本発明は、半導体レーザ吸収分光装置に関する。
近赤外領域において吸収強度が大きいガス種が多く存在することから、近赤外半導体レーザによりガス濃度や温度の評価を行う半導体レーザ吸収分光法に関する研究が盛んに行われている。ガス濃度測定を行う際には、特定のガス種が有する吸収線を複数検知し、その吸収量の強度比などの情報からガス濃度を特定するため、1nm以上の波長を掃引できることが望ましい。そのため、従来は分布帰還型(Distributed FeedBack、DFB)レーザの発振波長が注入電流の増加に伴い1nm程度増加することを利用するか、半導体レーザと外部共振器の組み合わせによる波長掃引機能(20nm程度)を利用した半導体レーザ吸収分光が行われてきた(非特許文献1を参照)。しかしながら、前者は波長掃引領域が狭いために室温かつ常圧のガス濃度測定に限られていた。また、後者は、外部共振器を機械的に動かして波長掃引を行うために、掃引速度が原理的に遅いことが問題となっていた。
一方、面発光型半導体レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、VCSEL)は、従来の半導体レーザと比較して活性層体積が小さいことと、電流注入を行う半導体分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector、DBR)層の電気的な抵抗が高いことから、発振波長が注入電力の増加に伴い3〜4nm程度と大きく増加することが知られている。さらに、単位電流当たりの波長の増加量が、従来の半導体レーザが0.01nm/mA程度であるのに対し、面発光型半導体レーザは0.3〜0.4nm/A程度と数十倍大きいため、高速度で波長掃引を行うことが可能となる。そのため、面発光型半導体レーザを用いた半導体レーザ分光吸収によるガス濃度評価は、酸素やアンモニアの濃度測定に利用されている(非特許文献2および非特許文献3を参照)。
図18を用いて従来の面発光型半導体レーザを用いた半導体レーザ分光吸収法について説明を行う。面発光型半導体レーザ101は、レーザドライバ102と温度コントローラ103により、電流値と温度をそれぞれコントロールして、駆動している。面発光型半導体レーザ101から出射したレーザ光L10は、第1のレンズ104によりコリメート(平行)光となりビームスプリッタ105を経てガスセル106の片側の端面からガスセル106内部に充填された10mbar以上の圧力を有する被測定ガスgに入射する。
被測定ガスgに入射したレーザ光は一度ガスセル106から外部に出て、第1の反射鏡107により反対方向に反射して再びガスセル106内を通過し、第2の反射鏡108を経て第2のレンズ109により第1のフォトダイオード(Photo Diode、PD)110の受光径に合うようにスポットサイズ変換を受けた後、第1のフォトダイオード110に入射する。
面発光型半導体レーザ101から出射されたレーザ光L10の光出力Lおよび発振波長λの注入電流Iの依存性を図19に示す。先に述べたように、注入電流Iの増加に伴い発振波長λが増加している様子が分かる。そのため、測定ガスの吸収線波長とレーザ光の波長が一致しない場合は、第1のフォトダイオード110への入射光はほとんど損失を受けないため、受光強度(電流・電圧)は大きい。一方、一致する場合は、レーザ光がガスセル106内を往復する際に強い吸収を受けて損失が大きくなるため、受光強度は小さくなる。
図20(a)にガスセル106に圧力100mbarのアンモニアガスを充填したときのI−L特性を示す。先に述べたように、面発光型半導体レーザ101への注入電流の増加に伴い発振波長が長波長側にシフトするため、図20(a)に示すように、I−L特性においてガスの吸収線波長に対応したディップが観測される(実際にはさらに多くの数のディップが観測されるが、ここでは簡便のため省略している)。このディップの面積からガス濃度に対応した光吸収量を評価することが可能となる。
図21(a)と図21(c)には、図20(a)の結果から得られた光吸収量の波長依存性と、アンモニアガスにおける吸収線のシミュレーション結果をそれぞれ示す。図21(a)と図21(c)を比較して分かるように、図20(a)から得られた実験結果とシミュレーションから得られた吸収線が精度良く一致することが分かる。このように比較的狭い波長帯域内に複数の吸収線を検知しなければならない半導体レーザ吸収分光においては、半導体レーザの発振波長を精度良く測定する必要がある。そのため、図18に示したように面発光型半導体レーザ101から出射されたレーザ光L10をビームスプリッタ105で分岐し、エタロン共振器111を通過させて第2のフォトダイオード112で受光している。このときの受光強度(電圧・電流)は、エタロン共振器111の縦モード間隔の周期で強度が大きく変動するため、レーザ光L10の発振波長を高分解能でモニタすることが可能となる。
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一方、受光強度の大小によりガス濃度を精度良く評価するためには、受光強度のS/N(信号対雑音)比を十分大きくとることが必要である。特にガスの圧力が10mbar未満と低い場合、面発光型半導体レーザのレーザ光強度が1mW程度(シングルモード)と低いため、高いS/N比を確保することが困難となる。そのため、10mbar未満において面発光型半導体レーザを用いて吸収分光測定を行うと、図20(b)に示したように、I−L特性において観測されるディップが浅くなり、形状になまりが見られる。そのため、図21(b)に示した図20(b)から得られた光吸収線と、図21(c)に示したシミュレーション結果には、吸収線波長のズレが観測され、また光吸収量が全体的に弱く観測されるため、光吸収量の少ない吸収線波長が観測されないことが分かる。よって、ガス圧が10mbar未満になると、面発光型半導体レーザの出射光強度が低いため、吸収分光測定において十分なS/N比を確保できず、ガス濃度に対応した光吸収量を正確に測定することができないばかりか、観測されない吸収線波長も発生するため、ガス種を誤って判断する可能性が生じる。
十分なS/N比を確保する別の手段として、レーザ光をガスセル内で2回以上往復させる方法も考えられるが、レーザ光をガスセル内で複数回往復させるためには、ガスセルの両端に設置する反射鏡の数が増加するため、装置が複雑で高コストになり、光軸調整箇所も増加するため、測定効率が著しく低下する。このように、従来の面発光型半導体レーザを用いた半導体レーザ吸収分光装置ではガス圧が10mbar未満の場合、S/N比が小さく(悪く)、高精度な測定値が得られないばかりか誤った測定結果が得られてしまうという問題があり、重大な課題となっていた。
そこで、本発明は、上述した問題に鑑み提案されたものであり、被測定ガスのガス圧が10mbar未満であっても、信号対雑音比を十分大きくして、精度良くガス濃度を測定することができる半導体レーザ吸収分光装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決する第1の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、
半導体レーザ光による吸収分光法を用いてガス濃度を評価する半導体レーザ吸収分光装置において、
単一横モードおよび単一縦モードで発振しかつ駆動電流の増加によって発振波長が漸増する半導体レーザを備え、
前記半導体レーザから出射された前記半導体レーザ光が伝搬する光路上に、前記半導体レーザを構成する第1および第2の反射鏡と、前記第2の反射鏡に相対する第3の反射鏡が設置され、前記第1および第2の反射鏡からなる第1の共振器と前記第2および第3の反射鏡からなる第2の共振器を有し、前記第2の共振器に被測定ガスが配置され、
前記半導体レーザの駆動電流が掃引されることによって前記半導体レーザ光の波長が掃引されて前記被測定ガスの吸収分光特性が測定される
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第2の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、
第1の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、
前記第2の共振器側から出射した前記半導体レーザ光を受光する第1のフォトダイオードと、
前記第1の共振器側から出射した前記半導体レーザ光を受光する第2のフォトダイオードとを備える
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第3の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、第1の発明または第2の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、前記半導体レーザが、電流励起により駆動する電流励起型面発光半導体レーザであることを特徴とする。
上述した課題を解決する第4の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、第3の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、前記被測定ガスを封入するガス容器の内部に、前記3つの反射鏡を配置したことを特徴とする。
上述した課題を解決する第5の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、第3の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、前記被測定ガスを封入するガス容器の外部に、前記3つの反射鏡を配置したことを特徴とする。
上述した課題を解決する第6の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、
第1の発明または第2の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、
前記半導体レーザが、端面発光型半導体レーザである
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第7の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、
第6の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、
前記被測定ガスを封入するガス容器の内部に、前記3つの反射鏡を配置した
ことを特徴とする。
上述した課題を解決する第8の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置は、
第6の発明に記載の半導体レーザ吸収分光装置において、
前記被測定ガスを封入するガス容器の外部に、前記3つの反射鏡を配置した
ことを特徴とする。
[作用]
上記の構成を有する本発明においては問題点が以下のように解決されている。以下、本発明に係る半導体レーザ吸収分光装置に用いる面発光型半導体レーザの原理について図1を用いて説明する。同図に示すように、面発光型半導体レーザ1は、従来型の面発光型半導体レーザの出射方向に、光学絞り2と凹面鏡3を備えた複合共振器型面発光半導体レーザとなっている。面発光型半導体レーザ1は、例えば、1.55μm帯に発振波長を有し、n−InP基板4上には、n型にドープされた高反射率を有するn−DBR層(屈折率の異なる材料を交互に積層した構造)5、多重量子井戸(Multiple Quantum Wells、MQW)活性層6、高反射率のp−DBR層7、およびp−InGaAsコンタクト層8が順次積層されている。n−InP基板4の下側にはn電極12が積層されており、p−InGaAsコンタクト層8の上には、電流注入を行うためのp電極11が積層されている。また、p−DBR層7におけるp−InGaAsコンタクト層8で囲まれる領域には、反射防止膜9が積層されている。
この面発光型半導体レーザ1に電流注入を行うと、n−DBR層5とp−DBR層7とから構成された第1の共振器13によりレーザ発振が行われるが、発振波長およびモードプロファイルは、p−DBR層7と凹面鏡3で構成された第2の共振器14との相互作用により決定される。そのため、凹面鏡3と光学絞り2の位置調整および光学絞り2の開口径の調整を行うことで、単一横および縦モードを維持しながら出力光強度の向上が可能であることが一般的に知られている(非特許文献4、および非特許文献5を参照)。
一般に第2の共振器14の空間は、通常レーザ発振波長に対し透明な大気や窒素ガスなどで満たされている。これは、レーザ発振波長に対する吸収媒質(固体、気体など)で満たすと、多重量子井戸活性層6の光学利得よりも、該空間における光学損失が大きくなり、レーザ発振が全く得られなくなってしまうためである。本発明に係る半導体レーザ吸収分光装置における面発光型半導体レーザ1においては、図2に示したように、該空間をレーザ発振波長付近に吸収線を有するガスGによって満たすことを最大の特徴とする。
そのため、先に述べたように面発光型半導体レーザ1の発振波長が電流の増加に伴って増加することを利用してI−L特性を評価すると、図3に示したように、ガスの吸収線に対応した波長においては、第2の共振器14における光学損失が大きくなりレーザ発振が得られないため、発光強度が得られない。一方、吸収線に対応しない波長においては、第2の共振器14における光学損失は無いため、従来の面発光型半導体レーザよりも大きな発光強度が得られる。そのため、本発明の装置において面発光型半導体レーザ1を用いれば、ガスセルの両端に設置する反射鏡の数量を増加させることなく、従来よりも飛躍的に高いS/N比(信号対雑音比)を得ることができるため、高精度なガス濃度測定が可能となる。
第1の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、常圧のガス圧はもちろんのこと従来の半導体レーザ吸収分光装置では測定できなかった低いガス圧においても、高い信号対雑音比を確保することができるため、高精度且つ正確なガス濃度を測定することが可能となる。
第2の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第1の発明と同様な作用効果を奏する。
第3の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第1の発明と同様な作用効果を奏する。
第4の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第1の発明と同様な作用効果を奏する。
第5の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第3の発明と同様な作用効果を奏する他、被測定ガスを充填するガス容器の温度を制御するヒータの影響を受けずに、前記電流励起型面発光型半導体レーザの駆動温度を制御することができる。
第6の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第1の発明と同様な作用効果を奏する。
第7の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第6の発明と同様な作用効果を奏する。
第8の発明に係る半導体レーザ吸収分光装置によれば、第6の発明と同様な作用効果を奏する他、被測定ガスを充填するガス容器の温度を制御するヒータの影響を受けずに、前記端面発光型半導体レーザの駆動温度を制御することができる。
以下に、本発明に係る半導体レーザ吸収分光装置を実施するための最良の形態を実施例に基づき具体的に説明する。
図4は、本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図であり、図5は、その装置における電流励起型面発光半導体レーザの説明図であり、図5(a)にその構造、図5(b)にそれを複合共振器としたときの概念を示す。図6は、本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における光出力と発振波長の電流依存性を示すグラフであり、図7は、その装置による測定結果を示すグラフであり、図8は、光吸収量と発振波長との関係を示すグラフであり、図8(a)にその装置における光吸収量の測定結果を示し、図8(b)に光吸収量のシミュレーション結果を示す。
ここでは、1mbarのガス圧を有する被測定ガスであるアンモニアガスの濃度計測について詳細に説明する。
図4に示すように、本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置20は、電流励起により駆動する電流励起型面発光半導体レーザ(以下、電流励起型VCSELと略す)21と、電流励起型VCSEL21から発振された半導体レーザ光の光路上に配置された光学絞り22と、前記光路上に配置されると共に、光学絞り22に相対して配置された凹面鏡23とを有する。ただし、電流励起型VCSEL21と光学絞り22と凹面鏡23とは、後述するレーザ発振波長付近に吸収線波長を有する被測定ガスであるアンモニアガスG1を封入するガス容器であるガスセル24内に配置されている。
電流励起型VCSEL21と、電流励起型VCSEL21に隣接して配置されるヒートシンク25とは、AuSnはんだ(図示せず)等により可動ステージ26上に固定されており、電流励起型VCSEL21には、レーザドライバ27が接続されている。電流励起型VCSEL21は、可動ステージ26に内蔵された電子冷却装置(図示せず)とレーザドライバ27により、温度と電流値をそれぞれコントロールして、駆動が行われる。前記電子冷却装置には、温度コントローラ28が接続されており、ヒートシンク25および可動ステージ26の温度は、室温と同じ温度に設定されている。
図5(a)に示すように、電流励起型VCSEL21は、n−InP基板(図示せず)上に、n−InP系DBR層29、InGaAsP/InGaAsP多重量子井戸(Multiple Quantum Wells、MQW)活性層(以下、MQW活性層と略す)30、p−InP系DBR層31を順次積層して形成し、MQW活性層30をn−InP系DBR層29とp−InP系DBR層31で挟んだ構造となっている。
n−InP系DBR層29は、1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のn−InP層(図示せず)とn−InGaAsP(バンドギャップ波長1.3μm)層(図示せず)を交互に5対積層したDBR構造となっており、p−InP系DBR層31も同様にp−InP層(図示せず)とp−InGaAsP層(図示せず)を交互に5対積層したDBR構造となっている。このようなMQW活性層30を半導体DBR層で挟んだ構造は、発振波長を精度良く設定するのに有利な構造となっている。
また、電流狭窄構造を形成するために、MQW活性層30の周囲を半絶縁性のFe−InP層32で埋め込み、発光径を直径15μmとした。この基板と、熱伝導率の高いn−GaAs系DBR層33、すなわち、1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のn−GaAs層とn−AlAs層を交互に積層した構造が形成されたn−GaAs基板34を薄膜化Wafer-fusion技術(前記InP基板を除去して薄膜化する技術)により貼り合わせることにより、レーザ駆動時の発熱により出力特性の劣化を抑制する構造となる。
埋め込み構造の上部に電流ブロック層であるn−InP層35と電流パス層であるp−InGaAs層36を順次積層して形成した後、1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のTiO2とSiO2を交互に積層した誘電体DBR層37を形成することにより、MQW活性層30の両側に高反射鏡がそれぞれ形成される。また、n−GaAs基板34側にはn電極38を形成し、p−InGaAs層31の上部にはp電極39を形成しており、電流注入により半導体レーザが発振する。n−GaAs基板34には、反射防止膜40が形成されている。
電流励起型VCSEL21は、図5に示すように、n−GaAs系DBR層33とn−InP系DBR層29からなる反射率99.6%を有する第1の反射鏡R1と、p−InP系DBR層31と誘電体DBR層37からなる反射率90%を有する第2の反射鏡R2により、利得媒質であるMQW活性層30を挟んだ第1の共振器41を形成している。一方、第3の反射鏡R3として反射率99.8%を有する凹面鏡23を第2の反射鏡R2と相対する位置に設置することで第2の共振器42を形成している。第1の共振器41と第2の共振器42は結合しており、結合共振器構造を形成している。
半導体レーザ光は第1の反射鏡R1の一側部、第3の反射鏡R3の一側部からそれぞれ出射しており、第3の反射鏡R3から第1のフォトダイオード52(図4参照)側に出射する半導体レーザ光L1は、第1の反射鏡R1から第2のフォトダイオード55(図4参照)側に出射する半導体レーザ光L2の20倍程度の出力光強度となるように調整されている。
一方、ガスセル24は長さ約40cmであり、1000℃以上の高い温度の耐性がある石英などの材料で構成されており、かつ電流励起型VCSEL21から出射される半導体レーザ光に対し透明である材質を用いている。ガスセル24の両端面は、1〜7度程度の角度をつけて斜めに加工しており、端面における半導体レーザ光の反射による影響が極力少なくなるようになっている。また、ガスセル24内のアンモニアガスG1の温度は、図4に示すように、ガスセル24の周りに設けられたヒータ43により一定となるよう調整されており、ガスセル24内のアンモニアガスG1のガス圧は、ガスセル24のガス出口24aに設けられたガス圧力計44によりモニタされている。
アンモニアガスG1のガスセル24への充填は、最初に、ガスセル24のガス入口24bを閉じた状態で、ガス出口24aに真空ポンプ(図示せず)を接続してガスセル24内を真空引きした後、ガス出口24aを閉じる。続いて、ガス入口24bにアンモニアガスG1の入った容器(ボンベ)等を接続し、ガス入口24bを開け、ガス圧力計44にて1mbarのガス圧となるまでアンモニアガスG1を充填して、ガス入口24bを閉じる。ヒータ43の温度は、室温と同じ温度に設定されている。
光学絞り22および凹面鏡23は、それぞれ可動ステージ45,46上に設置されている。各可動ステージ26,45,46には、XYZ軸ステージコントローラ47,48,49がそれぞれ接続されており、電流励起型VCSEL21、光学絞り22および凹面鏡23の位置がそれぞれ調整可能になっている。電流励起型VCSEL21、光学絞り22および凹面鏡23からなる2つの共振器が結合した複合共振器50が形成され、結合共振器50では、各位置を調整することにより、単一横モード化および単一縦モード化が行われている。曲率半径10cmの凹面鏡23を用いたため、凹面鏡23と電流励起型VCSEL21間の距離を、10cm程度を目安としてXYZ軸ステージコントローラ47,48,49により、可動ステージ26、45および46を微動調整して、半導体レーザ光の単一横及び縦モード化を実現している。
電流励起型VCSEL21から出射された半導体レーザ光が伝搬する光路におけるガスセル24の一方の端部に相対してレンズ51が配置されており、レンズ51に相対して第1のフォトダイオード(Photo Diode、PD)52が配置されている。前記光路におけるガスセル24の他方の端部に相対してレンズ53が配置され、レンズ53に相対してエタロン共振器54が配置されており、エタロン共振器54に相対して第2のフォトダイオード55が配置されている。
電流励起型VCSEL21から出射した半導体レーザ光L1は、アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致しない場合には、ガスセル24の一方の端部、レンズ51を経て第1のフォトダイオード52に入射しており、このフォトダイオード52に発光強度(電圧・電流)が記録される。アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致する場合には、アンモニアガスG1に前記半導体レーザ光L1は吸収される。電流励起型VCSEL21の反対側からは、半導体レーザ光L1の1/20程度の出力光強度を有する半導体レーザ光L2が、同一の波長で出射される。この半導体レーザ光L2をヒートシンク25および可動ステージ26の貫通孔25a,26aと、レンズ53、エタロン共振器54を経て第2のフォトダイオード55に入射しており、高分解能で発振波長がモニタされる。
図6に示すように、半導体レーザ吸収分光装置20では、電流の増加に比例して半導体レーザ光の発振波長が漸増し、半導体レーザ光の出力強度が所定の割合で変化している。また光スペクトル測定とファーフィールドパターン測定により、電流励起型VCSEL21からの出射光が、良好な単一横モードと縦モード性を得ていることを確認した。図7(実際には図示した以上のディップが観測されたが、ここでは吸収量の多い代表的なディップのみを示した図)に示すように、半導体レーザ吸収分光装置20では、ディップが非常に深く、その形状も鋭角となっているため、ガス圧が1mbarと低いにもかかわらず、高いS/N比と波長精度を有するデータが得られたことが分かる。図8に示すように、半導体レーザ吸収分光装置20により得られた光吸収量とシミュレーションにより得られた光吸収量とは、吸収線波長のズレはなく、非常に良く一致し、全ての吸収線波長が観測されたことが分かる。
このように、複合共振器50を有する半導体レーザ吸収分光装置20によれば、アンモニアガス圧が10mbar未満においても、高いS/N比を確保できるため、精度の良いガス濃度測定を実現することが可能となる。
上記では、被測定ガスとしてアンモニアガスG1を用いて説明したが、半導体レーザ光の発振波長付近に吸収線波長を有するガスであれば、どのようなガスに適用しても良く、上述したアンモニアガスの濃度測定と同様な作用効果を奏する。
以下に、第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置について、図を用いて説明する。
図9は、本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置は、上述した第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における電流励起型VCSEL、光学絞りおよび凹面鏡の配置位置を変えたものであり、これ以外は前記半導体レーザ吸収分光装置と同じ構成を有する。これらの構成については、上記第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置と同じ符号を付記し、同一符号については、その説明を省略する。
本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置56は、ガスセル57の外側に電流励起型VCSEL21、光学絞り22および凹面鏡23を配置したものであり、電流励起型VCSEL21の一方から出射した半導体レーザ光L1は、ガスセル54、光学絞り22、凹面鏡23、レンズ51を通って、第1のフォトダイオード52に入射する。電流励起型VCSEL21の他方から出射した半導体レーザ光L2は、ヒートシンク25および可動ステージ26の貫通孔25a,26a、レンズ53、エタロン共振器54を通って、第2のフォトダイオード55に入射する。
ガスセル57の両端面は、1度〜7度程度の角度をつけて斜めに加工してあり、端面における半導体レーザ光の反射による影響を極力少なくするようにしてある。よって、第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置56によれば、第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置20と同様な作用効果を奏する。さらに、ガスセル57の外部に電流励起型VCSEL21が配置されるので、ガスセル57の温度を制御するヒータ43の影響を受けずに、電流励起型VCSEL21の駆動温度を制御することができるという利点がある。
以下に、第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置について、図を用いて説明する。
図10は、本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図であり、図11は、その装置における光励起型面発光半導体レーザの構造図である。第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置は、上述した第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における電流励起型VCSELを光励起型面発光半導体レーザに代えたものであり、これ以外は前記半導体レーザ吸収分光装置と同じ構成を有する。これらの構成については、上記第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置と同じ符号を付記する。
ここでは、1mbarのガス圧を有する被測定ガスであるアンモニアガスの濃度計測について詳細に説明する。
図10に示すように、本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置58は、発振波長より短い波長を有する励起光によりレーザ発振する光励起型面発光半導体レーザ(以下、光励起型VCSELと略す)59と、光励起型VCSEL59により発振された半導体レーザ光の光路上に配置された光学絞り22と、前記光路上に配置されると共に、光学絞り22に相対して配置された凹面鏡23とを有する。ただし、光励起型VCSEL59と光学絞り22と凹面鏡23とは、後述するレーザ発振波長付近に吸収線波長を有する被測定ガスであるアンモニアガスG1を封入するガス容器であるガスセル24内に配置されている。
光励起型VCSEL59と、光励起型VCSEL59に隣接して配置されるヒートシンク25とは、AuSnはんだ(図示せず)等により可動ステージ26上に固定されており、光励起型VCSEL59には、レーザドライバ60が接続されている。光励起型VCSEL59は、可動ステージ26に内蔵された電子冷却装置(図示せず)とレーザドライバ60により、温度と電流値をそれぞれコントロールして、駆動が行われる。ヒートシンク25および可動ステージ26の温度は、室温と同じ温度に設定されている。
図11に示すように、光励起型VCSEL59では、InP基板(図示せず)上に、InP層61、InGaAsP/InGaAsP多重量子井戸活性層(MQW活性層)62、InP層61、InP系DBR層63を順次形成されている。InP系DBR層63は、1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のn−InP層(図示せず)とn−InGaAsP(バンドギャップ波長1.3μm)層(図示せず)を交互に5対積層したDBR構造となっている。
前記InP基板を除去して薄膜化した基板と、熱伝導率の高いGaAs系DBR層64(1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のGaAs層とAlAs層を交互に積層した層)が形成されたGaAs基板65とを、薄膜化Wafer-fusion技術により貼り合わせることにより、レーザ駆動時の発熱により出力特性の劣化を抑制する構造となる。InP系DBR層63の上部に、1.55μm光学波長の1/4となる膜厚のTiO2とSiO2を交互に積層した誘電体DBR層66を形成して、MQW活性層62の両側に高反射鏡が形成される。また、GaAs基板65には反射防止膜67が形成されている。
光励起型VCSEL59は、GaAs系DBR層64からなる反射率99.6%を有する第1の反射鏡R4と、InP系DBR層63と誘電体DBR層66からなる反射率90%を有する第2の反射鏡R5により、利得媒質であるMQW活性層62を挟んだ第1の共振器を形成している。一方、第3の反射鏡R6として反射率99.8%を有する凹面鏡23を第2の反射鏡R5と相対する位置に設置することで第2の共振器を形成している。前記第1の共振器と前記第2の共振器は結合しており、結合共振器構造を形成している。
光励起による半導体レーザ光の発振は、図10に示すように、光励起型VCSEL59の発振波長より短い波長を有し、光励起光源68から発振される励起光L3により励起されて半導体レーザ光が発振される。ここでは、光励起光源68として、980nmで発振する端面発光型半導体レーザが用いられている。光励起光源68から発振された励起光L3は、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing、WDM)フィルタ69の第1のポート69a、およびWDMフィルタ69の第2のポート69bに接続されている光ファイバ70(図11参照)を経て、レンズ53によりスポットサイズが直径20μmに変換されて光励起型VCSEL59に照射される。
励起光L3によりレーザ発振が起こり、凹面鏡23側から半導体レーザ光L4が出射しており、反対側のGaAs基板61(図11参照)側からは半導体レーザ光L5が出射している。半導体レーザ光L5は、光ファイバ70を経由してWDMフィルタ69の第2のポート69bに入射し、第3のポート69cを経てエタロン共振器54を通過して、第2のフォトダイオード52に入射する。このとき、WDMフィルタ67の作用により、第2のポート67bから入射した半導体レーザ光L5は、第1のポート67aから出射することはない。また、第1のポート67aから入射した励起光L3も、第3のポート67cから出射することはない。
このような光励起型VCSEL59では、電流駆動のために必要な電極形成や電流狭窄構造の形成が不要となるため、作製工程が大幅に省略でき、簡便に作製することが可能となる。半導体レーザ光は第1の反射鏡R4と第2の反射鏡R5の両側からそれぞれ出射しており、第3の反射鏡R6から出射する半導体レーザ光L4は、第1の反射鏡R4から出射する半導体レーザ光L5の20倍程度の出力光強度となるように調整されている。
一方、ガスセル24は長さ約40cmであり、1000℃以上の高い温度の耐性がある石英などの材料で構成されており、かつ光励起型VCSEL59から出射される半導体レーザ光に対し透明である材質を用いている。ガスセル24の両端面は、1〜7度程度の角度をつけて斜めに加工されており、端面における半導体レーザ光の反射による影響が極力少なくなるようになっている。また、ガスセル24内のアンモニアガスG1の温度は、ガスセル24の周りに設けられたヒータ43により一定になるよう調整されており、ガスセル24内のアンモニアガスG1のガス圧は、ガスセル24のガス出口24aに設けられたガス圧力計44によりモニタされている。
アンモニアガスG1のガスセル24への充填は、上述した第1の実施例と同様に、最初に、ガスセル24のガス入口24bを閉じた状態で、ガス出口24aに真空ポンプ(図示せず)を接続してガスセル24内を真空引きした後、ガス出口24aを閉じる。続いて、ガス入口24bにアンモニアガスG1の入った容器(ボンベ)等を接続し、ガス入口24bを開け、ガス圧力計44にて1mbarのガス圧となるまでアンモニアガスG1を充填して、ガス入口24bを閉じる。ヒータ43の温度は、室温に設定されている。
光学絞り22および凹面鏡23には、それぞれ可動ステージ45,46上に設置されている。各可動ステージ26,45,46には、XYZ軸ステージコントローラ47,48,49が接続されており、光励起型VCSEL59、光学絞り22および凹面鏡23の位置がそれぞれ調整可能になっている。光励起型VCSEL59、光学絞り22および凹面鏡23からなる2つの共振器が結合した複合共振器71が形成され、複合共振器71では、各位置を調整することにより、単一横モード化および単一縦モード化が行われている。曲率半径10cmの凹面鏡23を用いたため、凹面鏡23と光励起型VCSEL59間の距離を、10cm程度を目安としてXYZ軸ステージコントローラ47,48,49により、可動ステージ26、45および46を微動調整して、半導体レーザ光の単一横及び縦モード化を実現している。
光励起型VCSEL59から出射された半導体レーザ光が伝搬する光路におけるガスセル24の一方の端部に相対してレンズ51が配置されており、レンズ51に相対してガスセル24の第1のフォトダイオード52が配置されている。前記光路におけるガスセル24の他方の端部に相対してレンズ53が配置され、レンズ53に相対してエタロン共振器54が配置されており、エタロン共振器54に相対して第2のフォトダイオード55が配置されている。
光励起型VCSEL59から出射された半導体レーザ光L4は、アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致しない場合には、ガスセル24の一方の端部、レンズ48を経て第1のフォトダイオード52に入射しており、このフォトダイオード52に発光強度(電圧・電流)が記録されている。アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致する場合には、アンモニアガスG1に前記半導体レーザ光L4は吸収される。光励起型VCSEL59の反対側からは、半導体レーザ光L4の1/20程度の出力光強度を有する半導体レーザ光L5が、同一の波長で出射されている。この半導体レーザ光L5をヒートシンク25および可動ステージ26の貫通孔25a,26a、レンズ53、光ファイバ70、WDMフィルタ69、エタロン共振器54を経て第2のフォトダイオード55に入射しており、高分解能で発振波長がモニタされる。
半導体レーザ吸収分光装置58では、図6に示すように、電流の増加に比例して光の発振波長が漸増し、光の出力強度が所定の割合で変化している。また光スペクトル測定とファーフィールドパターン測定により、光励起型VCSEL59からの出射光が、良好な単一横モードと縦モード性を得ていることを確認した。図7(実際には図示した以上のディップが観測されたが、ここでは吸収量の多い代表的なディップのみを示した図)に示すように、半導体レーザ吸収分光装置58では、ディップが非常に深く、その形状も鋭角となっているため、ガス圧が1mbarと低いにもかかわらず、高いS/N比と波長精度を有するデータが得られたことが分かる。図8に示すように、半導体レーザ吸収分光装置58により得られた光吸収量とシミュレーションにより得られた光吸収量とは、吸収線波長のズレがなく、非常に良く一致し、全ての吸収線が観測されたことが分かる。
このように、複合共振器71を有する半導体レーザ吸収分光装置58によれば、アンモニアガス圧が10mbar未満においても、高いS/N比を確保できるため、精度の良いガス濃度測定を実現することが可能となる。また、光励起型VCSEL59を用いることにより、電極や電流狭窄構造が不要となるため、面発光型半導体レーザの作製が簡便になるという効果がある。
上記では、被測定ガスとしてアンモニアガスを用いて説明したが、半導体レーザ光の発振波長付近に吸収線波長を有するガスであれば、どのようなガスに用いても良く、上述したアンモニアガスの濃度測定と同様な作用効果を奏する。
以下に、第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置について、図を用いて説明する。
図12は、本発明の第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置は、上述した第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における光励起型VCSEL、光学絞りおよび凹面鏡の配置位置を変えたものであり、これ以外は前記半導体レーザ吸収分光装置と同じ構成を有する。これらの構成については、上記第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置と同じ符号を付記し、同一符号については、その説明を省略する。
本発明の第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置72は、ガスセル73の外側に光励起型VCSEL59、光学絞り22および凹面鏡23を配置したものであり、光励起型VCSEL59の一方から出射した半導体レーザ光L4は、ガスセル73、光学絞り22、凹面鏡23、レンズ51を通って、第1のフォトダイオード52に入射する。光励起型VCSEL59の他方から出射した半導体レーザ光L5は、ヒートシンク25および可動ステージ26の貫通孔25a,26a、レンズ53、WDMフィルタ69、およびエタロン共振器54を通って、第2のフォトダイオード55に入射する。
ガスセル73の両端面は、1度〜7度程度の角度をつけて斜めに加工してあり、端面における半導体レーザ光の反射による影響を極力少なくするようにしてある。よって、第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置72によれば、第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置58と同様な作用効果を奏する。さらに、ガスセル73の外部に光励起型VCSEL59が配置されるので、ガスセル73の温度を制御するヒータ43の影響を受けずに、光励起型VCSEL59の駆動温度を制御することができるという利点がある。
以下に、第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置について、図を用いて説明する。
図13は、本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図であり、図14は、その装置における光出力と発振波長の電流依存性を示すグラフであり、図15は、この装置による測定結果を示すグラフであり、図16は、光吸収量と発振波長との関係を示すグラフであり、図16(a)にその装置における光吸収量の測定結果を示し、図16(b)に光吸収量のシミュレーション結果を示す。第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置は、上述した第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における電流励起型VCSELを、端面発光型半導体レーザに代えたものであり、これ以外は前記半導体レーザ吸収分光装置と同じ構成を有する。これらの構成については、上記第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置と同じ符号を付記する。
ここでは、1mbarのガス圧を有する被測定ガスであるアンモニアガスの濃度計測について詳細に説明する。
図13に示すように、本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置74は、現在の光ファイバ通信網に用いられている端面発光型半導体レーザ75と、端面発光型半導体レーザ75により発振された半導体レーザ光の光路上に配置された光学絞り22と、前記光路上に配置されると共に、光学絞り22に相対して配置された凹面鏡23とを有する。ただし、端面発光型半導体レーザ75と光学絞り22と凹面鏡23とは、後述するレーザ発振波長付近に吸収線波長を有する被測定ガスであるアンモニアガスG1を封入するガス容器であるガスセル24内に配置されている。
端面発光型半導体レーザ75と、端面発光型半導体レーザ75に隣接して配置されるヒートシンク25とは、AuSnはんだ(図示せず)等により可動ステージ26上に固定されており、端面発光型半導体レーザ75には、レーザドライバ76が接続されている。端面発光型半導体レーザ75は、可動ステージ26に内蔵された電子冷却装置(図示せず)とレーザドライバ76により、温度と電流値をそれぞれコントロールして、駆動が行われる。前記電子冷却装置には、温度コントローラ28が接続されており、ヒートシンク25および可動ステージ26の温度は、室温と同じ温度に設定されている。
端面発光型半導体レーザ75は、n−InP基板上にn−InPクラッド層、InGaAsP/InGaAsP多重量子井戸活性層(MWQ活性層)、p−InPクラッド層、コンタクト層を順次形成した後、誘電体マスクとフォトリソグラフィーにより幅1μmのメサストライプに加工し、メサストライプに加工してなる突起部の周囲を半絶縁性のInp層で埋め込んだ構造となっている。前記n−InP基板側にn電極を、また前記コンタクト層の上部にはp電極を形成し、凹面鏡23側の端面には反射防止膜を形成しており、もう一方の端面には、反射率95%の高反射膜であるファブリペロー型の半導体レーザ(共振器長500μm)を形成して、電流注入によりレーザ発振するようになっている。
端面発光型半導体レーザ75は、端面発光型半導体レーザ75の端面に形成された高反射膜からなる第1の反射鏡と、もう一方の端面に形成された反射防止膜からなる反射率1%を有する第2の反射鏡により、利得媒質である前記MQW活性層を挟んだ第1の共振器を形成している。一方、第3の反射鏡として反射率90%を有する凹面鏡23を、前記第2の反射鏡と相対する位置に設置することで第2の共振器を形成している。前記第1の共振器と前記第2の共振器とは結合しており、結合共振器構造を形成している。
半導体レーザ光は前記第1の反射鏡の一側部、前記第3の反射鏡の一側部からそれぞれ出射しており、前記第3の反射鏡の一側部から出射する半導体レーザ光L6は、前記第1の反射鏡から出射する半導体レーザ光L7の20倍程度の出力光強度となるように調整されている。
一方、ガスセル24は長さ約40cmであり、1000℃以上の高い温度の耐性がある石英などの材料で構成されており、かつ端面発光型半導体レーザ75から出射される半導体レーザ光に対し透明である材質を用いている。ガスセル24の両端面は、1〜7度程度の角度をつけて斜めに加工されており、端面における半導体レーザ光の反射による影響が極力少なくなるようになっている。また、ガスセル24内のアンモニアガスG1の温度は、ガスセル24の周りに設けられたヒータ43により一定になるよう調整されており、ガスセル24内のアンモニアガスG1のガス圧は、ガスセル24のガス出口24aに設けられたガス圧力計44によりモニタされている。
アンモニアガスG1のガスセル24への充填は、上述した実施例1と同様に、最初に、ガスセル24のガス入口24bを閉じた状態で、ガス出口24aに真空ポンプ(図示せず)を接続してガスセル24内を真空引きした後、ガス出口24aを閉じる。続いて、ガス入口24bにアンモニアガスG1の入った容器(ボンベ)等を接続し、ガス入口24bを開け、ガス圧力計44にて1mbarのガス圧となるまでアンモニアガスG1を充填して、ガス入口24bを閉じる。ヒータ43の温度は、室温に設定されている。
光学絞り22および凹面鏡23には、それぞれ可動ステージ45,46上に設置されている。各可動ステージ26,45,46には、XYZ軸ステージコントローラ47,48,49が接続されており、端面発光型半導体レーザ75、光学絞り22および凹面鏡23の位置がそれぞれ調整可能になっている。端面発光型半導体レーザ75、光学絞り22および凹面鏡23からなる2つの共振器が結合した複合共振器79が形成され、複合共振器79では、各位置を調整することにより、単一横モード化および単一縦モード化が行われている。曲率半径10cmの凹面鏡23を用いたため、凹面鏡23と端面発光型半導体レーザ75間の距離を、10cm程度を目安としてXYZ軸ステージコントローラ47,48,49により、可動ステージ26、45および46を微動調整して、単一横及び縦モード化を実現している。
端面発光型半導体レーザ75から出射された半導体レーザ光が伝搬する光路におけるガスセル24の一方の端部に相対してレンズ51が配置されており、レンズ51に相対してガスセル24の第1のフォトダイオード52が配置されている。前記光路におけるガスセル24の他方の端部に相対してレンズ53が配置され、レンズ53に相対してエタロン共振器54が配置されており、エタロン共振器54に相対して第2のフォトダイオード55が配置されている。
端面発光型半導体レーザ75から出射した半導体レーザ光L6は、アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致しない場合には、ガスセル24の一方の端部、レンズ51を経て第1のフォトダイオード52に入射しており、このフォトダイオード52に発光強度(電圧・電流)が記録される。アンモニアガスG1の吸収線と波長が一致する場合には、アンモニアガスG1に前記レーザ光は吸収される。端面発光型半導体レーザ75の反対側からは、半導体レーザ光L6の1/20程度の出力光強度を有する半導体レーザ光L7が、同一の波長で出射される。この半導体レーザ光L7は、レンズ53、エタロン共振器54を経て第2のフォトダイオード55に入射しており、高分解能で発振波長がモニタされる。
半導体レーザ吸収分光装置74では、図14に示すように、電流の増加に比例して半導体レーザ光の発振波長が漸増すると共に、半導体レーザ光の出力強度が漸増している。また光スペクトル測定とファーフィールドパターン測定により、端面発光型半導体レーザ75からの出射光が、良好な単一横モードと縦モード性を得ていることを確認した。図15(実際には図示した以上のディップが観測されたが、ここでは吸収量の多い代表的なディップのみを示した図)に示すように、半導体レーザ吸収分光装置74では、ディップが非常に深く、その形状も鋭角となっているため、ガス圧が1mbarと低いにもかかわらず、高いS/N比と波長精度を有するデータが得られたことが分かる。図16に示すように、半導体レーザ吸収分光装置74により得られた光吸収量とシミュレーションにより得られた光吸収量とは、吸収線波長のズレがなく、非常に良く一致し、全ての吸収線が観測されたことが分かる。
このように、複合共振器79を有する半導体レーザ吸収分光装置74によれば、アンモニアガスG1が10mbar未満においても、高いS/N比を確保できるため、精度の良いガス濃度測定を実現することが可能となる。
上記では、被測定ガスとしてアンモニアガスを用いて説明したが、レーザ発振波長付近に吸収線波長を有するガスであれば、どのようなガスに用いても良く、上述したアンモニアガスの濃度測定と同様な作用効果を奏する。
以下に、第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置について、図を用いて説明する。
図17は、本発明の第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置は、上述した第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における端面発光型半導体レーザ、光学絞りおよび凹面鏡の配置位置を変えたものであり、これ以外は前記半導体レーザ吸収分光装置と同じ構成を有する。これらの構成については、上記第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置と同じ符号を付記し、同一符号については、その説明を省略する。
本発明の第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置77は、ガスセル78の外側に端面発光型半導体レーザ75、光学絞り22および凹面鏡23を配置したものであり、端面発光型半導体レーザ75の一方から出射した半導体レーザ光L6は、ガスセル78、光学絞り22、凹面鏡23、レンズ51を通って、第1のフォトダイオード52に入射する。端面発光型半導体レーザ75の他方から出射した半導体レーザ光L7は、レンズ53、エタロン共振器54を通って、第2のフォトダイオード55に入射する。
ガスセル76の両端面は、1度〜7度程度の角度をつけて斜めに加工してあり、端面における半導体レーザ光の反射による影響を極力少なくするようにしてある。よって、第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置77によれば、第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置74と同様な作用効果を奏する。さらに、ガスセル78の外部に端面発光型半導体レーザ75が配置されるので、ガスセル78の温度を制御するヒータ43の影響を受けずに、端面発光型半導体レーザ75の駆動温度を制御することができるという利点がある。
本発明は、半導体レーザ吸収分光装置に利用することが可能である。
本発明の一実施形態に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の一実施形態に係る半導体レーザ吸収分光装置における複合共振器構造の説明図である。
本発明の一実施形態に係る半導体レーザ吸収分光装置における注入電流と光出力との関係を示すグラフである。
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における電流励起型面発光半導体レーザの説明図である。
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における光出力と発振波長の電流依存性を示すグラフである。
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置による測定結果を示すグラフである。
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置による測定結果およびシミュレーションにおける光吸収量と発振波長との関係を示すグラフである。
本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における光励起型面発光半導体レーザの構造図である。
本発明の第4の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置における光出力と発振波長の電流依存性を示すグラフである。
本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置による測定結果を示すグラフである。
本発明の第5の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置による測定結果およびシミュレーションにおける光吸収量と発振波長との関係を示すグラフである。
本発明の第6の実施例に係る半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
従来の半導体レーザ吸収分光装置の概略図である。
従来の半導体レーザ吸収分光装置における注入電流と光出力との関係を示すグラフである。
従来の半導体レーザ吸収分光装置による測定結果を示すグラフである。
従来の半導体レーザ吸収分光装置による測定結果およびシミュレーションにおける光吸収量と発振波長との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 面発光型半導体レーザ
2 光学絞り
3 凹面鏡
4 n−InP基板
5 n−DBR層
6 多重量子井戸活性層(MQW活性層)
7 p−DBR層
8 p−InGaAsコンタクト層
9 反射防止膜
11 p電極
12 n電極
13 第1の共振器
14 第2の共振器