以下、本発明の実施の形態による往復動圧縮機として、空気圧縮機を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図中、1は空気圧縮機の本体部分を構成する圧縮機本体を示し、該圧縮機本体1は、例えば金属材料等により形成されたクランクケース2と、後述のクランク軸3、シリンダ4、ピストン7、連接棒8とによって大略構成されている。
3は該クランクケース2に回転可能に設けられたクランク軸で、該クランク軸3には、プーリ3Aが取付けられている。そして、クランク軸3は、後述のモータ11によりプーリ3A等を介して回転駆動される。
4はクランクケース2に設けられた例えば1個のシリンダで、該シリンダ4上には、弁板5を介してシリンダヘッド6が搭載され、このシリンダヘッド6には、吸込サイレンサ等が接続された吸込ポート6Aと、吐出配管等が接続された吐出ポート6Bとが設けられている。また、弁板5には、シリンダ4内に対して吸込ポート6Aを連通,遮断する吸込弁5Aと、シリンダ4内に対して吐出ポート6Bを連通,遮断する吐出弁5Bとが設けられている。
7はシリンダ4内に往復動可能に設けられたピストンで、該ピストン7は、シリンダ4内に吸込まれた空気を圧縮するものであり、ピストンピン7A等を用いて後述の連接棒8と連結されている。また、ピストン7の外周側には、シリンダ4の内周面に摺接するピストンリング7Bが設けられている。
8はクランク軸3とピストン7とを連結する連接棒で、該連接棒8は、大端部が軸受8Aを介してクランク軸3に回転可能に連結され、小端部が他の軸受8Bを介してピストンピン7Aに揺動可能に連結されている。
そして、圧縮機の運転時には、モータ11によってクランク軸3が回転駆動されると、その回転が連接棒8によってピストン7の往復動に変換され、シリンダ4内では、ピストン7が往復動することによって圧縮行程と吐出行程とを交互に行われる。これにより、圧縮行程では、吸込弁5Aが開弁して吐出弁5Bが閉弁し、吸込ポート6Aからシリンダ4内に空気が吸込まれる。また、吐出行程では、吸込弁5Aが閉弁して吐出弁5Bが開弁することにより、シリンダ4内で圧縮された圧縮空気が吐出ポート6Bから外部に吐出される。
この場合、例えばクランク軸3、ピストン7、ピストンピン7A、ピストンリング7B、連接棒8、軸受8A,8B等の部品は、後述する故障診断装置21の診断対象となる往復動機構9を構成している。
次に、図2を参照しつつ、圧縮機の駆動系統について説明する。10は圧縮機の運転に用いられる電源、11は該電源10によって作動する駆動源としてのモータを示し、該モータ11は、例えば電動モータ等によって構成されている。
ここで、電源10としては、例えば50Hzまたは60Hzの電源周波数を有する一般的な交流電源(商用電源)等が用いられ、この電源10とモータ11との間には、例えば3本の電源配線12が設けられている。そして、圧縮機の運転時には、例えば3相交流等の電流が電源10から各電源配線12を介してモータ11に供給される。これにより、モータ11は、例えば900〜1000rpm程度の定格回転数によってクランク軸3を回転駆動する。
13は電源10とモータ11との間に開,閉可能に設けられた電磁接触器で、該電磁接触器13は、例えば4接点型のリレー等からなり、励磁コイル13Aと、4個の接点13B,13B,13B,13Cとによって構成されている。
ここで、励磁コイル13Aは、その一端側が通電制御用の配線14によって1本の電源配線12に接続され、この配線14の途中には、後述のスイッチ17,18とリレー33とが開,閉可能に設けられている。また、励磁コイル13Aの他端側は、他の通電制御用の配線15によって一端側と異なる電源配線12に接続され、この配線15の途中には、後述するサーマルリレー16の一部が設けられている。また、3個の接点13Bは各電源配線12の途中にそれぞれ開,閉可能に設けられ、他の接点13Cは後述の通電保持回路19に用いられている。
そして、停止スイッチ18とリレー33とが閉成した状態で、圧縮機の使用者等が作動スイッチ17を押したときには、各電源配線12の間に生じている電圧によって励磁コイル13Aが通電される。これにより、各接点13Bは、図3に示す如く、励磁コイル13Aに引付けられて閉じた状態となり、電源10とモータ11とが接続される。
このとき、他の接点13Cも励磁コイル13Aによって閉じるため、作動スイッチ17が開成位置に復帰しても、通電保持回路19によって励磁コイル13Aに通電されるようになり、各接点13Bは閉じた位置に保持される。従って、作動スイッチ17が一旦押されると、モータ11が作動する構成となっている。
一方、後述の停止スイッチ18が押されたり、故障診断装置21がリレー33を開成したときには、図4に示す如く、励磁コイル13Aへの通電が停止して各接点13B,13Cが開いた状態となり、モータ11が停止する。このように、電磁接触器13は、作動スイッチ17とリレー33とを介して通電されることにより、通電状態に応じて開,閉するものである。
16は電磁接触器13と共に電源10とモータ11との間に設けられたサーマルリレーで、該サーマルリレー16は、例えば温度ヒューズ等として機能するものであり、過電流等によって電源配線12の温度が上昇したときに、電源10とモータ11との間及び配線15の途中を遮断する構成となっている。
17は圧縮機を作動させるときに押す作動スイッチで、該作動スイッチ17は、例えば停止スイッチ18と一体化された2極双投のスイッチ等からなり、電磁接触器13の励磁コイル13Aとリレー33との間に位置して配線14の途中に設けられている。ここで、作動スイッチ17は、例えば常時は開成位置を保持する常開(ノーマル・オ−プン)型のスイッチ等からなり、押したときにのみ閉成位置に切換えられ、非操作時には開成位置に自動的に復帰するものである。
この場合、本実施の形態では、後述の故障診断装置21によって往復動機構9を故障と診断したときに、常閉型のリレー33を開成して圧縮機を停止させる構成としている。そして、作動スイッチ17は、仮りに故障診断装置21がリレー33を開成した状態で故障し、リレー33が閉成位置に戻ったとしても、作動スイッチ17が再び押されない限り電磁接触器13を開成状態に保持し、圧縮機が停止した状態を維持する。
これにより、往復動機構9の故障によって圧縮機が停止しているにも拘らず、この状態で故障診断装置21が故障することによって圧縮機が勝手に再始動するのを防止することができる。
18は圧縮機を停止するときに押す停止スイッチで、該停止スイッチ18は、例えば常閉(ノーマル・クローズ)型のスイッチ等からなり、押したときにのみ開成位置に切換えられ、非操作時には閉成位置に自動的に復帰する。そして、停止スイッチ18は、配線14の途中に設けられている。
19は電磁接触器13の励磁コイル13Aとリレー33との間に設けられた通電保持回路で、該通電保持回路19は、作動スイッチ17に対して並列で、かつ停止スイッチ18と直列に配置された配線19Aと、電磁接触器13の励磁コイル13A、接点13Cとによって構成されている。この場合、電磁接触器13の接点13Cは、配線19Aの途中に開,閉可能に設けられている。
そして、通電保持回路19は、作動スイッチ17が一旦押されてから開成位置に復帰したときに、励磁コイル13Aによって一旦閉成された接点13Cと配線19Aとによって当該励磁コイル13Aを通電状態に保持し続け、これによって圧縮機の運転を続行可能とするものである。
次に、20は圧縮機の振動を検出する振動検出器としての圧電素子で、該圧電素子20は、例えば歪み変形することにより電圧を発生するピエゾ効果をもった汎用的な圧電材料等を用いて形成され、クランクケース2(図1参照)に取付けられると共に、信号線20Aを用いて後述の故障診断装置21に接続されている。
そして、圧電素子20は、図5に示す如く、シリンダ4内でピストン7が往復動するときに発生する振動を検出し、その振動波形に対応する検出信号S0を故障診断装置21に出力する。この振動は、例えばピストン7が上死点の近傍に達して空気の圧縮、吐出動作が行われるときに大きくなるため、検出信号S0の信号波形は、正常な状態において、クランク軸3(モータ11)の定格回転数に対応する例えば60msec程度の予め定められた周期Z0(以下、定格の周期Z0という)で規則的に増大するようになる。
21は例えば圧縮機本体1のクランクケース2等に設けられた故障診断装置を示し、該故障診断装置21は、後述の診断処理回路23、リレー33によって大略構成され、これらの部品は、圧電素子20と一緒に回路基板22に搭載されている。そして、故障診断装置21は、圧電素子20を用いて振動を検出し、圧電素子20が正常であるか否かを診断する圧電素子診断処理と、往復動機構9が正常であるか否かを診断する往復動機構診断処理とを行うものである。
23は圧電素子20の出力側に接続された診断処理回路で、該診断処理回路23は、圧電素子20の検出信号S0を増幅する増幅器24と、該増幅器24で増幅された検出信号S0のノイズを除去するフィルタ25と、該フィルタ25の出力側に接続された包絡線検波器26と、後述のCPU27、電源回路28、記憶回路29、フォトカプラ31、平滑回路32とによって大略構成されている。
この場合、包絡線検波器26は、図5に示す如く、検出信号S0の包絡線に対応する波形の包絡線信号Sを出力するものであり、この包絡線信号Sは、波形を整形した検出信号S0に相当するものである。
27は診断処理回路23の演算処理部を構成するCPUで、該CPU27は、例えばタイマ機能を有する半導体IC等によって構成され、故障診断装置21に搭載された電源回路28を介して通電される。そして、CPU27は、後述の図10ないし図12に示す如く、圧電素子診断処理と往復動機構診断処理とを行うものである。
ここで、圧電素子診断処理では、まず包絡線信号S(検出信号S0)の周期Zを計測し、その計測結果が定格の周期Z0と一致したときに、圧電素子20が正常に作動していると診断する。また、計測した周期Zが定格の周期Z0と異なるときには、圧電素子20が故障したと診断し、後述の報知ランプ34を消灯させる。
この場合、例えば圧電素子20が取付位置から外れたり、その内部や信号線20Aに断線、損傷等が生じることによって素子が故障状態となったときには、図5に示す如く、電源10のノイズが検出信号S0に生じ易くなる。この結果、包絡線信号Sの周期Zは、定格の周期Z0と異なり、電源周波数に対応する所定の周期Ze(以下、電源周期Zeという)に等しくなることが多い。この電源周期Zeは、例えば電源周波数が50Hzの場合にZe=20msecとなり、電源周波数が60Hzの場合にZe=17msecとなるものである。
そこで、圧電素子診断処理では、後述の図16に示す如く、包絡線信号Sの周期Zが予め判っている電源周期Zeと等しいときに、圧電素子20の外れ、断線、損傷等によって故障が発生したと診断する。
また、例えば圧電素子20、信号線20A、増幅器24に断線、短絡、損傷等の故障が生じたときには、後述の図14に示す如く、包絡線信号Sの信号レベル(信号値)が低下して予め定められた下限値Vmin以下となり、その周期Zは、定格の周期Z0と異なる長い周期となるか、または計測不能となり易い。
このため、圧電素子診断処理では、下限値Vminよりも大きな包絡線信号Sが予め定められた許容範囲TOKの時間内に入力されないとき、即ち包絡線信号Sの周期Zが許容範囲TOKよりも長くなったときに、圧電素子20の短絡等によって故障が発生したと診断する。
さらに、例えば圧縮機の運転を開始した直後には、例えば図13中の波形S′に示すように、過渡状態における大きな振動が発生し易い。このため、CPU27は、モータ作動信号Mによってモータ11が運転中であるか否かを検出し、モータ11の始動を検出してから例えば2秒程度の待機時間Twが経過したときに、圧電素子診断処理を開始する構成となっている。
一方、往復動機構9を構成する何れかの部品に摩耗、損傷等の異常が生じた場合には、ピストン7の往復動が不安定となり、包絡線信号Sの信号レベル(振幅)は、図6に示す如く、正常時と比較して異常に大きくなることが多い。
このため、往復動機構診断処理では、後述の図17に示す如く、包絡線信号Sの周期Zが定格の周期Z0と一致するか、またはその高調波に対応する周期(Z0/2)と一致し、さらに包絡線信号Sの信号レベルが所定の判定値Vjよりも大きくなったときに、往復動機構9が故障したと診断し、報知ランプ34を点滅させると共に、後述のリレー33を開成して圧縮機を停止させる。この場合、判定値Vjは、正常時の振動レベルを基準として予め設定されている。
29はCPU27に接続された例えばROM、RAM等の記憶回路で、該記憶回路29には、診断処理のプログラムと、これらの診断処理で用いる周期Z0,Ze、下限値Vmin、待機時間Tw、許容範囲TOK、判定値Vj、上限値Aj、判定回数Cj,Ej等の定数が予め記憶されている。
また、記憶回路29には、図7、図8に示す如く、例えば2種類のカウンタC(n),E(n)が書換可能に記憶されている。この場合、圧電素子診断用カウンタC(n)は、例えば128個の配列メモリ(n=1〜128)等として構成され、包絡線信号Sが色々な周期で発生するときに、その発生周期を1msecずつ異なる128種類の時間幅で個別に数えるものである。また、往復動機構診断用カウンタE(n)も、カウンタC(n)とほぼ同様に構成されている。
30はモータ11が運転中であるか否かを検出する運転状態検出手段としての検出用配線で、該検出用配線30は、一端側が電磁接触器13とモータ11との間で電源配線12に接続され、他端側がCPU27に接続されている。そして、モータ11の運転中には、停止時と異なるモータ作動信号Mが検出用配線30を通じてCPU27に入力される。
また、検出用配線30には、モータ作動信号Mを途中で光信号に一旦変換することによってモータ11側の回路と診断処理回路23とを電気的に遮断するフォトカプラ31と、モータ作動信号Mに含まれる高周波成分を除去して信号を平滑化する平滑回路32とが設けられている。
33は電磁接触器13を開,閉する常閉型のリレーで、該リレー33は、非通電時に閉成状態となり、CPU27から通電されたときに開成する。この場合、リレー33は、CPU27の出力側に接続された励磁コイル33Aと、電源10と電磁接触器13の励磁コイル13Aとの間に位置して配線14の途中に開,閉可能に設けられた接点33Bとによって構成されている。
そして、例えば故障診断装置21が何らかの異常により故障した場合には、CPU27から通電を受けないリレー33が閉成状態となっているので、圧縮機の使用者等は、作動スイッチ17を操作することによってモータ11を作動させることができ、とりあえず圧縮機を運転することができる。
また、故障診断装置21が正常に作動して往復動機構9を故障と診断したときには、CPU27から励磁コイル13Aに通電されることによってリレー33が開成し、モータ11が停止される。
34はCPU27の出力側に接続された報知手段としての報知ランプで、該報知ランプ34は、図9に示す如く、例えば圧電素子20または故障診断装置21が故障した場合、往復動機構9が故障した場合、及びこれらの全てが正常である場合に、それぞれ異なる報知動作を行うことにより、圧縮機の作動状態を報知するものである。
ここで、例えば圧電素子20または故障診断装置21が何らかの異常により故障した場合には、圧縮機の電源を投入したにも拘らず、報知ランプ34が消灯したままの状態となる。また、往復動機構9が故障した場合には、これを診断したCPU27によって報知ランプ34が点滅される。
一方、往復動機構9、圧電素子20及び故障診断装置21が正常に作動している場合には、報知ランプ34が点灯した状態となる。従って、圧縮機の使用者等は、これら4通りの場合をそれぞれ区別でき、故障が発生したときには、発生部位に応じて適切な対策を行うことができる。
本実施の形態による空気圧縮機は上述の如き構成を有するもので、次に図9を参照しつつ、その作動について概略的に説明する。
まず、往復動機構9、圧電素子20及び故障診断装置21が正常な状態において、圧縮機の電源を投入すると、報知ランプ34が点灯する。そして、圧縮機の使用者等が作動スイッチ17を押したときには、図9中の位置aに示す如く、電磁接触器13が閉成され、電源10からモータ11に通電される。これにより、空気圧縮機が始動し、圧縮機本体1から圧縮空気が吐出される。
また、圧縮機を運転しているときに、例えば圧電素子20または故障診断装置21(以下、これらを合わせて診断系統という)が故障等によって機能を停止すると、位置bに示す如く、報知ランプ34が消灯するため、使用者等に診断系統の故障を報知することができる。この場合、常閉型のリレー33は閉成した状態を保持するので、診断系統(圧電素子20または故障診断装置21)が故障した状態でも、圧縮機本体1による空気の圧縮動作は続行することができる。これにより、使用者は、例えば圧縮機本体1を必要なだけ運転した後に、位置cに示す如く、停止スイッチ18を押して圧縮機を停止させることができる。
そして、例えば位置dで診断系統の修理、交換等を行うことにより、これを故障状態から復帰させ、位置eで作動スイッチ17を再び操作すると、圧縮機が再始動する。
また、圧縮機を運転しているときに、位置fに示す如く、往復動機構9が故障すると、この故障を検出した故障診断装置21によってリレー33が開成され、電磁接触器13が開成位置に切換えられる。これにより、圧縮機が停止し、報知ランプ34が点滅するので、使用者等は、往復動機構9を故障した状態で動かし続けることなく、その故障を速やかに認識して適切に対処することができる。
これらの作動状態をまとめると、下記表1中のケース(1)〜(4)に示すようになり、圧縮機の使用者等は、報知ランプ34を確認することによって圧縮機の作動状態を的確に把握することができる。
また、例えば表1中のケース(5)に示すように、故障診断装置21によって往復動機構9が故障したと診断し、圧縮機を停止させた後に、さらに故障診断装置21が故障する場合も考えられる。
この場合、常閉型のリレー33は、故障診断装置21の故障によって閉じた状態となるが、このリレー33と電磁接触器13との間には常開型の作動スイッチ17が配置されているので、電磁接触器13は開成状態に保持される。従って、往復動機構9の故障検出後に故障診断装置21が故障したとしても、作動スイッチ17が操作されない限り、圧縮機を停止状態に保持し続けることができる。
次に、図10を参照しつつ、故障診断装置21の処理について説明する。まず、電源が投入されると、ステップ1では、CPU27、記憶回路29等の初期設定を行い、このときに報知ランプ34を一旦点灯させる。
そして、ステップ2では、モータ11側から検出用配線30を介してモータ作動信号Mが入力されたか否かを判定し、「YES」と判定したときには、ステップ3でタイマtを零からスタートし、モータ作動信号Mが入力し始めてから経過した時間を計測する。また、ステップ2で「NO」と判定したときには、圧縮機の運転が開始していないので、作動スイッチ17が操作されるまで待機する。
次に、ステップ4では、タイマtが所定の待機時間Twに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、例えば図13中の波形S′に示すように大きな振動が発生し易い始動直後の過渡期が経過したので、ステップ5で後述の圧電素子診断処理を行う。また、ステップ4で「NO」と判定したときには、過渡期の大きな振動による誤診断を避けるため、圧電素子診断処理を行うことなく、待機時間Twが経過するまで待機する。
そして、ステップ6では、圧電素子20の診断結果が正常または中止であるか否かを判定する。このステップ6で「YES」と判定したときには、圧電素子20の診断結果が正常であるか、または往復動機構9に故障の兆候があって素子の診断を中止した場合なので、ステップ7では、後述の往復動機構診断処理を実行する。また、ステップ6で「NO」と判定したときには、圧電素子20が故障しているので、往復動機構診断処理を行わずに、ステップ8で終了する。
次に、図11を参照しつつ、圧電素子診断処理について説明すると、まずステップ11では、タイマtを零からスタートし、ステップ12では、圧電素子20の包絡線信号Sを読込む。そして、ステップ13では、包絡線信号Sの信号レベルが所定の下限値Vminよりも大きいか否かを判定し、「YES」と判定したときには、後述のステップ17に移る。
また、ステップ13で「NO」と判定したときには、包絡線信号Sが入力されないか、またはその信号レベルが異常に小さいので、ステップ14では、ステップ11でスタートさせたタイマtが許容範囲TOKを超えたか否かを判定する。
この場合、ステップ14で「YES」と判定したときには、図14に示す如く、例えば圧電素子20、信号線20A、増幅器24に断線、短絡、損傷等が生じたので、ステップ15で圧電素子20を故障と診断し、ステップ16で報知ランプ34を消灯した後に、後述のステップ32に移ってリターンする。
また、ステップ14で「NO」と判定したときには、正常な信号レベルの包絡線信号Sが入力されるか、許容範囲TOKの時間が経過するまでステップ12〜14を繰返す。
次に、ステップ17では、包絡線信号Sの信号レベルが所定の判定値Vjよりも大きいか否かを判定する。このステップ17で「YES」と判定したときには、往復動機構9が故障している虞れがあるので、ステップ18では、故障発生カウンタAを1だけ加算し、包絡線信号Sが判定値Vjを超えた回数を数える。
そして、ステップ19では、故障発生カウンタAが所定の上限値Ajに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、往復動機構9が故障している可能性が高いので、ステップ20で素子の診断を中止し、後述のステップ32に移ってリターンする。
また、ステップ19で「NO」と判定したときには、とりあえず素子の診断を続けるためにステップ21に移る。一方、ステップ17で「NO」と判定したときには、包絡線信号Sが正常な信号レベルなので、ステップ21に移る。
次に、ステップ21では、包絡線信号Sの周期を計測している最中か否かを判定し、「YES」と判定したときには、前回読込んだ包絡線信号Sを基準としてタイマtがスタートしており、今回の包絡線信号Sを読込んだ時点で信号の周期が確定するので、ステップ22に移る。また、ステップ21で「NO」と判定したときには、周期計測の基準となる包絡線信号Sを読込んだことになるので、ステップ11に戻ってタイマtを零からスタートする。
次に、ステップ22でタイマtを停止し、ステップ23では、タイマtの値を包絡線信号Sの周期Zとして記憶した後に、ステップ24でタイマtを零にクリアする。そして、ステップ25では、圧電素子診断用カウンタC(n)のうち周期Zに対応するカウンタC(Z)を1だけ加算する。
これにより、圧電素子診断用カウンタC(n)は、周期計測が繰返し行われると、発生した個々の周期Zに対応するカウンタC(Z)が当該周期Zの発生回数に応じて加算され、全体として図7に示すヒストグラムのようになる。
ここで、圧電素子20が正常な場合には、図15に示す如く、モータ11の定格回転数に対応する定格の周期Z0で包絡線信号Sが発生し、その発生回数を数えるカウンタC(Z0)だけが他のカウンタC(n)と比較して増加する。
そこで、ステップ26では、カウンタC(Z0)が所定の判定回数Cjに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、ステップ27で圧電素子20が正常であると診断し、ステップ28で報知ランプ34を点灯状態に保持した後に、後述のステップ32に移ってリターンする。
一方、例えば圧電素子20が外れたり、断線、損傷等によって故障した場合には、図16に示す如く、電源周期Zeと同期して包絡線信号Sが発生し、その発生回数を数えるカウンタC(Ze)だけが増加する。
そこで、ステップ26で「NO」と判定したときには、ステップ29でカウンタC(Ze)が所定の判定回数Cjに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、ステップ30で圧電素子20が故障したと診断し、ステップ31で報知ランプ34を消灯する。
そして、ステップ32では、全てのカウンタC(n)を零にクリアし、ステップ33でリターンする。また、ステップ29で「NO」と判定したときには、まだ圧電素子20の診断結果が出るほどカウンタC(n)が増加していないので、ステップ12に戻って包絡線信号Sの読込を繰返す。
次に、図12を参照しつつ、往復動機構診断処理について説明すると、まずステップ41では、圧電素子20の包絡線信号Sを読込み、ステップ42では、包絡線信号Sが所定の判定値Vjよりも大きいか否かを判定する。そして、ステップ42で「YES」と判定したときには、往復動機構9に故障の虞れがあるので、後述のステップ45に移って包絡線信号Sの周期計測を行う。
また、ステップ42で「NO」と判定したときには、ステップ43で包絡線信号Sが所定の下限値Vminよりも小さいか否かを判定する。このステップ43で「YES」と判定したときには、例えば圧電素子20や信号線20Aの外れ、断線、短絡、損傷等が生じて信号レベルが低下したと考えられるので、ステップ44では、圧電素子20の故障と診断し、圧電素子診断処理の場合と同様に、報知ランプ34を消灯してリターンする。
また、ステップ43で「NO」と判定したときには、包絡線信号Sの信号レベルが正常な範囲(Vj≧S>Vmin)内にあるので、ステップ41に戻り、信号レベルが正常な範囲から外れない限りは、ステップ41〜43を繰返す。
次に、ステップ45では、判定値Vjよりも増大した包絡線信号Sに対して、周期計測中であるか否かを判定する。このステップ45で「YES」と判定したときには、圧電素子診断処理の場合とほぼ同様に、ステップ46でタイマtを停止し、ステップ47でタイマtの値を周期Zとして記憶し、ステップ48でタイマtを零にクリアした後に、ステップ49では、往復動機構診断用カウンタE(n)のうち周期Zに対応するカウンタE(Z)を1だけ加算する。また、ステップ45で「NO」と判定したときには、ステップ50でタイマtを零からスタートし、ステップ41に戻る。
これにより、往復動機構診断用カウンタE(n)は、個々の周期Zに対応するカウンタE(Z)が当該周期Zの発生回数に応じて加算され、全体として図8に示すヒストグラムのようになる。
そして、往復動機構9が故障している場合には、図17に示す如く、モータ11の定格回転数に対応する定格の周期Z0、またはその高調波に対応する周期(Z0/2)で大きな振動が発生し、これらの発生回数を数えるカウンタE(Z0),E(Z0/2)だけが他のカウンタE(n)と比較して増加する。
そこで、ステップ51では、カウンタE(Z0)が所定の判定回数Ejに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、後述のステップ53に移って往復動機構9が故障したと診断する。
また、ステップ51で「NO」と判定したときには、ステップ52でカウンタE(Z0/2)が判定回数Ejに達したか否かを判定し、「YES」と判定したときには、ステップ51で「YES」と判定した場合と同様の処理を行う。また、ステップ52で「NO」と判定したときには、カウンタE(Z0),E(Z0/2)が何れも判定回数Ejに達していないので、ステップ41に戻って診断処理を続行する。
そして、ステップ53で往復動機構9を故障と診断したときには、ステップ54でリレー33を開成することによって圧縮機を停止させ、ステップ55で報知ランプ34を点滅させた後に、ステップ56でリターンする。
かくして、本実施の形態によれば、故障診断装置21は、包絡線信号Sの周期Zがクランク軸3の回転に対応する定格の周期Z0と異なるときに、圧電素子20を故障と診断する構成としている。
これにより、包絡線信号Sの周期Zが定格の周期Z0と一致したときには、圧電素子20が正常であると診断することができる。また、例えば包絡線信号Sの周期Zが電源周期Zeと一致したときには、圧電素子20や信号線20A等が断線したと診断することができる。さらに、包絡線信号Sの信号レベルが許容範囲TOKよりも長い時間にわたって下限値Vmin以下となったときには、例えば圧電素子20や信号線20A、増幅器24に断線、短絡、損傷等の故障が生じたと診断することができる。
このように、包絡線信号Sの周期性を利用して、その周期Zを定格の周期Z0や電源周期Zeと比較することにより、他の外乱ノイズ等が存在する場合でも、圧電素子20の故障診断を高い精度で行うことができる。そして、圧縮機の使用者等は、素子の故障を認識して適切に対処することができる。
また、圧電素子20が正常な状態で、判定値Vjよりも大きな包絡線信号Sが所定の周期Z0,Z0/2で出力されるときには、往復動機構9が故障したと診断でき、これによって圧縮機の運転を停止させることができる。これにより、圧縮機の使用者等は、往復動機構9の故障を認識して適切に対処することができる。
従って、従来技術と比較して特別な構造、回路等を設けなくても、圧電素子20と往復動機構9の両方を容易に診断でき、簡単な構造によって圧縮機の信頼性を高めることができる。そして、圧電素子20が故障したにも拘らず、これに気付かずに圧縮機が使用されるのを確実に防止でき、往復動機構9の作動状態を常に安定的に診断することができる。これにより、往復動機構9の故障時には、各部品が故障した状態で作動し続けることによって多数の部品が連鎖的に損傷する前に、故障を速やかに診断して部品の損傷等を最低限に抑えることができる。
また、故障診断装置21と電源配線12との間にモータ11の運転状態を検出する検出用配線30を設け、モータ11が始動してから一定の待機時間Twだけ診断処理を待機するようにしたので、故障診断装置21は、圧縮機が始動されたことを検出用配線30によって検出することができる。
これにより、モータ11の始動を検出してから過渡状態の大きな振動が収まるまでの間に、信号レベルや周期が不安定な包絡線信号Sを用いて診断処理が行われるのを防止することができる。これにより、過渡状態の振動が原因で誤診断が生じるのを避けることができ、診断の精度を高めることができる。
また、故障診断装置21により常閉型のリレー33を用いて圧縮機の運転,停止を制御するようにしたので、往復動機構9が正常なときには、リレー33を非通電状態で閉成しておくことができる。これにより、例えば故障診断装置21が故障したときには、リレー33が閉じたままの状態となるので、とりあえず圧縮機を運転することができる。従って、往復動機構9が正常であるにも拘らず、補助的な機構である故障診断装置21が故障しただけで、圧縮機全体が使用不能となるのを防止でき、圧縮機の取扱いを容易にすることができる。
さらに、電磁接触器13とリレー33との間には、常開型の作動スイッチ17と、通電保持回路19とを並列に設けている。このため、例えば故障診断装置21が往復動機構9を故障と診断してリレー33を開成し、その後に診断装置自体が故障することによってリレー33が閉成したとしても、常開型の作動スイッチ17が操作されない限り、圧縮機が勝手に再始動するのを防止でき、信頼性をより高めることができる。
また、圧縮機を始動するときには、使用者等が作動スイッチ17を押した後に手を離すと、常開型の作動スイッチ17は開成位置に復帰するが、このときに通電保持回路19によって電磁接触器13を通電状態に保持できるので、圧縮機の運転を続行することができる。そして、この通電保持回路19を、電磁接触器13の一部(接点13C等)を用いて構成したので、回路全体の部品点数を削減して構造を簡略化することができる。
なお、前記実施の形態では、図11中のステップ11〜13,21〜25が周期計測手段の具体例を示し、ステップ13〜16,26〜32が検出器診断手段の具体例を示している。また、図12中のステップ41〜55が往復動機構診断手段の具体例を示している。
また、実施の形態では、圧電素子20または故障診断装置21(診断系統)が故障したときに、報知ランプ34を消灯して圧縮機は運転状態に保持し、往復動機構9が故障したときには、報知ランプ34を点滅させると共に圧縮機を停止する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、往復動機構9が故障したときに、報知手段を作動させた状態で圧縮機の運転を続行する構成としてもよい。また、診断系統を故障と診断したときに、圧縮機を停止する構成としてもよい。
また、実施の形態では、圧電素子20の故障判定に電源周期Zeを用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、包絡線信号Sの周期Zが定格の周期Z0と異なる任意の周期となったときに、圧電素子20を故障と診断してよいものであり、具体的には、複数個の圧電素子診断用カウンタC(n)のうちカウンタC(Z0)を除いた何れかのカウンタが判定回数Cjに達したときに、素子を故障と診断する構成としてもよい。
また、実施の形態では、周期の計測対象となる1〜128msecの周期帯を1msecずつ128個の周期に分割し、個々の周期にカウンタC(n),E(n)をそれぞれ対応させる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、計測対象となる周期帯の大きさや、周期帯を分割する個数等は必要に応じて自由に設定する構成としてよい。
また、実施の形態では、モータ11の運転開始を検出用配線30によって検出したときに、圧電素子診断処理を行う構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、モータ11が停止した状態においても、圧電素子診断処理を行う構成としてもよく、例えばモータの運転状態に関係なく、タイマ等によって一定の時間毎に圧電素子診断処理を行う構成としてもよい。
また、実施の形態では、単一のシリンダ4を有する空気圧縮機を例に挙げて述べたが、本発明はこれに限らず、例えば2気筒以上のシリンダを有する多気筒型圧縮機に適用してもよい。
さらに、実施の形態では、往復動型の空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば冷媒等を含めて空気以外の気体を圧縮する各種の圧縮機にも適用できるものである。