JP4361150B2 - アルキルグリコシドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルキルグリコシドを効率的且つ経済的に水性糖から製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルキルグリコシドは低刺激性界面活性剤であり、非イオン界面活性剤であるにもかかわらず、それ自身安定な泡を生成するだけでなく、他の陰イオン界面活性剤に対して泡安定剤として作用することが知られている。
【0003】
アルキルグリコシドの製造方法の一つに、糖と炭素数8以上の高級アルコ−ルを酸触媒下で直接反応させる方法があるが、糖と水分と酸触媒が共存すると、糖同士の高縮合物の副生物の生成(以下「多糖化」という)による収率の低下や色相の劣化を招き、好ましくない。そこで糖源としては、結晶水等の水分を含まない無水糖を用いるのが一般的であった。
【0004】
しかし、無水糖や固体糖は、澱粉を酵素で糖化し、精製して得られる水性糖を、更に結晶化等の操作をして得られるため、糖源として水性糖を用いる方が経済的である。
【0005】
ところが、水性糖を使用する場合には、先に述べた水分の共存による多糖化の問題があることから、酸触媒を添加する前に脱水しなければならない。水性糖の脱水に関して、例えば特表平7−504420号は、高級アルコ−ルと水性糖の混合物を水分が0.05〜0.3%になるまで乾燥機で脱水した後、酸触媒の存在下反応する方法を、又特表平8−502739号は、水性糖そのものを水分3重量%未満に噴霧乾燥した後、酸触媒を使用し反応する方法を開示している。
【0006】
一方、水性糖の乾燥を伴わない方法として、例えば特表平7−505403号は酸触媒として乳濁する性質を持つ陰イオン界面活性剤を使用する方法を、又特開平8−176180号は高級アルコールと未反応の糖(多糖)を濾過除去する方法を開示しているが、これら水性糖の乾燥を伴わない方法では多糖化により、反応の完結が望めない。また、非イオン界面活性剤であるアルキルグリコシド中に陰イオン界面活性剤を含有するのは好ましくない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記した水性糖を脱水する先行技術は、何れも脱水の目標値として水分量を挙げている。しかしながら本発明者らの得た知見によれば、単に水分量が目標範囲内となるまで脱水を行うのみでは、アルキルグリコシドを直接法によって効率的に製造することはできない。即ち、水性糖を上記の先行技術等で脱水するだけでは、一部の糖が直径10mm程度までの粗大な粒子(以下「粗大糖粒子」という)になる場合があるからである。粗大糖粒子は高級アルコ−ルへの溶解度が極端に低く、そのため酸触媒を添加した後も高級アルコ−ルとの反応に寄与せずに、反応混合物中に残留するため、アルキルグリコシドの収率を低下させるので、経済的でない。
【0008】
又、粗大糖粒子は、反応工程に続くアルキルグリコシド回収工程(例えば、反応混合物から未反応高級アルコ−ルを留去する工程)などにおいて、配管やポンプ等の輸送機器や、プロセスを構成するその他の装置内で閉塞、堆積を生ずるといったトラブルの原因になる。こうしたトラブルへの対処としては、反応工程実施後に濾過操作を行って粗大糖粒子を除去することも一法であるが、濾過操作の実施は装置コストや運転コストを要する上、除去された粗大粒子と共にアルキルグリコシド及び高級アルコ−ルが一部除去されるため収率の低下が起こり、経済的でない。
【0009】
そこで本発明の課題は、上記の不具合を克服し、効率的で経済的なアルキルグリコシドの製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高級アルコ−ルと水性糖とを、水性糖の糖の融点未満の温度で混合し、脱水して析出する糖粒子中の水分を3.0重量%以下にする工程1と、工程1の後に、酸触媒の存在下、高級アルコ−ルと糖粒子とを反応させる工程2とを有するアルキルグリコシドの製造方法であって、
工程1において、高級アルコ−ルと水性糖の総量に対し、非イオン界面活性剤を0.1〜10重量%使用し、且つ工程1で析出する糖粒子の平均粒径を0.1mm以下に制御することを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
工程1で用いられる水性糖は、水分を10〜50重量%含んだ糖が好ましく、糖源としては単糖類を50重量%以上含む糖が好ましい。水性糖として、シロップ、液状ぶどう糖を用いてもよい。単糖類としては、例えば、アロ−ス、アルト−ス、グルコ−ス、マンノ−ス、グロ−ス、イド−ス、ガラクト−ス、タロ−ス、リボ−ス、アラビノ−ス、キシロ−ス、リキソ−ス等のアルド−ス類等が挙げられる。このうち望ましいものは、炭素数6以下の還元糖であり、グルコ−スが特に望ましい。
【0012】
工程1で用いられる高級アルコ−ルとしては、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和アルコ−ル、或いはこれらのアルキレンオキサイド付加物が好ましく用いられる。具体的には、オクチルアルコ−ル、ノニルアルコ−ル、デシルアルコ−ル、ラウリルアルコ−ル、トリデシルアルコ−ル、ミリスチルアルコ−ル、ペンタデシルアルコ−ル、セチルアルコ−ル、ヘプタデシルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、エイコシルアルコ−ル、オレイルアルコ−ル、或いはこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0013】
工程1において、水性糖と高級アルコ−ルの仕込み比は、反応効率や経済性の観点から、水性糖1モルに対して高級アルコ−ル2〜10倍モルが好ましい。
【0014】
工程1において、水性糖は、1〜10時間で連続的に供給することが、水分の蒸発による原料の系外への損失、糖粒子の飛散防止、経済性の観点から、好ましい。
【0015】
工程1では、水性糖と高級アルコ−ルの混合物を減圧下で脱水することが好ましい。その際の圧力は、水分の蒸発による原料の系外への損失や糖粒子の飛散防止の観点で1.3kPa以上が、脱水が十分できるという観点で40kPa以下が好ましく、より好ましくは2.7〜26.7kPaである。脱水を効率的に行うのに窒素ガスやヘリウムガスを混合物中に吹き込むのが好ましい。
【0016】
工程1では、高級アルコ−ルと水性糖とを糖の融点未満の温度で混合し、脱水して析出する糖粒子のを3.0重量%以下にする。混合温度が糖の融点以上で糖粒子が融解して液状になった方が、融解していない糖粒子からより脱水が容易であると予想していた。しかし、融解した糖同士が高級アルコ−ル中で合一し、粉砕の困難な粗大糖粒子を生成したり、場合によってはアメ状物を生成するので、糖の融点以上は使用が困難である。融点の異なる成分を含む場合は、最低の融点を用いるのが好ましい。融点は示差走査熱量計(DSC)で測定する。また、混合時の温度は十分な脱水が行える点から20℃以上が好ましく、反応圧力での水の沸点に近い方が脱水が効率的なので好ましい。単糖がグルコースの場合、脱水された糖粒子にグルコ−スの無水物及び1水和物が含まれるが、1水和物(α型)の融点は無水物より低く、82〜85℃なので、脱水は80℃以下で行うのが好ましく、脱水効率から60℃以上で行うのが好ましい。
【0017】
工程1では、糖粒子中の水分(以下「糖水分」という)が3.0重量%以下にして多糖化を抑制し、収率を向上させる。好ましくは0.5重量%以下にする。糖水分は、上記反応温度や反応圧力を制御することで調整できる。糖水分は、高級アルコ−ルと糖粒子の混合物から分離した糖粒子を、FM溶媒(グルコース測定用、商品名「脱水溶剤FM」三菱化学(株))に25℃で溶解して、カ−ルフィッシャ−滴定法で分析することで測定できる。
【0018】
本発明では、この工程1において、糖粒子を系中に均一分散させるために、分散剤として非イオン界面活性剤を使用する。非イオン界面活性剤としては、アルキルグリコシド、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、アルキルグリコシドが好ましい。アルキルグリコシドはニ−ト状のものでも、水溶液やアルコール溶液等の溶液状のものでもよいが、高級アルコ−ル溶液が好ましい。この高級アルコールは、水性糖と混合した高級アルコ−ルと同一のものが好ましい。特に、製造するアルキルグリコシドと分散剤としてのアルキルグリコシドは、原料の糖の構造や高級アルコールが同じものだと不純物がないので好ましい。非イオン界面活性剤の使用量は、水性糖と該水性糖と混合する高級アルコ−ルとの総量に対し、0.1〜10重量%であり、0.1重量%以上で良好な分散効果があり、10重量%以下が経済的である。また、アルキルグリコシドを用いる場合の使用量は0.5〜5重量%が好ましい。
【0019】
また、本発明では、工程1において、脱水終了後の糖粒子の平均粒径を0.1mm以下に制御する。平均粒径は15〜30μmが好ましい。平均粒径の測定法は実施例に示した。また、粒径200μm以上の粒子が存在しないのが好ましい。平均粒径の制御は粉砕機で行うのが好ましい。その際、反応槽と粉砕機で循環系を構成し、反応槽から取り出した内容物を粉砕するのが粉砕効率の観点から好ましい。粉砕機はインラインミキサ−、ホモミキサ−、マイルダ−、超音波ホモジナイザ−等、構造上その動力を圧縮、衝撃、せん断、摩擦、切断等の力として伝えることができる装置が使用できる。平均粒径は5μm以上に制御するのが非イオン界面活性剤の量が過多にならず、粉砕機の負荷が少なくなり好ましい。
【0020】
工程1に続いて、酸触媒の存在下、高級アルコ−ルと脱水された糖粒子とを反応させる工程2を行う。
【0021】
工程2での反応温度は、アルキルグリコシドの色相や反応収率の点から、90〜140℃が好ましく、特に好ましくは90〜120℃である。また、工程2での反応圧力は、収率や反応速度の点から、0.67〜13.3kPaが好ましく、特に好ましくは2.67〜8.0kPaである。
【0022】
工程2において、糖粒子と高級アルコ−ルとの反応に用いられる酸触媒としては、パラトルエンスルホン酸、硫酸、リン酸、強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。酸触媒の使用量は、反応速度やアルキルグリコシドの色相の点から、糖粒子1モル当たり0.001〜0.10モルが好ましい。
【0023】
工程2の反応終了後、酸触媒を中和する工程を行う。酸触媒はアルカリで中和され、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ソ−ダ等が挙げられる。
【0024】
【実施例】
製造例(分散剤の調製)
デシルアルコ−ル、ラウリルアルコ−ル及びミリスチルアルコ−ルの混合アルコ−ル(重量比60:30:10)2000g(11.61モル)と無水グルコ−ス426.9g(2.37モル)を3リットルの4つ口フラスコに仕込んだ。攪拌を開始した後、4.67kPaに減圧し、昇温を開始した。効率よく脱水するために、混合物中に窒素を20mL/分で吹き込んだ。105℃に達してから酸触媒としてパラトルエンスルホン酸一水塩1.6gを加えて反応を開始した。反応を開始してから8.5時間後に大気圧に戻し、NaOH0.38gで酸触媒を中和し、反応を終了した。反応率は98.5%に達した。この結果から本反応品には約30%のアルキルグリコシドが含まれていることが算出される。この反応終了品を糖粒子の分散剤(以下AG分散剤という)として使用した。
【0025】
実施例1
〔工程1〕
粉砕機(エバラ(株)マイルダ−MON303V−B、GMF刃、7500r/min)を備えた10リットルの4つ口フラスコに、デシルアルコ−ル、ラウリルアルコ−ル及びミリスチルアルコ−ルの混合アルコ−ル(重量比60:30:10)7000g(40.63モル)とAG分散剤435g(アルキルグリコシドとして130g)を仕込んだ。攪拌及び粉砕機を運転し循環を開始した後、14.7kPaに減圧後、昇温して糖の脱水工程を開始した。効率よく脱水するために、混合物中に窒素を50mL/分で吹き込んだ。昇温を開始してから1時間後、混合物の温度が80℃に達した時、水性糖(サンエイ糖化(株)品名FL−65:水分35%)2300g(8.30モル)を5時間かけて連続的に添加した。この間、温度80℃、圧力1.3kPaに保った。
【0026】
添加終了後、30分間保持して脱水を終了後、混合物の一部をサンプリングした。容器壁面に糖粒子の付着はなく糖粒子が分散していた。サンプルの一部をガラス濾過器(孔径5〜10μm)を用いて固体と液体に濾別し、固体をヘキサンで洗浄、乾燥し、糖水分を測定したところ0.30重量%であった。また、サンプルの一部糖について平均粒径を測定したところ、平均粒径は19μmで200μm以上の粒子は存在しなかった。
【0027】
〔工程2〕
105℃まで昇温し、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸一水塩5.5gを加えて4.67kPaで反応を開始した。触媒を添加してから7時間後に大気圧に戻し、NaOH1.25gで酸触媒を中和し、反応を終了し、アルキルグリコシドを得た。反応率は99.0%であった。ここで、「反応率」とは糖(水性糖を単糖に換算)の消費量基準の反応終了時の反応率を言う(以下同様)。
【0028】
なお、上記の平均粒径と反応率は以下の方法で測定した。
▲1▼平均粒径
レーザー式粒径分布測定器(LA−5000、堀場(株)製)を用いて測定した。マスター溶液部には、試料液の溶媒を入れるので、本実施例では、デシルアルコ−ル、ラウリルアルコ−ル及びミリスチルアルコ−ルの混合アルコ−ル(重量比60:30:10)150mLを入れ、ブランク測定をし、液が濁っていないことを確認する。ディスプレイで表示される適正濃度範囲になるまでマスター溶液部にサンプルを滴下してからサンプル測定をする。
【0029】
▲2▼反応率
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により糖のピーク面積を下記の条件で測定し、下記の(1)式から単糖の比率Mを求める。
【0030】
【数1】
【0031】
カラム:G2000H×L 2本 東ソー(株)製
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.7mL/min
検出:示差屈折検出器
サンプル濃度:3重量%
原料の水性糖を乾燥後、アセチル化し、(1)式からMを求めM1 とする。次いで、反応終了物をガラス濾過器で濾別した濾過残渣をヘキサンで洗浄後アセチル化し、(1)式からMを求めM2 とする。M1 とM2 とから下記の(2)式により、反応率を求める。
【0032】
【数2】
【0033】
実施例2
工程1での脱水時の圧力を6.7kPaとした以外は、実施例1と同様にしてアルキルグリコシドを得た。脱水後の糖水分は2.4%、平均粒径は20μmで200μm以上の粒子は存在しなかった。また、反応率は98.8%であった。
【0034】
比較例1
AG1分散剤を使用しない以外は実施例2と同様にして脱水を行った。しかし、糖粒子が分散せず、多くが容器壁面で付着生長し、均一分散液でサンプリングできなかった。
【0035】
比較例2
粉砕機を使用しない以外は実施例2と同様にして脱水を行った。脱水後の糖水分は3.0%、53〜3350μmの標準篩を用いて求めた粒度分布から計算した平均粒径は2.0mmであった。その後同様に反応を行った。反応率は50%であった。
【0036】
比較例3
水性糖の添加時間を0.5時間にした以外は実施例2と同様にして脱水を行った。しかし糖粒子が分散せず、多くが容器壁面で付着生長するとともに、糖粒子が飛散し、均一分散液でサンプリングできなかった。
【0037】
比較例4
脱水時の脱水温度を105℃にした以外は実施例2と同様にして脱水を行った。水性糖添加中は液状で分散し、攪拌を停止したら高級アルコ−ルと液状糖の2層に分離し、糖粒子は生成しなかった。脱水終了時には水アメ状であり、容器壁、配管等へ付着により攪拌循環が不能になった。
【0038】
表1に上記実施例及び比較例の工程1での反応条件等を示した。
【0039】
【表1】
【0040】
比較例1、3は、糖粒子が分散せず容器壁面の付着が甚だしく、均一分散液でサンプリングできなかったため、また、比較例4は、糖粒子が生成せず水アメ状となったため、糖水分と平均粒径の測定及び糖粒子と高級アルコールの反応(工程2以降)は行わなかった。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、水性糖を原料にして経済的に収率良くアルキルグリコシドを製造することができる。
Claims (1)
- 高級アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加物と水性糖とを、水性糖の糖の融点未満の温度で混合し、80℃以下で1.3〜26.7kPaで脱水して析出する糖粒子中の水分を3.0重量%以下にする工程1と、工程1の後に、酸触媒の存在下、高級アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加物と糖粒子とを反応させる工程2とを有するアルキルグリコシドの製造方法であって、
工程1において、アルキルグリコシドから選ばれる非イオン界面活性剤の高級アルコール溶液を、前記非イオン界面活性剤の量が、高級アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加物と水性糖の総量に対し、0.1〜10重量%となるように使用し、且つ水性糖を1〜10時間で連続的に供給し、工程1で析出する糖粒子の平均粒径を粉砕機を用いて15〜30μmに制御することを特徴とするアルキルグリコシドの製造方法。
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