JP4389027B2 - 凍結精子幹細胞由来の子孫を作成する方法 - Google Patents

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、生殖技術に関し、さらに詳しくは動物の凍結精子幹細胞由来の子孫を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヒトを含む脊椎動物における生殖異常の治療や家畜等の生産、種の維持等において、凍結保存した精子を用いる方法が利用可能であり、実際に、マウス等の実験動物や牛等の家畜の系統保存には胚凍結法と精子凍結法が行われている。通常、精子を凍結し、液体窒素中で保存し、融解し、人工授精や体外受精を行い、得られた卵細胞を偽妊娠仮親の卵管に移植し、移植された動物を飼育して目的の子孫を得ている。しかしながら、精子の保存法は種によって著しく異なっており、一般的な方法は確立されていない。例えば実験に用いられるC57BL/6(B6)マウスの精子などはまだ有効な精子凍結法がない状態である。また、精子の凍結保存には、液体窒素の供給が必要であるため、長期間の保存はコストが高くつき、また、その輸送には梱包等に特別な配慮が必要である。しかも、受精には一定量以上の精子が必要であるが、凍結保存した精子をインビトロで増やすことはできず、多量に採取し凍結保存しなければならない。しかし、比較的精子の採取が容易な家畜の場合でも精子を多量に得ることは容易でなく、特に、ヒトにおいては、化学療法や放射線療法による精巣障害が原因となって起こる不妊の治療のために、事前に精子を多量に保存することは困難である。
【0003】
さらに、精子を使用する方法の場合、精子が形成されていない未成熟な個体や何らかの原因で精子形成が阻害されている個体の場合には、生殖細胞系列(germline)を保存することができない。凍結乾燥した精子の使用も試みられ、水で戻した精子の受精能がマウスで確認されているが、保存期間が長くなるほど受精能が低下するなど未だ確立された方法になっていないのが実情である。
【0004】
動物における精子形成は、通常、成体内のヒトにおける精巣またはそれに相当する雄性生殖器官に存在する生殖幹細胞(例、精原細胞)が増殖して形態的に変化することからなる一連の分化発達過程を経て行われる。ヒト等の場合、精子幹細胞(精原細胞)は精母細胞となり、減数分裂によって精子細胞が形成され、この精子細胞が形態的に変化して精子となる。以下、生殖幹細胞を精子幹細胞として説明する。
【0005】
精子幹細胞は、他の幹細胞と同様に、凍結・融解に対して安定であり、試験管内で容易に増殖させることができる(特願第2003−110821号、WO2004/092357)ばかりか、放射能や温度等に対する安定性が極めて高く、保存、運搬などの取扱が容易である。すなわち、精子幹細胞は、精子が形成されていない、あるいは精子量が少ない個体からも採取でき、また、たとえ少量しか得られなくても試験管内で増殖させて量を増やすことができるという利点を有する。従って、精子幹細胞由来の個体を得る生殖技術が確立されれば、家畜の育種、希少動物の種の保存、さらにはヒトの男性不妊の治療、化学療法、放射線療法などで不妊になる恐れのある患者等の不妊回復処置などに極めて有用と考えられる。現在、精子幹細胞の凍結に関しては、ハムスター、ラット、サル、ヒト、ウシ、ブタなど種を越えてほぼ同一の方法で精子形成能を維持して凍結保存できることが知られている。
【0006】
精子幹細胞の移植法はブリンスターら(非特許文献1)により紹介された。この文献には、精巣から生殖幹細胞を含む細胞浮遊液を調製し、精細管に注入する方法が記載されているが、凍結精子幹細胞からの精子形成については記載されていない。ブリンスターらは、その後凍結精子幹細胞の精子形成能に関してインビボで確認している(非特許文献2)。しかし、凍結精子幹細胞から発生した精子由来の子孫を得たという報告はない。なお、凍結保存した精巣断片の精巣内への移植により形成された精子を用いて顕微受精によりその精子由来の仔を得た例はある(非特許文献3)が、支持細胞等も含む精巣断片を用いる例である。また、顕微受精は費用がかかる上、特殊な技術を必要とするため、適用対象が限られる。従って、再現性良く経済的に精子幹細胞由来の仔を得る方法の開発が強く求められている。
【0007】
【非特許文献1】
Brinster,R.L.and Zimmermann,J.W.Spermatogenesis following male germ−cell transplantation.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91,11298−11302
【非特許文献2】
Avarbock,M.R.,Brinster,C.J.and Brinster,R.L.Reconstitution of spermatogenesis from frozen spermatogonial stem cells.Nat.Med.(1996)2,693−696
【非特許文献3】
Shinohara,T et al..Birth of offspring following transplantation of cryopreserved immature testicular pieces and in−vitro microinsemination.Hum.Reprod.(2002)17,3039−3045
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は精子幹細胞由来の仔を安定的に得る方法を確立することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ドナー動物の凍結精子幹細胞由来の精子を雄性レシピエントの精巣内で形成させて繁殖用個体を得、該繁殖用個体を用いることによりドナー動物の精子幹細胞由来の仔を作成することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ドナー動物由来の凍結精子幹細胞を用いて雄性レシピエント動物の生殖器官内で精子を形成させて繁殖用雄性個体を得、該個体を用いてドナー動物の精子幹細胞由来の動物個体を作成する方法を提供するものである。
本発明は一つの実施態様として、ドナー動物由来の凍結精子幹細胞を雄性レシピエント動物の生殖器官に移植し、該レシピエント動物の生殖器官内で精子を形成させて繁殖用雄性個体を得、該個体由来の精子を用いて受精卵を得、得られた受精卵から動物個体を発生させることを特徴とする、ドナー動物の精子幹細胞由来の動物個体を作成する方法を提供するものである。
【0010】
明細書および特許請求の範囲に記載の本発明の目的に従い、ドナーおよびレシピエント雄性動物は脊椎動物、無脊椎動物のいずれでもよい。
「脊椎動物」としては、哺乳動物、鳥、魚、両性動物および爬虫類動物が挙げられる。好ましくは、脊椎動物としては、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、スナネズミ、ハムスター、ウサギ、厚皮動物、ウマ、ヒツジ、ウシ、及び海生哺乳類から成る群から選択される哺乳動物、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、ニワトリ、オーストリッチ、エミュ、ホロホロチョウ、ハトおよびウズラからなる群から選択される鳥を挙げることができるが、これらに限定されない。
「無脊椎動物」としてはウニ、ロブスター、アワビおよび甲殻類を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明には、脊椎動物が好ましく、生殖器官は精巣であることが好ましい。
【0011】
「凍結精子幹細胞」とは、精子形成能を有する精子幹細胞を含有する凍結された調製物であり、通常は、融解後の調製物をも包含する。凍結状態、融解状態のいずれを意味するかは、文脈から明らかである。なお、本明細書中では特に融解後の「凍結精子幹細胞」を「凍結・融解精子幹細胞」と表現する場合もある。
【0012】
凍結精子幹細胞の雄性レシピエント動物への移植は、凍結精子幹細胞の浮遊液を精細管または精巣網に供給することにより行うことができる。
レシピエント雄性動物が産生する精子を用いる受精卵の作成は、レシピエント雄性動物と雌性動物の自然交配、該精子を人工的に雌成体の性管内に注入する人工授精法、またはレシピエント雄性動物の精子と雌性動物の卵子を体外で人工的に受精させ、受精卵を一定期間体外で発育させた後、子宮内に戻して着床させる、体外受精・胚移植法などによって行うことができる。体外受精には顕微受精も採用しうる。
【0013】
本発明の目的に照らして、雄性のドナー動物、レシピエント動物は成熟または未成熟動物のいずれでも良い。しかし、自然交配で仔を得るためには、雄性レシピエント動物は未成熟動物であることが好ましい。
なお、本発明方法はドナーおよびレシピエント動物が無脊椎動物である場合も、本明細書の記載に従って実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、凍結精子幹細胞から仔を作成することが可能となったので、適当な時期に採取した精子幹細胞を凍結保存し、必要に応じて試験管内で増殖させ、さらに保存を続け、随時、子孫の作成に供することができる。精子幹細胞は精子形成されていない個体にも存在するので、未成熟な個体から精子幹細胞を採取して保存しておき、同一または同種の他の個体に移植し、精子を形成させ、該精子幹細胞由来の仔を作成することができる。化学療法や環境ホルモン(内分泌攪乱物質)による暴露等で精子形成能が低下または損傷され、不妊になる場合には、事前に精子幹細胞を採取して保存しておくことにより、該精子幹細胞由来の仔を作成することが可能となる。
このように、本発明によれば、希少動物、実験動物、家畜類等の系統保存、化学療法や放射線療法等で不妊になるヒト患者の不妊の回復が可能となる。また、自然交配により凍結幹細胞由来の子孫を得ることができるので、顕微受精等に必要な技術や設備を必要とせず低コストで子孫を作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 新鮮なROSA26精巣細胞と凍結・融解ROSA26精巣細胞の、不妊Wレシピエントマウスへの移植後の幹細胞活性を比較した図であり、(a)は新鮮なROSA26精巣細胞(3x10 5 細胞;左側)、凍結・融解ROSA26精巣細胞(3x10 4 細胞;右側)を移植した後の、Wレシピエント精巣の肉眼視の状態を示す写真、(b)は凍結・融解幹細胞移植後2ヶ月目のレシピエント精巣の組織切片の顕微鏡写真である。
【図2】 不妊Wマウスにおける凍結・融解精巣細胞による稔性回復実験の結果を示す図であり、(a)は非移植マウス(左)と凍結幹細胞移植後241日目の移植レシピエント(マウス番号1156)(右)の精巣の顕微鏡写真であり、(b)は非移植Wマウスの精巣の組織切片の顕微鏡写真であり、(c)は移植されたレシピエントの精巣の組織切片の顕微鏡写真であり、(d)は凍結・融解睾丸停留Green由来の精巣細胞を移植された不妊Wレシピエントからの仔(白,マウス番号1156)の写真である。
【図3】 ブスルファン処理成熟レシピエント精巣におけるドナー精巣細胞コロニー形成の状態を示す写真であり、(a)は未成熟Greenマウス精巣細胞巣を移植されたレシピエント精巣の肉眼視で観察した状態を示す写真、(b)は(a)の精巣の組織切片の顕微鏡写真、(c)は(a)に記載の精巣の精巣上体の精細管の写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に主としてマウスの場合を例に挙げて本発明の方法を説明するが、マウス以外の哺乳動物、さらには脊椎動物、無脊椎動物の場合にも、本明細書に記載の方法および当該技術分野で既知の方法を用いて本発明を実施することができることは、当業者にとって明らかである。
【0017】
凍結精子幹細胞の調製、融解処理などは他の幹細胞の場合と実質的に同様である(非特許文献2ほか)。具体的には文献(実験医学別冊「幹細胞クローン、研究プロトコル」羊土社)記載の方法で調製することができる。
【0018】
成熟したドナーから調製する場合、成熟個体精巣中の未分化細胞である生殖幹細胞含有量が少ないため、採取した試料を既知の方法で濃縮してから凍結処理することが好ましい(実験医学別冊、前掲)。未成熟ドナーの場合は精巣内に多量の精子幹細胞が存在しているので、採取した試料をそのまま使用することができる。例えば、マウスの場合、1週齢程度の未成熟個体から調製すると好都合である。また、精子幹細胞は試験管内で増幅して(特願2003−110821号)数を増やしてから凍結することも可能である。
【0019】
本発明には、任意の方法で得た凍結精子幹細胞を用いることができる。一例として、ドナー動物の精巣を摘出するか、一部を採取し、溶媒(PBS:Phosphate-Buffered Saline)中で白膜を除去し、コラゲナーゼ、トリプシン、DNaseで細胞をばらばらにし、単一細胞になった精巣細胞をジメチルスルホキシドとウシ胎仔血清アルブミン含有セルバンカー(Cellbanker; DIA-IATRON、東京)を用いて懸濁し、濃度5×10 6 〜10 7 /mlの浮遊細胞を容量1.5mlの凍結用チューブに約1ml程度づつ分注し、−80℃で1日凍結することにより得ることができる。凍結した精子幹細胞は−196℃の液体窒素中で保存する。
【0020】
凍結精子幹細胞は、保存期間中に試験管内で増殖させて再度凍結保存することが可能であり、ほぼ永久に保存することができる。使用に際しては、常法に従って溶媒中で融解し、懸濁して細胞浮遊液とする。融解の方法も特に限定されないが、例えば、37℃の恒温槽で、10%ウシ胎仔血清を含有するダルベッコの改良イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium,DMEM)DMEM/FCS中で行うことができる。具体的には、恒温槽に凍結チューブを浮かべ、10mlのDMEM/FCSを滴下して融解する。細胞を遠心して洗った後、DMEM/FCSに懸濁し移植まで氷上で保存する。
【0021】
精子幹細胞浮遊液を用いて幹細胞をレシピエントの精巣に移植する方法も任意であり、当該技術分野で既知の方法を採用することができる。例えば、精細管へ直接マイクロインジェクション等により注入するか、輸精管にマイクロインジェクションにより注入し精巣網へ到達させる方法などがある。後者が好ましい。移植された精子幹細胞はレシピエントの精細管の管壁内に生着し、精母細胞を経て精子細胞、精子へと分化発達し精巣上体へと移動して成熟する。
【0022】
レシピエントの精巣で形成された精子幹細胞由来の精子による受精卵は、性動物との自然交配、または常法に従って人工授精、体外受精・胚移植により得ることができる。体外受精には顕微受精(microinsemination)を採用することができる。それらの方法は当該技術分野で既知である。受精卵を有する雌性動物を適当な条件下で飼育し、一定期間後にドナー雄性動物由来の子孫を得る。
上記の方法において、ドナー雄性動物とレシピエント雄性動物は同一個体であっても、別の個体であっても良い。
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0024】
実施例では、ドナーマウス精巣から調製した凍結精子幹細胞と新鮮な精子幹細胞の、精子幹細胞コロニー形成能を比較し(定量実験、第一実験)、次いで、凍結精子幹細胞由来の子孫を作成した(第二実験)。
以下に、実施例で用いたドナー、レシピエントマウス、ドナー細胞(凍結・融解精子幹細胞)の調製、ドナー細胞の移植、レシピエント精巣の組織学的検査および顕微受精の方法を説明する。
【0025】
(1)マウス
1)ドナーマウス(第一実験)
ROSA:B6−TgR(ROSA26)26Sorトランスジェニックマウス(米国ジャクソン研究所)
特徴:Rosa26マウスは大腸菌のLacZ遺伝子を精細管内の全ての精子形成細胞に発現している。レシピエントマウスに移植されたドナー精巣細胞はβ−ガラクトシダーゼを産生しているので、基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−D−ガラクトシダーゼ(X−gal)の存在下、青色を呈する(LacZ染色)。LacZ遺伝子はドナーの精子形成細胞の全てに発現しており、ドナーの幹細胞由来の精子形成はX−galによるLacZ染色(青色)で同定できる。
【0026】
2)ドナーマウス(第2実験)
GFP(Green):C57BL/6 Tg14(act−EGFP)OsbY01トランスジェニックマウス(大阪大学岡部勝先生供与、Okabe,M.,et al.,(1997),FEBS Lett.407,313−319)
特徴:GPPの精原細胞と精母細胞は増強された緑色の蛍光性蛋白(EGFP)を発現しており、その発現は減数分裂以降減少する。従って、蛍光強度に基づいてドナー由来の精細胞を同定することが可能である。以下の実施例において、ドナー精巣細胞由来のEGFP遺伝子陽性のコロニーは蛍光実体顕微鏡(MZ FLIII,ライカ製)を用いて観察した。実験には雄の子供(pup,生後6日齢)もしくは成熟マウス(adult,6−8週齢)で導入遺伝子が陽性である個体を用いた。ドナー精巣細胞の採取は生後6日齢のGreenマウスの精巣か、停留睾丸処置後2−3ヶ月後の成熟Greenマウスの精巣より得た。これらのマウスの精巣には分化した細胞が欠損しており、幹細胞が濃縮されているので、該マウスから得たドナー精巣細胞を用いると、移植効率が高く不妊回復が促進されると考えられる。停留睾丸手術は文献記載の方法に従って行った(Shinohara,T.,et al.(2000)Dev.Biol.220,401−411)。
【0027】
3)レシピエントマウス(第一、第二実験)
B6マウス(ブスルファン処理または未処理):C57BL/6マウス(6−12週齢)(静岡実験動物センター、「日本SLC」と呼称)
特徴:ブスルファン処理B6マウスは、6週齢の時にブスルファン(44mg/kg)注射により内因性精子形成細胞除去処理を施し、その一ヵ月後に移植に供した。ブスルファン処理によって内因性の精子幹細胞を破壊することにより、ドナー細胞移植が可能となっている。この処理は悪性疾患患者に起こる抗癌剤の副作用を模するものである。
【0028】
Wマウス:WBB6F1−W/W/vマウス(5−10日齢もしくは6−12週齢、日本SLC)
特徴:生殖細胞に発現しているc−kitというレセプター型のチロシンキナーゼに遺伝子変異があるために内因性の精子形成能を欠損している。
これらブスルファン処理B6マウスと先天不妊のWマウスは、いずれも凍結されていない新鮮な精子幹細胞を移植した際に、精子形成を支持する能力を有することが知られている(Ogawa,T.et al.(2000)Nat.Med.6,29−34;Shinohara, T.et al.,Dev.Biol.220,401−411)。
【0029】
(2)ドナー細胞(ドナー由来の精子幹細胞)(一般手法)
1)ドナーマウスの精巣を摘出しPBS中で白膜を除去し、1mg/mlコラゲナーゼ(I型)、7mg/ml DNaseを含むハンクス液中、37℃にて適宜振盪しながら15分間インキュベートし精細管をほぐした。PBSにより2回洗浄してはがれた間質の細胞を除去した後、0.25%トリプシンを含むPBS中で37℃にて適宜振盪しながら15分間インキュベートし、精細管をばらばらにした。PBSを加え、トリプシンを不活化した後、ピペッティングを行って細胞浮遊液を得た。これを20〜30μmのナイロンメッシュに通して未消化細胞塊を除去し、600×gで5分間遠心して細胞を集めた。
新鮮な細胞調製物を移植に用いる場合は、得られた細胞をDMEM/FCSに懸濁して細胞浮遊液を得た。
【0030】
凍結保存する場合は、上記で単一細胞にした精巣細胞をジメチルスルホキシドとウシ胎仔血清アルブミンを含有するセルバンカー(Cellbanker; DIA-IATRON、東京)中に懸濁し、容量1.5mlの凍結用チューブに細胞浮遊液(細胞密度:107/ml)1mlを分注し、−80℃で1日凍結処理した。凍結した精子幹細胞は−196℃の液体窒素中で使用まで保存した。
【0031】
2)凍結ドナー細胞の融解
融解処理は原則としてセルバンカーの供給者の指示に従って行った。即ち、37℃の恒温槽中に凍結チューブを浮かべ、細胞培養用の培地である10%ウシ胎仔血清含有DMEM(DMEM/FCS)10mlを滴下して融解した。細胞を600g×5分間遠心して洗浄した後、DMEM/FCSに再懸濁して移植まで氷上で保存した。
【0032】
(3)ドナー細胞の移植
移植はDMEM/FCS中に懸濁したドナー精巣細胞浮遊液をレシピエントマウスの精細管または輸精管に常法通りマイクロインジェクションして行った(実験医学別冊「幹細胞クローン、研究プロトコル」羊土社参照)。成熟マウスの場合は、Avertin(640mg/kg)麻酔下、両方の精巣に移植した。未成熟マウスの場合は氷冷下、低体温法により、片方の精巣のみに移植した。これは、長時間低体温に維持することによる術後の生存率低下を避けるためである。実験の内容は下記の表1にまとめて示した。原則として、B6マウスを用いた実験では、約10μlのドナー精巣細胞を含む溶液を精巣の精細管または輸精管の中にマイクロインジェクションしたが、成熟したWマウスの場合、精巣のサイズが小さいので3μlをマイクロインジェクションした。未成熟なWマウスを用いた場合は2μlのドナー精巣細胞を用いた。個々の移植された精巣においては、75−85%の精細管がドナー由来の細胞で満たされた。
【0033】
第一実験における移植は、ドナーの凍結細胞は7.5x10 6 〜3x10 7 /mlの細胞濃度(DMEM/FCSに懸濁)で行ったのに対し、新鮮な細胞は10 8 /mlの濃度で行った。これは、細胞を凍結融解した場合にはその回収率が実験ごとに異なるからである。
第二実験における移植は、凍結したドナー精巣細胞の移植を108/ml(B6マウスもしくは成熟Wマウス)または3x10 7 /mlの濃度(未成熟Wマウス)(DMEM/FCSに懸濁)で行った。
【0034】
(4)組織学的分析
レシピエントマウスの精巣の組織学的な検査は肉眼視または顕微鏡下で行った。顕微鏡下での検査は以下の方法で実施した。
精巣組織は10%中性ホルマリンを用いて固定し、パラフィンに包埋し、12μmの間隔で切片の作成を行った。全ての切片はヘマトキシリン・エオジン染色にて染色を行った。個々の精巣より4枚の切片を作成した。個々のスライドは400倍の拡大率で観察した。第二実験では、3枚のスライドより、ホストの精巣内での精子形成の度合いを表すために、精子形成の見られるもの(精細管の全周にわたって多層の細胞が見られるものと定義)と精子形成の見られないものの数を記録した。最低500本の精細管のカウントを行い、統計学的な処理はStudentのt−testで行った。
【0035】
(5)顕微受精
顕微受精はドナーの精細胞を過排卵を誘導した雌マウス(C57BL/6xDBA/2 F1)から採取した卵の細胞質内に顕微鏡下でインジェクションすることにより行った(Kimura,Y.et al.(1995)Development 121,2397−2405)。24時間後に2細胞期に到達した胚を偽妊娠処理した雌マウス(ICR)の卵管に移植した。
【0036】
第一実験および第二実験の手順を表1にまとめて示す。
表I:第一実験および第二実験の手順
【表1】
Figure 0004389027
a:第一実験は凍結の精子幹細胞に及ぼす影響を評価するための定量実験である。
第二実験は凍結−融解精子幹細胞由来の仔の作成のための実験である。
b:ROSA26成熟:6−8週齢、GFP成熟:14−20週齢、GFP未成熟:6日齢
c:平成熟:6−12週齢、B6成熟:10−12週齢、W未成熟:5−10日齢
【0037】
実施例1 精子幹細胞の定量実験(第一実験)
ドナーマウスから得たドナー精巣細胞中の精子幹細胞を定量した。
(1)ドナーとして成熟ROSA26を用いた。ドナー精巣細胞の凍結・融解およびドナー精巣細胞浮遊液の調製は、上記「(2)ドナー細胞の調製(一般手法)」に記載の方法で行った。既述のごとく、ROSA26から得た幹細胞由来の精子はX−galによるLacZ染色で青色を呈することに基づいて同定することができるので、ドナー精巣細胞調製物中の幹細胞量の定量が可能である。
【0038】
(2)ドナー精巣細胞の移植
細胞浮遊液の調製
移植に先立ち、5ヵ月間液体窒素中で凍結保存し、融解したドナー精巣細胞調製物を含有するDMEM/FCS中浮遊液と新鮮なドナー精巣細胞調製物のDMEM/FCS中浮遊液を用いた。細胞調製物中の細胞の生存率をトリパンブルーで判定した。
トリパンブルー判定に基づく凍結・融解後のドナー精巣細胞の生存率は、凍結・融解処理していない新鮮な細胞に比較して有意に低下していた(凍結・融解細胞の生存率:67.4±5.9%,mean±SEM;n=8;新鮮細胞の生存率:93.6±1.7%,mean±SEM;n=7;P<0.01)。凍結前の細胞に対する生存細胞の平均回収率は37.6±5.1%(mean±SEM;n=8)であった。
凍結・融解細胞調製物中、生存していたドナー精巣細胞のみをカウントして、細胞移植に用いた。
【0039】
レシピエント
先天性不妊のWマウス(5−10日齢または6−12週齢)とブスルファン処理B6マウス(6−12週齢)を用いた。
凍結・融解幹細胞の精子形成能を試験するために、同数の細胞をレシピエントに移植した。ドナー精巣細胞はいずれもDMEM/FCS中浮遊液として用いた。
B6マウスには、融解ドナー精巣細胞浮遊液(7.5x10 6 〜3x10 7 /ml)3μl、または新鮮なドナー精巣細胞の浮遊液(1x10 8 /ml)3μlを移植した。
上記(4)に記載の通り、Avertin(640mg/kg)麻酔下、レシピエントの精巣に各精子幹細胞浮遊液10μlをマイクロインジェクションした。
【0040】
マウスを該動物の通常の飼育条件下で2ヵ月間飼育した後、開腹し、各動物の精巣を回収し、X−gal染色した。精細管における青色領域(コロニー)は移植した単一の精子幹細胞に由来する精子の存在を示している(Nagano,M.et al.(1999)Biol.Reprod.60,1429−1436)。即ち、精巣の他の細胞は精子形成と無関係であり、ホストの内因性の生殖細胞はX−galで染まらない。従って、青色コロニーの数は移植された細胞集団中の幹細胞の数を示している。
【0041】
結果を表IIと図1に示す。図1は新鮮なROSA26精巣細胞と凍結・融解ROSA26精巣細胞の、不妊Wレシピエントマウスへの移植後のコロニー形成能を比較した図である。(a)は新鮮なROSA26精巣細胞(3x10 5 細胞;左側)、凍結・融解ROSA26精巣細胞(3x10 4 細胞;右側)を移植した後の、Wレシピエント精巣の肉眼視により観察した状態を示す写真である。ドナー由来の精子形成はX−galで青色に染色されるが、添付の図1aでは灰色乃至黒色の斑点で表されている。図1a左側(新鮮)では精巣中に1つ、右側(凍結)では、精巣中に4つの精子形成が認められ、この結果は、凍結・融解したものの方が精子形成能が高いことを示している。低濃度であるにも拘わらず、凍結・融解ドナー精巣細胞由来のドナー精巣細胞由来精子形成が高いことが分かる。(b)は凍結・融解精巣細胞移植後2ヶ月目のレシピエント(W)精巣の組織切片の顕微鏡写真である。生殖細胞は正常な精子形成像を呈している。ヘマトキシリンおよびエオシン染色した。Bar = 1 mm (a)および25 mm (b)。
【0042】
表II: 凍結・融解幹細胞および新鮮幹細胞のコロニー形成能の比較
【表2】
Figure 0004389027
mean±SEM, データは各セットについて2回実験して得た。
注入量:Wマウス精巣には3μl、ブスルファン処理B6マウスの精巣には10μlをインジェクションした。
【0043】
表IIは、Wレシピエントマウスの場合、凍結・融解ドナー精巣細胞由来のコロニーは新鮮なドナー精巣細胞由来のコロニーの11.7倍(62.1:5.3コロニー/10 5 ドナー細胞、P < 0.05)であることを示している。同様に、ブスルファン処理B6レシピエントマウスの場合も、凍結・融解ドナー精巣細胞由来のコロニーは新鮮なドナー精巣細胞由来のコロニーの5.1倍(P < 0.01)と高くなっている。表IIおよび図1に記載の結果は、凍結・融解ドナー精巣細胞が新鮮なドナー精巣細胞より精子形成活性が高いことを示している。これらの結果はまた、本発明方法によれば、安定に多量の精子が形成されるので自然交配による受精が可能となること、さらには本発明方法が実用化に適することを示すものである。
【0044】
実施例2 凍結精子幹細胞を移植したレシピエントの稔性回復およびドナー幹細胞由来の仔の作成(第二実験)
(1)ドナーとして上記のトランスジェニックマウスGFP(Green)を用いた。ドナー精巣細胞の凍結・融解およびドナー精巣細胞浮遊液の調製は、上記「(2)ドナー細胞(ドナー由来の精子幹細胞)」に記載の方法に準じて行った。生後6日齢のマウス(pup)もしくは停留睾丸処置後2−3ヶ月後の成熟マウス(adult,6−8週齢)から精子幹細胞を得、凍結した。このトランスジェニックマウスの精原細胞と精母細胞は増強された緑色の蛍光性蛋白(EGFP)を発現しており、その発現は減数分裂以降減少する。
【0045】
(2)ドナー細胞の移植
移植用ドナー細胞
上記の方法にしたがい、2−3週間液体窒素中で凍結保存した後、融解したドナー精巣細胞を含有するDMEM/FCS中浮遊液を用いた。
【0046】
移植
上記の「(3)ドナー細胞の移植」に記載の方法で行った。
表1に記載の要領で、成熟GFPマウス(停留精巣処理)由来のドナー精巣細胞浮遊液をB6マウス(成熟,ブスルファン処理)およびWマウス(成熟または未成熟)にマイクロインジェクションした。一方、未成熟GFPマウス由来のドナー精巣細胞浮遊液をWマウス(未成熟)にマイクロインジェクションした。ドナー精巣細胞移植後、レシピエントマウスを該動物の通常の飼育条件下で飼育した。対照として、非移植マウスを同一条件下で飼育した。
【0047】
自然交配による仔の作成
ドナー精巣細胞移植後、上記の飼育条件下で飼育したレシピエントマウスを、雌性B6野生型マウスと共にこれら動物の通常の飼育条件下で飼育し、自然交配させ、仔の発生を検討した。成熟マウスの場合は2週間後、未成熟マウスの場合は6週間後に、交配を試みた。
【0048】
レシピエント精巣の組織学的検査
レシピエントマウスを通常の条件下で飼育し、ドナー精巣細胞移植後213〜246日目に、開腹し、各動物の精巣を回収し、ドナー精巣細胞の移植効率を判定した。実施例1と同様に精巣の切片を作成し個々のスライドを正立顕微鏡を用いて400倍の拡大率で観察した。ホストの精巣内での精子形成の度合いを表すために、精子形成の見られるもの(精細管の全周に渡って、多層の細胞が見られるものと定義)と精子形成の見られないものとの数を3枚のスライドより記録した。最低500本の精細管のカウントを行った。統計学的な処理はStudentのt−testで行った。
また、雌マウスからの仔の出産が認められたレシピエント(稔性レシピエント)、認められなかったレシピエント(不稔性レシピエント)および移植しないで飼育した対照動物の精巣重量を測定した。
【0049】
結果を表III、表IVおよび図2に示す。図2は、不妊Wマウスにおける凍結・融解精巣細胞による稔性回復実験の結果を示す図である。(a)は非移植マウスの精巣(左)と凍結精子幹細胞移植から241日目の移植レシピエント(マウス番号1156)の精巣(右)の顕微鏡写真である。レシピエント精巣が非移植マウスに比較してかなり大きく成長していることが分かる。(b)は非移植Wマウスの精巣の組織切片の顕微鏡写真である。(c)は移植されたレシピエントの精巣の組織切片の顕微鏡写真である。(b)では管腔内が白く抜け、空になっており、精子が存在しないが、(c)では管腔内の周辺部に黒い点で表された精子が多数形成されていることがわかる。(d)は凍結・融解睾丸停留Green由来の精巣細胞を移植されたWレシピエントと雌性B6(黒)から産まれた仔の写真である(白,マウス番号1156)。組織はヘマトキシリンおよびエオシン染色した。Bar=1mm(a)および50mm(b,c)。
【0050】
表IIIの実験結果は各移植細胞型について2〜3回の実験データに基づいてmean±SEMで表した。
表IVに、稔性を回復した5匹のレシピエントの詳細なデータを記載する。
【0051】
表III:凍結・融解精巣細胞の移植後の精子形成
【表3】
Figure 0004389027
a:レシピエント精巣横断面における精子形成の割合(%)。精細管の全周に渡って多層の細胞が見られるものを精子形成陽性と判定した。
b:N.D.は内因性精子形成があるため測定できなかったことを意味する。
【0052】
表IV:凍結・融解幹細胞をマイクロインジェクトされたWレシピエントマウス由来の子孫
【表4】
Figure 0004389027
a:ドナー細胞型;adult,睾丸停留
b:未成熟(pup)レシピエントの場合は右側精巣のみに移植したが、成熟(adult)レシピエントには両側精巣に移植した。
c:レシピエント精巣横断面における精子形成の割合(%)。精細管の全周に渡って多層の細胞が見られるものを精子形成陽性と判定した。
d:移植から雌マウスが最初の仔を産むまでの日数。
N.D.:移植していないため測定していないことを意味する。
【0053】
表IIIに示すように、凍結・融解ドナー精巣細胞を移植された8匹のW(pup)マウスのうち、4匹が稔性を回復し移植から72−190日の間に雌マウスに仔を産ませた。表IVに示すように、そのうち3匹は成熟睾丸停留マウス由来のドナー精巣細胞を移植され、1匹は未成熟マウス由来のドナー精巣細胞を移植されたものである。ドナー精巣細胞の起源は、UV測定による緑色蛍光により確認した。
【0054】
稔性レシピエントの精巣重量(40.7±7.3mg;n=4)は不稔性レシピエントの精巣重量(22.6±2.2mg;n=4、P<0.05)または非移植対照動物の精巣重量(10.4±0.8mg;n=7、P<0.01)より有意に大きかった(図2aをも参照)。組織学的な分析により、稔性レシピエントの精巣中のドナー生殖細胞コロニー(77.4±4.8%;n=4)は、不稔性レシピエントの精巣中のドナー生殖細胞コロニー(27.0±2.3%;n=4)より広範囲に及ぶことが分かった(P<0.001)。図2bおよび図2c参照。
【0055】
Wマウスは精子形成能を持たないので、レシピエントの精巣での精子形成は全てドナー精巣細胞由来である。しかしながら、精子形成能の回復は8匹の未成熟Wレシピエントの全てで認められ、そのうち7匹の精巣上体切片では精子形成が認められ(7/8、87.5%)、潜在的な稔性を示していた。雌マウスから仔を産生した4匹のレシピエントは分析の時点まで稔性を維持した(即ち、移植後少なくとも228日後まで)。図2d、表IV参照。これは、移植した精子幹細胞が連続的に分裂し正常に分化したことを示している。
以上の結果から、未成熟ドナーまたは睾丸停留成熟ドナー由来の凍結幹細胞移植は、先天的に不妊であるWレシピエントマウスに正常な稔性を回復させることが明らかになった。
【0056】
一方、成熟レシピエントにおいては、稔性の回復はさほど有効でなかった。1/9の成熟Wレシピエントは自然交配で雌マウスに仔を産ませたが、その仔は移植から221日目に初めて得られた。そして、精子形成能の回復は全例で認められたものの、精巣上体における精子の含有率は未成熟レシピエントの含有率より低い(55.6%対87.5%、表III参照)。また、7ヶ月後においても、ブスルファン処理レシピエントは稔性を回復しなかった。
【0057】
図3はブスルファン処理成熟レシピエント精巣におけるドナー精巣細胞コロニー形成の状態を示す写真である。(a)は未成熟Greenマウス精巣細胞巣を移植されたレシピエント精巣の肉眼視で観察した状態を示す写真である。UV下緑色の精細管は、ドナー精巣細胞のコロニー形成の存在を示しており、添付の図3aでは白〜灰色で表されている。(b)は(a)の精巣の組織切片の顕微鏡写真である。精子形成が幾つかの精細管で認められている。しかし、(a)に記載の精巣の精巣上体の精細管には精子が存在しない(c)。ヘマトキシリンおよびエオシン染色した。Bar=1mm(a)および200mm(b,c)。
【0058】
2つの型の成熟レシピエント(W,B6)でドナー由来の精子形成が認められたが、精子形成レベルは未成熟レシピエントより有意に低く、精巣上体の図から明らかなように、精子数が少ないために自然交配で雌マウスを妊娠させることができなかったと考えられる。これは、ブスルファン処理レシピエント精巣の移植から12ヶ月後に行った組織学的検査の結果に示されている(図3bおよびc)。
【0059】
顕微受精
自然交配では不妊であるブスルファン処理レシピエントマウスを用いて、ヒトの不妊治療における方法により顕微受精を行った(Palermo,G.et al.(1992)Lancet 340,17−18;Kimura,Y.et.al.(1995)Development 121,2397−2405)。凍結ドナー精巣細胞(未成熟ドナー由来)を移植した後、180日目にブスルファン処理マウス(1匹)を犠牲にし、UV光の下、ドナー精巣細胞由来のEGFP遺伝子陽性のコロニーを蛍光実体顕微鏡(MZ FLIII,ライカ製)を用いて観察した。この精細管を機械的に何度もピペッティングすることで生殖細胞を回収した。こうして回収した生殖細胞は顕微受精に用いる前に、以前報告した方法で再度凍結し、顕微受精まで保存した。3日間凍結保存した後、成熟精子または伸長精子細胞を雌マウスC57BL/6×DBA/2 F1(B6D2F1)の卵子(細胞質内)にインジェクションした。卵は過排卵を誘導した雌マウスより採取した。使用した雄性生殖細胞に関係なく約80%の卵子が24時間以内に2細胞期に到達した。80の精子と21の伸長精子細胞により構築された101のディプロイド接合体を輸卵管に移した。そのうち68個(67%)が子宮に移植され合計31匹の仔(31%)が産まれた。ドナー起源は紫外線下、蛍光により確認された。子孫は、稔性であることが分かった。
【0060】
以上から、ドナー精巣細胞は未成熟な個体および成熟した個体のいずれから得た精子幹細胞を用いても、成熟または未成熟なレシピエント内で精子を形成させ自然交配により仔を産生することができることが明らかになった。また、自然交配による仔の産生は、成熟レシピエントより未成熟レシピエントの方が成功率が高い傾向にあることも明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、従来、脊椎動物の生殖技術において、凍結精子に代えて凍結精子幹細胞を使用することが可能となり、凍結や保存の際の煩雑な処理、融解精子の生殖能力の低下、多量の精子取得の困難さなど、精子の使用に伴う様々な問題が解決され、より確実で安定な生殖技術を確立する途が拓かれる。本発明方法は、家畜や実験動物の系統維持のみならず、希少動物の保護、さらには先天的な不妊症や悪性腫瘍の治療等により二次的に不妊症に罹患しているヒト患者の治療にも有用である。

Claims (4)

  1. ドナー動物由来の凍結精子幹細胞を融解して凍結・融解細胞調製物を得、該凍結・融解細胞調製物より生存細胞を選択し、選択された生存細胞を未成熟な雄性レシピエント動物の生殖器官に輸精管をガイドとして移植し、該生殖器官内で精子を形成させることにより繁殖用雄性個体を得、該繁殖用雄性個体と雌性動物との自然交配によって精卵を得、該受精卵から動物個体を発生させることを特徴とする、ドナー動物の精子幹細胞由来の動物個体を作成する方法(但し、動物はヒト以外の哺乳動物である)。
  2. 未成熟な雄性レシピエント動物が不稔性である、請求項1記載の方法。
  3. 未成熟な雄性レシピエント動物の生殖器官が精細管または精巣網である、請求項1または2記載の方法。
  4. 動物が、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、スナネズミ、ハムスター、ウサギ、厚皮動物、ウマ、ヒツジ、ウシ、および海生哺乳類から成る群から選択される哺乳動物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
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