JP4377538B2 - セラミックスチェックボールおよびそれを用いたポンプ部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポンプ部品に用いられるチェックボールおよびそれを用いたポンプ部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
油成分等の液体を噴出するポンプ部品は、自動車部品の燃料噴射装置や液体クロマトグラフ等のように内燃機関から精密機器まで様々な分野に使用されている。特に、チェックボールを使用したポンプ部品は、チェックボールの働きにより所定量の液体の排出および液体の逆流の防止等の制御がし易いことから前述の分野において好んで使用されている。
従来、チェックボールにはステンレスや軸受鋼等の金属ボールが使用されていたが、金属ボールは耐摩耗性が悪く、自動車部品等の使用環境が厳しいものにおいては十分な耐久性が得られていなかった。特に、ディーゼルエンジンにおいては燃料中にスス等の炭素成分が含まれており、この炭素成分が潤滑剤の役割を果たしてしまうことから摩耗が激しかった。
そこで、近年は金属ボールに代わりセラミックスボールがチェックボールに使用されるようになっていた。セラミックスの中で、酸化アルミニウム、窒化珪素、酸化ジルコニウムはベアリングボール等の摺動部材に使用されているように金属に比べて、耐摩耗性に優れることからチェックボールとしても十分機能していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、チェックボールを支持する弁座部は通常、断面が角型であることからチェックボール支持部とチェックボールとは点接触または線接触となっていた。チェックボールはポンプ部品内において、基本的に回転せず実質的には固定された状態で存在していることから、チェックボール支持部に固定された状態、つまりは常に一定方向で一定の部分のみが点接触または線接触を続けると、その点接触または線接触している部分のみが摩耗してしまい、長期間使用しているとチェックボール支持部とチェックボール間のクリアランスが摩耗により変化してしまいポンプ部品としての機能が低下することになる。ポンプ部品の機能が低下すると、例えば自動車部品においてはエンジン故障の原因となってしまうことからポンプ部品の信頼性向上の要求は高い。
特に、ディーゼルエンジンにおいては燃料中にスス等の炭素成分が数10ppm程度含まれていることから、この炭素成分が潤滑剤の役割を果たしてしまっていた。このような場合においてもセラミックスチェックボールそのものの摩耗量は比較的少ないものの、チェックボール支持部と点接触または線接触を繰返すとセラミックスチェックボールと言えども摩耗を抑えることは難しかった。
【0004】
さらに、ポンプ部品は燃料噴射時に弁座部のチェックボール支持部とチェックボールが衝突を繰返すことから、前述の点接触または線接触の状態では自動車部品のように回転速度が5000rpm以上、さらには8000rpm以上と高速回転になるにしたがって摩耗の促進だけでなく、セラミックスチェックボールにクラックが発生すると言った問題も生じていた。
このような問題点を解決するためにチェックボール支持部に曲面を設け、面接触にすることも考えられるが、ポンプ部品内においてチェックボール支持部とチェックボールのクリアランスを正確に保つには曲面を精密加工せねばならず、製造性の観点から必ずしも良いとは言えなかった。また、チェックボール支持部は金属製であることが多く、セラミックスと比較して摩耗し易く曲面加工を施すとチェックボール支持部の支持面周縁部が薄くなり強度が低下する恐れがあった。
本発明は上記したような問題を解決するためになされたものであって、耐摩耗性に優れかつ製造性の良いチェックボール並びにそれを用いたポンプ部品を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明のチェックボールは、ポンプ部品に用いられるチェックボールにおいて、表面の一部に平坦部が存在することを特徴とするものである。
また、セラミックスとしては、特に耐摩耗性に優れた窒化珪素または酸化ジルコニウムを主成分とすること、さらには、表面粗さRaが0.05μm以下であることが好ましい。
また、チェックボールの直径をR1、平坦部の直径をR2としたときのR2/R1比が1/10〜1/3であることが好ましい。
このような本発明のチェックボールをポンプ部品に組込む際に、平坦部をチェックボール支持部に合せることが好ましく、特に自動車に搭載されるポンプ部品のように使用環境が厳しいものに適用すると効果的である。
本発明のチェックボールおよびそれを用いたポンプ部品は、チェックボールとチェックボール支持部が面接触となることから耐摩耗性が向上し、ポンプ部品としての信頼性が向上する。また、チェックボールに平坦部を設けると言った手法であることから製造性も良好である。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のチェックボールおよびそれを用いたポンプ部品の実施の形態について説明する。
本発明のチェックボールは、ポンプ部品に使用されるものであって、実質的に球状であり、その表面の一部に平坦部を有するものである。球状であるとは、断面が真球状となる部分が存在することであるが、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状であっても問題はない。本発明の平坦部を設けたチェックボールの一例を図1および図2に示す。図中、1はセラミックスチェックボール、2は平坦部を示すものとする。また、チェックボール支持部が2ヶ所または円周状である場合は図3に示したように、平坦部を2ヶ所または帯状に平坦部を設けることも可能である。
【0007】
従来のチェックボールは、図5に示したように真球形状であったが、本発明においては表面の少なくとも一部に平坦部を設けたものである。平坦部は、図4に示したようにポンプ部品の弁座部のチェックボール支持部3に合せるものである。平坦部をチェックボール支持部と合せることにより、支持部と面接触の状態となることから接触部の摩耗量が大幅に改善される。
このような効果を得ることから、本発明においてはチェックボール支持部に接触する接触部の存在する個所はすべて平坦部であることが好ましい。接触部の一部のみに平坦部が存在しても耐摩耗性の改善は見られるが、少なくとも接触部の50%以上が平坦部となっていることが好ましく、さらに好ましくは接触部の100%が平坦部となっていることである。特に、接触部の100%が平坦部となっている形態は製造性も良好である。
【0008】
次に、セラミックスの材質について説明する。セラミックスの材質は窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等を主成分とするものが好ましく、耐摩耗性の観点からは窒化珪素または酸化ジルコニウムを主成分とするものが好ましい。
特に、ヤング率が200GPa以上の窒化珪素または酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックス材料であれば、剛性が上がることから精密加工を施し易い。
チェックボールはポンプ部品において、所定量の液体の排出と非排出時に液体の逆流防止の両方の機能を持っている。そのため、ポンプ部品内においてボール支持部を含めたチェックボールの周辺部とのクリアランスを正確に保つと同時に気密性も確保しなければならない。
【0009】
このような観点からすると、チェックボールの表面粗さRaは0.05μm以下、さらには0.02μm以下であることが好ましい。チェックボールの表面粗さRaが0.05μm以下であると、上記クリアランスおよび気密性が十分確保できることから液漏れ等の不具合を抑制できる。また、セラミックスのヤング率が200GPa以上であれば剛性が上がり精密加工性を向上させることが可能なため表面粗さを所定の値にし易くなる。
【0010】
チェックボールの平坦部のサイズはチェックボール支持部と面接触が得られるのであれば特に限定されるものではないが次のような形態であることが好ましい。チェックボールの直径をR1、平坦部の直径をR2としたときのR2/R1比が1/10〜1/3の範囲であることが好ましい。 R2/R1が1/10未満であると、実質的な面接触が得られ難く耐摩耗性があまり改善されない。一方、 R2/R1が1/3を超えると平坦部が必要以上に大きくなりすぎることから、実質的なチェックボールの厚み方向の大きさが小さくなってしまいチェックボールそのものの耐久性が落ちてしまう。
【0011】
また、チェックボールの直径R1が0.5〜10mm、さらには2〜6mmのときには特にR2/R1の値を1/10〜1/2、好ましくは1/5〜1/3に制御することが好ましい。なお、チェックボールの直径R1、平坦部の直径R2はいずれも最大径とする。例えば、チェックボールおよび平坦部の形状が円形であればその直径をそれぞれR1、R2とする。チェックボールの形状が楕円等の形状であれば長軸方向をR1とする。平坦部の形状が楕円若しくは多角形等の非真円形状であった場合、その最も長い対角線をR2とするものとする。また、平坦部が2ヶ所以上あるときは、その中で最も長い対角線をR2とし、平坦部が帯状の場合は最も長い幅をR2とするものとする。
【0012】
このような本発明のセラミックスチェックボールであればチェックボール支持部と面接触構造を得られることからチェックボールの摩耗量を抑えられると共に、チェックボールへの長時間使用に伴うクラックの発生をも抑制することができる。同様に面接触構造であることからチェックボール支持部の支持面の摩耗も抑制することができる。
次に製造方法について説明する。所定の平坦部が得られるのであれば製造方法は特に限定されるものではないが例えば次のような方法が有効である。
まず、所定組成の原料粉末を混合、成形する際に、予め成形型に平坦部を設けた後、焼結する方法である。別の方法では、球状に成形、焼結した後、研磨加工により平坦部を設ける方法である。また、表面粗さを所定の値にするために必要に応じ表面加工を施すものとする。
また、ヤング率を200GPa以上とするために、窒化珪素焼結体または酸化ジルコニウム焼結体中に酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のアルミニウム成分を1〜10wt%含有させることも効果的である。
【0013】
【実施例】
(実施例1〜2、比較例1〜4)
直径(R1)が2mm、直径(R2)が0.4mmの平坦部を一つ具備した窒化珪素(ヤング率240GPa)製セラミックスチェックボールを用意した。これらセラミックスチェックボールの表面粗さRaを0.05μm以下に研磨加工を施すことにより、実施例1および実施例2にかかるセラミックスチェックボールとした。
このセラミックスチェックボールをディーゼルエンジンのポンプ部品である燃料噴射装置に組込み、6000rpm×1000時間でエンジンを稼動させた際のチェックボールの平坦部の摩耗量をディーゼルエンジン稼動前と稼動後の平坦部の最大深さの差で表示した。また併せて平坦部へのクラックの有無を検査した。このとき、ディーゼル油中のスス(炭)の含有量が実質的にゼロ(10ppm以下)の場合を実施例1、ススの含有量が0.2wt%のときを実施例2とした。なお、ポンプ部品は軸受鋼SUJ2でできたものとし、チェックボール支持部の最大径は0.38mmのものとする。
比較のために平坦部を設けない以外は実施例1と同様の窒化珪素(ヤング率240GPa)製セラミックスチェックボールを用いたものを比較例1および比較例2、実施例1と同様の平坦部を設けた軸受鋼SUJ2製チェックボールを用いたものを比較例3および比較例4とし、実施例1および実施例2と同様の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
表1および表2から分かる通り、本実施例にかかるセラミックスチェックボールは摩耗量が小さいことが分かる。また、平坦部を設けていることからチェックボール支持部と面接触を形成できることからクラックの発生も確認されなかった。特に、ディーゼル油中のスス含有量が0.2wt%の場合には摩耗量が少ないことが分かる。ディーゼル油中のスス含有量が0.2wt%の場合とは、ディーゼルエンジンを長時間または繰り返し使用してきた際にディーゼル油が汚れてきた状態に近似させたものである。つまり、本発明のセラミックスチェックボールはディーゼルエンジンのように燃料が汚染されやすい環境に適したものであることが分かる。
【0017】
それに対し、比較例2ではディーゼル油中のスス含有量が0.2wt%のときには小さなクラックの発生が確認されたことから「あり」と表示した。これはディーゼル油中のスス成分が潤滑剤の役割を果たしたため摩耗量が増大しクラックが発生したものと考えられる。金属製チェックボールについてはクラックの発生は確認されないものの、摩耗量が大きかった。
【0018】
このような結果から比較例のチェックボールでは特にディーゼルエンジン用の燃料噴射装置には向かないことが分かった。
【0019】
(実施例3〜5、比較例5〜6)
次に、R2/R1比を変えた場合の効果について検討する。酸化アルミニウム3wt%、酸化イットリウム4wt%含有させた窒化珪素(ヤング率260GPa)からなる直径(R1)が3mmのセラミックスチェックボールを作製した。このセラミックスチェックボールを研磨加工により表面粗さRaを0.02μm以下にすると共に、 R2/R1比を表3のように変えた場合の摩耗量を測定した。摩耗量の測定は実施例2と同様の条件で行った。
比較のために、本発明の好ましくない R2/R1比を具備したセラミックスチェックボールを比較例5および比較例6として同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0020】
【表3】
【0021】
表3から分かる通り、 R2/R1比が1/10〜1/3の範囲内であれば優れた特性を示すことが分かる。
それに対し、比較例5では平坦部が小さいことから平坦部を設ける効果が小さく十分な面接触効果が得られず、比較例6では平坦部が大きいことからチェックボール自身の厚み方向の長さが短くなり耐久性が劣化したためクラックが発生したものと思われる。
【0022】
(実施例6〜7、比較例7〜8)
次に実施例1と同様のサイズを具備する酸化ジルコニウム製(ヤング率230GPa)チェックボールを作製し、実施例1および実施例2と同様の測定を行った。
比較のために平坦部を設けない真球状の酸化ジルコニウム製(ヤング率230GPa)チェックボールを作製し同様の測定を行った。その結果を表4、表5に示す。
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
表4および表5から分かる通り、セラミックスの材質を変えたとしても平坦部を設けることにより、特性の向上が図れることが判明した。
【0026】
【発明の効果】
本発明のようにチェックボールに平坦部を設けることにより、従来、チェックボール支持部と点接触または線接触であったものを面接触とすることにより耐摩耗性の向上、さらにはクラックの発生を防止することが可能となる。
特に、ディーゼルエンジンのように燃料中にスス成分が混入してしまうような使用環境の悪い分野においてその効果を発揮することができる。また、平坦部のサイズを所定の値とすることにより摩耗量をさらに改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のセラミックスチェックボールの一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明のセラミックスチェックボールの平坦部上方からみた一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明のセラミックスチェックボールの他の実施形態の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明のセラミックスチェックボールを組込んだポンプ部品の一例を示す図である。
【図5】図5は、従来の真球状のチェックボールを組込んだポンプ部品の一例を示す図である。
【符号の説明】
1…セラミックスチェックボール
2…平坦部
3…チェックボール支持部
R1…チェックボールの直径(最大径)
R2…平坦部の直径(最大径)
Claims (5)
- 液体を噴出するポンプ部品に用いられる窒化珪素または酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックスチェックボールにおいて、表面の一部にポンプ部品の弁座部のチェックボール支持部に面接触させるための平坦部が存在し、チェックボールの直径をR1、平坦部の直径をR2としたときのR2/R1比が1/10〜1/3であることを特徴とするセラミックスチェックボール。
- 表面粗さRaが0.05μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスチェックボール。
- 請求項1ないし請求項2のいずれかのセラミックスチェックボールを用い、チェックボールの平坦部を弁座部の金属製のチェックボール支持部に合わせることによりチェックボールの平坦部とチェックボール支持部を面接触構造としたことを特徴とするポンプ部品。
- 内燃機関に搭載されるポンプ部品であることを特徴とする請求項3記載のポンプ部品。
- 内燃機関がディーゼルエンジンであることを特徴とする請求項4記載のポンプ部品。
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