JP4417032B2 - 光触媒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属クロリン・フラーレン連結分子及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、超長寿命の電荷分離状態を有し、光触媒分子やエネルギー変換の素子構成分子等の分野への応用が期待される金属クロリン・フラーレン連結分子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然界の光合成反応中心では、連続的な多段階電子移動を利用し、長寿命の電荷分離状態が達成されている。そこで、自然界の多段階電子移動をまねて、電子移動を媒介する分子を組み込んだ、電子供与体・電子受容体連結分子が数多く開発されている。
【0003】
しかしながら、そのほとんどの電荷分離状態の寿命もマイクロ秒オーダーと短く、本発明者らも、自然界の寿命に匹敵する380msという長寿命を有する四分子体(フェロセン・亜鉛ポルフィリン・フリーベースポルフィリン・フラーレン連結分子)を見い出し、既に報告している(非特許文献1参照)ものの、自然界の光合成反応中心を超える電荷分離状態を有するものは未だ報告されていない。
【0004】
さらに、自然界の光合成反応中心及び従来報告されている電子供与体・電子受容体連結分子のいずれにおいても、多段階にわたる連続した電子移動によるエネルギー損失が大きいという欠点を有する。
【0005】
【非特許文献1】
J, Am, Chem, Soc, 2001, 123, p.6617
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、前記従来技術に鑑みて種々検討を重ねた結果、連結距離の短い亜鉛クロリン・フラーレン連結分子が、自然界の光合成反応中心と比較してもはるかに長い寿命を有することを見い出し、かかる知見をもとに本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、自然界の光合成反応中心の電荷分離寿命を超える超長寿命の電荷分離状態を有し、かつ電子移動によるエネルギー損失の小さい金属クロリン・フラーレン連結分子を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、式(I):
【0009】
【化7】
【0010】
(式中、
【0011】
【化8】
【0012】
で表される基は、5員環と6員環からなるフラーレン骨格を有する、炭素数(m)が60又は70の基を示す。R1 〜R3 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。R4 は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。R5 〜R8 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基又は−Cn H2n−COOCH3 (nは1又は2である)を示す。R9 及びR10は、水素原子又はメチル基を示す。Mは亜鉛又はマグネシウムを示す。)
で表される金属クロリン・フラーレン連結分子からなる光触媒に関する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の金属クロリン・フラーレン連結分子(以下、「MCh−Cm 」ともいう)は、式(I):
【0020】
【化12】
【0021】
式中、
【0022】
【化13】
【0023】
で表される基は、5員環と6員環からなるフラーレン骨格を有する、炭素数(m)が60又は70の基を示す。R1 〜R3 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。R4 は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。R5 〜R8 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基又は−Cn H2n−COOCH3 (nは1又は2である)を示す。R9 及びR10は、水素原子又はメチル基を示す。Mは亜鉛又はマグネシウムを示す。)
で表される。
【0024】
式(I)において、R1 〜R3 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【0025】
R4 は、水素原子又は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基を示し、これらの中ではヘキシル基が好ましい。
【0026】
R5 〜R8 は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基又は−Cn H2n−COOCH3 (nは1又は2である)を示す。
【0027】
R9 及びR10は、水素原子又はメチル基を示し、これらの中では、メチル基が好ましい。
【0028】
Mは亜鉛又はマグネシウムを示し、本発明では、化合物の安定性の観点から、亜鉛が好ましい。
【0029】
本発明において、MCh−Cm の具体例としては、例えば、式(Ia):
【0030】
【化14】
【0031】
で表される亜鉛クロリン・フラーレン(C60)連結分子(ZnCh−C60)が挙げられる。
【0032】
MCh−Cm は、式(II):
【0033】
【化15】
【0034】
(式中、R1 〜R9 は前記と同じ。)
で表されるクロリンと炭素数60又は70のフラーレンと連結部を形成する化合物とを反応させて、式(III):
【0035】
【化16】
【0036】
(式中、
【0037】
【化17】
【0038】
で表される基及びR1 〜R10は前記と同じ。)
で表されるクロリン・フラーレン連結分子(Ch−Cm )を得た後、さらに該式(III)で表されるクロリン・フラーレン連結分子の亜鉛錯体又はマグネシウム錯体を形成する方法により、得ることができる。
【0039】
式(II)で表されるクロリンとフラーレンと連結部を形成する化合物との反応は、1,3−双極付加環化反応により、連結部を形成する化合物を介して、式(II)で表されるクロリンとフラーレンとを連結する工程であり、例えば、クロリンとフラーレン及び両者の連結部を形成する化合物を混合し、好ましくは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、溶媒中で還流させることにより行うことができる。
【0040】
式(II)で表されるクロリンは、例えば、J. Phys. Chem A, 2002, 106, p.5105に記載の方法に従って、製造することができる。
【0041】
炭素数60又は70のフラーレンは、東京化成工業株式会社等より市販されており、それらの市販品をそのまま使用することができる。かかるフラーレンの使用量は、反応選択性の観点から、式(II)で表されるクロリン1当量に対し、1〜10当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。
【0042】
連結部を形成する化合物としては、サルコシン等が挙げられる。かかる化合物の使用量は、高収率を得る観点から、式(II)で表されるクロリン1当量に対し、1〜5当量が好ましく、4〜5当量がより好ましい。
【0043】
溶媒としては、トルエン等が挙げられ、その使用量は、還流が可能な程度であれば特に限定されない。
【0044】
生成した式(III)で表されるCh−Cm は、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製方法により、単離することができる。
【0045】
式(III)で表されるCh−Cm の亜鉛錯体又はマグネシウム錯体の形成は、例えば、Ch−Cm と、酢酸等の有機酸の亜鉛塩又はマグネシウム塩とを、それぞれ溶媒に溶解させた溶液を混合し、好ましくは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、室温で攪拌することにより、行うことができる。
【0046】
有機酸の亜鉛塩又はマグネシウム塩の使用量は、式(III)で表されるCh−Cm 1当量に対し、10〜1000当量程度が好ましい。
【0047】
Ch−Cm 又は有機酸の亜鉛塩もしくはマグネシウム塩を溶解させる溶媒としては、メタノール等のアルコール、クロロホルム等が挙げられる。
【0048】
生成した式(I)で表されるMCh−Cm は、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製方法により、単離することができる。
【0049】
本発明のMCh−Cm は、MChからCm への電子移動により、電荷分離状態(MCh・+−Cm ・-)に達するが、金属クロリンとフラーレン間の距離が短く、かつ付加環化反応により形成された窒素原子を含む複素環により連結されている点に大きな特徴を有している。
【0050】
MCh−Cm の構造最適化は、PM3法等を用いて行うことができ、例えば、前記式(Ia)で表されるZnCh−C60の場合、PM3法により最適化された連結分子における亜鉛クロリンとフラーレン(C60)の距離は、図1に示すように、約2.6Åと算出される。
【0051】
本発明のMCh−Cm は、この特徴的な構造により、かかる電子移動が1段階で行われるため、多段階にわたる電子移動において避けることのできないエネルギー損失を大幅に低減することができ、さらに、自然界の光合成反応中心の電荷分離寿命(1秒程度)をはるかに凌ぐ超長寿命の電荷分離状態(例えば、式(Ia)で表されるZnCh−C60の場合は、−150℃で120秒間)を維持することができる。
【0052】
このように、1段階の電子移動により超長寿命の電荷分離状態が得られ、かつエネルギー損失も小さい本発明の金属クロリン・フラーレン連結分子は、光触媒分子やエネルギー変換の素子構成分子等の分野への応用が期待される。
【0053】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例になんら限定されるものではない。
【0054】
実施例1a〔Ch−C60の製造〕
3−ホルマル−3−デビニル−パープリン−18−N−ヘキシルイミドメチルエステル(104mg,1.0eq)、フラーレン(C60)(127mg,1.1eq)及びサルコシン(72mg,5.0eq)の混合物を、乾燥トルエン中、窒素雰囲気下で17時間還流した。溶液を室温まで冷却した後、溶離液としてジクロロメタンを通じたアルミナ(Brockman Grade III)カラムにかけた。主要なフラクションを回収し、溶媒を蒸発させた生成物を、さらにアルミナ(Grade III )カラムを用いたクロマトグラフィーにより分離し、ヘキサン/ジクロロメタンを、最初は2/3、その後1/2の体積比で用い、極性を変化させながら溶出させて、パープリン−18−N−ヘキシルイミド−C60連結分子(67mg)と未反応の3−ホルマル−3−デビニル−パープリン−18−N−ヘキシルイミドメチルエステル(Ch−C60,25mg)を得た。構造を同定するスペクトルデータを以下に示す。
【0055】
1.UV-vis in CHCl3[λmax (ε)]: 370(59638), 421(149136), 485(7979), 514(8802), 551(25911), 655(8637), 711(57417)
2.1H NMR(400MHz, CDCl3):δ 11.18, 11.16(total 1H, each s, 5-H), 9.67, 9.65, 9.61 (total 1H, s, splitting s, s, 10-H), 8.68, 8.58 (total 1H, splitting s, s, 20-H), 6.56, 6.20, 6.16, (total 1H, each s, 2'-H), 5.40(1H,m,17-H), 5.20 (1H, m, one proton of 5'-H), 4.55-4.29(4H, m, 18-H, one proton of 5'-H and -NCH 2 CH2CH2CH2CH2CH3), 3.89, 3.85, 3.83, 3.82, 3.59, 3.58, 3.54, 3.52, 3.44, 3.42, 3.31, 3.06, 3.03, 3.00, 2.97, 2.85, 2.81 (total 15H, each s, 2-CH3, 7-CH3, 12-CH3, 1'-CH3, 1×methyl ester), 3.68(2H, m, 8-CH 2 CH3), 2.71, 2.39, 1.99(1H, 2H, 3H, 17- CH 2 CH 2 COOCH3 and -NCH2 CH 2 CH2CH2CH2CH3), 1.86-1.56 (total 8H, m, 18-CH3, 8-CH2 CH 3 , -NCH2CH2 CH 2 CH2CH2CH3), 1.45(4H, m, NCH2CH2CH2 CH 2 CH 2 CH3), 0.94(3H, t, J=7.2Hz, -NCH2CH2CH2CH2CH2 CH 3 ), -0.13, -0.16, -0.20 (total 2H, each br s, 2× -NH)
3.MS(FAB) m/z 1411.4 (MH+ ,100)
4.HRMS (FAB): C101H51N6O4 計算値 1411.397; 測定値 1411.393
【0056】
実施例1b〔ZnCh−C60の製造〕
酢酸亜鉛の無水物(500mg,92eq)をメタノール(15ml)に溶解させた溶液を、実施例1aに記載の方法により得られたパープリン−18−N−ヘキシルイミド−C60連結分子(42mg)をクロロホルム(50ml)に溶解させた溶液に添加した。得られた溶液を、真空下で脱気し、窒素雰囲気下、室温で19時間攪拌した。反応混合物を、水(50ml)で6回洗浄した。有機層を回収し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、溶媒を除去し、前記式(Ia)で表されるパープリン−18−N−ヘキシルイミド−C60連結分子の亜鉛(II)錯体(ZnCh−C60)を定量的収率で得た。構造を同定するスペクトルデータを以下に示す。
【0057】
1.UV-vis in CHCl3[λmax (ε)]: 404(71468), 427(120372), 515(6745), 555(11082), 631(12688), 685(57094)
2.1H NMR(400MHz, CDCl3):δ 11.14, 11.11 (total 1H, each s, 5-H), 9.47, 9.43 (total 1H, s, splitting s, 10-H), 8.43, 8.33 (total 1H, both s, 20-H), 6.48, 6.12 (total 1H, s, splitting s, 2'-H), 5.40-5.17 (2H, m, 17-H and one proton of 5'-H), 4.52, 4.45, 4.21, 4.09 (total 4H, d, dd, m, m, J=9.6, 9.5, 3.5 Hz, 18-H, one proton of 5'-H and -NCH 2 CH2CH2CH2CH2CH3), 3.76, 3.63, 3.62, 3.60, 3.58, 3.40, 3.31, 3.29, 3.25, 3.08, 3.05, 3.01, 2.95, 2.93 (total 15H, each s, 2-CH3, 7-CH3, 12-CH3, 1'-CH3, 1×methyl ester), 3.64 (2H, m, 8-CH 2 CH3), 2.55, 2.22, 1.84 (1H, 2H, 3H, 17- CH 2 CH 2 COOCH3 and -NCH2 CH 2 CH2CH2CH2CH3), 1.74-1.56 (total 6H, m, 18-CH3 and 8-CH2 CH 3 ), 1.51 (2H, m, -NCH2CH2 CH 2 CH2CH2CH3), 1.39 (4H, m, NCH2CH2CH2 CH 2 CH 2 CH3), 0.92 (3H t, J=7.0Hz, -NCH2CH2CH2CH2CH2 CH 3 )
【0058】
〔ZnCh−C60の電気化学・光化学特性と電荷分離状態についての検討〕
▲1▼ ベンゾニトリル(PhCN)中、ZnCh−C60の吸収スペクトルを、紫外可視分光高度計を用いて測定した。
その結果、得られた吸収スペクトルは、ZnCh−C60分子を構成する各発色団成分によるスペクトルが重ね合わさったものであった。従って、基底状態の配置における個々の発色団間の電気相互作用はほとんどないものと推定される。
【0059】
▲2▼ 0.1MのBu4 NClO4 を含む、25℃で脱気されたPhCN中、ZnCh−C60のサイクリックボルタンメトリーの測定を行った。
得られたサイクリックボルタモグラムを図2に示す。かかるサイクリックボルタモグラムは、ZnCh−C60の3つの一電子還元過程(−0.53V,−1.09V,−1.60V)、ZnChの2つの一電子還元過程(−0.94V,−1.46V)及びZnChの1つの一電子酸化過程(0.73V)から構成されていた。
【0060】
▲3▼ ZnCh−C60を含む脱気されたPhCN溶液に、チタンサファイアレーザーを用いて、410nmの単色光を照射し、光励起させたところ、730nmで最大となる蛍光を発した。ZnCh部の発光に関しては、730nmで蛍光減衰が観測された。
【0061】
▲4▼ ZnCh−C60の蛍光寿命を蛍光寿命測定装置「C4334−01」(ハママツフォトニクス社製)を用いて測定した。
ZnCh−C60の蛍光寿命(τ=10ps)は、ZnChの一重項励起状態(1ZnCh* ) からC60への電子移動によってZnCh(τ=2.7ns)に対して、非常に小さい値であった。
また、 1ZnCh* からC60への電子移動の速度定数(kET)は、ZnCh−C60と連結していないZnChの相互の寿命間の差から、1.0×1011s-1と求められた。
【0062】
▲5▼ PhCN中、 1ZnCh* 部からC60部への光誘起電子移動の自由エネルギー変化(−ΔG°ET)は、ZnCh−C60におけるZnCh部の一電子酸化電位と励起エネルギー(S1 =1.70eV)及びC60部の一電子還元電位から、−0.49eVと決定された。
【0063】
▲6▼ 25℃で脱気されたPhCN中、1.0×104 MのZnCh−C60の過渡吸収スペクトルをピコ秒過渡吸収測定装置「vis−OPO」(Clark−MXR社製)を用いて測定した。得られたスペクトルを図3(a)〜(c)に示す。
図3(a)は、388nmのレーザー励起後、0ps及び40psでの過渡吸収スペクトルを示し、ZnCh−C60は、388nmのレーザーパルスにおいて、ZnChの一重項励起状態により460nmで過渡吸収が最大となった。
また、減衰速度定数は1.0×1011s-1と求められ、これは蛍光寿命測定装置により測定された電子移動の速度定数(kET)の値と一致していた。
【0064】
図3(b)は、460nmと590nmにおける減衰の経時変化を示すグラフを、図3(c)は、より長いタイムスケールでの590nmにおける減衰の経時変化を示す。これらのグラフから明らかなように、460nmでの 1ZnCh* による吸収の減衰は、ZnCh・+による590nmでの吸収増大を伴っていた。
これは、ZnChからC60への電子移動による、CS状態、即ちZnCh・+−C60 ・-の形成を示している。
【0065】
▲7▼ CS状態は、ナノ秒過渡吸収測定装置を用い、25℃で脱気されたPhCN溶液中、1.0×10-4MのZnCh−C60のナノ秒レーザーパルス励起(355nm)により得られた過渡吸収スペクトルとしても検出することができた。得られたスペクトルを図4(a)に示す。
図4(a)は、355nmのレーザー励起後、1.0マイクロ秒後の過渡吸収スペクトルである。図4(a)において、1000nmでの吸収バンドは、一官能化されたフラーレンのラジカルアニオンに帰属される。また、790nmでの吸収バンドはZn−Chのπ−ラジカルカチオンの吸収バンドと一致している。従って、図4(a)の過渡吸収スペクトルは、CS状態(ZnCh・+−C60 ・-)の形成を意味している。
【0066】
CS状態のエネルギー(1.26eV)は、C60(1.50eV)とZnCh(1.36−1.45eV)の三重項励起状態の両方よりも低い。
【0067】
図4(a)で検出されたCS状態は、三重項励起状態よりもむしろ基底状態に戻る逆電子移動(BET)を経て減衰する。
【0068】
BET速度(kBET )は、ZnCh・+−C60 ・-中のZnCh・+による790nmでの吸収バンドの消滅から求められる。図4(b)は790nmにおける減衰の経時変化を示すグラフであり、図4(c)は図4(b)のグラフをもとに、一次プロットしたものである。図4(c)から明らかなように、吸収バンドの減衰は一次反応速度論に従っており、kBET 値は、4.2×103 s-1と求められる。それにより、CS状態の寿命は、25℃で230μsとなる。これは、電子供与体−電子受容体連結分子系における分子内電荷再結合として報告された溶液における、最も長い寿命(340μs)に匹敵する。
【0069】
▲8▼ CS状態の形成は、−150℃の凍結PhCN中、ZnCh−C60への光照射のもと、電子スピン共鳴(ESR)装置を用いて測定したESRスペクトルによっても検出することができた。得られたスペクトルを図5(a)に示す。
【0070】
図5(a)に示すESRスペクトルは、2つの特徴的なシグナルからなり、1つは、フリースピン値(2.0023)よりも小さいg値(2.0007)で、有機フラーレンのラジカルアニオンに帰属しており、もう1つは、フリースピン値よりも高いg値(2.0033)でZnChのラジカルカチオンに帰属する。
【0071】
図5(b)は、ESRのシグナル強度の減衰の経時変化を示すグラフであり、ESRのシグナル強度の消滅は1次反応速度論に従っている。
【0072】
▲9▼ 減衰速度定数(kBET )の温度依存性を、ナノ秒過渡吸収測定装置を用いたレーザーフラッシュ光分解(25−65℃)により観測されるPhCN溶液中で、またESRシグナルの減衰(−150〜−100℃)により観測される凍結PhCN溶液中で試験した。
【0073】
その結果、kBET の温度依存は、図5(c)に示されるように、マーカス式:
【0074】
【数1】
【0075】
によく適合している。図5(c)は、ZnCh・+−C60 ・-のBETとして、絶対温度(T)の逆数(T-1)に対するlnkBET T1/2 をプロットしたグラフである。このグラフの傾きと切片から、BETの再配列エネルギー(λ=0.47eV)とエレクトロニックカップリングマトリックスエレメント(V=5.6cm-1)が得られる。BET速度定数の温度依存は、BETが、電子移動速度がドライビングフォース(ΔG°BET )の増加とともに低下するマーカスの逆転領域にあることを示している。
【0076】
−150℃でのCS状態の寿命は、120秒と長く、今まで電子供与体・電子受容体連結系において報告されたなかで、最も長いCS寿命である。
【0077】
【発明の効果】
本発明の金属クロリン・フラーレン連結分子は、自然界の光合成反応中心の電荷分離寿命を超える超長寿命の電荷分離状態を有し、かつ電子移動によるエネルギー損失が小さいという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、PM3法による算出された、式(Ia)で表されるZnCh−C60の最適構造を示す模式図である。
【図2】図2は、298K(25℃)で脱気されたPhCN中、0.1MのBu4 NClO4 の存在下での、ZnCh−C60のサイクリックボルタモグラムである。
【図3】図3(a)は、25℃で脱気されたPhCN中、388nmのレーザー励起後、0ps及び40psでの、ZnCh−C60(1.0×10-4)の過渡吸収スペクトルである。図3(b)は、460nm及び590nmにおける減衰の経時変化を示すグラフである。図3(c)は、より長いタイムスケールでの590nmにおける減衰の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4(a)は、25℃で脱気されたPhCN中、355nmのレーザー励起後、1.0μsでの、ZnCh−C60(1.0×10-4)の過渡吸収スペクトルである。図4(b)は、790nmにおける減衰の経時変化を示すグラフである。図4(c)は、図4(b)をもとに一次プロットしたものである。
【図5】図5(a)は、−150℃で脱気されたPhCN中のZnCh・+−C60 ・-のESRスペクトルである。図5(b)は、ESRシグナル強度の経時変化を示すグラフである。図5(c)は、ZnCh・+−C60 ・-のBETとして、T1 に対するlnkBET T1/2 をプロットしたグラフである。○印はレーザーフラッシュ光分解による測定されたものを、●印はESRにより測定されたものを、それぞれ示す。
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