JP4289355B2 - ペプチドのc末端アミノ酸配列の分析方法 - Google Patents

ペプチドのc末端アミノ酸配列の分析方法 Download PDF

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Description

本発明は、ペプチドのC末端アミノ酸配列を分析する方法に関する。
天然より採取されるペプチドやタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、その生物学的性質や機能を研究する際に不可欠である。現在、ペプチドやタンパク質の全アミノ酸配列は、対応する遺伝子情報、すなわち、これらのペプチドをコードしているゲノム遺伝子やm−RNAより調製されたc−DNAの塩基配列に基づいて推定されるアミノ酸配列として決定されている。または、直接種々の方法によりタンパク質自体のアミノ酸配列が決定されている。その際、当該ペプチドをコードしているゲノム遺伝子やm−RNAより調製されたc−DNAを特定する上で、ペプチドの部分的なアミノ酸配列の知見は、依然として必要である。
このペプチドの部分的なアミノ酸配列の知見として、一般に、ペプチドのN末端アミノ酸配列とC末端アミノ酸配列とが、特に有用とされている。たとえば、多数のm−RNAより調製されたc−DNAライブラリーから、目的とするペプチドをコードしているc−DNAを選別する際、仮に、N末端アミノ酸配列とC末端アミノ酸配列とが判明していると、両末端のアミノ酸配列に基づいて核酸プローブを作製し、得られたプローブを利用して目標とするc−DNAを選別することが可能となる。また、両末端のアミノ酸配列に基づき作製されたオリゴヌクレオチドプライマーを利用して、PCR法を適用し、目標とするc−DNAを選択的に増幅することも可能となる。
ここで、ペプチドのN末端アミノ酸配列を解析する手法として、従来、エドマン分解法を利用して、N末端アミノ酸を逐次的に分解しつつ、生成するアミノ酸誘導体を同定する手法が利用されている。
一方、ペプチドのC末端アミノ酸配列を解析する手段として、化学的手法によりC末端アミノ酸を逐次的に分解し、その反応産物として得られる短縮されたペプチドともとのペプチドとの分子量差から、分解されたC末端アミノ酸を特定する方法が提案されている(非特許文献1、2、3)。
非特許文献1には、化学的手法によりC末端アミノ酸を逐次的に分解する方法が提案されている。この方法は、乾燥したペプチドを90℃に加熱し、ペンタフルオロプロパン酸(CF3CF2COOH)高濃度水溶液またはヘプタフルオロブタン酸(CF3CF2CF2COOH)高濃度水溶液から発生した蒸気を作用させて、C末端アミノ酸の選択的な加水分解を促進させる方法である。
また、非特許文献2および非特許文献3では、パーフルオロアルカン酸高濃度水溶液に代えて、無水ペンタフルオロプロパン酸((CF3CF2CO)2O)のアセトニトリル溶液、または無水ヘプタフルオロブタン酸((CF3CF2CF2CO)2O)のアセトニトリル溶液を用いてC末端アミノ酸の選択的な分解を行わせる方法が提案されている。このとき、たとえば、−18℃に冷却しつつ、この溶液から発生した蒸気を乾燥したペプチドに作用させ、系内に溶液から蒸発する水分子を含まないようにすることにより、副次的反応の発生を回避することができるとされている。
これらの従来のC末端の分解手法では、下記反応式(I)で示される脱水反応により、C末端アミノ酸から反応中間体として、オキサゾロン環構造がいったん形成されるとされている。次いで、パーフルオロアルカン酸がこのオキサゾロン環に作用し、下記反応式(II)で示される反応が生じる。この結果、C末端アミノ酸の選択的な分解反応が達成されると報告されている。
そして、C末端アミノ酸の選択的な分解反応は逐次的に進み、所定の処理時間が経過した時点で、もとのペプチドに対して1〜10数アミノ酸残基がそのC末端からそれぞれ除去された一連の反応産物を含む混合物が得られる。この一連の反応産物を含む混合物に対して質量分析法を適用し、各反応産物に由来するイオン種の質量を測定すると、C末端からのアミノ酸配列を反映した質量差を示す一連のピークが測定される。
たとえば、もとのペプチドからの逐次的なC末端アミノ酸分解反応により生成される各反応産物は、もとのペプチドから数アミノ酸残基が除去された反応産物までの、数種の一連の反応産物群となる。この反応産物群を質量分析に供すれば、対応するイオン種の質量を一括して分析することができる。そして、除去されたC末端側のアミノ酸に対応するイオン種の質量から、数アミノ酸残基分のC末端アミノ酸配列を一括して決定することができるとされている。
Figure 0004289355
Figure 0004289355

Tsugita, A. et al., Eur. J. Biochem., 1992年, 206, p.691−696 Tsugita, A. et al., Chem. Lett., 1992年, p.235−238 Takamoto, K. et al., Eur. J. Biochem. 228, 1995年, p.362−372
発明の開示
乾燥したペプチドにパーフルオロアルカン酸またはパーフルオロアルカン酸無水物の蒸気を気相から供給し、作用させる従来の手法は、有用なC末端アミノ酸配列の分析方法とされていた。ところが、本発明者がこれらの方法を用いて分析を行ったところ、汎用性の点で改善の余地があることが見出された。
本発明者はこの原因について鋭意検討した。その結果、ペプチドC末端の逐次分解に用いるパーフルオロアルカン酸またはパーフルオロアルカン酸無水物は、ペプチドに対する作用が比較的強いため、副反応を生じる可能性があることが見出された。
たとえば、非特許文献1の方法では、ペプチド中のセリン残基(−NH−CH(CH2OH)−CO−)において、α位のアミノ基(−NH−)とβ位のヒドロキシ基(−OH)の間で、N,O−アシル転位反応およびそれに引き続いて加水分解が進行する可能性があった。この加水分解が進行すると、セリン残基のN末端側でペプチドの切断が生じるという副反応が生じる。また、β位にヒドロキシ基が存在しているトレオニン残基(−NH−CH(CH(CH3)OH)−CO−)においても、同様の機構による加水分解が進行し、トレオニン残基のN末端側でペプチドの切断が生じる可能性があった。
また、ペプチド中のアスパラギン酸残基(−NH−CH(CH2COOH)−CO−)において、C末端のカルボキシル基からβ位のカルボキシル基へのペプチド結合の転位と、それに引き続く加水分解が進行し、アスパラギン酸残基のC末端側でペプチドの切断が生じる可能性があった。
これらの副反応により、長いペプチド鎖の切断が生じると、そのN末端側ペプチド断片に対しても、C末端アミノ酸の逐次分解が同時に進行することになる。これらの副反応に由来する反応産物が共存すると、場合によっては、目的とする反応産物の質量分析に際して、その測定を阻害する要因ともなる。
また、ペプチドの切断に至らなくとも、β位のヒドロキシ基へN末端側部分ペプチドが連結された分岐型ペプチドとなると、その部位では、アミド結合が失われる。このため、上記式(I)で示されるオキサゾロン環構造の形成がなされず、C末端アミノ酸の選択的な分解反応がそれ以上進行しないものとなる。
一方、非特許文献2または非特許文献3に記載の方法は、系内に溶液から蒸発する水分子を含まないので、こうした副反応の発生を有効に回避できる利点を有していた。ただし、利用しているパーフルオロアルカン酸無水物の反応性が高く、副反応を抑制するために、処理温度を、たとえば、−18℃のような低温に維持し、結露を防止する必要があった。このため、C末端の逐次分解の操作を簡素化するという点で改良の余地があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、穏和な条件でペプチドのC末端アミノ酸の逐次分解を行う技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、ペプチドのC末端アミノ酸を確実に分析する汎用性の高い技術を提供することにある。
本発明によれば、ペプチドのC末端のアミノ酸配列を分析する方法であって、前記ペプチドの前記C末端からアミノ酸を逐次的に分解し、前記C末端からアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドを得るステップと、前記C末端欠損ペプチドの分子量を測定するステップと、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量と前記ペプチドの分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握して、前記分子量の減少量に基づき、前記C末端からのアミノ酸配列を分析するステップと、を含み、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、前記ペプチドを実質的にアルカン酸無水物に接触させることにより、前記C末端のアミノ酸を分解させることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法が提供される。
本発明に係る方法では、実質的にアルカン酸無水物を用いてペプチドの逐次分解を行う。このため、たとえば、タンパク質などのアミノ酸残基数の多いペプチドについて、パーフルオロアルカン酸等が実質的に含まれない緩和な条件で、化学的方法によりペプチドのC末端アミノ酸を逐次的に分解し、C末端から逐次的にアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドを得ることができる。よって、逐次分解における副反応を抑制し、逐次的に除去される一連のアミノ酸に起因する分子量減少に基づいて、C末端アミノ酸配列を分析することができる。また、分子量の減少量に基づいてC末端からのアミノ酸配列を分析するため、ペプチドのC末端アミノ酸配列を高い汎用性で確実に分析することができる。
本発明において、ペプチドに接触させるアルカン酸無水物として、置換または無置換のアルカン酸無水物を用いることができ、パーフルオロアルカン酸およびその無水物は含まない。なお、アルカン酸無水物の置換体を用いる場合は、ハロゲン以外の原子で置換されたアルカン酸無水物を用いることが好ましい。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記ペプチドの分子量を測定するステップを含み、アミノ酸配列を分析する前記ステップは、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量とペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握することができる。こうすることにより、分子量の差分から、C末端から除去されたアミノ酸残基の種類を確実に把握することができる。よって、ペプチドのC末端アミノ酸配列をさらに確実に分析することができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップの前に、前記C末端欠損ペプチドに水分子を作用させるステップを含んでもよい。こうすることにより、逐次分解を受けたC末端欠損ペプチドのC末端にカルボキシル基を確実に形成させることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、水分子を作用させる前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドを、塩基性含窒素化合物または第三アミンを含む水溶液に接触させるステップを含んでもよい。こうすることにより、水分子を作用させるステップにおける加水分解反応をさらに確実に行うことができる。
本発明に係る逐次的なC末端アミノ酸分解反応により、たとえば、10アミノ酸残基の除去に達する一連の反応産物を同時に含有する処理試料を調製することができる。たとえば、核酸プローブやプライマーの作製に利用するC末端アミノ酸配列の情報は、通常、アミノ酸配列をコードする塩基配列として、18塩基長〜24塩基長程度、したがって、6アミノ酸〜8アミノ酸程度であってもよい。このため、本発明の方法は、これらの用途に好適に用いられる。
一方、解析対象のペプチドが、たとえば、タンパク質などのアミノ酸残基数の多いペプチドである場合には、ペプチド自体の分子量が、質量分析測定に好適な試料の分子量範囲よりも大きい場合がある。または、ペプチドの分子量に対して、C末端側の1アミノ酸残基が除去された際の式量変化が相対的に少ないため、充分な測定精度が得られない場合がある。
そこで、本発明において、タンパク質等の分子量の大きいペプチドのC末端アミノ酸配列の分析の際には、ペプチドを選択的に切断するステップを含む以下の手順を採用することができる。
本発明によれば、ペプチドのC末端のアミノ酸配列を分析する方法であって、前記ペプチドの前記C末端からアミノ酸を逐次的に分解し、前記C末端からアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドを得るステップと、前記C末端欠損ペプチドを所定の位置で切断し、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得るステップと、前記C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定するステップと、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量と前記ペプチドから得られるペプチド断片の分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握して、前記分子量の減少量に基づき、前記C末端からのアミノ酸配列を分析するステップと、を含み、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、前記ペプチドを実質的にアルカン酸無水物に接触させることにより、前記C末端のアミノ酸を分解させることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法が提供される。
本発明に係る方法によれば、C末端アミノ酸の逐次的な分解反応の後、もとのペプチドに対して所定の数のアミノ酸残基がそのC末端からそれぞれ除去された一連の反応産物を含む混合物に対して、特定のアミノ酸部位において、選択的なペプチド鎖の切断を行う。このとき、たとえば切断部位特異性を有するプロテアーゼ、たとえば、トリプシンを利用し、長いペプチド鎖の酵素消化を施すことができる。そして、得られたペプチド断片について、質量分析を行う。
こうすると、酵素消化を施して得られるペプチド断片の混合物には、もとのペプチドに由来するC末端側ペプチド断片と、それに対して、所定の数のアミノ酸残基がそのC末端からそれぞれ除去された一連の反応産物に由来するC末端側ペプチド断片群が含まれる。そして、もとのペプチドおよび一連の反応産物に由来するC末端側ペプチド断片群に対して、質量分析法を適用して、各反応産物に由来するC末端側ペプチド断片群イオン種の質量を測定すると、C末端アミノ酸配列を反映した質量差を示す一連のピークを、充分な分子量分解能で測定できる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記ペプチドを前記所定の位置で切断し、ペプチド由来ペプチド断片を得るステップと、前記ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定するステップと、を含み、アミノ酸配列を分析する前記ステップは、ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量とC末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量の差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握してもよい。こうすることにより、分子量の差分を、アミノ酸の分子量と比較して、ペプチドのC末端から欠損したアミノ酸残基の種類を分析することができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの前に、前記ペプチド中の特定のアミノ酸残基を保護し、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップにおける前記切断に対する前記特定のアミノ酸残基の感受性を失わせるステップを含んでもよい。こうすることにより、ペプチドの断片化の位置の選択性を向上させることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドをプロテアーゼ処理するステップを含んでもよい。こうすることにより、ペプチドを所定の位置で選択的に切断することができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記プロテアーゼがトリプシンであって、特定のアミノ酸残基の感受性を失わせる前記ステップは、前記ペプチドをN−アシル化するステップを含んでもよい。こうすることにより、ペプチドをアルギニン残基のC末端側で選択的に切断し、断片ペプチドを安定的に得ることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記保護は、前記ペプチドのO−アシル化およびN−アシル化であって、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップの前に、前記O−アシル化の脱保護を行う構成とすることができる。こうすることにより、C末端からのアミノ酸配列を分析するステップにおいて、アミノ酸配列をより一層正確に分析することができる。
ここで、C末端アミノ酸の選択的な分解反応を行った後、切断部位特異性を有するプロテアーゼを利用する酵素消化処理を付加し、得られるC末端側ペプチド断片の分子量測定を行う形態を採用する場合、酵素消化で必然的に副生される、N末端側のペプチド断片も質量分析スペクトル上に同時に観測されることになる。
このため、もとのペプチドおよび一連の反応産物に由来するC末端側ペプチド断片群に起因するピークと、それ以外のN末端側のペプチド断片複数に起因するピークとを高い確度で識別した上で、目的とするもとのペプチドおよび一連の反応産物に由来するC末端側ペプチド断片群に起因するピークの各分子量をより精度よく決定可能な手法を採用することにより、汎用性のより一層の向上が可能となる。
そこで本発明において、以下の構成とすることにより、C末端側のペプチド断片およびそのC末端アミノ酸の欠損ペプチドのペプチド断片を容易に識別することができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップは、陽イオン種および陰イオン種による質量分析測定を行うステップを含み、C末端からのアミノ酸配列を分析する前記ステップは、前記陽イオン種による質量分析の結果と前記陰イオン種による質量分析の結果とを比較して、前記ペプチドの前記C末端に係る前記C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を識別するステップを含んでもよい。こうすることにより、ペプチドのアミノ酸配列を分析する際に、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片およびペプチド由来ペプチド断片をさらに容易に識別し、その分子量を得ることができる。このため、アミノ酸配列の分析をより一層確実に行うことができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップの前に、前記C末端欠損ペプチドに水分子を作用させるステップを含んでもよい。こうすることにより、逐次分解を受けたC末端欠損ペプチドのC末端にカルボキシル基を確実に形成させることができる。このため、分析の精度、確度を向上させることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、水分子を作用させる前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドを、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミンを含む水溶液に接触させるステップを含んでもよい。こうすることにより、水分子を作用させるステップにおける加水分解反応をさらに確実に行うことができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、前記ペプチドをゲル中に保持させた状態で行ってもよい。こうすることにより、ゲル電気泳動等によりゲル中に保持されたペプチドのC末端欠損ペプチドをさらに簡便に得ることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップより前のステップをゲル中で行ってもよい。また、本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップより前のステップをゲル中で行ってもよい。こうすることにより、簡便な操作で安定的に分子量の測定に供する試料を調製することができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの前に、前記ペプチドを架橋するステップを含むことができる。こうすることにより、分析の精度、確度をさらに向上させることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの前に、前記ペプチドを含む混合物からポリアクリルアミドゲル電気泳動により前記ペプチドを分離するステップを有し、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、分離された前記ペプチドを前記ポリアクリルアミドゲル電気泳動に用いた前記ゲル中に保持させた状態で行ってもよい。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、アルカン酸無水物の双極性非プロトン性溶媒の溶液に前記ゲルを浸漬させるステップを含んでもよい。こうすることにより、ペプチドのC末端のアミノ酸の逐次的な分解を穏和な条件で確実に行うことができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、塩基性含窒素芳香環化合物の存在する系中で行ってもよい。こうすることにより、C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応の反応速度を向上させることができる。このため、穏和な条件でより一層汎用性の高いC末端アミノ酸配列の分析方法が実現される。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記塩基性含窒素芳香環化合物が、ピリジン塩基またはその誘導体であってもよい。こうすることにより、C末端アミノ酸の逐次分解の反応速度をさらに確実に増加させることができる。
本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記アルカン酸無水物が炭素数2以上6以下のアルカン酸の対称型酸無水物であってもよい。また、本発明のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記アルカン酸無水物が炭素数2以上6以下の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物であってもよい。こうすることにより、C末端のアミノ酸の逐次的な分解を確実に行うことができる。
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明において、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップは、前記ゲルに保持された前記ペプチドを前記アルカン酸無水物の双極性非プロトン性溶媒の溶液に浸漬するステップを含むことができる。こうすることにより、ペプチド中のアミノ基および水酸基のアシル化とC末端アミノ酸逐次分解とを確実に進行させることができる。よって、緩和な条件で選択的な逐次分解反応を安定的に進行させることができる。
以上説明したように本発明によれば、実質的にアルカン酸無水物からなる反応試薬を用いることにより、穏和な条件でペプチドのC末端アミノ酸の逐次分解を行う技術が実現される。また、本発明によれば、ペプチドのC末端アミノ酸を確実に分析する汎用性の高い技術が実現される。
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。 本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。 本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。 本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。 本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析における反応条件を示す図である。 本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。 ウマ・ミオグロビンを構成するグロビンペプチド鎖のアミノ酸配列を示す図である。 実施例に係るグロビンペプチド鎖の質量分析スペクトルを示す図である。 実施例に係るグロビンペプチド鎖の質量分析スペクトルを示す図である。 実施例に係るグロビンペプチド鎖の質量分析スペクトルを示す図である。 実施例に係るグロビンペプチド鎖の質量分析スペクトルを示す図である。 実施例に係るトリプシンインヒビターの質量分析スペクトルを示す図である。 実施例に係るトリプシンインヒビターの質量分析スペクトルを示す図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸の分析手順を示す図である。
図1において、まず、分析対象のペプチドに対し、ペプチドのC末端のアミノ酸を選択的に逐次分解する(S101)。分解により、もとのペプチドおよびC末端側の1個以上のアミノ酸が欠損したペプチドを含む一連の分解反応生成物が得られる。そして、この反応生成物に所定の後処理を施す(S102)。そして、質量分析により、反応生成物の分子量を測定する(S103)。そして、質量分析により得られた分子量に基づいて、もとのペプチドのC末端からのアミノ酸配列を決定する(S104)。
このように、図1の手順は、本実施形態の基本となるステップ101、ステップ103、およびステップ104と、ステップ101の後ステップ103の前に行われるステップ102とから構成されている。
図2は、図1の分析手順において、ステップ101のC末端の逐次分解およびステップ102の後処理をより具体的に例示した図である。図2に示した手順では、ステップ101において、セリン残基またはトレオニン残基のβ−OH基の保護を行いつつ、逐次分解反応が行われる(S111)。逐次分解と同時にβ−OH基を保護することにより、後述するように、ペプチドの切断等の副反応を抑制することができる。なお、後述するように、通常の条件ではβ−OH基を保護する際に、ペプチドの末端および側鎖のアミノ基もまた保護される。
また、図2の手順では、後処理として、反応生成物の水和およびβ−OH基の脱保護を行う(S112)。こうすることにより、1個以上のアミノ酸残基が除去された後のペプチドのC末端に、確実にカルボキシル基を形成させることができる。
また、図3は、図1の分析手順を、タンパク質等の比較的分子量の大きいペプチドに適用する場合の手順を示す図である。以下、図3の手順の場合を例に、本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法について詳細に説明する。
図3の手順は基本的には図2の手順と同様であるが、以下の点が異なる。まず、ステップ111に対応するステップ113においてβ−OH基の保護およびε−NH2基の保護を行うとともに、ペプチドをC末端から逐次分解する。そして、ステップ102の後処理に対応するステップ112において、水和反応を行うとともに、β−OH基の脱保護を行う。このとき、ε−NH2基は保護された状態として、続くトリプシンを用いてもとのペプチドおよびC末端が欠損したペプチドを所定の位置で断片化するステップを行う(S114)。断片化することにより、質量分析(S103)を好適に行うことができる。また、トリプシンを用いて断片化することにより、所定の位置において選択的にペプチドを切断し、断片化することができる。また、もとのペプチドとC末端が欠損したペプチドの切断位置を揃えることができる。
以上の手順により、ペプチドの分子量が大きい場合にも、質量分析(S103)を高い精度および確度で行うことができる。また、C末端の逐次分解(S101)による分子量の減少量を高感度で検出することができる。
図3に示した手順においては、以下に説明するように、C末端アミノ酸の逐次分解(S113)を選択的に生じさせ、ペプチド鎖の途中でのペプチド結合切断という副反応を抑制することができる。
分析対象のペプチドのC末端アミノ酸を逐次的に分解除去するステップ101の反応では、水分を除去した環境でアルカン酸無水物をペプチド鎖C末端のカルボキシル基の活性化試薬として作用させる。このとき、ペプチドのC末端において、下記式(III)で示される5−オキサゾロン構造が形成された後、この5−オキサゾロン環の開裂に伴いC末端アミノ酸の分解が生じる。ただし、下記式(III)において、R1はペプチドのC末端アミノ酸の側鎖を表し、R2は当該C末端アミノ酸の直前に位置するアミノ酸残基の側鎖を表す。
Figure 0004289355
5−オキサゾロン環形成の反応は、下記式(I)で示される過程により進行すると推定される。
Figure 0004289355
上記式(I)では、下記式(Ia)で示されるケト−エノール互換異性化の後、エノール型において表出されているヒドロキシ基とC末端カルボキシル基の間で、分子内エステル結合を形成し、5−オキサゾロン環が完成する。このとき、アルカン酸無水物を用いることにより、C末端カルボキシル基をたとえば、下記式(Ib)で例示されるような非対称型酸無水物へと変換し、活性化することができる。
Figure 0004289355
Figure 0004289355
また、5−オキサゾロン環が形成された後、たとえば下記式(II')で示される反応等を経て、C末端のアミノ酸の離脱と反応中間体の形成が進行して、逐次的なC末端アミノ酸の選択的な分解が進むと推定される。
Figure 0004289355
このように、本実施形態では、アルカン酸無水物という比較的穏和な試薬を用いてC末端カルボキシル基を活性化することができる。このため、従来用いられていたパーフルオロアルカン酸またはパーフルオロアルカン酸無水物を含まない穏和な系中でC末端の逐次分解を進行させることができる。よって、C末端側以外でのペプチド結合が開裂する副反応の進行を抑制することができる。なお、逐次分解反応は、水分を含まない系で行うことができる。
副反応として、たとえば、ペプチド中のセリン残基(−NH−CH(CH2OH)−CO−)およびトレオニン残基(−NH−CH(CH(CH3)OH)−CO−)では、側鎖のヒドロキシ基(−OH)に起因して、加熱環境で以下の反応が考えらえる。セリン残基のα位のアミノ基(−NH−)とβ位のヒドロキシ基の間で、N,O−アシル転位反応が生じると、引き続き、生成するエステル結合の分解が進行し、セリン残基のN末端側でペプチドの切断が生じるという副反応が生じる可能性がある。また、条件によっては、β位にヒドロキシ基が存在しているトレオニン残基においても、同様のN,O−アシル転位反応が契機となる反応機構によって、トレオニン残基のN末端側でペプチドの切断が生じるという副反応が生じる可能性がある。
本実施形態の方法では、アルカン酸無水物を実質的に含む反応試薬を用いて脱水条件でステップ113の逐次分解を行うことにより、このような副反応の発生が抑制される。
さらに、ステップ113では、逐次的なC末端アミノ酸の分解反応と同時に、β−OH基およびε−NH2の保護がなされる。β−OH基およびε−NH2の保護をC末端アミノ酸の逐次分解と同時に進めることにより、こうした副反応を確実に回避することができる。また、逐次分解とは別に保護を行う前処理の手順が不要となり、簡便な方法でC末端アミノ酸を安定的に分解することが可能となる。
なお、リジン残基のε位のアミノ基が保護される条件では、通常、ペプチド鎖のN末端のアミノ基に対しても、アミノ基の保護が達成される。このような条件を選択することにより、C末端アミノ酸の逐次的な分解反応において、そのC末端カルボキシル基の活性化がなされた際に、隣接するペプチド鎖のN末端のアミノ基と反応を起こす事態を予め防止することができる。
ステップ114では、トリプシンを用いた断片化を行うことにより、所定の位置で選択的に反応生成物の断片化を行うことができる。よって、もとのペプチドの分子量が比較的大きい場合であっても、これを適当な大きさに断片化し、質量分析(S103)を行うことができる。よって、質量分析において、C末端アミノ酸残基の欠損を、より高感度で検出することができる。したがって、ペプチドのC末端アミノ酸配列をより一層確実に分析することができる。
また、トリプシンを用いたペプチドの断片化は、塩基性アミノ酸残基のC末端側で選択的に生じるため、もとのペプチドとC末端アミノ酸が欠損したペプチドの切断位置を一致させることができる。このため、もとのペプチドに由来するC末端側の断片ペプチドは、C末端アミノ酸が欠損したペプチドに由来するC末端側の断片ペプチドのC末端側にさらに所定の数のアミノ酸残基が付加された配列となる。よって、これらの分子量を比較し、逐次分解による分子量の減少量を算出することにより、除去されたアミノ酸残基の種類を特定することが可能となる。
ここで、塩基性アミノ酸残基のうち、リジン残基はジメチル化、アセチル化等の天然の修飾を受けうる。修飾されたリジン残基はトリプシン消化を受けないことから、修飾の有無によりトリプシン消化により生じるペプチド断片が異なる。そこで、図3に示した分析方法においては、ステップ113においてリジン残基のε−アミノ基の保護を行うとともに、この保護基がステップ112で脱保護されないようにしている。こうすることにより、リジン残基のトリプシン感受性を消失させておくことができる。このため、アルギニン残基のC末端側ペプチド結合での選択的な断片化が可能となる。
よって、C末端側のアミノ酸が欠損した逐次分解生成物を、質量分析により一層好適な分子量範囲内の分子量を有するペプチド断片に分割することができる。したがって、C末端側ペプチド断片の分子量を調節する処理として、トリプシン処理を積極的に活用することができる。
ステップ114のトリプシン処理後、試料を脱塩処理してペプチド断片を回収し、乾燥した後、質量分析装置を利用して、ペプチド断片の混合物に由来するイオン種の分子量を測定する。ここで、脱塩処理を行うことにより、回収、乾燥されるペプチド断片は、各種の塩を形成するものではなく、本来のペプチド部分単体とされている。そして、C末端の選択的な逐次分解によって得られる一連の反応生成物と、分解前のペプチドとをトリプシン消化して得られるペプチド断片のうち、それぞれのC末端側ペプチド断片の分子量同士を比較して、これらの差異に基づき、除去されたアミノ酸をC末端側から特定する。
質量分析(S103)に用いる質量分析装置として、たとえば、イオントラップ質量分析計、四重極型質量分析計、磁場型質量分析計、飛行時間(TOF)型質量分析計、フーリエ変換型質量分析計などを用いることができる。また、イオン化法として、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、高速原子衝突イオン化(FAB)法などが挙げられる。
このうち、たとえばMALDI−TOF−MSが好適に用いられる。MALDI−TOF−MSを用いることにより、イオン化過程において、ペプチド断片を構成するアミノ酸残基から一部の原子団が欠落することを抑制することができる。また、比較的高分子量のペプチド断片の測定を好適に行うことができる。また、測定対象のタンパク質を試料中からゲル電気泳動を用いて分離し、ゲル中で上述の処理を施した後、回収して測定に供する場合にも、対応する陰イオンと陽イオンの両方を測定可能である。これらのことから、MALDI−TOF−MSを用いることにより、さらに再現性の高い分析を行うことができる。
以下、質量分析にMALDI−TOF−MSを用いる場合を例に、説明する。MALDI−TOF−MSのイオン化過程では、ペプチド断片にプロトン(H+)が付加された陽イオン種と、ペプチド断片からプロトンが離脱された陰イオン種とをそれぞれ測定することが可能となる。本実施形態では、測定モードを選択し、陽イオン種と陰イオン種とをそれぞれ個別に測定する。
ここで、質量分析(S103)は、トリプシン処理(S114)の後に行われるので、C末端側ペプチド断片を構成するアミノ酸残基中にはアルギニン残基が含まれていない。一方、トリプシン処理(S114)で得られる他のペプチド断片にはプロトン受容能に富むグアニジノ基を持つアルギニン残基が含まれているため、これらに由来する陽イオン種の安定化が図られる。
このため、質量分析において、陽イオン種を測定した結果と、陰イオン種を測定した結果とを比較すると、C末端側ペプチド断片と他のペプチド断片とは、その相対強度が異なる挙動を示す。この現象を利用すれば、MALDI−TOF−MS装置によって測定される複数種のピーク中より、一連のC末端側ペプチド断片に起因するピークを識別し、特定することが可能となる。
陽イオン種の質量分析スペクトル中では、C末端にアルギニン残基を有するペプチド断片群に起因するピーク強度が相対的に強くなる。一方、アルギニン残基の存在してないC末端側ペプチド断片は、プロトン供与能を示すカルボキシル基をそのC末端に有する。このため、MALDI−TOF−MS装置で測定される陰イオン種の質量分析スペクトル中において、C末端側ペプチド断片群に起因するピーク強度が相対的に強くなる。
このように、MALDI−TOF−MSにおける陽イオン種の質量分析スペクトルおよび陰イオン種の質量分析スペクトルを対比した際の相対的強度の相違を利用して、その断片C末端にアルギニン残基を有し、N末端側アミノ酸配列が共通したペプチド断片群に起因するピークを区別することができる。また、陰イオン種の質量分析スペクトル中において、もとのペプチド鎖と、C末端アミノ酸の逐次的な分解反応で生成する一連のC末端側ペプチド断片群に起因するピークを容易に特定することができる。
なお、ステップ103の質量分析に供するペプチド断片の長さは、たとえば20〜30アミノ酸残基以下とすることができる。こうすることにより、質量分析の際に、ペプチド断片のイオン化を確実に行うことができる。
ステップ104のアミノ酸配列の分析においては、陰イオン種による分子量測定において相対的に大きな強度を与える一連のピークに基づき、C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定し、対応する分子量変化を与えるアミノ酸種類の帰属を行う。
なお、アルギニン残基を有しないC末端側ペプチド断片は、少なくとも、トリプシン消化処理によってそのN末端アミノ酸残基のα位のアミノ基を有している。そして、陽イオン種の質量分析スペクトル上でも、対応するピークを示す。このため、陽イオン種の質量分析スペクトルで観察される対応するピークの分子量を利用して、アミノ酸種類の帰属結果を検証することもできる。
また、図3に示した手順では、ステップ114にてトリプシン処理を行うが、本実施形態において、もとのペプチドおよびそのC末端側のアミノ酸残基が欠損したペプチドを所定の位置で選択的に切断することができる方法を用いればよい。トリプシン処理以外の方法として、具体的には、たとえば、グルタミン酸残基のC末端側を切断するV8プロテアーゼ等、切断位置の特異性を有する他のプロテアーゼを用いた酵素消化を用いることができる。また、メチオニン残基のC末端側アミド結合における開裂に特異性を有するCNBr等の化学的な試薬を用いた切断手法を用いることもできる。
さらに、アミノ酸残基側鎖の保護および脱保護の方法についても、切断部位のアミノ酸残基の性質に依存して、適宜選択することができる。このとき、図1中のステップ101の前に適宜前処理のステップを設けてアミノ酸残基の保護を行ってもよい。
以下、分析対象のペプチドが電気泳動等のゲル中に保持されている場合と、分析対象のペプチドが乾燥試料である場合とに分けて、本発明に係る分析方法についてさらに詳細に説明する。
(第一の実施形態)
本実施形態では、ゲル中に保持されたペプチドをゲル中で処理し、質量分析を行う手順について説明する。図3において、ステップ113、ステップ112、およびステップ114の各ステップが、ゲルに保持された状態で行われる。
このとき、予めゲル電気泳動法による分離がなされてもよい。電気泳動の後、ゲル中に保持されたペプチドをゲルから単離せず、ペプチドのC末端アミノ酸を逐次的に分解する反応をゲルに保持された状態で行う。
図4は、本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の決定方法の手順を示す図である。図4において、「アセチル化・トランケーション」は、図3のステップ113に対応する。また、図4の「水和反応」は、図3のステップ112に対応する。また、図4の「ゲル中での断片化」は、図3のステップ114に対応する。そして、図4の「MALDI−TOF−MS」は、図3のステップ103に対応する。以下、図3および図4を参照して各手順を詳細に説明する。
まず、予めゲル電気泳動法による分離がなされ、ゲル中に保持された状態のペプチド試料に対して、保護基の導入を伴うC末端の逐次分解を行う(S113)。このとき、ゲルを予め細片化しておく。たとえば、ゲル片の大きさを、0.5〜数mm角程度とすることができる。
また、ゲル中の水分を予め除去する。こうすることにより、ステップ113の反応を安定的に行うことができる。ゲル電気泳動法によって分離されたペプチドは、ゲル中に形成される細孔の内部に保持されている。このため、ゲル中に含浸された水を除去する際に、ゲル状物質の溶解を引き起こさず、かつ、水に対して親和性を有する極性非プロトン性溶媒を用いて、水溶媒のみを極性非プロトン性溶媒中に希釈、溶出する手法を利用することができる。この方法を用いると、脱水処理操作を終えた後も、分析対象のペプチドを、分離されたスポットまたはバンドとしてゲル中に保持された状態に維持できる。
ポリアクリルアミドゲル等の場合、脱水処理に利用する極性非プロトン性溶媒とゲルとの親和性は、水系溶媒とゲルとの親和性より一般に劣っている。このため、図4に示したように、ゲルに対して溶媒和し、ゲルの微細な穴構造の間隙サイズを維持していた水溶媒の除去とともに、嵩体積の減少が進む。
以下、ゲルの材料がポリアクリルアミドである場合を例に説明する。ゲル片の材料がポリアクリルアミドである場合、脱水に利用する極性非プロトン性溶媒として、水に対する親和性に富むアセトニトリル(CH3CN)などの炭素数4以下のニトリル類、アセトンなどの炭素数4以下のケトン類などを用いることができる。また、これらの極性非プロトン性溶媒は、水よりも蒸散し易い。極性非プロトン性溶媒が蒸散し、ゲルが乾固すると、その嵩体積が減少し、収縮する。
アセトニトリルを用いて脱水を行う場合、たとえば、ゲル片をアセトニトリル中に浸漬する操作を数回繰り返して行う。たとえば、ゲル片を室温にて20分間浸漬する操作を3回行う。このとき、ゲル片がCBB(クーマシーブリリアントブルー)等の色素により染色されていれば、溶媒置換に伴い色素が除去され、脱色する。このため、色の変化により溶媒置換の完了をおおむね把握することができる。
ステップ113では、ペプチドに保護基を導入するとともに、C末端のアミノ酸を逐次的に分解する。ペプチドへの保護基の導入と同時にC末端アミノ酸の逐次的な分解を同時に行う反応試薬として、アルカン酸無水物を用いる。具体的には、双極性非プロトン性溶媒中に、アルカン酸無水物を溶解してなる溶液を用いる。この溶液にゲル片を浸漬することにより、ゲル中に保持されたペプチドにアルカン酸無水物を作用させ、ペプチドのC末端において、上記式(III)で示される反応を生じさせることができる。この反応では、5−オキサゾロン構造を経て、5−オキサゾロン環の開裂に伴いC末端アミノ酸が逐次的に分解される。その際、アルカン酸無水物は、C末端カルボキシル基の活性化を行い、たとえば、上記式(Ib)に示される非対称型酸無水物を形成する。
アルカン酸無水物の双極性非プロトン性溶媒の溶液を用いることにより、パーフルオロアルカン酸などの反応性の高い酸を用いることなく、穏和な条件で逐次反応を進行させることができる。そして、もとのペプチドおよびもとのペプチドからC末端のアミノ酸が1〜n個(nは自然数)欠損したC末端欠損ペプチドの混合物が得られる。
また、一旦形成された5−オキサゾロン環から、たとえば、上記式(II')で示される反応などを経て、C末端のアミノ酸の離脱と、反応中間体の形成が進行する。そして、逐次的なC末端アミノ酸の選択的な分解が進むと推定される。このため、反応を終えた後得られる反応産物は、C末端にカルボキシル基が形成されているもの以外に、中間産物である5−オキサゾロン環構造に留まるものや、反応中間体の一形態として、C末端が非対称型酸無水物に至ったものも混入したものとなる。
ステップ102の逐次的なC末端アミノ酸の分解反応は、少なくとも、上記式(Ib)で例示される5−オキサゾロン環構造の形成過程と、上記式(II')で例示される5−オキサゾロン環構造の開裂による末端アミノ酸の分離過程との二段階の素反応から構成される。そのため、全体の反応速度は、これら各過程の反応速度の双方に依存するものの、アルカン酸無水物の濃度および反応温度に依存する。また、一連の反応産物は逐次的な反応で形成されるため、短縮されるC末端アミノ酸配列の最大長は処理時間が長くなるとともに延長される。
従って、C末端アミノ酸の逐次分解における処理時間は、主に、アルカン酸無水物の種類および濃度ならびに反応温度に応じて、また、解析すべきC末端アミノ酸配列の目標とするアミノ酸長をも考慮して、適宜選択することができる。
ペプチドのC末端カルボキシル基の活性化に利用されるアルカン酸無水物として、炭素数2〜6程度のアルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。こうすることにより、反応温度まで昇温した際に、適正な反応性が確保される。また、好ましくは、炭素数2〜4程度のアルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。こうすることにより、立体障害を低減することができる。また、対称型酸無水物として、炭素数2〜6程度の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。また、好ましくは、炭素数2〜4程度の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。こうすることにより、立体障害を低減することができる。さらに具体的には、炭素数2の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物、すなわち無水酢酸を用いることができる。
また、アルカン酸無水物は、C末端カルボキシル基の活性化を図り、5−オキサゾロン環形成に適する配置をとる上で、その配向における立体障害を生じることの少ない化合物とするとよい。その点でも、無水酢酸は好ましく用いられる。
なお、アルカン酸無水物は反応に従って消費されるため、予めゲルの膨潤に利用する双極性非プロトン性溶媒中に、ペプチドとの反応に消費される量に対して大過剰量を溶解しておき、その濃度低下を抑制することが望ましい。たとえば、図5に示した条件で逐次分解反応を行うことができる。反応溶液中のアルカン酸無水物の含有濃度を1体積%以上30体積%以下、好ましくは10体積%以上20体積%以下とすることができる。また、反応温度は、たとえば50℃以上、好ましくは60℃以上とすることができる。こうすることにより、逐次分解を効率よく行うことができる。また、反応温度をたとえば100℃以下、好ましくは80℃以下とすることができる。こうすることにより、逐次分解を安定的に行うことができる。
また、反応時間は、反応温度や双極性非プロトン性溶媒中に含有されるアルカン酸無水物の濃度に依存する。反応温度が高いほど反応速度は増し、より短い処理時間で、目標とする最長のアミノ酸配列短縮量を達成した一連の反応産物の調製が可能となる。また、極性非プロトン性溶媒を利用する脱水処理に伴って収縮したゲルの膨潤に要する時間をも考慮して、適宜選択することができる。たとえば、ポリアクリルアミドゲル(12.5質量%)に対してアセトニトリルを用いた脱水処理を施した後、後述するホルムアミドなどの双極性非プロトン性溶媒中に浸漬して、ゲルの再膨潤を達成するに要する時間は、40℃において3時間程度である。このため、全体の反応時間を、ゲルの再膨潤を終えた後、所望のアミノ酸残基数だけC末端アミノ酸の選択的な分解を達成するに要する時間を加えたものとすることができる。
たとえば、無水酢酸を用いる場合、図5に示したように、4〜110時間程度の反応時間とすることができる。このとき、たとえば、反応条件を50℃にて110時間、60℃にて50〜60時間、80℃にて24時間、100℃にて4時間等とすることができる。反応温度が低いほど、緩和な条件とすることができ、副反応をより一層抑制することができる。
一方、アルカン酸無水物を溶解させる双極性非プロトン性溶媒は、ゲルの脱水後、50〜90℃程度の温度においてゲル内に浸潤でき、膨潤状態に維持可能である溶媒とする。また、比較的分子サイズが小さく、ゲル片の材料に対する親和性に優れた有機溶媒が用いられる。上記式(I)に示した反応中のケト−エノール互換異性化の過程において、そのエノール体の比率を維持可能な高い双極性を示すとともに、溶質分子のアルカン酸無水物および反応副生成物であるアルカン酸に対して、優れた溶媒であってもよい。また、上述の反応温度において、揮発、蒸散することの少ない双極性非プロトン性溶媒が好ましい。
具体的には、ホルムアミド(HCONH2)などは、ポリアクリルアミドゲルを用いる際、以上に述べた要件すべてを充分に満足するものである。
なお、ステップ113において、アルカン酸無水物および反応副生成物であるアルカン酸に対して優れた溶解性をもたらす双極性非プロトン性溶媒は、水をも容易に溶解することが可能である。上記式(Ib)に示される反応中間体や、上記式(II')に示される非対称型酸無水物に変換されて、活性化されたC末端カルボキシル基は、反応系内に水分子が混入すると、加水分解を受け、もとの末端にカルボキシル基を有する構造に戻ってしまう。この不活性化過程を回避するため、双極性非プロトン性溶媒の溶液中での反応処理に際して、反応系を、水分を除去した乾燥雰囲気下に保つことが好ましい。
また、たとえば、対象とするペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、メチオニンに存在するイオウが、系内に混入する酸素により酸化を受け、その式量が変化することもある。この酸素による酸化を防止することにより、質量分析(S104)による分子量測定の確度を向上させることができる。
水分に加えて酸素も除去された乾燥雰囲気下に反応系を保つ方法として、たとえば、反応を行う系を気密状態とし、系外からの水分および酸素の浸入を防止するとともに、反応に用いる液体の注入および排出操作も、乾燥処理した窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で行う方法が挙げられる。また、酸化防止効果を有するDTTなどの還元性のスルファニル基(−SH)を含む化合物を利用して、酸化を回避することもできる。
また、C末端アミノ酸の逐次分解とともに行われるβ−OH基およびε−NH2基の保護は、たとえばそれぞれN−アシル化およびO−アシル化とすることができる。これらのアシル化は、たとえばアルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加してなる混合物中でゲル片を攪拌することにより行うことができる。このとき、アルカン酸無水物が求電子的なアシル化剤となる。また、アルカン酸は、そのプロトン供与能によってアシル化反応の促進を図る触媒となる。アルカン酸の有するプロトン供与能により、アルカン酸無水物とアミノ基およびヒドロキシ基との反応が促進されて、N−アシル化およびO−アシル化がともに達成される。なお、図4では、アシル化がアセチル化である場合が例示されている。
ここで、アルカン酸無水物は、双極性非プロトン性溶媒中で分極する。このため、ペプチドのアミノ基およびヒドロキシ基に対して、N−アシル化およびO−アシル化反応が進行する。また、N−アシル化およびO−アシル化反応に付随して、アルカン酸無水物由来のアルカン酸が副生すると、そのアルカン酸の示す触媒作用によって、N−アシル化およびO−アシル化反応の促進がなされる。
このように、本実施形態では、ゲル片中で副生するアルカン酸の拡散および散逸が速やかには進まない点を利用し、ゲル片内に留まっている副生したアルカン酸を、反応の促進を図る触媒として利用することができる。よって、後述する第三の実施形態の場合と異なり、反応試薬として、アルカン酸無水物のみを使用すればよい。このため、C末端の逐次分解反応とアシル化を同時に行うことができる。
リジン残基側鎖のアミノ基に対するN−アシル化保護は、ステップ114のトリプシン消化処理を行った際に、リジン残基のC末端側ペプチド結合での切断を防止する目的を有する。このため、後述する加水処理(S112)において、リジン残基側鎖上のN−アシル基が脱保護されないアシル基を選択するとよい。また、同時になされるO−アシル化保護については、ステップ112において脱保護が充分に進行するアシル基を選択するとよい。
次に、C末端アミノ酸の逐次分解反応およびアセチル化反応の停止は、反応系の温度を低下させるとともに、ゲル中に浸潤している反応試薬であるアルカン酸無水物を希釈、除去することにより行う。このとき、C末端アミノ酸の逐次分解反応に利用した混合溶液を、ゲルの材料の溶解を引き起こさず、アルカン酸無水物および双極性非プロトン性溶媒に対して親和性を有する極性非プロトン性溶媒を用いることができる。
反応試薬の希釈、除去に、混合溶液の調製に利用する双極性非プロトン性溶媒を利用することも可能である。また、エノール型中間体の安定化に寄与の少ない極性非プロトン性溶媒を用いてもよい。こうすることにより、反応式(Ib)で例示される5−オキサゾロン環構造の形成過程を確実に停止することができる。たとえば、反応試薬の希釈、除去の最終段階で、極性非プロトン性溶媒を利用する希釈、除去の操作を設けることができる。たとえばポリアクリルアミドゲルを用いる場合、極性非プロトン性溶媒として、アセトニトリルなどの炭素数4以下のニトリル類、アセトンなどの炭素数4以下のケトン類などを挙げることができる。
次に、後処理として、ステップ112にて、C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応の生成物に対する水和処理を行う。このステップも、一連の反応生成物を含むペプチド混合物がゲル中に保持された状態で実施する。C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応で得られる一連の反応生成物を含む混合物をゲル中に保持させた状態のまま、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物を溶解する水溶液にゲル片を浸漬する。こうすることにより、塩基性の窒素含有有機化合物の共存下でもとのペプチドおよびC末端が欠損したペプチドに水分子を作用させて、これらの加水処理がなされる。
この加水処理において、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物は、上記式(II')に示される5−オキサゾロン環構造および反応中間体(酸無水物)の加水分解反応を触媒する。また、自身が5−オキサゾロン環構造または反応中間体(酸無水物体)と反応して副生物を生じることの抑制が図られる。このため、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物は好適な塩基触媒として機能する。加水分解反応により、下記式(IV)に示すように、ペプチドのC末端にカルボキシル基が形成される。
Figure 0004289355
また、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物は、たとえば、残留しているC末端が非対称型酸無水物に至ったものと反応してアミド結合を形成することがなく、また、水溶液とした際均一な溶液とできるので好ましく用いられる。
塩基性含窒素芳香環化合物として、極性非プロトン性溶媒に高い溶解性を示す、単環式の含窒素芳香環化合物を利用することができる。具体的には、ピリジンまたはピリジン塩基等が好適に用いられる。また、第三アミン化合物としては、ピリジン塩基が示す比較的に弱い塩基性と同程度の塩基性を有するものが用いられる。第三アミン化合物として、具体的には、たとえば、DMAE(ジメチルアミノエタノール:(CH32N−CH2CH2OH)などが好適に利用される。
たとえばピリジンを用いる場合、水溶液全体の体積に対して、ピリジンを5体積%以上15体積%以下、より具体的には10体積%に選択することができる。また、DMAEを利用する場合、水溶液全体の体積に対して、DMAEを1体積%以上20体積%以下、より具体的には10体積%に選択することができる。
単環式の含窒素芳香環化合物や第三アミン化合物は、水溶液として、反応産物を保持しているゲルに作用させる。この後処理においては、親水性に富むゲル中に有機塩基を含有する水溶液が速やかに浸潤する。なお、速やかに加水反応を完了するためには、反応温度を50℃以上に選択することができる。また、密閉された反応容器内で反応を行う場合、反応容器内の機械的強度を考慮すると、100℃以下の範囲に選択することができる。
図5に示したように、たとえば、10v/v%以上20v/v%以下のDMAE水溶液を用い、50℃以上70℃以下の温度で30分以上120分以下水和反応を行うことができる。
この有機塩基を含有する水溶液を用いた加水処理は、反応産物のペプチド鎖のC末端にカルボキシル基を形成させることを主な目的としているが、ステップ113でなされたO−アシル化保護の脱保護がカルボキシル基の形成と同時に進行する条件が選択される。また、通常の反応条件では、ペプチドのN末端のアミノ基およびリジン残基側鎖のアミノ基に対するN−アシル基の脱保護が進行しない条件となっている。
なお、ゲル中に含浸される水溶液を、ゲルの溶解を引き起こさず、かつ、水に対して親和性を有する極性非プロトン性溶媒を用いて希釈除去することにより、ゲルの再脱水処理を施すとともに、加水処理に利用する塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物を水とともに希釈除去してもよい。こうすれば、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物が残存することが抑制される。このため、ペプチドのC末端に形成されたカルボキシル基に対して窒素塩基の付加塩が形成された物質の混在を抑制することができる。
再脱水処理においては、極性非プロトン性溶媒として、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物に対しても高い溶解性を有するものを用いることができる。たとえば、ポリアクリルアミドゲルを用いる際、再脱水処理用の極性非プロトン性溶媒として、アセトニトリルなどの炭素数4以下のニトリル類や、アセトンなどの炭素数4以下のケトン類などを挙げることができる。
また、C末端アミノ酸の逐次的分解反応の後、一旦、極性非プロトン性溶媒を利用する希釈、除去の操作を終えた後に加水処理を実施する方法に代えて、C末端アミノ酸の逐次的分解反応と加水処理とを連続して実施する方法としてもよい。
この場合、C末端アミノ酸の逐次的分解反応の反応温度を下げてその反応停止を図りつつ、有機塩基を含有する水溶液を加える。こうすると、アルカン酸無水物の不活化およびそのゲル中からの溶出が生じる。このため、C末端アミノ酸の逐次的分解反応の停止と、反応試薬の不活化、除去がなされる。引き続き、反応産物に対する加水処理を行い、最終的に、極性非プロトン性溶媒を利用する再脱水処理工程を施す。こうすれば、有機塩基を含有する水溶液とともに、アルカン酸無水物に対応するアルカン酸および双極性非プロトン性溶媒の除去と再脱水がなされる。このため、極性非プロトン性溶媒を利用する洗浄、除去操作を中間に設ける場合と、実質的に差異を持たない処理を簡便に行うことができる。
次に、ステップ114にて、もとのペプチドおよびそのC末端のアミノ酸残基が欠損したペプチドのトリプシン処理を行う。このステップでアミノ酸長が長いペプチド鎖を所定の位置で選択的に断片化することができる。そして、ステップ103において、断片化後回収されたトリプシン消化処理済みペプチド断片を含む乾燥混合物について、MALDI−TOF−MS法を利用し、イオン化処理で生じる陽イオン種による分子量測定および陰イオン種による分子量測定を行う。
ステップ114では、加水処理済みの一連の反応生成物を含む混合物に対して、再脱水処理後、ゲル中に保持された状態で、トリプシン消化処理の工程を行う。具体的には、トリプシンを溶解させた緩衝溶液中にゲル片を浸漬し、ゲル中のペプチド鎖にトリプシン酵素に特異的な消化処理を施す。このとき、ペプチドのN末端のアミノ基およびペプチド中のリジン残基側鎖のアミノ基に対しては、上述したN−アシル化が保持されている。このため、ペプチド中に存在するアルギニン残基のC末端側ペプチド結合にてペプチドが選択的に断片化される。
また、二次元電気泳動法や一次元電気泳動SDS−PAGE法などのゲル電気泳動法による分子量分離に利用されるゲルは、一定範囲以上のアミノ酸長を有するペプチドを保持する機能を有し、電気泳動速度に明確な差異を与える一方、ペプチドのアミノ酸長が閾値分子量より小さくなると、これを保持する機能が急速に失われる。
そこで、アミノ酸長の長いペプチ鎖を保持した状態を維持しながらC末端アミノ酸を逐次的に分解除去し、一連の反応産物を調製した後、トリプシン消化によってペプチドの断片化を行うことで、目的とする一群のC末端側のペプチド断片を、容易にゲル中から溶出させ、回収することができる。
ペプチドをアルギニン残基のC末端側ペプチド結合で選択的に切断すると、アミノ酸長の長いペプチド鎖から、複数個のペプチド断片が生成する。その際、目的とする一群のC末端側ペプチド断片は、通常、もとのペプチド鎖の、数分の1のアミノ酸長となるため、ゲルから遊離し、トリプシン溶液中に溶出する。その後、脱塩処理を施し、緩衝溶液成分を除去して、トリプシン消化処理済みペプチド断片を回収し、乾燥する。
ステップ103の質量分析では、C末端アミノ酸の逐次的な除去により調製される一連の反応産物の分子量と、もとのペプチドの分子量との差異を、質量分析法による測定結果を利用して決定し、その分子量差に相当するアミノ酸を特定する。従って、通常、質量分析法による測定に供する混合物中に、もとのペプチドに由来する断片も、その分子量の特定が可能な程度残存する状態とすることができる。このため、ステップ113のペプチドの逐次分解の条件を、ステップ104におけるアミノ酸配列の分析に充分な程度のペプチドが残存する条件とすることができる。
また、ステップ104において、C末端が欠損したペプチドとともに、もとのペプチドを断片化することができる。こうすれば、もとのペプチドのC末端側の断片と、C末端から所定の数のアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドのC末端側の断片とをともにステップ103において質量分析に供することができる。
質量分析を行うことにより、たとえば、C末端アミノ酸配列として、最大10数アミノ酸長程度までの解析を行うことができる。その際、対応する最大10数種におよぶ一連の反応産物の含有比率として、最小の含有比率を有するものが最大含有比率のものの少なくともたとえば1/10程度を下回らない状態とすることができる。また、もとのペプチドの残存量も、最大含有比率の反応産物に対して、少なくとも、1/10程度を下回らない状態とすることができる。一方、必要とするC末端アミノ酸配列の情報は、通常、10アミノ酸以内となることが多い。そこで、たとえば、10アミノ酸程度の分解が進む程度に処理時間を選択すると、上述の含有比率に関する条件を好適に満たすことができる。
また、質量分析による分子量の測定に、MALDI−TOF−MS装置を利用することができる。こうすれば、高分子量のペプチド鎖に関しても、その分子量を精度よく測定することができる。なお、MALDI−TOF−MS装置を用いる際に、ペプチドのアミノ酸長の最大は、30〜50アミノ酸を超えない範囲とすることができる。こうすれば、ペプチド断片を確実にイオン化し、高い精度で測定を行うことができる。
また、C末端アミノ酸の除去がなされていないペプチドの分子量は、4000を超えない範囲、好ましくは、3000を超えない範囲とすることができる。こうすることにより、分子量差に基づいて対応するアミノ酸の特定を行う際に、たとえば、AsnとAsp、GlnとGluのように、式量の差異が1のアミノ酸残基相互の区別を高い精度で行うことができる。また、これをアミノ酸長に換算すると、40アミノ酸を超えない範囲、好ましくは、30アミノ酸を超えない範囲とすることができる。
本実施形態では、ステップ114において、トリプシン処理を行うため、目的とするC末端側ペプチド断片のアミノ酸長は、上述するMALDI−TOF−MS装置を利用する際、適当とされるアミノ酸数の範囲内とすることが可能である。このため、タンパク質などの長いアミノ酸長のペプチドについても、C末端アミノ酸の逐次的な除去により調製される一連の反応産物の分子量と、もとのペプチドの分子量との差異を確実に測定することができる。また、トリプシン処理の際に、アルギニン残基のC末端側ペプチド結合が選択的に切断されるため、得られるペプチド断片の総数が必要以上に多くなることを回避できる。
ステップ104のアミノ酸配列の分析においては、ステップ103における陽イオン種によるMALDI−TOF−MS測定および陰イオン種によるMALDI−TOF−MS測定の結果を用いる。このとき、陽イオン種による分子量測定において、トリプシン消化処理で生成したC末端にアルギニン残基を有するペプチド断片のピークは、アルギニン残基に起因して、陰イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定することができる。また、もとのペプチドのC末端側のペプチド断片およびC末端アミノ酸を逐次的に分解して得られる一連のC末端欠損ペプチドのC末端側のペプチド断片にはアルギニン残基が存在しない。このため、これらのペプチド断片のイオン種のピークは、陰イオン種による分子量測定における強度は、陽イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定することができる。
このように、一連のC末端側のペプチド断片に対応する陰イオン種は、陰イオン種による分子量測定において相対的に大きな強度を与えるため、陰イオン種により測定された分子量に基づいて、C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を簡便な方法で容易に把握することができる。このため、もとのペプチドからC末端1残基欠損ペプチド、C末端2残基欠損ペプチド、以下、順次C末端n残基欠損ペプチド(nは自然数)までの各C末端欠損ペプチドについて、アミノ酸残基1個の欠損により生じる分子量の減少量を算出し、この減少量をアミノ酸残基の分子量と比較すれば、C末端からのアミノ酸配列を決定することができる。
なお、本実施形態において、グルタミン残基とリジン残基は同一の式量を有するものの、リジン残基の側鎖にN−アシル化を施すため、両者の識別が可能となっている。
また、C末端アミノ酸を除去する反応では、上記式(Ib)に示したように、アミド結合のエノール型への変換と、それに続く、5−オキサゾロン環構造の形成が必須であり、アミド結合を構成するカルボニル基(C=O)とイミノ基(−NH−)が存在しない環状アミノ酸であるプロリン残基がC末端アミノ酸となった時点で分解反応が停止する。このため、処理時間を延長した際に、それ以上のC末端アミノ酸の除去が起きないことを確認することで、その要因となるアミノ酸残基がプロリンと推定することが可能である。
また、仮に、ペプチド中のセリン残基やトレオニン残基に存在するヒドロキシ基、N末端のアミノ基、リジン残基のε位のアミノ基に対して、ステップ113においてO−アシル化、N−アシル化保護がされなくとも、C末端アミノ酸の逐次分解においてペプチドにアルカン酸無水物を作用させるため、逐次分解反応中に、これらO−アシル化、N−アシル化反応も併行的に進行する。そのため、セリン残基やトレオニン残基に存在するヒドロキシ基に起因する、N,O−アシル転位反応等の副反応に対する競争的な阻害効果が達成される。C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応工程と同時に、O−アシル化、N−アシル化保護を行う条件を選択することにより、ペプチドの分断をより確実に防止することができる。このため、本実施形態の方法は、ペプチド断片の分子量をより一層確実に把握することができる方法となっている。
また、最終的に得られる反応産物において、セリン残基やトレオニン残基にアセチル化がなされたものが多数混入していると、多アセチル化体と、脱アセチルがなされたものとの分子量差は、式量42の整数倍、具体的には、84、126、168は、セリン残基(−NH−CH(CH2OH)−CO−))の式量87、グルタミン残基(−NH−CH(CH2CH2−CONH2)−CO−)の式量128、グルタミン酸残基(−NH−CH(CH2CH2−COOH)−CO−)の式量129、N−アセチルリジン残基(−NH−CH(CH2CH2CH2CH2NH−COCH3)−CO−)の式量170と類似しており、場合によっては、多アセチル化体を主なピークと誤認し、脱アセチルがなされたものを、アミノ酸の除去がなされたものとする懸念がある。
本実施形態では、後処理のステップにおける加水処理において、セリン残基やトレオニン残基におけるO−アシル化保護に対する脱保護が充分に進行する条件が選択されている。このため、各ピークの同定を確実に行うことができる。また、残留しているアセチル基数の差と、類似する式量を示すアミノ酸残基の間では、式量差が2〜3である。本実施形態では、ペプチド断片化を行った後、分子量の測定を行うことで、測定される分子量を、式量差が1であるグルタミン残基とグルタミン酸残基との識別が可能な分析精度の測定がなされる範囲としているため、ピークの誤認を抑制することができる。
また、本実施形態の方法では、多種のタンパク質を含む試料中から、たとえば、二次元電気泳動法や一次元電気泳動SDS−PAGE法などの、ゲル電気泳動法によって分析対象のタンパク質を分離する。このため、分離されたタンパク質に関しては、そのおおよその分子量は推定できる。よって、分離されたスポット(または、バンド)部分のゲルを切り出し、ゲルに保持した状態で、推定された分子量に応じてトリプシン処理等の断片化処理を含めた一連の化学的処理を行い、質量分析に適した断片を簡便な方法で得ることができる。
また、本実施形態では、ゲル上に保持された状態の対象とするペプチド試料にアルカン酸無水物を作用させることで、N−アシル化、O−アシル化を達成している。この双極性非プロトン性溶媒中での液相反応は、プロトン供与能を有するアルカン酸の酸触媒作用を利用しなくとも、充分に進行する。よって、あらかじめ分離されたスポット(または、バンド)から分析対象のタンパク質を単離回収する操作を省き、簡便に分析を行うことができる。また、単離回収工程における回収収率に影響されることなく、同等の確度で、C末端アミノ酸配列の決定を実施することが可能である。
なお、本実施形態において、ゲル電気泳動法として、一次元方向に電気泳動をなす従来のSDS−PAGE法はもちろんのこと、二次元泳動法を適用したものでもよい。二次元泳動法を適用して分離されるペプチド試料は、夾雑物の混入がさらに抑制されているため、より一層少ないサンプル量であっても、本実施形態に係る方法によってそのC末端アミノ酸配列を確実に決定することができる。
また、予めゲル電気泳動法による分離を行う場合、対象とするペプチド中に、分子内におけるシステイン残基相互間で−S−S−結合を形成するものは、2−スルファニルエタノール(HS−C22−OH:2−メルカプトエタノール)、DTT(ジチオトレイトール:トレオ−1,4−ジスルファニル−2,3−ブタンジオール)などの還元性試薬を添加して、還元状態で電気泳動を行い、単一のスポットを得てもよい。また、分子内におけるシステイン残基相互間での−S−S−結合を予め還元し、さらに、還元型のシステインに対してヨード酢酸などを用いたカルボキシメチル化などの処理を行い、単一のスポット化を行ってもよい。このように、分子内におけるシステイン残基相互間での−S−S−結合を形成していない鎖状ペプチドとすることで、トリプシン消化(S114)をさらに効率的に行うことができる。
また、本実施形態において、ステップ113を、ペプチドへの保護基の導入を行う前処理のステップと、C末端アミノ酸の逐次分解を行うステップの2段階としてもよい。
この場合にも、前処理のステップでペプチドのN−アシル化およびO−アシル化反応を行う反応試薬として、求電子的なアシル化剤であるアルカン酸無水物が用いられる。アルカン酸無水物は、たとえば30〜80℃程度の温度でリジン残基側鎖のアミノ基に対するN−アシル化の反応性を有する物質とする。具体的には、炭素数2〜6程度のアルカン酸由来の対称型酸無水物を利用することができる。また、立体障害の低減の観点からは、炭素数2〜4程度のアルカン酸由来の対称型酸無水物が好ましく用いられる。
また、炭素数2〜6程度の直鎖アルカン酸由来の対称型無水物を利用することができる。また、立体障害の低減の観点からは、炭素数2〜4程度の直鎖アルカン酸由来の対称型無水物が好ましく用いられる。対称型のアルカン酸無水物を利用すると、副生するアルカン酸も同一種とすることができる。アルカン酸無水物とアルカン酸とを同一種とすることにより、N−アシル化およびO−アシル化反応の進行する間に仮にアシル基交換反応が生じても、最終的に得られるN−アシル化およびO−アシル化保護に、異なるアシル基が混在しないようにすることができる。このため、仮に、ステップ112における加水処理において、O−アシル化保護の脱保護が達成されないものが一部残留した場合にも、脱保護されたものとの分子量差は、予め判明しており、夾雑物に由来するピークの同定を容易に行うことができる。このようなアルカン酸無水物として、たとえば無水酢酸を用いることができる。
また、双極性非プロトン性溶媒はゲルの再膨潤を起こさせる溶媒とすることができる。このため、比較的に分子サイズが小さく、ゲルの材料に対する親和性に優れた有機溶媒を用いることができる。また、N−アシル化、O−アシル化の反応過程において、アルカン酸無水物の分子内分極を誘起可能な、高い双極性を示す溶媒とすることができる。また、前処理反応を行う温度において、揮発、蒸散することの少ない双極性非プロトン性溶媒とすることができる。たとえば、ホルムアミド(HCONH2)などは、ポリアクリルアミドゲルを用いる際に、以上に述べた要件すべてを充分に満足するものである。
双極性非プロトン性溶媒中では、アルカン酸無水物の分子内分極が誘起され、求電子反応試薬として、ペプチドのアミノ基に作用する。このため、30℃程度の温度以上の比較的低温中でも、充分にN−アシル化反応は進行する。通常、反応の促進を図るためには、反応温度をたとえば50℃以上に選択することができる。また、密閉された反応容器内でアシル化反応を行う場合、反応容器内の機械的強度を考慮すると、たとえば100℃以下の範囲に選択することができる。
以上より、たとえば、20v/v%無水酢酸のホルムアミド溶液を用い、50〜60℃程度の温度で2〜4時間程度アセチル化を行うことができる。こうして前処理を行った後、上述したステップ113の条件でC末端アミノ酸の逐次分解を行う。
(第二の実施形態)
第一の実施形態で説明した分析方法においては、アルカン酸無水物を用いた緩和な条件でC末端の逐次分解(S113)が行われる。このため、特に低温で逐次分解反応を行う場合、反応時間が長くなる。本実施形態では、第一の実施形態において、反応促進剤を添加することにより、逐次分解の反応時間を短縮する方法について説明する。
反応促進剤として塩基性含窒素芳香環化合物を用いる。塩基性含窒素芳香環化合物として、たとえばピリジン塩基またはその誘導体等を用いることができる。ピリジン塩基はプロトン受容体として機能するため、たとえば、アミノ基へのアシル化に伴い離脱すべきプロトンの除去がより速やかになされる。ピリジン塩基として、具体的には、たとえば、ピリジン、ピコリン(メチルピリジン)、ルチジン(ジメチルピリジン)、コリジン(トリメチルピリジン)、エチルメチルピリジン、パルボリン(テトラメチルピリジン)等を用いることができる。また、塩基性含窒素芳香環化合物として、縮合環系のアザアレーンを用いてもよい。具体的には、たとえば、キノリン、イソキノリン、インドール等の2環式塩基性含窒素芳香環化合物またはその誘導体を用いることができる。また、たとえば、ベンゾキノリン、ベンゾイソキノリン、アクリジン等のアザアントラセンやフェナントリジン等の3環式塩基性含窒素芳香環化合物またはその誘導体を用いることもできる。
図6は、本実施形態に係るC末端アミノ酸配列の分析手順を示す図である。図6の手順の基本構成は図4と同じであるが、ゲルの脱水の前にゲルをピリジン水溶液に浸漬する点が異なる。ゲルをピリジン水溶液に浸漬した後、脱水することにより、トランケーション(図3のステップ113)を促進することができる。これは、溶媒置換後も、ゲル中に微量のピリジンが保持されることによると推察される。
ゲルを予め浸漬するピリジン水溶液中のピリジンの濃度は、たとえば1v/v%以上40v/v%以下、好ましくは10v/v%以上30v/v%以下とすることができる。こうすることにより、C末端の逐次分解の速度を確実に増加させることができる。また、浸漬は、室温中で20分間を3回繰り返して行うことができる。このとき、ゲルがCBB等によって着色されている場合、その脱色の程度を観察して溶媒置換の程度を目視により把握することができる。たとえば、ゲルがほぼ脱色した段階で溶媒置換を終了することができる。
たとえば、1v/v%のピリジンにゲルを予め浸漬した場合、ステップ113の反応条件を、50〜80℃にて10〜20時間程度に短縮することができる。また、たとえば、20v/v%のピリジンにゲルを予め浸漬した場合、ステップ113の反応条件を、50〜80℃にて5分〜4時間程度にまで、さらに具体的には、60℃にて10分〜1時間程度にまで短縮することができる。塩基性含窒素芳香環化合物にゲルを浸漬しておくことにより、ピリジンを用いない図5に示した条件と比較して、ステップ113の顕著な時間短縮が可能となる。
なお、ステップ102の逐次反応を促進する方法として、反応促進剤を添加する方法に代えて、反応を加圧条件にて行う方法を採用することもできる。このとき、反応溶液に浸漬させたゲルを、加圧チャンバ内に設置し、たとえば300〜800MPa程度、より具体的にはたとえば600MPa程度の圧力を加えることにより、分解反応の促進が可能である。
(第三の実施形態)
以上の実施形態において、逐次分解を行う前に、架橋剤を用いてゲル中に存在するタンパク質同士を架橋し、ネットワークを形成させてもよい。このようにすれば、タンパク質からのゲルからの溶出を抑制することができる。このため、ゲル中でのC末端逐次分解反応において、ゲル中からサンプルが溶出することを抑制することができる。よって、図1〜図3を参照して前述したステップ103の質量分析におけるペプチド由来のシグナルの強度を向上させることができる。したがって、図1〜図3に示したステップ104のアミノ酸配列の分析における分析確度、分析精度をさらに向上させることができる。
架橋剤としては、たとえば、両末端に結合基をもつ化合物を用いることができる。また、たとえば、フォルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド基をもつ化合物も効果的に使用できる。これらのアルデヒド基を有する化合物は、それら自身が重合してさまざまな長さの鎖となる。また、重合したアルデヒド鎖の両端や途中に存在するアルデヒド基がタンパク質中のリジン残基と結合してネットワークを形成する。このため、網目構造をもつゲル内でタンパク質同士が架橋されて、網目構造が形成される。これにより、ゲルとタンパク質とが絡まりあって、タンパク質の溶出を抑えることが可能となる。
なお、架橋反応においては、架橋剤の反応性を考慮して、ペプチドのC末端付近に存在するリジン残基の架橋反応が抑制された条件を選択するとよい。こうすれば、ステップ103の質量分析において、分析対象ペプチドに由来するシグナルの強度をさらに充分に確保することができる。
架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用した場合、たとえば図1におけるステップ101のC末端の逐次分解の前に、たとえば1pmol/μL以上1000nmol/μL以下の濃度のグルタルアルデヒド水溶液中にゲルを30分以上2時間以下の時間浸漬することにより、グルタルアルデヒドによる固定化を行うことができる。なお、グルタルアルデヒドを架橋剤として用いる場合の反応条件については、後述する実施例においてさらに詳細に説明する。
(第四の実施形態)
本実施形態では、分析対象のペプチドが乾燥試料である場合の分析手順について説明する。このようなペプチドとして、たとえば、あらかじめ単離生成されたタンパク質の乾燥試料を用いることができる。本実施形態では、第一の実施形態で用いたゲル中に反応試薬を浸潤させて液相反応を行わせる手法に代えて、乾燥蒸気を供給する手法を用いる。
本実施形態においても、ステップ113(図3)のβ−OH基およびε−NH2基の保護を、たとえばそれぞれN−アシル化およびO−アシル化とすることができる。また、本実施形態においては、ステップ113を、N−アシル化およびO−アシル化およびC末端アミノ酸の逐次分解の2段階の手順で行う。このため、N−アシル化およびO−アシル化は、C末端アミノ酸の逐次分解の前処理に相当する。
本実施形態においても、N−アシル化およびO−アシル化は、具体的には、たとえばアセチル化とすることができる。アシル化反応は、たとえば、分析対象のペプチドの乾燥試料に対して、乾燥雰囲気下、10〜60℃程度の温度において、アルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加してなる混合物より供給される、蒸気状のアルカン酸無水物とアルカン酸とを作用させることで行うことができる。こうすることにより、ペプチドの切断等の副反応を引き起こすことなく、N−アシル化保護を施すことが可能となる。
また、ペプチド中に存在するセリン残基およびトレオニン残基側鎖のヒドロキシ基においてもO−アシル化反応が進み、その保護がなされる。その他、ペプチド中に存在するチロシン残基側鎖のフェノール性ヒドロキシ基も、その反応性は相違するものの、部分的にO−アシル化がなされる。このため、リジン残基側鎖のアミノ基、セリン残基およびトレオニン残基側鎖のヒドロキシ基をいずれも保護し、副反応に関与できない状態にすることができる。
アルカン酸無水物とアルカン酸の蒸気の供給方法は、たとえば、気密状態の反応容器内で、10℃〜60℃程度の温度に反応容器全体を加熱、保温して、アルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加してなる混合物から蒸散させる方法とすることができる。
このとき、アルカン酸およびアルカン酸無水物として、10℃〜60℃程度の温度で、所望の分圧を達成できる物質を用いることが好ましい。アルカン酸無水物として、具体的には、たとえば、第一の実施形態に記載の物質を用いることができる。
また、対称型のアルカン酸無水物は、少量添加されるアルカン酸に由来する対称型無水物であることがさらに好ましい。こうすることにより、アルカン酸無水物とアルカン酸とを同一種とすることができる。具体的には、たとえば、無水酢酸と酢酸の組み合わせなどを用いることができる。
また、ステップ113において、前処理の後に実施するC末端アミノ酸の逐次分解で利用するアルカン酸無水物と、同じアルカン酸無水物を用いてもよい。こうすれば、一連の反応における蒸気圧を好適に維持することができる。
また、アルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加してなる混合物中における、アルカン酸の添加比率は、アルカン酸無水物とアルカン酸との合計した体積に対して2〜10体積%の範囲とすることができる。具体的には、たとえば、アルカン酸の添加比率を5体積%とすることができる。
なお、前処理の反応温度は、たとえば上述したように10℃以上60℃以下の温度とする。また、反応温度を室温付近、あるいは、室温より僅かに高い範囲内に選択することができる。たとえば、15℃以上50℃以下とすることができる。
また、アシル化反応の速度は、利用されるアルカン酸無水物とアルカン酸の分圧(気相濃度)および反応温度に依存する。このため、前処理の反応時間は、主に反応温度に応じて、適宜選択することができる。たとえば、反応温度を50℃に選択する際には、反応時間を1時間以内、たとえば、30分間に選択することができる。また、アルカン酸無水物とアルカン酸とによるアシル化反応を促進する目的で、触媒量のピリジン、たとえば、アルカン酸無水物とアルカン酸の合計に対して、0.1体積%以上1.0体積%以下のピリジンを添加してもよい。ピリジン塩基はプロトン受容体として機能するため、これを添加することにより、アミノ基へのアシル化に伴い離脱すべきプロトンの除去がより速やかになされる。
また、分析対象のペプチドが、たとえば、隣接するペプチドのシステインとの間で、酸化型の−S−S−結合を形成する場合や、同一分子内で−S−S−結合を形成しているシステインを含む場合には、予め常用の還元処理を施して架橋を解消し、還元型のシステインを含むペプチドに変換してもよい。また、ペプチド中に存在する還元型のシステインに対しては、その側鎖のスルファニル基(−SH)にカルボキシメチル化やピリジルエチル化などを施し、予めその保護を行ってもよい。
たとえば、分析対象のペプチドがタンパク質である場合のように、ペプチドが二次構造、三次構造を構成している場合には、予め、デフォールディング処理を行うことができる。ペプチドの高次構造を予め破壊しておくことにより、N末端のアミノ基をN−アシル化保護する条件において、ペプチド中に存在するリジン残基側鎖のアミノ基のN−アシル化を確実に進行させることができる。また、タンパク質が分子内で−S−S−結合を形成しているシステインを含む可能性を有する場合には、予め常用の還元処理を施して架橋を解消し、還元型のシステインを含むペプチドに変換してもよい。また、ペプチド中に存在する還元型のシステインに対しては、その側鎖のスルファニル基(−SH)にカルボキシメチル化やピリジルエチル化などを施し、予めその保護を行うことができる。
また、前処理における反応手順は、気密状態とできる反応容器内に、アルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加した液状混合物を入れ、この液状混合物を一旦冷却して、蒸気圧を低下した状態で、反応容器内を排気し、密閉して、反応温度まで昇温し、容器内にアルカン酸無水物を蒸発させる手法を用いてもよい。この手順を採用することにより、反応容器内への水分の混入をより一層確実に防止することができる。
また、反応系内に酸素が残留しないように真空排気を行ってもよい。こうすれば、対象とするペプチドがメチオニン残基を有する場合にも、メチオニン残基中に存在するイオウが酸素により酸化を受けてその式量が変化することを防止することができる。このため、分子量の測定における高い確度が達成される。
なお、前処理において、少量のピリジン蒸気を共存させてもよい。こうすることにより、ペプチドのC末端カルボキシル基に対してピリジン塩基が弱い付加塩を形成し、上記反応式(Ia)で示されるC末端カルボキシル基の活性化反応やそれに起因する副反応に対する保護効果を持たせることが可能である。付加塩型の保護には、ピリジン塩基など、減圧下に簡単に留去可能で、弱塩基性の含窒素複素芳香環化合物を用いることができる。この付加塩型の保護は、前処理のステップを終える際にドライアップ操作を設けて、減圧下、ピリジン塩基の除去を行うことで、簡便に脱保護される。また、付加塩型の保護は、アミノ酸側鎖のカルボキシル基に対する保護機能を有するため、アミノ酸側鎖のカルボキシル基に起因する不要な副反応をも同時に抑制することができる。
前処理反応を終えた後、反応容器内に残余する反応試薬を除去した後、C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応に移行する。
この反応では、N−アシル化保護済みのペプチドの乾燥試料に対して、乾燥雰囲気下で、たとえば50℃以上100℃以下の範囲に選択される温度において、たとえば4時間以上110時間以下の時間、蒸気状のアルカン酸無水物を作用させる。すると、上記式(III)に示される5−オキサゾロン構造を経て、5−オキサゾロン環の開裂に伴いC末端アミノ酸の分解反応が生じる。
アルカン酸無水物として、反応温度まで昇温した際に適正な蒸気圧を生じる限り、種々のものが利用可能である。上述の反応温度に選択する際に、充分な蒸気圧を与えるものが好ましい。たとえば、炭素数2〜6のアルカン酸の対称型酸無水物、好ましくは炭素数2〜4のアルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。対称型酸無水物として、たとえば、炭素数2〜6の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物、好ましくは炭素数2〜4の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物を用いることができる。具体的には、炭素数2の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物、すなわち、無水酢酸とすることができる。また、アルカン酸無水物は、C末端カルボキシル基の活性化に利用されるため、その際、立体障害を生じることの少ないものが好ましく、その点でも、無水酢酸は好ましく用いられる。
なお、本実施形態においても、第一の実施形態の場合と同様に、アルカン酸無水物によるペプチドのN末端のアミノ基に対するN−アシル化がこのステップにおいても生じ、系内においてN−アシル化保護がなされるものの、予め前述の方法で前処理を行うとよい。
また、アルカン酸無水物は反応に従って消費されるため、蒸気状態として供給するアルカン酸無水物の蒸気圧を所定の範囲に維持しつつ反応を行ってもよい。その手段として、反応を行う系を気密状態とし、系内に存在するアルカン酸無水物の蒸気圧を安定化する方法が用いられる。具体的には、たとえば、気密状態とできる反応容器内にアルカン酸無水物を入れ、これを一旦冷却して、蒸気圧を低下した状態で、反応容器内を排気し、密閉して、反応温度まで昇温し、容器内にアルカン酸無水物を蒸発させる手法が用いられる。こうすることにより、反応容器内への水分の混入を防止できる。
また、この分解反応に利用される、5−オキサゾロン環が、系外から進入した水分により加水されて元に戻ることを回避するため、反応は乾燥雰囲気下で行う。その観点から、一般に、密閉された反応容器内で反応を行うことができる。
なお、このステップにおいても、真空排気を行うと、反応系内の酸素を除去し、ペプチドのメチオニン残基中のイオウの酸化を抑制することができる。このため、分子量の測定における高い確度が達成される。
また、一旦形成された5−オキサゾロン環から、たとえば、上記式(II')で表記される反応等の反応を経て、C末端のアミノ酸の離脱および反応中間体の形成を進行して、逐次的なC末端アミノ酸の選択的な分解が進むと推定される。従って、分解反応により得られる反応産物は、C末端にカルボキシル基が形成されているもの以外に、中間産物である5−オキサゾロン環構造に留まるもの、あるいは、反応中間体の一形態として、C末端が非対称型酸無水物に至ったものも混入したものとなる。
逐次的なC末端アミノ酸の選択的な分解処理工程における反応は、少なくとも、反応式(Ib)で例示される5−オキサゾロン環構造の形成過程と、反応式(II')で例示される5−オキサゾロン環構造の開裂による末端アミノ酸の分離過程との二段階の素反応から構成される。そのため、全体の反応速度は、これら各過程の反応速度の双方に依存するものの、主に、利用するアルカン酸無水物の蒸気分圧(気相濃度)および反応温度に依存している。
また、一連の反応産物は逐次的な反応で形成されるため、もとのペプチドから順次除去されるC末端アミノ酸配列の最大長は、処理時間が長くなるとともに、延長される。
従って、C末端アミノ酸の逐次分解反応の時間は、主に、利用するアルカン酸無水物の蒸気分圧(気相濃度)および反応温度に応じて、また、解析すべきC末端アミノ酸配列の目標とするアミノ酸長をも考慮して、適宜選択することができる。
反応温度が高いほど反応速度は増し、より短い処理時間で、目標とする最長のアミノ酸配列短縮量を達成した一連の反応産物の調製が可能となる。たとえば、反応条件を50℃にて110時間、60℃にて50〜60時間、80℃にて24時間、100℃にて4時間等とすることができる。反応温度が低いほど、緩和な条件とすることができ、副反応をより一層抑制することができるため、好ましい。
次に、ステップ112において、後処理工程として加水処理を行う。まず、一連のC末端欠損ペプチドともとのペプチドの混合物に対して、残余するアルカン酸無水物を乾燥状態において除去する。そして、蒸気状の塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物と水分子を供給して、ペプチドのC末端のアミノ酸残基にカルボキシル基を形成させる。
また、このとき、ペプチド鎖中に存在するセリン残基とトレオニン残基側鎖のヒドロキシ基およびチロシン残基側鎖のフェノール性ヒドロキシ基では、その脱保護も進行する。一方、リジン残基側鎖のアミノ基およびペプチド鎖N末端のアミノ基に対するN−アシル化保護は、脱保護を受けず、残留される。
加水処理の際には、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物の水溶液を用いることができる。また、単環式の含窒素芳香環化合物や第三アミン化合物は、水分子とともに蒸気として乾燥混合試料に作用させる。この後処理も密閉された反応容器内で反応を行うことが望ましい。塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物を蒸気とすると、残留しているC末端が非対称型酸無水物に至ったものと反応してアミド結合を形成しないようにすることができる。また、水溶液とした際に均一な溶液を容易に得ることができる。
塩基性含窒素芳香環化合物として、たとえば充分な蒸気圧を与えることができる単環式の含窒素芳香環化合物を用いることができる。具体的には、たとえば、ピリジンなどを用いることができる。また、第三アミン化合物として、ピリジン塩基が示す比較的に弱い塩基性と同程度の塩基性を有するものが用いられる。具体的には、たとえば、DMAEなどを用いることができる。
たとえば、水溶液全体の体積に対してピリジンを5〜15体積%程度、より具体的には、10体積%添加することができる。また、水溶液全体の体積に対してDMAEを1〜20体積%程度、より具体的には、10体積%程度添加することができる。
また、後処理では水分子を利用するため、その蒸気圧を一定以上とすることが必要となる。このため、たとえば、60℃以上の温度とすることができる。また、反応容器内の機械的強度を考慮すると、たとえば、100℃以下とすることができる。加水処理を速やかに完了するためには、たとえば100℃またはそれより若干低い温度とすることができる。
加水処理を施した後、塩基性の窒素含有有機化合物と水分子を除去し、乾燥する再乾燥後処理を行う。
なお、以上のステップ113およびステップ112の各ステップを、同一の反応器内で連続した形態で実施してもよい。また、各ステップを終えた段階で、ペプチド試料に、そのステップで利用した試薬の残留を回避するため、それぞれ、ドライアップ操作を設けることができる。このドライアップ操作は、減圧留去で行うことができる。また、その際、ステップ113にて分解されたC末端アミノ酸等の除去を同時に行ってもよい。
次に、ステップ114にて、もとのペプチドおよびそのC末端のアミノ酸残基が欠損したペプチドのトリプシン処理を行う。このステップでアミノ酸長の長いペプチド鎖を所定の位置で選択的に断片化することができる。トリプシン消化処理は、緩衝溶液中でペプチドにトリプシンを作用させることによって行うことができる。このとき、本実施形態においても、リジン残基側鎖のアミノ基に対するN−アシル化保護が保持されているため、N−アシル化保護リジン残基のC末端側ペプチド結合の切断は生じず、アルギニン残基のC末端側ペプチド結合の選択的な切断が起こる。トリプシン消化処理後、脱塩処理を施し、緩衝溶液成分を除去して、トリプシン消化処理済みペプチド断片を回収し、乾燥する。
これ以降の工程、すなわち、回収されたトリプシン消化処理済みペプチド断片を含む乾燥混合物について、MALDI−TOF−MS法を利用して、分子量測定およびその測定結果に基づくC末端アミノ酸配列の分析を行うステップ103およびステップ104の操作は、第一の実施形態と同様にして行うことができる。
本実施形態に係るペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法によれば、アルカン酸無水物を実質的に含む反応試薬を作用させるため、穏和な条件によりC末端のアミノ酸の選択的な分解を行うことができる。酸無水物の反応性が低いため、ペプチドのC末端以外におけるアミド結合の分断等の不要な副反応を抑制しつつ、ペプチドのC末端アミノ酸を逐次的に分解除去することが可能となる。このとき、C末端アミノ酸配列の分解は、5−オキサゾロン構造の形成と5−オキサゾロン環の開裂に伴うことが推定される。
また、分析対象のペプチドに対して、N末端アミノ基およびリジン残基側鎖のアミノ基に対してN−アシル化保護を行うとともに、セリン残基(−NH−CH(CH2OH)−CO−)やトレオニン残基(−NH−CH(CH(CH3)OH)−CO−)に存在するヒドロキシ基に対しても、O−アシル化保護を行う。このため、N−アシル化保護およびO−アシル化保護がなされた状態でC末端の逐次分解を行うため、副反応の生成をさらに確実に抑制することができる。
このように、本実施形態の方法では、ペプチドの途中におけるアミド結合の分断が抑制されるため、反応生成物中に、アミド結合の分断により派生するペプチド断片およびそのペプチド断片を起源とする反応産物が混入することを回避することができる。このため、ペプチドが乾燥試料である場合にも、緩和な条件で確実にC末端アミノ酸は配列の分析を行うことができる。
なお、本実施形態において、反応に用いる液体試薬それぞれを収納でき、試料容器中に保持されるペプチド試料に対して液体試薬を一定量づつ加えることが可能であって、試薬同士が直接接触しないように維持する液体試薬の保持機構を具えた反応装置を用いることができる。また、反応容器の内部を真空排気でき、また、反応終了後、残余する試薬を減圧下で除去することができ、反応時には気密構造とできる反応装置とすることができる。また、反応容器内で試薬の蒸気を発生させる際、容器壁と反応を生じることのない材質を用いることができる。このような反応容器として、たとえば、ガラスが好適に用いられる。また、密閉操作に利用されるコック類の材料として、たとえば、テフロン(登録商標)などが好適に利用される。
また、本実施形態の方法に第二の実施形態に記載の方法を適用し、C末端の逐次分解反応を促進することもできる。
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、以下の各態様も、本発明の範囲内として有効である。
(1)解析対象とするペプチドのC末端アミノ酸配列を解析する方法であって、
対象とするペプチドより、化学的手段によりC末端アミノ酸を逐次的に分解して得られる一連の反応生成物を含む混合物を調製する工程と、
前記一連の反応生成物と、前記ペプチドとの分子量差を、質量分析法により分析し、前記C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する工程と、
測定された一連の分子量減少量に基づき、逐次的に分解された一連のアミノ酸を特定し、C末端より配列させて、C末端のアミノ酸配列情報を得る工程とを具え、
前記C末端アミノ酸を逐次的に分解する工程は、
対象とする前記ペプチドの乾燥試料に対して、乾燥雰囲気下、10℃〜60℃の範囲に選択される温度において、
アルカン酸無水物にアルカン酸を少量添加してなる混合物より供給される、蒸気状のアルカン酸無水物とアルカン酸とを作用させ、
該ペプチドN末端のアミノ基および、該ペプチドに含有されている可能性のあるリジン残基側鎖のアミノ基に対して、前記アルカン酸無水物由来のアシル基によるN−アシル化を施す、N−アシル化保護を施すとともに、
前記N−アシル化保護済みの、対象とするペプチドの乾燥試料に対して、乾燥雰囲気下、50℃以上100℃以下の範囲に選択される温度において、
蒸気状のアルカン酸無水物を作用させ、
ペプチドのC末端において、上記一般式(III)で表記される5−オキサゾロン構造を経て、該5−オキサゾロン環の開裂に伴いC末端アミノ酸の分解を行う工程と、
前記C末端アミノ酸を逐次的に分解する工程で得られる一連の反応生成物を含む混合物に対して、
残余する前記アルカン酸無水物を乾燥状態において除去する後処理を施し、
次いで、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物を溶解する水溶液を利用し、蒸気状の塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物と水分子を供給して、
前記塩基性の窒素含有有機化合物の共存下、前記反応生成物ペプチドに水分子を作用させ、
前記の加水処理を施した後、前記一連の反応生成物を含む混合物に残余する、前記塩基性の窒素含有有機化合物と水分子を除去、乾燥する再乾燥後処理を行うことからなる加水処理の工程とを、少なくとも含んでなり、
前記C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する工程では、
再乾燥処理後、前記加水処理済みの一連の反応生成物を含む混合物に対して、
緩衝溶液中において、トリプシンを作用させ、該ペプチド鎖のN末端のアミノ基および、該ペプチド鎖に含有されている可能性のあるリジン残基側鎖のアミノ基に対する上記N−アシル化保護が保持されている、該ペプチド鎖のトリプシン酵素に特異的な消化処理を施して、該ペプチド鎖中に存在するアルギニン残基のC末端側ペプチド結合の選択的な切断によるペプチド断片化を行い、
脱塩処理を施し、前記緩衝溶液成分を除去して、該トリプシン消化処理済みペプチド断片を回収し、乾燥する工程を設け、
次いで、前記回収された該トリプシン消化処理済みペプチド断片を含む乾燥混合物について、MALDI−TOF−MS法を利用し、該イオン化処理で生じる陽イオン種による分子量測定および陰イオン種による分子量測定を行い、
前記陽イオン種による分子量測定および陰イオン種による分子量測定において測定される、対応するイオン種において、
前記トリプシン消化処理で生成するC末端にアルギニン残基を有するペプチド断片のピークは、陽イオン種による分子量測定における強度は、陰イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定し、
前記トリプシン消化処理で生成する、元となるペプチドに由来するC末端のペプチド断片および、C末端アミノ酸を逐次的に分解して得られる一連の反応生成物に由来するC末端のペプチド断片のピークは、陰イオン種による分子量測定における強度は、陽イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定し、
該陰イオン種による分子量測定において、相対的に大きな強度を与える一連のピークに基づき、C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する手法を採用することを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列解析方法。
(2) 前記アルカン酸無水物として、炭素数2〜4のアルカン酸の対称型酸無水物を用いることを特徴とする方法。
(3) 前記炭素数2〜4のアルカン酸の対称型酸無水物として、炭素数2〜4の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物を用いることを特徴とする方法。
(4) 前記アルカン酸無水物として、無水酢酸を用いることを特徴とする方法。
(5) 前記アルカン酸無水物を利用する処理に際して、前記乾燥雰囲気は、水分に加え、さらに酸素も除去された状態であることを特徴とする方法。
(6) 前記乾燥雰囲気は、気密容器内において、その内部の大気を真空排気することで、達成されていることを特徴とする方法。
(7) 前記アルカン酸無水物を利用する処理に際して、その温度は、50℃以上80℃以下の範囲に選択される温度とすることを特徴とする方法。
(8) 解析対象とするペプチドのC末端アミノ酸配列を解析する方法であって、
対象とするペプチドより、化学的手段によりC末端アミノ酸を逐次的に分解して得られる一連の反応生成物を含む混合物を調製する工程と、
前記一連の反応生成物と、元となるペプチドとの分子量差を、質量分析法により分析し、C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する工程と、
測定された一連の分子量減少量に基づき、逐次的分解された一連のアミノ酸を特定し、C末端より配列させて、C末端のアミノ酸配列情報を得る工程とを具え、
前記C末端アミノ酸を逐次的に分解する工程は、
予めゲル電気泳動法による分離がなされ、該ゲル担体上に保持された状態の対象とするペプチド試料に対して、前記ゲル担体中に含浸される水溶媒を、該ゲル状物質の溶解を引き起こさず、かつ、水に対して親和性を有する極性非プロトン性溶媒を用いて、希釈除去することにより、該ゲル担体の脱水処理を行う工程と、
前記脱水処理を施した後、該ゲル担体上に保持された状態の対象とするペプチド試料に対して、50℃以上100℃以下の範囲に選択される温度において、該ゲル状物質内に浸潤でき、膨潤状態に維持可能である、双極性非プロトン性溶媒中に、アルカン酸無水物を溶解してなる溶液を用いて、該アルカン酸無水物溶液中に該ゲル担体を浸漬することにより、保持された状態の対象とするペプチド試料にアルカン酸無水物を作用させ、
対象とするペプチドのN末端のアミノ基および、該ペプチド中に含有される可能性のあるリジン残基側鎖上のアミノ基に、予め、前記アルカン酸無水物を構成するアルカン酸に由来するアシル基によるN−アシル化保護を施しつつ、
ペプチドのC末端において、上記一般式(III)で表記される5−オキサゾロン構造を経て、該5−オキサゾロン環の開裂に伴うC末端アミノ酸の逐次的分解を行い、
前記C末端アミノ酸の逐次的分解反応に利用した混合溶液を、該ゲル状物質の溶解を引き起こさず、かつ、前記アルカン酸無水物および双極性非プロトン性溶媒に対して親和性を有する極性非プロトン性溶媒を用いて、希釈除去することにより、分解反応の停止と反応試薬の除去を行う工程と、
さらに、前記C末端アミノ酸を逐次的に分解する反応で得られる一連の反応生成物を含む混合物に対して、該ゲル担体上に保持された状態のまま、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミン化合物を溶解する水溶液を利用し、該水溶液中にゲル担体を浸漬することにより、前記塩基性の窒素含有有機化合物の共存下、前記反応生成物ペプチドに水分子を作用させ、加水処理を施すことからなる、付加的な加水処理の工程とを有し、
前記C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する工程では、
再脱水処理後、前記加水処理済みの一連の反応生成物を含む混合物に対して、
該ゲル担体上に保持された状態で、緩衝溶液中に溶解するトリプシンを作用させ、該ペプチド鎖のN末端のアミノ基および、該ペプチド鎖に含有されている可能性のあるリジン残基側鎖のアミノ基に対する上記N−アシル化保護が保持されている、該ペプチド鎖のトリプシン酵素特異的な消化処理を施して、該ペプチド鎖中に存在するアルギニン残基のC末端側ペプチド結合の選択的な切断によるペプチド断片化を行って、
前記ゲル担体上から該ペプチド断片の遊離と、前記緩衝溶液中への溶出を行い、その後、脱塩処理を施し、前記緩衝溶液成分を除去して、該トリプシン消化処理済みペプチド断片を回収し、乾燥する工程を設け、
次いで、前記回収された該トリプシン消化処理済みペプチド断片を含む乾燥混合物について、MALDI−TOF−MS法を利用し、該イオン化処理で生じる陽イオン種による分子量測定および陰イオン種による分子量測定を行い、
前記陽イオン種による分子量測定および陰イオン種による分子量測定において測定される、対応するイオン種において、
前記トリプシン消化処理で生成するC末端にアルギニン残基を有するペプチド断片のピークは、陽イオン種による分子量測定における強度は、陰イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定し、
前記トリプシン消化処理で生成する、元となるペプチドに由来するC末端のペプチド断片および、C末端アミノ酸を逐次的に分解して得られる一連の反応生成物に由来するC末端のペプチド断片のピークは、陰イオン種による分子量測定における強度は、陽イオン種による分子量測定における強度と比較して、相対的に大きな強度を与えるピークと判定し、
該陰イオン種による分子量測定において、相対的に大きな強度を与える一連のピークに基づき、C末端アミノ酸の逐次的分解に伴う分子量減少を測定する手法を採用することを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列解析方法。
(9) 前記アルカン酸無水物として、炭素数2〜4のアルカン酸の対称型酸無水物を用いることを特徴とする方法。
(10) 前記炭素数2〜4のアルカン酸の対称型酸無水物として、炭素数2〜4の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物を用いることを特徴とする方法。
(11) 前記アルカン酸無水物として、無水酢酸を用いることを特徴とする方法。
(実施例)
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、実施例の具体的な構成に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、ゲル中に保持されているタンパク質のC末端アミノ酸配列の解析を行った。タンパク質として、ウマ由来のミオグロビン(配列番号1)を用いた。ウマ由来のミオグロビンは、153アミノ酸からなるヘムタンパク質である。まず、分析対象試料となるミオグロビンを、SDS−PAGEにより単一スポットとした。その後、第一の実施形態に記載の方法(図4、図5)および第二の実施形態(図6)に記載の方法を用いてC末端アミノ酸配列の決定を行った。
(ゲル電気泳動法による単離)
まず、市販のウマ・ミオグロビン標品について、0.2μg/μLの濃度でグロビンペプチド鎖部分のみを含有するペプチド溶液を調製した。このペプチド溶液を、ゲル濃度12.5質量%のポリアクリルアミドゲル上にスポットし、電気泳動した。そして、CBB染色により、目的とするグロビンペプチド鎖のバンドを特定した。そして、染色バンド部のゲルを切り出して、C末端アミノ酸配列の分析に供した。
(ゲルの脱水)
切り出したゲル切片を1mm角にカットした。これを、気密性を有するチューブに入れて、アセトニトリル1mLを注入し、15分間攪拌した。その後、アセトニトリルをすてて、新たに、アセトニトリル1mLを注入し、さらに15分間攪拌した。このゲル中に含浸する水の抽出処理を合計3回行い、ゲルの脱水処理とした。脱水処理に伴い、ゲル体積の収縮が生じると同時に、ゲルの脱水処理がなされる。
(アセチル化およびC末端アミノ酸分解反応)
次いで、チューブ中で、脱水処理済みのゲル切片に、30体積%濃度の無水酢酸のホルムアミド溶液1mLを注入した。蜜栓したチューブを乾燥雰囲気下で攪拌しつつ、容器全体を50℃に加熱し、そのまま50℃で110時間保持した。
この加熱保持の間に、当初、体積収縮していたゲルは、ホルムアミドの浸潤に従って再膨潤した。この再膨潤したゲル中に保持されているグロビンペプチド鎖に対して、溶質の無水酢酸が、加熱温度で作用する結果、ペプチドのN末端アミノ基に選択的なアセチル化反応が進行する。また、ペプチド鎖内に含有される、リジン残基のε位のアミノ基へのN−アセチル化、同時に、セリン残基やトレオニン残基に存在するヒドロキシ基に対するO−アセチル化、チロシン残基(−NH−CH(CH2−C64−OH)−CO−)のフェノール性ヒドロキシ基へのO−アセチル化がなされる。
さらに、再膨潤したゲル中に保持されているペプチド鎖C末端に対して無水酢酸を加熱温度で作用させると、アセチル化と同時にペプチド鎖のC末端アミノ酸の選択的分解反応が進行する。具体的には、ペプチドのC末端において、上記式(Ia)、(Ib)および(II')の反応経路を経て、5−オキサゾロン環形成を介するペプチド鎖のC末端アミノ酸の逐次的分解反応が進行すると推定される。
C末端アミノ酸の逐次的な分解反応が進行すると、ゲル中には、段階的にC末端アミノ酸が除去された一連の反応産物と、アセチル化により保護されたもとのペプチドとが含まれた混合物が残される。
(後処理)
次いで、ゲル切片の入った容器内に、10体積%のDMAE水溶液1mLを注入し、20分間攪拌した。その後、DMAE水溶液をすてた。新たにDMAE水溶液1mLを注入し、さらに20分間攪拌した後、DMAE水溶液をすてた。このDMAE水溶液の注入、攪拌および除去の操作を合計3回行った。そして、新たにDMAE水溶液を注入して20分間攪拌した後、蜜栓した容器を攪拌しつつ、容器全体の温度を60℃に加熱し、この温度に1時間保持した。この再膨潤したゲル中に保持されているペプチドに対して、塩基性窒素含有有機化合物の存在下、水分子を加熱温度で作用させることで、加水処理が進行する。
後処理工程を終えた後、容器内に残留する水溶液を除去し、容器中にアセトニトリル1mLを注入し、15分間攪拌した。その後、アセトニトリルをすて、新たにアセトニトリル1mLを注入し、さらに15分間攪拌した。ゲル中に含浸する水溶液の抽出処理を、合計3回行い、再膨潤ゲル中の脱水処理とした。脱水処理に伴い、ゲル体積の収縮が生じた。
(トリプシン消化によるペプチド断片化)
ウマ・ミオグロビンのグロビンペプチド鎖は、153アミノ酸からなる(配列番号1)。そこで、MALDI−TOF−MSにより一層適した分子量範囲とするため、トリプシン消化によるペプチドの断片化を行った。
後処理を施し、脱水済みのゲル切片を入れた容器内に、トリプシン含有水性溶液を加え、ゲル中に保持されている状態のまま、ペプチド鎖の断片化を行った。このとき、炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8)中に、トリプシンを0.067μg/μLの濃度で含有させたトリプシン含有水性溶液を用いた。ゲル片を37℃で攪拌しつつ、4時間酵素反応を行った。その際、脱水処理されていたゲルは、溶媒水の浸潤に従って、速やかに再膨潤した。この再膨潤したゲル中に保持されているペプチドに対して、緩衝液とともにトリプシンを作用させることで、トリプシン特有の酵素消化が進行する。
なお、後処理工程における脱保護によっても、ペプチドのN末端のアミノ基に対するN−アセチル化、リジン残基のε位のアミノ基へのN−アセチル化は保持された状態であり、トリプシン消化によっては、N−アセチル化リジン残基のC末端側ペプチド結合の切断はなされず、アルギニン残基のC末端側ペプチド結合切断が進行する。
ウマ・ミオグロビンのグロビンペプチド鎖が有するアミノ酸配列は既に判明しており、図7に示すようにアルギニン残基のC末端側ペプチド結合切断に伴い、153アミノ酸からなるもとのペプチド鎖は、1−31(配列番号2)、32−139(配列番号3)、140−153(配列番号4)の各部分アミノ酸配列を含む断片にトリプシン消化を受ける。
トリプシン消化によってグロビンペプチド鎖が断片化されると、ペプチド断片はゲルから溶出し易くなり、容器内のトリプシン溶液中に溶出する。なお、トリプシン消化処理工程では、140−153アミノ酸の部分アミノ酸配列を含むC末端断片とともに、上述するC末端アミノ酸の逐次的分解処理で生成される一連の反応産物に由来するC末端側断片も、容器内のトリプシン溶液中に溶出する。消化処理は、長いアミノ酸長のペプチド鎖から、そのC末端部分を、質量分析に適合する所望の分子量範囲のペプチド断片とするとともに、ペプチド断片を、ゲル中から高い収率で溶出、回収することを可能としている。
トリプシン消化処理工程を終えた後、溶出したペプチド断片を回収した。回収されたペプチド断片の混合物を含む溶液について、脱塩処理を施した後、真空乾燥処理を行った。
(質量分析およびC末端アミノ酸配列の分析)
以上の一連の処理により、グロビンペプチド鎖のC末端側の断片と、そのC末端アミノ酸の欠損断片との混合物が得られた。この混合物の質量分析を行い、各ペプチド断片の分子量の測定を行った。このとき、MALDI−TOF−MS装置を利用し、各ペプチド断片の分子量を反映する主イオン種ピークの質量と、その相対的な信号強度の測定、比較を行った。
なお、MALDI−TOF−MS装置を利用する測定では、イオン種の分別は、負帯電イオン種を検出器へ導く、いわゆるネガティブモードの測定と、正帯電イオン種を検出器へ導く、いわゆるポジティブモードの測定とが行われる。各ペプチド断片の分子量を反映する主イオン種として、陽イオン種と陰イオン種がある。本実施例では、ポジティブモードの測定において、プロトンが付加された陽イオン種に対応するスペクトルが得られた。また、ネガティブモードの測定において、プロトンが離脱した陰イオン種に対応するスペクトルが得られた。
ポジティブモードの測定と、ネガティブモードの測定とを対比したところ、ウマ・ミオグロビンのグロビンペプチド鎖に由来するトリプシン消化断片に相当する主な二つのピークとして、1−31の部分アミノ酸配列および、140−153の部分アミノ酸配列を含む断片が見出された。ポジティブモードの測定において、その強度が相対的に大きなピークは、C末端にアルギニン残基を有する1−31の部分アミノ酸配列のN末端側ペプチド断片に相当すると判定した。一方、ネガティブモードの測定において、その強度が相対的に大きなピークは、アルギニン残基を含まない140−153の部分アミノ酸配列のC末端側ペプチド断片に相当すると判定した。
また、32−139の部分アミノ酸配列中、N−アセチル基の離脱されたリジン残基における切断で派生する78−102の部分アミノ酸配列に相当するペプチド断片も見出された。このペプチド断片についても、ポジティブモードの測定において、その強度は相対的に大きなピークを示していた。その他、トリプシンの自己消化で生じるペプチド断片も見出され、同じく、ポジティブモードの測定において、その強度は相対的に大きなピークを示していた。
本実施例では、ポジティブモードとネガティブモードの測定結果を比較することにより、C末端に係るペプチド断片およびその逐次分解によるC末端アミノ酸欠損ペプチドを容易に識別し、特定することができた。
図8は、ネガティブモードの測定により得られたマススペクトルを示す図である。図8では、140−153の部分アミノ酸配列のC末端側ペプチド断片に加えて、C末端アミノ酸の逐次的分解処理を施した反応産物に由来する一連のC末端側ペプチド断片の強度も相対的に大きく測定されている。表1に、測定された各ピークの質量値およびもとのグロビンペプチド鎖のC末端側ペプチド断片に起因するピークの質量値との差異を示す。また、これらの差分から特定される、C末端から除去されたアミノ酸およびC末端欠損ペプチドの構成を示す。
Figure 0004289355
図8および表1より、無水酢酸を用いた本実施例に係る逐次分解により、C末端から6つのアミノ酸、すなわち、グリシン、グルタミン、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、グルタミン酸が逐次的に分解された反応産物に由来するピークが確認された。これより、ゲル切片中のバンドとして分離されたペプチドはグロビンペプチド鎖であり、C末端アミノ酸の逐次的分解処理をゲルに保持した状態で実施できることが確かめられた。
以上より、第一の実施形態に記載の方法を利用することで、分析対象のペプチド鎖をゲル中に保持した状態で、C末端アミノ酸の逐次的分解を進めた際にも、高い測定精度および確度が達成されていることが確認された。
また、リジン残基におけるトリプシン消化を受けたペプチド断片がC末端アミノ酸配列の解析に用いる分子量範囲に混在していないため、目的とするC末端側のペプチド断片と、付随するC末端アミノ酸の逐次的分解処理がなされている一連のC末端側のペプチド断片の識別を容易に行うことができた。
なお、本実施例で用いたウマ・ミオグロビンのグロビンペプチド鎖部分には、ヒト・ミオグロビンと異なりシステイン残基は存在しないが、たとえば、ヒト・ミオグロビンなどのように、システイン残基を内在するペプチドに対しては、システイン残基のスルファニル基(−SH)の酸化による、−S−S−結合の形成を回避するため、2−スルファニルエタノールまたはDTTなどの還元性試薬を添加するなどして、予め酸化防止処理を施してもよい。場合によっては、予め、システイン残基の還元後、スルファニル基に対して、カルボキシメチル化などの保護を施すこともできる。
(実施例2)
本実施例では、実施例1において、ピリジンを用いることによる逐次分解反応の促進を確認した。試料として、ウマ・ミオグロビンのグロビンペプチド鎖を用いた。そして、ゲルの脱水処理の前に、ゲルを1体積%のピリジン水溶液に浸漬した。浸漬中、チューブ内を攪拌した。20分間の浸漬後、ピリジン水溶液を交換して、再度浸漬した。浸漬後の試料を上述の例の方法を用いて処理した。ただし、C末端の逐次分解の条件を、60℃、16時間とした。
得られた試料について、上述の例と同様にして質量分析を行った。図9は、ネガティブモードの測定により得られたマススペクトルを示す図である。また、表2は、測定されたピークの質量値、もとのグロビンペプチド鎖のC末端側断片に起因するピークの質量値との差異を示す図である。また、これらの差分から特定される、C末端から除去されたアミノ酸およびC末端欠損ペプチドの構成を示す。
Figure 0004289355
さらに、ゲルを20体積%のピリジン水溶液に2時間浸漬し、C末端の逐次分解の条件を、60℃、16時間とした場合についても検討を行った。他の条件は上述の例と同様とした。図10は、ネガティブモードの測定により得られたマススペクトルを示す図である。
さらに、ゲルを20体積%のピリジン水溶液に3回浸漬し、C末端の逐次分解の条件を、60℃、1時間とした場合についても検討を行った。他の条件は上述の例と同様とした。図11は、ネガティブモードの測定により得られたマススペクトルを示す図である。
図9、図10、図11、および表2より、第二の実施形態に記載の方法を用いて予めゲルにピリジンを含ませる処理を行った場合についても、C末端から6つのアミノ酸、すなわち、グリシン、グルタミン、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、グルタミン酸が逐次的に分解された反応産物に由来するピークが確認された。
また、ピリジンを用いた処理を行うことにより、逐次分解の反応時間を顕著に短縮化することが可能であった。逐次的分解の各反応過程において、両性溶媒であるホルムアミド中において、プロトンドナーとして機能する無水酢酸の触媒作用によって、その反応の促進がなされていると推察される。
また、図10および図11を図9と比較すると、20体積%のピリジン水溶液を用いた場合、もとのペプチドのC末端側断片ペプチドに対してそのC末端アミノ酸欠損ペプチドのピークが顕著に大きくなっていることがわかる。このため、20体積%のピリジン水溶液を用いることにより、逐次分解の反応時間をより一層短縮化することが可能である。図11より、60℃という比較的穏やかな加熱条件において、1時間でゲル中のペプチドを安定的に分解することができた。
(実施例3)
本実施例では、第三の実施形態を用いて前述した架橋剤を用いることによる質量分析シグナルの増強について検討した。架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用した。また、分析対象のタンパク質として、大豆トリプシンインヒビターを用いた。
(グルタルアルデヒド溶液の調製)
1.25pmol/μLグルタルアルデヒド、1.13M NaAc、30v/v%エタノール、0.2w/v%Na223の濃度の水溶液を調製した。ただし、グルタルアルデヒドは使用直前に配合した。このグルタルアルデヒド溶液にタンパク質の入っているゲルに浸漬し、室温で1時間反応させた。そして、水溶液で試薬を洗浄し、実施例1に記載の方法を用いて逐次分解反応に供した。
(質量分析)
グルタルアルデヒドによる回収率の改善について、タンパク質固定を行った場合と行わなかった場合の比較を行った。図12はグルタルアルデヒドを用いた固定を行わずに逐次分解を行った試料の質量分析結果を示す図である。図12においては、8μgのトリプシンインヒビターをサンプルとした。また、図13は、上述したグルタルアルデヒド水溶液を用いて固定を行った後、逐次分解を行った試料の質量分析結果を示す図である。図13においては、5μgのトリプシンインヒビターをサンプルとした。
図12においては、トリプシンの自己消化物に対するサンプル由来のピークが比較的弱いことがわかる。これに対し、図13においては、トリプシンの自己消化物に比べてサンプル由来のピークの強度が相対的に強く出現した。これより、C末端の逐次分解に先立ち、グルタルアルデヒド固定を行うことにより、C末端欠損ペプチドのペプチド断片の回収率が改善されていることがわかる。図13では、C末端から4残基目までの逐次分解物のシグナルが確認された。
以上より、架橋剤としてグルタルアルデヒドを用い、前述した条件で分析対象のタンパク質の架橋反応を行うことにより、逐次分解のC末端フラグメントを好適に得ることができた。

Claims (23)

  1. ペプチドのC末端のアミノ酸配列を分析する方法であって、
    前記ペプチドの前記C末端からアミノ酸を逐次的に分解し、前記C末端からアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドを得るステップと、
    前記C末端欠損ペプチドの分子量を測定するステップと、
    C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量と前記ペプチドの分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握して、前記分子量の減少量に基づき、前記C末端からのアミノ酸配列を分析するステップと、
    を含み、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、前記ペプチドを実質的にアルカン酸無水物に接触させることにより、前記C末端のアミノ酸を分解させることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  2. 請求の範囲第1項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記ペプチドの分子量を測定するステップを含み、
    アミノ酸配列を分析する前記ステップは、ペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量とC末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップで得られた分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握することを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  3. 請求の範囲第1項または第2項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップの前に、前記C末端欠損ペプチドに水分子を作用させるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  4. 請求の範囲第3項に記載のC末端アミノ酸配列の分析方法において、水分子を作用させる前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドを、塩基性含窒素化合物または第三アミンを含む水溶液に接触させるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  5. ペプチドのC末端のアミノ酸配列を分析する方法であって、
    前記ペプチドの前記C末端からアミノ酸を逐次的に分解し、前記C末端からアミノ酸残基が欠損したC末端欠損ペプチドを得るステップと、
    前記C末端欠損ペプチドを所定の位置で切断し、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得るステップと、
    前記C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定するステップと、
    C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量と前記ペプチドから得られるペプチド断片の分子量との差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握して、前記分子量の減少量に基づき、前記C末端からのアミノ酸配列を分析するステップと、
    を含み、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、前記ペプチドを実質的にアルカン酸無水物に接触させることにより、前記C末端のアミノ酸を分解させることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  6. 請求の範囲第5項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    前記ペプチドを前記所定の位置で切断し、ペプチド由来ペプチド断片を得るステップと、
    前記ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定するステップと、
    を含み、
    アミノ酸配列を分析する前記ステップは、ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量とC末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップで得られた分子量の差分から、逐次的な前記分解に伴う分子量の減少量を把握することを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  7. 請求の範囲第5項または第6項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、前記ペプチド中の特定のアミノ酸残基を保護し、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップにおける前記切断に対する前記特定のアミノ酸残基の感受性を失わせるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  8. 請求の範囲第7項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドをプロテアーゼ処理するステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  9. 請求の範囲第8項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    前記プロテアーゼがトリプシンであって、
    特定のアミノ酸残基の感受性を失わせる前記ステップは、前記ペプチドをN−アシル化するステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  10. 請求の範囲第7項乃至第9項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    前記保護は、前記ペプチドのO−アシル化およびN−アシル化であって、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップの前に、前記O−アシル化の脱保護を行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  11. 請求の範囲第5項乃至第10項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップは、陽イオン種および陰イオン種による質量分析測定を行うステップを含み、
    C末端からのアミノ酸配列を分析する前記ステップは、前記陽イオン種による質量分析の結果と前記陰イオン種による質量分析の結果とを比較して、前記ペプチドの前記C末端に係る前記C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を識別するステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  12. 請求の範囲第5項乃至第11項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの後、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片を得る前記ステップの前に、前記C末端欠損ペプチドに水分子を作用させるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  13. 請求の範囲第12項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、水分子を作用させる前記ステップは、前記C末端欠損ペプチドを、塩基性含窒素芳香環化合物または第三アミンを含む水溶液に接触させるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  14. 請求の範囲第1項乃至第13項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、
    前記ペプチドをゲル中に保持させた状態で行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  15. 請求の範囲第1項乃至第4項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドの分子量を測定する前記ステップより前のステップをゲル中で行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  16. 請求の範囲第5項乃至第13項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチド由来ペプチド断片の分子量を測定する前記ステップより前のステップをゲル中で行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  17. 請求の範囲第14項乃至16項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの前に、前記ペプチドを架橋するステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  18. 請求の範囲第14項乃至第17項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップの前に、
    前記ペプチドを含む混合物からポリアクリルアミドゲル電気泳動により前記ペプチドを分離するステップを有し、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、分離された前記ペプチドを前記ポリアクリルアミドゲル電気泳動に用いた前記ゲル中に保持させた状態で行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  19. 請求の範囲第14項乃至第18項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、C末端欠損ペプチドを得る前記ステップは、
    アルカン酸無水物の双極性非プロトン性溶媒の溶液に前記ゲルを浸漬させるステップを含むことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  20. 請求の範囲第1項乃至第19項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    C末端欠損ペプチドを得る前記ステップを、塩基性含窒素芳香環化合物の存在する系中で行うことを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  21. 請求の範囲第20項に記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、
    前記塩基性含窒素芳香環化合物が、ピリジン塩基またはその誘導体であることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  22. 請求の範囲第1項乃至第21項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記アルカン酸無水物が炭素数2以上6以下のアルカン酸の対称型酸無水物であることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
  23. 請求の範囲第1項乃至第22項いずれかに記載のペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法において、前記アルカン酸無水物が炭素数2以上6以下の直鎖アルカン酸の対称型酸無水物であることを特徴とするペプチドのC末端アミノ酸配列の分析方法。
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