JP4486881B2 - 歯面疲労強度に優れた歯車 - Google Patents

歯面疲労強度に優れた歯車 Download PDF

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Description

本発明は、自動車、建設車両、産業機械などの構成部品に用いられる、歯面疲労強度に優れた歯車に関する。
自動車の変速機等には、主にJIS SCr420、SCM420等の肌焼鋼を素材として用い、歯車形状に成型後、浸炭焼入れ焼戻し等による表面硬化処理を施した歯車が使用されている。このような歯車においては、自動車の高出力化および燃費向上等のため、軽量化及び歯車の高強度化が強く求められている。従来、歯車の強度を高めるために歯車の歯元曲げ疲労強度を向上させる技術の開発がなされてきたが、近年においては、ハードショットピーニングの実用化に伴い、歯車の高強度化の重点が、歯車の歯元曲げ疲労強度から歯面疲労強度に移行しつつある。
ところで、歯面疲労強度の改善には、焼戻軟化抵抗を向上させることが有効であるとされており、従来、焼戻軟化抵抗を向上させる手段としては、歯車の材料である鋼の成分を改良した技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、Siを1%以下、Crを1.5〜5.0%添加した鋼が開示されている。また、特許文献2には、Siを0.40〜1.50%、Mnを0.30〜2.00%、Crを0.50〜3.00%添加した鋼が開示されている。さらに、特許文献3には、Siを0.7〜1.5%、Crを0.1〜3.0%、Moを0.05〜1.5%添加した鋼が開示されている。
上述のように、焼戻軟化抵抗を向上させる鋼の成分としてSi、Cr、Mn、Mo等の元素が有効であることが知られているが、より焼戻軟化抵抗を向上させることにより歯面疲労強度に優れた肌焼鋼およびその歯車が求められているのが現状である。
特開平7−242994号公報 特開2001−329337号公報 特開2003−231943号公報
以上の状況に鑑み、本発明の目的は、より効果的に焼戻軟化抵抗を向上させることにより歯面疲労強度に優れた歯車を提供するものである。
上述のとおり、鋼にSi、Cr、Mn、Mo等を増量添加することにより焼戻軟化抵抗を向上させることができることは知られているところであるが、本発明者らはさらに焼戻軟化抵抗を向上させるために、下記事項が少なくとも必要であることを知見し、本発明を完成するに至った。
(1) Si、Cr、Mn、Mo以外にVも焼戻軟化抵抗を向上させる効果を有すること。
(2) 上記5元素(Si、Cr、Mn、Mo、及びV)の各々の焼戻軟化抵抗の向上効果を加味した5元素の総量が式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)で148以上であること。
(3) 上記5元素の炭化物の析出強化による焼戻軟化抵抗向上では不十分であり、上記5つの添加元素のマルテンサイト組織中の固溶強化により、焼戻軟化抵抗をより効果的に向上させることができること。
(4) 焼戻軟化抵抗を向上させるためには、浸炭焼入れ等における焼入れ処理を高温で行い、前記処理を行った歯車の表面から50μmまでの深さがX線回折半価幅で6.4度以上有すること。
本発明の要旨は以下のとおりである。
1) 質量%で、
C:0.1〜0.3%、
Si:1.0〜2.0%、
Mn:0.3〜2.0%、
S:0.005〜0.05%、
Cr:1.0〜2.6%、
Mo:0.8〜4.0%、
V:0.1〜0.3%、
Al:0.001〜0.2%、
N:0.003〜0.03%
を含有し、
P:0.03%以下に制限し、残部が鉄と不可避的不純物であり、31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)が148以上である鋼からなり、歯車形状に成型加工して浸炭処理あるいは浸炭浸窒処理を施した後の歯車表面から50μm深さのX線回折半価幅が6.4度以上であることを特徴とする歯面疲労強度に優れた歯車。ここでのX線回折半価幅とは微小部X線残留応力測定装置(Cr管球)を用いてα−Feの(211)面を60秒間かけて測定したピークの半価幅をいう。
2)前記鋼が、更に、質量%で、
Nb:0.2%以下、
Ti:0.2%以下
の内の1種または2種を含む1)記載の歯面疲労強度に優れた歯車。
以上述べたごとく、より効果的に焼戻軟化抵抗を向上させることにより歯面疲労強度に優れた歯車を提供することができ、これを用いることにより、自動車、建設車両、産業機械などの高出力化および燃費向上等に大きく寄与することが可能になる。
従来、鋼にSi、Cr、Mn、Mo等の元素を増量添加することにより焼戻軟化抵抗が向上することは知られているが、本発明者らは、該元素を過剰に添加すると炭化物が多量に析出したり、炭化物の平均径の増大をもたらしたりして、焼戻軟化抵抗をかえって悪化させるのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、Si、Cr、Mn、Mo等の添加元素を鋼中に極力固溶させることにより、効果的に歯車の歯面疲労強度を向上させることができるのではないかと考えた。
また、Vも同様に鋼に添加し、極力固溶させることにより、焼戻軟化抵抗を増大させることができると考えた。
そこで、本発明者らは、Si、Cr、Mn、Mo、V等の元素を適量添加した鋼を素材として用いて歯車を製造し、続いて、該添加元素を固溶させるために、高温で浸炭焼入れ等の焼入れを行うことにより、焼戻軟化抵抗をさらに向上させることができるのではないかと考え、Si、Cr、Mn、Mo、V等の元素の添加量を変化させた各鋼を素材として用いて歯車の成型加工をそれぞれ行い、その後、歯車の表面を硬化させるために高温での浸炭焼入れ処理と焼戻し処理とを行うことによって各歯車を製造し、各歯車における歯面の疲労寿命を調べた。また、上述の添加元素のマルテンサイト組織中の固溶強化によって歯面の疲労寿命が改善されたかどうかを確認するために、歯車の表面から50μm深さのX線回半価幅をマルテンサイト組織中の固溶強化分の指標として、製造した各歯車の表面から50μm深さのX線回折半価幅を微小部X線残留応力測定装置により測定した。
その結果、以下の事項が明らかになった。まず、歯車の歯面疲労強度の向上を達成するには、単にSi、Cr、Mn、Mo等の添加量を増加させた鋼を用いるだけでは不十分であることが明らかになった。すなわち、焼戻軟化抵抗の向上には、従来のSi、Cr、Mn、Moに加えてVの添加も有効であることや、これらの添加元素を炭化物として析出させるだけでは、歯車の歯面疲労強度の向上には不十分であり、該添加元素が鋼中に固溶されることによって効果的に歯車の歯面疲労強度向上につながることを明らかにした。このことから、金属学的には、該添加元素の析出強化を介しての焼戻軟化抵抗の増加では歯車の歯面疲労強度向上には不十分であり、該添加元素のマルテンサイト組織中の固溶強化を介しての焼戻軟化抵抗の増加分が、効果的に歯車の歯面疲労強度の向上に寄与するのではないかと考えられた。
また、C、Si、Mn、S、Cr、Mo、V、Al、N、及びPを所定量含み、残部が鉄、不可避的不純物等からなる鋼においては、Si、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が、式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)が148以上であるものが、より効果的に焼戻軟化抵抗を向上させることができることが明らかになった。
さらに、このような鋼を素材として用い、歯車形状に成型加工した後、歯車の表面に対して真空浸炭処理、浸炭浸窒処理等の表面硬化処理を施した場合、歯車の表面から50μm深さのX線回半価幅が6.4度以上ある歯車は、焼戻軟化抵抗がさらに向上すること、すなわち、優れた歯面疲労強度を有することが明らかになった。
以上のことから、C、Si、Mn、S、Cr、Mo、V、Al、N、及びPを所定量含み、残部が鉄、不可避的不純物等からなり、Si、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が、式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)が148以上である鋼は、歯面疲労強度に優れた肌焼鋼として有用であるといえる。
また、上述の肌焼鋼を素材として用い、歯車形状に成型加工した後、歯車の表面に対して真空浸炭処理、浸炭浸窒処理等の表面硬化処理を施すことにより得られた歯車から、歯車の表面から50μm深さのX線回半価幅が6.4度以上ある歯車を選定することにより、歯面疲労強度に優れた歯車を得ることができることも示唆された。従って、このようにして得られた歯車は、該歯車の駆動面と被駆動面とが滑りを伴いながら高面圧で接触することにより発生する摩擦熱によって、歯面の表面近傍が300℃程度まで上昇し、結果として生じる焼戻軟化に対しても抵抗性を有し、さらには、自動車、建設車両、産業機械などの高出力化および燃費向上等に大きく貢献できると考えられる。なお、本発明に係る、歯面疲労強度に優れた歯車は、上述のように得ることとしてもよいが、浸炭処理あるいは浸炭浸窒処理した後、さらにショットピーニング処理、サブゼロ処理、WPC処理、WJP処理等を施して得ることとしてもよい。これにより、歯車の表面における残留オーステナイトをマルテンサイトに変態せしめ、焼戻軟化抵抗を増大させることが可能となる。
次に、本発明の鋼(肌焼鋼)に含ませる各化学成分の質量%の範囲について説明する。
C:0.1〜0.3%
Cは鋼の強度を保持するのに必須の元素であり、その含有量が芯部の強度を決定し、有効硬化層深さにも影響する。そこで、本発明ではC量の下限を0.1%として芯部強度を確保している。しかし、その含有量が多すぎると靭性が低下するため0.3%を上限とした。
Si:1.0〜2.0%
Siは焼戻軟化抵抗を向上させるのに有効な元素であり、1.0%の添加により効果が得られる。そこで、本発明ではSi量の下限を1.0%とした。しかし、その含有量が2.0%を超えると浸炭性が劣化するため、2.0%を上限とした。
Mn:0.3〜2.0%
Mnは焼入性を向上させるのに有効な元素であり、また焼戻軟化抵抗を向上させるのにも有効な元素である。更に鋼中に不可避的に混入する不純物元素であるSを、MnSとして固定することによって無害化させる作用も有する。従って、Mn量としては0.3%以上必要であると考えられる。そこで、本発明ではMn量の下限を0.3%とした。しかし、その含有量が2.0%を超えるとサブゼロ処理を実施しても防止できないほどに浸炭層の残留オーステナイトを増加安定させてしまい、焼戻軟化抵抗がかえって悪化するため2.0%を上限とした。
S:0.005〜0.05%
Sは不可避的に混入する不純物元素であるが、被削性の観点から0.005%以上含有することが必要である。そこで、本発明ではS量の下限を0.005%とした。しかしながら、その含有量が0.05%を超えると鍛造性を阻害するため0.05%を上限とした。
Cr:1.0〜2.6%
Crは焼入性を向上させるのに有効な元素であり、また焼戻軟化抵抗を向上させるのにも有効な元素であり、1.0%以上の添加により効果が得られる。そこで、本発明では、Cr量の下限を1.0%とした。しかし、その含有量が2.6%を超えると素材に存在するCr炭化物が高温浸炭によっても完全に固溶できず、焼戻軟化抵抗がかえって悪化するため2.6%を上限とした。
Mo:0.8〜4.0%
Moは焼入性を向上させるのに有効な元素であり、また焼戻軟化抵抗を向上させるのにも有効な元素であり、0.8%以上の添加により効果が得られる。そこで、本発明ではMo量の下限を0.8%とした。しかし、その含有量が4.0%を超えると素材に存在するMo炭化物が高温浸炭によっても完全に固溶できず、焼戻軟化抵抗がかえって悪化するため4.0%を上限とした。
V:0.1〜0.3%
Vは焼戻軟化抵抗を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上の添加により効果が得られる。そこで、本発明ではV量の下限を0.1%とした。しかし、その含有量が0.3%を超えると素材に存在するV炭化物が高温浸炭によっても完全に固溶できず、焼戻軟化抵抗がかえって悪化するため0.3%を上限とした。
Al:0.001〜0.2%
AlはNと化合物を形成することによる結晶粒微細化の効果があるため0.001%以上は必要であると考えられる。そこで、本発明ではAl量の下限を0.001%とした。しかしながら、0.2%を超えると切削性を著しく阻害するため0.2%を上限とした。
N:0.003〜0.03%
Nは不可避的に混入する元素であるが、AlとNと化合物を形成することによる結晶粒微細化の効果もあるため0.003%以上は必要であると考えられる。そこで、本発明ではN量の下限を0.003%とした。しかしながら、その含有量が0.03%を超えると鍛造性を著しく阻害するため0.03%を上限とした。
P:0.03%以下に制限
Pは不可避的に混入する不純物元素であり、粒界に偏析して靭性を低下させるため0.03%以下に制限する必要がある。そこで、本発明ではP量を0.03%以下に制限した。
その他、本発明の鋼に更なる結晶粒の微細化や結晶粒の粗大化防止を目的として、上述の化学成分以外にNb、Ti等をさらに添加することとしてもよい。この場合、これらの元素は熱間圧延、熱間鍛造、切削加工等の生産性を阻害しない下記の範囲で含有することが好ましい。
Nb:0.2%以下、Ti:0.2%以下の内の1種または2種
Nb、TiはNと化合物を形成することによる結晶粒微細化の効果があるので、Nb、Tiのうち1種または2種を含有することが好ましい。しかしながら、各元素とも0.2%を超えて含有させても結晶粒微細化の効果は飽和して経済性を損ねるため0.2%を上限とした。
次に、本発明の鋼におけるSi、Mn、Cr、Mo、及びVの総量について説明する。本発明においては、Si、Mn、Cr、Mo、及びVの総量は、以下の式で148以上含有することが必要条件となる。
これは、上述のように、本発明者らが鋭意研究開発した結果、Si、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が、下記の式で148以上含有する場合に、歯面疲労強度に優れた歯車を得ることができることを知見したからである。なお、下式左辺でSi、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の係数がそれぞれ異なるのは、元素によって焼戻軟化抵抗の向上に寄与する程度が異なるからである。
31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)≧148
次に、本発明に係る歯車が、歯車表面から50μm深さのX線回折半価幅で6.4度以上有することを条件とした理由について説明する。
上式を満足しつつ歯車表面から50μm深さのX線回折半価幅が6.4度以上を確保することによって、歯面疲労強度に優れた歯車を実現するに至った。このことから、単に上式だけを満足した鋼を用いて歯車を形成し、一般的な930℃での浸炭焼入れ焼戻しを施しても、歯車の表面から50μm深さのX線回折半価幅が6.4度以上となるとは限らず、X線回折半価幅が6.4度以上となる表面硬化処理を選定することが肝心であると考えた。また、表面硬化処理前の段階ではMn、Cr、Mo、Vのいくぶんかは炭化物として存在しているが、Mo、V等の含有量が多くなるにつれて一般的な930℃における浸炭では該炭化物の固溶が不十分となり、X線回折半価幅が6.4度以上を確保できなくなる。したがって、望ましくは950℃以上、場合によっては1000℃以上の浸炭温度で該炭化物を固溶させる必要があると考えられる。さらに、上記式左辺の値が大きくなるにつれて残留オーステナイト量が徐々に多くなる傾向があり、それに伴ってX線回折半価幅が小さくなる傾向がある。このため、上式の値が130以上となる場合においてはサブゼロ処理やショットピーニング処理をさらに施し、該残留オーステナイトをマルテンサイトに変態せしめ、X線半価幅を6.4度以上にさせる必要があると考えられる。
そこで、本発明では、歯車表面から50μm深さのX線回折半価幅が6.4度以上有することを条件とした。なお、上述のX線回折半価幅とは、微小部X線残留応力測定装置(Cr管球)を用いてα−Feの(211)面を60秒間かけて測定したピークの半価幅を意味する。
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
表1に示す化学組成を有する各熱間圧延鋼材に球状化焼鈍を施して被削性を確保した後、ピッチ円直径65.8mm、モジュール1.5、歯数35のドライブギアとドリブンギア(試験No.1〜9及び11〜15)を製作した
Figure 0004486881
次に、ギアの有効硬化層深さが0.6mmになる加工条件にて以下に述べる表面硬化処理を施した。試験No.1〜3、5、6、11〜15においては1000℃での真空浸炭焼入れを行い、その後200℃で90分間焼戻しを行った。試験No.7においては1000℃での真空浸炭焼入れを行い、液体窒素で60分間サブゼロ処理を行ない、最後に200℃で90分間焼戻しを行った。試験No.4においては950℃で120分間のガス浸炭処理と860℃で30分間の浸炭浸窒処理とを順次行った後焼入を行い、その後200℃で90分間焼戻しを行った後、アークハイト1.0のショットピーニング処理を施した。試験No.8、9においては1050℃での真空浸炭焼入れを行なった後、液体窒素で60分間サブゼロ処理を行ない、最後に200℃で90分間焼戻しを行った
その後、上述の処理を施した試験No.1〜9及び11〜15について、Si、Cr、Mn、Mo等の添加元素の固溶強化による焼戻軟化抵抗の増加分を評価した。なお、焼戻軟化抵抗の評価は、通常、マイクロビッカース硬度計等を用いて微小な領域の硬さを測定することにより行われるが、この評価方法では析出による強化分と固溶による強化分との識別が不可能であるため、固溶による強化分のみを測定することができない。そこで、本実施例においては、マルテンサイト組織中の固溶強化による増加分が歯車の歯面疲労強度の向上に重要であるという知見に基づいて、マルテンサイト組織中の固溶強化による増加分の指標として、歯車のギア表面からの50μm深さのX線回折半価幅を微小部X線残留応力測定装置により測定し、焼戻軟化抵抗の増加分を評価した。なお、試験No.1〜9及び11〜15のギア表面から50μm深さのX線回折半価幅は、微小部X線残留応力測定装置(Cr管球)を用いてα−Feの(211)面に対するピークの半価幅を60秒間測定することにより求めた。
また、試験No.1〜9及び11〜15の歯面の疲労寿命を調べるため、動力循環式歯車疲労試験機を用いて試験負荷200N・mにおける寿命(回)を調査した。なお、寿命は歯面ピッチングに伴う振動を検知することによって計測した。
以上の試験結果を表2に示す。
Figure 0004486881
この結果から、本発明例の試験No.4、5、7〜9は100万回以上の寿命を有することから、優れた歯面疲労強度を有していることが明らかになった。これは、鋼に含まれる化学成分の質量%が所定の範囲内(Cは0.1〜0.3%の範囲内、Siは1.0〜2.0%の範囲内、Mnは0.3〜2.0%の範囲内、Sは0.005〜0.05%の範囲内、Crは1.0〜2.6%の範囲内、Moは0.8〜4.0%の範囲内、Vは0.1〜0.3%の範囲内、Alは0.001〜0.2%の範囲内、Nは0.003〜0.03%の範囲内、及びPは0.03%以下)にあること、鋼におけるSi、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)で148以上であること、及び、歯車のギア表面からの50μm深さのX線回折半価幅が6.4以上有することに起因するものであると考えられた。
これに対して比較例の試験No.11、12は鋼におけるSi、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)で148以上であるにもかかわらず、100万回未満の寿命で不十分であった。これは、高Si含有量による浸炭不良によりギア表面のC濃度が0.3〜0.4%と低くなり、このためX線回折半価幅が6.4度未満になったことに起因するものであると考えられた。
比較例の試験No.13およびNo.14はX線回半価幅が6.4以上であるにもかかわらず、100万回未満の寿命で不十分であった。これは、鋼におけるSi、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)で148未満であるため、焼戻軟化抵抗の低下をもたらしたのではないかと考えられた。
比較例の試験No.15は鋼におけるSi、Mn、Cr、Mo、及びVの総量が式:31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)は148未満であり、100万回未満の寿命で不十分であった。試験後の調査の結果、比較例の試験No.15においては、残留オーステナイトが多量に残存しているのが確認されたことから、試験No.15は残留オーステナイトが多量に存在することにより、X線回折半価幅が6.4度未満となり、焼戻軟化抵抗の大幅な低下をもたらしたのではないかと考えられた

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.1〜0.3%、
    Si:1.0〜2.0%、
    Mn:0.3〜2.0%、
    S:0.005〜0.05%、
    Cr:1.0〜2.6%、
    Mo:0.8〜4.0%、
    V:0.1〜0.3%、
    Al:0.001〜0.2%、
    N:0.003〜0.03%
    を含有し、
    P:0.03%以下に制限し、残部が鉄と不可避的不純物であり、31Si(%)+15Mn(%)+23Cr(%)+26Mo(%)+100V(%)が148以上である鋼からなり、歯車形状に成型加工して浸炭処理あるいは浸炭浸窒処理を施した後の歯車表面から50μm深さのX線回折半価幅が6.4度以上であることを特徴とする歯面疲労強度に優れた歯車。ここでのX線回折半価幅とは微小部X線残留応力測定装置(Cr管球)を用いてα−Feの(211)面を60秒間かけて測定したピークの半価幅をいう。
  2. 前記鋼が、更に、質量%で、
    Nb:0.2%以下、
    Ti:0.2%以下
    の内の1種または2種を含む請求項記載の歯面疲労強度に優れた歯車。
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