JP4278157B2 - プロセスチーズ類の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、乳酸菌が製品中に生存するプロセスチーズ類の製造法に関し、より詳しくは、加熱溶融及び/又は殺菌工程の後で乳酸菌を添加して製品中に生存させることで、整腸作用など、健康への寄与が大きいプロセスチーズ類の製造法に関する。
プロセスチーズの製造においては従来、主原料のナチュラルチーズに、リン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などを溶融塩として加えた後、これを80〜90℃で加熱溶融し、乳化させている。この加熱溶融工程を経ると、原料のナチュラルチーズに生存していた乳酸菌の大部分が死滅し、耐熱性芽胞形成菌の少数が芽胞の形で残存するのみとなる。衛生的に有害な生菌が存在しても、この加熱溶融工程によって、その大部分は死滅することとなる。また、通常のプロセスチーズは冷蔵保存するため芽胞菌も増殖しない。ナチュラルチーズでは、カード形成、ホエー排出、熟成などの処理を開放系で行うことが多く、特に細菌的な二次汚染の可能性が高いとされている。プロセスチーズの衛生的な品質はナチュラルチーズよりも格段に優れていることとなる。しかしながら、プロセスチーズでは、原料のナチュラルチーズに生存していた乳酸菌も死滅しているため、ナチュラルチーズに含まれた乳酸菌が持つ健康に寄与する機能の一部が失われていることとなる。
プロセスチーズにおいては加熱溶融され、流動性のある液状にされた後、成形された包材又は容器に充填され、包装されるのが代表的な製造法である。一方、加熱溶融された後、連続的に冷却し、成形した後に包装する製品もある。プロセスチーズは高温にすることで流動性を持ち、多彩な包装形態に対応できることが大きな利点である。スライスチーズ、ポーションチーズなど、使用時の利便性につながる包装形体が可能である。このプロセスチーズの特徴である多様な包装形態に対応できる充填適性を生かしながら、乳酸菌を生残させる技術について検討された例はない。その理由は、プロセスチーズの製造法には加熱溶融工程が必須であるため、乳酸菌を生残させることは不可能だと考えられていたためである。
プロセスチーズはチーズ市場においてナチュラルチーズと、ほぼ同量の需要を占めており、今後も安定した需要が見込まれる。このプロセスチーズに乳酸菌を生残させ、新たな機能を付与させることで、さらなる市場の成長が期待できる。
新たな機能を付与させるものとしては、胃潰瘍の原因といわれているピロリ菌(Helicobactoer pylori)除菌能の高い Lactobacillus gasseri に属する乳酸菌、該乳酸菌含有物、その処理物などが考えられ、この乳酸菌を使用した飲食品及び医薬品については提案されている(特許文献1、2)。この乳酸菌は風味、物性などの観点から、発酵乳の形態で投与することが望ましいとされているが、発酵乳という食品の性質上、品質保持期限は2週間前後と比較的短く、又、2週間保存後の生菌数は保存前の約半分に減少し、長期間の保存に、あまり適しているとはいえなかった。
乳酸菌の持つ機能を活かしつつ、発酵乳以外のチーズなどへ使用することができれば、発酵乳のみを食べ続ける必要がなくなり、嗜好性の面からも良いと考えられる。多彩な商品形態を取ることで風味、物性に飽きることなく、健康へ寄与する乳酸菌を添加した食品を取ることが可能となる。
日本国内では通常、フレッシュチーズ(熟成させないチーズ)は殺菌されているものが多い。このフレッシュチーズに対し、スターター乳酸菌を含む凝乳(カード)を殺菌した後、乳酸菌の凍結菌体及び/又は凍結乾燥菌体を添加する、乳酸菌の生残しているフレッシュチーズ及びその製造方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では対象が、クワルク、クリームチーズ等のフレッシュチーズに限定されている。また、保存中に乳酸菌の生菌数を減少させないための手段として、乳酸菌の凍結菌体及び/又は凍結乾燥菌体という二次加工された乳酸菌を使用することに限定されている。さらに、クワルクの原産国であるドイツでは、クワルクを加熱殺菌していないため乳酸菌が生残しているのが通常であり、フレッシュチーズに乳酸菌が生残していることは特別ではないと思われる。
特開2001-000143号公報 特開2001-002578号公報 特開2001-275564号公報
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、加熱溶融工程を有するプロセスチーズ類に、健康へ寄与する乳酸菌を生存させた状態で添加し、その後の製造中及び保存中も、健康へ寄与する乳酸菌の生菌を製品中に生残させる点にある。
プロセスチーズ類において、乳酸菌を原材料と共に製造工程の初めから添加すると、加熱溶融工程で乳酸菌は熱死滅する。一方、乳酸菌が熱死滅しない温度として、例えば30℃までプロセスチーズ類を冷却すると、流動性が無くなり、充填・包装が困難となる。本発明は、これまで両立が困難とされていた、上記の製造工程に対して技術的な解決策を見いだすことで、より付加価値の高いプロセスチーズ類の製造方法を確立しようとするものである。
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、プロセスチーズ類において加熱溶融工程後に必要に応じて適宜、連続的にチーズ類の品温を下げ、例えばインラインによる比例混合など、原料のナチュラルチーズに由来しない雑菌などが混入することを防止した、無菌状態を維持して乳酸菌を添加し、プロセスチーズ類の流動性又は成形性を残した状態で、充填・包装を行い、さらに冷却することで、製品中に乳酸菌を生残させる方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1] プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、乳酸菌を添加する工程を含むことを特徴とする、乳酸菌の生菌を10 4 cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法
[2] 加熱溶融工程後に、温度が65℃以下となったときに、乳酸菌を添加し、60℃以上での保持時間が30秒以下に相当する熱履歴であることを特徴とする、上記[1]記載のプロセスチーズ類の製造法
[3] 乳酸菌の添加から、製品として冷蔵で保存されるまでの温度経過条件として、乳酸菌の生菌数を4桁減少させる熱履歴以下で、乳酸菌が添加されることを特徴とする、上記[1]記載のプロセスチーズ類の製造法
[4] プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、チーズを冷却する工程と、当該冷却されたチーズが流動性を残している状態で、乳酸菌を添加する工程とを密封系で行うことを特徴とする、乳酸菌の生菌を10 4 cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法
[5] プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、チーズを急速に冷却する工程と、当該冷却されたチーズの粘度がその冷却温度における当該チーズの本来の粘度よりも低い状態であって、当該冷却されたチーズが流動性を残している状態で、乳酸菌を添加する工程とを密封系で行うことを特徴とする、乳酸菌の生菌を10 4 cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法、
[6] 乳酸菌が、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Bifidobacterium属から選ばれる1種または2種以上及び/又は有胞子性乳酸菌であることを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロセスチーズ類の製造法、
[7] 有胞子性乳酸菌が、Sporolactobacillus属に属する乳酸菌であることを特徴とする、上記[6]記載のプロセスチーズ類の製造法、
からなる。
本発明によるプロセスチーズ類は、新プロセスチーズともいうことができ、本発明では、プロセスチーズとナチュラルチーズの中間の、それぞれの長所を兼ね備えた新カテゴリーを創造したということができる。
ゴーダチーズやチェダーチーズ、エメンタール、カマンベールなどの代表的なナチュラルチーズでは、乳酸菌は生きているが、流動性のない固体であるため、カットして包装する以外に、形状を変えることはできない。一方、プロセスチーズ類では、加熱溶融されることで流動性が付与されるため、スライス、6P、カルトンなど、多彩な充填包装形態が可能となる。また、プロセスチーズ類は加熱溶融工程を経ることで殺菌され、ナチュラルチーズより衛生的に優れている。ナチュラルチーズでは、カード形成、ホエー排出、熟成などの処理を開放系で行うことが多く、特に細菌的な二次汚染の可能性が高いとされている。
本発明によるプロセスチーズ類は、製造工程では通常のプロセスチーズと同様、原料チーズが加熱溶融された後、流動性のある状態で密封系で処理される。冷却及び乳酸菌の添加も密封系で処理されるため、乳酸菌が生残していてもナチュラルチーズより細菌的な安全性は優れている。さらに本発明のように、原料チーズを加熱溶融し、ほとんど全ての生菌を殺菌した後に、新たに乳酸菌を添加する方法では、製品中に生残させる乳酸菌の種類を自由に選択することができる。ナチュラルチーズの製造では、酸の生成速度などを考慮して、乳酸菌を選択しなければならない。ナチュラルチーズに使用できる乳酸菌は風味や物性、製造方法などの制限を受けることとなるが、本発明のプロセスチーズ類には、その制限はないこととなる。このことは、健康上の効果などの面から、様々な乳酸菌の菌種や菌株を自由に選択できるという利点となる。
本発明のプロセスチーズ類は乳酸菌は生菌を含むものであるが、乳酸菌の機能を有効に活用することや、長期間の保存性の観点から生菌を104cfu/g以上、好ましくは105cfu/g以上、より好ましくは106cfu/g以上含むことが望ましい。
プロセスチーズは、「乳等省令」において、ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したものと定義されているが、本発明でいうプロセスチーズ類とは、これ以外に、加熱溶融及び/又は殺菌工程を必要とする全てのチーズ様食品であり、例えば、チーズフード、プロセスチーズサブスティテュート等、プロセスチーズ類似物を含む。
ナチュラルチーズは、「乳等省令」において、(1) 乳、バターミルク(バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいう。以下同じ。)若しくはクリームを乳酸菌で発酵させ、又は乳、バターミルク若しくはクリームに酵素を加えてできた凝乳から乳清を除去し、固形状にしたもの又は、これらを熟成したもの、(2) 前号に揚げるもののほか、乳、バターミルク又はクリームを原料として、凝固作用を含む製造技術を用いて製造したものであって、同号に揚げるものと同様の化学的、物理的及び官能的特性を有するものと定義されている。
乳酸菌とは一般に、炭水化物を発酵し、生産する酸の50%以上が乳酸であり、炭水化物を含む培地によく繁殖し、グラム陽性で運動性がなく、胞子をつくらない菌群と定義されているが、本発明でいう乳酸菌とは、これ以外に、乳酸を多量に産生する菌を全て含み、ビフィズス菌なども含まれる。具体的には、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Bifidobacterium属に属する菌が例示でき、より具体的には、Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus helveticus subspecies jugurti、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus gallinarum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus casei、Lactobacillus casei subspecies rhamnosus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus brevis、Lactobacillus kefir、Lactobacillus fermentum、Lactococcus lactis subspecies lactis、Lactococcus lactis subspecies cremoris、Lactococcus diacetilactis、Streptococcus thermophilus、Enterococcus faecium、Leuconostoc cremoris、Leuconostoc lactis、Leuconostoc mesenteroides subspecies mesenteroides、Leuconostoc mesenteroides subspecies dextranicum、Leuconostoc paramesenteroides、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolescentisなどが例示できる。
本発明のプロセスチーズ類では様々な乳酸菌を使用できるが、乳酸菌として耐熱性のある芽胞を形成する乳酸産生菌を使用すれば、製造工程を大幅に変更せずに、芽胞の形態で乳酸菌を生残させることができる。芽胞形成の乳酸産生菌として具体的には、食用経験のあるSporolactobacillus属に属する菌が例示でき、より具体的には、Sporolactobacillus inulinusなどが例示できる。芽胞形成の乳酸産生菌では、菌を添加するタイミングを考慮する必要性がなくなり、例えば、殺菌工程前に添加しても最終的に生残させることが可能となる。
本発明では、プロセスチーズ類へ添加できる乳酸菌培養物として、乳酸菌スターター以外に、ナチュラルチーズ、ヨーグルトなど、乳酸菌の生きている発酵食品も使用できる。
プロセスチーズ類の製造法において、原材料の溶融工程後の充填方法に着目すると、(1) 高温(65〜90℃程度)の状態で充填されるホットパック方式(ポーション、個包装スライス、カルトンなど)と、(2) 低温(15〜35℃程度)まで冷却しながら成形し、その後、さらに冷却して包装する方式(キャンディー包装チーズ、スライス・オン・スライスなど)がある。溶融後のプロセスチーズに乳酸菌を添加して生残させようとする場合、生残させたい菌数、成形性または充填時の流動性を考慮して、添加温度、添加後の温度履歴と経過時間が適宜、選択されなければならない。
乳酸菌の耐熱性を考慮すると、上記(2)の方式に適用する方が有利であると考えられる。冷却工程を備えているため、乳酸菌が死滅しない温度として、例えば45℃で乳酸菌の添加を行えば良いからである。一方、上記(1)のホットパック方式では、乳酸菌を添加してから充填し、急冷されるまでの保持時間を考慮して、添加するときの温度を下げる必要が出てくる。菌種や菌株にもよるが、例えば、個包装スライスチーズの場合、インラインで添加してから、温度5℃の冷水中で10℃に冷却されるまでに10秒を要するとすると、乳酸菌の添加は約65℃以下で行うのが望ましく、この場合の生菌数の減少は約1桁である。同様に、6P包装の場合、添加してから急凍庫で30℃に冷却されるまで30分を要するとすると、乳酸菌の添加は約55℃以下にするのが望ましく、この場合の生菌数の減少は約1桁である。これらの点から勘案して、乳酸菌を添加する時のプロセスチーズ類の温度は65℃以下から、撹拌ないし混練することでプロセスチーズ類へ乳酸菌を均一に添加することが可能となるまでの範囲を指し、60℃以上での保持時間が30秒以下に相当する熱履歴であることが望ましい。加熱溶融温度から乳酸菌の添加が可能な適温までチーズ類の品温を下げるには、掻き取り式のサーモシリンダーや熱交換型スタティックミキサーなどの熱交換器を用いることができる。
溶融されたプロセスチーズ類が、ある一定温度に冷却されたとき、その温度における本来の粘度又は硬さとなるには一定時間の保持が必要である。急速に冷却することで、その温度における本来の粘度よりも低い又は本来の硬さよりも軟らかい物性に一定時間、維持できる。本発明の骨子の一つは、乳酸菌が熱死滅しにくい添加温度と流動性のある充填適性とを両立させるために、上記した温度と物性のタイムラグを利用することにある。このとき、乳酸菌の添加温度、添加後の温度履歴、経過時間は、乳酸菌の耐熱性を表現するD値(ある温度で生菌数が1桁減少するために必要な保持時間)を指標にして適宜、設定する。
本発明のプロセスチーズ類では様々な原料を使用するが、プロセスチーズ類として適当な風味や物性を実現する観点から、原料としてのナチュラルチーズを20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上含むことが望ましい。
乳酸菌をプロセスチーズ類に添加した後、冷蔵保存における乳酸菌の消長も重要である。発明者らは多種の乳酸菌を様々なプロセスチーズ類に添加して保存試験を実施し、その乳酸菌の消長を測定した結果、特殊な菌体に加工しなくとも生菌数が減少しない条件を見いだすことができた。その条件とはプロセスチーズのpHが5.0以上であることである。クワルクのpHは通常4.0〜4.5、クリームチーズのpHは通常4.5〜4.8と、フレッシュチーズではpHが低く、乳酸により乳酸菌の生育が阻害され、凍結菌体及び/又は凍結乾燥菌体という特殊な菌体を使用する必要があったと思われる。しかし、熟成チーズが主体であるプロセスチーズではpHを5.5〜6.0程度に設定できるため、添加された乳酸菌の生菌が減少する現象は見られなかった。さらに鋭意検討した結果、pHが5.0以上では、乳酸菌の生菌数は保存中に減少しなかったが、pHが5.0未満では減少する乳酸菌もあった。
本発明のプロセスチーズ類では添加する乳酸菌の生菌数で機能を制御できるため、保存中に乳酸菌の生菌数が幾らか減少することは問題としないが、添加した乳酸菌の生菌数を保存中に減少させないためには、製品のpHを5.0以上にすることが望ましい。
本発明のプロセスチーズ類では乳酸菌を添加する時の温度を、生菌数が極端に減少しない条件に設定すれば問題とならないが、乳酸菌の添加から、製品として冷蔵で保存されるまでの温度経過条件として、乳酸菌の生菌数を4桁減少させる熱履歴以下で乳酸菌が添加されることが望ましい。具体的には、乳酸菌を添加する時のプロセスチーズ類の温度は65℃以下から、撹拌ないし混練することでプロセスチーズ類へ乳酸菌を均一に添加することが可能となるまでの範囲を指し、60℃以上での保持時間が30秒以下に相当する熱履歴であることが望ましい。また、プロセスチーズ類が製品として冷蔵で保存される温度は10℃以下であることが望ましい。
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
[試験例1](乳酸菌の種類による冷蔵中の保存性への影響)
ミートチョッパーで粉砕したチェダーチーズ10kgとゴーダチーズ10kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてトリポリリン酸ナトリウム0.4kgを加え、蒸気を吹き込みながら攪拌し、82℃まで加熱溶融した。溶融したチーズを200gずつ容器に取り、10℃の冷蔵庫で一晩、冷却した。チーズのpHは5.8であった。当該チーズを20〜30g取り、約106cfu/gの生菌数になるよう乳酸菌培養液を添加して練り込んだ。その後10℃で保存し、乳酸菌の消長を調べた。試験結果を図1に示した。何れの種類の乳酸菌も保存中に生菌数は減少しなかった。乳酸菌の種類に関係なく、約120日間以上、生菌数は維持されることが分かった。
[試験例2](プロセスチーズ類のpHによる冷蔵中の保存性への影響)
ミートチョッパーで粉砕したゴーダチーズ12kgとクリームチーズ3kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてメタリン酸ナトリウム0.3kgを加え、蒸気を吹き込みながら攪拌し、82℃まで加熱溶融した。溶融したチーズを200gずつ容器に取り、10℃の冷蔵庫で一晩、冷却した。チーズのpHは5.4であった。同様の原料で溶融し、pHが5.1、4.9、4.5になるよう乳酸を添加したサンプルを調製した。pHの異なる4サンプルに、約106cfu/gの生菌数になるよう乳酸菌培養液を添加して練り込んだ。その後10℃で保存し、乳酸菌の消長を調べた。試験結果を図2〜5に示した。pHが5.1および5.4では、何れの乳酸菌も保存中に生菌数は減少しなかった。pHが4.9では、保存中に生菌数が減少するものもあった。pHが4.5では、何れの乳酸菌も保存中に生菌数は減少した。乳酸菌の種類に関係なく、pHが5.0以上で、約90日間以上、生菌数は維持されることが分かった。
殺菌処理したチーズ類に、原料のナチュラルチーズに由来しない雑菌などが混入することを防止した、無菌状態を維持しながら、必要に応じてインラインでチーズの品温を下げ、上記の無菌状態を維持しながら、必要に応じてインラインで乳酸菌を添加し、製品中に乳酸菌が生残するように、充填・包装する技術及び、その技術により製造された製品は、原料が殺菌された後に無菌状態で処理されているために、製品の細菌的な安全性が高く、この点は通常のナチュラルチーズより優れている。本発明のプロセスチーズ類では、流動性を保ちながら、密封系で処理できるのに対して、ナチュラルチーズでは、カード形成、ホエー排出、熟成などを開放系で処理されることが多く、細菌的な二次汚染の可能性が高い。
[実施例1]
ミートチョッパーで粉砕したチェダーチーズ20kgとゴーダチーズ20kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてトリポリリン酸ナトリウム0.7kgを加え、蒸気を吹き込みながら攪拌し、82℃まで加熱溶融した。溶融したチーズをポンプで送りながらサーモシリンダーで35℃まで冷却した。乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus)培養液で生菌数が109cfu/mlの約1mlを冷却したチーズ1kgに対してインラインで定量混合した。乳酸菌の混合されたチーズを35℃にし、約5g/個で球形に成形し、キャンディー包装した。約20個ずつ窒素と炭酸ガスを1:1にガス置換しながらピロー包装した。その後、温度10℃の冷蔵室で保管した。
上記の工程により、乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus)の生菌数が約106cfu/gのプロセスチーズを製造できた。製品のpHは5.8であり、温度10℃、期間4ヶ月で保存した後の乳酸菌の生菌数は約106cfu/gであった。
[実施例2]
ミートチョッパーで粉砕したチェダーチーズ10kgとゴーダチーズ30kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてメタリン酸ナトリウム0.5kg、クエン酸ナトリウム0.3kgを加え、蒸気を吹き込みながら攪拌し、85℃まで加熱溶融した。溶融したチーズをポンプで送りながらサーモシリンダーで55℃まで冷却した。乳酸菌(Lactobacillus gasseri)培養液で生菌数が109cfu/mlの約1mlを冷却したチーズ1kgに対してインラインで定量混合した。乳酸菌の混合されたチーズをスライスチーズの充填機で、充填、冷却した後、包装した。乳酸菌を混合後、約15秒で、スライスへの個包装及び約10℃への冷却を行った。その後、温度10℃の冷蔵室で保管した。
上記の工程により、乳酸菌(Lactobacillus gasseri)の生菌数が約106cfu/gのスライスチーズを製造できた。製品のpHは5.8であり、温度10℃、期間4ヶ月で保存した後の乳酸菌の生菌数は約106cfu/gであった。
[実施例3]
ミートチョッパーで粉砕したチェダーチーズ20kgとゴーダチーズ10kg及びクリームチーズ10kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてメタリン酸ナトリウム0.5kg、ピロリン酸ナトリウム0.4kgを加え、蒸気を吹き込みながら攪拌し、85℃まで加熱溶融した。溶融したチーズをポンプで送りながらジャケット付き熱交換型スタティックミキサーで55℃まで冷却した。乳酸菌(Streptococcus thermophilus)培養液で生菌数が109cfu/mlの約2mlを冷却したチーズ1kgに対してインラインで定量混合した。乳酸菌の混合されたチーズを6Pチーズの充填機で、充填、包装した後、冷却した。この冷却工程では、乳酸菌を混合した後、約30分をかけて約40℃とした。その後、温度10℃の冷蔵室で保管した。
上記の工程により、乳酸菌(Streptococcus thermophilus)の生菌数が約105cfu/gの6Pチーズを製造できた。製品のpHは5.9であり、温度10℃、期間4ヶ月で保存した後の乳酸菌の生菌数は約106cfu/gであった。初期に比べて保存後では生菌数が幾らか増加していた。
[実施例4]
ミートチョッパーで粉砕したチェダーチーズ40kgをケットル型溶融釜に入れ、さらに溶融塩としてヘキサメタリン酸ナトリウム0.3kg、クエン酸ナトリウム0.5kgを加えた。乳酸産生菌(Sporolactobacillus inulinus)の培養物で芽胞数が109cfu/gの約40gを添加し、蒸気を吹き込みながら攪拌し、85℃まで加熱溶融した。溶融したチーズをスライスチーズの充填機で充填し包装した。その後、温度10℃の冷蔵室で保管した。
上記の工程により、乳酸産生菌(Sporolactobacillus inulinus)の生菌数を約106cfu/gで含むスライスチーズを製造できた。製品のpHは5.6であり、温度10℃、期間4ヶ月で保存した後の乳酸産生菌の生菌数は約106cfu/gであった。
加熱溶融工程後に、チーズ類の品温を下げ、原料のナチュラルチーズに由来しない雑菌などが混入することを防止した、無菌状態を維持して乳酸菌を添加し、流動性又は成形性を残して、充填・包装を行い、さらに冷却することで、乳酸菌を生残させたプロセスチーズ類を製造することができる。この方法によって得られたプロセスチーズ類において、製品のpHを5.0以上にすることで、添加した乳酸菌の生菌数を保存中に維持することができる。さらに、スライスチーズ、ポーションチーズなど、使用時の利便性につながる包装形体が可能であり、多彩な商品形態を取ることで風味、物性に飽きることなく、健康へ寄与する乳酸菌を添加した食品を取ることが可能となる。
試験例1における、プロセスチーズ類に添加した乳酸菌の生菌数(温度10℃における保存菌数)を示すグラフである。 試験例2における、プロセスチーズ類のpHと添加した乳酸菌(菌種:Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus)の生菌数の関係(温度10℃における保存菌数)を示すグラフである。 試験例2における、プロセスチーズ類のpHと添加した乳酸菌(菌種:Lactobacillus casei)の生菌数の関係(温度10℃における保存菌数)を示すグラフである。 試験例2における、プロセスチーズ類のpHと添加した乳酸菌(菌種:Lactococcus lactis subspecies lactis)の生菌数の関係(温度10℃における保存菌数)を示すグラフである。 試験例2における、プロセスチーズ類のpHと添加した乳酸菌(菌種:Streptococcus thermophilus)の生菌数の関係(温度10℃における保存菌数)を示すグラフである。

Claims (7)

  1. プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、乳酸菌を添加する工程を含むことを特徴とする、乳酸菌の生菌を10 4 cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法。
  2. 加熱溶融工程後に、温度が65℃以下となったときに、乳酸菌を添加し、60℃以上での保持時間が30秒以下に相当する熱履歴であることを特徴する、請求項1記載のプロセスチーズ類の製造法。
  3. 乳酸菌の添加から、製品として冷蔵で保存されるまでの温度経過条件として、乳酸菌の生菌数を4桁減少させる熱履歴以下で、乳酸菌が添加されることを特徴とする、請求項1記載のプロセスチーズ類の製造法。
  4. プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、チーズを冷却する工程と、当該冷却されたチーズが流動性を残している状態で、乳酸菌を添加する工程とを密封系で行うことを特徴とする、乳酸菌の生菌を104cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法。
  5. プロセスチーズ類の製造工程において、加熱溶融工程後に、チーズを急速に冷却する工程と、当該冷却されたチーズの粘度がその冷却温度における当該チーズの本来の粘度よりも低い状態であって、当該冷却されたチーズが流動性を残している状態で、乳酸菌を添加する工程とを密封系で行うことを特徴とする、乳酸菌の生菌を104cfu/g以上含み、pHが5.0以上であるプロセスチーズ類の製造法。
  6. 乳酸菌が、Lactobacillus属、Lactococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Bifidobacterium属から選ばれる1種または2種以上及び/又は有胞子性乳酸菌であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類の製造法。
  7. 有胞子性乳酸菌が、Sporolactobacillus属に属する乳酸菌であることを特徴とする、請求項記載のプロセスチーズ類の製造法。
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