JP4461224B2 - 暗号送信装置 - Google Patents

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この発明は暗号送信装置に関するものであり、さらに詳しくは既存の無線・有線通信システムおよび光通信システムにおいて、人工的付加雑音により高い安全性を保証することを特徴とする暗号通信装置に関するものである。
現代の主要暗号は安全性の根拠を複雑性理論あるいは計算量に置き、数理科学と共に著しい発展を見せている。他方、通信過程において、その信号系の物理現象に関する物理学の原理を安全性の保証に使う形式がある。これは物理暗号と呼ばれ、近年、開発が進んでいる量子暗号はこれに属している。
具体的な技術としての最初の量子暗号としては、1984年のC.H.BennettとG.Brassardとによる秘密鍵の配送プロトコル(BB−84)がある。これは完全に安全な暗号通信を実現する手段の一部である。
すなわち完全に安全な暗号通信は平文より多い鍵数を用いるone time pad法でのみ可能であるという原理に沿ったもので、one time pad法に必要な大量の鍵の配送を量子通信を応用して実現しようとするものである。
現実にBB−84プロトコルを実行するためには、一般に信号光源として単一光子が必要である。しかし本発明者等の研究によれば、現実的な環境では鍵伝送速度が100bps程度であることおよび通信距離が100km程度であることなど種々の制限があり、該システムは原理実験の域を出ないことが示唆された。
これらの欠点を改善するため、量子中継、単一光子生成技術、等々多くのアイデアが提案されているが、いずれも巨視的環境で動作する通信システムとしての実現は期待できそうにない。特に量子中継は巨視的環境での量子相関現象(エンタングルメント)の破壊、さらに中継距離の増加に比例して鍵配送速度が指数的に遅くなる深刻な問題がある。
このようにBB−84プロトコルは暗号学における原理探求の一里塚として極めて重要な役割を果たすものではあるが、実用化を目指すものではない。しかし量子暗号の開発においては、BB−84のような鍵配送のみではなく、従来の暗号のように直接暗号化する共通鍵暗号も考察の対象となり得るのである。
最近、現状の光ネットワーク上で実用化が期待でき、かつBB−84鍵配送とone time pad法の組み合わせによる完全安全な暗号通信と同じ安全性を持つ共通鍵量子暗号が開発された。
この共通鍵量子暗号では、M−ary量子状態変調暗号方式という新しい枠組を応用するものであり、正規送受信者間の光変復調装置はM個の量子信号基底を共通の擬似乱数にしたがって切り換えて通信することにより、直接暗号通信を実施するものである。
ここで量子信号基底とは1と0の情報を送信するときに、その情報を送信する2個の量子信号対を言うものである。例えば0度と180度の位相のコヒーレント状態信号によって情報が送信されるとき、その2個の量子状態信号対が基底となる。
上記のアイデアに基づく暗号プロトコルは一般にYuen−2000暗号通信プロトコル(Y−00プロトコルと略称される)と呼ばれている。このY−00プロトコルを具現化する最初の通信装置は2002年にP.KumarやH.YuenらのNorthwestern大学のグループにより発表されている。
発表された方式では、安全性を高めるために、偏光変調を伴う2モード・コヒーレント状態が用いられた。しかし以下では単一モードによるY−00プロトコルの通信装置の基本原理について図3により説明する。
図3において、レーザダイオード301は、2M値の位相変調可能なコヒーレント光を出力するものであり、M−ary位相変調器302は、送信データを変調するものであり、送信用擬似乱数発生器303、受信用擬似乱数発生器304は、初期鍵Kの入力により擬似乱数を発生するものであり、初期鍵Kを送信用擬似乱数発生器303及び受信用擬似乱数発生器304に入力すると同一の擬似乱数列が出力される。
基底選択制御器305はその擬似乱数列をlog2Mビット毎にブロックにして、そのブロックに対応する10進数に変換し、その10進数の数に対応する基底の選択をM−ary位相変調器302に指令する。M−ary位相変調器302は、選択された基底を用いて送信データ306からの1または0情報を送信する。送信器から出力された光信号が通信路307を経て受信側に伝送される。通信路307は光ファイバーなどの通信経路である。
局発レーザダイオード308、合波器309、フォトダイオード310は通信路出力光との光ヘテロダイン受信を行うものであり、受信用基底選択制御器311は擬似乱数列をlog2Mビット毎にブロックにして、そのブロックに対応する10進数に変換し、その10進数に対応する基底情報を位相平面基本軸制御312に指令する。光ヘテロダイン受信された後の電気信号は位相平面の基底軸にしたがって1と0の判定が行われ、受信データとなる。
なお初期鍵を共有していない盗聴者はどの基底で信号が送られているか知らないので、2M値の位相変調信号を全て識別する受信法を採用しなければならない。
光波は量子系であるので信号自身が量子ゆらぎを持っている。位相平面上の隣接する信号の識別限界は量子信号検出理論によって計算可能であり、その誤り率は量子力学的原理としての識別限界となり、その近似式は次のように与えられる。
Figure 0004461224
ここで
Figure 0004461224
であり、<n>は信号光パルス当りの平均光子数である。この誤り率は盗聴者の量子力学的原理としての識別限界となる。iは2M個の信号の番号である。
上記の値がPe=0.45〜0.50となるように光信号エネルギーと基底数とを設計すれば、盗聴者の受信データにはほとんど情報が含まれないことになる。ここで一例を挙げるとM=103、<n>=104またはM=104、<n>=105となる。
このようにY−00プロトコルは、通信システムが従来の光通信であるが、鍵を知らない盗聴者の受信法が制限され、かつその受信データからは量子ゆらぎによって情報が得られない工夫がなされていることに基づく完全な安全性を提供する暗号である。
量子ゆらぎによる効果が小さい場合には、主用擬似乱数とは別の擬似乱数によるデータや信号に対するRandomizationによって量子ゆらぎの効果を増大させる方式がYuenやHirotaによって提案されている。しかし量子ゆらぎのない古典系では、データや信号に対するRandomizationのみでは暗号の高い安全性が保証できないのである。
C.H.Bennett and G.Brassard,"Quantum cryptography", in Proc.IEEE,Int. Conf. on Computers system,and signal processing,p.175,(1984). G.A.Barbosa,E.Corndorf,P.Kumar,H.P.Yuen,"Secure communication using mesoscopic coherent state," Phys.Rev.Lett.,vol−90,227901,(2003). H.P.Yuen,"A new approach to quantum cryptography" Los Alamos arXiv. quantu−ph/0311061 v5,(2003) O.Hirota,K.Kato,M.Sohma,T.Usuda,K.Harasawa,"Quantum stream cipher based on optical communication" SPIE Proc. vol−5551,(2004)
一般に電磁波による有線・無線通信系での送信部は、ほぼ無雑音または極めてSN比が大きく送信付近で盗聴する盗聴者のSN比が正規受信者のSN比より極めて大きくなり、Y−00プロトコルに基づく暗号通信が機能しないという問題がある。
かかる従来技術の現状に鑑みてこの発明の目的は、古典系でY−00を実行するための方策を含んだ暗号送信装置を提供することにある。
このためこの発明の暗号送信装置は、初期鍵を擬似乱数列に変換する送信用擬似乱数発生器と、前記擬似乱数列から基底情報を選択する基底選択制御器と、情報伝送する搬送波を発生する搬送波発生器と、雑音を発生する雑音発生器と、前記搬送波発生器が発生した搬送波と前記雑音発生器が発生した雑音とを合波する合波器と、前記基底選択制御器によって選択された基底情報と送信データにしたがって前記合波器からの雑音を伴う搬送波を信号値に変調し出力する変調器とを有する。前記雑音発生器に代えて不規則信号発生器とその出力側に接続された変調器とを有してなる。前記搬送波が電磁波、電気信号および光波からなる群から選ばれたひとつの伝送媒体である。前記雑音が自然現象または人工的不規則信号であることを特徴とする。前記信号値は伝送媒体の振幅、伝送媒体の位相および伝送媒体の周波数からなる群から選ばれたひとつである。また、このためこの発明の暗号送信装置は、情報伝送する搬送波の発生器と雑音発生器とこれらの出力側に接続された合波器と、初期鍵を有する擬似乱数発生器とその出力側に接続された基底選択制御器と、入力側において合波器と基底選択制御器に接続されかつ出力側において送信器に接続されたM−ary変調器とを有してなる人工的に雑音を付加する機能を持つ送信装置を用い、模擬的に量子ゆらぎを持つ信号系を構成し、盗聴者のSN比を劣化させることを要旨とするものである。
この発明においてはかかる構成により、本来、量子系で有効であるY−00プロトコルを古典系の有線・無線通信系で機能させることができる。
図1に示すのはこの発明の雑音付加装置の基本的実施例である。搬送波発生器101は情報を伝送するための搬送波を発生する装置である。搬送波としては電磁波、電気信号および光波などが用いられる。また雑音発生器102は搬送波に加えるための雑音を発生する装置である。雑音としては自然現象または人工的不規則信号が用いられる。搬送波発生器101と雑音発生器102はそれぞれの出力側において合波器103に接続されている。この合波器103は搬送波と雑音とを合波する機能を有している。
一方、送信用擬似乱数発生器104は初期鍵を有しており、その出力側において基底選択制御器105に接続されている。この擬似乱数発生器104は初期鍵を長い擬似乱数列に変換する機能を有している。
基底選択制御器105は基底を選択するもので、上記の擬似乱数列から基底選択情報を生成する機能を有している。
合波器103と制御器105とはそれぞれの出力側において共通のM−ary変調器に接続されている。ここで信号を位相とすればM−ary変調器106はM−ary位相変調器となる。M−ary変調器106は雑音を伴う搬送波に基底情報と送信データにしたがって搬送波を変調するものである。以下では位相信号で説明するが、伝送媒体は振幅、および周波数などがある。
M−ary変調器106にあっては、雑音発生器から生成された古典雑音を伴う搬送波に対してY−00プロトコルの構成と同等の信号構成を実現する。これによって電磁波を含む古典系で鍵を知らない盗聴者におけるSN比を著しく劣化させる。量子系、つまり、量子雑音が顕著になる準微弱光系におけるY−00プロトコル独特の高い安全性を有した暗号通信を古典系で実現しているのである。
ついで各構成要素の動作について詳しく説明する。ただし擬似乱数発生器104、基底選択制御器105は原理的に従来のY−00のと同じなのでその説明は省略する。
搬送波発生器101においてはAcos(ωt+θ)で表わされる電磁波が発生される。
雑音発生器102においては熱雑音などの自然現象を用いて雑音電磁波:n(t)を発生させるが、そのエネルギー:σ2は以下の関係を満足させるように設計される。
Figure 0004461224
上式においてt0=(πA/2Mσ)である。正規受信者側におけるSN比が悪くならないように配慮する必要があるのでσ2=1として、AとMとで上式の数値を調整する。すなわち搬送波電力と雑音電力との比がほぼA2となるように調節するのが望ましい。
M−ary変調器106は基底選択制御器105の指令にしたがって搬送波の位相軸を例えば(0、π)や(π/4、5π/4)などの値に指定する。これが基底に対応する。さらに変調器106内では送信データにしたがってその指定された基底を用いた2値の位相偏移キーイング(phase shift keying)が実施される。
以上より、送信装置からは雑音を伴った多数の2値PSK変調信号群の一つが不規則に選ばれて送信されることになる。かかる構成によれば、本来量子系で高い安全性を提供するY−00プロトコルの機能を古典系で実現することが可能である。受信装置は従来の量子系の概念を搬送波の特徴に合せて古典系の技術で構成すればよいので、その詳しい説明は省略する。
図2に示すのはこの発明の暗号送信装置の変形実施例であって、図1に示す実施例における雑音発生器102に代えて、人工的な不規則信号を発生する構成にしたものである。すなわち不規則信号発生器201の出力側が変調器202を介して合波器103に接続されている。
不規則信号発生器201は人工的不規則信号を発生し、変調器202は該不規則信号を搬送波帯の周波数帯に変調する。合波器103は搬送波と不規則信号から変調された信号(同じ周波数帯である)とを合波するものである。図1の構成をかかる構成に変更することによりY−00プロトコルの特性を実現できる。
以上の図1、2に示した構成においては古典系によっているが、その量子系との相違を述べる。量子系では初期鍵の情報が漏れない限り完全に安全であるが、実施例1の構成では送信器の雑音発生器の破壊、または装置全体を冷却するなどの攻撃に対しては安全ではない。
また実施例2の構成では、不規則信号の構造が分かれば安全ではない。しかし送信装置が盗まれない限り量子系と同じく、盗聴者が無限の計算能力を有するコンピューターを有していたとしても、解読不可能な暗号を提供できるのである。
この発明の暗号送信装置は、量子系で高い安全性を持つY−00プロトコルを古典物理系の有線・無線通信システムにおいて模擬的に実現・実施できるので、広範な通信サービスにおいて利用することができる。
この発明の暗号送信装置の基本的実施例のブロック線図である。 同じく変化実施例のブロック線図である。 単一モードによるY−00プロトコルの通信装置の基本構成を示すブロック線図である。
符号の説明
101: 搬送波発生器
102: 雑音発生器
103: 合波器
104: 送信用擬似乱数発生器
105: 基底選択制御器
106: M−ary変調器
107: 送信データ
201: 不規則信号発生器
202: 変調器

Claims (3)

  1. 初期鍵を擬似乱数列に変換する送信用擬似乱数発生器と、
    前記擬似乱数列から基底情報を選択する基底選択制御器と、
    情報伝送する搬送波を発生する搬送波発生器と、
    雑音を発生する雑音発生器と、
    前記搬送波発生器が発生した搬送波と前記雑音発生器が発生した雑音とを合波する合波器と、
    前記基底選択制御器によって選択された基底情報と送信データにしたがって前記合波器からの雑音を伴う搬送波を信号値に変調し出力する変調器と、
    を有することを特徴とする暗号送信装置。
  2. 前記搬送波が電磁波、電気信号および光波からなる群から選ばれたひとつの伝送媒体であることを特徴とする請求項に記載の装置。
  3. 前記信号値は伝送媒体の振幅、伝送媒体の位相および伝送媒体の周波数からなる群から選ばれたひとつであることを特徴とする請求項に記載の装置。
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