JP4310137B2 - 生体音検出データ処理装置、生体音検出データ処理方法及び生体音検出データ処理プログラム - Google Patents

生体音検出データ処理装置、生体音検出データ処理方法及び生体音検出データ処理プログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肺音等の生体音を解析処理するための生体音検出データ処理装置、生体音検出データ処理方法及び生体音検出データ処理プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、肺音に含まれる正常呼吸音(肺胞呼吸音とも言う)を用いて肺の局所換気の簡単且つ確実なモニタリングが行われている。正常呼吸音の振幅を利用した局所換気モニタが実現できれば多くの場合に有用である。
【0003】
このような局所換気モニタを実現するためには、正常呼吸音と、同時に発生する副雑音(異常肺音)とを分別し、正常呼吸音のみを抽出する信号処理方法を確立することが必要であり、特に、振幅の大きい喘鳴等の連続性ラ音の分離が重要である。
【0004】
近時、このような状況の元で、肺音等の生体音から正常音(正常呼吸音)のみを抽出する方法が考案されつつある。例えば、以下に示す非特許文献1には、連続性ラ音のみを抽出する適応フィルタを用いた方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、取得された心音から正常音と異常音とを分別する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平06−90913号公報
【非特許文献1】
鈴木彰文、中山淑、中野博、「適応信号処理による肺音分離」、生体医工学、社団法人日本エム・イー学会、平成14年、第40巻、特別号、p183
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記非特許文献1に記載の方法は、連続性ラ音の周波数変動が極めて少ない特別な場合においては有効であるが、実際の肺音のように、連続性ラ音の周波数に変動が多く不安定な場合には、確実に連続性ラ音を除去するのは困難である。
また、上記特許文献1に記載の技術は、ウィグナー分布を用いて心音から正常音を分別する技術であり、心音(正常音を含む。)の時間波形やスペクトルに特有のものである。このため、時間波形やスペクトルが心音とは異なる肺音の呼吸音に対し当該特許文献1に記載の技術を適用して肺音から正常呼吸音を抽出するのは困難である。
【0008】
本発明の課題は、肺音から容易且つ確実に正常呼吸音が抽出できる生体音検出データ処理装置、生体音検出データ処理方法及び生体音検出データ処理プログラムを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置において、
前記生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出し、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出し、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定し、当該閾値レベルを超えていると判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出し、又、前記閾値レベルを超えてないと判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出し、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別する生体音検出データ処理部を備えたことを特徴とする。
【0010】
更に、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の発明において、
前記生体音検出データ処理部はDSPを具備し、前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、当該DSPを用いて生体音検出データの入力に応じて逐次行うのが好ましい。
【0011】
また、上記課題を解決するため、請求項3に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置において、
前記生体音検出データを格納する生体音検出データ格納部と、
前記生体音検出データ格納部に格納された生体音検出データを読み出し、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出し、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出し、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定し、当該閾値レベルを超えていると判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出し、又、前記閾値レベルを超えてないと判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出し、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別する生体音検出データ処理部と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
更に、請求億4に記載の発明のように、請求億1〜3のうち何れか一項に記載の発明において、
前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであるのが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するため、請求項5に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理方法において、
前記生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出するステップと、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出するステップと、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定するステップと、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出するステップと、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出するステップと、
を含み、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別することを特徴とする。
【0014】
更に、請求項6に記載の発明のように、請求項5に記載の発明において、
前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、該生体音検出データの入力に応じて逐次行うのが好ましい。
【0015】
また、上記課題を解決するため、請求項7に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理方法において、
格納された生体音検出データを読み出すステップと、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出するステップと、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出するステップと、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定するステップと、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出するステップと、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出するステップと、
を含み、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別することを特徴とする。
【0016】
更に、請求項8に記載の発明のように、請求項5〜7のうち何れか一項に記載の発明において、
前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであるのが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決するため、請求項9に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置を制御するコンピュータに、
前記生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出する機能と、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出する機能と、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定する機能と、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出する機能と、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出する機能と、
を実現させる。
【0018】
更に、請求項10に記載の発明のように、請求項9に記載の発明において、
前記コンピュータに、
前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、該生体音検出データの入力に応じて逐次行う機能を更に実現させるのが好ましい。
【0019】
また、上記課題を解決するため、請求項11に記載の発明は、
入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置を制御するコンピュータに、
格納された生体音検出データを読み出す機能と、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出する機能と、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出する機能と、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定する機能と、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出する機能と、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出する機能と、
を実現させる。
【0020】
更に、請求項12に記載の発明のように、請求項9〜11のうち何れか一項に記載の発明において、
前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであるのが好ましい。
【0021】
従って、入力された生体音が正常呼吸音と連続性ラ音とが混在した肺音の際には、振幅スペクトルに対する局所分散値が所定の閾値レベルを超えたか否かが判定されることにより、広帯域でなだらかなスペクトル形状を有する正常呼吸音の振幅スペクトルと、狭帯域で急峻なスペクトル形状を有する連続性ラ音の振幅スペクトルとが、容易且つ確実に分別可能となる。更に、正常呼吸音の振幅スペクトル、連続性ラ音の振幅スペクトルの各々に対して逆FFT処理が施されることにより、肺音の時間波形が正常呼吸音の第1の部分波形と連続性ラ音の第2の部分波形とに分別可能となる。すなわち、肺音から容易且つ確実に正常呼吸音が抽出できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
図面を参照して本発明を適用した生体音検出データ処理装置100について詳細に説明する。
図1に示すように、生体音検出データ処理装置100は、生体音入力部10、生体音検出データ処理部20、生体音検出データ格納部30、表示部40、生体音出力部50等を備えて構成される。
【0023】
生体音入力部10は、図示しないマイク等を備え、肺音等のアナログ形式の生体音信号を取り込んで生体音検出データ処理部20に出力する。
【0024】
生体音検出データ処理部20は、生体音入力部10から入力された肺音を示す生体音信号を、所定のサンプリング周波数f(例えば、以下、f=11.025kHzとする。)でサンプリングし、1ポイント毎のデジタル形式の生体音検出データ(呼吸音検出データともいう。)として取得する。ここで、当該ポイントとは、サンプリング周波数に応じて離散化された時間に対応する。以下、当該ポイントを自然数nによって表し、この生体音検出データを肺音の時間波形X(n)として表現する。
【0025】
生体音検出データ処理部20は、上記生体音検出データに対し以下に説明する生体音検出データ処理を行う。
なお、生体音検出データ処理部20は、DSP(Digital Signal Processor)等を用いて、オンラインで処理するようにしても良いし、また、生体音検出データを生体音検出データ格納部30に一旦格納し、その後、当該格納した生体音検出データをオフラインで処理するようにしても良い。また、生体音検出データ処理部20は、生体音検出データ処理をプログラムを用いて行うようにしても良いし、また、ハードウェアを用いて行うようにしても良い。
【0026】
まず、肺音の時間波形X(n)は、N(Nは自然数。)ポイント毎の生体音検出データに区分(例えば、図2に示す、区分1a、1b、1c等。)され、また、区分1a、1b、1c等のように互いに隣接する区分同士はN/2ポイント間隔に設定される。ここで、例えば区分1a、1b、1cにおける肺音の時間波形X(n)を、それぞれ、時間波形X1a(n)、X1b(n)、X1c(n)等と表現する。
以下、説明簡略化のため、区分1aについて説明する。
【0027】
次に、時間波形X1a(n)は、FFT処理され、振幅スペクトルAMP(m)、位相スペクトルPHASE(m)が算出される。ここで、スペクトル成分mは、整数であり、離散的な周波数を示す。
【0028】
次に、数式1に基づき振幅スペクトルAMP(m)からパワースペクトルPOWER(m)が算出される。
【数1】
Figure 0004310137
【0029】
次に、数式2に基づきパワースペクトルPOWER(m)から局所平均値AVE(m)が算出され、更に、数式3に基づき局所分散値VAR(m)が算出される。
【0030】
【数2】
Figure 0004310137
ここで、Mによって表される値は、予め設定されたパラメータであり、例えば、M=3に設定されているものとする。Mは、パワースペクトルPOWER(m)に対する平均を算出する際(及び、数式3において局所分散を算出する際)に用いる生体音検出データの範囲(すなわち、mの周りの(m−M)以上且つ(m+M)以下の範囲の生体音検出データ。)を定めるパラメータである。
【0031】
【数3】
Figure 0004310137
【0032】
次に、局所分散値VAR(m)と閾値レベルTHとが比較され、局所分散値VAR(m)が閾値レベルTHを超えたか否かが判定され、振幅スペクトルAMP(m)が正常呼吸音に対応するものと連続性ラ音によるものとに分別される。
すなわち、例えば、局所分散値VAR(m)が閾値レベルTHを超えていない場合には、振幅スペクトルAMP(m)は、正常呼吸音に対応するものとして分別され(以下、正常呼吸音の振幅スペクトルAMP(m)を、特に振幅スペクトルAMP1(m)と表現する。)、局所分散値VAR(m)が閾値レベルTHを超えたには、振幅スペクトルAMP(m)は、連続性ラ音に対応するものとして分別される(以下、連続性ラ音の振幅スペクトルAMP(m)を、特に振幅スペクトルAMP2(m)と表現する。)。
【0033】
次に、正常呼吸音の振幅スペクトルAMP1(m)と位相スペクトルPHASE(m)とに基づき区分1aにおける正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)が逆FFT処理により算出され、更に、連続性ラ音の振幅スペクトルAMP2(m)と位相スペクトルPHASE(m)とに基づき区分1aにおける連続性ラ音の第2の部分波形X12a(m)が逆FFT処理により算出される。これにより、区分1aにおける肺音の時間波形X1a(n)が、正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)と連続性ラ音の第2の部分波形X12a(n)とに分別される。
【0034】
更に、上記した処理を区分1aに続く区分1b等に対しても順次実行していき、例えば、区分1bにおいては時間波形X1b(n)が正常呼吸音の部分波形X11b(n)と連続性ラ音の部分波形X12b(m)とに分別される。
【0035】
更に、図3に示すように、区分1aにおける正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)のうち、区分1a中央のN/2ポイント分(N=1024の場合、N/2=512。)をまとめたサブ区分1aの第1の部分波形X11a(n)(N=1024の場合、nは257から768までの整数。)が採用され、更に、区分1aに続く各区分(区分1b等。)に対して、同様の処理が順次行われ、区分1a等の各区分の生体音検出データが時間波形として連続的に結合されて、正常呼吸音の時間波形X1(n)が算出される。
【0036】
また、区分1aにおける連続性ラ音の第2の部分波形X12a(n)のうち、区分1a中央のN/2ポイント分(N=1024の場合、N/2=512。)をまとめたサブ区分1aの第2の部分波形X12a(n)(N=1024の場合、nは257から768までの整数。)が採用され、更に、区分1aに続く各区分(区分1b等。)に対して、同様の処理が順次行われ、区分1a等の各区分の生体音検出データが時間波形として連続的に結合されて、連続性ラ音の時間波形X2(n)が算出される。
このようにして、肺音の時間波形X(n)が、正常呼吸音の時間波形X1(n)と連続性ラ音の時間波形X2(n)とに分別され、表示部40に表示される。
【0037】
次に、正常呼吸音の時間波形X1(n)の実効値が区分1a、1b等の各区分で算出され、肺の局所換気の指標となる呼吸曲線(実効値曲線)が算出され、表示部40に表示される。
また、正常呼吸音の時間波形X1(n)や連続性ラ音の時間波形X2(n)は、アナログ信号に変換され、スピーカ(図示略。)を具備した生体音出力部50から音声として出力される。
【0038】
ここで、閾値レベルTHは、予め操作者(例えば、医師。)等により設定されるようにしても良いが、以下のように、入力された生体音検出データに応じて、その都度、生体音検出データ処理部20により算出されるようにしても良い。
【0039】
すなわち、まず、ポイントm周辺におけるパワースペクトルPOWER(m)の中間値XMED(m)が以下の数式4に基づいてい算出される。
【数4】
Figure 0004310137
ここで、MED(y1、y2、・・・、yn)は、引数y1、・・・、ynの中間値を表す。また、Lの値は、予め設定されたパラメータであり、自然数である。例えば、L=1に設定されているものとする。
【0040】
次に、肺音の強度Pが数式5に基づいて算出される。
【数5】
Figure 0004310137
ここで、Jの値は、予め設定されたパラメータであり、自然数である。例えば、J=48に設定されているものとする。
【0041】
次に、数式6に基づいて閾値レベルTHが算出される。
【数6】
Figure 0004310137
ここで、Ωの値は、予め設定されたパラメータであり、実数である。
【0042】
次に、本実施の形態における生体音検出データ処理装置100を用いた実験結果の一例として、肺音の時間波形X(n)と、生体音検出データ処理装置100により算出された正常呼吸音の時間波形X1(n)と、連続性ラ音の時間波形X2(m)とに基づく各スペクトログラムを、それぞれ、図4(a)、図4(b)、図4(c)に示す。これら図4(a)〜図4(c)においては、何れも、横軸が時間、縦軸が周波数(Hz)である。これら、図4(a)〜図4(c)に示す各スペクトログラムは、表示部40に表示されている。
【0043】
図4(a)に示すように、肺音の時間波形X(n)には、広帯域に分布する正常呼吸音と、周波数帯域が略500Hz〜750Hzの範囲に図中符号A1〜A4に示す連続性ラ音とが含まれている。
【0044】
ここで、図4(b)には、図4(a)に示すスペクトログラムから、図中符号A1〜A4に示す連続性ラ音が除去された後の正常呼吸音に基づくスペクトログラムが明確に示され、図4(c)には、当該除去された連続性ラ音のみに基づくスペクトログラムが明確に示されている。
【0045】
以上説明したように、生体音検出データ処理装置100は、肺音の時間波形X(n)をFFT処理することにより振幅スペクトルAMP(m)、位相スペクトルPHASE(m)及びパワースペクトルPOWER(m)を算出し、当該パワースペクトルPOWER(m)に対して局所分散値VAR(m)を算出し、当該局所分散値VAR(m)が閾値レベルTHを超えたか否かを判定し、当該判定結果に基づいて当該ポイントmにおける振幅スペクトルAMP(m)を、正常呼吸音に対応するものと連続性ラ音に対応するものとに分別する。すなわち、局所分散値VAR(m)が閾値レベルTHを超えていない場合には、当該ポイントmにおける振幅スペクトルAMP(m)を正常呼吸音に対応する振幅スペクトルAMP1(m)とし、超えた場合には、当該ポイントmにおける振幅スペクトルAMP(m)を連続性ラ音に対応する振幅スペクトルAMP2(m)として振幅スペクトルAMP(m)の分別を行う。このように分別した正常呼吸音の振幅スペクトルAMP1(m)、連続性ラ音の振幅スペクトルAMP2(m)に対し、更に、逆FFT処理を施して、それぞれ対応する正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)、連続性ラ音の第2の部分波形X12a(n)を算出する。更に、これら各区分において算出された正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)、連続性ラ音の第2の部分波形X12a(n)等を連結させることにより、肺音の時間波形X(n)を、当該正常呼吸音の時間波形X1(n)と連続性ラ音の時間波形X2(m)とに分別する。
【0046】
従って、振幅スペクトルAMP(m)に対する局所分散値VAR(m)が所定の閾値レベルTHを超えたか否かが判定されることにより、広帯域でなだらかなスペクトル形状を有する正常呼吸音の振幅スペクトルAMP1(m)と、狭帯域で急峻なスペクトル形状を有する連続性ラ音の振幅スペクトルAMP2(m)とが、容易且つ確実に分別可能となる。更に、正常呼吸音の振幅スペクトルAMP1(m)、連続性ラ音の振幅スペクトルAMP2(m)の各々に対して逆FFT処理が施されることにより、肺音の時間波形X(n)が正常呼吸音の第1の部分波形X11a(n)と連続性ラ音の第2の部分波形X12a(m)とに分別可能となる。
すなわち、肺音から容易且つ確実に正常呼吸音が抽出できる。
【0047】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る生体音検出データ処理装置、生体音検出データ処理方法及び生体音検出データ処理プログラムの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における生体音検出データ処理装置100の細部構成および詳細動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0048】
例えば、生体音検出データ処理装置100は、生体音入力部10が備えるマイクを介して取得された肺音等の生体音をアナログ信号に変換する機能を有するとしたが、これに限らず、外部機器から出力されたアナログ信号を入力するようにしても良い。
【0049】
また、上記説明に用いた、サンプリング周波数f、ポイント数N、パラメータM、L、Jの各数値は、何れも一例であり、他の数値であっても良い。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、入力された生体音が正常呼吸音と連続性ラ音とが混在した肺音の際には、振幅スペクトルに対する局所分散値が所定の閾値レベルを超えたか否かが判定されることにより、広帯域でなだらかなスペクトル形状を有する正常呼吸音の振幅スペクトルと、狭帯域で急峻なスペクトル形状を有する連続性ラ音の振幅スペクトルとが、容易且つ確実に分別可能となる。更に、正常呼吸音の振幅スペクトル、連続性ラ音の振幅スペクトルの各々に対して逆FFT処理が施されることにより、肺音の時間波形が正常呼吸音の第1の部分波形と連続性ラ音の第2の部分波形とに分別可能となる。すなわち、肺音から容易且つ確実に正常呼吸音が抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した生体音検出データ処理装置の内部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した生体音検出データ処理装置により生体音検出データ処理される肺音の時間波形X(n)の一例を示す図である。
【図3】本発明を適用した生体音検出データ処理装置により肺音の時間波形から分別される正常呼吸音の時間波形又は連続性ラ音の時間波形を示す図である。
【図4】(a)は、肺音の時間波形に基づくスペクトログラムの一例を示す図であり、(b)は、肺音の時間波形から連続性ラ音が除去された後の正常呼吸音の時間波形に基づくスペクトログラムの一例を示す図であり、(c)は、肺音の時間波形から抽出された連続性ラ音に基づくスペクトログラムの一例を示す図である。
【符号の説明】
100 生体音検出データ処理装置
10 生体音入力部
20 生体音検出データ処理部
30 生体音検出データ格納部
40 表示部
50 生体音出力部

Claims (12)

  1. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置において、
    前記生体音検出データの時間波形をFFT(Fast Fourier Transform)処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出し、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出し、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定し、当該閾値レベルを超えていると判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出し、又、前記閾値レベルを超えてないと判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出し、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別する生体音検出データ処理部を備えたことを特徴とする生体音検出データ処理装置。
  2. 前記生体音検出データ処理部はDSP(Digital Signal Processor)を具備し、前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、当該DSPを用いて生体音検出データの入力に応じて逐次行うことを特徴とする請求項1に記載の生体音検出データ処理装置。
  3. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置において、
    前記生体音検出データを格納する生体音検出データ格納部と、
    前記生体音検出データ格納部に格納された生体音検出データを読み出し、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出し、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出し、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定し、当該閾値レベルを超えていると判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出し、又、前記閾値レベルを超えてないと判定した局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出し、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別する生体音検出データ処理部と、
    を備えたことを特徴とする生体音検出データ処理装置。
  4. 前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載の生体音検出データ処理装置。
  5. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理方法において、
    前記生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出するステップと、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出するステップと、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定するステップと、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出するステップと、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出するステップと、
    を含み、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別することを特徴とする生体音検出データ処理方法。
  6. 前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、該生体音検出データの入力に応じて逐次行うことを特徴とする請求項5に記載の生体音検出データ処理方法。
  7. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理方法において、
    格納された生体音検出データを読み出すステップと、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出するステップと、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出するステップと、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定するステップと、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出するステップと、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出するステップと、
    を含み、前記生体音検出データの時間波形を当該第1及び第2の部分波形に分別することを特徴とする生体音検出データ処理方法。
  8. 前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであることを特徴とする請求項5〜7のうち何れか一項に記載の生体音検出データ処理方法。
  9. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置を制御するコンピュータに、
    前記生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出する機能と、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出する機能と、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定する機能と、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出する機能と、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出する機能と、
    を実現させるための生体音検出データ処理プログラム。
  10. 前記コンピュータに、
    前記生体音検出データを前記第1及び第2の部分波形に分別する処理を、該生体音検出データの入力に応じて逐次行う機能を更に実現させる請求項9に記載の生体音検出データ処理プログラム。
  11. 入力された生体音検出データをデータ処理するための生体音検出データ処理装置を制御するコンピュータに、
    格納された生体音検出データを読み出す機能と、当該読み出した生体音検出データの時間波形をFFT処理して当該時間波形に対応する振幅スペクトル、位相スペクトル及びパワースペクトルを算出する機能と、当該パワースペクトルに対し、各周波数を中心とした所定の周波数領域内で局所分散値を周波数毎に算出する機能と、当該局所分散値が所定閾値レベルを超えたか否かを周波数毎に判定する機能と、当該閾値レベルを超えていると判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第1の部分波形を算出する機能と、前記閾値レベルを超えてないと判定された局所分散値の周波数に対応する前記振幅スペクトルと前記位相スペクトルとに基づき逆FFT処理して第2の部分波形を算出する機能と、
    を実現させるための生体音検出データ処理プログラム。
  12. 前記生体音検出データは、呼吸音を検出した呼吸音検出データであることを特徴とする請求項9〜11のうち何れか一項に記載の生体音検出データ処理プログラム。
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