JP4512787B2 - アルカリキトサンハイドロゲル、キトサン及びキチン糸の製造方法 - Google Patents
アルカリキトサンハイドロゲル、キトサン及びキチン糸の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルカリキトサンハイドロゲル、キトサン、部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カニの甲殻等に含まれるαキチン、イカの軟甲等に含まれるβキチン、キチンをキトサンに変換する方法、キチン又はキトサンの生体活性等を利用する繊維、紙、医療材料、健康食品補助剤等の応用製品の研究開発が行われている。特に近年は環境上の理由からカニやエビ殻、イカの軟甲等の水産廃棄物の無公害処理及び有効活用に対する要請が強い。
【0003】
従来よりカニの甲殻やイカの軟甲等に含まれるキチンを40〜45wt%の水酸化ナトリウム溶液中で90〜120°Cで4〜9時間処理することによりアルカリキトサンハイドロゲルを得る方法が知られている(非特許文献1、2参照)。
また、アルカリキトサンハイドロゲルをその後塩酸で中和してキトサンを得ることが知られている。
【0004】
しかし上記方法においては高濃度のアルカリ溶液を反応後中和するため高アルカリ廃液の処理等に関する環境上の問題を生じる場合があり、さらに高濃度アルカリに対する中和等の処理を要するため、エネルギーコスト、装置コスト等が大きいという問題があった。又製造過程が高温高アルカリのため大気中の二酸化炭素による中和でキトサンの低分子化が生じやすいという問題もあった。
【0005】
一方、アルカリキチンの部分N−脱アセチル化反応、すなわち、アルカリキチンをN−部分脱アセチル化して水溶性のN−部分脱アセチルキチン(置換度0〜0.5N−アセチル基)を生成することが、例えば非特許文献3等において報告されている。しかし完全に近くN−脱アセチル化されたキトサンを得る方法については未だ報告されていない。
【0006】
他方、アルカリキチンからキトサンハイドロゲルを製造するにおいて、高濃度のアルカリ溶液、高温処理を用いない方法として、Goycoolea等による以下の方法が知られている(非特許文献4参照)。すなわち、キチンを0°Cの16wt%の水酸化ナトリウム水溶液中にてアルカリキチン溶液にし、上記溶液を25°Cで58〜96時間真空下で放置することによりスポンジゲルを生成させる。
【0007】
しかしながら上記方法はアルカリキチン溶液を真空下で放置する必要があり、量産するには装置コスト、ランニングコストがかさむという問題がある。
【0008】
更に水媒体中でのchitosan−calcium alginate
hydrogel(キトサン−カルシウムアルギン酸塩ヒドロゲル)、
chitosan―Cucl2膜(キトサン−塩化銅膜)への炭酸イオンの固定が知られている(非特許文献5、6、7参照)。しかしながらアルカリキトサンハイドロゲルを大気中で放置した場合についての変化については報告されていない。
【0009】
一方、部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法が知られている。例えば非特許文献8参照。またN−アセチル基の分布の測定方法について平野らによる方法が知られている(非特許文献9参照)。しかしながらN−アセチル基(またはアミノ基)が不均一に分布したものしか製造できず、均一に分布したキチン糸が製造できないという問題があった。
【0010】
【非特許文献1】
D.Horton,D.R.Lineback,"Methodsin Carbohydrate Chemistry",vol.5,Academic Press,Orland,Florida,p.403−406(1965)
【非特許文献2】
日本キチン・キトサン研究会,"キチン・キトサンハンドブック",p.228−231(1995)
【非特許文献3】
T.Sannan,K.Kurita,Y.Iwakawa, Macromol.Chem.,176,1191−1195(1975);178,3197−3201
【非特許文献4】
F.M.Goycoolea,A.Heras,A.I.Aenaz,G.Galed,M.E.Fernandez,W.M.ArgullesMonal,Adv.Chitin Sci.,6,169−172(2002);Il SIAQ,Acapulco,Mexico,Nov.10−15,2002,p.612−613
【非特許文献5】
S.Hirano,K.Yamamoto,H.Inui,K.I.Draget,K.M.Varum,O.Smidsrod,Studies in Surface Science and Catalysis,114,p.621−624(1998)
【非特許文献6】
S.Hirano,K.Yamamoto,M.Yamada、H.Inui,M.Ji,Adv.Chitosan Sci.,1,p.137−142(1996)
【非特許文献7】
S.Tokuya,S.Nishimura,N.Nishi,K.Nakamura,O.Hasegawa,H.Sashiwa,H.Seo,Sen−i Gakkaishi(繊維学会誌),43,p.288−297(1987)
【非特許文献8】
S.Hirano,T.Midorikawa,Biomaterials,19,p.293−297(1998)
【非特許文献9】
S.Hirano,S.Tsuneyasu,Y.Kondo,Agric.Biol.Chem.,45,p.1335−1338(1981)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従来のカニの甲殻やイカの軟甲等に含まれるキチンからキトサンを得る方法においては、高アルカリ処理及び高温プロセスを要し、またキチンのN−脱アセチル化反応において、低分子化をともなうことなく完全に近くN−脱アセチル化された高分子のキトサンを得ることができなかった。低温溶解法もあるが同法においては、乾燥によるゲル生成に真空プロセスを要していた。
【0012】
また従来の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法においてはN−アセチル基が均一に分布したキチン糸が製造できないという問題があった。
【0013】
本発明は従来技術の上述の課題に鑑み、低アルカリ濃度、低温でのアルカリ処理にて、高分子のアルカリキトサンゲルを得ることができかつ真空処理が不要なアルカリキトサンゲルの製造方法を提供すること、キトサンを真空プロセスを要せず得ることのできる製造方法を提供すること、及びいろいろな均一に分布した高分子の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させ、氷片を加えて12〜18wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にし、前記溶液を0°C以上30°C以下、常圧下でゲル化させることを特徴とするアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法を提供する。
【0015】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法によれば、アルカリキチン溶液の水酸化ナトリウム濃度が低いので、キチンのN−部分脱アセチル化反応において低分子化が起こりにくくこのため高分子量のアルカリキトサンハイドロゲルが得られる。また溶液の水酸化ナトリウム濃度が低いので廃液処理が容易である。また高温下での長時間稼動を要しないのでエネルギーコストが低い。常圧で放置するため、真空装置が不要で装置コスト、操業コストが小さい。又副生物として炭酸ナトリウム水和物が得られるという利点も有する。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記原料キチンがβキチンであることを特徴とする請求項1記載のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法を提供する。β−キチンが、同じ方向のキチン分子が平行にならんでいるためアルカリ溶液中で膨潤し易く、イカの軟甲等に多く含まれるβキチンからキトサンハイドロゲルが高効率で生産されかつ廃液処理が容易で、高温下での長時間稼動を要しないのでエネルギーコストが低い。常圧で放置するため、真空装置が不要で装置コスト、操業コストが小さい。
【0017】
請求項3記載の発明は、微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させ、氷片を加えて12〜18wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にする工程と、前記アルカリキチン溶液をゲル化させてアルカリキトサンハイドロゲルとする工程と、前記アルカリキトサンハイドロゲルを常圧下で二酸化炭素が十分存在する雰囲気下にて反応させてキトサンを得る工程とをこの順で包含することを特徴とするキトサンの製造方法を提供する。
本発明は発明者が二酸化炭素の作用に注目し完成したものである。
【0018】
本発明のキトサンの製造方法によれば、アルカリキトサンハイドロゲルがゲル中の水の存在にてゲルを取り巻く雰囲気中の二酸化炭素と常温下で反応し、キトサンと炭酸ナトリウムの水和物を生じるので、エネルギーコスト、装置コストが小さく容易にキトサンを得ることができる。又副生物として炭酸ナトリウム水和物が得られるという利点も有する。
【0019】
請求項4記載の発明は、前記原料キチンがβキチンであることを特徴とする請求項3記載のキトサンの製造方法を提供する。β−キチンを原料とするため、同じ方向のキチン分子が平行にならんでいるため容易に脱アセチル化反応が進み、アルカリキトサンハイドロゲルがゲル中の水の存在にてゲルを取り巻く雰囲気中の二酸化炭素と常温下で反応し、キトサンと炭酸ナトリウムの水和物を生じるので、エネルギーコスト、装置コストが小さく容易にキトサンを得ることができる。又副生物として炭酸ナトリウム水和物が得られるという利点も有する。
【0020】
請求項5記載の発明は、微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させる工程と、氷片を加えて8〜16wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にする工程と、室温で放置してN−アセチル基のd.s.が0.75以上の部分N−脱アセチル化アルカリキチンのアルカリ溶液とする工程と、前記部分N−脱アセチル化キチンのアルカリ溶液をドープとして湿式紡糸する工程とを、この順で包含することを特徴とする部分N−脱アセチル化されたキチン糸の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の部分N−脱アセチルキチン糸の製造方法によれば、N−アセチル基のd.s.が0.75以上のほぼ均一に分布した一連の部分N−脱アセチルキチン糸を得ることができる。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法においては、原料キチンは微粉状であることを要する。80メッシュ(目の開き177μm)以上の細篩いを通過する微粉が好ましい。より好ましくは150メッシュ(目の開き104μm)以下の細篩いを通過する微粉が好ましい。微粉の粒子が大きければ水酸化ナトリウム溶液中で膨潤しにくいからである。粒子が微細になる程低濃度の水酸化ナトリウム溶液中でも膨潤しやすくなるが、より微細粉にするには粉砕に多大のエネルギーを要す上、粉砕や篩いのための装置が過大になるため、210メッシュ以下が好ましい。
【0023】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法においては、高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させる。水酸化ナトリウム溶液の濃度は40〜46重量%濃度であることが好ましい。水酸化ナトリウム溶液の下限濃度は25重量%濃度以上、好ましくは40重量%濃度以上である、濃度が高い程膨潤力が大きいからであり、25重量%濃度よりも濃度が低いと膨潤力が低くキチンの200メッシュ通過の微粉でなければ膨潤しないからである。水酸化ナトリウム溶液の上限濃度は46重量%濃度以下である。濃ければ中和廃液処理の装置、処理費を要し環境負荷が増大するからである。
【0024】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法においては、原料キチンを水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させた後、氷片を加えて12〜18wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にする。アルカリキチン溶液の水酸化ナトリウム濃度は14〜16wt%が好ましい。14〜16wt%の濃度がアルカリキチンの溶解度が最も高いためである。
【0025】
氷片を加えるのは、アルカリキチン分子中の加水分解による反応(−ONa→−OH)を防ぎ、低分子化を防ぎ、水酸化ナトリウムの濃度を14%程度にするためである。溶液をジャケット等で冷却しつつ希釈してもよいが、氷片を加える方が簡易であるため好ましい。
【0026】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法においては、上記水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液を低温常圧下でゲル化させる。ゲル化速度を上げるためには温度は低くない方がよく温度の下限は0°C以上、好ましくは10°C以上、より好ましくは15°C以上である。ゲル化の反応速度を上げるためには温度を上げてもよいが、生成物の純度及び環境負荷を与えないためには反応のための外部エネルギーは用いない方がよいため、室温が好ましく、温度の上限は30°C以下、好ましくは20°C以下である。
【0027】
常圧とは通常の大気圧及びその近傍をいい、950〜1200hPaであって、装置、コストから特別な加圧・減圧をしないものが好ましい。
【0028】
本発明におけるキトサンの製造方法においては、原料キチンと水酸化ナトリウム溶液を混合攪拌し、アルカリキチン溶液にし、上記アルカリキチン溶液をゲル化させてキトサンハイドロゲルとし、上記キトサンハイドロゲルを二酸化炭素存在雰囲気下で反応させることによりキトサンを得る。
【0029】
本発明のキトサンの製造方法における中間体であるアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法については、上述した請求項1記載のキトサンハイドロゲルの製造方法による。廃液処理が容易で地球環境の保全に有効で、エネルギーコスト、装置コスト、操業コストが小さいためである。
【0030】
上記アルカリキトサンハイドロゲルを二酸化炭素が十分存在する雰囲気下にて反応させるとは、アルカリキトサンハイドロゲルを液中であるいは液中から取り出し、これを中和反応に要する相当量の二酸化炭素と反応させることをいう。またこの反応はゲルの形状にもよるが、常温にて2〜3週間で進行する。従ってアルカリキトサンハイドロゲルを開放された大気中で放置することが好ましい。より反応を促進させるためにはアルカリキトサンハイドロゲルの周囲環境の二酸化炭素を高濃度にし、又は大気または高濃度に二酸化炭素を含む気体をゲル表面に吹き付けるあるいはゲル中にバブリング等することが好ましい。更にゲルを攪拌、深耕して二酸化炭素との接触面積を増大させてもよい。二酸化炭素の分圧の高い環境下にアルカリキトサンハイドロゲルを置いてもよい。
【0031】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法において原料となる微粉状キチンは限定されず、例えばカニ甲殻から得られたα−キチンであってもよいし、イカの軟甲から得られたβ−キチンであってもその他であってもよいが、β−キチンが、同じ方向のキチン分子が平行にならんでいるためアルカリ溶液中で膨潤し易いためより好ましい。
【0032】
本発明のキトサンの製造方法において原料となる微粉状キチンは限定されず、例えばカニ甲殻から得られたα−キチンであってもよいし、イカの軟甲から得られたβ−キチンであってもその他であってもよいが、β−キチンを原料とするものが、同じ方向のキチン分子が平行にならんでいるため容易に脱アセチル化反応が進むためより好ましい。
【0033】
本発明の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法においては、微粉状原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させ、氷片を加えて8〜16wt%以下の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にし、5〜8wt%のN−アセチル基のd.s.が0.75以上の部分N−脱アセチル化キチンのアルカリ溶液とし、これをドープとして湿式紡糸する。
【0034】
本発明の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法における水酸化ナトリウムのアルカリキチン溶液にする方法については本発明のアルカリキトサンハイドロゲルにおける手法を準用することができる。
ただし、希釈後の水酸化ナトリウムの濃度は8〜16%、好ましくは14%以下の濃度である。アルカリキチン溶液の水酸化ナトリウム濃度が高いと大気中の二酸化炭素による中和によるキトサンの低分子化が生じ高分子量のキチン繊維が得られないためである。
【0035】
尚、本発明の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法においては、原料キチンは微粉状であることを要する。80メッシュ以上の細篩いを通過する微粉が好ましい。より好ましくは150メッシュ(目の開き104μm)以上の細篩いを通過する微粉である。微粉の粒子が大きければ水酸化ナトリウム溶液中で膨潤しにくくなる上、更に湿式紡糸効率が悪くなりやすいからである。例えば0.9mm内径のシリンジを用いた場合は80メッシュを通過する微粉でなければ紡糸中に糸が切れやすくなるからであり、0.09mm内径のシリンジによる湿式紡糸では150メッシュを通過する微粉でなければ紡糸中に切れやすくなるからである。より微細粉にすれば低濃度の水酸化ナトリウム溶液中でも膨潤しやすくなるが、より微細粉にするには粉砕に多大のエネルギーを要す上、粉砕や篩いのための装置が過大になるため、210メッシュ以下が好ましい。
【0036】
N−アセチル基のd.s.が0.75以上のN−脱アセチル化キチンのアルカリ溶液にするのはこのN−アセチル基のd.s.の範囲がアルカリ溶液を形成するため好ましいからである。尚、部分N−脱アセチル化キチンとはN−アセチル基とアミノ基が均一に分布したものをいう。N−アセチル基のd.s.とはキチン分子鎖上のN−アセチル基の量をいい、例えばキチンはd.s.1.00、キトサンはd.s.0.00である。この後上記部分N−脱アセチル化キチンのアルカリ溶液をドープとして湿式紡糸する。湿式防止法については限定されず通常の方法が用いられる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
(アルカリキトサンハイドロゲルの調製)
カニ甲殻から得られたα−キチンの80メッシュパスの微粉2.0gを室温にて46wt%の水酸化ナトリウム水溶液7.6ml中にて3時間攪拌懸濁、膨潤させる。これに氷片を加えアルカリ希釈し、14wt%水酸化ナトリウム濃度とすることにより、均一透明な8wt%のアルカリキトサン溶液25mlを得た。この溶液を室温下で3日間放置することによりN−脱アセチル化によるアルカリキトサンハイドロゲルを得た。化1参照。尚、得られたアルカリキトサンハイドロゲルの有機微量元素分析によれば試料2.021mgに対しての分析の結果、Hが6.53%、Cが44.50%、Nが6.46%であった。試料2.423mgに対しての分析の結果、Hが6.50%、Cが44.66%、Nが6.36%であった。
【0039】
【化1】
【0040】
(キトサンの調製)
上記アルカリキトサンハイドロゲルを容器より取り出し室温にて大気中に放置した。ゲル表面に炭酸ナトリウム水和物(Na2CO3・H2O)の白色結晶が3週間にわたり析出した。ハイドロゲルは元の体積の約三分の一に収縮し、褐色のキトサン芯が得られた。得られたキトサンは約1.5g、炭酸ナトリウム−水和物は約0.6gであった。
これは大気中の二酸化炭素と水から生成する炭酸(H2CO3)がキトサンハイドロゲル中の水と−ONa基とが反応して化1の式のようにキトサンハイドロゲルの表面に白色の結晶炭酸ナトリウム(Na2CO3・H2O)が生成したものと推測される。
【0041】
(観察・分析)
上記アルカリキトサンハイドロゲルの外観観察及び上記キトサン芯のFTIR、及び13C−NMR、元素分析による分析を行った。図1に上記キトサン芯のFTIR、図2に13C−NMR、図3に生成した炭酸ナトリウム−水和物のFTIRのチャートを示す。表1に元素分析結果を示す。α−キチンからNアセチル基の置換度0.21前後のキトサンが得られた。
【0042】
【表1】
【0043】
図1においてνmaxKBr=3337−3513(OH),2890(C−H),1012−1154(C−O),902(β−D−グリコシド)cm−1であった。
図2において13C−CP/MAS=97.3(C1),76.3(C4),74.0(C5),73.5(C3),67.4(C6)であった。
図3においてνmaxKBr=3458−3002,1698,1462,1400(CO3 2−),903,866(CO3 2−),687,596cm−1であった。
【0044】
(実施例2)
カニ甲殻から得られたα−キチンの80メッシュパスの微粉の代わりにイカの軟甲から得られた80メッシュパスのβ−キチンの微粉を用いた他は実施例1と同様にしてアルカリキトサンハイドロゲル及び褐色のキトサン芯を得た。カニ甲殻のα−キチンよりもイカの軟甲のβ−キチンを用いた方が、14wt%水酸化ナトリウム水溶液に8wt%濃度に溶解したアルカリキトサン溶液が容易に得られた。上記アルカリキトサンハイドロゲルはキトサン、水酸化ナトリウムと2O−Naにてなる合計20%以下の部分と、残り80%以上の水分にて構成されていた。得られたキトサンは約1.5g、炭酸ナトリウム−水和物は約0.6gであった。
【0045】
尚、アルカリキトサンハイドロゲルの外観観察及び上記キトサン芯のFTIRと13C−NMRによる分析の結果、カニ甲殻のα−キチンから得られたものと、イカの軟甲のβ−キチンから得られたものとは差が無かった。実施例1と同様に上記キトサン芯のFTIR、及び13C−NMR、元素分析による分析を行い、図4にFTIR、図5に13C−NMRのチャート、図6に生成した炭酸ナトリウム−水和物のFTIRのチャートを示す。表2に元素分析結果を示す。表2に表すように、β−キチンからN−アセチル基の置換度0.05〜0.15のキトサンが得られた。尚、表2中、元素分析のC/N比からN−脱アセチル化度を計算し高、低N−脱アセチル化度のものを例示した。
【0046】
【表2】
【0047】
図4においてνmaxKBr=3310−3457(OH),2884(C−H),1653(NH2),1032−1154(C−O)903(β−D−グリコシド)cm−1であった。
図5において13C−CP/MAS=97.5(C1),76.5(C4),74.0(C5),73.5(C3),67.4(C6),55.5(C2)ppmであった。
図6においてνmaxKBr=3588−2978,1684,1464,1410(CO3 2−),903,868(CO3 2−),687,573cm−1であった。
【0048】
(実施例3)
(いろいろの度合に均一に部分N−脱アセチル化されたキチン溶液の調製)
カニ甲殻から得られたα−キチンの80メッシュパスの微粉2.0gを室温にて46wt%の水酸化ナトリウム水溶液7.6ml中にて3時間攪拌懸濁、膨潤させる。これに氷片を加え、14wt%水酸化ナトリウム濃度とすることにより、均一透明な8wt%のアルカリキトサン溶液25mlを得た。この溶液を室温下で放置することによりいろいろの度合に均一に部分N−脱アセチル化されたキチン溶液を得た。N−アセチル基の均一分布については非特許文献9記載の方法に準じ、部分N−脱アセチル化キチン試料を亜硝酸酸化分解し、水素化ホウ素ナトリウム還元にて生成するN−アセチルキチンオリゴ糖のゲルクロマトグラムにて均一に分布していることを確認した。尚、放置時間とN−脱アセチル化度はほぼ比例した。
(−NHAc+NaOH?−NH2+AcONaという反応が生じたものと推測される。)
【0049】
(実施例4)
(いろいろの度合に均一に部分N−脱アセチル化されたキチン繊維の調製)
実施例3で得られたいろいろの度合に均一に部分N−脱アセチル化されたキチン溶液を非特許文献8記載の方法に準じ常法により湿式紡糸していろいろの度合に均一に部分N−脱アセチル化されたキチン繊維を得た。
得られた繊維を常法によりN−アセチル基の置換数及び物性データを求めた。結果を表3に示す。表中繊度(単位デニール)とは繊維長9000m当たりの重量(g)をいう。強度は繊維が切断される力(単位mN)を表す。
【0050】
【表3】
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたアルカリキトサンハイドロゲル2gを、内容積4mlの密封容器中にて室温下3日間放置したが、ハイドロゲルの外観に大きな変化は見られなかった。容器が密閉されているため大気中の二酸化炭素が供給されず、ニ酸化炭素とアルカリキトサンハイドロゲル中の水と−ONa基との反応が進行しなかったためと考えられる。
【0052】
【発明の効果】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法によれば、アルカリキチン溶液の水酸化ナトリウム濃度が低濃度であるので大気中の二酸化炭素による中和によるキトサンの低分子化が少なく、炭酸廃液処理が容易で、高温下での長時間稼動を要しないのでエネルギーコストが低い。常圧で放置するため、真空装置が不要で装置コスト、操業コストが小さい。
【0053】
本発明のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法によればβ−キチンが、同じ方向のキチン分子が平行にならんでいるためアルカリ溶液中で膨潤し易く、イカの軟甲等に多く含まれるβキチンからキトサンハイドロゲルが高効率で生産されかつ廃液処理が容易で、高温下での長時間稼動を要しないのでエネルギーコストが低い。常圧で放置するため、真空装置が不要で装置コスト、操業コストが小さい。
【0054】
本発明のキトサンの製造方法によれば、アルカリキトサンハイドロゲルが雰囲気中の二酸化炭素と常温下で反応しキトサンと炭酸ナトリウム水和物を生じるので、エネルギーコスト、装置コストが小さく容易に、低分子化せずに高分子のキトサンを得ることができる。
【0055】
本発明のキトサンの製造方法によれば、イカの軟甲等に多く含まれるβキチンからキトサンハイドロゲルが高効率で生産されかつ廃液処理が容易で、高温下での長時間稼動を要しないのでエネルギーコストが低い。常圧で放置するため、キトサンの低分子化が少なく、真空装置が不要で装置コスト、操業コストが小さい。
【0056】
本発明の部分N−脱アセチル化キチン糸の製造方法によれば、N−アセチル基のd.s.が0.75以上のほぼ均一に分布した一連の部分N−脱アセチルキチン糸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるα−キチンから得られたキトサン芯のFTIRスペクトル
【図2】実施例1におけるα−キチンから得られたキトサン芯の13C−NMRスペクトル
【図3】実施例1におけるα−キチンから得られたアルカリキトサンゲルから生成した炭酸ナトリウム−水和物のFTIRスペクトル
【図4】実施例2におけるβ−キチンから得られたキトサン芯のFTIRスペクトル
【図5】実施例2におけるβ−キチンから得られたキトサン芯の13C−NMRスペクトル
【図6】実施例2におけるβ−キチンから得られたアルカリキトサンゲルから生成した炭酸ナトリウム−水和物のFTIRスペクトル
Claims (5)
- 微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させ、氷片を加えて12〜18wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にし、前記溶液を0°C以上30°C以下、常圧下でゲル化させることを特徴とするアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法。
- 前記原料キチンがβ−キチンであることを特徴とする請求項1記載のアルカリキトサンハイドロゲルの製造方法。
- 微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させ、氷片を加えて12〜18wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にする工程と、前記アルカリキチン溶液をゲル化させてアルカリキトサンハイドロゲルとする工程と、前記アルカリキトサンハイドロゲルを常圧下で二酸化炭素が十分存在する雰囲気下にて反応させてキトサンを得る工程とを、この順で包含することを特徴とするキトサンの製造方法。
- 前記原料キチンがβ−キチンであることを特徴とする請求項3記載のキトサンの製造方法。
- 微粉状の原料キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液中で膨潤させる工程と、氷片を加えて8〜16wt%の水酸化ナトリウム濃度のアルカリキチン溶液にする工程と、室温で放置してN−アセチル基のd.s.が0.75以上の部分N−脱アセチル化アルカリキチンのアルカリ溶液とする工程と、前記部分N−脱アセチル化キチンのアルカリ溶液をドープとして湿式紡糸する工程とを、この順で包含することを特徴とする均一に部分N−脱アセチル化されたキチン糸の製造方法。
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