JP4305793B2 - 保持具付き光伝送媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は保持具付き光伝送媒体の製造方法の改良に関する。さらに詳しくは、本発明は、保持具と光ファイバとが接着剤を介して一体化された光伝送媒体の端面を、接着剤と被接着部材との界面における剥離が発生しにくいように研磨処理して光接続端面を形成させ、長期使用における信頼性の高い保持具付き光伝送媒体を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報伝送路として光ファイバを用いる光通信技術は、低損失光ファイバの出現に伴い、急速かつ飛躍的に発展し、広い分野において浸透しつつある。 この光ファイバにおいては、光ファイバ同士を光接続したり、あるいは光ファイバと、光導光路素子(ここでいう「光導光路素子」は光ファイバを含まない。)、発光素子、受光素子、回折格子、レンズなどの光学素子とを光接続することがよく行われる。なお、本発明でいう「光接続」とは、光学的な接続を意味する。このような光接続においては、例えば複数本の光ファイバによって光を伝送する多心の光伝送媒体同士を光接続する場合には、光伝送媒体それぞれについて、光接続しようとする側における光ファイバ同士の相対的な位置関係が所定の関係となるように、これらの光ファイバそれぞれの一端を予め高精度に位置決め・固定しておくことが望まれる。
【0003】
このような事情から、光接続しようとする側における光ファイバそれぞれの一端を所定の保持具に固定することで当該光ファイバそれぞれの一端を高精度に位置決め・固定した多心の光伝送媒体が開発されている。当該多心の光伝送媒体の代表例としては、光ファイバアレイが挙げられる。
【0004】
また、上記の保持具は、光接続を行う際のガイドあるいはコネクタとしても利用することが可能であることから、光ファイバによって光を伝送する単心の光伝送媒体についても、光接続しようとする側における光ファイバの一端を所定の保持具に固定したものが開発されている。
【0005】
上記の保持具は、シリコン,ガラス,セラミックス等の無機材料や、種々の合成樹脂、あるいは、樹脂と無機材料との複合材料等によって製造されており、当該保持具は、光ファイバの一端を位置決めするための光ファイバ位置決め部を有している。前記の光ファイバ位置決め部としては、所定の形状および大きさを有する貫通孔,溝等が利用されており、溝を利用した光ファイバ位置決め部を有するタイプの保持具は、一般に、前記の光ファイバ位置決め部が形成されている光ファイバ固定用部材と、前記の光ファイバ位置決め部によって一端が位置決めされた光ファイバを前記の光ファイバ固定用部材と協働して挟持するための押さえ部材とを備えている。
【0006】
保持具付き光伝送媒体の製造方法としては、従来以下に示す方法が用いられている。
すなわち、光ファイバ端面を位置決めするための表面に1つまたは複数のV溝を有する光ファイバ固定用部材を用意し、この部材表面および該V溝に接着剤を塗布したのち、V溝上に光ファイバ端部を載置し、押さえ部材で光ファイバ端部を押さえてV溝に嵌入させ、接着剤を完全に硬化させて、光ファイバ端部を固定する。このようにして光ファイバと保持具とを一体化させたのち、その光接続する側の端面を所定の状態に仕上がるように研磨処理することにより、目的の保持具付き光伝送媒体が得られる。なお、上記研磨処理においては、必要に応じ、光伝送媒体の端面は斜めに研磨することができる。
【0007】
しかしながら、このような従来の方法では、研磨処理により光接続端面を形成させる前に接着剤を完全に硬化させているので、接着剤が柔軟性を失っており、その結果、端面研磨処理時に、光伝送媒体に物理的な力が加わり、被接着部材と接着剤との界面において剥離が生じやすく、長期使用における信頼性の高い保持具付き光伝送媒体を得ることが難しいという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の保持具付き光伝送媒体の製造方法が有する問題を解決し、保持具と光ファイバとが接着剤を介して一体化され、かつ接着剤と被接着部材との界面における剥離の発生が抑制され、長期使用における信頼性の高い、光接続端面を有する保持具付き光伝送媒体を効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、光ファイバ保持具に光ファイバ端部を接着剤により固定し、光ファイバの端面と該保持具の端面を研磨処理して保持具付き光伝送媒体を製造するに際し、上記接着剤が完全には硬化せずに弾力性を有する状態で光ファイバおよび光ファイバ保持具の端面を一次研磨処理したのち、この研磨処理された端面近傍の接着剤を少なくとも硬化促進させ、次いで光ファイバおよび光ファイバ保持具の端面に二次研磨処理を施し、さらに場合により、接着剤を完全硬化させることにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、光ファイバ保持具に光ファイバ端部を接着剤により固定し、上記光ファイバの端面と、それと同一側の光ファイバ保持部の端面を研磨処理して光伝送媒体の光接続端面を形成させる保持具付き光伝送媒体の製造方法において、
(A)前記接着剤が完全には硬化せずに弾力性を有する状態において、光ファイバの端面と光ファイバ保持具の端面を研磨処理する一次研磨処理工程、
(B)上記(A)工程において研磨処理された各端面近傍の接着剤を少なくとも硬化促進させる硬化促進工程、
(C)上記(B)工程における硬化促進後、光ファイバの端面と光ファイバ保持具の端面を研磨処理して光伝送媒体の光接続端面に仕上げる二次研磨処理工程、
および場合により、
(D)前記接着剤を完全に硬化させる完全硬化処理工程、
を順次施すことを特徴とする保持具付き光伝送媒体の製造方法を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の保持具付き光伝送媒体の製造方法は、光ファイバ保持具に光ファイバ端部を接着剤により固定し、上記光ファイバの端面と、それと同一側の光ファイバ保持部の端面を研磨処理して光伝送媒体の光接続端面を形成させる方法であって、(A)一次研磨処理工程、(B)硬化促進工程、(C)二次研磨処理工程および場合により施される(D)完全硬化処理工程から構成されている。
【0012】
本発明の方法において用いられる光ファイバ保持具の構造や材質については特に制限はなく、従来保持具付き光伝送媒体において慣用されている光ファイバ保持具を用いることができる。材質としては、例えばシリコン、ガラス、セラミックスなどの無機材料や各種プラスチック、あるいはプラスチックと無機材料との複合材料などが挙げられる。
【0013】
また、光ファイバの種類や材質についても特に制限はなく、従来保持具付き光伝送媒体において慣用されている光ファイバを用いることができる。さらに、端部を固定する光ファイバの本数についても特に制限はなく、1本であってもよいし、2本以上の複数本であってもよい。すなわち、本発明の方法においては、単心の光伝送媒体および多心の光伝送媒体のいずれも製造することができる。
【0014】
さらに、光ファイバの端部を光ファイバ保持具に固定するのに用いられる接着剤としては、紫外線などの活性光の照射により硬化する光硬化型接着剤、加熱によって硬化する熱硬化型接着剤、あるいは活性光の照射および加熱のいずれによっても硬化する光・熱硬化型接着剤を使用することができるが、これらの中で特に光・熱硬化型接着剤が好適である。
【0015】
このような光・熱硬化型接着剤を用いることにより、光ファイバと保持具との相対的な位置関係を所望の関係に保ったまま行うことが必要な仮固定での接着剤の硬化を、比較的短時間での硬化が可能な光照射によって個々の保持具および当該保持具に固定しようとする光ファイバごとに行うことができ、また接着剤の硬化促進は、一次研磨処理してなる複数の光伝送媒体について例えば加熱により一度に行うことが可能になるので、生産性の向上を図ることができる。
【0016】
この光・熱硬化型接着剤は、一般に光重合性や熱重合性プレポリマーを基本成分とし、さらに所望により光重合性や熱重合性モノマー、活性光の照射や加熱により、カチオンまたはラジカルを発生する重合開始剤などを含有するものである。上記プレポリマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系などのラジカル重合型プレポリマー、エポキシ樹脂などのカチオン重合型プレポリマーなどが挙げられ、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合開始剤としては、特に活性光の照射によりカチオンを発生するものと、加熱によりラジカルを発生するものとの組合わせが好適である。このような光・熱硬化型接着剤は、市販品として容易に入手することができる。
【0017】
次に、本発明の保持具付き光伝送媒体の製造方法について、各工程別に説明する。
(A)一次研磨処理工程:
この一次研磨処理工程は、後述の二次研磨処理工程において、光ファイバと保持具との相対的な位置関係が所望の関係からズレないように、光ファイバの端部を接着剤によって前記の保持具に仮固定したのち、光ファイバの端面と、それと同一側の光ファイバ保持具の端面を、研磨処理する工程である。
【0018】
そして、この一次研磨処理は、該接着剤が完全には硬化せずに弾力性を有する状態において実施することが必要である。接着剤が柔軟性を保持している状態で端面研磨処理を行うことにより、この一次研磨処理時の光伝送媒体に加わる応力が低減し、接着剤の剥離が抑制されると共に、耐久性が向上する。
【0019】
この際、接着剤をどの程度硬化させるかは、使用する接着剤の種類や接着強度、被接着部材(保持具および光ファイバ)の材質、一次研磨処理で光ファイバおよび保持具に加えられる力などに応じて、適宜選定される。なお、使用する接着剤について、硬化条件と硬化度との関係を予め把握しておき、所望の硬化度になるように、硬化条件を選ぶのが有利である。
【0020】
この(A)工程における接着剤の硬化は、紫外線などの活性光の照射により行うのが望ましい。また、保持具とそれに仮固定しようとする光ファイバとの相対的な位置関係が、一次研磨処理中に所望の関係からズレるのを防止するために、接着剤が所望の硬化状態になるまで、保持具と該光ファイバとを治具によって締結させておくことが好ましい。
【0021】
この(A)工程においては、このようにして接着剤を所望の硬化状態、すなわち完全には硬化せずに弾力性を有する状態に硬化させたのち、光ファイバの端面と、それと同一側の保持具の端面を一次研磨処理するが、この研磨処理方法としては特に制限はなく、光ファイバおよび保持具の材質に応じ、公知の方法の中から適当な方法を選択して用いることができる。例えば、被研磨部材を治具に取付け、粒度10μm以下の砥粒やガラス研磨機を用いて研磨処理する方法などを採用することができる。なお、接着剤が完全には硬化していないことから、この一次研磨処理において、光ファイバと保持具との相対的な位置関係のズレが生じるのを抑制するために、研磨処理時に光ファイバおよび保持具に加えられる力ができるだけ小さくなるように、研磨手段および研磨条件を選択することが好ましい。
【0022】
この一次研磨処理においては、光伝送媒体(光ファイバおよび保持具が一体化したもの)の端面が、光ファイバ光軸に直角な垂直面に対し、5〜15°の範囲で後方に傾くように研磨処理するのが好ましい。その理由は、光ファイバの端面における反射損失を少なくするためである。上記の角度は光ファイバの屈折率等を考慮して定められるが石英系光ファイバの場合、8°になるようにすると反射損失を少なくすることができる。
【0023】
(B)硬化促進工程:
この硬化促進工程は、前記(A)工程において、一次研磨処理された光ファイバおよび保持具の端面近傍の接着剤を少なくとも硬化促進させる工程である。
この(B)工程においては、続いて行われる(C)工程の二次研磨処理において、光伝送媒体の端面が光接続端面に仕上げられるような硬度にまで硬化促進させることが肝要である。したがって、光ファイバおよび保持体の端面近傍の接着剤を、上記硬度になるまで硬化促進させればよく、接着剤すべてを硬化促進させる必要はない。
この硬化促進工程を省いて、二次研磨処理を行うと、接着剤の硬化が不十分であるため、端面に凹凸が生じ、所望の光接続端面を形成することができない。この(B)工程を施すことにより、二次研磨処理により、光伝送媒体の端面を光接続端面に良好に仕上げることができる。
【0024】
この(B)工程においては、接着剤の硬化促進を加熱により行うことが好ましい。特に、光伝送媒体を端面研磨用治具に取付けた状態のまま、その端面を発熱体に接触させて、接着剤を硬化促進させるのがよい。上記端面研磨用治具には、1ロットで数多くの光伝送媒体の端面を研磨処理するために、通常そのホルダーに複数個の光伝送媒体が装着されており、したがって該光伝送媒体を取外すことなく、その端面を発熱体に接触させて接着剤を硬化させる方法は、生産効率の面からも有利である。
【0025】
この硬化促進処理において、どの程度接着剤を硬化促進させれば、二次研磨処理で光接続端面に仕上げるのに十分な硬度になるかは、使用した接着剤の種類および前記(A)工程での接着剤の硬化状態に応じて異なる。したがって、この硬化促進処理における必要な硬化条件は、予め試験などによって求めておくことが好ましい。
【0026】
(C)二次研磨処理工程:
この二次研磨処理工程は、光伝送媒体の端面を、面精度よく研磨処理して、光接続端面に仕上げる工程である。前記(B)工程において、光伝送媒体の端面近傍の接着剤が十分に硬化しているので、この二次研磨処理により、光接続端面に容易に仕上げることができる。
上記二次研磨処理方法としては特に制限はなく、光ファイバおよび保持具の材質に応じ、公知の方法の中から適宜選択して用いることができる。
【0027】
(D)完全硬化処理工程:
この完全硬化処理工程は、必要に応じ、接着剤を完全に硬化処理する工程である。例えば、前記(B)工程において、接着剤が完全には硬化していない部分が残存する場合には、この(D)工程を施し、該接着剤を完全に硬化させるのが好ましい。
上記完全硬化処理は、一般に加熱により行うことができる。
【0028】
このように、(A)工程、(B)工程、(C)工程および必要に応じ(D)工程を順次施すことにより、保持具と光ファイバとが接着剤を介して一体化され、かつ接着剤の剥離および接着剤層に発生する応力が低減された、光接続端面を有する保持具付き光伝送媒体が効率よく得られる。
本発明の方法により得られた保持具付き光伝送媒体同士、あるいはこの保持具付き光伝送媒体と光学素子を光接続した場合、該光伝送媒体において、接着剤の剥離が低減され、かつ経時的にも接着剤の剥離が生じにくいので、光接続部における光ファイバの軸ズレや角度ズレによる接続損失を抑制することができ、長期使用時の信頼性が高いものになる。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例1
まず、8心のテープファイバの長さ方向における一端側の一次被覆および二次被覆をそれぞれ所定の範囲に亘って除去することにより、8本の光ファイバそれぞれの一端を所定の長さに亘って裸出させた。この8本の光ファイバにおける裸出させた側の端面が光接続端面に相当する。
また、ガラス製の光ファイバ固定用部材とガラス製の押さえ部材とからなる保持具を用意した。
上記の光ファイバ固定用部材は、上面に光ファイバ位置決め部が形成されている光ファイバ固定部と、当該光ファイバ固定部に連接された台座部とを有している。前記の光ファイバ位置決め部は互いに平行な8本の溝からなり、個々の溝の幅方向の断面形状はV字状を呈する(以下、これらの溝をそれぞれ「V溝」という。)。また、前記の台座部は、光ファイバを裸出させた側のテープファイバ端部を被覆部ごと保持する領域であり、当該台座部の上面は前記の光ファイバ位置決め部より一段低い位置に形成されている。
【0031】
一方、上記の押さえ部材は平板からなり、当該押さえ部材の平面視上の形状(押さえ部材をその厚さ方向を望むようにしてみたときの形状)は、光ファイバ固定用部材における光ファイバ固定部の平面視上の形状(光ファイバ位置決め部を見下ろすようにして光ファイバ固定部をみたときの形状)とほぼ同じである。また、当該押さえ部材の正面視上の幅(保持具に組み立てたときにおける光接続側端面からみたときの幅)は、光ファイバ固定部の正面視上の幅(保持具に組み立てたときにおける光接続側端面からみたときの幅)より若干狭い。
【0032】
次に、下記の要領で(A)一次研磨処理工程、(B)硬化促進工程、(C)二次研磨処理工程および(D)完全硬化処理工程を順次施し、保持具付き光伝送媒体を製造した。
【0033】
(A)一次研磨処理工程
図1(a)は、本実施例の一次研磨処理工程におけるテープファイバと保持具とをそれぞれ光接続側端面がわから見たときの状態を示す概略図であり、図1(b)は図1(a)を正面図とした場合の右側面図である。
図1(a)および図1(b)に示すように、上記の光ファイバ固定用部材1における光ファイバ固定部1aの上面(各V溝1cの表面を含む。)および台座部1bの上面にそれぞれ市販のエポキシ系接着剤2を塗布した後、テープファイバ3から裸出させた8本の光ファイバ3aそれぞれの一端を8本のV溝1cのそれぞれに係合させ、その上に押さえ部材4を載せて、当該押さえ部材4と光ファイバ固定用部材1とを治具(図示せず。)によって締結させた。また、台座部1bの上面にはテープファイバ3の端部(光ファイバ3aを裸出させた側の端部)を載せた。
【0034】
この状態で接着剤2に所定波長の紫外線を照射して、当該接着剤2を所望の硬化状態(完全には硬化せずに弾力性を有する状態)にまで硬化させた。これにより、光ファイバ固定用部材1と押さえ部材4とからなる保持具5に8本の光ファイバ3aのそれぞれが仮固定された。
なお、上記の接着剤2は、所定波長の紫外線の照射によって硬化する他、加熱によっても硬化するタイプの接着剤である。当該接着剤2については、使用に先立って、硬化条件と硬化状態との関係を予め実験によって確認しておいた。
【0035】
次に、上記治具を取り外したのち、仮固定された被研磨部材を端面研磨用治具のホルダーに装着し、各光ファイバ3aにおける光接続側端面F1(図1(a)および図1(b)参照)および保持具5における光接続側端面(前記の端面F1側の端面)F2(図1(a)および図1(b)参照)を、ガラス研磨機によって一次研磨処理した。
この研磨処理は、当該研磨処理によって光ファイバおよび保持具それぞれに新たに形成される光接続側端面が実質的に同じ平面上に位置することになるように、かつ、当該新たに形成される光接続側端面のそれぞれが光ファイバ3aの光軸に垂直な平面であって光ファイバ固定部1aの下面における光接続側(前記の光接続側端面F2側)の端を通る平面に対して8°後方に傾くように、行った。
【0036】
(B)硬化促進工程
上記(A)工程で一次研磨処理され、かつ端面研磨用治具に装着されてなる保持具5の光接続側端面F2およびこの保持具5に仮固定されている各光ファイバ3aの光接続側端面F1を、所定の温度に加熱された発熱体に所定時間接触させることにより、各端面近傍の接着剤を硬化促進させた。
【0037】
(C)二次研磨処理工程
上記(B)工程を施したのち、各光ファイバ3aの光接続側端面F1および保持具5の光接続側端面F2を、ガラス研磨機により二次研磨処理して、光接続端面に仕上げた。
【0038】
(D)完全硬化処理工程
上記(C)工程を施したのち、端面研磨用治具に装着された状態で、各光ファイバ3aおよび保持具5を熱処理炉に入れ、所定温度で所定時間熱処理して、前記の接着剤2を実質的に完全に硬化させた。
端面研磨用治具から、光伝送媒体を取り出すことにより、目的とする保持具付き光伝送媒体が得られた。
図2は、このようにして得られた保持具付き光伝送媒体を、図1(b)における見方と同じ見方で見た場合の概略図である。
図2における符号10は上記の保持具付き光伝送媒体を、符号2aは実質的に完全に硬化した接着剤を、符号F10は上記の一次、二次研磨処理工程によって光ファイバ3aに新たに形成された光接続側端面を、符号F11は上記の研磨処理工程によって保持具5に新たに形成された光接続側端面をそれぞれ示している。当該保持具付き光伝送媒体10を構成している部材(接着剤2aを除く。)については、研磨処理工程によって形状が変化したか否かに拘わらず、図1に付した符号と同じ符号を付してある。
【0039】
上記の保持具付き光伝送媒体10における光接続側端面F10,F11は、光ファイバ3aの光軸に垂直な平面であって光ファイバ固定部1aの下面における光接続側の端を通る平面Sに対して8°後方に傾いている。
本実施例で製造した保持具付き光伝送媒体10において保持具5と光ファイバ3aとを互いに固着させている接着剤2a層を光学顕微鏡により50〜500倍の倍率で観察し、前記の接着剤2a層における剥離面積を求めたところ、当該剥離面積は0%であった。
【0040】
なお、上記の「剥離面積」とは、保持具5と当該保持具5に固定されている光ファイバ3aとを平面視したとき、すなわち、光ファイバ固定用部材1aに形成されている光ファイバ位置決め部(8本のV溝1c)をその真上から見下ろすようにして保持具5と当該保持具5に固定されている光ファイバ3aとをみたときの接着剤2a層の面積を分母とし、前記平面視したときの接着剤2a層において剥離を起こしている部分の面積を分子として求めた、剥離を起こしている接着剤2a層の面積の百分率を意味する。
【0041】
比較例1
(A)工程の段階で接着剤を実質的に完全に硬化させ、その後に研磨処理を行い、当該研磨処理の後には何の工程も施さなかった以外は実施例1と同様にして保持具付き光伝送媒体を製造した。この場合、接着剤の使用量は、実施例1と同量にした。
当該保持具付き光伝送媒体について実施例1と同様にして接着剤層における剥離面積を求めたところ、25%であった。
【0042】
・環境試験I
実施例1および比較例1で製造した各保持具付き光伝送媒体を、温度75℃,湿度90%RHに保った環境試験機内に置き、100時間後および500時間後に、実施例1と同様にして接着剤層における剥離面積を求めた。
この結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示した環境試験Iの結果から明らかなように、本発明の方法に基づいて製造した実施例1の保持具付き光伝送媒体においては、製造直後における前記の剥離面積が0%であり、温度75℃,湿度90%RHという高温高湿環境下に100時間置いた後においても、前記の剥離面積は20%と少ない。さらに、前記の高温高湿環境下に500時間置いた後であっても、前記の剥離面積は45%と少ない。
【0045】
これに対し、従来の方法によって製造した比較例1の保持具付き光伝送媒体においては、製造直後における前記の剥離面積が25%と多く、温度75℃,湿度90%RHという高温高湿環境下に100時間置いた後では、前記の剥離面積が40%に達する。さらに、前記の高温高湿環境下に500時間置いた後では、前記の剥離面積が75%と極めて多くなる。
上記の結果から容易に推察されるように、本発明の方法によって保持具付き光伝送媒体を製造することにより、長期使用時の信頼性が高い保持具付き光伝送媒体を得ることが可能になる。
【0046】
・環境試験II
まず、1つの入射ポートから入射した光を分波して8つの出射ポートのそれぞれから出射させることができる1×8分岐の光導波路素子の入射側に市販の光ファイバアレイを光接続し、出射側に実施例1と同条件で作製した保持具付き光伝送媒体を光接続することによって、1×8ビームスプリッターを作製した(以下、このビームスプリッターを「ビームスプリッターA」という。)。同様に、1×8分岐の光導波路素子の入射側に市販の光ファイバアレイを光接続し、出射側に比較例1と同条件で作製した保持具付き光伝送媒体を光接続することによって、1×8ビームスプリッターを作製した(以下、このビームスプリッターを「ビームスプリッターB」という。)。
【0047】
次に、上記のビームスプリッターAおよびビームスプリッターBについて、入射側より所定の光(以下、この光を「試験光」という。)を入射させた際に出射側の8つのポート(光導波路素子の出射ポートに光接続させた8本の光ファイバそれぞれの一端)それぞれから出射する各出射光の強度を測定した(以下、当該各出射光の強度を「初期強度」という。)。
【0048】
この後、ビームスプリッターAおよびビームスプリッターBを温度75℃,湿度90%RHの高温高湿環境下に置き、当該高温高湿環境下に置いてから200時間後,500時間後,1000時間後および2000時間後に、ビームスプリッタAおよびビームスプリッターBそれぞれについて、入射側から前記の試験光を入射させた際に出射側の8つのポートそれぞれから出射する各出射光の強度を測定した(以下、これらの強度をそれぞれのポートにおける「測定強度」という。)。
そして、ビームスプリッタAおよびビームスプリッターBそれぞれについて、上記の出射強度と前記の初期強度との差の絶対値を出射側の8つのポートそれぞれについて求めた(以下、この値を「損失変動量」という。)。この結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示した環境試験IIの結果から明らかなように、本発明の方法に基づいて製造した実施例1の保持具付き光伝送媒体を用いたビームスプリッターAにおいては、当該ビームスプリッターAを温度75℃,湿度90%RHという高温高湿環境下に2000時間置いた後でも、出射側の8つのポートそれぞれにおける損失変動量が0.1dB未満と小さい。
【0051】
これに対し、従来の方法によって製造した比較例1の保持具付き光伝送媒体を用いたビームスプリッターBにおいては、当該ビームスプリッターBを温度75℃,湿度90%RHという高温高湿環境下に500時間置いただけで、出射側の8つのポートそれぞれにおける損失変動量が0.6dBを超え、実質的に故障した。
【0052】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、保持具と光ファイバとが接着剤を介して一体化され、かつ接着剤と被接着部材との界面における剥離の発生が抑制され、長期使用における信頼性の高い、光接続端面を有する保持具付き光伝送媒体を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は、実施例1の一次研磨処理工程におけるテープファイバと保持具とをそれぞれの光接続側端面がわから見たときの状態を示す概略図であり、図1(b)は、図1(a)を正面図とした場合の右側面図である。
【図2】実施例1で製造した保持具付き光伝送媒体を図1(b)における見方と同じ見方で見た場合の概略図である。
【符号の説明】
1 光ファイバ固定用部材
1a 光ファイバ固定部
1b 台座部
1c 光ファイバ位置決め部
2 接着剤
2a 実質的に完全に硬化した接着剤
3 テープファイバ
3a 光ファイバ
4 押さえ部材
5 保持具
10 保持具付き光伝送媒体
Claims (5)
- 光ファイバ保持具に光ファイバ端部を接着剤により固定し、上記光ファイバの端面と、それと同一側の光ファイバ保持部の端面を研磨処理して光伝送媒体の光接続端面を形成させる保持具付き光伝送媒体の製造方法において、
(A)前記接着剤が完全には硬化せずに弾力性を有する状態において、光ファイバの端面と光ファイバ保持具の端面を研磨処理する一次研磨処理工程、
(B)上記(A)工程において研磨処理された各端面近傍の接着剤を少なくとも、続いて行われる(C)工程の二次研磨処理において光伝送媒体の端面が光接続端面に仕上げられるような硬度にまで、硬化促進させる硬化促進工程、
および
(C)上記(B)工程における硬化促進後、光ファイバの端面と光ファイバ保持具の端面を研磨処理して光伝送媒体の光接続端面に仕上げる二次研磨処理工程、
を順次施すことを特徴とする保持具付き光伝送媒体の製造方法。 - (B)工程において、加熱により接着剤を硬化促進させる請求項1に記載の方法。
- 端面研磨用治具に取付けた光伝送媒体の端面を発熱体に接触させることにより、接着剤を硬化促進させる請求項2に記載の方法。
- (A)工程において、光伝送媒体の端面が光ファイバ光軸に直角な垂直面に対し、5〜15°後方に傾くように研磨処理する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
- (C)工程の二次研磨処理工程後に、さらに(D)接着剤を完全に硬化させる完全硬化処理工程を施す請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
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