しかし、上記特許文献1の方法によれば、基準信号に電気的なノイズやオフセットが生じると、ギャップエラーを正確に検出できないとの問題が生じる。他方、SILまたはSIMを用いる場合のギャップ調整は、上記の如く、ナノメートルオーダーの精度が必要となる。したがって、上記特許文献1の方法では、ギャップ調整を高精度に行えず、その結果、レーザスポットの微小化を円滑に達成できない惧れがある。
本発明は、このような問題を解消するものであり、SILまたはSIMとレーザ光被照射面との間のギャップを高精度に検出できるようにすることをその課題とするものである。
上記課題に鑑み本発明は、以下の特徴を有する。
請求項1の発明は、ソリッドイマージョンレンズ(SIL)またはソリッドイマージョンミラー(SIM)のレーザ光出射平面と該レーザ光が照射される被照射面との間のギャップ量を検出するギャップ検出方法において、前記レーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のうち第1の領域のレーザ光の波面状態と第2の領域のレーザ光の波面状態を相違させ、前記第1の領域のレーザ光と前記第2の領域のレーザ光の前記レーザ光出射平面によって全反射された光の強度の差分に基づいて、前記レーザ光出射平面と前記被照射面の間のギャップ量を検出することを特徴とする。
この発明によれば、第1の領域のレーザ光と第2の領域のレーザ光の、レーザ光出射平面によって全反射された光の強度の差分に基づく信号は、ギャップ量の変化に伴ってS字カーブとなる。よって、このS字カーブのゼロクロス位置を目標ギャップ量に設定すると、S字カーブの極性と振幅量から、目標ギャップ量に対する現ギャップ量の変化の方向とその大きさを検出できる。ここで、この検出は、上記特許文献1のように基準信号との対比において行われるものではないため、電気的なノイズやオフセットに対する耐性が高められる。したがって、本発明によれば、SILまたはSIMとレーザ光被照射面との間のギャップを高精度に検出することができる。
なお、請求項1に記載のギャップ検出方法において、前記第1の領域と前記第2の領域は、請求項2に記載のように、前記レーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のビーム領域を2分割したものとすることができる。こうすると、レーザ光出射平面によって全反射される光の全光量に対する第1および第2の領域に基づく全反射光の光量の比率を高めることができる。よって、これら2つの全反射光の光量差分を大きくすることができ、ギャップ検出を円滑に行うことができる。
また、第1の領域のレーザ光の波面と第2の領域のレーザ光の波面は、請求項3に記載のように、波面の凹凸状態が互いに逆転するよう設定することができる。こうすると、第1および第2の領域に基づく全反射光の光量差分を大きくすることができ、ギャップ検出を円滑に行うことができる。
請求項4の発明は、ソリッドイマージョンレンズ(SIL)またはソリッドイマージョンミラー(SIM)のレーザ光出射平面から出射されるレーザ光の焦点を目標面上に位置付けるための焦点調節装置において、前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーを前記目標面に対して光軸方向に相対的に変位させるアクチュエータと、レーザ光源と前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーとの間に配され、前記レーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のうち第1の領域のレーザ光の波面状態と第2の領域のレーザ光の波面状態を相違させる波面変換素子と、前記第1の領域のレーザ光と前記第2の領域のレーザ光の前記レーザ光出射平面によって全反射された光をそれぞれ受光してその電気信号を出力する第1および第2の受光素子と、前記第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分に基づいて前記アクチュエータを駆動する駆動回路とを有することを特徴とする。
この発明によれば、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分に基づく信号は、レーザ光出射平面と目標面との間のギャップ量の変化に伴ってS字カーブとなる。よって、このS字カーブのゼロクロス位置を目標面に対するレーザ光のオンフォーカス位置に設定すると、S字カーブの極性と振幅量から、オンフォーカス位置に対する焦点位置のずれ方向とずれ量を検出できる。ここで、この検出は、上記特許文献1のように基準信号との対比において行われるものではないため、電気的なノイズやオフセットに対する耐性が高められる。したがって、本発明によれば、目標面に対するレーザ光の焦点調節を高精度に行うことができる。
なお、請求項4の焦点調節装置において、前記第1の領域と前記第2の領域は、請求項5に記載のように、前記レーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のビーム領域を2分割したものとすることができる。こうすると、レーザ光出射平面によって全反射される光の光量に対する第1および第2の領域に基づく全反射光の光量の比率を高めることができる。よって、第1および第2の領域に基づく全反射光の光量差分を大きくすることができ、したがって、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分信号を大きくできる。よって、目標面に対する焦点調節を円滑に行うことができる。
また、第1の領域のレーザ光の波面と第2の領域のレーザ光の波面は、請求項6に記載のように、波面の凹凸状態が互いに逆転するよう設定することができる。こうすると、第1および第2の領域に基づく全反射光の光量差分を大きくすることができ、したがって、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分信号を大きくできる。よって、目標面に対する焦点調節を円滑に行うことができる。
さらに、前記波面変換素子は、請求項7に記載のように、前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーを保持するホルダーに一体的に装着することができる。こうすると、ソリッドイマージョンレンズまたはソリッドイマージョンミラーと波面変換素子の間の光軸ずれを抑制することができる。よって、この光軸ずれによって発生する焦点調節精度の低下を抑制することができる。
請求項8の発明は、光ピックアップ装置において、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を記録媒体上に収束させるソリッドイマージョンレンズ(SIL)またはソリッドイマージョンミラー(SIM)と、前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーをサーボ信号に応じて少なくとも光軸方向に変位させるアクチュエータと、前記レーザ光源と前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーとの間に配され、前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーのレーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のうち第1の領域のレーザ光の波面状態と第2の領域のレーザ光の波面状態を相違させる波面変換素子と、前記第1の領域のレーザ光と前記第2の領域のレーザ光の前記レーザ光出射平面によって全反射された光をそれぞれ受光してその電気信号を出力する第1および第2の受光素子とを有することを特徴とする。
この発明によれば、上記第4の発明と同様、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分信号は、レーザ光出射平面と記録媒体表面との間のギャップ量の変化に伴ってS字カーブとなる。よって、このS字カーブのゼロクロス位置を記録媒体の記録面に対するレーザ光のオンフォーカス位置に設定すると、S字カーブの極性と振幅量から、オンフォーカス位置に対する焦点位置のずれ方向とずれ量を検出できる。ここで、この検出は、上記特許文献1のように基準信号との対比において行われるものではないため、電気的なノイズやオフセットに対する耐性が高められる。したがって、本発明によれば、記録面に対するレーザ光の焦点調節を高精度に行うことができる。
なお、請求項8の光ピックアップ装置において、前記第1の領域と前記第2の領域は、請求項9に記載のように、前記レーザ光出射平面に臨界角以上の入射角で入射するレーザ光のビーム領域を2分割したものとすることができる。こうすると、レーザ光出射平面によって全反射される光の光量に対する第1および第2の領域に基づく全反射光の光量の比率を高めることができる。よって、第1および第2の領域に基づく全反射光の光量差分を大きくすることができ、したがって、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分信号を大きくできる。よって、記録媒体の記録面に対するレーザ光のフォーカス制御を円滑に行うことができる。
また、第1の領域のレーザ光の波面と第2の領域のレーザ光の波面は、請求項10に記載のように、波面の凹凸状態が互いに逆転するよう設定することができる。こうすると、第1および第2の領域に基づく全反射光の光量差分を大きくすることができ、したがって、第1および第2の受光素子から出力される電気信号の差分信号を大きくできる。よって、記録媒体の記録面に対するレーザ光のフォーカス制御を円滑に行うことができる。
さらに、前記波面変換素子は、請求項11に記載のように、前記ソリッドイマージョンレンズまたは前記ソリッドイマージョンミラーを保持するホルダーに一体的に装着することができる。こうすると、ソリッドイマージョンレンズまたはソリッドイマージョンミラーと波面変換素子の間の光軸ずれを抑制することができる。よって、この光軸ずれによって発生するフォーカス制御の精度の低下を抑制することができる。
以上のとおり本発明によれば、SILまたはSIMとレーザ光被照射面との間のギャップを高精度に検出することができ、目標面に対してレーザ光を精度良く焦点合わせすることができる。
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明を実施する際の一つの例示であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以下の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
図1に、実施の形態に係る光ピックアップ装置の光学系を示す。同図(a)は、SILを駆動するアクチュエータを除いた光学系の平面図、同図(b)は、このアクチュエータとミラー105の部分の側断面図である。
図示の如く、光ピックアップ装置の光学系は、半導体レーザ101と、コリメータレンズ102と、ビームスプリッタ103と、偏光ビームスプリッタ104と、ミラー105と、波面変換素子106と、1/4波長板107と、ホルダー108と、SIL109と、SILアクチュエータ110と、集光レンズ111、113と、光検出器112、114を備えている。
半導体レーザ101は、青色波長(400nm程度)のレーザ光を出射する。コリメータレンズ102は、半導体レーザ101から出射されたレーザ光を平行光に変換する。ビームスプリッタ103は、コリメータレンズ102側から入力されたレーザ光を所定の比率で透過および反射する。偏光ビームスプリッタ104は、ビームスプリッタ103側から入射されるレーザ光を略全透過するとともに、ミラー105側から入射されるディスクからの反射光を略全反射する。ミラー105は、偏光ビームスプリッタ104を透過したレーザ光をSIL109側に反射する。
波面変換素子106は、レーザ光の外周から中心方向に向かって所定距離範囲内にあるリング状の領域を2分割して生成されるそれぞれの領域に対し異なる波面収差作用を付与する。なお、波面変換素子106の構成および作用については追って詳述する。
1/4波長板107は、波面変換素子106側から入射されるレーザ光を円偏光に変換するとともに、ディスクからの反射光を、ディスクへ入射される際の偏光方向に直交する直線偏光に変換する。これにより、ディスクによって反射されたレーザ光は偏光ビームスプリッタ104によって略全反射される。
ホルダー108は、SIL109と波面変換素子106と1/4波長板107を保持する。SILアクチュエータ110は、図2に示すサーボ回路302からのサーボ信号に応じて、ホルダー108をフォーカス方向およびトラッキング方向に駆動する。これにより、SIL109と波面変換素子106と1/4波長板107は、フォーカス方向およびトラッキング方向に一体的に駆動される。なお、SILアクチュエータ110は、既存の対物レンズアクチュエータと同様、コイルと磁気回路の組み合わせによって構成できる。この場合、ホルダー108には、コイルを配すれば良い。この他、SILアクチュエータ110は、上記特許文献1に記載のように、エアーフローティングアクチュエータとピエゾ素子によるアクチュエータの組み合わせによって構成することもできる。
SIL109は、青色波長のレーザ光を、光記録媒体(たとえばディスク)に対して適正に収束できるよう設計されている。本実施の形態では、レーザ光は、SIL109に対し、1より大きな開口数(NA=1.3)にて入射する。図示の如く、SIL109は、球面と平面から構成される外形を有しており、1/4波長板107側が球面となり、ディスク側が平面となるようホルダー108に装着される。なお、上記特許文献1では、対物レンズとSILの組み合わせによってレーザ光がディスク上に収束されるよう構成されているが、本実施の形態におけるSIL109は、上記特許文献1における対物レンズとSILの両方の機能を兼ね備えている。よって、図1の構成例では、対物レンズが光学系から除かれている。
集光レンズ111は、ディスクによって反射されたレーザ光を光検出器112上に収束させる。ここで、検出器112は、図3に示す如く、受光したレーザ光の強度分布から再生RF信号とトラッキングエラー信号を導出するためのセンサーパターン112a(4分割センサー)を有している。
集光レンズ113は、SIL109の平面(ディスク面に対向する平面)によって全反射された光(以下、「全反射光」という)を光検出器114上に収束させる。ここで、検出器114は、図3に示す如く、受光した全反射光の強度分布からフォーカスエラー信号を導出するためのセンサーパターン114a(2分割センサー)を有している。フォーカスエラー信号の導出方法は、追って詳述する。
なお、全反射光は、ディスクからの反射光と異なり、偏光ビームスプリッタ104を略全透過する。すなわち、この全反射光は、SIL109の平面によって全反射する際に、位相が反転する。したがって、この全反射光がさらに1/4波長板107を透過すると、その偏光方向は、偏光ビームスプリッタ104を透過する方向となる。このため、この全反射光は、偏光ビームスプリッタ104を略全透過し、ビームスプリッタ103へと到達する。その後、この全反射光のうち、ビームスプリッタ103によって反射された光が、集光レンズ113を介して、光検出器114上に収束される。
図2に、センサーパターン112a、114aからの信号をもとに各種信号を生成する信号生成回路の構成例を示す。図示の如く、信号生成回路は、加算回路、減算回路から構成されている。以下では、センサーパターン112a上のセンサーA〜Dから出力される信号をSa〜Sdとし、センサーパターン114a上のセンサーGA、GBから出力される信号をSga、Sgbとして、各種信号の生成方法の説明を行う。
センサーパターン112aから出力される信号SaおよびSdと、信号SbおよびScは、それぞれ、加算回路201、202によって加算される。そして、それぞれの加算出力が加算回路203によって加算され、RF信号が生成される。生成されたRF信号は、再生回路301に出力され、記録データの再生処理が行われる。また、加算回路201、202からの信号は、減算回路204によって減算され、トラッキングエラー信号が生成される。
さらに、センサーパターン114aからの信号Sga、Sgbは、減算回路205によって減算され、フォーカスエラー信号(FE信号)が生成される。図示の如く、センサーパターン114a上に収束される全反射光の収束スポットはリング状となっている。
なお、センサーパターン114aは、後述の如く、センサーGA、GBに照射される全反射光の強度が、それぞれ、SIL109とディスク面の間のギャップに応じて変化するよう調整されている。具体的には、レーザ光の焦点が光記録媒体の記録面上に適正に位置付けられるようなギャップのとき、これら2つのセンサーにそれぞれ互いに等しい強度にて全反射光が照射され、レーザ光の焦点がこのオンフォーカス位置から光軸方向に前後すると、一方のセンサーに照射される全反射光の強度が他方のセンサーに比べて増減するようになる。したがって、減算回路205から出力される信号波形は、レーザ光がオンフォーカス状態にあるときにゼロクロスするS字カーブとなる。サーボ回路302は、このS字カーブの極性と振幅によって、フォーカスエラーの方向と大きさを検出する。そして、その検出結果に応じてフォーカスサーボ信号をSILアクチュエータ110に出力する。
なお、センサーGA、GBにおける全反射光の増減は、波面変換素子106による波面変換作用によって生じる。以下、波面変換素子106による波面変換作用とその効果について、図3ないし図8を参照しながら順を追って説明する。
まず、図3を参照して、SIL109と全反射光の関係について説明する。
図示の如く、本実施の形態では、NA=1.3にてレーザ光(平行光)がSIL109に入射される。このレーザ光のうち、NA=1.0までの範囲にある中央部のレーザ光は、SIL109の平面に対して臨界角よりも小さな入射角にて入射する。したがって、このレーザ光は、この平面を透過して、ディスクへと到達する。一方、NA=1.0〜1.3の範囲にある外周部のレーザ光は、臨界角よりも大きな入射角にてSIL109の平面に入射する。したがって、この外周部のレーザ光は、ディスクに到達する前にSIL109の平面によって全反射され、1/4波長板107へと逆戻りすることとなる。
ところが、SIL109の平面とディスク表面の間のギャップが所定値(100nm程度)より小さい場合には、この全反射光のうち一部がディスク表面へと伝搬する現象が生じる。この光は、既述の如く、エバネッセント光と呼ばれ、その伝搬量は、SIL109の平面とディスク表面の間のギャップが小さくなるほど大きくなる。つまり、SIL109の平面とディスク表面の間のギャップが小さくなるほどエバネッセント光の伝搬量が増加し、それに伴って、光検出器114に戻る全反射光の強度が減少する。なお、上記図2に示すように、センサーパターン114a上における全反射光の収束スポットがリング状になるのは、レーザ光のうち、臨界角以上でSIL109の平面に入射する外周部の光のみが光検出器114に戻るためである。
このように、エバネッセント光の伝搬量は、SIL109の平面とディスク表面の間のギャップに応じて変化するが、この他、SIL109の平面に対するレーザ光の入射角度によってもその伝搬量が変化する。
図4は、図3に示す構成において、エバネッセント光の伝搬量とギャップの関係を、SIL109の平面に対するレーザ光の入射角度毎に、シミュレーションしたものである。なお、このシミュレーションでは、入射角度のバリエーションを、35°、40°、45°、50°に設定している。また、縦軸に示すエバネッセント光の伝搬量は、ギャップがゼロのときの伝搬量を1としたときの比率によって示されている。
図示の如く、エバネッセント光は、ギャップが小さい範囲において生じるが、その伝搬量は、入射角度に依存して変化する。また、SIL109の平面に対するレーザ光の入射角が小さいほど、エバネッセント光は広いギャップ範囲で存在する。すなわち、ギャップを狭めた場合には、入射角が小さい方がより多くディスクへと伝搬することとなる。
図5は、波面変換素子106の構成を示す図である。同図(a)は、波面変換素子の平面図、同図(b)は、同図(a)のP−P’断面図である。なお、同図(b)には、波面変換素子106を透過する前後の波面が付記されている。
同図(a)に示す如く、波面変換素子106には、レーザ光に波面変換作用を付与する領域がリング状に形成されている。また、波面変換素子106は、左右2つの領域(領域A、B)に2分割されており、領域A、Bにそれぞれ形成された波面変換領域A2、B2は、互いに異なる波面収差作用をレーザ光に付与するものとなっている。
また、同図(b)に示す如く、波面変換領域A2、B2は、NA=1.0〜1.3に対応する領域となっている。ここで、波面変換領域A2、B2を通過した後のレーザ光の波面状態は、波面の凹凸が互いに逆転する。すなわち、波面変換領域A2、B2は、通過後の波面の凹凸が互いに逆転するような波面収差作用をレーザ光に付与するよう構成されている。
なお、同図(b)には、同図(a)をP−P’線で切断したときの波面変換素子106の断面図と、波面変換素子106を透過する前後のレーザ光の波面が示されているが、同図(a)の中心点Oを紙面に垂直に貫く直線を軸としてP−P’線を異なる位置に回転させたときの波面変換素子106の断面図と、波面変換素子106を透過する前後のレーザ光の波面も同図(b)と同様である。ただし、P−P’線が領域A、Bの分割線上にあるときは、同図(b)とは異なり、波面変換領域は存在せず、したがって、波面変換素子106を透過した後のレーザ光の波面は通過前と同様に直線のままである。
図6は、波面変換素子106によって付与される波面変換作用とエバネッセント光の伝搬量の関係を示す図である。
図中、(i)、(ii)、(iii)は、SIL109の外周部に入射するレーザ光を示し、(i)は、NA=1.3近傍にてSIL109に入射するレーザ光、(iii)は、NA=1.0近傍にてSIL109に入射するレーザ光を示している。また、これらの光のうち、実線は、波面変換素子106による波面収差作用を受けない場合の光の軌跡を示し、破線は、効果Aの波面となる波面収差作用を波面変換素子106から受けた場合の光の軌跡を示し、点線は、効果Bの波面となる波面収差作用を波面変換素子106から受けた場合の光の軌跡を示している。なお、SIL109の平面とディスク面の間のギャップ中に示す矢印は、実線、破線および点線の軌跡を辿るレーザ光の50%がエバネッセント光としてディスクへと伝搬するときのギャップを矢印の高さとして模式的に示すものである。
同図を参照して、波面変換素子106によってレーザ光が効果Aの波面収差作用を受けた場合、(i)と(iii)のレーザ光は、波面に垂直な方向に進むため、それぞれ破線の軌跡を辿る。この場合、(iii)のレーザ光は、効果Aの波面収差作用を受けない場合のレーザ光(実線)に比べ、SIL109の平面に対する入射角が大きくなるため、エバネッセント光の伝搬が起こり難くなる。ところが、この場合は、(i)と(iii)の光の入射角の差が小さくなるため、(i)から(iii)の範囲にある光は、エバネッセント光の生じ易さが互いに接近する。よって、この範囲にある光は、ギャップが所定値よりも小さくなると、内周部から外周部に向かって急激にエバネッセント光の伝搬が起こり、これに伴って、SIL109の平面における全反射光の割合が急激に減少するようになる。
一方、波面変換素子106によってレーザ光が効果Bの波面収差作用を受けた場合、(i)と(iii)のレーザ光は、波面に垂直な方向に進むため、それぞれ点線の軌跡を辿ることとなる。この場合、(iii)のレーザ光は、効果Bの波面収差作用を受けない場合のレーザ光(実線)に比べ、SIL109の平面に対する入射角が小さくなるため、エバネッセント光の伝搬が起こり易くなる。ところが、この場合は、(i)と(iii)の光の入射角の差が大きくなるため、(i)から(iii)の範囲にある光は、エバネッセント光の生じ易さが離れるようになる。よって、この範囲にある光は、ギャップの減少に応じて、内周部から外周部に向かって緩やかにエバネッセント光の伝搬が起こり、これに伴って、SIL109の平面における全反射光の割合が緩やかに減少する。
図7は、SIL109の平面上における全反射光の変化を模式的に示す図である。なお、同図(a)は、波面変換素子106による波面収差作用を受けない場合の全反射光の変化を示し、同図(b)は、波面変換素子106の波面変換領域A2、B2の両方に図6における効果Aの波面収差作用を付与したときの全反射光の変化を示し、同図(c)は、波面変換素子106の波面変換領域A2、B2の両方に図6における効果Bの波面収差作用を付与したときの全反射光の変化を示している。
同図(b)を参照して、レーザ光の外周部に効果Aの波面収差作用を付与した場合には、上記の如く、ある程度までギャップを狭めるまではエバネッセント光の伝搬が起こり難いため、SIL109の平面とディスク面の間のギャップが状態(4)から状態(3)に減少しても、全反射光の減少はそれほど大きくは生じない。ところが、この場合には、上記の如く、ギャップがある程度まで減少すると、リング状領域の内周部から外周部に向かって急激にエバネッセント光の伝搬が起こるため、ギャップの減少に伴う全反射光の減少が急峻となる。すなわち、ギャップが状態(3)から状態(2)、(1)へと減少するに伴って、全反射光は急激に減少する。
これに対し、レーザ光の外周部に効果Bの波面収差作用を付与した場合(同図(c)参照)には、上記の如く、SIL109の平面とディスク面の間のギャップがある程度大きくてもエバネッセント光の伝搬が起こるため、ギャップが状態(4)にあるときに既に、全反射光の割合は、同図(a)に示す波面変換素子106を介さない場合よりも小さくなる。この場合、ギャップが状態(4)から状態(3)に減少するに伴って全反射光の減少が進む。ところが、この場合には、上記の如く、ギャップの減少に伴ってエバネッセント光の伝搬が緩やかに起こるため、ギャップの減少に伴う全反射光の減少も緩やかとなる。すなわち、ギャップが状態(3)から状態(2)および状態(1)へ変化しても、全反射光の減少はそれほど顕著には起こらない。
なお、同図に示す例では、状態(2)のときに、全反射光の状態が、同図(a)(b)(c)において一致している。すなわち、波面変換素子による波面収差作用を受けない場合の全反射光と、レーザ光の外周部に図6における効果Aの波面収差作用を付与したときの全反射光と、レーザ光の外周部に図6における効果Bの波面収差作用を付与したときの全反射光は、SIL109の平面とディスク面の間のギャップが状態(2)にあるときに、互いに強度が一致する。
図8は、レーザ光の外周部に効果Aと効果Bの波面収差作用を付与した場合のギャップと全反射光の光量の関係(破線および点線)を示す。なお、同図上段には、レーザ光の外周部に波面収差作用を付与しない場合のギャップと全反射光の光量の関係(実線)が併せて示されている。また、図中(1)(2)(3)は、図7における状態(1)(2)(3)のギャップ状態を示している。
レーザ光の外周部に効果Aと効果Bを付与したときの全反射光の光量を互いに減算すると、同図下段の波形が得られる。この波形は、図示の如く、ギャップの変化に伴ってS字状に変化する。したがって、図5(a)に示す波面変化領域A、Bにそれぞれ効果A、Bを付与し、波面変化領域Aを通過したレーザ光の全反射光と波面変化領域Aを通過したレーザ光の全反射光がそれぞれ図2に示すセンサーパターン114aのセンサーGA、GBに導かれるよう波面変換素子106と光検出器114の配置を調整すれば、減算回路205から出力される差分信号は、図8下段と同様に、ギャップの変化に伴ってS字状に変化する。そして、この差分信号のゼロクロス位置がSIL109のオンフォーカス位置となるよう光学系を設定することにより、この差分信号をもとにSIL109に対してフォーカスサーボを掛けることができる。
図9に、波面変換素子106の具体的設計例を示す。
この設計例では、波面変換領域A、Bを通過した後のレーザ光が図3に示すSIL109の平面に入射する際の入射角が、波面変換領域A、Bを通過しない場合のレーザ光の入射角に対して、それぞれ、図9(a)(b)に示すように変化するような波面収差作用が、これら波面変換領域A、Bに付与されている。なお、同図の横軸には、波面変換素子106に対するレーザ光の入射位置が図3における開口数として示されている。
この設計例に従って波面変換素子106を設計すると、波面変化領域Aを通過したレーザ光の全反射光と波面変化領域Bを通過したレーザ光の全反射光の光量は、ギャップの変化にともなって、図10に示すように変化する。この場合、これら全反射光の光量差分は、同図に示すように、ギャップが100nmのときにゼロクロスするS字状に変化する。よって、図2に示す減算回路205からは、ギャップが100nmのときにゼロクロスするS字状の差分信号が出力される。したがって、この設計例は、ギャップが100nmのときにレーザ光が光記録媒体の記録面上にオンフォーカスするよう光学系が設計されている場合に適用される。なお、レーザ光がオンフォーカスするときのギャップが100nm以外の値をとる場合には、それに応じて、図9に示す入射角度の変化量の傾向を変更すれば良い。
以上、本実施の形態によれば、S字波形をとる信号に基づいて、SIL109とディスク面の間のギャップおよび光記録媒体の記録面に対するレーザ光のフォーカスずれを検出することができる。ここで、この検出は、上記特許文献1のように基準信号との対比において行われるものではないため、電気的なノイズやオフセットによる誤差を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、SIL109のフォーカス制御を高精度に行うことができる。
また、本実施の形態では、SIL109の平面に臨界角以上で入射するレーザ光の通過領域を全てカバーするように波面変換領域A2、B2が設定されているため、全反射光の全ても用いて、フォーカスエラー信号を生成することができ、よって、フォーカスエラー信号の振幅を高めることができる。よって、光記録媒体の記録面に対するレーザ光のフォーカス制御を円滑に行うことができる。
また、本実施の形態では、波面変換領域A2、B2を通過した波面の凹凸状態が互いに逆転するよう波面変換素子106が構成されているため、減算回路205によって減算された後の差分信号(フォーカスエラー信号)の振幅を大きくすることができる。よって、光記録媒体の記録面に対するレーザ光のフォーカス制御を円滑に行うことができる。
さらに、本実施の形態では、SIL109を保持するホルダー108に波面変換素子106が一体的に装着されているため、SIL109と波面変換素子106の間の光軸ずれを抑制することができる。よって、この光軸ずれによって発生するフォーカス制御の精度の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、波面変換素子106によって波面変換されたレーザ光の外周部がエバネッセント光として光記録媒体上に導かれるため、この外周部によって生じる収差が光ピックアップ装置の光学特性に何らかの影響を及ぼすことが考えられる。この影響を抑制する場合には、波面変換領域A2、B2の形成領域を減少させれば良いが、この場合には、波面変換領域A2、B2の形成領域の減少に伴って、差分信号(フォーカスエラー信号)の振幅が小さくなり、フォーカスエラー信号がノイズによる影響を受けやすくなる。よって、この場合には、上記収差に基づく光学特性への影響と、フォーカスエラー信号に対するノイズの影響とを対比しながら、波面変換領域A2、B2の形成領域を適宜設定するようにすればよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施形態も、上記以外に種々の形態をとることができる。
たとえば、上記実施の形態では、SIL109を用いた光学系を示したが、図11に示すように、SIL109をSIM120に置き換えることもできる。
また、上記実施の形態では、SIL109の平面に臨界角以上で入射するレーザ光の通過領域を全てカバーするように波面変換領域A2、B2を設定するようにしたが、波面変換領域A2、B2の何れか一方のみを形成するようにしても良く、また、図5(a)の斜線領域のうち一部に波面変換領域を設定するようにしても良い。つまり、光検出器114上において、フォーカスエラーに基づく強度差が収束スポット上に生ずれば良い。ただし、上記実施の形態にようにSIL109の平面に臨界角以上で入射するレーザ光の通過領域を全てカバーするように波面変換領域A2、B2を設定すると、差分信号(フォーカスエラー信号)の振幅を最大にでき、よって、最も円滑なフォーカス制御動作を実現できる。
この他、本発明は、上記以外の光学系にも適宜適用することができ、また、光アシスト型磁気記録装置にも適用可能である。さらに、本発明に係るギャップ検出方法および焦点調節装置は、光ピックアップ装置以外にも適宜適用可能である。
本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。