以下に、本発明のエレクトロメカニカルスイッチおよびその製造方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明のエレクトロメカニカルスイッチの実施の形態の一例であるエレクトロメカニカルスイッチM1を示す模式的な平面図であり、図2はそのオフ時のA−A’線断面図であり、図3はそのオン時のA−A’線断面図である。これらの図において、1は基板、2は凹部、3は凹部2の側壁、4は凹部2の底面、5は下部電極、6は下部電極5に接続された信号線路、7は上部可動電極、8は駆動用電極、9は凹部形成用材料である。
本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、図1および図2に示すように、基板1上に対向する側壁3・3がそれぞれ斜面である凹部2が形成されており、この凹部2の底面4に下部電極5が配設され、凹部2の対向する側壁3・3間に中央部が下部電極5に接触するように変形可能な上部可動電極7が掛け渡され、凹部2の側壁3に上部可動電極7の中央部の両側にそれぞれ対向させて駆動用電極8が配設されていることを特徴とするものである。このような本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、オフ時には、図2に示すように、上部可動電極7は凹部2の側壁3・3の上端間に例えば水平に掛け渡されており、凹部2の底面4に配置され、下部電極5上に一体的に配置されて下部電極5に接続された信号線路6とは電気的に絶縁された状態で、下部電極5および駆動用電極8と対向している。
そして、オン時には、図3に示すように、上部可動電極7と下部電極5との間に電圧を印加することによって上部可動電極7は中央部が静電気的に下部電極5に引き付けられて凹部2の底面4側に向かって変形して移動し、上部可動電極7は下部電極5に一体的に配置されて接続された信号線路6と接触して下部電極5に電気的に接続される。このとき、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1によれば、上部可動電極7が掛け渡された凹部2の斜面となっている側壁3・3には、上部可動電極7と対向するように駆動用電極8が配設されていることから、この駆動用電極8と上部可動電極7との間にも駆動用電圧を印加することによって上部可動電極7の中央部の両側が静電気的に駆動用電極8に引き付けられ、これによって上部可動電極7の中央部が凹部2の底面4へ向かって変形するのに対して駆動力を与えて補助することができ、上部可動電極7の下部電極5へ向かう静電気的な力を強めて変形動作を高速化することができる。
また、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、基板1上に凹部形成用材料9を用いて、あるいは基板1の上面を加工することによって凹部2を形成し、この凹部2の底面4に下部電極5および信号線路6を、側壁3に駆動用電極8を配設し、この凹部2の側壁3の上端間に板状の上部可動電極7を掛け渡すことによって構成されているので、作製工程には大幅な変更や困難さを伴うことがなく、小型化・薄型化・軽量化にも有利なものである。従って、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1によれば、高速で動作させることが必要なMEMスイッチに好適なものとなり、高速大容量の情報伝送システム機器に対応できるものとなる。
MEMスイッチの最大の利点の一つに、良好なアイソレーション特性がある。この良好なアイソレーション特性を得るためには、下部電極5および信号線6と上部可動電極7との間隔を十分に確保する必要がある。一方、上部可動電極7と駆動用電極8との間隔はできるだけ小さいことが望まれる。これに対し、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1では、凹部2の底面4に下部電極5・信号線6を配設し、凹部3の対向する側壁3・3間に上部可動電極7を掛け渡し、凹部3の対向する側壁3・3をそれぞれ斜面として駆動用電極8を配置することによって、下部電極5・信号線6と上部可動電極7との間隔を十分に確保しつつ、上部可動電極7に対して駆動用電極8を斜めに、かつ近接させて配置することによって、良好なアイソレーション特性と駆動電圧の低電圧化とスイッチングの高速化とを実現している。
例えば図4(a)および(b)にそれぞれ平行電極モデルと傾斜電極モデルの原理図を示すように、(a)では幅がWで長さがl2−l1の可動電極(上側)および駆動用電極(下側)を間隔g(例えば2mm)で平行に配置しており、この場合に駆動電圧Vを印加したときに可動電極に作用する静電引力をF1とすると、
F1=ε0・W・V2・(l1−l2)/(2g)
となる。一方、(b)では幅がWで長さがl2−l1の可動電極(上側)および駆動用電極(下側)を最大間隔をg(例えば2mm)とし、その反対側にl1の長さ分延長した位置が支点となるように斜めに配置しており、この場合に駆動電圧Vを印加したときに可動電極に作用する静電引力をF2とすると、
F2=ε0・W・V2・(1/l1−1/l2)/(2tan2θ)
となる。ここでl1=20μm,l2=200μm,tanθ=1/100とすると、F2/F1=10の値が得られる。すなわち、この場合には、可動電極と駆動用電極とを斜めに配置することによって、平行に配置するのに対して10倍の駆動力を得ることができることとなり、従って、低い駆動電圧で高速のスイッチングが行なえるようになることが分かる。
本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1において、基板1は、電気信号を伝送する際の損失が小さい方がよいため、シリコン,ガラス,アルミナ,ジルコニア等の絶縁体材料から成る絶縁基板が望ましい。また、基板1の寸法は、MEMスイッチを構成する場合であれば、長さが1.5mm以下、幅が1mm以下、厚みが1mm以下で、スイッチを形成するための領域が得られる寸法であることが好ましい。
基板1の上面に形成された凹部2は、例えば図1に示すように、基板1上に基板1と同様の絶縁材料から成る凹部形成用材料9を接合することによって形成してもよく、基板1の上面を加工することによって形成してもよい。この凹部2の側壁3は、その上端間に上部可動電極7が掛け渡される対向する側壁3・3がそれぞれ斜面とされており、その斜面上に駆動用電極8が配設される。
この凹部2の側壁3・3の斜面は、斜面の最大高さは、上部可動電極7と下部電極5との間の間隔を規定するものであり、MEMスイッチを構成する場合であれば、例えば3μm以下が好ましい。斜面間の間隔を底面4と側壁3・3とが交わる角部間の間隔については、例えば150μm以下で下部電極5および信号線路6を形成する領域が得られる間隔であることが好ましい。また、斜面の寸法は、MEMスイッチを構成する場合であれば、例えば長さが220μm以下、幅が170μm以下で斜面上に駆動用電極8を形成する領域が得られる寸法であることが好ましい。
また、この凹部2の底面4は、この面に下部電極5およびこれに接続される信号線路6が配設されるので、これらが配設される部位が、対向する上部可動電極7の中央部と平行な平面とされていることが好ましい。さらに、信号伝送時の下部電極5および信号線路6からの基板1側への漏洩を抑制するために、凹部2の底面4の表面に熱酸化膜等の絶縁材料を形成していてもよい。
凹部2の底面4に配設された下部電極5は、上部可動電極7との間に電圧を印加することによって上部可動電極7を静電気的に下部電極5に引き付ける働きをし、信号線路6と上部可動電極7との密着性を高め、かつ信号伝送時の信号線路6からの漏洩が少なくなるようにするものであり、基板1に良好に密着し、上部可動電極7との間で静電気的な力を発生させることができる材料が好ましく、Au,Al,Cu等を用いることが望ましい。また、下部電極5の構成としては、MEMスイッチを構成する場合であれば、下側(基板1側)からTi/Pt/Au,あるいはCr/Au等の積層構成であり、寸法は長さが300μm以下で幅が100μm以下、各層の厚みは前者であれば0.1μm/0.2μm/0.5μmとし、後者であれば0.5μm/1μmとすることが好ましい。
凹部2の底面4に配設され、下部電極5に接続された信号線路6は、上部可動電極7の中央部と対向する位置の下方に一定の間隔をもって設けられ、オン時に信号を伝送するために上部可動電極7と電気的に接続されるものであり、電気抵抗が小さい材料が用いられ、AuやCuまたはAl等が好ましい。その寸法は、MEMスイッチを構成する場合であれば、例えば長さは300μm以下、幅は70μm以下、膜厚はAuならば1μmが好ましい。
なお、ここでは信号線路6を下部電極5上に配設した例を示しているが、この配置によれば信号伝送時の損失が小さくなり、かつ下部電極5が基板1と信号線路6との密着性を向上させる役割を果たしている。また、信号線路6は必ずしも下部電極5の上に配設する必要はなく、下部電極5に接続されてオン時に上部可動電極7と電気的に接続されるようになっていれば、下部電極5と信号線路6とが央部2の底面4の同一面内で一定間隔だけ離れて隣り合うように配置されていても構わない。また、信号線路6が央部2の底面4に配置され、かつ下部電極5が駆動用電極8の役割を兼ねて央部2の側壁3に配置されていても構わない。
凹部2の対向する側壁3・3間に掛け渡され、中央部が下部電極5に接触するように変形可能な上部可動電極7は、中央部が基板1側である下方に移動して、下部電極5または信号線路6と接触し信号線路6と電気的に接続されて信号を伝送するオン状態にしたり、中央部が上方に移動して下部電極5または信号線路6から離れてオフ状態にしたりするものであり、静電気的な力に対する駆動の応答が速いことが望ましい。このような上部可動電極7にはAu,Cr,Al,Ni等を用いるとよい。また、上部可動電極7は形成時や使用時の内部応力による反りを低減するために多層構造にすることが好ましく、その構成としては、MEMスイッチを構成する場合であれば、例えば下側からSiO2/Cr/Auの積層構造とし、寸法は長さは750μm以下、幅は300μm以下、各層の厚みは0.2μm/0.2μm/0.3μmが好ましい。
そして、凹部2の側壁3に、上部可動電極7の中央部の両側にそれぞれ対向させて配設されている駆動用電極8は、上部可動電極7との間に電圧を印加して静電気的な力を発生させ、それによって上部可動電極7を駆動させるものであり、上部可動電極7との間で静電気的な力を発生させることができるものであり、斜面である側壁3との密着性が高いことが望ましい。このような駆動用電極8には、Au,Cr,Al等を用いるとよい。また、駆動用電極8の構成としては、MEMスイッチを構成する場合であれば、例えば下側からTi/Pt/Au、あるいはCr/Au等の積層構造であり、寸法は長さが300μm以下、幅が100μm以下で、各層の厚みは前者であれば0.1μm/0.2μm/0.5μm、後者であれば0.5μm/1μmが好ましい。
このように構成された本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、上部可動電極7の下部電極5へ向かう静電気的な力を駆動用電極8により強めることになる。つまり、上部可動電極7と駆動用電極8の間の間隔が一定ではなく徐々に広くなっていることにより上部可動電極7と駆動用電極8との間に発生する静電気的な力の大きさが電極面内で異なることになり、上部可動電極7の根元に近い部分では小さな印加電圧においても上部可動電極7が下方に動きはじめ、それに伴って隣接する部位が順次下方に移動することになる。その結果、上部可動電極7と駆動用電極8との電極間隔が初期の間隔よりも短くなるため小さな印加電圧で上部可動電極7の変形動作を高速化することができる。また、作製工程に大幅な変更や困難さを伴うことなく、小型化・薄型化・軽量化にも有利なものであるので、高速で動作させることが必要なMEMスイッチに好適なものであり、高速大容量の情報伝送システム機器に対応できるものである。
そして、このような本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、携帯電話のような通信装置や半導体テスター等の測定装置内の電気信号伝達系に使用され、オン時の伝送信号の減衰が小さくでき、またオフ時の信号漏洩を抑制することができるため、高速応答が可能で、かつ動作の安定した装置となる。
また、図6は本発明のエレクトロメカニカルスイッチの実施の形態の他の例であるエレクトロメカニカルスイッチM2を示す模式的な斜視図であり、図7はそのオフ時のA−A’線断面図であり、図8はそのオン時のA−A’線断面図である。これらの図において、11は基板、12は凹部、13は凹部12の側壁、14は凹部12の底面、15は下部電極、17は上部可動電極、18は駆動用電極、19は凹部形成用材料であり、これらは図1〜図3に示す例のエレクトロメカニカルスイッチM1におけるものと同様のものである。
この例では、凹部形成用材料19は基板11の上面に絶縁体材料よりなる膜として形成され、その一部が除去されて、対向する側壁13・13がそれぞれ斜面である凹部12が形成されている。下部電極15は凹部12の底面14から基板としての凹部形成用材料19の上面にかけて信号線を兼ねるようにして配設されており、上部可動電極17の直下に位置する部分の一部が断線した構造となっている。この断線した部分は上部可動電極17が移動して接触することにより電気的に接続される部分であり、この断線した部分と接触する上部可動電極17の下面には、下部電極15の断線した部分を接続するための導電部は良好な伝導性を持ち、かつ上部可動電極17に対しては良好な絶縁性を確保しつつ接続を行なうことができるものとするために、下部電極15と対向した最下面に、例えば、化学的に安定しておりかつ導電性のよい厚みが数1000オングストローム程度のAu層から成る導電部を有するコンタクト電極20が、そのコンタクト電極20の導電部と上部可動電極17本体との間に、例えば厚みが数100から数1000オングストローム程度の酸化珪素から成る絶縁層を介在させて設けられている。また、この絶縁層に酸化珪素を用いた場合には、コンタクト電極20の導電部であるAu層との密着性を高めるために、例えば膜厚が数100オングストローム程度のCr等の薄膜を、酸化珪素層とAu層との間に設けるとよい。
凹部12の側壁13・13の一部には、上部可動電極17の中央部の両側にそれぞれ対向させて駆動用電極17が配設されている。上部可動電極17は凹部12の対向する側壁13・13間に掛け渡されて配設され、下部電極15および駆動用電極17と所定の空隙を介して相対向するように配置されている。
このような本発明のエレクトロメカニカルスイッチM2も、オフ時には、図7に示すように、上部可動電極17は凹部12の側壁13・13の上端間に例えば水平に掛け渡されており、凹部12の底面14に配置され、下部電極15とは電気的に絶縁された状態で、下部電極15および駆動用電極18と対向している。
そして、オン時には、図8に示すように、上部可動電極17と下部電極15との間に電圧を印加することによって上部可動電極17は中央部が静電気的に下部電極15に引き付けられて凹部12の底面14側に向かって変形して移動し、上部可動電極17はコンタクト電極20でもって下部電極15の断線した部分と接触して下部電極15に電気的に接続され、下部電極15の断線した部分も電気的に接続される。このようにコンタクト電極20が下部電極15の断線した部分を電気的に結線することによって、信号線を兼ねる下部電極15を伝播する電気信号のオン/オフを制御することができる。このとき、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM2によれば、上部可動電極17が掛け渡された凹部12の斜面となっている側壁13・13には、上部可動電極17と対向するように駆動用電極18が配設されていることから、この駆動用電極18と上部可動電極17との間にも駆動用電圧を印加することによって上部可動電極17の中央部の両側が静電気的に駆動用電極18に引き付けられ、これによって上部可動電極17の中央部が凹部12の底面14へ向かって変形するのに対して駆動力を与えて補助することができ、上部可動電極17の下部電極15へ向かう静電気的な力を強めて変形動作を高速化することができる。
このような本発明のエレクトロメカニカルスイッチM2によれば、低電圧駆動が必須であり、かつ高速なオン/オフ切替えが必要な、例えば携帯電話等のアンテナ切替えスイッチ等に好適なものとなり、高速大容量の情報伝送システム機器に対応できるものとなる。
さらに、図9は本発明のエレクトロメカニカルスイッチの実施の形態のさらに他の例であるエレクトロメカニカルスイッチM3を示す模式的な断面図(オフ時)である。図9において、31は基板、32は凹部、33は凹部32の側壁、34は凹部32の底面、35は下部電極、37は上部可動電極、38は駆動用電極、39は凹部形成用材料、40はコンタクト電極であり、これらも図1〜図3および図6〜図8に示す例のエレクトロメカニカルスイッチM1およびM2におけるものと同様のものである。
このエレクトロメカニカルスイッチM3は、凹部32の対向する側壁33・33の斜面を多段に形成した例である。作製プロセスは後述するエレクトロメカニカルスイッチM2と同様である。凹部32の側壁33の斜面の傾斜角度は、後述するように、例えば凹部形成用材料39にポリシランを用い、その感光性の光照射量と深さ方向の反応との良好な線形性に基づき、フォトマスクの開口量を多段に設定することにより容易に設定することができる。本発明のエレクトロメカニカルスイッチにおいて、スイッチングスピードを制限しているのは、上部可動電極が駆動用電極に引き寄せられる極めて初期の段階の動作である。この例のエレクトロメカニカルスイッチM3においては、凹部32の側壁33・33の斜面を多段として駆動用電極38の上部の上部可動電極36に対する角度を小さくしており、上部可動電極36と駆動用電極38との間隔を小さくできれば、上部可動電極36に発生する駆動力は両電極間の間隔の2乗に反比例するから急激に大きくなるので、これによって上部可動電極36に加えられる初期の駆動力を大きく設定することができ、より高速な駆動が可能となる。エレクトロメカニカルスイッチの高速化には、静止状態にある上部可動電極をいかに短時間で所定の速度に到達させるかが極めて重要であり、このエレクトロメカニカルスイッチM3におけるように凹部32の側壁33・33を多段の斜面として駆動用電極38を配設する電極構造は極めて有効な手段である。また、凹部32の側壁33・33の傾斜構造をこの例のような多段ではなく連続的に変化させることも有用であり、同様の原理でスイッチングの高速化が可能であり、同様な作製プロセスで実現可能である。
さらにまた、図10は本発明のエレクトロメカニカルスイッチの実施の形態のさらに他の例であるエレクトロメカニカルスイッチM4を示す模式的な分解断面図である。図10において、51は基板、52は凹部、53は凹部52の側壁、54は凹部52の底面、55は下部電極、57は上部可動電極、58は駆動用電極、59は凹部形成用材料、60はコンタクト電極であり、61は第2の基板である。これらも図1〜図3および図6〜図8,図9に示す例のエレクトロメカニカルスイッチM1およびM2,M3と同様のものである。
このエレクトロメカニカルスイッチM4は、上部可動電極57が凹部52の対向する側壁53・53間に掛け渡される第2の基板61の下面に配設されており、第2の基板61が基板51に、凹部52の側壁53・53間に掛け渡されて接合されている例である。このようなエレクトロメカニカルスイッチM4によれば、上部可動電極57を第2の基板61の下面に配設しておき、この第2の基板61を基板51に接合することによって上部可動電極57が凹部52の側壁53・53間に掛け渡されているので、この凹部52を形成した基板51と第2の基板61とがそれぞれ別の工程を経て作製されて最終的に組み合わされることにより、任意の形状の上部可動電極57を安定して作製して凹部52の側壁53・53間に掛け渡すことができ、前述の本発明のエレクトロメカニカルスイッチM2と同様の効果を実現できるものとなる。
また、このエレクトロメカニカルスイッチM4では、第2の基板61を基板51に接合することによって上部可動電極57が凹部52の側壁53・53間に掛け渡されているので、上部可動電極57を掛け渡すのに当たって、後述するように犠牲層を用いる必要は必ずしもない。また、上部可動電極57を第2の基板61に予め配設することから、基板51への下部電極55および駆動用電極58の形成と第2の基板61への上部可動電極57の形成とをそれぞれ独立の工程で行なうことができ、例えば犠牲層の形成工程および加工工程を省略できる等の製造工程の簡略化が可能となり、基板51と任意の形状の上部可動電極57をそれぞれ独立な工程で作製できることから、安定して作製することができ歩留まりの改善に有利なものとなる。
第2の基板61を基板51の凹52の側壁53・53間に掛け渡して接合するには、例えば凹部形成用材料59と、上部可動電極57が配設された第2の基板61との間に高電圧を印加して接合を行なういわゆる陽極接合等の手法を用いればよい。またこの他にも、例えば半田や樹脂等を用いて接合してもよい。
次に、本発明のエレクトロメカニカルスイッチの製造方法について、図1〜図3に示したエレクトロメカニカルスイッチM1を例に説明する。
本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1の製造方法は、基板1上に対向する側壁3・3がそれぞれ斜面である凹部2を形成するとともに、この凹部2の底面4に下部電極5を、側壁3・3に駆動用電極8・8をそれぞれ配設する工程と、凹部2を犠牲層(図示せず)で充填する工程と、この犠牲層上に、対向する側壁3・3間に掛け渡して、中央部が下部電極5に対向し、中央部の両側がそれぞれ駆動用電極8・8に対向するように、上部可動電極7を形成する工程と、しかる後、犠牲層を除去する工程とを具備することを特徴とするものである。
図1に示すような本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1は、基板1に例えばシリコンウェハを用い、その基板1上に中空構造である凹部2を形成するための凹部形成用材料9の絶縁材料をスピンコート法等により塗布する。
次に、この基板1上に形成された凹部形成用材料9内に凹部2を形成するために、その凹部形成用材料9上にレジスト膜をスピンコート法等により塗布し、例えばガラス表面にCr薄膜でパターンが作製されたフォトマスクを用いて、そのパターンに従ってフォトリソグラフィを行なって、凹部2を形成するための開口部をレジスト膜に形成する。
その次に、レジスト膜の開口部内の凹部形成用材料9をアセトン,IPA,ブタノール等の有機溶剤を用いたウエットエッチング、もしくはCF4,C2F6,Ar,O2等の半導体製造用ガスを用いたドライエッチングにて所定の深さまで、通常は基板1の上面まで除去することによって、凹部形成用材料9に所望の凹部2を形成する。この凹部2の形状,大きさ等については、MEMスイッチを構成する場合であれば、凹部2の最大深さは上部可動電極7と下部電極5との間の間隔である例えば3μm以下が好ましく、上端の開口部の長さは710μm以下で幅は260μm以下、底面4の長さは150μm以下、幅は170μm以下で、凹部2内に側壁3・3と下部電極5および信号線路6を形成する領域が得られる寸法であることが好ましい。
また、凹部2の対向する側壁3・3が斜面となるようにするには、SiO2膜上にレジストマスクを用いて斜面を形成する場合であれば、ガラス表面にCr薄膜でパターンが作製されたフォトマスクを用いて、レジスト塗布後にフォトリソグラフィにてパターン開口部を形成して、CF4およびArを用いたドライエッチング時の犠牲層材料とレジストとのエッチングレート差を利用すればよい。
この凹部2の例としては、凹部2の斜面である側壁3・3に形成される駆動用電極8が凹部2の底面4に向かって均一な厚みで形成でき、上部可動電極7との間で静電気的な力を安定して得られるようにするためであれば、側壁3上に駆動用電極8を形成する領域が得られる寸法として、長さを220μm、幅を170μm、側壁3の高さを2μm、側壁3・3間の間隔を150μm(底面4と側壁3・3とが交わる角部間の間隔)として形成すればよい。
このようにして形成した対向する側壁3・3がそれぞれ斜面である凹部2の側壁3・3および底面4に、Cu,Ti,Cr,Au等の金属薄膜を電子ビーム蒸着法,抵抗加熱蒸着法,スパッタリング法等を用いて真空成膜し、所定のパターンに加工して、それぞれ駆動用電極8・8および下部電極3を配設する。
次に、これら駆動用電極8・8および下部電極3上にスピンコート法等によりレジスト膜を塗布し、例えばガラス表面にCr薄膜でパターンが作製されたフォトマスクを用いてそのパターンに従ってフォトリソグラフィを行なって、例えば下部電極5上に位置するように信号線路6用開口部を形成する。その次に、真空成膜法等を用いてCu,Ti,Cr,Au,Pt等の金属薄膜を成膜して信号線路6を形成する。信号線路6の例としては、基板1への密着性を良くし上部Au層へのTiの拡散を抑制して信号伝送時の損失を小さくするためであれば、下部での5側からTi/Pt/Auの積層構造とし、各層の膜厚を0.1μm/0.2μm/0.5μmとして形成すればよい。
次に、凹部2の対向する側壁3・3間に掛け渡された上部可動電極7を形成するために、側壁3・3に駆動用電極8・8が、底面4に下部電極5および信号線路6がそれぞれ配設された凹部2を、犠牲層材料としてSiO2,ポリシリコン等をスパッタリング法等によって成膜して、犠牲層で充填する。この犠牲層は、凹部2の対向する側壁3・3間に掛け渡された上部可動電極7を形成するための領域を得るためものであり、例えば、TEOS(テトラメトキシゲルマニウム)を用いたCVD(化学的気相堆積)にて形成されたSiO2膜を、側壁3・3間に空隙を生じさせることなく、上面の高さが凹部2の上端部分と同一平面となるように充填する。
次に、凹部2に上面が凹部形成用材料9の上面と同一平面をなすように充填された犠牲層上および凹部形成用材料9上に、スピンコート法等によりレジスト膜を塗布し、例えばガラス表面にCr薄膜でパターンが作製されたフォトマスクを用いてそのパターンに従ってフォトリソグラフィを行なって、中央部が下部電極5に対向し、その中央部の両側がそれぞれ駆動用電極8・8に対向するように、対向する側壁3・3間に掛け渡して、上部可動電極7用開口部を形成する。その次に、真空成膜法等を用いてAl,Cu,Ti,Cr,Au等の金属薄膜を成膜して上部可動電極7を形成する。上部可動電極7の例としては、高速応答ができるように軽量とし、かつ小さな静電気的な力にて駆動させるためであれば、材料としてAuおよびCrを用い、その構成として下側からSiO2/Cr/Auの積層構造であり、寸法は長さを710μm、幅を260μm、各層の厚みを0.2μm/0.2μm/0.3μmとして形成すればよい。
この後、犠牲層をエッチングして凹部2から除去することによって、凹部2の底面に下部電極5および信号線路6が、対向する側壁3・3のそれぞれの斜面に駆動用電極8・8が配設され、それらと対向するように側壁3・3間に上部可動電極7が掛け渡された、中空構造の凹部2を形成する。
犠牲層のエッチング除去には、例えば犠牲層材料にTEOSを用いたCVDにて形成されたSiO2を用いた場合であれば、アセトン,IPA,ブタノール等の有機溶剤をエッチング液に用いてエッチングを行ない、連続工程で乾燥させるとよい。このとき、乾燥時にエッチング液の表面張力で上部可動電極7が凹部2の底面4側に引っ張られて下部電極5に接触して付着しないよう、表面張力を緩和するためには、超臨界乾燥を行なうことが好ましい。また、犠牲層材料にスピンコートで基板1の表面に塗布して凹部2を充填することで犠牲層を形成できる代表的なレジストである、例えば東京応化工業株式会社製TSMR−8900等を用いた場合であれば、CF4,C2F6,Ar,O2等の半導体製造用ガスを用いたドライエッチングにて犠牲層をエッチング除去して中空構造の凹部2を形成すればよい。
以上のようにして作製された本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1について、上部可動電極7と駆動用電極8の間に電圧を印加し、上部可動電極7の変位量が下部電極5との間の間隔と同一の値になるまでの電圧印加時間を評価したところ、駆動電圧10Vにて上部可動電極7の応答時間がおよそ8μsecになり、良好な応答特性が得られた。
図5に、以上のようにして作製した本発明のエレクトロメカニカルスイッチM1の実施例と、図11に示したMEMスイッチMM1による比較例とについての、駆動電圧印加時間と上部可動電極7または片持アーム115の変位量との関係の評価結果を線図で示す。図5において、横軸は駆動電圧印加時間(単位:sec)を、縦軸は変位量(単位:m)を表し、実線の特性曲線は実施例についての関係を、点線の特性曲線は比較例についての関係を示している。なお、駆動電圧の大きさは10Vとした。
図5に示す結果より分かるように、比較例では電極間の間隔と同一変位量の移動を行なうために要する時間が10.8μsecであったのに対して、実施例では電極間の間隔と同一変位量の移動を行なうために要する時間は7.78μsecであり、スイッチング時間が3.02μsecも短縮でき、応答特性が高速化できていた。これは、通信システムの電気信号伝達系に使用することでオン時の伝送信号の減衰を低減し、かつオフ時の信号漏洩を抑制でき、より高速の応答で動作の安定した信号伝送システムが構築できる点で有利なものである。
次に、本発明のエレクトロメカニカルスイッチの製造方法について、図6〜図8に示したエレクトロメカニカルスイッチM2を例に説明する。なお、製造方法の基本的な内容は上記のエレクトロメカニカルスイッチM1を例に説明した内容と同様である。
基板11は、通常はシリコンを用いればよいが、ガラス等を用いてもよい。この例では、凹部形成用材料19には酸化ケイ素を用いる。
凹部12の形成には、ポリシランを用いる方法が好適であり、ポリシランの感光性を利用するとよい。ポリシランはSi原子が鎖状につながった珪素系高分子であるが、例えば紫外光を光照射することにより珪素結合(−Si−Si−結合)が光分解し、珪素結合間に酸素原子が配置されたシロキサン結合部位や酸サイトとして作用するシラノール基等が生成される。従って、基板11上にポリシランを塗布し、凹部12となる部分に光照射して、これをアルカリ溶液であるアルカリ性現像液に浸漬すると、光照射してシラノール基等が生成された部分はアルカリ溶液に溶解して除去される。すなわち、光照射する部分を選択することにより、光照射した部分を選択的に除去することができ、任意の平面形状で凹部12を加工することが可能である。光照射部の選択は一般的なフォトリソグラフィーの技術を用いて、フォトマスクの開口パターンによって行なうことができる。このとき、ポリシランの光応答性は一般の水銀ランプによる紫外光に十分に応答するものであるため、特殊な光源等は必要としない。
この後、酸素雰囲気中で例えば数100℃で加熱することで、ポリシランの光照射されなかった部分が酸化珪素となり、凹部12が形成される。このとき、酸素雰囲気中での加熱前に十分な強度で全面を紫外線露光しておくと、先に光照射されなかった部分のポリシランが紫外線に反応して珪素間の結合が切れ、その部位に酸素原子が入り込んで良好な酸化珪素を形成することができる。
ポリシランは側鎖に修飾基を有しているが、その修飾基は、プロピル基,ヘキシル基,フェニルメチル基,トリフルオロプロピル基,ノナフルオロヘキシル基,トリル基,ビフェニル基,フェニル基,シクロヘキシル基等、ポリシランが感光性を有し、酸素雰囲気中での加熱で酸化珪素となるものであれば、その範囲で適宜選択可能である。
ここで、ポリシランの照射光量に対する深さ方向の反応が線形的である性質を利用すると、例えば凹部12の側壁13を斜面とするように光照射部位および照射光量を決めるフォトマスクの開口率を段階的に、あるいは連続的に変化させて照射光量を制御することにより、対向する側壁13・13が斜面である凹部12を極めて容易に形成することができる。
この場合は、対向する側壁13・13に対応する部分のフォトマスクの開口を微細な開口部の集合体として形成しておき、それら微細な開口部の開口率は、それら開口部の形状がそのまま感光性のポリシランに反映されないように、例えば個々の微細な開口部のサイズを光照射時の光学的分解能以下に十分に小さくして高密度に配置させる方法や、フォトマスクと感光性のポリシランとの距離を数10から数100μm離して光学的分解能を低下させる等により、側壁13・13に対応する部分のフォトマスクの開口部の密度を調整して開口率を調整すれば、フォトマスクを透過する単位面積あたりの照射光量を段階的に、あるいは連続的に変化させることが容易に実現可能である。
凹部形成用材料19をポリシランを塗布して形成する場合は、その厚さは約10μm程度とし、凹部12の深さは2〜3μm程度とすることが適当である。また、側壁13の傾きは1/100ラジアン程度とすることが適当である。
凹部形成用材料19によって凹部12を形成した後、下部電極15および駆動用電極18を蒸着あるいはスパッタリング等による成膜、ならびにフォトリソグラフィを行なって形成する。これら電極にはAu/Cr等の金属多層膜、あるいはAl等の金属単層膜が適当であるが、適宜他の材料も選択可能である。
次に、凹部12に犠牲層を充填する。凹部12を犠牲層で充填するには、材料として例えば感光性有機材料を用い、スピンコート法等により凹部12が形成された基板11の上面に塗布して凹部12を充填し、凹部12以外の部分の有機材料をフォトリソグラフィを行なって除去すればよい。なお、犠牲層として用いる感光性有機材料には、例えばフォトレジスト,感光性ポリイミド等が適当であるが、その他の材料も適宜選択可能である。
犠牲層で凹部12を充填した後、その上に数100Å程度のCrを蒸着あるいはスパッタリング等により形成した後、その一部をフォトリソグラフィおよびドライエッチング技術を用いて除去して開口部を設け、このCrをマスクとして再びドライエッチングにより開口部から犠牲層に数1000Åの浅い凹所を形成してからCrを除去する。次いで、この浅い凹所に例えばSiO2が最上層になるようにしてAu/Cr/SiO2積層膜を形成し、コンタクト電極20を形成する。
コンタクト電極20を形成した後、この上に凹部12の側壁13・13間に。掛け渡されるように、蒸着およびスパッタリング等ならびにフォトリソグラフィ等によって上部可動電極17を形成する。上部可動電極17は、例えばSiO2が最下層になるようにしたAu/Cr/SiO2積層膜等の多層膜が適当であるが、その他の材料も適宜選択可能である。ここでは、駆動用電極18と上部可動電極17との間に駆動電圧を印加したときに両電極間の短絡を防止するため、上部可動電極17の最下層にSiO2膜を設けるとよいが,駆動用電極18の最上層を絶縁膜で被覆しておけば、上部可動電極17は全体がアルミニウムあるいはニッケル等の導体材料のみで構成されていてもよい。
そして、有機溶剤に浸漬する等して犠牲層を除去し、超臨界乾燥技術等を用いて乾燥することによって、本発明のエレクトロメカニカルスイッチM2が完成する。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、本発明において基板1や凹部形成用材料9として用いる絶縁材料や犠牲層材料、あるいは下部電極5,上部可動電極7,駆動用電極8の電極材料には、それぞれ例示した材料を用いることが望ましいが、特にそれらに限定されるものではない。