JP4360336B2 - リン銅ろうクラッド材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、ラジェータなどの熱交換器の構成部材に用いられるリン銅ろうクラッド材の製造方法に関するものである。
自動車などのエンジンには、冷却手段としてのラジェータが設けられている。図4に示すように、ラジェータ40は、波形に成形されたフィン部材41の両側(図4中では上下側)を平板部材42a,42bで挟んで設けたものを単位ユニットとし、この単位ユニットを多段に積層して構成される。これらのフィン部材41及び各平板部材42(42a,42b)を媒介として、エンジン冷却水と外気(又はオイル)の熱交換を行っている。
従来、フィン部材41及び各平板部材42などのラジェータ構成部材として、熱伝導率が高く、加工性に富んだCu又はCu合金が用いられてきた。また、ラジェータの組立の際は、板状(薄板状)のろう材を、フィン部材41と各平板部材42の間に配置、介在させた状態でろう付け処理を行い、フィン部材41と各平板部材42を一体にろう付け接合していた。このろう材としては、リン銅ろうが用いられてきた(例えば、JIS規格のBCuP-1(Cu-4.8〜5.3質量%P)やBCuP-2(Cu-6.8〜7.5質量%P))。一般に、リン銅ろう材は加工性が悪いため、主として線材、棒材、又は粉末材の状態で供給され、使用されている。
このろう付け方法を用いると、ラジェータの組立工程が煩雑になり、工程数が多くなるという問題があった。このため、最近では、Cu又はCuを主成分とするCu合金からなる基板の片面(或いは両面)に、予めリン銅ろう層を設けたリン銅ろうクラッド材の使用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2004−114158号公報
ところで、リン銅ろう材のP含有量が多くなると、ろう付け温度が下がることから、基板や被ろう付け部材(他のラジェータ用構成部材)がCuで構成される場合、ろう付け処理時の熱影響によって基板や被ろう付け部材の強度が低下するのを抑えることができる。しかしながら、P含有量が多くなりすぎるとリン銅ろう材が脆くなることから、冷間加工性が著しく悪化するという問題があった。
一方、リン銅ろう材のP含有量が少なくなると、冷間加工性が向上するため、板材への加工やクラッド材の製造が容易となり、工業的に有効である。しかしながら、リン銅ろう材のP含有量が少なくなりすぎると、ろう付け温度が1000℃近くになることから、基板や被ろう付け部材の材質によっては、ラジェータがろう付け処理後に十分な強度を保持できなくなるおそれがあった。
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、ろう付け温度が低く、冷間加工性が良好なリン銅ろうクラッド材の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成すべく本発明に係るリン銅ろうクラッド材の製造方法は、基板の表面または両面にリン銅ろう板材をクラッドしてなるリン銅ろうクラッド材の製造方法において、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成される上記リン銅ろう板材に630〜720℃の温度で調質処理を施して、機械的伸びを15%以上に調整した後、そのリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される上記基板の表面または両面に重ね、その後、冷間圧延するものである。
また、本発明に係るリン銅ろうクラッド材の製造方法は、基板の表面または両面にリン銅ろう板材をクラッドしてなるリン銅ろうクラッド材の製造方法において、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成される上記リン銅ろう板材に630〜720℃の温度で調質処理を施し、機械的伸びを15%以上に調整した後、そのリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される上記基板の表面または両面に重ね、その後、冷間圧延して圧接材とし、その圧接材に熱処理を施した後、冷間圧延加工を施すことを特徴とするリン銅ろうクラッド材の製造方法上記圧接材に熱処理を施した後、冷間圧延加工を施すものである。
本発明によれば、ろう付け温度が低く、冷間加工性が良好なリン銅ろうクラッド材が得られるという優れた効果を発揮する。
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の好適一実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材の横断面図を図1に示す。
図1に示すように、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10は、無酸素銅で構成される基板11の表面(図1中では上面のみ)に、Pを3.3〜6.7質量%、好ましくは3.5〜6.5質量%の割合で含むCu合金で構成され、15%以上、好ましくは18〜35%の機械的伸びを有するリン銅ろう層12を一体に設けてなるものである。リン銅ろうクラッド材10の全体の板厚は1.0mm以下、好ましくは0.5mm以下とされる。また、リン銅ろう層の1層の厚さT1とクラッド材の全体の厚さT0の比(T1/T0)は5〜30%、好ましくは10〜30%、より好ましくは15〜25%とされる。ここで言う基板11の表面は、外部に露出する全ての面を示している。リン銅ろう層12を構成するCu合金は、微量の不可避不純物を含んでいてもよい。
ここで、P含有量を3.3〜6.7質量%と規定したのは、P含有量が3.3質量%未満だと、ろう材(リン銅ろう層12)のろう付け温度が1000℃近くまで上昇するためである。また、P含有量が6.7質量%を超えると、後述するリン銅ろう板材の圧延加工性が著しく悪化するためである。
リン銅ろう層12の機械的伸びを15%以上と規定したのは、伸びが15%未満だと、リン銅ろうクラッド材10の全体の板厚を1.0mm以下とするための冷間圧延加工を確実に行うことができないためである。機械的伸びは、リン銅ろうクラッド材10の合理的な製造(工業的に有用な製造)を考えた場合、具体的には後述する調質処理の処理時間を考えた場合、その上限が35%とされる。
リン銅ろうクラッド材10の全体の板厚を1.0mm以下と規定したのは、1.0mmを超えると、リン銅ろうクラッド材と被ろう付け部材をろう付け接合してなるろう付け製品(最終製品)の重量や容積などの制約により、適用が著しく困難となるためである。
T1/T0を5〜30%と規定したのは、T1/T0が5%未満だとろう材の量が少なすぎるため、十分にろう付け接合を行うことができなくなる。また、T1/T0が30%を超えると逆にろう材の量が過剰となるため、ろう付け接合部の周りにろう材が溢れてしまう。その結果、最終製品、例えばラジェータの機能を損なうおそれがある。
また、基板11を構成する無酸素銅としては、特に限定するものではなく、無酸素銅として慣用的に用いられているものが全て適用可能であるが、好ましくは、米国規格ASTM F68のClass1を満足する銅材(以下、Class1銅という)が挙げられる。
本実施の形態においては、基板11の片面(図1中では上面)のみにリン銅ろう層12を設けたリン銅ろうクラッド材10を用いて説明を行ったが、これに特に限定するものではない。例えば、図2にその変形例を示すように、基板11の両面(図2中では上下面)に、リン銅ろう層22a,22bを設けたリン銅ろうクラッド材20であってもよい。
次に、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材の製造方法、及びそのリン銅ろうクラッド材を用いたろう付け方法を説明する。
先ず、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金を用い、リン銅ろう板材が作製される。このリン銅ろう板材に630〜720℃、好ましくは650〜700℃の温度で調質処理を施すことで、リン銅ろう板材の機械的伸びが15%以上に調整される。
このリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される基板の表面に重ねた後、冷間圧延加工を行うことでリン銅ろう板材と基板が一体化され、圧接材が得られる。ここで、冷間圧延に先立って、両者の圧接面にそれぞれ圧接性を向上させるための前処理を施すことが好ましい。前処理としては、例えば、洗浄及びブラッシングなどの表面処理が挙げられる。
この圧接材に、熱処理、例えば650℃の温度で調質処理を施した後、全体の板厚が1.0mm以下となるように所定の加工度(圧延率)で冷間圧延加工を施すことで、リン銅ろうクラッド材10が得られる。冷間圧延加工として、例えば、60%以上という高い圧延率での加工が可能である。
このリン銅ろうクラッド材10と予め作製しておいた被ろう付け部材が、ろう付け接合を所望する箇所を互いに接触させた状態で配置される。その後、両者を、真空、還元性ガス、又は不活性ガスのいずれかの雰囲気に調整された殻体(例えば、圧力容器など)内に配置し、900℃以下、好ましくは800〜880℃の温度に保持してろう付け処理がなされる。
これによって、リン銅ろうクラッド材10と被ろう付け部材が、ろう付け接合部を介してろう付け接合され、ろう付け製品(例えば、自動車用ラジェータ)が得られる。
次に、本実施の形態の作用を説明する。
本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10においては、無酸素銅で構成される基板11の表面に、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成され、15%以上の機械的伸びを有するリン銅ろう層12を一体に設けている。
ここで、本来、リン銅ろうのP含有量を3.3〜6.7質量%とすると、ろう付け温度は低くすることができるものの、冷間加工性があまり良好でなくなる。ところが、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成されるリン銅ろう材に630〜720℃の温度で適宜調質処理を施すことで、リン銅ろう材の機械的伸びを15%以上に調整することができ、冷間加工性を向上させることができる。これによって、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10は、従来のリン銅ろうクラッド材では困難であった高圧延率の冷間圧延加工が可能となる。
また、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10は、比較的低い温度(例えば、900℃以下)でろう付け処理が可能であるというリン銅ろうの特長は損なっていない。より低い温度でろう付けが可能になるということは、基板である無酸素銅の熱影響による強度低下を抑制できるため、ろう付け製品の強度向上を図ることができる。よって、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10を用いることで、薄肉、軽量のろう付け製品を、安価に得ることができる。
また、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10においては、基板11の構成材として、リン脱酸銅やタフピッチ銅と比べてより高圧延率の冷間圧延加工が可能な無酸素銅を用いていることから、リン銅ろうクラッド材10をより薄くまで圧延することができる。
さらに、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10におけるリン銅ろう層12のP含有量を、5.5〜6.5質量%に限定することで、リン銅ろう層12のろう付け温度が特に低くなり、より低い温度(例えば、800〜850℃)でのろう付け処理が可能となる。また、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10におけるリン銅ろう層12のP含有量を、3.5〜5.5質量%に限定することで、リン銅ろうクラッド材10の冷間加工性が特に良好となり、より高い圧延率(例えば、70%以上)での冷間圧延加工が可能となる。
本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10は、その適用を自動車用ラジェータだけに限定するものではなく、その他にも、産業機器、電子機器などの加熱冷却装置に供される各種熱交換器にも適用可能である。
一方、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10のろう付けは、真空、還元性ガス、又は不活性ガスのいずれかの雰囲気下で行われる。この時、リン銅ろうクラッド材10における基板11の構成材として、高温、真空下でのガス放出が極めて少ない無酸素銅、例えばClass1銅を用いている。このため、ろう付け処理時におけるリン銅ろう層12のろう付け性(例えば、湯流れ性)をほとんど全く妨げるおそれはない。このため、リン銅ろうクラッド材10を用いたろう付け製品のろう付け接合部は、接合強度が高く、信頼性に優れたものとなる。つまり、本実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材10においては、基板11の構成材を無酸素銅とすることで、基板の構成材がリン脱酸銅やタフピッチ銅のリン銅ろうクラッド材と比較して、ろう付け接合性をより向上させることができる。
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
P含有量(質量%)が異なる7種類のリン銅ろう板材(3質量%、3.5質量%、4質量%、5質量%、6質量%、6.5質量%、7質量%)を作製した(試料1〜7)。各試料それぞれについて複種類の温度で調質処理を施し、機械的伸びを10〜25%に調整した。
次に、各試料1〜7を用いて、基板である無酸素銅と貼り合わせ、それぞれ加工度60%の冷間圧延加工を施し、加工性の評価を行った。加工性は、被圧接材の幅方向両端部(圧接方向と直交する方向の周縁部)におけるクラック(所謂、耳割れ)発生の有無によって評価を行った。
リン銅ろう板材におけるP含有量(質量%)及び伸び(%)が冷間圧延加工に及ぼす影響を図3を用いて説明する。図3中の、○印はクラック発生なしを、△印はクラック発生を示している。
図3に示すように、リン銅ろう板材の伸びが少なくとも15%あれば、クラックが発生しなくなることがわかった。また、リン銅ろう板材のP含有が多くなるほど、クラックが発生し易くなる傾向にあることがわかった。
一方、P含有量が3質量%のリン銅ろう板材(試料1)は、ろう付け温度が1000℃近くになってしまい、ろう付け性が良好でないことがわかった。また、P含有量が7質量%のリン銅ろう板材(試料7)は、リン銅ろう板材の伸びが15%以上であってもクラックが発生した。
以上より、リン銅ろう板材のP含有を3.3〜6.7質量%、かつ、伸びを15%以上とすることで、冷間圧延加工時にクラックが発生することはなく、加工性が良好となることが確認できた。
(実施例2-1)
無酸素銅で構成される基板の片面に、Pを6.0質量%の割合で含むCu合金で構成され、18%の機械的伸びを有するリン銅ろう層を一体に設け、図1に示した構造のリン銅ろうクラッド材を作製した。基板の厚さは0.12mm、リン銅ろう層の厚さは0.03mm、T1/T0は20%とした。
(実施例2-2)
無酸素銅で構成される基板の両面に、Pを6.0質量%の割合で含むCu合金で構成され、18%の機械的伸びを有するリン銅ろう層をそれぞれ一体に設け、図2に示した構造のリン銅ろうクラッド材を作製した。基板の厚さは0.32mm、各リン銅ろう層の厚さは0.04mm、T1/T0は10%とした。
実施例2-1,2-2の各リン銅ろうクラッド材をそれぞれ図4に示した平板部材とし、フィン部材と平板部材のろう付けをそれぞれ真空中で行い、自動車用ラジェータを作製した。
その結果、実施例2-1,2-2の各リン銅ろうクラッド材は840℃という比較的低い温度で、何の問題もなく、安定してろう付けを行うことができた。また、得られた自動車用ラジェータのろう付け接合部は、十分に良好な接合強度を有し、かつ、信頼性に優れていた。
本発明の好適一実施の形態に係るリン銅ろうクラッド材の横断面図である。 図1の一変形例である。 リン銅ろう板材におけるP含有量及び伸びが冷間圧接加工に及ぼす影響を説 明するための図である。 自動車用ラジェータの断面模式図である。
符号の説明
10 リン銅ろうクラッド材
11 基板
12 リン銅ろう層

Claims (3)

  1. 基板の表面にリン銅ろう板材をクラッドしてなるリン銅ろうクラッド材の製造方法において、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成される上記リン銅ろう板材に630〜720℃の温度で調質処理を施して、機械的伸びを15%以上に調整した後、そのリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される上記基板の表面に重ね、その後、冷間圧延することを特徴とするリン銅ろうクラッド材の製造方法。
  2. 基板の両面それぞれにリン銅ろう板材をクラッドしてなるリン銅ろうクラッド材の製造方法において、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成される上記リン銅ろう板材に630〜720℃の温度で調質処理を施し、機械的伸びを15%以上に調整した後、そのリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される上記基板の両面それぞれに重ね、その後、冷間圧延することを特徴とするリン銅ろうクラッド材の製造方法。
  3. 基板の表面または両面にリン銅ろう板材をクラッドしてなるリン銅ろうクラッド材の製造方法において、Pを3.3〜6.7質量%の割合で含むCu合金で構成される上記リン銅ろう板材に630〜720℃の温度で調質処理を施し、機械的伸びを15%以上に調整した後、そのリン銅ろう板材を無酸素銅で構成される上記基板の表面または両面に重ね、その後、冷間圧延して圧接材とし、その圧接材に熱処理を施した後、冷間圧延加工を施すことを特徴とするリン銅ろうクラッド材の製造方法。
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