JP4344505B2 - 澱粉誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、各種澱粉を原料とした工業用として用いることの出来る化工澱粉の製造法に関する。さらに詳しくは澱粉とN−メチロールアクリルアミドとを反応させて製造される、一般式(1)で表される澱粉誘導体の製造法に関する。さらに詳しくは、N−メチロールアクリルアミドとの縮合反応の触媒作用をするに充分量の酸性触媒の存在下にて、二重結合部位の重合を禁止する重合禁止剤を用いずに−20℃以上50℃未満にて反応を実施することを特徴とする澱粉誘導体の製造方法に関する。
【化3】
【0002】
【従来の技術】
化工および非化工澱粉製品は、各種の食品用および工業用の用途に広範囲に使用されている。このうち、工業用の用途としては、繊維製品のサイズ剤、紙のサイズ剤およびコーティング剤、段ボールおよび紙の接着剤、各種排水の凝集剤、各種粉体の粘結剤、染料や顔料の分散液の増粘剤、緩衝材としての成形品、等があげられる。これらの用途において、化工および非化工澱粉製品は、入手が容易で安全かつ安価な材料として用いられてきた。
【0003】
しかし、化工および非化工澱粉製品を用いて、コーティングや成形体の製造を行った場合、製造したコート層や成形体に耐水性がなく、これらに耐水性が必要な場合、別途耐水性材料として合成ゴムラテックスやポリ酢酸ビニル等の合成系樹脂を使用する必要があった。しかしながら、合成系樹脂は生分解性が少なく、これを含有した製品が環境中に破棄された場合、環境中に長期間残存するという問題がある。
【0004】
澱粉自体に耐水性を付与する方法として、自己反応性を付与することがあげられる。その一つに、バーバナツクによる特公昭60−45201号公報の澱粉アクリルアミドがある。反応体として反応性に富む二重結合を含む官能基を澱粉中の水酸基に導入した澱粉誘導体であり、高pH側では二重結合部分でミカエル反応により自己架橋する。また、ラジカル重合の進行によって分子内あるいは分子間でメチロール反応体由来の置換基同士が重合したり、エチレン系不飽和モノマー及びポリマーとの反応により、さまざまな物性を持った誘導体をさらに製造したりする事も可能である。またこれらの澱粉誘導体を糊化させた後にさらに反応させることも可能で、高粘度で耐水性のある澱粉系接着剤としても使用できる。しかしながら反応体は反応性が非常に高く、澱粉との反応中であっても反応体自体の重合が起こるため、該澱粉誘導体の製造には酸性触媒下にて重合禁止剤を用いることでこれらの反応を抑制し、目的の反応物を得る方法がとられてきた。
【0005】
しかしこの様な製造法は、澱粉、反応体、触媒、及び重合禁止剤を水またはその他の適当な溶媒を用いて混合させ、さらに最適な溶媒濃度になるまで乾燥させるという方法であり、煩雑でありコスト面において難があった。また、重合禁止剤を用いても高温での反応時における架橋反応を完全に抑制する事は難しく、さらに洗浄時に未反応物質と共に除去されてしまい、結果得られた該澱粉誘導体は反応性に富むため、使用前の貯蔵時において経時的に自己反応してしまうという欠点が生じる。また同様の理由により分子内架橋が進行する事で糊液の粘度変化が起きてしまう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、より簡便な方法にて重合禁止剤を用いることなく架橋反応を抑制し、目的とする置換度を持った、反応性に富む、経時安定性の高い澱粉誘導体の製造法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、検討を重ねた結果、一般式(1)で表される澱粉誘導体を製造する方法において、該反応を、澱粉とN−メチロールアクリルアミドとの縮合反応の触媒作用をするに充分量の酸性触媒の存在下にて、二重結合部位の重合を禁止する重合禁止剤を用いずに−20℃以上50℃未満にて反応を実施し、該反応を実施して得られた粗澱粉誘導体を、未反応のN−メチロールアクリルアミドを取り除き、かつ、洗浄後の該澱粉誘導体の5%(固形分重量%)水懸濁液または水溶液のpHが3以上6以下になる様に水または有機溶剤にて洗浄し、該洗浄後の澱粉誘導体に二重結合部位の重合を禁止する重合禁止剤を添加することによって耐水性に優れ、かつ、貯蔵時に自己反応をおこすことのない澱粉誘導体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化4】
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に於ける澱粉誘導体とは、アクリルアミド基を有した澱粉の誘導体である。
【0009】
本発明方法に於いて使用される澱粉は、工業的に使用が可能なコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、およびそれらを原料として製造した化工澱粉などがあげられる。
【0010】
また反応によって得られた澱粉誘導体は一般式(1)で表される。
【化5】
【0011】
該澱粉誘導体(澱粉アクリルアミド)は反応性に富む二重結合基を含有しており、高pHにおいて澱粉中の水酸基とミカエル反応がおこり架橋する。あるいは二重結合基同士のラジカル重合によりポリマー鎖を形成する。例えば該澱粉アクリルアミドのスラリーに炭酸カルシウムを適量添加し、スラリーのpHを8.5程度に調整しこれを加熱して糊として使用すると、炭酸カルシウムによる固形分の増加によって耐水性が増加するだけではなく、乾燥後糊部を加熱することでさらに耐水性が増加するという効果が得られる。このようにして該澱粉誘導体は耐水性を増加させることができるが、糊化開始以前に架橋や重合反応が起きてしまうと、澱粉粒の膨潤が抑制されてしまい粘度変化が著しく、好ましくない。従って反応中及び貯蔵時にこれらの自己反応を抑制する必要がある。
【0012】
該澱粉誘導体の製造に用いる触媒は特に制限はないが、N−メチロールアクリルアミドの二重結合の反応を抑制し、水酸基側を澱粉と反応させるためには、反応時の該澱粉、N−メチロールアクリルアミド、触媒、及び水からなる混合物中のpHを下げる必要がある。従って酸性触媒として、オルトリン酸及びその塩類、硝酸、硫酸、塩化アンモニウム、酢酸、クエン酸、その他の無機酸類、及び有機酸類が使用できる。酸性触媒の使用量は澱粉、反応体、及び酸性触媒を混合した反応系を調整し、この混合体の5%(固形分重量%)水懸濁液または水溶液のpHを2以上7以下、好ましくは2以上5以下になるような量を用いる。
【0013】
本発明方法に於いて、澱粉誘導体の置換度は、0.002〜0.1であることが好ましい。置換度とは、多糖類を構成する単糖1個当たりの置換された水酸基の数の平均値である。例えば、置換度が0.01とは単糖100個について1個の水酸基が置換されていることを表す。澱粉誘導体の置換度が0.002未満であると、その耐水性や反応性が不十分のおそれがある。澱粉誘導体の置換度を0.1以上にするためには反応体、及び触媒量を増加させる必要があり結果として反応効率が低くなってしまい、より高コストになり好ましくない。また置換度が0.1を超えると、分子内架橋がおこり易く粘度変化が起こり好ましくない。
【0014】
反応時の該澱粉、N−メチロールアクリルアミド、触媒、及び水からなる混合物中の水分は、少ないとN−メチロールアクリルアミドが該澱粉中に均一に分散しないため全く反応しない部位が存在し、一方で該反応体が高濃度で接している部位では部分的に反応が起こり、架橋及び重合反応も起き易くなる。その結果粘性、接着安定性において好ましくない物性が現れるという欠点がある。水分が多すぎれば縮合反応が速やかに進行しない。従って混合物の水分は10%以上40%以下、好ましくは15%以上30%以下となるよう調整する。
【0015】
反応温度は低すぎると反応が進行せず、高すぎると目的とする縮合反応以外に、分子鎖の架橋および重合反応を促進してしまい好ましくない。従って−20℃以上50℃未満にて反応を実施することが望ましい。
【0016】
反応後の未反応物質および触媒は、水もしくは有機溶剤によって除去が可能である。反応後に得られた粗澱粉誘導体を2倍量以上の水もしくは有機溶剤にて懸濁し、濾過する。この操作を繰り返すことにより未反応物質、触媒および副産物の除去が可能である。有機溶剤による洗浄は、低温による乾燥が可能なので、これにより該澱粉アクリルアミドの自己反応を抑制できるという利点もある。
【0017】
洗浄時に、洗浄後の該澱粉誘導体の5%(固形分重量%)水懸濁液または水溶液のpHが3以上6以下になる様に調整することで、澱粉誘導体中の官能基の自己反応を抑制し、常温での長期間保存が可能になる。pHの測定方法は、該澱粉誘導体が冷水に溶解しないものならばその水懸濁液のpHを、また、冷水に溶解するものならばその水溶液のpHを、ガラス電極pHメーターにて測定すればよい。pH調整のための酸としては、オルトリン酸、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、その他の無機酸類、有機酸類、およびこれらの塩類が使用できる。
【0018】
洗浄後の該澱粉誘導体に重合禁止剤を添加することで、該澱粉アクリルアミドの重合を抑制し、常温での長期間保存が可能になる。重合禁止剤はハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p−ヒドロキシ−ジフェニルアミン、カテコール、アスコルビン酸などが挙げられる。
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、例に於ける部はすべて重量部、%はすべて重量%として表す。
【0019】
実施例1
反応体としてN−メチロールアクリルアミド50部、及び触媒としてオルトリン酸4部を水100部に均一に溶解させた。これをタピオカ澱粉1000部に加え十分に混合し反応体および触媒を澱粉中に均一に浸透させた。これを反応機にて混合しながら反応温度を45℃に保ち6時間反応させた。得られた粗澱粉誘導体を2300部の水に分散させ、未反応の反応体及び触媒を濾過により除去した。この洗浄操作を2回繰り返した後、再度2000部の水に分散させ、硝酸を用いてpHを4.0に調整した後に濾過し、得られた澱粉ケーキを50℃にて乾燥し、置換度0.045の澱粉アクリルアミドを得た。
【0020】
実施例2
実施例1における洗浄時のpH調整を、硝酸を用いてpHを3.0に調整した以外は同様に操作を行い、置換度0.045の澱粉アクリルアミドを得た。
【0021】
実施例3
実施例1における水を300部に、反応時の温度を0℃に、反応時間を120時間に変えた以外は同様に反応を行い、置換度0.008の澱粉アクリルアミドを得た。
【0022】
実施例4
実施例1における水を300部に、オルトリン酸を16部に、反応時の温度を−18℃に、反応時間を120時間に変えた以外は同様に反応を行い、置換度0.003の澱粉アクリルアミドを得た。
【0023】
実施例5
反応体としてN−メチロールアクリルアミド50部、及び触媒としてオルトリン酸4部を水300部に均一に溶解させた。これをタピオカ澱粉1000部に加え十分に攪拌し反応体および触媒を澱粉中に均一に浸透させた。これを乾燥機に入れ、45℃にて6時間乾燥及び反応させた。乾燥反応後の粗澱粉誘導体を2300部の水に分散させ、未反応の試薬及び触媒を濾過により除去した。この操作を2回繰り返したのち、再度2000部の水に分散させ、硝酸を用いてpHを4.0に調整した後に濾過し、得られた澱粉ケーキを50℃にて乾燥する事で目的の澱粉誘導体を得た。この結果、置換度0.036の澱粉アクリルアミドを得た。
【0024】
実施例6
実施例1におけるタピオカ澱粉を、酸化タピオカ澱粉(絶乾20%糊液の50℃、30rpmにおける粘度57.4cps)に、酸性触媒をオルトリン酸16部に変えた以外は同様に反応を行い、置換度0.034の酸化澱粉アクリルアミドを得た。
【0025】
実施例7
実施例1における洗浄時のpH調整を、硝酸を用いてpHを4.5に変え、ついで、アスコルビン酸0.1部を添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い、置換度0.045の澱粉アクリルアミドを得た。
【0026】
比較例1
実施例5における反応温度を100℃に、反応時間を1時間に変え、洗浄時のpH調整は行わなかった以外は同様に反応を行い、置換度0.055の澱粉アクリルアミドを得た。
【0027】
比較例2
実施例5における反応温度を50℃に変え、洗浄時のpH調整は行わなかった以外は同様に反応を行い、置換度0.046の澱粉アクリルアミドを得た。
【0028】
比較例3
重合禁止剤としてハイドロキノン0.1部を反応時に加えたほかは比較例1と同様の操作を行い、置換度0.052の澱粉アクリルアミドを得た。
【0029】
比較例4
実施例1における反応温度を60℃に変え、洗浄時のpH調整は行わなかった以外は同様に反応を行い、置換度0.048の澱粉アクリルアミドを得た。
【0030】
比較例5
実施例1における洗浄時のpHを、硝酸を用いて7.0に調整した以外は同様に操作を行い、置換度0.045の澱粉アクリルアミドを得た。
【0031】
比較例6
実施例1における洗浄時のpHを、硝酸を用いて2.5に調整した以外は同様に操作を行い、置換度0.045の澱粉アクリルアミドを得た。
【0032】
比較例7
反応体としてN−メチロールアクリルアミド50部を水1300部に均一に溶解させた。これにタピオカ澱粉1000部を撹拌しながら加えスラリーを調製した。このスラリーに触媒としてオルトリン酸を加え、スラリーのpHを3.0とした。スラリーpHを3.0に保ちながら撹拌し、反応温度を40℃に保ち6時間反応させた。得られた粗澱粉誘導体は未反応の反応体及び触媒を濾過により除去した。洗浄操作を2回繰り返した後、再度2000部の水に分散させ、硝酸を用いてpHを4.0に調整した後に濾過し、得られた澱粉ケーキを50℃にて乾燥し、置換度0.001の澱粉アクリルアミドを得た。
【0033】
性能試験1
実施例および比較例の各澱粉誘導体の架橋度合いを表1に示した。なお、架橋反応の度合いを調べる方法としては以下の方法を用いた。塩化亜鉛300gと塩化アンモニウム780gを脱イオン水1875gに溶解させ、15℃で19ボーメになるように調整した。この溶液の塩酸度が3.9±0.1になるようにアンモニア水、および塩酸を用いて調整し、濾過した溶液を電解液として用いた。試料を無水換算で150mg精秤し試験管に入れる。この試験管に電解液15mlを入れ、振盪し分散させる。分散後直ちに沸騰した湯浴中にて5分間加熱し冷却後再度振盪して10mlメスシリンダーに標線まで正確に入れる。18時間静置後の沈澱層の高さを読み取り架橋反応の進行の指標とした。架橋の度合いが強いほど沈澱層の高さ(沈降積)は低くなる。また、各試料の絶乾6%(実施例5のみ絶乾20%)濃度の糊液の50℃、30rpmにおける粘度も測定し同表に示した。比較例1、2、3、および4は実施例と比べ沈降積の値が低く、澱粉と反応体との反応時に望ましくない分子鎖の架橋および重合反応が起こっていることが示唆される。
【0034】
【表1】
【0035】
性能試験2
実施例1、2、5、7、および比較例によって得られた澱粉誘導体をそれぞれ密閉容器に入れ50℃の空気炉中に静置した。これを一週間ごとに取り出し、澱粉誘導体の架橋反応の進行具合を前述の方法に従って測定した。結果を表2に示す。また各サンプルの5%懸濁液のpHも同表に示す。比較例では懸濁液のpHが7付近、あるいは3以下の値となり、沈降積の値が急激に低下するのに比べ、実施例ではその低下は緩やかで、実施例は比較例と比べて50℃での貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0036】
【表2】
【0037】
性能試験3
タピオカ澱粉、実施例1、比較例3、および比較例7で得られた澱粉誘導体の絶乾6%スラリーを各々調製し、これにスラリー重量の40%の炭酸カルシウムをそれぞれ添加したものを85℃以上、10分間加熱して糊液とした。糊液を30cm×10cmのクラフト紙片の中央に幅2cm塗布した。これをもう一枚のクラフト紙と張り合わせ、乾燥した。糊で張り合わせた部分が中央に来るように幅2cmの短冊状に切断し、一方の端の上下二枚の紙にそれぞれクリップを取り付け、クリップに糸を結ぶ。その糸で短冊をつるし、もう一方の糸には10gの分銅をつけ、この分銅の重みで張り合わせた二枚のクラフト紙が引き剥がれるようにする。この形のまま、30℃の水槽に静かに投入し、静置した。水が張り合わせ部の糊に浸透し、糊が軟化して分銅の重みで次第にはがれていき、二枚のクラフト紙が完全に剥離するまでの時間を測定した。以上の操作を各サンプルで4回ずつ測定し、表3に示す結果を得た。実施例1、比較例3ともタピオカ澱粉よりも分離までの時間が長く耐水性が向上しているが、比較例7はタピオカ澱粉と大きな差がないことがわかる。
【0038】
【表3】
【0039】
性能試験4
糊によってクラフト紙を張り合わせ乾燥した後、糊部を120℃のアイロンにて3分間加熱したほかは性能試験3と同様の手順を行った。結果を表4に示す。性能試験3と比較して、加熱した場合は実施例1、比較例3とも分離までの時間が長くなり、耐水性がさらに向上しているが、比較例7はほとんど変化がないことがわかる。また、実施例1は比較例3に比べ時間が長く、より耐水性が向上していることがわかる。
【0040】
【表4】
【0041】
【発明の効果】
本発明の澱粉誘導体の製造法によって製造された澱粉誘導体は原料の澱粉に比べ、導入した官能基による架橋または重合反応が起こる事により耐水性が増した。また、従来の製造法に比べ、貯蔵時の安定性に優れた澱粉誘導体を製造できた。
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