JP4478802B2 - 音モデル生成装置、音モデル生成方法およびプログラム - Google Patents

音モデル生成装置、音モデル生成方法およびプログラム Download PDF

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Description

本発明は、高調波構造をモデル化する音モデルを生成する技術に関する。
特許文献1には、複数の楽音の混合音(以下「対象音」という)に含まれる各楽音の基本周波数(音高)を推定する技術が開示されている。特許文献1の技術においては、対象音の振幅スペクトルを複数の音モデル(高調波構造をモデル化した確率密度関数)の混合分布でモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として算定し、確率密度関数において優勢なピークが現れる周波数を所望の音(以下「目標音」という)の基本周波数として推定する。
特許第3413634号公報
ところで、目標音の基本周波数を高精度に推定するためには、目標音に近い高調波構造をモデル化する多数の音モデルが必要となる。したがって、楽器を実際に演奏したときの楽音に基づいて音モデルを生成することが望ましい。しかし、現実の楽音から音モデルを作成するためには、実際に楽器を演奏することで多数の楽音を収録するとともに各楽音の特性を解析して音モデルを生成するという膨大かつ煩雑な作業が必要となる。ギターなどの弦楽器においては、別個の弦の弾弦で出力される同じ音高の楽音を含めると非常に多数の楽音を逐次に演奏する必要があるから、音モデルを作成する作業の負担は特に過大となる。このような事情に鑑みて、本発明は、基本周波数の推定に使用される音モデルを用意するための負荷を軽減するという課題の解決を目的としている。
以上の課題を解決するために、本発明に係る音モデル生成装置は、楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成する装置であって、第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶する記憶手段(例えば図1の記憶部61)と、第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する第1特性特定手段(例えば図1の特性特定部62)と、第1特性特定手段が特定した周波数特性を基礎モデルに付与することで、第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する特性付与手段とを具備する。
以上の構成においては、第1周波数に対応した基礎モデルから第2周波数に対応した音モデルが生成されるから、第2周波数を基本周波数とする楽音を第2周波数の音モデルの生成のために楽器から採取する作業は不要となる。したがって、総ての音モデルを実際の楽器の楽音から生成する場合と比較して音モデルを用意するための負荷が軽減される。
本発明の好適な態様において、第1特性付与手段は、基礎モデルがモデル化する高調波構造を第1周波数と第2周波数との相違に応じて周波数軸に沿ってシフトし、第1特性特定手段が特定した周波数特性をシフト後の基礎モデルに付与する。以上の態様によれば、任意の第2周波数に対応した音モデルを生成することが可能となる。
さらに具体的な態様において、楽器は、押圧の位置に応じて振動する区間が変化する弦と、弦の振動を検出する検出器とを含む弦楽器であり、第1特性特定手段は、弦のうち第2周波数に対応した楽音の出力時に押圧される位置と、弦の振動する区間に対する検出器の位置とに応じて周波数特性を特定する。以上の態様によれば、第2周波数に対応した楽音の出力時における弦楽器の状態(押弦の位置や検出器の位置)が第2周波数の音モデルに反映されるから、弦楽器の音高を高精度に推定することが可能となる。
本発明において基礎モデルの作成の方法は任意である。例えば本発明のひとつの態様に係る音モデル作成装置は、演奏時に振動する振動体と振動体の振動を検出する検出器とを含む楽器の演奏時における検出器の検出の結果から第1周波数を基本周波数とする高調波構造を特定する解析手段(例えば図1の解析部51)と、第1周波数を基本周波数とする楽音の出力時に楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する第2特性特定手段(例えば図1の特性特定部52)と、第2特性特定手段が特定した周波数特性を解析手段が特定した高調波構造から除去することで基礎モデルを生成する特性除去手段(例えば図1の特性除去部53)とを具備する。以上の態様によれば、第1周波数に対応した楽音の出力時における弦楽器の状態(押弦の位置や検出器の位置)が基礎モデルに反映されるから、弦楽器の音高を高精度に推定し得る音モデルを基礎モデルから生成することが可能となる。
本発明のひとつの形態は、音モデルの生成に使用される基礎モデルを生成する装置である。当該装置は、演奏時に振動する振動体と振動体の振動を検出する検出器とを含む楽器の演奏時における検出器の検出の結果から第1周波数を基本周波数とする高調波構造を特定する解析手段と、第1周波数を基本周波数とする楽音の出力時に楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する特性特定手段と、特性特定手段が特定した周波数特性を解析手段が特定した高調波構造から除去することで基礎モデルを生成する特性除去手段とを具備する。
本発明は、音モデルを作成するための方法としても特定される。本発明の音モデル生成方法は、楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成する方法であって、第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶する一方、第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定し、この特定した周波数特性を基礎モデルに付与することで、第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する。以上の方法によっても、本発明に係る音モデル生成装置と同様の作用および効果が奏される。
本発明に係る音モデル生成装置は、各処理に専用されるDSP(Digital Signal Processor)などのハードウェア(電子回路)によって実現されるほか、CPU(Central Processing Unit)などの汎用の演算処理装置とプログラムとの協働によっても実現される。本発明に係るプログラムは、楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成するプログラムであって、第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶した記憶手段を具備するコンピュータに、第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する特性特定処理と、特性特定処理で特定した周波数特性を基礎モデルに付与することで、第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する特性付与処理とを実行させる内容である。以上のプログラムによっても、本発明に係る音モデル生成装置と同様の作用および効果が奏される。なお、本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で利用者に提供されてコンピュータにインストールされるほか、ネットワークを介した配信の形態でサーバ装置から提供されてコンピュータにインストールされる。
図面を参照して本発明の具体的な形態を説明する。図1は、本発明のひとつの形態に係る音高推定装置の機能的な構成を示すブロック図である。本形態の音高推定装置100は、対象音に含まれるギターの楽音の音高を推定するために利用される。同図に図示された各部は、例えばCPUなどの演算処理装置がプログラムを実行することで実現されてもよいし、音高の推定に専用されるDSPなどのハードウェアによって実現されてもよい。
図1の周波数分析部12には、対象音の波形を示す音響信号Vが入力される。音響信号Vが示す対象音は、複数の各々の音高が相違する複数の楽音の混合音である。周波数分析部12は、所定の窓関数を利用して音響信号Vを複数のフレームに分割したうえで、FFT(Fast Fourier Transform)処理を含む周波数分析を各フレームの音響信号Vについて実行することで対象音の振幅スペクトルS0を特定する。
BPF(Band Pass Filter)14は、周波数分析部12がフレームごとに特定した振幅スペクトルS0のうち特定の周波数帯域に属する成分を選択的に通過させる。BPF14の通過帯域は、対象音を構成する複数の楽音のうち音高を推定すべき各音の基音や倍音の多くが通過し、かつ、他の音の基音や倍音の多くが遮断されるように、統計的または実験的に予め選定される。本形態においては対象音に含まれるギターの楽音の音高を推定するから、BPF14の通過帯域は、ギターの主要な音域を含むように選定される。BPF14を通過した振幅スペクトルSは関数推定部22に出力される。
関数推定部22は、各フレームの振幅スペクトルSについて基本周波数の確率密度関数Pを推定する。確率密度関数Pは、複数の音モデルM(M[1]〜M[n])の混合分布(すなわち複数の音モデルMの重み付き和)として振幅スペクトルSをモデル化したときの各音モデルMの重み値ωの分布を表わす関数である(nは2以上の整数)。記憶部24は、各々が別個の周波数FB(FB[1]〜FB[n])に対応する複数の音モデルM[1]〜M[n]を記憶する。例えば磁気記憶装置や半導体記憶装置が記憶部24として採用される。
音モデルM[i](iは1≦i≦nを満たす整数)は、周波数FB[i]を基本周波数とするギターの楽音の高調波構造をモデル化する関数である。さらに詳述すると、音モデルM[i]は、周波数FB[i](基本周波数)に現れる基音と周波数FB[i]の略整数倍の周波数に現れる複数の倍音(高調波成分)とのスペクトル形状を示す。したがって、確率密度関数Pにおいて周波数FB[i]に対応する重み値(関数値)ωは、当該周波数FB[i]に対応した音モデルM[i]が振幅スペクトルSの高調波構造をどのくらい優勢に支持するかを示す。以上の定義から理解されるように、確率密度関数Pにおいて優勢なピーク(重み値ωの局所的な上昇)が現れる周波数FB[i]は、対象音に含まれる楽音の基本周波数F0(音高)である可能性が高い。
音高特定部26は、対象音に含まれる楽音の基本周波数F0を確率密度関数Pに基づいて特定する手段である。基本周波数F0の特定には例えばマルチエージェントモデルが採用される。すなわち、音高特定部26は、複数の自律的なエージェントの各々に確率密度関数Pの別個のピークを割り当てたうえで各ピークの経時的な変動を追跡させ、複数のエージェントのうち信頼度が高いエージェントの各ピークの基本周波数F0を楽音の音高として出力する。なお、確率密度関数Pの内容や関数推定部22および音高特定部26の具体的な動作については特許文献1に例示されている。音高特定部26による特定の結果(音高)は出力部30から出力される。例えば、音高特定部26が特定した音高を表示する表示機器が出力部30として好適に採用される。
図1の音モデル生成部200は、関数推定部22が使用するn個の音モデルM[1]〜M[n]を生成する手段である。音モデルM[1]〜M[n]は、関数推定部22による確率密度関数Pの推定前に生成される。例えば、演算処理装置がプログラムを実行することで図1の各部が実現される場合には、プログラムの起動の直後に実行される初期化処理にて音モデルM[1]〜M[n]が生成される。
本形態の音モデル生成部200は、第1処理部DAと第2処理部DBとを含む。第1処理部DAは、各々が別個の周波数FA(FA[1]〜FA[m])に対応したm個の音モデル(以下「基礎モデル」という)M0(M0[1]〜M0[m])を生成する。図1に示すように、基礎モデルM0は音モデルMよりも少数である(m<n)。第2処理部DBは、第1処理部DAが生成した基礎モデルM0[1]〜M0[m]に基づいて多数の音モデルM[1]〜M[n]を生成する。第2処理部DB(特性付与部63)が生成した音モデルM[1]〜M[n]は、記憶部24に格納されたうえで確率密度関数Pの推定に使用される。本形態の第2処理部DBは、ひとつの基礎モデルM0から複数の音モデルMを生成する。
基礎モデルM0[j](jは1≦j≦mを満たす整数)は、周波数FA[j]を基本周波数とするギターの楽音の高調波構造をモデル化する関数である。すなわち、基礎モデルM0[j]は、周波数FA[j](基本周波数)に現れる基音と周波数FA[j]の略整数倍の周波数に現れる倍音(高調波成分)とのスペクトル形状を示す。
特定の楽器の楽音について音高を推定するためには当該楽器の基礎モデルM0の登録が必要となる。新たな楽器を登録する場合、利用者は、基礎モデルM0の生成を第1処理部DAに指示したうえで当該楽器を実際に演奏してm種類の楽音を出力する。第1処理部DAは、現実に楽器から出力されたm種類の楽音に基づいて基礎モデルM0[1]〜M0[m]を生成する。本形態においてはギターの楽音の音高を推定するために音高推定装置100を利用するから、ギターを実際に演奏したときの楽音に基づいて基礎モデルM0[1]〜M0[m]が生成される。図1に示すように、ギター70は、演奏者による弾弦で振動する弦72と、弦72の振動を検出して当該振動に応じた信号(以下「検出信号」という)VDを出力する検出器(ピックアップ)74とを含む。
図1に示すように、第1処理部DAは、解析部51と特性特定部52と特性除去部53とを含む。解析部51は、FFT処理を含む周波数解析を検出信号VDについて実行することで検出信号VDの楽音(弦72の振動)の振幅スペクトルSPaを特定する。図2の部分(a1)は、周波数FA[j]を基本周波数とする楽音が出力されるようにギター70を演奏した場合の検出信号VDの振幅スペクトルSPaを示す。同図に示すように、振幅スペクトルSPaにおいては、周波数FA[j]と複数の倍音に対応した各周波数(周波数FA[j]の略整数倍の周波数)とにピークが現れる。
図3の部分(a)および部分(b)は、弦72の振動の態様(振動モード)を説明するための概念図である。弦72は、ナットNaとブリッジNbとに張架され、位置PA(PA1,PA2)からブリッジNbまでの区間(以下「振動区間」という)が弾弦によって振動する。位置PAは、利用者が押弦した位置(さらに厳密にはフレットの位置)である。
図3の部分(a)は、周波数faを基本周波数とする楽音の出力のために位置PA1が押弦された状況を示し、図3の部分(b)は、周波数fbを基本周波数とする楽音の出力のために位置PA2が押弦された状況を示す。図3の部分(a)の場合、位置PA1からブリッジNbまでの振動区間に発生する振動は、周波数faの基音に対応した第1次モード(基本モード)と各倍音に対応した複数の高次モードとに分解される。図3の部分(b)の場合も同様に、位置PA2とブリッジNbとを端部とする振動区間内の振動は、周波数fbに対応した複数の振動モードに分解される。
検出器74はブリッジNbから所定の距離だけ離間した位置P0に固定される。図3の部分(a)のように基本周波数faの楽音を出力する場合、検出器74の位置P0は第4次モードの振動の節に近い。したがって、図2の部分(a1)に示すように、振幅スペクトルSPaにおいては第4次モードに対応した第4倍音の周波数における振幅が他の倍音の周波数と比較して抑制される。一方、検出器74が図3の位置P0’に配置された場合を想定すると、検出器74は第4次モードの振動の腹に近いから、第4倍音の振幅は抑制されない。また、図3の部分(a)と同様に検出器74が位置P0に固定された場合であっても、図3の部分(b)のように基本周波数fbの楽音を出力するために位置PA2が押弦された場合、検出器74の位置P0は第4次モードの振動の腹の近傍となる。したがって、振幅スペクトルSPaのうち第4倍音の周波数における振幅は図3の部分(a)の場合と比較すると抑制されない。
以上のように、検出器74が出力する検出信号VDの振幅スペクトルSPaは、利用者による押弦の位置PAと振動区間に対する検出器74の位置P0とに応じて変化する。すなわち、図2の部分(a1)から部分(a3)に例示されるように、周波数FA[j]を基本周波数とする楽音を出力したときの検出信号VDの振幅スペクトルSPaは、当該楽音の出力時におけるギター70の状態(押弦の位置PAや検出器74の位置P0)に応じた周波数特性CA[j](部分(a2))を、弦72のみの振動の振幅スペクトル(部分(a3))に付加した形状となる。本形態の基礎モデルM0[j]は、図2の部分(a3)に例示された弦72のみの振動の振幅スペクトルに相当する。
図1の特性特定部52は、周波数特性CA[j]を特定する手段である。特性除去部53は、特性特定部52が特定した周波数特性CA[j]を、解析部51が特定した振幅スペクトルSPaから除去することで基礎モデルM0[j]を生成する。特性除去部53が生成した基礎モデルM0[j]は、第2処理部DBの記憶部61に格納される。記憶部61は、例えば磁気記憶装置や半導体記憶装置である。
特性特定部52は、周波数FA[j]を基本周波数とする楽音が出力されるときのギター70の状態に関するパラメータ(以下「状態パラメータ」という)を変数とした所定の演算によって周波数特性CA[j]を算定する。本形態の特性特定部52は、基本周波数FA[j]の楽音に対応した押弦の位置PA(あるいは振動区間の全長)とギター70に設置された検出器74の位置P0とを状態パラメータとして記憶する。各状態パラメータは、例えば、基礎モデルM0の登録に実際に使用されるギター70の形態に応じて利用者が入力する。また、ギター70の種類ごとに予め用意された複数の状態パラメータのなかから利用者が選択した状態パラメータを周波数特性CA[j]の特定に利用してもよい。
特性特定部52は、基本周波数FA[j]に対応した各振動モードにおける弦72の形状(例えば図3に例示した各振動モードにおける節や腹の位置)と、状態パラメータが示す押弦の位置PAや検出器74の位置P0とに基づいて、幾何学的なシミュレーションを実行することで周波数特性CA[j]を特定する。例えば、特性特定部52は、ひとつの周波数に対応した振動モードにおいて検出器74が振動の節に近いほど当該周波数における強度が低くなるとともに検出器74が振動の腹に近いほど当該周波数における強度が高くなるように、各周波数の強度(例えば図2の部分(a2)における振幅Amp)が選定された周波数特性CA[j]を生成する。
解析部51による振幅スペクトルSPaの解析と特性特定部52による周波数特性CA[j]の特定と特性除去部53による基礎モデルM0[j]の生成とがm回にわたって反復されることで、各々が別個の周波数FA[1]〜FA[m]に対応したm個の基礎モデルM0[1]〜M0[m]が記憶部61に生成される。以上の説明から理解されるように、基礎モデルM0[j]は、基本周波数FA[j]の楽音の出力時にギター70の状態(押弦の位置PAや検出器74の位置P0)に応じて当該楽音に付与される周波数特性CA[j]には依存しない。
図1に示すように、第2処理部DBは、基礎モデルM0[1]〜M0[m]を格納する記憶部61のほかに特性特定部62と特性付与部63とを具備する。特性特定部62は、特性特定部52と同様の構成および処理によって、周波数FB[i]を基本周波数とする楽音の出力時にギター70の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性CB[i]を特定する手段である。さらに詳述すると、本形態の特性特定部62は、基本周波数FB[i]の楽音を出力するときの押弦の位置PAとギター70に設置された検出器74の位置P0とを状態パラメータとして記憶し、基本周波数FB[i]に対応した各振動モードにおける弦72の形状(例えば図3に例示した各振動モードにおける節や腹の位置)と、状態パラメータが示す押弦の位置PAや検出器74の位置P0とに基づいて幾何学的なシミュレーションを実行することで周波数特性CB[i]を特定する。例えば、特性特定部62は、ひとつの周波数に対応した振動モードにおいて検出器74が振動の節に近いほど当該周波数における強度が低くなるとともに検出器74が振動の腹に近いほど当該周波数における強度が高くなるように、各周波数の強度(例えば図2の部分(b2)における振幅Amp)が選定された周波数特性CB[i]を生成する。
特性付与部63は、特性特定部62が特定した周波数特性CB[i]を記憶部61の基礎モデルM0[j]に付与することで音モデルM[i]を生成する。すなわち、図2の部分(b1)に示すように、特性付与部63は、第1に、周波数FA[j]に対応した基礎モデルM0[j]を、周波数FA[j]と周波数FB[i]との相違に応じて周波数軸に沿って伸縮(ピッチシフト)することで、周波数FB[i]を基本周波数とした高調波構造をモデル化する中間モデルM1[i]を生成する。第2に、特性付与部63は、図2の部分(b1)から部分(b3)に示すように、特性特定部62が特定した周波数特性CB[i]を中間モデルM1[i]に付与(例えば乗算)することで音モデルM[i]を生成して記憶部24に格納する。
特性特定部62による周波数特性CB[i]の特定と特性付与部63による音モデルM[i]の生成とがn回にわたって反復されることで、各々が別個の周波数FB[1]〜FB[n]に対応したn個の音モデルM[1]〜M[n]が記憶部24に記憶される。以上のように、音モデルM[i]は、周波数FB[i]を基本周波数とする楽音の出力時にギターの状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性CB[i]を基礎モデルM0[j]に付加することで生成されるから、関数推定部22が推定する基本周波数の確率密度関数Pは、実際のギターの特性を良好に反映した関数となる。したがって、ギターの音高を高い精度で特定することが可能である。
以上に説明したように、本形態においてはm個の基礎モデルM0[1]〜M0[m]から多数(n個)の音モデルM[1]〜M[n]が生成されるから、周波数FA[1]〜FA[m]の各々を基本周波数とするm種類の楽音をギターで演奏すれば足りる。すなわち、音モデルM[1]〜M[n]の全部についてギターの楽音を採取する必要はないから、音モデルM[1]〜M[n]を用意するための作業の負担を軽減することが可能である。また、本形態においては音高の推定に必要となる時期に限って音モデルM[1]〜M[n]が生成されるから、記憶部24に固定的に格納されるデータ量が削減されるという利点がある。なお、以上においては複数(m個)の基礎モデルM0[1]〜M0[m]を例示したが、ひとつの基礎モデルM0のみからn個の音モデルM[1]〜M[n]が生成される構成も採用される。すなわち、基礎モデルM0と音モデルMとの対応の関係は本形態において任意である。
<変形例>
以上の形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
(1)変形例1
以上の形態においては音モデル生成部200が音高推定装置100に搭載された構成を例示したが、音モデル生成部200は音高推定装置100とは別個の装置であってもよい。例えば、音モデル生成部200が音高推定装置100から独立した構成においては、ひとつの音モデル生成部200で生成された音モデルM[1]〜M[n]が複数の音高推定装置100にて共通に使用される。この構成においては、音高推定装置100の記憶部24には音モデルM[1]〜M[n]が固定的に格納されるものの、音モデル生成部200で音モデルM[1]〜M[n]を生成するための作業(例えばギター70を順次に演奏する作業)の負荷が軽減されるという効果は以上の形態と同様に奏される。また、音モデル生成部200のうち第1処理部DAのみが音高推定装置100とは別個の装置とされた構成も採用される。この構成においては、ひとつの第1処理部DAで生成された基礎モデルM0[1]〜M0[m]が、複数の音高推定装置100において音モデルM[1]〜M[n]の生成のために共通に使用される。
(2)変形例2
押弦の位置(振動区間の全長)PAや検出器74の位置P0は、基礎モデルM0や音モデルMの生成に使用される状態パラメータの例示に過ぎない。例えば、振幅スペクトルSPaから除去される周波数特性CA[j]や基礎モデルM0[j](中間モデルM1[i])に付与される周波数特性CB[i]は、弦72のうち利用者が弾弦する位置(ピッキング位置)によっても変化するから、弾弦の位置を状態パラメータとして周波数特性(CA[j],CB[i])を特定してもよい。また、弦72の張力や全長を状態パラメータとしてもよい。
(3)変形例3
音高を推定する対象となる楽器はギターなどの弦楽器に限定されない。例えば、管楽器の楽音の音高を推定するために利用される音モデルMの生成にも以上と同様の形態が採用される。管楽器が出力する楽音の振幅スペクトルSPaは、基本的な振幅スペクトル(基礎モデルM0[j])に対して特定の周波数特性CA[j]を付与した形状となる。ギターの周波数特性CA[j]が押弦の位置PAや検出器74の位置P0に応じて変化するのと同様に、管楽器の周波数特性CA[j](フォルマント特性)は、運指に応じた共鳴柱の変動に応じて(すなわち楽音の基本周波数FAに応じて)随時に変化する。音モデル生成部200の第1処理部DAは、周波数FA[j]を基本周波数とする楽音の出力時における運指や検出器74の位置から周波数特性CA[j]を特定し、管楽器の実際の楽音に基づいて特定された振幅スペクトルSPaから当該周波数特性CA[j]を除去することで基礎モデルM0[j]を生成する。一方、第2処理部DBは、基本周波数FB[i]の楽音を出力するときの管楽器の周波数特性CB[i]を状態パラメータ(運指や検出器74の位置)から特定し、当該周波数特性CB[i]を基礎モデルM0[j](より厳密には中間モデルM1[i])に付与することで音モデルM[i]を生成する。
本発明のひとつの形態に係る音高推定装置の機能的な構成を示すブロック図である。 基礎モデルM0[j]や音モデルM[i]が生成される過程を説明するための概念図である。 ギターの弦の振動と押弦の位置や検出器の位置との関係を示す概念図である。
符号の説明
100……音高推定装置、12……周波数分析部、14……BPF、22……関数推定部、24,61……記憶部、26……音高特定部、30……出力部、200……音モデル生成部、DA……第1処理部、DB……第2処理部、51……解析部、52,62……特性特定部、53……特性除去部、63……特性付与部、70……ギター、72……弦、74……検出器、M0(M0[1]〜M0[m])……基礎モデル、M(M[1]〜M[n])……音モデル、P……基本周波数の確率密度関数。

Claims (6)

  1. 楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成する装置であって、
    第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶する記憶手段と、
    前記第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に前記楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する第1特性特定手段と、
    前記第1特性特定手段が特定した周波数特性を前記基礎モデルに付与することで、前記第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する特性付与手段と
    を具備する音モデル生成装置。
  2. 前記第1特性付与手段は、前記基礎モデルがモデル化する高調波構造を前記第1周波数と前記第2周波数との相違に応じて周波数軸に沿ってシフトし、前記第1特性特定手段が特定した周波数特性をシフト後の基礎モデルに付与する
    請求項1に記載の音モデル生成装置。
  3. 前記楽器は、押圧の位置に応じて振動する区間が変化する弦と、前記弦の振動を検出する検出器とを含む弦楽器であり、
    前記第1特性特定手段は、前記弦のうち前記第2周波数に対応した楽音の出力時に押圧される位置と、前記弦の振動する区間に対する前記検出器の位置とに応じて周波数特性を特定する
    請求項1または請求項2に記載の音モデル生成装置。
  4. 演奏時に振動する振動体と前記振動体の振動を検出する検出器とを含む楽器の演奏時における前記検出器の検出の結果から前記第1周波数を基本周波数とする高調波構造を特定する解析手段と、
    前記第1周波数を基本周波数とする楽音の出力時に前記楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する第2特性特定手段と、
    前記第2特性特定手段が特定した周波数特性を前記解析手段が特定した高調波構造から除去することで前記基礎モデルを生成する特性除去手段と
    を具備する請求項1から請求項3の何れかに記載の音モデル生成装置。
  5. 楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成する方法であって、
    第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶する一方、
    前記第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に前記楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定し、
    この特定した周波数特性を前記基礎モデルに付与することで、前記第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する
    音モデル生成方法。
  6. 楽器の楽音を複数の音モデルの混合分布としてモデル化したときの各音モデルの重み値の分布を基本周波数の確率密度関数として推定するために当該楽器の音モデルを生成するプログラムであって、第1周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する基礎モデルを記憶した記憶手段を具備するコンピュータに、
    前記第1周波数とは相違する第2周波数を基本周波数とした楽音の出力時に前記楽器の状態に応じて当該楽音に付与される周波数特性を特定する特性特定処理と、
    前記特性特定処理で特定した周波数特性を前記基礎モデルに付与することで、前記第2周波数を基本周波数とした高調波構造をモデル化する音モデルを生成する特性付与処理と
    を実行させるプログラム。
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