JP4442728B2 - X線透過像測定装置における空間分解能評価素子 - Google Patents
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Description
しかしながら、利用するX線のエネルギーが50keV程度以上と高くなると、パターン部分(タンタル薄膜部分)がX線を遮蔽できなくなるので、空間分解能を測定できなくなる。この素子は、半導体を製造する時に用いられる微細加工技術を利用して形成される。そのため、高エネルギーX線を遮蔽できるほど素子の厚みを厚くすることは、技術的に困難である。
また、30〜80keV程度のX線を利用するCT装置の空間分解能を評価するための素子として、アクリル樹脂に金属などを埋め込んでパターンが形成された製品も市販されている。この素子が測定可能な空間分解能は、1mm程度であり、微小領域の空間分解能を測定するには不十分である。また、素子のサイズも20cm3程度と大きいので、使いづらく、装置によっては使用できない場合もある。
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の多層膜を有する素子が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下のX線透過像を測定する装置の空間分解能を評価するための素子、その製造方法および前記素子を用いたX線透過像を測定する装置の空間分解能の評価方法に係る。
1. X線透過像を測定する装置の空間分解能を評価する素子であって、角柱状基材上または細線状基材上にX線遮断層とX線透過層とを交互に積層した多層膜を有し、且つX線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上である素子。
2. X線遮断層が、原子番号が21番以上の元素を含み、X線透過層が、原子番号が15番以下の元素を含む上記1に記載の素子。
3. X線遮断層とX線透過層が、蒸着膜である上記1または2に記載の素子。
4. X線遮断層が、(1)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体からなる層、または(2)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を50重量%以上含む化合物からなる層である上記1〜3のいずれかに記載の素子。
5. X線透過層が、(1)アルミニウム、炭素、ケイ素およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体からなる層、または(2)アルミニウム、炭素、ケイ素、マグネシウムおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素の化合物からなる層である上記1〜3のいずれかに記載の素子。
6. 上記1〜5のいずれかに記載の素子にX線を照射し、得られた多層膜の断面構造の透過像を観察することによってX線透過像を測定する装置の空間分解能を評価する方法。
7. 2以上の蒸着源を用いて、線吸光係数の異なる薄膜を交互に蒸着し、細線状基材上に多層膜を積層することを特徴とするX線透過像を測定する装置の空間分解能評価素子の製造方法。
8. 2以上の蒸着源を用いて、線吸光係数の異なる薄膜を交互に蒸着し、細線状基材上に多層膜を積層し、薄片化することを特徴とするX線透過像を測定する装置の空間分解能評価素子の製造方法。
9. 2以上の蒸着源を用いて、線吸光係数の異なる薄膜を交互に蒸着し、平面状基材上に多層膜を積層し、薄片化することを特徴とするX線透過像を測定する装置の空間分解能評価素子の製造方法。
10. 2以上の蒸着源を用いて、原子番号が21番以上の元素を含むX線遮断層と原子番号が15番以下の元素を含むX線透過層とを交互に蒸着することを特徴とする上記7〜9のいずれかに記載の素子の製造方法。
11. 蒸着槽内において、蒸着源と基材との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減するためのスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を利用して多層膜を蒸着することを特徴とする上記7〜10のいずれかに記載の素子の製造方法。
本発明の素子
本発明の空間分解能評価素子は、角柱状基材上または細線状基材上にX線遮断層とX線透過層とを交互に積層した多層膜を有し、且つX線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上程度である。
X線遮断層およびX線透過層は、X線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上程度である限り特に制限されず、好ましくは5倍以上程度、より好ましくは10倍以上程度である。上限値は、特に制限されないが、100倍以下程度である。
X線遮断層は、通常、原子番号が21番以上の元素、好ましくは21番〜83番、より好ましくは22〜74番までの元素を含む。或いは、1族元素、3〜16族の元素、ランタノイドなどもX線遮断層に含まれる元素として好ましい。X線遮断層は、通常蒸着膜である。X線遮断層には、原子番号が21番以上の元素が、単体またはこれらの元素の少なくとも1種を含む化合物として含まれる。X線遮断層に含まれる元素の好ましい例として、例えば、ルビジウムなどの1族元素;スカンジウム、イットリウムなどの3族元素;チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの4族元素;バナジウム、ニオブ、タンタルなどの5族元素;クロム、モリブデン、タングステンなどの6族元素;マンガンなどの7族元素;鉄などの8族元素、コバルト、イリジウムなどの9族元素;ニッケル、パラジウム、白金などの10族元素;金、銀、銅などの11族元素;亜鉛、カドミウムなどの12族元素;インジウムなどの13族元素;ゲルマニウム、錫、鉛などの原子番号が21番以上の14族元素;アンチモン、ビスマスなどの原子番号が21番以上の15族元素;セレン、テルルなどの原子番号が21番以上の16族元素などを例示することができ、これらの中では、金、銀、銅などの11族元素が好ましい。
X線遮断層に化合物として含まれる元素の好ましい例として、ルビジウムなどの1族元素;スカンジウム、イットリウムなどの3族元素;チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの4族元素;バナジウム、ニオブ、タンタルなどの5族元素;クロム、モリブデン、タングステンなどの6族元素;マンガンなどの7族元素;鉄などの8族元素、コバルト、イリジウムなどの9族元素;ニッケル、パラジウム、白金などの10族元素;金、銀、銅などの11族元素;亜鉛、カドミウムなどの12族元素;インジウムなどの13族元素;ゲルマニウム、錫、鉛などの原子番号が21番以上の14族元素;アンチモン、ビスマスなどの原子番号が21番以上の15族元素;セレン、テルルなどの原子番号が21番以上の16族元素などを例示することができ、これらのなかでは、金、銀、銅などの11族元素が好ましい。
X線遮断層に含まれる化合物の具体例として、例えば、ニクロム、銅アルミ合金、チタンアルミ合金などの合金などを例示することができる。X線遮断層として、原子番号が21番以上の元素を含む化合物を用いる場合、化合物中に含まれる原子番号が21番以上の元素の含有量は、通常50重量%以上であり、好ましくは60〜80量%程度である。
X線透過層は、通常原子番号が15番以下の元素を含み、好ましくは炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素を含む。X線透過層は、通常蒸着膜である。X線透過層には、原子番号が15番以下の元素が、単体またはこれらの元素の少なくとも1種を含む化合物として含まれている。
X線透過層に含まれる単体として、例えば、アルミニウム、炭素、ケイ素、マグネシウムなどを例示することができる。X線透過層に含まれる化合物は、原子番号が15番以下の元素を含む化合物であり、例えば、炭素、窒素、酸素、アルミニウム、マグネシウムおよびケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む化合物を例示でき、より具体的には、二酸化ケイ素などの酸化物;炭化珪素、炭化ホウ素などの炭化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物などを例示することができる。
X線遮断層とX線透過層との組合せは、X線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上程度である限り特に制限されないが、例えば、銅層−アルミニウム層、銅層−ケイ素層、銅層−炭素層、銅層−炭化ケイ素層、銀層−ケイ素層、銀層−炭素層などの組合せを例示することができる。
素子に含まれる基材の形状は、多層膜が積層されている限り特に制限されず、例えば、細線状、角柱状などを例示できる。細線状基材の場合には、通常、細線基材を中心として、同心円状にX線遮断層とX線透過層とを交互に積層させた多層膜を有する。細線状基材の直径は、通常10〜200μm程度、好ましくは50〜100μm程度である。
各層の厚さは、特に制限されず、用いる元素の種類、所望の空間分解能のレベルに応じて適宜設定することができる。各層の厚みは、通常0.01〜2μm程度であり、好ましくは0.05〜1μm程度である。
素子に積層させる各層の厚みは、全て同一であってもよく、徐々に変化させてもよい。例えば、図2には、細線状基材を用いた場合に、中心から外側へいくほど徐々に層の厚みを薄くした場合の素子が図示されている。図2とは逆に、中心から外側へいくほど徐々に厚みを厚くしていってもよい。角柱状基材の場合は、基材から離れるほど徐々に層の厚みを薄くしてもよく、または徐々に厚くしてもよい。
多層膜において層の厚みを徐々に変化させる場合には、通常、同じ厚みのX線遮断層とX線透過層とを1組として、徐々に厚みの異なる組を積層する。層の厚みの変化幅(徐々に薄くする幅/厚くする幅)も、所望の空間分解能のレベルなどに応じて適宜設定することができる。例えば、予想される分解能が0.5μmであり、全ての層の厚みが同一である素子を用いる場合には、0.1〜1.0μm程度の範囲において0.1μm程度ずつ層の厚みが異なる11種類の素子を使用し、測定ごとに素子を交換することによって、分解能を評価することができる。或いは、予想される分解能が0.5μmであり、層の厚みが徐々に異なる素子を用いる場合には、0.1〜1.0μm程度の範囲において0.1μm程度ずつ層の厚みの異なるX線遮断層とX線透過層とを10組積層した素子を用いて分解能を評価してもよい。この場合には、1回測定しただけで空間分解能を評価することができる。
多層膜の層の数は、特に制限されず、評価対象となる装置の種類、X線のエネルギーなどにより、適宜設定することができる。層の数は、通常4〜40程度、好ましくは6〜30程度である。
基材の材料は、基材の形状などに応じて適宜選択することができる。角柱状基材の材料としては、鏡面研磨が可能な材料であれば、特に制限されず、例えば、シリコン、モリブデン、ニッケルなどが例示できる。細線状基材の材料としては、真円度の高い細線が形成できる材料であれば、特に制限されず、例えば、金、アルミニウム、シリコン含有金(シリコンの含有量:1〜3重量%程度)などを例示できる。
本発明の素子は、必要に応じてエポキシ樹脂などの樹脂で被覆されていてもよい。樹脂で被覆することにより、多層膜表面が保護される。
素子の製造方法
本発明の素子は、例えば、2以上の蒸着源を用いて、線吸光係数の異なる薄膜を交互に蒸着し、基材上に多層膜を積層する方法などによって製造することができる。
基材としては、例えば、平面状基材、細線状基材などを用いることができる。製造時に用いる細線状基材の長さは、蒸着方法によって膜厚分布の均一性が保証される範囲内に設定すればよく、または空間分解能を測定する装置などに応じて適宜設定してもよい。製造時に用いる細線状基材の長さは、通常1〜5cm程度、好ましくは1〜3cm程度、より好ましくは1.5〜2.5cm程度である。平面状基材の厚みは、特に制限されないが、通常0.5〜2mm程度、好ましくは0.8mm〜1.2mm程度である。平面状基材の平面の形状は、特に制限されず、正方形、長方形、円形などを例示できる。平面状基材が、正方形、長方形などの多角形の場合、その一辺の長さは、通常1〜3cm程度、好ましくは1.5〜2.5cm程度である。
X線遮断層とX線透過層とを蒸着する方法は、特に制限されず、スパッタリング蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームスパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の蒸着方法を用いることができる。これらの中では、総膜厚を厚くできる点、蒸着速度の安定性が高い点などにおいて、スパッタリング法が好ましい。
蒸着に使用する蒸着源は、特に限定されず、所望の多層膜の種類、蒸着方法などに応じて適宜選択することができる。蒸着源の数は、特に制限されず、各の層の組成などに応じて適宜設定すればよい。例えば、各層が蒸着源と同じ組成からなる層を積層させる場合には、2種類の蒸着源を交互に繰り返し使用して多層膜を製造することができる。
平面基材を使用する場合には、常時、使用している蒸着源に基材が向くような蒸着装置を用いる。この様な装置として、例えば図7に示す装置を例示することができる。細線状基材を使用する場合には、通常細線状基材を回転させながら蒸着する。基材の回転速度は、特に制限されないが、通常毎分20〜50回転程度である。
蒸着温度、圧力などの蒸着条件は、蒸着方法などに応じて公知の条件を適宜設定することができる。蒸着温度は、特に制限されず、蒸着源の種類などに応じて適宜設定することができ、通常80〜120℃程度、好ましくは90〜110℃程度である。必要に応じて基材へバイアス電圧を印加することができる。バイアス電圧は、多層膜の材料の種類などに応じて適宜設定することができるが、通常−5〜−300V程度、好ましくは−5〜−50V程度である。蒸着速度は、特に制限されず、蒸着方法などに応じて適宜設定することができるが、通常0.1〜1nm/s程度であり、0.1〜0.5nm/s程度が好ましい。
蒸着時の雰囲気は、特に制限されず、蒸着させる膜の種類、蒸着方法などに応じて適宜設定することができる。例えば、真空下、不活性ガス(Ar,Heなど)雰囲気下、酸化雰囲気下(O2,空気など)、窒素雰囲気下などを例示することができる。例えば、スパッタリング法などを用いる場合には、通常不活性ガス雰囲気下において行い、蒸着させる膜の種類に応じて、窒素、酸素などの反応性ガスを適宜追加することができる。より具体的には、酸化物を含む層を蒸着する場合には、酸化雰囲気下において蒸着することができる。また、窒化物を含む層を蒸着する場合には、窒素を含む雰囲気下において蒸着することができる。酸素、窒素などの反応性ガスの含有量は、特に制限されないが、通常10〜20重量%程度である。
また、蒸着槽内において、蒸着源と基材との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を細線状または平面状基材あるいは既に蒸着させた薄膜上に蒸着させてもよい。このような方法を用いると、斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分による蒸着を抑制することができるので、各層の界面の乱れが少ない多層膜を得ることができる。
スリットを設け、平面基材を用いる場合、平面基材の幅は、スリット幅より短い方が好ましい。スリットを設け、細線状基材を用いる場合、スリット幅は、少なくとも細線状基材の直径よりも大きければ特に制限されないが、通常2〜10mm程度、好ましくは5〜10mm程度である。スリットを設ける構造体の形状は、特に制限されず、円筒状(図8参照)、角柱状などの筒状;平板などの板状などを例示することができる。これらの中では、筒状が好ましく、特に円筒状が好ましい。スリットを筒状にすることによって、斜入射蒸着成分だけでなく、回り込み蒸着成分をもより高い精度で制御することができる。
スリットは、蒸着源と細線状基材または平面状基材とを結ぶ直線上に位置できるように設置する。例えば、スリットの中心線が、蒸着源の中心と細線状基材の中心線とを含む平面に含まれるようにスリットを設置するのが好ましい。
スリットは、用いる蒸着源に向けて開口できるように設置する。例えば、二つの蒸着源AおよびBを交互に用いて多層膜を製造する場合には、蒸着源Aを用いる際にはスリットを蒸着源Aに向け、蒸着源Bを用いる際にはスリットを蒸着源Bに向ける。例えば、スリットが、筒状の構造体に設けられている場合には、この構造体を回転できる手段を設けて、使用する蒸着源にスリットを向けるよう制御するのが好ましい。蒸着源と基材との間(例えば、蒸着源とスリットとの間)にシャッターを設け、使用しない蒸着源のシャッターを閉じておくことが好ましい。シャッターの数は特に制限されず、例えば、それぞれの蒸着源に対して一つずつシャッターを設けることができる。
多層膜の各層の厚みは、例えば、成膜速度を一定にしたまま各々の層を蒸着する時間を制御する方法、膜厚センサーを蒸着装置内に設置して蒸着量をモニタリングし、必要に応じてスリット、シャッターなどを制御しながら蒸着を行う方法などによって制御することができる。
基材として平面状基材を用いた場合には、素子の厚みが所望の厚みとなるよう薄片化する。必要に応じて、研磨などにより更に加工してもよい。薄片化は、通常、多層膜を蒸着した平面基材を多層膜の断面方向に切断する方法などにより行う(図9参照)。平面状基材は、薄片化することによって、通常角柱状となる。薄片化を行う際には、必要に応じて、基材を低融点合金(錫−鉛合金など)などに埋め込んで固定してから行ってもよい。
基材として細線状基材を用いた場合には、必要に応じて、薄片化、研磨などにより更に加工してもよい。例えば、X線CT装置などを評価する場合などには、加工することなく用いることもできるが、所望の厚みとなるよう切断してもよい。より具体的には、例えば、多層膜を蒸着した細線状基材を低融点合金(錫−鉛合金など)などに埋め込んで固定し、回転軸(細線状基材の中心線)に対して垂直に切断することにより薄片化後、所望の厚さになるまで研磨してもよい。
評価対象となる装置がX線顕微鏡などの試料を固定してX線透過像を測定する装置の場合には、基材の形状にかかわらず、薄片化した素子を好適に用いることができる。薄片化した素子の機械的強度が弱い場合などには、素子を支持台上に設けてもよい(図11参照)。支持台の材質としては、例えばアクリルなどの樹脂、グラファイトなどを例示することができる。評価対象となる装置がX線CTのように試料を回転させてX線透過像を測定する装置の場合には、例えば、細線状基材上に多層膜を設けた素子(図3)などを薄片化することなく用いることができる。
素子の厚み(多層膜の断面に対して垂直方向の厚み)は、対象となる装置の種類、X線のエネルギーなどに応じて適宜設定することができる。例えば、X線顕微鏡などの試料を固定して測定する装置であって、30〜100keV程度のX線を備えた装置の空間分解能を評価する場合には、基材の形状に関係なく、素子の厚みは、通常10〜100μm程度であり、好ましくは20〜50μm程度である。X線CTのように試料を回転させてX線透過像を測定する装置であって、30〜100keV程度のX線を備えた装置の空間分解能を評価する場合には、素子の厚みは、通常5〜20mm程度であり、好ましくは10〜15mm程度である。
必要に応じて薄片化、研磨などを行うことにより所望の形状とした後、更に、多層膜表面を保護するために、必要に応じてエポキシ樹脂などの樹脂で素子を被覆してもよい。
薄片化した素子の機械的強度が弱い場合などには、素子を支持台上に設けてもよい(図11参照)。支持台の材質としては、例えばアクリルなどの樹脂、グラファイトなどを例示することができる。
評価方法
本発明の素子に対してX線を照射し、得られた多層膜の断面構造の透過像を観察することにより、X線透過像を測定する装置の空間分解能を評価することができる。透過像は、通常評価の対象となる装置に設けられている検出器(例えばCCDなど)に映し出される。
素子に対してX線を照射する方向は、多層膜の断面構造の透過像が得られる限り特に制限されず、分解能を評価する装置などに応じて適宜選択することができる。例えば、X線顕微鏡などの試料を固定して分析する装置では、通常、分解能評価用素子の厚み方向にX線を照射する(図2および図10参照)。X線CT装置のように試料を回転して断層面内の分解能を分析する装置においては、X線は、通常、多層膜の厚み方向に対して垂直に照射する(図3参照)。
本発明の素子を用いて空間分解能を評価できる装置は、放射光(SR:Synchrotron radiation)などのX線を光源として利用する装置である限り特に制限されない。このような装置として、例えば、エネルギー範囲が6〜100keV程度である高エネルギーX線を利用する装置を例示できる。本発明の素子は、20keV程度以上、好ましくは30〜100keV程度、より好ましくは50〜100keVのX線を利用する装置の空間分解能を測定する素子として好適に用いることができる。X線を利用する装置の具体例として、例えば、X線顕微鏡、X線CT装置などの装置を例示することができる。
透過像は、一般にX線遮断層は暗く(黒く)、X線透過層は明るく(白く)なるように明暗(黒白)で表示されるが、透過像の表示方法は特に制限されず、上記の表示法において白黒が反転した表示方法、疑似カラー表示方法などでもよい。透過像において二つの層の変調度(MTF:Modulation Transfer Function)が、5%以上となる最小線幅(X線遮断層または透過層のいずれの線幅でもよい)が、その装置の空間分解能である。
本発明の素子を用いて測定可能な空間分解能は、照射されるX線の強度に応じて変化するが、通常0.05〜2μm程度の空間分解能を測定することができる。
本発明によると、高エネルギーX線を利用するX線透過像を測定する装置において、0.05〜2μm程度の空間分解能を測定することができる。条件によっては、これまで有効な測定手法が無かった30〜100keV程度の高エネルギーX線を利用する装置であっても、0.05〜2μm程度の空間分解能を評価することができる。
図2は、本発明の多層膜分解能評価用素子のパターン図の一例である。X線顕微鏡などの試料を固定して分析する装置を評価する場合には、通常図2に示されている方向からX線を照射する。
図3は、本発明の多層膜分解能評価用素子のパターン図の一例である。X線CT装置などの試料を回転しながら分析する装置を評価する場合には、通常図3に示されている方向からX線を照射する。
図4は、実施例1において得られた多層膜分解能評価用素子の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図5は、実施例2において得られた多層膜の断面の走査型電子顕微鏡像である。断面の多層膜パターンの一部分を示している。
図6は、X線CT装置を用いて測定した実施例3の素子の透過像を示す図である。
図7は、実施例3において用いた蒸着装置の概略図である。
図8は、円筒状スリットを設けた蒸着装置の概略図である。
図9は、多層膜を設けた平面基材を薄片化することにより、本発明の素子を製造することを模式的に示した図である。
図10は、本発明の多層膜分解能評価用素子のパターン図の一例である。X線顕微鏡などの試料を固定して分析する装置を評価する場合には、通常図10に示されている方向からX線を照射する。
図11は、支持台を設けた本発明の素子の一例を模式的に示した図である。
図12は、X線顕微鏡装置を用いて測定した実施例2の素子の透過像を示す図である。
得られた多層膜を錫−鉛合金(錫:鉛=60:40,融点180℃)に埋め込んで固定し、細線状基材に対して垂直に切断し、研磨して、多層膜分解能評価用素子を製造した。素子の厚み(多層膜の断面に対して垂直な方向の厚み)は、30μmであった。
得られた多層膜分解能評価用素子の断面の走査型電子顕微鏡像を図4に示す。得られた多層膜の各膜厚は、0.3μmであった。
得られた多層膜分解能評価用素子の断面の走査型電子顕微鏡像を図5に示す。
財団法人高輝度光科学研究センターの大型放射光SPring−8のビームライン:BL20XUに構築したX線顕微鏡を用いて、得られた多層膜分解能評価用素子の断面の透過像を観察した。X線のエネルギーは28keVであった。0.5μmのパターンが明瞭に観察できた(図12)。このX線顕微鏡は0.5μmの空間分解能を有することが判った。MTFは、10%以上であった。
得られた素子を厚さが1cmとなるように切断し、上記の大型放射光SPring−8のビームライン:BL47XLに構築したX線CT装置を用いて、多層膜の断面図を観察した。X線CT装置に設けられたX線のエネルギーは、20keVであった。多層膜の各膜厚は、2μmであった。
得られた空間分解能評価用素子の断面の透過像を図6に示す。図6では、X線遮断層である銅層は明るく(白く)、X線透過層であるアルミニウム層は暗く(黒く)表示されている。両者の明暗(黒白)が明瞭であることから、このX線CT装置は、少なくとも2μmの空間分解能を有することが判った。MTFは、24%であった。
X線のエネルギーが30keVの場合にも、図6と同様の結果が得られた。
Claims (8)
- X線透過像を測定する装置の空間分解能を評価する素子であって、
直径10〜200μmの細線状基材上にX線遮断層とX線透過層とをそれぞれ0.01〜2μmの厚みで交互に積層した多層膜を有し、X線遮断層とX線透過層が蒸着膜であり、
X線遮断層が、
(1)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体からなる層、または
(2)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を50重量%以上含む化合物からなる層であり、
X線透過層が、アルミニウム、炭素、ケイ素およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体からなる層であり、
且つX線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上である素子。 - X線遮断層とX線透過層との組合せが、銅層−アルミニウム層、銅層−ケイ素層、銅層−炭素層、銀層−ケイ素層および銀層−炭素層からなる群より選ばれる請求項1に記載の素子。
- 積層させる各層の厚みが、全て同一であるか、又は、徐々に変化させたものである請求項1又は2に記載の素子。
- 細線状基材上に、同心円状にX線遮断層とX線透過層とを交互に積層した多層膜であり、中心から外側へいくほど徐々に層の厚みを薄くしたもの、又は、中心から外側へいくほど徐々に厚みを厚くしていったものである請求項1〜3のいずれかに記載の素子。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の素子にX線を照射し、得られた多層膜の断面構造の透過像を観察することによってX線透過像を測定する装置の空間分解能を評価する方法。
- 請求項1に記載のX線透過像を測定する装置の空間分解能評価素子、を製造する方法であって、
直径10〜200μmの細線状基材上に、下記(A)及び(B)の2種の蒸着源を交互に蒸着して、X線遮断層とX線透過層とがそれぞれ0.01〜2μmの厚みで交互に積層した多層膜を形成し、X線遮断層の吸光係数が、使用するX線の波長において、X線透過層の吸光係数の3倍以上とすることを特徴とする製造方法;
蒸着源(A):
(1)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体、または
(2)金、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、クロム、チタン、ゲルマニウム、白金およびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を50重量%以上含む化合物、
蒸着源(B):
アルミニウム、炭素、ケイ素およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素の単体。 - 空間分解能評価素子を薄片化することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
- 蒸着槽内において、蒸着源と基材との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減するためのスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を利用して多層膜を蒸着することを特徴とする請求項6又は7に記載の素子の製造方法。
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