本発明は、動物の分娩開始時期を、動物から離れた場所で待機する者へ通知する分娩監視装置に関するものである。
家畜の分娩の際には飼育者や獣医師が立ち会ったり、妊婦の分娩の際には医師や助産師が立ち会ったりして、胎子を安全に娩出するための万全の態勢がとられる。
人工授精させることが多い乳牛や肉牛及び交尾させる馬や豚等の家畜、又は妊婦の大凡の分娩日を、動物種毎の平均的な妊娠期間から予測できるが、経産・未経産の相違、又は栄養状態等に起因して妊娠期間の変動幅が大きいので、正確な分娩日時を予測できない。自然交配させる肉牛、緬羊、山羊では交尾した日すら正確に分からない。そこで分娩予測日前から分娩開始を見守る必要がある。とりわけ家畜の場合、分娩予測日の数日前から、分娩開始を監視しなければならない。このような家畜の傍に絶えず付き添うのは事実上不可能である。
そこで分娩を遠隔監視する装置が用いられる。このような装置として、例えば特許文献1に、ビデオカメラとモニターによる遠隔監視の分娩兆候検出装置が開示されている。飼育者等がこの装置で監視し続けなければならないのは、非効率的である。しかも家畜の生産性向上のために多数飼育するようになってきたので、多頭の分娩時期が重なった時に遠隔監視では飼育者が夫々の分娩兆候を、長時間、十分に観察できない恐れがある。
また、特許文献2に、分娩予定日の数日前に家畜の膣へ挿入された送信機が陣痛の進行に伴い体外へ放出されたときにその状態変化を検知して飼育者に通報するという分娩監視装置が、開示されている。陣痛が微弱過ぎたり中断したりすると、送信機が放出されない結果、分娩開始の通報が行われないので、適切な分娩介助ができず難産になって母体や胎子が危険となる恐れがある。さらに、送信機を消毒して膣へ挿入しなければならず面倒なうえ、挿入の際に家畜母体や胎子が傷ついたり、送信機へ通じるリード線から病原菌が膣内感染したりする危険がある。
特許文献3に、妊婦の心拍数等の身体状態を計測する手段と、その身体状態に応じて妊婦をリラックスさせるため照明を変えたり音楽を流したりする出力手段とを有する分娩支援装置が開示されている。この支援装置では分娩開始を監視できない。
本発明者は、分娩開始直前にその外陰部が開くことを見出し、分娩開始時に動物母体から胎子が娩出し始めると母体の外陰部が開くことを利用した分娩監視装置について特許出願している(特願2005−023787)。その装置は、向かい合う外陰部の一方に取り付けられる電磁誘導発振器と、もう一方に取り付けられる電磁誘導受信器との間隔距離が、平時の両外陰部の状態で誘導起電の可能な距離、分娩予兆時の両外陰部の開き状態で誘導起電の不能な距離に調整されているというものである。
本発明者は、さらに分娩の数〜数10時間前に動物母体の体温が低下し、分娩直前にその心拍数が一過的に減少することを見出し、これを利用して分娩開始を監視することについて鋭意検討した。
特開2002−153162号公報
特開2003−310647号公報
特開2000−93433号公報
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、動物母体の陣痛の強弱に関わらず、分娩予兆、分娩直前又は分娩開始を、動物から離れた場所で待機する者へ正確かつ確実に通知でき、しかも分娩直前・直後の母体や胎子の安全を確保できる簡便な分娩監視装置を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の分娩監視装置は、分娩を監視すべき動物母体の心拍数を測定する心拍計と、該心拍計が検知した該心拍数から分娩以前の平時での該心拍数の変動域を超えた一過性の心拍数の減少を弁別する回路とを有し、該弁別回路から出される該心拍数減少による分娩直前信号を通知する通信装置及び/又は警報装置を備え、該動物母体の向かい合う外陰部の一方に取り付けられる電磁誘導発振器と、もう一方に取り付けられる電磁誘導受信器とを有し、該発振器と該受信器との間隔距離が、平時の両外陰部の状態で誘導起電の可能な距離、分娩直前時の両外陰部の開き状態で誘導起電の不能な距離に調整されており、該誘導起電の不能を検知する回路から出される分娩開始信号、及び該分娩直前信号の両信号が該通信装置及び/又は警報装置に繋がっていることを特徴とする。
請求項2に記載の分娩監視装置は、請求項1に記載のもので、該動物母体の体温を測定する温度センサと、該温度センサが検知した該体温から分娩以前の平時での体温の変動域を超えた体温の低下を弁別する回路とを有し、該体温低下の弁別回路から出される該体温低下による分娩予兆信号が該通信装置及び/又は警報装置に繋がっていることを特徴とする。
請求項3に記載の分娩監視装置は、請求項1に記載のもので、該電磁誘導発振器が電磁誘導の発振コイルであり、該電磁誘導受信器が該発振コイルから発振された発振電磁波を検知する受信コイルであることを特徴とする。
請求項4に記載の分娩監視装置は、請求項1に記載のもので、該心拍計が、心電の電圧計、又は脈波の感圧センサであることを特徴とする。
請求項5に記載の分娩監視装置は、請求項1に記載のもので、該通信装置が、無線通信装置であることを特徴とする。
請求項6に記載の分娩監視装置は、請求項1に記載のもので、該心拍数の弁別回路が、分娩以前の平時での該心拍数から少なくとも30%の該心拍数減少を検知することを特徴とする。
請求項7に記載の分娩監視方法は、分娩を監視すべき動物母体の心拍数を測定する心拍計と、該心拍計が検知した該心拍数から分娩以前の平時での該心拍数の変動域を超えた一過性の心拍数の減少を弁別する回路とを有し、該弁別回路から出される該心拍数減少による分娩直前信号を通知する通信装置及び/又は警報装置を備え、該動物母体の向かい合う外陰部の一方に取り付けられる電磁誘導発振器と、もう一方に取り付けられる電磁誘導受信器とを有し、該発振器と該受信器との間隔距離が、平時の両外陰部の状態で誘導起電の可能な距離、分娩直前時の両外陰部の開き状態で誘導起電の不能な距離に調整されており、該誘導起電の不能を検知する回路から出される分娩開始信号、及び該分娩直前信号の両信号が該通信装置及び/又は警報装置に繋がっている分娩監視装置を使用する分娩監視方法であって、該動物母体に該心拍計を取り付けると共に、該動物母体の向かい合う該外陰部に該間隔距離で該発振器と該受信器とを取り付けておき、該心拍計で分娩を監視すべき該動物母体の心拍数を測定し、該弁別回路が分娩以前の該心拍数の変動域を超えた一過性の心拍数減少を検知したら、該通信装置及び/又は警報装置で該分娩直前信号を通知し、その後に、該誘導起電の不能を検知する回路が該送信器と該受信器との該誘導起電の不能を検知したら、該通信装置及び/又は警報装置で分娩開始信号を通知することを特徴とする。
請求項8に記載の分娩監視方法は、請求項7に記載のもので、該動物母体の体温を測定する温度センサと、該温度センサが検知した該体温から分娩以前の平時での体温の変動域を超えた体温の低下を弁別する回路とを有し、該体温低下の弁別回路から出される該体温低下による分娩予兆信号が該通信装置及び/又は警報装置に繋がっている前記に記載の分娩監視装置を使用する分娩監視方法であって、該心拍計、該発振器および該受信器に加えて該動物母体に該温度センサを取り付けておき、該温度センサで該動物母体の体温を測定し、該体温低下の弁別回路が分娩以前の平時の体温の変動域を超えた体温低下を検知したら該通信装置及び/又は警報装置で分娩予兆信号を通知し、その後に、該心拍計で心拍数を測定して、該弁別回路が該一過性の心拍数減少を検知したときに、該通信装置及び/又は警報装置で該分娩直前信号を通知することを特徴とする。
請求項9に記載の分娩監視方法は、請求項8に記載のもので、該体温が、鼓膜温であることを特徴とする。
請求項10に記載の分娩監視方法は、請求項7に記載のもので、該間隔距離が1〜12cmであることを特徴とする。
本発明の分娩監視装置は、分娩を監視すべき動物母体に小さな心拍計を取り付けたり、さらに温度センサや発振器・受信器を取り付けたりするものであるから、動物母体に拘束や負担や苦痛を強いず、胎子を傷つけない。しかも心拍計や温度センサや発振器・受信器を殺菌消毒する必要がないから簡便であり、獣医師等の資格がなくてもこの装置を取り付けできる。
この分娩監視装置は、分娩前の動物母体がいる畜舎から離れた管理棟で、飼育者等が待機したり仮眠したりしている場合でも、心拍数の減少を検知した時に、分娩開始が数〜数10分後に切迫しているという警告をするトリガーとなる。又、分娩監視装置は、動物母体の体温の低下を検知したときに、分娩開始時期が数〜数10時間後に迫っているという分娩予兆の通報をするトリガーとなり、若しくは、動物母体の外陰部が開き始めたことを検知した時に、分娩が開始したという警告をするトリガーとなる。
このような装置を用いた分娩監視方法によれば、動物母体の体温が低下したときに、正確かつ確実に分娩予兆を知ることができる。またこの予兆の通報の後、心拍数が減少したときに、飼育者等が分娩直前であることを知ることができる。さらにその分娩直前の通報の後、外陰部が開き始めたときに分娩が開始したことを知ることができる。
体温低下が小さくそれが弁別されなかったために分娩予兆の通報が無かった場合でも、心拍数減少に基づく分娩直前の通報や、外陰部の開きに基づく分娩開始の通報により、分娩開始時期を見逃す恐れがない。
この通報により、飼育者等が分娩直前の動物母体へ駆け付けて、その分娩に立会い、適切な介助を行って、産まれてくる新生子と母体との生命を救う適切な処置をすることができる。さらに、異常分娩の場合には、速やかに獣医師等の治療を受けることを可能にする。
この装置を用いた分娩監視方法は、巡回やビデオによる監視作業の必要がなく、飼育者らの労働時間軽減を図ることができ、家畜生産等のコスト削減に資することができる。
発明を実施するための形態
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
図1に、本発明を適用する電極3a・3bを用いた心拍数測定に基づく分娩監視装置1Aによる分娩監視方法の実施の一例を示す。
この分娩監視装置1Aは、動物母体5に付される陽極3a及び陰極3b(図2参照)へ接続され心電測定する電圧計である心拍計3と、それへ接続されて動物母体5に取り付けられる回路ボックス10と、それに無線で繋がる通信装置20とからなる。通信装置20は、動物母体5がいる畜舎とそこから離れた場所例えば畜舎に隣接する管理棟とに設置される。
回路ボックス10内で、心拍計3へ接続された心拍数検知回路12、心拍数弁別回路13、フィルタ14、送信回路15が、その順で接続されて内蔵されている。心拍数検知回路12は、電源17とタイマー11とにも接続されている。送信回路15は、回路ボックス10の外面に印刷された送信アンテナ16に接続されている。
心拍計3は、心臓の鼓動に伴って発生する電気活動による電位差を検知する心電測定用の陽極3aと陰極3bとの両電極に接続された電圧計である。この電極は、必要に応じ多数取り付けられる。電極3a・3bとして、例えば動物母体5の体表に毛の多い牛、馬、緬羊、山羊では、釣り針型の針電極やクリップ電極を、また動物母体5の体表に毛の少ない豚あるいは毛の多い動物では、電極部位の毛を剃って貼り付ける貼付電極を、用いる。タイマー11は、所定の時間毎例えば1分おきに心拍数検知回路12を動作させるタイムスイッチである。心拍数検知回路12は、心拍計3に接続された電極からのアナログ信号を入力し、電位差の極大振幅であるR波と次に出現するR波との間隔時間すなわち一拍当たりの時間を計測する時計である。心拍数弁別回路13は、そのR波−R波間隔時間を順次記憶するメモリと、そこに記憶された今回と前回とのR波−R波間隔時間に比例した電圧信号を差動入力するオペアンプとからなる。フィルタ14は、急激な運動や給餌による心拍数上昇の後に平時の心拍数へ戻る場合のように平時の活動の許容範囲の心拍数減少であって母体や胎子の危機に無関係な誤検知を除去するフィルタ回路である。
図1には、送信アンテナ16からの信号を受信し、分娩直前を音声で流し又は画像で表示して警告したり、ネットワークに乗せたりするための通信装置20のブロック図が併せて示されている。
この通信装置20は、受信アンテナ21に繋がる受信回路22、それに繋がるネットワーク接続回路23と警報音回路24及びスピーカー25とを内蔵している。ネットワーク接続回路23はインターネットや携帯電話に接続するための信号制御回路である。
この電極3a・3bを有しており心拍数測定による分娩監視装置1Aは、図2に示すように、分娩が間近でそれを監視すべき動物母体5に取り付けられて使用される。
妊娠日が明らかな動物では分娩予測日の数日前に、又は妊娠日が確認できない動物では、経験的に外見上あるいは行動的に分娩が間近と予想される分娩兆候時、例えば外陰部が腫脹したり乳汁が乳頭から滲んだり食欲が減退したりした時に、この分娩監視装置1Aを取り付ける。例えば動物母体5が、雌緬羊、雌牛、雌馬であれば、分娩予測日から半日以上前、好ましくは1〜7日前に分娩監視装置1Aを取り付ける。
先ず、妊娠した動物母体である緬羊5の分娩予測日の数日前に、その胴体の右側面の皮膚に釣り針型の針電極の陰極3bを、その腹部の左側面の皮膚に同型の針電極の陽極3aを取り付け、リード線で心拍計3に接続する。電極装着部位は骨格筋の活動電位の影響を受けにくい部位とする。両電極3a・3bから延びるリード線を、伸縮性粘着包帯で胴体体表に貼付けて保護する。このリード線が心拍数検知回路12へ繋がっている回路ボックス10ごと収められたバック2を、緬羊5の背にベルトで固定して取り付ける。
タイマー11の指示に応じ所定の時間毎例えば1分毎に、心拍計3により心臓の鼓動に伴う電位差を測定し、そのアナログ信号を心拍数検知回路12へ出力する。そのアナログ信号に基づき、心拍数検知回路12で、R波−R波間隔時間を計測する。その時間に基づき、1分間当たりの拍数が算出される。
心拍数の変化は、次のとおりである。心拍数の変化を観察するには、例えば、動物母体の心電図をラジオテレメーターにより送受信し心電図(ECG)プロセッサーによりリアルタイムに記録することにより、行なうことができる。心拍数は、妊娠前よりも陣痛開始前後の方が高い。陣痛が継続し、胎子が産道に入ると、神経性脳下垂体ホルモンであるオキシトシンの作用により、子宮が収縮する。胎子が産道に深く進入すると、反射的に動物母体へ腹圧が加わる結果、大動脈が圧迫され、血圧が上昇する。その結果として心臓機能抑制(減圧反射)が起こり、分娩時のみに特有な一過性の心拍数減少を引き起す。多産の場合、第1新生子の娩出時は、第2新生子以降の娩出時よりも、心拍数減少前の心拍数が低く、心拍数減少量が大きく、心拍数減少持続時間が長く、また心拍数減少開始から娩出までの時間が長いことが多い。この心拍数減少は、分娩の数10秒〜数10分前に数10秒〜数10分間、例えば緬羊で2〜10分前に2〜10分間持続して、認められる。
緬羊の場合、この心拍数減少が認められる前の平時において、例えば1〜10分間の心拍数の変動域は、摂食や気温に応じて多少の幅を有するが、約20拍/分程度である。この変動域を超える分娩予兆の有意な心拍数減少は、30〜50拍/分程度である。分娩の3日前から分娩の3日後まで、リアルタイムに心拍数を測定し、分娩直前・直後の心拍数の変化を図3に示す。分娩の3日前までの安静時の心拍数は平均115〜120拍/分で推移していた。分娩の1時間〜10分前の雌緬羊は、起立と横臥とを頻繁に繰り返したため、心拍数は、何れの個体も120〜160拍/分で周期的に変動していた。なお、第1例の緬羊は分娩直前に摂食したため心拍数が比較的高くなっていた。何れの個体も、第1新生子の娩出の約10分前に、心拍数が約95拍/分に一過的に減少した。
そこで、このような知見に基づき心拍数弁別回路13の閾値を、心拍数減少率で分娩以前の平時での心拍数に対し30〜40%程度に相当する値、例えば30拍/分に相当する値に設定しておく。心拍数検知回路12で心拍数が検知されると、心拍数弁別回路13が次のように動作する。先ず、この1分間毎の心拍数が、メモリに順次記憶される。そこに記憶されている前回及び今回の心拍数に比例する電圧がオペアンプに差動入力される。オペアンプでその差が閾値を超えていなければ、信号電流を流さない。所定の時間経過すると、タイマー11から次の指示が出て、同様に心拍数が検知され、この一連の動作が繰返えされる。一方、心拍数が閾値を超えて減少しているときに、オペアンプから信号電流が流れる。このようにして心拍数弁別回路13が、心拍数減少を弁別する。急激な運動や給餌による心拍数上昇の後に平時の心拍数へ戻る場合のように日常活動の許容範囲の心拍数減少であって急激な心拍数上昇と心拍数減少とを伴うときには、フィルタ14が、そのような母体や胎子の危機に無関係な異常動作信号を除去する。
正常な信号電流を受けた送信回路15が、その信号電流を変調して送信アンテナ16から分娩直前の電波信号を発信する。
送信アンテナ16から発信された電波信号は、通信装置20側の受信アンテナ21を経て受信回路22で受信され、警報音回路24によりスピーカー25から分娩開始が切迫し分娩直前であることを警告する音声、例えば1秒間隔のチャイム音が流されて通知される。又はそのことを、ネットワーク接続回路23を通じてインターネットや携帯電話で、飼育者等に通信されて通知される。このような通知により、飼育者等は、心拍数が減少したから数10秒〜数10分以内に分娩が開始するはずであることを知ることができる。
なお心拍計3が、中継器としての回路ボックス10内で、有線で繋がった例を示したが、心拍計3と無線機とが一体化し、心拍計3が無線を介して回路ボックス10の回路に繋がっていてもよい。心拍計3と回路ボックス10とネットワーク接続回路23を含む通信装置20とが一体化していてもよい。
タイマー11により、心拍数を定時に、定時間間隔毎に、又はリアルタイムに測定してもよい。心拍数すなわち1分当たりの心拍回数は、所定時間中の拍数から算出しても、得られる。
また、心拍計3は、動物母体5の体表に付されたり皮膚や血管に挿入されたりする脈波の感圧センサであってもよく、耳孔に挿入される脈波の感圧センサであってもよい。回路ボックス10を収めたバッグ2は首輪に取り付けられていてもよい。
本発明の別な実施の形態は、動物母体の体温の低下に基づく分娩予兆を通知し、その後に、前記のような心拍数減少に基づく分娩直前を通知するというものである。そのような形態として、電極3a・3bを用いた心拍数測定と温度センサ4を用いた耳温測定との両方に基づく分娩監視装置1B(図4参照)を用いた分娩監視方法を実施する一例を示す。
分娩監視装置1Bは、図4に示すとおり、動物母体5側に、前記の図1に示したのと同様な心拍計3に繋がる回路ボックス10と、温度センサへ接続された別な回路ボックス30とを有している。心拍計3に繋がる回路ボックス10は、前記と同様な構成である。一方、温度センサへ接続された別な回路ボックス30は、以下のような構成である。
温度センサ4に繋がる回路ボックス30は、図4のブロック回路図のとおり、電源37とタイマー31と伸縮可能なリード線を介して温度センサ4とへ繋がる検温回路32、温度弁別回路33、フィルタ34、送信回路35が、その順で接続されて内蔵されたものである。送信回路35は、回路ボックス30の外面に印刷された送信アンテナ36に接続されている。
温度センサ4は、金属酸化物や半導体であるサーミスタからなる熱型赤外線センサであり、温度に応じてそれの電気抵抗が変化することを利用して耳温を測定するというものである。タイマー31は、所定の時間毎に検温回路32を動作させるタイムスイッチである。検温回路32は、温度センサ4のサーミスタ電気抵抗値に応じた電流を検知する回路である。温度弁別回路33は、そのデータを順次記憶するメモリと、記憶されている今回と前回とのデータに比例した電流信号を差動入力するオペアンプとからなる。フィルタ34は、温度低下が1日の変動域の範囲内であって一時的な場合に、その信号電流を除去するフィルタ回路である。
この温度センサ4は、図2に示すように、例えば心拍計3に接続された電極3a・3bと共に、緬羊5に取り付けられる。リード線の先端の温度センサ4を、緬羊5の外耳に挿入し、鼓膜近傍に設置する。温度センサ4が動いたり抜け落ちたりしないように、スポンジ製耳栓で温度センサ4を留める。耳から導出し途中がカールコードのように伸縮可能なリード線は、余裕を持たせつつ、回路ボックス30内の検温回路に接続される。回路ボックス10及び30を収めたバッグ2を、緬羊5の背にベルトで固定して取り付ける。
タイマー31の指示に応じ所定の時間毎に、温度センサ4のサーミスタ電気抵抗値に応じた電流を測定し、そのアナログ信号を検温回路32へ出力し、耳温である鼓膜温を検知する。
鼓膜温は、一般に妊娠前よりも分娩の数日前の方が高く、また朝方よりも夕方の方が若干高く、摂食や気温等に応じ多少の変動域を有するが、分娩の数〜2日前の平時での鼓膜温の1日毎の変動パターンは、略同じである。鼓膜温は、動物種や個体によって多少異なるが、分娩の12〜36時間前、概ね24時間前に、この平時の鼓膜温の変動域よりも、0.3〜1℃程度、平均0.5〜1℃程度低下する。緬羊の場合、約0.5℃である。
これに合せて温度弁別回路33の閾値を例えば0.5℃に相当する値に設定しておく。検温回路32で鼓膜温が検知されると、温度弁別回路33が次のように動作する。先ず、この鼓膜温が、メモリに順次記憶される。そこに記憶されている先程検知した当日の最新の耳温と分娩以前の平時例えば前日同時刻での耳温の両値に比例する電流が、オペアンプに差動入力される。オペアンプでその差が閾値を超えていれば、信号電流を流す。このようにして温度弁別回路33が、温度低下を弁別する。所定の時間が経過すると、タイマー31から次の指示が出て、同様に鼓膜温が検知される。
鼓膜温の1日の変動パターンの変動域の範囲幅内である場合、フィルタ34が、この信号電流の通過を阻止する。一方、この信号電流が通過したら、それを受けた送信回路35が、信号電流を変調して送信アンテナ36から電波信号を発信する。
送信アンテナ36から発信された電波信号は、管理棟に設置され図1と同様な通信装置20の受信アンテナ21を経て受信回路22で受信され、警報音回路24によりスピーカー25から、分娩開始が数時間〜数10時間後に迫っているという分娩予兆を予告する音声、例えば5秒間隔のチャイム音で通知される。又はそのことを、ネットワーク接続回路23を通じてインターネットや携帯電話で、飼育者等に通信されて通知される。その後、飼育者は、前記の態様のような心拍計3による分娩直前の警告が発せられるまでの間に、分娩管理の態勢を整えることができる。
なお、温度センサで鼓膜温を測定して分娩予兆を通知する代わりに、サーミスタ、赤外線検知センサ、熱電対又は測温抵抗体のような温度センサで、膣温等の体温を測定してその低下を検知して分娩予兆を通知してもよい。
本発明のさらに別な実施の形態は、前記のような動物母体の心拍数の減少に基づく分娩直前を通知した後に、その母体から胎子が娩出し始めて母体の外陰部が開き始めたことに基づく分娩開始を通知するというものである。そのような形態として、図5に示すように、電極3a・3bを用いた心拍数測定と、発振器47及び受信器48を用いた外陰部の開きの測定との両方に基づく分娩監視装置1Cを用いた分娩監視方法を実施する一例を示す。
分娩監視装置1Cは、図5に示すとおり、動物母体5側に、前記の図1に示すような電極3a・3bに接続された心拍計3に繋がる回路ボックス10と、発振器47、受信器48に繋がる別な回路ボックス40と、図1に示すような管理棟側の通信装置20とを有している。電極3a・3bに接続されている回路ボックス10は、前記と同様な構成である。一方、発振器47、受信器48に繋がる回路ボックス40は、以下のような構成である。
発振器47は電磁誘導のための発振コイルであり、鎖線の47aが電磁波の発振域である。受信器48は発振器47から発振された発振電磁波を検知して交流を生ずる受信コイルであり、鎖線の48aが電磁波の受信域である。発振コイル47には、電源45に繋がるローカル発振回路41、クロックパルス発生回路43に繋がる変調回路42、及び増幅回路44が接続されている。受信器48には、電源45に繋がる増幅回路50、設定回路51、フィルタ52、及び送信回路53を経て送信アンテナ56が接続されている。送信アンテナ56は回路ボックス40の外面に印刷されている。フィルタ52は、排尿などによる一時的な信号電流を除去するフィルタ回路である。送信回路53は、送信アンテナ56に接続され、通信装置20に、無線で繋がっている。
発振器47と受信器48とは、前記の心拍計3に接続された電極3a・3b(図2参照)と共に、図6に示すように、緬羊5に取り付けらる。動物母体の雌緬羊5の腰背部へ、回路ボックス40を接着剤で貼り付ける。回路ボックス40に伸縮コード46で繋がる発振器47は一方の外陰部57に接着され、伸縮コード49で繋がる受信器48はもう一方の外陰部58に発振器47と対向するように接着される。
このとき発振器47と受信器48とは、その間隔距離が各出力電力及び受信感度との関連で以下のように調整されて、距離センサとして機能する。図6のように分娩開始前の平時における両外陰部57と58とが閉じた状態で、電磁波の発振域47aと電磁波の受信域48a(図5参照)とが重なり合うように発振器47と受信器48との距離を調整する。このとき発振器47から発振された発振電磁波を受信器48が検知できる。また、分娩直前時の両外陰部57と58の開いた状態(不図示)で、発振電磁波を受信器48が検知する感度が明瞭に落ちて、電磁波の発振域47aと電磁波の受信域48aとが離れるように発振器47と受信器48との距離を調整する。このとき、発振器47からの発振電磁波を受信器48が検知できなくなる。
その距離は動物によって異なる。多くの動物の胎子は、分娩時、前肢、頭部、胴体部、後肢の順で母体から出る。頭部は、その中でも最も径が大きく、産道を通るのに時間がかかる。そこで分娩直前時の両外陰部の開き状態を、胎子の頭部の径よりも小さい数値、すなわち前肢が出始めるタイミングの両外陰部の距離を、発振器47と受信器48との間の距離に設定する。動物ごとに多数の新生子の頭部の大きさを測定した平均的測定値から、その距離は、牛や馬のような大動物で12cm前後、豚や緬羊や山羊のような中動物で5〜7cm前後、兎やラットやミンクのような小動物で1〜2cm、また犬や猫のようなペットは大小様々であるが概ね3〜5cm程度が適当である。
電源45から電力供給を受けてローカル発振回路41が発振し、クロックパルス発生回路43から発生するパルス信号にしたがって、定時間おきに変調回路42から交流変調信号が出され増幅回路44にて増幅され、発振コイル47から電磁波を発振する。
分娩開始前の平時においては、両外陰部57と58とが閉じて発振器47と受信器48との間隔距離が近くなっているので、受信器48で電磁波を受け起電流が流れ、増幅回路50にて増幅される。設定回路51にて閾値以上であると判別されると、分娩が開始していないという信号が送信回路53を経て送信アンテナ56から発信される。排尿や虫の飛来等で一時的に受信器48の起電流が弱まり、あるいは停止するときには、フィルタ52にてそのような異常動作信号を除去する。
分娩直前には、両外陰部57と58とが開いて発振器47と受信器48との間隔距離が離れ、電磁波の受信域48aが電磁波の発振域47aから離れるので受信器48の起電流が停止する。設定回路51にて閾値以下であると判別されると、分娩が開始されたという電波信号が送信回路53を経て送信アンテナ56から発信される。
電波信号は、前記と同様に図1に示す通信装置20により受信される。電波信号が受信回路22で受信されると、スピーカー25から分娩開始を警告する音声、例えばブザー音で通知される。又はそのことを、ネットワーク接続回路23を通じてインターネットや携帯電話で、飼育者等に通信されて通知される。このような通知により、飼育者等は、分娩が開始した動物母体5のところへ駆け付けることができる。
分娩監視装置は、温度センサ4と、心拍計3に接続された電極3a・3bと、発振器47及び受信器48とを同時に装着していてもよい。
以下に、分娩監視装置を動物に装着する具体例を示す。用いた分娩監視装置1Dは、図7で示されるもので、電極3a・3bを用いた心拍数測定及び温度センサ4を用いた耳温測定の両方に基づく分娩監視装置1B(図4参照)と、電極3a・3bを用いた心拍数測定及び発振器47・受信器48を用いた外陰部の開きの測定の両方に基づく分娩監視装置1C(図5参照)とを統合した構成を有するものである。この分娩監視装置1Dを用いて、飼育中の妊娠後期のサフォーク種経産雌緬羊2頭の分娩を監視する。
なお、図7中、電極3a・3bは、心電測定用の1対の釣り針型の針電極である。温度センサ4は、鼓膜温を測定するサーミスタである。また、発振器47及び受信器48は、磁性コア(2mm×10mm、厚さ2mm)に巻いたコイルとし、発振器コイル47と受信器コイル48との距離を、雌緬羊の場合に最も適切であると想定された5cmに調整したものである。
自然交配を行い交尾行動の肉眼観察とノンリターン法とから種付け日を確認する。種付け日を基に算出した分娩予測日から1週間程度前に、同時期に妊娠した他の雌緬羊と共に屋外飼育から分娩室に移動し3〜4日間馴らし飼育する。その後、心尖部−心基部(A−B)双極誘導法に従う位置に、釣り針型の両電極3a・3bを緬羊2頭に取り付ける。
また、温度センサ4を雌緬羊5の外耳から挿入する。さらに発振器47及び受信器48とそれらが接続された回路ボックス40とを雌緬羊5に装着する。何れの個体も、妊娠経過は順調であった。
鼓膜温は分娩の1日前まで一定の変動パターンで推移していたが、分娩の1日前にその鼓膜温の変動域から0.5℃以上低下した。その鼓膜温低下が、1日の温度変動パターンの変動域を有意に超えていたと温度弁別回路33が検知し、送信回路35により電波信号を発信し、それを通信装置20で受信したとき、スピーカー25から分娩の36〜12時間前であるという予告音声が牧場管理棟で流れる。それを聞いた飼育者は、分娩管理に備える。
何れの雌緬羊の個体も、分娩直前・直後の心拍数を示す図3のように、分娩の1時間〜10分前の心拍数は120〜160拍/分で周期的に変動し、第1新生子の娩出の約10分前の心拍数は約95拍/分に一過的に減少していた。分娩監視装置1Dの作動状態を、図3に対応させて説明すると、この一過的な心拍数の減少を、心拍数弁別回路13が検知し、送信回路15により電波信号を発信し、それを管理棟の通信装置20で受信したとき、スピーカー25から分娩開始直前であるという警告音声が流れる。
それを聞いた飼育者が、直ちにこの緬羊のところへ駆け付け、緬羊を見守っていると、その外陰部が開き始めたという分娩開始を警告する音声が、スピーカー25から流れる。丁度、第1新生子の前肢が母体から出始める良いタイミングで適切な分娩介助を行なうことができる。
第1新生子娩出直後に、雌緬羊の心拍数はもとのレベルまで増加した。心拍数弁別回路13をリセットした後、第2新生子以降の娩出の約2〜3分前に、心拍数が減少した。同様に、この減少を検知したとき、畜舎のスピーカー25から分娩開始直前であるという警告音声が流れ、飼育者が分娩を見守る中、第1新生子同様に前肢が母体から出始める良いタイミングで適切な分娩介助を行なうことができる。
このように飼育者は、丁度良いタイミングで全ての新生子の分娩に立ち会い、適切な分娩介助等の処置をすることができる。しかも時間的な無駄がない。
本発明の分娩監視装置は、大動物(牛、馬等)や中動物(豚、緬羊、山羊等)や小動物(兎、ラット、ミンク等)のような家畜、動物園等で飼育される展示動物、及びペットのような各種動物の分娩監視、人間の分娩監視に利用することができる。
本発明を適用する分娩監視装置の一実施態様であって、心拍数の測定を利用する装置のブロック回路図である。
本発明を適用する分娩監視装置を用い、心拍数又はさらに体温の測定を利用する分娩監視方法の一態様を示す図である。
本発明を適用する分娩監視装置を用いた分娩監視方法を実施する際の雌緬羊の分娩直前・直後の心拍数の経時変化を示す図である。
本発明を適用する分娩監視装置の別な実施態様であって、心拍数と体温との測定を利用する装置のブロック回路図である。
本発明を適用する分娩監視装置のさらに別な実施態様であって、心拍数と外陰部の開きとの測定を利用する装置のブロック回路図である。
本発明を適用する分娩監視装置を用い、外陰部の開きの測定を利用する分娩監視方法の一態様を示す図である。
本発明を適用する分娩監視装置のさらに別な実施態様であって、心拍数と体温と外陰部の開きとの測定を利用する態様を示す模式図である。
符号の説明
1A・1B・1C・1Dは分娩監視装置、2はバッグ、3は心拍計、3aは陽極、3bは陰極、4は温度センサ、5は分娩を監視すべき動物母体、10は回路ボックス、11はタイマー、12は心拍数検知回路、13は心拍数弁別回路、14はフィルタ、15は送信回路、16は送信アンテナ、17は電源、20は通信装置、21は受信アンテナ、22は受信回路、23はネットワーク接続回路、24は警報音回路、25はスピーカー、30は回路ボックス、31はタイマー、32は検温回路、33は温度弁別回路、34はフィルタ、35は送信回路、36は送信アンテナ、40は回路ボックス、41はローカル発振回路、42は変調回路、43はクロックパルス発生回路、44は増幅回路、45は電源、46は伸縮コード、47は発振器、47aは電磁波の発振域、48は受信器、48aは電磁波の受信域、49は伸縮コード、50は増幅回路、51は設定回路、52はフィルタ、53は送信回路、56は送信アンテナ、57・58は外陰部である。