JP4316992B2 - 乳酸エチル製造方法 - Google Patents

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本発明は、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料からの乳酸エチル製造方法に関するものである。
乳酸エチルとは、一般的に乳酸を精製する際に途中の過程で得られる乳酸エステルの一種である。乳酸エチルは生分解性があり、安全性が高い溶剤として工業的に脱脂剤、レジスト溶剤、剥離剤などに用いられるばかりか、エステル香料として食品添加物にもなっている。さらには農薬、医薬のベース剤、ペイント添加剤へも応用が進んでいる。よって、従来、生分解性、安全性、食品用途、薬品用途の面から、乳酸エチルの製造工程についての技術的な工夫が望まれているところである。
従来、乳酸エチルの発酵工程を主体にした製造方法では、一般的に糖類原料を用いて乳酸発酵を経て得られた乳酸を精製濃縮し95%以上の濃度として、そこに、95%以上の濃度のエタノール、通常は工業用エチルアルコールを混合し、エステル合成を経て乳酸エチルとする(例えば、特許文献1参照)。
特開平8−208565号公報
しかしながら、従来の方法では、たとえ米あるいは澱粉質と糖質を含む農作物を原料にして、糖化処理後に乳酸発酵の原料とするとしても、乳酸エチルを製造するためのもう一方の主原料であるエタノールはその出所が不明であり、最終製品としてのトレーサビリティー(原料追跡調査の可能性)に欠ける。そのために食品、医薬品としての用途は、限定、あるいは難しいことになる。また、乳酸エチルが、生分解性の溶剤として環境に優しいことと安全性をうたいながら、一方で原料の一部に合成エタノール類が用いられることは、その品質と安全性とを確保できないという課題があった。
そこで本発明は、最終製品のトレーサビリティーを明確にしつつ、合成エタノールを原料に用いずに製造することにより、食品、医薬品用途としての品質と安全性とを確保できる乳酸エチルの製造方法を提供することを目的の一つとする。
次に従来の方法では、乳酸発酵においては栄養剤、生育促進剤を添加することが一般的に行われており、酵母エキス、ペプトン、麦芽エキス、アミノ酸類、硫酸アンモニウムなどが用いられている。こうした添加物は、一般的に高価であり、大量入手が難しいものがある。
また、従来、アルコール発酵では、発酵カスの発生が多く、その処理に費用がかかる上、食品リサイクルの面から好ましくない。乳酸発酵においても発酵カスの発生があり、その処理には、多大な費用がかかり、食品リサイクルの面から好ましくない。
そこで本発明は、これらの問題を解決することを他の目的とする。
さらに従来、製造工程各処においては、加熱、保温、温水供給といった熱エネルギーの供給が必要であり、そのための加熱ボイラーの運転費用は多大なものであった。
そこで本発明は、その問題を解決することをさらに他の目的とする。
本発明に係る乳酸エチル製造方法は、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料をアルコール発酵させてアルコール発酵液を得るアルコール発酵工程と、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料を乳酸発酵させて乳酸発酵液を得る乳酸発酵工程と、前記アルコール発酵工程で得られたアルコール発酵液と前記乳酸発酵工程で得られた乳酸発酵液とを反応させて乳酸エチルを製造する乳酸エチル合成工程とを有することを特徴とする。
本発明に係る乳酸エチル製造方法は、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料を糖化処理して処理液を得る糖化処理工程を有し、前記アルコール発酵工程は前記糖化処理工程で得られた処理液の一部をアルコール発酵させ、前記乳酸発酵工程は前記糖化処理工程で得られた処理液の他部を乳酸発酵させることが好ましい。
また、本発明に係る乳酸エチル製造方法では、前記アルコール発酵工程はアルコール発酵液のアルコール濃度を90%以上に濃縮する工程を含むことが好ましい。
また、本発明に係る乳酸エチル製造方法では、前記アルコール発酵工程で発生した発酵カスからアルコールを除去した後、その発酵カスを前記乳酸発酵工程で前記農作物由来原料として用いることが好ましい。
また、本発明に係る乳酸エチル製造方法では、前記乳酸発酵工程は乳酸発酵液の乳酸濃度を90%以上に濃縮する工程を含むことが好ましい。
また、本発明に係る乳酸エチル製造方法は、前記乳酸発酵工程で発生した発酵カスを嫌気性メタン発酵させてメタンガスを得るメタン発酵工程を有することが好ましい。
また、本発明に係る乳酸エチル製造方法では、前記アルコール発酵工程および前記乳酸発酵工程で加熱用ボイラーによる加熱処理を行い、前記メタン発酵工程で得られたメタンガスを前記加熱用ボイラーの補助燃料として用いることが好ましい。
本発明において、農産物由来原料の意味には、農産物原料のほか、農産物原料の加工物を含む。本発明では、農産物由来原料として、澱粉質および糖質を含み、アルコール発酵と乳酸発酵の両方に原料として適する農産物原料を用いることが好適である。そこで農産物原料としてもっとも適切なものは、米である。さらにそのほかの農産物原料としては、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビ、ビート、麦類、雑穀類のような、澱粉質、糖類に富む原料が適している。
以下に、本発明の好適な一形態について説明する。
米あるいは澱粉質と糖質を含む農作物を原料にして、まず細かく砕き、あるいは粉引きし、1mm以下の粉状にする。これを10〜15%の質量比になるように水を加えて攪拌、混合する。そこに有機酸、好ましくは乳酸を添加し、pHを3.0以下好ましくは2.0〜2.5とする。この混合液を100℃以上、好ましくは120℃にて20分以上、好ましくは30分間加熱し、液状にし、室温まで冷ます。
そこにグルコアミラーゼ、β―アミラーゼのような糖化酵素粉末剤を原料の0.1〜0.5%分加えて、さらにpH をアンモニア水あるいは苛性ソーダにて4.5〜6.0にして、液温を50〜60℃、好ましくは60℃にて24時間攪拌、酵素糖化反応をさせる。こうして得た糖化処理後の液を二分割して、一方をアルコール発酵の基質液、もう一方を乳酸発酵の基質液とする。
アルコール発酵においては、糖化処理後の液に乳酸を全質量の0.5%以上、好ましくは1%加え、そこに日本醸造協会の醸造乾燥酵母(例えばK701,K901)を原料の0.03〜0.1%、好ましくは0.05%分加えて、 発酵液温30〜40℃、好ましくは初期6時間を40℃、その後4日間を30〜33℃にて、アルコール発酵させる。こうして得たアルコール発酵液を、ろ過してアルコール発酵カスは別途保存する。アルコール液は蒸留缶方式にて濃縮し、90%以上、好ましくは95%以上の濃度にして、これを乳酸エチル合成の直接原料とする。
アルコール発酵カスは、5倍質量の水を加えた後、殺菌とアルコール除去をかねて、80℃以上120℃以下、好ましくは120℃にて、20分間以上1時間以内、好ましくは30分間、加熱してこれを乳酸発酵の栄養剤にもちいることとする。こうしてアルコール発酵カスは、廃棄をすることなく製造工程の内部で、リサイクル活用することができる。
乳酸発酵においては、糖化処理後の液に100万個/ml以上の乳酸菌(例えばLactobacillus delbrueckii, Lactobacillus amylophilus)を含む菌母液を全質量の0.5%以上、好ましくは1%加える。次に上記の栄養剤を全質量の5〜10%加えて、さらにpH を連続的に監視しつつアンモニア水にて6.5〜7.0に調整し、発酵液温35〜40℃、好ましくは37℃にて、7日間乳酸発酵させる。このように、従来のような多くの添加物を加えることなく、工程内での産出物を循環利用することができる。
こうして得た乳酸発酵液をろ過して、発酵カスは別途保存する。乳酸液は陽イオン交換、あるいは電気透析にて乳酸に変換し、さらに蒸留缶方式にて濃縮し、90%以上、好ましくは95%以上の濃度にして、これを乳酸エチルの直接原料とする。
乳酸エチルの合成では、アルコール発酵の後、濃縮されたエタノールと、乳酸発酵の後、陽イオン交換し濃縮された乳酸とを、等容量、好ましくは20%容量分エタノールを多くして、混合し、そこに反応触媒としてH型の陽イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製、商品名「アンバーライト200C-H」又は、「アンバーライトIR120-H」)を総容量の3%以上、好ましくは5%分加えて、100℃以上140℃以下、好ましくは110℃にて、5時間以上、好ましくは6時間反応させる。反応の間は反応槽をゆっくりと回転、撹拌し、反応槽より蒸発発生する水分を、脱水吸着剤(「モレキュラシーブ5」)によって取り除きつつ、反応を継続させる。合成反応後は濾過により、使用したイオン交換樹脂および不純物を取り除き、通常の蒸留操作を経て、未反応のアルコールと乳酸を留去、精製し、乳酸エチルを得る。
乳酸発酵後の濾過によって発生した乳酸発酵カスは、廃液、排水の処理装置の一部である嫌気性メタン発酵の工程に導入し、そこで発生するメタンガスを、製造工程内で用いる加熱用ボイラーの補助燃料として添加する。これにより、発酵カスの廃棄処理費用の削減ばかりか、加熱用燃料費の低減にもつながり、乳酸エチルの生産コスト削減に寄与することができる。
この乳酸エチルの製造方法によれば、廃棄物はほとんど発生することなく、食品リサイクルを兼ねることができ、かつ経済性の向上に寄与し、効率的な乳酸エチルの生産が可能となる。
本発明によれば、最終製品のトレーサビリティーを明確にしつつ、合成エタノールを原料に用いずに製造することにより、食品、医薬品用途としての品質と安全性とを確保できる乳酸エチルの製造方法を提供することができる。
以下に、実施例により流れ図を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
ただし本発明は実施例によってその技術的な範囲を限定されるものではない。
[各工程の詳細な説明]
アルコール発酵と乳酸発酵の両方に原料として適する農産物原料を選定した。そこでもっとも適切なものとして米が、主な原料として用いられた。さらにそのほかの原料としては、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビ、ビート、麦類、雑穀類を用いてもよい。
米を原料1にして、まず細かく砕き、1mm以下の粉状にした。液化工程2で、これを10〜15%の質量比になるように水を加えて攪拌、混合した。そこに有機酸、好ましくは乳酸を添加し、pHを2.0〜2.5とした。この混合液を120℃にて30分間加熱し、液状にし、室温まで冷ました。こうして液化工程を終えた。
次の糖化工程3で、グルコアミラーゼ、β―アミラーゼのような糖化酵素粉末剤を原料の0.1〜0.5%分加えて、さらにpH をアンモニア水にて4.5〜6.0にして、液温を60℃にて24時間攪拌、酵素糖化反応をさせた。こうして得た糖化処理後の液を二分割して、一方をアルコール発酵の基質液、もう一方を乳酸発酵の基質液とした。
アルコール発酵工程4において、糖化処理後の液に乳酸を全質量の1%加え、そこに日本醸造協会の醸造乾燥酵母(K701,K901)を原料の0.05%分加えて、初期6時間を40℃、その後4日間を30〜33℃の発酵液温にて、アルコール発酵させた。こうして得たアルコール発酵液を、ろ過してアルコール発酵カス5は別途保存した。次のアルコール濃縮工程6では、アルコール液を蒸留缶方式にて濃縮し、95%以上の濃度にして、これを乳酸エチル合成の直接原料とした。
アルコール発酵カスは、5倍質量の水を加えた後、殺菌とアルコール除去をかねて、120℃にて30分間、加熱してこれを乳酸発酵工程の栄養剤にもちいた。
乳酸発酵工程7においては、糖化処理後の液に100万個/ml以上の乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii, Lactobacillus amylophilus)を含む菌母液を全質量の1%分加えた。次に上記の栄養剤を全乳酸発酵基質液量の5〜10%質量加えて、さらにpH を連続的に監視しつつアンモニア水にて6.5〜7.0に調整し、発酵液温37℃にて、7日間乳酸発酵させた。こうして得た乳酸発酵液を、ろ過して発酵カス8は別途保存する。乳酸液は陽イオン交換にて乳酸に変換し、さらに乳酸濃縮工程9では蒸留缶方式にて濃縮し、95%以上の濃度にして、これを乳酸エチル合成の直接原料とした。
乳酸エチル合成工程10では、アルコール発酵の後、濃縮されたエタノールと、乳酸発酵の後、陽イオン交換し濃縮された乳酸とを、20%容量分エタノールを多くして、混合し、そこに反応触媒としてH型の陽イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製、商品名「アンバーライト200C-H」)を総容量の5%分加えて、110℃にて、6時間反応させた。反応の間は反応槽をゆっくりと回転、撹拌し、蒸発発生する水分を、脱水吸着剤(モレキュラシーブ5)によって取り除きつつ、反応を継続させた。合成反応後は濾過により、使用したイオン交換樹脂および不純物を取り除き、通常の蒸留操作を経て、未反応のアルコールと乳酸を留去、精製し、乳酸エチル11を得た。
乳酸発酵後の濾過によって発生した乳酸発酵カス8は、廃液、排水の処理装置の一部である嫌気性メタン発酵工程12に導入し、そこで発生するメタンガス13を、製造工程内で用いる加熱用ボイラーの補助燃料として添加した(ボイラー燃焼補助14)。こうして、発酵カスの廃棄処理費用の削減と加熱用燃料費の低減を図り、乳酸エチルの生産コスト削減が可能であった。
本実施例の方法によって製造された乳酸エチルは、原料が、明らかに米だけに限定され、製品のトレーサビリティーが明瞭であった。このため、本実施例の方法による乳酸エチルは、食品用途、薬品用としては申し分の無い製品となる。さらに製造工程では従来発生し廃棄処理されていた発酵残渣を工程内で活用することから、製造コスト低減、エネルギー対策、食品リサイクルおよび環境配慮の面でも優れた製品になる。
本実施例によれば、米あるいは澱粉質と糖類を含む農産物を主な原料として、2通りの発酵工程、すなわち一方のエタノールをアルコール発酵工程より、またもう一方の直接原料である乳酸は乳酸発酵工程より得て、混合して乳酸エチル合成に用いる。このため、原料のトレーサビリティーは、きわめて明確な製品が生産できる。
アルコール発酵カスを、乳酸発酵の栄養剤として添加するので、カスの廃棄物処理費用を削減するばかりか、乳酸発酵の栄養剤添加費用までも削減し、しかも食品リサイクルにもなる。
また、乳酸発酵カスを、嫌気性メタン発酵に導入するので、カスの廃棄物処理費用を削減するばかりか、発生したメタンガスをボイラーの補助燃料とすることによって、熱エネルギーコストの低減を図り、しかも食品リサイクルにつながる。
したがって本実施例の方法は、乳酸エチルといった生分解性素材の製造に、米を中心とした農産物原料を大量に活用することから、農業の活性化に寄与することができる。また、各発酵工程内において、前工程の廃棄物を有効利用することにより、廃棄物処理といった環境問題の解決に対し自己完結型循環利用の製造方法への道を開く上に、製造コストの削減と食品リサイクルの模範例を示すことにもなる。
本実施例の方法は、生分解性素材の生産工程における経済性の向上のみならず、産業的にも、社会的にも、有益な技術を提供するものである。
本発明の実施例による乳酸エチルの製造方法を示す概念フロー図である。
符号の説明
1 原料
2 液化工程
3 糖化工程
4 アルコール発酵工程
5 アルコール発酵カス
6 アルコール濃縮工程
7 乳酸発酵工程
8 乳酸発酵カス
9 乳酸濃縮工程
10 乳酸エチル合成工程
11 乳酸エチル
12 嫌気性メタン発酵工程
13 メタンガス
14 ボイラー燃焼補助

Claims (1)

  1. 澱粉質および糖質を含む農作物由来原料をアルコール発酵させてアルコール発酵液を得るアルコール発酵工程と、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料を乳酸発酵させて乳酸発酵液を得る乳酸発酵工程と、前記アルコール発酵工程で得られたアルコール発酵液と前記乳酸発酵工程で得られた乳酸発酵液とを反応させて乳酸エチルを製造する乳酸エチル合成工程とを有する乳酸エチル製造方法において、澱粉質および糖質を含む農作物由来原料を糖化処理して処理液を得る糖化処理工程を有し、前記アルコール発酵工程は前記糖化処理工程で得られた処理液の一部をアルコール発酵させ、前記乳酸発酵工程は前記糖化処理工程で得られた処理液の他部を乳酸発酵させることを特徴とする乳酸エチル製造方法
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