以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。図1は適合作業の対象となる内燃機関及び当該適合作業に用いられる計測装置を示している。
図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面上には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15に連結される。吸気管15内にはステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結される。また、吸気弁6には吸気弁6の開閉弁特性、すなわち開閉弁する位相角及び作用角を変更するための可変動弁機構20が取付けられている。
一般に、図1に示したような内燃機関の制御は、内燃機関の運転中に変化するトルク、排気エミッション及び燃費等についての要求条件を満たすように、すなわち実際のトルク、排気エミッション及び燃費等が目標トルク、目標排気エミッション及び目標燃費等となるように、内燃機関の運転状態に影響を与える制御可能なパラメータ(すなわち、制御パラメータ)の値を変化させることによって行われる。
このような制御パラメータには、そのときの内燃機関に対する要求に応じて、例えば、機関負荷及び機関回転数により定まる運転状態毎に最適な値が存在する。例えば、点火プラグ10による点火時期については、内燃機関のトルク、燃費や失火等を考慮すると、一般に、トルクが最も大きくなるような最小進角時期、いわゆるMBT(Minimum Advance for Best Torque)付近で点火を行うのが好ましい。このMBTは、全ての運転状態に対して同じではなく、例えば機関回転数が異なると、MBTも異なる時期となる。また、一方で、内燃機関の排気浄化のために内燃機関の排気系に設けられた触媒(図示せず)を高温にする必要があるような場合には、機関本体1から排出される排気ガスの温度(以下、「排気温度」と称す)を高めるために上記MBTよりも或る程度進角側の時期に点火を行うのが好ましい。
このような内燃機関に対する要求に応じた運転状態毎の各制御パラメータの最適な値(すなわち、適合値)は、数値計算のみから算出することは困難であるため、通常、内燃機関の形式毎に適合作業によって求められる。ここで、適合作業とは、特定の制御パラメータを様々な値に設定し、各制御パラメータの値毎に特性パラメータ(制御パラメータの値を変更することによりその値が変わり得るパラメータであって内燃機関の特性を表すパラメータ)を計測し、これら特性パラメータの計測値から各運転状態に対する制御パラメータの最適な値(すなわち、適合値)を求める作業を意味する。
図1には、適合作業の対象となる内燃機関に加えて、この内燃機関の特性パラメータの計測装置が示されている。図示したように、適合作業の対象となる内燃機関に対しては、スロットル弁18の開度を計測するためのスロットル開度センサ31がスロットル弁18に取付けられ、また、吸気管15内を流れる空気の流量を計測するエアフロメータ32がスロットル弁18上流側の吸気管15内に取付けられる。さらに、機関本体1から排出された排気ガスの温度を計測する排気温度センサ33及び機関本体1から排出された排気ガスの空燃比を計測する空燃比センサ34が排気ポート又は排気マニホルド19に取付けられる。さらに、機関本体1のクランクシャフト(図示せず)には内燃機関による駆動力であるトルクを検出するためのトルクセンサ(図示せず)が取り付けられる。これらセンサ31〜34は、計測装置本体40に接続され、計測装置本体40ではこれらセンサ31〜34によって計測された各特性パラメータの値が表示、保存される。
一方、上述したスロットル弁駆動用のステップモータ17、燃料噴射弁11及び点火プラグ10は計測装置本体に接続され、これらステップモータ17等は計測装置本体40によって駆動、制御される。すなわち、計測装置本体40によって制御パラメータの値が変更される。
ところで、上記適合作業における各種特性パラメータの値の計測は、上述したように制御パラメータを様々な値に設定して、各計測点にて行われる。ここで、計測点は各制御パラメータの設定値の組合せで特定され、一つの計測点は各制御パラメータに対する設定値の一つの組合せに対応する。つまり、設定される計測点の各々は各制御パラメータの値の組合せで特定される内燃機関の状態である機関制御状態の各々に対応する。そして、この計測点(すなわち、計測点とする機関制御状態)は、通常、事前に実験計画が立てられて設定されており、実際の適合作業においては、順次、予め設定された計測点を移動して、すなわち計測を実施する計測点を現在の計測点から次の計測点に変更して各特性パラメータの値が計測される。
ここで上記計測点間の移動は、制御パラメータの値を変化させることにより機関制御状態を変更することによってなされるのであるが、計測点間の移動に際してその過程で取ることになる機関制御状態において、例えばノッキングや失火が発生したり、排気系に設けられた触媒が過昇温されてしまう等、内燃機関の運転に対する不都合である運転阻害要因が生じてしまう場合がある。このような運転阻害要因が生じると、内燃機関に損傷を与えてしまう可能性もあるので、上記計測点間の移動の際にはこのような運転阻害要因が生じる機関制御状態を取らないようにすることが好ましい。
このため従来は上記計測点間の移動は、変更するべき制御パラメータの値を僅かずつ変化させて上記運転阻害要因が生じるか否かを判定しながら行うようにしており、その結果計測点間の移動に長い時間を要している。
図2は、このような従来の計測点間の移動について説明するための図である。この図の例は説明及び理解を容易にするために、機関制御状態が(したがって計測点が)二つの制御パラメータX、Yの設定値の組合せで特定される場合を示している。より具体的にはこの図の例は、制御パラメータXの値がXaであり、制御パラメータYの値がYaである計測点A(以下、「A(Xa,Ya)」と示す)から制御パラメータXの値がXbであり、制御パラメータYの値がYbである計測点B(以下、「B(Xb,Yb)」と示す)へ移動する場合を示している。また図中、斜線を施して示された領域Daは機関制御状態がこの領域Da内にある場合には上述したような運転阻害要因が生じるという領域である。
図2に示されているように、この例では計測点A(Xa,Ya)から制御パラメータXまたはYの値を僅かずつ変化させ、St1からSt13という多数のステップによって計測点B(Xb,Yb)まで移動している。また、この間、ステップSt4によって機関制御状態が上記運転阻害要因の生じる領域Daに入ったため、続くステップSt5によってステップSt4の前の機関制御状態に戻っている。このように制御パラメータを僅かずつ変化させるようになっていることや上記運転阻害要因が生じると判定された場合には元の機関制御状態に戻るようになっていること等から、従来は上述したように計測点間の移動に長い時間を要し、そのことが適合作業における上記特性パラメータの計測に要する期間を長期化させる一因となっている。
そこで本実施形態では、このような点に鑑み、以下で説明するような方法で計測点間の移動を行うようにして、複数の計測点において順次内燃機関の特性パラメータを計測する場合において計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことができるようにしている。すなわち、本実施形態においては予め設定された複数の計測点が上記計測装置本体40に記憶されており、計測装置本体40によって制御パラメータの値を変化させることによって上記予め設定された計測点を順次移動して各特性パラメータの値を計測するようになっているのであるが、この計測点の移動が以下で説明するような特別な方法によって行われるようになっている。
すなわち、この方法では計測を実施する計測点を現在の計測点から次の計測点に変更すべき時には、現在の機関制御状態を含む機関制御状態の小範囲を設定し、同小範囲内の機関制御状態においてそれまでに計測された運転阻害要因に関連する特性パラメータの計測値に基づいて機関制御状態と上記運転阻害要因に関連する特性パラメータの値との関係を推定するようになっている。そして、それに次いでこの推定された関係に基づいて運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態であって現在の機関制御状態よりも次の計測点に近い機関制御状態を目標機関制御状態として設定して同目標機関制御状態へと機関制御状態を変更するようになっている。
より詳細には、本実施形態では上記小範囲内の機関制御状態においてそれまでに計測された運転阻害要因に関連する特性パラメータの計測値に基づいて上記運転阻害要因に関連する特性パラメータの値を表すモデル式を求め、同モデル式から得られる値に基づいて運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態であって現在の機関制御状態よりも次の計測点に近い機関制御状態を目標機関制御状態として設定するようになっている。
そして、以上のようにして、もしくは以上のようなことを繰り返して最終的な目標機関制御状態である次の計測点へ移動すると、予め運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態を辿って次の計測点に移動することになるので、従来に比べて計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことが可能となる。
以下、図3を参照しつつ、この方法についてより具体的に説明する。図3はこの方法を実施するための制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。この制御ルーチンは、現在の計測点における特性パラメータの計測が終了するとスタートされる。本制御ルーチンがスタートすると、まずステップ101において次の計測点の機関制御状態が読込まれる。そして続くステップ103においては現在の機関制御状態が読込まれて確認される。
ステップ103において現在の機関制御状態が読込まれて確認されると、ステップ105に進む。ステップ105においては、後に作成されるモデルのモデル構造の読込みが行われる。すなわち、後に作成される上記運転阻害要因に関連する特性パラメータの値を表すモデル式の次数等が読込まれる。このモデル構造はモデル化される特性パラメータ等によって異なる。本実施形態では、予めモデル化される特性パラメータに適したモデル構造が求められており、ステップ105では、モデル化される特性パラメータに適したモデル構造が選択されて読込まれるようになっている。なおここで、モデル化される上記運転阻害要因に関連する特性パラメータとしては、例えば、ノッキングや失火の発生に関連するものとしてのトルク変動や上記内燃機関の排気系に設けられた触媒の過昇温に関連するものとしての排気温度等が挙げられる。
ステップ105においてモデル構造の読込みが行われるとステップ107に進む。ステップ107では現在の機関制御状態を含む機関制御状態の小範囲が設定される。ステップ107で設定されるのは初期値として小範囲(初期範囲)である。本実施形態では、この初期範囲は機関負荷と機関回転数に応じて定まり、機関負荷が低いほど、また機関回転数が低いほど広く設定されるようになっている。すなわち、本実施形態では機関負荷と機関回転数に応じて上記初期範囲の求められるマップが予め求められており、ステップ107ではそのマップに基づいて上記初期範囲が設定されるようになっている。
ステップ107で上記小範囲の初期範囲が設定されるとステップ109に進む。ステップ109では、設定された上記小範囲内の機関制御状態において過去に内燃機関の適合のために計測されたモデル化される特性パラメータの計測値が存在するか否かが判定される。ステップ109において、このような計測値が存在すると判定された場合にはステップ111に進んで該当する計測値の読込みが行われ、その後ステップ113に進む。一方、ステップ109において、このような計測値が存在しないと判定された場合には直接ステップ113に進む。
ステップ113においては、読込まれた上記小範囲内の計測値の数がモデルを作成するのに充分であるか否か、すなわちモデル式を求めるのに充分であるか否かが判定される。モデル式を求めるために必要とされる計測値の数は、例えば上記モデル構造等によって異なる。ステップ113では、上記モデル構造等により定まる必要計測値数と上記小範囲内の計測値の数が比較され、上記小範囲内の計測値の数がモデルを作成するのに充分であるか否かが判定される。
ステップ113において上記計測値の数がモデルを作成するのに充分であると判定された場合にはステップ115に進む。一方、ステップ113において上記計測値の数がモデルを作成するのに充分でないと判定された場合にはステップ129に進む。
ステップ115に進んだ場合にはそこで上記計測値の分布に問題がないかどうかが判定される。すなわち、計測値の数が多くても一部の近似した機関制御状態に計測値が偏在している場合等には充分なモデル精度を得ることができない。このようなことから、ステップ115では充分なモデル精度を得ることができるかという観点から上記計測値の分布に問題がないかどうかを判定している。
より具体的には本実施形態では、計測値の分布している部分の大きさの上記小範囲に対する比率を求め、その値が予め定めた基準比率よりも大きければ上記計測値の分布には問題がないと判定し、上記基準比率以下であれば上記計測値の分布には問題があると判定するようにしている。また、他の実施形態では、現在の機関制御状態から次の計測点の機関制御状態への直線経路付近の計測点分布に基づいて判定するようにしてもよい。
一方、ステップ129に進んだ場合にはそこで上記小範囲の拡大が可能であるか否かが判定される。本実施形態においては、上記小範囲に機関負荷と機関回転数に応じて定まる最大範囲が設定されており、ステップ129では現在設定されている小範囲と上記最大範囲とが比較され、小範囲の更なる拡大が可能であるか否かが判定される。なお、本実施形態においては、機関負荷と機関回転数に応じて上記最大範囲の求められるマップが予め求められている。
ステップ129において上記小範囲の拡大が可能であると判定された場合にはステップ131に進む。ステップ131では、上記小範囲内の機関制御状態において過去に内燃機関の状態確認のために計測されたモデル化される特性パラメータの計測値が存在するか否かが判定される。ステップ131において、このような計測値が存在すると判定された場合にはステップ133に進んで該当する計測値の読込みが行われ、その後上述したステップ113に戻る。一方、ステップ131において、このような計測値が存在しないと判定された場合にはステップ135に進んで上記小範囲を拡大し、その後上述したステップ109に戻る。
他方、ステップ129において上記小範囲の拡大が不可能であると判定された場合にはステップ137に進む。ステップ129からステップ137に進む場合は計測値の数がモデルを作成するのに充分でなく且つ上記小範囲の拡大が不可能な場合であり、したがってステップ137ではモデルの作成が中止される。ステップ137でモデルの作成が中止されると本制御ルーチンは終了する。
また、ステップ115において上記計測値の分布に問題があると判定された場合にもステップ137に進む。この場合は計測値の分布から充分なモデル精度が得られないと判断される場合であり、この場合もステップ137でモデルの作成が中止され、本制御ルーチンが終了する。なお、これらステップ137に進む場合には、計測点間の移動にモデルを使った方法は用いられず、例えば上述したような従来の方法によって計測点間の移動が行われることになる。
一方、ステップ115において上記計測値の分布に問題がないと判定された場合にはステップ117に進み、上記小範囲が確定される。ステップ117で上記小範囲が確定されるとステップ119に進んでモデルが作成される。より詳細には、上記小範囲内の機関制御状態において得られている上記運転阻害要因に関連する特性パラメータの計測値に基づいてモデル式が求められる。そして、続くステップ121ではモデル化誤差に基づく信頼性区間(例えば、95%信頼性区間あるいは99%信頼性区間)が算出される。
ステップ119でモデル式が求められ、ステップ121で信頼性区間が求められると、ステップ123に進み上記モデル式から得られる値及び上記信頼性区間に基づいて目標機関制御状態が設定される。ここで、この目標機関制御状態は上記モデル式から得られる値及び上記信頼性区間に基づいて運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態であって現在の機関制御状態よりも次の計測点に近い機関制御状態とされる。
ステップ123において目標機関制御状態が設定されるとステップ125に進み、機関制御状態がステップ123で設定された目標機関制御状態に変更される。ステップ125において機関制御状態が目標機関制御状態に変更されるとステップ127に進む。ステップ127では、機関制御状態が次の計測点の機関制御状態に到達したか否かが判定される。ステップ127において機関制御状態が次の計測点の機関制御状態に到達したと判定された場合には本制御ルーチンは終了する。一方、ステップ127において機関制御状態がまだ次の計測点の機関制御状態に到達していないと判定された場合にはステップ103へ戻り、そこからの制御が繰り返される。
以上の説明から明らかなように、計測を実施する計測点を現在の計測点から次の計測点に変更する時に図3の制御ルーチンで示される方法が実施される場合には、現在の機関制御状態を含む機関制御状態の小範囲を設定し、同小範囲内の機関制御状態においてそれまでに計測された運転阻害要因に関連する特性パラメータの計測値に基づいて機関制御状態と上記運転阻害要因に関連する特性パラメータの値との関係を推定し、同関係に基づいて運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態であって現在の機関制御状態よりも次の計測点に近い機関制御状態を目標機関制御状態として設定して同目標機関制御状態へと機関制御状態を変更することが少なくとも一回行われるようになっている。
そして上述したようにこのようにすると予め運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態を辿って次の計測点に移動することになるので、従来に比べて計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことが可能となる。
なお、以上の説明では、上記運転阻害要因に関連する一つの特性パラメータについてモデル化し、その結果に基づいて上記目標機関制御状態が設定されるかのように説明したが、当然のことながら、上記運転阻害要因に関連する複数の特性パラメータについて上述したようにモデル化し、それらから得られる結果を合成したものに基づいて上記目標機関制御状態が設定されるようにしてもよい。この場合、より多くの運転阻害要因の発生を避けることが可能となる。
また、図3におけるステップ129からステップ137までの制御に関し、他の実施形態では異なる順序としてもよい。すなわち例えば、他の実施形態ではステップ113において上記計測値の数がモデルを作成するのに充分でないと判定された場合及びステップ115で計測値の分布に問題があると判定された場合に上記ステップ131に相当するステップに進むようにする。そしてそこで上記小範囲内の機関制御状態において過去に内燃機関の状態確認のために計測されたモデル化される特性パラメータの計測値が存在するか否かを判定する。
このステップにおいて、このような計測値が存在すると判定された場合には上記ステップ133に相当するステップに進んで該当する計測値の読込みを行い、その後ステップ113に戻るようにする。一方、このような計測値が存在しないと判定された場合にはステップ129に相当するステップに進んで上記小範囲の拡大が可能であるか否かを判定するようにする。
そして、このステップにおいて上記小範囲の拡大が可能であると判定された場合には上記ステップ135に相当するステップに進んで上記小範囲を拡大し、その後ステップ109に戻るようにする。一方、上記小範囲の拡大が不可能であると判定された場合には上記ステップ137に相当するステップに進み、モデルの作成を中止して制御ルーチンを終了するようにする。
以上の説明から理解されるように、この実施形態では図3を参照して説明した場合と異なり、計測値の分布に問題があると判定された場合においても直ぐにモデルの作成を中止せず、内燃機関の状態確認のために計測された計測値の利用や小範囲の拡大を試みるようになっている。このようにすると、より多くの場合でモデルの作成が行われるようになり、計測点間の移動に上述したようなモデルを使った方法が用いられる機会を増加させることができる。
なお、以上で説明した方法においては、モデル作成の基礎となる計測値として、内燃機関の適合のために計測された計測値を内燃機関の状態確認のために計測された計測値よりも優先して用いるようにしている。これは内燃機関の適合のために計測された計測値の方が、定常状態までの待ち時間が充分に取られている等、一般に精度が高いためである。
図4は、図3を参照して説明したような方法を実施して計測点間を移動する場合のイメージを示した説明図である。図2の場合と同様、この図の例も説明及び理解を容易にするために、機関制御状態が(したがって計測点が)二つの制御パラメータX、Yの設定値の組合せで特定される場合を示している。また、より具体的にはこの図の例は、計測点A(Xa,Ya)から計測点B(Xb,Yb)へ移動する場合を示している。また図中、斜線を施して示された領域Daは機関制御状態がこの領域Da内にある場合には上述したような運転阻害要因が生じるという領域である。
図中、四角形で示されているのが上述した小範囲であり、楕円形で示されているのが小範囲内の計測値に基づいて求めたモデル式から得られる値の信頼性区間(例えば、95%信頼性区間)である。より詳細には、各々の楕円形で示されている信頼性区間は同じ線種の四角形で示されている小範囲内の計測値に基づいて求めたモデル式から得られる値の信頼性区間を示している。
この図の例で示されている計測点の移動は以下のように行われる。すなわち、まず現在の計測点A(Xa,Ya)を含む小範囲、すなわち実線の四角形で示されている小範囲が設定され、その小範囲内の計測値に基づいてモデル式が求められる。次いでそのモデル式から得られる値の信頼性区間、すなわち実線の楕円形で示されている信頼性区間が求められる。そして、その信頼性区間内においてモデル式から得られる値に基づいて運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態であって現在の機関制御状態よりも次の計測点に近い機関制御状態が目標機関制御状態として設定されて同目標機関制御状態へと機関制御状態が変更される(ステップSe1)。
続いて、点線の四角形で示されている小範囲が設定され、その小範囲内の計測値に基づいてモデル式が求められる。次いでそのモデル式から得られる値の信頼性区間、すなわち点線の楕円形で示されている信頼性区間が求められる。そして、その信頼性区間内においてモデル式から得られる値に基づいて先と同様にして目標機関制御状態が設定され同目標機関制御状態へと機関制御状態が変更される(ステップSe2)。以下、同様にして一点鎖線で示されている小範囲の設定、信頼性区間の算出、ステップSe3で示されている機関制御状態の変更、二点鎖線で示されている小範囲の設定、信頼性区間の算出、ステップSe4で示されている機関制御状態の変更が行われ、機関制御状態が次の計測点B(Xb,Yb)まで変更される。
このように、図3を参照して説明したような方法を実施した場合には、予め運転阻害要因が生じないと推定される機関制御状態を辿って次の計測点に移動することになり、従来に比べて計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことが可能となる。
次に図5について説明する。図5は、図4と同様、図3を参照して説明したような方法を実施して計測点間を移動する場合のイメージを示した説明図であるが、この図の例ではモデル化誤差等が原因で計測点間の移動の過程において機関制御状態が、運転阻害要因が生じる領域Daに入ってしまっている。すなわち、図示されているようにステップSp2で示される機関制御状態の変更の結果、機関制御状態が上記領域Da内に入ってしまっている。
一方、図3を参照して説明したような方法によれば、機関制御状態が上記領域Da内に入った場合であっても、上述した小範囲(図5中、実線の四角形で表示)が設定され、その小範囲内の計測値に基づいてモデル式が求められる。そして次にそのモデル式から得られる値の信頼性区間(図5中、実線の楕円形で表示)が求められ、その信頼性区間内においてモデル式から得られる値に基づいて目標機関制御状態が設定され同目標機関制御状態へと機関制御状態が変更される(ステップSp3)。
このようにすると、図5の例に示されているように、機関制御状態が上記領域Da内に入った場合においても次の機関制御状態の変更(ステップSp3)で次の計測点B(Xb,Yb)により近い機関制御状態とされることになる。そしてこの結果、従来の場合、すなわち機関制御状態が上記領域Da内に入った時にはその変更前の機関制御状態に戻る場合に比べ、より迅速に計測点間の移動を行うことが可能となる。つまり、図3を参照して説明したような方法を実施した場合には、このような点からも従来に比べて計測点間の移動を迅速に行うことが可能となる。
なお、以上の説明及び図5からも明らかなように、この例は図3を参照して説明したような方法を実施しステップSp1からSp4で示される機関制御状態の変更によって計測点を計測点A(Xa,Ya)から計測点B(Xb,Yb)まで移動する場合を示しているが、図5においてはステップSp3以外のステップに関連する小範囲及び信頼性区間の図示は省略している。
次に本発明の別の実施形態について説明する。本実施形態は、上述した実施形態と同様、図1に示された構成で実施され得るものである。また、その他にも上述した実施形態と多くの共通する部分を有しており、原則としてこれら共通する部分についての説明は省略するが、本実施形態においても予め設定された複数の計測点が上記計測装置本体40に記憶されており、計測装置本体40によって制御パラメータの値を変化させることによって上記予め設定された計測点を順次移動して各特性パラメータの値を計測するようになっている。
そして本実施形態においては上述した実施形態と異なり、計測点の移動の際に以下で説明するような制御を実施して計測点間の移動が迅速且つ安全に行えるようにしている。すなわち本実施形態では、計測を実施する計測点を現在の計測点から次の計測点に変更する間は内燃機関への燃料の供給を停止するフューエルカットが実施されるようになっている。
内燃機関への燃料の供給を停止するフューエルカットが実施された場合には、上述したような運転阻害要因が生じる可能性はなくなるので、本実施形態のようにすることによって、従来に比べて計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことが可能となる。
図6は、この実施形態における計測点間の移動のイメージを示した説明図である。図2、図4及び図5と同様、この図の例も説明及び理解を容易にするために機関制御状態が(したがって計測点が)二つの制御パラメータX、Yの設定値の組合せで特定される場合を示しており、また、計測点A(Xa,Ya)から計測点B(Xb,Yb)へ移動する場合を示している。図中、斜線を施して示された領域Daは機関制御状態がこの領域Da内にある場合には上述したような運転阻害要因が生じるという領域である。
この図の例では、図示されているように計測点の移動の過程で機関制御状態が上記領域Da内に入ってしまっている。しかし、ここでは上述したように計測点を変更する間は内燃機関への燃料の供給を停止するフューエルカットが実施されるようになっているので、たとえ計測点の移動の過程で機関制御状態が上記領域Da内に入ってしまっても上記運転阻害要因が実際に生ずることはなく計測点の移動を良好に行うことができる。
このように、本実施形態のようにすれば計測点の移動を行う際に運転阻害要因が発生するのを避けることができるので、計測点の移動を行う際の自由度が増し、結果として従来に比べて計測点間の移動を迅速且つ安全に行うことが可能となる。