JP4468278B2 - ニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法及びその方法により飼育、養殖又は蓄養されたニジマス。 - Google Patents

ニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法及びその方法により飼育、養殖又は蓄養されたニジマス。 Download PDF

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本発明は、ニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法及びその方法により飼育、養殖又は蓄養されたニジマスに関するものである。本発明は、ニジマスの飼育、養殖又は蓄養に海洋深層水を利用することにより薬剤の使用を不要ならしめ、以てニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法を安定させると共に該方法により好ましいニジマスを得ることができるようにしたものである。
ニジマス(Oncorhynchus mykiss)は、日本国内の内水面養殖生産量(年間)約5万トンのうち約1万トンもの生産量を占める重要魚種である。
ニジマスは淡水の流水池等において養殖され、大量の湧水又は水温の低い河川水等を必要とする[大渡 斉
(1993): ニジマス, 新水産学全集16淡水養殖技術(恒星社厚生閣),pp268−291]。
海洋深層水を利用して海産動物を飼育、養殖又は蓄養する方法は、下記の特許文献により開示されている。
(イ)特開平6−225663号公報
この公報は、海洋深層水を使用した宝石珊瑚の飼育方法を開示している。
(ロ)特開2004−135562号公報
この公報は、海洋深層水を使用したアワビ、ウニ又はサザエの養殖方法を開示している。
しかるに、海洋深層水を用いてニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法或いはその方法により飼育、養殖又は蓄養されたニジマスは従来知られていない。
特開平6−225663号公報 特開2004−135562号公報
近年、ニジマスの養殖環境が悪化しているのみならず、新しい病原体の侵入等による魚病が発生している。ニジマスの養殖生産においては、魚病による被害は深刻であり、それに対処するための手段の一つとして薬剤が使用されているのが現状である[社団法人日本水産資源保護協会(1988): 魚類防疫技術書シリーズVI マス類の魚病,p68,東京]。
ニジマスの魚病を予防するために飼育、養殖又は蓄養の環境を良好に保つことと並んで食品としての安全性の面から薬剤に頼らないニジマスの飼育、養殖又は蓄養の技術が求められている。
このような状況に鑑み、本発明は、薬剤を用いることなく、病気によるへい死を最小限にすることを可能ならしめる安定したニジマスの飼育、養殖又は蓄養の方法を開発すると共に、該方法により食品としての安全性が確保されたニジマスを提供しようとしてなされたものである。
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意検討の結果、従来淡水で飼育、養殖又は蓄養されているニジマスを海洋深層水中で飼育、養殖又は蓄養することに想到した。
海洋深層水は、病原菌・細菌数・有害な汚染物質が少ない等の「清浄性」、周年を通して水温が低い「低水温性」、水質の変動が小さい「水質安定性」等の水質特性を有する[中島敏光・豊田孝義
(1979): 深層水利用よる海域の肥沃化, 海洋科学技術センター試験研究報告, 3, 117−125]。
例えば水深350〜700mの駿河湾深層水では、生菌数は表層水の約100分の1、水温は約5〜10℃、塩分は34psu以上である[安川岳志・筒井浩之・三森智裕・黒山順二・豊田孝義・中島敏光
(2002): 駿河湾海洋深層水取水予定海域における海水特性, 海洋深層水研究, 3(2), pp77−82]。
ニジマスは淡水で養殖される魚類であるが、ニジマスは河川と海とを回遊するサケ科魚類の仲間であることに着目し、上記特徴を備えた海洋深層水を使用することにより、飼育水、養殖水又は蓄養水に薬剤を添加することなく、ニジマスを飼育、養殖又は蓄養することが可能であると考えた。この場合、表層海水では、「清浄性」が確保されず、更には日本沿岸の夏季の表層海水の水温は20℃以上になる場合が多いので越夏や周年飼育は困難である。
即ち、本発明は、下記の如きニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法及びその方法により飼育、養殖又は蓄養されたニジマスを提供する。
(1)海洋の水深100m以深から汲み上げられ、塩分が30psu以上であり、かつ、温度が13℃以上である海洋深層水中で、サイズが尾叉長11cm以上であるニジマスを飼育、養殖又は蓄養することを特徴とする、ニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法(請求項1)。
(2)前記海洋深層水は水深200m〜1200mから汲み上げた駿河湾深層水である(請求項2)。
(3)上記(1)又は(2)の方法により飼育、養殖又は蓄養された銀色を呈したニジマス(請求項3)
[請求項1の発明]
従来淡水で養殖されているニジマスを海洋の水深100m以深から汲み上げた海洋深層水中で飼育、養殖又は蓄養するようにしたため、薬剤を使用することなく、病気によるへい死が少ない安定した飼育、養殖又は蓄養の方法が得られる。
汚染物質が少ない海洋深層水を用い、かつ、薬剤を投与することなくニジマスを飼育、養殖又は蓄養するため、請求項1の方法により得られるニジマスは、食品としての安全性が確保される。
ニジマスは塩分が30psu以上の海洋深層水中で飼育、養殖又は蓄養されるため、該ニジマスは淡水産のものと比較して呈味成分の一種である遊離アミノ酸が多い等、食品としての付加価値がつく。
ニジマスは、温度が13℃以上の海洋深層水中で飼育、養殖又は蓄養されるため、該ニジマスの成長は好ましく促進される。
ニジマスのサイズは尾叉長11cm以上であるため、淡水から海洋深層水に馴致する場合に高い生残率を確保することができる。
[請求項の発明]
請求項における海洋深層水は水深200m〜1200mから汲み上げた駿河湾深層水である。ニジマスの原産地はカムチャッカ、アラスカ〜カリフォルニアの北太平洋亜寒帯水域(亜寒帯系水)であるが、駿河湾深層水の取水深度である水深200m〜1200mは亜寒帯系水が存在する水深に対応するため、該駿河湾深層水は原産地の環境に類似する。従って、該駿河湾深層水はニジマスの飼育、養殖又は蓄養に極めて好ましいものである。
[請求項の発明]
請求項1又は2の方法により飼育、養殖又は蓄養された銀色を呈したニジマスは、安全性を備えた好ましい食品であると共に、釣堀用等のリクレーション、観光用としても利用可能であり、実用的効果は大きい。
本発明においては、飼育、養殖又は蓄養用の容器に海洋の水深100メートル以深から汲み上げた海洋深層水を流入、循環又は汲み置きし、該容器内にニジマスを収容して飼育、養殖又は蓄養する。
飼育、養殖又は蓄養用の容器は、0.1トン程度の小型のものから200トン以上の大型水槽までを含む。
上記容器内にニジマスを収容し、温度管理、排泄物等除去、餌料の投入等の人為的な管理下での飼育、養殖、蓄養を実施する。
飼育、養殖又は蓄養用の容器内に収容された海洋深層水の塩分は、好ましくは30psu以上である。
飼育、養殖又は蓄養用の容器内に収容された海洋深層水の温度は、ニジマスの成長を促進させるため13℃以上に維持することが好ましい。
飼育、養殖又は蓄養用の容器内に収容された海洋深層水の水温と水質とは、流入若しくは循環させる海洋深層水の温度を一定にすることにより安定化させ、又は飼育、養殖若しくは蓄養用の海洋深層水と近似する水温の水を満たした大型容器内に当該飼育、養殖又は蓄養用の容器を配設することにより安定化させる。
飼育、養殖又は蓄養用の容器に海洋深層水を流入、循環させると共に排水することにより、又は該容器内の海洋深層水を予め汲み置いた海洋深層水と交換することにより、該容器内の海洋深層水の水質と水温とを安定化させる。
飼育、養殖又は蓄養用の容器内の排泄物等は、該容器内の海洋深層水を排水、交換することにより除去し、又は人為的に該容器内から除去する。
餌料は、配合飼料等を用いる。
飼育、養殖又は蓄養するニジマスは、尾叉長11cm以上のものであることが好ましい。けだし、尾叉長11cm以上のニジマスは、淡水から海洋深層水に馴致する場合に高い生残率を確保することができるからである。
海洋深層水として、好ましくは駿河湾深層水を用いる。けだし、ニジマスの原産地はカムチャッカ、アラスカ〜カリフォルニアの北太平洋亜寒帯水域であり[中坊徹次
(2000): 日本産魚類検索, p1748, 東海大学出版会, 東京]、一方、駿河湾深層水の取水深度(200m〜1200m)は亜寒帯系水が存在する水深[中村保昭
(1982): 水産海洋学的見地からの駿河湾の海洋構造について, 静岡水試研報, 17, 1−153]に対応するため、駿河湾深層水はニジマスの上記原産地の環境に類似するからである。
本発明においては、静岡県焼津市沖の石花海海盆の水深687mから汲み上げた水を駿河湾深層水となし、該駿河湾深層水を用いて静岡県水産試験場駿河湾深層水水産利用施設内において飼育実験を実施した。
本発明においては、汚染物質が少ない海洋深層水を用い、かつ、薬剤を投与することなくニジマスを飼育、養殖又は蓄養するため、本発明の方法により得られるニジマスは、食品としての安全性が確保される。
本発明においては、ニジマスは、30psu以上の塩分条件下で飼育、養殖又は蓄養される。海産サケ科魚類は、淡水産のものと比較して呈味成分の一種である遊離アミノ酸が多い等、食品の視点から見て異なる特徴をもっている[村田裕子・金庭正樹・山下由美子・飯田 遥・横山雅仁
(1998): サケ科魚類可食部中の遊離アミノ酸組成, 中央水研研報, 11, 65−73]。本発明により30psu以上の塩分条件下で飼育されたニジマスについても、同様に食品として付加価値がつく。
本発明の方法により得られるニジマスは、釣堀用等のリクレーション、観光用としても利用可能である。
次に、本発明の実施例を示す。なお、本願発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
[材料と方法]
静岡県水産試験場富士養鱒場において平成15年10月23日に採卵し飼育したニジマス111個体を、翌平成16年7月22日に同水産試験場駿河湾深層水水産利用施設へ搬入した。70リットルの容器2個にニジマスを収容して輸送した。輸送時間は1時間30分、輸送開始時の水温は10.7℃、輸送終了時の水温は16.2℃であった。搬入したニジマスの平均体重は9.5g、平均尾叉長は8.6cm、総重量は1055gであった。
施設内の500リットル容ポリカーボネイト製水槽1個に、輸送3日前に水道水を300リットル汲み置きし、輸送当日に水深687mから取水した海洋深層水を100リットル加えることにより1/4海洋深層水条件とした。
輸送後その水槽の中にニジマスを収容することにより、淡水から海洋深層水への馴致を開始した。飼育水はウォーターバス方式により水温16.5℃に調節した。
1日後に、その飼育水を半量排水し海洋深層水を約100リットル加えることにより1/2海洋深層水条件とした。
2日後には、その飼育水を半量排水し海洋深層水を約150リットル加えることにより3/4海洋深層水条件とした。
3日後以降、海洋深層水を汲んだ3.5トン容水槽にニジマスを移し換えることにより100%海洋深層水条件にした。3日後以降は、飼育水槽に約5回転/日程度の換水率となるように海洋深層水を注入することにより、水温を平均14.7(13.0〜15.8)℃に調節し、水槽内を流水状態とした。
実験開始228日後に20トン容水槽にニジマスを移し換え、実験開始330日後まで飼育した。
餌料はニジマス用配合飼料を給餌率表の分量を参考に、毎日3−4回に分けて投与した。実験中、生残状況等を確認するとともに、随時、尾叉長、体重を測定した。実験終了後、試験場職員5人により飼育魚の刺身試食試験を行なった。
[結果]
輸送中はへい死個体はなく、111個体すべてについて1/4海洋深層水条件で馴致を開始した。海洋深層水への馴致期間中におけるニジマスの生残率の推移を図1に示す。
飼育開始1、2日後すなわち1/4、1/2海洋深層水条件においては、へい死個体は認められず生残率は100%であった。3日後すなわち3/4海洋深層水条件において生残率が91.9%となり、100%海洋深層水条件となった4日後以降生残率は低下し、7日後には27.9%となった。飼育開始7日以降は生残率が安定した。
ニジマスの体色は、飼育開始時にはパーマークが確認されたが、飼育開始3日後以降は銀色を呈し始めた。
摂餌行動は、飼育開始時には活発であったが、飼育開始3日後以降は不活発になった。そして、6日後あたりから摂餌行動が確認されるようになり、8日後では約半数の個体に活発な摂餌行動が認められ、11日後以降は飼育開始時の活発さに回復した。
生残率の推移、体色、摂餌行動よりみて、飼育ニジマスは一週間で海洋深層水に馴致したものと示唆された。馴致中(飼育開始7日後まで)における尾叉長別の生残・へい死割合を図2に示す。
生残総数は31個体、へい死総数は80個体であった。尾叉長8cm未満のものはすべてへい死した。尾叉長8cm以上11cm未満の生残率は39.7%、尾叉長11cm以上の生残率は100%であった。このことより、海洋深層水へ馴致する場合には尾叉長11cm以上のものが適していると示唆された。
馴致後(飼育開始7日後)の生残率を100%として、その後のニジマスの生残率、尾叉長の推移を図3に示す。同図において、実線は生残率、黒丸と縦線は平均尾叉長と最大最小範囲、破線は飼育日数と尾叉長の回帰式を表す。
生残率は、飼育開始50日後で90.3%、100日後で58.1%、200日後で45.2%、330日後(実験終了)で29%であった。飼育期間中、飼育水槽からの飛び出し事故によるへい死が2個体(飼育開始213、222日後)確認された。それ以外のへい死個体は、すべて遊泳行動が鈍くなり最後に水槽底に横たわる症状であったが、病気によるへい死は特には認められなかった。
平均尾叉長は、飼育開始日で8.6cm、29日後で10.6cm、64日後で13.8cm、97日後で16.5cm、330日後(実験終了)で32.9cmであった。飼育日数(x)と平均尾叉長(y)の関係は、y=0.0733x+8.8588 (R=0.9984, n=5)であった。飼育総重量は、飼育開始29日後で512g(29個体)、97日後で1284g(18個体)、330日後(実験終了)で5657.4g(9個体)であった。実験終了時の1個体あたりの体重は125.1〜1180.5
(平均628.6)gであり、海洋深層水で出荷サイズ(100〜200g)以上の飼育に成功した。
尾叉長と体重との関係を図4に示す。尾叉長(x)と体重(y)との関係は、y
=0.0152x2.9845 (R=0.9928, n=65)であった。
図3、図4の結果をもとにして、飼育目標サイズまでの所要日数と歩留まりとの概要を図5に示す。
尾叉長11cmのニジマスを海洋深層水で飼育した場合、100gサイズまで飼育するには所要日数は110日、歩留まり55.2%、150gサイズまで飼育するには所要日数は148日、歩留まり48.3%、200gサイズまで飼育するには所要日数は179日、歩留まり44.8%と推定された。
尾叉長15cmのニジマスを海洋深層水で飼育した場合、100gサイズまで飼育するには所要日数は55日、歩留まり88.9%、150gサイズまで飼育するには所要日数は93日、歩留まり77.8%、200gサイズまで飼育するには所要日数は124日、歩留まり72.2%と推定された。
実験終了時のニジマスを図6に示す。体色は銀色を呈していた。刺身試食試験の結果、臭みがない、脂が甘い、くどくない、身はきれいなオレンジ色、柔らかい、油があるがあっさりしている、食べやすい、淡水魚というよりは海水魚の食感である、との評価を得た。
海洋深層水への馴致期間中(飼育開始直後)におけるニジマスの生残率の推移を示す図表である。 馴致中(飼育開始7日後まで)における尾叉長と生残・へい死割合との関係を示す図表である。 海洋深層水飼育におけるニジマスの生残率と尾叉長との推移を示す図表である。 飼育ニジマスの尾叉長と体重との関係を示す図表である。 飼育目標サイズまでの所要日数と歩留まりの概算を示す図表である。 海洋深層水で飼育されたニジマスを示す平面図である。

Claims (3)

  1. 海洋の水深100m以深から汲み上げられ、塩分が30psu以上であり、かつ、温度が13℃以上である海洋深層水中で、サイズが尾叉長11cm以上であるニジマスを飼育、養殖又は蓄養することを特徴とする、ニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法。
  2. 前記海洋深層水は水深200m〜1200mから汲み上げた駿河湾深層水であることを特徴とする請求項1に記載のニジマスを飼育、養殖又は蓄養する方法。
  3. 請求項1又は2に記載された方法により飼育、養殖又は蓄養された銀色を呈したニジマス
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