JP4445232B2 - 合成ムライト砂の処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋳造用耐火性骨材として用いられる合成ムライト砂の処理方法、及びそれによって好適に得られるムライト砂、並びに鋳型に係り、特に、合成ムライト砂を、アミンコールドボックス造型法における鋳物砂として好適に用いられ得るように処理する方法に関するものであり、また、アミンコールドボックス造型法における鋳物砂として好適に用いられ得る合成ムライト砂、及び、そのような合成ムライト砂を用いて得られるアミンコールドボックス鋳型に関するものである。
近年、鋳物砂等の鋳造用耐火性骨材としては、従来の硅砂に比べ耐熱性や耐破砕性に優れている合成ムライト砂が、多く使用されている。
一方、鋳型の製作方法としては、鋳型の寸法精度や生産性の観点から、アミンコールドボックス造型法が注目されてきている。ここにおいて、アミンコールドボックス造型法とは、二液型有機粘結剤として、フェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分よりなる粘結剤を用い、ベンジルエーテル型フェノール樹脂を所定の有機溶媒に溶解せしめてなる有機溶液(フェノール樹脂成分)と、ポリイソシアネートを所定の有機溶媒に溶解せしめてなる有機溶液又はポリイソシアネート自体(ポリイソシアネート成分)とを、鋳物砂に添加し、混練して鋳物砂組成物を準備し、かかる鋳物砂組成物を成形金型内に充填せしめた後、成形金型内に第三級アミンガス等の硬化触媒を通気せしめることにより、鋳物砂組成物中のフェノール樹脂成分とポリイソシアネート成分とのウレタン化反応を促進して、目的とする鋳型を製作する方法である。
このように、アミンコールドボックス造型法によれば、精度の高い鋳型を短時間にて製作可能であるところから、かかるアミンコールドボックス造型法においても、鋳物砂として、合成ムライト砂の使用が望まれているのであるが、従来の合成ムライト砂をアミンコールドボックス造型法において用いた場合にあっては、以下の問題を有していた。即ち、従来の合成ムライト砂に有機粘結剤等を添加し、調製してなる鋳物砂組成物を用いると、かかる組成物の調製後、時間が経過した鋳物砂組成物を用いて製作された鋳型にあっては、調製直後の鋳物砂組成物を用いて製作された鋳型と比較して、強度が非常に弱くなるのであり、鋳物砂組成物としての可使時間が非常に短いという問題点を、内在していたのである。
このため、従来より、鋳物砂組成物の可使時間を延ばすための可使時間延長剤や硬化遅延剤として、種々の化合物が提案されてきている。例えば、米国特許第4436881号明細書(特許文献1)においては、可使時間を延長する化合物として、ジクロロアリールホスフィン、クロロジアリールホスフィン、アリールホスフィン酸ジクロリド等の有機リン化合物が提案されており、また、米国特許第4540724号明細書(特許文献2)には、オキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン等のハロゲン化リンが提案されている。更に、イソフタル酸クロリドや、サリチル酸、安息香酸、リン酸、酸性リン酸エステル、ホウ酸等の酸類も、ウレタン化反応を抑制するところから、可使時間延長剤として、従来から用いられてきている。
しかしながら、かかる公報において提案されている如き、鋳型製造用粘結剤組成物中に従来の可使時間延長剤を含有せしめたものを用いた場合にあっても、鋳型製造用組成物(鋳物砂組成物)としての十分な可使時間を得ることは出来ず、未だ改良の余地が残されていたのである。
米国特許第4436881号明細書 米国特許第4540724号明細書
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、アミンコールドボックス造型法に用いた場合にあっても、鋳物砂組成物としての可使時間が十分に確保し得るように合成ムライト砂を処理する方法を提供することにあり、また、可使時間を十分に確保できる合成ムライト砂、及びそのような合成ムライト砂より得られる鋳型を提供することにある。
そして、本発明者らは、そのような課題を解決すべく、鋭意検討を行なった結果、合成ムライト砂に、ナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物を配合して得られる配合物を焼成し、Na2O 及びK2O の含有量の和が所定割合以上とされ、且つ、その酸消費量が所定量以下とされた焼成物(合成ムライト砂)にあっては、上記の課題が有利に解決され得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明の第一の態様とするところは、鋳造用耐火性骨材として用いられる合成ムライト砂の処理方法にして、合成ムライト砂に対して、ナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物を、JIS−R−2212(1998)の酸化ナトリウム定量方法及び酸化カリウム定量方法において規定される原子吸光法に従ってそれぞれ測定される、焼成して得られる焼成物中のNa 2 O 及びK 2 O の含有量の和が0.55質量%以上となるように添加、配合せしめ、そしてその得られた配合物を、焼成物における酸消費量が7ml/50g以下となるように、900〜1300℃の温度で焼成することを特徴とする合成ムライト砂の処理方法にある。
このような本発明にあっては、得られる焼成物、即ち、処理された合成ムライト砂におけるNa2O 及びK2O の含有量の和が一定割合以上となるように、また酸消費量は一定割合以下となるように、合成ムライト砂に対してナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物を添加、配合せしめてなる配合物を焼成するものであるところから、処理された合成ムライト砂を、アミンコールドボックス造型法における鋳物砂として用いた場合に、鋳物砂組成物としての十分な可使時間を確保することが出来るのであり、また、かかるアミンコールドボックス造型法にて製作されたアミンコールドボックス鋳型は、優れた強度を有するものとなるのである。
ところで、本発明に従って処理される合成ムライト砂は、その結晶構造が、化学組成:3Al23・2SiO2 にて表わされる、ムライト構造を有した人工砂であって、耐熱性や耐破砕性に優れた骨材である。また、その一般的な成分組成は、Al23、SiO2 、Fe23、CaO、MgO、Na2O 、K2O 等にて構成され、主成分たるAl23及びSiO2 の含有量は、それぞれ、Al23:約60質量%、SiO2 :約36質量%である一方、Na2O 及びK2O の含有量の合計は、0.4±0.1質量%である。なお、このような合成ムライト砂は、各種市販されており、本発明においては、そのような市販品の何れもが用いられることとなる。
そして、本発明に係る合成ムライト砂の処理方法に従えば、このような一般的な合成ムライト砂に対して、ナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物が添加され、配合された後、得られた配合物を焼成することにより、合成ムライト砂の処理が行なわれることとなるのである。
具体的には、先ず、合成ムライト砂に対して、ナトリウム源化合物又はカリウム源化合物、若しくはそれらの混合物が添加され、混練せしめられて、合成ムライト砂の粒子表面にナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物がコーティングされてなる配合物が、準備される。
ここで、本発明において用いられるナトリウム源化合物としては、焼成によりNa成分以外の成分が揮散し、消失し得るものであれば、如何なるものであっても使用することが出来、そのような化合物の中でも、NaOH、Na2CO3等が好適に用いられることとなる。また、カリウム源化合物としても、ナトリウム源化合物と同様に、焼成によりK成分以外の成分が揮散し、消失し得るものを使用することが出来、例えば、KOH、K2CO3等が有利に用いられ得るのである。これらの中でも、カリウム源化合物の方が好ましく、また水酸化物が好ましいため、特にKOHが好適に用いられる。
また、そのようなナトリウム源化合物及びカリウム源化合物にあっては、焼成後に得られる焼成物(焼成処理された合成ムライト砂)におけるNa2O及びK2Oの含有量の和が0.55質量%以上となるように、好ましくは0.6〜0.9質量%となるように、添加されることとなる。けだし、Na2O及びK2Oの含有量の和が0.55質量%未満では、処理された合成ムライト砂を鋳物砂として用いた鋳物砂組成物において、可使時間延長の効果を得ることが出来ないからである。なお、このNa2O 及びK2O の含有量は、JIS−R−2212(1998)の酸化ナトリウム定量方法及び酸化カリウム定量方法において規定される原子吸光法に従って、それぞれ測定され得るものである。
なお、合成ムライト砂に対して、ナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物を添加するに際しては、添加するナトリウム源化合物等が水溶性の化合物である場合には、濃度:1〜80質量%程度の水溶液の状態にて、合成ムライト砂に添加、配合することが好ましく、そして、それらナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物の添加の後、従来より公知の各種混練方法に従って混練され、合成ムライト砂の粒子表面にナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物がコーティングされてなる配合物が、準備されることとなる。
次いで、本発明に従う処理方法においては、上述の如くして得られた配合物が焼成されるのであるが、その得られる焼成物(焼成処理された合成ムライト砂)における酸消費量が7ml/50gを超えるものであると、かかる焼成物を鋳物砂として用いた場合に、可使時間延長の効果が認められないところから、酸消費量が7ml/50g以下となるように、好ましくは5ml/50g以下となるように、焼成されることとなる。なお、この酸消費量は、焼成物に残存するアルカリ金属等のアルカリ成分量を表わすものであり、日本鋳造技術協会規格:「JACT試験法 S−4」に規定される「鋳物砂の酸消費量試験法」に準じて、測定され得るものである。
ここで、かかる配合物を焼成する際における焼成方法や焼成温度は、特に限定されるものではないが、焼成温度が1300℃を超えるようになると、可使時間の延長効果が小さくなる傾向にあり、さらにはエネルギーコストがかかりすぎる問題があり、また700℃未満では、処理時間が非常に長くかかり、処理効率が悪くなるため、一般に、700℃以上、好ましくは900〜1300℃の焼成温度にて、電気炉、焙焼炉等の、従来から公知の加熱炉を用いて、焼成されることとなる。
かくして得られた、本発明に従って処理された合成ムライト砂、具体的には、JIS−R−2212(1998)の酸化ナトリウム定量方法及び酸化カリウム定量方法において規定される原子吸光法に従ってそれぞれ測定されるNa2O 及びK2O の含有量の和が0.55質量%以上であり、且つ酸消費量が7ml/50g以下である合成ムライト砂は、特に、アミンコールドボックス造型法における鋳物砂として、有利に用いられ、優れた特徴を発揮するのである。
ここにおいて、そのような合成ムライト砂を用いて、アミンコールドボックス法により鋳型を製造すると、鋳物砂組成物の可使時間が延長され、鋳型の強度が保持されるという優れた特徴を発揮するのであるが、そのことについての理由は未だ明らかではない。なお、本発明の検討によって、目下のところ、多孔質である合成ムライト砂とナトリウム源化合物等のアルカリ成分、またはアルカリ成分同士が、焼成により、合成ムライト砂表面において反応し、本来的に可使時間に悪影響を与えるアルカリ成分が失活せしめられると共に、合成ムライト砂の多孔質部分が塞がれて砂表面が滑らかな状態へと変化し、かかる多孔質部分への有機粘結剤組成物の浸透防止と、砂表面における有機粘結剤組成物のコーティング性の改善が図られることにより、粘結剤組成物の被覆厚が薄くなることによる接触面積低下及び大気接触に起因する可使時間の低下を、最小限に止めているものと、推測されている。
ところで、本発明に従って処理された合成ムライト砂を用いて、アミンコールドボックス造型法にて鋳型を造型するに際しては、粘結剤として、従来から公知のフェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分よりなる二液型有機粘結剤を、有利に用いることが出来る。
具体的には、そのような二液型有機粘結剤におけるフェノール樹脂成分を構成するフェノール樹脂としては、反応触媒としての二価金属化合物の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを所定の割合、例えば、フェノール類:1モルに対してアルデヒド類:0.8〜3.0モルの割合において、所望の縮合度となるまで反応させた後、濃縮することにより得られるベンジルエーテル型フェノール樹脂や、かかる反応過程乃至は反応終了後に、変性剤を混合或いは反応させることにより得られる変性ベンジルエーテル型フェノール樹脂、若しくはこれらの混合物を調製したもの等が用いられる。本発明においては、このようにして得られたベンジルエーテル型フェノール樹脂及び/又は変性ベンジルエーテル型フェノール樹脂を、後述する適当な有機溶媒に溶解せしめてなるものが、二液型有機粘結剤におけるフェノール樹脂成分として、好適に用いられ得る。
ここで、前記フェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、グリオキサール、フルフラール及びこれらの混合物等が挙げられる。
さらに、前記変性剤にあっても、特に限定されるものではなく、例えばノボラック型若しくはレゾール型フェノール樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、エポキシ化合物、フルフリルアルコール、ポリビニルアルコール、尿素、アミド類、アマニ油、カシューナッツ殻液、デンプン類、単糖類及びこれらの混合物等が、好適に用いられ得る。
さらにまた、フェノール類とアルデヒド類との反応触媒として用いられる二価金属化合物としては、例えば鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属元素を有する二価金属化合物、具体的には、例えばナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、酢酸鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化鉛及びこれらの混合物のほか、このような二価金属塩化合物を形成できる酸・塩基の組合わせなどが挙げられるが、中でも特に、鉛金属元素を含有する二価金属塩を用いた場合に、本発明の効果を顕著に奏する。かかる二価金属化合物の使用量としては特に限定されないが、一般的には、フェノール類100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲で選択される。
而して、上述のフェノール樹脂は、低粘度化、後述するポリイソシアネート成分との相溶性、鋳物砂へのコーティング性、鋳型物性等の観点から、一般に、極性有機溶媒と非極性有機溶媒とを組み合わせてなる有機溶媒に溶解せしめられ、その濃度が、約30〜80質量%程度とされた溶液の状態で、二液型有機粘結剤におけるフェノール樹脂成分として、用いられることとなる。
一方、そのようなフェノール樹脂成分と共に用いられるポリイソシアシアネート成分にあっては、その主成分であるポリイソシアネート化合物は、上述せる如きフェノール樹脂の活性水素と重付加反応することにより、鋳物砂同士をフェノールウレタンで化学的に結合せしめ得るイソシアネート基を、分子内に2以上有する化合物である。このようなポリイソシアネート化合物の具体例としては、芳香族、脂肪族或いは脂環式のポリイソシアネート、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(以下、ポリメリックMDIと呼称する。)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの他、これらポリイソシアネート化合物をポリオールと反応させて得られるイソシアネート基を2以上有するプレポリマー等、従来より公知の各種のポリイソシアネートを挙げることが出来、これらは、単独で用いても、或いは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、かかるポリイソシアネート化合物にあっても、上述せる如きフェノール樹脂と同様の理由から、一般に、非極性有機溶媒、又は非極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合溶媒を溶媒として用い、この有機溶媒に、濃度が、約40〜90質量%程度となるように溶解された溶液として用いられることとなる。なお、使用するポリイソシアネート化合物の種類等によっては、必ずしも、有機溶媒に溶解せしめる必要はなく、その原液まま、使用することも可能である。
なお、かかるポリイソシアネート成分の、フェノール樹脂成分に対する配合量としては、特に限定されるものではないものの、有効成分であるフェノール樹脂及びポリイソシアネート化合物の配合比率(重量基準)が、一般に、フェノール樹脂:ポリイソシアネート化合物=80:20〜20:80となるように、適宜に設定されることとなる。
また、本発明において、上記したフェノール樹脂やポリイソシアネート化合物を溶解せしめるための有機溶媒としては、ポリイソシアネート化合物には非反応性で、且つ溶解対象である溶質(フェノール樹脂又はポリイソシアネート化合物)に対して良溶媒であれば、特に制限されるものではないものの、一般に、a)フェノール樹脂を溶解するための極性有機溶媒と、b)フェノール樹脂の分離が生じない程度の量のポリイソシアネート化合物を溶解するための非極性有機溶媒とが組み合わされて用いられる。
より具体的には、上記a)の極性有機溶媒としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、その中でも、特に、環境安全性の観点から、ジカルボン酸メチルエステル混合物(デュポン社製;商品名:DBE;グルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合物)等のジカルボン酸アルキルエステル、菜種油メチルエステル等の植物油のメチルエステル、オレイン酸エチル、パルミチン酸エチル、これらの混合物等の脂肪酸モノエステル等のエステル類の他、例えば、イソホロン等のケトン類、イソプロピルエーテル等のエーテル類、フルフリルアルコール等を挙げることが出来るのであり、また、上記b)の非極性有機溶媒としては、例えば、パラフィン類、ナフテン類、アルキルベンゼン類等の石油系炭化水素類、具体例としては、イプゾール150(出光石油化学株式会社製;石油系溶媒)、ハイゾール(昭和シェル石油株式会社製;石油系溶媒)等を、例示することが出来る。
かくして、本発明に従って処理された合成ムライト砂に、後にフェノールウレタンを形成する、フェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分よりなる二液型有機粘結剤が添加されることによって、鋳物砂組成物が構成されることとなるのであるが、この鋳物砂組成物に対しては、更に必要に応じて、可使時間延長剤、離型剤、強度劣化防止剤、乾燥防止剤等の、従来より鋳物砂組成物に使用されている公知の各種添加剤を、適宜に選択して、配合することも可能である。但し、これらの各種添加剤は、本発明によって享受され得る効果を阻害しない量的範囲において、使用され得ることは、勿論、言うまでもないところである。
なお、上述せる如き各種添加剤のうち、可使時間延長剤(硬化遅延剤)は、従来より、ウレタン化反応を抑制し、鋳物砂組成物の可使時間を延長するための成分として、用いられているものであり、本発明の合成ムライト砂による可使時間延長効果を、更に補助するために用いられ得る。好ましい具体例としては、イソフタル酸クロリド、サリチル酸、安息香酸、リン酸、酸性リン酸エステル、リン系クロライド、ホウ酸等を挙げることが出来る。
また、離型剤は、本発明に従う鋳物砂組成物を用いて得られる鋳型を成形型から抜型する際の抵抗を小さくすると共に、成形型内に吹き込み充填された鋳物砂組成物の一部が鋳型の抜型時に型に付着することによって発生するシミツキを防止し、スムーズ且つ精度の高い鋳型を得るために用いられる添加剤であり、好適な例としては、例えば、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、トール油脂肪酸、アルキッド樹脂、液状ポリブタジエン等が挙げられる。これらは、一般に、フェノール樹脂の100質量部に対して、0.01〜100質量部程度、好ましくは0.1〜10質量部程度となる割合において、用いることが出来る。
さらに、強度劣化防止剤は、多湿環境下における鋳型強度の劣化を抑制すると共に、有機粘結剤の樹脂成分と鋳物砂との接着性の向上を図るために用いられるものであって、好適な例としては、例えば、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランや、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系シラン等のシランカップリング剤を、挙げることができる。かかる強度劣化防止剤の使用量としては、一般に、フェノール樹脂の100質量部に対して、0.01〜5質量部程度、好ましくは0.05〜2.5質量部程度となる割合が採用される。
かくして、上述せる如き各種成分が配合されてなる鋳物砂組成物を用いて、アミンコールドボックス鋳型が造型されるのであるが、具体的には、先ず、本発明に従って処理された合成ムライト砂に対して、フェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分を混練せしめることにより、かかる合成ムライト砂表面をフェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分で被覆してなる鋳物砂組成物(混練砂)が、調製される。即ち、本発明に従って処理された合成ムライト砂に対して、有機粘結剤として、フェノール樹脂成分と、ポリイソシアネート成分と、更に必要に応じて、その他、各種添加剤を、充分に混練,混合することによって、合成ムライト砂表面に有機粘結剤がコーティングされてなる鋳物砂組成物が調製されるのである。なお、この際、各種添加剤は、鋳物砂組成物に均一に混合され得るように、別個に調製されたフェノール樹脂成分とポリイソシアネート成分の何れか一方に、若しくは、両方に添加されて混合されるか、或いは、適当な有機溶媒に溶解乃至は分散せしめて、これを、混練時に、フェノール樹脂成分やポリイソシアネート成分と共に、合成ムライト砂に対して混合せしめるか、或いは、フェノール樹脂製造時の縮合完了後に添加されて混合されることも可能である。
ここで、このような鋳物砂組成物の調製において、合成ムライト砂に対するフェノール樹脂成分やポリイソシアネート成分の配合量としては、それぞれ、有効成分であるフェノール樹脂及びポリイソシアネート化合物の配合量が、鋳物砂の100質量部に対して、それぞれ、0.01〜5.0質量部、好ましくは0.1〜2.0質量部となる割合が、好適に採用され得ることとなる。
また、この鋳物砂組成物を製造する際に、フェノール樹脂成分とポリイソシアネート成分は、これらを混合した段階から、徐々にウレタン化(硬化)反応が始まるところから、予め、別々に調製されて準備され、通常、合成ムライト砂との混練時に混合されることとなる。更に、混練・混合操作は、従来と同様な連続式乃至はバッチ式ミキサーを用いて、好適には、−10〜50℃の範囲の温度で行なわれることが望ましい。
そして、上述の如くして得られた鋳物砂組成物を、所望とする形状を与える成形型内で賦形した後、これに対して、硬化触媒であるアミンガスを通気することにより、鋳物砂組成物の硬化反応が促進せしめられて、アミンコールドボックス鋳型が製造されることとなるのである。なお、硬化触媒として用いられるアミンガスとしては、第2級アミンガスや第3級アミンガス等の、従来よりアミンコールドボックス造型法にて用いられているアミンガスであれば、如何なるものであっても用いることが出来るが、それらの中でも、特に、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン等の第3級アミンガスが、好適に用いられ得る。それらのうちの少なくとも1種が選択されて、通常の量的範囲で用いられることとなる。
このようにして得られたアミンコールドボックス鋳型にあっては、鋳物砂として、本発明に従って処理された合成ムライト砂が用いられているところから、その調製後に時間が経過した鋳物砂組成物を用いて造型した場合にあっても、得られる鋳型は、優れた強度を有するのである。
以下に、幾つかの実施例を用いて、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等、限定的に解釈されるものでないことが理解されるべきである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的技術以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
なお、以下の実施例及び比較例においては、合成ムライト砂として、市販品:セラビーズ♯650(伊藤忠セラテック株式会社製)を用い、また、得られた焼成物(処理された合成ムライト砂)における酸消費量、鋳型強度、及び、Na2O 及びK2O の含有量は、下記の試験法により、それぞれ測定した。
−酸消費量の測定(JACT試験法S−4)−
日本鋳造技術協会規格:「JACT試験法S−4」に規定される「鋳物砂の酸消費量試験法」に準じて行なった。即ち、先ず、50gの鋳物砂に対して、50mlの蒸留水を加え、更に、0.1NのHCl水溶液を50ml加えて、一時間攪拌させた。そして、静置沈殿の後、この液を濾過し、濾液を50ml取り出して、0.1NのNaOH水溶液で、メチルレッド指示薬でpH=5となるまで滴定し、下記の計算式により、酸消費量を算出した。
酸消費量[ml/50g]={A−(滴下量[ml])}×2
[但し、A:空試験での滴下量(鋳物砂を入れないで滴下した時の滴下量)]
−鋳型強度の測定−
1)フェノール樹脂成分の調製
還流器、温度計及び攪拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノール100質量部、92質量%パラホルムアルデヒド55.5質量部、及びナフテン酸鉛の0.32質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行なった後、加熱濃縮して水分含有量が1質量%以下のベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、このフェノール樹脂を、DBE:イプゾール150:ハイゾール=45:45:10の有機溶媒を用いて希釈すると共に、フェノール樹脂に対して0.5質量%のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを加えて、フェノール樹脂分が50質量%のフェノール樹脂成分を調製した。
2)ポリイソシアネート成分の調製
ポリイソシアネート化合物であるポリメリックMDIを、イプゾール150:ハイゾール=60:40の有機溶媒を用いて希釈すると共に、イソフタル酸クロライドをポリメリックMDIの0.93質量%となるように加えて、ポリイソシアネート化合物分が75質量%のポリイソシアネート成分を調製した。
3)試験片の作製、強度測定
鋳物砂(合成ムライト砂)に対し、前記フェノール樹脂成分と、前記ポリイソシアネート成分とを、それぞれ1.0質量%添加し、40秒間混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、かかる調製の後、その鋳物砂組成物の一部を用いて、曲げ強度試験片造型装置(2個取り、ブロー条件:圧力=0.3MPa×時間=3秒、トリエチルアミンのガッシング時間+エアーパージ条件:圧力=0.3MPa×時間=15秒)により、2個の曲げ強度試験片(10mm×30mm×85mm)を作製し、直ちに、その強度を測定して、作製直後強度(待機0時間)とした。また、同様の操作にて、試験片を作製し、そして試験片の作製から24時間経過した後に強度を測定して、作製24時間後強度(待機0時間)とした。
一方、上記試験片の作製の際に用いられなかった残りの鋳造用組成物については、ビニール袋内に収納し、密封した状態にて、室温で2時間保管(待機)した後、開封し、上記と同様の手法により、曲げ強度試験片を作製した。そして、このようにして作製した試験片についても、上記と同様に、試験片作製の直後及び24時間経過後に強度を測定し、それぞれ、作製直後強度(待機2時間)、及び作製24時間後強度(待機2時間)とした。なお、作製直後強度及び作製24時間後強度の何れにおいても、2時間待機後の強度劣化が少ないほど、可使時間に優れていると評価した。
−Na2O とK2O の含有量の測定−
JIS−R−2212(1998)の酸化ナトリウム定量方法及び酸化カリウム定量方法において規定される原子吸光法に従って、それぞれ、測定した。
実施例 1
合成ムライト砂1000質量部に対して、濃度が48質量%のKOH水溶液(48%KOH溶液)を4.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、900℃の温度にて4時間、電気炉内において焼成した。そして、得られた焼成物(焼成処理された合成ムライト砂)について、上述した手法に従って、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表1に示した。
実施例 2〜10
実施例1における添加量条件及び焼成条件(焼成温度、焼成時間)を、下記表1に記載の値に変更すること以外は、同様な操作を行なった。
実施例 11
合成ムライト砂1000質量部に対して、濃度が48質量%のNaOH水溶液(48%NaOH溶液)を8.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、900℃の温度にて2時間、電気炉内において焼成した。その後、得られた焼成物について、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表1に示した。
実施例 12〜17
実施例11における添加量条件及び焼成条件を、下記表1に記載の値に変更すること以外は、同様な操作を行なった。
実施例 18
合成ムライト砂1000質量部に対して、48%NaOH溶液を4.0質量部、48%KOH溶液を4.0質量部、それぞれ添加し、混練した後、得られた配合物を、1100℃の温度にて1時間、電気炉内において焼成した。そして、その得られた焼成物について、上述した手法に従って、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表1に示した。
実施例 19
合成ムライト砂1000質量部に対して、濃度が48質量%のK2CO3水溶液(48%K2CO3溶液)を10.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、1100℃の温度にて2時間、電気炉内において焼成した。そして、得られた焼成物について、上述した手法に従って、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表1に示した。
実施例 20
合成ムライト砂1000質量部に対して、濃度が5質量%のNa2CO3水溶液(5%Na2CO3溶液)を107.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、1100℃の温度にて2時間、電気炉内において焼成した。そして、その得られた焼成物について、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表1に示した。
比較例 1
合成ムライト砂1000質量部に対して、48%KOH溶液を2.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、700℃の温度にて5時間、電気炉内において焼成した。そして、得られた焼成物(焼成処理された合成ムライト砂)について、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表2に示した。
比較例 2〜8
比較例1における添加量条件及び焼成条件(焼成温度、焼成時間)を、下記表2に記載の値に変更すること以外は、同様な操作を行なった。
比較例 9
合成ムライト砂1000質量部に対して、48%NaOH溶液を2.0質量部添加し、混練した後、得られた配合物を、700℃の温度にて5時間、電気炉内において焼成した。そして、得られた焼成物について、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表2に示した。
比較例10〜15
比較例9における添加量条件及び焼成条件を、下記表2に記載の値に変更すること以外は、同様な操作を行なった。
比較例 16
合成ムライト砂を、700℃の温度にて5時間、電気炉内において焼成した。その後、得られた焼成物(合成ムライト砂)について、酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ、測定し、その結果を下記表2に示した。
比較例17〜19
比較例16における焼成条件を、下記表2に記載の値に変更すること以外は、同様な操作を行なった。
比較例 20
合成ムライト砂(セラビーズ♯650;伊藤忠セラテック株式会社製)そのものについて、その酸消費量、Na2O 及びK2O の含有量、作製直後強度(待機0時間、待機2時間)、並びに作製24時間後強度(待機0時間、待機2時間)を、それぞれ測定し、その結果を下記表2に示した。
Figure 0004445232
Figure 0004445232
かかる表1及び表2の結果からも明らかなように、実施例1〜20にあっては、試験片作製直後に測定した強度(作製直後強度)、及び試験片作製から24時間経過した後に測定した強度(作製24時間後強度)の何れにおいても、調製直後の鋳物砂組成物よりなる試験片の強度(待機時間0時間の強度)と、調製後2時間が経過した鋳物砂組成物よりなる試験片の強度(待機2時間の強度)との差が、比較例1〜20と比較して、小さいことが認められるのであり、これにより、本発明に従って処理された合成ムライト砂にあっては、鋳物砂組成物として用いられた場合に、可使時間を有利に延長せしめ得ることが、確認されたのである。

Claims (1)

  1. 鋳造用耐火性骨材として用いられる合成ムライト砂の処理方法にして、合成ムライト砂に対して、ナトリウム源化合物及び/又はカリウム源化合物を、JIS−R−2212(1998)の酸化ナトリウム定量方法及び酸化カリウム定量方法において規定される原子吸光法に従ってそれぞれ測定される、焼成して得られる焼成物中のNa 2 O 及びK 2 O の含有量の和が0.55質量%以上となるように添加、配合せしめ、そしてその得られた配合物を、焼成物における酸消費量が7ml/50g以下となるように、900〜1300℃の温度で焼成することを特徴とする合成ムライト砂の処理方法。
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