合部位が、タンパク質結晶の表面の特異的官能基部位に相補的に結合した状態で重合されるためである。これにより、タンパク質認識の際、タンパク質の表面形状だけではなく、タンパク質表面の官能基と、タンパク質認識構造体中の官能基間の水素結合、イオン結合、疎水結合などによる相互結合を含む認識作用により、タンパク質の認識が行われることとなる。
本発明では、タンパク質の結晶を鋳型として用いるため、重合時に用いる溶媒は、系内で不活性な溶媒で且つタンパク質が溶解しなければ良い。例えば、クロロホルム、トルエン、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、各種アルコール等の有機溶媒、または緩衝液等の水系の溶媒を用いることができるが、タンパク質結晶は有機溶媒に触れると変性する可能性があるので、重合溶媒は水系溶媒が好ましい。また、タンパク質は溶媒のpHに依存して表面電荷が変化して表面構造が変化したり、溶解したりするので、溶媒のpHは一定に保つことが好ましい。このため、重合溶媒は、水系の緩衝液がより好ましい。そのような緩衝液として、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、HEPESなどのグッズの緩衝液、を用いることができる。なお、鋳型となるタンパク質によって、好ましいpH値は異なる。
機能性モノマーとしては、タンパク質と相互作用可能な結合基を持ち、かつ重合可能なビニル基を持つものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、2− (ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、などが挙げられる。
架橋剤として、分子中に重合可能なビニル基を少なくとも2個持つ分子を用いることが好ましい。例えば、エチレングリコールジメチルアクリレート、N,N'−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
プレポリマー溶液には、結晶が溶けないように沈殿剤を加えてもよい。このとき、沈殿剤としては、タンパク質の結晶化の際に例示したものを用いることができるが、塩はタンパク質と機能性モノマーの静電的相互作用を阻害するので、用いないことが好ましい。
重合には、重合開始剤を加えても良い。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を用いることができる。
また、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどの重合促進剤を加えても良い。
重合は、熱重合、または紫外線照射による光重合を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、組み合わせてもよい。このときの重合温度は、タンパク質が熱変性しない温度が好ましく、4℃〜40℃である。
重合時間に制限はないが、目視により溶液がゲル化していれば重合完了と判断できる。一般的には0.5〜48時間で重合が完了する。
この後、得られたインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)を取り扱いやすい大きさ粉砕し、直径が1mm以下、より好ましくは直径10〜100μmの大きさに選別する。大きさの選別には、ふるいを用いることができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2を図面に基づいて説明する。実施の形態2は鋳型として2次元結晶を用いてタンパク質認識構造体を作製する。図2は実施の形態2のタンパク質認識構造体の作製手順を示す図である。
最初に図2(a)に示すように、鋳型であるタンパク質の2次元結晶化を行う。タンパク質の2次元結晶化では、何らかの平面または膜を実現し、その表面または内部にタンパク質を2次元的に閉じ込める必要がある。この平面または膜を形成する手法として、変性させたタンパク質膜を用いる方法を使用することができる。変性タンパク質膜法では、タンパク質と空気の界面に、タンパク質がペプチド鎖にほどけてできたタンパク質の変性膜10が形成されることを利用する。変性タンパク質膜法は、(1)溶液中へのタンパク質の展開、(2)タンパク質の気液界面での変性、(3)変性膜への変性していないタンパク質の吸着、(4)2次元結晶化、のステップから成る。
タンパク質溶液は、密度、表面張力がタンパク質溶液より大きい展開層12に注入される。この展開層として、2〜10%グルコース溶液や塩溶液、もしくはこれらの混合溶液を用いることができる。さらに、タンパク質の2次元結晶をできやすくするため、タンパク質分子間に塩橋を作るための金属を展開層に加えてもよい。この金属として、カルシウム、マグネシウム、カドミウムなどを、1〜100mMの濃度で用いることができる。
展開層に注入されたタンパク質は、密度の差により表面に浮き上がり、最初に界面に達したタンパク質は変性してタンパク質変性膜10となり溶液表面を覆う。そしてこのタンパク質変性膜10に遅れて到達したタンパク質分子11が吸着し、気液界面での2次元結晶化が進む。
気液界面に張られたタンパク質変性膜10は、大気面が疎水性となり、液面は親水性となる。したがって、疎水性のシリコン基板14を2次元結晶が形成された気液界面へ接触させることで、図2(b)に示しようにシリコン基板14上へ2次元結晶を移し取ることができる。
次に、タンパク質の2次元結晶を鋳型として、分子インプリント法によりタンパク質認識構造体を作製する。分子インプリントに用いる機能性モノマー、架橋剤、溶媒や熱重合、光重合は前述の3次元結晶でのインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)の作製と同じなので省略する。
タンパク質認識構造体の作製方法は、基板上に写し取ったタンパク質の2次元結晶を鋳型として、スタンプの要領でポリマーに型をとる。これには、例えば、図2(c)に示すように、基板上に写し取ったタンパク質の2次元結晶に重合溶媒に溶かした機能性モノマー、架橋剤からなるプレポリマー溶液16をたらし、その上から基板をのせ重合を行う。2枚の基板にはさまれて、2次元結晶をインプリントした薄膜ポリマーが形成される。このとき、ポリマー側の基板は、ポリマーと結合可能な官能基で修飾していても良い。そのような官能基として例えばビニル基を挙げることができる。
重合後、図2(d)に示すように、2枚の基板をはがし、ポリマーが形成された基板を洗浄し、インプリントポリマー17から鋳型を除去する。
このようにして作製されたタンパク質認識構造体も、上記実施の形態1と同様に、高い認識特異性を有する。
(実施の形態3)
実施の形態3を図面に基づいて説明する。実施の形態3はタンパク質の3次元結晶を鋳型として用いてタンパク質認識構造体の微粒子を作製し、この微粒子を基板上に配置したタンパク質認識基板を作製する。
タンパク質の結晶化、重合溶媒、機能性モノマー、架橋剤、沈殿剤、重合促進剤、熱重合または紫外線照射による光重合、重合時間は上記実施の形態1と同様なので省略する。
フラスコにタンパク質結晶、機能性モノマー、架橋剤、重合溶媒を入れ、必要に応じて沈殿剤、重合開始剤、重合促進剤を加える。このとき合成されるインプリントポリマー(タンパク質認識構造体)をナノサイズの微粒子にするため、フラスコ内の溶液を攪拌しながら、熱重合または光重合でポリマー重合を行う。このときの攪拌速度は1分間に10〜500回転が望ましい。
合成されたタンパク質認識構造体微粒子から鋳型を除去する方法は、上記実施の形態1と同様であるので省略する。
次に、合成したタンパク質認識構造体微粒子を基板上に配置する。配置方法としては、微粒子の懸濁液を、基板上に滴下することで配置する。このとき、微粒子と基板とを結合させることが望ましい。結合方法としては物理的結合と、化学的結合を行うことができるが、ナノサイズの大きさのものであれば、物理的結合で十分強く結合するので、物理的結合が望ましい。
このとき、基板上の複数の位置に微粒子の懸濁溶液を滴下し、微粒子のスポットをアレイ状に配置することもできる。
また、図3に示すように、異なるタンパク質結晶を鋳型として作製したタンパク質認識構造体微粒子の懸濁溶液を、基板上の異なる位置に滴下することで、基板上の微粒子の各スポットは、それぞれ異なるタンパク質を認識することができる。図3(a)では、タンパク質Aの結晶を鋳型として作製したび粒子21の懸濁溶液を基板20上に滴下しスポット23を形成する。それとは異なる位置にタンパク質Bの結晶を鋳型として作製した微粒子22の懸濁溶液を基板上に滴下しスポット24を形成する。微粒子を基板に結合させされば、図3(b)に示すように1枚の基板上に、タンパク質Aを認識する部位25とタンパク質Bを認識する部位26が形成される。
(実施例1)
以下、実施例を用いて本発明を更に説明する。
実施例1では鋳型にタンパク質の3次元結晶を用いてタンパク質認識構造体を作製した。
結晶化は次のように行った。鋳型のタンパク質としてはリゾチームを用いた。
(タンパク質結晶の作製)
10mMHEPES緩衝液(pH7.4)3mlにリゾチームを120mg溶かした。この溶液に沈殿剤として塩化ナトリウムを1.2Mになるように加えた。この溶液を10mlバイアル瓶に入れ、密封し、25℃で静置した。2日後に結晶形成が見られた。1週間後に0.1〜0.2mmの大きさの結晶に成長した。
(プレポリマー溶液の調整)
機能性モノマーとしてのアクリル酸7μl及びアクリルアミド22mgと、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド154mgと、重合開始剤として2,2’−アゾビス{2−メチル‐N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}3.2mgと、沈殿剤としてのポリエチレングリコール(分子量3500)と、を1.8g、50mM HEPES緩衝液(pH7.4)6mlに溶かし、プレポリマー溶液とした。
(インプリント工程)
タンパク質が結晶化した後、上澄みを除き、上記プレポリマー溶液でタンパク質結晶を3回洗浄した。その後、プレポリマー溶液2mlをタンパク質結晶の入ったバイアル瓶に加え、5分間バイアル瓶の雰囲気ガスを窒素置換した後、密封し、4℃で紫外線照射を16時間行い、重合させた。
(洗浄・粉砕・選別)
重合したポリマーをガラスフィルターにとり、純水500ml、5%酢酸・メタノール混合液200ml、メタノール200ml、の順に洗浄し、未反応モノマーおよび鋳型を除去した。得られたポリマーを真空乾燥し、乳鉢で粉砕した。粉砕したポリマーを85μmのふるいにかけて、ふるいを通り抜けたポリマーを集め、さらに15μmのふるいにかけ、ふるいを通り抜けなかったポリマーを集め、タンパク質認識構造体とした。
このようにして作製したリゾチームを認識するタンパク質認識構造体を用いて、リゾチームとチトクロムcに対する結合実験を行った。上記で作製したタンパク質認識構造体10mgを10mlバイアル瓶にとり、50mM HEPES緩衝液(pH7.4)に溶かした30μMリゾチーム溶液、またはチトクロムc溶液を加え、密封し、ローターに設置し、25℃で20時間インキュベーションを行った。この後、上澄溶液のタンパク質濃度を測定し、最初に加えたタンパク質量から上澄中のタンパク質量を引くことで、タンパク質認識構造体に結合したタンパク質量を求めた。測定は3回おこなった。
タンパク質認識構造体1gあたりの平均結合量は、リゾチームが12μmolに対し、チトクロムcが6μmolであった。タンパク質認識構造体作製に用いたリゾチームが,チトクロムcより2倍多く結合しており、実施例1にかかるタンパク質認識構造体のリゾチームに対するきわめて高い認識特異性が示された。
(実施例2)
実施例2では鋳型にタンパク質の2次元結晶を用いてタンパク質認識構造体を作製した。
2次元結晶化は次のように行った。鋳型のタンパク質としてフェリチンを用いた。
(タンパク質二次元結晶の作製)
5%グルコースと、150mM塩化ナトリウムと、10mM硫酸カドミウムと、をとかした20mMリン酸緩衝液(pH5.8)5mlを、テフロン(登録商標)製の容器に入れ展開層とした。20mMリン酸緩衝液(pH5.8)1mlにフェリチン1.3mgを溶かしフェリチン溶液とした。このフェリチン溶液2μlを展開層に注入した。10分後に2次元結晶が形成された。シリコン基板を2次元結晶が形成された気液界面へ接触させ、シリコン基板上に2次元結晶を移し取った。
(プレポリマー溶液の調整)
機能性モノマーとしてのアクリル酸7μl及びアクリルアミド22mgと、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド154mgと、重合開始剤としての2,2’−アゾビス{2−メチル‐N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}3.2mgと、を50mM HEPES緩衝液(pH7.4)6mlに溶かし、プレポリマー溶液とした。
(支持基板の作製)
ポリマーの支持基板として、ガラス基板に金がコートされた基板(ビアコア社製、表面プラズモン共鳴測定装置(SPR)用センサーチップ)を、ビニル基を持つ分子で修飾した。ビニル基を持つ分子として、N,N’−ビス(アクリロイル)シスタミン7mgをメタノール10mlに溶かした。その溶液にSPRセンサーチップを30分間浸漬することで、金膜上にN,N’−ビス(アクリロイル)シスタミンの自己組織化単分子層膜を形成させた。
(インプリント工程)
ガラス基板に移し取った2次元結晶上に上記プレポリマー溶液を50μlたらした。その上から、上記ビニル基修飾センサーチップをのせ、4℃で2時間紫外線照射を行い重合反応をおこなった。
(洗浄)
基板をはがした後、水、1M塩化ナトリウム溶液に順次浸漬し、未反応のモノマー、鋳型を除いた。最後に水で洗浄し、自然乾燥させた。
このようにして作製したリゾチームを認識するタンパク質認識構造体の薄膜を用いて、フェリチンとチトクロムcに対する結合実験を行った。結合実験は、SPR(ビアコア社製)を用いて行った。
タンパク質濃度50nM〜10μMまで変化させ、流速20μl/minで2分間、タンパク質溶液とタンパク質認識構造体を結合反応させた。結果を図4に示す。図4から、鋳型であるフェリチンがチトクロムcより極めて多く結合していることがわかる。よって、実施例2にかかるタンパク質認識構造体のフェリチンに対するきわめて高い認識特異性が示された。
(実施例3)
実施例3ではタンパク質の3次元結晶を鋳型として作製したタンパク質認識構造体の微粒子を、基板上にアレイ状に配置したタンパク質認識構造基板を作製した。
鋳型のタンパク質としてリゾチームおよびチトクロムcを用いた。
リゾチームの結晶化は実施例1と同様なので省略する。
(チトクロムcの結晶化)
チトクロムcの結晶化は次のように行った。10mM リン酸緩衝液(pH6.5)3mlにチトクロムcを120mg溶かした。この溶液に沈殿剤として硫酸アンモニウムを40飽和%になるように加えた。この溶液を10mlバイアル瓶に入れ、密封し、25℃で静置した。2日後に結晶形成が見られた。1週間後に0.1〜0.2mmの大きさの結晶に成長した。
(プレポリマー溶液の調整)
機能性モノマーとしてのメタクリル酸100μlと、補助モノマーとしてのアクリルアミド100mgと、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート550μlと、沈殿剤としてのポリエチレングリコール(分子量3500)を1.8gと、を50mM HEPES緩衝液(pH7.4)30mlに溶かし、プレポリマー溶液とした。
(タンパク質結晶の微結晶化)
次に、リゾチーム、チトクロムcの結晶溶液の上澄を除き、プレポリマー溶液で結晶を3回洗浄した。
次に、リゾチーム結晶を1.5mlサンプリングチューブにとり、マイクロチューブホモジナイザーで結晶を破砕し、微結晶にした。チトクロムc結晶も、同様にして微結晶にした。
(攪拌インプリント工程)
次に、セパラブルフラスコにプレポリマー溶液と上記リゾチーム微結晶を入れ、窒素置換を5分間おこなった。作製されるタンパク質認識構造体をナノサイズの微粒子とするため、メカニカルスターラーで1分間に120回転の速度で攪拌しながら、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド34mgを蒸留水1mlに溶かしたものを加えた。引き続き攪拌をしながら、4℃で紫外線照射を16時間行い重合させた。
チトクロムc結晶についても同様に重合した。
(洗浄)
重合反応後、遠心分離をおこない形成したタンパク質認識構造体微粒子を沈殿させ、上澄を除き、1M塩化ナトリウム溶液を加えて懸濁する洗浄を3回おこない、未反応モノマーおよび鋳型であるタンパク質を除去した。
得られた微粒子は、50mM HEPES緩衝液(pH7.4)に懸濁し保存した。
(配置工程)
タンパク質認識構造体微粒子を配置する基板としてカラス基板に金膜がコートされているSPR用のセンサーチップ(ビアコア社製)を用いた。
このセンサーチップは、フローセル1〜フローセル4までの4本のフローセルを持っており、それぞれ異なる溶液を流すことができる。ここで、フローセル1にはリゾチーム結晶を鋳型としたタンパク質認識構造体微粒子懸濁液を、フローセル2にはチトクロムc結晶を鋳型としたタンパク質認識構造体微粒子懸濁液を添加し、微粒子をセンサーチップに物理的に結合させた。これにより、1枚の基板上に、2種の異なるタンパク質の3次元結晶を鋳型とするタンパク質認識構造体微粒子がアレイに配置されたタンパク質認識構造体を作製した。
このようにして作製したタンパク質認識基板を用いて、リゾチームとチトクロムcに対する結合実験を行った。結合実験は、SPR(ビアコア社製)を用いて行った。
タンパク質濃度50nM〜10μMまで変化させ、流速20μl/minで2分間、フローセル1とフローセル2に対してリゾチーム溶液とチトクロムc溶液を添加した。タンパク質添加後、1M塩化ナトリウム溶液を2分間添加し、結合したタンパク質を除いた。結果を図5に示す。
図5から、リゾチーム結晶を鋳型としたタンパク質認識構造体微粒子を固定化しているフローセル1ではリゾチームの結合量が極めて多く、チトクロムc結晶を鋳型としたタンパク質認識構造体微粒子を固定化しているフローセル2ではチトクロムcの結合量が極めて多いことがわかる。よって、鋳型として用いたタンパク質に対する極めて高い認識特異性が示された。
以上に説明したように、本発明によると、特定のタンパク質に対する認識能力に優れたタンパク質認識構造体を、安価に提供することができる。よって、産業上の意義は大きい。
本発明のタンパク質認識構造体の製造方法の一例を示す図である。 本発明のタンパク質認識構造体の製造方法の一例を示す図である。 本発明のタンパク質認識基板の製造方法の一例を示す図である。 実施例2のタンパク質認識構造体を用いたタンパク質の結合量を示す図である。 実施例3のタンパク質認識構造体を用いたタンパク質の結合量を示す図である。
符号の説明
1 結晶化溶液
2 タンパク質結晶
3 プレポリマー溶液
10 タンパク質変性膜
11 タンパク質分子
12 展開層
13 容器
14 シリコン基板
15 SPR用センサーチップ
16 プレポリマー溶液
17 タンパク質認識構造体
20 基板
21 微粒子A
22 微粒子B
23 スポットA
24 スポットB
25 タンパク質Aを認識する部位
26 タンパク質Bを認識する部位

Claims (10)

  1. タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体。
  2. タンパク質結晶の表面形状およびタンパク質結晶表面に配位した特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体が、基板上にアレイ状に配置されたタンパク質認識基板。
  3. タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を分子インプリントしてなるタンパク質認識構造体が複数基板上に配置されたタンパク質認識基板であって、前記複数のタンパク質認識構造体のそれぞれが、異なるタンパク質を認識する構造体であることを特徴とするタンパク質認識基板。
  4. 前記複数のタンパク質認識構造体が、同種のタンパク質認識構造体ごとに、前記基板上にアレイ状に配置されている、
    ことを特徴とする請求項3に記載のタンパク質認識基板。
  5. タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態でプレポリマーを重合させることにより、タンパク質結晶の表面形状および前記結晶表面に配位したタンパク質の特異的官能基部位を、前記プレポリマーが重合してなるポリマーに分子インプリントするタンパク質認識構造体の製造方法。
  6. 前記タンパク質結晶が、タンパク質の3次元結晶である
    ことを特徴とする請求項5記載のタンパク質認識構造体の製造方法。
  7. 前記タンパク質結晶が、タンパク質の2次元結晶である
    ことを特徴とする請求項5記載のタンパク質認識構造体の製造方法。
  8. タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態で重合させることにより、タンパク質結晶表面の形状および前記結晶表面に配位した特異的官能基部位を、前記プレポリマーが重合してなるポリマーに分子インプリントするインプリント工程と、
    前記分子インプリントされたポリマーの塊を粉砕し、微粒子状のタンパク質認識構造体となす粉砕工程と、
    前記微粒子状のタンパク質認識構造体を基板上にアレイ状に配置する配置工程と、
    を備えるタンパク質認識基板の製造方法。
  9. タンパク質結晶の表面にプレポリマーを接触させた状態でプレポリマーを攪拌しつつ重合させ、直径1000nm以下の微粒子状のタンパク質認識構造体を作製する攪拌インプリント工程と、
    前記微粒子状のタンパク質認識構造体を基板上にアレイ状に配置する配置工程と、
    を備えるタンパク質認識基板の製造方法。
  10. 前記配置工程は、種類の異なるタンパク質結晶を用いて作製された複数種類のタンパク質認識構造体を、同種のタンパク質認識構造体ごとに、基板上に規則的に配列する工程である、
    ことを特徴とする請求項8または9に記載のタンパク質認識基板の製造方法。

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