JP4515131B2 - 多層構造配線のem損傷による原子濃度分布評価システム - Google Patents

多層構造配線のem損傷による原子濃度分布評価システム Download PDF

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Description

本発明は、ビア導体(Via:ビア)を介した多層構造配線のエレクトロマイグレーション(EM)による断線の予測に関するものである。
従来、電子デバイス配線の寿命予測は、経験式を用いて行われていたが、この式を用いるにあたり、式中の配線形状に依存した定数を決定する必要があった。このため、普遍的な予測ができず、煩雑であった。また、式中の定数を決定するために行う通電実験の実験条件の設定により、予測結果が異なってしまい、一般に精度がいいとは言えなかった。これまでに、発明者らによって、断線故障の主要因であるエレクトロマイグレーション(EM)損傷の支配パラメータが理論的に定式化され、これを用いた高精度で普遍的な断線予測手法が開発されている(特許文献1参照)。しかしながら、この手法は、表面に保護膜のない配線を対象としていた。実用の配線は、一般に保護膜で被覆されており、この場合、EMによる配線内の原子濃度(応力)勾配が発生し、これに起因した原子拡散がEMによる原子拡散を打ち消すように作用するため、一般に配線寿命が長くなると言われている。最近、これらを考慮した保護膜を有する配線のためのEM損傷支配パラメータが特定され、断線故障に関する信頼性評価手法が開発された(特許文献2参照)。
昨今の半導体デバイスの微細高集積化に伴い、ビア導体(ビア)と呼ばれる端子で接続された多層構造の回路が形成されるようになっており、このような構造を呈する配線に対する高精度信頼性評価の手法の開発が待望されている。
特開2000−306969号公報 特開2002−43316号公報
電子デバイス配線に保護膜被覆が存在し、その両端がビア端子で接続されている場合、これ以上の電流密度を作用させたらEMによる配線損傷が生じるという「しきい電流密度」が存在することが知られている。同配線の損傷支配パラメータを理論的に定式化し、さらに、このパラメータを用いるにあたり、必要となる物性定数の決定法を開発するとともに、同パラメータを用いた、計算機システムで行なう数値シミュレーション手法によるしきい電流密度の評価システムを提供するものである。
上記目的を達成するために、本発明は、多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布システムであって、2次元FEM解析による前記多層構造配線の各要素の電流密度分布、温度分布を計算するFEM解析手段と、予め得た配線薄膜特性の定数と、前記FEM解析手段から得た電流密度分布、温度分布により、バンブー配線の原子流束発散AFD liを計算するAFD li計算手段と、前記各要素の原子数の変化を、前記AFD liの値をもとに計算することで、実時間で割り当てられた時間増分における前記各要素中の原子濃度Nを計算する原子濃度変化計算手段と、前記AFD li計算と、原子濃度変化計算とを、いずれかの要素において原子濃度Nの値が臨界原子濃度になるまで、あるいは、Nの値が臨界原子濃度に達することなく原子濃度分布が定常状態を維持するまで実行させる反復手段とを備え
前記AFD li は、
であり、AFD *’ li は、
J:原子流束ベクトル,N:原子濃度,k:ボルツマン定数,T:絶対温度,Q:原子拡散の活性化エネルギ,κ:保護膜拘束下の濃度変化と応力変化との間の係数,Ω:原子体積,σ :引張りの熱応力,N :σ が作用したときの原子濃度,N :無応力状態における原子濃度,Z :有効電荷数,e:単位電荷,ρ:抵抗率
であることを特徴とする。
前記予め得た配線薄膜特性の定数は、AFD liによる理論的な配線端ドリフト速度と複数の電流密度と基板温度の組の実験による計測値、最小2乗法により最適化パラメータとして決定することが望ましい。
また、上述の多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布評価システムの機能をコンピュータシステムに実現させることを特徴とするプログラムも本発明である。

本評価システムを使用することにより、実際の配線構造により即した、保護膜被覆を有するビア接続配線を対象とした「しきい電流密度」の評価、ひいては同配線の高精度な信頼性評価が可能となる。また、保護膜を有する配線のためのEM損傷支配パラメータに含まれる物性定数の決定法を用いることにより、配線内部の熱応力の評価および保護膜と配線の相互作用による拡散係数(活性化エネルギ)の評価が可能となり、さらに、集積回路を設計する上での配線各々の形状を考慮した許容電流密度を与えることが可能となる。本評価システムを適用できる形状は、直線形状に限らず、曲がったものやテーパのついたものなども含まれる。
電子デバイス配線に保護膜被覆が存在し、その両端がビア端子で接続されている場合、これ以上の電流密度を作用させたらエレクトロマイグレーション(EM)による配線損傷が生じるという「しきい電流密度」が存在することが知られている。このような配線の損傷支配パラメータを理論的に定式化し、さらに、パラメータを用いるにあたり必要となる物性定数の決定手法を開発するとともに、同パラメータを用いた数値シミュレーションによるしきい電流密度評価システムを以下に説明する。
<保護膜で被覆されたバンブー配線中の損傷支配パラメータ>
まず、保護膜で被覆されたバンブー配線中の損傷支配パラメータについて説明する。定式化は、被覆していない金属配線に対するパラメータADFli(特許文献1参照)に基づいて行われる。保護膜で被覆されたバンブー配線中の原子流束発散ADF liは、被覆されていない配線のEM損傷に対する支配パラメータADFliに原子濃度勾配の影響を付加することで定式化される。
ところで、ビア接続された配線のカソード端は、EMの結果により電子流の方向に移動(ドリフト)することが知られている。バンブー配線の場合のドリフト(移動)速度は、原子拡散に関する配線端における境界条件(配線端での原子の流入及び流出)を考慮することで、理論的に表現できる。ここで表現されたドリフト速度はADF liを含んでいる。薄膜の特性定数は、ドリフト速度を計測することで決定される。ドリフト速度計測のための実験には、ビア接続を模擬した試験用配線を用いる。AFD liによる理論的なドリフト速度と実験によるものとを等しいと置くことにより、ADF li内の薄膜の特性定数が得られる。
(原子流束発散ADF li
保護膜で被覆されたバンブー配線に対する原子流束発散ADF liが、ここで定式化される。保護膜で被覆されたバンブー配線中の原子の移動は、下記のように与えられると仮定する。
ここで、J:原子流束ベクトル,N:原子濃度,D:振動数項,k:ボルツマン定数,T:絶対温度,Q:原子拡散の活性化エネルギ,κ:保護膜拘束下の濃度変化と応力変化との間の係数,Ω:原子体積,σ:引張りの熱応力,N:σが作用したときの原子濃度,N:無応力状態における原子濃度,Z:有効電荷数,e:単位電荷,ρ:抵抗率,j:電流密度ベクトルの原子流束ベクトルJ方向成分,∂N/∂l:原子濃度勾配の原子流束ベクトルJ方向成分である。
この式では、応力勾配による原子の逆流及びEMにより金属配線中に生じた応力の影響が考慮されている。これはまた、バンブー配線中では、結晶粒界での原子発散は無視することができ、EMによる界面拡散を含む格子拡散が支配的であることを仮定している。この仮定の背景には、結晶粒界は少なく、存在したとしても、それらは配線の長さ方向に対して垂直であることがある。被覆されていないバンブー配線においては、結晶粒界の質量移動に対する所謂ブロッキング効果が存在し、EM誘発のボイドは、結晶内ではなく、結晶粒界のみで形成され、成長することが報告されている。
結晶粒界がバンブー配線でのEM損傷の形成にかなり寄与しているとすれば、ボイドは結晶粒界に沿ってスリット状となって現れるはずである。電流負荷後における保護膜被覆したAl/TiN配線の平面図と断面図(図示せず)からは、カソード端でのドリフトによるEM損傷だけが見つかり、スリット状ボイドはどこにも見つからなかった。従って、結晶粒界はEM損傷の形成にほとんど寄与していないと考えられるので、ここでは、結晶粒界は存在しないものとみなす。式(1)に基づき、バンブー配線のEMによる原子流束発散AFD liは、

で与えられる。ここで、C li=D/kであり、AFD*’ liは、結晶内および、配線とその周辺の境界面における原子流束の発散量を表している。ボイド形成に寄与する原子流束発散量に着目することとし、AFD*’ liの正値のみの期待値を求めると、以下のようにパラメータAFD liが定義される。
もしある場所でAFD*’ liが負値をとる場合には、そこではボイド形成への寄与はないため、AFD liをゼロとして扱う。パラメータAFD liは、単位体積および単位時間当りに減少する原子数を表す。
(ドリフト速度の式)
ICに使用する金属配線はビア接続されることが多く、多層配線の構造となっている。このような配線では、カソード端とアノード端それぞれでは原子の出入りがない。これは、大電流入力パッド/出力パッド等の原子貯蔵部が金属配線に接続されていないからである。その結果、配線のカソード端では電子流への方向にドリフトが発生する。図1は、配線10のカソード端で発生するドリフトの概略図である。図1で、Δxは、ドリフト長lから得られる微小長を示すもので、これは大きな数:mで等分して得られたものである。原子流がx軸に沿って非線形に変化すると、x=lでの原子流束J|x=lは、近似的に、
として表される。ここで、Jは、x=nΔx(n=1,2,…,m)における原子流束であり、Jは、配線端での原子流束を示している。lは、配線長と比べて量的に非常に小さいため、dJn−1/dxは、ドリフト領域内で一定(=dJ/dx)とみなすことができる。この場合、式4は、以下のように簡略化できる。
シンボルAFD listrは、簡略化したAFD liを示しており、そこでは、直線状の配線端を考慮し、電流密度、温度勾配、原子濃度、および原子濃度勾配のy成分は無視できる。なお、ドリフト体積は、原子流束がJ|x=ldでx=l断面を通過して消滅したはずである。従って、配線幅w、配線厚thick、原子体積Ω、およびドリフト領域の体積の消滅時間tを式(5)に乗ずることで、ドリフト領域の体積、即ち、l・w・thickを表すことができる。その結果、配線端のドリフト速度v(=l/t)は、以下の式で与えられる。
(ドリフト測定による薄膜特性定数の決定方法)
式AFD liに含まれる薄膜特性定数は、Q li,Z,C liおよびκ・∂N/∂xである。ここでは、直線状の配線を想定して、これらの特性を決める方法を導く。ブレック(Blech)によれば、原子濃度勾配は配線長に依存し、その長さに反比例する。EM損傷の初期段階では、原子濃度分布は、配線に沿って線形とみなされる。積κ・∂N/∂xは、直線配線の長さに依存する特性として与えられる。
薄膜特性Q li[=Qli−σΩ],Z,C liおよびκ・∂N/∂xは、以下のように、直線配線のカソード端におけるドリフト現象を利用し、一定の期間、加速試験を行って、実験的に決める。この実験は、3つの異なる基板温度Ts1,Ts2,Ts3のもとで、配線に電流密度jを入力する。さらに、jとは異なる電流密度jにおいても温度Ts2で加速試験を行う。各実験条件をそれぞれ、条件−1:jとTs1、条件−2:jとTs2、条件−3:jとTs3、条件−4:jとTs2とする。そして、各試験条件における配線のカソード端の温度をそれぞれT,T,T,Tとする。これらの温度値を得るため、熱伝導電気問題のFEM解析を行う。配線端のドリフト長は、一定の期間、電流の負荷を与えた後に測定する。ドリフト速度vの値は、上記の4種類の試験条件下で実験的に得る。未知の薄膜特性定数は、最小2乗法を使用して得ることができる。即ち、次の差の総和が最小値となるように特性値を決める。
ここで、添え字iとjはそれぞれ、条件の番号と各試験条件で測定したデータ数を示している。これにより、薄膜特性値を、ドリフト速度の測定で得られた全実験データを近似する最適化パラメータとして決定することができる。
<実験による確認>
実験に使用した金属配線は、以下のように製造した。シリコン酸化膜で被覆されたシリコン基板上にスパッタリング装置でTiN層を成膜し、これに続いて、真空蒸着によりTiN上にAl薄膜を蒸着した。試料には、通常のフォトリソグラフィによりパターンが形成され、RIE技術でエッチングした。Alの試験配線両端の微小部分を化学的にエッチングし、そこでのみTiN部分を露出した。金属配線の構築後、バンブー構造を形成するため、試料を673Kで90分間アニール処理した。次に、試料表面にPE−CVDによりTEOS膜を蒸着した。このTEOS膜の厚さは1.0μmであった。上記のように形成した金属配線の外形寸法を図2に示す。図2(a)は平面図,図2(b)は断面図である。FIB装置とFE−SEMによるミクロ組織の観察から、配線幅と配線厚の両方向に1つだけ結晶粒があるため、使用した金属配線はバンブー状の構造であることが確認された。断面画像は、FIBを使用して、金属配線をその縦軸に沿って切断した後にFE−SEMによって得た。
実験では、端部のドリフトやボイド形成が始まるまでの潜伏期間を得るため、配線における電圧降下の変化を観測した。3つの異なる基板温度508,523,538Kを選択した。各温度において、金属配線に4.5MA/cmの密度の直流電流を与える(条件−1,−2,−3)。さらに、基板温度が523K、4.8MA/cmの電流密度のもとで試験を行った(条件−4)。各試験条件で10個の試料を使用した。電流供給の前後で、図3に示すように、レーザー顕微鏡で金属配線のカソード端を観察した。図3(a),(b)に示すように、電流負荷の前後で、電流出力パッドからカソードエッジまでの距離を測定し、減算をしてドリフト長を得た。正味の電流供給時間で除したドリフト長より、ドリフト速度を得た。正味の電流供給時間は、電流供給時間から潜伏期間を減算して得た。
ドリフト速度の実験データを式(7)に代入し、最小2乗法を使用して未知の薄膜特性値を最適化した。得られた定数を表1に掲載する。
得られたQ liの値は0.75eVであり、バルク拡散について以前報告されている値1.4eVよりも幾分小さかった。
図2(b)に示すように、実験で使用したAl配線160は、TEOS(SiO)170およびTiN層150で囲んだ。EMによる原子拡散は、AlとSiOのような絶縁体との境界面では発生しないことが知られている。これは、AlがSiOに反応してAlの酸化被膜を形成するため、Al/SiO境界面での原子発散が中断するからである。Alと自然酸化薄膜との境界面での原子拡散の中断も報告されている。もしも、Al/TEOS(SiO)境界面におけるEMがボイド形成にかなり寄与しているならば、この境界面に沿ってボイドが形成されるはずである。しかし、観察では、そのようなボイドが形成されなかったことを物語っている。FIB装置を使用して配線の縦軸に沿って金属配線を切断した後、FE−SEMを使って、ドリフトした配線の断面を斜めから観察した。その結果、Al/TEOSの境界面における原子拡散の可能性を排除できた。
一方、AlとTiN間の境界面が、TiN層上でのバンブーAl配線の拡散メカニズムに寄与しているとの報告がある。さらには、Al/他の金属基層(Ti,Cr,W等)界面が拡散に寄与するとの報告もある。もしも、Al/TiN境界面における原子拡散が、バンブー配線でのEMによる損傷に寄与しているとした場合、Al/TiN境界面にEMに誘発されたボイドが現れるはずであり、この境界面に沿ってスリット状のボイドが形成されるはずである。ドリフトした領域の拡大観察像には、Al/TiN境界面に形成された短いスリット状ボイドが認められた。従って、Al/TiN境界面での原子拡散は、いくらかボイド形成に寄与したものと考えられる。
なお、バンブー配線における原子拡散経路は、いくつかの文献で議論中の問題であり、ある研究者は、主たる拡散経路は格子であると報告し、ある研究者は、境界面の拡散が主要なメカニズムであると主張している。バンブー配線における拡散経路は、材料システム(配線とその周辺との組み合わせ)、配線そのものの材料、あるいは製造条件に依存するといえる。従って、どのメカニズムが支配的であるとか、あるいは除外されると結論づけることは適当ではなく、バンブー配線では、両方のメカニズムが作用していると予想される。
バンブー配線では、いずれかのメカニズムが優勢であると考えられるが、2つの拡散メカニズム(格子内での原子拡散と界面での原子拡散)を考慮すべきである、。バンブー配線におけるEM損傷には、界面拡散を含む格子拡散が寄与しており、それが、Q li値がバルク拡散の活性化エネルギー1.4eVよりも低かったことの原因であろう。発明者の知る限りでは、Al/TiN界面のみにおける真の活性化エネルギーが測定されたことはない。しかし、ここと同様の材料システム(Al/TiN配線)を扱っている文献によれば、これらの値は、おそらく界面活性化エネルギーと格子活性化エネルギーの両方を反映している活性化エネルギーとして0.5〜0.95eVという値が得られており、ここで得たQ liの値0.75eVは、報告された値の範囲内であった。
他方、得られたZ値は−1.2であり、以前に報告された値である−1〜−15の範囲内にある。なお、関数G li|endは、式(6)の両辺の対数をとることで定義され、
で与えられる。ここで、a=length・Ω/(2N)であり、lengthは配線長である。得られた薄膜特性値と測定したドリフト速度をG li|endに代入して、その結果を、図4に示すように、1/Tに対してプロットした。データは、直線上に配列した。直線相関の傾斜は、−(Q li−a・κ・∂N/∂x)/Kを意味している。従って、最小2乗法が有効に働き、全実験データが適切に近似されたことがわかる。従って、薄膜特性定数が、AFD liで表されるドリフト速度を使用して正確に決定されたと結論できる。
<しきい電流密度の評価>
ここでは、EM損傷の支配パラメータAFD liを使用して、保護層で被覆されたバンブー配線についてしきい電流密度jthを評価する方法を説明する。ビア接続配線を模擬したパッドなし配線を想定して、原子濃度分布の生成プロセスの数値シミュレーションを行う。この数値シミュレーションの評価結果と実験結果を比較して、しきい電流密度の評価方法が有用であることを示す。しきい電流密度の評価方法が、支配パラメータAFD liに基づいてうまく構築されたものであるという事実は、同時にAFD liの適切さを示すものである。
(電流入出力パッドのない配線でのしきい電流密度評価)
しきい電流密度を評価する数値シミュレーションは、支配パラメータAFD liを使用して行う。仮定した配線を、図5に示すような要素に分割して、原子濃度分布生成プロセスのシミュレーションを行う。試験配線部分の両端は、他の配線部分の要素よりも細かい要素で分割される。微小要素の配線長さ方向の大きさは、図5に示すようにΔlである。各要素の原子濃度を支配パラメータ値に基づいて変えて、原子濃度分布生成プロセスの数値シミュレーションを行う。要素の大きさが微細なほど、シミュレーションが正確になるため、実際の現象を表わすことができる。使用する要素は、シミュレーションの結果が収束するために十分に細かくなければならない。
図6に、原子濃度分布生成プロセスの計算手順を示す。最初に2次元FEM解析によって、配線の電流密度分布と温度分布を得る(S204)。FEM解析の結果と、前に説明したAFD liに基づく方法で得た薄膜特性定数(205)とを利用して、各要素の原子流束発散AFD liを求める。実時間で割り当てられた時間増分における各要素中の原子の減少量あるいは増加量を計算することにより原子濃度Nを求める(S208)。原子濃度の変化は、端部の要素についてはJend+AFD listr・Δlの値をもとに計算し、他の要素についてはAFD liの値をもとに計算する(S206)。そして、各要素における原子濃度Nを計算し、このNの分布に基づいて、原子濃度勾配を計算する。図6のフローチャートに示すように、これらの計算を、繰り返し実行する(S210)。
なお、ボイド形成に対する臨界原子濃度Nminと、ヒロック形成に対する臨界原子濃度Nmaxとがあると想定できる。これらの値と、原子濃度の変化と応力の変化とを関連づける定数κは、原子濃度分布の生成プロセスの数値シミュレーションを実行するために必要である。これらは、以下のようにして決めた。定数κの推定値を用い、図6に示す反復計算を、実験で測定した潜伏期間の間実行する。シミュレーション後に配線における原子濃度勾配∂N/∂xが与えられる。シミュレーションによる∂N/∂xの値と推定したκとの積が、薄膜特性として実験で得たκ・∂N/∂xの値と一致するようにκの値を決める。そして、得られた値を用い、再度原子濃度分布生成プロセスに関するシミュレーションを実行後、全要素での原子濃度値Nを得る。全要素での原子濃度の最小値をNminとし、最大値をNmaxとする。
得られた値κ,Nmin,Nmaxを本数値シミュレーションに用い、予想対象配線にある仮定した入力電流密度が作用した場合の原子濃度分布生成プロセスをシミュレートする。いずれかの要素においてNの値が臨界原子濃度になるまで、あるいは、Nの値が臨界原子濃度に達することなく原子濃度分布が定常状態を維持するまで(S210)、図6に示す反復計算を行う。前者の場合、シミュレーションで仮定した入力電流密度jは、jthよりも大きいと判定され、後者の場合jthよりも小さいと判定される。よって、何種類かの電流密度によるシミュレーションにより、しきい電流密度を得ることができる。
(評価結果)
ここでは、図2に示す金属配線でのしきい電流密度を評価する。基板温度を523Kとする。κ,Nmin,Nmaxの値は、前に説明した方法で定めた。シミュレーションで得たκ・∂N/∂xの値が表1に示す実験値と一致するようにκの値を決めた。このようにして、κ=50.6,GPa,Nmin=5.99×1010μm−3,Nmax=6.07×1010μm−3が得られた。
図7は、j=1.0MA/cmの場合における、配線での原子濃度分布の時間変化である。横軸は、配線の中央からの距離を示す。図7(a)〜(e)に示すように、原子濃度分布は時間とともに徐々に発達し、最終的には、定常状態分布となる。従って、しきいjth以下の入力電流密度では、このように原子濃度分布は定常状態となる。
図8は、入力電流密度jに対する定常状態における、Nで正規化したNの最小値すなわち、シミュレーション後における全要素中の原子濃度Nの最小値を示している。Nの定常最小値は、実線で示すように電流密度が増すにつれてNminに近づくことが分かる。その結果、しきい電流密度は、実線と、破線で示すNmin/Nの値との交点から3.62MA/cmと評価された。
(実験による検証)
評価結果を検証するため、同じ配線形状(図2参照)についてしきい電流密度を実験的に得た。実験に使用した金属配線は、以下のようにして製造した。酸化シリコンで絶縁保護されたシリコン基板上にスパッタリング装置でTiNの薄膜を成膜し、続いて、そのTiN層の上に真空蒸着によりAl薄膜を蒸着した。実際のICでは、TiNといった高融点金属をビア接続されたAl配線の下に敷くことが多い。金属配線は、配線に形成されたボイド周辺の電流をバイパスする下層によって、電気的に不連続となることを回避できる。Al蒸着の後、フォトリソグラフィにより試料にパターンを形成し、RIE技術でエッチングした。Alの配線両端の微小部分を化学的にエッチングし、そこのTiN層を露出させた。金属配線の形成後、バンブー構造を形成するために、試料を673Kで90分間アニール処理した。次に、試料の表面にPE−CVDによりTEOS膜を蒸着した。図2に、形成された配線の寸法を示す。上述した配線構造は、ドリフト速度あるいはしきい電流密度の測定に研究者がしばしば使用するものである。
加速試験では、基板温度が523Kで、密度が4.2,4.5,4.8MA/cmの3種類の直流電流を金属配線に与えた。試験条件として、一般的な動作条件に対して高電流密度で高基板温度を選ぶことで、検証実験に要する時間を減らした。電流供給後、まえに説明した方法でドリフト速度を得た。図9は、供給電流密度に対するドリフト速度についての実験結果を示している。実験データを線形外挿することで横軸を横切るしきい電流密度3.84±0.14MA/cmが得られた。
しきい電流密度について、評価値と実験値の良好な一致が得られた。このように一旦、薄膜特性値が与えられれば、AFD liに基づく数値シミュレーションによってしきい電流密度の評価が可能となるということが明らかになった。数値シミュレーションでは、任意の動作温度で、どのような形状の金属配線のしきい電流密度をも評価することができる。しきい電流密度の評価方法にAFD liをうまく適用できたという事実から、支配パラメータAFD liも有効であったと結論づけることができる。
なお、ここでは、実際のビア接続された配線に代えて、電流入出力パッドに直接接続されていない金属配線を扱った。ここで提案した、パッドのない配線のしきい電流密度の評価方法は、実際にビア接続された配線にも適用可能である。
金属配線のカソード端における原子流を説明する図である。 対象である金属配線を示す図である。 電流供給前後の、配線端において観察した写真を示す図である。 実験値の近似値を示す図である。 要素に分割した金属配線とその拡大図を示す図である。 評価システムの処理を示すフローチャートである。 j=1.0MA/cmの場合における原子濃度分布の時間変化を示すための図である。 しきい電流密度の評価結果を示すグラフである。 しきい電流密度を得る実験の結果を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布評価システムであって、
    2次元FEM解析による前記多層構造配線の各要素の電流密度分布、温度分布を計算するFEM解析手段と、
    予め得た配線薄膜特性の定数と、前記FEM解析手段から得た電流密度分布、温度分布により、バンブー配線の原子流束発散AFD liを計算するAFD li計算手段と、
    前記各要素の原子数の変化を、前記AFD liの値をもとに計算することで、実時間で割り当てられた時間増分における前記各要素中の原子濃度Nを計算する原子濃度変化計算手段と、
    前記AFD li計算と、原子濃度変化計算とを、いずれかの要素において原子濃度Nの値が臨界原子濃度になるまで、あるいは、Nの値が臨界原子濃度に達することなく原子濃度分布が定常状態を維持するまで実行させる反復手段とを備え
    前記AFD li は、
    であり、AFD *’ li は、
    J:原子流束ベクトル,N:原子濃度,k:ボルツマン定数,T:絶対温度,Q:原子拡散の活性化エネルギ,κ:保護膜拘束下の濃度変化と応力変化との間の係数,Ω:原子体積,σ :引張りの熱応力,N :σ が作用したときの原子濃度,N :無応力状態における原子濃度,Z :有効電荷数,e:単位電荷,ρ:抵抗率,
    であることを特徴とする多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布評価システム。
  2. 前記予め得た配線薄膜特性の定数は、AFD liによる理論的な配線端ドリフト速度と複数の電流密度と基板温度の組の実験による計測値とを、最小2乗法により最適化パラメータとして決定することを特徴とする、請求項1に記載の多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布評価システム。
  3. 請求項1又は2に記載の多層構造配線のEM損傷による原子濃度分布評価システムの機能をコンピュータシステムに実現させることを特徴とするプログラム。
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