JP4317912B2 - エイズワクチン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エイズワクチン作製用組換え核酸、それを用いて作製されるエイズワクチン等に関する。より詳しくは、本発明は、インフルエンザウイルスを用いて作製される組換え核酸、それを含有する発現ベクター、その発現ベクターを用いて作製されるエイズワクチン等に関する。
【0002】
【従来の技術】
エイズは、1981年に後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome(AIDS))と命名された。ヒトにおけるエイズの原因ウイルスはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、以下HIVと略す)と呼ばれ、レトロウイルス科レンチウイルス亜科に分類される。HIVの感染からエイズ(AIDS)の発症までの期間は10年と長く、(1)急性期、(2)無症状キャリア期、(3)PGL期(全身のリンパ節の腫れ)、(4)エイズ関連症候群の発症、(5)エイズ発症の5期に分けることができる。
【0003】
エイズが、末梢血リンパ球、中でもCD4(8)陽性Tリンパ球の減少をもたらすことは良く知られている。その後、2つの細胞親和性、T細胞(SI株)又はマクロファージ(NSI株)に感染する性質があることが分かってきた。
【0004】
HIVはHIV−1とHIV−2に大別され、直径が80から100nmの球状のウイルスである。HIVゲノムは約9.7kbの線状単鎖RNAで、逆転写酵素およびビリオンコアの構造タンパク質と複合体を形成し、プライマーtRNAとともにウイルス粒子中に内在する。ゲノムはgag、pol、env等、合計10種の遺伝子で構成されている。gag、pol、env遺伝子は、コアの構造タンパク質の前駆体、3種の酵素(プロテアーゼ、逆転写酵素およびインテグラーゼ)の前駆体、エンベロープ糖タンパク質の前駆体をそれぞれコードしている。
【0005】
HIVがT細胞あるいはマクロファージに感染する際に、それらの細胞のレセプターに結合するタンパク質は分子量120キロダルトン(kDa)のgp120である。gp120はHIV感染細胞内でエンベロープ糖タンパク質の前駆体である分子量160kDaのgp160タンパク質が特異的タンパク質分解酵素により分子量120kDaのgp120と分子量41kDaのgp41に分解され生じる。
【0006】
gp120は、比較的安定しているC1〜C5領域と、変異の頻度が高いV1〜V5領域から構成される。V1/V2とV3はCD4のD1部位に結合部位を形成する。V3はケモカインレセプターとの結合部位となっている。これらの領域のうち、V3領域はループ構造をとり、免疫原性の主要エピトープ、すなわちHIVの中和エピトープおよび細胞傷害性Tリンパ細胞(cytotoxic T lymphocyte(以下、CTLと略すこともある))エピトープとしての機能を有する。
【0007】
M親和性ウイルスはケモカインレセプターCCR5をコレセプターに、他方、T親和性ウイルスは、CXCR4をコレセプターにして、その親和性の決定に関与している。いずれにしても、gp120のV3ループがHIV感染の親和性を決定している。
【0008】
従来、種々の抗エイズ薬が開発され、多くのエイズ患者でその劇的な治療効果が得られるようになった。抗エイズ治療薬としては、例えば逆転写酵素阻害剤(AZT等)や前記タンパク質分解酵素阻害剤(gp160からgp120とgp41への分解を阻害)が挙げられる。しかし、これらには薬剤投与による副作用や薬剤投与に伴う多剤耐性株の出現といった弊害があった。
【0009】
また、HIVに対するワクチンの開発も進められているが、HIV遺伝子の一部の遺伝子変異率が極めて高い(点変異(一般に真核細胞ゲノムDNAでは10-10であるのに対し、HIVを代表例とする一部のRNAをゲノムとしてもつウイルスでは10-3〜10-4と高い))、遺伝的組換え、遺伝的再集合をするので、一般的にはその効果が期待しにくいという問題がある。
また、エイズに対するワクチンの開発は、ウイルス感染者の発症予防を目的としていた。そのため、安全性が危惧される生ワクチンよりも、不活化ワクチンあるいは成分ワクチンの開発が先行していた。前記不活化ワクチンあるいは成分ワクチンとしてすでに前臨床試験あるいは臨床試験に供されているものとしては、例えば、(1)サブユニットワクチン、(2)合成ペプチドワクチン、(3)粒子ワクチン、(4)DNAワクチン、(5)植物生産ワクチン等があげられる。
【0010】
しかし、上記のようなワクチンはそれを接種した個体に免疫グロブリンの産出(すなわち液性免疫)を誘導するが、細胞性免疫を誘導できないため、ウイルス感染者の体内からウイルス感染細胞を排除できないという欠点を有している。すなわち、HIVに特異的な液性および細胞性免疫の両者が誘導可能で、かつ安全なエイズワクチンの実用化はなされていない。
そこで、エイズウイルスが有する遺伝子を、組換えDNA技術により、他のウイルスのゲノム中に組込んだ組換え型ウイルスを用いたエイズに対する生ワクチンの開発が試みられた。
【0011】
感染個体に細胞性免疫を誘導することが知られているワクシニアウイルスがまず用いられた(WO 97/27311号)。さらに、カナリア痘ウイルス(米国特許第5,766,598号および米国特許第5,863,542号)、アデノウイルス(欧州特許第0638316号)、ポリオウイルス、水疱性口内炎ウイルス等を用いた生ワクチンの開発が試みられた。しかし、これらのワクチンでは、(1)変異エイズウイルスの多様性に対応できない、(2)ウイルス自身に抗体産生が誘導されるため、長期間にわたって再接種できない、(3)ワクチン株自身の毒性が高い場合がある、等の問題点があった。
一方、米国特許第5786199号には、組換マイナス鎖RNAウイルス発現システム及びそれを用いるエイズワクチンが開示されている。このエイズワクチンは、変異インフルエンザウイルスによりHIV由来のぺプチドを含んだ外来遺伝子産物がHIVに対して免疫反応を起こして防御されることを利用している。しかし、このワクチンの場合、HIV由来のペプチドはわずか12アミノ酸であり、効率よく細胞性および液性の両免疫反応を誘導するのに十分であるとはいえない。さらに、ウイルスが宿主細胞に感染する際、レセプターに結合するHA(ヘマグルチニン)に変異を導入しているため、感染効率あるいは機能の低下が懸念される。また、HAは宿主細胞の感染域を決定するいくつかの亜型に分類されているので、一度作製するとワクチンの感染できる宿主域を制御することが難しいという問題がある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題点を考慮してなされたもので、安全で、HIVの多様性に対応しうるエイズワクチン、そのようなワクチンを作製するための組換え核酸などを提供する。
【0013】
すなわち、本発明は、遺伝子変異を起こすウイルスを用いて作製される組換え核酸であって、そのウイルスの遺伝子変異を起こす領域の核酸配列に、HIV(エイズウイルス)の遺伝子変異を起こす領域の核酸配列又はその部分配列を組込むことにより作製されるエイズワクチン作製用組換え核酸を提供する。ここで「核酸」とはDNAまたはRNAを意味する。本発明の好ましい態様によれば、上記遺伝子変異を起こすウイルスはA型インフルエンザウイルスである。また、その遺伝子変異を起こす領域として、好ましくは、A型ンフルエンザウイルスのNAストーク領域が選択される。さらに、上記HIVの遺伝子変異を起こす領域としては、好ましくはgp120のV3領域が選択される。
【0014】
本発明において前記NAストーク領域に組込まれる核酸配列は、好ましくは、(1)配列番号:1で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、より好ましくは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列、(2)配列番号:2で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、より好ましくは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列、(3)配列番号:3で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする、より好ましくは、配列番号:3で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列である。そして、HIVのgp120 V3領域を含む核酸を組み込むA型インフルエンザイウイルスのNAストーク領域の部位は、SnaBI切断部位、NsiI切断部位、部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるSnaBI切断部位、又は部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるNsiI切断部位のいずれかである。本発明の好ましい態様は、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列であり、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組み込むA型インフルエンザウイルスのNAストーク領域の部位は、SnaBI切断部位、又は部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるSnaBI切断部位のいずれかである。前記A型インフルエンザイウイルスのNAストーク領域は、A/WSN/33ウイルスのNA遺伝子のストーク領域であり、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む各酸配列を組込むA型インフルエンザイウイルスのNAストーク領域部位は、部位特異的変異誘発法によって導入されるSnaBI切断部位であり、前記SnaBI切断部位は、前記A/WSN/33ウイルスのNA遺伝子のストーク領域内のAがTに1塩基置換されてできるSnaBI切断部位である。本発明の好ましい態様は、遺伝子変異を起こすインフルエンザウイルスを用いて作製される組換え核酸であって、A型インフルエンザウイルスのNAストーク領域に、エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組込むことにより作製され、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、又は、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列のいずれかであり、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組み込むA型インフルエンザウイルスのNAストーク領域の部位は、NsiI切断部位、又は部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるNsiI切断部位のいずれかである。本発明の好ましい態様は、前記A型インフルエンザイウイルスのNAストーク領域は、A/WSN/33ウイルスのNA遺伝子のストーク領域であり、前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む各酸配列を組込むA型インフルエンザイウイルスのNAストーク領域部位は、 部位特異的変異誘発法によって導入されるNsiI切断部位であり、前記NsiI切断部位は、前記A/WSN/33ウイルスのNA遺伝子のストーク領域内のCがGに1塩基置換されてできるNsiI切断部位である。本発明の別の態様によれば、上記組換え核酸によってコードされるキメラタンパク質、上記組換え核酸を含有する発現ベクター、上記組換え核酸をウイルスゲノムに含有することを特徴とする組換え型ウイルスが提供される。
【0015】
また、本発明の別の態様によれば、上記組換え型インフルエンザウイルスを含むエイズワクチン、公知の手法に基づいて不活性化した本発明のエイズワクチン、また、前記キメラタンパク質あるいは前記ウイルスの表面抗原タンパク質を含むエイズワクチンが提供される。さらに、エイズワクチンと薬学的に許容できる担体またはアジュバントとを含むエイズワクチン組成物が提供される。本発明のエイズワクチン組成物は、好ましくは生体に負荷がかからないように経鼻接種される。
【0016】
また、本発明の別の態様によれば、エイズワクチン作製用組換えウイルスの製造方法であって、(1)A型インフルエンザウイルスのNAストーク領域に、エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組込んだ発現ベクターからインフルエンザウイルス遺伝子RNAを試験管内で作製する工程、(2)ウイルスのポリメラーゼおよび核タンパク質存在下で、RNAポリメラーゼと制限酵素処理した発現ベクターを用いて、試験管内での転写反応によりインフルエンザキメラRNP複合体を作製する工程、(3)得られたRNP複合体をヘルパーウイルスと共にトランスフェクション法を用いて細胞に感染させる工程、及び(4)産生されたインフルエンザウイルスから組換え型インフルエンザウイルスを選択する工程を含む。そして、前記発現ベクターのエイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組み込んだA型インフルエンザウイルスのNAストーク領域の部位は、SnaBI切断部位、NsiI切断部位、部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるSnaBI切断部位、又は部位特異的変異誘発法によってNAストーク領域に導入されるNsiI切断部位のいずれかである。さらに前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、又は、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と同一、又は1個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列のいずれかである。さらに、前記(3)得られたRNP複合体をヘルパーウイルスと共にトランスフェクション法を用いて細胞に感染させる工程は、前記ヘルパーウイルスはWSN−HKヘルパーウイルスを用い、前記WSN−HKヘルパーウイルスをMOI0.001〜0.1で細胞に感染させる工程である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
【発明の実施の形態】
(エイズワクチン作製用組換え核酸)
本発明のエイズワクチン作製用組換DNAは、遺伝子変異を起こすウイルスの遺伝子変異を起こす領域の核酸配列に、HIV V3領域の核酸配列全てまたはその一部を組込むことにより作製される。
本発明において用いられる遺伝子変異を起こすウイルスとしては、インフルエンザウイルスに代表されるオルソミクソウイルス科、センダイウイルスに代表されるパラミクソウイルス科、水胞性口内炎ウイルスに代表されるラブドウイルス科、C型肝炎ウイルスに代表されるフラビウイルス科に属するウイルスなどが挙げられる。
本発明において「ワクチン」とは、免疫応答を生じ得る物質をいう。安全性の観点から細胞に対する感染が一過性であること、またHIVの多様性に対応するために、変異を受けやすい領域を表面抗原としてもつインフルエンザウイルスが好ましい。
【0018】
本発明において「インフルエンザウイルス」という用語は、最も広義のインフルエンザウイルスを意味する。すなわち、インフルエンザウイルスは、一般的には、インフルエンザウイルス属(これはさらにA型とB型に分類される)とインフルエンザウイルスC型属とに分類されるが、ここでは、「インフルエンザウイルス」という用語は、これら全てを包含し、またこれらのインフルエンザウイルスのあらゆる変異体をも含む。
【0019】
インフルエンザウイルスは、(1)生ワクチンとして経鼻接種が可能である、(2)発育鶏卵を用いて、安価に大量生産できる、(3)サブタイプを変化させることによる追加免疫が可能である、(4)ウイルス感染個体において免疫グロブリン、特にIgAの誘導が可能である、(5)細胞性免疫反応の主体であるCTL活性誘導能がある、(6)感染が一過性であるため、安全性が高いなどの特徴を有する。また、インフルエンザウイルス遺伝子の変異率は極めて高く、HIV遺伝子の変異率に匹敵することが知られている。以上のようなインフルエンザウイルスの特性を利用すれば、HIVとの組換え型インフルエンザウイルスを作製した場合、導入したHIVの遺伝子部位に種々の変異が誘導でき、自然界に存在するHIVの多様性に対応できると考えられる。
【0020】
本発明においては、インフルエンザウイルス等の遺伝子変異を起こすウイルスの変異率の高い領域にHIVの特定の機能を発現する領域を組換えDNA技術を用いて組込み、感染細胞内でHIVの多様性に対応できる組換え型ウイルスを作製する。
本発明で用いるインフルエンザウイルスの変異を受けやすい遺伝子領域としては、ウイルスの表面抗原として既知の、例えばヘマグルチニン(HA)遺伝子領域、ニューラミニダーゼ(NA)遺伝子領域が挙げられる。外来遺伝子を上記の遺伝子に組込んだ場合にその活性に変化を生じることなく、またウイルス複製能へも影響を生じないことが予想される領域を有することが望ましい。さらに、外来遺伝子を組み込んだインフルエンザウイルスの遺伝子分節はウイルス粒子内にランダムに取り込まれ、この際に野生株の相同の分節のみが入れ代わったウイルス粒子を選択的に得ることが好ましい。以上の点を考慮し、インフルエンザウイルス遺伝子の第6分節にコードされるニューラミニダーゼ(NA)タンパク質ストーク部位をコードする遺伝子領域が特に好ましい。
【0021】
本発明の組換え型ウイルスに組込むHIVの領域としてはV1〜V5領域から選択される。V1からV5で表される領域は、いずれも変異率の高い領域であるが、これらのうち、V3領域はHIVの中和エピトープおよびCTLエピトープを有し、T細胞に感染する際に重要な機能を果たしているから、本発明では、V3領域を用いるのが特に好ましい。ここで、「V3領域」とは、HIV−I IIB BH10株のN末端シグナル配列が除かれた成熟産物としてのgp120のアミノ酸位置266〜301の配列に対応する領域をいう。なお株種によって、そのアミノ酸番号は異なる場合がある(例えば、Palker et al. (1989) ; Rusche J.R., Javaherian K., Mcdanal C., Petro J., Lynn D.L., Grimalia R., Langlois A.,Gallo R.C., Arthour L.O., Fischinger P.J., Bolognesi D.P., Putney S.D.and Matthews T.J. (1988). Antibodies that inhibit fusion of human immunodeficiency virus-infected cells bind a 24-amino acid sequence of the viral envelope, gp120. Proc. Acad. Sci. USA. 85:3198-3202参照)。
【0022】
本発明ではV3領域の全核酸配列を用いることが好ましいが、発現されるキメラタンパク質がHIVの抗原として利用できる限り、V3領域の部分配列であっても使用することができる。具体的には、インフルエンザウイルスのNAストーク領域の核酸配列に組込まれる核酸配列としては、(1)配列番号1、2又は3に記載のアミノ配列をコードする核酸配列;(2)配列番号1、2又は3に記載のアミノ酸配列において1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列をコードする核酸配列などが用いられる。好ましくは、配列番号1、配列番号2又は配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列が用いられる。
【0023】
なお、参考のために、図1(A)に、インフルエンザウイルスWSNのNAタンパク質とそれに対応するcDNAの概略図を、図1(B)に、HIV-1のgp120中のV1〜V5領域の位置、NAストーク領域に挿入されるV3領域のアミノ酸配列などを示す。図1(A)に示されるNAストーク領域はNsiI切断部位(163番目)とSnaBI切断部位(182番目)を有する。また、図1(B)に示されるV3領域は、35個のアミノ酸残基を有する。
【0024】
(発現ベクターの構築)
本発明で用いられる好ましい発現ベクターには、少なくともプロモーター、エイズV3領域の全てまたはその部分配列を含むインフルエンザウイルスNAキメラ遺伝子が含まれる。
発現ベクターは好ましくはプラスミドベクターである。発現プラスミドの作製において有用なベクターとしては、構成性プロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーターなどのプロモーターを含むベクターなどが挙げられる。
【0025】
構成性プロモーターの具体例としては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来、シミアンウイルス−40(SV40)由来、あるいは単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のプロモーターなどのウイルス由来の強力なプロモーターが挙げられる。組織特異的プロモーターの具体例としては、筋βアクチンプロモーターが挙げられる。誘導性あるいは調節性のプロモーターとしては、例えば、成長ホルモン調節性プロモーター、lacオペロン配列の制御下にあるプロモーター、あるいは抗生物質誘導性プロモーター、あるいは亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーターなどが挙げられる。本発明で用いるプロモーターとしては、例えば、T3 RNAポリメラーゼのプロモーターが好ましい。
【0026】
本発明で用いるベクターは、プロモーター(例えば、上記の構成性または誘導性プロモーター)DNA配列を含む発現制御配列を含むことが好ましい。ベクターはさらに、エンハンサー、転写あるいはポリアデニル化シグナルのスプライシングのためのイントロン配列などのRNAプロセシング配列、発現タンパク質分泌のシグナル配列、あるいはCpGモチーフとして知られている免疫刺激DNA配列などを含むことができる。
【0027】
本発明の一態様によれば、Enami, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、3802-3805頁(1990)に記載されたインフルエンザウイルスA/WSN/33株由来のNA遺伝子を含有するプラスミドpT3NAvから本発明の発現ベクターを構築する。該プラスミドはプロモーターとして、T3 RNAポリメラーゼのプロモーターを含む。例えば、(1)部位特異的変異誘発法を用いて、プラスミドpT3NAvに制限酵素SnaBIの切断部位を導入し、(2)HIV−1の分離株2088E312t(Genbank)に由来するV3領域およびその近傍の全ての配列、またはその部分配列をPCR法にて増幅し、(3)得られたPCR断片を前記プラスミドpT3NAvのNA遺伝子内の制限酵素SnaBI切断部位へ挿入することにより、本発明の発現ベクターとする。
【0028】
(組換え型インフルエンザウイルスの作製)
本発明の組換え型インフルエンザウイルスは公知の手法に基づいて作製することができる。例えば、Enami, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、3802-3805頁(1990)に記載された公知のWSN−HKリアソータント法を用いて、本発明の組換え型インフルエンザウイルスを作製することができる。
【0029】
図2に本発明の一態様に係る組換え型インフルエンザウイルスの作製プロセスを示す。本発明の組換え型インフルエンザウイルスは、図2に示されるように、以下の工程(1)〜(4)を経て作製される。
【0030】
(1)インフルエンザウイルスのNAストークス領域にHIVのV3領域を挿入してなるエイズワクチン作製用組換え核酸(キメラ遺伝子)を組込んだ発現ベクターからインフルエンザウイルス遺伝子RNAを試験管内で作製する。
【0031】
(2)次に、インフルエンザウイルス核タンパク質とゲノムRNA複合体(RNP複合体)を作製する。インフルエンザウイルスキメラRNP複合体は、ウイルスのポリメラーゼおよび核タンパク質(NP)存在下で、T3 RNAポリメラーゼとKsp632Iで切断した発現ベクターを用いて、試験管内での転写反応により作製することができる。
(3)次いで、得られたRNP複合体をヘルパーウイルスと共に公知のトランスフェクション法(Ciccarone, et al., Focus、第21巻、54-55頁(1994)参照)を用いて細胞に感染させる。
(4)そして、最後に、産生されたインフルエンザウイルスから公知の方法(例えば、Enami, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、3802-3805頁(1990)参照)により組換え型インフルエンザウイルスを選択する。
【0032】
上記工程(1)〜(4)は、具体的には、次のようにして行うことができる。まず、Ksp632Iで切断したプラスミドと、T3 RNAポリメラーゼ、精製ウイルスRNAポリメラーゼ/NP、NTPsとをそれぞれ適量混合し、37℃で、10〜60分間反応させる。さらに、この反応混合物に、RQ1 DNaseIを添加し、37℃、3〜15分間さらに反応させる。その後、この反応混合物に、適量のOPTI−MEMとリポソーム溶液を混合し、室温で10〜30分間放置し、所望のRNP複合体を得る。次いで、24穴プレートで培養したMDBK細胞を血清を含まないMEM培地で2〜3回洗浄する。ヘルパーウイルスをMOI0.001〜0.1で感染させ、37℃、30〜90分放置する。細胞を洗浄後、上記RNP複合体を含有する溶液を細胞に添加し、1〜3時間インキュベートする。その後、上清を除去し、ウイルス増殖培地を適量添加し、37℃で、40〜50時間培養する。その後、公知の方法により組換え型インフルエンザウイルスを選択する。
【0033】
上記のようにして得られた組換え型インフルエンザウイルスは、RT−PCR(Reversetranscriptase Polymerase Chain Reaction)法、ウェスタン・ブロッティング法などにより確認することができる。
例えば、該インフルエンザウイルスが感染細胞中に組み込んだ遺伝子長に応じたvRNAを産生することを、公知のRT−PCR法で確認することができる。プライマーとしては、ウイルスゲノムの第6分節に由来する配列を含有する合成ヌクレオチドが用いられる。本発明で用いられるプライマーとしては、配列番号:4および配列番号:5で表される合成ヌクレオチドがあげられる。また、ウェスタン・ブロッティング法による確認の際は、まず、組換え型インフルエンザウイルス感染細胞の細胞抽出液を公知の方法を用いて調製する。得られた細胞抽出液に対して、V3領域に特異的な抗体を用いてウェスタン・ブロッティング法を行い、抗体に反応するタンパク質を検出することができる。
【0034】
(エイズワクチン組成物及びその使用方法)
本発明においては、上記のようにして作製された組換え型ウイルスからなるエイズワクチン又はそれを含むエイズワクチン組成物が提供される。本発明のワクチン組成物は、通常、本発明のエイズワクチンと薬学的に許容可能な担体(トランスフェクション試薬)またはアジュバンドを含有する。
本発明で用いる薬学的に許容可能な担体とは、生体の細胞中にワクチンをトランスフェクションするのに適したものである。このような薬学的に許容可能な担体としては、カチオン性リポソーム、フルオロカーボンエマルジョン、蝸牛状、筒状剤、金粒子、生体分解性ミクロスフェア、カチオン性ポリマーなどが挙げられる。
【0035】
本発明のワクチン組成物を調製するために用いることができる免疫用アジュバントとして、ワクチン組成物を形成するための公知のアジュバントを用いることができる。本発明で用いられるアジュバントとしては、免疫用として用いられるFreundの完全アジュバントあるいは不完全アジュバントがあげられる。本発明において用いられるアジュバントとしては、免疫系を活性化させる、非メチル化CpGジヌクレオチドを有するミョウバンまたはDNA分子などを用いることもできる。
【0036】
なお、本発明の組換え型インフルエンザウイルスは、生ワクチンとして用いることもできるし、不活性化させた後、不活性ワクチンとして用いることもできる。不活性化手段としては、例えば、加熱処理(例えば、60℃、1時間)、紫外線照射、フェノール、ホルマリンのような化学物質による化学薬剤処理、凍結融解などの公知の方法が挙げられる。
【0037】
本発明のワクチン組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル)に投与してエイズの予防または治療のために用いることができる。本発明のワクチンは、カプセル剤、懸濁液、エリキシル剤又は溶液のような任意の投与形態で用いることができる。
【0038】
ワクチンを含む製剤を調製するために担体物質と組み合わせるべきワクチンの量は、一般的には、投与経路および投与方法、発現される抗原タンパク質あるいはペプチドの安定性および活性(免疫原性)、患者の性別、年齢、体重、健康状態、予防または治療の対象となるウイルス性疾患の種類などの種々の要因を考慮して決定される。
【0039】
本発明のエイズワクチンの投与は、経口投与、経鼻投与、経皮投与、皮下注入、皮内導入、経皮圧入及び他の投与法、例えば、腹腔内、静脈内又は吸入投与、経口投与でも可能であり、投与経路は特に限定されない。経鼻投与(接種)は生体にとって負荷が少ないので、特に好ましい。また、追加免疫接種を行うことも可能である。
本発明の組換え型インフルエンザウイルスをワクチンとしてヒトに投与する場合、その投与量は、投与経路、投与方法、発現される抗原タンパク質あるいはペプチドの安定性および活性(免疫原性)、患者の性別、年齢、体重、健康状態、予防または治療の対象となるHIV株の種類などの種々の要因を考慮して決定される。本発明のエイズワクチンは、例えば、HIV量(gp120換算)として、1〜1000μg、好ましくは、10〜500μg、より好ましくは、15〜50μgを1〜2回、14〜48日間隔で投与する。
【0040】
本明細書の配列表の配列番号は以下の配列を示す。
[配列番号:1]
NAストーク部位へ組み込んだV3領域33アミノ酸の配列を示す。
[配列番号:2]
NAストーク部位へ組み込んだV3領域44アミノ酸の配列を示す。
[配列番号:3]
NAストーク部位へ組み込んだV3領域51アミノ酸の配列を示す。
[配列番号:4]
実施例2のRT−PCRに用いたプライマー1の塩基配列を示す。
[配列番号:5]
実施例2のRT−PCRに用いたプライマー2の塩基配列を示す。
【0041】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
実施例 1
(1)組換えプラスミドの構築
プラスミドとして、配列番号:1で表されるV3領域の33アミノ酸配列(TRPNNNTRKSINIGPGRAFYATGEIIGDIRQAH)および配列番号:3で表される51アミノ酸配列(QLNESVEINCTRPNNNTRKSINIGPGRAFYATGEIIGDIRQAHCNISRAKWNN)に該当するヌクレオチド配列をそれぞれインフルエンザウイルスA/WSN/33株のNAストーク部位に組み込んだプラスミドpT3NAvENV33およびpT3NAvENV51を作製した。これらのプラスミドは、NA遺伝子の上流にT3 RNAプロモーターを、下流にKsp632I部位を含んでいた。具体的には、次のようにしてプラスミドを構築した。
【0043】
組換えプラスミドを作製するための材料プラスミドとして、インフルエンザA/WSN/33ウイルスのNA遺伝子を有するpT3NAvを用いた(Enami, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、3802-3805頁(1990)参照)。pT3NAv−ENV33を構築するために、pT3NAvに部位特異的変異誘発法によってSnaBI切断部位を導入した。これによって、インフルエンザA/WSN/33ウイルスのNA遺伝子の168番目の核酸位置においてAがTに置換された。次いで、HIV−1分離株2088E34t(Genbank#AB002930)をPCRによって増幅した。反応は、(1)94℃、1分、(2)55℃、2分、72℃、3分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片はSnaBIで切断され、SnaBI切断プラスミドに挿入された。
【0044】
pT3NAv−ENV51を構築するために、pT3NAvに部位特異的変異誘発法によってNsiI切断部位を導入した。これによって、インフルエンザA/WSN/33ウイルスのNA遺伝子の184番目の核酸位置においてCがGに置換された。次いで、HIV−1分離株2088E34t(Genbank#AB002930)をPCRによって増幅した。反応は、(1)94℃、1分、(2)55℃、2分、72℃、3分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片はNsiIで切断され、NsiI切断プラスミドに挿入された。
pT3NAv−ENV44も上述した方法に準じて構築した。
【0045】
(2)HIV−1のV3領域ペプチドを発現する組換え型インフルエンザウイルスの作製
本実施例においては、上記のようにして得られた組換えプラスミドを用い、図2に示すプロセスに従って組換え型インフルエンザウイルスを作製した。
【0046】
まず、25μlの生理的条件の反応液中、Ksp632Iで切断した上記プラスミド250ng、15単位のT3 RNAポリメラーゼ、精製ウイルスRNAポリメラーゼ/NP(300ngNP等量/μl)5μl、25mM NTPsを1μlを混合し、37℃、15分間反応を行った。次いで、この反応混合液に、0.3単位のRQ1 DNaseIを添加し、37℃、5分間さらに反応させた。その後、この反応混合液に、25μlのOPTI−MEM、リポソーム溶液50μlを混合し、室温で20分間放置した。このようにして得られた反応溶液100μlを細胞へのトランスフェクションに用いた。
【0047】
次に、24穴プレートで培養したMDBK(Madin-Darby bovine kidney)細胞を、血清を含まないMEM培地で2回洗浄した。WSN−HKヘルパーウイルスをMOI0.1で感染させ、37℃、1時間放置した。なお、WSN−HKヘルパーウイルスは、第6分節NA遺伝子がインフルエンザA/HK/1/68で、その他の分節がA/WSN/33から由来している。上記細胞を洗浄後、上記溶液100μlを細胞に添加し、2時間インキュベートした。その後、上清を除去し、ウイルス増殖培地を300μl添加し、37℃、46時間培養した。
【0048】
その後、上記培養上清0.1、1、10、100μlをそれぞれ1% BSA−MEM溶液で全量300μlになるように希釈し、ウイルス液とする。6穴プレートで培養したMDBK細胞を血清を含まないMEM培地で2回洗浄した後、上記ウイルス液を添加し、37℃で1時間放置した。MEM培地で2回洗浄後、0.8%アガロースを含むMEM培地(トリプシン不含)を重層し、37℃で48〜72時間放置した。生成したウイルスプラークをかきとり、組換え型インフルエンザウイルスを単離し、1mlの1% BSA−MEM溶液に懸濁した。
次に、10cmディッシュで培養したMDBK細胞を血清を含まないMEM培地で2回洗浄した後、5mlのウイルス増殖培地を入れた。そこに上記ウイルスプラーク懸濁液300μlを添加し、37℃で48〜72時間放置し、さらに発育鶏卵に接種することにより増殖、生育させた。
【0049】
その結果、(1)pT3NAvENV33に由来する組換え型ウイルスが1株、pT3NAvENV51に由来する組換え型ウイルスが3株得られた。その3株の内訳は、(2)pT3NAvENV51から予測されるアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列をもつ組換え型ウイルス、(3)アミノ酸配列のうち、AKWNNを欠失する配列番号:2で表されるアミノ酸配列をもつ組換え型ウイルス、および(4)アミノ酸配列に一部点置換変異をもつ組換え型ウイルスであった。(1)〜(3)の組換え型ウイルスをそれぞれENV33、ENV51およびENV44と命名した。なお、ENV33、ENV51およびENV44は、図1に示されるアミノ酸配列を含有している。
【0050】
(3)RT−PCRによる組換え型インフルエンザウイルスの確認
前記3種の組換え型インフルエンザウイルスはそれぞれ特定の長さのvRNAをつくることを、ウイルスゲノム第6分節の情報に基づいて設計した配列特異的プライマーであるNAENV−NdeI(プライマー1、配列番号:4)およびNAENV−NarI(プライマー2、配列番号:5)を用いたRT−PCR法で確認した。組換え型ウイルスおよび野生型ウイルスをMOI(多重感染度)0.07〜1で感染させた2×106個のMDBK細胞および非感染細胞から全RNAを抽出し、全量を20μlとした。そのうちの5μlと10pmolのプライマー1を用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、プライマー1およびプライマー2を用いてPCR反応を行った。反応は、(1)94℃、30秒、55℃、1分、72℃、1分30秒を25サイクル、(2)4℃で冷却、の条件で行った。コントロールとして、組換えに用いたプラスミドを鋳型として、同様の条件でPCR反応を行った。得られたRT−PCRの検出結果を図3に示す。
【0051】
図3に示したように、ENV33、ENV44及びENV51それぞれに特定の長さのPCR産物(それぞれ446bp、531bpおよび552bp)をアガロースゲル電気泳動にて検出した。
この結果は、挿入したアミノ酸数によりNA遺伝子のサイズが異なる組換えウイルスが、感染細胞内で複製していることを示している。
【0052】
(4)キメラタンパク質の発現解析
上記のようにして得られた組換え型ウイルス(ENV33、ENV44及びENV51)および野生型ウイルス(WSN)を感染させたMDBK細胞ならびに非感染細胞の細胞抽出液を10%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、V3領域に特異的な抗体を用いてウェスタン・ブロッティング解析を行った。その結果を図4に示す。
図4に示されるように、V3抗体に反応するタンパク質を検出した。さらに、この実験においても、挿入アミノ酸数に応じたタンパク質のバンドのシフトが観察された。
【0053】
(5)組換え型インフルエンザウイルスのマウスへの接種実験
上記のようにして作製された組換え型ウイルス(ENV33、ENV44及びENV51)をBALB/cマウス(6〜10週齢の雄H−2Kd)をエーテル麻酔し、PBS(―)で希釈したウイルス液30μl、対照にはPBS(−)30μl(15μl/鼻孔)を経鼻接種し、免疫誘導能の解析を行った。
血清はウイルス感染4週間後にマウスより公知の方法により得た。この血清とウイルスのビリオンより精製したHA画分との反応性を次に示すELISA法により解析した。
【0054】
(ELISA法)
96ウェルのマイクロタイタープレートにウェルあたり125ngの抗原をコートし、1% BSAを含む緩衝液でブロッキング後、50倍希釈したウイルス感染マウス血清と反応させた。アルカリホスファターゼ結合抗マウス抗IgAまたは抗IgG抗体(1000倍希釈)と反応後、基質液(例えば、p−ニトロフェニルホスフェート)を添加することにより発色させ、波長405nmおよび650nmにおける吸光度を測定した。この測定を2回繰り返し、その平均値を算出した。得られた結果を図5に示す。
【0055】
図5に示したように、感染マウスの血清中にIgAが観察され、特に、ENV44の場合、2回接種の際に、V3特異的IgAの産生量が極めて高いものであった。
【0056】
(6)HIV−1感染の中和活性の検出
ENV44免疫マウスで産生されるV3特異的IgAがHIV−1感染を中和するかを確認した。すなわち、HIV−1 IIIBを、組換え型インフルエンザウイルスENV44を感染させたマウスから得た抗血清と共に予めインキュベートしてから、MT−4細胞に感染させることによって確認した。
試料とした血液は、切断した尻尾から採取し、室温で46時間放置した後、
4℃で一晩インキュベートし、その後、4℃で10分間、6000rpmで2回遠心分離して得た。得られた試料は、使用に供するまで−20℃で保存しておいた。中和活性の試験をする前に、血清試料を56℃で30分処理した。血清試料(26μl)はPBS中のHIV−1溶液26μlに混合し、CO2インキュベーター内で37℃で1時間インキュベートした。試料の連続希釈液(各ウエルに100μl)を、20%FBS(1×104細胞/ウエル)を含有するRPMI培地中で、100μlのMT−4細胞に混合した。CO2インキュベーター中で37℃で7日間インキュベートした後、CPE(細胞変性効果;cytopathic effect)が現れるか調べた。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
Figure 0004317912
【0058】
表1中、TCID50は培養細胞に感染させたときに、該細胞の50%に変性効果を生じるウイルス量を表す。OD405-650は波長405nmの基質液の吸光度から波長650nmのバックグラウンドを差し引いた値を示す。また、表中の値で−は、計測範囲外で算出できなかったことを示す。
血清6検体中2検体(血清No.1及びNo.3)は比較的高レベルでV3特異的IgAを含んでおり、表1に示されるように、これらは比較的高い中和活性が検出された。この結果は、ENV44−組換え型インフルエンザウイルスがエイズワクチンとして使用可能であることを示す。
【0059】
(7)V3特異的CTL活性の検出
V3特異的CTL活性を生体内で評価するために、BALB/cマウス(6〜10週齢の雄H−2Kd)を上記組み換え型インフルエンザウイルス(ENV33、ENV44及びENV51)に感染させた。
感染2週間後のマウスより脾臓細胞を無菌的に摘出した。ペプチドを前記細胞懸濁液に添加し、完全培地で全量を20mlとし、2mlずつ12穴プレートに蒔き、6日間、37℃で培養したものをエフェクター細胞として用いた。ペプチドパルスした標的細胞(LB27.4細胞)を51Cr標識した。ペプチドパルスにはPR8 HAおよびV3に対する免疫優位H−2Kd拘束性CTLエピトープ(Deng Y., et al., 1997 J. Immunol. 158: 1507)の合成ペプチドを用いた。エフェクター細胞を比率(E:T)が100:1〜3:1になるように添加し、4時間反応後にγ線放出を以下の式にて算出した。
【0060】
【式1】
51Cr遊離(%)=100×[(試料からの遊離)−(自然遊離)]/[(最大遊離)−(自然遊離)]
【0061】
式1中、最大遊離および自然遊離は1% NP−40を含有する培地にて標的細胞を培養し算出した。
【0062】
得られた結果を、図6に示す。図6に示されるように、ENV33,ENV44及びENV51のいずれの組換え型ウイルスに感染されたマウスにおいても有意のCTL活性が検出された。
【0063】
【発明の効果】
本発明のエイズワクチンは、HIV感染を中和させることができるので、新規なエイズワクチンとして有効に使用することができる。また本発明のエイズワクチンは、インフルエンザウイルスを利用して作製した場合には、(1)生ワクチンとして経鼻接種が可能である、(2)発育鶏卵を用いて、安価に大量生産できる、(3)サブタイプを変化させることによる追加免疫が可能である、(4)ウイルス感染個体において免疫グロブリン、特にIgAの誘導が可能である、(5)細胞性免疫反応の主体であるCTL活性誘導能がある、(6)感染が一過性であるため、安全性が高い、などの多くの利点を有する。
【0064】
【配列表】
Figure 0004317912
Figure 0004317912
Figure 0004317912

【図面の簡単な説明】
【図1】 (A)はインフルエンザウイルスWSN株のNAタンパク質とそれに対応するcDNAの概略図である。(B)はHIV-1のgp120中のV1〜V5領域の位置、NAストーク領域に挿入されるV3領域のアミノ酸配列などを示す概略図である。
【図2】 本発明の組換え型インフルエンザウイルスの作製方法の概略を示す。図中、T3はT3 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を、NCSはウイルスの非コード配列を表す。
【図3】 本発明の組換え型インフルエンザウイルスENV33、ENV44、ENV51のvRNAを鋳型としたRT−PCRの検出結果を示す。
【図4】 実施例の(1)で得られた組換え型ウイルスを感染させた細胞の抽出液を用いたウェスタン・ブロッティングの結果を示す。インフルエンザウイルス・マトリックス(M1)タンパク質を抗PR8抗体で、またNA−V3キメラタンパク質を抗V3抗体で検出した。
【図5】 組換え型インフルエンザウイルス感染マウスのIgA産生についてのELISAの結果を示す。
【図6】 組換え型インフルエンザウイルスのV3特異的CTL活性を示す。

Claims (10)

  1. 遺伝子変異を起こすインフルエンザウイルスを用いて作製される組換え核酸であって、
    A/WSN/33ウイルスのNAストーク領域に、エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組込むことにより作製され、
    前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列は、
    配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列であり、
    前記エイズウイルスのgp120 V3領域を含む核酸配列を組み込む前記A/WSN/33ウイルスのNAストーク領域の部位は、
    部位特異的変異誘発法によって導入されるNsiI切断部位であり、
    前記NsiI切断部位は、前記A/WSN/33ウイルスのNA遺伝子のストーク領域のCがGに1塩基置換されてできるNsiI切断部位である、
    エイズワクチン作製用組換え核酸。
  2. 請求項に記載の組換え核酸によってコードされるキメラタンパク質。
  3. 請求項に記載の組換え核酸を含有する発現ベクター。
  4. 請求項に記載の組換え核酸をウイルスゲノムに含有することを特徴とする組換え型ウイルス。
  5. 請求項4に記載のウイルスを含むエイズワクチン。
  6. 不活性化させた請求項5に記載のエイズワクチン。
  7. 請求項2に記載のキメラタンパク質を含むエイズワクチン。
  8. 請求項4に記載のウイルスの表面抗原タンパク質を含むエイズワクチン。
  9. 請求項5〜8のいずれかに記載のエイズワクチンと薬学的に許容できる担体またはアジュバンドとを含むエイズワクチン組成物。
  10. 経鼻接種される、請求項9に記載のエイズワクチン組成物。
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