(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について、図1から図18を用いて説明する。本実施の形態における模様識別装置は硬貨の刻印模様を識別の対象としているが、本発明は識別の対象として紙幣やカード等の印刷模様、メダルやトークン等の刻印模様などにも適用されるものである。また模様は、硬貨等の表面、裏面だけでなく、側面の模様にも応用可能である。さらに識別の対象物は、本実施の形態のように重力を利用した転動中に限らず、自然落下中、ベルト等の搬送手段による移動途中、さらには停止手段を用いるなどして識別対象を停止させ停止中にも識別を行うことができる。
また本発明の実施の形態では、撮像手段と照明手段を通路の同一側に配置し、識別対象からの反射光で識別を行っているが、撮像手段と照明手段を通路の逆側に配置し、識別対象からの透過光で識別を行うこともできる。
図1は本発明の一実施の形態における硬貨識別装置の概要を示した正面図であり、投入された硬貨の正偽や種類を識別する。図1において、硬貨識別装置本体11の上部には硬貨の投入口12が設けられており、この投入口12から下方に向かって硬貨の通路13が連結されている。通路13の側壁の一部は光学透明体14で構成され、この光学透明体14の背部に照明手段15と硬貨の模様を検知する撮像手段16が配置されている。また通路13の下流には、厚み・材質兼用センサ17が配置されている。さらに通路13は、硬貨識別装置本体11の下部に位置する硬貨の出口18に連結されている。
図2は、撮像手段16近傍の断面図である。通路13を構成する一方の側壁21の一部は通路の底面22を形成している。投入された硬貨23はこの底面22上を転動する。通路13の他方の側壁24の一部は光学透明体14で構成され、複数のLED25とフレキシブル配線基板とから成る照明手段15からの照明光で硬貨23が照明される。硬貨23で反射された反射光は、側壁24側に配置された撮像手段16で検知される。撮像手段16は、画像センサ26と画像センサ26上の受光面27、及び硬貨23からの反射光を受光面27に結像するレンズ28とから成る。
通路13の底面22は、照明手段15及び撮像手段16とは逆側の側壁21に設けることで、底面22で影ができ識別性能が低下することを防止している。また、底面22の幅22aは、照明手段15からの照明光が硬貨23の縁に照射されるのを妨げない、すなわち影にならないように識別しようとする硬貨23の最小の厚みより狭くすると共に、最小の厚みの硬貨23が側壁24側に沿って通過しても落下しない寸法としている。
また、硬貨23が側壁21、24のどちらか一方に沿って安定して通過するように、通路13は鉛直に対して傾斜させている。傾斜させているのとは逆側の側壁24は必ずしも必要はない。本実施の形態では、さらに傾斜させているのとは逆側に、光学透明体14と照明手段15及び撮像手段16を配置して、これらへの汚れの付着を低減させている。なお、光学透明体14はガラスやプラスチック等で形成することによって通路13側と撮像手段16側を区切り、撮像手段16側に通路13側から塵埃や硬貨23などが侵入することを防止できるが、光学透明体14を空気とする、すなわち何も用いなくても構わない。
側壁21と側壁24は、外乱光を遮蔽し、また照明手段15からの照明光の硬貨23以外での反射光を低減するため、黒色としている。黒色に限らず、非反射または低反射の材質、色、表面状態とすることで、照明手段15からの照明光以外の外乱光や、照明手段15からの照明光の硬貨23以外での反射光を撮像手段16で検知することを防止し、識別精度を向上させることができる。
照明手段15は図3のように構成されている。すなわち、想定される最小速度で通路13を通過する硬貨位置31から、想定される最大速度で通過する硬貨位置32までをすべて含む範囲を撮像時硬貨位置33とし、この撮像時硬貨位置33を完全に覆う形状に構成している。照明手段15の形状は、長辺と短辺を持つ非円形、例えば長円または楕円形状としており、長辺を硬貨23の通過方向に該一致させることで、硬貨23が画像センサ26の受光面27の中心に相当する位置に来たタイミングを検知する精度に対する許容度を拡大し、硬貨23の通過速度が一定しない自由落下や転動中にも識別が可能になる。また、照明手段15の中心を撮像時硬貨位置33の中心とほぼ一致させることで、照明を均一化することができる。さらに、画像センサ26上の受光面27の中心もこれらの中心に配置している。
また図2において、正反射光29は照明手段15からの照明光が、識別しようとする最大外径の硬貨23の外周縁部近傍の平面部で正反射した、すなわち入射角と反射角の等しい反射光成分を示す。この正反射光29が撮像手段16に入射すると、入力した画像に非常に明るいムラが発生し正確な識別の妨げとなる。そのため、正反射光29が撮像手段16に入射しないよう、言い換えれば図3において正反射位置34が撮像時硬貨位置33の範囲内に入らないような位置関係に、通路13と照明手段15及び撮像手段16を配置して、撮像時硬貨位置33の画像にムラが発生するのを防止している。照明手段15の形状を長辺と短辺を有する非円形とすることで、正反射位置34の形状を長辺と短辺を有する非円形とすることができ、撮像時硬貨位置33の範囲内に入りにくくすることができる。さらに照明手段15の長辺を硬貨23の通過方向に該一致させることで、撮像手段16における正反射位置34の長辺を硬貨23の通過方向とほぼ平行にすることができ、照明手段15の中心を撮像手段16における撮像時硬貨位置33の中心に該一致させることで、正反射位置34の中心を撮像時硬貨位置33の中心にほぼ一致させることができる。或いは、撮像時硬貨位置33の範囲内に入る正反射位置34aをもつ照明手段15の部位15a(長辺部分)にLED25を配置しない欠落部を有することで正反射位置34に欠落部を設けることができる。いずれも、硬貨23からの正反射光29が撮像手段16における撮像時硬貨位置33の外に入射するように通路13と照明手段15及び撮像手段16とを配置しやすくなる効果がある。照明手段15の中心を撮像手段16の中心に該一致させることでも同様の効果が得られる。なお、透過光で識別を行う場合には、入射角と出射角の等しい透過光成分(正透過光と言う)が、反射光で識別を行う場合の正反射光29に相当し、画像のムラに関して同様のことが言える。
硬貨23の刻印模様を検知するため、硬貨23に対して照射光の入射角度を低角度として、暗視野照明して刻印をより浮かび上がらせている。また、照明手段15(第1の照明手段)を構成する複数のLED25は8の倍数個備えると共に、第2の照明手段36と第3の照明手段37の2つの群に分けて構成し、第2の照明手段36と第3の照明手段37を独立して発光可能としている。第2の照明手段36は4つのLED群36a、36b、36c、36dから成り、第3の照明手段37と比較して出口18に近く、第3の照明手段37も4つのLED群37a、37b、37c、37dから成り、投入口12に比較的近い側としている。全てのLED群36a、36b、36c、36d、37a、37b、37c、37dは同数のLED25で構成している。第2の照明手段36と第3の照明手段37とは、照明手段15の中心を通り通路13に垂直な直線35に対して該対称としている。また、第2の照明手段36と第3の照明手段37のそれぞれは、照明手段15の中心を通り通路13に平行な直線に対して該対称としている。照明手段15を2群に分け、各々の照明手段36、37を独立に発光させることで、後述する方法により硬貨23の凹凸度合いを検出することができる。第2の照明手段36及び第3の照明手段37をそれぞれ複数のLED群で構成することで、後述の第1の画像データと第2の画像データを均質で高画質化し、硬貨23の凹凸度合いの検出を高精度化できる。特に、第2の照明手段36と第3の照明手段37とを、通路13に垂直な直線35に対して該対称とすることで、第2の画像データ及び第3の画像データは投入口12側と出口18側の明度の差が抑制され均質化される。また、第2の照明手段36と第3の照明手段37のそれぞれを、通路13に平行な直線に対して該対称とすることで、第2の画像データ及び第3の画像データは通路13の底面22に近い側と遠い側の明度の差が抑制され均質化される。第2の照明手段36と第3の照明手段37とを複数の発光素子(LED25)で構成することで、それぞれ分割することが容易になると共に、第2の照明手段36と第3の照明手段37とを等しい個数のLED25で構成し各分割群を同数のLED25として、明るさの差を抑制し第2の画像データと第3の画像データを均質化でき、硬貨23の凹凸度合いを精度よく検出することが可能である。
図4は通路13の一部の断面図である。底面22を持つ一方の側壁21の逆側に位置する他方の側壁24に、排出補助手段41を設けている。変形硬貨や雨等で濡れた硬貨または粘着物の付着した硬貨などが投入されて通路13で停止した際に、一方の側壁21と他方の側壁24との距離を拡大させることにより、硬貨23を下方に落下させて出口18から返却させるが、排出補助手段41は硬貨23の上部を側壁24側に保持することにより硬貨23の排出をより確実にする。
図5は厚み・材質兼用センサ17近傍の断面図である。通路13を構成する一方の側壁21及び他方の側壁24にはそれぞれフェライト材のE型コア51、52が対向して取り付けられている。E型コア51、52は識別しようとする最小の硬貨23の外径より小さい長さのものを用い、硬貨23の中心がE型コア51、52の中心付近を通過するような位置に配置している。厚み・材質兼用センサ17は、E型コア51とその内部に巻かれた2本のコイル53、54およびE型コア52とその内部に巻かれた2本のコイル55、56より構成されている。コイル53とコイル55は相互インダクタンスが負になるように直列逆相接続されている。2本のコイル53、55を通路13に対向して配置し、逆相接続することで、通路13に発生する交流磁界の磁束方向は図5に破線で示したように、硬貨の表面に平行となり、硬貨の厚みを敏感に検知できる。また、コイル54とコイル56は相互インダクタンスが正になるように直列同相接続されている。2本のコイル54、56を通路13に対向して配置し、同相接続することで、通路13に発生する交流磁界の磁束方向は図5に二点鎖線で示したように、硬貨の表面に垂直となり、硬貨の材質を敏感に検知できる。厚みセンサ71と材質センサ75を兼用しているのは、小型化やコストダウンのためであるが、各々別のセンサであっても構わない。
図6は撮像手段16を形成する画像センサ26の制御回路の構成図であり、本実施の形態では画像センサ26としてMOS型の2次元(エリア)画像センサを用いて高速に2次元画像を得ているが、これに限らずCCDや1次元(ライン)センサの時系列データ等を用いてもよい。画像センサ26の受光素子からなる各画素61で検出した画像データは一種のシフトレジスタである水平走査回路62及び垂直走査回路63によって制御される水平走査線64及び垂直走査線65で画素61を選択されて水平走査回路62より順次出力67される。この際、水平走査回路62及び垂直走査回路63により一部の走査線のみを制御することで、特定領域66の画像データだけを出力することが可能である。部分的な画像データの出力はMOS型の画像センサで実現することができ、このような撮像手段16を備えることにより、画像データの出力を必要な部分だけに絞って読み出しを高速化することが可能である。また各画素61は正方形形状であると共に、水平方向の画素数が垂直方向の画素数よりも多く検知エリアが長方形である画像センサ26を使用し、硬貨23の通過方向に画像センサ26の長手方向をほぼ一致させて配置して、長方形の画像データを得ている。長手方向を通過方向に一致させているのは、画像センサ26の画素を有効利用して硬貨23が画像センサ26の受光面27の中心に相当する位置に来たタイミングを検知する精度に対する許容度を広くするためであると共に、画像センサ26は出力67の接続された水平走査回路62の走査の方を出力67の接続されていない垂直走査回路63の走査よりも優先して行う(水平走査の周期の方が短い)ので、横長な領域の画像を検知するのに出力信号中の水平休止期間(水平ブランキング期間)が少なく、より短時間で画像データを読み出すことができるからである。
撮像手段16内の画像センサ26には、本実施の形態では図7の制御回路の構成図に示すように、画素行列の行に感度制御のための電圧を供給する制御回路68と、画素行列の列から接地へ流れる電流を処理する神経ネットワーク69とを備えている。制御回路68及び神経ネットワーク69については、特開平6−139361号(実施例6など)に詳細が記載されているため構成や動作の説明は省略するが、これらを備えることにより画像センサ26内で例えば3×3のフィルタ行列と画像の積和演算を実行して出力することができる。すなわち後述のエッジ検出手段84の機能やエッジ強調機能を画像センサ26内で実現できる。隣接する周囲の画素データに基づく演算は、特に高速に実行することができる。またフィルタの設定を変更することで、エッジ画像ではなく原画像をそのまま出力することができるのは当然である。このように画像センサ26に制御回路68及び神経ネットワーク69を備えることにより、画像センサ26内でフィルタ行列と画像の積和演算を実行できるので、エッジ検出手段84が不要になると共に、エッジ検出の処理時間を短縮しデータ処理を高速化することができる。なお、エッジ検出機能内蔵の画像センサ26は撮像手段16とエッジ検出手段84の両方の機能を併せ持ったものであり、撮像手段16とエッジ検出手段84は別々であっても構わないので、以降の説明では撮像手段16とエッジ検出手段84とを分けて述べる。
図8は制御回路の構成を示すブロック図であり、厚みセンサ71は発振回路72に接続され、発振波形を正弦波から発振レベルを示す信号に変換する整流回路73を経て厚み検知手段74に入力されている。材質センサ75は発振回路76に接続され、整流回路77を経て材質検知手段78に入力されている。また整流回路73、77の出力は硬貨23が投入されたことを検知する投入検知手段79にも入る。投入検知手段79は、照明手段15と撮像手段16を制御し、照明手段15から照射され硬貨23で反射した反射光を撮像手段16で検知し、撮像したアナログ画像データを多値のデジタル信号に変換するA/D変換手段80に出力する。A/D変換手段80の出力は、相関二重サンプリング方式で雑音を除去するCDS手段70と、撮像手段16を制御し調整を行う調整手段81に接続されている。CDS手段70では、画素毎に画像信号と、バイアス成分及びノイズ成分のみから成る非画像信号とを読み出し、これらの差を出力するので、CDS手段70を備えることにより画素毎の電気回路の特性差などによる雑音を除去できる。CDS手段70の出力は、投入検知手段79、撮像手段16近傍の通路13が結露しているかどうかを検知する結露検知手段82、硬貨23の凹凸度合いを検知する凹凸検知手段83、画像データのエッジ部を検出するエッジ検出手段84、画像データにおける硬貨部分の中心と外径を検出する中心・外径検出手段85のそれぞれに入力されている。中心・外径検出手段85は、エッジ検出手段84と金種仮判定手段86及び倍率補正手段87に接続され、金種仮判定手段86では中心・外径検出手段85で検出した外径の値が近似し、該当すると考えられる最大2種類の金種を仮判定する。エッジ検出手段84の出力は画像データを直交座標から極座標に変換する座標変換手段88に入り、倍率補正手段87では硬貨23の通路13中での通過位置や撮像手段16の組み立て誤差等に起因する撮像倍率を補正し座標変換手段88を制御する。座標変換手段88の出力は二値化の閾値を設定する閾値設定手段89及び画像データを多値デジタル値から二値デジタル値に変換する二値化手段90とに入力される。二値化手段90の出力は回転角度検出手段91に接続され、記憶手段92に記憶された基準画像データに対する、投入された硬貨23の画像データの回転角度を検出し、投入された硬貨23の画像データと基準画像データとの照合を行う模様照合手段93に出力する。金種仮判定手段86の出力は倍率補正手段87と閾値設定手段89と回転角度検出手段91及び模様照合手段93に接続されると共に、記憶手段92は回転角度検出手段91と模様照合手段93、及び各比較手段94〜97に接続されている。比較手段94〜97のそれぞれには厚み検知手段74、材質検知手段78、凹凸検知手段83、模様照合手段93の出力が入り、比較手段94〜97は記憶手段92に記憶された基準と比較し、許容範囲内で一致していればその正貨の種類を示す信号を出力し、どの種類の基準値とも一致しない場合には偽貨であることを示す信号を出力する。判定手段99では、比較手段94〜97からの信号が全て同じ正貨の種類を示す場合に限りその正貨の種類を示す信号を出力し、それ以外の場合には偽貨を示す信号を判定信号100として出力する。判定手段99には、結露検知手段82と切替手段98の各出力も入力されている。
以上のように構成された硬貨識別装置について図9と図10に示すフローチャートを用い図8のブロック図も参照して、その動作を説明する。ステップS11〜S17で硬貨23が投入されたことを検知する。ここで硬貨23の投入及び投入検知とは、硬貨23の識別部への到達及び到達検知をも含む意味である。まず、硬貨投入を撮像手段16で検出するため、投入検知手段79は撮像手段16の設定を行う(S11)。具体的には、図11の撮像領域の概念図に示した撮像範囲101のうち、第1の投入検知領域102の部分画像のみ出力するように撮像手段16を設定し、画像センサ26の各画素61の初期化(リセット)などの撮像準備を行ってから撮像を開始する。
次に、第1の投入検知領域102内の画素61全てが受光状態となるタイミングで照明手段15を短時間発光させる(S12)。硬貨23の通過速度に対して短時間だけ発光させることで、硬貨23を停止させることなく静止状態に近い画像が得られ識別精度を向上できる。また、LED25を大電流で駆動可能として照明を高照度化したり、長寿命化することができる。なお、照明手段15は第2の照明手段36と第3の照明手段37の両方を発光させる。以降特に明記しない場合、照明手段15を発光させるとは、第2の照明手段36及び第3の照明手段37の両方を発光させることを示す。
そして、第1の投入検知領域102の画像データを入力する(S13)。次に撮像手段16で投入検知する際は第2の投入検知領域103で、その次は第3の投入検知領域104で同様の入力を行い、さらに次は第1の投入検知領域102に戻る。3ヶ所の投入検知領域102〜104で投入検知を行うのは硬貨23や通路13が汚れている場合でも確実に硬貨23の投入を検知するためである。また図11に示すように、3ヶ所の投入検知領域102〜104は、撮像時硬貨位置33に対して、後述の模様入力用照明(S40)までの所要時間と硬貨23の通過速度とから逆算した位置に配置することで、平均的な通過速度の硬貨23が照明手段15及び画像センサ26上の受光面27のほぼ中心で撮像することができる。また、各投入検知領域102〜104は極力距離を離して、硬貨23や通路13の汚れの影響を同時に受けにくくすると共に、硬貨23の外径によって検知タイミングがずれないように、底面22からの高さは識別しようとする最小硬貨の硬貨位置105の中心付近とその上下に配置し、これら上下に配置した投入検知領域102、104は最小硬貨の硬貨位置105の中心付近に配置した投入検知領域103よりもやや投入口寄りに配置している。
このようにして入力した投入検知領域102〜104の画像データを基に、光学透明体14やレンズ28及び画像センサ26の受光面27等も含む通路13の結露検知を行う(S14)。結露しているかどうかの判定は、光学透明体14やレンズ28などに露が付着することにより硬貨23表面に合っていた焦点がずれて入力画像がぼけることを利用して行う。3ヶ所の投入検知領域102〜104の画像データのバラツキ、すなわち分散が3つとも一定値より小さくなる状態が続くと結露と判定している。分散は容易に求めることができると共に、分散の小ささで判定することで結露による撮像手段16の焦点のずれを検知できる。さらに、投入検知領域102〜104のうち1ヶ所でも分散が大きければ結露判定しないことで、誤判定を防止し結露判定の確実性を向上させている。結露と判定した場合には、画像センサ26の制御処理を省いて行わないことで正常でない画像データによる誤動作を防止したり、図示しない結露防止手段を動作させたり、結露の発生を自動販売機の制御部に対しては通信で、自動販売機の操作者に対しては表示を行って報知することも可能になる。撮像手段16を用いることで専用のセンサなしで結露を検知できると共に、部分的な画像の出力可能な画像センサ26を利用することで、短時間で結露検知用の画像が得られ高速に結露検知ができる。
撮像手段16での投入検知(S15)は、投入された硬貨23で照明手段15から照射された照明光が反射し撮像手段16で検知する画像データが変化することを利用する。3ヶ所の投入検知領域102〜104の画像データの平均または分散のうちの1つでも待機状態の値から一定以上の変化があれば、硬貨23が投入されたと判定する。平均と分散の少なくともどちらか一方が変化したら硬貨23が投入されたと判定することで、平均または分散のどちらかに変化が発生しないような場合にも確実に投入を検知できる。また複数ヶ所の領域で平均と分散を求め、1ヶ所のどちらか一方でも変化があれば投入と判定することで、通路13に汚れが付着した場合などでも確実に硬貨23の投入を検知することができる。
投入検知用のセンサを別に設ける場合には、このセンサを設けるスペースが必要になり、かつ光学式のセンサを用いれば照明手段15の照明光との干渉を防止したり、投入検知用センサと撮像手段16の組み立てにより両センサの距離にバラツキが生じ画像検知のタイミングに誤差が発生する。これに対して本実施の形態のように、撮像手段16で投入検知を行い投入検知センサを兼ねることにより、複数ヶ所で容易に投入検知を行うことができると共に、スペースの削減、照明光の干渉や組み立てバラツキに影響されない正確な画像検知が実現できる。さらに部分的な画像の出力可能な画像センサ26を用いることで、短時間で投入検知用の画像が得られ高速に投入検知ができる。
結露判定中や、結露でなくとも通路13の汚れなどにより硬貨23の投入が検知できない場合のため、撮像手段16以外の厚みセンサ71と材質センサ75でも投入検知を行う(S16、S17)。投入口12から投入された硬貨23が厚み・材質兼用センサ17に近づくと、コイル53〜56のインピーダンスが変化し、それにつれて発振回路72、76の発振レベルが変化する。待機時の発振レベルから一定以上の変化があれば、硬貨23が投入されたと判定し、厚み及び材質検知(S20)を行う。
厚み及び材質検知(S20)では、硬貨23によるコイル53〜56のインピーダンス変化に応じた発振回路72、76の発振レベルの変化から厚みと材質を検知する。前述のように硬貨23の厚みに敏感な厚みセンサ71の発振レベルは、発振波形を正弦波から発振レベルを示す信号に変換する整流回路73を経て、厚み検知手段74に接続されており、硬貨通過時の発振レベルの最大変化量を検知して比較手段94に出力する。材質検知手段78も同様に、硬貨23の材質に敏感な材質センサ75の発振レベルの、硬貨通過時の最大変化量を検知して比較手段95に出力する。
撮像手段16で投入検知(S15)した場合は、凹凸及び模様検知(S21)と厚み及び材質検知(S20)を並行して行う。画像検知はまず調整工程(S22)から行う。投入された硬貨23の材質や汚れ、通路13の汚れや照明手段15の劣化・温度特性等により、検知する画像データの画質は変化し、明るさやコントラストが上下する。これに対して硬貨23が通過する毎に毎回、後述の凹凸入力や模様入力を行う前に、これらの入力で用いるのと同じ撮像手段16及び照明手段15を使用して、事前に硬貨23の部分的な画像を取得する。この取得した画像に基づいて、撮像手段16の検知する画像データの画質が極力一定になるよう、撮像手段16の入力条件、具体的には感度、すなわち画像センサ26に含まれる増幅回路のゲインやオフセットレベルの調整を行う。図11に示すように入力条件設定領域106は、想定される最小速度の最小硬貨の硬貨位置105と想定される最大速度の硬貨位置107とに完全に含まれる位置、大きさに設定している。図11において、実際には投入検知から入力条件設定用の入力を行うまでの所要時間分だけ硬貨23は移動しているが、説明の簡略化のため最小速度の最小硬貨の硬貨位置105位置は投入検知時と同一としている。調整工程(S22)の最初では読み出し時間を高速化するため撮像手段16の出力画像領域をこの入力条件設定領域106のみに設定して、撮像準備を行ってから撮像を開始する(S31)。続いて、照明手段15を短時間発光させ(S32)、入力条件設定用領域106の画像データを入力する(S33)。本実施の形態では、入力条件設定用領域106に含まれる画素のうち、(非画像信号を含む雑音除去前の)画像信号の明るい方からの順位が5%にあたる画素の出力と、(バイアス成分とノイズ成分のみから成る)非画像信号の暗い方からの順位が5%にあたる画素の出力とに応じて、画像センサ26に含まれる増幅回路のゲインやオフセットレベルを変更し、撮像手段16の設定(S34)を行っている。そのため、明るい部分がA/D変換手段80のA/D変換範囲の上限を越えたり、暗い部分が下限を下回ったりして、A/D変換範囲から外れることを防止しながら、明るい部分と暗い部分の差を十分に出すような適切な調整が可能である。最も明るい画素と最も暗い画素の出力に基づいてもよく、容易に調整ができる。明るい方からの順位と、暗い方からの順位がそれぞれ5%にあたる画素の出力を用いているのは、撮像手段16に万が一、欠陥画素があった場合に調整困難になるのを防止するためである。しかし、これに限らず画像データの平均値やバラツキ等に基づいてもよいし、A/D変換手段80の基準電圧を変更しても画像センサ26に含まれる増幅回路のゲインやオフセットレベルを変更するのと同等の効果を有する。このように、撮像手段16で事前に硬貨23の画像を取得することで、取得した画像に基づいて撮像手段16の入力条件等を調整し、一定画質の画像データを得ることができる。また調整量を記憶し、硬貨23の投入毎に調整量を補正していくことで、部品劣化等の経時変化の影響を低減し、識別性能を維持することができる。硬貨23の想定される位置で入力することにより、確実に硬貨23の画像が得られ適正な調整ができる。さらに部分的な画像の出力可能な画像センサ26を用いることで、短時間で調整用の画像が得られ高速に調整ができる。
また照明手段15の発光強度や発光時間等の照明条件を変更して同様の効果を得られるが、本実施の形態の調整方法では、照明条件を調整する場合、具体的には照明手段15の駆動電源(例えばLED25の駆動電流)や発光時間を変える場合と比較して、電源回路を追加したり画像センサ26の読み込みタイミングを変える複雑な制御をすることなしに、調整を行うことができる。
なお、撮像手段16とは別の反射光センサを設けて、この反射光センサの受光量に応じて調整を行う技術は、例えば特開2000−331211号に開示されているが、本実施の形態では凹凸入力や模様入力に用いるのと同じ撮像手段16を用いて調整用の画像を取得することで、調整専用のセンサを設けることなく、また調整と識別用に別々のセンサを用いることにより発生する検知誤差の影響を受けないで調整を行うことが可能である。
続く工程は、凹凸入力工程(S23)である。正貨をコピーまたは正貨の模様を印刷した紙等を金属に貼付して作製された偽貨(以下、コピー貼付偽貨と言う)は、後述の模様照合(S51)では正貨との十分な差が見いだせず確実に排除することが困難である。そのため、凹凸度合いを検知してコピー貼付偽貨を排除するため、前述したように照明手段15を出口18側の第2の照明手段36と、投入口12側の第3の照明手段37とに分けて構成し、第2の照明手段36と第3の照明手段37を独立して発光可能としている。そして、図12に示すように、凹凸があれば発生する、第2の照明手段36のみで照明した場合(図12(a)の硬貨近傍の断面図を参照)の第1の画像データにできる影の位置(図12(b)の画像データの模式図を参照)と、第3の照明手段37のみで照明した場合(図12(c)の硬貨近傍の断面図を参照)の第2の画像データにできる影の位置(図12(d)の画像データの模式図を参照)の差、すなわち異なる方向から照明した場合の差を利用する。図11に破線で示すように3本の凹凸検知ライン108〜110を、想定される最小速度の最小硬貨の硬貨位置105と想定される最大速度の最小硬貨の硬貨位置107とに完全に含まれる位置、長さに設定しているので、確実に硬貨23の画像が得られ適正な凹凸検知ができる。図11において、実際には投入検知から凹凸検知用の入力を行うまでの所要時間分だけ硬貨23は移動しているが、説明の簡略化のため最小速度の最小硬貨の硬貨位置105は投入検知時と同一としている。凹凸入力工程(S23)の最初では撮像手段16の出力画像領域をこれらの凹凸検知ライン108〜110に順次設定し、撮像準備を行ってから撮像を開始する(S35)。続いて、第2の照明手段36或いは第3の照明手段37を1本の凹凸検知ラインに対して交互に切り替えて短時間発光させて(S36)、画像データを入力し(S37)、全ての凹凸検知ライン108〜110の第1及び第2の画像データが入力されるまで繰り返す(S38)。第1の画像入力と第2の画像入力との間隔を約500マイクロ秒と短時間に行うことで、その間の硬貨移動は平均的な通過速度で1画素相当分の程度であり、後述のように第1の画像データと第2の画像データとの差を計算する際に1画素分のズレを補正することで、硬貨移動による影響を抑制できる。本実施の形態では、第2の照明手段36と第3の照明手段37は全て同一の波長特性のLED25で構成している。そのため、モノクロ画像で凹凸が検知できる。また、凹凸検知用の第2の照明手段36と第3の照明手段37は、図3を用いて説明したように照明手段15を2群に分けて構成している、すなわち模様検知用の照明手段15を兼用し、さらに撮像手段16も同一のものを兼用しているので、コストやスペースの削減が可能であり、調整も専用の調整工程が不要である。第2の照明手段36と第3の照明手段37を異なるタイミングで発光させることで、第2及び第3の照明手段による照明光の干渉を防止でき、確実にそれぞれの反射光の画像が得られる。部分的な画像の出力可能な画像センサ26を用いることで、短時間で反射光の画像を得られ高速に凹凸入力を行うことができる。
なお、異なる方向から異なる波長特性で照射して硬貨の凹凸を判定する技術は、例えば特開2002−183791号で開示されているが、本実施の形態では同一の波長特性で照射しているので、発光波長の異なる照明手段及びカラー画像センサまたはフィルタを用いることなく凹凸が検知できる。また、波長や環境温度によって変化するセンサ感度やフィルタの透過特性のバラツキに影響されないで、凹凸度合いを検知することができる。
また、異なる方向から別々に照射して各々の反射光強度に基づいて二値化を行って硬貨の模様を判定する技術は、例えば特開平7−210720号で開示されているが、本実施の形態では凹凸計算(S44)で後述するように、各々の反射光強度の差に基づいて検知しているので、多値で凹凸度合いを検知でき、正確に判定することが可能である。
次の工程は、模様入力工程(S24)である。撮像手段16の出力画像領域を、想定される最小速度の最大硬貨と想定される最大速度の最大硬貨とが完全に含まれる位置、大きさに設定し、撮像準備を行ってから撮像を開始する(S39)。続いて、照明手段15を短時間発光させ(S40)、第3の画像データを入力する(S41)。模様入力において、製品毎に発生する組み立て寸法やレンズ28等の特性のバラツキのため、画像データ中の硬貨位置は異なるため、その分だけ模様入力の領域を大きく設定する必要がある。これに対し本実施の形態では、画像データ中の底面22の位置すなわち硬貨23の下端位置と撮像倍率とを可変に記憶しており、最大硬貨の画像データ中での上端位置を算出することで模様入力の領域を縮小し画像データの入力時間とデータ記憶用の記憶回路の容量、及びデータの処理時間を削減することができる。さらに、記憶している硬貨23の下端位置と撮像倍率とは、正貨が投入される毎に補正を行っていくことで確実に補正でき、経時的な変化に対しても性能が劣化することを防止し、初期の識別性能を維持することが可能になる。硬貨23の下端位置と撮像倍率を記憶及び補正し、さらにこれらから最小硬貨の中心位置を算出して、3つのいずれか1つ以上に基づいて投入検知領域102〜104、入力条件設定領域106、凹凸検知ライン108〜110、模様入力の領域、及び後述の中心・外径検出用の検知ライン111、112を設定することにより撮像手段における硬貨23の位置を正確に捉えることができ、通路13や撮像手段16の組立誤差や経時的な寸法・特性変化に対して、また投入された硬貨23の大きさ、すなわち金種いかんに関わらず、各々の検出を正確に行うことが可能である。なお、硬貨23の位置を記憶する技術は、例えば特開平10−105765号で調整モードにおいて記憶する技術が開示されているが、本実施の形態のように可変に記憶することで硬貨が投入される毎に補正していくことが可能であり、経時変化に対して追随して識別性能を維持することができる。
そして、続く凹凸検出工程(S25)では、凹凸入力工程(S23)で入力した第1及び第2の画像データとから凹凸度合いを計算するが、その前に第3の画像データから中心と外径を検出すると共に、検出した外径に基づいて投入された硬貨23がどの金種に近いかを仮判定しておく。
中心・外径検出(S42)では、第3の画像データにおける硬貨23に相当する画像の位置を検知するため、基準点としての中心と共に外径を求める。長方形など円形以外の形状の識別対象に対しては、外周に相当する候補点から識別対象の外周を求めることで中心だけでなく向きも含めた位置を検知することができ、外周の候補点を中心との距離で検証し検知精度を高めることができるが、識別対象が円形の硬貨23である場合は特に、中心と外径とを求めることで容易に画像データにおける硬貨23の位置を検知できる。そのために、外周に相当する複数の候補点を選択し、各外周候補点と仮の中心との距離で検証を行って、外周に相当すると判定した候補点から中心を求めて、硬貨23の位置を検知している。図13に示すように第3の画像データに対して、まず通過方向(すなわち第3の画像の長辺方向の座標)に平行な検知ライン111及び通過方向に垂直な(すなわち第3の画像の短辺方向の座標に平行な)検知ライン112を複数設定する。一方向の検知ラインあたりにつき、中心の一座標を求めることができるので、方向の異なる少なくとも2方向の直線で検知を行うことで、中心の座標を決定することが可能である。特に直交する直線を利用し、なおかつ第3の画像の座標に平行な直線とすることで、座標の扱いが非常に容易で誤差が小さくなる。本実施の形態では各4本の検知ライン111、112を、記憶している硬貨23の下端位置に基づいて、想定される最小速度の最小硬貨及び想定される最大速度の最小硬貨の外周と必ず交差するような配置・長さとしている。記憶している硬貨23の下端位置を用い、さらに正貨が投入される毎に補正を行っていくことで、確実な位置の検知が可能であると共に、経時的な変化に対しても性能が劣化することを防止できる。
まず、各検知ライン111、112上の画像データに対して平滑化とエッジ検出を行う。具体的には注目画素の周囲の8画素を含む9画素のデータについて、水平方向の検知ライン111では(表1)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値を、注目画素の平滑化・エッジ検出後のデータとする。垂直方向の検知ライン112では(表2)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値を平滑化・エッジ検出後のデータとする。検知ラインの方向に応じた配列データと積算する(水平方向の検知ライン111と垂直方向の検知ライン112とで計算方法を変える)ことにより、それぞれのラインに一致する方向の変化のみを検出でき、計算が高速化される。水平方向の検知ライン111と垂直方向の検知ライン112に対して、(表1)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値と、(表2)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値との和を求め、注目画素の平滑化・エッジ検出後のデータとしても構わない。
平滑化・エッジ検出後のデータを検知ライン111、112中央で二分割して、前半・後半各3番目までの最大値を取る点を外周候補点113とする。この際、ライン中央からの距離に比例した値との積を取って補正した上で3番目までの極大値を求めることにより、硬貨23の外周が写されている可能性の高い画像の外側、すなわちライン中央から離れた点を優先して選択でき、照明手段15の照度にムラが発生し硬貨23の外周が暗く写された場合などでも、硬貨の位置を精度良く検知できる。また最大値ではなく極大値で外周候補点113を求めることにより、画像が鮮明でなく極大がなだらかなような場合でも、特定部分に集中することなく外周候補点113を選択することができる。外周候補点113の一部を、図13に白及び黒点で示す。
次に、外周候補点113同士の中点位置を利用して、識別対象の中心候補点114を検知する。点対称の形状の識別対象では、外周と直線の交点の中点位置が、識別対象の中心をこの直線に投影した位置とが一致するので、直線上で検知した外周点の中点位置を利用すれば、正確に中心を検知することが可能である。検知ライン111、112毎に前半の候補点と後半の候補点から1点ずつ選んだ2点の外周候補点113同士の中点位置を合計9通り求める。4ライン分、合計36通りの中点位置の度数分布から最も度数の高い極大点を2点求めて、中心候補点114の座標とする。前半の候補点と後半の候補点との中点位置の度数分布を求める際、前半の候補点と後半の候補点との間隔が一定の範囲(範囲イとする)内でない場合には、この中点位置は度数分布に用いないようにしている。上限を識別対象の最大硬貨の直径に許容範囲を加えた値に、下限を識別対象の最小硬貨の直径から許容範囲を減じた値とし、下限の許容範囲を検知ライン111、112と硬貨中心とが最も離れた場合の距離を考慮して設定した値とすることで、本来の外周点ではありえない間隔の組み合わせを除外し、中心を正確に検知することができる。これを通過方向と平行な方向(X座標とする)及び垂直方向(Y座標とする)について求めて、図13のx1、x2、y1、y2で示したように中心候補点114の座標とする。
続いて、中心候補点114の座標毎に、外周候補点113同士の間隔から2通りずつの直径候補を求める。円形の識別対象では、外周候補点の間隔が直径に近い値となることを利用する。例えば、中心候補点114のX座標x1に対して図14に示すように、中点位置がx1と許容範囲内で一致し、かつ間隔が一定の範囲(例えば、範囲イ)内であるX方向の検知ライン111上の外周候補点113同士の前・後半の組み合わせについて間隔の度数分布を求め、2番目までの極大位置を求め、この中心候補点114のX座標x1に対する直径候補Rx11、Rx12とする。また、これらの直径候補における度数をそれぞれHx11、Hx12とする。中心候補点114のX座標x2についても同様に直径候補Rx21、Rx22と度数Hx21、Hx22を求めると共に、中心候補点114のY座標y1、y2についてはY方向の検知ライン112上の外周候補点113を用いて直径候補Ry11、Ry12、Ry21、Ry22と度数Hy11、Hy12、Hy21、Hy22を求める。そして、中心候補点114のX・Y座標の組み合わせ4通りのうち、以下のように選択して中心候補点114を2点に絞り込む。絞り込みは、X座標側の直径候補とY座標側の直径候補の差が一定値(値ロとする)以下である組み合わせの中で度数が大きいものから選択して行う。例えば、中心候補点114のX座標x1とY座標y1の組み合わせの場合、|Rx11−Ry11|、|Rx12−Ry11|、|Rx11−Ry12|、|Rx12−Ry12|のうち、|Rx12−Ry11|が値ロ以下であれば、度数はHx12+Hy11となる。特に識別対象が円形の場合は、中心を通る直線上に乗った外周点の間隔は直線の方向によらず一定であり、中心と検知ラインとの変位を考慮しても外周候補点113同士の間隔は所定範囲の値となるので、直径候補の差を判定することで、中心検知の精度を高めることができる。
こうして絞り込んだ2点の中心候補点114のそれぞれに対して、この中心候補点114と各外周候補点113との距離を計算して、距離(すなわち半径を表す)に対する度数分布を求める。但し、前半と後半の外周候補点113の中点位置がこの中心候補点114の座標(X方向の検知ライン111上ではX座標、Y方向の検知ライン112上ではY座標)と許容範囲内で一致し、かつ間隔が範囲イ内である組み合わせの外周候補点113のみから求める。また図15に示すように、X方向の検知ライン111上の外周候補点113と、Y方向の検知ライン112上の外周候補点113に対して、別々に度数分布を求めた後に、半径に対して度数の低い方を結ぶ。距離(半径)に対する度数(中点位置と間隔の両方が所定条件を満足する外周候補点113同士の組数)を求め、またX方向とY方向の低い方の度数を結ぶことで、X方向の精度は高いがY方向の精度が低いような中心候補点114を中心として誤判定するのを避けることができる。この度数分布の極大のうちで、度数が一定値(値ハ)以上で半径の最大を求めて、仮半径とする。そして、中心候補点114との距離が求めた仮半径に対して一定の許容範囲内にある外周候補点113のうちで、同一検知ラインの前半と後半に1点ずつのみ属するような2点の組を選び出し、図13に黒点で示す外周点115とする。例えば外周候補点116は、中心候補点114との距離は許容範囲内であるが、同一の検知ライン112上に距離が許容範囲内の外周候補点113がないため、外周点115としない。こうして選び出した外周点の組数がX方向とY方向の両方とも一定以上で、かつ仮半径の最も大きい中心候補点114を仮中心とする。そして、この仮中心に決定した中心候補点114に対して選び出した外周候補点113を最終的な外周点115とする。識別対象の中心に対して複数の候補点を検知して検証することで、識別対象の内部の模様や外部のノイズに影響されて誤検知するのを防止できる。また、外周点との距離で中心の候補点の検証を行い、特に距離(半径)の大きい方を優先することで識別対象内部の模様を外周と認識するような誤りを避けることができる。
最後に、X方向の検知ライン111上の外周点115の平均X座標と、Y方向の検知ライン112上の外周点115の平均Y座標とを求めて中心とする。さらに、この中心と外周点115との距離の平均を求め、2倍して外径とする。本実施の形態では、外周に相当する候補点と仮中心に相当する候補点とをそれぞれ複数選択し、外周候補点と仮中心候補点の距離で検証を行い、外周及び仮中心に相当する候補点を決定して中心と半径とを求めることにより、確実に硬貨23の位置を検知することができるので、模様を正確に識別することが可能になる。検知ライン111、112を複数本設定すると共に、平滑化・エッジ検出を行って各検知ライン111、112上の外周候補点113を、画像の外側を優先するよう補正をしながら複数選択することで、硬貨23・通路13の汚れや照明手段15のムラの影響を受けにくい確実な中心・外径検知が可能になる。エッジ検出ではなくエッジ強調でも同様の効果が得られる。なお、識別対象が円形以外の場合、例えば長方形の紙幣等に対しては中心や外周と共に長辺や短辺寸法を求めればよいが、これらに限らず特徴となる孔等の形状や模様などを基準点として検出し識別対象の位置を検知することもできる。
なお、複数の検知ラインで外周点を検知する技術は、例えば特開平9−17821号や特開平10−63852号に開示されているが、本実施の形態では外周の候補点を複数選択し、仮中心との距離で検証を行って外周点を求めているため、図13に示すように底面22が写り込んだりノイズのある場合でも外径点を誤って選択することがないので、正確に中心と外径を検出できる。
金種仮判定(S43)では、中心・外径検出手段85から出力された外径から、投入された硬貨23がどの金種に近いかを仮判定する。あらかじめ定められている各金種毎の外径基準値と記憶している撮像倍率とから、検知した外径に近い2金種を選び出して出力する。但し、あらかじめ定めた許容範囲内で該当する金種が1金種以下の場合は、その金種を選び出す。外径に基づけば、容易に金種を仮判定できる。1金種に絞らず2金種とすることで、硬貨23が通路13の中で撮像手段16の近くを通過するか遠くを通過するかといった通過位置の影響で金種を誤判別するのを防止して識別精度を向上させることができる。例えば日本の百円硬貨(22.6mm)と十円硬貨(23.5mm)では約4%の外径差しかなく、特に広角レンズを使用した場合は通過位置の影響が大きく、例えば±0.5mmの通過位置の変化で画像データ上の外径は±2%変化するため誤判別の恐れがある。また3金種以上に仮判定すると、以降のデータ処理、特に後述の模様照合工程(S26)の回転角度検出(S50)に多大な時間を要するため、最大2金種としてデータ処理時間が一定の上限時間を超えないようにしているが3金種以上としてもよい。
なお金種を1金種に確定して、その金種に応じた処理を行う技術は、例えば特開平10−63852号に開示されているが、本実施の形態では複数の金種に仮判定することで、硬貨23の通過位置等の影響による金種の誤判別を防止できる。
続く凹凸計算(S44)では、凹凸入力工程(S23)で入力した第1及び第2の画像データから、凹凸検知手段83で硬貨23の凹凸度合いを検知する。各凹凸検知ライン108〜110について、第1の画像データと第2の画像データとの画素毎の差の絶対値を、その凹凸検知ライン上の全画素にわたって加算する。画素毎の差の絶対値の総和を用いることで、比較手段96における比較が簡素化される。第2の照明手段36と第3の照明手段37は、第1の画像データと第2の画像データが均質となるよう、図3で説明したように構成している。しかし、第1の画像データと第2の画像データにおいて、投入口12側と出口18側の明度の差は完全に抑制するのは困難であり、各画素の明度は画素の位置(投入口12からの距離)とのゆるやかな相関を持ち、この相関は第1の画像と第2の画像で符号が逆となる。そのため、第1の画像データと第2の画像データとの画素毎の差を求める前に、第1の画像データと第2の画像データはそれぞれ、画素の位置に応じた補正を行い、投入口12側と出口18側の明度の差をさらに抑制している。例えば、投入口12からの距離に比例した値を、第1の画像データでは減算し、第2の画像データでは加算することで、各画像データを均質化できる。さらに、第1の画像データと第2の画像データとで平均値が一致するように補正を行うことで、この後に求める差の精度が一層向上する。これらの補正により、第1の画像データ及び第2の画像データにおける誤差が減少し、硬貨23の凹凸度合いをより正確に表すようになる。これらの補正後、差を求める。画素毎の差を求める際には、前述の硬貨23移動の影響を打ち消すため、先に入力を行う第1の画像データの画素に対して、第2の画像データの1画素後ろ(出口18側)の画素のデータとの差を求めている。こうして求めた差は凹凸を持つ硬貨23では値が大きく、凹凸を持たないコピー貼付偽貨では値が小さくなるが、一部の画素でノイズ等が発生し、この画素で過大な差が発生したような場合、コピー貼付偽貨でも大きな値となってしまう。これを防止しノイズの影響を軽減するため、1画素当たりの差に上限を設けて制限している。このようにして、3本の凹凸検知ライン108〜110について計算を行い、3本のうちの最大値を出力する。凹凸検知ライン108〜110を複数本設定することで、硬貨23や通路13の汚れの影響を受けにくく、凹凸模様の少ない硬貨23でも確実に凹凸度合いを検知できる。
さらに、模様照合工程(S26)を行う。模様照合工程(S26)では、多値デジタル値の画像データをエッジ検出(S45)してから、撮像倍率の補正(S46)を行いながら直交座標から極座標に座標変換(S47)し、二値化(S49)した上で、基準画像に対する投入された硬貨23の画像データの回転角度を検出(S50)して、検出した回転角度を考慮して基準画像との照合(S51)を行う。これらの工程を、金種仮判定(S43)で仮判定した2金種分の各表裏2面に対して行うが、例えばユーロ硬貨のように片面の模様が共通で、他面が15ヵ国で異なる場合には、合計16面分の処理を行えばよい。
模様照合工程(S26)の各動作を、エッジ検出(S45)から詳細に説明する。エッジ検出手段84では、第3の画像データの各画素データに対して中心・外径検出(S42)と同様に平滑化を兼ねたエッジ検出を行い、エッジ検出後の画像データを第4の画像データとして出力する。具体的には注目画素の周囲の8画素を含む9画素のデータについて、(表1)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値と、(表2)の配列データと配列要素毎に積算した9要素の和の絶対値との和を求め、注目画素のエッジ検出後のデータとする。なおエッジ検出(S45)は、中心・外径検出(S42)で検出した中心を基準に、識別対象とする最大外径硬貨の外径範囲内に位置する画素に関して行えば十分である。画像データに対してエッジ検出(S45)を行うことにより、反射光の明るさ(輝度)そのものではなく隣接部分との明るさの差で判定することができるので、画像データの明るさの全体的な変化や局所的なムラの影響を受けにくく、正確な識別が可能になる。エッジ検出ではなくエッジ強調を行うことでも、同様の効果を得られる。ここに画像データの明るさの全体的な変化や局所的なムラは硬貨23の材質や色、通路13又は硬貨23の全体的な或いは一部の局所的な汚れなどによって発生するものであり、これらの影響を低減することができる。
次に座標変換(S47)について、倍率補正(S46)より先に述べる。座標変換手段88では、第4の画像データを直交座標から極座標に変換し、座標変換後の画像データを第5の画像データとして出力する。本実施の形態では日本硬貨を識別対象として、最大外径の五百円硬貨がN×N画素(例えば100×100画素)となる光学設計を行っている。また、硬貨の通過位置や組み立て寸法及びレンズ28等の部品特性のバラツキにより、撮像倍率を0.9から1.1まで想定している。すなわち五百円硬貨は製品毎また硬貨投入毎に、最小0.9N×0.9Nから最大1.1N×1.1N画素(例えば90×90から110×110画素)に撮像される場合が発生するが、簡略化のため最大7×7画素として座標変換(S47)と倍率補正(S46)の説明を行う。図16(a)は第4の画像データを模式的に示しており、中心・外径検出(S42)で検出した中心121のX座標122(硬貨23の通過方向に平行な方向)、Y座標123(硬貨23の通過方向に垂直な方向)を(0,0)として、直交座標(−3,−3)から(3,3)までの49画素分を示す。図16(b)は座標変換後の第5の画像データを模式的に示しており、極座標の半径方向(R座標124)に非等間隔に4分割して0〜3、円周方向(S座標125)に等間隔に8分割して0〜7とした場合の極座標(0,0)から(3,7)までを例示している。この座標変換は、(表3)及び(表4)の変換用テーブルを用いて行う。
(表3)は直交座標のX座標とY座標に対応した極座標のS座標を表しており、(表4)は直交座標のX座標とY座標に対応した極座標のR座標を表している。例えば、直交座標(0,0)の画素は極座標(0,0)に、直交座標(−1,−3)の画素は極座標(3,7)に変換される。このように直交座標の全画素を変換し、同一の極座標に複数の直交座標が該当する場合はこれらの画素の平均値を用い、該当する直交座標が1画素もない極座標は隣接する極座標のデータを複写するなど隣接データに基づいて設定する。極座標に座標変換することで、後述の回転角度検出(S50)及び照合(S51)が容易になると共に、データ量が削減され処理速度を高速化できる。なお極座標変換用の半径方向テーブル(表4)において、半径方向座標のR座標が最大値の3より大きい4となっている座標があるが、これは硬貨23の外径範囲外であり以降使用しない画素であることを示すと共に、座標変換後の画像データを記憶するための配列のR座標を4まで用意しておくことで、座標変換時にR座標が3以下かどうか判定しながら変換する必要がなく、全画素を共通的に扱って高速に変換することができる。また、エッジ検出(S45)した後に座標変換(S47)を行うことで、硬貨23の模様に忠実にエッジを検出し識別精度を向上することができる。なぜならば、極座標変換によって隣接する周囲の画素(座標)との距離が変化するために、座標変換(S47)後にエッジ検出(S45)を行うと、注目画素のエッジ検出または強調に用いる周囲の隣接画素との距離が注目画素の座標により、また隣接画素の座標により異なって一定にならないためである。
倍率補正(S46)は、硬貨23の通路13中での通過位置や撮像手段16の組み立て誤差等に起因する撮像倍率の補正を行う。この補正は、中心・外径検出(S42)で検出した外径と金種仮判定(S43)で仮判定した金種とに基づいて、極座標変換用の半径方向テーブル(表4)の値を更新することによって行う。半径方向テーブルは、(表5)のような各画素と中心との距離を示す距離テーブルと、(表6)のような各半径方向座標に対する距離の上限を示す上限距離テーブルとから求める。
例えば、X座標をx、Y座標をyとし距離テーブル値をR’(x,y)で表すと、R’(0,0)は0.00で1.75未満であるから半径方向テーブル値R(0,0)を0とし、R’(3,1)は3.16で3.03以上3.50未満であるからR(3,1)を3とする。なおX座標<0及びY座標<0の部分の距離テーブルは、データ記憶容量及び処理時間の削減のため対象性を利用して省略し、x<0かつy≧0の場合はR(x,y)=R(−x,y)、x≧0かつy<0の場合はR(x,y)=R(x,−y)、x<0かつy<0の場合はR(x,y)=R(−x,−y)の計算式で半径方向座標Rを求めている。
倍率補正(S46)では、例えば金種仮判定(S43)で仮判定した金種の1つが五百円で、中心・外径検出(S42)で検出した外径(例えば90)が五百円の標準外径(例えば100)の0.9倍である場合、撮像倍率は0.9倍であるので、(表7)のように上限距離テーブルの上限距離の値を標準の0.9倍の値に更新する。
そして、この上限距離テーブルと距離テーブル(表5)とから、極座標変換用の半径方向テーブルの値を更新すると(表8)となる。
この変換用テーブルに基づいて座標変換することで、画像データを半径方向に1.11倍に拡大しながら同時に座標変換が実現でき、容易に撮像倍率が補正される。倍率補正を行うことで、硬貨23の通過位置や組み立て寸法・部品特性のバラツキに影響されずに正確な識別を行うことができる。また、製品毎に異なる基準画像を記憶させることなく、基準画像を共通化して製品毎の識別性能のバラツキを抑えることが可能であると共に、組み立てや部品特性の許容範囲の拡大も図れる。
本実施の形態では、上限距離テーブルの上限距離の値は半径が小さいほど間隔が広く半径が大きいほど間隔を狭く、非等間隔に設定している。(表9)に示したように等間隔に設定してもよい。
しかし各極座標の面積に大きな差が生じ、座標変換時に同一の極座標に変換される直交座標の画素数が不均一になることにより、照合時に各極座標の重みに偏りが発生する。特に各極座標が等しい面積を持つように上限距離を設定すれば各極座標の重みが等しくなり、半径方向座標を非等間隔に設定することで識別性能を向上することができる。
なお、基準となる対象の画像を取得して倍率誤差を求め補正して画像切出を行う技術が特開平9−245213号に開示されているが、基準となる対象が固定された金種であり、調整モードでその金種だけが投入される場合は支障ないが、複数の金種が投入される場合には適用は困難である。これに対して、本実施の形態では複数の金種に仮判定することで、複数の金種が投入される場合にも適用できる。
続いて、二値化(S49)のための閾値設定(S48)を行う。二値化手段90では、多値デジタル値である座標変換後の第5の画像データの各画素(座標)に対して、閾値以上であるかどうかによって1か0の二値デジタル値に変換し、二値化後の画像データを第6の画像データとして出力する。二値化(S49)を行うことで、画像データにおけるノイズの影響を低減できると共に、画像データ量を削減し処理を高速化できる。また、エッジ検出(S45)またはエッジ強調及び座標変換(S47)を二値化(S49)より前に行うことにより、多値データを用いた正確なエッジ検出または強調と座標変換が可能であり識別精度を向上できる。
この二値化(S49)のための閾値を設定するのが閾値設定手段89であり、第5の画像データと金種仮判定手段86で仮判定した金種に基づいて設定した閾値を出力する。具体的には、二値化後の第6の画像データにおいて、値が1である画素数の全画素数に対する割合が金種と面(表面か裏面か)毎に定められた割合になるように、すなわち二値化後の度数分布が一定になるように閾値を設定する。これにより、二値化後の第6の画像データの画質を均一化すると共に、後述の模様照合(S51)に用いる基準画像も同様の割合で作成することにより第6の画像と基準画像との均質化が可能であり、識別性能を向上できる。この割合を本実施の形態では全金種・面共通に50%に設定しているが、金種・面毎に異ならせて各金種・面の模様に合った最適な二値化も可能であり、実験に基づくと30〜70%の割合において模様がくっきりと読み取れ高い識別性能が達成できた。閾値の求め方は、例えば第5の画像データからデータ値と画素数との度数分布(ヒストグラム)を作成し、データの大きい方からの累積度数が50%となる値を求めればよい。また、閾値設定に用いる第5の画像データは、硬貨部分すなわち外径の内部に当然限るべきであり、倍率補正及び極座標変換を行ったことにより半径方向座標があらかじめ定められたその金種の半径以下である部分のみを使用すれば容易に可能である。さらに本実施の形態では、硬貨23の状態や発行年度により硬貨23毎に異なる外周・孔の縁、硬貨23ではなく背景である孔の内部、及び同一の硬貨23でも回転角度や位置により投入毎に異なる潜像・細線模様の部分も、閾値設定への使用から除外している。図17は新五百円硬貨の基準画像(後述)に灰色で除外部分を上書きし直交座標に逆変換した模式図であり、外周の縁部131と潜像模様部132、及び細線模様部133を示す。外周・孔の縁部は摩耗やバリが発生しやすく、孔の内部は背景が見え、潜像・細線模様部は画像センサ26の画素配列方向と硬貨の模様との角度により斑紋(モアレ)が現れ反射率が著しく変化し、閾値設定に使用するとこれら部分的な画像に影響されて全体の正確な二値化に支障をきたす。同様の理由で、硬貨毎に異なる模様である年号部分も除いてもよい。第5の画像データでどの部分を閾値設定に使用するかは、各金種・面毎に極座標形式で表した二値デジタル値のテーブルをあらかじめ記憶しておけば、各金種・面毎の模様に適した安定した二値化を行うことができる。また、この閾値設定に使用する部分が硬貨の中心に対して回転対称でない場合、硬貨の回転角度毎に閾値が変わるため、後述の回転角度検出(S50)において画像データを回転させる度に閾値を求め直す多大な処理を要する。本実施の形態では閾値設定に使用する部分を、除外部分を含まずかつ硬貨の中心に対して回転対称すなわち同心円状に設定しているので、回転角度検出(S50)において画像データを回転させる度に閾値を求め直す必要がなく、閾値設定に使用する部分を記憶するテーブルも半径方向の座標に対する1次元のデータ(以降、閾値設定用領域データという)で済む。このように、第6の画像データにおいて値が1である画素数の全画素数に対する割合が定められた割合になるように、すなわち二値化後の度数分布が一定になるように閾値を設定することで、硬貨23の材質や、縁部や表面等の状態、及び回転角度、また照明手段15や組み立て寸法のバラツキによる照度の差に左右されることなく、安定した識別が可能になる。
なお、特定の閾値算出領域で二値化の閾値を設定する技術は、例えば特開2002−109596号に開示されているが、二値化に支障をきたす硬貨内の特定部分(硬貨23の状態や発行年度により硬貨23毎に異なる外周・孔の縁、及び同一の硬貨23でも回転角度や位置により投入毎に異なる潜像・細線模様)を除く技術については触れられていない。本実施の形態では、これらの領域を除く領域で閾値を設定することで、安定した閾値設定及び二値化が可能である。
回転角度検出(S50)では、回転角度検出手段91で第6の画像データと記憶手段92に金種・面毎に記憶された基準画像とに基づいて、基準画像に対する投入された硬貨23すなわち第6の画像データの回転角度を検出して出力する。逆に、第6の画像データに対する基準画像の回転角度を検出するようにしてもよい。なお基準画像データは、第6の画像データ同様に、極座標形式で表した二値デジタル値のテーブルとしてあらかじめ記憶されている。第6の画像データを回転させながら基準画像データと比較していき、最も一致する角度を検出する。第6の画像データは極座標で表されているので、回転させるには円周方向にずらす、すなわち円周方向座標を変えるだけで容易に回転させることができる。第6の画像データをB(r,s)(rは極座標の半径方向、sは円周方向)、基準画像データをR(r,s)、aをbで割った剰余をmod(a,b)、極座標における円周方向の分割数をNsで表すと、Δsを0からNs−1まで2ずつ変化させてB(r,mod(s+Δs,Ns))とR(r,s)を比較していく。一致度合いは、第6の画像データと基準画像データの値が一致している画素(座標)数で判断する。第6の画像データと基準画像データとは共に二値デジタル値であるので、これらの排他的論理和をとり、結果が0である画素数で容易に判断可能である。Δsを2ずつ変化させているのは検出時間を短縮するためであり、2ずつ変化させて最も一致度合いの高いΔsを求める。そしてΔsに対して隣接する回転角度、すなわちmod(Δs−1,Ns)とmod(Δs+1,Ns)での一致度合いも求めて、3つの回転角度のうち最も一致度の高い回転角度を選択することにより、回転角度を間引きしても精度良く回転角度を検出できる。2ずつ変化させる方法に限らず、一致度合いが低ければ変化量を大きく、一致度合いが高ければ変化量を小さくするなど、回転角度を間引きして一致度合いを算出することで、精度を維持したまま回転角度検出の高速化が可能である。また本実施の形態では、閾値設定(S48)において使用から除外した硬貨の外周・孔の縁、孔の内部、潜像・細線模様の部分を、閾値設定時と同じ理由により一致度合いの算出(回転角度検出及び照合)においても除外している。具体的には、回転角度検出(S50)及び照合(S51)に用いる画素(領域)を示すデータ(以下、照合領域データという)を、基準画像データや第6の画像データ同様の極座標形式で表した二値デジタル値のテーブルとしてあらかじめ記憶しておく。そして、第6の画像データと基準画像データとの排他的論理和と、この照合領域データとの論理積をとり、結果が1である不一致画素数が少ないほど一致度合いが高いと判断できる。なお、一致度合いを相対的ではなく絶対的に表すため、本実施の形態では照合領域データにおける値が1である画素数を照合画素数として、照合画素数から不一致画素数を減算し、この差を照合画素数で割って一致度合いとしている。これにより、照合画素数が異なっても、一致度合いを容易に比較することができる。
模様照合(S51)では、回転角度検出手段91で検出した回転角度における第6の画像データと基準データとの照合を行う。まず第6の画像データを回転角度検出手段91で検出した回転角度分だけ円周方向にずらし、すなわち円周方向座標を変えて回転角度の補正を行い、第7の画像データとする。そして、この第7の画像データと基準画像データとの排他的論理和をとり、さらに回転角度照合で用いた照合領域データとの論理積をとって照合結果データとする。第7の画像データと基準画像データが一致しない画素(座標)の値は排他的論理和が1となり、さらに照合領域内であれば照合領域データとの論理積が1となるので、結果が1の画素数は不一致画素数を表す。また、照合領域データにおける値が1の画素数は照合画素数を表すので、照合画素数と不一致画素数との差を照合画素数で割った商は、第7の画像データと基準画像との一致度合いを示す。
本実施の形態では、硬貨全体の一致度合いを求めるのではなく、硬貨領域を複数の領域に分割し、各領域毎の一致度合いが一定値以上である領域の数すなわち一致領域数を求めている。一致度合いを一定値と比較することで、容易に一致領域数を求めることができる。具体的には図18を用い半径方向画素数は32、円周方向画素数16の例で説明すると、図18(a)に示す画像データに対して図18(b)の領域分割を示す模式図のように、極座標における半径方向141は半径方向画素数の約数で分割(この例の分割数は8)し、円周方向142も同様に円周方向画素数の約数で分割(この例の分割数は4)して、複数(この例では32個)の領域143とする。極座標に基づくことで、容易に領域分割できると共に、等間隔に分割すれば各領域143の重みが均等になる。そして各領域毎に、その領域内に属する画素で一致度合いを求める。さらに領域毎の一致度合いがあらかじめ定めた下限値以上である領域数と、全領域数との割合を一致領域割合として、この値を模様照合手段93では出力する。なお、各領域の一致度の算出に用いる情報量が不足している(照合領域が狭い、すなわち照合画素数が少ないなどの)領域143は一致度合いを正確に判定するのが困難であるので、照合画素数が一定値未満の領域143は対象外として、一致領域の判定の正確化を図っている。このように硬貨全体の模様の一致度合いを求めるのではなく、硬貨領域を複数の領域143に分割し各領域毎の一致度合いに基づいて照合を行うことにより、硬貨23や通路13の一部分に汚れが局所的に存在しても影響を受けにくく、正確な識別が可能である。また、一致領域と判定する領域毎の一致度合いの下限値や比較手段97における一致領域割合の許容範囲を変えるだけで、汚れに対する耐性と偽貨排除性能の優先度合いを容易に変更することができる。例えば硬貨の1/3の部分が汚れなどで模様の正確な読み取りが不可能であっても識別可能とするには、一致領域割合の許容範囲を2/3以上とすればよい。
さらに、一致領域数は領域毎の一致度合いがあらかじめ定めた下限値以上である領域数としているが、この下限値は各金種・面毎に定めると共に、固定値とせず可変とすれば、硬貨23や通路13の汚れの影響を低減して正確な識別が可能になる。なぜならば、硬貨23や通路13に汚れがある場合は、一致度合いが低下し一致領域数が減少して正貨と判定されない可能性が高まる。これは、照合領域全体の一致度合いが回転角度検出におけるどの回転角度でもほぼ一様に低下するためであり、これに対して例えば照合領域全体の一致度合いが最小となる回転角度での一致度合いを用いて、最大の一致度合いと最小の一致度合いとの差を利用する、または最小の一致度合いに一定の値を加えて下限値とすることなどで改善が可能である。この例では正確な識別が困難なほど汚れが著しい場合に、最大の一致度合いが非常に低い値になり誤識別の恐れがある。しかし、最大の一致度合いの絶対値が低いと正貨と判定しないという下限値をあらかじめ定めたり、または最小の一致度合いに一定の値を加えて算出する下限値があらかじめ定めた一定値以下であれば下限値をこの一定値とすることで、誤識別が発生するのを避けることができる。
模様照合(S51)は、まず金種仮判定(S43)で近似していると仮判定した第1の金種の表面について、その基準データ及び照合領域データに基づいて行う。次に、閾値設定用領域データは面毎に異なるので、閾値設定(S48)から模様照合(S51)までを、裏面について同様に繰り返す。さらに、倍率補正は金種毎に異なるので、倍率補正(S46)から2面分終了(S52)までを、金種仮判定(S43)で近似していると仮判定した第2の金種について行う。従って、模様照合手段93は2金種×2面分の一致領域割合を出力する。
比較(S61)では、各比較手段94〜97のそれぞれに入力される厚み検知手段74、材質検知手段78、凹凸検知手段83、模様照合手段93の各出力を記憶手段92に記憶された基準と比較し、許容範囲内で一致していればその正貨の種類を示す信号を出力し、どの種類の基準値とも一致しない場合には偽貨であることを示す信号を出力する。判定(S62)は、判定手段99に入力される比較手段94〜97からの信号が全て同じ正貨の種類を示す場合に限りその正貨の種類を示す信号を出力し、それ以外の場合には偽貨を示す信号を判定信号100として出力する。
厚みセンサで投入検知(S16でYES)した場合や材質センサで投入検知(S17でYES)した場合、すなわち結露検知中の場合の比較(S71)は、撮像手段16に関連した凹凸検知手段83及び模様照合手段93が接続された比較手段96、97を除く、各比較手段94、95のそれぞれに入力される厚み検知手段74、材質検知手段78の各出力を記憶手段92に記憶された基準と比較し、許容範囲内で一致していればその正貨の種類を示す信号を出力し、どの種類の基準値とも一致しない場合には偽貨であることを示す信号を出力する。判定(S72)でも同様に撮像手段16に関連した比較手段96、97を除き、判定手段99に入力される比較手段94、95からの信号が全て同じ正貨の種類を示す場合に限りその正貨の種類を示す信号を出力し、それ以外の場合には偽貨を示す信号を判定信号100として出力する。
判定手段99にてS62とS72のいずれの判定を行うかを判断するため、判定手段99には結露検知手段82の出力が接続されている。また、判定手段99にはスイッチ等の切替手段98の出力も入力されており、結露検知中の判定を撮像手段16に関連した識別項目(凹凸及び模様)を除いた識別項目(厚みと材質)だけで行って、結露中も硬貨の受け付けを優先し自動販売機等としての販売機会を逃すことを防ぐか、それとも結露中は撮像手段16での識別が困難であるため投入された硬貨を強制的に受け付けないで偽貨排除性能を優先するかを、図9には図示しないが切替手段98で選択が可能である。このように切替手段98を備えることにより、硬貨の受け付けを優先するか偽貨排除性能を優先するかを選択し、なおかつ自動販売機等の設置現場でも容易に選択を変更することができる。また、図示しないが発熱手段を用いた結露防止手段を備え、結露検知時にこの結露防止手段を動作させることで、消費電力を節約しながら常に撮像手段16に関連した識別も行うことが可能である。発熱手段としては、専用の部品を用いることなく発熱量の大きい電子部品を兼用して通路13の近傍に配置したり、安価なヒーターを用いることができる。
判定(S62)において図9には図示しないが、撮像手段16に関連しない識別項目(本実施の形態では厚み及び材質)では同じ種類の正貨であって、撮像手段16に関連した識別項目(凹凸と模様)では偽貨か異なる種類の正貨であることが続いた場合、通路13の汚れなどで画質が低下したと判断する。また全ての識別項目で同じ種類の正貨であることが続いた場合は、画質に問題ないと判断することで、画質の低下度合いを検知できる。画質の低下を検知した場合、自動販売機の制御部に対しては通信で、自動販売機の操作者に対しては表示を行って画質が低下したことを報知し、清掃を促すことが可能である。
さらに、切替手段98とは別に第2の切替手段(図示せず)により、撮像手段16での識別(以下、画像識別という)そのものを行うか行わないかを選択可能としている。第2の切替手段を備えることにより、撮像手段16や光学透明体14に故障や重大な傷・汚れがあるような場合に画像識別を行わない方を選択し、結露検知(S14)と撮像手段16での投入検知(S15)及び凹凸及び模様検知(S21)を行わない(図9には図示せず)ことで、誤動作による製品の動作停止や識別性能の低下を防止することができる。
なお、硬貨投入の検知方法や、図2と図4とを用いて説明した通路構成、及び結露検知や結露防止や画質検知は、従来構成の模様識別装置にも適用可能である。それぞれ、確実な投入検知、汚れの影響を受けにくい確実な識別、結露や汚れ等の影響を低減した正確な識別が可能である。
以上のように、本実施の形態によれば、硬貨23からの正反射光29の非入射部分で識別を行うことにより、画像にムラが発生するのを防止できる。また、撮像手段16を通路13に対して鉛直上方側に設けることにより、撮像手段16への汚れの付着を低減させることができる。撮像手段16は部分的な画像を出力可能な画像センサ26からなるので、特定領域66の画像データを短時間で読み出すことができる。前記撮像手段16は行列状に配置された受光素子のアレイと、前記アレイの行に感度制御のための電圧を供給する制御回路68と、前記アレイの列から接地へ流れる電流を処理する神経ネットワーク69とを備える画像センサ26からなるので、画像センサ26内でフィルタ行列と画像の積和演算を実行できる。撮像手段16近傍の通路13が結露しているかどうかを検知する結露検知手段82を備えることにより、通路13が結露しているかどうかを検知できる。そして、撮像手段16の制御処理を省いて行わないことで正常でない画像データによる誤動作を防止したり、結露防止手段を動作させたり、結露の発生を報知することが可能である。硬貨23が投入されたことを撮像手段16を用いて検知することにより、硬貨23が投入されたことを確実に検知することができる。撮像手段16で事前に読み取った画像に基づいて読み取り条件の調整を行うことにより、一定画質の画像データを得ることができる。ほぼ同一の波長特性を有し異なる方向から硬貨23に光を照射する第2の照明手段36と第3の照明手段37を備え、第2の照明手段36で照射した際の硬貨23からの反射光と、第3の照明手段37で照射した際の硬貨23からの反射光との差に基づいて硬貨23を識別することにより、硬貨23の凹凸を検知することができる。第3の画像における硬貨23の位置の基準となる点すなわち中心を複数の外周候補点116を検証して検知することにより、確実に硬貨23の位置を検出することができる。1種類以上の金種に仮判定して識別を行うことにより、硬貨23の通過位置の影響で金種を誤判別するのを防止できる。撮像手段16を通路13の鉛直上方側に設けることにより、撮像手段16などへの汚れの付着を低減させることができる。第3の画像のエッジ検出強調後に座標変換を行って識別を行うことにより、硬貨23の模様に忠実にエッジを検出することができる。硬貨23の特定部分を除く画像に基づいて閾値を設定し、この閾値で二値化を行うことにより、安定した二値化を行うことができる。硬貨23の特定部分を除く画像に基づいて基準画像との照合を行うことにより、安定した照合を行うことができる。回転角度を間引いて回転角度の検出を行うことにより、精度を維持したまま高速に回転角度検出を行うことができる。硬貨23の画像を複数の領域143に分割し、基準画像との各領域毎の一致度合いに基づいて識別を行うので、硬貨23や通路13の汚れの影響が低減される。
そのため、硬貨の模様を正確に識別することができるので、偽貨の不正使用を防止することが可能な、識別性能の高い模様識別装置を実現できる。