JP4363674B2 - 医療用複室容器 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、2種以上の薬剤を互いに隔離された別々の収容室で保存し、使用時には隔離部を破断することによって該複数薬剤をクローズドの状態で混合するに適した医療用複室容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療分野では複数の薬剤成分を混合した状態で生体内に投与することはごく一般的であるが、混合する薬剤成分の組み合わせによっては次のような方法が採られる。例えば、輸液の場合、アミノ酸とブドウ糖とを含む液はメイラード反応による変質が起こりやすいので、各成分を別々の閉鎖系保存しておき、患者への投与の直前に混合することが多い。この際混合操作を無菌的に(クローズドシステムで)行うために、また容易に操作するために、複数の収容室に区画された容器を用い、該収容室の各々に異なる輸液成分を保存しておき、使用直前に区画された収容室を何らかの手段でクローズドシステム内で連通させ混合する方法が実用化されるようになった。
【0003】
収容室の区画手段としては、使用直前までは安定に成分薬剤を隔離でき、使用時(混合時)には容易に連通させうることが大切であり、このために種々の形態が工夫され提案されている。代表的なものとしては、▲1▼収容空間を外部からクランプで狭窄するもの、▲2▼収容室間を容器外に露出したチューブで連結し、該チューブをクランプで狭窄するもの、▲3▼収容室間に用事連通な連通具(いわゆるクリックチップ)をもつもの、▲4▼収容室間の隔壁部のシールを比較的安定でかつ混合時には容易に破断できる程度の接着強度にしたものが挙げられる。これらの内で最も操作性に富み実用的なのは、▲4▼のいわゆるイージリィピーラブルタイプの複室容器である。このタイプの技術的ポイントは製造時あるいは輸送時においては収容空間の隔壁シールが比較的安定で破断しにくく、使用時(混合時)には手、治具などで容易に破断される程度のシール強度を持ち、かつ外界(大気)とつながる境界部の破断強度が十分であることである。したがって、容器の内壁を形成する(すなわち、シール部を形成する)材質の選定が重要となるのであるが、一般にはミクロ層分離構造を形成する材質が選ばれる。
【0004】
この提案例としては特開平2−4671号、特開平5−31153号、特開平7−13624号などがあり、▲1▼ポリエチレンとポリプロピレンとの混合物(組成物)、▲2▼ポリエチレンと架橋ポリエチレンとの混合物など(これらはシール部の破断時に凝集破壊を起こすタイプである)が述べられている。しかしながら問題なのはこれらの材質が薬剤容器特に輸液容器材料としての基本要件すなわち、安全性、柔軟性、透明性などを満たすか否か、また生産に支障がないかである。上記▲1▼の如きポリエチレンと架橋ポリエチレンとの混合物はゲル状物・フィッシュアイが発生しやすく、生産性に劣り、容器(製品)の品位・外観も損なわれる。また、▲1▼ではポリオレフィン同士とはいえ、元々相溶性に乏しく、屈折率も異なるポリマーの組み合わせであり、透明性が十分でなくなる。イージリィピーラブル性は相溶性に乏しい組み合わせであるのがよいのはもちろんであるが、本質的にこのような問題が生じやすい要素を含んでいる。
【0005】
ミクロ相分離構造を形成しないすなわち相溶性に富むポリマー同士の組み合わせでイージリィピーラブル性を発揮できればよいことになる。この代表例は特開平8−229101号に示されたような▲3▼密度の異なる2種以上のポリエチレンの混合物である。
しかし、実際に試してみると、イージリィピーラブル性と透明性とのバランスが難しい。すなわち、ポリエチレンの密度差が大きいほどイージリィピーラブルになりやすいのはもちろんであるが、比較的高密度のポリエチレンを含ませる必要があり、(ポリエチレンは高密度になると透明性が良くないため)、必然的に容器(製品)の透明性に劣ることが問題点として指摘される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は従来のイージリィピーラブル型複室容器における上述の問題すなわちイージリィピーラブル性と透明性とのアンバランスを解決すべくなされたものである。
【0007】
【問題を解決するための手段】
本発明の要旨は、シートにより形成された医療用複室容器であって、相対する前記シートの相対する2つの内壁面は、互いに密度が異なる線状低密度ポリエチレンからなり、かつ相対する前記内壁面を形成する、高密度壁側のポリエチレンの密度が0.920〜0.930g/cm3であり、低密度壁側のポリエチレンの密度が高密度壁側より0.005g/cm3以上低いものであり、相対する前記内壁面の一部を熱シールすることにより形成された弱シールによって複数の収容室に区画されている医療用複室容器であり、適度のシール強度を持ち、安全性、柔軟性、透明性、外観などにすぐれた複室容器を提供する。
本発明のポイントは相対する内壁面のポリエチレンの密度が異なること、すなわち融点あるいは結晶性が異なることにあり、融解・結晶化挙動の異なる二つの壁をシールすることになるので、イージリィピーラブル(弱シール)が安定に形成されやすいのが特徴である。
【0008】
本発明におけるポリエチレンは通常公知のものであるが、本発明の趣旨である容器の透明性、柔軟性などの観点から、低密度ポリエチレン特に線状低密度ポリエチレン(LLDPE)が目的に適っている。LLDPEには周知の如く、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1などのα−オレフィン類を共重合成分とし、Ziegler-Natta触媒やメタロセン触媒によって重合される。そして、透明性、柔軟性あるいはシール性を考慮すると、密度0.905〜0.935g/cm3さらに好ましくは0.910〜0.930g/cm3のものがよい。
本発明の容器は相対する内壁面のポリエチレンの密度が異なるのが特徴であるが、上記LLDPEを組み合わせるのがよい。最もすすめられるのは、高密度壁側のLLDPEの密度が0.920〜0.930g/cm3であり、低密度側のLLDPEの密度が高密度側のそれより0.005g/cm3以上より好ましくは0.007g/cm3以上低い組み合わせである。
【0009】
また、本発明の容器において内壁面の構成が上記のような条件を満足すればよいのであり、壁を形成するシート自体は多層(複層)構造であってもよいのはもちろんである。多層化はシートの強度、透明性、柔軟性、耐熱性などを改良するために適用されるのが一般である。多層の場合に中間層あるいは外層を構成するポリマーあるいはポリマー組成物としては、
(イ)LLDPE:密度0.900〜0.930さらに好ましくは0.905〜0.925g/cm3の範囲のものがよい。
(ロ)結晶性ポリプロピレンまたはこれを成分とする結晶性コポリマー。ただし、剛性が高いので薄層として用いるのがよい。
(ハ)(ロ)とオレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマーとのポリマー組成物。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてはエチレンプロピレンコポリマーとエチレンブテン−1コポリマーが代表的であり、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ブロック(ポリスチレン−エチレンブチレンコポリマー−ポリスチレン)(SEBS)とブロック(ポリスチレン−エチレンプロピレンコポリマー−ポリスチレン)(SEPS)が代表例である。これらの熱可塑性エラストマーはポリマー組成物中の10〜50重量%さらに好ましくは15〜40重量%を占めるのがよい。(ニ)結晶性ポリテン−1またはこれを主成分とする結晶性コポリマー。
【0010】
本発明の医療用複室容器を形成するシートの厚さは全体で0.08〜0.6mmより好ましくは0.1〜0.5mmであるのが適当であり、多層の場合、内壁層の厚さは0.01mm以上より好ましくは0.02mm以上であるのがよい。本発明の複室容器は通常公知の方法で製造される。すなわち、単層用あるいは多層用のTダイまたはサーキュラーダイを介して押出し(溶融温度は好ましくは160〜230℃さらに好ましくは170〜210℃がよい)、得られたフラット状のシート、チューブ状のシート、パリソンなどについて、ブロー、延伸(熱シール性を考慮すると無延伸の方がよい)、裁断、融着などの手法を適宜活用して、所定の形状・形態に加工すればよい。なお、密度の異なるポリエチレン部分を持つシートを一挙に得ることも可能であり、この場合には特公昭52−10142号、特開昭57−103833号に記載された如く、ダイ内部にセパレータを設ける方式が適用され得る。
【0011】
本発明の容器は高密度側ポリエチレンシートと低密度側ポリエチレンシートが相対する形態となるわけであるが、最も重要なポイントは熱シールの工程である。すなわち、[1] 複数の収容空間の仕切り(隔壁)部のシールは製造時あるいは輸送時においては破断が起こりにくく、使用時(薬剤混合時)には手、治具などで容易に破断できる程度のシール強度(一般には180°剥離強度が0.3〜1Kg/15mm程度)を示し、[2] 外界と接する部分のシール(周縁シール)は容易に破断できない程度のシール強度(180°剥離強度が1.5Kg/15mm以上より好ましくは2Kg/15mm以上)であることが要求されるため、仕切り部シールと周縁シールの条件のコントロールが大切である。本発明の容器の場合、仕切り部シールは温度100〜130℃、圧力1〜4Kg/cm2、時間0.2〜5秒、シール巾2〜10mm、周縁シールは温度120〜180℃、圧力2〜5Kg/cm2、時間0.2〜10秒、シール巾5mm以上の条件で行うのが通常である。収容室の数は2〜4個が一般的である。
【0012】
なお、本発明の趣旨を損なわない範囲で、内壁層を形成するポリエチレンのどちらか一方に、エチレンプロピレンコポリマー、エチレンブテン−1コポリマー、SEBE,SEPSなどを5〜20重量%程度添加することもさしつかえない。
本発明の複室容器は、▲1▼薬剤が液体同士の場合(例えばアミノ酸液とブドウ糖液との組み合わせ)、▲2▼薬剤の一方が液体で他方が固体の場合(例えば生理食塩水と抗生物質との組み合わせ)などの形で使用される。
【0013】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
(1)実験方法
▲1▼原料ポリマーの準備:使用した原料ポリマー(Ziegler-natta触媒系LLDPE)を表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
▲2▼シートの調整:表1のA〜DのLLDPEについて、単軸スクリュー型押出機で溶融し(温度180〜190℃)、Tダイを介してシート状に吐出させ、20℃に保たれたキャスティングローラーで冷却後、トリミングして厚さ0.25mm、巾210mmのシートを6m/分の速度で捲取った。
▲3▼複室容器の作製:▲2▼で作製したシートを300mm長に裁断した。次いで2枚のシートの種類を適宜組み合わせて、中央部の巾7mmを温度100〜130℃、圧力2Kg/cm2、時間5秒、周縁部(サイド部)の巾8mmを温度150℃、圧力2Kg/cm2、時間2秒の条件で熱シール後、片方の室にアミノ酸3wt/V%水溶液、もう一方の室にブドウ糖15wt/V%水溶液各400mlを入れ、両端部の巾10mmを温度150℃、圧力2Kg/cm2、時間2秒の条件で熱シールし、区画室が2個の薬液入り複室容器を作製した。
▲4▼高圧蒸気滅菌:▲3▼の容器を高圧上記滅菌機に入れ、窒素雰囲気中で、温度107℃、ゲージ圧1.8Kg/cm2、時間30分の条件において滅菌し、室温まで冷却した。
【0016】
▲5▼容器の透明性の評価:▲4▼の容器を窒素雰囲気中、室温(20〜25℃)において48時間以上放置した後、容器シートの一部を切り取って、波長450nmにおける水中透過率を島津ダブルビーム型自記分光光度計UV−300にて測定し、透明性の尺度とした。
▲6▼容器の柔軟性の評価:▲4▼の容器のシートをダンベル状に裁断し、JISK7113に準じて引張弾性率を測定し、柔軟性の尺度とした。
▲7▼シール強度の測定:▲4▼の容器の中央部(仕切り部)および周縁部(サイド部)のシール部を切り取り、300mm/分の速度で180°剥離強度を測定した(表2中の剥離強度は15mm巾に換算した値である)。
▲8▼容器の仕切り部の破断性(連通性)の評価:▲4▼の容器を机の上に寝かせて置き、一方の区画室側を手で押さえる程度で仕切り部のシールが破断するか否かを確認した。
▲9▼溶出物試験:▲2▼のシートの各々について、日本薬局方(第13改正)一般試験法「プラスチック製医薬品容器試験法」に準じ、溶出物試験を行った。
【0017】
(2)実験結果
【0018】
【表2】
【0019】
▲1▼表2から明らかな如く、容器シートの透明性および柔軟性はいずれも輸液容器として十分な性質を示す。
▲2▼複室容器として重要なのは「仕切り部シール」の適正温度が広いことである。表2に示した適正温度とは、適度なイージリィピーラブル性を仕切り部に与えるシール温度範囲のことであり(すなわち、この範囲より高いシール温度ではイージリィピーラブル性を示さず、容器を手で押さえても仕切り部は破断し難い。また、この範囲より低い温度ではシール強度が低すぎるため、安定した仕切りが形成されない)、実施例1〜3の如く、密度の異なるシートの組み合わせでは約10℃の巾があり、温度コントロールの範囲が広い。これに対して、比較例1、2の如く、同じ密度のシートで仕切り部を形成させる場合には、適正温度は約3℃の範囲でしかなく、厳密な温度コントロールが要求されるため、興行的生産は困難であろう。
▲3▼周縁シールについては、いずれの径も安定した強度を示し、問題ない。
▲4▼また、「溶出物試験」の結果はいずれも規格をクリアーすることが確認されている。
【0020】
【発明の効果】
以上述べた如く、本発明は密度の異なるポリエチレンシートをシールする際の溶解挙動を複室容器に応用したものであり、複室容器としての性能(イージリィピーラブル性)はもちろん、透明性、柔軟性なども十分である。
Claims (1)
- シートにより形成された医療用複室容器であって、相対する前記シートの相対する2つの内壁面は、互いに密度が異なる線状低密度ポリエチレンからなり、かつ相対する前記内壁面を形成する、高密度壁側のポリエチレンの密度が0.920〜0.930g/cm3であり、低密度壁側のポリエチレンの密度が高密度壁側より0.005g/cm3以上低いものであり、相対する前記内壁面の一部を熱シールすることにより形成された弱シールによって複数の収容室に区画されていることを特徴とする医療用複室容器。
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JP15254697A JP4363674B2 (ja) | 1997-06-10 | 1997-06-10 | 医療用複室容器 |
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JP15254697A JP4363674B2 (ja) | 1997-06-10 | 1997-06-10 | 医療用複室容器 |
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JPH11377A JPH11377A (ja) | 1999-01-06 |
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JP15254697A Expired - Lifetime JP4363674B2 (ja) | 1997-06-10 | 1997-06-10 | 医療用複室容器 |
Country Status (1)
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1997
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