JP4374797B2 - 内燃機関の排気浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒のSOx被毒による排気浄化率の低下を抑止し、排気ガスの浄化率をより一層高くすることのできる内燃機関の排気浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の排気ガスは、三元触媒などの排気浄化触媒によって浄化された後に大気に放出される。そして、このような排気浄化触媒の一つとして、排気ガス中に酸素O2が過剰にあるときは窒素酸化物NOxを吸蔵し、排気ガス中の酸素O2が少ないときに吸蔵した窒素酸化物をNOx放出して還元させる(このとき排気ガス中の一酸化炭素COや炭化水素HCは酸化される)、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒も用いられるようになってきている。
【0003】
このような排気浄化触媒を用いることによって、リーン運転時の排気ガス中の窒素酸化物NOxを吸蔵し、ストイキ又はリッチ運転時に吸蔵した窒素酸化物NOxを放出・還元することによって、排気浄化率をより一層向上させることができる。このようなNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒は、通常のエンジンよりもリーン運転を積極的に行うリーンバーンエンジンの排気浄化率を向上させるのに有用で、燃費改善との両立にも寄与している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらのNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒は、窒素酸化物NOxよりも硫黄酸化物SOxをより安定的に吸蔵してしまうという性質を有している。排気ガス中の硫黄酸化物SOxは、燃料中やエンジンオイル中に含まれる硫黄成分が、内燃機関の燃焼によって酸化されることによって生じる。燃料中やエンジンオイル中に含まれる硫黄成分は微量であるが、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒に安定的に吸蔵されてしまうために吸蔵量は徐々に蓄積されて増加する。NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒に硫黄酸化物SOxが多量に吸蔵されてしまうと、窒素酸化物NOxの吸蔵と放出・還元とを適正に行えなくなってしまう。これが、いわゆる、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒における「SOx被毒」現象である。
【0005】
従来のNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒においては、新品時には吸蔵能力のほとんどが窒素酸化物NOxの吸蔵に用いられるが、SOx被毒を受けると吸蔵能力の僅かしか窒素酸化物NOxの吸蔵に用いられなくなってしまう。このSOx被毒現象を抑止することができれば、窒素酸化物NOxの吸蔵可能量や放出可能量を大きくとることができ、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒の排気浄化性能を大幅に向上させることができる。なお、このようなNOx吸蔵還元触媒のSOx被毒を抑止するものとして、特開2000-27712号公報に記載のものなども知られているが、まだその効果は充分でなく、発明者らは更なる排気ガスの浄化性能向上を目指して本発明を達成した。
【0006】
従って、本発明の目的は、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒のSOx被毒現象を抑止し、排気ガスの浄化率をより一層向上させることのできる内燃機関の排気浄化方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法は、内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒に上述した硫黄成分が流入する以前に、セシウム(Cs)を含む硫黄成分固形化剤を用いて固形化させ、内燃機関の吸気系から排気系のいずれかの場所で硫黄成分固形化剤を添加する際に、硫黄成分固形化剤の添加量を内燃機関の運転状態によって可変制御し、硫黄成分固形化材の添加量が、内燃機関の燃焼温度が高いほど多くされることを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の排気浄化方法の一実施形態について、以下に説明する。本実施形態の浄化方法を行う浄化装置を有する内燃機関(エンジン)1を図1に示す。
【0012】
以下に説明するエンジン1は、多気筒エンジンであるが、ここではそのうちの一気筒のみを断面図として示す。エンジン1は、燃料を直接シリンダ3内に噴射する筒内噴射型エンジンであり、リーンバーン(希薄燃焼)エンジンである。エンジン1は、点火プラグ2によって各シリンダ3内の混合気に対して点火を行うことによって駆動力を発生する。エンジン1の燃焼に際して、外部から吸入した空気は吸気通路4を通り、インジェクタ5から噴射された燃料と混合されて混合気となる。シリンダ3の内部と吸気通路4との間は、吸気バルブ6によって開閉される。シリンダ3の内部で燃焼された混合気は、排気ガスとして排気通路7に排気される。シリンダ3の内部と排気通路7との間は、排気バルブ8によって開閉される。
【0013】
吸気通路4上には、シリンダ3内に吸入される吸入空気量を調節するスロットルバルブ9が配設されている。このスロットルバルブ9には、その開度を検出するスロットルポジションセンサ10が接続されている。スロットルバルブ9に付随して、アクセルペダル11の踏み込み位置を検出するアクセルポジションセンサ12や、スロットルバルブ9を駆動するスロットルモータ13なども配設されている。また、図1に示されていないが、吸気通路4上には吸入空気の温度を検出する吸気温センサも取り付けられている。
【0014】
また、スロットルバルブ9の下流側には、サージタンク14が形成されており、サージタンク14の内部に、バキュームセンサ15及びコールドスタートインジェクタ17が配設されている。バキュームセンサ15は、吸気通路4内の圧力(吸気管圧力)を検出する。コールドスタートインジェクタ17は、エンジン1の冷間始動性を向上させるためのもので、冷間始動時にサージタンク14内に燃料を拡散噴霧させて均質な混合気を形成させるものである。
【0015】
サージタンク14のさらに下流側には、スワールコントロールバルブ18が配設されている。スワールコントロールバルブ18は、希薄燃焼(成層燃焼)時にシリンダ3の内部に安定したスワールを発生させるためのものである。スワールコントロールバルブ18に付随して、スワールコントロールバルブ18の開度を検出するSCVポジションセンサ19やスワールコントロールバルブ18を駆動するDCモータ20なども配設されている。
【0016】
また、本実施形態のエンジン1における吸気バルブ6は、その開閉タイミングを可変バルブタイミング機構21によって可変制御することができる。吸気バルブ6の開閉状況は、吸気バルブ6を開閉させるカムが形成されているカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ22によって検出できる。さらに、エンジン1のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの回転位置を検出するクランクポジションセンサ23が取り付けられている。クランクポジションセンサ23の出力からは、シリンダ3内のピストン24の位置や、エンジン回転数を求めることもできる。エンジン1には、エンジン1のノッキングを検出するノックセンサ25や冷却水温度を検出する水温センサ26も取り付けられている。
【0017】
一方、排気通路7上には、エンジン1本体に近い側に、通常の三元触媒である始動時触媒27が配設されている。始動時触媒27は、エンジン1の燃焼室(シリンダ3)に近いので排気ガスによって昇温されやすく、エンジン始動直後に、より早期に触媒活性温度にまで上昇して排気ガス中の有害物質を浄化するように配設されている。このエンジン1は四気筒であり、二気筒毎に一つずつ、計二つの始動時触媒27が取り付けられている。各始動時触媒27には、それぞれ排気温センサ28が取り付けられており、排気温センサ28は排気ガスの温度を検出している。
【0018】
始動時触媒27の下流側では排気管が一つにまとめられてNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39が配設されている。このNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39については、追って詳しく説明する。排気浄化触媒39の上流側には、排気浄化触媒39に流入する排気ガスの排気空燃比を検出する空燃比センサ40が取り付けられている。空燃比センサ40としては、排気空燃比をリッチ域からリーン域にかけてリニアに検出し得るリニア空燃比センサや、排気空燃比がリッチ域にあるかリーン域にあるかをオン−オフ的に検出するO2センサ(酸素センサ)などが用いられる。
【0019】
さらに、排気通路7から吸気通路4にかけて、排気ガスを還流させる外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路43が形成されている。外部EGR通路43の吸気通路4側はサージタンク14に接続され、排気通路7側は始動時触媒27の上流側に接続されている。外部EGR通路43上には、還流させる排気ガス量を調節するEGRバルブ44が配設されている。EGR機構は、吸気通路4内の吸気管負圧を利用して排気ガスの一部を吸気通路4に戻し、NOx生成抑制効果や燃費向上効果を得るものである。なお、吸気バルブ6の開閉タイミングを制御することで同様の効果を得る内部EGR制御も併用され得る。
【0020】
エンジン1のインジェクタ5には、燃料タンク29に貯蔵された燃料が送出用の低圧フューエルポンプ30によって送出され、これがフューエルフィルタ31を経過して高圧フューエルポンプ32によって高圧化された後に供給される。このエンジン1は希薄燃焼可能なものであり、良好な希薄燃焼(成層燃焼)を行わせるために圧縮行程中のシリンダ3内に燃料を直接噴射して成層燃焼に適した状態を形成させなくてはならず、そのために燃料を高圧にしてからインジェクタ5によって噴射する。
【0021】
インジェクタ5に付随して、精密な制御を行うために燃料の圧力を検出する燃圧センサ33も配設されている。高圧フューエルポンプ32は、エンジン1の動力、即ち、排気バルブ8側のカムシャフトの回転を利用して燃料を高圧化している。なお、コールドスタートインジェクタ17に対しては、低圧フューエルポンプ30によって送出された燃料がそのまま供給される。
【0022】
燃料タンク29に付随して、燃料タンク29内で蒸発した燃料を捕集するチャコールキャニスタ34が配設されている。チャコールキャニスタ34は、内部に活性炭フィルタを有しており、この活性炭フィルタで蒸発燃料を捕集する。そして、捕集された燃料は、パージコントロールバルブ35によってパージ量を制御されつつ、吸気通路4にパージされてシリンダ3内で燃焼される。なお、燃料タンク29には、燃料噴射されなかった残りの燃料を燃料タンクに戻すリターンパイプ36も取り付けられている。
【0023】
上述した点火プラグ2、インジェクタ5、スロットルポジションセンサ10、アクセルポジションセンサ12、スロットルモータ13、バキュームセンサ15、コールドスタートインジェクタ17、DCモータ20、可変バルブタイミング機構21のアクチュエータ、カムポジションセンサ22、クランクポジションセンサ23、ノックセンサ25、水温センサ26、排気温センサ28、パージコントロールバルブ35、空燃比センサ40、EGRバルブ44、吸気温センサやその他のアクチュエータ類・センサ類は、エンジン1を総合的に制御する電子制御ユニット(ECU)37と接続されている。
【0024】
なお、図1に示されるシステムでは、ECU37とインジェクタ5との間に電子制御ドライブユニット(EDU)38が設けられている。EDU38は、ECU37からの駆動電流を増幅して、高電圧・大電流によってインジェクタ5を駆動するためのものである。これらのアクチュエータ類・センサ類は、ECU37からの信号に基づいて制御され、あるいは、検出結果をECU37に対して送出している。ECU37は、内部に演算を行うCPUや演算結果などの各種情報量を記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、各制御プログラムを格納したROM等を有している。ECU37は、吸気通路内圧力や空燃比などの各種情報量に基づいてエンジン1を制御する。
【0025】
NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39について説明する。
【0026】
排気浄化触媒39は、表面にアルミナの薄膜層がコーティングされた担体上に、白金やパラジウムやロジウムなどの貴金属の他にアルミナコーティング層上に、アルカリ金属(K,Na,Li,Csなど)、アルカリ土類金属(Ba,Caなど)又は希土類元素(La,Yなど)などをもさらに担持させ、エンジンがリーン空燃比で運転されたときに排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵させることができるようにしたものである。このため、排気浄化触媒39は、通常の三元触媒としての機能、即ち、理論空燃比近傍で燃焼されたときの排気ガス内のHC,CO,NOxを浄化する機能に加えて、排気ガス中に含まれる還元されないNOxを吸蔵することができる。
【0027】
排気浄化触媒39に吸蔵されたNOxは、リッチ空燃比あるいは理論空燃比(ストイキ空燃比)で燃焼されたときに放出され、排気ガス中のHC,COによって還元されて浄化される(このときHC,COは同時に酸化されて浄化される)。このため、排気浄化触媒39のNOx吸蔵量が一杯に近づいたと判断されたときは、リッチ空燃比で短時間エンジンを運転して吸蔵されたNOxを還元させる、いわゆるリッチスパイク運転が強制的に行われる場合もある。
【0028】
排気浄化触媒39は、上述したように、NOxよりもSOxを安定的に吸蔵してしまうという性質を有しており、これによってSOx被毒現象が生じる。本実施形態では、このようなSOxの原因となる硫黄成分を固形化してしまい、排気ガス中のSOx濃度を低減し、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39に吸蔵されるSOxの量を減らす。この結果、排気浄化触媒39のNOx吸蔵還元に用いられる容量(NOx吸蔵可能量)が拡大し、排気ガス中のNOxの浄化率を向上させることができる。
【0029】
例えば、運転状態によっては、上述したリッチスパイク運転ができない場合もあるので、排気浄化触媒39のNOx吸蔵可能量は大きい方が良く、吸蔵可能量が大きければ、NOxを吸蔵しきれないで下流側にNOxを流出させてしまうことを回避することができる。本実施形態の浄化方法は、硫黄成分を固形化するために硫黄成分固形化剤を用いる。
【0030】
硫黄成分固形化剤(以下、単に「固形化剤」とも言う)を用いて排気ガス中の硫黄成分を固形化するが、その固形化は、硫黄成分が排気浄化触媒39に流入する以前に行えばよい。この場合、硫黄成分固形化剤の添加は、シリンダ3よりも上流側の吸入空気中に添加しても良いし、シリンダ3内で添加しても良いし、シリンダ3から排出された排気ガスに対して添加しても良い。また、燃料(ガソリン)に予め添加されても良いし、燃料タンクへ添加しても良い。
【0031】
本実施形態の固形化剤は、セシウム(Cs)及びセリウム(Ce)を含有している。セシウム(Cs)は塩基性の金属元素であり、セリウム(Ce)は硫黄成分を酸化させる機能を有する金属元素(以下、単に「酸化機能を有する金属元素」とも言う)である。この両成分を有していることによって、硫黄成分を効果的に固形化することができる。発明者らは、この塩基性金属と酸化機能を有する金属とについて、さまざまな金属を用いて何度も実験を行い、どのような金属を用いると固形化率を向上させることができるかどうか検討した。
【0032】
その結果、塩基性の金属元素としては、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素であることが好ましく、カリウムの原子番号以上の原子番号を持つアルカリ金属元素であることが特に好ましいことを発明者らは発見した。その中でも、特にセシウム(Cs)を用いた場合の硫黄成分固形化率が、他の金属を用いた場合に比べてかなり優れていることも分かった。なお、塩基性の金属元素としては、具体的には、Li,Na,K,Rb,Cs,Fr,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra,Al,Zn,Zr,Laがある。このうち、アルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,Cs,Frであり、このうち、カリウムの原子番号以上の原子番号を持つものは、K,Rb,Cs,Frである。アルカリ土類金属は、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Raである。
【0033】
また、発明者らは、酸化機能を有する金属元素は遷移元素であると効果的であることも発見した。その中でも、上述したセシウム(Cs)との組み合わせでは、セリウム(Ce)を同時に用いることで硫黄成分の固形化率を飛躍的に向上させることができることも分かった。なお、酸化機能を有する金属元素としては、具体的には、Pt,Pd,Rh,Fe,Ce,In,Ag,Au,Irなどがある。このうち、In以外のものが遷移元素である。即ち、セシウム(Cs)を固形化剤として用いること、特にセリウム(Ce)と組み合わせて用いることが、他の金属元素を用いるよりも硫黄成分の固形率を飛躍的に向上させ得ることを発明者らは発見した。本発明はこの発見に基づくものである。
【0034】
硫黄成分の固形化は、以下のように行われると思われる(ここで、酸化機能を有する金属元素をM1とし、塩基性の金属元素をM2とする)。エンジン1の燃焼によって、SO2やSO3が生成される。そして、これらが、
SO2−(M1)→SO3→M2SO3→M2SO4 …▲1▼
のように反応する。
【0035】
上述したように、固形化剤に上述したセリウム(Ce)のなどの酸化機能を有する金属元素を含有させることによって、硫黄成分の酸化反応が進みやすくなる。即ち、上記▲1▼に示されるように、SO2がSO3になりやすくなり、硫黄の固形化率を向上させることができる。そして、酸化された硫黄酸化物は、上述したセシウム(Cs)などの塩基性の金属元素によって、亜硫酸塩や硫酸塩として固形化される。
【0036】
このとき、塩基性の金属元素として、カリウムの原子番号以上の原子番号を持つアルカリ金属、特にセシウム(Cs)を用いることによって、硫黄成分の固形化率を向上させることができる。これは、これらの金属元素は塩基性が強いので硫黄成分と結び付きやすく、上述した▲1▼以外に、
SO2→M2SO2−(M1)→M2SO3→M2SO4 …▲2▼
のような反応が起き、結果として硫黄成分の固形化率が向上するものと考えられる。(上記▲2▼では、酸化機能を有する金属元素M1は、亜硫酸ガスSO2と塩基性の金属元素M2との化合物M2SO2を酸化させると考えられる。)
【0037】
通常、エンジン1などの内燃機関の燃焼時のような燃焼時の高温下では、SO2は、一旦SO3に酸化されるが、化学平衡的にSO3ガスよりも亜硫酸ガスSO2状態となるため、上述した▲2▼の反応も起きないと、硫黄の固形化率向上は望めない。なお、SOxとしては、SOなどもあり得るが、これは酸化されることによってSO2やSO3となるので、その後は上述したように固形化される。
【0038】
上述した固形化剤の効果を実験的に検証した。実験には、硫黄分を重量比で500ppm含有する燃料中に固形化剤を投入したものを試験燃料として用いた。エンジン回転数が2000rpm、負荷が60Nmの条件でエンジンを運転したときの排気ガス中のSOx濃度を測定し、固形化剤を投入しない通常の燃料で運転したときの排気ガス中のSOx濃度からの減少分を硫黄成分の固形化率として算出した。なお、固形化剤の投入量は、固形化剤に含まれる塩基性の金属元素(M2)と燃料中に含まれる硫黄とによる生成硫黄塩(M2SO4)の理論モル数から計算される。固形化剤として各元素を含有させた場合の硫黄成分の固形化率を図6に示す。
【0039】
図6から明らかなように、酸化機能を有する金属元素(Ce,Fe)のみの場合は塩を形成するための相手がないので、当然ながらほとんど効果がない。塩基性金属元素(Ca,Ba,K,Cs)のみを含む場合は、固形化率20%〜30%程度の効果がある。ここで、塩基性金属元素の中でも、セシウム(Cs)の固形化率が、他の金属に比べてよいことが分かる。セシウム(Cs)に関しては、上述した条件を変更し、さまざまな実験条件で実験を行ったところ、固形化率が72%程度となることもあった。
【0040】
セシウム(Cs)の場合に固形化率が向上するのは、セシウム(Cs)はベーパー化し易く、分散性がよいので、固形化すべき硫黄成分との反応の機会が多くなるからではないかと思われる。また、セシウム(Cs)は強塩基性を有しているだけでなく、酸化能も高く、上述した▲1▼式の反応だけでなく▲2▼式の反応も促進するからではないかと思われる。
【0041】
これらの塩基性金属に対して、セリウム(Ce)を添加した場合も図6中右側に示す。図6から分かるように、セシウム(Cs)とセリウム(Ce)との組み合わせが、他の塩基性金属元素とセリウム(Ce)との組み合わせに比して硫黄成分の固形化率を向上させ得ることがわかる。
【0042】
また、発明者らは、セシウム(Cs)とセリウム(Ce)とのモル比(Ce/Cs)を変えて、最も固形化率を向上させるモル比についても検討した。この結果、上述したモル比は、20〜80%であることが好ましいことを発見した。図7に、上述したモル比の効果についてのグラフを示す。図7のグラフは、横軸がモル比で、縦軸がNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39への入ガスについての硫黄成分の固形化率(SOx低減率)である。図7に示されるように、特に上述したモル比が20%以上であると、硫黄成分固形化の効果が急激に向上する。
【0043】
モル比(Ce/Cs)を変更して実験した結果、最もよかった結果は93%にも達した。図6中の他の金属(Ca,Ba,Kなど)に関しても、セリウム(Ce)の添加モル比を変えることによって、図6の値よりも固形化率が向上する可能性はあるが、セリウム(Ce)の添加モル比が同程度の場合の結果(図7中のカリウムの場合を参照)から判断すると、やはりセシウム(Cs)とセリウム(Ce)との組み合わせが、他の場合に比して優れていると思われる。
【0044】
発明者らは、さらに、エンジン1の運転状態と固形化剤の添加量との関係についても検討した。図8に、実験によって得られたエンジン回転数と硫黄成分の固形化率との関係を示す。この実験ではエンジンはベンチ上で運転されており、高回転(高負荷)になればなるほど燃焼温度が高温になる条件で行われている。図8から分かるように、セシウム(Cs)を用いた場合は、燃焼温度が高温になるほど、固形化率が急激に上昇するという傾向がある。図8には、カリウム(K)の場合も示してあるが、エンジン回転数(燃焼温度)の上昇に伴う固形化率の上昇はほとんど見られない。エンジン回転数(燃焼温度)の上昇に伴う固形化率の上昇はセリウム(Ce)の場合に有効に利用できる特質である。
【0045】
このため、エンジンの運転状態によって固形化剤の添加量を可変制御できるようにしておけば、硫黄成分の固形化を効率的に行うことができる。特に、燃焼温度が高いほど固形化剤の添加率を多くすることによって、硫黄成分の固形化を効率的に行うことができる。即ち、低回転(低負荷)域では、固形化剤の添加量を少なくして固形化剤の消費量を節約し、かつ、硫黄成分の固形化に伴うデポジットの発生を抑止することができる。その一方で、高回転(高負荷)域では、固形化剤の添加量を多くして、硫黄成分の固形化率をより一層向上させて、排気浄化性能を向上させることができる。
【0046】
なお、固形化剤は、セシウム(Cs)やセリウム(Ce)をイオンとして含んでいても良いし、可溶性の化合物として含んでいても良い。固形化剤は、固体でも液体でも、あるいは、気体でも良く、上述した可溶性の化合物も溶剤に溶かしたものや、燃料となるガソリンを溶剤として溶ける固体など、様々な形態で提供され得る。上述したように、排気ガス中に含まれる硫黄成分の大部分を固形化させてしまうことによって、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒39にSOxが吸蔵され難くなるため、その分、排気浄化触媒39の吸蔵能力をNOxの吸蔵に用いることができ、NOxの浄化率を向上させることができる。
【0047】
固形化剤を添加するには、上述したように、いくつかの方法が考えられる。まず、上述した硫黄成分固形化剤を燃料に混合させておく場合について簡単に説明する。上述した図1の内燃機関は、この場合の構成を示してある。クエン酸セシウムをエタノールに溶かした溶液を固形化剤として使用する。この固形化剤には、セリウム(Ce)をオクチル酸セリウムとしてさらに含有させている。
【0048】
この固形化剤を燃料タンク29内に投入した。固形化剤の投入は、ガソリンタンクに燃料を一杯まで補充した直後などに行えば、燃料であるガソリンとの混合比を所定の混合比にしやすく都合がよい。このように、燃料であるガソリンに固形化剤を添加すれば、燃料をシリンダ3内に噴射して燃焼させることによって、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こり、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化され、排気浄化触媒39に吸蔵されなくなる。
【0049】
次に、上述した硫黄成分固形化剤を吸気通路4上に噴霧させることによって添加する場合について簡単に説明する。この場合のエンジン1及びその周辺の構成を図2に示す。なお、上述した図1に示されるものと同一又は同等の構成部位に関しては同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。固形化剤の成分は上述した実施形態と同一である。
【0050】
そして、この固形化剤を溜めておく固形化剤タンク41が、エンジン1に付随して配設されている。固形化剤タンク41からサージタンク14まで配管が配されており、この配管の先端には、サージタンク14内に向けて固形化剤を噴霧する噴霧ノズル16が接続されている。また、この配管の途中には、固形化剤を噴霧するための噴霧ポンプ42が配設されている。噴霧ポンプ42は、バッテリの電力あるいは、エンジン1の出力の一部によって駆動される。さらに、噴霧ノズル16は、上述したECU37に接続されており、ECU37によって固形化剤の噴霧タイミングや噴霧量が制御される。
【0051】
噴霧ノズル16を用いて、吸入空気に対して固形化剤を噴霧すると、これがそのままシリンダ3内に吸気されてインジェクタ5から噴射された燃料と共に燃焼される。この結果、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こり、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化され、排気浄化触媒39に吸蔵されなくなる。
【0052】
次に、上述した硫黄成分固形化剤をシリンダ3内に噴霧させることによって添加する場合について簡単に説明する。この場合のエンジン1及びその周辺の構成を図3に示す。なお、上述した図1及び図2に示されるものと同一又は同等の構成部位に関しては同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。固形化剤の成分は上述した実施形態と同一である。
【0053】
そして、この固形化剤を溜めておく固形化剤タンク41が、エンジン1に付随して配設されている。固形化剤タンク41からシリンダ3まで配管が配されており、この配管の先端には、シリンダ3の内部に向けて固形化剤を噴霧する噴霧ノズル16が接続されている。また、この配管の途中には、固形化剤を噴霧するための噴霧ポンプ42が配設されている。噴霧ポンプ42は、バッテリの電力あるいは、エンジン1の出力の一部によって駆動される。さらに、噴霧ノズル16は、上述したECU37に接続されており、ECU37によって固形化剤の噴霧タイミングや噴霧量が制御される。
【0054】
噴霧ノズル16を用いて、シリンダ3内に固形化剤を噴霧すると、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こり、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化され、排気浄化触媒39に吸蔵されなくなる。
【0055】
シリンダ3内に硫黄成分固形化剤を供給する場合、燃焼前に供給する場合と燃焼後に供給する場合とがある。
【0056】
硫黄成分固形化剤を燃焼前に供給する場合は、吸気行程か圧縮行程に供給することになる。圧縮行程に噴霧する場合は、高圧下に噴霧することになるため、固形化剤を噴霧ポンプ42によって高圧にしてから噴霧することになる。噴霧ノズル16を用いて、シリンダ3内に固形化剤を噴霧すると、吸入空気及び燃料と混合された後、燃焼される。この結果、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こり、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化される。
【0057】
一方、硫黄成分固形化剤を燃焼後に供給する場合は、膨張行程か排気行程に供給することになる。噴霧ノズル16を用いて、シリンダ3内に固形化剤を噴霧すると、燃焼後の排気ガスと反応し、排気ガス中の硫黄成分の固形化反応が始まる。この結果、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こり、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化される。
【0058】
次に、上述した硫黄成分固形化剤を排気通路7上に噴霧させることによって添加する場合について簡単に説明する。この場合のエンジン1及びその周辺の構成を図4に示す。なお、上述した図1〜図3に示されるものと同一又は同等の構成部位に関しては同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。固形化剤の成分は上述した実施形態と同一である。
【0059】
そして、この固形化剤を溜めておく固形化剤タンク41が、エンジン1に付随して配設されている。固形化剤タンク41から排気通路7まで配管が配されており、この配管の先端には、排気浄化触媒39の上流側の排気通路7上に固形化剤を噴霧する噴霧ノズル16が接続されている。また、この配管の途中には、固形化剤を噴霧するための噴霧ポンプ42が配設されている。噴霧ポンプ42は、バッテリの電力あるいは、エンジン1の出力の一部によって駆動される。さらに、噴霧ノズル16は、上述したECU37に接続されており、ECU37によって固形化剤の噴霧タイミングや噴霧量が制御される。
【0060】
噴霧ノズル16を用いて、排気通路上7上に固形化剤を噴霧すると、固形化剤は硫黄成分を含む排気ガスと混ざり合い、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こる。この反応時には、排気ガスの持つ熱が反応を促進させ得る。この反応によって、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化され、排気浄化触媒39に吸蔵されなくなる。
【0061】
次に、上述した硫黄成分固形化剤を外部EGR通路43上に噴霧させることによって添加する場合について簡単に説明する。この場合のエンジン1及びその周辺の構成を図5に示す。なお、上述した図1〜図4に示されるものと同一又は同等の構成部位に関しては同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。固形化剤の成分は上述した実施形態と同一である。
【0062】
そして、この固形化剤を溜めておく固形化剤タンク41が、エンジン1に付随して配設されている。固形化剤タンク41から外部EGR通路43上まで配管が配されており、この配管の先端には、外部EGR通路43上の内部に固形化剤を噴霧する噴霧ノズル16が接続されている。また、この配管の途中には、固形化剤を噴霧するための噴霧ポンプ42が配設されている。噴霧ポンプ42は、バッテリの電力あるいは、エンジン1の出力の一部によって駆動される。さらに、噴霧ノズル16は、上述したECU37に接続されており、ECU37によって固形化剤の噴霧タイミングや噴霧量が制御される。
【0063】
噴霧ノズル16を用いて、外部EGR通路43上に固形化剤を噴霧すると、固形化剤は硫黄成分を含む排気ガスと混ざり合い、さらに、吸気通路4上で吸入空気と混ざり合い、これがそのままシリンダ3内に吸気されてインジェクタ5から噴射された燃料と共に燃焼される。この結果、上述した硫黄成分を固形化する反応が起こる。この反応によって、排気ガス中の硫黄成分(その元は燃料中、又は、エンジンオイル中の硫黄成分)が固形化され、排気浄化触媒39に吸蔵されなくなる。
【0064】
エンジン1の運転状態に応じて固形化剤の添加量を調整する制御を行う場合には、固形化剤の添加を燃料噴射とは独立させる方がよい。このような場合は、図2〜図5に示されるような形態で固形化剤を添加する。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、硫黄成分固形化剤によって、内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒に排気ガスが流入する以前に固形化させるので、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒のSOx被毒を抑止し、排気ガスの浄化をより一層向上させることができる。そして、重要なこととして、上述した硫黄成分固形化剤が、セシウム(Cs)を含んでいるので硫黄成分の固形化率を高くでき、排気浄化触媒のSOx被毒の原因となる硫黄酸化物をより多く固形化することによって浄化性能をより一層向上させることができる。
【0067】
また、本発明によれば、内燃機関の吸気系から排気系のいずれかの場所で硫黄成分固形化剤を添加する際に、硫黄成分固形化剤の添加量を内燃機関の運転状態によって可変制御するので、固形化剤の消費量を節約することができるとともに、余剰の固形化剤が内燃機関の吸排気系に残されることがないので内燃機関の運転を阻害するおそれもない。
【0068】
また、本発明によれば、硫黄成分固形化材の添加量が内燃機関の燃焼温度が高いほど多くされる。固形化剤にセシウム(Cs)を含有させた場合は、内燃機関の燃焼温度が高いほど固形化率が向上するという特性があるので、固形化剤の添加量を内燃機関の燃焼温度が高いほど多くすることによって、硫黄成分の固形化率をより一層向上させることができる。硫黄成分の固形化率が向上すれば、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒のNOx吸蔵能力も向上し、排気浄化性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の排気浄化方法の第一実施形態を実施する内燃機関及びその周辺を示す構成図である。
【図2】本発明の排気浄化方法の第二実施形態を実施する内燃機関及びその周辺を示す構成図である。
【図3】本発明の排気浄化方法の第三実施形態を実施する内燃機関及びその周辺を示す構成図である。
【図4】本発明の排気浄化方法の第四実施形態を実施する内燃機関及びその周辺を示す構成図である。
【図5】本発明の排気浄化方法の第五実施形態を実施する内燃機関及びその周辺を示す構成図である。
【図6】固形化剤含有元素と硫黄成分の固形化率との関係を示すグラフである。
【図7】セシウム(Cs)に対するセリウム(Ce)の添加量と硫黄成分の固形化率との関係を示すグラフである。
【図8】エンジン回転数と硫黄成分の固形化率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…エンジン(内燃機関)、3…シリンダ、4…吸気通路、7…排気通路、8…排気バルブ、16…噴霧ノズル、27…始動時触媒、29…燃料タンク、39…排気浄化触媒(NOx吸蔵還元型)、41…固形化剤タンク、42…噴霧ポンプ、43…外部EGR通路。
Claims (1)
- 内燃機関の排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化装置において、
前記内燃機関の燃焼後に硫黄酸化物を生成させる原因となる硫黄成分を、排気通路上に設置されたNOx吸蔵還元型の排気浄化触媒に前記硫黄成分が流入する以前に、セシウム(Cs)を含む硫黄成分固形化剤を用いて固形化させ、
前記内燃機関の吸気系から排気系のいずれかの場所で前記硫黄成分固形化剤を添加する際に、前記硫黄成分固形化剤の添加量を前記内燃機関の運転状態によって可変制御し、
前記硫黄成分固形化材の添加量が、前記内燃機関の燃焼温度が高いほど多くされることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
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