JP4337393B2 - 振動制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は所要の構造物を制振対象としてその振動を抑制する振動制御方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
たとえば、吊り橋の主塔や高層ビルディング等の構造物では、風荷重や地震等により振動が発生した場合に、振動制御を行ってその振動を抑制することが望まれる。このような振動制御を行うための手段の1つとしては、制振対象となる構造物(主構造)の上部に動吸振器を設置して、該動吸振器の質量(駆動マス)を、上記主構造の揺れに対して所要位相ずらして振動させることにより、上記主構造の振動を抑制させるものがある。
【0003】
この場合、図6に1自由度系のマス−ばね構造のモデルを示す如く、主構造1の質量(主マス)、ばね定数をそれぞれm1、k1とし、且つ動吸振器2の駆動マス、ばね定数、減衰係数をそれぞれma、ka、caとし、更に、上記主マスの絶対変位をx1、駆動マスの絶対変位をxaとして、駆動マスの主マスに対する相対変位をz、すなわち、
【数1】
z=xa−x1
とすると、上記動吸振器2の運動方程式は、
【数2】
ここで、
【数3】
となり、このことから、上記動吸振器2は、固有振動数(上記運動方程式の変位の項の係数の平方根)ωaを有することが明らかとなる。したがって、主構造1の制振を行うために動吸振器2を単に設置しただけでは、主構造1と動吸振器2との同調周波数は、上記動吸振器2の固定した固有振動数ωaの近くの帯域のみとなり、この帯域でしか制振効果が得られないため、主構造1に広帯域の外乱が作用する場合、その帯域全体に亘ってよい制振効果を発揮できないという問題がある。
【0004】
そのために、従来、上記と同様にして主構造1の上部に設置した動吸振器2の駆動マスを、所要の駆動力にて駆動することにより、上記主構造1の振動低減をより能動的に達成する手法が開発されてきている。この種の動吸振器2における駆動マスの駆動方法の一つの手法に、アクティブ制御理論に従った方法があり、このようなアクティブ制御理論としては、LQR最適制御を行わせるもの(たとえば、非特許文献1参照)、準最適制御を行わせるもの(たとえば、非特許文献2参照)、出力フィードバック制御等の制御理論に従って動吸振器の駆動マスを駆動する方法(たとえば、非特許文献3参照)、及び、動吸振器の固有振動数を変えたときの応答の変化から該動吸振器のパラメータの最適値を見出す方法(たとえば、非特許文献4参照)があり、更には、制御則の伝達関数を未定定数を含む形に表し、それらの値を振動系の極やゼロ点が希望する値になるように決める方法(たとえば、非特許文献5参照)や、動吸振器をむだ時間要素により遅らせて作動させる方法(たとえば、非特許文献6参照)等がある。
【0005】
又、上記動吸振器2における駆動マスの駆動方法の他の手法としては、主構造1の振動制御のロバスト性(制御対象となる主構造のモデル化誤差、固有振動数等のパラメータの変動があっても制御効果が劣化しない性質)を改善すべくH無限大制御理論を用いた方法を採ることも提案されている(たとえば、非特許文献7、非特許文献8参照)。
【0006】
更に又、本出願人は、先の出願(特願2002−002726)において、動吸振器の運動方程式で同調周波数(固有振動数)が固定値でなく任意周波数となるように動吸振器の駆動力を決定し、更に制御対象の速度に比例する力を加算した駆動力で動吸振器を駆動する方法を提案してある。
【0007】
【非特許文献1】
背戸、光田,「不可制御・不可観測性の活用による弾性構造物の低次元化物理モデル作成法と振動制御法」,日本機械学会論文集(C編),57巻,542号,1991年,3393−3399
【非特許文献2】
渡辺、吉田,「アクティブ動吸振器を用いた多自由度構造物のロバスト制振手法の比較検討」,日本機械学会論文集(C編)58巻,546号,1992年,394−400
【非特許文献3】
谷田、小池、牟田口、角谷、橘、荒井(Tanida,K.,Koike,Y.,Mutaguchi,M.,Kakutani,T.,Tachibana,T.,and Arai,Y.),「ハイブリッドマスダンパ対による曲げねじり構造振動の制御(Control of Bending-Torsion Structural Vibration Using a Pair of Hybrid Mass Dampers)」,第1回 運動と振動の制御に関する国際会議 講演論文集 1992年9月 横浜(Proc. 1st. International Conf. on Motion and Vibration Control, Yokohama, September 1992 Session),(米国),1992年,p.237−242
【非特許文献4】
フランチェック、ルヤン、ベルンハード(Franchek, M.A., Ryan, M.W., and Bernhard, R.J.),「適応受動制御(Adaptive Passive Vibration Control)」,ジャーナル・オブ・サウンド・アンド・バイブレーション(Journal of Sound and Vibration),(英国),189(5),1995年,p.565−585
【非特許文献5】
ユアン(Yuan, J.),「極・零点指定によるハイブリッド吸振(Hybrid Vibration Absorption by Zero/Pole-Assignment)」,アメリカン・ソサエティー・オブ・メカニカル・エンジニア ジャーナル・オブ・バイブレーション・アンド・アコースティクス(ASME Journal of Vibration and Acoustics),(米国),2000年10月,Vol.122,p.466−469
【非特許文献6】
ジャリリ、オルガック(Jalili, N. and Olgac, N.),「最適遅延形フィードバック吸振の感度に関する研究(A Sensitivity Study on Optimum Delayed Feedback Vibration Absorber)」,アメリカン・ソサエティー・オブ・メカニカル・エンジニア ジャーナル・オブ・ダイナミックシステムズ・メジャーメント・アンド・コントロール(ASME Journal of Dynamic Systems, Measurement, and Control),(米国),2000年6月,Vol.122,p.314−321
【非特許文献7】
西村・野波他2名,「ハイブリッド動吸振器による多自由度構造物のH∞制御」,日本機械学会論文集(C編),59巻,559号,1993年,714−720
【非特許文献8】
小池・野波・西村・佐塚・谷田・鈴木,「2台のハイブリッド式制振装置による柔軟構造物のH∞/μ曲げ・ねじり制御」、日本機械学会,No.95−28,第4回「運動と振動の制御」シンポジウム講演論文集、1995年,p.209−212
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、動吸振器2の駆動マスを、上記非特許文献1乃至非特許文献6に示された如き従来の各種アクティブ制御理論に従った方法によりアクティブ制御したとしても、制御則の制御対象モデルへの依存性が強いため、高いロバスト性を得ることはできず、又、動吸振器2の駆動マスの駆動方法として、H無限大制御理論を用いた場合であっても、制御対象となる主構造1のモデル化誤差の許容範囲を設定する必要があるため、あまり高いロバスト性を得ることができないという問題がある。
【0009】
なお、本出願人が特願2002−002726にて提案した手法によれば、制御対象となる主構造の運動特性のモデルを用いず、動吸振器に、該動吸振器の同調周波数を任意とする制御入力を単に加えるのみであるため、上記各種アクティブ制御理論や、H無限大制御理論で示した如き問題を解消して、良好なロバスト性が得られるが、動吸振器が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、動吸振器を用いた場合の制振状態を動吸振器なしで実現できるようにして、制振対象に動吸振器を設置してその駆動マスを任意周波数に同調できるよう駆動することにより広帯域に亘って良好なロバスト制御が行えるようにする場合と同等のロバスト制御による制振効果を得られるようにすると共に、動吸振器の製作や設置スペースを不要とすることができる振動制御方法を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために、制振対象に駆動マスを備えた動吸振器を設置することを仮想した条件下にて、上記制振対象の振動を抑制させることができるよう上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を制御入力として所要のアクチュエータにより上記制振対象へ作用させて、制振対象の振動を抑制させるようにする振動制御方法とする。
【0012】
制振対象に振動が生じると、上記所要のアクチュエータより制振対象に対し制御入力が作用させられ、この際、該制御入力は、上記制振対象に設置すると仮想した動吸振器を上記制振対象に生じた振動を抑制させるべく作動させるときに該仮想の動吸振器より上記制振対象に作用することとなる力と同様の力としてあるため、上記制振対象の振動は、上記仮想した動吸振器を実際に設置する場合と同様に抑制される。
【0013】
更に、制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために、制振対象への設置を仮想した動吸振器の駆動マスを所要の力で駆動するときの運動方程式が、該駆動マスが任意の周波数に同調するときの運動方程式と等価になるようにするための上記駆動マスの駆動力を算出し、次いで、該算出された駆動力に、上記仮想した動吸振器の駆動マス取付位置における制振対象の速度に比例した力を加算して上記仮想した動吸振器の駆動マスの駆動力を求め、この駆動力により上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を所要のアクチュエータより制振対象へ作用させる制御入力とさせるようにすることにより、上記仮想した動吸振器における駆動マスの駆動力として、制振対象を広帯域に亘り良好なロバスト制御を行えるようにするための駆動力を設定できるため、該駆動力により上記仮想した動吸振器を駆動する場合に得られるのと同様な制振対象の良好なロバスト制御を実施することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の振動制御方法の実施の一形態におけるフローを示すもので、先ず、制振対象に所要の動吸振器を設置する場合を仮想した条件下にて、該設置を仮想した動吸振器(以下、仮想動吸振器という。)の運動方程式における同調周波数が、任意周波数となるようにさせるための上記仮想動吸振器の駆動力を算出し(ステップ1:S1)、次に、該算出された駆動力に、更に制御対象の速度に比例する力を加算した駆動力を算出して、上記設置を想定する動吸振器により主構造の良好なロバスト制御を行うことができるようにするための制御則を求める(ステップ2:S2)。次いで、上記仮想動吸振器を、制振対象の制振を行うべく上記ステップ2にて求められる制御則によって駆動したときに、上記仮想動吸振器より制御対象へ作用することとなる力をオンラインで算出し(ステップ3:S3)、しかる後、該算出された力を制御入力として、所要のアクチュエータにより制御対象へ加えるようにする(ステップ4:S4)。
【0016】
以下、詳述する。
【0017】
図2は上記ステップ1にて設置を想定する仮想動吸振器2aにて駆動マスを駆動することによる振動制御を説明するためのマス−ばね構造を示すもので、図6と同様の構成としてあるマス−ばね構造において、駆動マスに対して主マス上から所要の力を駆動力fdrivとして作用させるようにしたものである。なお、主構造1及び仮想動吸振器2aの各種のパラメータは図6に示した主構造1及び動吸振器2と同じ符号を付してある。
【0018】
この場合、主マスは上記駆動マスに作用させる駆動力fdrivの反作用を受けるので、本系の運動方程式は、一般に以下のようになる。
【数4】
【数5】
ここで、fdは主構造に作用する外乱を示す。なお、数式内にて上に・を付したパラメータは、該パラメータの時間微分:d/dtを表し、又、上に・・を付したパラメータは、該パラメータの2回時間微分:d2/dt2を表すものとしてある(以下、本明細書の各式中においても同様とする)。
【0019】
次に、上記式(1)、(2)を辺々加えてfdrivを消去し、
【数6】
を用いると、
【数7】
となる。一方、式(2)は、式(3)を用いてxaを消去し、maで割ると以下のように変形できる。
【数8】
上記式(5)において、
【数9】
である。
【0020】
今ここで、動吸振器のマス駆動力を、制御対象となる主マスの速度に比例する力として速度フィードバック制御する場合を考えてみる。
【0021】
すなわち、
【数10】
と仮定して、微分方程式系の式(4)、(5)の特性方程式を導くと、
【数11】
ここで、
【数12】
である。したがって、フルビッツの行列式に基づく安定条件は、
【数13】
となる。
【0022】
上記式(9)より、特性方程式の係数のうちa1のみが速度比例ゲインGに依存し、a1のGに関する微分は正であるから、速度比例ゲインGの増大に伴い式(10)の第2式の安定条件が成立しなくなることが判る。このため、主マスの速度に比例する力で動吸振器2を駆動する方法は、速度比例ゲインGの増大により不安定になる。
【0023】
そこで、振動制御方法として、駆動マスの運動方程式(5)が
【数14】
と等価になるような駆動力を導入する制御則を採ることができるようにする。上記式(11)は、駆動マスが任意の同調周波数gωを有する場合の運動方程式となっており(gは同調周波数の外乱周波数ωに対する比を調整する定数である)、式(5)が固定した同調周波数ωaを有するのとは対照的である。
【0024】
したがって、式(5)と式(11)の残差が0となるように式(5)中のfdrivを決め(ステップ1)、速度比例の駆動力G・dx/dtを加算すると、仮想動吸振器2aのマス駆動力は、
【数15】
となる(ステップ2)。
【0025】
このとき式(5)は、
【数16】
となり、系を記述する微分方程式系(4)、(13)の特性方程式は、ωが任意周波数であることに基づいてよく知られた関係s=iωを使うと以下のようになる。
【数17】
ここで、
【数18】
【0026】
したがって、gを、
【数19】
の範囲に選んでa0とa2が共に正(a0>0、a2>0)となるようにしておけば、式(9)と異なりa4=0であるため、速度比例ゲインGを大きくしても、フルビッツの行列式に基づく安定条件、すなわち、式(10)が満たされることが判り、したがって、式(12)により求められるマス駆動力fdrivを制御則として設定して、上記仮想動吸振器2aの駆動マスを駆動させるようにすれば、制振対象に対し、ロバスト性の高い多数モード制振を行うことができることとなる。
【0027】
次いで、本発明のステップ3では、上記ステップ2にて式(12)により設定される制御則に従って求められたマス駆動力fdirvにより上記仮想動吸振器の駆動マスを振動させた場合に、該仮想動吸振器から制御対象に作用する力を、fcontとすると、これは、次式で与えられる。
【数20】
【0028】
この式(17)に式(12)を代入すると、
【数21】
となる。
【0029】
式(13)より、制振対象となる主構造の検出加速度d2x1/dt2からzへの伝達関数を計算すると、次式のようになる。
【数22】
ここで、
【数23】
とおいている。
【0030】
したがって、式(18)より、
【数24】
となり、これに式(19)を用いて主構造の検出加速度d2x1/dt2から制御入力fcontに至るコントローラ伝達関数を計算すると次式が得られる。
【数25】
【0031】
ここで、所要の時間領域での制御入力fcontは、この伝達関数の実装により算出できる。この伝達関数の周波数特性は、一時遅れ系のみで実現できる単純な形であり、実用上便利である。
【0032】
式(22)の右辺は、( )内に第1項としてsの一次項が存在するため、この伝達関数は周波数の増加とともに0にはならない。この項を省略すると、高周波でゲインが0に減衰して実装が容易になるだけではなく、以下に説明するように位相進みが生じて安定性がよくなる。すなわち、この位相進みは、式(22)の右辺の( )内を複素平面で表すと、偏角が90度と180度の間にあるのに対し、上記式(22)の右辺の( )内の第1項であるsの一次項を省略すると、偏角が180度になることから明白であり、式(21)に式(19)を入れて式(22)を導出したとき、式(22)の右辺の( )内のsの0乗の項が負、sの(−1)乗の項が0となることに由来する。
【0033】
次に、この位相進みが特性方程式に及ぶ影響を調べる。式(22)を、
【数26】
と書き、制御対象の挙動を支配する式
【数27】
を用いて特性方程式を導くと以下のようになる。
【数28】
ここで、
【数29】
【0034】
このことから、安定条件は、ε=1のときは当然式(16)の場合と同じであるが、ε=0、すなわち、位相進みを働かせる場合には、
【数30】
と緩和されることがわかる。
【0035】
1自由度系の制御対象以外では、同調パラメータgの臨界値を式(27)のように解析的に決定することは困難であるが、上記gの値を1から徐々に減らして時刻歴応答解析シミュレーションを試行することにより容易に知ることができる。
【0036】
したがって、本発明のステップ4では、上記ステップ3にて求められた制御入力fcontを、制御対象となる主構造に対して所要のアクチュエータにより作用させることができるようにする。
【0037】
これにより、上記制御対象となる主構造に振動が発生すると、該主構造に対しては、主構造に上記仮想動吸振器と同様の動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られることから、上記主構造の振動は抑制されるようになる。
【0038】
このように、制御対象となる主構造に設置を想定した仮想動吸振器の運動方程式が、任意の周波数gωに同調した形となるようにして上記仮想動吸振器により広帯域で制振作用を発揮させることができるようにするためのマス駆動力fdrivを算出し、この算出されたマス駆動力fdrivにより上記仮想動吸振器2を駆動した場合に主構造に作用することとなる力を算出して、該算出された力を制御入力fcontとして主構造に作用させるようにすることにより、広帯域で制振作用を発揮させることができることになる。
【0039】
又、上記仮想動吸振器の制御則となるマス駆動力fdrivを算出して設定するときに、速度比例ゲインGを大きくしても、安定条件が満たされるようにすることにより、速度比例ゲインが増大しても制御が不安定になる虞はなく、したがって、速度比例ゲインを大きく取ることが可能になる。
【0040】
更に、上記仮想動吸振器2aのマス駆動力fdrivの算出に際して、制御対象となる主構造1の運動特性を用いておらず、且つ仮想動吸振器2aの同調周波数を任意とする制御が行えるように上記マス駆動力fdrivの制御則を設定しておくことにより、これらの相乗効果により、制振対象に対し、広帯域に亘ってロバスト性の高い多数モード制振を行うことができる。
【0041】
上記制御入力fcontを主構造へ付与するための所要のアクチュエータとしては、上記制御入力fcontに即応して主構造に力を付与できれば、たとえば、ボイスコイル型のアクチュエータ等、動吸振器以外の任意の形式のアクチュエータを使用することができる。これにより、動吸振器の設置を不要とすることができて、動吸振器の製作に要していた手間と費用を削減することができると共に、動吸振器の設置に要していた如き広い設置スペースを不要にできる。
【0042】
更に、本制御では、制御則が制御対象によらず、駆動マスの運動方程式のみを使って決定されていることから、制御対象は多自由度系あるいは連続体であってもよく、制御対象のパラメータ変動、モデル化誤差に対してロバスト性の高い多数モード制御が可能になることは、後述する図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)の実験結果からも明らかである。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、振動を制御すべき対象としてはいかなる構造物であってもよく、動吸振器2の設置に要する広い設置スペースを取れないような構造物にも適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0044】
【実施例】
以下、本発明者の行った実験結果について説明する。
【0045】
図3は実験装置の構成図を示すもので、制振対象として、長さ1.5m、幅0.05m、厚さ0.002m、ヤング率1.6×1011N/m2、密度7650kg/m3の梁3を幅方向に立てた姿勢として一端(基端)を所要の固定側に固定し、該梁3の自由端となる他端(先端)より0.06mの位置における一側面に、ボイスコイル型リニアモータを加振装置4として取り付けて、該加振装置4の駆動により上記梁3を水平方向に加振できるようにした。又、上記梁3の先端部の一側面に、加速度センサ5を取り付けると共に、該先端部の他側面に、ボイスコイル型リニアモータによるアクチュエータ6を取り付けた。上記加振装置4とアクチュエータ6におけるボイスコイルの梁3への付加質量は共に0.115kg、加速度センサ5の梁への付加質量は0.075kgとしてある。
更に、上記加速度センサ5には増幅器7とA/Dコンバータ8を介し制御装置9の入力側を接続して、該制御装置9にて、上記加速度センサ5にて検出される梁3の振動に伴って変動する加速度の検出信号を基に、上記式(23)で示された制御則を算出できるようにし、且つ該制御装置9の出力側には、D/Aコンバータ10、増幅器11を経て上記アクチュエータ6を接続して、上記制御装置9からの指令に基づいて、アクチュエータ6より梁3に制振力を作用させることができるようにしてある。
上記実験装置を用いて、加振力から加速度センサ出力までの伝達関数を、加振周波数を逐次変えて計測した。この際、デジタルサンプリング周波数は2kHzとした。その他、仮想動吸振器のパラメータとして、g=0.8、ma=0.1kgとし、更に、ζtrans=0.1、ωtrans=18rad/s、G=5Ns/mとした。
その結果は図4(イ)に実線Aで示す。これにより、多数モードの広い周波数範囲でよい制振効果を得ることができることが判明した。なお、図4(イ)中の破線Bは、比較として無制御とした場合の周波数応答を示すものである。
【0046】
次に、ロバスト性の検証のため、梁3の長さを0.75mとすることにより制御対象を全く異なるものとした状態にて、上記と同様に加振力から加速度センサ出力までの伝達関数を、加振周波数を逐次変えて計測した。なお、梁3の長さ以外のパラメータは上記と同様としてある。
その結果は図4(ロ)に実線Cで示す。なお、図4(ロ)における破線Dは、比較として無制御の場合の周波数応答を示すものである。
【0047】
無制御時の共振周波数の違いからも明らかなように、長さを0.75mとした梁3は制御対象として1.5mの梁3と大きく異なる固有振動数を備えるものとなったが、この場合にも制御は安定且つ有効に作用して顕著な制振効果が得られており、したがって、高いロバスト性を得られることが確認できた。
【0048】
次いで、図3の装置により行った実験に対応する計算機シミュレーションを行った。モード減衰比は0.01とし、その他の各種パラメータは図4(イ)(ロ)に示した場合と同様とした。
【0049】
この周波数応答を求める際、定常振動解を仮定して得られる周波数領域での代数方程式を各周波数に対して解く方法ではなく、加振周波数を逐次代えて時刻歴応答解析を初期の過渡応答から定常振幅になるまで繰り返し、その定常振幅を加振周波数の関数としてプロットする方法を採用した。この方法は、時間領域での応答解析シミュレーションであるため、高次モードやコントローラ実装誤差による不安定化や制御効果の劣化がないことをチェックするのに有効である。
【0050】
以下に、本シミュレーションで用いた応答解析法を概説する。
先ず、有限要素法による離散化手続により、以下のマトリックス方程式を得る。
【数31】
ここで、Mは質量マトリックス、Kは剛性マトリックス、Xは接点変位ベクトル、Fは制御力と加振力を含む外力ベクトルである。
式(28)を
【数32】
によってモード座標q1,q2,・・・に変換する。Tは固有値問題
【数33】
の固有ベクトルを並べて構成される変換行列である。この変換によって式(28)は、
【数34】
とモードの式に変換される。ここで右辺は( )内の列ベクトルの第n行を表す。左辺にモード減衰項を付加した方程式系
【数35】
をルンゲ・クッタ・ギル法により解いて、梁3の振動応答を計算した。
【0051】
その結果として、梁の長さを1.5mとした場合を図5(イ)に実線Eとして示し、又、梁の長さを0.75mにした場合を図5(ロ)に実線Gとして示す。なお、1.5m及び0.75mの長さの梁3を無制御とした場合の振動応答の計算結果は、それぞれ対応する図に破線F及び破線Hとして示してある。
【0052】
無制御時の応答レベルは、設定したモード減衰比が実際の値と異なるため、実験結果と必ずしも一致しないが、制御時の応答レベルは実験とよく一致しており、本制御法及び応答解析の妥当性が確認できた。なお、図4(ロ)においては、周波数が20Hz付近にて、図5(ロ)では認められないピークが検出されているが、これは梁3の長さを0.75mとしたことにより、梁3の全重量に対して加速度センサ5の重量の比が大となったため、梁3の幅方向の中心位置より多少ずれた個所に取り付けてある上記加速度センサ5によるねじり振動が生じたことによるピークと考えられる。したがって図4(ロ)の実験結果より上記20Hz付近のピークを除くと図5(ロ)の数値シミュレーション結果とよく一致していることがわかる。
【0053】
【発明の効果】
以上述べた如く、本発明によれば、制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために、制振対象に駆動マスを備えた動吸振器を設置することを仮想した条件下にて、上記制振対象の振動を抑制させることができるよう上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を制御入力として所要のアクチュエータにより上記制振対象へ作用させて、制振対象の振動を抑制させるようにする振動制御方法とし、具体的には、制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために、制振対象への設置を仮想した動吸振器の駆動マスを所要の力で駆動するときの運動方程式が、該駆動マスが任意の周波数に同調するときの運動方程式と等価になるようにするための上記駆動マスの駆動力を算出し、次いで、該算出された駆動力に、上記仮想した動吸振器の駆動マス取付位置における制振対象の速度に比例した力を加算して上記仮想した動吸振器の駆動マスの駆動力を求め、この駆動力により上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を所要のアクチュエータより制振対象へ作用させる制御入力とさせるようにする方法としてあるので、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1) 動吸振器を要することなく動吸振器を設置した場合と同様の振動抑制効果を得ることができる。
(2) 上記仮想した動吸振器の制御則となるよう駆動力を算出して設定するときに、速度比例ゲインを大きくしても、安定条件が満たされるようにしてあるため、速度比例ゲインが増大しても制御が不安定になる虞はなく、したがって、速度比例ゲインを大きく取ることが可能になる。
(3) 上記仮想した動吸振器の駆動力の算出に際して、制御対象の運動特性を用いておらず、且つ上記仮想した動吸振器の同調周波数を任意とする制御が行えるように上記仮想した動吸振器の駆動力の制御則を設定しているため、これらの相乗効果により、制振対象に対し、広帯域に亘ってロバスト性の高い多数モード制振を行うことができ、広帯域で制振作用を発揮させることができる。
(4) 上記制御入力を主構造へ付与するための所要のアクチュエータとしては、上記制御入力に即応して主構造に力を付与できれば、動吸振器以外の任意の形式のアクチュエータを使用できることから、動吸振器の設置を不要とすることができ、動吸振器の製作に要していた手間と費用を削減することができると共に、動吸振器の設置に要していた設置スペースを不要にできる。更に、上記仮想の動吸振器は、実際の動吸振器の場合に比してパラメータを正確に定められるので、パラメータの誤差、変動でロバスト性が損なわれるようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の振動制御方法の実施の一形態におけるフローを示す図である。
【図2】図1のステップ1における設置を仮想した動吸振器にて主構造の制振を行う場合の制御則を求める場合を説明するために用いるマス−ばね構造のモデル図である。
【図3】本発明の振動制御方法の有効性の検証に用いた実験装置を示す概要図である。
【図4】図3の実験装置を用いて行なった本発明の振動制御方法による振動制御を行った場合の周波数応答の結果を示すもので、(イ)は梁の長さを1.5mとした場合の周波数応答を、(ロ)は梁の長さを0.75mとした場合の周波数応答をそれぞれ示すグラフである。
【図5】図3の実験装置と同様の構成の装置に対し本発明の振動制御方法を適用する場合の数値シミュレーション結果を示すもので、(イ)は梁の長さを1.5mとした場合を、(ロ)は梁の長さを0.75mとした場合をそれぞれ示すグラフである。
【図6】主構造に動吸振器を設置した状態のマス−ばね構造を示すモデル図である。
【符号の説明】
1 主構造(制振対象)
2a 仮想動吸振器(仮想した動吸振器)
3 梁(制振対象)
6 アクチュエータ
ma 駆動マス
fdriv 駆動力
fcont 制御入力
Claims (2)
- 制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために、制振対象に駆動マスを備えた動吸振器を設置することを仮想した条件下にて、上記制振対象の振動を抑制させることができるよう上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を制御入力として所要のアクチュエータにより上記制振対象へ作用させて、制振対象の振動を抑制させることを特徴とする振動制御方法。
- 制振対象に振動が発生するときに該制振対象に動吸振器を実際に設置してある場合に得られる制振作用に則した制振作用が得られるようにするために制振対象への設置を仮想した動吸振器の駆動マスを所要の力で駆動するときの運動方程式が、該駆動マスが任意の周波数に同調するときの運動方程式と等価になるようにするための上記駆動マスの駆動力を算出し、次いで、該算出された駆動力に、上記仮想した動吸振器の駆動マス取付位置における制振対象の速度に比例した力を加算して上記仮想した動吸振器の駆動マスの駆動力を求め、この駆動力により上記仮想した動吸振器の駆動マスを駆動させるときに該仮想した動吸振器より上記制振対象へ作用することとなる力を算出し、該算出された力を所要のアクチュエータより制振対象へ作用させる制御入力とさせるようにする請求項1記載の振動制御方法。
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