JP4362042B2 - 洪水ハザードマップ生成方法及びシステム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水害をシミュレーションする技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、河川の堤防が決壊することによる洪水による被害を最小限に抑えるため、洪水を引き起す様子をシミュレーションする技術が知られている(特許文献1参照)。そして、そのようなシミュレーションの結果を表すものとしていわゆる洪水ハザードマップが利用されている。洪水ハザードマップとは、洪水で浸水する範囲を示した予測図であり、地図上に、洪水が起こった場合の浸水区域や避難場所を表示したものである。
【0003】
洪水ハザードマップは、破堤地点を想定し、氾濫流量を算出して、地図上の各地点での氾濫時の水深を算出することによって作成されるが、この氾濫時の水深を算出するにあたり、地表面の標高データが不可欠であり、標高データを元にして、水がどのように流れるかを計算する必要がある。そのため、従来は、国土地理院が提供しているデジタル標高データか、地形図の等高線から目視により標高値を抽出するか、或は、航空機を用いた航空測量によって作成した標高データを用いて洪水ハザードマップを作成していた。
【特許文献1】
特開2002−269656号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の国土地理院が提供しているデジタル標高データは、空間分解能が約50mと粗く、浸水区域を正確に予測できるものではなかった。また、現在存在する国土地理院のデジタル標高データは昭和56年に作成されたものであり現在の標高と大幅に異なる場所も多く、不適切な場所を避難場所として指定してしまう可能性があった。更に、このデジタル標高データは、実際の地表面を測量することによって作成されるものであり、必要に際して更新することは事実上不可能であった。
【0005】
一方、航空測量による標高データの作成は、必要に際して行うことができるが、測量用の航空機を飛行させる必要がある。更に、航空写真は最大でも2km×2kmの程度の範囲しか一度に撮影できないため、広範囲の標高データを得るには、それらの航空写真を大量につなぎ合せる必要があり、膨大なコストと労力がかかるという問題があった。
【0006】
そして、このように標高データの品質が良くないことにより、結果として、正確な洪水ハザードマップを容易に作成することができなかった。また、標高データの空間分解能が粗いので、都市部などにおいて下水道の処理能力を超えて雨水があふれ出す「内水氾濫」を細かくシミュレーションすることもできなかった。
【0007】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、容易かつ正確に様々な水害をシミュレーションする技術を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る方法は、所定の地域において水害が起こった場合の浸水状況を表わす洪水ハザードマップを生成するための洪水ハザードマップ生成方法であって、
異なる位置にある衛星のセンサ、又は、一つの衛星の異なるセンサから前記所定の地域をリモートセンシングすることにより得られた第1及び第2デジタル画像データと、それらの画像データを得た衛星センサ位置、衛星センサの撮影方向及び衛星センサの焦点距離を入力する入力工程と、
前記第1及び第2デジタル画像データのそれぞれについて、衛星センサ位置Oと地表面の既知の点Pと、点Pを撮影したデジタル画像上の投影点pが一直線上に存在することを用いて、前記衛星センサ位置、前記衛星センサの撮影方向及び前記衛星センサの焦点距離から、前記第1及び第2デジタル画像データにおける座標と、その座標に表示されている対象物の地表面上での経度、緯度及び標高との関係を示す一次関係式を2つ求める工程と、
前記第1及び第2デジタル画像データに表示されている同じタイポイントの座標を導き出し、それぞれについて前記一次関係式を2つずつ求めることによって、これら4つの連立方程式の解として、各タイポイントの経度、緯度及び標高を求める工程と、
複数のタイポイントの経度、緯度及び標高から、逐次近似法を用いて前記所定の地域に含まれる各地点の標高を表わすデジタル標高データを求める工程と、
前記デジタル標高データと水害の起点位置データと流量データとを用いて、洪水時の各地点の水深データを算出する算出工程と、
前記デジタル標高データを用いて、前記第1または第2デジタル画像データに対しオルソ幾何変換を施して洪水ハザードマップの背景画像を作成し表示する工程と、
前記背景画像の各地点に対して、前記算出工程で算出した水深データを表示する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るシステムは、
所定の地域において水害が起こった場合の浸水状況を表わす洪水ハザードマップを生成するためのデータ生成システムであって、
異なる位置にある衛星のセンサ、又は、一つの衛星の異なるセンサから所定の地域をリモートセンシングすることにより得られた第1及び第2デジタル画像データと、それらの画像データを得た衛星センサ位置、衛星センサの撮影方向及び衛星センサの焦点距離とを入力する入力手段と、
前記第1及び第2デジタル画像データのそれぞれについて、衛星センサ位置Oと地表面の点Pと、点Pを撮影したデジタル画像上の投影点pが一直線上に存在することを用いて、前記衛星センサ位置、前記衛星センサの撮影方向及び前記衛星センサの焦点距離から、前記第1、第2デジタル画像データにおける座標と、その座標に表示されている対象物の地表面上での経度、緯度及び標高との関係を示す一次関係式を2つ求める手段と、
前記第1、第2デジタル画像データに表示された複数のタイポイントを指定し、各タイポイントの前記第1、第2デジタル画像データにおける座標を用いて、前記一次関係式を2つずつ求めることによって、合わせて4つの連立方程式の解として、前記複数のタイポイントの経度、緯度及び標高を求める手段と、
前記複数のタイポイントの経度、緯度及び標高から、逐次近似法を用いて前記所定の地域に含まれる各地点の標高を表わすデジタル標高データを算出する標高算出手段と、
前記デジタル標高データと水害の起点位置データと流量データとを用いて、洪水時の各地点の水深データを算出する算出手段と、
前記デジタル標高データを用いて、前記第1または第2デジタル画像データに対してオルソ幾何変換を施し、洪水ハザードマップの背景画像を作成し表示する手段と、
前記背景画像の各地点に対して、前記算出手段で算出した水深データを表示する手段と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素の相対配置、表示画面等は、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
<システム構成>
本発明に係る水害シミュレーションシステムの実施形態として、洪水ハザードマップ生成システムについて説明する。図1は、洪水ハザードマップ生成システムの概略構成を示す図である。洪水ハザードマップ生成システム100は、汎用コンピュータにOS(基本ソフトウェア)及びいくつかのアプリケーションプログラムをインストールすることにより構成されるシステムである。
【0014】
本システム100は、図1に示すとおり、CPU(中央処理装置)101、ROM(リードオンリメモリ)102、RAM(ランダムアクセスメモリ)103、HD(ハードディスク)104、及びI/O(入出力インタフェース)105を備えたコンピュータ本体にマウスやキーボードといった入力デバイス106、及びディスプレイ107が接続された構成となっている。
【0015】
CPU101は、本システム110の全体を制御する演算・制御用のプロセッサである。ROM102は、CPU101で実行するプログラムや固定値等を格納する不揮発性メモリである。RAM103は、データやプログラムを一時的に記憶するための揮発性メモリであり、HD(ハードディスク)104は、本システム100で実行するOS及び各種のアプリケーションプログラムを格納した記憶媒体である。入出力インタフェース(I/O)105は、コンピュータ本体とその周辺装置との間で画像データを入出力するためのインタフェースであり、CPU101はこのI/Oを介して、入力デバイス106や、ディスプレイ107との間でのデータのやり取りを行う。
【0016】
本システム100において、RAM103は洪水ハザードマップ生成処理に際し、CPU101で実行するプログラムを一時的に格納するプログラム実行領域103aの他、タイポイントデータ格納領域103b、GCP(地上コントロールポイント)データ格納領域103c、及びデジタル標高データ格納領域103dを備える。
【0017】
ここで、タイポイントデータとは、複数の衛星画像データの対応点を示すデータである。GCPデータとは、絶対座標(緯度、経度、標高)が既知であって、画像データにおいてもその画像位置を特定できる目標物(地上基準点)のデータであり、絶対座標データ及び衛星画像内の位置データが含まれる。また、デジタル標高データとは、洪水ハザードマップを作成する際に必要となる、メッシュ毎のデジタル標高データである。
【0018】
また、本システム100において、HD104には、起点・流量決定モジュール104a、デジタル標高データ抽出モジュール104b、水理解析モジュール104c及びハザードマップ生成モジュール104dがインストールされている。
【0019】
<洪水ハザードマップ作成の流れ>
次に、図1のシステムを用いた、洪水ハザードマップの作成処理について図2を用いて説明する。洪水ハザードマップは、洪水の発生を想定したときの浸水のおよぶ範囲や深さ、また避難場所や避難計画等の避難情報を表示した図面である。洪水ハザードマップには、「浸水区域境界」のポリゴン(多角形)データが含まれており、属性データとして、想定される浸水深が付加される。洪水ハザードマップによれば、基準水害以上の規模の浸水想定区域を把握することができる。
まず、ステップS201で洪水ハザードマップを作成したい地域を特定する。次に、ステップS202において、その地域において氾濫が予想される河川を特定し、起点・流量決定モジュール104aを用いて、水害の起点位置としての破堤地点を割出し、破堤開始流量の設定を行う。具体的には、河道に適した降雨量、降雨パターン、時間、流量、水位の関係性を解析する方法(流出モデル)により、流域・河道モデル定数を解析する。河道データを入力して、横断測量線のチェック及び斜測線横断の補正を行い、区間距離の確認をし、洪水流特性を加味し、河道横断のうち有効断面を決定する。
【0020】
決定された有効断面について、断面特性(高さならびに断面積、川幅、径深)を作成し、径深の急変化点及び断面形の上下流のつながりを考慮し照査をおこなう。この現況河道断面特性を用い、不等流計算により、現況河道の流下能力を算定する。流下能力算定では有効河積の設定と確認ならびに下流端断面の水位と流量の関係性等をもとに総合的に判断した上で、計画洪水流量を含むいくつかの流量に対応する出発水位を設定する。なお、流量配分は計画洪水流量配分に基づき、分合流、死水域等を勘案して設定する。これを元に流下能力図(河道位置−流量図)、横断面ごとのH−Q図(流下能力の水位−流量図)を作成する。そして、作成されたH−Q図の重ね合わせにより、流下能力不足箇所の抽出を行い、これに湧水・漏水実績、被災履歴、重要水防区域などの既往資料に示される危険箇所を考慮し、破堤形状、破堤開始流量を設定、破堤地点を決定する。
【0021】
次に、ステップS203において、ステップS201で特定された地域の衛星画像データからデジタル標高データを抽出し、記憶する。
【0022】
更にステップS204に進み、ステップS202で決定された氾濫開始流量データ及び破堤地点データと、ステップS203で抽出されたデジタル標高データとを用いて、対象洪水流量に対して氾濫水理解析をおこなう。この結果により、メッシュ毎の最高水深位、それぞれの破堤地点ならびにその重ね合わせによる氾濫到達時間、氾濫流速、歩行可能メッシュを整理する。
【0023】
ステップS205では、整理された内容についてそれぞれ、「最高水深位メッシュ図」「等水深線図」「氾濫到達時間図」「氾濫流速図」「歩行可能メッシュ図」を作成する。これらの図を元に洪水ハザードマップを作成する。具体的には、すべての河川における氾濫水理解析結果を重ね合わせ、避難活用情報及び災害学習情報を付加することにより洪水ハザードマップを作成する。
【0024】
なお、ここでは、河川の氾濫による水害をシミュレーションした洪水ハザードマップの作成処理について説明したが、内水氾濫の場合にも、例えば、処理能力の低い排水溝などを起点位置と見立てれば、ほぼ同様の処理によりハザードマップを作成できる。
【0025】
<デジタル標高データの抽出処理>
次に、図3のフローチャートを用いて、デジタル標高データの抽出処理について説明する。
【0026】
まず、ステップS301において、衛星画像データを入力する。ステップS301で入力される衛星画像データは、QuickBird衛星によってリモートセンシングされた画像データであり、放射補正、およびセンサ補正がなされたものである。ここで、放射補正とは、センサ素子間の相対放射反応、非反応検知センサ素子の補填、および絶対放射測定に対する補正である。またセンサ補正とは、センサ内部構造、光学ひずみ、走査ひずみなどを考慮した補正である。
【0027】
衛星によるリモートセンシングの様子を図4に示す。QuickBird衛星などの撮像衛星は、衛星軌道401上を矢印方向に秒速約8kmの速度で移動しながら、ラインセンサにより地表面402をリモートセンシングする。衛星に搭載されたラインセンサは、地表面402から受信した電磁波をイメージプレーン403に投影してデジタルデータとして保存する。そしてこのデジタルデータに対し、放射補正及びセンサ補正を行ったものがステップS301で入力される。QuickBird衛星の場合、リモートセンシングされた画像データの空間分解能は約61cm(直下点) から72cm(25度オフナディア角)であり、一度に約16.5km四方の地表面の画像を取込むことができる。
【0028】
ステップS301では、このようにリモートセンシングされた画像データが、少なくとも2種類用意される。それらは、異なる位置にある衛星のセンサ、又は、一つの衛星に設けられた異なるセンサから同じ地域をリモートセンシングすることにより得られた画像データである。その関係を図5に示す。501及び502が衛星の軌道であり、503が地表面である。504が撮像対象領域である。QuickBird衛星を用いる場合には、1つの衛星で異なる軌道上から同じ地域を撮像することが可能であるが、それぞれ異なる衛星から同じ地域を撮像してもよい。なお、QuickBird衛星は南北に周回する衛星であるから、その軌道は東西にずれたものとなる。また、QuickBird衛星などの商用衛星では、衛星が1つの軌道を北から南に移動する間にセンサの向きを変更し同一の領域をほぼ同時に2方向から撮像しステレオペア画像を取得する機能がある。この機能を利用した場合には、図5の501及び502は、同一の軌道上の異なる時間の衛星位置を示すことになる。
【0029】
なお、ステップS301では、画像データのみならず、画像サポートデータ(ISD)が入力される。画像サポートデータには、少なくともその画像を撮像した衛星の位置及び時刻の情報が含まれている。画像サポートデータとしては、例えば、姿勢データ(最初のデータ点の時刻、点数、点間隔と姿勢情報)、衛星軌道暦データ(最初のデータ点の時刻、点数、点間隔と衛星軌道情報)、幾何補正データ(衛星のセンサおよび光学系をモデル化した仮想カメラモデルの写真測量用のパラメータ:焦点距離、中心軸座標など)、画像メタデータ(製品のレベル、画像4隅の座標値(緯度、経度)、地図投影法の情報を含む画像製品などの主要な属性と、画像取得時刻)、RPC(RAPID POSITIONING CAPABILITY EXTENSION FORMAT)データ(空間の4隅の座標値と画像の4隅の座標値とを数学的に対応させるデータ)が挙げられる。
【0030】
ステップS301で入力する衛星画像データは、センサ補正がなされているので、衛星・センサの機構が起因する歪みは補正されているが、センサの移動や地球の自転による歪みが含まれている。そこで、ステップS302において、そのような歪みを補正する。この補正を狭義の幾何補正と称する。ステップS302では、更に、衛星センサの焦点距離や視野角などの幾何学特性パラメータを用いて、ピクセル座標から衛星座標への変換係数を幾何学的に決定する。
【0031】
図6は、そのような座標変換について説明する図である。入力された衛星画像データは、RAM103の画像データ格納領域において、Aを原点として、XF方向(列方向)にセンサの撮像素子ごとのデータが格納され、YF方向(行方向)にラインごとのデータが格納されている。ステップS302では、このようにRAM103に格納されたデータを、Cを原点とするxy座標に変換する。ここでCは、撮像領域の中心点である。
【0032】
次に、ステップS303において、GCPの設定を行い、ステップS304において、空中三角測量を行う。GCPには、三角点、水準点、もしくは、測量により得られた地点の座標、標高などが用いられる。日本国内の場合、25000分1の地形図が容易に入手できるので、交差点などの緯度経度、およびおよその標高を読み取りその値をGCPとして用いることができる。
【0033】
空中三角測量とは、衛星のラインアレイセンサで撮像された平面画像上の座標と地上座標系との関係を、センサ中心と、画像上のGCPの座標と、地上におけるGCPの位置が一直線上にあるという、共線条件を用いて解析する測量をいう。
【0034】
図7は、空中三角測量について説明する図である。図7において、衛星座標系(x,y,z)は、センサ位置Oを原点とし、センサの撮像方向をz軸とする座標系である。また、地上座標系(X,Y,Z)は、緯度、経度、標高が共に0の点を原点とし、東をX軸に、北をY軸に、基準標高面と垂直を成す方向をZ軸にもつ座標系である。なお、測量学では、通常X軸を北、Y軸を東とする座標系を用いているが、図7では、X軸を東、Y軸を北、Z軸を鉛直上方とした右手座標系を用いている。
【0035】
ここで、センサ位置Oを通る地上座標系と平行な座標系を(x',y',z')とすると、座標系(x',y',z')は、衛星座標系をx軸、y軸、z軸まわりに所定角度だけ回転させた座標系なので、それぞれの軸周りの回転角度をそれぞれ(ω、ψ、κ)とすれば、これらの座標系の変換式は、以下の式で表すことができる。
【0036】
【数1】
Figure 0004362042
ここで、
【数2】
Figure 0004362042
であり、
11=cosψ×cosκ
12=−cosψ×cosκ
13=sinψ
21=cosω×sinκ+sinω×sinψ×cosκ
22=cosω×cosκ−sinω×sinψ×sinκ
23=sinω×cosψ
31=sinω×sinκ−cosω×sinψ×cosκ
32=sinω×cosκ+cosω×sinψ×sinκ
33=cosω×cosψ
である。
【0037】
従って、衛星座標系と地上座標系のスケール変換率をkとすると、衛星座標系と地上座標系の関係は、
【数3】
Figure 0004362042
となる。
【0038】
また、図7において、地表面上の点Pの座標を、地上座標系で(XP,YP,ZP)とし、点Pを撮像した時点のセンサ位置Oの座標を、地上座標系で(XO,YO,ZO)とする。更に、点Pの投影点pの、画像データ上の座標を(xP,yP)とする。画像データ上の原点oは、衛星座標系において、焦点距離fを用いて、(−xo,−yo,−f)で表すことができるので、点Pの投影点pは、衛星座標系において、(xP−xo,yP−yo,−f)と表される。
【0039】
このとき、OとpとPは一直線上に存在するので、
【0040】
【数4】
Figure 0004362042
という関係式を得ることができる。
【0041】
この式を展開すると、以下の共線条件式が得られる。
【0042】
【数5】
Figure 0004362042
【0043】
この式は、任意の地上の点Pについて成り立つが、GCPを対象物とした場合、(XP,YP,ZP)と、(xP,yP)は既知であり、更に、焦点距離fも既知であるため、センサ位置(XO,YO,ZO)及びセンサの撮像方向(ω、ψ、κ)並びに、(xo,yo)の関係が得られることになる。
【0044】
ところで、QuickBird衛星などのセンサ位置(XO,YO,ZO)及びセンサの撮像方向(ω、ψ、κ)(これらをまとめて評定要素と称する)は、上述の画像サポートデータとして、ある程度まで提供されている。例えば、QuickBird衛星の場合、20μsecごとの評定要素が提供されている。20μsecは、約200スキャンラインに対応するため、各スキャンラインの評定要素は、提供された評定要素から補間する必要がある。衛星の軌道は時間によって変化するが安定しているので、評定要素の変化は小さくまたスムーズである。各スキャンラインの評定要素は、以下のような3次の多項式を用いて表すことができる。
O(t)=a0+a1t+a2t2+a3t3
O(t)=b0+b1t+b2t2+b3t3
O(t)=c0+c1t+c2t2+c3t3
ω(t)=d0+d1t+d2t2+d3t3
ψ(t)=e0+e1t+e2t2+e3t3
κ(t)=f0+f1t+f2t2+f3t3
【0045】
ここでa0、a1、a2、a3などの全ての係数は、画像サポートデータとして提供される評定要素から解析的に算出できる。また、点Pの画像pを取得した時刻tも画像サポートデータから導くことができる。これにより、先の共線条件式の右辺が一意に定まり、1つのGCPのデータから、(xo,yo)が求まることになる。上述したように、上記共線条件式は地表面上の任意の点について成り立つので、ステップS301で入力した衛星画像データにおいて、対象物の画像の座標(x,y)が分かれば、経度Xと緯度Yと標高Zの関係を示す一次関係式が2つ求まることになる。
【0046】
なお、複数のGCPについて、上述の共線条件式を適用した場合、評定要素や、GCPの計測に含まれる誤差により、右辺と左辺がわずかではあるが一致していない場合がある。その場合、両辺の残差を0に近づけるように逐次緩和法を用いて各係数を調整することで、係数の精度を上げることができる。
【0047】
次に、ステップS305において、タイポイントの設定及びステレオマッチングを行う。タイポイントとは、複数の衛星画像データにおいて同一の地上の対象物(交差点、特徴的な建造物など)を表した対応点である。ステレオマッチングとは、2つの衛星画像データにおいて、タイポイントの座標比較を行う処理である。
【0048】
タイポイントは、2枚の画像を見比べることによりオペレータが設定してもよいが、基本的には画像処理プログラムにより自動的に求められる。2枚の画像データからそれぞれ小さな窓領域(例えば7×7ピクセル程度)を抽出し、最も類似度の高い領域同士を探しだし、タイポイントとして定義することが可能である。このようにタイポイントを設定することにより、2つの画像データを対応付けることができる。
【0049】
ステレオマッチングにより2つの画像データにおける同じタイポイントの座標が導き出されると、その位置のずれから標高を算出することができる。2つの衛星画像により、同一地域について、取得したステレオ画像間では、対応する地表物の位置は、基準標高からの差の分だけ位置ずれ(視差)を生じている。この位置ずれを計測することにより、逆に基準標高からの差、すなわち標高を求めることができる。
【0050】
図8を用いて、複数の衛星画像を用いて標高データを導き出す方法について詳しく説明する。図8は、異なる位置のセンサO1,O2から同一の対象物(タイポイント)Aを撮像したときの衛星画像上の点a1,a2とタイポイントの経度XA、緯度YA、標高ZAの関係を示す図である。
【0051】
センサO1の位置を地上座標系で(XO1,YO1,ZO1)とし、センサO2の位置を地上座標系で(XO2,YO2,ZO2)とする。センサO1で撮像した画像平面801上のタイポイントa1の座標を(xa1,ya1)とし、センサO2で撮像した画像平面802上の座標をタイポイントa2の座標を(xa2,ya2)とすると、共線条件式として以下の式を得ることができる。
【0052】
【数6】
Figure 0004362042
【0053】
つまり、タイポイント1点に対して4つの方程式が得られる。上述したように、画像サポートデータより、m11〜m33,m'11〜m'33,(XO1,YO1,ZO1),(XO2,YO2,ZO2)の値を導き出すことができ、GCPについて得られる値を代入すれば、センサ位置における(xo1,yo1),(xo2,yo2)を導き出すことができるため、未知数の個数は、地上座標系でのタイポイントの座標(XA,YA,ZA)の3個のみとなる。このため、1の冗長性を有しながら、これらの連立方程式の解として、各タイポイントの経度X、緯度Y及び標高Zが求まる。ステップS305において、検索された全てのタイポイントについて、緯度、経度及び標高を求めると、ステップS306に進む。
【0054】
ステップS306では、最小二乗法などの逐次近似法を用いて、複数のタイポイント及びGCPの座標から、画像データ上の全ピクセルのデジタル標高データを求める。このとき、平均二乗誤差も求められるので、求められた標高値の精度評価を同時に行うことができる。このデジタル標高データを用いて、洪水時の水深などが算出される。
【0055】
次に、ステップS307において、ステップS306で抽出した正確なデジタル標高データを用いて、衛星画像データに対しオルソ幾何変換を施す。オルソ幾何変換とは、中心投影画像を平行投影画像に変換する処理である。このオルソ幾何変換を施された画像データが洪水ハザードマップ生成の背景画像となる。
【0056】
なお、ここでは、QuickBird衛星からのリモートセンシングについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、軌道データなどが公表されておりその画像データからデジタル標高データを抽出可能なあらゆる衛星を用いることができる。ただし、IKONOS衛星などは、その軌道データが詳しく公開されていないため、デジタル標高データの抽出は不可能である。
【0057】
以上説明したように、衛星画像データからデジタル標高データを抽出すれば、水平方向の空間分解能が約60cmのデジタル標高データを用いて水害シミュレーションを行うことができる。したがって、洪水の氾濫を解析するために必須の堤防位置や、氾濫した水がどのように流れて溜まるかなどを非常に高い精度で求めることができ、ひいては住民の避難経路をより正確なものとすることができる。また、従来の空間分解能では到底不可能であった都市部の内水氾濫の詳細なシミュレーションが可能となり、水害による被害を最小限に抑えることが可能となる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、容易かつ正確に様々な水害をシミュレーションすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る水害シミュレーションシステムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る洪水ハザードマップ作成処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係るデジタル標高データ抽出処理を示すフローチャートである。
【図4】衛星によるリモートセンシングについて説明する図である。
【図5】異なる位置にあるセンサからの複数画像の撮像について説明する図である。
【図6】入力した画像データに対する座標の割り当てを説明する図である。
【図7】空中三角測量について説明する図である。
【図8】ステレオペア画像の撮像について説明する図である。

Claims (2)

  1. 所定の地域において水害が起こった場合の浸水状況を表わす洪水ハザードマップを生成するための洪水ハザードマップ生成方法であって、
    異なる位置にある衛星のセンサ、又は、一つの衛星の異なるセンサから前記所定の地域をリモートセンシングすることにより得られた第1及び第2デジタル画像データと、それらの画像データを得た衛星センサ位置、衛星センサの撮影方向及び衛星センサの焦点距離を入力する入力工程と、
    前記第1及び第2デジタル画像データのそれぞれについて、衛星センサ位置Oと地表面の既知の点Pと、点Pを撮影したデジタル画像上の投影点pが一直線上に存在することを用いて、前記衛星センサ位置、前記衛星センサの撮影方向及び前記衛星センサの焦点距離から、前記第1及び第2デジタル画像データにおける座標と、その座標に表示されている対象物の地表面上での経度、緯度及び標高との関係を示す一次関係式を2つ求める工程と、
    前記第1及び第2デジタル画像データに表示されている同じタイポイントの座標を導き出し、それぞれについて前記一次関係式を2つずつ求めることによって、これら4つの連立方程式の解として、各タイポイントの経度、緯度及び標高を求める工程と、
    複数のタイポイントの経度、緯度及び標高から、逐次近似法を用いて前記所定の地域に含まれる各地点の標高を表わすデジタル標高データを求める工程と、
    前記デジタル標高データと水害の起点位置データと流量データとを用いて、洪水時の各地点の水深データを算出する算出工程と、
    前記デジタル標高データを用いて、前記第1または第2デジタル画像データに対しオルソ幾何変換を施して洪水ハザードマップの背景画像を作成し表示する工程と、
    前記背景画像の各地点に対して、前記算出工程で算出した水深データを表示する工程と、
    を含むことを特徴とする洪水ハザードマップ生成方法。
  2. 所定の地域において水害が起こった場合の浸水状況を表わす洪水ハザードマップを生成するためのデータ生成システムであって、
    異なる位置にある衛星のセンサ、又は、一つの衛星の異なるセンサから所定の地域をリモートセンシングすることにより得られた第1及び第2デジタル画像データと、それらの画像データを得た衛星センサ位置、衛星センサの撮影方向及び衛星センサの焦点距離とを入力する入力手段と、
    前記第1及び第2デジタル画像データのそれぞれについて、衛星センサ位置Oと地表面の点Pと、点Pを撮影したデジタル画像上の投影点pが一直線上に存在することを用いて、前記衛星センサ位置、前記衛星センサの撮影方向及び前記衛星センサの焦点距離から、前記第1、第2デジタル画像データにおける座標と、その座標に表示されている対象物の地表面上での経度、緯度及び標高との関係を示す一次関係式を2つ求める手段と、
    前記第1、第2デジタル画像データに表示された複数のタイポイントを指定し、各タイポイントの前記第1、第2デジタル画像データにおける座標を用いて、前記一次関係式を2つずつ求めることによって、合わせて4つの連立方程式の解として、前記複数のタイポイントの経度、緯度及び標高を求める手段と、
    前記複数のタイポイントの経度、緯度及び標高から、逐次近似法を用いて前記所定の地域に含まれる各地点の標高を表わすデジタル標高データを算出する手段と、
    前記デジタル標高データと水害の起点位置データと流量データとを用いて、洪水時の各地点の水深データを算出する算出手段と、
    前記デジタル標高データを用いて、前記第1または第2デジタル画像データに対しオルソ幾何変換を施して洪水ハザードマップの背景画像を作成し表示する手段と、
    前記背景画像の各地点に対して、前記算出手段で算出した水深データを表示する手段と、
    を含むことを特徴とする洪水ハザードマップ生成システム。
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