しかしながら、上記トラクションコントロール装置を、ベルト式無段変速機を搭載した車両に採用した場合、車両の挙動が不安定になることなくトラクションをコントロールできるものの、本来、セカンダリ回転数Nsecで考慮されていた、例えば、ベルトの耐熱限界といった要件が加味されなくなるため、以下のような問題が生じる。
先ず、車両のトラクションTを一定にコントロールする場合、エンジンに要求されるトルク抑制要求値Te(o)は、
Te(o)=T×R×If×i ・・・(1)
T :駆動輪のトラクション
R :タイヤ径
If :デフ減速比
i :無段変速機の変速比
となる。
このため、トラクションTをコントロールするに際には、無段変速機の変速比iを算出する必要がある。無段変速機の変速比iは、本来、図4の変速マップに示す如く、セカンダリ回転数Nsecから演算される車速V3とアクセル開度APOとにより定まる。即ち、アクセル開度APOがAPO=At、車速V3では、変速比iは、i=i3となる。これに対し、駆動輪がスリップする場合には、セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3の代わりに推定車速V2を用いて目標とする変速比iを算出する。
ところが、推定車速V2は、セカンダリ回転数Nsec以外のパラメータを基に算出したものであるため、セカンダリ回転数から算出される車速V3とは必ずしも一致しない。このため、例えば、駆動輪がスリップ中である場合、セカンダリ回転数Nsecから算出される本来の車速V3を基に算出される変速比i3と、この車速V3を推定した推定車速V2に基づく変速比i2とは当然一致せず、例えば、図4に示す如く、本来の車速V3と、推定車速V2とを比較すると、本来の車速V3は、推定車速V2よりも高車速となり、推定車速V2に基づく変速比i2は、本来の車速V3に基づく変速比i3に比べて大きく、低速側の変速比となる。なお、本明細書では、無段変速機の変速比iについて、変速比i=プライマリ回転数Npri/セカンダリ回転数Nsecで表し、この値が小さい側をHIGH側変速比又は高速側変速比と、この値が大きい側をLOW側変速比又は低速側変速比とよぶこととする。
ここで、図5,6はそれぞれ、駆動輪がスリップした場合の各種速度の時系列的変化に示すタイムチャートと、この各種速度に基づき図4の変速マップから算出した変速比の時系列的変化を示すタイムチャートであり、図7は、各種変速比に基づくトラクションコントロールによるプライマリ回転数Npriの時系列的変化を示すタイムチャートである。
図5の破線に示す如く、セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3は、時刻t1にてアクセルペダルが踏み込まれて駆動輪がスリップすると、駆動輪に追従する形で不規則な動き(ハンチング)となる。このため、図4の変速マップを用いて車速V3に基づく変速比i3も、図6の破線に示す如く、ハンチングする。この結果、この変速比i3によってトラクションコントロールを行ったとしても、変速比i3を基に式(1)から演算したトルク抑制要求値Te(o)もハンチングしてしまい、トラクションを一定にコントロールすることが困難となる。
これに対し、図5の一点鎖線に示す如く、推定車速V2は、セカンダリ回転数Nsec以外のパラメータを基に算出されることにより、駆動輪がスリップしてもハンチングしない。このため、推定車速V2に基づく変速比i2も、図6の一点鎖線に示す如く、ハンチングしない。よって、推定車速V2に基づく変速比i2によってトラクションをコントロールすれば、ハンチングすることなく、トラクションを安定させることができる。
一方、無段変速機のベルトには、ベルト自体の使用限界があり、そのベルト使用限界を超えないように変速領域が設定されている。これに対し、推定車速V2に基づく変速比i2で制御した場合、図5に示すように、本来の車速V3は推定車速V2よりも回転差ΔV分だけ高速となるため、図7に示す如く、推定車速V2に基づいて変速比を制御したときの実際のプライマリ回転数Npri(=n2)は、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3に基づいて変速比を制御したときの実際のプライマリ回転数Npri(=n3)よりも高回転となる。
即ち、推定車速V2に基づく見せ掛け上のプライマリ回転数Npriが、ベルトの使用限界回転数Nmaxに制御されていても、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=n3)は、ベルトの使用限界回転数Nmaxを超えてしまい、ベルトの耐久性を低下させるという問題がある。
これについて詳述すると、図8は、ベルトの使用可能領域を加味し、アクセル開度APO毎の変速線を有した変速マップ(変速領域)であり、横軸は変速制御用車速VSP、縦軸はプライマリ回転数Npri(アクセル開度APO)である。この図8に示す如く、ベルトの使用可能領域は、予め実験などで求められたベルト自体の使用限界に基づいて決定され、この変速マップは、この使用限界を超えないように、無段変速機のハードウェア上で制御し得る最も低速側の限界を定める最LOW側限界線LLと、無段変速機のハードウェア上で制御し得る最も高速側の限界を定める最HI側限界線LHと、エンジン回転数の上限値によって規定されるプライマリ回転数限界線LEとが設定されている。
また、図8の変速マップには、変速制御用車速VSPと関連付けられたベルト自体の使用限界回転数Nmaxによって規定された使用限界線Lが設定されており、この使用限界線Lによって車速VsとVLとの間の低速側変速比が規定される。この使用限界線は、変速制御用車速Vsにおいて最LOW側限界線LLと交差し(分岐点B(車速Vs及びプライマリ回転数Ns))、車速VLにおいて最HI側限界線LHと交差している。即ち、本マップによれば、発進時は最LOW側限界線LLの最LOW変速比iLで制御されるが、斜線で示すLOW側のプライマリ回転数Npriが高い領域は、変速制御には用いられない。
図8を参照すると、アクスル開度APO=A1の大きな踏み込み走行において駆動輪のスリップが生じて推定車速V2を用いた場合、無段変速機は、運転状況が点X2となり、推定車速V2に基づき、目標のプライマリ回転数Npri(o)=N2、変速比i2で制御され、見掛け上、プライマリ回転数Npriはプライマリ回転数N2となる。一方、スリップしているセカンダリ回転数Nsecから算出される現実の車速V3は、その推定車速V2よりも高速側の速度であるため、変速比i2で制御したときの実際のプライマリ回転数Npriは、点X2のプライマリ回転数N2となるべきところ、点Y2に示すプライマリ回転数Npri=N3となり、限界線Lを超える状態になる。
これに対し、予めベルトの使用限界に対して余裕をもって変速領域を設定することも考えられるが、この場合には駆動輪スリップしていないときに変速領域が限定されたものとなり、走行性能が低下するという問題がある。
本発明の解決すべき課題は、こうした事実に鑑みてなされたものであり、ベルト式無段変速機の出力要素から算出される車速を用いなくとも、無段変速機に過剰な負荷を与えることなく、車両のトラクションをコントロールすることができる無段変速機のトラクションコントロール装置を提案することにある。
請求項1に記載の発明は、入出力要素にベルトを掛け渡して変速比を無段階に変更可能なベルト式無段変速機を備えた車両であって、前記出力要素から車体の速度である車速を算出する車速算出手段と、前記出力要素以外から車体の速度である車速を推定する車速推定手段と、車両のトラクションコントロールが要求される状態でないときは、当該ベルト式無段変速機に繋がる駆動源の駆動負荷と前記車速算出手段によって算出される車速とを基に変速比を演算して当該変速比となるように変速制御を行う一方、車両のトラクションコントロールが要求される状態であるときは、前記車速推定手段によって推定した推定車速を用い、当該推定車速と前記駆動負荷とを基に変速比を演算して当該変速比となるよう変速制御する変速比制御手段と、演算された前記変速比に基づき前記駆動源を制御して要求されるトラクションを実現するトラクションコントロール手段と、を備えたベルト式無段変速機付車両のトラクションコントロール装置において、トラクションコントロールが要求される状態か否かを判定するトラクションコントロール作動判定手段と、前記トラクションコントロール作動判定手段によってトラクションコントロールが要求される状態であると判定した場合、前記推定車速と前記駆動負荷とに基づき演算した変速比を高速側に補正する変速比補正手段とを備え、当該変速比補正手段は、前記駆動負荷が所定値以上の高負荷であると判定したときに実行し、所定値以下のときには非作動とすることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変速比補正手段は、前記推定車速を所定値だけ高速側に補正し、この高速側に補正した補正推定車速と前記駆動負荷とを基に変速比を演算し、当該変速比を高速側に補正した変速比とすることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、入出力要素にベルトを掛け渡して変速比を無段階に変更可能なベルト式無段変速機を備えた車両であって、前記出力要素から車体の速度である車速を算出する車速算出手段と、前記出力要素以外から車体の速度である車速を推定する車速推定手段と、車両のトラクションコントロールが要求される状態でないときは、当該ベルト式無段変速機に繋がる駆動源の駆動負荷と前記車速算出手段によって算出される車速とを基に変速比を演算して当該変速比となるように変速制御を行う一方、車両のトラクションコントロールが要求される状態であるときは、前記車速推定手段によって推定した推定車速を用い、当該推定車速と前記駆動負荷とを基に変速比を演算して当該変速比となるよう変速制御する変速比制御手段と、演算された前記変速比に基づき前記駆動源を制御して要求されるトラクションを実現するトラクションコントロール手段と、を備えたベルト式無段変速機付車両のトラクションコントロール装置において、トラクションコントロールが要求される状態か否かを判定するトラクションコントロール作動判定手段と、前記トラクションコントロール作動判定手段によってトラクションコントロールが要求される状態であると判定した場合、前記推定車速と前記駆動負荷とに基づき演算した変速比を高速側に補正する変速比補正手段とを備え、当該前記変速比補正手段は、前記推定車速を所定値だけ高速側に補正し、この高速側に補正した補正推定車速と前記駆動負荷とを基に変速比を演算し、当該変速比を高速側に補正した変速比とするものであることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記駆動負荷に係る前記所定値は、車両のトラクションコントロールが要求される状態において、前記推定車速との関係では、前記ベルト式無段変速機の入力要素の回転数が前記ベルトの使用限界回転数を超えないにもかかわらず、前記車速算出手段による車速との関係では、前記ベルト式無段変速機の目標入力回転数がベルトの使用限界回転数を超えてしまう駆動負荷であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、入出力要素にベルトを掛け渡して変速比を無段階に変更可能なベルト式無段変速機を備えた車両であって、前記出力要素から車体の速度である車速を算出する車速算出手段と、前記出力要素以外から車体の速度である車速を推定する車速推定手段と、車両のトラクションコントロールが要求される状態でないときは、当該ベルト式無段変速機に繋がる駆動源の駆動負荷と前記車速算出手段によって算出される車速とを基に、予め設定されている変速マップから変速比を決定して当該変速比となるよう変速制御を行う一方、車両のトラクションコントロールが要求される状態であるときは、前記車速推定手段によって推定した推定車速を用い、当該推定車速と前記駆動負荷とを基に前記変速マップから変速比を決定して当該変速比となるよう変速制御する変速比制御手段と、前記変速比に基づき前記駆動源を制御して要求されるトラクションを実現するトラクションコントロール手段と、を備えたベルト式無段変速機付車両のトラクションコントロール装置において、トラクションコントロールが要求される状態か否かを判定するトラクションコントロール作動判定手段と、前記変速制御手段は、前記トラクションコントロール作動判定手段によってトラクションコントロールが要求される状態と判定した場合、所定車速間における上限の入力要素回転数が前記変速マップよりも小さい値に設定されている変速マップに基づいて変速比を決定し、当該変速比となるように変速制御を行うことを特徴とするものである。
請求項1に記載の発明によれば、トラクションコントロールを実行するにあたって、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダルの踏み込みにより駆動輪が大きくスリップし、トラクションコントロールが要求される場合には、推定車速と駆動負荷とに基づき演算した変速比を高速側に補正することにより、ハンチング等の不規則な動きを起こすことなく車両のトラクションをコントロールすることができるという推定車速に特有な効果を維持しつつ、ベルト式無段変速機の出力要素から算出した車速を用いないでトラクションをコントロールする場合に起こり得る、無段変速機にかかる過剰な負担を軽減することができる。また、請求項1に記載の発明によれば、駆動輪がスリップしないような状態では、ベルト式無段変速機の出力要素から算出した車速を用いてトラクションをコントロールできるため、ベルトの使用限界まで変速比を使うことができ、走行性能が低下することもない。
また、請求項1に記載の発明によれば、駆動負荷が所定値以上では上記変速比補正を行い、当該駆動負荷が所定値未満では推定車速に基づいて制御を行うことで、トラクションコントロールが作動から非作動に切り換わったとき、無段変速機の出力要素から算出される車速と、当該出力要素以外から算出される推定車速との乖離がないため、制御上の車速が切り換わることに起因して変速比の急変などが発生しないなど、フィーリングの悪化を最小限とすることができる。
また、請求項2又は3に記載の発明によれば、時々刻々と変化する実際の車速を随時推定するとともに、この推定車速に所定値だけ加算しているので、トラクションコントロールが作動から非作動に切り換わったとき、無段変速機の出力要素から算出される車速と、当該出力要素以外から算出される推定車速との乖離が最小限となるため、制御上の車速が切り換わることに起因して発生する変速比の急変を最小限とすることができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、駆動負荷が予め設定した所定値以上の高負荷であるか否かを判定するにあたり、当該設定駆動負荷を、推定車速との関係では、ベルト式無段変速機の入力要素の回転数がベルトの使用限界回転数を超えないにも関わらず、ベルト式無段変速機の出力要素の回転数から算出した車速との関係では、当該入力要素の回転数がベルトの使用限界回転数を超える駆動負荷とするから、ベルトの使用限界を超える制御領域を確実に網羅することができる。
請求項5に記載の発明によれば、トラクションコントロールを実行するにあたって、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダルの踏み込みにより駆動輪が大きくスリップし、トラクションコントロールが要求される場合には、トラクションコントロールの要求されない場合の変速マップよりも所定車速間における上限の入力要素回転数が小さい値に設定されている変速マップを切りかえることにより、ハンチング等を起こすことなく車両のトラクションをコントロールできるという推定車速に特有な効果を維持しつつ、ベルト式無段変速機の出力要素から算出した車速を用いないでトラクションをコントロールする場合に起こり得る、無段変速機にかかる過剰な負担を軽減することができる。また、請求項1に記載の発明によれば、駆動輪がスリップしないような状態では、ベルト式無段変速機の出力要素から算出した車速を用いてトラクションをコントロールできるため、ベルトの使用限界まで変速比を使うことができ、走行性能が低下することもない。
以下、図面を参照して、本発明である無段変速機のトラクションコントロール装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の一形態である、ベルト式無段変速機のトラクションコントロール装置の全体構成を示す概略システム図である。
図1において、符号1は、駆動源であるエンジンであり、駆動軸2を介して車両前方に配置されたベルト式無段変速機(以下、「無段変速機」という。)3に繋がる。また、エンジン1は、エンジンコントロールユニット(以下、「ENG-ECU」という。)からの指令により電子制御される。ENG-ECUには、アクセルペダル10の踏み込み/開放を検知するアクセル開度センサ10aからのアクセル開度APOを示す信号 が入力される。ENG-ECUは、例えば、アクセルペダル10の踏み込みに応じたアクセル開度APOがセンサ10aから入力されると、アクセル開度APOに応じた電制スロットル駆動指示D1をエンジン1に指令する。これにより、エンジン1は、センサ10aのアクセル開度APOに応じたENG-ECUからの電制スロットル駆動指示D1により、アクセルペダル10の踏み込みに応じた所望のエンジントルク(駆動負荷)Teを発生させることができる。
ベルト式無段変速機3は、ディファレンシャルギア4に繋がり、このディファレンシャルギア4から左右に伸びたドライブシャフト5a,5bを介して前輪6a,6bに駆動結合される。符号7a,7bはそれぞれ、左右に配した後輪であり、本形態では、従動輪を構成する。
ベルト式無段変速機3は、入力側のプライマリプーリと出力側のセカンダリプーリとの間にベルトを掛け渡し、各プーリ圧を油圧制御することにより所望のプーリ幅を決定し、無段階な変速比iを実現する、所謂、ベルト式無段変速機であり、各プーリ圧を制御するソレノイドバルブ等は、双方向通信の変速機コントロールユニット(以下、「CVT-ECU」という。)からの指令により電子制御される。
CVT-ECUには、アクセル開度センサ10aからのアクセル開度APOを示す信号、既存のプライマリ回転センサ3aからのプライマリ回転数Npriを示す信号、既存のセカンダリ回転センサ3bからのセカンダリ回転数Nsecを示す信号等、車両状態を示す各種パラメータが入力され、後述の如く、セカンダリ回転数Nsecから車速V3を算出し、通常の走行時には、このセカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3及びアクセル開度APOに基づき、例えば、図8に示すような変速マップを参照して、目標のプライマリ回転数Npri(o)を決定すると共に、目標の変速比i(o)を演算する。これにより、CVT-ECUは、車両状態に応じた変速アクチュエータ駆動指示D2を無段変速機3に出力し、無段変速機3の変速比iを、車両状態に応じた目標の変速比i(o)に実現させることができる。
これに対しトラクションコントロールユニット(以下、「TCS-ECU」という。)は、前輪速度センサ8a,8b(図1では左前輪6aについてのみ図示。)からの前輪速度(以下、「駆動輪速度」という。)VWFL,VWFRを示す信号、後輪速度センサ8a,8b(図1では左後輪7aについてのみ図示。)からの後輪速度(以下、「従動輪速度」という。)VWRL,VWRRを示す信号や、CVT-ECUにて演算された変速比iを示す信号等の車両状態を示す各種パラメータが入力される。
TCS-ECUは、駆動輪速度VWFL,VWFRから駆動輪6a,6bのスリップを検出し、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みにより駆動輪6a,6bがスリップしていることが検出されると、セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3に代えて、セカンダリ回転数Nsec以外の駆動輪速度VWFL,VWFR及び従動輪速度VWRL,VWRR等の各種パラメータから車速V3を推定し、この推定車速V2とCVT-ECUから入力された変速比i2とを基に、車両のトラクションTを一定にコントロールすべく、トルク抑制要求値Te(o)を演算する。TCS-ECUで演算されたトルク抑制要求値Te(o)は、ENG-ECUに出力され、推定車速V2は、トラクションコントロール作動信号(TCS信号)と共にCVT-ECUに随時出力される。
これにより、ENG-ECUは、TCS-ECUから入力されたトルク抑制要求値Te(o)を加味した電制スロットル駆動指示D1により、トラクションTが一定になるようにエンジン1を制御し、CVT-ECUは、TCS-ECUからのTCS作動信号ONをトリガーに、推定車速V2とアクセル開度APOとを基にトラクションコントロールに応じた変速比i2となるよう変速アクチュエータ駆動指示D2を行い、無段変速機3を制御する。
ここで、図2のフローチャートを参照して、TCS-ECUの基本動作について更に詳細に説明する。
TCS-ECUは、先ず、電源投入(イグニッションキーON)と同時に、ステップS11にて、駆動輪速度センサ8a,8bからの駆動輪回転周速VWFL,VWFRを示す信号と、従動輪速度センサ9a,9bからの従動輪回転周速VWRL,VWRRを示す信号が入力される。ステップS12では、駆動輪側平均速度VWFと、従動輪側平均速度VWRとを算出する。具体例としては、例えば、左右回転周速VWFL,VWFR(VWRL,VWRR)の加算値を2で割った平均値として求める。
駆動輪側平均速度VWF
=(左駆動輪回転周速VWFL+右駆動輪回転周速VWFR)/2 ・・・(2)
従動輪側平均速度VWR
=(左従動輪回転周速VWRL+右従動輪回転周速VWRR)/2 ・・・(3)
ステップS13では、トラクションコントロールが要求される状態にあるか否かを判断する。具体例としては、所定以上の車輪スリップを検知した場合、トラクションコントロールが要求される状態にあると判断する。即ち、ステップS12で算出した駆動輪側平均速度VWFと従動輪側平均速度VWRとの差を求め、この差が予め設定した所定値ΔVW1以上であるか否かを判断し、所定値ΔVW1以上である場合((VWF+VWR)≧ΔVW1)には、トラクションコントロールが要求される状態にあるとしてステップS14に移行する。
ステップS14では、CVT-ECUにTCS作動信号ONを出力すると共に、推定車速V2として従動輪側平均速度VWRを算出し、ステップS15にて、後述する図3のサブルーチンに従い求めた推定車速V2及び補正推定車速V1を用い、車両のトラクション(グリップ力)Tを一定にコントロールする。即ち、本形態において、前輪速度センサ8a,8b及び後輪速度センサ8a,8bと、ステップS11〜S14を実行するTCS-ECUとが、車速推定手段に相当する。なお、ステップS13にて、トラクションコントロールが要求される状態ではないときはステップS16に移行し、このステップS16にて、CVT-ECUに出力されるTCS作動信号をOFFにする。
図3に示すサブルーチンは、TCS作動信号のON/OFFが入力されるCVT-ECUにて実行される。なお、図3の説明については、図4の変速マップを適宜参照する。
図3において先ず、ステップS1では、TCS-ECUからTCS作動信号ONが入力された否かを判定する。ステップS1にて、TCS作動信号がOFFであれば、トラクションコントロールが要求されない通常の走行状態であるとしてステップS2に移行する。ステップS2では、セカンダリ回転センサ3bからの信号を基に、セカンダリ回転数Nsecから車速V3を算出し、この車速V3を変速制御用車速VSPとして設定する。即ち、本形態において、セカンダリ回転センサ3bとステップS2を実行するCVT-ECUが、車速算出手段に相当する。
ステップS1→S2によれば、トラクションコントロールが要求されない通常の走行状態では、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速(セカンダリ回転数Nsecと同一の回転数の速度を含む。)V3を変速制御用車速VSPとする。これにより、この車速V3と、アクセル開度APOとから目標プライマリ回転数Npri(o)を決定し、この目標プライマリ回転数Npri(o)になるようにベルト式無段変速機3の変速比i3を制御する。
これに対し、ステップS1にて、TCS作動信号がONであれば、トラクションコントロールが要求される走行状態であるとしてステップS3に移行する。即ち、本形態において、TCS-ECU及びステップS1を実行するCVT-ECUが、トラクションコントロールが要求される状態か否かを判定するトラクションコントロール作動判定手段に相当する。なお、TCS-ECU及びCVT-ECUは、一つのコントローラとして共通化してもよい。
ステップS3では、アクセルペダル10の踏み込みを示すアクセル開度APOが予め設定したアクセル開度(以下、「設定アクセル開度」という。)Ao以上の高負荷であるか否かを判定する。具体例としては、図8に示すように、上述の最LOW側限界線LLと使用限界線Lとの分岐点Bに交わるアクセル開度A(Lim)(破線)を基準に、このアクセル開度Ao以上のアクセル開度Ahのうちのいずれかのアクセル開度APOを選択し、当該アクセル開度APOを設定アクセル開度Aoとする。なお、アクセル開度A(Lim)は、タイヤスリップを起こした際に、プライマリ回転数Npriがベルトの使用限界線Lを越えるアクセル開度であり、予め求められているものである。
これに対し、アクセル開度Ao以下のアクセル開度Alでは、そもそも使用限界回転数L近傍に目標プライマリ回転数Npri(o)が設定されることがなく、よって仮にタイヤスリップにより推定車速V2に基づいて変速制御を行っても、目標変速比が比較的高速側変速比となるため、実際のプライマリ回転数Npriがベルトの使用限界線Lを越えることが無い。一方、アクセル開度APOがアクセル開度Ao以上のアクセル開度Ahとなる走行状態では、比較的低速側変速比が目標変速比として設定されるため、従来技術で説明の如く、駆動輪6a,6bにスリップが生じて車両のトラクションコントロールが要求される状態において、車速V3として推定した推定車速V2との関係では、点X2のように目標のプライマリ回転数Npri(o)(=N2)がベルトの使用限界回転数Nmaxを超えないはずにもかかわらず、セカンダリ回転数Nsecから算出される実際の車速V3との関係では、点Y2のようにプライマリ回転数Npri(o)(=N3)がベルトのベルト使用限界線(ベルト使用限界回転数Nmax)Lを超えている場合もあり得る。
従って、ステップS2では、少なくともアクセル開度A(Lim)以上のアクセル開度Ah、最も好ましくは、アクセル開度Ahのうちで最も値が低いアクセル開度A(Lim)を設定アクセル開度Aoとし、アクセルペダル10の踏み込みを示すアクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上であるか否かで高負荷を判定することが好ましい。
なお、設定アクセル開度Aoは、推定車速V2との関係において、推定車速V2に基づく目標のプライマリ回転数Npri(o)(=N2)はベルト使用限界線Lを超えないにもかかわらず、実際のプライマリ回転数Npri(セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3)N3はベルトの使用限界線Lを越えてしまうアクセル開度APOであり、具体的には、Ao=7/8が挙げられる。また、他の使用限界線Lの具体例としては、ベルトの耐熱限界、ベルトを構成する各エレメントを繋ぐベルトリングの応力限界、動力伝達ベルトの各エレメントの芯ずれ限界や無段変速機3の周速限界などによる限界線が挙げられ、車種や車両の使用条件に応じて様々な数値を当てはめることができる。
これにより、ステップS3にて、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷ではないと判定したときは、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みより駆動輪6a,6bがスリップしているとしてステップS4に移行し、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷であると判定したときは、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みより駆動輪6a,6bがスリップしているとしてステップS5に移行する。
ステップS4では、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みより駆動輪6a,6bがスリップしているとして、図2のステップS14にて従動輪7a,7bの回転周速VWFL,VWFRを基に演算した推定車速V2(=VWR)を変速制御用車速VSPとして設定する。即ち、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みよりトラクションコントロールが要求される走行状態では、セカンダリ回転数Nsec以外の各種パラメータから推定した推定車速V2を変速制御用車速VSPとする。これにより、本来の車速V3を推定車速V2に置き換えて、推定車速V2とアクセル開度APOとから目標プライマリ回転数Npri(o)を決定し、この目標プライマリ回転数Npri(o)になるようにベルト式無段変速機3の変速比i2を制御する一方、この変速比i2を基に、式(1)から演算したトルク抑制要求値Te(o)に応じてエンジントルクTeを制御することにより、要求される車両のトラクション(車輪のグリップ力)を一定にコントロールする。
これに対し、ステップS5では、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みより駆動輪6a,6bがスリップしているとして、更に、推定車速V2に所定値αを加算して推定車速V2を補正し、この補正推定車速V1(=V2+α)を変速制御用車速VSPとして設定する。即ち、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みによりトラクションコントロールが要求される走行状態では、推定車速V2に所定値αを加算した補正推定車速V1を変速制御用車速VSPとする。これにより、更に、推定車速V2を補正推定車速V1に置き換えて、補正推定車速V1とアクセル開度APOとから目標プライマリ回転数Npri(o)を決定し、この目標プライマリ回転数Npri(o)になるようにベルト式無段変速機3の変速比i1を制御する一方、この変速比i1を基に、式(1)から演算したトルク抑制要求値Te(o)に応じてエンジントルクTeを制御することにより、要求されるトラクションを一定にコントロールする。
かかる構成によれば、図8に示すように、点X2における目標のプライマリ回転数Npri(o)としてプライマリ回転数N2が決定され目標変速比が変速比i2に制御されるべきところ、実際には、点X1における目標のプライマリ回転数Npri(o)としてプライマリ回転数N1が決定され目標変速比が変速比i1に制御される。この結果、実際のプライマリ回転数Npriは、点Y2におけるプライマリ回転数N3ではなく、点Y1におけるプライマリ回転数N3’となり、ベルト使用限界線Lを下回ることとなる。即ち、本形態において、ステップ3→5を実行するCVT-ECUが、変速比補正手段に相当する。
次に、図5〜7のタイムチャートを参照して、図2,3のフローチャートに従うトラクションコントロールを更に詳細に説明する。
先ず、図2のメインフローチャートにおいて、駆動輪6a,6bがスリップすることなくグリップ力を維持し、トラクションコントロールが要求されない通常の走行状態であると判定された場合、図3のサブルーチンでは、ステップ1→2のフローに従い、セカンダリ回転数Nsecから算出される本来の車速V3を変速制御用車速VSPとし、トラクションコントロール時には採用しない。これは、以下の理由によるからである。
セカンダリ回転数Nsecから算出される本来の車速V3は、図5の破線で示す如く、時刻t1にて雪上路などで駆動輪6a,6bがスリップすると、駆動輪6a,6bに追従する形でハンチングするため、この車速V3に基づく変速比i3も、図6の破線で示す如く、ハンチングする。この結果、変速比i3を基に式(1)から演算したトルク抑制要求値Te(o)でトラクションをコントロールしようとしても、トラクションを一定にコントロールすることが困難となる。従って、本形態においては、トラクションコントロールの不要な場合にのみ、図3のサブルーチンでは、ステップ1→2のフローに従う。
次に、図2のメインフローチャートにおいて、駆動輪6a,6bのスリップによりトラクションコントロールが要求される状態である場合、このスリップが、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao未満の、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みよるものと判定したときは、図3のサブルーチンでは、ステップ1→3→4のフローに従い、セカンダリ回転数Nsec以外のパラメータから算出した推定車速V2を変速制御用車速VSPとする。
上述の如く、推定車速V2は、車速V3を推定したものであるため、図5の一点鎖線で示す如く、時刻t1にて駆動輪6a,6bがスリップしても、ハンチングしない。このため、この推定車速V2に基づく変速比i2も、図6の一点鎖線で示す如く、ハンチングしない。
しかしながら、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷である場合、通常の走行状態として想定したアクセルペダル10の踏み込みより発生する駆動輪スリップよりも大きいため、図7の一点鎖線に示す如く、推定車速V2に基づく見せ掛け上のプライマリ回転数Npri(=N2)が、ベルトの使用限界回転数Nmaxに制御されていても、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=N3)は、ベルトの使用限界回転数Nmaxを超えてしまうことがある。従って、本形態においては、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷であり、通常の走行状態として想定したアクセルペダル8の踏み込みよるスリップでトラクションコントロールが要求される場合には、図3のサブルーチンでは、ステップ1→3→5のフローに従う。
即ち、駆動輪6a,6bのスリップによりトラクションコントロールが要求される状態である場合であって、特に、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みによるものと判定したときは、推定車速V2に所定値αを加算した補正推定車速V1(=V2+α)を変速制御用車速VSPとする。
補正推定車速V1は、図5の実線で示す如く、時刻t1にて駆動輪6a,6bがスリップしても、ハンチングをしないため、この補正推定車速V1に基づく変速比i1も、図6の実線で示す如く、ハンチングしない。しかも、推定車速V2に基づく見せ掛け上のプライマリ回転数Npri(=N2)が、ベルトの使用限界回転数Nmaxに制御されていても、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=n3)は、ベルトの使用限界回転数Nmaxを超えてしまう場合であっても、推定車速V2に所定値αを加算して車速V3を高速側に推定していることにより変速比i1が変速比i2に比べて高速側になるため(小さな値となる)、図7の実線に示す如く、補正推定車速V1に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=n1)は、車速V3に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=n3)がベルト使用限界回転数Nmaxとして制御されてもこの値を超えることがない。従って、本形態においては、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷であって、通常の走行状態として想定しない大きなアクセルペダル10の踏み込みよるスリップでトラクションコントロールが要求される場合に、図3のサブルーチンでは、ステップ1→3→5のフローに従う。
本形態の如く、図3のステップ1→3→5に従い制御すれば、トラクションコントロールを実行するにあたって、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みにより駆動輪6a,6bが大きくスリップし、トラクションコントロールが要求される場合には、推定車速V2とアクセル開度APOとに基づき演算した変速比i2を高速側に補正することにより、ハンチング等を起こすことなく車両のトラクションをコントロールできるという推定車速V2に特有な効果を維持しつつ、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3を用いないでトラクションをコントロールする場合に起こり得る、無段変速機3にかかる過剰な負担を軽減することができる。また、駆動輪6a,6bがスリップしないような状態では、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3を用いてトラクションTをコントロールできるため、ベルトの使用限界まで変速比を使うことができ、走行性能が低下することもない。
加えて、本形態の如く、図3のステップ3において、所定値Ao未満のアクセル開度Alでは推定車速V2に基づいて制御を行うことで、トラクションコントロールが作動から非作動に切り換わったとき、セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3と推定車速V2との乖離がないため、制御上の車速VSPが切り換わることに起因して変速比の急変などが発生しないなど、フィーリングの悪化を最小限とすることができる。
しかも、本形態では、時々刻々と変化する実際の車体速度V3を随時推定するとともに、この推定車速V2に所定値αだけ加算しているので、トラクションコントロールが作動から非作動に切り換わったとき、セカンダリ回転数Nsecから算出される車速V3と、推定車速V2との乖離が最小限となるため、制御上の車速VSPが切り換わることに起因して発生する変速比の急変を最小限とすることができる。
更に、図8を参照すれば、トラクションコントロールを実行するにあたって、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みにより駆動輪6a,6bが大きくスリップする場合、推定車速V2とアクセル開度A1との関係では、点X2に示す如く、変速比i2に基づく目標のプライマリ回転数Npri(o)(=N2)がベルトの使用限界線Lを超えないよう、変速制御を行っているにも関わらず、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3とアクセル開度A1との関係では、点Y2に示す如く、セカンダリ回転数Nsecから車速V3として算出される実際のプライマリ回転数Npri(=N3)がベルト使用限界線Lを超える場合であっても、図3のステップ1→4→5のフローに従うと、車速V3が推定車速V2に所定値αを加算した補正推定車速V1として推定され、アクセル開度A1との関係では、点X1に示す如く、プライマリ回転数Npri(=N1)を目標プライマリ回転数Npri(o)として、ベルトの使用限界回転数Nmaxを超えない変速比i1で変速制御が可能になり、点Y1に示す如く、変速比i1に基づく実際のプライマリ回転数Npri(=N3’)もベルト使用限界線Lを超えないことは明らかである。
従って、本形態では、図3のステップ3において、アクセル開度APOが設定アクセル開度Ao以上の高負荷であるか否かを判定するにあたり、当該設定アクセル開度Aoを、推定車速V2との関係では、目標のプライマリ回転数Npri(o)(=N2)がベルトの使用限界回転数Nmaxを超えないにも関わらず、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3との関係では、実際のプライマリ回転数Npri(=N3)がベルトの使用限界回転数Nmaxを超えるアクセル開度A(≧A(Lim))とする。かかる構成によれば、ベルトの使用限界を超える制御領域を確実に網羅することができる。
次に、本実施形態の変形例について、説明する。例えば、CVT-ECUが変速マップとして図8の変速マップを格納している場合には、図8の変速マップの他に、図9に示す変速マップを高負荷用変速マップとして別途格納しておき、ステップS3において、推定車速V2に所定値αを加算して補正する代わりに、図8の変速マップを図9の高負荷用変速マップに切り替え、このマップの実線で示された変速比i1に変速比を強制的に制御させる。そして、この高負荷用変速マップは、車速Vsから車速VH間のプライマリ回転数の上限回転数が、図に示す変速比i1によって規定されるため、図8のものよりも低回転側に設定されている。言い換えれば、この変速マップに基づいて変速比i1を決定した場合、車速Vsから車速VH間の高アクセル開度領域では、図8に対して高速側変速比を目標とすることになる。
かかる形態の如く、トラクションコントロールを実行するにあたって、通常の走行状態として想定していない大きなアクセルペダル10の踏み込みにより駆動輪6a,6bが大きくスリップし、トラクションコントロールが要求される場合には、図9に示すような高負荷用変速マップを切りかえることにより、ハンチング等を起こすことなく車両のトラクションをコントロールできるという推定車速V2に特有な効果を維持し、セカンダリ回転数Nsecから算出した車速V3を用いないでトラクションをコントロールする場合に起こり得る、無段変速機3にかかる過剰な負担を軽減することができる。(請求項5に対応する効果)なお、本形態に係る図9のマップでは、変速比i1がベルト使用限界線Lに平行にならない設定としているが、車種や使用用途に併せて変速比i1がベルト使用限界線Lに平行となるように設定してもよい。
上述したところは、本発明の好適な形態を示したものであるが、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。例えば、本形態では、従動輪側平均速度VWRをそのまま推定車速V2としたが、駆動輪スリップ時の車速V3を推定できるものであればよく、例えば、車体に別途設けた加速度センサから車体加速度Gを検知し、この車体加速度Gを積分処理して推定車速V2とする等、様々な方法により推定することができる。また、本形態は、車速とアクセル開度APOとを基に、変速制御を実行したが、アクセル開度APOに代えてスロットル開度TVOを使用してもよい。