本発明は、あるエネルギー分布をもつ電荷キャリアを有する導体を含み、前記導体との界面を有し、該界面の近傍に前記電荷キャリアの輸送を制御するために電気的に変更可能なポテンシャル障壁を有する材料を含む導体−材料系である。
たとえば図4、図5、図6に示したある実施形態では、前記導体−材料系は導体−絶縁体系であり、導体10はあるエネルギー分布をもつエネルギーの高い電荷キャリアを有し、絶縁体12は酸化物、窒化物、酸窒化物などのようなさまざまな材料で形成される。
たとえば図7に示すような別のある実施形態では、導体−材料系は導体−フィルタ系であり、導体50はあるエネルギー分布をもつ熱的電荷キャリアを有し、材料52は酸化物、窒化物、酸窒化物、ナノ粒子などのようなさまざまな材料で形成される。
図9、図10、図11、図13、図16に示すようなさらに別の実施形態では、そのような導体−材料系は電荷注入系のために使用される。
図22、図23、図24に示すようないま一つ別の実施形態では、そのような導体−材料系は不揮発性メモリセルのために使用される。
ここでの用法では、記号n+は高濃度にドーピングされたn型半導体材料を示すものとし、典型的にはn型不純物(ヒ素など)のドーピングレベルは1020原子/cm3のオーダーである。記号p+は高濃度にドーピングされたp型半導体材料を示すものとし、典型的にはp型不純物(ホウ素など)のドーピングレベルは1020原子/cm3のオーダーである。適切な場合には、複数の図面および以下の詳細な説明を通じて同じまたは同様の部分を指すのに同じ参照符号が使用される。
図1は、電場が印加されたときの導体−材料系のエネルギーバンド図を示している。図には導体10が示されており、該導体10は、絶縁体12に接し、エネルギーバンド中にフェルミエネルギー準位16を有している。さらに、伝導帯中に絶縁体12のエネルギーバンド18、18′が示されているが、それぞれ影像力効果がある場合、ない場合のものである。追加的に、絶縁体12によって形成されるポテンシャル障壁24および24′の障壁高さφb20およびφb022が示されており、それぞれ影像力効果がある場合、ない場合のものである。影像力効果は、ポテンシャル障壁の形を障壁の端で鋭角をもつ三角形の障壁24′からなめらかな角をもつ三角形障壁24(「影像力ポテンシャル障壁」または「影像力障壁」)に変えることが示されている。影像力効果はポテンシャル障壁を障壁高さ22から障壁高さ20に障壁オフセットΔφb26だけ低下させ、これは影像力障壁低下効果と称される。影像力障壁24の頂点のところには障壁ピーク28が示されており、導体10と絶縁体12の界面から距離Xm30離れた位置にある。
図1において、導体は、多結晶シリコン(「ポリシリコン」)、多孔質シリコン、多結晶シリコン・ゲルマニウム(「ポリSiGe」)といった半導体でも、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)。タンタル(Ta)、ニッケル(Ni)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)などといった金属でも、あるいは白金シリサイド、タングステンシリサイド、ニッケルシリサイドなどといったそれらの合金でもよい。絶縁体は、誘電体でも空気でも真空でもよい。絶縁体として誘電体を考える場合は、該誘電体としては酸化物、窒化物、酸窒化物(「SiON」)といった材料を使うことができる。追加的に、酸化物よりも誘電率(誘電定数ともいう)kが低い、あるいは高い誘電体(それぞれ「低k誘電体」、「高k誘電体」)も絶縁体のための材料として考えることができる。そのような低k誘電体は、フッ素化シリコンガラス(fluorinated silicon glass)(「FSG」)、SiLK、ナノ多孔性炭素ドープ酸化物(carbon-doped oxide)(「CDO」)のような多孔性酸化物などでありうる。そのような高k誘電体は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、五酸化タンタル(Ta2O5)などでありうる。さらに、これらの材料のいかなる複合およびこれらから形成される合金、たとえば酸化ハフニウム−酸化物合金(「HfO2−SiO2」)、ハフニウム−アルミニウム−酸化物合金(「HfAlO」)、ハフニウム−酸窒化物合金(「HfSiON」)などを前記誘電体として使用することができる。さらに、絶縁体は一様な化学成分をもつ誘電物質である必要はなく、単層からなる必要もない。成分組成が徐々に変化する誘電物質であってもいいし、二つ以上の層からなっていてもよい。
図2(従来技術)は、電子31が量子力学的なトンネル効果(たとえばファウラー・ノルドハイムトンネリング)によって図1のポテンシャル障壁を通って輸送されるところを示している。導体10内の電子31は障壁24または24′をトンネルする前には熱的温度にあり、よって該電子はフェルミ準位16に対して運動エネルギーをもたない。そのような種類の電子は「熱的電子」(thermal electrons)と称され、そのような種類の電荷キャリアは「熱的電荷キャリア」または「熱的キャリア」と称される。熱的電子31は、絶縁体内に大きな電場(典型的には10MV/cm以上)が印加されると量子力学的トンネリングによって絶縁体12を通って輸送されることができる。そのような大きな電場のもとで、電子31が絶縁体12を通過してトンネルして、影像力効果がある場合、ない場合に応じてそれぞれ伝導帯18、18′にはいる様子が図示されている。そのようなトンネリング機構では、障壁24′を通る場合よりも、障壁高さが影像力効果によって低下させられた障壁24を通る場合のほうが輸送される電子31のトンネル率が高いことが知られている。
図3Aは、図1の系のポテンシャル障壁より高いところで輸送されるエネルギーの高い電荷キャリア(電子32)についてのエネルギーバンド図を示している。ある領域におけるエネルギーの高い電荷キャリアとは、その領域のフェルミ準位エネルギーに対して運動エネルギーをもつ電荷キャリアとして定義される。たとえば、図3Aでは、導体10内のエネルギーの高い電子32は、導体10のフェルミ準位エネルギー16に対して運動エネルギー33をもっている。そのような電子の輸送は、図2との関連で述べた熱的電子31の輸送とは異なる機構による。図示されている運動エネルギー33は、影像力障壁24の障壁高さ20よりもわずかに高く、障壁高さ22よりも低いレベルになっている。電子32は導体10から絶縁体12に向けて前方方向34(矢印で示されている)に動くものとして示されている。影像力効果がない場合のポテンシャル障壁を考えた場合、運動エネルギー33は熱い電子(hot electron)32がポテンシャル障壁24′より高いところで輸送されるのを支えるには不十分であり、よって電子は障壁24′によって遮られ、戻り経路34′に沿って動く。ところが、影像力効果のもとでは、低下した障壁高さ20は同じ運動エネルギー33をもつ熱い電子32が影像力障壁24をかすめて前方方向に通過して輸送され、伝導帯18にはいることを許容する。この効果は、集積回路(IC)およびメモリにおける用途のための熱い電子を生成するために電子32をエネルギーの高い状態にするのに必要とされる電圧を低下させることができ、望ましいものである。
図3Bは、影像力が影像力ポテンシャル障壁の障壁高さや障壁ピークの位置を変える効果を示している。障壁高さおよび障壁ピークの位置は、絶縁体に印加される電場EDの関数としてプロットされている。この効果を説明する上で、絶縁体材料としては酸化物を想定する。図3Bは、約5MV/cmの電場EDが絶縁体に印加された場合に障壁高さ20が3.1eVから約2.5eVに低下させられうることを示している。この効果が影像力障壁低下効果を表している。さらに、影像力ポテンシャル障壁24が電場を通じて電気的に変更可能であるという、影像力ポテンシャル障壁の性質をも表している。さらに、電場を使うことにより障壁24の障壁高さを変える手段をも表している。典型的には、そのような電場は絶縁体に電圧を印加することによって加えられる。たとえば、厚さ6nmの酸化物絶縁体については、5MV/cmの電場を生成するためには酸化物にかける電圧として約3.0Vが必要とされる。この影像力効果は、印加される電場によって可能となる、電子運動エネルギーの節約を提供する。影像力およびポテンシャル障壁に立ち向かわなければならないのは距離Xmまでだけでよく、無限遠までではないからである。ひとたび距離Xmを超えるところまで輸送されれば、エネルギーの高い電荷キャリア32は影像力障壁を越えて輸送が許容されるのである。
図3Bはさらに、導体/絶縁体界面からのピーク障壁距離Xm30が、無限大の範囲(ED=0MV/cmの場合)から1nm未満の範囲(ED=2MV/cmの場合)にまで短縮できることを示している。固体物理学では、媒質(たとえば図1の絶縁体)の分極は、電荷の移動時間が当該媒質の誘電分極時間よりも短い場合、移動する電荷に追随できないことが知られている。図3Bで与えられているようなピーク障壁距離Xmの短縮は電荷移動時間を短縮し、そのような効果は影像力障壁24の誘電率を下げ(「影像力誘電率」)、よって障壁低下効果を向上させる手段を提供することができるので望ましいものである。電荷移動速度を上げる(たとえば運動エネルギーを上げることによって)といった他の手段も移動時間を下げ、よって影像力誘電率を下げるために考えられる。これは影像力ポテンシャル障壁の障壁高さを変更するもう一つの手段として考えられる。典型的には、そのような手段を使えば、誘電率はその静的な値(たとえば酸化物の場合約3.9)から光学的な値に近い値(たとえば酸化物の場合約2.2)に引き下げることができる。この効果は影像力障壁24を約0.14eV(酸化物の場合)引き下げる。この効果は、距離Xm30を横切るキャリア(電子)の移動時間が短いことの結果であり、移動時間が絶縁体の誘電分極時間よりも短い場合には他の粒子との相互作用がない状態で発生することを注意しておく。いくつかの状況においては、キャリアは距離30以内にある量子力学的な粒子(たとえばフォノン)と相互作用することは可能であることを注意しておく。そのような相互作用は、障壁24の影像力誘電率が光学的な値よりもわずかに大きい結果を生じることがありえ、よってここに記載される手段を用いる際の障壁低下の効果をわずかに弱めることがありうる。
図3Cは、ポテンシャル障壁の障壁高さを電場の関数として、影像力理論を使ってさまざまな誘電率kに基づいて計算した障壁について示している。最低のk(=1.4)に対する障壁高さφbが電場EDに最も強く依存することが示されている。電場が約5MV/cmの場合、障壁高さはk=3.1の場合は約2.6eVにまで引き下げられうるが、k=1.4の場合はさらに0.2eV低い約2.4eVにまで引き下げられうることが示されている。この結果は、障壁低下をもたらす影像力効果(影像力障壁低下)を、より低い誘電率をもつ絶縁体を選ぶことによって、および/または図3Bとの関連で述べた影像力障壁の誘電率を下げることのできる手段によって、増幅できることを示している。
図4は、本発明の導体−材料系のある実施形態についてのエネルギーバンド図である。この導体−材料系は、あるエネルギー分布36をもつエネルギーの高い電荷キャリア35を有する導体10と、前記導体10に界面14で接し、その界面14に隣接して前記エネルギーの高い電荷キャリア35の障壁より高いところでの輸送を許容するために電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁24を有する絶縁体12を有している導体−材料系である。
電子35は、さまざまなエネルギー準位に分布した分布数をもつエネルギー分布36をもつものとして示されており、その分布は幅Δ36の広いエネルギースペクトルを有するガウス型分布として示されている。その分布は運動エネルギー33のレベルにピーク分布数36pを有している。運動エネルギー33は、図3Aとの関連で述べたのと同じ運動エネルギーレベルである。図4ではさらに、電子の約半分の部分(上半分の部分)が障壁高さ20よりも大きなエネルギーをもち、電子のもう半分の部分(下半分の部分)が障壁高さ20より低いエネルギーをもつことが示されている。影像力障壁低下効果がなければ、電子35のすべては、伝導帯18′との関連で形成されるポテンシャル障壁24′によって遮られることがわかる。影像力障壁低下効果があれば、エネルギースペクトルで上半分の部分の電子は、伝導帯18との関連で形成される影像力障壁24を超え、前方方向34(矢印で示されている)に沿って輸送されることができることがわかる。これらの電子は伝導帯18にはいってエネルギー分布36′を有する電子35′となることができる。電子35の下半分の部分は運動エネルギーが不十分なため、これらの電子は映像力障壁24によって遮られる。よって、図示したように、電子35′の分布36′は、一次近似では、電子35の上半分の部分の分布だけを反映したものである。
図4では、もう一つの影像力効果が注目に値し、記されている。電子35の下半分の部分は上半分よりも小さな運動エネルギーをもつことがわかる。したがって、ピーク障壁に達するまでに距離Xm30を横切る移動時間は上半分の部分の電子よりも長い。状況によっては、その移動時間は絶縁体の誘電緩和時間よりも長いこともありうるので、これらの電子との影像力相互作用が絶縁体によって完全に遮蔽されることが可能となる。その結果、そのような種類の電子にとっては誘電率がより大きく見え、そのため影像力障壁低下効果が弱まることになる。そのような効果は低エネルギー電子についての障壁高さ20をより高くする結果となり、よってこれらの電子が障壁24を乗り越えることを遮る効果がより強くなる。
図4で述べられた影像力効果はさらに、高エネルギー電荷キャリアを通過させて低エネルギー電荷単体を遮るというフィルタ機能を提供する。キャリアが通過するために必要なエネルギーレベル(「閾値エネルギー」)の選択は、図3Bとの関連で述べたような障壁高さφbが電場EDに依存することに基づいて絶縁体の電場を選択することを通じて障壁高さ20を制御することによって行うことができる。たとえば図3Bでは、閾値エネルギーの調整可能な範囲は、電場を0から5MV/cmまで変えることに対応して(あるいは同じことだが、厚さ6nmの酸化物を想定すれば酸化物絶縁体に0から3Vまでの電圧を印加することによって)3.1eVから約2.5eVまで可能である。
図4では、広いエネルギースペクトルをもつ電子は、当業界で周知のCHEI、SSI、BTBTといった機構を採用することによって生成することができる。これらの種類の機構によってエネルギーの高い電子は典型的には、格子原子による球対称で方向性のない散乱に関わり、エネルギースペクトルΔ36は約0.5eVから約3eVの範囲でありうる。
図5は、本発明の導体−絶縁体系のもう一つの実施形態についてのエネルギーバンド図を掲げている。図5では、この導体−絶縁体系は、あるエネルギー分布38をもつエネルギーの高い電荷キャリア37を有する導体10と、前記導体10に界面14で接し、その界面14に隣接して前記エネルギーの高い電荷キャリア37の障壁より高いところでの輸送を許容するために電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁24を有する絶縁体12とを有している。
図5では、エネルギーの高い電荷キャリア(熱い電子37)は、導体−絶縁体系の影像力障壁24より高いところで輸送される際に、幅Δ38の狭いエネルギースペクトルに分布した分布数をもつエネルギー分布38をもつものとして示されている。この図はほとんどすべての点で図4と同一であるが、一点だけ違いがある。その違いとは、熱い電子の分布36が広いエネルギースペクトルΔ36ではなく、この図では熱い電子の分布38が狭いエネルギースペクトルΔ38をもつということである。図4との関連で述べた電子35と同じエネルギー準位33にピーク分布数をもつ熱い電子37について、これらの熱い電子37はすべてが伝導帯18によって形成される影像力障壁24を超え、38と同様の分布数の分布38′をもつ電子37′となることができることがわかる。典型的には、エネルギーの高い電荷キャリア37のエネルギー分布38のエネルギースペクトル幅Δ38は約30meVから約500meVの範囲になる。
この実施形態の独特な部分は、電子37がコンパクトなエネルギー分布に詰め込まれており、影像力障壁24が下半分の運動エネルギーで通過する熱い電子もすべて許容する「全域通過フィルタ」として機能するという点である。よってこの実施形態により、より高い注入効率およびより低い動作電圧という利点がもたらされる。
図2から図5との関連での上記の説明は、電子をエネルギーの高い電荷キャリアとし、伝導帯を障壁のエネルギーバンドとしてなされたが、ホールなど他の種類のエネルギーの高い電荷キャリアおよび価電子帯など他の種類のエネルギーバンドについても容易に同じ説明を行うことができることは明らかである。
図6は、ホールを例として説明する本発明のもう一つの実施形態のエネルギーバンド図を掲げている。図6では、導体−絶縁体系は、あるエネルギー分布48をもつエネルギーの高い電荷キャリア40を有する導体10と、前記導体10に界面14で接し、その界面14に隣接して前記エネルギーの高い電荷キャリア40の障壁より高いところでの輸送を許容するために電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁42を有する絶縁体12とを有している。
図6はほとんどすべての点で図5と同一であるが、いくつかの相違点がある。一つの相違点は、輸送電荷キャリアとして熱い電子37の代わりに、この図ではエネルギーの高いホール40(「熱いホール」40)が与えられている。さらに、絶縁体によって形成される障壁がここでは絶縁体の価電子帯と関連している。図にはまた、影像力効果がない場合の価電子帯44′に関連したポテンシャル障壁42′の障壁高さ41′と、導体−絶縁体系の価電子帯44での影像力障壁42の障壁高さ41とが示されている。絶縁体に電場が印加されている間、障壁高さ41は影像力障壁低下効果によって引き下げられる。これは図1、図3B、図3Cとの関連における障壁高さ20について述べたのと同様である。
図6では、熱いホール40は、狭いエネルギースペクトルΔ48をもつガウス型曲線に分布した構成粒子集団のエネルギー分布48をもつものとして示されている。分布48はピーク分布48pおよび裾野分布48tをもつものとして示されている。ピーク分布48pにおけるホールは、導体のフェルミ準位16に対して運動エネルギー46をもつものとして示されている。運動エネルギー46は影像力障壁高さ41よりわずかに高く、障壁高さ41′よりは低いことがわかる。影像力障壁低下効果がなければ、分布48をもつホール40は障壁高さ41′よりエネルギーが低く、よって障壁42′を乗り越えることができないことがわかる。しかし、影像力効果があると、ホール40は大部分(裾野部分48t以外)が影像力障壁42を乗り越えて、前方方向34に沿って輸送されて構成粒子集団がエネルギー分布48′をもつホール40′となれることがわかる。そのようなホール40′は価電子帯44よりも高いエネルギーを有しており、同じ方向に沿って絶縁体内を輸送され続け、絶縁体の反対側に隣接している材料(図示せず)に到達することができる。図6ではまた、図4で電子について述べた効果と同様の、ホールについての高域通過フィルタ効果が示されている。裾野分布48t内のホールは障壁高さ41よりもわずかに低い運動エネルギーをもち、影像力障壁42を乗り越えることが遮られていることがわかる。そのようなホールは分布48′には含まれていない。しかし、ホール40のエネルギースペクトルΔ48がコンパクトであるため、裾野分布48t内のホールを遮る状況は、追加的に小さな電圧(たとえば約100mV)を印加することによりそのようなホールのエネルギーを持ち上げてやることで容易に避けることができる。
これで、本発明で用いられる影像力障壁低下効果により、熱いキャリア(電子またはホール)がより低い運動エネルギーで絶縁体障壁を通って輸送されることができ、メモリセルまたは半導体デバイスの操作のためにそのような効果を用いる際の動作電圧を引き下げられることが明らかになった。そうしたデバイスにおいて高い注入効率を達成するためには、熱いキャリアとして、エネルギー分布上でコンパクトなエネルギースペクトルをもつキャリアが与えられ、影像力障壁低下効果とともに使われることが望ましい。
本発明が、ここで図示され、上述された実施形態に限定されるものではなく、付属の特許請求の範囲にはいるすべてのいかなる変形をも包含するものであることを理解しておくものとする。たとえば、本発明のキャリア分布36,38、48はガウス型として説明したが、通常の当業者には分布が他のいかなる種類の曲線形にも拡張でき、その形がエネルギーに関して対称的でなくてもよいことは明らかであろう。
図7は、本発明のもう一つの実施形態に基づく導体−材料系のエネルギーバンド図を掲げている。この導体−材料系は、あるエネルギー分布をもつ電荷キャリア(電子からなる熱的電荷キャリア56)を有する導体50とフィルタ52とを有する導体−フィルタ系である。該フィルタ52は、前記導体50に界面15で接し、ある極性の前記電荷キャリア56(負の電荷キャリア、電子56)に対するフィルタ機能を提供するための誘電体53および54を含んでいる。フィルタ52は、前記ある極性の電荷キャリア56のある方向(前方方向34)の流れを制御するために前記界面の近傍に電気的に変更可能なポテンシャル障壁2453および2454を含んでいる。
図7は、導体−フィルタ系の例である。導体50はフェルミ準位エネルギー1650をもち、ポリシリコン、ポリSiGeといった半導体でも、Al、Pt、Au、W、Mo、Ru、Ta、Ni、TaN、TiNなどといった金属でも、あるいは白金シリサイド、タングステンシリサイド、ニッケルシリサイドなどといったそれらの合金でもよい。フィルタ52はトンネル誘電体(tunneling dielectric)TD53と遮蔽誘電体(blocking dielectric)BD54を有するものとして示されている。トンネル誘電体TD53は該TD53の伝導帯1853内に形成された障壁2453を有するものとして示されている。遮蔽誘電体BD54は該BD54の伝導帯1854内に形成された障壁2454を有するものとして示されており、伝導帯1854はTD53の伝導帯1853に対してオフセット55を有するものとして示されている。TD53は導体50に隣接して配置され、BD54はTD53に隣接して配置されている。典型的には、BD54はTD53よりも狭いエネルギーバンドギャップを有する。フィルタに電圧が印加される際、フィルタ52は伝導帯に対して異なるバンドの曲がり(band bending)を有しうる。BD54の伝導帯1854は、TD53の伝導帯1853について示しているよりもバンドの曲がりが小さいものとして示されている。導体50は、構成粒子集団のエネルギー分布57をもつ熱的電子56を提供する。電子56のエネルギー分布57はフェルミ準位エネルギー1650より低いものとして示されており、その分布の曲線はピーク分布57p、裾野分布57tを有している。導体50はフェルミ準位エネルギーよりも低いエネルギーをもつ電荷キャリアを提供するので、「低域通過」キャリア提供器のような感じで機能する。フィルタ52内に電場が印加された状態では、ピーク部分の分布57p内の電子56は量子力学的なトンネル効果(たとえば直接トンネリング)によってTD53内でTD53の障壁2453を通過して輸送されることができ、BD54の伝導帯1854にはいってエネルギー分布57′上でコンパクトなエネルギースペクトルΔ57′をもつ電子56′となれることが示されている。これに対し、裾野分布57t内の電子56はトンネルして障壁2453および2454を通過することができないことが示されている。フィルタ52内に設けられているBD54の障壁2454は裾野分布57t内の電子56についての追加的なトンネル障壁をなし、障壁2454をそれらの電子のエネルギーよりも高いエネルギー準位(「閾値エネルギー」58)に保つことによって、それらの電子に対する遮蔽効果が起こり、実現されることができる。閾値エネルギー58は、一次近似では、両方の障壁2453および2454によって確立される(それは障壁2453における電圧降下によって、そして障壁2453と2454との間のオフセット55によって制御される)。フィルタ52の障壁構造の遮蔽効果は、トンネルする電荷キャリア56に対して高域通過フィルタ効果を生じるフィルタ機構を与える。このフィルタ効果は独特なものであり、図4との関連で述べたエネルギーの高いキャリア(たとえば熱い電子35)に対するフィルタ効果とは幾分異なっている。
図7のフィルタ52ではTD53およびBD54を示したが、そのような表示は単に例としてであって、キャリアの流れを制御するために好適なポテンシャル障壁をもついかなる追加的な材料の層を用いてもよい。そのような層は半導体材料(たとえばSiC)でも、ナノ粒子でも、あるいは誘電体でもよい。前記ナノ粒子は直径が約2nmないし約7nmの範囲の概球形の粒子であり、典型的にはフィルタのポテンシャル障壁を効果的に変更することのできる半導体材料(たとえば、Ge、SiGe合金など)、誘電体粒子(たとえばHfO2)あるいは金属(たとえばAu、Ag、Ptなど)でつくられる。そのような層はTD53とBD54の間に配置してもよいし、その一方のみに隣接して配置してもよい。
図7の導体−フィルタ系の独特な部分は、コンパクトなエネルギー分布で輸送される電荷キャリアを提供する機能にある。そのような機能は導体50の「低域通過」キャリア提供器機能とフィルタ52の高域通過フィルタ機能との結果である。そのような両方の機能を組み合わせることによって、図7の導体−フィルタ系は、分布において狭いエネルギースペクトルをもつ電荷キャリアの輸送を許容する「帯域通過」フィルタ機能を提供するのである。帯域通過フィルタ機能はフィルタ52のフィルタ機能の一つの実施例であり、当該導体−フィルタ系がフェルミ準位エネルギー1650と閾値エネルギー58とによって制御される「帯域」をもつ「帯域通過フィルタ」として機能することを可能にする。典型的には、エネルギースペクトルは約30meVから約500meVの範囲にある。
フィルタ52は閾値エネルギー58より高いエネルギーをもつ電子を通過させるフィルタ効果を提供する。これは、ピーク分布57pにある電子を通過させ、裾野分布57tにある電子を遮る結果となる。電子56′のエネルギー分布57′は図7の導体−フィルタ系の「帯域通過」フィルタ機能を説明する例として示されており、該分布57′はこの効果を説明するために分布57のピーク分布57pと同様なものとして示されている。最良の「帯域通過」フィルタ効果を得るために、分布57′のエネルギースペクトルΔ57′は典型的には、閾値エネルギー58をより上または下のレベルに調整することによってそれぞれ狭めたり広げたりすることができる。エネルギースペクトルΔ57′を調整できることは、いかなる実用上の用途におけるフィルタ効果のためであっても帯域通過フィルタの「帯域幅」を合わせられる機能を許容することになるので、望ましい。これは、フィルタ52に印加される電圧を調整することによって、あるいは以下の段落で説明するその他のパラメータを調整することによってなすことができる。
フィルタ52の構築において、以下の考察のため、BD54はTD53に比べて大きな誘電率をもつようにしておくことが通例望ましい。第一に、それによりBD54内の電場が低下し、それにより裾野分布57tにおける電子のトンネル確率を低下させることができ、よってそうした電子に対する遮蔽効果を向上させることができる。さらに、フィルタ効果のためにフィルタ52に電圧を印加する際、BD54の誘電率が大きいほど印加された電圧の大きな部分がTD53の両端に現れるようにすることができる。これは印加電圧とTDにかかる電圧との間の電圧転換率を改善し、よってフィルタ効果のために必要とされる印加電圧を低くし、印加電圧のフィルタ効果に対する感度を上げ、裾野分布に分布している電子に対するエネルギースペクトル中の遮蔽範囲を増やすことができるという利点がある。
追加的に、エネルギースペクトルΔ57′を調整するために他のパラメータも考えることができる。そのようなパラメータの一つがBDとTDの間の伝導帯オフセット55である。伝導帯オフセット55は、分布57の電子56がフィルタ52を通ってトンネルすることが許容される下限である閾値エネルギー58を制御するためにさまざまな値に合わせることができる。これはBD54およびTD53の材料を適切に選ぶことによってできる。具体例では、TD53の材料として酸化物を選ぶとき、BD54としては酸窒化物系(「SiOxN1-x」)の誘電体膜がいい候補になる。よく実証された製造工程向きの膜品質および処理制御のためである。SiOxN1-xにおいて「x」は酸化物分率、すなわち酸窒化物膜中の酸化物の等価百分率である。たとえば、x=1は膜が純粋な酸化物である場合に対応する。同様に、x=0は膜が純粋に窒化物の場合に対応する。酸化物分率xが0から1に変わるにつれて、伝導帯オフセット55を約1eVから0eVに変えることができる。よって、SiOxN1-xの酸化物分率xを調整することによって伝導帯オフセット55をフィルタ52の所望の範囲に合わせることができるようになり、よってエネルギースペクトルΔ57′(すなわち、帯域通過フィルタの「帯域幅」)を調整する方法が与えられるのである。
TD53およびBD54の厚さならびに導体50のフェルミ準位エネルギー1650といったその他のパラメータも、閾値エネルギーレベル58およびそのフェルミ準位エネルギー1650に対する相対的なエネルギーレベルを、よって帯域通過フィルタの「帯域幅」を調整するために考えることができる。ここで図7の導体−フィルタ系を構築する上でこれらのパラメータを考えてみる。説明の目的上、導体−フィルタ系の導体50、TD53、BD54としてはそれぞれポリシリコン、酸化物、窒化物を想定する。TDの酸化物は30Åの厚さをもつものとする。図8は、ここで示される二つの場合について、フェルミ準位レベル1650に対する閾値エネルギー58の相対的なエネルギーレベルを示している。フェルミ準位に対して閾値エネルギーが負の値となる領域は、閾値エネルギーのレベルがフェルミ準位よりも低い状況に対応しており、両者の差が帯域通過フィルタの「帯域幅」に対応する。示している二つの場合は、ポリシリコン(n+とp+のポリシリコン)のフェルミ準位において、そしてフィルタ52にかけられる印加電圧Vaにおいて相違がある。図8を参照すると、p+ポリシリコンでVa=−4Vの場合については、閾値エネルギーがフェルミ準位以下になる範囲は0eVから約0.4eVの範囲で、BDの厚さ(「TBD」)を約30Åから約20Åに減らすことに対応している。n+ポリシリコンでVa=−3Vの場合については、閾値エネルギーがフェルミ準位以下になるより広い範囲(約0.8eV)が示されており、TBDの範囲でいうと50Åから20Åにあたる。
これで、導体のフェルミ準位に対する閾値エネルギーが、フィルタのTDおよびBDの厚さを調整することによって、および/または導体のフェルミ準位を調整することによって調整できることが明らかとなったであろう。そのような方法を使って、輸送電荷の帯域幅を実用上の用途のための所望の範囲に合わせることができる。輸送電荷キャリアの運動エネルギーはこの方法を用いることによって制御され、用途に適合させられる。
図7の導体−フィルタ系は、ホール(たとえば、軽いホール(light-hole)(「LH」)または重いホール(heavy hole)(「HH」))のような他の種類の電荷キャリアに対する帯域通過フィルタ機能を提供するために用いることもできる。図7および図8との関連で電子について述べられたのと同様の考察は、エネルギーバンド図の価電子帯で形成されるフィルタ52のトンネル障壁を考慮することによってこれらのホールにも容易に適用できる。ホールが電子とは電荷極性が逆であるため、ホールに対する帯域通過フィルタ処理は、図7に示したフィルタ52にかかる電圧の極性を反転させることによって行うことができる。
この開示の思想が、所望のフィルタ効果のためにフィルタ処理後の電荷分布を調整できるよう選択するフィルタの誘電体を修正して適用することもできることは、通常の当業者には明らかであろう。たとえば、BD54の誘電率はTD53よりも大きいものとして説明したが、この開示の思想は、BD54を、TD53と同程度の誘電率をもつ材料に修正することで、トンネル輸送の間にピーク分布における電荷キャリアを効率的に通過させるようにして適用することもできる。さらに、TD53およびBD54は一様な化学成分をもつ材料である必要はなく、その成分構成が徐々に変化する材料であってもよい。さらに、酸化物、窒化物または酸窒化物の代わりにAl2O3、HfO2、TiO2、ZrO2、Ta2O5などといったいかなる好適な誘電体をも使用することができる。さらに、これらの材料のいかなる複合およびそれらから形成される合金、たとえばHfO2-SiO、HfAlO、HfSiONなども酸化物、窒化物または酸窒化物の代わりに使用することができる。
図9は、本発明のある実施形態による、コンパクトなエネルギー分布をもつ電荷を注入するための電荷注入系のエネルギーバンド図を掲げている。図9を参照すると、図7との関連で述べた型の第一の導体−材料系(導体−フィルタ系59)と、図5との関連で述べた型の第二の導体−材料系(導体−絶縁体系60)と、電荷保存領域(charge storage region)(「CSR」)66が示されている。一つの例として、CSR66はチャネル誘電体(channel dielectric)(「CD」)68を通じてボディ70に電気的に結合しているものとして示されている。他の例では(図示せず)、CSR66はボディ70に直接的に接していることができる。図9のエネルギーバンド構造はその完全なバンド構造とともに示されている。たとえば、導体−フィルタ系59では、図7の伝導帯1853および1854に加えて価電子帯4453および4454も示されている。導体−フィルタ系59は、あるエネルギー分布57をもつ電荷キャリア56を有するトンネリングゲート(「TG」)61およびフィルタ52を有している。フィルタ52はポテンシャル障壁2453および2454を含み、図7との関連で述べたフィルタ効果を制御するための障壁によって確立される閾値エネルギー58を有する。フィルタ52はさらに、図7との関連で述べたトンネル誘電体(「TD」)53および遮蔽誘電体(「BD」)54を有している。導体−絶縁体系60は系の導体および絶縁体としてそれぞれ弾道学的ゲート(ballistic gate)(「BG」)62および保持誘電体(retention dielectric)(「RD」)64を有している。この電荷注入系のエネルギーバンド図は、TG61からRD64までの領域では、導体−フィルタ系59のフィルタ52を導体−絶縁体系60の導体(BG62)に「接合する」ことによって構築される。TG61およびBG62は金属でできており、それぞれの仕事関数はフェルミ準位1661および1662に対応する。CSR66は、BG62およびボディ70からはそれぞれ誘電体RD64およびCD68によって絶縁されており、伝導帯1866および価電子帯4466を有するn型伝導性をもつ半導体であるものとして示されている。CSR66は電荷キャリアを保存するために使われる他の型の伝導性(たとえばp型)の半導体であってもよい。ボディ70は、それぞれ伝導帯1870および価電子帯4470をもつ半導体で、導体−絶縁体系60の影像力障壁2464をCSR66に電圧を結合することによって変調するのに使うことができる。誘電体RD64およびCD68は単層で示されており、一般には二つ以上の層を有して複合層を形成することができる。
図9はさらに、コンパクトなエネルギー分布をもつ電荷を形成し、注入するプロセスの図解をも提供する。熱的電子56は注入のために使われる供給された電荷キャリアであり、図7との関連で述べた機構によりフィルタ52を通ってのトンネル輸送の間にフィルタ52によってフィルタ処理される。フィルタ処理後、熱的電子は、フィルタ処理前の分布57よりもコンパクトなエネルギー分布57′をもつ電子56′となる。そのような電子56′は導体−絶縁体系60に給送される。一つのケースでは、電子56′の一部分が散乱されることなく(「弾道学的輸送」)、BG62のフェルミ準位1662より高いある運動エネルギー33でBG62を通って輸送され、BG62とRD64との界面においてエネルギーの高い電子37となることができる。そのような電子37(「弾道学的電子」と称する)は他の粒子(たとえば、電子、フォノンなど)との散乱を経験せず、よって運動エネルギーおよび当初の運動に沿った方向の運動量とを保存することができる。もう一つのケースでは、電子56′は他の粒子と部分散乱しながら(「部分的弾道学的輸送」)BG62を通って輸送されることができ、それでもその運動エネルギー33を十分高く維持し、方向性も維持し、BG62とRD64との界面付近において電子37となることができる。いずれにせよ、そのようなエネルギーの高い電子37は、図3Bおよび図5との関連で述べたような機構により影像力障壁2464の障壁高さ20を乗り越え、RD64の伝導帯1864にはいり、そこを進んで構成粒子集団のエネルギー分布38′をもつ電子37′となり、最終的に伝導帯1866において電子71として捕集され、CSR66に保存されることができる。電荷を形成し、注入するこのようなプロセスは(弾道学的輸送であろうと、部分弾道学的輸送であろうと)、弾道学的電荷注入機構と称される。電荷キャリアとして電子を選択した場合には、そのような機構は弾道学的電子注入機構と称される。典型的には、エネルギーの高い電荷キャリア(電子37)のエネルギー分布は、約30meVから約500meVの範囲のエネルギースペクトルを有する。そのような電子の注入効率(供給されたキャリア数に対する捕集されたキャリア数の比として定義される)は典型的には約10-4から約0.5の範囲である。注入効率はさらにピエゾ電子を注入することによって向上させることができる(図17Bとの関連で述べるピエゾ弾道学的電子注入機構を参照)。
図9に示した弾道学的電荷注入は弾道学的電子注入を示しており、電子37が導体−絶縁体系60の影像力障壁高さ20よりも高い運動エネルギー33をもつようTG61とBG62との間に電圧を印加することによってなされる。そのような電圧は低下させることができるが、それには図3A、図3B、図3Cとの関連で述べた手段を使って影像力障壁2464の障壁高さ20を引き下げる。これはたとえば、正電圧(たとえば約+1Vから約+3V)をCSR66に結合させることによって行うことができる。あるいはまた、障壁高さ20は、BG62よりも低い仕事関数(または高いフェルミ準位エネルギー)をもつ材料をCSR66のために選ぶことによって引き下げることができる。
図10は、電荷注入系のもう一つの実施形態についてのエネルギーバンド図を掲げている。この例は電子を注入する場合について示されている。当該電荷注入系は、図7との関連で述べた型の第一の導体−材料系59(導体−フィルタ系)と、図5との関連で述べた型の第二の導体−材料系60(導体−絶縁体系)とを有している。第一の導体−材料系59は、あるエネルギー分布57をもつ熱的電荷キャリア56を有する第一の導体61と、第一の界面15で第一の導体61に接し、ある極性の電荷キャリア56(たとえば負電荷キャリア)に対してフィルタ機能を提供するための誘電体53および54を有するフィルタ52とを含んでいる。フィルタ52は、ある極性の電荷キャリア56のある方向(たとえば前方方向34)の流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁2453および2454の第一のセットと、前記ある極性とは逆のある極性の電荷キャリア(たとえば正電荷キャリアLH72およびHH73)の前記ある方向34と実質逆向きのある別の方向(たとえば後方方向74)の流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁4453および4454の第二のセットとを含んでいる。第二の導体−材料系60は前記フィルタ52に接し、前記フィルタ52からあるのエネルギー分布57′をもつエネルギーの高い電荷キャリア56′を有する第二の導体62と、前記第二の導体62と第二の界面14で接し、該第二の界面14に隣接する電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁2464を有する絶縁体64とを含んでいる。
そのようなフィルタ機能は、前記ある極性型の電荷キャリアが前方方向34に(すなわち、TG61からBG62に)輸送されることを許容し、逆極性型の電荷キャリアが後方方向74に(すなわち、BG62からTG61に)輸送されることを遮る。よって、フィルタ52は電荷の流れを「純化する」ことのできる電荷フィルタ機能を提供する。電荷フィルタ機能はフィルタ52のフィルタ機能のもう一つの実施例である。
図10はほとんどすべての点において図9と同一であるが、いくつかの相違点がある。相違点の一つは、導体−フィルタ系59および導体−絶縁体系60の導体領域のための材料として金属を使うのではなく、これらの導体領域(すなわち、TG61およびBG62)がここでは、TG61とBG62に対してそれぞれ、伝導帯1861および価電子帯4461、ならびに伝導帯1862および価電子帯4462をもつ半導体を用いて提供されているという点である。TG61は供給された電荷キャリアとして価電子帯4461に熱的電子56を有するp型半導体として示されている。そのような電子56およびそのエネルギー分布57は図9との関連で述べたのと同一の輸送プロセスを経て、電子56の一部分はCSR66にはいってエネルギー分布38′をもつ電子37′となり、図9との関連で述べたのと同様にして最終的に捕集され、電子71としてCSR66に保存されることができる。
図10に示した例については、電子56をTG61内に前方方向34に沿って注入するような極性を有する電圧を印加する際、その電圧は同時にBG62内のホールLH72およびHH73の後方方向74に沿った輸送を誘起する。LH72およびHH73の後方輸送は望ましくない問題を生じることがある。たとえば、ホールがその領域に後方輸送されたとき、価電子帯4461よりも高いそのエネルギーのためTG61において衝撃イオン化を引き起こすことがある。さらに、こうしたホールは、たとえばメモリセルのプログラム操作において弾道学的電子注入を採用する際、メモリ操作に貢献しない。したがって、電流、それゆえ電力を無駄にすることになりうる。よって、LH72およびHH73がTG61に後方輸送されることは遮ることが望ましい。
図10におけるエネルギーバンド構造は、後方輸送キャリア(すなわち、LH72およびHH73)は前方輸送キャリア(すなわち電子56)よりも多くの障壁を通って輸送されなければならず、よって後方輸送キャリアの遮蔽に対してフィルタ効果が提供されることを示している。フィルタ効果は、フィルタ52におけるポテンシャル障壁によって構築されるエネルギーバンド構造に基づいている。後方輸送ホール72および73を遮る第一のポテンシャル障壁4254は障壁4254の入口側、出口側それぞれの障壁高さが4154および41′54となっている。両方の障壁高さ4154および41′54はBD54の価電子帯4454を基準としている。入口側の障壁高さが4153である第二のポテンシャル障壁4253がホール72および73を遮るもう一つの障壁を形成する。障壁高さ4153はTD53とBD54の界面におけるTD53の価電子帯4453を基準としている。
ここで与えられているフィルタ52は障壁高さ工学の概念に基づいている。その概念を解説するために使われる導体−フィルタ系59および導体−絶縁体系60の一つの具体的な実施例は、TG61としてp+ポリシリコン、TD53として酸化物層、BD54として窒化物層、BG62としてn+ポリシリコン、RD64として酸化物層を有している。BG62としてn+ポリシリコンを考えるのはいくつかの考察のためである。主要な考察は、n型不純物(たとえばヒ素、リンなど)の固溶度がp型不純物(たとえばホウ素)よりもずっと高いという点にある。固溶度が高い不純物ほど、通例シリコンを高濃度にドープでき、シート抵抗を低くすることにつながるので望ましく、集積回路(IC)の用途に好都合である。今の実施例では、TG61およびBG62の材料としてポリシリコンが採用されたのは、そのよく実証された収率、製造の容易さ、既存のIC技術との整合性のためである。RD64として約7nmから10nmの厚さの酸化物が採用されているのも同じ理由による。TD53として使用される酸化物層の厚さは約1.5nmから4nmの範囲、好ましくは約2nmから3.5nmの範囲でよい。TD53層の厚さは、その層を横切って輸送される電荷キャリア(電子、LHまたはHH)が主として直接トンネル機構によるような範囲に選ばれている。BD54の厚さは、TG61とBG62の間に約1Vから約2.5Vの範囲のほどほどの電圧が印加されたときにBD54層およびTD53層の両方を通っていかなる型の電荷キャリアもトンネルが遮られるよう選ばれる。BD54層の厚さはさらに、より高い電圧範囲(3V以上)が印加されたときにある型の電荷キャリア(たとえば電子)は前方方向に輸送されることを許容し、他方の型の電荷キャリア(たとえばLH)は後方方向に輸送されることを遮るよう選ばれる。のちに遮蔽高さ工学理論において述べるように、BD54の厚さの選択はまた、誘電率によっても決定される。一般に、フィルタ52が効率的に上記の要求を満たすことができる限りは、BD54の厚さはTD53より薄くても厚くてもよい。たとえば、ここでの具体的な実施例では、TD53として3nm(すなわち30Å)の酸化物が選ばれたとすると、BD54に対する最小厚さは約2nm(すなわち20Å)またはそれ以上であってよい。その具体的な実施例ついては、TD53のための酸化物はHTO(high temperature oxide[高温酸化物])または従来式の蒸着技術を使って形成されるTEOS層、すなわち当業界で周知の熱的酸化法を使うことによる熱的酸化物であってよい。BD54のための窒化物は、バンドギャップ内に電荷捕捉中心のない高品質窒化物であってよい。この高品質窒化物は、NH3(アンモニア)雰囲気中で高温で(たとえば1050°C)、たとえば当技術分野で周知のRTN(Rapid Thermal Nitridation[高速熱的窒化膜形成])法を使うことによって形成できる。
TD53およびBD54の材料としてそれぞれ酸化物および窒化物が示されているが、具体的な実施例でのそのような表示は単なる例であって、他のいかなる種類の誘電体材料およびその複合もTDおよびBDとして容易に用いることができる。たとえば、別の実施例では、TD53は厚さが約1.5nmから約4nmの範囲の酸化物であることができ、BD54は窒化物、酸窒化物、Al2O3、HfO2、TiO2、ZrO2、Ta2O5およびそれから形成される合金からなる群のうちから選択される材料であることができる。さらに別の実施例では、TD53は厚さが約1.5nmから約4nmの範囲の酸窒化物であることができ、BD54は窒化物、Al2O3、HfO2、TiO2、ZrO2、Ta2O5およびそれから形成される合金からなる群のうちから選択される材料であることができる。
弾道学的電荷注入のための障壁高さ工学
ここでの障壁工学の概念は、弾道学的電荷注入のための電気的に変更可能なフィルタを構築する方法を提供する。障壁高さ工学についてのさらなる詳細についてこれから、弾道学的電子注入については図11、弾道学的ホール注入については図13を参照しつつ述べる。
図11は図10と同様のエネルギーバンド図であるが、障壁高さのさらなる詳細を明らかにするためにフィルタ62のエネルギーバンドのバンドの曲がりが小さくなっている。図10に示した領域およびその参照符号に加え、図11はさらに4462と4453の間の価電子帯オフセットの障壁高さ41′53を示している。障壁高さ41′53は、後方輸送LH72およびHH73を遮るための第二のホールポテンシャル障壁4253の出口側にある。さらに、TD53によって形成される第一の電子ポテンシャル障壁2453が示されているが、これは該障壁2453の入口側、出口側でそれぞれ障壁高さ2053および20′53をもつ。さらに、BD54によって形成される第二の電子ポテンシャル障壁2454が示されているが、これは該障壁2454の入口側、出口側でそれぞれ障壁高さ2054および20′54をもつ。この第二の電子ポテンシャル障壁2454は前方輸送電子56を遮る影響をもつ。
ここで、本発明に基づくエネルギーバンド構造では、電荷として前方輸送電子56に関連して二つの電子障壁2453および2454があることが明らかである。同様に、BG62の後方輸送ホール72および73に関連して二つのホール障壁4254および4253がある。効率的な弾道学的電子注入を許容するためには、第一および第二の電子障壁2453および2454の障壁高さが電気的に変更可能で前方方向34の輸送を助けられることが望ましい。これに対し、BG62のホール72および73がTG61に後方輸送されるのを遮るためには、第一および第二のホール障壁4254および4253の障壁高さを注入の間電圧範囲を通じて十分高く保つことが望まれる。
図11を参照すれば、第二の電子障壁2454の障壁高さ2054(ΔΦVE_TB)は一次近似で次の式で表せる。
ΔΦVE_TB=ΔΦCB_TB+Eg−|VTD| (1)
ここで、
ΔΦCB_TBは平坦バンド条件下にあるときのTG61とBD54の間の伝導帯オフセット、
VTDは弾道学的電子注入の間のTDの両端での電圧降下であり、次のように表される。
VTD=(Va−Vfb)/[1+(εTD×TBD)/(εBD×TTD)] (1)′
VaはTG61からBG62にわたって印加される電圧、
Vfbは平坦バンド電圧、
EgはTG61のエネルギーギャップ、である。
同様に、後方輸送ホールを遮るための第二のホール障壁4253の障壁高さ4153(ΔΦVH_GT)は一次近似で次の式で表せる。
ΔΦVH_GT=ΔΦVB_GT−|VBD| (2)
ここで、
ΔΦVB_GTは平坦バンド条件下にあるときのBG62とTD53の間の価電子帯オフセット、
VBDは弾道学的電子注入の間のBD54の両端での電圧降下であり、次のように表される。
VBD=(Va−Vfb)/[1+(εBD×TTD)/(εTD×TBD)] (2)′
式(1)および(2)から、障壁高さ2054(ΔΦVE_TB)および障壁高さ4153(ΔΦVH_GT)はVaに対する異なる依存性をもつことが明らかである。式(1)′および(2)′から、障壁高さの電圧依存性は非対称で、主として誘電率と誘電体厚さが組み合わさった効果(すなわち、「εT効果」)によって決定されることが明らかである。
図12Aは,弾道学的電子注入のためのここに記載する理論を使って障壁高さ工学の概念の例を説明するものである。見て取れるように、TG61とBG62との間の印加電圧を下げるとき、TG61での電子に対する障壁高さ2054(ΔΦVE_TB)は、BG62でのLH72およびHH73に対する障壁高さ4153(ΔΦVH_GT)より速く減少する。換言すれば、障壁高さ4153は障壁高さ2054よりも弱い電圧依存性であるということである。電圧依存性がこのように異なることで、障壁高さ2054(ΔΦVE_TB)は実際、印加電圧が約−3.5Vのところでフェルミ準位エネルギー1661(すなわち、障壁高さが0になるところ)より下になるが、それに対して障壁高さ4153(ΔΦVH_GT)については約3.4eVという十分な障壁高さがまだ残っている。図10は、印加電圧がこの電圧レベルよりさらに下げられたときの状況のエネルギーバンド図を示したものである。図10に示されるように、図11に示される電子56に対する第二の障壁2454は、印加電圧がこの電圧レベル以下に下げられているので今やフェルミ準位エネルギー1661より下になる。したがって、閾値エネルギー58より高いエネルギーをもつTG61の電子56はBD54層によって遮られることなくフィルタ52を通って輸送されることができる。これは、導体−フィルタ系59に、前方方向34にコンパクトなエネルギー分布57′をもつ電子を注入するための帯域通過フィルタ機能を許容する。障壁高さ4153(ΔΦVH_GT)のずっと弱い電圧依存性のため、この電圧範囲でもホールを遮る障壁4253は維持され、よってホールの後方輸送を防ぐことができる。したがって、ここに述べる障壁工学の概念は、弾道学的電子注入のために電気的に変更可能なフィルタを構築する方法を実際に提供する。本フィルタは、所望のキャリア(すなわち前方輸送電子56)の輸送に影響することなく不要なキャリア(すなわち後方輸送されるLH72およびHH73)をフィルタで除去する独特な機能を提供するのである。
式(1)および(2)について、そして図12Aにおける結果についての説明は、二つの障壁高さ2054および4154についての障壁高さの電圧依存性を解説するための例としてなされている。図11のフィルタ52の他の障壁高さ(障壁2453および2454のそれぞれ20′53および20′54、障壁4253の41′53および4153のような)についても容易に同様の説明をすることができる。このように、後方輸送電荷キャリアを制御するポテンシャル障壁の障壁高さが、前方輸送電荷キャリアを制御するポテンシャル障壁の障壁高さよりも、フィルタの両端での電圧降下に対してより弱い電圧依存性を有することが明らかである。
BDにかかる電圧(VBD)は、弾道学的電子注入のために通常使われる電圧範囲の障壁高さ4154より低く保つことが望ましい。VBDを障壁高さ4154より低く保つことが望ましいのは、後方注入されたLH72およびHH73をより効果的に遮るためにBD54におけるホール障壁4254についての台形状バンド構造を維持できるためである。このバンド構造は図10を参照することによって明らかとなりうる。ここで、障壁高さ4154は障壁4254の一辺(ホール72および73の入口側)をなし、障壁高さ41′54は該障壁のもう一辺(ホール72および73の出口側)をなす。台形状障壁4254の出口側の障壁高さ41′54は一次近似ではΔΦVB_GB−VBDに等しい。ここで、ΔΦVB_GBは障壁高さ4154である。図10のバンド構造の特定の実施例では、TG61とBG62の間の印加電圧−4Vに対して、障壁高さ41′54は約0.7eVであり、よって障壁4254の台形構造は維持される。TD53およびBD54の誘電率と厚さを最適化することを通じてVBDを下げることによって障壁高さ41′54を高くすることができることは、先述の理論において教えられているように明らかである。
このように、本発明において解説されるフィルタおよびエネルギーバンド構造が、弾道学的電荷注入の間に効果的に、一つの極性型の電荷キャリアが後方方向に輸送されるのを妨げる一方、前方方向に輸送される逆極性型の電荷キャリアは通過させることができるのは明らかである。よって、フィルタ52は、電荷の流れを「純化」できる電荷フィルタ機能を提供する。一般に、電荷フィルタ機能を最もよく利用するためには、BG62の材料は、平坦バンド条件においてフィルタ52のBD54のエネルギーバンドギャップの中ほどに位置するフェルミレベルをもつことが望ましい。
特定の実施例としては、TG61の電圧は弾道学的電子注入のためのBG62の電圧に対して約3.5Vから約−4.5Vの範囲で選ばれる。そのような電圧は、図3A、図3B、図3Cとの関連で述べたように導体−絶縁体系60の影像力障壁高さ20を下げることによってさらに下げることができる。これは、約1Vから約3Vの範囲の電圧をCSR66に結合することによって行うことができる。あるいはまた、影像力障壁を下げるのは、CSR66の材料としてBG62より小さな仕事関数(すなわちより高いフェルミ準位エネルギー)をもつものを選ぶことによっても行うことができる。
影像力障壁を下げることによってTG61とBG62の間に印加される電圧を下げることは、本発明の望ましい効果をもたらす。主要な利点の一つは、TGとBGの間の誘電体における電場を下げ、誘電体中での高電場に関係する問題(誘電体の恒久的損傷につながりうる絶縁破壊など)を防止することができることである。
フィルタ52はさらに、本発明のもう一つの実施形態に基づく分圧器機能を提供する。図12Bは、図11との関連で述べた障壁高さ工学の概念を使った分圧器機能の例を示している。図12Bを参照すると、さまざまな誘電体にかかる電圧とフィルタ52にかかる電圧の関係が示されている。見て取れるように、フィルタ52にかかる電圧(すなわち、印加電圧Va)はVTDおよびVBDを含むさまざまな成分に分割される。このように、Vaはフィルタ52内のさまざまな誘電体の間で分割される。BD54もTD53も、弾道学的電荷注入のために必要とされる全電圧Vaを占有しない。分圧器機能はこのように、これら誘電体のそれぞれによって占有される電圧を減らし、弾道学的電荷注入を損なうことなく高電場に関係した問題を防止する。
弾道学的電荷注入および障壁高さ工学理論についてのこれまでの説明は電子についてなされている。軽いホールおよび重いホールについても電荷フィルタ処理および電荷注入に対する同様の効果を実現するような同様の説明を容易にすることができる。
図13は、ホールについてのそのような説明を、図10型の電荷注入系を例として使って提供するものである。導体−フィルタ系59では、第一の導体61はあるエネルギー分布77をもつ熱的電荷キャリア75および76を有する。フィルタ52は界面15で第一の導体61に接し、ある極性の電荷キャリア75および76(正電荷キャリア)に対してフィルタ機能を提供するための誘電体53および54を含んでいる。導体−絶縁体系60はフィルタ52に接し、フィルタ52からのエネルギー分布80および81をもつエネルギーの高い電荷キャリア75′および76′をもつ第二の導体62、ならびに、該第二の導体と第二の界面14で接し、該第二の界面14に隣接する電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁4464をもつ絶縁体64を含んでいる。前記フィルタは、ある極性の電荷キャリア75および76のある方向(前方方向34)の該フィルタ52を通じた流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁4253bおよび4254bの第一のセットと、前記ある極性とは逆のある極性の電荷キャリア(負電荷キャリア、電子84)の前記ある方向と実質逆向きのある別の方向(後方方向74)の流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁2453bおよび2454bの第二のセットとを含んでいる。
図13を参照すると、注入のために供給された電荷キャリアとして、TG61の価電子帯4461内のLH75およびHH76が示されている。LH75およびHH76は、構成粒子集団のエネルギー分布77をもって前方方向に輸送されているものとして示されている。LH75およびHH76のエネルギー分布は同じ分布77をなすものとして示されているが、LH75およびHH76がその構成粒子集団について有効質量の違いのために異なるエネルギー分布をもつこともできることを注意しておく。
図13では、LH75およびHH76の両者は、量子力学的トンネル効果によってフィルタ52の複数の障壁を通って輸送され、BG62の価電子帯に対して、影像力障壁4264の障壁高さ41よりもわずかに高い運動エネルギー46をもつLH75′およびHH76′となることが示されている。これらのキャリアが前方方向にさらに輸送されるとき、BG62を通ってのその輸送挙動はその有効質量の違いのために非常に異なったものになる。HH76′については、有効質量が重いため、平均自由行程は非常に短くなりうる。したがって、HH76′は他の粒子(フォノンなど)との散乱イベントを経験しやすく、弾道学的輸送効率(「弾道性」)は低くなる。図13では、HH76′は散乱イベントを経験してエネルギーを失ってHH79になるものとして示されている。さらに、これらの散乱されたHH79は散乱のために当初の分布77よりも広いエネルギー分布81を有するものとして示されている。そのようなホール79はRD64の価電子帯4464において影像力障壁4264の障壁高さ41よりも低いエネルギーで輸送され、よって障壁4264を越えて輸送されることは遮られ、CSR66にはいることはできないことがわかる。これに対し、LH75′は有効質量がより軽く、平均自由行程はずっと長く、HH76′よりも弾道性がずっと高い(たとえば、シリコンではLHの平均自由行程はHHの約3倍である)。ある場合には、前記LH75′の一部分はBG62を通って散乱されることなく(すなわち、弾道学的輸送で)運動エネルギー46をもって輸送され、BG62とRD64の界面でエネルギーの高い電荷キャリアLH78となることができる。そのようなLH78(「弾道学的LH」とも称される)は他の粒子(フォノンなど)との散乱は経験せず、よってその運動エネルギーおよびもとの運動に沿った方向性の運動量、ならびにもとの分布77と同様のエネルギー分布80を保存することができる。別の場合には、前記LH75′はBG62を通って部分散乱を受けて輸送され(部分弾道学的輸送)、それでも運動エネルギー46を十分高く、BG62とRD64との界面に向かう方向性をもって維持してLH78となることができる。いずれの場合にせよ、そのようなLH78は図6との関連で述べた機構における影像力障壁4264の障壁高さ41を乗り越え、RD64の価電子帯4464にはいって、通り進んで構成粒子集団のエネルギー分布80′をもつLH78′となり、最終的に捕集されて価電子帯4466におけるホール82としてCSR66上に保存されることができる。ホール電荷のこのようなフィルタ処理および注入のプロセスは(弾道学的輸送であろうと、部分弾道学的輸送であろうと)、弾道学的ホール注入機構と称される。典型的には、エネルギーの高い電荷キャリア(LH78)のエネルギー分布80は約30meVから約500meVの範囲のエネルギースペクトルを有する。そのようなホールの注入効率(供給されたキャリア数に対する捕集されたキャリア数の比として定義される)は典型的には約10-5から約10-1の範囲である。注入効率はさらにピエゾホールを注入することによって向上させることができる(図17B、図17Cとの関連で述べるピエゾ弾道学的ホール注入機構を参照)。
図10との関連で述べた系59および60の材料についての特定の実施例としては、TG61の電圧は弾道学的ホール注入の場合BG62の電圧に対して約+5Vから約+6.0Vの範囲で選ばれる。そのような電圧は、図6との関連で述べたように導体−絶縁体系60の影像力障壁高さ41を下げることによってさらに下げることができる。これは、たとえば約−1Vから約−3Vの範囲の電圧をCSR66に結合することによって行うことができる。あるいはまた、影像力障壁を下げるのは、CSR66の材料としてBG62より大きな仕事関数(すなわちより低いフェルミ準位エネルギー)をもつものを選ぶことによっても行うことができる。
TG61とBG62の間に印加される電圧は、これらの領域のために同程度のフェルミ準位エネルギーをもつ材料を用いることによってさらに低下させることができる。これは、弾道学的ホール注入のための系59および60の材料のもう一つの具体的な実施例をなす。たとえば、電荷注入系は、TG61としてはp+ポリシリコン、TD53としては酸化物層、BD54としては窒化物層、BG62としてはp+ポリシリコン、RD64としては酸化物層を有することができる。そのような実施例は、BG62の電圧に対するTG61の電圧が弾道学的ホール注入のためにより低い範囲で(たとえば約+4.5Vから約+5.5Vの範囲から)選ぶことを可能にする。
図13はさらに、BG62の伝導帯1862にある電子84が後方方向74に沿って輸送され、その際LH75およびHH76を前方方向34に輸送するための電圧極性のエネルギーバンド構造にバイアスを与えることができることを示している。後方輸送電子84は、
TG61における衝撃イオン化、電流や電力の無駄などといった、図10との関連で述べた後方輸送ホールによって引き起こされる問題と同じような望ましくない問題を生じうる。よって、フィルタ52を使うことによって電子84が後方輸送されてTG61にはいるのを遮ることが望ましい。
図13のエネルギーバンド構造から、後方輸送キャリア(すなわち電子84)は、前方輸送キャリア(すなわちLH75およびHH76)よりも多くの障壁を通って輸送される必要があることがわかる。後方輸送電子84を遮る第一の電子障壁2454bは該障壁2454bの入口側および出口側でそれぞれ障壁高さ2054bおよび20′54bを有している。障壁高さ2054bおよび20′54bはそれぞれBD54とBG62の間、TD53とBD54の間の界面におけるBD54の伝導帯1854を基準としている。第二の電子障壁2453bが示されており、その入り口側の障壁高さは2053bであり、電子84を遮るもう一つの障壁をなしている。障壁高さ2053bは、TD53とBD54の間の界面におけるTD53の伝導帯1853を基準としている。障壁2453bの出口側には障壁高さ20′53b(図示せず)があり、これはTG61とTD53の間の界面におけるTD53の伝導帯1853を基準としている。ここで示した例では、障壁高さ20′53bは電子84のエネルギーレベルよりも低く、よって図13では示されていない。障壁2454bおよび2453bの両方が、後方輸送電子84を遮るためのフィルタ52の伝導帯におけるエネルギーバンド構造を形成している。
ホール75および76に対しても、前方方向34に沿ったその輸送経路上に二つの同様の障壁がある。第一のポテンシャル障壁4253bはTD53によって形成され、該障壁4253bのそれぞれ入口側と出口側に障壁高さ4153bおよび41′53bをもつ。BD54によって第二の障壁4254bが形成され、これは該障壁4254bの入口側および出口側でそれぞれ障壁高さ4154bおよび41′54b(図示せず)をもつ。障壁4253bおよび4254bの両方が、フィルタ52の価電子帯にエネルギーバンド構造を形成し、前方輸送ホール75および76を遮る効果をもつ。図13では、エネルギーバンド構造はホールを注入するためのバイアスがかけられている。障壁高さ4154bおよび41′54bの両方が前方輸送ホールのエネルギーレベルよりも低く、よって図13では示されていない。
図14は、弾道学的ホール注入のための、本発明に基づく障壁高さ工学の効果を示すものである。ここでは、後方輸送電子の障壁高さ20′54bが前方輸送ホールの障壁高さ4154bよりもフィルタ52の両端の電圧降下(すなわち、TG61とBG62の間の電圧)に対してより弱い電圧依存性を有しているものとして示されている。よって、二つの障壁高さ20′54bおよび4154bはフィルタ52の両端の電圧降下によって異なる度合いで変更を受けることができる。障壁高さのこの電圧依存性は非対称であり、主として、障壁高さ工学理論において説明されるような、誘電率と誘電体厚さの組み合わさった効果(すなわち、「εT効果」)によって支配される。見て取れるように、TG61とBG62の間の印加電圧を増加させると、TG61のホール75および76に対する障壁高さ4154bはBG62の電子84に対する障壁高さ20′54bよりも速く減少する。換言すれば、障壁高さ20′54bは障壁高さ4154bよりも弱い電圧依存性を有している。障壁高さ4154bは実際、約+3.5Vの印加電圧でホールエネルギー(すなわち、障壁高さが0に等しいところ)より下になるが、それに対して障壁高さ20′54bについては約+2.5eVという十分な障壁高さがまだ残っている。図13は、印加電圧がこの電圧レベルよりさらに上げられたときの状況のエネルギーバンド図を示したものである。図13に示されるような、ホール75および76に対する第二の障壁4254bは、印加電圧がこの電圧レベル以上に上げられているので今やホールエネルギーより下になる。したがって、TG61のホール75および76はBD54層によって遮られることなくフィルタ52を通って輸送されることができる。障壁高さ20′54bの印加電圧に対するずっと弱い依存性のため、この電圧範囲でも電子84を遮り、よって電子の後方輸送を防ぐための障壁2454bおよび2453bは維持される。
図14でなされた説明は、二つの障壁高さ20′54bおよび4154bについて障壁高さの非対称な電圧依存性を示す例としてなされている。図13のフィルタ52の他の障壁高さ(障壁2453bおよび4253bのそれぞれ20′53bおよび41′53bような)についても同様の説明を容易にすることができる。このように、後方輸送電荷キャリアを制御するポテンシャル障壁の障壁高さが、前方輸送電荷キャリアを制御するポテンシャル障壁の障壁高さよりも、フィルタの両端での電圧降下に対してより弱い電圧依存性を有することが明らかである。そのような効果は、一つの極性型の電荷キャリアが前方方向34に輸送されるのを許容する一方、後方方向74に輸送される逆極性型の電荷キャリアは遮る。本フィルタは、所望のキャリア(すなわち前方輸送キャリア)の輸送に影響することなく不要なキャリア(すなわち後方輸送されるキャリア)をフィルタで除去する独特な機能を提供し、それにより電荷の流れを「純化」する電荷フィルタ機能を提供するのである。電荷フィルタ機能は、フィルタ52のフィルタ機能のもう一つの実施例であり、図10との関連で述べた電荷フィルタ機能と同様である。
示されてはいないものの、本フィルタはまた、TGとBGの間の電圧極性が弾道学的ホール注入のために設定されている際に分圧器機能を提供する。弾道学的ホール注入のための分圧器機能はフィルタ52の誘電体における電圧降下を減少させ、弾道学的電子注入について図12Bとの関連で述べたのと同じような効果によって支配される。弾道学的ホール注入の場合は、示されているより高い電圧のため、分圧器機能は、誘電体の両端間での電圧降下を減らすことによってフィルタ52の誘電体内での電場を低減し、それにより高電場に関係した問題を防止する。
フィルタ52は本発明に基づくもう一つのフィルタ機能を提供する。そのようなフィルタ機能は、ある一つの極性型で、より軽い質量をもつ電荷キャリア(たとえばLH)にはフィルタを通っての輸送を許容し、同じ極性型でより重い質量をもつ電荷キャリア(たとえばHH)はフィルタを通っての輸送を遮る。よって、フィルタ52は電荷キャリアの流れをその質量に基づいてフィルタ処理することのできる質量フィルタ機能を提供する。
図15はフィルタ52の質量フィルタ機能の基礎を示している。質量フィルタ機能は、いったん戻って図13を参照することでよりよく把握できる。図13の導体−フィルタ系59において、導体61は熱的電荷キャリア(LH75およびHH76)を提供する。フィルタ52は導体61に接しており、ある極性の電荷キャリア75および76(正電荷キャリア)に対するフィルタ機能を提供するための誘電体53および54を含んでいる。ここで、前記フィルタは、ある一つの極性の電荷キャリア75および76にフィルタ52を通ってのある方向(前方方向34)の流れを制御するために電気的に変更可能なポテンシャル障壁4253bおよび4254bを含んでいる。
量子力学の理論において、電荷キャリアのトンネル確率がその質量の関数であり、より重いキャリア(たとえばHH76)がより軽いキャリア(たとえばLH75)より低いトンネル確率をもちうることが知られている。図15は、フィルタ52の質量フィルタ機能を説明するために、LHおよびHHに対して計算された規格化されたトンネル確率をVTDの逆数の関数としてプロットしたものである。図において、フィルタ52は厚さ3nmの酸化物のTD53および厚さ2nmの窒化物のBD54からなるものと想定されている。弾道学的ホール注入のためにTG61とBG62の間に印加される電圧の範囲(+5Vから+6V)については、HHのトンネル確率がLHのトンネル確率よりも4ないし8桁小さいことが示されている。キャリア質量の効果に起因するトンネル確率の相違は、フィルタ52で質量フィルタ機能を実現することを可能にする。ここで示した説明はホールキャリアについてのものだが、同じ説明は、同じ極性型だが質量が異なる他の種類のキャリア(たとえば、図17Bおよび図17Cとの関連で述べるピエゾ電子)にも容易に拡張できる。質量フィルタ機能は、フィルタ52のフィルタ機能のもう一つの実施例である。
フィルタ52の質量フィルタ機能およびLH通過へのその適用は、本発明に望ましい利点をもたらす。たとえば、弾道学的注入のために使われる、TG61の供給された電荷キャリアを無駄にすることが避けられる。これは、TG61内のホールキャリアの大半の構成粒子がHH型であり、平均自由行程がより短く、BG62を横切って輸送される際に散乱イベントを経験しやすいためである。そのようなHHは弾道学的注入に効果的に貢献することができず、よって供給される電荷キャリアとして用いられると無駄になる。フィルタ52の質量フィルタ機能を通じてHHをフィルタ除去することによって、主たる供給電荷キャリアは今ではLHキャリアのみに限定される。LHキャリアはより長い平均自由行程をもち、図13との関連で述べた機構によりBG62を通って輸送される間、弾道学的注入により効率的に貢献する。結果として、フィルタ52の質量フィルタ機能は、供給電荷キャリアとして高い弾道性をもつキャリアを選択する機能を提供し、よって弾道性が低いキャリアによる供給電流の無駄を回避する。
本発明の独特な部分の一つは、障壁高さ工学の概念と、導体−フィルタ系59のフィルタ52におけるその実装によって与えられる効果にある。フィルタ52は、図7との関連で述べた帯域通過フィルタ機能、図10、図12A、図13、図14との関連で述べた電荷フィルタ機能、図15との関連で述べた質量フィルタ機能を含む独特なフィルタ機能を提供する。フィルタ機能に加えて、フィルタ52は図12Bとの関連で述べた追加的な分圧器機能を提供する。この開示の思想は、前記フィルタの誘電体および/またはアーキテクチャを修正するために適用することができ、それを通じてこれらの機能を個別的または集団的に調整することができることは、通常の当業者には明らかであろう。たとえば、前記フィルタは、その分圧器機能を向上させるために3つ以上の誘電体を含むこともできる。さらに、フィルタの誘電体は一様な化学成分をもつ必要はなく、これらの機能を効果的に支持することのできる、徐々に変化する成分構成であってもよい。よって、本発明は、ここに示され、上に説明された実施形態に限定されるものではなく、付属の請求項の範囲にはいるすべてのいかなる変形をも包含するものと理解されるものとする。
ここで図16に目を向けていただきたい。図16は、本発明に基づく電荷注入系のエネルギーバンド構造についてのもう一つの実施形態についての平坦バンド条件におけるエネルギーバンド図を掲げている。バンド構造はほとんどすべての点で図11と同一であるが、一点だけ相違がある。その相違は、BG62が半導体ではなく、BG62がフェルミ準位1662に対応する仕事関数をもつ金属、たとえば図1との関連で述べた導体の材料のようなものからなる場合の図が掲げられている。図16はさらに、TG61の価電子帯にある電子56、LH75、HH76という電荷キャリアを示している。その電子56は、図7、図12A、図10との関連で述べたように、TG61およびBG62にしかるべき電圧および極性の電圧を印加することによって、フィルタ52によってフィルタ処理され、CSR66に注入される。同様に、LH75およびHH76は、図14、図15、図13との関連で述べたように、TG61およびBG62にしかるべき電圧と極性の電圧を印加することによってフィルタ52によってフィルタ処理され、CSR66に注入される。
弾道学的電荷注入のためのバンド構造についてのこれまでの実施形態では、BG62が弾道学的電荷輸送のための能動層をなし、電荷キャリアが良好な効率でBG62を通って輸送されるためには、一般に電荷キャリアの平均自由行程の数倍よりも薄い厚さ(典型的には10nmから20nmの範囲)をもつことが求められている。BG62層を薄くする必要性は、必然的にその層に対する大きなシート抵抗Rを生じ、ICの応用における根本的な問題を引き起こす。たとえば、大きなシート抵抗Rと大きなCが組み合わさった効果のために大きな信号遅延(すなわち、RC遅延)を引き起こしうる。RC遅延は大きなメモリアレイに組み込まれたときのメモリセルにアクセスする速度を制限しうるので、これは特に、メモリ動作に関する主要問題である。第二に、不選択セルに対する擾乱防止のため、所定の電圧の最適な組み合わせが通例これらのセルに印加される必要がある。しかし、RC遅延のため、不選択セル上の電圧は所望の値とは異なることがありえ、よってセル擾乱がより起こりやすくなる。さらに、大きなRは大電流Iと組み合わさってIR効果を生じることがある。それは信号線に電圧を通すときに電圧降下を起こしうる。この効果は、メモリセルの指定された電極上の電圧が所望のレベルに達する妨げとなり、よってセルの動作に悪影響を与えうる。たとえば、不選択セルに対する悪影響としては、セル状態が意図せずして一方の論理状態(たとえば「0」)から他方(たとえば「1」)へと変わるような望ましくないセル擾乱がありうる。選択されたセルに対するIR効果の影響としては、セル動作(たとえば、プログラム、消去、読み出し操作)の速度低下がありうる。
しかし、これらの問題は、これから説明するピエゾ効果を考えることによって克服することができる。
ピエゾ効果の弾道学的電荷注入への適用
ピエゾ効果は、固体物理学におけるよく知られた物理現象である。ピエゾ効果は、半導体材料に機械的応力が加えられたときにその半導体材料の電気的性質を変化させることができる(Pikus and Bir,“Symmetry and Strain-Induced Effects in Semiconductors,”New York, Wiley, 1974参照)。機械的応力は、当該材料の内部または外部のひずみ源から発生させることができる。この機械的応力は、圧縮性(圧縮)または伸張性(引っ張り)のいずれかでありえ、当該材料のひずみを生じることができる。半導体(たとえばシリコン)のピエゾ効果のいくつかのよく知られた応用として、抵抗器におけるピエゾ抵抗効果、バイポーラトランジスタおよびダイオードにおけるピエゾ接合効果、センサーにおけるピエゾホール効果、電界効果トランジスタ(FET)におけるピエゾFETがある。
本発明はさらに、ピエゾ効果を弾道学的電荷キャリア注入および輸送への適用を提供する。新たなピエゾ弾道学的電荷注入機構がここに記載する本発明のさまざまな実施形態との関連で提供される。
ピエゾ弾道学的電荷注入機構
半導体中にひずみがあると、伝導帯の谷ならびにHHおよびLHの価電子帯サブバンドの縮退を分裂させうることが知られている(Hensel et al, “Cyclotron Resonance Experiments in Uniaxially Stressed Silicon: Valence Band Inverse Mass Parameters and Deformation Potentials”, Phys. Rev. 129, pp. 1141-1062, 1963参照)。図17A、図17B、図17Cは半導体のエネルギーEと運動量ベクトルkとの間の分散関係を、それぞれひずみがない(すなわち「ひずみなし」)、引っ張り応力下(引っ張りひずみ)、圧縮応力下(圧縮ひずみ)の場合について示す概略図を掲げている。
図17Aは、ひずみがない半導体の分散関係を示している。示されている電子85は、ちそれぞれ極小点86mおよび87mをもつ左の谷86および右の谷87を埋めている。極小点86mおよび87mは同程度のエネルギー準位にあるように示されている。二つの谷について示されている分散曲線の曲率が異なるため、左の谷86が右の谷87よりも重い有効質量をもつ。また、ホール90で埋められたLHサブバンド88およびHHサブバンド89の分散曲線も示されている。LHサブバンド88およびHHサブバンド89は、価電子帯極大点91においてエネルギーの縮退をもつように示されている。
図17Bは図17Aと同様の分散関係を示しているが、半導体は引っ張り応力によってひずみが加えられている。伝導帯の谷は位置がずれて、左の谷86では極小点が上に動き、右の谷87では極小点が下に動いている。このずれは二つの谷の中での電子構成の分布を変更し、電子85は、伝導帯極小点87mでのエネルギーレベルがより低いため谷87により多く分布している。電子85が主として谷87に存在するような分布変更は二つの理由から望ましい。第一に、伝導谷87におけるより軽い電子有効質量のため、半導体内での電子輸送の望ましい効果を提供する。第二に、谷の分離は 谷どうしの間の電子散乱を減少させうることが知られている。これらの効果は、例としてシリコンを使うことでより具体的に説明できる。シリコン中のひずみは、6重縮退した伝導帯の2重縮退の谷および4重縮退への分裂を引き起こし、ほとんどの電子(全電子のほぼ100%)が電子輸送方向でのより軽い有効質量をもつ2重縮退の谷に分布するようにすることができる。このひずみ効果は、ひずみSi-FET(ピエゾFETの一種。Vogelsang et al.,“Electron Mobilities and High-Fiedld Drift Velocity in Strained Silicon on Silicon-Germanium Substrate,”IEEE Trans. on Electron Devices, pp. 2641-2642, 1992参照)において電子易動度を約50%増加させ、ドリフト速度を約16%増加させることが知られている。同様のひずみ効果は、弾道学的電荷キャリアの輸送を向上させるために適用されうる。こうして、シリコンにおける弾道学的電子注入効率が2重縮退谷への電子の再分布によって向上させることができる。これはシリコンに応力を加えて電子輸送の方向のひずみを引き起こすことによって達成することができる。このように、ピエゾ効果は、集中的に分布した「ピエゾ」電子(すなわち、機械的応力下にある材料中の電子)を生じさせることができることが明らかである。そのような電子はより軽い質量とより低い散乱率を有する。これらの効果を弾道学的電子注入に組み合わせれば、本発明の一つの実施形態に基づくピエゾ弾道学的電子注入機構が提供される。
図17Bはまた、半導体における引っ張り応力のひずみ効果がさらに、価電子帯サブバンド88および89の縮退を解くことができることを示している。ここで、LHサブバンド88は上方にずれ、HHサブバンド89は下方にずれていることが示されている。LH−HHバンド分裂は、LHサブバンド88およびHHサブバンド89のそれぞれの極大点88pおよび89pの間で示されている。このバンド分裂は、LHとHHとの間のバンド間散乱を減少させる効果がある。さらに、図示されているように価電子帯サブバンドが変形し、これが軽いホールの有効質量を減少させることができる。結果として、弾道学的軽いホールの平均自由行程は、ひずみのない半導体よりもひずみのある半導体においてのほうが長くなる。
図17Bはまた、LHサブバンドとHHサブバンドの縮退を解くことによって、ホール90がHHサブバンド89からLHサブバンド88に再分布させられうることを示している。実際、引っ張り応力下でひずみを加えられたシリコンでは、LH分布数は全ホール数のうちの約20%から約90%へと増加させることができる(Fischetti et al., Journal of Appl. Physics, vol. 94, pp. 1079-1095, 2003参照)。これらの効果については、本発明の注入機構においてさらに考察する。ホールをHHサブバンドからLHサブバンドに再分布させることを通じて「ピエゾ」ホール(すなわち、機械的応力下にある材料中のホール)を注入することによってホール注入効率を向上させることができる。これは、注入されるホールがやってくるもとの領域に応力を加えることを通じて実現することができ、弾道学的電荷注入においてピエゾ効果を用いる方法を提供する。集中して分布したLHおよびそのより高い弾道性のため、これらの組み合わされた効果をそのような方法を通じて弾道学的電荷注入に適用すると、本発明に基づくピエゾ弾道学的電荷注入機構のもう一つの実施形態としてピエゾ弾道学的ホール注入機構が提供される。本方法は、ピエゾホール(たとえばLH)の注入を通じて弾道学的ホール注入効率を向上させる。
図17Cは図17Bと同様の分散関係を示しているが、半導体は圧縮応力のひずみを受けている。引っ張り応力の場合と同様、圧縮応力も価電子帯サブバンド88および89の縮退を解くことができるが、図17Bに示したのとは逆方向である。図示したように、LHサブバンド88は下向きにずれ、HHサブバンド89は上向きにずれている。にもかかわらず、HHとLHの縮退を解くことはLHとHHの間のバンド間散乱を減少させることができる。この価電子帯サブバンドのずれのため、図示したようにホールは主としてHH価電子帯サブバンドに分布している。さらに、価電子帯サブバンドはひずみのない図17Aの場合に比べて変形した曲率をもつものとして示されている。図17Cの変形したHH価電子帯サブバンドは、重いホールの有効質量をより軽い質量に減少させることができる。結果として、ひずみのある半導体におけるホール(すなわち、ピエゾホール)の平均自由行程は、ひずみがない場合よりも長くなりうる。この効果は、本発明に基づくピエゾ弾道学的電荷注入機構のもう一つの実施形態を提供する。
図示はしていないが、そのようなピエゾ電荷(すなわち、ピエゾ電子およびピエゾホール)は図9、図10、図16と関連するエネルギーバンド構造における供給された電荷キャリアとして用いられ、そこで述べた輸送プロセスを通り抜けることができる。
図18は、応力がピエゾ弾道学的電荷の平均自由行程を変える効果の例を示している。ひずみのあるシリコン上の圧縮応力は電荷輸送の方向と平行な方向に沿って調整され、HHに対する効果を説明する例として使用される。図18を参照すると、縦軸は規格化された平均自由行程、すなわちひずみのあるシリコンでの平均自由行程とひずみのないシリコンでの平均自由行程との比を表している。図に現れているように、規格化平均自由行程は応力を上げていくと直線的に増加する。さらに、平均自由行程に対する向上効果は、応力軸がシリコン中の結晶学的方向の[001]よりも[111]に平行な場合についてより顕著である。
図19は、ピエゾ弾道学的ホール注入についての効率向上度と圧縮応力との関係を示している。効率向上度は、ひずみのあるシリコンの効率のひずみのないシリコンの効率に対する比である。グラフから見て取れるように、向上度はほどほどの機械的応力(たとえば、200メガパスカル(MPa)程度以下)では応力に対して直線よりも急に上昇するが、より上の範囲(たとえば400MPa程度以上)では応力にほぼ直線的に比例するようになる。さらに、向上効果は応力軸が[001]よりも[111]に平行な場合についてずっと顕著である。[001]方向と[111]方向の応力軸の場合について、それぞれ約20倍、50倍高い効率が達成可能であることがわかる。
図20は、効率向上度のひずみのないシリコンの平均自由行程(以下、「mfp*」)に対する感度を示している。mfp*の違いの原因としては、たとえば半導体中の不純物濃度の差がありうることを述べておく。この図では結晶学的方向[001]に平行な応力を選んでいる。図20を参照すると、応力が同じ大きさに保たれる場合、mfp*が短い場合(たとえば4nm)のほうがより長いmfp*の場合(たとえば10nm)よりも、顕著に向上させられることがわかる。たとえば、1000MPaの応力がmfp*が4nmのシリコンに適用されると効率向上度を1000倍高くすることができるが、mfp*が10nmのシリコンにおいては同じ応力では10倍の効率向上しか達成できない。ここで立証された効果は、先進技術における小型化されたメモリセルのために有益である。そのようなメモリセルでは、シリコン中の不純物濃度がより高いためmfp*が短くなると予想されるのである、これは、シリコン中の不純物濃度が高いほうがより小さな幾何学的サイズにまでセルを小型化するのを助けることができるからである(たとえば、メモリセルを小型化したときに弾道学的電荷が横切る領域の抵抗のいたずらな増加を避けることができる)。
これで、弾道学的キャリア(LH、HHまたは電子)の輸送機構はピエゾ弾道学的電荷注入機構を用いることによって変更できることが明らかとなったことであろう。また、通常の当業者には、この開示の教えるところは、注入効率を向上させられるよう電荷の分布や平均自由行程を変更するために異なる種類の応力(たとえば引っ張り応力または圧縮応力)を選択したり、応力軸を変えたりするために適用されうることが明らかとなったことであろう。
これまでの議論はピエゾホールの注入に焦点を当ててきたが、通常の当業者には、同様の考察、その効果および利点がピエゾ弾道学的電子注入にも当てはまることが明らかであろう。さらに、これまでの議論は半導体(たとえばシリコン)に焦点を当ててきたが、通常の当業者には、同様の考察、その効果および利点は他の種類の導体(たとえば、TiN、TaN、Si1-xGex合金など)にも当てはまることが明らかであろう。さらに、これまでの電荷注入系の解説はメモリ関係の応用に焦点を当ててきたが、通常の当業者には同様の考察、その効果および利点は他の種類の半導体デバイス(たとえばトランジスタ、増幅器など)にも適用可能であることは明らかであろう。
図21は、電荷の注入効率が1%の固定値に維持されているときに、BG62のシート抵抗の平均自由行程への依存性を示している。ピエゾ弾道学的電子注入機構を用いることによって、シート抵抗を、たとえばひずみなしのシリコンの場合の250Ω/sqから平均自由行程が同程度でひずみありのシリコンの場合の220Ω/sqに減少させることができる。図21はまた、前記機構を用いて、平均自由行程を10nmから約28nmに伸ばすことによって注入効率を損なうことなくさらなるシート抵抗の減少が実現できることを示している。この効果は、本発明のある側面に基づく、大抵抗の問題を解消する手段を提供する。
ピエゾ弾道学的電荷注入機構は、本発明の電荷注入のバンド構造に容易に適用できる。ここでは図13に示したエネルギーバンド構造を使って例を示す。図13において、今、ホールの分布数の大半がLH75になるよう、TG61にひずみが与えられる。TG61においてLHの分布数が高いほうが望ましいのは、高い弾道性をもつ電荷キャリアがより多く注入に提供されるからである。それは、たとえば、ピエゾ弾道学的電荷注入機構の一つの実施形態に基づいてTG61に機械的応力を加えることによって行われる。応力効果により、TG61中でLH75と共存しうるHH76は、今ではずっと少ない分布数になる(たとえば、全ホール分布数のうち約5ないし約20パーセント)。
TG61にはここで述べた機構のもとでひずみが与えられたが、BG領域62にピエゾ弾道学的電荷注入機構の別の実施形態に基づく条件の下でひずみを与えてBG62を横切るホールの平均自由行程がその領域のmfp*より長くなりうるようにすることもできることを注意しておく。たとえば、これは図17Bおよび図17Cとの関連で述べたようにBG62に機械的応力を加えてバンド縮退を解くことによって行われる。その方法は、当該領域を横切るときのLHキャリアのバンド間散乱を減少させることができ、よってその注入効率を向上させる。
本発明のメモリセル
本発明は、さらにさまざまな実施形態のメモリセルを提供する。各実施形態は、あるエネルギー分布をもつ熱的電荷キャリアを有する第一の導体と、該導体と接し、ある極性の電荷キャリアに対するフィルタ機能を与えるための誘電体を有するフィルタを含んでいる第一の導体−材料系(「導体−フィルタ系」)を有する。前記フィルタは、ある極性の電荷キャリアの当該フィルタを通じた一方向への流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁の第一のセットと、前記極性に対して逆極性の電荷キャリアの当該フィルタを通じた前記一方向に対して実質逆のもう一つの方向への流れを制御するための電気的に変更可能なポテンシャル障壁の第二のセットとを含んでいる。当該メモリセルはさらに、前記フィルタに接し、前記フィルタからのエネルギーの高い電荷キャリアを有する第二の導体と、前記第二の導体とある界面で接し、該界面に隣接する電気的に変更可能な影像力ポテンシャル障壁を有する絶縁体とを含んでいる第二の導体−材料系(「導体−絶縁体系」)を有している。当該メモリセルはさらに、第一の伝導型を有する半導体材料のボディを有しており、該ボディ中には第二の伝導型を有する第一および第二の領域が離間して形成されており、その間として定義されるボディのなすチャネルと、該チャネルに隣接するチャネル誘電体と、前記絶縁体と前記チャネル誘電体との間に配置される、前記第二の導体からのエネルギーの高い電荷キャリアを保存するための電荷保存領域とをもつ。
実施例100
図22は、本発明のセル構造の一つの実施形態に基づくセル・アーキテクチャ100の断面図である。セル100を参照すると、図7、図9、図11、図13との関連で述べた種類の導体−フィルタ系59、図1,図5、図6との関連で述べた種類の導体−絶縁体系60、フローティングゲート(「FG」)66100の形の電荷保存領域(「CSR」)66、およびチャネル誘電体(「CD」)68が示されている。導体−フィルタ系59はトンネリングゲート(「TG」)61およびフィルタ52を含んでおり、このうちTG61が系59の導体に対応する。フィルタ52は図7との関連で述べた帯域通過フィルタ機能、図10、図12A、図13、図14との関連で述べた電荷フィルタ機能、図12Bとの関連で述べた分圧器機能、および図15との関連で述べた質量フィルタ機能を提供する。ある好ましい実施形態では、フィルタ52は図7との関連で述べたトンネル誘電体(「TD」)53および遮蔽誘電体(「BD」)を有している。導体−絶縁体系60は、系の導体および絶縁体としてそれぞれ弾道学的ゲート(「BG」)62および保持誘電体(「RD」)64を有している。TG61からRD64の諸領域のセル構造は、導体−フィルタ系59のフィルタ52を導体−絶縁体系60の導体(BG)62に「接合する」ことによって構築される。こうして形成される構造は、TG61領域とBD54領域の間に配置されたTD53をもち、TD53領域とBG62領域の間に配置されたBD54をもつ。BG62はFG66100に隣接しながらも保持誘電体(RD64)によってそれから絶縁されて配置されている。FG66100はボディ70に隣接しながらもCD68によってそれから絶縁されて配置されている。FG66100は典型的には、RD64、CD68および漏洩なしに電荷を保持するための適正な厚さおよび良好な絶縁性をもつその他の誘電体を近接して含む誘電体によって包み込まれ、絶縁されている。典型的には、RD64およびCD68は約5nmから約20nmの範囲の厚さをもつ。TD53およびBD54は一様な化学成分、あるいは徐々に変化する成分構成をもつ誘電体からなることができる。TD53およびBD54は、酸化物、窒化物、酸窒化物、Al2O3、HfO2、ZrO2、Ta2O5からなる群のうちの誘電体材料であってよい。さらに、これらの材料およびそれから形成される合金のいかなる複合、たとえばHfO2−SiO2、HfAlO、HfSiONなどをも、TDおよびBDのための誘電体材料として使用することができる。好ましい実施形態においては、厚さが2nmないし4nmの酸化物誘電体および約2nmから5nmの範囲の厚さをもつ窒化物誘電体がそれぞれTD53およびBD54に選ばれる。
図22のセル100はさらに、ソース95、チャネル96、ドレイン97およびボディ70を半導体基板98(シリコン基板またはシリコン・オン・インシュレータ基板など)中に具備している。ボディ70は、ドーピングレベルが約1×1015原子/cm3から約1×1018原子/cm3の範囲の第一の伝導型(たとえばp型)の半導体材料からなる。ソース95およびドレイン97はボディ70中に形成され、典型的には第二の伝導型(たとえばn型)の不純物によって約1×1018原子/cm3から約5×1021原子/cm3の範囲のドーピングレベルで高濃度にドーピングされている。これらのドーピング領域は熱拡散によって、あるいはイオン注入によって形成されうる。ソース95およびドレイン97の間に定義されるボディ部分がチャネル96となる。
図22では、TG61はBG62に重なって両者の間に重なり領域99を形成するものとして示されている。少なくともFG66100の一部分がその近傍に配置される。重なり領域99はセル・アーキテクチャにおいて本質的である。TG61における供給される電荷キャリアがBG62、RD64を通り最終的にFG66100へと輸送されるためには、重なり領域99の下のフィルタによってフィルタ処理されるのである。FG66100はそのような電荷キャリアを捕集して保存するためのもので、ポリシリコン、ポリSiGeまたは効率的に電荷を保存することのできる他のいかなる種類の半導体材料であってもよい。FG66100の伝導型はn型でもp型でもよい。
TG61およびBG62の材料は、ポリシリコン、多孔質シリコン、ポリSiGeなどといった半導体、Al、Pt、Au、W、Mo、Ru、Ta、Ni、TaN、TiNなどといった金属、またはタングステンシリサイド、ニッケルシリサイドなどといったその合金からなる群から選択することができる。セル100のTGとBGはそれぞれ単層として示されているが、BG62およびTG61はそれぞれ複数層の構造を有していてもよい。たとえば、TG61は、ポリシリコン層の上にニッケルシリサイド層を有して複合層のTG61を形成していてもよい。TG61の厚さは、約80nmから約500nmの範囲であることができ、BG62の厚さは約20nmから約500nmの範囲であることができる。
線AA′に沿った方向のエネルギーバンド構造は図9型、図10型または図16型であることができる。
メモリセル100のプログラム操作は、図9および図10との関連で述べた弾道学的電子注入機構を、あるいは図17Bならびに図9および図10との関連で述べたピエゾ弾道学的電子注入機構を用いることによって行うことができる。これらの注入機構は、約30meVから約500meVの範囲のエネルギースペクトルをもつエネルギー分布をもつエネルギーの高い電荷キャリアをCSR66に注入する。特定の実施形態については、BG62の電圧に対するTG61の電圧は、コンパクトなエネルギー分布をもつ電子を注入するためのそれらの間のプログラム電圧を形成するため、約−3.3Vから約−4.5Vの範囲で選ばれる。これはたとえば、TG61に−3.3Vの電圧を、BG62に0Vの電圧を印加することによって行うことができ、それによりプログラム電圧として−3.3Vが発生する。あるいはまた、TGに−1.8V、BGに+1.5Vのような他の電圧の組み合わせを印加することによって行うこともできる。TGとBGの間の電圧降下(すなわちプログラム電圧)は、図3A、図3B、図3Cとの関連で述べた導体−絶縁体系60の影像力障壁高さを引き下げることによってさらに低下させることができる。それは、ソース95、ドレイン97、ボディ70に約1Vから約3.3Vの範囲の電圧を印加することを通じて約1Vから約3Vの範囲の電圧をCSR66に結合することによって行うことができる。たとえば、RDの厚さが8nmと想定すると、そのような影像力低下効果はプログラム電圧を−3.3Vから約−2.8Vないし−3.0Vの範囲に低下させることができる。
CSR66のFG66100は、セル100がプログラムされてプログラム状態となったあとでは電子キャリアによって負電荷を帯びている。セル100のプログラム状態は消去操作を実行することによって消去される。消去操作は、図13との関連で述べた弾道学的ホール注入機構を、あるいは図17B、図17C、図13との関連で述べたピエゾ弾道学的ホール注入機構を用いることによって行うことができる。これらの注入機構は約30meVから約500meVの範囲のエネルギースペクトルをもつエネルギー分布をもつエネルギーの高い電荷キャリアをCSR66に注入する。特定の実施形態については、BG62の電圧に対するTG61の電圧は、コンパクトなエネルギー分布をもつ軽いホールを注入するためのそれらの間の消去電圧を形成するため、約+5Vから約+6Vの範囲で選ばれる。これはたとえば、TG61に+3Vの電圧を、BG62に−2Vの電圧を印加することによって行うことができ、それにより消去電圧としてTGとBGの間に+5Vの消去電圧が発生する。あるいはまた、TGに+2.5V、BGに−2.5Vのような他の電圧の組み合わせを印加することによって行うこともできる。消去電圧(すなわちTGとBGの間の電圧降下)は、図6との関連で述べた導体−絶縁体系60の影像力障壁高さを引き下げることによってさらに低下させることができる。影像力障壁はFG66100が負電荷を帯びているときには若干下がるが、一般にソース95、ドレイン97、ボディ70に約−1Vから約−3.3Vの範囲の電圧を印加することを通じて約−1Vから約−3Vの範囲の電圧をCSR66に結合することによって行うことができる。たとえば、RDの厚さが8nmと想定すると、そのような影像力低下効果は+5Vの消去電圧を約+4.5Vないし+4.7Vの範囲に低下させることができる。
最後に、このメモリセルを読み取るためには、およそ+1Vの読み取り電圧がそのドレイン97に印加され、およそ+2.5V(当該デバイスの電源電圧に依存する)がそのBG62に印加される。他の領域(すなわち、ソース95およびボディ70)は接地電位にある。もしFG66100が正電荷を帯びている場合(すなわち、CSR66が電子を放出している場合)、チャネル96がオンにされる。こうして、ソース95からドレイン97への電流が流れる。これが「1」状態となる。他方、FG66100が負電荷を帯びている場合には、チャネル96は弱くオンにされるか、あるいは完全に遮断されるかする。BG62およびドレイン97が読み取り電圧まで上げられたとしても、チャネル96を通じてはほとんど、あるいは全く電流が流れない。この場合、電流は「1」状態に比べて非常に小さいか、あるいは完全に電流が0かである。このようにして、このメモリセルは「0」状態にプログラムされていることが検知される。
本発明のメモリセル100は、周囲の伝導性領域から電気的には絶縁されているが容量的に結合している、導体または半導体材料のCSR66(すなわち、FG66100)上に電荷を保存するものとして示されている。そのような保存方式では、電荷はCSR66全体にわたって均一に分布する。しかし、この開示の恩恵を受ける通常の当業者には、本発明がここに示され、上に説明された実施形態に限定されず、電荷を保存する他のいかなる種類の方式をも包含できることは明らかとなるであろう。たとえば、本発明のメモリセルは、図23および図24にそれぞれ示すような、誘電体層中のナノ粒子またはトラップのような複数の離散的な保存サイトを有するCSRに電荷を保存することもできる。さらに、BGは普通の導体として示されているが、該導体はナノメートルスケールまたはサブナノメートルスケールの空隙やトンネルを含んでいてもよい。空隙やトンネルは空気または真空で満たされていることができる。そのような種類の導体は「多孔性導体」と称され、この用語は導体材料に合わせて修正されうる。たとえば、多孔性導体は導体としてシリコンを考えるときは多孔性シリコンである。BG62の材料として多孔性導体を選ぶことは、プログラム操作および消去操作の間にBGを通じてエネルギーの高い電荷キャリアを輸送する際に該キャリアの弾道性を向上させる利点を提供する。これはそのようなキャリアの一部分がBGの空隙やトンネル領域中は散乱されることなく輸送されることができるからである。
実施例200
図23に目を向けると、メモリセル200では図22のメモリセル100のわずかな変形が呈示されている。セル200はほとんどすべての点で図22のセル100と同一であるが、一点だけ違いがある。その違いは、CSR66としてFG66100の伝導性領域の代わりに、セル200ではCSR66としてナノメートルスケールで形成された複数の離間したナノ粒子66200を有しているという点である。ナノ粒子66200は典型的には約2nmから約10nmの範囲の大きさをもつ卵形で、CD68に接し、RD64中に配置されているものとして示されている。RD64は単一層として示されているが、酸化物/窒化物/酸化物スタックの層のような誘電体のスタックからなる層であってもよい。保存サイトとなるナノ粒子は、それぞれが卵形で約2nmから約7nmの範囲の直径をもつシリコンのナノ結晶であることができ、これは周知の化学蒸着(CVD)法を使って形成できる。ナノ粒子は、ナノ粒子の形をなし、効果的に電荷を保存することのできるその他の種類の半導体材料(たとえばGe、SiGe合金など)、誘電体粒子(たとえばHfO2)または金属(たとえばAu、Ag、Ptなど)であってもよい。
ナノ粒子66200の断面が卵形である必要はなく、基板表面と同じ面上である必要もなく、基板表面より下または上のいかなる高さにあってもよく、効果的に電荷キャリアを保存することのできる他の形であってもよいことは、当業者には明らかであろう。さらに、ナノ粒子66200はCD68に接する必要はなく、完全にRD64内にある必要もなく、部分的にRD64内にあり部分的にCD68内にあってもよく、あるいは完全にCD68内にあってもよい。
実施例300
図24は、本発明に基づくもう一つの実施例のメモリセル300の断面図を掲げている。セル300はほとんどすべての点で図22のセル100と同一であるが、一点だけ違いがある。その違いは、CSR66としての伝導性領域の代わりに、セル300では複数の捕捉中心(トラップ66300)をもつ捕捉誘電体のCSR66を有しているという点である。誘電体CSR66はトラップ66300を電荷保存サイトとして使い、たとえば当技術分野で周知のLPCVD(Low-Pressure-Chemical-Vapor-Deposition[低圧化学気相成長法])を使って形成される窒化物層でありうる。より深い捕捉エネルギーのトラップをもつHfO2やZrO2といったその他の誘電体も捕捉誘電体の材料として考えることができる。
セル200およびセル300はいずれも、それぞれナノ粒子66200、トラップ66300の形の局在化された電荷保存サイトに電荷を保存する方式を利用している。これらのセルは、図22との関連で述べたセル100について示されたのと同じようにして操作することができる。これら二つのセル構造の利点は、処理の複雑さの軽減、および、そのようなセルがメモリアレイとして配列されたときに隣接セル間での干渉がほとんどないことである。さらに、一つのサイトのまわりの絶縁体で局所的な絶縁破壊があった場合も、他のサイトに保存されている電荷は保持されうるので、そこに保存されている論理データは残る。
本発明に基づくセルの大きさは、処理技術の所与の世代の設計方針と密接に関係している。したがって、これまでに挙げたセルやその内部に定義される領域の大きさは、単に説明のための例である。しかし、一般に、メモリセルの大きさは、供給された電荷キャリアが、TGとBGの間の電圧の絶対値が大きいときには(たとえば3Vないし6V)フィルタ処理されて該フィルタを通じて輸送され、電圧の絶対値が低いときには(たとえば2.5以下)該フィルタによって遮られるようなものである必要がある。さらに、BGおよびRDの大きさは、フィルタを通った電荷の大部分がその領域を通って輸送され、CSRによって捕集され、典型的には約10-6から約0.5の範囲の注入効率となることが許されるようなものである必要がある。
本発明がここに示され、上に説明された実施形態に限定されるものではなく、付属の特許請求の範囲内にはいるすべてのいかなる変形をも包含するものであることを理解しておくべきである。たとえば、セル100は、セル構造および動作において導体−フィルタ系と導体−絶縁体系の両方をもつ必要はなく、電荷キャリアを効率的にフィルタ処理してCSRに輸送することのできる導体−フィルタ系または導体−絶縁体系をセル構造中にもつことができる。
本発明に基づくメモリセルは、周辺回路とともにアレイとして形成されることができる。周辺回路には、通常の行アドレスデコード回路、列アドレスデコード回路、センスアンプ回路、出力バッファ回路、入力バッファ回路が含まれるが、当技術分野で周知のものである。
これらの実施形態のメモリセルは典型的には行と列からなる長方形のアレイに配列され、複数のセルが当技術分野で周知のNOR、ANDまたはNAND構造に構築される。図25は、NORアレイ構造の例を示す概略図であり、複数のメモリセル100が示されている。図25を参照すると、複数のワード線110が示されている。特にワード線M−1、M、M+1はある第一の方向(行方向)に配向している。さらに、トンネル線L−1、L、L+1を含む複数のトンネル線、線N−1、N、N+1、N+2を含む複数のビット線130が示されており、これらはみな第二の方向(列方向)に配向している。同じ行にあるメモリセル100のそれぞれのBG62はワード線110の一つを通じて互いに接続されている。それにより、ワード線M+1は最下行のメモリセルのそれぞれのBG62を接続している。トンネル線120のそれぞれは同じ列にあるメモリセルのすべてのTG61を接続する。それにより、トンネル線L−1は図25のいちばん左の列にあるメモリセルのそれぞれのTG61を接続する。ビット線130のいくつかは同じ列にあるメモリセルのドレイン97を接続する。たとえば、ビット線Nは図25のいちばん左の列にあるメモリセルのそれぞれのドレイン97を接続している。このアレイ例について、ビット線はまたメモリセルのためのソース線としても機能することができる。たとえば、ビット線Nは中央の列にあるメモリセルのそれぞれのソース95を接続している。当業者は、ソースおよびドレインの語は交換可能であり、ソース線およびドレイン線、あるいはソース線およびビット線は交換可能であることを認識することであろう。さらに、ワード線はメモリセルのBG62に接続されるので、BG、BG線の語をワード線の語と交換可能に使うこともできる。
アレイ領域のわずかな区画しか示されてはいないものの、図25の例はそのような領域のいかなるサイズのアレイをも表していることは理解されるであろう。さらに、本発明のメモリセルは、他の種類のNORアレイ構造にも適用可能である。たとえば、ビット線130のそれぞれは隣接する列のセルと共有されるよう構成されているが、セルの各列が専用のビット線をもつようにメモリアレイを構成することもできる。さらに、本発明はNORアレイとして示されているが、通常の当業者には、本発明の複数のセルを行と列からなる長方形のアレイに配列して、前記複数のセルがANDまたはNANDアレイ構造として、あるいはNANDおよびNORアレイ構造を両方もつアレイ構造のようなこれらの構造の組み合わせとして構築されるようにすることができる。
本発明に基づくメモリセルとしては、プログラム操作および消去操作はいずれも絶対値が3.3V以下のレベルのバイアスを用いて行うことができることを注意しておく。さらに、この消去機構およびセル構造は、個別消去可能セルという特徴を可能にする。これは定期的に変更される必要のある定数のようなデータを保存するために理想的である。同じ特徴はさらに、同時に消去されるそのようなセルの小さなグループ(たとえば、8つのセルを含む、デジタルなワードを保存するセル)に拡張可能である。追加的に、同じ特徴はまた、大きなグループ単位で同時に消去可能なそのようなセルにもさらに拡張可能である(たとえば、ソフトウェアプログラムのためのコードを保存するセルで、ページとして構成された2048個のセルを含むことができるし、アレイ構造の複数のページからなるブロックを含むこともできる)。
製造方法
本発明はさらに、図22の型のセルおよび図25の型のアレイとして説明したメモリセルおよびメモリアレイを形成するための自己整列技術および製造方法を提供する。説明はセル100についてなされるが、そのような説明は単に例としてであって、セル200およびセル300のような本発明に基づくその他のセルにも容易に修正して適用することができる。
図26Aを参照すると、メモリセルおよびメモリアレイを形成するための出発材料として使われる半導体基板98の上面図が示されている。そのように述べられる材料の断面図が図26Bに示されている。ここで、基板98は好ましくはある第一の伝導型(たとえばp型)のシリコンである。この基板中にイオン注入のような周知の技術によってボディ70が形成され、これは前記第一の伝導型をもつものとする。ボディ70は任意的に、ある第二の伝導型(たとえばn型)をもつ半導体領域によって基板98から絶縁される。
図26Bに示された構造が得られたら、この構造が以下のようにしてさらに処理される。第一の絶縁体68が、好ましくは約5nmないし約50nmの厚さで基板98上に形成される。この絶縁体は、たとえば、従来式の熱的酸化、HTO、TEOS蒸着プロセスを用いることによって、あるいは当技術分野で周知のインシトゥ蒸気生成(ISSG: in-situ steam generation)によって蒸着される酸化物でありうる。この絶縁体は、単一層の形でもよいし、他の種類の絶縁体との複合層(たとえば酸化物と窒化物の組み合わせ)の形でもよい。次に、ポリシリコンのような電荷保存材料66aの層が、たとえば従来式のLPCVD法を使って当該構造の上に蒸着される。そのポリシリコン膜はその場で、あるいはその後のイオン注入によってドープされる。こうして形成されたポリシリコン層66aは、図22の型のメモリセル(セル100)のCSR66を形成するために使われる。これは、約1×1018原子/cm3ないし約5×1021原子/cm3の範囲のドーピングレベルである第二の伝導型の不純物をドープすることができる。ポリシリコン層66aはたとえば約50nmから500nmの範囲の厚さをもつ。好ましくは、こうして形成されたポリシリコン層66aの表面形状は実質平坦である。電荷保存層66aの材料としてポリシリコンを選んだのはセル100を説明するためであることを注意しておく。一般には、電荷保存機能をもつその他の好適な材料(たとえば、ナノ粒子、捕捉誘電体)を代わりに用いて本発明に基づくその他の種類のセル(セル200およびセル300)を製造することもできる。
次に、当該構造表面上に耐光性材料(以下「フォトレジスト」)が好適に塗布され、続くマスキングステップにおいて、従来式の光リソグラフィー技術を使って選択的にフォトレジストが除去されて前記電荷保存層66aの上に第二の方向(列方向)に配向した複数のフォトレジストの線トレースが残される。工程では続いて、露出された層66aが絶縁体68が見えるまでエッチングされる。絶縁体68がエッチング停止層のはたらきをするのである。層66aでまだ残ったフォトレジストの下に隠れている部分はこのエッチング工程によって影響されない。このステップで、第二の方向(すなわち「列方向」)に配向した複数のポリ線66bが形成される。隣り合う線どうしは第一のトレンチ142で隔てられている。ポリ線66bの幅および隣接するポリ線の間の距離は使用されるリソグラフィー工程で描ける最小の特徴と同程度まで小さくできる。次いでイオン注入ステップが実行されて露出されたシリコン領域に第二の伝導型でドーピングが行われ、前記第一のトレンチ142に自己整列した拡散領域が形成される。次いで残ったフォトレジストが従来式の手段を使って除去される。
工程では続いて、露出された電荷保存層66aの上に第二の絶縁体層64aが好ましくは約5nmから約50nmの厚さで形成される。この絶縁体は、たとえば、従来式の熱的酸化、HTO、TEOSまたはISSG蒸着技術を用いることによって蒸着される酸化物であることができる。この絶縁体は単一層の形であってもよいし、他の種類の絶縁体との複合層(たとえば酸化物とFSGの複合層)の形であってもよい。この第二の絶縁体64aは、主としてメモリセルのRD64を形成するために使われる。
次に、ポリシリコンのような導体材料62aがたとえば従来式のLPCVD技術を使って当該構造の上に蒸着される。ポリシリコン膜はその場で、あるいはその後のイオン注入によってドープされる。導体材料62aはメモリセルおよびメモリアレイのワード線110を形成するためのものである。典型的には、導体材料62aは前記第一のトレンチ142を埋めるのに十分な厚さをもち、たとえば約20nmないし200nmのオーダーでありうる。好ましくは、こうして形成された導体材料62aの表面形状は実質平坦であり、化学機械研磨(CMP: chemical-mechanical-polishing)のような任意的な平坦化工程を使って平坦な表面構造を実現することもできる。材料62aとしてポリシリコンを選んだのは説明の目的のためである(工程が単純なため)ことを注意しておく。一般には、シート抵抗が低く、トレンチ空隙充填機能が良好で、高温(たとえば900°C)で安定した物性を示す他のいかなる導体材料を代わりに用いることもできる。たとえば、ポリシリコンの上にタングステンポリサイドをかぶせたような金属化ポリシリコン層を周知のCVD技術を使って導体層62aに用いることができる。タングステンポリサイドはシート抵抗が典型的には約5から10Ω/sqで、典型的には約100ないし300Ω/sqのシート抵抗をもつ金属化していない高濃度ドーピングしたポリシリコンより著しく低い。半導体製造においてすぐ利用可能なTiN、TaNなどといったその他の導体も導体層62aとして考えることができる。
工程では続いて導体層62aの上に好ましくは約10nmないし約50nmの厚さの誘電体143が形成される。誘電体143は当技術分野で周知のLPCVD技術によって蒸着される窒化物であってよい。
次に、当該構造表面上にフォトレジストが好適に塗布され、続くマスキングステップにおいて、従来式の光リソグラフィー技術を使って選択的にフォトレジストが除去されて前記誘電体層143の上に第一の方向(行方向)に配向した複数のフォトレジストの線トレース140が残される。工程では続いて、露出された誘電体143が絶縁体64aが見えるまでエッチングされる。絶縁体64aがエッチング停止層のはたらきをするのである。層143および62aで、まだ残ったフォトレジスト140の下に隠れている部分はこのエッチング工程によって影響されない。このステップで、行(たとえばBG621、622、623)および列(たとえばBG623、624、625)に配列された複数のBG62が形成される。追加的に、工程の諸ステップで、線1101、1102、1103を含む複数のワード線110が第一の方向(すなわち「行方向」)に配向して形成される。隣り合う線どうしは第二のトレンチ144で隔てられている。ワード線110の幅および隣接するワード線の間の距離は使用されるリソグラフィー工程で描ける最小の特徴と同程度まで小さくできる。結果として得られるワード線構造110は、一般に電荷保存層66a(メモリセルのBG62に使われる)の上でより薄い領域をもち、ビット線拡散130の上でより太い領域をもつ。ワード線のそれぞれはBG62のいくつかに接続する。たとえば、ワード線1103はBG621、622、623を接続する。結果として得られる構造の上面図が図27に示されており、該結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめてそれぞれ図27A、図27B、図27C、図27Dに示されている。
工程では続いて、露出された第二の層64aのエッチング、続いて露出された電荷保存層66aのエッチングが前記第一の絶縁体68が見えるまで行われる。第一の絶縁体68がエッチング停止層のはたらきをするのである。層66aで残っているフォトレジストの下に隠れている部分はこのエッチング工程によって影響されない。このステップで複数のCSR66が形成される。次いで残っているフォトレジストが従来式の手段を使って除去される。結果として得られる、ワード線の線110が第二のトレンチ144と交互になった構造の上面図が図28に示されている。該結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめてそれぞれ図28A、図28B、図28C、図28Dに示されている。
工程では続けて任意的に、ワード線110やCSR66のトレンチ144に面した側面上の酸化物といった絶縁体層(図示せず)が形成される。その酸化物は、たとえば高速熱的酸化(RTO)法を使った熱的酸化ステップを実行することによって形成することができ、約2nmないし約8nmの厚さをもつことができる。次に、従来式CVDのような周知の技術を使ってトレンチ144を埋めるために比較的厚い誘電体層(たとえば酸化物)が形成される。この酸化物誘電体は次いで選択的に除去されて、トレンチ144内の領域に酸化物ブロック146を残す。好ましい構造は、この酸化物ブロック146の上面が窒化物誘電体143の上面と実質同じ面上にあるものである。これはたとえば、酸化物の厚さを平坦化するCMP工程とそれに続く窒化物誘電体143を研磨および/またはエッチング停止層として使ったRIE(reactive ion etch[反応性イオンエッチング])を用いることによって実現できる。必要なら、窒化物誘電体143上の酸化物残留物を除去するために任意的な酸化物オーバーエッチングステップが続いて設けられる。これにより、工程はトレンチ144内にのみ酸化物を残し、トレンチ144に自己整列した酸化物ブロック146が形成される。結果として得られる、ワード線110が酸化物線ブロック146と交互になった構造の上面図が図29に示されている。該結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめて図29A、図29B、図29C、図29Dに示されている。
工程では続いて、窒化物誘電体143を除去する(たとえば熱リン酸を使って)エッチングステップがある。次に、多層誘電体をもつフィルタ52がワード線110の上に形成される。ある特定の実施形態では、第三の絶縁体54aおよび第四の絶縁体53aがフィルタ52のための多層誘電体として考えられる。窒化物のような第三の絶縁体層54aの形成は、1050°Cでのアンモニア雰囲気中でのRTNのような熱的窒化膜形成法を用いることによって行われる。高品質窒化物を形成することのできるその他の技術も容易に用いることができる。この第三の絶縁体54aは好ましくは約2nmないし約5nmの厚さをもつ。工程では続いて、前記第三の絶縁体54aの上の酸化物のような第四の絶縁体層53aが形成される。この第四の絶縁体は、当技術分野で周知の熱的酸化、HTO、TEOSまたはISSG法を使うことによって形成することができる。第四の絶縁体53aは好ましくは約2nmないし約4nmの厚さをもつ。第三および第四の絶縁体層54aおよび53aはそれぞれ本発明に基づくメモリセルのBD54およびTD53として使われる。結果として得られる構造の上面図が図30に示されており、該結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめて図30A、図30B、図30C、図30Dに示されている。
工程では続いて、たとえば従来式のLPCVD技術を使って当該構造の上にポリシリコンのような導体材料61aの層が形成される。ポリシリコン膜はその場で、あるいはその後のイオン注入によってドープされる。導体材料61aは、メモリアレイのトンネル線120およびメモリセルのTG61を形成するためのものである。典型的には、導体材料61aは約50nmないし500nmの厚さをもつ。好ましくは、こうして形成される導体材料61aの表面構造は実質平坦であり、任意的な平坦化工程(すなわちCMP)を使って平坦な表面構造を実現することもできる。材料61aとしてポリシリコンを選んだのは説明の目的のためである(工程が単純なため)ことを注意しておく。一般には、図27との関連で述べたような、シート抵抗が低く、高温(たとえば900°C)で安定した物性を示す他のいかなる導体材料を代わりに用いることもできる。半導体製造においてすぐ利用可能な白金シリサイド、ニッケルシリサイド、コバルトシリサイド、チタンシリサイド、TiN、TaNなどといったその他の導体も導体層61aとして考えることができる。さらに、そのような種類の導体をポリシリコンの上に形成して層61aとして使うための複合導体を形成させることもできる。
次に、当該構造表面上にフォトレジストが好適に塗布され、続くマスキングステップにおいて、従来式の光リソグラフィー技術を使って選択的にフォトレジストが除去されて前記導体層61aの上に第二の方向(列方向)に配向した複数のフォトレジストの線トレースが残される。工程では続いて、露出された導体層61aが絶縁体53aが見えるまでエッチングされる。絶縁体53aがエッチング停止層のはたらきをするのである。導体層61aでまだ残っているフォトレジストの下に隠れている部分はこのエッチング工程によって影響されない。この結果として得られる構造の上面図が図31に示されている。この工程の諸ステップで、行(たとえばTG611、612、613)および列(たとえばTG613、614、615)に配列された複数のTG61が形成される。追加的に、該諸ステップで、線1201を含む複数のトンネル線120が第二の方向に配向して形成される。隣り合う線どうしは第三のトレンチ147で隔てられている。トンネル線120の幅および隣接するトンネル線の間の距離は使用されるリソグラフィー工程で描ける最小の特徴と同程度まで小さくできる。トンネル線のそれぞれはTG61のいくつかに接続する。たとえば、線1201はTG613、614、615を接続する。トンネル線120はワード線110に重なって複数の重なり領域99を形成し、重なり領域99のそれぞれは、CSR66の一つがその下またはそこに近接して配置されている。結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめて図31A、図31B、図31C、図31Dに示されている。
この工程の諸ステップはまた、複数のメモリセルを形成する。図31には例として図22の型のメモリセル(セル100)が示されている。図面を過度に複雑にするのを避けるため、一つのセルしか示していない。図31Cには該セルのさまざまな領域も示されている。ビット線1301およびビット線1302はセル100のソース95およびドレイン97に電気的に接続されている。図31Cにおいて、CD68、CSR66、RD64、BG62、BD54、TD53、TG61の領域は図22との関連で述べたセル100のそれぞれの領域と同一である。
メモリセルおよびアレイ上の構造は、機械的応力(たとえば引っ張り応力または圧縮応力)をもつひずみ材料150の層をかぶせることによってさらに処理することができる。このひずみ材料は、図17Bおよび図17Cとの関連で述べたピエゾ弾道学的電荷注入機構を提供する応力源の役を果たすものであり、図31に示した構造の上に形成することもできるし、あるいは露出された絶縁体53aおよび54aを除去したあとで形成することもできる。それはRIEのような従来式のエッチング技術を使うことによって第三のトレンチ147に形成される。前者の場合、応力材料150は応力を主としてTG61に与える。後者の場合、応力材料はワード線110にも接し、よってメモリセルのそれぞれのTG61およびBG62に応力を与える。ひずみ材料150はさまざまな種類の応力を与える誘電体であってよく、ピエゾ弾道学的電荷注入のためにTG61および/またはBG62においてピエゾ効果を生成するために使われる。応力は、一般に表面TG61に平行で第一の方向(行方向)に沿った応力軸をもつ単軸応力でありうる。ひずみ材料150としてのある好ましい実施例は、窒化物である。窒化物の応力レベルおよび物理的性質はその厚さおよび形成時の処理条件によって制御できる。たとえば、形成中に化学成分(たとえばシラン)の圧力を変化させることによって、約50MPaないし約1ギガパスカル(GPa)の範囲の応力レベルの大きさが達成できる。窒化物は、熱的CVD(引っ張り応力窒化物の場合)またはプラズマCVD(圧縮応力窒化物の場合)といった周知のCVD技術を用いることによって引っ張り応力または圧縮応力のいずれをもつよう形成することもできる。さらに、窒化物の応力レベルは必要なら、閾値レベル(たとえば約1×1014原子/cm2)を超える注入量での窒化物へのGeイオン注入のような周知の技術によって、調整したり、緩和したりすることさえできる。結果として得られるアレイ全体の上に配置されたひずみ材料150をもつ構造の上面図が図32に示されている。該結果として得られる構造の線AA′、BB′、CC′、DD′に沿った断面図がまとめて図32A、図32B、図32C、図32Dに示されている。
本開示の恩恵を受けた当業者には、本発明においてBG62およびTG61に対するピエゾ効果を生じるひずみ源はひずみ材料150から生じる必要はなく、図示された位置からである必要もなく、他のいかなる手段からでもよく、またメモリセル内の他のいかなる領域においてでもよいことは明らかであろう。さらに、応力は単軸性である必要はなく、他の種類(たとえば二軸)であってもよい。たとえば、領域BG62の材料としてポリシリコンが用いられる場合には、ひずみ源はBG62に由来からでよい。これは、ポリシリコンが典型的には約200MPaないし約500MPaの範囲の応力レベルの引っ張り応力を提供できるからである。ひずみ源としてのもう一つの材料はタングステンシリサイドである。これは半導体IC製造において広く使われている物質である。タングステンシリサイドは約1.5GPaないし約2GPaの範囲の応力レベルを与え、単独でBGを形成するのに用いることができる。さらに、これはポリシリコン層の上に形成されて両層が合わさってBG62を形成するようにもできる。非晶質シリコン、ポリSiGe、TaN、TiNなどといったその他の材料も材料として考えることができる。さらに、ひずみを導入する手段はひずみ材料の使用による必要はなく、ひずみを加えるべき結晶領域に重い原子(たとえばSi、Ge、Asなど)をイオン注入するといった他の手法を通じてであってもよい。臨界量を超える量の重いイオンの注入は、結晶格子の周期性を乱して転位のループ、よって応力をその領域に生成することができるのである。さらに、その領域における応力はそれに隣接する領域にひずみを与えることができる。セル製造の間ののちの処理ステップにおいて応力が緩和されるのを防ぐため、注入を受けた領域に窒素のような原子を注入することによって、その領域における応力は保存することができる。イオン注入の手法は、ひずみ材料の蒸着やエッチングを必要としないので工程が単純という利点がある。さらに、注入を受けた領域内での応力を形成することができるので、ひずみ効果が最も望まれている領域に応力を局在化させることができる。こうしたすべての手法のいずれもが本発明に基づくピエゾ弾道学的電荷注入のための所望のピエゾ効果を与える。さらに、本発明に基づくメモリセルにおいては一つのひずみ源が示されているが、通常の当業者には、付属の特許請求の範囲にはいるメモリセルのさまざまな領域に対する応力(引っ張り応力または圧縮応力)に対して何らかの変化を与えるために同じセル内に二つ以上のひずみ源が共存することもできることは明らかであろう。
さらに、本発明のひずみ材料はTGの両側に配置されている必要はなく、BGの上に配置されている必要もなく、断面が長方形である必要もなく、TGと直接接触している必要もなく、BGと直接接触している必要もなく、各メモリセルのTGおよびBGに効果的にひずみを与えることができれば、TGの上に配置されていてもよく、BGの下に配置されていてもよく、TGおよびBGに隣接するいかなる位置にあってもよく、断面がいかなる大きさおよび形状であってもよく、TGと間接的に接していてもよく、BGと間接的に接していてもよい。さらに、当業者は、ひずみを生じる源は「ひずみ源」と称されるものである必要はなく、電荷注入および輸送に対してピエゾ効果を生成するための機械的応力を与えることのできる他のいかなる用語(たとえば「応力器」「応力源」など)のものであってもよいことを認識することであろう。
さらに、本発明の電荷保存領域は上面図および断面図において長方形である必要はなく、TGとBGの間の重なり領域の下に配置されている必要もなく、上面図および断面図においていかなる大きさおよび形状であってもよく、各メモリセルにおいて電荷を捕集して保存し、ドレイン97およびソース95を効果的に接続するものなら前記重なり領域の近傍にあるいかなる位置にあってもよい。追加的に、フィルタ52の上面および底面は基板表面に平行である必要はなく、平坦である必要もなく、基板表面と同じ面上にある必要もなく、効果的にフィルタ機能を実行できるものであれば基板表面の下または上のいかなる高さにあってもよく、基板表面といかなる角度であってもよく、他の形状であってもよい。