以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1は、本発明を前進7段、後進1段の車両用自動変速機に適用した場合の、第1実施形態の変速機TM1のスケルトン図を示している。この変速機TM1は、図示省略する変速機ケース内に回転自在に配設されて、発進機構SCを介してエンジンに繋がる入力軸ISと、この入力軸と平行に延びて変速機ケース内に回転自在に配設され図示省略する駆動輪に繋がる出力軸OSと、これらの入出力軸間に並列に設けられて相互に噛合する八列の歯車列1〜7及びRと、入力軸ISに設けられた4つの共用クラッチC15,C26,C37,CR4と、出力軸OSに設けられた四つの選択機構S15,S26,S37,SR4とを有する平行軸式の自動変速機である。なお、発進機構SCは、湿式や乾式の摩擦機構、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体継ぎ手、電磁パウダー式のクラッチやブレーキ、モータやジェネレータ等の電動装置などを用いて構成することができる。
ここで、図1における符号1〜7及びRは、それぞれ1速段〜7速段及び後進段の歯車列を表し、1速段と5速段(1−5)、2速段と6速段(2−6)、3速段と7速段(3−7)、4速段と後進段(4−R)の歯車列が各々二列一組とされ、いずれも速度段が選択機構および共用クラッチの個数(4個)と同一数の段数である4段離れた組み合わせになっている。
入力軸IS側では、1速段から7速段の駆動ギヤ11〜17及び後進段の駆動ギヤ1Rが、各組(1−5、2−6、3−7、4−R)ごとに連結されて入力軸ISに一体回転自在に支持され、組ごとに共用クラッチC15,C26,C37,CR4が設けられている。各共用クラッチは、各組の駆動ギヤを一体的に入力軸ISに係合・離脱させる摩擦係合要素であり、例えば入力側の摩擦板と出力側の摩擦板とを軸方向に相互に複数重ねた多板式の油圧クラッチを用いて構成される。
図中に付記した共用クラッチの符号は、文字Cがクラッチ、下添え字15,26,37,R4が当該クラッチにより係脱される駆動ギヤの速度段を表す。例えばC15は1速段と5速段の共用クラッチであり、この共用クラッチC15を係脱させたときに、1速段の1速駆動ギヤ11と5速段の5速駆動ギヤ15が入力軸ISに一体的に接続されて回転駆動される。なお、以下では、説明の便宜上、C15を第1クラッチ、C26を第2クラッチ、C37を第3クラッチ、CR4を第4クラッチと称して説明する。第3クラッチC37と第4クラッチCR4は、クラッチドラムを共通とする複式クラッチであり、多段化に伴う軸方向寸法の拡大を抑制した構成としている。
一方、出力軸側では、1速段から7速段の従動ギヤ21〜27及び後進段の従動ギヤ2Rが、各々独立して出力軸OSに回転自在に支持され、上記各組(1−5、2−6、3−7、4−R)に対応して選択機構S15,S26,S37,SR4が設けられている。各選択機構は、各組の二枚の従動ギヤのうちいずれか一方を選択的に出力軸OSに結合・離脱させる噛み合い式の締結要素であり、本実施形態では、各組内の速度段が4段離れて回転数差が大きいことから、切り換え時の異音発生を防止して滑らかな接続を実現するため、スリーブを有したシンクロメッシュ機構を用いている。選択機構S15,S26,S37,SR4は、各選択機構に設けられた図示しないサーボ機構により切り換え作動される。
図中に付記した選択機構の符号は、文字Sが選択機構を表し、下添え字15,26,37,R4は当該選択機構により出力軸OSに結合される従動ギヤの速度段を表す。例えばS15は1速段と5速段の選択機構であり、この選択機構S15のスリーブ31が図1における右側に位置するときに1速段の1速従動ギヤ21が出力軸OSに結合され、スリーブ31が図1における左側に位置するときに5速段の5速従動ギヤ25が出力軸OSに結合される。以下では、説明の便宜上、S15を第1選択機構、S26を第2選択機構、S37を第3選択機構、SR4を第4選択機構と称して説明する。
1速段と5速段の歯車列では、第1選択機構S15において選択されたいずれか一方の従動ギヤ21または25が出力軸OSに結合され、第1クラッチC15を作動させて駆動ギヤ11及び15を入力軸ISに係脱させることで、入力軸ISの回転が第1選択機構S15により選択された速度段の歯車列を介して出力軸OSに伝達される。2速段と6速段(2−6)、3速段と7速段(3−7)、4速段と後進段(4−R)の各組も、上記1速段と5速段(1−5)と同様に構成される。
すなわち、2速段と6速段では、出力軸OSに各々回転自在に支持された2速従動ギヤ22または6速従動ギヤ26が第2選択機構S26により出力軸OSに結合され、入力軸ISに一体回転自在に支持された2速駆動ギヤ12及び6速駆動ギヤ16が第2クラッチC26により一体的に入力軸ISに係脱されて、入力軸ISの回転が第2選択機構S26により選択された速度段の歯車列を介して出力軸OSに伝達される。
3速段と7速段では、出力軸OSに各々回転自在に支持された3速従動ギヤ23または7速従動ギヤが第3選択機構S37により出力軸OSに結合され、入力軸ISに一体回転自在に支持された3速駆動ギヤ13及び7速駆動ギヤ17が第3クラッチC37により一体的に入力軸ISに係脱されて、入力軸ISの回転が第3選択機構S37により選択された速度段の歯車列を介して出力軸OSに伝達される。
4速段と後進段では、出力軸OSに各々回転自在に支持された4速従動ギヤ24または後進従動ギヤ2Rが第4選択機構SR4により出力軸OSに結合され、入力軸ISに一体回転自在に支持された4速駆動ギヤ14及び後進駆動ギヤ1Rが第4クラッチCR4により一体的に入力軸ISに係脱されて、入力軸ISの回転が第4選択機構SR4により選択された回転方向及び変速比で伝達されて出力軸OSが正逆方向に回転駆動される。なお、後進段の歯車列Rには、入力軸上の後進駆動ギヤ1Rと出力軸上の後進従動ギヤ2Rとの間に、後進アイドラギヤ3Rが回転自在に設けられており、後進段では前進の変速段1〜7と逆方向に出力軸OSが回転される。
第1〜第4選択機構S15,S26,S37,SR4を作動させるサーボ機構及び第1〜第4クラッチC15,C26,C37,CR4の作動は、図示省略する変速制御装置によって制御され、運転席のシフトレバーにおいて選択されたシフトポジションに応じて以下のように作動制御される。表3に、シフトポジションに応じて設定された走行段(現行段)と、各走行段において第1〜第4選択機構S15,S26,S37,SR4により選択される歯車列1〜7,R、及び第1〜第4クラッチC15,C26,C37,CR4の係合状態を示す。
シフトポジションがパーキングレンジ(以下「Pレンジ」と記載する)とニュートラルレンジ(同様に「Nレンジ」と記載する)では、第1選択機構S15において1速段、第2選択機構S26において2速段、第3選択機構S37において3速段、第4選択機構SR4において後進段が選択され、入出力軸間IS−OSに後進段の歯車列Rと、1速段〜3速段の歯車列1〜3が介入される。但し、これらのシフトポジションP,Nでは、第1〜第4クラッチC15,C26,C37,CR4がいずれも解放状態とされ、入出力軸間の動力伝達は行われない。すなわち、Pレンジ及びNレンジでは、後進段と1速段〜3速段の歯車列が選択されて待機され、シフトレバーにより前後進のいずれが選択された場合でも、クラッチの直接係合により直ちに発進できる準備状態とされる。なお、Pレンジでは、ともに図示省略するパークギヤにパークポールが噛み合って出力軸OSの回転を規制し、車両を停止状態に保持する。
シフトポジションをリバースレンジ(以下「Rレンジ」と記載する)に設定すると、上記Nレンジと同一の歯車列の待機状態から第4クラッチCR4が係合され、4速駆動ギヤ14及び後進駆動ギヤ1Rが回転される。この回転は4速歯車列4及び後進歯車列Rを介して出力軸上の4速従動ギヤ24及び後進従動ギヤ2Rに伝達されるが、出力軸OSには第4選択機構SR4により後進従動ギヤ2Rが結合される一方、4速従動ギヤ24は出力軸OSに対して相対回転自在になっており、入出力軸間IP−OSで後進歯車列Rを介した動力伝達が行われて後進走行が行われる。Rレンジでは、現行段である後進段の他に1速段〜3速段の歯車列が選択されて待機されており、RレンジからDレンジに切り換えられたときに、第4クラッチCR4を切り離して第1クラッチC15(または第2クラッチC26)を接続することで、直ちに後進走行から前進走行に移行できる。
シフトポジションを走行レンジ(以下「Dレンジ」と記載する)に設定すると、変速制御装置は、車両の運行速度やアクセルペダルの踏み込み状態、走行する道路の勾配などに応じて1〜7速段の速度段を設定して車両を走行させるが、各現行速度段に対して以下の歯車列を待機状態として次段の変速に備える。
1速段及び2速段では、第1〜第4選択機構がNレンジと同一状態に保持されており、入出力軸間IS−OSに後進段と1速段〜3速段の歯車列1〜3が介入された状態になっている。この状態から、1速段では第1クラッチC15が接続されて1速駆動ギヤ11及び5速駆動ギヤ15が一体回転され、これらと噛合する出力軸上の1速従動ギヤ21及び5速従動ギヤ25に伝達される。出力軸側では第1選択機構S15により1速従動ギヤ21が結合される一方、5速従動ギヤ25は出力軸OSに対して相対回転自在になっており、入出力軸間IP−OSでは1速歯車列1を介した動力伝達が行われ、車両が1速段の変速比で前進走行する。2速段では、第2クラッチC26が接続されて2速駆動ギヤ12及び6速駆動ギヤ16が一体回転され、出力軸上の2速従動ギヤ22及び6速従動ギヤ26に伝達されるが、出力軸OSには第2選択機構S26により2速従動ギヤ22が結合されて6速従動ギヤ26は相対回転自在になっており、入出力軸間IP−OSで2速歯車列2を介した動力伝達が行われて、車両が2速段の変速比で前進走行する。
これらの速度段では、後進段と1速段〜3速段がクラッチ係脱による直接変速が可能になっており、1段ずつアップシフトまたはダウンシフトする順次変速はもとより、DレンジからRレンジに切り換えられた場合でも、第1クラッチC15または第2クラッチC26を切り離して第4クラッチCR4を係合させることで、直ちに前進走行から後進走行に移行できる。
2速段→3速段の変速では、第2クラッチC26の接続が切り離され、これとクロスするようにして第3クラッチC37が係合接続される。第3選択機構S37では既に3速段が選択されて3速従動ギヤ23が出力軸OSに結合されており、Cluch to Cluchの直接変速により短時間で2速歯車列2による動力伝達から3速歯車列3による動力伝達に切り換わり、車両は3速段の変速比で前進走行する。またこのとき、第4選択機構SR4では後進従動ギヤ2Rが出力軸OSから切り離されて4速従動ギヤ24が出力軸OSに結合される。これにより、3速段の走行時には、入出力軸間IS−OSに1速段〜4速段の歯車列1〜4が介入されて、現行段である3速段に対してアップシフト側1段、ダウンシフト側2段の歯車列が待機状態とされる。
3速段→4速段、4速段→5速段、5速段→6速段の順次変速は、上記同様にCluch to Cluchの直接変速により行われ、選択機構は現行段から最も離れた速度段の従動ギヤを切り離し現行段+1段の従動ギヤを出力軸に結合させる。従って、3速段〜6速段の前進走行時には、現行段に対してアップシフト側1段、ダウンシフト側2段の歯車列が待機状態とされる。
6速段の走行時には、入出力軸間IS−OSに4速段〜7速段の歯車列4〜7が介入されて第2クラッチC26が係合された状態になっており、6速段→7速段の変速では、第2クラッチC26の接続が切り離され第3クラッチC37が係合接続される。一方、本実施形態の変速機では7速段が最高段であることから、第1〜第4選択機構の選択に変更はなく、入出力軸間IS−OSに4速段〜7速段の歯車列4〜7が介入された状態が維持される。従って、7速段の前進走行時には、現行段に対してダウンシフト側3段の歯車列が待機状態とされる。
このように、現行段の成立中に切り換えられる第1〜第4選択機構S15,S26,S37,SR4の作動ルールをまとめると、(i)現行段が7速段未満の中間段(1〜6速段)のときは、少なくとも現行段を挟む前後の低速段と高速段とを予め準備しておく。(ii)さらに3速段以上の中間段のときは、後進段を準備しない範疇で、その前後段以外は低速側の速度段を準備しておく。(iii)後進段のときは、共用クラッチ及び選択機構の数をNとしたときに(N−1)速以下(7段変速の場合3速以下)の速度段を準備しておく。(iv)最高段のときはN速以上(7段変速の場合4速以上)の速度段を準備しておく。このルールに基づいて、各速度段において選択設定される歯車列の表(表3)を、現行段と次段の変速組み合わせとして示すと、表4のようになる。
表4において、丸印は選択機構(S15,S26,S37,SR4)を作動させることなく共用クラッチ(C15,C26,C37,CR4)の作動のみで変速可能な組み合わせを表し、三角印は選択機構の少なくともいずれかを作動させて変速可能な組み合わせを表し、バツ印は共用クラッチのため直接変速が困難な組み合わせを表している。また太枠で囲んだ領域は、使用頻度がほとんどない組み合わせ領域を表す。
この変速組み合わせ表からも明らかなように、本発明を適用した変速機TM1によれば、従来困難とされた7速段→4速段の変速、及び応答性に課題があった6速段→4速段の変速を、いずれもCluch to Cluchによる直接変速で行うことができ、キックダウンの応答性が確保できる。また、路面摩擦係数が低い低μ路で車両がスタックしたような場合に、前後進を繰り返して脱出を図る場合があるが、変速機TM1では、2速段→後進段、後進段→2速段の切り換えをいずれもCluch to Cluchによる直接変速で行うことができ、低μ路に適した2速発進で脱出することができる。さらに、第1〜第4クラッチC15,C26,C37,CR4を入力軸IS側に設けた構成により、クラッチの大型化や作動油圧の高圧化及びこれに伴う油圧制御の困難性を排斥して、小型軽量で制御性の良好な多段変速機を実現することができる。
次に、本発明を適用した第2〜第5実施形態の変速機TM2〜TM5について、図2〜図5の各図を参照しながら説明する。なお、これらの実施形態の変速機は、いずれも前述した第1実施形態の変速機TM1と同様に、入出力軸間の動力伝達経路に設けられて相互に噛合する1速〜7速歯車列及び後進歯車列を有する、前進7段、後進1段の車両用自動変速機であり、主要な構成要素は同様である。そこで、以降各実施例については、各図において同様の構成要素に同一番号を付して重複説明を省略し、相違する部分を中心に簡潔に説明する。
図2に示す第2実施形態の変速機TM2は、1速段、5速段、2速段及び6速段の歯車列の配列、第1及び第2クラッチの構成及び配置、第1及び第2選択機構の配置が前述した第1実施形態の変速機TM1と異なり、他は同一である。
すなわち、変速機TM2は、入出力軸間に相互に噛合する1速〜7速歯車列1〜7及び後進歯車列Rと、入力軸ISに設けられた第1〜第4クラッチC15,C26,C37,CR4と、出力軸OSに設けられた第1〜第4選択機構S15,S26,S37,SR4とを有して構成される。八列の歯車列は変速機TM1と同様に二列一組(1−5、2−6、3−7、4−R)の四組構成とされ、入力軸側に設けられた各組の駆動ギヤ11〜17,1Rが第1〜第4クラッチにより組ごとに入力軸ISに係合接続され、各組のいずれか一方の従動ギヤ21〜27,2Rが第1〜第4選択機構により選択されて出力軸OSに結合される、という基本構成は同一である。
一方、変速機TM2では、第1選択機構S15により選択され及び第1クラッチC15により係脱される1速及び5速歯車列1,5と、第2選択機構S26により選択され及び第2クラッチC26により係脱される2速及び6速歯車列2,6の配列が、前述した変速機TM1と異なっている。また、第1クラッチC15と第2クラッチC26がクラッチドラムを共通とする複式クラッチとされ、多段化に伴う軸方向寸法の拡大を抑制した構成になっている。
但し、四組の歯車列の組み合わせ(1−5、2−6、3−7、4−R)が同一であることから、変速機TM2の作動は、既に表3及び表4を示して説明した変速機TM1と同一であり、同様の効果を得ることができる。このことから分かるように、共用クラッチや選択機構、歯車列の配列は自由であり、適宜変更して構成することができる。
図3に示す第3実施形態の変速機TM3は、図1と図3とを対比すれば明らかなように、出力軸OSの動力取り出し方向のみが変速機TM1と異なり、他の構成要素は同一である。従って変速機TM3の作動は、表3及び表4を示して説明した変速機TM1と同一であり同様の効果を得ることができる。このように、出力軸OSの取り出し方向は左右いずれであっても良く、例えば、第1実施形態の変速機TM1や第2実施形態の変速機TM2のように発進機構SC側に取り出せば、エンジンを横置きにした車両(例えばFFやRR型の車両)に好適な変速機を得ることができ、本実施形態のように発進機構SCの反対側に取り出せばエンジンを縦置きにした車両(例えばFR型の車両)に好適な変速機を得ることができる。
図4に示す第4実施形態の変速機TM4は、第3実施形態の変速機TM3における出力軸をカウンター軸CSとしてその軸端にカウンター駆動ギヤ41を結合し、これと噛合するカウンター従動ギヤ42を介して出力軸OSに出力するように構成した構成例である。このような構成によれば、変速機の所望位置から出力軸OSを取り出すことができ、例えば、出力軸OSを入力軸ISと同軸上に位置させることや、図4中に付記するように出力軸OSを入力軸IS及びカウンター軸CSの両方からオフセットした位置に配設することができる。従って本構成によれば車両設計上の自由度を拡大することができる。
図5に示す第5実施形態の変速機TM5は、エンジンから発進機構SCを介して入力駆動ギヤ45に伝達された回転駆動力を、この入力駆動ギヤ45とそれぞれ噛合する入力従動ギヤ46,46により分割して2本の入力軸(第1入力軸IS1及び第2入力軸IS2)に伝達し、これら2本の入力軸と平行に設けられた2本のカウンター軸(第1カウンター軸CS1及び第2カウンター軸CS2)とに相互に噛合する各速度段の歯車列、第1〜第4クラッチ、及び第1〜第4選択機構を設けて変速作動を行い、2本のカウンター軸に設けられたカウンター駆動ギヤ47,47と噛合するカウンター従動ギヤ48を介して出力軸OSに伝達するように構成した構成例である。
すなわち、変速機TM5は、これまで説明した各変速機において1〜7速度段および後進段の八列の歯車列が、一本の軸上に並んで配列されていたのに対して、本構成の変速機TM5では、八列の歯車列を変速機TM1〜4と同様の二列一組(1−5、2−6、3−7、4−R)の四組構成としたうえで、これを二組ずつに分けて各四列の歯車列としている点が異なっている。
詳述すると、図5における下側の組に、第1入力軸IS1と第1カウンター軸CS1とに相互に噛合する1速段、2速段、5速段及び6速段の4列の歯車列が設けられ、第1入力軸IS1に設けられた第1,第2クラッチC15,C26と、第1カウンター軸CS1に設けられた第1,第2選択機構S15,S26とにより速度段の選択及び第1カウンター軸への係合が行われる。また図5における上側の組に、第2入力軸IS2と第2カウンター軸CS2とに相互に噛合する後進段、3速段、4速段及び7速段の4列の歯車列が設けられ、第2入力軸IS2に設けられた第3,第4クラッチC37,CR4と、第2カウンター軸CS2に設けられた第3,第4選択機構S37,SR4とにより速度段の選択及び第2カウンター軸への係合が行われる。
ここで、各四列の歯車列は、変速機TM1〜4と同様の速度段が二列一組とされており、変速作動は既述した変速機TM1と同様である。例えば、2速段では、第1選択機構S15において1速段、第2選択機構S26において2速段、第3選択機構S37において3速段、第4選択機構SR4において後進段が選択され、入出力軸間に後進段の歯車列Rと、1速段〜3速段の歯車列1〜3が介入される。また第1〜第4クラッチのうち第2クラッチC26のみが接続される。
入力駆動ギヤ45に伝達された回転駆動力は、入力駆動ギヤ45と噛合する入力従動ギヤ46,46を介して第1入力軸IS1及び第2入力軸IS2に伝達され、これら二本の入力軸IS1,IS2をともに回転させる。但しこれらの入力軸に設けられた第1〜第4クラッチのうち接続状態にあるのは第2クラッチC26のみであり、第1入力軸上の2速駆動ギヤ12及び6速駆動ギヤ16が一体回転される。この回転は第1カウンター軸上の2速従動ギヤ22及び6速従動ギヤ26に伝達されるが、第1カウンター軸CS1には第2選択機構S26により2速従動ギヤ22が結合されて6速従動ギヤ26は相対回転自在な状態になっており、第1入力軸IS1の回転が2速歯車列2を介して第1カウンター軸CS1に伝達され、カウンター駆動ギヤ47と噛合するカウンター従動ギヤ48を介して出力軸OSに伝達される。
このとき、さらにカウンター駆動ギヤ47を介して第2カウンター軸CS2が回転され、この軸上の3速従動ギヤ23及び4速従動ギヤを介して3速駆動ギヤ13及び4速駆動ギヤが回転される。しかし2速走行時には第3クラッチ及び第4クラッチが解放状態にあり、3速駆動ギヤ13及び4速駆動ギヤはそれぞれ第2入力軸上で自由回転する。従って、入出力軸間で2速歯車列2を介した動力伝達が行われ、車両は2速段の変速比で前進走行する。2速段では、後進段と1速段〜3速段がクラッチ係脱による直接変速が可能になっており、DレンジからRレンジに切り換えられた場合でも、第2クラッチC26を切り離して第4クラッチCR4を係合させることで、直ちに前進走行から後進走行に移行できる。
また、2速段→3速段の変速では、第2クラッチC26の接続が切り離され、これとクロスするようにして第3クラッチC37が係合接続されて、今度は第2入力軸IS2の回転が3速駆動ギヤ13及び7速駆動ギヤ17に伝達され、これと噛合する3速従動ギヤ23及び7速従動ギヤ27が一体回転される。第3選択機構S37では既に3速段が選択されて3速従動ギヤ23が第2カウンター軸CS2に結合されており、Cluch to Cluchの直接変速により短時間で2速歯車列2による動力伝達から3速歯車列3による動力伝達に切り換わり、車両は3速段の変速比で前進走行する。このとき、第4選択機構SR4では後進従動ギヤ2Rがから切り離されて4速従動ギヤ24が第2カウンター軸CS2に結合される。これにより、3速段の走行時には、入出力軸間IS1,IS2−OSに1速段〜4速段の歯車列1〜4が介入されて、現行段である3速段に対してアップシフト側1段、ダウンシフト側2段の歯車列が待機状態とされる。
このように、本実施形態の変速機TM5においても、既述した各変速機TM1〜TM4と同様に表3及び表4に示した変速作動が行われ、同様の効果を得ることができる。また、入力軸を分割して各入力軸上に配設される歯車列の数を四列に削減することにより、変速機の全長を短縮することができ、多段の変速機でありながら軸方向寸法が短い小型の変速機を得ることができる。なお、図5では出力軸OSを発進機構側に取り出した構成例を示したが、カウンター駆動ギヤ47及びカウンター従動ギヤ48を第1,第2カウンター軸CS1,CS2の反対側(図5における右端側)に設けることにより発進機構SCと反対側に取り出す構成にすることもでき、変速機TM3において説明したようにエンジンの配置形態(縦置き、横置き)に応じた好適な変速機を得ることができる。
さて、以上では本発明を前進7段、後進1段の変速機に適用した場合について説明してきたが、これまでの説明からも明らかなように、本発明はさらに多段の変速機にも適用することができる。例えば、前進9段、後進1段の変速機に本発明を適用した場合には、入出力軸間に相互に噛合する10列の歯車列が設けられて二列一組の5組構成とされ、入力軸側に5個の共用クラッチ、出力軸側に5個の選択機構を設け、各二列の歯車列における一方と他方との速度段が、互いに共用クラッチ及び選択機構の個数と同一数の5段だけ離れて組み合わされる。
すなわち、歯車列の速度段の組み合わせは、1速段と6速段(1−6)、2速段と7速段(2−7)、3速段と8速段(3−8)、4速段と9速段(4−9)、5速段と後進段(5−R)となり、いずれの組み合わせも、各組内で速度段が選択機構および共用クラッチの個数(5個)と同一数の5段離れた組み合わせになっている。
そして、現行段の成立中に切り換えられる第1〜第5選択機構の作動を、前述した作動ルールに基づいて制御する。ここに作動ルールをあらためて記載すると(i)現行段が中間段(2〜8速段)のときは、少なくとも現行段を挟む前後の低速段と高速段とを予め準備しておく。(ii)さらに3速段以上の中間段のときは、後進段を準備しない範疇で、その前後段以外は低速側の速度段を準備しておく。(iii)後進段のときは、共用クラッチ及び選択機構の数をNとしたときに(N−1)速以下(9段変速の場合4速以下)の速度段を準備しておく。(iv)最高段のときはN速以上の速度段(9段変速の場合5速以上)の速度段を準備しておく。このルールに基づいて、各速度段において第1〜第5選択機構により選択される歯車列1〜9,Rと第1〜第5クラッチC16,C27,C38,C49,CR5の係合状態を表5に、現行段と次段の変速組み合わせを表6に示す。
表6における各印の意味は表4と同様であり、丸印は選択機構を作動させることなく共用クラッチ(C16,C27,C38,C49,CR5)の作動のみで変速可能な組み合わせを表し、三角印は選択機構の少なくともいずれかを作動させて変速可能な組み合わせを表し、バツ印は共用クラッチのため直接変速が困難な組み合わせを表す。
これらの組み合わせ表から明らかなように、本発明を前進9段、後進1段の変速機に適用した場合にも、従来困難とされた7速段→4速段の変速、及び応答性に課題があった6速段→4速段の変速を、いずれもCluch to Cluchによる直接変速で行うことができ、キックダウンの応答性を確保することができる。さらに6速段→3速段、8速段→5速段、9速段→5速段のように、直接変速によるダウンシフトの幅を3段以上とれるため、キックダウンやエンジンブレーキの効果を向上させることができる。また、2速段→後進段、後進段→2速段の切り換えをいずれもCluch to Cluchによる直接変速で行うことができ、低μ路に適した2速発進が可能である。前進11段以上についても同様である。