JP4438258B2 - インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ノズルから微小なインク滴を吐出して記録媒体上に文字や画像の記録を行うインクジェット記録ヘッド及び該インクジェット記録ヘッドが搭載されるインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、プリンタ,複写装置等の画像記録装置として用いられるインクジェット記録装置においては、インク滴を吐出する複数のノズルと、各ノズルが連通する圧力発生室と各圧力発生室を連結する共通インク通路とを形成する流路形成部材と、圧力発生室内のインクに衝撃を与えて圧力波を発生させる電気機械変換素子(圧電アクチュエータ)や電気熱変換素子(ヒータ)等のエネルギー発生素子とを備えたインクジェット記録ヘッドを搭載している。
【0003】
図14は、上述したインクジェット記録ヘッドにおいて、エネルギー発生素子として圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドの構成を示す断面図である。
このインクジェット記録ヘッドは、ノズル11,圧力発生室12,圧電アクチュエータ13,振動板14,インク供給路15,共通インク通路16,ノズルプレート(ノズル形成部材)17,流路プレート(流路形成部材)18より構成されている。一般に、外部に設けられたインクタンクから供給されるインクは、共通インク通路16,インク供給路15を通じて圧力発生室12に充填される。記録時には、圧電アクチュエータ13に適切な駆動電圧を与えることで振動板14を変位させ、圧力発生室12内に圧力波を生じさせ、これによりノズル11からインク滴を吐出し、記録媒体上に文字や画像等を記録する。
【0004】
このようなインクジェット記録装置においては、ノズル11からインク滴を吐出させ、非接触にて記録媒体上に記録を行うため、インク滴の吐出方向のわずかな曲がりにより画像品質が悪化する。このインク滴の吐出方向の曲がりが生じる主な要因は、ノズル表面(インク吐出面)の濡れ特性や、ノズル11及びノズル11近傍流路の形状,精度に起因し、インク滴の吐出方向曲がりを抑制するためには、これらの要因を改善する必要がある。
【0005】
まず、ノズル表面の濡れ特性について説明する。ノズル表面(インク吐出面)が濡れやすい場合、ノズル周辺に不均一なインク溜りが生じ、吐出方向の曲がり,吐出滴体積のばらつき,吐出速度の低下等の不具合が誘発される。この解決策としては、ノズル表面(インク吐出面)に撥水性を有する膜を設置することで、インク溜りの発生を防ぐ方法が開示されている。例えば、特開平9−76512号公報には、フッ素系撥水剤等の撥水剤を塗布する方法が開示され、特開昭63−3963号公報、特開平4−294145号公報には、フッ素系高分子共析メッキで撥水膜を形成する方法が開示されており、ノズル表面に撥水膜を形成することは、公知のものとなっている。
【0006】
次に、ノズル11及びノズル11近傍流路の形状,精度が、吐出方向曲がりに対する影響について説明する。多くのインクジェット記録ヘッドは、ノズル形成部材17と流路形成部材18とを別工程により製造し、しかる後、各部材を接着剤等によって接合することによって形成されている。このノズル形成部材17と流路形成部材18との間の接合部に位置ずれがあると、インク滴吐出方向の曲がりが生じる。
【0007】
上述した接合部に位置ずれがない場合とある場合とを、例えば特開平5−318731号公報に示されるような、いわゆる「引き打ち」方式と呼ばれる方法を例に挙げて説明する。この「引き打ち」方式は、圧電アクチュエータ13を作動させることにより、圧力発生室12を膨張させ、メニスカス21をノズル11内に引き込んでから、圧力発生室12を収縮させてインク滴を吐出する方法である。
【0008】
図15は、各部材の接合部に位置ずれがない場合を示す断面図である。図15(a)は、メニスカスを引き込む前の状態を示し、図15(b)は、メニスカスを引き込んだ後の状態を示し、図15(c)は、インク滴を吐出させたときの状態を示している。上述したノズル形成部材17と流路形成部材18とを接合する際、ノズル形成部材17のノズル11の断面積と、流路形成部材18のノズル11近傍の圧力室出口部19の断面積とが同じであると、図15(a)に示すように、段差20aが生じるが、この段差20aは、左右対称であるので、図15(b)に示すように、メニスカス21aを引き込んだ場合、上述した位置ずれが生じることはなく、メニスカス21aは、真直に引き込まれ、また、このような状態で、圧力発生室12を収縮させてインク滴を吐出させると、図15(c)に示すように、インク滴吐出方向も真直に吐出される。
【0009】
しかしながら、実際には、上述したノズル形成部材17と流路形成部材18とを接合する際、ノズル形成部材17のノズル11の断面積と、流路形成部材18のノズル11近傍の圧力室出口部19の断面積とは異なり、接合部に位置ずれが生じる場合が殆どである。
【0010】
図16は、各部材の接合部に位置ずれがある場合を示す断面図である。図16(a)は、メニスカスを引き込む前の状態を示し、図16(b)は、メニスカスを引き込んだ後の状態を示し、図16(c)は、インク滴を吐出させたときの状態を示している。
上述した断面積が異なると、図16(a)に示すように、左右異なる段差20bが生じる。このように、接合工程において、ノズル形成部材17と流路形成部材18とを接合するときに、各流路部材の接合位置ずれが生じることは免れ得ないものである。特にこの接合位置ずれの影響を受けやすいのは、圧電アクチュエータ13によってインク滴を吐出するインパルス型インクジェットヘッドにおいて、数pl(ピコリットル)〜10pl(ピコリットル)程度の微小なインク滴を吐出する場合である。上述した「引き打ち」方式では、圧電アクチュエータ13を作動させることにより、圧力発生室12を膨張させ、メニスカス21bをノズル11内に所定の量分だけ引き込むが、図16(b)に示すように、メニスカス21bを引き込んだ場合、上述した位置ずれが生じているために、メニスカス21bは、真直に引き込まれることはなく、曲がって引き込まれる。また、このような状態で、圧力発生室12を収縮させてインク滴22bを吐出させると、図16(c)に示すように、インク滴吐出方向も曲がって吐出される。
【0011】
上述したように、各流路部材の接合位置がずれた場合、図16(a)に示すように、ノズル11と出口部19との段差部20が非対称となり、図16(b)に示すように、引き込まれたメニスカス21bの形状が、ノズル11内部で非対称に歪むので、図16(c)に示すように、インク滴22bの吐出方向が大幅にずれるか、又は気泡を巻き込んで吐出不能になってしまう。これは、ノズル11におけるインクの流れが曲がり、結果として吐出するインク滴22bの進行方向が曲がって不適正に供給されるからである。そのため、インク滴22bの吐出方向を真直に保つためには、ノズル11内のメニスカス21bの形状が軸対称となるように、積層接合時に各部材の位置決め精度を確保しなければならない。
【0012】
◇従来技術1
通常の接合工程においては、各流路形成部材の表面に設けられたアライメントマークに従って、位置決めを行うが、1辺が数cm程度の一般的なインクジェット記録ヘッドの場合、各流路形成部材を積層接合するときに、数μm乃至数十μm程度の位置ずれが生じる。そのため、アライメントマークだけでなく、接合する構造そのものに位置決めのための構造を設ける手法が必要となり、その手法は公知である。例えば、WO98/42514号公報では、流路形成部材接合面側にガイド溝を、ノズル形成部材接合面にガイド突起をそれぞれエッチングにより形成し、接合時に差し込むことで位置決めを図る方法が開示されている。
【0013】
◇従来技術2
他の方法として、ノズル形成部材と液室形成部材とを接合した後に、各々の部材にノズル,液室を形成する方法がある。特開2000−198206号公報では、高分子フィルムと金属層とを直接積層し、エッチングにより金属層に液室層を形成し、しかる後、エッチング面側からエキシマレーザにより高分子フィルムにノズルを穿孔する方法が開示されている。これによれば、液室とノズルとの軸心ずれは、レーザ加工時の位置決め精度だけで決定されるので、接合工程における軸心ずれがなくなるというものである。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来技術1,2では、いずれもインク室の軸心ずれ対策としては不十分である。以下にその理由を述べる。
まず、従来技術1に示した、ガイドの差し込みにより、接合位置決めの高精度化を図る手法においては、ガイド溝及びガイド突起の位置,形状の精度が、エッチング精度によって決定される。しかし、ノズルと液室の軸心ずれ精度が、ガイドのエッチング精度に依存することは、前述のアライメントマークと同様、根本的な解決策にならない。また、ガイド形成の工程が加わるため、コストの増加,量産性の低下が生じるという問題がある。
【0015】
次に、従来技術2に示したノズル形成部材と液室形成部材とを接合した後に、液室,ノズルを形成する手法は、液室の形成とノズルの形成とがそれぞれ別工程になるため、レーザ加工時の位置決め精度によってノズルと液室との間に軸心ずれが生じるという問題が生じる。
以上のように、上述した従来技術では、ノズルとインク室との軸心ずれの問題を完全に解決することは実用上困難である。
【0016】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ノズル形成部材と液室形成部材との接合工程における接合位置決め誤差に起因するノズルと流路との軸心ずれを考慮し、すなわち、軸心ずれが必ず存在するものとして、その影響を受けること無く、安定した吐出特性を実現するインクジェット記録ヘッドを提供することを目的としている。
【0017】
また、この発明は、上記インクジェット記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、インクを吐出する複数のノズルと、各ノズルに連通され各ノズルからインクを吐出させるための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを搬送するための共通の通路となる共通インク通路と、上記各圧力発生室と上記共通インク通路とを連通する複数のインク供給路と、上記各圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを備え、上記複数のノズルを形成するノズル形成部材と、上記複数の圧力発生室,上記共通インク通路,上記複数のインク供給部を形成する流路形成部材とが接合されてなるインクジェット記録ヘッドであって、上記ノズルの長さをh、上記ノズルの平均内径をφ、上記圧力発生室の中心軸と上記ノズルの中心軸との軸心間の距離をδ、上記圧力発生室と上記ノズルとが対向して接続される面に生じる段差の大きさをdとするとき、上記段差の大きさが、式(2)を満足するように設定されてなることを特徴としている。
【0019】
【数2】
(d−δ)/(d+δ)>0.3φ/h ・・・(2)
【0020】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記ノズルの平均内径φが、10×10−6乃至40×10−6m、上記ノズル長さhが、5×10−6乃至100×10−6mであることを特徴としている。
【0021】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生室が、上記ノズルと連通する部分において、上記ノズル方向を頂上とするような円錐台の形状を有することを特徴としている。
【0022】
また、請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生室が、上記ノズルと連通する部分において、上記ノズル方向を頂上とするような角錐台の形状を有することを特徴としている。
【0023】
また、請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生室が、上記ノズルと連通する部分において、円筒の形状を有することを特徴としている。
【0024】
また、請求項6記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生室が、上記ノズルと連通する部分において、角柱の形状を有することを特徴としている。
【0025】
また、請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生室が、圧力波を発生する液室と,該液室とノズルとを連結する連通路よりなることを特徴としている。
【0026】
また、請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生手段として、電気機械変換素子を用いることを特徴としている。
【0027】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記電気機械変換素子として、圧電アクチュエータを用いることを特徴としている。
【0028】
また、請求項10記載の発明は、請求項9記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧電アクチュエータを作動させて上記圧力発生室を膨張させ、上記ノズルにおけるインク表面を上記圧力発生室内に引き込み、しかる後に、上記圧電アクチュエータを作動させて上記圧力発生室を収縮させ、上記インク滴を吐出することを特徴としている。
【0029】
また、請求項11記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記圧力発生手段として、電気熱変換素子を用いることを特徴としている。
【0030】
また、請求項12記載の発明は、請求項1乃至11のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドに係り、上記流路形成部材は、一枚以上のプレートより形成されている積層構造であることを特徴としている。
【0031】
また、請求項13記載の発明は、請求項1乃至12のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドを搭載してなることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について詳細に説明する。説明は実施例を用いて具体的に行う。
【0033】
◇第1実施例
図1は、この発明の第1実施例であるインクジェット記録ヘッドの概略構成を示す平面図である。
この例のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する複数のノズル11と、各ノズル11に連通され各ノズルからインクを吐出させるための圧力を発生させる複数の圧力発生室12と、各圧力発生室12にインクを供給するための複数のインク供給路15と、各圧力発生室12にインクを搬送するための共通の通路となる共通インク通路16とを備え、複数のノズル11は、ノズル形成部材としてのノズルプレートを用いて形成され、複数の圧力発生室12,共通インク通路16,複数のインク供給路15は、流路形成部材としての流路プレート18を用いて形成されている。インクの流路は、インクタンク(図示せず)から、共通インク通路16を流れ、共通インク通路16から複数のインク供給路15を経て、複数の圧力発生室12へと流れ、各圧力発生室12に連通するノズル11から吐出される。このインク滴の吐出は、各圧力発生室12における圧力変化により吐出される。また、この例は、圧力発生室12は、円錐台状の形状を有している実施例であり、平面図では、円の形状で示される。
【0034】
図2は、この発明の第1実施例であるインクジェット記録ヘッドの構成を示す断面図である。
この例のインクジェット記録ヘッドは、ノズルプレート(ノズル形成部材)17と、流路プレート18とを備え、ノズルプレート17は、インク滴を吐出するノズル11を形成するためのノズルを有する。流路プレート18は、各ノズルが連通する圧力発生室12と、各圧力発生室12を連結する共通インク通路16と、圧力発生室12と共通インク通路16との間に設けられているインク供給路15とを有する。また、このインクジェット記録ヘッドは、圧力発生室12内のインクに衝撃を与えて圧力波を発生させる圧電アクチュエータ(電気機械変換素子)13と、圧電アクチュエータ13からの振動を圧力発生室12に伝える振動板14とをさらに備える。この構成により、外部に設けられたインクタンク(図示せず)から供給されるインクは、共通インク通路16,インク供給路15を通じて圧力発生室12に充填される。記録時には、圧電アクチュエータ13に適切な駆動電圧を与えることで振動板14を変位させ、圧力発生室12内に圧力波を生じさせ、これによりノズル11からインク滴を吐出し、記録媒体上に文字や画像等を記録する。
【0035】
また、図2に示したインクジェット記録ヘッドは、位置ずれがない場合の段差の大きさをd、ノズルの平均内径をφ、ノズルの長さをhとして示しているが、ノズル形成部材17と流路形成部材18との接合工程においては軸心ずれが必ず存在し、この例のインクジェット記録ヘッドも、この軸心ずれが存在することを前提とし、かつ、その影響を受けることなく安定した吐出特性を実現するものである。すなわち、図示していないが、圧力発生室12の軸心とノズル11の軸心との間の距離(以下、軸心ずれ量という)をδ、軸心ずれの大きさを表すパラメータをr=(d−δ)/(d+δ)とすれば、軸心ずれの大きさに関係なく、r>0.3φ/hでほぼ許容範囲に収まることを実証した。従って、段差の大きさdを、上式を満足するように設定することにより、要求される着弾精度を満足できるインク滴の吐出を得ることが可能になる。
【0036】
図3は、図2のインクジェット記録ヘッドのノズル11近傍の流路部分(円錐台状)を示す拡大斜視図である。図3(a)は軸心ずれがない場合を示し、図3(b)は軸心ずれがある場合を示す図である。
この例のインクジェット記録ヘッドは、圧力発生室12の出口部19の形状は、円錐台形状である。ノズルプレート17と流路プレート18とを別工程により製造し、しかる後、接着剤等により接合することによって形成されているが、その際、ノズルプレート17のノズル11の断面積と流路プレート18の圧力発生室12のノズル近傍にある出口部19の断面積とが異なる場合、その接続部には、段差20が生じる。図3(a)は、段差20が生じても、ノズル11の軸心と圧力発生室12の出口部19の軸心とが一致し、軸心ずれがない場合を示している。しかし、実際には、ノズルプレート17と流路プレート18とを別工程により接合しているので、接合位置がずれる場合の方が多い。この接合位置がずれた場合、図3(b)に示すように、ノズル11の軸心と圧力発生室の出口部19の軸心とは一致せず、接合部における軸心ずれδが発生するので、段差20がノズル11の中心軸に対して非対称になる。そのため、ノズル11におけるインクの流れが曲がり、結果としてインク滴の吐出方向が不適正になる。
【0037】
しかしながら、上述したインク吐出方向の曲がりを防ぐために、この例のインクジェット記録ヘッドは、3つの特徴を有している。この3つの特徴について以下に詳細に説明する。以下の説明において、ノズル11の平均内径をφ(m)、ノズル11の入口と圧力発生室12の出口部19との接続部に生じる位置ずれがない場合の段差20の大きさ(設計上の段差の大きさ)をd(m)、ノズルプレート17の厚さをh(m)としている。この設計上の段差の大きさdは、流路プレート18の圧力発生室12の出口部19の開口がノズルプレート17と接する点からノズル11の開口までの距離としている。一方、この発明は、ノズルプレート17と流路プレート18との接合工程において、両者の接合位置ずれに起因して、ノズル11の中心軸23と圧力発生室12の中心軸24との軸心ずれが生じ、各プレートの接合位置ずれにより、ノズル11近傍の流路部分の形状が、ノズル11と出口部19との接続部の段差20がノズル11の中心軸23に対して非対称になっていることを前提としている。
【0038】
(第1の特徴)
この例のインクジェット記録ヘッドでは、段差20の非対称性の度合いが、位置ずれがない場合の段差20の大きさdと軸心ずれ量δとによって決まることに注目し、段差20の非対称性の度合いを示すパラメータとして、非対称性パラメータrを導入する。パラメータrは、式(3)で表される。
【0039】
【数3】
r=(d−δ)/(d+δ) ・・・(3)
【0040】
ここで、0<δ<dとすれば、0<r<1である。また、パラメータrが1に近付くほど対称性が強くなり、逆に、パラメータrが0に近付くほど非対称性が強くなる。軸心ずれ量δの存在は、接合工程上避けられないものとして、その条件の下でパラメータrの値を1に近づけるためには、段差20の大きさdの値を大きく設定すればよい。
【0041】
以上に述べた通り、この発明のインクジェット記録ヘッドでは、段差20の非対称性を表すパラメータとして、式(3)で表されるパラメータrを導入し、そのrの値を1に近づけるべく段差20の大きさdを大きく設定したことを第1の特徴としている。
【0042】
(第2の特徴)
次に、実際にインクジェット記録ヘッドを設計,製造する場合、要求される着弾位置精度を満たすためには、パラメータrをどれだけ1に近付ければよいか(dをどの程度大きく設定すれば良いか)を明らかにする必要がある。要求される着弾位置精度を満足するパラメータrの値の最小値をr0 とし、以下にr0 の規定方法について説明する。
【0043】
ここでは、図15,図16で説明した引き打ち方式を例に挙げて説明する。
ノズル11の長さhを長くした場合、小滴吐出の際に圧力発生室12側(出口部19)内に入り込むメニスカス21の大きさは小さくなるため、段差20の非対称性の影響を受け難くなる。すなわち、r0 は、0寄りになる。また、ノズル11の平均内径φを大きくすると、ノズル部の流体抵抗,慣性抵抗が小さくなり、インク滴22吐出の際に圧力発生室12側に入り込むメニスカス21が大きくなるため、段差20の非対称性の影響を受けやすくなり、r0 は、1寄りになる。
【0044】
この実施例では、数値流体力学による解析や実際のインクジェット記録ヘッドを用いたインク滴吐出試験の結果より、r0 は、ノズル11の平均内径φに比例し、ノズル11の長さhに反比例することを明らかにした。従って、パラメータrの最小値r0 は、式(4)で表される。
【0045】
【数4】
r0 =αφ/h ・・・(4)
【0046】
但し、上式において、αは、ノズル11の形状,ノズル11近傍の圧力発生室12の形状,要求される着弾位置精度により決定される無次元の定数である。すなわち、非対称性の度合いrは、式(5)を満足すればよいことになる。
【0047】
【数5】
r>αφ/h ・・・(5)
【0048】
以上に述べた通り、この発明のインクジェット記録ヘッドでは、要求する吐出特性を満足するようなパラメータrの範囲を、ノズル11の長さh,ノズル11の平均内径φ、及び無次元定数αを用いて定式にて規定したことを第2の特徴としている。
【0049】
(第3の特徴)
前述の式(4),式(5)で用いられるαは、ノズル11の形状,ノズル11近傍の圧力発生室12の形状,要求する着弾位置精度により決定される無次元の定数であるが、この発明では、代表的なインクジェット記録ヘッドのノズル11近傍構造をモデル化し、数値流体力学(VOF法)によるシミュレーション計算を行い、定係数αを次のごとく明らかにした。
【0050】
一般に、インクジェット記録装置を用いて文字や画像を記録する場合、ノズル11より吐出されるインク滴は、ノズル11先方に位置する記録媒体上に着弾し、記録を行うが、このときのノズル11と記録媒体との間の距離は、通常、1.5×10−3(m)程度である。また、高画質記録を目的とするインクジェット記録装置の場合、許容される着弾位置のずれは、±20×10−6(m)程度である。
【0051】
ここで、ノズル長さh=5×10−6乃至100×10−6(m)、ノズルの平均内径φ=10×10−6(m)乃至40×10−6(m)、ノズルから記録媒体までの距離(インク滴の飛翔距離)1.5×10−3(m)、許容される着弾位置ずれ±20×10−6(m)と仮定して、インク滴の吐出の様子をシミュレーション計算したところ、式(5)を満たすαは、おおよそ0.3であることが分かった。
【0052】
以上に述べた通り、この発明のインクジェット記録ヘッドでは、式(4)において導入された無次元定数αを、数値流体力学により定量的に求めたことを第3の特徴としている。
【0053】
(要求される段差の大きさ)
次に、この発明の実施例であるインクジェット記録ヘッドが要求される着弾精度を確保するためには、段差の大きさをどのようにとれば良いかを検証する。
図2のインクジェット記録ヘッドは、予め加工されたノズル形成部材であるノズルプレート17と、流路形成部材である流路プレート18とを接合することにより形成される。ノズルプレート17は、金属プレートあるいは高分子フィルムを、機械的加工(打ち抜き),レーザ照射により穿孔加工することで得られるものであり、ノズル11の形状は、円筒状もしくは吐出方向には窄まった円錐台状をなしている。また、流路プレート18は、1枚以上の金属プレート又はシリコン単結晶ウエハをエッチング,プレス等により穿孔加工し、接合したものである。
【0054】
ここで、ノズル11の平均内径φを26×10−6(m)、ノズル長さhを10×10−6(m)とすると、要求される着弾精度を確保するためには、α=0.3とすれば、式(5)により、段差20の非対称性を表すパラメータrは、式(6)のように設定される。
【0055】
【数6】
r>0.3φ/h=0.78 ・・・(6)
【0056】
すなわち、δが、5×10−6(m)の場合、段差の大きさdは、35×10−6(m)以上にすれば、要求される着弾精度を確保できるということである。
【0057】
(設計の妥当性検証)
次に、この発明の実施例であるインクジェット記録ヘッドの設計の妥当性検証実験を行った。
図4乃至図11は、上述した設計の妥当性を、数値流体力学を利用したシミュレーション計算により検証し、そのシミュレーション計算によって、各々位置ずれ量δとパラメータrとを変化させたときのインク滴吐出の様子を示す図である。
【0058】
まず、図4乃至図7は、軸心ずれ量δが10μmのときのインク滴吐出の様子を示したもので、パラメータrを、順に0.2,0.4,0.6,0.8としてシミュレーション実験を行った。また、図8乃至図11は、軸心ずれ量δが5μmのときのインク滴吐出の様子を示したもので、パラメータrを、順に0.2,0.4,0.6,0.8としてシミュレーション実験を行った。これによると、パラメータrが、0.2,0.4では、軸心ずれ量δが5μmであっても10μmであっても、インク滴の着弾位置ずれが比較的大きく、パラメータrが、0.8,1.0では、軸心ずれ量δが5μmであっても10μmであっても、インク滴の着弾位置ずれが比較的小さく、パラメータrが、0.6では、軸心ずれ量δが10μmのときは、インク滴の着弾位置ずれは殆ど無く、5μmのときは、わずかにインク滴の着弾位置ずれが見られた。
【0059】
図12は、パラメータrに対するインク滴着弾位置ずれの大きさを調査した結果を示すグラフである。
このグラフは、上述した設計の妥当性を具体的に調査したものであり、想定される接合位置ずれδが、5×10−6(m)、10×10−6(m)の場合について、パラメータrと着弾位置ずれの関係を調査した。但し、ノズルと記録媒体との距離は、1.5×10−3(m)と仮定した。図に示すように、軸心ずれ量δが、5μmであっても10μmであっても、軸心ずれ量δの大きさに関係なく、パラメータr=0.2〜0.6程度で着弾位置が比較的大きくずれているが、パラメータr=0.8以上では、インク滴着弾位置は殆どずれず、ほぼ許容範囲に収まることが分かる。これは、上述した式(5)による式(6)の結果とよく一致する。すなわち、式(5)によって段差20の大きさdを設定すれば、要求される着弾精度を満足できるインク滴の吐出を得ることが可能になる。
【0060】
◇第2実施例
図13は、この発明の第2実施例であるインクジェット記録ヘッドのノズル近傍の流路部分を示す斜視図である。図13(a)は軸心ずれがない場合を示し、図13(b)は軸心ずれがある場合を示す図である。
この第2実施例の構成が、上述の第1実施例の構成と大きく異なるところは、第1実施例では、円錐台形状の圧力発生室12を有するインクジェット記録ヘッドを用いているのに対して、この第2実施例では、シリコン単結晶ウエハに異方性エッチングを施すことによって形成される四角錐台形状の圧力発生室を有するインクジェット記録ヘッドを用いている点であり、この例においても、上述の式(3)乃至式(6)を適用することができる。
【0061】
この例のインクジェット記録ヘッドは、圧力発生室が四角錐台形状であるが、上述した第1実施例と同様に、ノズルプレート17と流路プレート18とを別工程により製造し、しかる後、接着剤等により接合することによって形成される。その際、図13(a)に示すように、ノズルプレートのノズル11と、流路プレートの圧力発生室のノズル近傍にある出口部19’との接合部の断面積が異なる場合、その接合部には、段差20’が生じる。図13(a)に示す段差20’は、ノズル11の軸心と圧力発生室12の出口部19’の軸心とが一致しているので、段差20’もノズル11の中心軸に対して左右対称になっている。しかし、実際には、上述したようにノズルプレートと流路プレートとを別工程により接合しているので、接合位置がずれることが多い。従って、図13(b)に示すように、ノズル11の軸心と圧力発生室の出口部19’の軸心とは一致せず、接合部における軸心ずれが発生し、段差20’がノズル11の中心軸に対して非対称になっている。そのため、ノズル11におけるインクの流れが曲がり、結果としてインク滴の吐出方向が不適正になる。
【0062】
すなわち、圧力発生室が四角錐台形状である場合に、ノズル11の平均内径φ(m)と、ノズルプレートの厚さh(m)とは、前述の第1実施例と同様であるが、ノズル11の中心軸と出口部19’の中心軸とが一致しないために、軸心ずれが生じている。このように、ノズルプレートと流路プレートとの接合工程において、両者の接合位置ずれに起因して、ノズル11の中心軸23’と圧力発生室の出口部19’の中心軸24’との間に軸心ずれが生じ、各プレートの接合位置ずれが発生すると、ノズル11近傍の流路部分の形状は、ノズル11と出口部19’との接続部の段差20’がノズル11の中心軸23’に対して非対称になる。
【0063】
上記段差20’の非対称性を表すパラメータとして、上述した式(3)のr=(d−δ)/(d+δ)で表されるパラメータrを導入し、そのrの値を1に近づけるべく段差20’の大きさdを大きく設定し、要求する吐出特性を満足するようなパラメータrを、ノズル11の長さh,ノズル11の平均内径φ、及び無次元定数αを用いて式(4)に示すようにr=αφ/hと求め、パラメータの範囲を式(5)のr>αφ/hにて規定し、式(5)において導入された無次元定数αを数値流体力学により定量的に求め、式(6)に示すように、r>0.3φ/hとすることができる。
【0064】
◇第3実施例
第1,第2実施例は,図14のように,圧力発生室12が軸対称な形状をなし,かつその対称軸がノズル11の中心軸と一致するような場合を想定していた.しかしながら,本発明が有効となるのは,ノズルと連通する部分において圧力発生室が軸対称な形になっている場合であり,必ずしも圧力室全体が軸対称になっている必要はない.
【0065】
図17は,圧力発生室が,圧電アクチュエータ13の駆動により圧力波を発生するための部分(圧力発生室12)と,ノズル11と圧力発生室12を連通する部分(連通路25)とに分かれているタイプのインクジェットヘッドの断面図である.このとき,連通路25が軸対称な形状になっており,かつその中心軸がノズル11の中心軸と一致していれば,この発明は適用可能であり,要求する吐出方向精度を確保するべくノズル直下段差の大きさdを規定できる.
【0066】
なお,連通路の形状は軸対称であればよく,例えば円柱状,多角柱状,円錐台状,多角錘台状の場合において本発明は有効である.ノズル直下段差の規定方法としては,第1,第2実施例と全く同じ手法が適用できる.
【0067】
以上、この発明の実施例について図面を参照して詳細に説明してきたが、この発明は、上記実施例の構成に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
例えば、上記実施例では、圧力発生手段として圧電アクチュエータ13を用いているが、これに限らず、静電力や磁力を利用した電気機械変換素子やヒータ等の電気熱変換素子等、他の圧力発生手段を用いても構わない。
【0068】
また、上記実施例では、「引き打ち」により微小なインク滴を吐出する際に、この発明は大きい効果を発揮すると説明したが、これに限らず、「引き打ち」によらない吐出方法においても、吐出方向の真直性確保に効果がある。
【0069】
また、上記実施例では、圧力発生室12のノズル11近傍部が、円錐台状もしくは多角錘台状になっているが、これに限らず、ノズル11の中心軸に対して対称な構造、例えば、円柱状,多角柱状の流路構造であっても差し支えない。
【0070】
また、上記実施例では、記録紙上に着色インクを吐出して文字や画像等の記録を行うインクジェット記録装置を例に挙げたが、この発明におけるインクジェット記録とは、記録紙上への文字や画像の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は、紙に限定されているわけではなく、また、吐出する液体も着色インクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上に着色インクを吐出してディスプレイ用のカラーフィルタを作成したり、溶融状態のはんだを基板上に吐出して、部品実装用のバンプを形成したりする等、工業的に用いられる液滴噴射装置一般に対してこの発明を利用することも可能である。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の構成によれば、ノズルプレートと流路プレートとの接合における位置ずれの許容度を大きくすることができるため、吐出するインク滴の真直性を確保しながら、インクジェットヘッドの製造コストを抑制し、歩留まりを向上することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例であるインクジェット記録ヘッドの概略構成を示す平面図である。
【図2】この発明の第1実施例であるインクジェット記録ヘッドの構成を示す断面図である。
【図3】図2のインクジェット記録ヘッドのノズル近傍の流路部分(円錐台形)を示す拡大斜視図である。図3(a)は軸心ずれがない場合を示し、図3(b)は軸心ずれがある場合を示す。
【図4】位置ずれδ=10μm、r=0.2のときのインク滴吐出を示す図である。
【図5】位置ずれδ=10μm、r=0.4のときのインク滴吐出を示す図である。
【図6】位置ずれδ=10μm、r=0.6のときのインク滴吐出を示す図である。
【図7】位置ずれδ=10μm、r=0.8のときのインク滴吐出を示す図である。
【図8】位置ずれδ=5μm、r=0.2のときのインク滴吐出を示す図である。
【図9】位置ずれδ=5μm、r=0.4のときのインク滴吐出を示す図である。
【図10】位置ずれδ=5μm、r=0.6のときのインク滴吐出を示す図である。
【図11】位置ずれδ=5μm、r=0.8のときのインク滴吐出を示す図である。
【図12】パラメータrに対するインク滴着弾位置ずれの大きさを示すグラフである。
【図13】この発明の第2実施例であるインクジェット記録ヘッドのノズル近傍の流路部分(角錐台形)を示す拡大斜視図である。図13(a)は軸心ずれがない場合を示し、図13(b)は軸心ずれがある場合を示す。
【図14】一般的なインクジェット記録ヘッドの構成を示す断面図である。
【図15】インク滴着弾位置ずれのない場合の状態を示す断面図である。図15(a)はメニスカス引き込み前の状態を示し、図15(b)メニスカス引き込み後の状態を示し、図15(c)はインク滴吐出の状態を示す図である。
【図16】インク滴着弾位置ずれのある場合の状態を示す断面図である。図16(a)はメニスカス引き込み前の状態を示し、図16(b)メニスカス引き込み後の状態を示し、図16(c)はインク滴吐出の状態を示す図である。
【図17】圧力発生室が,駆動圧力を発生する部分と連通路に分離しているインクジェット記録ヘッドの構成を示す断面図である.
【符号の説明】
11 ノズル
12 圧力発生室
13 圧電アクチュエータ(圧力発生手段)
14 振動板
15 インク供給路
16 共通インク室
17 ノズルプレート(ノズル形成部材)
18 流路プレート(流路形成部材)
19,19’ 出口部
20,20’20a,20b 段差
21,21a,21b メニスカス
22,22a,22b インク滴
23,23’ ノズルの軸心
24,24’ 圧力発生室の出口部の軸心
25 連通路
r パラメータ δ 軸心ずれ量(軸心間の距離)
d 段差の大きさ
h ノズルの長さ
φ ノズルの平均内径
α 無次元定数
Claims (1)
- インクを吐出するノズルと、ノズルに連通され圧力を発生させる圧力発生室と、圧力発生室にインクを搬送する共通インク通路と、前記各圧力発生室と前記共通インク通路とを連通するインク供給路と、前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを備え、前記ノズルを形成するノズル形成部材と、前記圧力発生室、前記共通インク通路、前記インク供給路を形成する流路形成部材とが接合されてなるインクジェット記録ヘッドを用い、
前記ノズルの長さをh、前記ノズルの平均内径をφ、前記圧力発生室の中心軸と前記ノズルの中心軸との軸心間の距離をδ、前記圧力発生室と前記ノズルとが対向して接続される面に生じる段差の大きさをdとするとき、
前記ノズルの平均内径φを、10×10 −6 乃至40×10 −6 m、前記ノズルの長さhを、5×10 −6 乃至100×10 −6 mに設定し、次に、前記段差の大きさdを、式(1)を満足するように設定することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【数1】
(d−δ)/(d+δ)>0.3φ/h ・・・(1)
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