JP4375521B2 - 蓄電池及びその製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エキスパンド格子を極板に用いた蓄電池及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉛蓄電池等の極板に用いる格子体は、エキスパンド方式によって作製される場合がある。また、このエキスパンド方式によるエキスパンド格子の作製方法は、ロータリー式とレシプロ式の2種類に大別される。
【0003】
レシプロ式によるエキスパンド格子は、間欠移動する金属シート上で、階段状に配置されたダイスカッタを上下動させ、この金属シートに順次切り込みを入れると共に網目状に押し広げることにより作製される。即ち、図1に示すように、鉛又は鉛合金等からなる金属シート1は、下台2の平坦な上面上を矢印F方向に間欠的に搬送される。下台2の両側面には、矢印F方向に進むに従って一定の段差で階段状に中央寄りに狭まる階段状側面2aが両側部からそれぞれ多数段(図では簡単のため4段のみ示す)ずつ形成されている。この下台2の上方には、ダイスカッタ3を取り付けた上台4が配置されている。上台4は、実際には図よりももっと下方の、下台2上を搬送される金属シート1の少し上方に配置され、ここで上下動を行うようになっている。この上台4の両側面には、下台2の階段状側面2aと同様の階段状側面4aがそれぞれ形成されている。また、ダイスカッタ3は、この上台4の各階段状側面4aに固着されるので、全体としてほぼV字形に配置されることになる。そして、これらのダイスカッタ3は、それぞれ上台4の下面よりも下方に刃先3aを突出させている。
【0004】
上記金属シート1は、間欠移動で停止するたびに上台4が下降して1回の上下動を行うことにより、各ダイスカッタ3の刃先3aにより両端部が切断されると共に下方に押し広げられて、図2に示すようなエキスパンド格子となる。即ち、金属シート1は、幅方向の中央部の集電額部1aの両側部が順に格子桟1bとして押し広げられて網状に繋がり、それぞれ4本ずつの格子桟1bによって囲まれた網目状の多数のマス目1cを有するエキスパンド格子に加工される。集電額部1aは、極板の集電のために金属シート1にマス目1cを形成しないようにした領域であり、後に端子への接続のための極板耳が形成される。もっとも、この図2に示すエキスパンド格子は、図1に示すものとは異なり、ダイスカッタ3が上台4の両側面に12個ずつ取り付けられた装置により作製されたものを示す。
【0005】
上記レシプロ式の作製方法では、ダイスカッタ3が金属シート1を切断し格子桟1bを押し広げて展開することによりマス目1cを形成するまでの動作を、上台4の1回の上下動により完了する。従って、このレシプロ式の作製方法では、各マス目1cがほぼひし形になるようにして、これを囲む4本の格子桟1bの長さを等しくすることにより、各格子桟1bを押し広げる際の応力が均等に加わるようにしている。ただし、このレシプロ式の作製方法では、各マス目1cの形状を長辺と短辺の長さが異なるほぼ平行四辺形にするものも知られている(例えば、特許文献1参照。)。このレシプロ式の作製方法では、各格子桟1bは、ダイスカッタ3の刃先3aによって真っ直ぐ下方に押し広げられるので、展開の際にこの格子桟1bにねじれが生じるようなことがなく、このために蓄電池の極板として用いたときの寿命性能に優れるという長所を有する。
【0006】
また、このエキスパンド格子は、ほぼV字形に配置されたダイスカッタ3により、例えば1点鎖線Lで示す斜めのライン上の各マス目1cが一度に形成される。そして、金属シート1が間欠移動により所定距離だけ搬送されて次の上台4が上下動したときには、1点鎖線Lで示す斜めのライン上の各マス目1cが一度に形成される。従って、この金属シート1は、幅方向の両端部のマス目1cが最初に形成され、間欠移動するたびに順に内側のマス目1cが形成されることになる。また、各ダイスカッタ3の刃先3aは、各マス目1cの下方でほぼV字形に配置される2本の格子桟1bを押し下げることになり、同じダイスカッタ3が押し下げる各格子桟1bが同じ列のものとなって、進行方向Fに沿いジグザグ状に交互に傾斜して一列に並ぶことになる。
【0007】
上記のようにして作製されたエキスパンド格子は、図2に示すように、金属シート1の幅方向の中央部に形成された集電額部1aの両側の側方に格子桟1bが網状に繋がったものとなる。そして、このエキスパンド格子を極板として使用する際には、集電額部1aを矢印F方向に沿った切断線で2分割される。従って、極板として使用するエキスパンド格子は、集電額部1aの一方の側方に格子桟1bが網状に繋がったものとなる。このようなレシプロ式によるエキスパンド格子の作製方法は、金属シート1が間欠移動により搬送されるために、作製速度が多少遅くなる。
【0008】
ロータリー式によるエキスパンド格子は、まずスリット形成工程で金属シートに円板カッタを用いて多数の千鳥状のスリットを形成し、次に展開工程でこの金属シートを幅方向に展開し各スリットを網目状に引き広げることにより作製される。即ち、このロータリー式の作製方法では、まず図3に示すスリット形成工程で、円板カッタ5を多数枚重ね合わせた上下の円板カッタロール6,6の間に金属シート1を通すことによりスリット1dを形成する。円板カッタ5は、図4に示すように、周面に多数の山部5aと谷部5bとを交互に設けた金属円板である。また、この円板カッタ5の表裏面の周縁部には、谷部5bごとにこの谷部5bに開口する溝部5cが形成されている。ただし、これらの溝部5cは、各谷部5bごとに表裏いずれかの面にのみ形成され、かつ、隣り合う谷部5b同士では表裏が異なる面に形成される。円板カッタロール6は、図5に示すように、この円板カッタ5をスペーサ7を介して多数枚同軸上に重ねたものであり、上下の円板カッタロール6,6は、各円板カッタ5が軸方向に半ピッチ分ずれて配置され、上下の周縁部同士が互い違いに噛み合うような位置に配置されている。また、これら上下の円板カッタロール6,6は、上下の円板カッタ5,5が山部5a,5a同士と谷部5b,5b同士でそれぞれ重なって噛み合うような位相で同期して逆方向に回転する。
【0009】
上記円板カッタロール6,6の間に金属シート1を通すと、図3に示すように、各円板カッタ5によって多数のスリット1dが形成される。ただし、これらのスリット1dは、上下の円板カッタ5,5の谷部5b,5bにおける溝部5c,5c同士が向かい合う部分では途切れることになるので、金属シート1の進行方向Fに沿って連続するのではなく、一定間隔ごとに途切れて連なることになる。しかも、金属シート1の幅方向に隣接して形成される各スリット1dは、途切れ部分が進行方向Fに沿って半ピッチ分ずれるので、全体として千鳥状に形成されることになる。そして、隣接するスリット1d間の細長い金属線状の部分が格子桟1bとなり、進行方向Fに沿ったスリット1dの途切れ部分が結節部1eとなる。
【0010】
なお、上記ロータリー式による作製方法では、上下に配置した2本の円板カッタロール6,6間に金属シート1を通してスリット1dを形成する場合を示したが、3本以上の円板カッタロール6の間に金属シート1を通すようにしてスリット1dを形成することもできる。
【0011】
上記のようにしてスリット1dが形成された金属シート1は、展開工程において幅方向の両側に引き広げられて展開されることにより図6に示すようなエキスパンド格子となる。一般にロータリー式により作製されたエキスパンド格子は、この図6に示すように、金属シート1の幅方向の中央部に集電額部1aが設けられると共に、両側端部にそれぞれ下方額部1f,1fが設けられて、これらの間に網目状の多数のマス目1cが形成されることになる。集電額部1aと下方額部1fは、金属シート1におけるマス目1cの形成されない領域であり、集電額部1aには、端子に接続して集電するために後に極板耳が形成される。下方額部1fは、電槽に収納したときに極板の下端となる部分である。金属シート1は、これら両側部の下方額部1f,1fをさらに両側方に引き広げることににより展開される。従って、この金属シート1は、幅方向の両側に引っ張られて各スリット1dの隙間が広がりほぼひし形のマス目1cになると共に、各マス目1cを囲む4本ずつのほぼ同じ長さの格子桟1bが網状に繋がってエキスパンド格子が作製される。また、隣接する一連のスリット1d,1d間によって形成される各格子桟1bが同じ列のものとなり、進行方向Fに沿ってジグザグ状に交互に傾斜して一列に並ぶことになる。
【0012】
上記のようにして作製されたエキスパンド格子は、極板として使用する際には、幅方向の中央部の集電額部1aを矢印F方向に沿った切断線で2分割される。従って、極板として使用するエキスパンド格子は、集電額部1aの一方の側方に格子桟1bが網状に繋がり、この側端部に下方額部1fを有するものとなる。
【0013】
このようなロータリー式による作製方法は、金属シート1が連続的に搬送されてスリット形成と展開が行われるので、レシプロ式に比べてエキスパンド格子を作製する速度が早くなるという利点を有する。ただし、金属シート1の各格子桟1bは、スリット形成工程で円板カッタ5の山部5aにより上下いずれかの方向に突出するように変形されると共に、展開工程でもマス目1cを形成するために引き広げられるので、一度で格子桟1bの切り出しと展開が完了するレシプロ式の場合と異なり、これらスリット形成工程と展開工程による強い応力を二度も受けることになる。しかも、展開工程では、各格子桟1bがダイスカッタ3によって下方にのみ押し広げられるレシプロ式の場合と異なり、これらの各格子桟1bが結節部1eを介してねじれながら引き広げられるために、このねじり応力も加わる。このため、ロータリー式によって作製されたエキスパンド格子は、製造時に格子桟1bに亀裂が生じたり破断しやすくなり、歩留りが悪くなったり寿命性能が低下するという欠点もある。
【0014】
ここで、上記レシプロ式とロータリー式のいずれによって作製されたエキスパンド格子も、各格子桟1bの幅はいずれの部分でも均一であるのが一般的である。しかしながら、このエキスパンド格子を鉛蓄電池の正極板として用いた場合には、充電時に鉛や鉛合金の酸化反応が生じるので、この反応が進行して酸化腐食により格子桟1bが破断する場合がある。そして、格子桟1bが破断すると、この破断した部分よりも集電額部1aから遠いマス目1cに保持された活物質が電気的に孤立し充放電ができにくくなってしまう。このため、集電額部1aの近傍で格子桟1bが破断すると、電気的に孤立する活物質が多くなり、極板の容量が大幅に低下する。そこで、従来は、上記のように、破断による容量低下への影響が大きくなる集電額部1aに近い列の格子桟1bほど幅を太くするような工夫をする場合があった。即ち、エキスパンド格子の一部に太い格子桟を設けるもの(例えば、特許文献2参照。)や、エキスパンド格子の格子桟の幅を上から下に段階的に細くするもの(例えば、特許文献3参照。)、格子桟の太さを規定したもの(例えば、特許文献4参照。)等が提案されていた。
【0015】
【特許文献1】
特開昭57−90873号公報
【特許文献2】
実開昭61−66864号公報
【特許文献3】
特開昭平1−204364号公報
【特許文献4】
特開平9−223502号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、ロータリー式によるものとレシプロ式によるもののいずれの場合も、エキスパンド格子は、格子桟1bの幅が相違するように作製すると、展開時に幅の狭い格子桟1bが破断しやすくなって歩留りが悪くなるという問題があった。即ち、ロータリー式によるエキスパンド格子は、その作製工程において金属シート1を幅方向に引き広げる展開工程を有するため、格子桟1bの幅が金属シート1の幅方向の位置、即ち列によって異なると、この格子桟1bの幅が狭く強度の弱い部分に展開時の応力が強く加わる。しかも、金属シート1を引き広げる際の引っ張り応力は、まず最初に集電額部1aから最も離れた両側端の列の格子桟1bに加わるので、このような両側端の列の格子桟1bの幅が狭かったり他の列と同じ幅である場合に特に破断しやすくなる。また、レシプロ式によるエキスパンド格子においても、マス目1cが金属シート1の中央部の集電額部1aから最も離れた両側端部から順に内側に向けて形成されるため、この両側端部に幅が狭く強度の弱い格子桟1bが配置されていると、上台4の上下動や金属シート1の間欠移動時の振動によってこの格子桟1bが破断されやすくなる。
【0017】
本発明は、かかる事情に対処するためになされたものであり、集電額部付近の格子桟だけでなくこの集電額部から遠い側端部の格子桟の幅もこれらの中間の格子桟の幅より広くすることにより、蓄電池の容量低下を抑制すると共に、ロータリー式とレシプロ式のいずれで作製されたエキスパンド格子でも歩留りを向上させることができる蓄電池及びその製造法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、金属シートの集電額部と下方額部との間を展開することにより多数の格子桟を網状に繋いで格子体としたエキスパンド格子を極板に用いる蓄電池において、このエキスパンド格子における集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列との各格子桟の幅が、他の中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成されており、かつ前記集電額部と前記下方額部との間には額部が無いことを特徴とする。
【0019】
請求項1の発明によれば、集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が広く形成されて破断しにくくなっているので、この集電額部に繋がる格子桟の破断により蓄電池に大幅な容量低下が発生するのを防ぐことができるようになる。しかも、下方額部に直接繋がる列の各格子桟の幅も広く形成されて破断しにくくなっているので、ロータリー式やレシプロ式の展開時にこれら端部の格子桟が破断してエキスパンド格子が製造不良になるのを防ぐこともできるようになる。
【0020】
ここで、エキスパンド格子は、集電額部の側方に格子桟の列が3列以上にわたって配置されている。そして、ロータリー式によるエキスパンド格子では、側方の端の列の格子桟も集電額部とは別の下方額部に繋がるのに対して、レシプロ式では、この側方の端の列の格子桟で終端しているのが一般的である。額部とは、金属シートの非展開部であって、格子桟の幅よりは十分に広いある程度の幅を有する領域である。また、集電額部は、各格子桟の集電を行う額部であり、通常は端子に接続するための極板耳が形成される。そして、両側に額部のあるロータリー式の場合には、いずれか一方の額部がこの集電額部となる。格子桟は、金属シートを切断して細長い短冊状としたものであり、各列の格子桟は、展開によってジグザグ状に交互に傾斜して配置されることになる。また、これらジグザグ状の格子桟の多数の列が集電額部の側方で順次繋がることにより網状となる。なお、同じ列の格子桟は、ロータリー式においてもレシプロ式においても、同じ円板カッタやダイスカッタによって加工されるので、同じ列にある格子桟の幅は全て等しくなるのが一般的である。
【0021】
また、格子桟の幅とは、金属シート自体の厚さではなく、ロータリー式の円板カッタやレシプロ式のダイスカッタによる金属シートの刻み幅(ただし、展開により引き伸ばされて幅が狭くなる場合もある)をいう。例えば図7に示すように、金属シート1の集電額部1aの側方がロータリー式やレシプロ式によって展開されて多数の格子桟1bが網状に繋がっている場合、金属シート1の厚さに依存する長さLtではなく、刻み幅に依存する長さLwがこの格子桟1bの幅となる。なお、この図7では、ロータリー式やレシプロ式を区別しないために、展開された格子桟1bの形状を模式的に平坦に示している。
【0022】
請求項2の発明は、前記集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が最大となり、前記下方額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が、この集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅よりも狭く、かつ、これら集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列を除いた中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成されたことを特徴とする。
【0023】
請求項2の発明によれば、集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が最も広く形成されているので、寿命性能に最も影響の大きい使用時の腐食によるこれらの格子桟の破断を確実に防止することができるようになる。また、下方額部に直接繋がる列の各格子桟の幅も他の中間の列よりは広く形成されて破断しにくくなっているので、製造不良による歩留りの低下を防止することができるようになる。
【0024】
請求項3の発明は、最大の格子桟の幅が最小の格子桟の幅の1.2倍以上、1.6倍以下であることを特徴とする。
【0025】
請求項3の発明によれば、最大の格子桟の幅が最小のものよりも1.2倍以上あるので、集電額部に直接繋がる列や下方額部に直接繋がる列の格子桟の幅を広くしたことによる効果を確実なものにすることができる。ここで、全ての格子桟の幅を広くしたのでは、極板中のエキスパンド格子に対する活物質の充填量の割合が小さくなりすぎるので、蓄電池のエネルギー密度が低下する。このため、本発明では、中間の列の格子桟の幅はできるだけ狭いままとして、このエネルギー密度が低下しないようにしている。また、最大の格子桟の幅を最小のものの1.6倍以下としているので、この格子桟の幅の差が大きくなりすぎて、ロータリー式やレシプロ式の展開時に幅が狭く強度の弱い格子桟が特に破断されやすくなるのを防止することができる。
請求項4の発明は、金属シートの集電額部と下方額部との間を展開することにより多数の格子桟を網状に繋いで格子体としたエキスパンド格子を極板に用いた蓄電池の製造法において、このエキスパンド格子における集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列との各格子桟の幅が、他の中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成され、かつ前記集電額部と前記下方額部との間には額部が形成されないようにエキスパンド格子の展開がなされることを特徴とする。
請求項4の発明によれば、集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が広く形成されて破断しにくくなるので、この集電額部に繋がる格子桟の破断により蓄電池に大幅な容量低下が発生するのを防ぐことができるようになる。しかも、下方額部に直接繋がる列の各格子桟の幅も広く形成されて破断しにくくなるので、ロータリー式やレシプロ式の展開時にこれら端部の格子桟が破断してエキスパンド格子が製造不良になるのを防ぐこともできるようになる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図8〜図11は本発明の一実施形態を示すものであって、図8は図3において円板カッタの板厚を変えた場合のA−A矢示縦断面正面図、図9はこの図8に示した円板カッタロールを使用してスリットを形成した金属シートの(a)平面図とこの金属シートを展開したエキスパンド格子の(b)平面図、図10はレシプロ式でダイスカッタの取り付け段差を変えたエキスパンド格子の作製工程を模式的に示す斜視図、図11はこの図10に示したレシプロ式により作製したエキスパンド格子の平面図である。
【0028】
本実施形態では、ロータリー式とレシプロ式の双方で作製されたエキスパンド格子を極板に使用する蓄電池について説明する。
【0029】
図6に示したロータリー式により作製されたエキスパンド格子や、図2に示したレシプロ式により作製されたエキスパンド格子においては、腐食により格子桟1bの破断が生じた場合に最も極板容量が低下するのは、集電額部1aに近い格子桟1bが破断したときである。このため、この集電額部1aに近い列の格子桟1bほど腐食破断が生じにくいように幅を太くすることが望ましい。一方、図6のロータリー式によるエキスパンド格子においては、集電額部1aから離れた側方(図6では上下方向)の端部ほど展開時に強い引っ張り応力が加わり破断しやすくなる。また、図2に示したレシプロ式によるエキスパンド格子では、ダイスカッタ3の上下動や金属シート1の間欠移動による加工時の振動により、最初に押し広げられることとなる集電額部1aから最も離れた側方の端部の格子桟1bほど破損しやすくなる。このため、この集電額部1aの側方の端に近い格子桟1bも幅を太くすることが望ましい。なお、通常は、集電額部1aに極板耳を形成して、この極板耳を上向きにして極板を電槽に収納するので、エキスパンド格子は、上部と下部に近い格子桟1bほど幅を太くすることが望ましいことになる。
【0030】
このことから本発明の最も望ましい形態は、使用時の寿命性能に影響する集電額部に近い列の格子桟の幅を最も広くすると共に、側方の中間部に向かうに従って順次幅を狭くし、この中間部から側方の端に近付くほど再び格子桟の幅を順次広くしたものである。なお、格子桟の幅を広狭2種類しか形成しない場合には、集電額部に直接繋がる1列又は集電額部に近い2列以上の格子桟と、この集電額部の側方の端の1列又はこの側方の端に近い2列以上の格子桟の幅のみを広いものとし、それ以外の中間の列の格子桟の幅を狭いものとすることもできる。
【0031】
このような格子桟の幅の差は、少なくとも最も広い幅が最も狭い幅の1.2倍以上なければ、この格子桟の破断を防止する効果が十分に得られない。ただし、実際に格子桟の幅に極端な差を設けた場合、ロータリー式においてもレシプロ式においても、幅の広い格子桟と狭い格子桟とでは強度差が大きくなりすぎ製造不良が多くなるので、この格子桟の最も広い幅は、最も狭い幅の1.6倍以下であることが望ましい。
【0032】
本発明に係るエキスパンド格子は次のようにして得ることができる。
【0033】
エキスパンド格子の網状の格子桟の幅を列ごとに変えるには、ロータリー式においては、格子桟の幅を広くしたい部分に配置された円板カッタの板厚を厚くすることによって達成される。また、格子桟の幅を狭くしたい場合には、この部分に配置された円板カッタの板厚を薄くすればよい。
【0034】
ロータリー式の作製方法によりエキスパンド格子にスリットを形成する工程を図8に基づいて説明する。図3に示したように、上下に配置された円板カッタロール6,6の間に金属シート1を矢印F方向に向けて通すことにより、この金属シート1にスリットが形成される。各円板カッタロール6は、図8に示す場合も、図5に示したものと同様に、多数枚の円板カッタ5を間隔を開けるためのスペーサ7を介して同軸上に密接させて並べたものである。従って、上下の円板カッタロール6,6の円板カッタ5が周縁部で噛み合うことにより、図8の手前側から挿入された金属シート1にスリットが形成される。また、この金属シート1の隣接するスリット間によって構成される格子桟1bは、これら上下の円板カッタ5の周面に形成された山部5aに押されて、金属シート1の上下面からそれぞれ凸状に突出する。
【0035】
上記円板カッタロール6,6は、図8に示すように、金属シート1の集電額部1aに最も近い(図示左側の)円板カッタ5とスペーサ7の板厚Wを最も厚くし、次に集電額部1aに近いスペーサ7と円板カッタ5及び集電額部1aから最も遠い側方(図示右側)の端のスペーサ7と円板カッタ5の板厚Wを2番目に厚くし、その他の円板カッタ5とスペーサ7の板厚Wを最も薄くした。このような円板カッタロール6,6を用いてスリットを形成した金属シート1は、図9(a)に示すように、集電額部1aに最も近いスリット間の幅Wが最も広くなり、次に集電額部1aに近いスリット間とこの集電額部1aから最も遠いスリット間の幅Wが2番目に広くなり、他のスリット間の幅Wが最も狭くなる。そして、この金属シート1を展開すると、図9(b)に示すように、集電額部1aに直接繋がる列の格子桟1bの幅Wが最も広くなり、これらの格子桟1bに繋がる次の列の格子桟1bと集電額部1aから最も遠い列の格子桟1bの幅Wが2番目に広くなり、他の列の格子桟1bの幅Wが最も狭くなる。ここで、図8や図9は、説明をわかりやすくするために、スリット間や格子桟1b等の幅の差を誇張して描いている。また、図9(b)では、展開時の伸びにより格子桟1bの幅が狭くなることは無視している。
【0036】
なお、図3や図8で説明した作製方法では、上下2つの円板カッタロール6,6を用いる例を示したが、3つ以上の円板カッタロール6を用いた場合にも、同様に円板カッタ5とスペーサ7の板厚を調整することにより、格子桟1bの幅を変えることができる。
【0037】
上記ロータリー式の作製方法では、図9(a)に示す金属シート1の集電額部1aの側を固定して、その側方の端部(図9の下方の端部)の下方額部1fの側をさらに外側に引っ張ることにより図9(b)に示すような展開が行われる。従って、もしこの下方額部1fに近い格子桟1bの幅Wが狭く強度が弱い場合には、これらの格子桟1bが破断されるおそれが生じる。また、これは下方額部1fに近い格子桟1bだけでなく、集電額部1aに近い格子桟1bもほぼ同様であり、引っ張る方向が逆になった場合であっても、これら両端部付近の格子桟1bは展開の際に破断されるおそれがある。
【0038】
レシプロ式においては、間欠移動する金属シートの上方で階段状に配置された複数のダイスカッタが上下動することにより展開が行われるので、これらのダイスカッタの階段状段差を広くすることによって、その列の格子桟の幅を広くすることができる。
【0039】
レシプロ式によりエキスパンド格子を作製する例を図10に基づいて説明する。図1の場合と同様に、金属シート1は、進行方向Fに沿って間欠的に送られる。この金属シート1を載置して搬送する下台2には、両側面に階段状側面2aが複数段設けられている(図では4段に省略)。この下台2の上方には、上台4が配置されている。この上台4にも、下台2と同様に、両側面に階段状側面4aが複数段設けられる。そして、この上台4の階段状側面4aに、エキスパンド加工用の刃先3aを有するダイスカッタ3がそれぞれ取り付けられている。
【0040】
上台4と下台2の間には、金属シート1が通過できる程度の隙間を有する一方、上台4は金属シート1の間欠移動に伴って上下動を繰り返す。そして、この上台4の上下動によって各ダイスカッタ3の刃先3aが金属シート1に切れ目を入れながら下方に押し広げて網状の格子桟を形成する。ここで、下台2の最も幅の広い部分から1段内側の階段状側面2aがエキスパンド格子の最下段に相当する。
【0041】
本実施形態では、上記上台4の階段状側面4aと下台2の階段状側面2aに段差の広くした部分を設けている。即ち、図10では、一番外側のダイスカッタ3を取り付けた階段状側面4aと、その内側のダイスカッタ3を取り付けた階段状側面4aとの間の段差を他より広げている。このような製造装置を用いると、段差の広い部分の格子桟の幅が広くなる。そして、多数のダイスカッタ3を取り付けた実際の製造装置の上台4と下台2にこのような段差を設けることにより、例えば図11に示すように、任意の列の格子桟1bの幅Wを他の列の格子桟1bの幅Wよりも広げることができる。従って、この格子桟1bの幅を広げる部分を適宜選択することにより、図9(b)に示したロータリー式の場合と同様に、集電額部1aに近い列と遠い列の格子桟1bの幅だけを広げることができるようになる。
【0042】
【実施例】
(実施例1)
この実施例1では、図9に示した金属シート1における集電額部1aから最も遠い下方額部1fに直接繋がる格子桟1bの幅を最も狭くした場合と広くした場合との比較を示す。
【0043】
実施例1では、ロータリー式の作製方法を用いてPb−0.6wt%Ca−1.0wt%Snの合金シートをエキスパンド格子に加工した。このとき、ロータリー式エキスパンド加工機の円板カッタとスペーサの板厚を適宜変更して、集電額部1aから最も遠い下方額部1fに直接繋がる列の格子桟1bの幅を最も狭くすると、展開時にこれらの格子桟1bと下方額部1fとの接点の約10%で破断が認められた。それに対し、この下方額部1fに直接繋がる列の格子桟1bの幅を他の中間の列の格子桟1bよりも広げると、展開時のこれらの格子桟1bと下方額部1fとの接点の破断が約2%まで低減した。
【0044】
レシプロ式の作製方法によっても同様の試験を実施した。この場合もロータリー式の作製方法のときと同様、集電額部から最も遠い列の格子桟の幅を最も狭くすると、展開時にこれらの格子桟の破断が約6%認められた。それに対し、これらの格子桟の幅を広げると、展開時の格子桟の破断が約1%まで低減した。
【0045】
(実施例2)
この実施例2では、図9に示した金属シート1における集電額部1aに直接繋がる格子桟1bの幅を最も狭くした場合と広くした場合との比較を示す。
【0046】
実施例2でも、ロータリー式の作製方法を用いてPb−0.6wt%Ca−1.0wt%Snの合金シートをエキスパンド格子に加工した。このロータリー式によるエキスパンド格子に常法で製造した鉛蓄電池用正極活物質を充填し、熟成、乾燥して鉛蓄電池用正極板を製造すると共に、同じエキスパンド格子に常法で製造した鉛蓄電池用負極活物質を充填し、熟成、乾燥して鉛蓄電池用負極板を製造した。
【0047】
これら正負極板を、微孔性のポリエチレンを主体とするセパレータを介して交互に積層した後、同極性の極板同士を接続して極板群とし、この極板群を電槽に挿入後、所定量、所定比重の希硫酸電解液を注液して、JISに規定される75D26形鉛蓄電池を製造した。
【0048】
ここでも、エキスパンド格子は、ロータリー式エキスパンド加工機の円板カッタとスペーサの板厚を変えることによって、各種格子桟の幅のものを作製した。
【0049】
この75D26形鉛蓄電池を75℃で過充電する試験(充電電圧13.8V(制限電流25A)、充電時間117h、放置時間49h、放電電流200Aを1サイクルとし、2秒目電圧が3.0V以下になると終了)に供した。
【0050】
集電額部1aに直接繋がる列の格子桟1bの幅を最も狭くすると、早期に寿命と判定された。寿命に達した鉛蓄電池を解体して、正極板の状態を観察したところ、集電額部1aとこれに直接繋がる格子桟1bの腐食が著しく、最も腐食の激しいものでは格子桟1bが集電額部1aから完全に破断していた。
【0051】
集電額部1aに直接繋がる列の格子桟1bの幅を広いものにすると上記現象は解消され、これらの格子桟1bの幅が広いほど、寿命性能がよくなった。また、集電額部1aに直接繋がる列に隣接する複数の列の格子桟1bの幅も広げると、寿命性能はさらに改善された。
【0052】
レシプロ式の作製方法によっても上記試験と同様の試験を実施した。そして、その結果は、ロータリー式の作製方法による場合の試験結果と同様であった。
【0053】
(実施例3)
この実施例3では、最も狭い格子桟の幅に対する最も広い格子桟の幅が倍率を種々代えたエキスパンド格子の比較を示す。
【0054】
実施例3でも、ロータリー式の作製方法を用いてPb−0.6wt%Ca−1.0wt%Snの合金シートをエキスパンド格子に加工した。このロータリー式によるエキスパンド格子に常法で製造した鉛蓄電池用正極活物質を充填し、熟成、乾燥して鉛蓄電池用正極板を製造すると共に、同じエキスパンド格子に常法で製造した鉛蓄電池用負極活物質を充填し、熟成、乾燥して鉛蓄電池用負極板を製造した。
【0055】
これら正負極板を、微孔性のポリエチレンを主体とするセパレータを介して交互に積層した後、同極性の極板同士を接続して極板群とし、この極板群を電槽に挿入後、所定量、所定比重の希硫酸電解液を注液して、JISに規定される75D26形鉛蓄電池を製造した。
【0056】
ここでも、エキスパンド格子は、ロータリー式エキスパンド加工機の円板カッタとスペーサの板厚を変えることによって、各種格子桟の幅のものを作製した。
【0057】
この75D26形鉛蓄電池を75℃で過充電する試験(充電電圧13.8V(制限電流25A)、充電時間117h、放置時間49h、放電電流200Aを1サイクルとし、2秒目電圧が3.0V以下になると終了)に供した。このエキスパンド格子は、集電額部に近い2列の格子桟の幅が最も広く、次に近い2列の格子桟の幅が2番目に広く、最も遠い下方額部の近くの2列の格子桟の幅が最も狭くなるようにした。
【0058】
試験結果を図12に示す。図12は横軸に、最も狭い格子桟の幅に対する最も広い格子桟の幅の倍率をとり、縦軸に、格子桟の幅がすべて同じであるエキスパンド格子を用いた鉛蓄電池の寿命性能を100としたときの寿命性能比と、エキスパンド格子作製時の格子桟の破断率とをとった。図12から明らかなように、実施例3のような構成のエキスパンド格子を使用した鉛蓄電池では、格子桟の幅の広いものを用いるほど寿命性能は飛躍的に向上するが、この格子桟の幅の倍率を1.6倍より大きくするとエキスパンド格子の作製時の破断率も急激に大きくなった。これは、エキスパンド格子の展開時に、幅の広い格子桟は延びにくく、幅の狭い格子桟ほど延びやすいため、展開時の応力が幅の狭い格子桟に集中したことによる。
【0059】
レシプロ式の作製方法によっても上記試験と同様の試験を実施した。そして、その結果は、ロータリー式の作製方法による場合の試験結果と同様であった。
【0060】
この他に、鉛蓄電池以外の蓄電池においても、正極集電体の腐食が生じるものにおいては同様の結果が得られた。
【0061】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の蓄電池及びその製造法によれば、エキスパンド格子の格子桟の幅を変えることにより、このエキスパンド格子を用いた極板の耐食性および生産性を改善し、蓄電池の寿命性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来例を示すものであって、レシプロ式によるエキスパンド格子の作製工程を模式的に示す斜視図である。
【図2】 従来例を示すものであって、レシプロ式により作製されたエキスパンド格子の平面図である。
【図3】 従来例を示すものであって、ロータリー式によるエキスパンド格子のスリット形成工程を示す側面図である。
【図4】 従来例を示すものであって、ロータリー式によるエキスパンド格子のスリット形成工程で用いる円板カッタを示す(a)側面図と(b)B−B矢示平面図とこのB−B矢示部付近の(c)部分拡大側面図である。
【図5】 従来例を示すものであって、図3のA−A矢示縦断面正面図である。
【図6】 従来例を示すものであって、ロータリー式により作製されたエキスパンド格子の平面図である。
【図7】 エキスパンド格子の部分拡大斜視図である。
【図8】 図3において、円板カッタの板厚を変えた場合のA−A矢示縦断面正面図である。
【図9】 図8に示した円板カッタロールを使用してスリットを形成した金属シートの(a)平面図とこの金属シートを展開したエキスパンド格子の(b)平面図である。
【図10】 レシプロ式でダイスカッタの取り付け段差を変えたエキスパンド格子の作製工程を模式的に示す斜視図である。
【図11】 図10に示したレシプロ式により作製したエキスパンド格子の平面図である。
【図12】 格子桟の幅の比に対する寿命と破断率の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 金属シート
1a 集電額部
1b 格子桟

Claims (4)

  1. 金属シートの集電額部と下方額部との間を展開することにより多数の格子桟を網状に繋いで格子体としたエキスパンド格子を極板に用いる蓄電池において、このエキスパンド格子における集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列との各格子桟の幅が、他の中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成されており、かつ前記集電額部と前記下方額部との間には額部が無いことを特徴とする蓄電池。
  2. 前記集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が最大となり、前記下方額部に直接繋がる列の各格子桟の幅が、この集電額部に直接繋がる列の各格子桟の幅よりも狭く、かつ、これら集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列を除いた中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成されたことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
  3. 最大の格子桟の幅が最小の格子桟の幅の1.2倍以上、1.6倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電池。
  4. 金属シートの集電額部と下方額部との間を展開することにより多数の格子桟を網状に繋いで格子体としたエキスパンド格子を極板に用いた蓄電池の製造法において、このエキスパンド格子における集電額部に直接繋がる列と下方額部に直接繋がる列との各格子桟の幅が、他の中間の少なくともいずれか一列の各格子桟の幅よりも広く形成され、かつ前記集電額部と前記下方額部との間には額部が形成されないようにエキスパンド格子の展開がなされることを特徴とする蓄電池の製造法。
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