以下、本発明の第1の実施形態に係る核種変換装置及び核種変換方法ついて添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る核種変換方法の原理を説明する図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る核種変換方法にて使用される構造体11を示す断面構成図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る核種変換装置30の構成図であり、図4は、図3に示す核種変換装置30での多層構造体32を示す断面構成図であり、図5(a)は混合層(積層体)22の断面構成図であり、図5(b)は混合層22を含む構造体11の断面構成図であり、図6は、構造体11に核種変換を施される物質を添加する装置の構成図である。
本実施の形態による核種変換方法を実現する装置10は、例えば図1に示すように、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる、例えば略板状の構造体11と、この構造体11の両面のうち、一方の表面11A上に付着された核種変換を施す物質14とを備え、構造体11の一方の表面11A側が例えば加圧あるいは電気分解等により重水素の圧力が高い領域12とされ、他方の表面11B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされることで構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる装置である。ここで、構造体11は、例えば図2に示すように、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
図3に示すように、本実施の形態による核種変換装置30は、内部が気密保持可能とされた吸蔵室31と、この吸蔵室31の内部にて多層構造体32を介して気密保持可能に設けられた放出室34と、バリアブルリークバルブ33を介して吸蔵室31内に重水素を供給する重水素ボンベ35と、放出室34内の真空度を検出する放出室真空計36と、例えば多層構造体32から生成されるガス状の反応生成物を検出すると共に放出室34内の重水素量を計測することにより多層構造体32を透過する重水素の透過量を評価する質量分析器37と、放出室34内を常に真空状態に保つターボ分子ポンプ38と、放出室34及びターボ分子ポンプ38内を荒引きするためのロータリーポンプ39とを備えて構成されている。
さらに、核種変換装置30は、例えばX線や電子線、粒子線等の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子やイオン等を検出する静電アナライザー40と、多層構造体32の両面のうち吸蔵室31内の重水素に曝される表面上にX線を照射するXPS(X-ray Photo-electron Spectrometry:X線照射光電子スペクトル分析)用のX線銃41と、内部に重水素が導入された吸蔵室31内の圧力を検出する圧力計42と、例えばベリリウム窓43を有する高純度ゲルマニウム検出器44からなるX線検出器と、吸蔵室31内の真空度を検出する吸蔵室真空計45と、例えば重水素の導入以前等に吸蔵室31内を真空状態に保持する真空バルブ46と、吸蔵室31を真空状態にするターボ分子ポンプ47と、吸蔵室31及びターボ分子ポンプ47内を荒引きするためのロータリーポンプ48とを備えて構成されている。
そして、多層構造体32の吸蔵室31側を相対的に重水素の圧力が高い状態とし、多層構造体32の放出室34側を相対的に重水素の圧力が低い状態として、多層構造体32の両面において重水素の圧力差を形成することで、吸蔵室31側から放出室34側へ重水素の流れを作り出す。ここで、例えば図4に示すように、多層構造体32は、Pd基板23の表面上に相対的に仕事関数が低い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層され、さらに、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質としてセシウム(Cs)層52が添加されて構成されている。
本実施の形態による核種変換装置30は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置30を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
先ず、例えば図2に示すPd基板23(例えば、縦25mm×横25mm×厚さ0.1mm、純度99.5%以上)をアセトン中で所定時間に亘って超音波洗浄することにより脱脂する。そして、真空中(例えば、1.33×10-5Pa以下)において、例えば900℃の温度で所定時間(例えば、10時間)に亘ってアニールつまり加熱処理を行う(ステップS01)。次に、例えば室温でアニール後のPd基板23を重王水により所定時間(例えば、100秒間)に亘ってエッチング処理を施して表面の不純物を除去する(ステップS02)。
次に、アルゴンイオンビームによるスパッター法を用いて、エッチング処理後のPd基板23上に成膜処理を施して構造体11を作成する。ここで、例えば図2に示すPd層21の厚さは400・10-10mとし、仕事関数の低い物質とPdとの混合層22は、例えば図5(a)に示すように、例えば厚さ100・10-10mのCaO層57と、例えば厚さ100・10-10mのPd層56とを交互に積層して形成し、この混合層22の厚さを1000・10-10mとした。そして、混合層22の表面上にPd層21を400・10-10mで成膜することにより、構造体11を形成した(ステップS03)。
次に、CsNO3のD2O希薄溶液(CsNO3/D2O溶液)の電気分解により、核種変換を施す物質として、例えばCsを構造体11の成膜処理表面に添加する。例えば、図6に示す電着装置60のように、1mMのCsNO3/D2O溶液を電解液62として、電源61の陽極に白金陽極63を接続し、陰極に構造体11を接続して、例えば1Vの電圧で10秒間に亘って電気分解を行い、構造体11の表面上で下記化学式(1)に示す反応を発生させてCs層52を添加して、多層構造体32を形成する(ステップS04)。
そして、多層構造体32のCs層52を吸蔵室31側に向けて、多層構造体32を介在させて吸蔵室31と放出室34とをそれぞれ気密状態に閉塞して、先ず、放出室34をロータリーポンプ39およびターボ分子ポンプ38により真空排気する。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じ、真空バルブ46を開いて吸蔵室31をロータリーポンプ48およびターボ分子ポンプ47により真空排気する(ステップS05)。次に、吸蔵室31の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析する(ステップS06)。すなわち、X線銃41からのX線を多層構造体32の表面に照射して、このX線の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子のエネルギーを静電アナライザー40により検出する。これにより、多層構造体32の吸蔵室31側の表面上に存在する元素を同定する。
次に、多層構造体32を、加熱装置(図示略)により例えば70℃の温度で加熱した後、真空バルブ46を閉じて吸蔵室31の真空排気を停止して、バリアブルリークバルブ33を開いて吸蔵室31内に所定のガス圧力で重水素ガスを導入して、核種変換の実験を開始する。ここで、重水素ガスを導入する際の所定のガス圧力は例えば1.01325×105Pa(いわゆる1気圧)とした。そして、放出室34の質量分析器37でガス状の反応生成物(例えば、質量数A=1〜140)の測定を行い、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素の拡散挙動の評価を行う。また、多層構造体32の吸蔵室31側の高純度ゲルマニウム検出器44によりX線の測定を行う(ステップS07)。なお、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素量は、例えば放出室真空計36により検出される放出室34内の真空度と、ターボ分子ポンプ38の排気速度とに基づいて算出する。
吸蔵室31内に重水素ガスの導入を開始してから所定時間、例えば数十時間後に、多層構造体32の温度を常温に戻す。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じて吸蔵室31内への重水素ガスの導入を停止して、さらに、真空バルブ46を開いて吸蔵室31を真空排気して核種変換の実験を終了する。そして、吸蔵室31内の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析して生成物の測定を行う(ステップS08)。
そして、上述したステップS06〜ステップS07の処理を繰り返して、核種変換反応の時間変化を測定する(ステップS09)。そして、多層構造体32を核種変換装置30から取り出して、核種変換の実験を終了する(ステップS10)。
以下に、上述した本実施形態による核種変換方法により行った核種変換実験での2つの実験結果、すなわち同一の実験を2回実施した際の実施例1及び実施例2について図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、図4に示す多層構造体32の表面上におけるXPSによるPrのスペクトルを示すグラフ図であり、図8は図4に示す多層構造体32の表面上におけるCs及びPrの原子数の時間変化を表すグラフ図である。実施例1及び実施例2でのXPSの分析結果により、実施例1及び実施例2にて、多層構造体32のCs(原子番号Z=55)は時間が経過するにつれて減少して、例えば図7に示すXPSによるPrのスペクトルのように、Pr(プラセオジウム、原子番号Z=59)が増加した。以下に、XPSによるCs及びPrに対するスペクトルから、各元素の原子数を算出する方法について説明する。
なお、XPSでの測定時にX線銃41から多層構造体32に対して照射されるX線の強度は常に一定とし、これらのX線が照射されている領域は実施例1及び実施例2の各測定において同一であると仮定した。さらに、多層構造体32の表面上でX線が照射されている領域は、例えば直径5mmの円形領域とし、放出される光電子の脱出深さの見積もりから、XPSにて分析可能な深さは例えば20・10-10mとした。また、Pd基板23を構成するPdはfcc(面心立方格子)結晶なので、XPSにより得られたPdのスペクトルのピーク強度から、Pdの原子数は3.0×1015個と算出した。
そして、各元素のイオン化断面積、すなわち元素の内殻電子が例えばX線等を吸収して励起する割合を参照して、XPSにより得られる各元素のスペクトルのピーク強度とPdのスペクトルのピーク強度とを比較することによって、各元素の原子数を算出する。なお、表1には、各元素のイオン化断面積の計算値を、Cの1s軌道に対する値(2.22×10-24m2)を「1」とした場合の相対値として示した。なお、下記表1において、Siの2p及びSの2p及びClの2pについては、2p3/2と2p1/2の和として算出した。
図8に示すように、実施例1では、初期状態で1.3×1014個存在していたCsが、48時間後には8×1013個に減少し、120時間後には5×1013個に減少している。一方、実験開始以前には存在しなかったPrが48時間後には3×1013個検出され、120時間後には7×1013個に増加しているのが観測された。同様にして、実施例2においても実験開始からの時間経過に伴って、Csの原子数の減少と、Prの生成及びPrの原子数の増加が観測され、実施例1とほぼ同様の傾向を示している。これにより、CsからPrへの核種変換が起きていると解釈できる。
なお、以下において、検出されたPrが不純物に由来するものであるか否かについて考察する。上述した本実施形態に係る実施例1及び実施例2では、多層構造体32を吸蔵室31及び放出室34からなる真空容器から取り出すことなく元素分析を行っているので、不純物が混入する原因として考えられるのは重水素ガス(D2ガス)に含まれる不純物と多層構造体32内部の不純物である。D2ガスは例えば純度99.6%であり、不純物としては、N2及びD20が10ppm以下で、O2及びCO2及びCOが5ppm以下とされており、核種変換装置30内でD2ガスを分析した場合にも、これらの不純物及び炭化水素以外のガスは検出されなかった。
一方、多層構造体32においては、Pdの純度は99.5%、CaO及びCsNO3の純度は99.9%である。また、グロー放電質量分析法(GD−MS)によって実験開始以前の多層構造体32に対してランタノイド(57La〜71Lu)の定量分析を行った結果、Ndが0.02ppm検出され、Nd以外の他のランタノイドは検出限界以下、つまり0.01ppm以下であった。ここで、実施例1及び実施例2で使用した多層構造体32(例えば、0.7g≒7×10-3mol)内に、検出限界である0.01ppmのPrが存在していると仮定すると、多層構造体32中にPrの原子が4.2×1013個存在することになる。
この場合、実施例1及び実施例2にて検出されたPr原子は、上記仮定に基づく検出限界以下のPr原子に起因すると仮定すると、これらの検出限界以下の全てのPr原子が多層構造体32の表面上から数10・10-10mの深さの領域に濃縮するようにして配置されていると仮定する必要があり、多層構造体32中に不純物として分散配置されているPr原子が、多層構造体32の表面近傍にのみ集中するような物理現象は熱力学的に不可能であり、実施例1及び実施例2にて検出されたPr原子が、予め多層構造体32中に含まれていた不純物であると結論することはできない。しかも、予め多層構造体32中に含まれていた不純物であれば、原子数の時間変化は観測されずに一定値を保持すると判断できる。以上より、実施例1及び実施例2にて検出されたPrは、核種変換反応の結果として生成されたと結論できる。
なお、上述した実施例1及び実施例2での実験結果は、例えば、米国原子力学会が発行しているFusion Technology誌(Y. Iwamura, T. Itoh, N. Gotoh andI.
Toyoda, "Detection of Anomalous Elements, X-ray and Excess Heat in aD2-Pd
System and its Interpretation by the Electron-Induced Nuclear Reaction
Model", Fusion Technology, vol.33, No.4,P.476,1998)に掲載されたEINRモデルによって非常に良く説明できる。このEINRモデルによれば、PrはCsから下記数式(1)及び(2)によって生成されると考えられる。なお、下記化学式(2)及び(3)において、dは重水素、eは電子、2nはダイニュートロン、νはニュートリノをそれぞれ示している。
化学式(2)に示すように、EINRモデルでは重水素が電子を捕獲してダイニュートロンが生成し、同時にCs等の物質と反応して核種変換が起きると考えている。なお、化学式(3)でβ崩壊、すなわち141Cs(=133Cs+42n)から141Prへ向かうβ-崩壊の記号は省略した。
上述したように、本実施の形態による核種変換装置10によれば、例えば原子炉や加速器等の相対的に大規模な装置を必要とせずに、相対的に小規模な構成で核種変換の処理を施すことができる。また、本実施の形態による核種変換方法によれば、実験開始以前には検出されず核種変換の実験開始後に増加傾向に検出されたPrの原子数が、供給されたD2ガスや多層構造体32中に予め含まれていた不純物に起因して検出された可能性を廃して、CsからPrへの核種変換反応が生じていることを再現性良く確実に示すことができる。
なお、上述した本実施の形態においては、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質としてセシウム(Cs)層52を添加して多層構造体32を構成したが、これに限定されず、核種変換を施す物質としてCsの代わりに、例えば炭素(C)等のその他の物質を添加しても良い。以下に、本実施形態の第1変形例として、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質として例えば炭素(C)を添加した場合について図9及び図10を参照しながら説明する。図9は実施例3にて、多層構造体32の表面上におけるC及びMg及びSi及びSの各原子数の時間変化を表すグラフ図であり、図10は実施例4にて、多層構造体32の表面上におけるC及びMg及びSi及びSの各原子数の時間変化を表すグラフ図である。
この第1変形例において、上述した第1の実施形態と大きく異なる点は多層構造体32を形成する方法、特に、上述したステップS04での処理である。すなわち、上述したステップS03の後に、Pd基板23及び混合層22及びPd層21からなる構造体11を大気中に曝すことで、Pd層21の表面上に大気中の炭素(C)を付着させて多層構造体32を形成する(ステップS14)。そして、Cが付着したPd層21を吸蔵室31側に向けて、多層構造体32を介在させて吸蔵室31と放出室34とを閉塞して、吸蔵室31及び放出室34の双方をそれぞれ真空排気する(ステップS15)。そして、上述したステップS06以下の処理を行う。
以下に、この本実施形態の第1変形例による核種変換方法により行った核種変換実験での2つの実験結果、すなわち同一の実験を2回実施した際の実施例3及び実施例4について添付図面を参照しながら説明する。この場合、実施例3及び実施例4でのXPSの分析結果により、実施例3及び実施例4にて、多層構造体32のCは時間が経過するにつれて減少して、反応生成物であるSi及びSと、中間生成物であるMgとが検出された。そして、上述した本実施の形態と同様にして、XPSによるC及びMg及びSi及びSに対するスペクトルから、各元素の原子数を算出した。
図9に示すように、実施例3では、炭化水素に由来するCの原子数は、実験開始後の44時間後に減少しているのに対し、実験開始以前には存在しなかったMgが44時間後には検出され、しかも、116時間後にはやや減少している。さらに、実験開始以前には存在しなかったSi及びSは、44時間後、116時間後において単調増加している。
図10に示すように、実施例4では、炭化水素に由来するCの原子数は、実験開始後の24時間後、76時間後、116時間後において単調減少しているのに対し、実験開始以前には存在しなかったMgが24時間後には生成して、しかも、76時間後、116時間後において単調減少している。さらに、実験開始以前には存在しなかったSi及びSは、24時間後、76時間後、116時間後において単調増加している。
以上の結果より、本実施形態の第1変形例に係る核種変換方法によって、Cが核種変換して、Mg及びSi及びSが生成されたと結果できる。この場合、上述したEINRモデルによると、Cの核種変換は上記化学式(2)及び下記化学式(4)にて表される。なお、化学式(4)においては、ダイニュートロンクラスター(62n、22n)による反応を示した。
以下に、本実施形態の第2変形例として、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質として例えばストロンチウム(Sr)を添加した場合について図11から図17を参照しながら説明する。図11は、本実施形態の第2変形例に係る多層構造体32を示す断面構成図であり、図12は、図11に示す多層構造体32の表面上におけるXPSによるMoのスペクトルを示すグラフ図であり、図13および図14は、図11に示す多層構造体32の表面上におけるSr及びMoの原子数の時間変化を表すグラフ図である。図15は天然に存在するMoの同位体存在比を質量数の変化と共に示すグラフ図であり、図16は第5実施例にて多層構造体32の表面上に観測されたMoの同位体存在比を質量数の変化と共に示すグラフ図であり、図17は核種変換を施す物質として添加された天然に存在するSrの同位体存在比を質量数の変化と共に示すグラフ図である。
この第2変形例では、上述した第1の実施形態の多層構造体32において、核種変換を施す物質からなるCs層52の代わりにSr層53を添加した。すなわち、上述した第1の実施形態と大きく異なる点は多層構造体32を形成する方法、特に、上述したステップS04での処理である。なお、この第2変形例では、Pd基板23として、例えば、縦25mm×横25mm×厚さ0.1mm、純度99.9%以上を用いた。この第2変形例では、上述したステップS03の後に、SrOのD2O希薄溶液(Sr(OD)2/D2O溶液)の電気分解により、核種変換を施す物質として、例えばSrを構造体11の成膜処理表面に添加する。例えば、図6に示す電着装置60において、1mMのSr(OD)2/D2O溶液を電解液62として、電源61の陽極に白金陽極63を接続し、陰極に構造体11を接続して、例えば1Vの電圧で10秒間に亘って電気分解を行い、構造体11の表面上で下記化学式(5)に示す反応を発生させてSr層53を添加して、多層構造体32を形成する(ステップS04a)。
そして、多層構造体32のSr層53を吸蔵室31側に向けて、上述したステップS05以下の処理を行う。
以下に、この本実施形態の第2変形例による核種変換方法により行った核種変換実験での2つの実験結果、すなわち同一の実験を2回実施した際の実施例5及び実施例6について添付図面を参照しながら説明する。実施例5及び実施例6でのXPSの分析結果により、実施例5及び実施例6にて、多層構造体32のSr(原子番号Z=38)は時間が経過するにつれて減少して、例えば図12に示すXPSによるMoのスペクトルのように、Mo(モリブデン、原子番号Z=42)が増加した。
ここで、XPSにより得られるSr及びMoに対するスペクトルから、各元素の原子数を算出する際には、上述した第1の実施形態と同様の方法を用いた。すなわち、XPSでの測定時にX線銃41から多層構造体32に対して照射されるX線の強度は常に一定とし、これらのX線が照射されている領域は実施例5及び実施例6の各測定において同一であると仮定した。さらに、多層構造体32の表面上でX線が照射されている領域は、例えば直径5mmの円形領域とし、放出される光電子の脱出深さの見積もりから、XPSにて分析可能な深さは例えば20・10-10mとした。また、Pd基板23を構成するPdはfcc(面心立方格子)結晶なので、XPSにより得られたPdのスペクトルのピーク強度から、Pdの原子数は3.0×1015個と算出した。
そして、各元素のイオン化断面積、すなわち元素の内殻電子が例えばX線等を吸収して励起する割合を参照して、XPSにより得られる各元素のスペクトルのピーク強度とPdのスペクトルのピーク強度とを比較することによって、各元素の原子数を算出した。
図13に示すように、実施例5では、初期状態で1.2×1014個存在していたSrが、80時間後には1.0×1014個に減少し、240時間後には8×1013個に減少し、400時間後には4×1013個に減少している。一方、実験開始以前には存在しなかったMoが80時間後には約2.2×1013個検出され、240時間後には約3.2×1013個に増加し、400時間後には3.8×1013個に増加しているのが観測された。同様にして、図14に示す実施例6においても、実験開始からの時間経過に伴って、Srの原子数の減少と、実験開始以前には存在しなかったMoの生成及びMoの原子数の増加が観測され、実施例5とほぼ同様の傾向を示している。また、実施例5および実施例6の両方において、Srの原子数の減少の時間変化と、Moの原子数の生成および増加の時間変化とが、ほぼ一致していることから、SrからMoへの核種変換が起きていると解釈できる。しかも、実施例5および実施例6の両方において、定性的に再現性の良い実験結果が得られていると結論することができる。
さらに、実施例5においては、核種変換の実験終了後、つまり上述したステップS10の後に、多層構造体32の表面を二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により分析して、生成されたMoの同位体存在比を算出した。例えば図15に示す天然に存在するMoの同位体存在比に比べて、例えば図16に示す第5実施例にて観測されたMoの同位体存在比では、特定の同位体、すなわち96Moのみが突出して高い存在率を示していることが分かる。ここで、例えば図17に示すように、核種変換を施す物質として多層構造体32に添加された天然に存在するSrの同位体存在比では、特定の同位体、すなわち88Srのみが突出して高い存在率を示していることが分かる。すなわち、核種変換を施す物質(Sr)の同位体存在比と、実験開始以前には存在せずに、実験終了後に生成された物質(Mo)の同位体存在比とが、強い相関関係にあると結論することができ、実施例5および実施例6にて検出されたMoは、Srに対する核種変換により生成されたと結論できる。
さらに、実施例5及び実施例6での実験結果は、例えば、上述したEINRモデルによって非常に良く説明することができ、例えば96Moは上記化学式(2)及び下記化学式(6)によって生成されると考えられる。なお、化学式(6)でβ崩壊、すなわち96Sr(=88Sr+42n)から96Moへ向かうβ-崩壊の記号は省略した。
以下、本発明の参考例に係る核種変換装置及び核種変換方法ついて添付図面を参照しながら説明する。図18は本発明の参考例に係る核種変換方法の原理を説明する図であり、図19は本発明の参考例に係る核種変換装置80の構成図である。
本参考例による核種変換方法を実現する装置70は、例えば図18に示すように、例えば白金等の陽極71と、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこの合金等からなる陰極72と、陽極71と陰極72の一方の表面とを浸す重水溶液73と、陰極72により液密とされ、例えば核種変換を施す物質が含まれた重水溶液73が満たされた電解セル74と、陰極72により気密とされた真空容器75とを備え、陰極72の一方の表面72A側が例えば電気分解等により重水素の圧力が高い領域とされ、他方の表面72B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域とされることで陰極72内部に重水素の流れが生成され、重水素と核種変換を施す物質とが反応することによって核種変換が行われる装置である。ここで、陰極72は、例えば図2に示す構造体11と同様の構成を有しており、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
図19に示すように、本参考例による核種変換装置80は、電源81と、圧力計82を備えた電解セル83と、電解セル83内に貯溜される電解溶液84と、真空容器85と、電解セル83内の電解溶液84を冷却する螺旋状の例えば絶縁性の樹脂等からなる冷却管86と、触媒87と、電源81の陰極に接続されて電解溶液84に浸漬された白金等の陽極電極88と、電解セル83内を液密に保持すると共に、真空容器85内を気密に保持して、電源81の陰極に接続された多層構造体89と、電解セル83及び真空容器85を格納して温度を制御する恒温槽90と、真空容器85内を真空状態とする真空排気ポンプ91とを備えて構成されている。
ここで、例えば絶縁性の樹脂等からなる電解セル83及び例えばステンレス等からなる真空容器85のそれぞれは、耐薬品性に優れた例えばカルレッツOリング等を介して多層構造体89によって、液密及び気密状態に封止されており、いわば多層構造体89を介して接続されている。また、電解セル83内に貯溜された電解溶液84は、核種変換を施す物質として例えばセシウム(Cs)が含まれた重水溶液、例えば濃度が3.1mol/lのCs2(SO4)重水溶液とされている。なお、触媒87は、白金上に白金黒を電着したものより構成され、電解溶液84の電気分解により発生した大部分の水素及び酸素から水を生成して、再び、電解溶液84に戻す。
本参考例による核種変換装置80は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置80を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
先ず、上述した第1の実施形態に係る核種変換方法におけるステップS01〜ステップS03と同様にして構造体11を作成する。そして、この構造体11を多層構造体89として、この多層構造体89のPd層21を電解セル83側に向けて、電解セル83及び真空容器85をそれぞれ液密及び気密状態に封止する(ステップS21)。次に、電解セル83内に電解溶液84として、例えば濃度が3.1mol/lのCs2(SO4)重水溶液を注入する。さらに、電解セル83内部で電解溶液84が満たされていない空間を窒素ガスで置換して封入し、電解セル83内の圧力を例えば1.5kg/cm2に保持する(ステップS22)。
そして、真空容器85内を真空ポンプ91にて排気して真空状態に保持する(ステップS23)。そして、例えば絶縁性の樹脂等からなる冷却管86内に冷媒を供給して、電解セル83内の温度を所定の一定温度に保持する(ステップS24)。そして、電解セル83内で電解溶液84に浸漬された例えば白金からなる陽極電極88と、陰極とされる多層構造体89とを電源81に接続して、電源81から供給される電力により電気分解反応を発生させる(ステップS25)。ここで、電気分解時に供給する電流は、例えば3時間で徐々に1Aから2Aへ上昇させ、この後、2Aを保持する。
そして、電気分解開始後、12時間後に恒温槽90の温度を70℃として、以後、この温度を保持する(ステップS26)。この電気分解を所定時間、例えば7日間持続した後に電気分解を停止して、恒温槽90の温度を常温にする(ステップS27)。そして、核種変換装置80から多層構造体89を取り外して、多層構造体89の表面を二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により分析する(ステップS28)。
以下に、上述した本実施形態による核種変換方法により行った核種変換実験での実験結果、すなわち実施例7について図20及び図21を参照しながら説明する。図20は、図19に示す核種変換装置80を用いた実験後の多層構造体89の電解セル83側の表面を示す図であり、図21は、図19に示す核種変換装置80を用いた実験後の多層構造体89の表面のSIMS分析結果を示すグラフ図である。
図20に示す重水素が透過した部分96と、図20に示す重水素が透過していない部分95とに対して、図21に示すように、140Ceについては二次イオンの強度が一致しているが、139La及び141Prでは重水素が透過した部分96、すなわち核種変換反応が発生している部分の方が、二次イオンの強度が大きくなっている。また、質量数A=142については、142Ceと142Ndとの何れかであるかを判別することはできないが、重水素が透過した部分96の方が、二次イオンの強度が大きくなっている。これにより、少なくとも141Prは、Csが核種変換されて生成された物質であると結論できる。
上述したように、本参考例による核種変換装置80によれば、例えば原子炉や加速器等の相対的に大規模な装置を必要とせずに、相対的に小規模な構成で核種変換の処理を施すことができる。しかも、上述した第1の実施の形態に係る核種変換装置30とは異なる構成でありながら、CsからPrへの核種変換反応が生じていることを示す実験結果を得ることができ、本発明の本質的手段の有効性を示すことができる。また、本参考例による核種変換方法によれば、多層構造体89における重水素が透過した部分96と、重水素が透過していない部分95との比較から、少なくともCsからPrへの核種変換反応が生じていることを確実に示すことができる。
なお、本参考例においては、電解溶液84として核種変換を施す物質を含む重水溶液を用いるとしたが、これに限定されず、多層構造体89の一方の表面上に、例えば真空蒸着やスパッター法の成膜処理によって核種変換を施す物質、例えばCsを積層して、このCsが積層された面を電解セル83の内部に向けて、電解セル83に貯溜された重水溶液からなる電解溶液84に浸しても良い。この場合、重水溶液には核種変換を施す物質、つまりCsを含有させる必要はない。
なお、上述した本参考例においては、電解溶液84としてCsを含む重水溶液を用いるとしたが、これに限定されず、核種変換を施す物質としてCsの代わりに、例えばナトリウム(Na)等のその他の物質を添加しても良い。以下に、本参考例の変形例として、核種変換を施す物質として例えばナトリウム(Na)を重水溶液に添加した場合について説明する。
この変形例において、上述した参考例と大きく異なる点は、上述したステップS22以下の処理である。すなわち、上述したステップS21の後に、電解セル83内に電解溶液84として、例えばナトリウムが400ppmだけ添加された、濃度が4.3mol/lのLiOD重水溶液を注入する。さらに、電解セル83内部で電解溶液84が満たされていない空間を窒素ガスで置換して封入し、電解セル83内の圧力を例えば1.5kg/cm2に保持する(ステップS32)。
そして、真空容器85内を真空ポンプ91にて排気して真空状態に保持する(ステップS33)。そして、例えば絶縁性の樹脂等からなる冷却管86内に冷媒を供給して、電解セル83内の温度を所定の一定温度に保持する(ステップS34)。そして、電解セル83内で電解溶液84に浸漬された例えば白金からなる陽極電極88と、陰極とされる多層構造体89とを電源81に接続して、電源81から供給される電力により電気分解反応を発生させる(ステップS35)。ここで、電気分解時に供給する電流は、例えば6時間で徐々に0.5Aから2Aへ上昇させ、この後、2Aを保持する。
そして、この電気分解を所定時間、例えば7日間持続した後に電気分解を停止して、恒温槽90の温度を常温にする(ステップS36)。そして、核種変換装置80から多層構造体89を取り外して、多層構造体89の表面を電子プローブ・マイクロ・アナライザー(EPMA:Electron Probe Microanalysis)により分析する(ステップS37)。
以下に、上述した本発明の本参考例の変形例に係る核種変換方法により行った3つの核種変換実験での実験結果、すなわち同一の実験を3回実施した際の実施例8及び実施例9及び実施例10について説明する。なお、下記表2には、実施例8及び実施例9及び実施例10に対して、誘導励起プラズマ−オージェ電子スペクトル分析(ICP−AES:Inductive Coupled Plasma - Auger Electron Spectrometry)による電解溶液84の分析結果について示した。なお、実験開始以前における電解溶液84の分析結果を比較例とした。
表2に示すように、実験開始以前の電解溶液84にはNaが430ppm、Alは検出限界以下の1ppm以下である。一方、核種変換の実験後には、Naの方が一桁程度低い値の数十ppmとなり、Alが数百ppmとなった。実験の開始前後での電解溶液84の変化は、電源81から電流を与えて電気分解を行うだけであり、外部から他の物質が添加されることはない。また、原子数(表2での、Atom)では、減少したNaの原子数は2.2×1021から2.0×1021程度であり、Alの増加量にほぼ一致していることが確認できる。
この結果は、上述したEINRモデルでは上記化学式(2)及び下記化学式(7)で表される。
ここで、Naは23Naの天然存在率が100%であり、Alは27Alの天然存在率が100%である。従来の実験データから帰納的に同位体比構成の類似した核種同士の間で核種変換が生じやすいと判断でき、NaがAlに変換する可能性が高いことは、Na、Alの両元素とも安定に存在する同位体が唯一であることからも類推できる。また、多層構造体89の表面をEPMAによって分析した結果、多層構造体89の中心部、すなわち重水素が透過した部分からもAlが検出された。Alは両性金属であるため、電解溶液84中に溶解可能であるが、多層構造体89の中心部表面からもAlが検出されていることで、Naが核種変換されてAlが生成されたと結論することができる。
なお、本参考例においては、電解溶液84として核種変換を施す物質を含む重水溶液を用いるとしたが、これに限定されず、多層構造体89の一方の表面上に、例えば真空蒸着やスパッター法の成膜処理によって核種変換を施す物質、例えばNaを積層して、このNaが積層された面を電解セル83の内部に向けて、電解セル83に貯溜された重水溶液からなる電解溶液84に浸しても良い。この場合、重水溶液には核種変換を施す物質、つまりNaを含有させる必要はない。
以下、本発明の第2の実施形態に係る核種変換装置及び核種変換方法ついて添付図面を参照しながら説明する。図22は本発明の第2の実施形態に係る核種変換装置100の構成図である。
本実施の形態による核種変換装置100は、内部が気密保持可能とされた放出容器101と、この放出容器101の内部にて多層構造体102を介して気密保持可能に設けられた吸蔵容器103と、レギュレータバルブ104およびバルブ105を介して吸蔵容器103内に重水素を供給する重水素ボンベ106と、吸蔵容器103内の圧力を検出する圧力計107と、真空バルブ108を介して放出容器101内と吸蔵容器103内とを接続する接続配管109と、放出容器101内を真空状態に保つターボ分子ポンプ110と、放出容器101内及び吸蔵容器103内及びターボ分子ポンプ110内を荒引きするためのロータリーポンプ111と、放出容器101内の真空度を検出する真空計112とを備えて構成されている。
本実施の形態による核種変換装置100は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置100を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
先ず、例えば図2に示すPd基板23(例えば、直径70mm×厚さ0.1mm、純度99.9%以上)をアセトン中で所定時間に亘って超音波洗浄することにより脱脂する。そして、Arガス雰囲気中において、例えば900℃の温度で所定時間(例えば、10時間)に亘ってアニールつまり加熱処理を行う(ステップS41)。次に、アニール後のPd基板23に対して、例えば室温にて1.5倍希釈の王水により所定時間(例えば、100秒間)に亘ってエッチング処理を施して表面の不純物を除去する(ステップS42)。
次に、上述したステップS03と同様にして、アルゴンイオンビームによるスパッター法を用いて、エッチング処理後のPd基板23上に成膜処理を施して構造体11を作成する(ステップS43)。そして、上述したステップS04と同様にして、CsNO3のD2O希薄溶液(CsNO3/D2O溶液)の電気分解により、核種変換を施す物質としてCs層を構造体11の成膜処理表面に添加して、多層構造体102を形成する(ステップS44)。
そして、多層構造体102のCs層を吸蔵容器103側に向けて、多層構造体102を介在させて吸蔵容器103と放出容器101とをそれぞれ気密状態に閉塞する。そして、先ず、バルブ105を閉じ、接続配管109の真空バルブ108を開いて、放出容器101および吸蔵容器103をロータリーポンプ111およびターボ分子ポンプ110により真空排気する(ステップS45)。
次に、多層構造体102を、加熱装置(図示略)により例えば70℃の温度に加熱した後、真空バルブ108を閉じて吸蔵容器103の真空排気を停止して、バルブ105を開いて吸蔵容器103内に所定のガス圧力で重水素ガスを導入して、核種変換の実験を開始する。ここで、重水素ガスを導入する際の所定のガス圧力はレギュレータバルブ104によって調整し、例えば1.01325×105Pa(いわゆる1気圧)とした(ステップS46)。なお、多層構造体102を透過して放出容器101内に出てきた重水素量は、例えば真空計112により検出される放出容器101内の真空度と、ターボ分子ポンプ110の排気速度とに基づいて算出する。
吸蔵容器103内に重水素ガスの導入を開始してから所定時間、例えば数十時間後に、多層構造体102の温度を常温に戻す。そして、バルブ105を閉じて吸蔵容器103内への重水素ガスの導入を停止して、さらに、真空バルブ108を開いて吸蔵容器103を真空排気して核種変換の実験を終了する(ステップS47)。そして、核種変換装置100から多層構造体102を取り外して、この多層構造体102に王水でエッチング処理を施して、多層構造体102の表面上に存在する元素を溶かした溶液を作成する。この溶液に対して、高周波誘導結合プラズマ−質量分析(ICP−MS:Inductive Coupled Plasma - Mass Spectrometry)を適用して、多層構造体102の表面上に存在する元素の定量分析を行う(ステップS48)。
以下に、上述した本実施形態による核種変換方法により行った核種変換実験での2つの実験結果、すなわち同一の実験を2回実施した際の実施例11及び実施例12について表3を参照しながら説明する。なお、下記表3には、実施例11及び実施例12に対して、ICP−MSによる分析結果について示した。なお、実験開始以前における多層構造体102に王水でエッチング処理を施して生成した溶液の分析結果を比較例とした。
表3に示すように、比較例での実験開始以前の多層構造体102から得た溶液では、Prの重量が0.008μg、Csの重量は3.8μgである。このPrの量は計測器の検出限界値であり、バックグラウンドノイズとしての値である。これに対して、実施例12ではPrの重量が、バックグラウンドに対し十分高い値の0.12μgであった。さらに、実施例11にて、Prの重量は実施例12と比べて1桁程度高い値の1.3μgに増大し、Csの重量が2.3μgに減少した。すなわち、実施例11及び実施例12にて検出されたPrの増大は、CsからPrへの核種変換反応が発生した結果であると結論できる。しかも、反応断面積を大きくすることで、反応量を増大することができた。
上述したように、本実施の形態による核種変換装置100によれば、例えば原子炉や加速器等の相対的に大規模な装置を必要とせずに、相対的に小規模な構成で核種変換の処理を施すことができる。しかも、上述した第1の実施の形態に係る核種変換装置30とは異なる装置構成および異なる形状の多層構造体102でありながら、CsからPrへの核種変換反応が生じていることを示す実験結果を得ることができ、本発明の本質的手段の有効性を示すことができる。
また、上述した本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態においては、水素を吸蔵する金属としてパラジウム(Pd)を使用したが、これに限定されず、Pdの合金、或いは、例えばTi、Ni、V、Cu等のその他の水素を吸蔵する金属、又はこれらの合金等であってもよい。