JP4441602B2 - ダイヤモンド膜の形成方法及び形成用基材 - Google Patents
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Description
この発明は、ダイヤモンド膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の技術としては、
(1)ダイヤモンド合成触媒作用を有するリン元素溶媒を使用し、ダイヤモンド種結晶上に、1650℃以上のダイヤモンドの熱力学的安定条件下でダイヤモンド結晶を育成する方法(例えば、特許文献1参照)、
(2)黒鉛等の非ダイヤモンド炭素をリン元素と共存させ、1650℃以上のダイヤモンドの熱力学的安定条件下で処理して、ダイヤモンドを回収する方法(例えば、特許文献1参照)、
(3)プラズマCVD法によりダイヤモンドを合成する方法(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)、
(4)炭化水素とこれに混合する水素を反応ガスとするマイクロ波プラズマ法によるリンドープダイヤモンドの合成において、リンをドーパントとし、リンに結合する水素を解離させてダイヤモンド中に水素と結合することなくリンを不純物として導入する方法(例えば、特許文献4参照)、
等が知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−123562号公報(第2−5頁)
【特許文献2】
特開平5−32489号公報(第2−3頁,図1)
【特許文献3】
特開平9−40493号公報(第2−3頁,図1,図2)
【特許文献4】
特開平10−81587号公報(第2−4頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)及び(2)の方法では1650℃以上、上記(3)の方法では350〜1200℃、上記(4)の方法では900〜1100℃の高温条件が必須であるので、コスト高であるという問題点がある。
【0005】
この発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、ダイヤモンド膜を容易にかつ低コストで形成できるダイヤモンド膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するためのダイヤモンド膜の形成方法は、被成膜物の表面にケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することによって、前記被成膜物の表面にダイヤモンド膜を形成し、この形成されたダイヤモンド膜を真空中で400乃至800℃に加熱することにある。
【0007】
請求項2のダイヤモンド膜の形成方法は、前記ケイ素及び炭素が、ケイ素及び炭素の各粉末を含む混合物の焼結体からなる形成用基材であることにある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
第1実施形態に係るダイヤモンド膜1の形成方法は、図1及び図2に示すように、基板(被成膜物)2の表面2aにケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することによって、基板2の表面2aにダイヤモンド膜1を形成するものである。
【0010】
被成膜物としては、基板2の他、ドリルの刃の先端部、複雑な形状の部品、原子オーダーの隙間や溝を表面に有する部品等、各種の形状・材質のものが挙げられる。ダイヤモンド膜1は、真空蒸着の時間等を適宜に調整することによって、数百Å〜数μm、あるいは数μm以上の厚さとすることができる。
【0011】
基板2は、図1のような真空蒸着装置3の高真空容器4内に、表面2aが下向きとなるようにして適宜の支持手段により水平に支持される。この真空蒸着装置3は、前記基板2等が内部に収容される高真空容器4と、この高真空容器4にバルブ5を介して接続された高真空ポンプ6とを備えている。高真空ポンプ6は、高真空容器4内を高真空状態に排気可能である。なお、真空蒸着装置3の構成は特に限定されるものではなく、従来公知の各種のものを使用することができる。
【0012】
ケイ素及び炭素を同時に真空蒸着するには、図1及び図3のような炭素棒7とケイ素粉末8とを使用することができる。
【0013】
炭素棒7は、図3及び図4に示すように、低規則性炭素粉末を直径が数mm、長さが数十mmの丸棒状に焼結してなるものであって、その長手方向の中央には発熱用細部9が設けられている。この発熱用細部9は、適宜の幅及び深さの溝10を炭素棒7の長手方向に対して直角方向に形成することによって設けられており、発熱用細部9の上面9aには適宜の直径及び深さの充填穴11が形成されている。なお、炭素を真空蒸着するための炭素源としては、低規則性炭素の他、黒鉛、フラーレン、カルビン等が挙げられる。また、炭素棒7の形状やサイズ(径・長さ等)、発熱用細部9の形状やサイズ(厚さ・長さ・幅等)、充填穴11の形状・サイズ(径・深さ等)・形成位置等は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0014】
ケイ素粉末8は、前記充填穴11に充填されている。このケイ素粉末8の粒径は特に限定されるものではないが、蒸発容易性等の面から数十nm〜数百μmが適当である。
【0015】
このケイ素粉末8を充填穴11に充填した炭素棒7は、図1に示すように、高真空容器4内に、発熱用細部9の上面9aが上向きとなるようにして適宜の支持手段により基板2と対向するように支持される。この炭素棒7の長手方向の両端には直流電源(DC)12等により電圧が印加され、他の部分よりも電気抵抗が高い発熱用細部9が発熱するようになっている。
【0016】
このような真空蒸着装置3を使用して高真空容器4内を高真空状態とし、炭素棒7に電圧を印加して発熱用細部9を発熱させ、発熱用細部9から炭素が蒸発すると共に、ケイ素粉末8からケイ素が蒸発するように構成しておけば、基板2の表面2aにケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することができる。真空蒸着する時間は特に限定されるものではないが、数十分間〜数時間が適当である。基板2は、特に加熱する必要がなく、室温のままでよい。このようにしてケイ素及び炭素を同時に真空蒸着すれば、ケイ素が触媒として機能するために基板2の表面2aにダイヤモンド膜1が形成されると考えられる。
【0017】
同時に真空蒸着するケイ素と炭素の割合(原子数比)は特に限定されるものではないが、ケイ素の方が炭素よりも少なくなるようにしておくのが望ましい。ケイ素と炭素の割合を変更するには、発熱用細部9の形状やサイズ(厚さ・長さ・幅等)、充填穴11の形状やサイズ(径・深さ等)、ケイ素粉末8の充填量等を適宜に調整すればよい。
【0018】
ケイ素及び炭素を同時に真空蒸着する方法としては、上記のような高真空下で炭素棒7等の炭素源自体を抵抗加熱する方法の他、高真空下でケイ素粉末8等のケイ素源と低規則性炭素・黒鉛・フラーレン・カルビン等の炭素源とを、アーク放電により加熱する方法、レーザ光照射により加熱する方法、電子線照射により加熱する方法、Ta(タンタル)・Mo(モリブデン)・W(タングステン)等の高融点金属等を発熱体として抵抗加熱する方法等が挙げられる。
【0019】
上記のような方法によれば、室温で基板2の表面2aにダイヤモンド膜1を形成でき、その形成速度も大きいので、ダイヤモンド膜1を容易にかつ低コストで得ることができるという利点がある。また、低コストで得られるダイヤモンド膜1は熱伝導率が非常に高いので、熱伝導率が高い銅の代替材料として各種の用途に使用できるという利点がある。
【0020】
ここで、基板2の表面2aに形成されたダイヤモンド膜1を高真空下で適宜の加熱手段により400〜800℃、好ましくは500〜800℃、より好ましくは600〜800℃に加熱すれば、ダイヤモンド膜1の表面1aに複数(斑点状)のダイヤモンド結晶を形成できるという利点がある。ダイヤモンド結晶のサイズや相互の間隔等は、ダイヤモンド膜1の加熱温度や加熱時間等によってナノ(nm)オーダーで制御することができる。
【0021】
第2実施形態に係るダイヤモンド膜1の形成方法は、図5に示すように、第1実施形態において、充填穴11にケイ素粉末8を充填した炭素棒7の代わりに、形成用基材27を使用するものである。
【0022】
形成用基材27は、ケイ素粉末と炭素粉末とを含む混合物の焼結体で構成されている。炭素としては、低規則性炭素、黒鉛、フラーレン、カルビン等が挙げられるが、コストや入手容易性等の面から低規則性炭素が好適である。この形成用基材27は、図6に示すように、第1実施形態の炭素棒7と同様の形状であるが、ケイ素をあらかじめ含有しているので、発熱用細部9の上面9aには充填穴11が設けられていない。なお、形成用基材27の形状やサイズ(径・長さ等)、発熱用細部9の形状やサイズ(厚さ・長さ・幅等)、ケイ素と炭素の含有比(原子数比)等は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0023】
基板2は、図5のような第1実施形態と同様の真空蒸着装置3の高真空容器4内に、表面2aが上向きとなるようにして適宜の支持手段により水平に支持することができる。形成用基材27は、高真空容器4内に、発熱用細部9の上面9aが下向きとなるようにして適宜の支持手段により基板2と対向するように支持することができる。この形成用基材27の長手方向の両端には直流電源12等により電圧が印加され、他の部分よりも電気抵抗が高い発熱用細部9が発熱するようになっている。なお、基板2や形成用基材27を配置する位置や形成用基材27の配置の向き等は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0024】
真空蒸着装置3を使用して高真空容器4内を高真空状態とし、形成用基材27に電圧を印加して発熱用細部9を発熱させ、発熱用細部9から炭素及びケイ素が蒸発するように構成しておけば、基板2の表面2aにケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することによって、基板2の表面2aにダイヤモンド膜1を形成することができる。その他の手順、利点等は第1実施形態と同様である。
【0025】
また、形成用基材27によれば、ケイ素及び炭素をあらかじめ含有しているので、上記のような方法に好適に使用できると共に、基板2や形成用基材27を真空蒸着装置3の高真空容器4内の適宜の位置に配置できるという利点がある。
【0026】
【実施例】
次に、この発明の実施例について説明する。
〔実施例1〕
低規則性炭素粉末を直径5mm、長さ25mmの丸棒状に焼結してなる炭素棒(東洋カーボン株式会社製)を使用した。この炭素棒の長手方向の中央には、幅7mm、深さ3mmの溝を炭素棒の長手方向に対して直角方向に形成することによって発熱用細部を設けた。この発熱用細部の上面の中央には、直径2mm、深さ1mmの充填穴を形成した。この充填穴には、粒径が数十μmのケイ素粉末を充填した。
【0027】
真空蒸着装置として、直径17cm、高さ30cmのガラスシリンダー製(外側をステンレス鋼板で被覆)の高真空容器にバルブを介して高真空ポンプを接続したものを使用した。高真空容器内の上方には、被成膜物としての非晶質炭素基板をその表面が下向きとなるようにして支持した。高真空容器内の下方には、上記の充填穴にケイ素粉末を充填した炭素棒を発熱用細部の上面が上向きとなるようにして非晶質炭素基板と対向するように支持した。次いで、高真空容器内を高真空状態(1×10−4Pa)とし、炭素棒の両端に直流電源で電圧を印加することによって、非晶質炭素基板(室温)の表面にケイ素及び炭素を同時に真空蒸着して薄膜を形成した。
【0028】
得られた薄膜の厚さは約20nmであり、薄膜中のケイ素の割合は30at%であった。この薄膜の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)写真及び電子線回折(ED)パターンを図7に、赤外吸収(IR)スペクトルチャート(KBr錠剤法で測定)を図8に示す。図7中の高分解能透過型電子顕微鏡写真、図7中のハローな電子線回折パターン、及び図8中の3.4μm、9.5μm、10.5μmの吸収ピークから明らかなように、得られた薄膜は、炭化ケイ素(SiC)をわずかに含有するが、1〜2nmサイズのダイヤモンド微結晶を含有するダイヤモンド膜であることが分かった。なお、得られた薄膜においては、グラファイト(黒鉛)の微結晶は検出されなかった。
【0029】
〔実施例2〕
実施例1で得られたダイヤモンド膜を高真空下(1×10−4Pa)、600℃で1時間加熱した。加熱処理後のダイヤモンド膜の透過型電子顕微鏡(TEM)写真及び電子線回折パターンを図9に示す。図9中の透過型電子顕微鏡写真から明らかなように、他の部分よりも暗く視認される斑点状の結晶は、5〜8nmのサイズであった。また、高分解能透過型電子顕微鏡写真の観察結果から、斑点状の結晶は2又はそれ以上のダイヤモンドの多結晶体であることが分かった。
【0030】
〔実施例3〕
実施例1で得られたダイヤモンド膜を高真空下(1×10−4Pa)、800℃で1時間加熱した。加熱処理後のダイヤモンド膜の透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターンを図10に、高分解能透過型電子顕微鏡写真を図11に示す。図10の透過型電子顕微鏡写真及び図11の高分解能透過型電子顕微鏡写真から明らかなように、他の部分よりも暗く視認される斑点状のダイヤモンド結晶のサイズは10〜30nmであった。
【0031】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明によれば、被成膜物の表面にケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することによって、被成膜物の表面にダイヤモンド膜を形成するので、室温でダイヤモンド膜を形成でき、その形成速度も大きい。そのため、ダイヤモンド膜を容易にかつ低コストで得ることができる。また、低コストで得られるダイヤモンド膜は熱伝導率が非常に高いので、熱伝導率が高い銅の代替材料として各種の用途に使用できる。
【0032】
又、被成膜物の表面に形成されたダイヤモンド膜を真空中で400乃至800℃に加熱するので、ダイヤモンド膜の表面に複数(斑点状)のダイヤモンド結晶を形成できる。
【0033】
請求項2の発明によれば、既述のダイヤモンド膜の形成方法において被成膜物の表面に同時に真空蒸着するケイ素及び炭素が、ケイ素及び炭素の各粉末を含む混合物の焼結体からなる形成用基材であるので、既述の方法に好適に使用できると共に、被成膜物や形成用基材を真空蒸着装置の高真空容器内の適宜の位置に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係るダイヤモンド膜の形成方法において、ケイ素及び炭素を同時に真空蒸着する様子を示す説明図。
【図2】基板の表面にダイヤモンド膜を形成した状態を示す要部拡大断面図。
【図3】充填穴にケイ素粉末を充填した炭素棒の斜視図。
【図4】充填穴にケイ素粉末を充填する前の炭素棒の斜視図。
【図5】第2実施形態に係るダイヤモンド膜の形成方法において、ケイ素及び炭素を同時に真空蒸着する様子を示す説明図。
【図6】形成用基材の斜視図。
【図7】実施例1で得られたダイヤモンド膜の高分解能透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターン。
【図8】実施例1で得られたダイヤモンド膜の赤外吸収スペクトルチャート。
【図9】実施例2における加熱処理後のダイヤモンド膜の透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターン。
【図10】実施例3における加熱処理後のダイヤモンド膜の透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折パターン。
【図11】実施例3における加熱処理後のダイヤモンド膜の高分解能透過型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
1 ダイヤモンド膜
2 基板(被成膜物)
2a 表面
27 形成用基材
Claims (2)
- 被成膜物の表面にケイ素及び炭素を同時に真空蒸着することによって、前記被成膜物の表面にダイヤモンド膜を形成し、この形成されたダイヤモンド膜を真空中で400乃至800℃に加熱することを特徴とするダイヤモンド膜の形成方法。
- 前記ケイ素及び炭素が、ケイ素及び炭素の各粉末を含む混合物の焼結体からなる形成用基材であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜の形成方法。
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