従来、痴呆症の診断では、長谷川式簡易知的機能診査スケールが多用されている。この長谷川式簡易知的機能診査スケールでは、被験者に対して簡単な質問(例えば、今日の日付を問う、複数の物品の名前を言いながら列べて見せ、何れかを隠して、隠した物品の名前を問う等)を行って、この質問に対する答えを評価した評価値によって痴呆症の度合い(痴呆度)を得ている。
しかし、いわゆるアルツハイマー型痴呆症の患者(以下、AD患者という)は、症状の初期段階において、長谷川式簡易知的機能診査スケールの簡単な質問には答えることができることが多い。その理由は、AD患者では、初期段階において、空間視を司ると言われている脳の頭頂葉にのみ選択的な障害が生じるため、当該長谷川式簡易知的機能診査スケールでは、検査対象となる脳の検査部位が異なり、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者について、正しい評価値を得ることができず、当該被験者の痴呆度を正確に測定することができないことがある。
また、同様の理由によりAD患者では、道に迷ったり、物を置いた場所がわからなくなる等、いわゆる見当識障害と言われる症状が生じるが、当該長谷川式簡易知的機能診査スケールによる評価では、良好な結果となることがある。このため、長谷川式簡易知的機能診査スケールでは、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者が当該痴呆症であると診断されない場合がある。
このため、従来、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者の診断には、空間視に係わる脳の機能を検査するために、与えられた図形を模写して、模写された模写図形に基づいて判断する図形模写検査がよく実施される。この図形模写検査において、AD患者に提示される代表的な図形(原図形、模写課題図形)は、立方体や花等の簡単な線画であり、当該図形模写検査では、当該線画をスケッチブックの右側(左側)に提示しておいて、当該スケッチブックの左側(右側)に模写させている(模写図形を描かせる)。
この図形模写検査では、模写した図形が稚拙になる、または、図形の模写が全くできないという検査結果によって、AD患者である(アルツハイマー型痴呆症の疑いがある、症状が進行している)と診断される。しかし、同様の検査結果は、脳内の特定の部位に脳卒中や脳梗塞が生じて、発現した脳血管性痴呆症の患者(以下、MID患者という)にも現れることがある。
AD患者とMID患者とでは、疾患の原因が全く異なるため、治療法も異なり、診断時に見誤ることは許されない。そこで、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者に対しては、図形模写検査の際に、模写した図形と共に、視線の動き(眼球運動から算出)を観察すること(視線検出)によって、MID患者との区別をするようにしている。つまり、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者の視線の動きは、以下に記載する(1)から(5)の項目に示すような特徴(顕著な差)がある。
(1)図11に示すように、図形を模写する際に、原図形(中抜きの十字)と模写図形とを往復する眼球運動(往復眼球運動)が、健常者の眼球運動に比べて乏しい。(2)図12に示すように、往復眼球運動が観察された例では、原図形(花)上の注視点の位置と、模写図形上の注視点の位置とが対応しない。
(3)図13に示すように、眼球運動のうち、サッカードと呼ばれる、特に振幅の小さな成分が群発し局所的に視線が集中したり、原図形や模写図形から逸脱する。
(4)図14に示すように、原図形(三角形)上の注視点が見られず、「Closing in現象」(クローズィング現象)が見られる。
(5)図15は、原図形(花)をその上から「なぞる」場合を示したものであるが、AD患者は正確に原図形をなぞることはできるが、注視点の数が、健常者の注視点に比べ増加すると共に、注視点が原図形の中心に高密度に分布する。また、原図形をなぞるのに要す所要時間も、健常者の所要時間に比べ増加する。
これら(1)から(5)等の特異な所見が、AD患者に得られることを利用して(非特許文献1参照)、MID患者との区別を明確にしようとする試みも行われている。
従来、このような視線検出を含む図形模写検査を行う場合、図11の図中左側に示した中抜きの十字型の原図形(模写課題図形)の例、または、図16の図中左側に示した立方体の原図形(模写課題図形)の例に示すように、原図形(模写課題図形)が記された紙を、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者に渡し、机上で、当該被験者に模写図形(図11の図中右側に示した模写図形の例、図16の図中右側に示した模写図形の例)を描かせる。
なお、この視線検出を含む図形模写検査を行う場合には、予め、図17に示すゴーグルを、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者に別途装着させる。この図17に示したゴーグル101には、眼球の黒目位置の移動(眼球運動)から視線の動きを測定する眼球運動検出センサ103と、原図形(模写課題図形)が記された紙を撮影する視野カメラ105とがゴーグル本体101aに取り付けられている。
そして、ゴーグル本体101aに取り付けられた視野カメラ105で撮影したカメラ画像に、眼球運動検出センサ103で検出した、模写図形を描く際の眼球運動から視線を分析した視線データを表示装置(図示せず)の表示画面に重ね合わせて表示している。
この表示装置(図示せず)の表示画面を、専門家(医師)が見て、AD患者特有の眼球運動が見受けられるか否かによって診断していた。
このゴーグル101では、被験者の眼球運動を、一般的な眼球運動の検出方式の一つである強膜反射方式と呼ばれる方式(原理)で検出している。なお、眼球運動の検出方式には、様々な種類があり、眼球運動の検出には大差が無いので、どのような方式を用いてもよい。ここで、図18を参照して、強膜反射方式による眼球運動の検出原理について説明する。
図18(a)に示すように、眼球は、いわゆる白目の部分すなわち強膜と、黒目の部分すなわち角膜(瞳孔部分)とによって構成されている。そして、白目の部分と黒目の部分とでは、光の反射率が異なっており、白目の部分の反射率が高いのに比べ、黒目の部分の反射率は低く、光は殆ど吸収されて反射しない。そこで、強膜反射方式では、不可視光である弱い赤外光を赤外LEDより発光させ、眼球に照射し、眼球の動きに伴う反射光量の変化を赤外感度を備えるフォトダイオードを用いて検出している。つまり、白目の部分と黒目の部分との光の反射率の違いから、白目の部分の反射光量は強く(大きく)、黒目の部分の反射光量は弱く(小さく)なる。
それゆえ、水平方向の眼球運動の運動量(移動量)を検出する場合には、図18(b)に示すように、黒目の部分の両側を検出する位置に、1つずつのフォトダイオードを配置しておき、これら2つのフォトダイオードの検出した反射光量の差分を示す差分信号を用いている。つまり、図18(b)において、向かって右方向に眼球運動が生じると、黒目の部分が右寄りになり、左側のフォトダイオードで検出される反射光量が増加し、右側のフォトダイオードで検出される反射光量が減少する。この結果、反射光量の差分をオペアンプ等でとると、正方向の電圧として差分信号が検出される。逆に、左方向に眼球運動が生じると、負方向の電圧として差分信号が検出される。また、この差分信号の大きさが運動量(移動量)に比例するために、差分信号の正負、大きさによって、水平方向の眼球運動の運動量を検出することができる。
また、垂直方向の眼球運動の運動量(移動量)を検出する場合には、図18(c)に示すように、黒目の部分の左下側、右下側を検出する位置に、1つずつフォトダイオードを配置しておき、これら2つのフォトダイオードの検出した反射光量の和を示す和信号を用いている。つまり、図18(c)において、図中、上方向に眼球運動が生じると、白目の部分が下眼瞼から完全に露出し、それぞれのフォトダイオードで検出される反射光量が増加する。この結果、反射光量の和をオペアンプ等でとると、増加した和信号が検出される。逆に、図中、下方向に眼球運動が生じると、運動量(移動量)に応じて、下眼瞼に占める黒目の部分が多くなり、フォトダイオードで検出される反射光量が減少し、減少した和信号が検出される。この結果、和信号の大きさが上下の運動量(移動量)に比例するため、垂直方向の眼球運動の運動量を検出することができる。なお、下眼瞼の左右に2つのフォトダイオードを配しているのは、正面だけでなく、左右方向を注視しているときの上下方向の眼球運動についても精度良く検出するためである。
藤井 充 アルツハイマー病の視覚認知障害 Vision analyzerによる解析、北海道痴呆研究会、pp47−50(1989年7月)
しかしながら、従来の視線検出を含む図形模写検査では、原図形(模写課題図形)が記された紙を、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある被験者に装着させたゴーグル本体101aに取り付けた視野カメラ105で撮影し、この撮影したカメラ画像上に、眼球運動検出センサ103で検出した眼球運動から視線を分析した視線データを重ね合わせて、別の表示装置(図示せず)に表示していた。
この場合、被験者の姿勢(頭部の位置)が変わるたびに、撮影したカメラ画像が動いてしまい(ぶれてしまい)、カメラ画像に写っている原図形(模写課題図形)と視線データとの対応がとれなくなるという問題がある。
また、仮に、視野カメラ105と、原図形(模写課題図形)が記された紙との距離が短く、被験者の姿勢の変化が小さく、撮影したカメラ画像の動きが小さい場合であっても、視野カメラ105の俯瞰角度が大きいため、撮影したカメラ画像において、原図形(模写課題図形)が記された紙の上部と下部との間で歪みが生じるという問題がある。
さらに、従来の視線検出を含む図形模写検査では、模写図形を描く媒体として、紙を使用していたので、原図形(模写課題図形)を模写する際の、被験者のペンの動き(模写図形の軌跡、時間的推移)と眼球運動とを順を追って解析することができないという問題がある。
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、視線検出を含む図形模写検査を行う際に、模写課題図形と視線データとを確実に対応付けることができ、被験者に装着させたゴーグル本体101aに取り付けた視野カメラ105で撮影したときのようにカメラ画像中に歪みが生じることなく、模写図形の軌跡と眼球運動とを解析することができる視線表示装置およびこの視線表示装置の出力結果に基づいて、被験者が痴呆症であるか否かを診断する痴呆症診断装置を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、請求項1記載の視線表示装置は、観視者の眼球に赤外光を照射する赤外光照射手段と、前記観視者の眼球で反射した反射光を受光して前記観視者の眼球の画像を撮影する撮影手段と、前記観視者の頭部の動きに追従させて前記観視者の眼球で反射した反射光を前記撮影手段に入射させる回転ミラーと、前記回転ミラーの回転角度を制御して連続的に回動させる回転ミラー駆動手段とを備え、模写する対象となる模写課題図形を前記観視者に表示して、当該模写課題図形を当該観視者が模写した軌跡である軌跡データと、当該模写課題図形を模写する際の当該観視者の眼球の動きを測定して求められた視線の動きである視線データとを、当該模写課題図形に重ねて表示する視線表示装置であって、模写課題図形データ記録手段と、模写課題図形データ表示手段と、軌跡データ取得手段と、眼球運動測定手段と、視線データ算出手段と、を備える構成とした。
かかる構成によれば、視線表示装置は、模写課題図形データ表示手段によって、模写課題図形データ記録手段に記録されている模写課題図形データに基づいて、模写課題図形を表示し、この模写課題図形を見ながら観視者(被験者)が模写した軌跡を軌跡データとして軌跡データ取得手段によって取得する。この視線表示装置は、軌跡データ取得手段によって観視者が模写した軌跡データを取得しているのと同時に、観視者が模写課題図形を見ながら当該模写課題図形を模写する際の眼球の動き(眼球運動)を眼球運動測定手段によって測定し、測定した測定結果に基づいて、視線データ算出手段により観視者の視線の動きを示す視線データを算出する。
なお、観視者(被験者)は、模写課題図形を直接なぞってもよく、この場合、軌跡データ取得手段では、軌跡データの代わりに「なぞりデータ」が取得されることとなる。また、視線データの算出には、観察者の眼球運動をテレビカメラで撮影して画像処理によって測定する方式により、直接的な目の動き(眼球運動)からだけではなく、撮影手段で撮影した眼球の角膜(黒目の部分)の中心、すなわち、瞳孔の中心と反射光点との関係から、身体や頭部の動きによって生じる相対的な目の動きを組み合わせて空間上の視線の動きを求めている。
かかる構成によれば、視線表示装置は、眼球運動測定手段を撮像手段として構成し、この撮影手段で撮影した観視者の眼球画像に基づいて、視線データ算出手段によって、視線データを算出して、視線模写軌跡表示手段によって、模写課題図形に軌跡データおよび視線データを重ね合わせて表示する。
ここで、軌跡データ取得手段および撮影手段を、模写課題図形データ表示手段の表示面側に配置しているので、従来のように観視者がゴーグルを着用する必要が無く、当該観視者は、姿勢を束縛されることなく、模写課題図形を観視しながら、模写することができ、同時に、撮影手段で模写している際の眼球の動きを撮影することができる。なお、軌跡データ取得手段は、例えば、観視者が筆記具を用いて模写課題図形を模写する際の筆圧を検出する圧力センサや、予め、筆記具に超音波を発信する発信手段を組み込んでおいて、この発信手段が発信した超音波を検出する超音波センサ等によって実現できる。例えば、この視線表示装置は、模写課題図形データ表示手段によって、軌跡データを模写課題図形に重ねて表示することができる。
請求項2記載の視線表示装置は、請求項1に記載の視線表示装置において、前記撮影手段を2台備え、前記模写課題図形データ表示手段の表示面を囲む筐体の左右両縁に、前記撮影手段の撮影レンズをそれぞれ設けたことを特徴とする。
かかる構成によれば、視線表示装置は、模写課題図形データ表示手段の表示面を囲む筐体の左右両縁(左側縁部、右側縁部)に撮影手段の撮影レンズを設けているので、従来のように観視者がゴーグルを着用する必要が無く、当該観視者は、姿勢を束縛されることなく、模写課題図形を観視しながら、模写することができ、同時に、撮影手段で模写している際の眼球の動きを撮影することができる。
なお、模写課題図形データ表示手段、軌跡データ取得手段および撮影手段を一体化する場合、例えば、タッチパネル表示装置を用いて実現でき、左側縁部に備えられた撮影手段が対面する観視者の左視野の眼球運動に係る眼球画像を撮影し、右側縁部に備えられた撮影手段が対面する観視者の右視野の眼球運動に係る眼球画像を撮影することで、歪みのない広範囲の眼球運動に係る眼球画像を得ることができる。なお、この撮影手段で撮影した眼球画像は、少なくとも一方のみあれば、視線データ算出手段で視線データを算出することができる。2台の撮影手段によって得られた眼球画像のうち一方のみを使用する場合は、両方の眼球画像を使用する場合に比べ、眼球運動の検出できる範囲は小さくなる。
請求項3記載の視線表示装置は、請求項1に記載の視線表示装置において、前記軌跡データ取得手段を透過型タッチパネルとして構成し、前記模写課題図形データ表示手段の表示面側に、ハーフミラーと、赤外光を照射する赤外光照射手段とを備え、前記模写課題図形を前記ハーフミラーの反射面に反射させて、前記透過型タッチパネルのスクリーン面に表示させると共に、前記撮影手段および前記赤外光照射手段を前記ハーフミラーの背面に設けたことを特徴とする。
かかる構成によれば、視線表示装置は、模写課題図形データ表示手段に表示された模写課題図形をハーフミラーを介して、透過型タッチパネルのスクリーン面に表示させると共に、この透過型タッチパネルに対面する観視者の顔面(眼球)にて、赤外光照射手段が照射して反射した赤外光を、ハーフミラーの背面に設けた撮影手段によって撮影する。なお、ハーフミラーに可視光反射コーティング処理を施すことにより、当該ハーフミラーは、可視光を反射するのに対して、赤外光透過コーティング処理により、赤外光を透過する。
請求項4記載の視線表示装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の視線表示装置において、前記軌跡データおよび前記視線データを重ね合わせて表示する視線模写軌跡表示手段を備えることを特徴とする。
かかる構成によれば、視線表示装置は、視線模写軌跡表示手段によって、模写課題図形に、軌跡データおよび視線データを重ねて表示する。つまり、模写課題図形データ表示手段とは、別に視線模写軌跡表示手段を設けることで、観視者が模写課題図形を模写している最中でも、それまでに取得された軌跡データおよび算出された視線データを重ねて表示させることができる。
請求項5記載の痴呆症診断装置は、模写する対象となる模写課題図形を観視者に表示すると共に、当該模写課題図形を当該観視者が模写した軌跡である軌跡データと、当該模写課題図形を模写する際の当該観視者の眼球運動を測定して求められた視線の動きである視線データとに基づいて、当該観視者が痴呆症であるか否かを診断する痴呆症診断装置であって、視線表示装置と、基準視線パターン記録手段と、診断手段とを備える構成とした。
かかる構成によれば、痴呆症診断装置は、診断手段によって、痴呆症の症状を示す視線の動きの基準となる基準視線パターンと、視線表示装置から出力された軌跡データと、模写課題図形データとの少なくとも一つと、視線表示装置から出力された視線データとを比較演算した結果に基づいて、痴呆症(アルツハイマー型痴呆症)であるか否かを診断する。なお、模写課題図形と関連付けられた視線の動きである基準視線パターン以外に、模写課題図形と関連付けられた軌跡(模写課題図形とは別の場所に模写した際の線群)である基準軌跡パターンや、模写課題図形と関連付けられたなぞり線(模写課題図形をなぞった際の線群)である基準なぞりパターンと比較演算してもよい。
請求項6記載の痴呆症診断装置は、請求項5記載の痴呆症診断装置において、前記視線表示装置と、前記基準視線パターン記録手段および診断手段とが通信手段を介して接続されていることを特徴とする。
かかる構成によれば、痴呆症診断装置は、視線表示装置と、基準視線パターン記録手段および診断手段とが、ネットワーク等の通信手段を介して接続されているので、例えば、視線表示装置が観視者の所にあれば、観視者が遠隔地にいても診断することができる。
請求項1に記載の発明によれば、視線データ算出手段で視線データが算出されて、模写課題図形データ表示手段にて、視線データが模写課題図形に重ねて表示させられるので、模写課題図形と視線データとを確実に対応付けることができる。つまり、従来のように、視線検出を含む図形模写検査を行う際に、ゴーグルに取り付けた視野カメラを使用して紙面を撮影していないので、出力結果となる画像中に歪みが生じることがない。また、軌跡データと視線データとを用いれば、模写課題図形を模写した際の軌跡と眼球運動との関連性を解析することができる。
請求項1に記載の発明によれば、撮影手段によって、眼球画像が撮影されて、この眼球画像に基づいて、視線データ算出手段で視線データが算出され、模写課題図形データ表示手段にて、視線データが模写課題図形に重ねて表示させられるので、模写課題図形と視線データとを確実に対応付けることができる。
請求項2に記載の発明によれば、模写課題図形データ表示手段の表示面を囲む筐体に撮影手段の撮影レンズを設けているので、従来のように観視者がゴーグルを着用する必要が無く、当該観視者は、姿勢を束縛されることなく、模写課題図形を観視しながら、模写することができ、同時に、撮影手段で模写している際の眼球の動きを撮影することができる。
請求項3に記載の発明によれば、模写課題図形データ表示手段に表示された模写課題図形を、ハーフミラーに施した可視光反射コーティングの処理により、透過型タッチパネルのスクリーン面に表示させると共に、ハーフミラーに施した赤外光透過コーティングの処理により、この透過型タッチパネルに対面する観視者の顔面(眼球)にて、赤外光照射手段が照射して反射した赤外光を、ハーフミラーの背面に設けた撮影手段によって撮影しているので、当該観視者が模写課題図形を模写する(なぞる)際に、模写課題図形が映し出されている透過型タッチパネルを注視することとなり、観視者が自身の身体や頭部を多少動かしたとしても、当該観視者の眼球を確実に撮影することができる。
請求項4に記載の発明によれば、観視者が模写課題図形を模写している最中でも、それまでに取得された軌跡データおよび算出された視線データを、当該模写課題図形に重ねて表示させることができる。
請求項5に記載の発明によれば、本来、視線表示装置の出力結果を見て医師が診断するところを、視線表示装置の出力結果である視線データと、予め記録してある基準視線パターンとを比較演算することにより、診断手段によって、観視者が痴呆症(アルツハイマー型痴呆症)であるか否かを診断することができる。
請求項6に記載の発明によれば、視線表示装置の出力結果が通信手段を介して、送信されることによって、たとえ観視者が遠隔地にいても、当該観視者が痴呆症(アルツハイマー型痴呆症)であるか否かを診断することができる。
本発明の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
(痴呆症診断装置の構成)
図1は、痴呆症診断装置のブロック図である。この図1に示すように、痴呆症診断装置1は、被験者(観視者)に対し、視線検出を含む図形模写検査を実施して、痴呆症、特に、アルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断するもので、視線表示装置3と、制御手段11と、診断手段13と、基準視線パターン記録手段15と、基準軌跡パターン記録手段17と、基準なぞりパターン記録手段19と、知的機能テストデータ記録手段21とを備えている。
この痴呆症診断装置1は、視線検出を含む図形模写検査において、被験者が模写課題図形を模写する(別の場所に書き写す)、或いは、模写課題図形をなぞる(模写課題図形の上に直接重ね書きする)際の視線の動きを検出するものである。視線は、眼球運動(直接的な目の動き)と、身体や頭部の動きに伴って生じる相対的な目の動きとの組み合わせによって実現されている。但し、心理実験等では、身体や頭部の動きに伴って生じる相対的な目の動きが加わると、解析が困難になるので、通常、あご台等で頭部の動きを固定して眼球運動のみを検出することが多い。この痴呆症診断装置1では、視線表示装置3によって、被験者の顔面を撮影することで、被験者をあご台で固定する必要のない視線検出方式(詳細は後記する)を用いて、身体や頭部の動きに伴って生じる相対的な目の動きも検出している。なお、視線検出方式は、この実施の形態に限らず、現在商品化されている様々な方式を用いることができる。
また、この痴呆症診断装置1は、知的機能テストデータ記録手段21に記録されている知的機能テストデータを使用した、記憶力や理解力を中心に痴呆症であるか否かを診断する長谷川式簡易知的機能診査スケールや、DSM−3(ローマ数字の3)−Rと呼ばれる国際的な検査課題や、国立精研式スクリーニングテスト(室伏君士編:老年期痴呆の医療と看護、金剛出版、主に第1章pp15−38(1990)参照)等の検査によって、被験者が痴呆症、特に、アルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断することができる。
さらに、この痴呆症診断装置1は、視線表示装置3と、制御手段11および診断手段13とを、インターネット、イントラネット、LAN等のネットワーク(通信手段)を介して接続することよって、視線表示装置3の出力結果が当該ネットワークを介して、診断手段13に入力され、遠隔地にいる被験者がアルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断することができる。
(視線表示装置の構成)
視線表示装置3は、被験者が模写する対象(課題)となる模写課題図形を表示(提示)し、当該模写課題図形を模写した(なぞった)軌跡を軌跡データ(なぞりデータ)として取得すると共に、この模写する際の被験者の眼球の動き(眼球運動)から視線の動きを示す視線データを算出し、模写課題図形に軌跡データおよび視線データを重ねて表示するもので、視線検出手段5と、模写課題図形データ表示手段7と、模写課題図形データ記録手段9と、視線模写軌跡表示手段10とを備えている。
視線検出手段5は、模写課題図形を模写する(なぞる)際の被験者の眼球を撮影し、視線の動きを示す視線データ(注視点を時系列に沿って繋いだ情報)を算出するもので、回転ミラー5aと、回転ミラー駆動手段5bと、赤外カメラ5cと、赤外LED5dと、視線データ算出手段5eとを備えている。なお、ここで検出する視線データは、被験者の眼球運動(直接的な目の動き)と、身体や頭部の動きによって生じる相対的な目の動きとの組み合わせによって生じるものである。
回転ミラー5aは、被験者の頭部の水平方向、垂直方向の動きに合わせて(追従させて)、当該被験者の眼球の白目の部分(強膜)、黒目の部分(角膜)で反射した反射光を赤外カメラ5cに入射させるためのものである。この回転ミラー5aは、X,Y方向の2軸制御のミラーであり、被験者の頭部が動いても確実に被験者の眼球を撮影でき、当該被験者の視線(視線データ)を検出できるものである。
回転ミラー駆動手段5bは、ステッピングモータ等によって構成されており、制御手段11から出力された操作信号に基づいて起動し、当該回転ミラー5aの回転角度を制御して、連続的に駆動(回動)させるものである。
赤外カメラ5c(撮影手段)は、赤外感度のある撮影カメラであり、オートフォーカスおよびズーム機能を内蔵しており、制御手段11から出力された操作信号に基づいて起動し、回転ミラー5aで反射された、被験者が模写課題図形を模写している際の当該被験者の眼球を撮影するものである。この赤外カメラ5cは、赤外LED5dから照射された赤外光が被験者の眼球で反射した反射光を撮影するものである。また、この赤外カメラ5cは、オートフォーカスおよびズーム機能によって、常に精度良く被験者の眼球の動きを検出することができる。
赤外LED5d(赤外光照射手段)は、被験者の眼球の白目の部分(強膜)、黒目の部分(角膜)に不可視光の赤外光を照射するためのものである。なお、この実施の形態では、角膜反射方式(詳細は後記する)によって、眼球の動きを検出しているので、赤外LED5dを2個用いて角膜表面を照射している。明るい外光下等では、赤外カメラ5cのレンズの周りを取り囲む様にして多くの赤外LED5dを配置する方式も用いられる。
なお、これら回転ミラー5a、回転ミラー駆動手段5b、赤外カメラ5cおよび赤外LED5dの構成例(配置例)を図2に示す。この図2に示すように、赤外カメラ5cの両側に、赤外LED5dを配置し、赤外カメラ5cの撮影レンズ側に回転ミラー5aを配置し、この回転ミラー5aの奥行き方向に回転ミラー駆動手段5b(図2では、回転軸のみ図示)を配置している。また、回転ミラー5aは、被験者の眼球に対して、常に対向するように(眼球から反射光が入射するように)、回転ミラー駆動手段5bによって駆動されている。
ここで、視線検出手段5が被験者の眼球の動きを検出している仕方(角膜反射方式)について、図6、図7を参照して説明する。図6に角膜反射方式に従って撮影した眼球部分の画像の一例を示す。また、図7に角膜反射方式の検出原理を説明した図を示す。
角膜反射方式では、まず、被験者の眼球部分に赤外光(赤外線)を照射し、当該被験者の眼球部分を撮影する。この図6に示すように、被験者の眼球部分に照射された赤外光(赤外線)は、眼球の網膜で反射し、再び虹彩(目の絞り)によって絞られた瞳孔部分(黒目の部分)から出射し、明るく白い「円」(図6(a)の)として、赤外カメラ5c(図1参照)によって撮影される。一方、被験者の眼球表面に照射された赤外光(赤外線)は、黒目の部分(角膜)の表面から反射し、明るい光点(反射光点(代表点)、図6(b))として撮影される。
また、図7に示すように、眼球の回転中心(図7中、“O”)と、角膜の回転中心(図7中、“O′”)とが異なっているため、眼球が回転すると、図6(a)に示した白い「円」の中心、すなわち、瞳孔の中心と、図6(b)に示した角膜で反射する反射光点との位置が相対的にずれる。このずれを、角膜反射方式では、眼球運動量として検出している。
この眼球運動量に対して、身体の頭部の動きに対しては、図6(a)に示した白い「円」の中心、すなわち、瞳孔の中心と、図6(b)に示した角膜で反射する反射光点との位置が同時に、同方向に、同量だけずれる。つまり、角膜反射方式を用いることで、被験者の眼球運動による移動量(眼球運動量、直接的な目の動き)と、被験者の身体や頭部の動きによって生じる移動量(相対的な目の動き)とを分離して、検出することができる。このため、被験者の眼球の動きに対応して、回転ミラー5aを常に当該被験者の眼球に対向させることができる。
図1に戻って、痴呆症診断装置1の視線表示装置3の説明を続ける。
視線データ算出手段5eは、被験者の眼球で反射された反射光が赤外カメラ5cで撮影され、この撮影された反射光の反射光量の違いによって、当該被験者の眼球が左右方向、上下方向に動いたのかを検出し、この眼球の動き(眼球運動)が時間的に連続した時系列の情報から、視線の動きを示す視線データを算出するものである。
模写課題図形データ表示手段7は、模写課題図形を表示すると共に、被験者が模写した軌跡を軌跡データとして取得するもので、表示手段7aと、軌跡データ取得手段7bとを備えている。
表示手段7aは、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データに基づいて模写課題図形を表示させると共に、軌跡データ取得手段7bで取得された軌跡データを、当該模写課題図形に重ね合わせて表示するものである。
軌跡データ取得手段7bは、表示手段7aに表示されている模写課題図形に対して、被験者が模写した軌跡を軌跡データとして取得するものである。この実施の形態では、軌跡データ取得手段7bは、被験者が模写する際に使用したペンの筆圧を検出する圧力センサによって構成されている。また、例えば、この軌跡データ取得手段7bは、超音波を発信する発信機を埋め込んだ筆記具と、この発信機が発信した超音波の強度から当該筆記具が描いた軌跡を検出する超音波検出器(図示せず)とによって構成してもよい。
なお、この実施の形態では、この模写課題図形データ表示手段7は、図3に示すように、タッチパネル式の液晶画面として構成されている。この模写課題図形データ表示手段7は、視線検出手段5と一体化して設けられており、当該視線検出手段5の赤外カメラ5cの撮影レンズが模写課題図形データ表示手段7の表示面を囲む筐体の上端部ほぼ中央にはめ込まれている。また、このタッチパネル式の液晶画面において、表示手段7aが液晶画面として、軌跡データ取得手段7bが当該液晶画面の表示面に取り付けられたタッチパネルとして構成されている。また、図3では、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7a(図1参照)の表示面には、模写課題図形の一例として、中抜きの十字が表示されている。
模写課題図形データ表示手段7がタッチパネル式の液晶画面で構成されている場合、被験者は、液晶画面で表示される模写課題図形を、タッチパネル内で、スタイラスペンや自身の指で模写したり、なぞったりすることで、その軌跡データ(なぞりデータ)を同時に液晶画面に表示させることができる。
また、模写課題図形データ表示手段7は、図4に示すように、視線検出手段5の赤外カメラ5cを2台、つまり、赤外カメラ5c(L)と赤外カメラ5c(R)とを備え、この2台の赤外カメラ5c(L)、5c(R)によって、被験者の眼球を撮影してもよい。2台の赤外カメラ5c(L)、5c(R)を設ける必要性は、被験者が近くを観視した場合、カメラから見込んだ眼球の撮影画角が30度を超え、1台の赤外カメラ5cでは、ディスプレイの左右端を注視したときの眼球像の撮影が困難になる恐れがあるためである。
これら赤外カメラ5c(L)、5c(R)が被験者の眼球を検出する検出エリアは、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aの表示面のほぼ中央のラインを境に、当該被験者の左視野の眼球運動を検出する左視野検出エリア(5c(L)担当検出エリア)と、当該被験者の右視野の眼球運動を検出する右視野検出エリア(5c(R)担当検出エリア)とに分けられている。被験者の眼球運動から視線データを算出するためには、少なくとも一方の赤外カメラ5c(L)または赤外カメラ5c(R)の眼球画像があればよく、この実施の形態では、模写課題図形を模写している(なぞっている)際には、図4に示したハッチングの交差しているエリアを視線(視線データ)が越えたと判定されたときに、被験者の眼球を検出する赤外カメラ5c(L)と赤外カメラ5c(R)との切替が行われる。
つまり、赤外カメラ5c(R)で被験者の右視野の眼球運動を検出している場合に、当該右視野の眼球運動から算出される視線データが、左視野検出エリア(5c(L)担当検出エリア)に入ってしまった場合に、赤外カメラ5c(L)で被験者の左視野の眼球運動を検出するようにするのである。
また、赤外カメラ5c(L)、5c(R)の取り付け位置は、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aの背面にあってよく、当該赤外カメラ5c(L)、5c(R)の撮影レンズそれぞれが、表示手段7aの表示面を囲む筐体の左縁部ほぼ中央、右縁部ほぼ中央に備えられていればよい。
さらに、この模写課題図形データ表示手段7は、図5に示すように、表示手段7aと、透過型の透明タッチパネル(軌跡データ取得手段)7bとを備え、視線検出手段5の赤外カメラ5cと、赤外LED5dと、ハーフミラー5fと一体的に構成されてもよい。
この図5に示すように、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aから出射(発光)された光(画像)は、ハーフミラー5fの表示面側に可視光反射コーティング処理および赤外光透過コーティング処理を施すことにより、ハーフミラー5fの反射面を介して反射し、透明タッチパネル(軌跡データ取得手段)7bのスクリーン面に投影し、映し出される。また、赤外光透過コーティング処理により、ハーフミラー5fは赤外光については透過するので、ハーフミラー5fの背面側に、視線検出手段5の赤外カメラ5cと赤外LED5dとを設置することによって、透明タッチパネル(軌跡データ取得手段)7bに対向している被験者の顔面部(眼球近傍)で反射した赤外光は赤外カメラ5cによって撮影される。
図1に戻って、痴呆症診断装置1の視線表示装置3の説明を続ける。
模写課題図形データ記録手段9は、ハードディスクやメモリ等によって構成されており、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに、模写課題図形を描画するためのデータである模写課題図形データを記録するものである。
この模写課題図形データには、例えば、中抜きの十字、三角形、立方体等のの幾何学図形(模様)や、花や山等の簡単な自然画も含まれている。
視線模写軌跡表示手段10は、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データに基づいて描かれる模写課題図形に、軌跡データおよび視線データを重ね合わせて表示するものである。
この視線表示装置3によれば、模写課題図形データ表示手段7によって、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データに基づいて、模写課題図形が表示され、この模写課題図形を見ながら被験者が模写した軌跡が軌跡データとして、軌跡データ取得手段7bによって取得される。そして、被験者が模写した軌跡データを取得しているのと同時に、被験者が模写課題図形を見ながら当該模写課題図形を模写する際の眼球を赤外カメラ5cによって撮影し、この赤外カメラ5cで撮影した眼球画像に基づいて、視線データ算出手段5eにより被験者の視線の動きを示す視線データを算出する。
ここで、軌跡データ取得手段7bおよび赤外カメラ5cが、模写課題図形データ表示手段7の表示面側に配置されており、一体化して設けられているので、従来のように被験者がゴーグルを着用する必要が無く、当該被験者は、姿勢を束縛されることなく、模写課題図形を観視しながら、模写することができ、同時に、赤外カメラ5cで模写している際の眼球の動きを撮影することができる。なお、本発明では、視線検出手段5を使用せず、従来のように被験者にゴーグルを着用させ、眼球運動を検出し視線データとすることもできる。
また、この視線表示装置3によれば、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aの表示面を囲む筐体の左側縁部ほぼ中央に、赤外カメラ5c(L)の撮影レンズを、当該筐体の右側縁部ほぼ中央に、赤外カメラ5c(R)の撮影レンズを設けて、左右それぞれの視野を注視しているときの眼球を撮影することで、被験者と表示面との距離(検出角度)に拘われず、左右の広い範囲に動く眼球の眼球運動に対しても良好な眼球画像を撮影することができる。
さらに、視線表示装置3によれば、ハーフミラー5fの表示面側に施された可視光反射コーティング処理により、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示された模写課題図形がハーフミラー5fを介して反射され、透明タッチパネル(軌跡データ取得手段)7bのスクリーン面に表示されると共に、赤外光透過コーティング処理により、ハーフミラー5fが赤外光については透過するので、この透明タッチパネルに対面する被験者の顔面(眼球)で、赤外LED5dが照射した赤外光が反射され、この反射された赤外光が透過し、ハーフミラー5fの背面に設けた赤外カメラ5cによって撮影される。このため、当該被験者が模写課題図形を模写する(なぞる)際に、模写課題図形が映し出されている透明タッチパネル(軌跡データ取得手段)7bを注視することとなり、被験者が自身の身体や頭部を多少動かしたとしても、被験者の眼球を確実に撮影することができる。
(視線表示装置を含んだ痴呆症診断装置の構成)
図1に示した痴呆症診断装置1の視線表示装置3以外の構成について説明を続ける。
制御手段11は、痴呆症診断装置1の操作者が、キーボードやマウス等の入力手段(図示せず)を用いて入力した各種の操作信号(図1中、点線で図示)を制御信号として各手段に出力して、当該痴呆症診断装置1の制御を司るものである。
なお、操作信号には、視線検出手段5の回転ミラー駆動手段5bを駆動させる回転ミラー駆動信号、赤外カメラ5cおよび赤外LED5dを起動させるカメラ起動信号、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データを表示手段7aに出力させる模写課題図形データ出力信号がある。
さらに、この操作信号には、基準視線パターン記録手段15に記録されている基準視線パターンを診断手段13に出力させる基準視線パターン出力信号、基準軌跡パターン記録手段17に記録されている基準軌跡パターンを診断手段13に出力させる基準軌跡パターン出力信号、基準なぞりパターン記録手段19に記録されている基準なぞりパターンを診断手段13に出力させる基準なぞりパターン出力信号、知的機能テストデータ記録手段21に記録されている知的機能テストデータを診断手段13に出力させる知的機能テストデータ出力信号がある。
また、この制御手段11は、知的機能テストデータ記録手段21から出力された知的機能テストデータを模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示させて、被験者が入力手段(図示せず)によって入力した回答データを診断手段13に出力するものである。さらに、視線検出手段5から得られた視線データと、軌跡データ取得手段7bから得られた軌跡データとを模写課題図形データ上に重ね合わせ、視線模写軌跡表示手段に10に出力する。図11〜図16は出力表示の例である。
診断手段13は、視線表示装置3の出力結果である視線データ、軌跡データ(なぞりデータ)および模写課題図形データと、基準視線パターン記録手段15に記録されている基準視線パターン、基準軌跡パターン記録手段17に記録されている基準軌跡パターン、基準なぞりパターン記録手段19に記録されている基準なぞりパターン、知的機能テストデータ記録手段21に記録されている知的機能テストデータおよび入力手段(図示せず)より入力された回答データとに基づいて、被験者がアルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断するものである。
診断手段13は、図8に示すように、基準視線パターン・視線データ類似度演算手段13aと、軌跡データ・視線データ類似度演算手段13bと、模写課題図形データ・視線データ類似度演算手段13cと、視線データ・数値パラメータ類似度演算手段13dと、軌跡データ・数値パラメータ類似度演算手段13eと、模写課題図形データ・数値パラメータ類似度演算手段13fと、進行度診断手段13gと、照合手段13iとを備えている。
基準視線パターン・視線データ類似度演算手段13aは、基準視線パターン記録手段15に記録されている基準視線パターンと、視線データ算出手段5eで算出された視線データとの類似度を、パターン認識に用いられる(石井健一郎他、パターン認識、オーム社(1998)参照)最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
軌跡データ・視線データ類似度演算手段13bは、軌跡データ取得手段7bで取得された軌跡データ(なぞりデータ)と、視線データ算出手段5eで算出された視線データと、基準視線パターン記録手段15に記録されている基準視線パターンと、基準軌跡パターン記録手段17に記録されている基準軌跡パターンと、基準なぞりパターン記録手段19に記録されている基準なぞりパターンとの類似度を、最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
模写課題図形データ・視線データ類似度演算手段13cは、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データと、視線データ算出手段5eで算出された視線データと、基準視線パターン記録手段15に記録されている基準視線パターンとの類似度を、最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
視線データ・数値パラメータ類似度演算手段13dは、視線データ算出手段5eで算出された視線データと、当該視線データに関し、臨床検査により予め設定された、アルツハイマー型痴呆症と診断する閾値となる数値パラメータとの類似度を、最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
軌跡データ・数値パラメータ類似度演算手段13eは、軌跡データ取得手段7bで取得した軌跡データ(なぞりデータ)と、当該軌跡データ(なぞりデータ)に関し、臨床検査により予め設定された、アルツハイマー型痴呆症と診断する閾値となる数値パラメータとの類似度を、最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
模写課題図形データ・数値パラメータ類似度演算手段13fは、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データと、当該模写課題図形データに関し、臨床検査により予め設定された、アルツハイマー型痴呆症と診断する閾値となる数値パラメータとの類似度を、最近傍決定則、ベイズ決定則などのパターンマッチングの手法によって求め、マッチングした結果を照合手段13iに出力するものである。
進行度診断手段13gは、知的機能テストデータ記録手段21に記録されている知的機能テストデータと、この知的機能テストデータの回答を被験者が行った回答データを照合判断手段13hで照合し、この照合結果により、脳血管性痴呆症、または、アルツハイマー型痴呆症の進行具合をデータ化し(痴呆症進行度データ、例えば、進行度1〜10の10段階)、照合手段13iに出力するものである。
照合手段13iは、基準視線パターン・視線データ類似度演算手段13aのマッチング結果と、軌跡データ・視線データ類似度演算手段13bのマッチング結果と、模写課題図形データ・視線データ類似度演算手段13cのマッチング結果と、視線データ・数値パラメータ類似度演算手段13dのマッチング結果と、軌跡データ・数値パラメータ類似度演算手段13eのマッチング結果と、模写課題図形データ・数値パラメータ類似度演算手段13fのマッチング結果と、進行度診断手段13gの痴呆症進行度データとに基づいて、総合的な判定を行い、診断結果データとして出力するものである。
この総合的な類似度は、操作者が入力した操作信号に基づいて、どの項目を優先させて、アルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断するのかによって異なるものである。例えば、操作者が、入力手段(図示せず)により入力した操作信号によって、被験者の模写した軌跡データと視線データとの類似度のみを参照して、アルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断すると設定した場合には、他の類似度は参照されずに、診断されることとなり、照合手段13iから出力される診断結果データに反映される。また、総合的な判定法としては、各々の演算結果について、予め臨床的に得られたデータに基づいて重み付けを行い、これらを加算することにより総合点を得て判定する方法などが考えられる。
図1に戻って、痴呆症診断装置1の視線表示装置3以外の構成について説明を続ける。
基準視線パターン記録手段15は、ハードディスクやメモリ等によって構成されており、AD患者が模写課題図形を模写した際に示す特有の視線データである基準視線パターンを記録しているものである。また、この基準視線パターン記録手段15には、標的画追跡検査の課題と、AD患者の視線データとが記録されている。図9に示す標的画追跡検査の課題の一例を示す。なお、参考までに、図9(a)には、健常者の視線の例を示しており、図9(b)に、AD患者の視線の例を示している。
なお、この図9に示した標的画追跡検査の追跡対象となる図形は、矩形波状の幾何学模様であり、AD患者の視線は、この幾何学模様の縦線を追従することができず、ほぼ横一直線になってしまう。
図1に戻って、痴呆症診断装置1の視線表示装置3以外の構成について説明を続ける。
基準軌跡パターン記録手段17は、ハードディスクやメモリ等によって構成されており、AD患者が模写課題図形を模写した際に示す特有の軌跡のパターンである基準軌跡パターンを記録しているものである。
基準なぞりパターン記録手段19は、ハードディスクやメモリ等によって構成されており、AD患者が模写課題図形をなぞった際に示す特有のなぞり画のパターンである基準なぞりパターンを記録しているものである。
知的機能テストデータ記録手段21は、ハードディスクやメモリ等によって構成されており、長谷川式簡易知的機能診査スケールを例に上げれば同検査の記憶力検査に用いられる、時計やライター等の図形を含む知的機能テストデータを記録しているものである。
この痴呆症診断装置1によれば、診断手段13で、基準視線パターン記録手段15に記録されている、痴呆症の症状を示す視線の動きの基準となる基準視線パターンと、基準軌跡パターン記録手段17に記録されている基準軌跡パターンと、基準なぞりパターン記録手段19に記録されている基準なぞりパターンと、視線表示装置3から出力された軌跡データと、模写課題図形データとの少なくとも一つと、視線表示装置3から出力された視線データとをマッチングしたマッチング結果に基づいて、痴呆症(アルツハイマー型痴呆症)であるか否かが診断される。つまり、視線表示装置3の出力結果に基づいて、アルツハイマー型痴呆症であるか否かを診断することができる。
また、この痴呆症診断装置1によれば、視線表示装置3と、診断手段13、基準視線パターン記録手段15、基準軌跡パターン記録手段17および基準なぞりパターン記録手段19とをネットワーク等の通信手段を介して接続させることも可能であり、例えば、視線表示装置3が被験者の所にあれば、被験者が遠隔地にいても診断することができる。
(痴呆症診断装置の動作)
次に、図10に示すフローチャートを参照して、痴呆症診断装置1の動作について説明する(適宜、図1参照)。
まず、模写課題図形データ記録手段9に記録されている模写課題図形データを操作者が入力手段(図示せず)を用いて選択し、この操作者によって選択された模写課題図形データに基づいて、痴呆症診断装置1は、模写課題図形を模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示する(S1)。
続いて、視線検出手段5の赤外カメラ5cと、赤外LED5dとが制御手段11から出力されたカメラ起動信号に従ってスタンバイ状態となる(S2)。なお、回転ミラー5aもスタンバイ状態となる。そして、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示されている模写課題図形を、被験者が模写すると(なぞると)、痴呆症診断装置1は、軌跡データ取得手段7bによって、軌跡データ(なぞりデータ)を取得する(S3)。
痴呆症診断装置1は、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示されている模写課題図形に(S3)で得られた模写の軌跡データを重ね合わせて表示する(S4)。
回転ミラー駆動信号に基づいて、この模写課題図形を模写している(なぞっている)際の被験者の眼球を、視線検出手段5の回転ミラー5aで追従しながら、赤外カメラ5cで撮影する(S5)。
そして、痴呆症診断装置1は、この赤外カメラ5cで撮影した眼球画像に基づいて、角膜反射方式の検出原理により、視線データ算出手段5eで、被験者の視線の動きを示す視線データを算出し、診断手段13に出力する(S6)。
痴呆症診断装置1は、視線模写軌跡表示手段10にて、模写課題図形に被験者の模写軌跡(軌跡データ)および視線データを重ねて表示する(S7)。ここで、痴呆症診断装置1は、入力された操作信号に従い、知的機能テストを実行するかどうかを判定し(S8)、知的機能テストを行うと判定した場合には、模写課題図形データ表示手段7の表示手段7aに表示されている模写課題図形、模写軌跡(軌跡データ)および視線データを表示面上から一旦消去し、知的機能テストデータを表示する(S9)。ここで、被験者は回答データを入力する(S10)。
S8にて、知的機能テストを実行すると判定されなかった場合には、操作者が入力手段(図示せず)で入力した操作信号に基づいて、痴呆症診断装置1は、診断手段13の照合手段13iで優先させるマッチング結果の優先順位を決定し、診断結果データを生成する(S11)。そして、痴呆症診断装置1は、生成した診断結果データを視線模写軌跡表示手段10に表示させるか、外部に出力する(S12)。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、痴呆症診断装置1の各構成の処理を汎用的なコンピュータ言語で記述した痴呆症診断プログラムとみなすことは可能である。この痴呆症診断プログラムが、例えば、ネットワークに接続されるサーバ等にインストールされており、視線表示装置3が被験者に備えられていれば、痴呆症診断装置1と同様の効果を得ることができる。