JP4413290B2 - 配向制御又は構造制御された有機薄膜の製造方法 - Google Patents

配向制御又は構造制御された有機薄膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、液晶配向膜,光電気変換素子,非線形光学素子,センサー等に使用される配向制御又は構造制御された有機薄膜を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機配向膜の製膜方法は、液相を利用するウエットプロセスと気相,特に真空中におけるドライプロセスに大別される。
ウエットプロセスには、溶媒を蒸発揮散させて薄膜を形成するキャスト法,水面上で単分子膜を積層するLB法,液相から薄膜状に結晶成長させる液相エピタキシャル法,電極の表面で有機物質を電解重合させる電解重合法,電解によって酸化皮膜を形成する陽極酸化法,微粒子を分散成長させる電着法等がある。
ドライプロセスには、真空蒸着法,超高真空を使用するMBE法,クラスターイオンビーム法,イオンビームを併用する真空蒸着法,高周波イオンプレーティング法,スパッタリング法,プラズマ重合法,CVD法等がある。
なかでも、LB法,真空蒸着法,クラスターイオンビーム法,イオン照射真空蒸着法は、配向性の良好な薄膜を製造する上で有利な方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の製膜法では、良好な配向性で製膜可能な有機化合物の種類が非常に制限される。たとえば、LB法では1分子中に親水基及び疎水基を併せ持つ有機化合物が必要とされる。他方、液晶配向膜,光電子変換素子,非線形光学素子,センサー等の用途で要求される高機能を考慮すると、有機配向膜がより高度に配向されていることが必要となる。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、有機化合物を溶存させた電解質溶液に電極として浸漬した基体に加える電圧を調整することにより、溶存分子が吸着する際に有機薄膜の配向性や分子配列を制御し、配向性に優れ或いは特定の分子配列構造をもつ有機薄膜を得ることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の製造方法においては、有機分子を溶存させた電解質溶液中に金属質基体を電極として浸漬する。そして、水素発生領域(カソード領域)の電位を金属質基体に印加し、金属質基体の表面を発生期の水素で清浄化する。次いで、有機分子と金属質基体との間の平衡電位に印加電圧を変更する。この電位変更に伴って、有機分子が金属質基体に吸着され、有機単分子吸着膜が金属質基体の表面で成長する。
有機単分子吸着膜となる有機分子は、金属質基体を電解質溶液に浸漬する前、或いは浸漬後の何れの段階で電解質溶液に溶存させておいてもよい。
金属質基体及び有機分子は、吸着反応が生じる限り、任意の組合せを採用できる。たとえば、芳香族炭化水素,カルボン酸,フェノール等を有機分子とするとき、Pt,Rh等が金属質基体として使用される。また、ベンゼン,カルボン酸,N含有複素環式化合物等を有機分子とする場合には、Cu,Ag等を金属質基体として使用できる。しかし、これらの組合せは単なる例示であり、本発明を何ら拘束するものではない。本発明の範囲は、請求項で特定された要件から理解されるべきものである。
【0005】
【作用】
走査型トンネル顕微鏡(STM)の発展に伴って、種々の物質を分子レベル又は原子レベルで観察することが可能になった。有機薄膜についても、作製された有機薄膜の配向性を走査型トンネル顕微鏡で観察し、配向性に優れた有機薄膜の製造に観察結果を利用する例が多数報告されている。
しかし、従来の報告例は、真空蒸着法,クラスターイオンビーム法,イオン照射真空蒸着法等のドライプロセスで製膜した有機薄膜に関するものであり、薄膜自体を真空中に保持しない限り保存できないものがほとんどである。
製膜された有機薄膜の配向性、特に分子レベル又は原子レベルでの配列構造は、構成分子の表面への供給量が本質的に連続的になっている。したがって、一定の配列構造を完成させるためには、高精度で供給量や基板条件を制御することが必要になる。しかし、分子レベル又は原子レベルで供給量や基板条件を制御することは、非常に困難である。
【0006】
本発明は、有機分子を溶存させた電解質溶液中で基体を電極として電位制御することにより、このような困難を克服している。電位制御は、溶存分子の吸着を進行させ、液相中で形成される有機薄膜の配向性や配列構造を制御することにも有効に作用する。有機薄膜の配向性や配列構造は、有機分子と金属質基体の組合せを選択することによっても制御される。
有機分子を添加している電解質溶液に電極として金属質基体を浸漬し、金属質基体と有機分子との間の電気化学的平衡電位に金属質基体を維持する。これにより、有機分子が金属質基体の表面に吸着され、単分子薄膜となって成長する。
電解質溶液は、電解質を含む水性又は有機質溶液の何れであっても良い。
【0007】
金属質基体は、薄膜製造に先立って清浄化され、次いで薄膜構成要素となる有機分子を溶存した酸性又はアルカリ性溶液に浸漬される。有機分子は、金属質基体の浸漬前又は浸漬後の何れの時期においても酸性又はアルカリ性溶液に添加することができる。
有機分子の吸着は、金属質基体を酸性又はアルカリ性溶液に浸漬した当初から開始される。しかし、自然発生的な吸着は、不規則である。この不規則な吸着は次のようにして抑制され、配向性のよい有機薄膜が製造される。
先ず、金属質基体を水素発生領域の電位に調整し、発生期の水素によって金属質基体の表面を清浄化する。清浄化のために印加する電圧は、金属や電解質の種類によって異なる。たとえば、10mM純フッ化水素酸中の(111)配向単結晶Rhを例にとると、図2の電流−電位曲線より、約0.2V vs.R.H.E.(対可逆水素電極)より低い電位で水素が発生する。そこで、約0.2V vs.R.H.E.より低い電位を金属質基体に印加し、基体表面を清浄化する。しかし、水素発生が激しくなる電位を印加すると、発生した水素によって却って金属表面が荒らされることから、下限電位を約0.1 vs.R.H.E.に設定する。
次いで、STM(走査型トンネル顕微鏡)等で予め確認されている目標構造をもつ単分子膜の製造に適した値に金属質基体の電位を変更する。この電位に維持して所定の時間が経過した後では、電解質溶液に添加されている有機分子の吸着速度及び脱着速度が互いにバランスする。吸着速度が脱着速度と平衡したとき、有機分子と金属質基体との間に電気化学的な平衡が成り立ち、生成される薄膜が単分子構造をもつものとなる。
【0008】
従来の真空蒸着で分子吸着層を形成する場合、分子供給量を制御することにより、単分子層以下の吸着量にもなれば、多層分子吸着層にもなる。これに対し、通常の濃度条件下の溶液中では、単分子膜が瞬時に完成する。単分子膜の生成は、溶液中に共存する水素イオンの作用によって単分子膜以上の量の分子の化学吸着が阻止されることに原因があるものと推察される。すなわち、水素イオンの反応を電位制御することは、多層分子膜への堆積も制限することに有効であり、専ら単分子膜を生成させる。
同様に、金属質基体を予め他の有機薄膜で覆っておくことも、基体に対する有機物の吸着を調整する有効な方法である。この種の有機薄膜としては、一つの分子中に親水基及び疎水基をもつ両親媒性化合物等から作製される。両親媒性化合物には、炭化水素又は水素をハロゲンに置換した炭化水素を疎水基とし、−SO3 H,−SO3 M,−OSO3 H,−OSO3 M,−COOM,−NR3 X,−COOH,−NH2 ,−CN,−OH,−NHCONH2 ,−(OCH2 CH2)n ,−CH2 OCH3 ,−OCH3 ,−COOCH3 ,−CS(ただし、Rはアルキル基,Mはアルカリ金属又は−NH4 ,Xはハロゲンを示す)等を親水基としてもつ芳香族化合物が代表的なものである。
【0009】
金属質基体への吸着により生成する有機薄膜は、同一の有機分子においても基体金属の種類によって異なる配列構造をとらせることができる。たとえば、有機分子との間には強い相互作用を呈するVIII族の純金属基体を金属質基体として使用すると、分子の配向が揃った一様な単分子吸着膜が形成されるケースが極めて多い。
また、同一基体と同一分子との組合せにおいても幾つかの配列構造が実現する場合があるが、それぞれの配列構造に関する生成自由エネルギが異なる。したがって、その生成自由エネルギに対応した電極電位を与えることにより、特定された一つの配列構造のみをもつ有機薄膜を選択的に成長させることができる。
【0010】
【実施例】
実施例1:
(111)配向単結晶面をもつ白金を金属質基体として使用した。金属質基体の表面を清浄化した後、濃度10mMの純フッ化水素酸に金属質基体を浸漬し、水素発生領域にある0.18V vs.R.H.Eの電圧を金属質基体に30秒間印加し、金属質基体の表面を電気化学的に清浄化した。次いで、電位を制御した条件下で微量のベンゼン水溶液を純フッ化水素酸に加えた。添加したベンゼンは、金属質基体に吸着され、単分子薄膜となった。
生成したベンゼン単分子薄膜をSTMで観察したところ、電位に応じて2通りの配向性をもつ薄膜であることが判った。すなわち、0.25V vs.R.H.E.では、図1に示すように六方格子に当る(√21×√21)構造をもつベンゼン薄膜が形成されていた。他方、0.35V vs.R.H.E.では、長方形格子に当るc(2√3×3)構造をもつベンゼン薄膜が形成されていた。
【0011】
実施例2:
(111)配向単結晶面をもつ純ロジウムを金属質基体として使用した。金属質基体の表面を清浄化した後、濃度10mMの純フッ化水素酸に金属質基体を浸漬した。金属質基体の表面を電気化学的に清浄化した後、電位を制御した条件下で微量のベンゼン水溶液を純フッ化水素酸に加えた。この溶液中における電流電圧曲線を図2に示す。添加したベンゼンは、金属質基体に吸着され、単分子薄膜となった。
生成したベンゼン単分子薄膜をSTMで観察したところ、電位に応じて2通りの配向性をもつ薄膜であることが判った。図2に示した電流電圧曲線中、0.25V vs.R.H.Eでは、図3に示すように六方格子に当る(3×3)構造をもつベンゼン薄膜が形成されていた。他方、0.45V vs.R.H.Eでは、図4に示すように長方形格子に当るc(2√3×3)構造をもつベンゼン薄膜が形成されていた。
これらの結果を実施例1と対比すると、白金を金属質基体に使用した場合には低い電位側で(√21×√21)構造となったが、ロジウムでは(3×3)構造となっている。このことから、同じベンゼンを有機物として使用する場合でも、金属質基体を替えることによって構造が制御されることが判る。
【0012】
実施例3:
(111)配向単結晶面をもつ純ロジウムを金属質基体として使用した。金属質基体の表面を清浄化した後、濃度10mMの純フッ化水素酸に金属質基体を浸漬した。そして、金属質基体の表面を電気化学的に清浄化した後、電位を制御した条件下で微量のナフタレン水溶液を純フッ化水素酸に加えた。添加したナフタレンは、金属質基体に吸着され、単分子薄膜となった。
0.25V vs.R.H.Eで生成した単分子薄膜は、図5に示すように(3√3×3√3)構造をもっていた。また、ナフタレン分子が平行に列を形成しており、各列の中でナフタレン分子が1個ごとに120度ずつ回転して配列された特徴的な吸着層であった。
【0013】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、有機物分子を溶存させた電解質溶液中で電位制御された条件下で金属質基体に有機物分子を吸着させ、配向制御又は構造制御された有機薄膜を製造している。この方法によるとき、基体金属の選択や電極電位の制御によって配向性の高い単分子膜が生成される。また、複数の構造の薄膜が生じる可能性がある場合、基体金属の選択や電極電位の制御により特定の配列構造をもつ薄膜を選択的に生成させることができる。このようにして得られた有機薄膜は、高度に配向された構造を活用し、液晶配向膜,光電変換素子,非線形光学素子,センサー等の機能薄膜として使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 六方格子に当る(√21×√21)構造をもつベンゼン薄膜の分子配列構造を示す走査型トンネル顕微鏡写真
【図2】 (111)配向単結晶面をもつ純ロジウムを金属質基体とし、微量のベンゼンを添加した濃度10mMフッ化水素酸中の電流電圧曲線
【図3】 六方格子に当る(3×3)構造をもつベンゼン薄膜の分子配列構造を示す走査型トンネル顕微鏡写真
【図4】 長方形格子に当るc(2√3×3)構造をもつベンゼン薄膜の分子配列構造を示す走査型トンネル顕微鏡写真
【図5】 (3√3×3√3)構造をもつナフタレン薄膜の分子配列構造を示す走査型トンネル顕微鏡写真

Claims (4)

  1. 有機分子を溶存させた電解質溶液中に金属質基体を浸漬し、水素発生領域の電位を金属質基体に印加し、次いで有機分子と金属質基体との間の平衡電位に印加電圧を変更し、有機分子を金属質基体に吸着させ有機単分子吸着膜を形成することを特徴とする配向制御又は構造制御された有機薄膜の製造方法。
  2. 金属質基体を電解質溶液に浸漬する前に、有機単分子吸着膜となる有機分子を電解質溶液に溶存させておく請求項1記載の有機薄膜の製造方法。
  3. 金属質基体を電解質溶液に浸漬した後、有機単分子吸着膜となる有機分子を電解質溶液に添加する請求項1記載の有機薄膜の製造方法。
  4. 予め他の有機薄膜で覆った金属質基体を使用する請求項1〜3の何れかに記載の有機薄膜の製造方法。
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