JP4296016B2 - エピレグリン遺伝子欠損動物およびその利用方法 - Google Patents

エピレグリン遺伝子欠損動物およびその利用方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、染色体上のエピレグリン遺伝子が欠損した非ヒト哺乳動物とその利用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エピレグリン(epiregulin)は、EGFファミリーに属する膜結合型の増殖因子である。エピレグリンは、1995年Toyodaらによってマウス繊維芽細胞由来の癌細胞株(NIH3T3/T7)から単離され(例えば、非特許文献1参照)、その後、ヒトでは胎盤および末梢血monocyteで特異的に強く発現していることが確認された(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
他のEGFファミリーのメンバーと同様に、エピレグリンは膜貫通型ドメインをもつprepro型として合成され、細胞膜表面上にI型膜タンパク質として発現する。例えば、マウス エピレグリンは、162個のアミノ酸からなるprepro型として合成され、N末とC末でプロセシングを受けて46アミノ酸からなる遊離型エピレグリンとして分泌される(例えば、非特許文献3参照)。この遊離型エピレグリンはマウス EGFと37%の相同性を示す。
【0004】
エピレグリンは、その分子内に1個のEGF様ドメインを持ち、このドメインを介して、EGFレセプター(ErbB)を活性化する。エピレグリンのprimaryなレセプターはErbBと予測されており(例えば、非特許文献4参照)、ErbB1、ErbB4ホモダイマーや、種々のヘテロダイマーを含むErbBレセプター全般に対して強力なリガンドとして機能する(例えば、非特許文献5参照)。興味深いことに、エピレグリンはErbBレセプターへの結合能(affinity)がEGFに比べて低いにもかかわらず、EGFよりも強い増殖因子活性を示す。これは、エピレグリンのシグナル伝達が弱いため、レセプターのdown-regulationを起こすことなく持続的なシグナル伝達が可能なためと考えられている(例えば、非特許文献5参照)。なお、EGFファミリーに属するHB-EGFでは、膜結合型は抑制性のシグナルを、放出型は増殖性のシグナルを伝達するとの報告があるが、エピレグリンのシグナル伝達の分子機構についてはほとんど解明されていない。
【0005】
エピレグリンは、ケラチノサイトの増殖に関与することが、培養細胞を用いた系で報告されている(例えば、非特許文献6参照)。また、膵臓腺癌や結腸癌等の癌細胞においてエピレグリンmRNAの増大が認められており、癌の増殖にも関与していることが報告されている(例えば、非特許文献7および8参照)。
【0006】
しかしながら、エピレグリンのシグナル伝達の分子機構や、個体レベルでの機能については未だ明らかにされておらず、皮膚炎、腸炎、自己免疫疾患等との関係についての報告もない。
【0007】
【非特許文献1】
「フェブス レター(FEBS letters)」 1995, 377, p403-407
【非特許文献2】
「バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal)」 1997, 326, p69-75
【非特許文献3】
「フェブス レター(FEBS Letters)」 1995, 377(3), p403-407
【非特許文献4】
「インターナショナル ジャーナル オブ キャンサー(International Journal of Cancer)」 1998, 75, p310-316
【非特許文献5】
「ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」 1998, 273, p10496-10505
【非特許文献6】
「ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」 2000 275, p5748-5753
【非特許文献7】
「バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)」 2000, 14, 273(3), p1019-1024
【非特許文献8】
「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」 2000, 60, p6886-6889
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、エピレグリンの個体レベルでの機能を解明し、これによりエピレグリンが関与する種々の疾患の病態を解明し、その治療手段を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは上記課題を解決するために、エピレグリン遺伝子欠損マウスを樹立した。そして、このマウスを解析した結果、エピレグリン遺伝子欠損マウスの表現型は、アトピー性皮膚炎類似の慢性皮膚炎、抗核抗体の出現に特徴付けられる自己免疫素因、および腸管に認められる好酸球を中心とした炎症性細胞の浸潤、であることを確認した。さらに、感染に対する免疫防御システムなど、生体の種々の免疫機能においてエピレグリンは重要な役割を担っていることが確認された。以上の知見に基づき、発明者らは、エピレグリンは免疫機能異常やそれによって発症する種々の疾患の研究や治療のための分子標的となると考え、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、染色体上のエピレグリン遺伝子の機能が欠損している非ヒト哺乳動物(エピレグリン遺伝子欠損動物)に関する。
前記動物において、エピレグリン遺伝子の機能は、エピレグリン遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入によって欠損させることができる。
例えば、エピレグリン遺伝子のコーディング領域を90%以上欠失させれば、確実にエピレグリン遺伝子の機能を欠損させることができる。
【0011】
本発明のエピレグリン遺伝子欠損動物は、前記エピレグリン遺伝子の機能を染色体上の一方のアレル(ヘテロ)で欠損しているものであっても、両アレル(ホモ)で欠損しているものであってもよいが、両アレル(ホモ)で欠損していることが望ましい。
【0012】
本発明のエピレグリン遺伝子欠損動物は、例えば、以下の工程で作製される。
1)エピレグリン遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入を目的としたターゲッティングベクターを作製する;
2)上記ベクターをES細胞に導入し、該ベクターで相同組換えされたES細胞を得る;
3)上記組換えES細胞を初期胚に導入し、発生させてキメラ動物を得る;
4)上記キメラ動物を野生型動物と交配して得られるF1ヘテロ接合体動物同士を交配し、得られるF2動物またはその子孫から染色体上のエピレグリン遺伝子の機能が欠損している動物を得る。
【0013】
本発明のエピレグリン遺伝子欠損動物としては、特にマウスが好ましい。
本発明のエピレグリン遺伝子欠損動物は、免疫異常疾患のモデル動物として公的に利用できる。そのような免疫異常疾患としては、例えば、アトピー性皮膚炎、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、ならびに、炎症性腸炎および関節炎を含む自己免疫疾患等を挙げることができる。
【0014】
本発明はまた、本発明のエピレグリン遺伝子欠損動物を利用した免疫異常疾患治療薬のスクリーニング方法を提供する。該方法は、被験物質の投与条件下と非投与条件下における動物の表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常疾患治療薬としての効果を評価する。
【0015】
例えば、被験物質の免疫異常疾患治療薬としての効果は、抗核抗体の出現レベル、メザンギウム細胞の増殖レベル、炎症性細胞の出現レベル、IL-6レベル、IL-12レベル、体重、および生存期間から選ばれるいずれか一つまたは二つ以上を指標として評価される。
また免疫異常疾患としては、アトピー性皮膚炎、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、ならびに、炎症性腸炎および関節炎を含む自己免疫疾患を挙げることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.エピレグリン遺伝子欠損動物
本発明は、染色体上のエピレグリン遺伝子の機能が欠損している非ヒト哺乳動物に関する。
【0017】
本発明にかかる「エピレグリン(epiregulin)」とは、EGFファミリーに属する膜結合型の増殖因子で、分子内に存在するEGF様ドメインを介して、ErbBの強力なリガンドとして機能する。EPRは細胞レベルではケラチノサイトの増殖や、癌との関連が示唆されているが、その個体レベルでの機能は不明である。以下、エピレグリンを「EPR」と略記する。
【0018】
本明細書中において、「エピレグリン遺伝子」にはEPRをコードしているゲノムDNAのほか、そのmRNA、cDNAも含むものとする。該EPR遺伝子の塩基配列は、マウス、ラット、ヒト等の哺乳動物において公知であり、その配列はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる(例えば、マウス:GenBank Accession No.D30782、ラット:GenBank Accession No.AB078739、ヒト:GenBank Accession No.D30783等)。また、公共データベースにその配列が登録されていない動物の場合は、常法により、既知のEPR遺伝子との相同性からそのEPR遺伝子をクローニングし、配列を決定することができる。すなわち、当該動物のゲノムDNAライブラリーを作製し、遺伝的に最も近い種に由来する既知のEPR遺伝子、またはその一部をプローブとして該ライブラリーをスクリーニングし、目的とするEPR遺伝子を同定し、配列を決定すればよい。
【0019】
例えば、マウスEPR遺伝子は、5つのエクソンと4つのイントロンを含み、全長162個のアミノ酸からなるEPRタンパクをコードする(Toyoda H., FEBS Lett. 1995, Dec. 27; 377 (3), p403-407)。配列番号1に本発明者が同定した129系マウスのEPRゲノムDNAクローンの塩基配列を示す。また、配列番号2に第2エクソンから第5エクソンまでのcDNAを示す。
【0020】
本発明において、「エピレグリン遺伝子の機能が欠損している」とは、染色体上のEPR遺伝子が破壊され、その機能が正常に発現されないことを意味する。すなわち、EPR遺伝子産物が全く発現されない場合だけでなく、当該遺伝子産物が発現されてもEPRとして正常な機能を有しなければ、「エピレグリン遺伝子の機能が欠損している」ことになる。こうしたEPR遺伝子の破壊は、EPR遺伝子上、またはその転写調節領域やプロモーター領域を含む発現制御領域上の部分配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入等の改変によって生じさせることができる。
【0021】
なお、前記欠失、置換、または挿入を行う部位や、欠失、置換、または挿入される配列は、EPR遺伝子の正常な機能が欠損しうる限り、特に限定されない。しかしながら、EPR遺伝子のコーディング領域の大部分(例えば、50%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)を欠失させるような変異は、確実にEPR遺伝子の機能を損なわせることができる。このEPR遺伝子の機能を欠損させる手法については次項で詳細に説明する。
【0022】
本発明の非ヒト哺乳動物は、前記EPR遺伝子機能の欠損を染色体上のアレルの一方(ヘテロ)に有するものであっても、両方(ホモ)に有するものであってもよいが、両方(ホモ)に有することが望ましい。
【0023】
また、本発明にかかる「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳動物であれば特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ等の齧歯動物が好ましく、特にES細胞が確立し、遺伝子組換えが容易に実施できるマウスが最も好ましい。
【0024】
2.エピレグリン遺伝子欠損動物の作製方法
本発明のEPR遺伝子欠損動物は、ジーンターゲッティング、Cre-loxPシステム、体細胞クローン等の技術を利用することにより作製することができる。
【0025】
2.1 ジーンターゲッティング
ジーンターゲッティングは、相同組換えを利用して染色体上の特定遺伝子に変異を導入する手法である(Capeccchi, M.R. Science, 244, 1288-1292, 1989, Thomas, K.R. & Cpeccchi, M.R. Cell, 44, 419-428, 1986)。
【0026】
1)ターゲティングベクターの構築
まず、EPR遺伝子を欠損させるためのターゲッティングベクターを構築する。ターゲッティングベクターの構築に先立って、使用する動物のゲノムDNAライブラリーを調製する。このゲノムDNAライブラリーは、多型等による組換え頻度の低下が起こらないよう、使用する動物のES細胞、または当該細胞が由来する系統のゲノムDNAから作製したライブラリーを用いる必要がある。そのようなライブラリーとしては市販のもの(例えば、Stratagene社製 129Sv/Jゲノムライブラリー等)を用いてもよい。ゲノムライブラリーは、標的とするEPR cDNAまたはその部分配列をプローブとしてスクリーニングを行い、EPRゲノムDNAをクローニングする。
【0027】
クローニングされたゲノムDNAはシークエンシング、サザンブロッティング、制限酵素消化等を行うことにより、各エクソンの位置を明示した制限酵素地図を作成し、変異導入部位等を決定する。また、ターゲッティングベクターに使用する相同領域の外側には相同組換え体をスクリーニングするためのプローブ(external probe)を設定する。
【0028】
本発明において、染色体上に導入する変異(欠失、置換、または挿入)はEPR遺伝子の正常な機能が損なわれる限り特に限定されない。例えば、欠失または置換される配列は、EPR遺伝子のイントロン領域であってもエクソン領域であっても、あるいはEPR遺伝子の発現制御領域であってもよい。特に、EPR遺伝子のコーディング領域の大部分(例えば、50%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)を欠失させるような変異であれば、確実にEPR遺伝子の機能を欠損させることができる。また、挿入される他の配列も特に限定されず、例えば、以下のような各マーカー遺伝子配列であってもよい。
【0029】
ターゲッティングベクターは、変異導入部位の3'および5'側の相同領域とともに、組み換え体を選択するための適当な選択マーカーを含む。該マーカーとしては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo、pMC1neo等)、βラクタマーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等のポジティブセレクションマーカー、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)、ジフテリア毒素Aフラグメント(DT-A)等のネガティブセレクションマーカー等が挙げられるが、これらに限定されない。また、ベクターは相同領域の外側に、ベクターを直鎖化するための適当な制限酵素切断部位を含む。
【0030】
図2にマウスEPR遺伝子欠損用のターゲッティングベクターの一例を示す。このコンストラクトは、SalI-XhoI消化によって、マウスEPR遺伝子のエクソン2、3、4、および5の一部(マウスEPR遺伝子のコーディング領域の約90%に相当する:配列番号1)が欠失するように構築されている。また、ポジティブセレクションマーカーとしてpGKプロモーターに連結されたネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo)が、ネガティブセレクションマーカーとしてジフテリア毒素Aフラグメント(DT-A)が挿入されている。
こうしたターゲッティングベクターの構築は、市販のプラスミドベクター(例えば、pBluescriptII (Stratagene製)等)を利用して好適に行うことができる。
【0031】
2)ES細胞へのターゲッティングベクターの導入
次に、構築されたターゲティングベクターを胚性幹細胞(ES細胞)等の全能性を有する細胞に導入する。ES細胞は、マウス、ハムスター、ブタ等では細胞株が樹立されており、特にマウスでは、129系マウス由来のK14株、E14株、D3株、AB-1株、J1株や、R1株、TT2株等、複数の細胞株が入手可能である。また、マウスではES細胞に代えて胚性ガン腫細胞(EC細胞)を利用することもできる。
【0032】
ES細胞は、ターゲッティングベクターの導入に先立って、適当な培地で培養しておく。例えば、マウスES細胞であれば、マウス繊維芽細胞等をフィーダー細胞として、これにES細胞用の液体培地(例えば、GIBCO製)を加えて共培養する。
【0033】
ES細胞へのターゲッティングベクターの導入は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム法等、公知の遺伝子導入法により実施することができる。ターゲッティングベクターが導入されたES細胞は、ベクター中に挿入されたマーカーにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した細胞であれば、G418を加えたES細胞用培地で培養することにより、一次セレクションを行うことができる。
【0034】
ターゲッティングベクターが導入されたES細胞では、相同組換えによって、染色体上のEPR遺伝子の一部が該ベクターで置換され、内因性のEPR遺伝子が破壊される。所望の相同組換えがなされたか否かは、サザンブロティングやPCR法等を利用したジェノタイプ解析によって判定できる。サザンブロッティングによるジェノタイプ解析は、変異導入部位の外側に設定したプローブ(external probe)を用いて行うことができる。PCR法によるジェノタイプ解析は、それぞれ野性型と変異型EPR遺伝子の特異的増幅産物を検出することにより実施できる。こうしてターゲッティングベクターが適切に導入されたES細胞は、さらに次の段階に備えて培養しておく。
【0035】
3)キメラ動物の作製
ターゲッティングベクターが導入されたES細胞(組換えES細胞)は、ES細胞が由来する系統とは外見上明らかな相違を有する別な系統由来の初期胚に導入し、キメラ動物として発生させる。例えば、マウスであれば、Albino色の毛色を有する129系由来のES細胞に対しては、黒色の毛色を有し、マーカーとして利用できる各種遺伝子座が129系マウスとは異なっているC57BL/6マウス等の初期胚を用いることが望ましい。これにより、キメラマウスはその毛色によって、キメラ率を判断することができる。
【0036】
ES細胞の初期胚への導入は、マイクロインジェクション法(Hogan, B. et al. "Manipulating the Mouse Embryo" Cold Spring Habor Laboratory Press, 1988)や、アグリゲーション法(Andra, N. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 8424-8428, 1993, Stephen, A.W. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 4582-4585, 1993)等により行うことができる。
【0037】
マイクロインジェクション法は、ES細胞を胚盤胞(ブラストシスト)に直接注入する方法である。すなわち、動物より採取した胚盤胞(ブラストシスト)に、マイクロマニピュレーター等を用いて組換えES細胞を顕微鏡下で直接注入してキメラ胚を作製する。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、所望のキメラ動物を得ることができる。
【0038】
一方、アグリゲーション法では、透明帯を除去した2個の8細胞期の胚の間に、ES細胞の塊を挟み込むように挿入して培養し、凝集させてキメラ胚を得る。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、キメラ動物を得ることができる。
【0039】
4)EPR遺伝子欠損動物の作製
仮親から得られたキメラ動物は、さらに同系の野性型動物と交配する。得られる動物の約半分は、EPR遺伝子欠失染色体をヘテロで有するはずである。各個体のジェノタイプは、毛色等の外見上の特徴で一時判定できるほか、前述したサザンブロッティングやPCR法を利用したジェノタイプ解析によって決定することができる。こうして、ヘテロ型のEPR遺伝子欠損動物が同定されたら、このヘテロ型のEPR遺伝子欠損動物同士を交配して、EPR遺伝子の欠損をホモで有する動物を得ることができる。
【0040】
本発明のEPR遺伝子欠損動物には、上記EPR遺伝子の欠損をヘテロで有する動物と、ホモで有する動物の両方を含むものとする。さらに、上記のようにして作製されたEPR遺伝子欠損動物の子孫も、染色体上のエピレグリン遺伝子の機能が欠損している限り、本発明のEPR遺伝子欠損動物に含まれる。
【0041】
2.2 Cre-loxPシステムの利用
ジーンターゲッティングにバクテリオファージP1由来のCre-loxPシステムを利用して、部位特異的、時期特異的に標的遺伝子を欠損させる方法(Kuhn R. et al., Science, 269, 1427-1429, 1995)もある。loxP(locus of X-ing-over)配列は34塩基対からなるDNA配列でCre(Causes recombination)組換え酵素の認識配列である。遺伝子上の2つのloxP配列はCre蛋白の存在下で特異的組換えを起こす。すなわち、欠損させたい標的遺伝子をloxPで挟んだものに置換し、さらにCre発現ベクターを組み込めば、部位特異的・時期特異的なCre蛋白の産生により、loxPで挟まれた標的遺伝子を欠失させることができる。
【0042】
例えば、前項2.1の1)に準じて欠損させるEPR遺伝子領域の5'側にloxP遺伝子を3'側にloxP遺伝子で挟んだマーカー遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)を組み込んだターゲッティングベクターを作製し、ES細胞に導入する。ES細胞はマーカーによる選択の後、サザンブロッティングあるいはPCR法によるジェノタイプ解析を行って相同組換えを確認する。この相同組換えES細胞に、さらにCre蛋白を特異的プロモーターに連結したCre発現ベクターを導入する。得られたES細胞から、loxP組換えによってマーカー遺伝子のみが欠失し、EPR遺伝子領域は欠失していないES細胞クローンを同定する。このES細胞を前項2.2の3)および4)に準じて動物に導入し、Cre-loxP組換え動物を得る。
【0043】
あるいは、EPR遺伝子両端にloxP遺伝子を組み込んだターゲッティングベクターを導入したloxP導入組換え動物と、Cre発現ベクターを導入したCre発現組換え動物を別個に作製し、両者を交配することによって、Cre-loxP組換え動物を作製してもよい。
こうして得られたCre-loxP組換え動物は、Cre蛋白の発現に応じて、部位特異的、時期特異的にEPR遺伝子を欠損しうる。したがって、特定時期、特定部位におけるEPR遺伝子の機能解析に極めて有用である。
【0044】
2.3 体細胞クローン
ES細胞が利用できない動物の場合、体細胞クローン(I. Wilmut et al, Nature, Vol.385, 810-813, 1997、A. E. Schnieke et al, Science, Vol.278, 2130-2133, 1997)を利用してEPR遺伝子欠損動物を作製することも可能である。体細胞クローンとは、体細胞から取り出した核を、脱核した未受精卵に移植してクローン胚を作製し、このクローン胚を仮親の子宮に移植して発生させたクローンである。この体細胞クローンに遺伝子導入技術を組み合わせれば、所望の組換え動物クローンを得ることができる。すなわち、予めEPR遺伝子を欠損させる組換え操作を行った体細胞から核を取り出し、これを脱核した未受精卵に移植して、クローン胚を作製する。このクローン胚を仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植して、体細胞クローン動物を得れば、この動物はEPR遺伝子の欠損を有することになる。
【0045】
3.エピレグリン遺伝子欠損動物の表現型
本発明のEPR遺伝子欠損動物において、同腹の野生型動物とは異なる表現型が現れた場合、それはEPR遺伝子の欠損に起因することが予測される。例えば、EPR遺伝子欠損マウスでは、以下に示すような種々の変化が認められた。
【0046】
1)抗核抗体の出現
EPR遺伝子欠損マウスの血清中には、高レベルの抗核抗体と、anti-dsDNA抗体が確認された。抗核抗体(antinucler antibody ; ANA)とは、真核細胞の種々の核成分を特異抗原とする自己抗体で、全身性エリテマトーデスなど、種々の自己免疫疾患患者の血清中に出現する。抗核抗体には、対応する特異抗原によって種々のものが同定されているが、疾患特異性の高い抗体も多く、また、抗体価が疾患の病態を反映する場合も多い。そのため、抗核抗体の測定は、自己免疫疾患等の臨床検査として有用性が高い。
抗核抗体は、▲1▼蛍光抗体法、▲2▼ゲル内沈降法、▲3▼RIA、ELISA、PHA等により検査することができる。
【0047】
▲1▼蛍光抗体法:
現在最も広く普及している測定法であり、抗核抗体群のすべてを一括してスクリーニングできるため、一次スクリーニングに適している。本検査で陽性が判明すれば、次の段階として、どの種類の特異的抗核抗体が陽性であるかを、特異抗原を使った検査法で確かめるが、陽性検体における染色パターンによってはある程度まで対応抗原の推定も可能である。一般的には、ヒト末梢血白血球、ラット肝細胞、HEp-2細胞、Wil-2細胞などの核材をスライドグラス上に固定し、稀釈した被験血清を反応させる。洗浄後、蛍光(FITC)標識した抗ヒト免疫グロブリン抗体を反応させ、核成分に結合した抗核抗体の有無を判定する。抗核抗体の抗体価は被験血清が陽性を示す最終希釈倍数で表示する。染色は、核の辺縁部に強い蛍光を認めるperipheral pattern、核全体に均一な蛍光を認めるhomogeneous pattern、核に斑紋状の蛍光が観察されるspeckled pattern等に大別され、これらの染色パターンによって対応する抗原の推定が可能である。
【0048】
▲2▼ゲル内沈降反応:
核から抽出した可溶性抗原と被験血清をオクタロニー法によってアガロースゲル内で反応させ、沈降線の形成によって抗核抗体の有無を判定する。被験血清中中の抗核抗体の種類は、既知の特定抗核抗体を含む血清および被験血清が、核抗原との間に形成するそれぞれの沈降線を比較することによって同定できる。この方法は、蛍光抗体法の陽性検体に対する二次検査として実施されることが多い。
【0049】
▲3▼ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、受身血球凝集反応(PHA):
精製した特異的核抗原を用い、RIA、ELISAまたはPHAにより抗核抗体を検出する。抗原としては、DNA、ヒストン、可溶性核抗原(nRNP、Sm)が用いられ、これらに対応する抗体を特異的、かつ定量的に測定でき、感度が高いことが特徴である。
【0050】
2)アトピー性皮膚炎に類似した慢性皮膚炎の出現
EPR遺伝子欠損マウスでは、SPF(specific pathogen free)環境下においてさえも、その顔面や耳に、アトピー性皮膚炎に類似した慢性皮膚炎が高頻度(75%)で出現した。
上記皮膚炎(特にアトピー性皮膚炎)の症状は、目視観察で容易に評価しうるほか、IgE血症、各種のアレルゲンに対するIgE抗体の存在、好酸球の増加、角化の異常亢進、表皮の肥厚、炎症性細胞の浸潤等の変化によって診断できる。
【0051】
3)メザンギウム増殖性糸球体腎炎の発症
EPR遺伝子欠損マウスでは、conventionalな環境下に加えて、SPF環境下においても、メザンギウム増殖性糸球体腎炎が観察された。
メザンギウム増殖性糸球体腎炎は代表的な慢性糸球体腎炎で、組織学的にはメザンギウム細胞の増殖と器質の増加を主病変とし、臨床的には蛋白尿、血尿が単独またはともに長期にわたって持続する。メザンギウム増殖性糸球体腎炎のうち、メザンギウム領域にIgAが優位に局在する糸球体腎炎をIgA腎症、それ以外のものを非IgA腎症という。IgA腎症は慢性に経過する糸球体腎炎の約半数を占め、日本人に最も多い病気の一つである。メザンギウム増殖性腎炎の症状は、前述のようにメザンギウム領域の病変、すなわちメザンギウム細胞増殖と基質増加や、免疫複合体の沈着等により検査することができる。
【0052】
4)炎症性細胞の浸潤
EPR遺伝子欠損マウスでは、腸管(例えば、大腸の粘膜層)において、好酸球を中心とした炎症性細胞の浸潤が観察された。さらに、胃、十二指腸、小腸にも同様の所見が観察された。その他、関節炎の症状がみられたものもあった。
【0053】
5)感染に対する抵抗力の低下
conventionalな環境下において、EPR遺伝子欠損マウスのうち約20%は極度の発育不良を呈し、2ヶ月程度で死亡した。このことは、EPRが感染に対する免疫防御システムに関与していることを示唆するものである。
【0054】
6)サイトカインレベルの上昇
EPR遺伝子欠損マウスでは、血中IL-12およびIL-6レベルが野生型マウスに比較して有意に高いことが確認された。さらに、EPR遺伝子欠損マウスのマクロファージは、in vitroでのLPS刺激に対するIL-12の放出量が野生型マウスのマクロファージに比較して有意に高いことが確認された。
【0055】
4. EPR遺伝子欠損動物の利用方法
4.1 疾患モデル動物
本発明のEPR遺伝子欠損動物では、EPRの欠損に起因すると考えられる種々の病態が現れた。本発明は、かかる病態モデル動物としてのEPR遺伝子欠損動物を提供する。
【0056】
例えば、本発明のEPR遺伝子欠損動物はSPF環境下においても高率(例えば、EPR遺伝子欠損マウスの場合約75%)にアトピー性皮膚炎に類似する慢性皮膚炎(病理学的には)を呈することから、皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎のモデル動物として利用できる。また、高レベルの抗核抗体の出現は自己免疫疾患に特徴的なものであることから、本発明のEPR遺伝子欠損動物は自己免疫疾患のモデル動物としても利用できる。さらに、IgA腎症を含むメザンギウム増殖性糸球体腎炎のモデル動物としても使用できる。
【0057】
以上の疾患のほか、随処に見られる炎症性細胞の浸潤や、感染に対する抵抗力の低下は、いずれも免疫機能異常に起因すると考えられ、したがって本発明のEPR遺伝子欠損動物はこうした免疫機能異常のモデル動物としても利用しうる。
【0058】
4.2 治療薬のスクリーニング
本発明のEPR遺伝子欠損動物は、上述のとおり、皮膚炎(特に、アトピー性皮膚炎)、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、自己免疫疾患を含む、種々の免疫機能異常により発症する疾患のモデル動物として利用しうる。本発明は、かかるEPR遺伝子欠損動物を利用した免疫異常疾患治療薬のスクリーニング方法も提供する。
【0059】
例えば、被験物質の投与条件下と非投与条件下でEPR遺伝子欠損動物を飼育し、その表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常疾患治療薬としての効果を評価することができる。評価は、例えば、抗核抗体の出現レベル、メザンギウム細胞の増殖レベル、炎症性細胞の出現レベル、IL-6レベル、IL-12レベル、体重、生存期間等を指標として行うことができる。こうした各指標の検査や測定は、3.に記載した方法を含めて、当該技術分野で公知の方法により実施することができる。
【0060】
より具体的には、本発明のEPR遺伝子欠損動物に被験物質を投与することにより、皮膚炎(特にアトピー性皮膚炎)の症状が改善されれば、当該被験物質は皮膚炎(特にアトピー性皮膚炎)の治療薬候補として有用であると判定できる。また、本発明のEPR遺伝子欠損動物に被験物質を投与することにより、抗核抗体レベルが低下すれば、当該被験物質は自己免疫疾患の治療薬候補として有用であると判定できる。
【0061】
同様に、本発明のEPR遺伝子欠損動物に被験物質を投与することにより、メザンギウム細胞の増殖が抑制されれば、当該被験物質はIgA腎症を含むメザンギウム増殖性糸球体腎炎の治療薬候補として有用であると判定できる。その他、腎炎、腸炎等の炎症症状の改善、炎症性細胞の浸潤抑制等、本発明のEPR遺伝子欠損動物にみられるあらゆる免疫異常の改善を指標として、これら免疫機能異常に起因する疾患の治療薬をスクリーニングすることができる。
【0062】
4.3 その他
本発明のEPR遺伝子欠損動物は、個体レベルでのEPRの機能や作用メカニズムの解明に有用である。こうした個体レベルでの機能解明には、恒常的なEPRの発現抑制に加えて、前述したCre-loxPシステム等を利用した、部位特異的、時期特異的EPRの発現抑制が有用である。
【0063】
本発明のEPR遺伝子欠損動物における種々の免疫機能異常から、EPRやEPR遺伝子自体もまた、前記免疫機能異常やそれに伴う疾患の治療に利用可能であることが示唆される。すなわち、EPR遺伝子の発現制御や、EPRまたはEPR遺伝子を含む組成物の投与により、免疫機能異常やそれに伴う疾患を治療することも可能と考えられる。
【0064】
【実施例】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕 エピレグリン(EPR)の発現解析
1.試験方法
(1)ヒトEPRの発現解析
ヒトの種々の組織(脳、心臓、骨格筋、大腸、胸腺、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、肺、末梢血リンパ球)由来のmRNAがブロットされたフィルター(Clontech製)を用いて、ヒトEPR の発現解析を行った。検出は、human EPR cDNA配列(配列番号3)、およびβ-アクチン検出用プローブ(Clontech製)を用いてノザン解析を行った。
同様に、ヒト免疫組織(脾臓、リンパ節、胸腺、末梢血リンパ球、骨髄、胎仔肝)におけるEPRの発現解析を行った。
【0066】
さらに、末梢血リンパ球のsub-population(mononuclear、CD8+、CD4+、CD14+、CD19+)について、その休止状態と活性化状態(PWM、ConA、PHA処理)におけるEPRの発現解析を行った。なお、対照として、各細胞におけるIFN-γ、CD86、G3PDHの発現を確認した。解析には、IFN-γ、G3PDHは市販のプライマー(それぞれTOYOBO製、Clontech製)、CD86は以下の配列を有するプライマーをデザインして用いた。
CD86用プライマー:
Forward primer ; 5'-cagtggacaggcatttgtgac-3'(配列番号4)
Reverse primer; 5'-gaagatggtcatattgctcgt-3'(配列番号5)
【0067】
(2)マウスEPRの発現解析
マウスの種々の組織よりmRNAを調製し、上記(1)と同様にして、mouse EPR cDNA配列(配列番号6)をプローブとして、ノザン解析を行った。
【0068】
2.試験結果
(1)ヒトEPRの発現解析結果
ヒトにおいては、従来報告されているように末梢血リンパ球(PBL)においてEPRの発現が確認された(図1a)。免疫組織においては、脾臓、リンパ節、胸腺、骨髄にはほとんど発現が確認されず、末梢血リンパ球にのみ特異的な発現が確認された(図1b)。末梢血リンパ球のsub-populationにおいては、EPRは休止状態にあるCD14+ (monocyte系)細胞特異的に発現する分子であることが判明した(図2c)。
【0069】
(2)マウスEPRの発現解析結果
マウスにおいても、従来報告されているように末梢血単球、および腹腔マクロファージにおいてEPRの発現が確認された。また、cRNA in situ hybridizationにより、表皮のごく一部の細胞においても明らかな発現が確認されたが、それはケラチノサイトではなく、おそらくランゲルハンス細胞と思われた。
【0070】
〔実施例2〕エピレグリン(EPR)遺伝子欠損マウスの作製
1.試験方法
ジーンターゲッティングにより、以下のようにしてエピレグリン遺伝子欠損マウスを作製した。まず、129SV/Jマウスのゲノムライブラリー(Stratagene製)を、前述のmouse EPR cDNA配列(配列番号6)をプローブとしてスクリーニングを行い、マウスEPRゲノムクローンを複数個同定した。得られたクローンよりマップを作製し、EPRのコーディング領域をほぼ全て欠損し、そこに選択マーカー遺伝子を挿入したターゲッティングベクターを構築した(図2a)。すなわち、マウスEPRゲノムDNAをSalI-XhoIで消化し、約6.5kbのフラグメント(EPRのエクソン2、3、4およびエクソン5の一部が含まれる)を切り出した後、ポジティブセレクションマーカーとしてpGKプロモーターに連結したネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo)を挿入した。さらに、相同領域の外側にネガティブセレクションマーカーとしてジフテリア毒素フラグメントA遺伝子(DTA)を挿入した。
【0071】
配列番号1に上記129SV/JマウスEPRゲノムDNAクローンの塩基配列を示す。配列番号1中、3575番目〜3580番目の塩基配列:GTCGACがSalI-siteに、同9541番目〜9546番目の塩基配列:CTCGACがXhoI-siteに該当する。また、配列番号2に上記SalI-XhoIフラグメントのcDNA配列(第2エクソン〜第5エクソン)を示す。これにより、全長162アミノ酸をコードするマウスEPR遺伝子のうち、C末からEGF様ドメインを含む146個のアミノ酸(EPRタンパクの約90%)が欠損することになる。
【0072】
調製したターゲッティングコンストラクトはエレクトロポレーションにより129系マウス由来のES細胞(K14株:九州大学生体防御医学研究所 中山敬一教授より供与を受けた)に導入し、マウス繊維芽細胞をフィーダー細胞とするG418を含むES細胞用培地(GIBCO製)で選抜した。選抜されたES細胞は、さらに培養した後、相同組換え体を同定するために、常法に従ってDNA抽出を行った。抽出されたDNAは、前述のサザン解析によりGenotypeスクリーニングを行った。サザン解析は、DNAをKpnIで消化後、標識したexternal probe(図2aのext:配列番号7)を用いて行った。このexternal probeは、ターゲッティングベクターに用いる相同領域の外側に位置するEcoRI fragmentとして設定されている。サザン解析により、野性型アレルからは7.2kb、変異アレルからは6.6kbのバンドが検出された(図2b)。
【0073】
相同組換えが確認されたES細胞は、常法に従いC57B6/Jマウスから摘出したブラストシストに注入してキメラ胚を作製した。キメラ胚は、仮親である偽妊娠ICRマウスの子宮角に移植してキメラマウスを樹立した。次いで、得られたキメラマウスの雄をさらに別の野性型C57B6/Jマウスの雌と交配してF1マウスを得た。
【0074】
さらに、F1マウスからEPR遺伝子欠損を有するマウス(EPR遺伝子欠損をヘテロで有する:ヘテロマウス)を選別し、このヘテロマウス同士を交配してEPR遺伝子欠損をホモで有するマウスを樹立した。
【0075】
なお、各マウスのGenotypingは、マウス尾部より常法に従って抽出したDNAを用いて、PCR法によりターゲッティングベクターに挿入したネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo:約600bp)、および6.5kbの欠損領域上の部分断片(mmGF:約660bp)の増幅断片を検出することにより行った。PCR条件、および用いたプライマーは以下のとおりである。
pGK-neo増幅用プライマー:
Forward primer: 5'-ggagaggctattcggctatg-3'(配列番号8)
Reverse primer: 5'-gctcttcagcaatatcacgg-3'(配列番号9)
mmGF増幅用プライマー:
Forward primer: 5'-ttcagatggaagacgatccc-3'(配列番号10)
Reverse primer: 5'-catctgcagaaatagtatatgc-3'(配列番号11)
【0076】
【表1】
Figure 0004296016
【0077】
〔実施例3〕 エピレグリン(EPR)遺伝子欠損マウスにおける表現型の変化
実施例2にしたがって作製したEPR遺伝子欠損マウスをconventionalな条件下(N>200)とSPR(specific pathogen free)環境下(N>60)で飼育し、その表現型の変化を観察した。
【0078】
(1)抗核抗体の出現
EPR遺伝子欠損マウスの血清を採取し、蛍光抗体法(FANA法)により抗核抗体の出現を確認した。EPR遺伝子欠損マウスでは、生後4ヶ月までに約12%、生後4ヶ月以上で約75%にhomogeneous type、peripheral typeを中心とした抗核抗体が検出された(図3、図13)。さらに、ELISAにより特異抗原を使った検査を実施したところ、これらの中にはanti-dsDNA抗体が存在するものもあることが確認された。このanti-dsDNA抗体の存在は自己免疫素因を示す現象である。
【0079】
(2)アトピー性皮膚炎に類似した慢性皮膚炎の出現
SPF(specific pathogen free)環境下において、EPR遺伝子欠損マウスでは、その顔面部、耳を中心とした皮膚炎が、早いものは生後約5ヶ月で出現し、生後12ヶ月では約50%に、最終的には約75%に出現した(図4)。その病理像は、角化の亢進、表皮の肥厚、皮下の炎症性細胞の浸潤に特徴付けられた(図5)。さらに、炎症性細胞はトルイジンブルー染色(図6)、およびルナ染色(図7)により、それぞれ肥満細胞、および好酸球であることが確認された。この病理像はアトピー性皮膚炎に類似するものである。
【0080】
(3)conventionalな環境における成長および生存
conventionalな環境下において、EPR遺伝子欠損マウスのうち約20%は極度の発育不良を呈し(図8)、2ヶ月程度で死亡した。この原因は不明であるが、感染等の環境要因が引き金なっていることが予測された。このことは、EPRが感染に対する免疫システムに関与していることを示唆するものである。
【0081】
(4)メザンギウム増殖性糸球体腎炎の発症
conventionalな環境下で飼育したEPR遺伝子欠損マウスでは、解析した10例中全てにメザンギウム細胞の増殖が観察された。SPF環境下においてさえも、数は少ないものの(20例中2例)、メザンギウム増殖性糸球体腎炎が観察された(図9)。
【0082】
(5)炎症性細胞の浸潤
EPR遺伝子欠損マウスでは、腸管における好酸球を中心とした炎症性細胞の浸潤が観察された。例えば、大腸の粘膜層に好酸球が認められた(図10)。さらに、胃、十二指腸、小腸にも同様の所見が観察された。
【0083】
(6)サイトカインレベルの上昇
血中サイトカインレベルを経時的に測定したところ、EPR遺伝子欠損マウスでは皮膚炎等の症状出現前からIL-12のレベルが野生型マウスに比較して有意に高いことが確認された(図11a)。また、症状が出現したEPR遺伝子欠損マウスでは、IL-6のレベルが野生型マウスに比較して有意に高くなることが確認された(図11b)。
さらに、腹腔マクロファージを取り出し、in vitroにおけるLPS刺激に対するサイトカイン放出量を測定した。その結果、EPR遺伝子欠損マウスのマクロファージ(epr-/-)ではIL-12の放出量が野生型マウスのマクロファージ(epr+/+)に比較して有意に高いことが確認された(図12)。
【0084】
以上のとおり、EPR遺伝子欠損マウスでは、免疫機能異常に起因すると思われる種々の表現型の変化が認められた。これらの事実は、EPRはアトピー性皮膚炎、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、自己免疫疾患等の免疫異常疾患発症に関与し、これら疾患を治療するための分子標的となりうることを示唆するものである。
【0085】
【発明の効果】
本発明により、エピレグリン遺伝子の機能が欠損した動物が提供される。この動物は免疫機能異常に起因する種々の疾患症状を呈し、したがってかかる疾患の病態解明や治療手段の研究に有用である。
【0086】
【配列表】
Figure 0004296016
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【0087】
【配列表フリーテキスト】
Figure 0004296016

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ノザン法によるヒト EPR mRNAの発現解析結果を示す。1aは種々の組織における発現解析結果、1bは免疫組織における発現解析結果、1cは末梢血リンパ球のsub-populationにおける発現解析結果を示す。
【図2】図2は、EPR遺伝子欠損用ターゲッティングベクターとジェノタイプスクリーニングの結果を示す。2aはターゲッティングコンストラクトを、2bはサザンブロットによるジェノタイプ解析結果を、2cはPCR法によるジェノタイプ解析結果を示す。
【図3】図3は、EPR遺伝子欠損マウスにおける抗核抗体検出結果を示す。
【図4】図4は、EPR遺伝子欠損マウス顔面の皮膚炎を示す写真である。
【図5】図5は、EPR遺伝子欠損マウス(右)と野性型マウス(左)の顔面皮膚を比較した写真である。EPR遺伝子欠損マウスは慢性皮膚炎症状を呈している。
【図6】図6は、EPR遺伝子欠損マウス(右)と野性型マウス(左)のトルイジンブルー染色の結果を比較した写真である。写真で青く染色されて見えるのは肥満細胞である。
【図7】図7は、EPR遺伝子欠損マウス(右)と野性型マウス(左)のルナ染色の結果を比較した写真である。写真で赤く染色されて見えるのは好酸球である。
【図8】図8は、Conventionalな環境で飼育したEPR欠損マウス(生後5週齢)を示す写真である。
【図9】図9は、EPR遺伝子欠損マウス(右)と野性型マウス(左)のメザンギウム領域を比較した写真である。
【図10】図10は、EPR遺伝子欠損マウスの大腸粘膜層における好酸球の浸潤を示す写真である。
【図11】図11は、EPR遺伝子欠損マウス(●:KO)と野性型マウス(○:WT)の血中IL-6(a)およびIL-12(b)レベルを経時的に比較したグラフである。
【図12】図12は、EPR遺伝子欠損マウス(右:KO)と野性型マウス(左:WT)由来マクロファージの、in vitroでのLPS刺激に対するIL-12放出量を比較したグラフである。
【図13】図13は、皮膚炎が出現したEPR遺伝子欠損マウス(pheno)と皮膚炎が出現していないEPR遺伝子欠損マウス(NORMAL)の抗核抗体検出結果を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 染色体上のエピレグリン遺伝子の機能が欠損している非ヒト哺乳動物を用いて、被験物質の投与条件下と非投与条件下における該動物の表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常疾患治療薬としての効果を評価する方法。
  2. 非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項1に記載の方法。
  3. 被験物質の免疫異常疾患治療薬としての効果が、抗核抗体の出現レベル、メザンギウム細胞の増殖レベル、炎症性細胞の出現レベル、IL-6レベル、IL-12レベル、体重、および生存期間から選ばれるいずれか一つまたは二つ以上を指標として評価される、請求項1または2に記載の方法。
  4. 免疫異常疾患が、アトピー性皮膚炎、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、ならびに、炎症性腸炎および関節炎を含む自己免疫疾患から選ばれるいずれか一つまたは二つ以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
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