JP4270976B2 - アルツハイマー病治療薬のスクリーニング方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルツハイマー病の治療薬等として有用な、βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法に関する。
アミロイドは特有の繊維構造をもつ不溶性タンパク質で、その異常沈着はアミロイドーシスと呼ばれる全身性あるいは局所性の疾患を引き起こす。アミロイドには構成タンパク質が異なる様々な種類が存在し、なかでもβアミロイド(以下、「Aβ」と記載する。)はアルツハイマー病との関連性から最近最も注目されているアミロイドの一つである。
Aβは、Amyloid Precursor Protein(APP)と呼ばれる膜貫通型の前駆タンパクよりプロセッシングを経て産生される約4KDaのペプチドで、その主な分子種は40および42アミノ酸残基からなるAβ(1-40)とAβ(1-42)である。Aβは、正常脳でも恒常的に産生されている生理的なペプチドであるが、凝集・沈着を生じやすく、アルツハイマー病、ダウン症、高齢者の脳にみられる老人斑の主成分でもある。さらに、Aβの沈着は不可逆的な神経細胞死を誘導し、アルツハイマー病の主な原因になることがわかってきた。
そのため、Aβの分解促進効果や神経細胞死抑制効果を指標としたアルツハイマー病治療薬のスクリーニングが試みられ、報告されている。例えば、Aβの分解促進効果を指標としたスクリーニング(例えば、特許文献1参照)、神経細胞死抑制効果を指標としたスクリーニング(例えば、特許文献2〜7参照)等が公知である。
ところで、アルツハイマー病は、家族性アルツハイマー病とそれ以外の孤発性アルツハイマー病に分けられる。APP、プレセニリン-1、あるいはプレセニリン-2の遺伝子変異を伴う家族性アルツハイマー病では、これらタンパク質の過剰発現のためにAβが脳内に蓄積され、老人斑や神経原繊維変化、ひいてはアルツハイマー病が引き起こされると考えられている。一方、全アルツハイマー病の90%以上を占める孤発性アルツハイマー病ではAβの過剰産生はおこっていないことから、Aβの消失(代謝・排泄)過程の異常がアルツハイマー病の発症に関わっていることが予測される。
近年、Aβ(1-42)がネプリライシン(neprilysin:NEP)により脳内で代謝されて、消失することが明らかとなった。そして、NEP阻害剤であるチオルファンの脳内持続注入や、NEP-/-マウス脳においてAβの沈着が認められることが実証された(例えば、非特許文献1および2参照)。
一方、Zlokovicらは、Aβ(1-40)は血液脳関門に存在するlow density lipoprotein receptor-related protein-1(LRP-1)を介して脳から排泄されることを報告しているが、LRP-1の阻害剤を用いた実験では十分な阻害効果は認められていない(例えば、非特許文献3参照)。Aβ(1-40)は、in vitroでは、Aβ(1-42)と同様にNEPにより代謝され(例えば、非特許文献4参照)、NEP-/-マウス脳で沈着が認められることが報告されている。Aβ(1-40)はまた、in vitroでインスリン分解酵素(insulin-degrading enzyme:IDE)により代謝されるが、IDEはcytosolに存在する酵素であるため、in vivoではAβの代謝に関与していないと考えられていた。しかし、最近IDEには分子量の異なるアイソフォームが存在し、マイクログリアから細胞外へ分泌されること(例えば、非特許文献5参照)、神経細胞の細胞膜にも存在することが明らかになり(例えば、非特許文献6参照)、IDEによるAβ(1-40)分解の可能性もでてきた。
以上のとおり、Aβの消失過程には不明な点が多く、そのためAβの排泄を指標として、これまでアルツハイマー病治療薬をスクリーニングしたという報告はなかった。
特開2002−34596号公報 特開2001−321165号公報 特開2001−255318号公報 特開平11−346772号公報 特開平11−326328号公報 特開平10−4999号公報 特開平6−329551号公報 Iwata, N., Saido, T. et al., Nat. Med. 6, p143-150 (2000) Iwata, N., Saido, T. et al., Science 292, p1550-1552 (2001) Shibata, M. Zlokovic B. et al., J. Clin. Invest. 106, p1489-1499 (2000) Shirotani, K. Saido, T. et al., J. Biol. Chem. 276, p21895-21901 (2001) Qiu, W. Q. et al., J. Biol. Chem., 273, p32730-32738 (1998) Vekrellis, K. et al., J. Nerurosci., 20, p1657-1665 (2000)
本発明の課題は、アルツハイマー病の治療薬等として有用な、βアミロイド排泄機構調整物質の新規なスクリーニング方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために、βアミロイドの脳からの消失メカニズムについて代謝および排泄の両面から鋭意検討を行った。その結果、血液脳関門を介したβアミロイド(1-40)の排泄は、輸送能力の非常に大きい特異的トランスポーターを介した能動輸送系によることを確認した。そして、この能動輸送系の機能が脳からのβアミロイド排泄を調節し、アルツハイマー病の発症に関与しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(13)に関する。
(1) βアミロイド(1-40)の輸送活性を指標とした、βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法。
(2) 被験物質の投与および非投与条件下において、βアミロイド(1-40)の輸送活性を比較することを特徴とする、上記(1)記載の方法。
(3) 以下の工程を含む、上記(2)記載の方法:
1)動物の脳内に標識したβアミロイド(1-40)を投与する;
2)被験物質の投与および非投与条件下において、上記動物の血液脳関門を介したβアミロイド(1-40)の排泄活性を評価する;
3)被験物質の投与条件下におけるβアミロイド(1-40)の排泄活性が、非投与条件下における排泄活性に比較して有意に変化する場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
(4) βアミロイド(1-40)の排泄活性が、下式(I)に示されるBEI値を用いて評価されることを特徴とする、上記(3)記載の方法。
Figure 0004270976
(5) 動物がマウスまたはラットである、上記(3)または(4)記載の方法。
(6) 以下の工程を含む、上記(2)記載の方法:
1)培養細胞に標識したβアミロイド(1-40)を添加し、酸で洗浄する;
2)被験物質の添加および非添加条件下における、上記細胞を介したβアミロイド(1-40)の取り込み活性を評価する;
3)被験物質の添加条件下におけるβアミロイド(1-40)の取り込み活性が、非添加条件下における取り込み活性に比較して有意に変化する場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
(7) βアミロイド(1-40)の取り込み活性が、細胞内へのβアミロイド(1-40)取り込み量の経時的変化から評価されることを特徴とする、上記(6)記載の方法。
(8) 細胞内へのβアミロイド(1-40)取り込み量が、下式(II)で示されるCell/Medium 比を用いてあらわされることを特徴とする、上記(7)記載の方法。
Figure 0004270976
(9) 培養細胞が、血管内皮細胞、脳毛細血管内皮細胞、またはそれらと実質的に同等のβアミロイド(1-40)輸送活性を有する組換え細胞である、上記(6)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(10) 培養細胞が、TM−BBB、TR−BBB、hBME、およびMBEC4から選ばれるいずれか一種である、上記(6)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(11) βアミロイド(1-40)の輸送活性が、βアミロイド(1-40)特異的トランスポーターを介した輸送機構に基づくものである、上記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の方法。
(12) βアミロイド排泄機構調整物質がアルツハイマー病の治療薬または誘発薬である、上記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法。
(13) 上記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法において、さらに以下の工程を含むアルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング方法:
スクリーニングされたβアミロイド排泄機構調整物質に対し、その作用を阻害または促進させる物質をアルツハイマー病の治療薬または誘発薬として有用と判定する。
本発明によれば、Aβ(1-40)輸送活性を指標として、βアミロイド排泄機構調整物質を効果的にスクリーニングすることができる。このβアミロイド排泄機構調整物質は、アルツハイマー病等の治療薬、または誘発薬として有用であり、したがって、本発明の方法を利用すれば、アルツハイマー病の治療薬、または誘発薬を効果的にスクリーニングすることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.用語の説明
βアミロイドおよびβアミロイド(1-40):
本発明にかかる「βアミロイド」は、特有のβシート構造を有する分子量約4KDaの不溶性繊維状タンパク質で、凝集・沈着を生じやすく、老人斑、アルツハイマー病の原因になることが知られている。βアミロイドには末端アミノ酸の異なるいくつかの分子種が存在し、その主なものは40アミノ酸残基からなるβアミロイド(1-40)と、42アミノ酸残基からなるβアミロイド(1-42)である。本発明では、この「βアミロイド(1-40)」の輸送活性を指標としてスクリーニングを行う。
本発明において、「βアミロイド(1-40)」には内因性βアミロイド(1-40)と、外因性(外部から投与した)βアミロイド(1-40)の両方を含むものとする。また、その由来は特に限定されず、ヒトやその他動物由来のβアミロイド(1-40)から、化学合成あるいは遺伝子工学的に製造されたβアミロイド(1-40)まですべてを含むものとする。βアミロイド(1-40)の一部は生体内で分解・代謝されて排泄されるが、後述するβアミロイド(1-40)排泄活性においては、こうしたβアミロイド(1-40)分解物も「βアミロイド(1-40)」に含めて評価する。以下、βアミロイドを「Aβ」と略記する。
βアミロイド(1-40)の輸送活性:
本発明において、「輸送活性」とは、Aβ(1-40)の輸送能力を定量的あるいは定性的に示す値を意味し、例えば、輸送速度、輸送量等が挙げられる。ここで、輸送とは物質の移動を示し、流出(例えば、排泄)・流入(例えば、取り込み)の両方が含まれる。具体的には、血液脳関門を介した輸送活性は、排泄速度あるいは排泄量等で評価され、細胞膜を介した輸送活性は、取り込み速度あるいは取り込み量等で評価される。なお、「βアミロイド(1-40)の輸送活性」は、実質的にAβ(1-40)特異的トランスポーターを介した能動輸送に基づく輸送活性である。
βアミロイド排泄機構調整物質:
本発明において、「βアミロイド排泄機構調整物質」とは、細胞、組織・器官におけるAβの排泄を調節する物質であって、Aβ排泄機構阻害物質とAβ排泄機構促進物質の両方が含まれる。
アルツハイマー病の治療薬または誘発薬:
本発明において、「アルツハイマー病の治療薬」には、アルツハイマー病の予防から改善まで、アルツハイマー病の阻害因子となる全ての薬剤を含むものとする。また、「アルツハイマー病の誘発薬」には、アルツハイマー病の誘発から悪化まで、アルツハイマー病の危険因子となる薬剤の全てを含むものとする。
2.βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法
本発明者らは、血液脳関門を介したAβ(1-40)の排泄は、輸送能力の非常に大きい特異的トランスポーターを介した能動輸送系によることを確認した。この輸送系によるAβ(1-40)の排泄活性は、脳からのAβ排泄に大きな影響を及ぼすと考えられ、したがってAβ(1-40)排泄活性を指標としたAβ排泄機構調整物質のスクリーニングが可能となる。
すなわち、本発明は、Aβ(1-40)の輸送活性を指標とした、βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法に関する。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質のAβ(1-40)の輸送活性を、比較対照なしに評価するものであってもよいし、適当な対照と比較評価するものであってもよい。例えば、生理的条件下でのAβ(1-40)の輸送活性(すなわち、正常値)がわかっていれば、この正常値と被験物質の投与条件下によるAβ(1-40)の輸送活性を比較することで、比較対照なしに輸送活性を評価することができる。
しかしながら、より正確な評価のためには、被験物質の投与および非投与条件下において、Aβ(1-40)の輸送活性を比較評価することが好ましい。ここで、被験物質の「投与」とは、動物への投与や細胞培養液中への添加など、被験物質がスクリーニング系に存在する状態を作り出すことの全てを含むものとする。
なお、本発明のスクリーニング方法は、動物を用いたin vivo系であってもよいし、培養細胞を用いたin vitro系であってもよい。以下、in vivo系とin vitro系のそれぞれについて、本発明のスクリーニング方法を具体的に説明する。
2.1 in vivoにおけるスクリーニング方法
動物を用いた in vivo系における本発明のスクリーニング方法は、具体的には以下の工程を含む。
1)動物の脳内に標識したAβ(1-40)を投与する;
2)被験物質の投与および非投与条件下において、上記動物の血液脳関門を介したAβ(1-40)の排泄活性を評価する;
3)被験物質の投与条件下におけるAβ(1-40)の排泄活性が、非投与条件下における排泄活性に比較して有意に変化する場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
(1)工程1:動物への標識Aβ(1-40)の投与
i)動物
本発明の方法で用いられる動物は、非ヒト哺乳動物であれば特に限定されず、サル、イヌ、マウス、あるいはラット等を用いることができるが、操作が容易であるという点で、特にマウスやラットが好ましい。
動物はまた、スクリーニングの目的に応じて、老齢動物、モデル動物、あるいは適当なトランスジェニック動物を用いてもよい。例えば、アルツハイマー病患者の治療薬のスクリーニングには、老齢動物、老化モデル動物、および当該分野で公知のアルツハイマー病研究用トランスジェニック動物(例えば、NEP-/-マウス、家族性AD遺伝子発現モデルマウス等)を用いることができる。
ii)標識したAβ(1-40)
本発明の方法で用いられる、Aβ(1-40)の由来は特に限定されず、使用する動物由来のAβ(1-40)であってもよいし、ヒト由来のAβ(1-40)であってもよいし、化学合成あるいは遺伝子工学的手法により製造されたAβ(1-40)であってもよい。前記Aβ(1-40)は公知の技術に基づいて容易に調製することができるが、市販のもの(例えば、Amersham社製、Bachem社製、Calbio社製等)を用いてもよい。
Aβ(1-40)の標識方法は特に限定されず、酵素標識、放射性標識、蛍光標識など、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、Na125I等を用いて標識された125I標識Aβ(1-40)、あるいは3H標識Aβ(1-40)、14C標識Aβ(1-40)等を好適に用いることができる。
iii)Aβ(1-40)の投与方法
上記動物への標識Aβ(1-40)の投与方法は、特に限定されず、用いる動物の種類に応じて、埋設あるいは注入(マイクロインジェクション)等、適当な方法を選択して用いることができる。また、投与部位も、血液脳関門を介した輸送を観察することができる限り特に限定されない。そのような部位としては、例えば、大脳Par2領域が挙げられ、頭蓋bregmaを座標軸の原点として定めた位置から再現性よく投与することができる。なお、Aβ(1-40)の投与量は、用いる動物やその体重等に応じて決定される。
(2)工程2:血液脳関門を介したAβ(1-40)の排泄活性の評価
i)被験物質の投与
動物への被験物質の投与部位や投与方法は特に限定されず、用いる動物や被験物質の性質に応じて、静脈内投与、脳内投与、経口投与、または腹腔内投与等、適当な方法を適宜選択して用いることができる。また、被験物質の投与量は、用いる動物やその体重、被験物質の性質等に応じて決定される。
ii)Aβ(1-40)の排泄活性
本発明の方法において、Aβ(1-40)の排泄活性は標識物質のシグナル強度によって検出することができる。ここで、排泄活性は排泄速度で評価してもよいし、一定時間内の排泄量で評価してもよいが、本発明の方法においては、排泄速度で評価する方法が好ましい。また、排泄速度や排泄量は間接的にこれらを示すパラメーター(例えば、後述するBEI値等)を用いて評価してもよい。
血液脳関門を介したAβ(1-40)の排泄活性は、循環血液中のAβ(1-40)量、すなわち標識物質のシグナル強度を直接測定することによって求めてもよいし、脳内残存量等から間接的に求めてもよい。具体的には、排泄活性の測定は、例えば、Zlokovicらの方法(Shibata, M. Zlokovic B. et al., J. Clin. Invest. 106, 1489-1499 (2000))や、KakeeらのBrain Efflux Index(BEI)法(Kakee, A., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 277, 1550-1559 (1996))にしたがって実施することができる。特に、BEI法は脳から血液中への排泄速度を直接測定することができるという点で好ましい。以下、このBEI法について詳述する。
iii)Brain Efflux Index (BEI)法
BEI法は血液脳関門を介した中枢から循環血液中への排出輸送を評価する方法であって、下式(I)に示されるBEI値を計算して評価を行う。このBEI値は、血液脳関門を介した投与側の脳から循環血液中への相対的排泄率として定義される。
Figure 0004270976
実際には、技術的なバラツキを補正する目的で対照物質(内部標準)を試験物質とともに同時投与し、下式に示される100−BEI値を計算して評価することが好ましい。
Figure 0004270976
用いられる対照物質は特に限定されないが、例えば、14C等で標識したイヌリンや3H等で標識したマンニトール等を好適に用いることができる。
なお、脳排泄活性は、上記100-BEI値から脳排泄速度keffを計算して評価してもよい。keffは100-BEI値を時間に対して方対数プロットしたときの傾きとして定義される値である。
(3)工程3:判定
最後に、被験物質の投与条件下におけるAβ(1-40)の排泄活性が、非投与条件下における排泄活性に比較して有意に変化した場合、該被験物質をAβ排泄機構調整物質として有用と判定する。ここで、「有意に変化する」とは、被験物質の投与および非投与条件下でのAβ(1-40)の排泄活性の相違に統計的有意差(例えば、p<0.05)があることを意味する。
例えば、被験物質の投与条件下でのAβ(1-40)の排泄活性が、非投与条件下での排泄活性よりも有意に低い場合(例えば、p<0.05)、該被験物質はAβ排泄機構阻害物質として有用と判定される。逆に、被験物質の投与条件下でのAβ(1-40)の排泄活性が、非投与条件下での排泄活性よりも有意に高い場合(例えば、p<0.05)、該被験物質はAβ排泄機構促進物質として有用であると判定される。
2.2 in vitroにおけるスクリーニング方法
培養細胞を用いた in vitroにおける本発明のスクリーニング方法は、具体的には以下の工程を含む。
1)培養細胞に標識したAβ(1-40)を添加し、酸で洗浄する;
2)被験物質の添加および非添加条件下における、上記細胞内へのAβ(1-40)の取り込み活性を評価する;
3)被験物質の添加条件下におけるAβ(1-40)の取り込み活性が、非添加条件下における取り込み活性に比較して有意に変化する場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
(1)工程1:培養細胞へのAβ(1-40)の添加
i)培養細胞
本発明の方法で用いられる培養細胞は、血液脳関門におけるAβ(1-40)特異的トランスポーターを介した能動輸送を再現できる細胞であればよい。そのような細胞としては、例えば血管内皮細胞、脳毛細血管内皮細胞、またはそれらと実質的に同等のAβ(1-40)輸送活性を有する組換え細胞を挙げることができる。
ここで、「それらと実質的に同等のAβ(1-40)輸送活性を有する組換え細胞」とは、(a)血管内皮細胞や脳毛細血管内皮細胞に遺伝的変異を加えて不死化した組換え細胞、(b)血管内皮細胞や脳毛細血管内皮細胞以外の細胞であるが、遺伝的変異を加えて、血管内皮細胞や脳毛細血管内皮細胞と同等のAβ(1-40)の輸送活性を有する組換え細胞を意味する。
(a)の細胞は、例えば、不死化遺伝子(例えば、温度感受性SV40T抗原遺伝子等のガン遺伝子、テロメア遺伝子等)を導入したトランスジェニック動物を作製し、該動物から目的とする組織の細胞を単離することによって調製することができる(特開平5−292958号、特開平11−341982号等参照)。また、(b)の細胞は、例えば、公知の方法に従ってAβ(1-40)特異的トランスポーターの遺伝子をCHO細胞やMDCK細胞等に導入することによって調製することができる。あるいは、Aβ(1-40)特異的トランスポーターの遺伝子を導入したトランスジェニック動物(例えば、マウスやラット等)を作製し、該動物から目的とする組織の細胞を単離することによって調製することができる。
本発明で用いられる細胞の由来は特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウシ、ヒト等の細胞を好適に用いることができる。なお、これらの細胞は生体から単離された細胞である場合には、初代培養系細胞が好ましい。
また、培養細胞として、血管内皮細胞または脳毛細血管内皮細胞の樹立した不死化細胞株を用いることもできる。そのような細胞としては、例えば、マウス由来脳毛細血管内皮細胞株であるTM−BBB株(例えば、TM−BBB1、TM−BBB2、TM−BBB3、TM−BBB4、およびTM−BBB5細胞(特開平11−341982号参照)等)、ラット由来脳毛細血管内皮細胞株であるTR−BBB株(例えば、TR−BBB13(FEPM BP−6873;特開2001−238681号参照)等)、ヒト由来脳毛細血管内皮細胞株であるhBME株(例えば、大日本製薬社製等)、およびマウス由来脳毛細血管内皮細胞株であるMBEC4株(Tatsuta T., et al., J. Biol. Chem. , 267: 20383-20391 (1992))等が公知である。
ii)標識したAβ(1-40)
本発明の方法で用いられる、Aβ(1-40)の由来は特に限定されず、使用する細胞由来のAβ(1-40)であってもよいし、ヒト由来のAβ(1-40)であってもよいし、化学合成あるいは遺伝子工学的手法により製造されたAβ(1-40)であってもよい。前記Aβ(1-40)は公知の技術に基づいて容易に調製することができるが、市販のもの(例えば、Bachem社製、Calbio社製等)を用いてもよい。
Aβ(1-40)の標識方法は特に限定されず、酵素標識、放射性標識、蛍光標識など、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、Na125I等を用いて標識された125I標識Aβ(1-40)、あるいは3H標識Aβ(1-40)、14C標識Aβ(1-40)等を好適に用いることができる。
iii)Aβ(1-40)の添加方法
培養細胞へのAβ(1-40)の添加方法は、特に限定されず、例えば適当量のAβ(1-40)を単に培養液中に添加してもよいし、培養液を適当量のAβ(1-40)を含む別な培養液と交換してもよい。好ましくは、前記Aβ(1-40)は培養細胞がコンフルエントな状態で添加する。なお、Aβ(1-40)の添加量は細胞の種類に応じて適宜決定される。
iv)酸洗浄
細胞は標識Aβ(1-40)の添加から適当な時間の経過後に、緩衝液で数回洗浄して標識Aβ(1-40)を含む培養液を除去する。添加から洗浄までの時間は、経時的なAβ(1-40)の取り込み活性の変化をみるために複数のポイント(例えば、2分、5分、10分、30分、60分、120分etc)を設定する。次いで、細胞を酸で洗浄して、細胞膜上のAβ(1-40)を除去する。これにより、細胞内に取り込まれた(内在化した)Aβ(1-40)のみを検出することが可能となる。なお、酸洗浄に用いる酸としては、pH2〜4程度、好ましくはpH3.0程度の酸性緩衝液(例えば、28mM Sodium acetate, 120 mM NaCl, 20mM Sodium barbitalを含み、1N HClでpH 3.0に調整した緩衝液等)を用いる。
(2)工程2:細胞におけるAβ(1-40)の取り込み活性の評価
i)被験物質の添加
細胞への被験物質の添加方法は特に限定されず、被験物質を培養液に添加する方法であってもよいし、培養液を被験物質を加えた培養液と交換する方法であってもよい。被験物質が可溶性でない場合は、適宜可溶化あるいは懸濁して使用する。被験物質の添加量は用いる細胞や被験物質の性質に応じて決定する。
ii)Aβ(1-40)の取り込み活性
本発明の方法において、Aβ(1-40)の取り込み活性は、一定時間内のAβ(1-40)取り込み量で評価してもよいし、取り込み速度によって評価してもよい。取り込み量や取り込み速度は、間接的にこれらをあらわすパラメーターであってもよい。
例えば、本発明においては、取り込み量は下式(II)で示されるCell/Medium比によって評価できる。このCell/Medium比は、単位細胞量あたりに取り込まれた培養液中のAβ(1-40)を、当該培養液の体積に換算してあらわしたものと定義することができる。
Figure 0004270976
式中、「細胞内のAβ(1-40)濃度」は、細胞内に取り込まれた(内在化)されたAβ(1-40)濃度をあらわし、単位細胞量(例えば、mg タンパク質、細胞数、または細胞体積等)あたりのAβ(1-40)濃度として求めることができる。また、「培養液中のAβ(1-40)濃度」は、Aβ(1-40)添加時の培養液中のAβ(1-40)濃度(すなわち、初期量)をあらわし、単位体積あたりのAβ(1-40)濃度として求めることができる。こうしたAβ(1-40)濃度は標識したAβ(1-40)のシグナル強度から求めることができる。
なお、以下に説明するように、「取り込み活性」は取り込み量等の単純な増減だけでなく、細胞におけるAβ(1-40)のInfluxとEffluxを考慮して経時的に評価することが好ましい。
(3)工程3:判定
i)有意な変化
最後に、被験物質の添加条件下におけるAβ(1-40)の取り込み活性が、非添加条件下における取り込み活性に比較して有意に変化した場合、該被験物質をAβ排泄機構調整物質として有用と判定する。ここで、「有意に変化する」とは、被験物質の添加および非添加条件下でのAβ(1-40)の取り込み活性に統計的有意差(例えば、p<0.05)があることを意味する。
ii)取り込み活性の評価
血液脳関門を介した排泄は、脳から脳血管内皮細胞や脳毛細血管内皮細胞への物質の汲み入れと、当該細胞から循環血液中への汲み出しの2つの過程から成り立っている。このin vivoにおけるAβ(1-40)の排泄は、培養細胞系では、細胞内へのAβ(1-40)のInfluxと、取り込まれたAβ(1-40)の細胞外へのEffluxの2つの過程によって表現される。
つまり、培養細胞系では、Influxのみを増加させる物質(取り込み量増加)、Effluxのみを増加させる物質(取り込み量減少)、InfluxとEffluxの両方を同程度に増加させる物質(取り込み量増減なし:この場合、みかけの取り込み量は変化しないが、取り込み活性そのものは変化している)が、結果としてAβ(1-40)の排泄を促進させ、Aβ排泄機構促進物質としての有用と判定される。逆に、Influxのみを減少させる物質、Effluxのみを減少させる物質、InfluxとEffluxの両方を同程度に減少させる物質は、結果としてAβ(1-40)の排泄を阻害し、Aβ排泄機構阻害物質として有用と判定される。
上記InfluxとEffluxは取り込み活性(取り込み量や取り込み速度)の経時的変化から以下のようにして求めることができる。
iii)経時的評価
Aβ(1-40)添加初期には、細胞へのAβ(1-40)Influxによって、Aβ(1-40)取り込み量は時間に比例して増加する。やがて、取り込まれたAβ(1-40)の細胞からのEffluxが始まると、Aβ(1-40)取り込み量の増加率は次第に小さくなり、最終的にはInfluxとEffluxが平衡に達し、取り込み量はほぼ一定値を示すよう(定常状態)になる。すなわち、取り込み量の経時的変化において、添加初期の取り込み量からInfluxが求められ、このInfluxと定常状態の取り込み量からEffluxが求められる。
かくして、InfluxとEffluxが求められれば、ii)に記載したようにして、被験物質がAβ排泄機構調整物質として有用か否かが判定できる。
例えば、Influxのみを変化させる物質をスクリーニングしたい場合は、Aβ(1-40)添加初期の取り込み量や取り込み速度に基づいて、取り込み活性を評価すればよい。一方、effluxのみを変化させる物質をスクリーニングしたい場合は、Aβ(1-40)の添加初期と十分時間経過後(定常状態)における取り込み量や取り込み速度に基づいて、取り込み活性を評価すればよい。しかし、網羅的なスクリーニングのためには、Aβ(1-40)の取り込み量の経時的変化を詳細に解析して、取り込み活性を評価することが望ましい。
3. Aβ(1-40)特異的トランスポーター
本発明者らは、Aβ(1-40)の脳からの消失メカニズムについて、排泄および代謝の両面から検討を行った結果、Aβ(1-40)は特異的トランスポーターを介した能動輸送系によって脳から排泄されていることを確認した。該Aβ(1-40)特異的トランスポーターは未だ単離されてはいないが、後述する実施例よりその存在は明らかといえる。このAβ(1-40)特異的トランスポーターは、以下のような特徴を有する。
1)主として脳血管内皮細胞および脳毛細血管内皮細胞に存在し、血液脳関門を介したAβ(1-40)の脳から循環血液中への排泄を担う。
2)LRP-1とは異なる。
3)インスリンおよびインスリン関連タンパク(IGF-I、IGF-II)により阻害される(インスリン感受性)。
4)既知のインスリン受容体やその関連受容体とは異なる可能性がある。
5)ネプリライシン阻害剤により部分的に阻害される可能性がある。
以下、上記Aβ(1-40)特異的トランスポーターの特徴について詳述する。
3.1 Aβ(1-40)特異的トランスポーターの存在
本発明者らは、[125I] Aβ(1-40)をラット大脳皮質に投与し、[125I] Aβ(1-40)が半減期45.6 minで速やかに排泄されること、および速度論的解析から、Aβ(1-40)が高い輸送能力をもつ特異的トランスポーター(Aβ(1-40)特異的トランスポーター)を介した能動輸送系よって排泄されていることを確認した。
一方、発明者らは、[125I] Aβ(1-40)を投与後の血漿中放射活性の解析から、脳内で産生されたAβ(1-40)は、大部分が代謝物として排泄されるが、一部は未変化体として循環血中に排泄されることを確認した。これらのことは、Aβ(1-40)はその大部分が脳内あるいは細胞内で代謝を受けて循環血中に排泄されるが、少なくとも一部は未変化体として脳毛細血管にエンドサイトーシスされた後、代謝を受けずに未変化体としてエクソサイトーシスされていることを示す。すなわち、Aβ(1-40)特異的トランスポーターはAβ(1-40)未変化体のみならず、その代謝物(例えば、Aβ(1-13)、Aβ(1-14)、およびAβ(1-19))もリガンドとする可能性がある。
3.2 LRP-1との区別
マウスにおいて、Aβ(1-40)はapoEやα2マクログロブリンとcomplexを形成し、LRP-1を介して排泄されるという報告がある(Shibata, M., Zlokovic B. V., et al., J. Clin. Invest. 106, 1489-1499 (2000))。しかし、発明者らがラットを用いてAβ(1-40)の脳排泄を検討したところ、LRP-1等、LDL受容体familyのリガンドとなるRAPを併用投与あるいは前投与しても、Aβ(1-40)の排泄速度は全く低下しなかった。このことから、Aβ(1-40)の能動輸送系を介した脳排泄はLRP-1を介したものではなく、Aβ(1-40)特異的トランスポーターはLRP-1とは異なるものであることが確認された。
3.3 インスリン感受性
Aβ(1-40)はまた、in vitroでインスリン分解酵素(insulin-degrading enzyme:IDE)により代謝されるが、IDEはcytosolに存在する酵素であるため、in vivoではAβの代謝に関与していないと考えられていた。しかし、最近IDEには分子量の異なるアイソフォームが存在し、マイクログリアから細胞外へ分泌されること(Qiu, W. Q. et al., J. Biol. Chem., 273, 32730-32738 (1998))、神経細胞の細胞膜にも存在することが明らかになり(Vekrellis, K. et al., J. Nerurosci., 20, 1657-1665 (2000))、IDEによるAβ(1-40)分解の可能性もでてきた。
発明者らがIDEの基質であるinsulinを[125I]Aβ(1-40)と併用投与したところ、[125I] Aβ(1-40)の脳排泄速度は顕著に低下し、Aβ感受性の脳排泄はほぼ完全に阻害された。同様の効果は、insulinの関連タンパクであるIGF-IおよびIGF-IIでも認められた。このことから、Aβ(1-40)特異的トランスポーターはインスリン感受性であることが確認された。
なお、Aβ(1-42)では、より高濃度のinsulinとの併用投与によっても、Aβ(1-42)の代謝阻害は認められていない(Iwata, N., Saido, T. C., et al., Nat. Med. 6, 143-150 (2000))。このことから、Aβ(1-40)とAβ(1-42)の脳からの消失(代謝・排泄)経路は根本的に異なることが確認された。
なお、次項に示すように、Aβ(1-40)はインスリン受容体を介して排泄されない。したがって、insulinやその関連タンパクのAβ(1-40)特異的トランスポーターへの作用メカニズムとして、以下の2つが予測できる。
1)insulin、およびinsulin関連タンパクがAβ(1-40)特異的トランスポーターの基質で、当該トランスポーターを介したAβ(1-40)の排泄を競合的に阻害する。
2)insulin、およびinsulin関連タンパクはAβ(1-40)特異的トランスポーターの活性を低下させる。
3.4 インスリン関連受容体を介した排泄
発明者らは、Aβ(1-40)特異的トランスポーターがinsulin感受性であることから、Aβ(1-40)がinsulin受容体あるいはinsulin受容体の関連受容体を介して排泄されている可能性について検討した。なお、insulin受容体の関連受容体にはIGF-I受容体およびIGF-II受容体が存在し、insulin、IGF-IおよびIGF-IIは、insulin受容体およびIGF-I受容体のリガンドとなるが、insulinはIGF-II受容体のリガンドとはならない。また、insulin受容体の内在化にはinsulin受容体の自己リン酸化が必須であるが、Aβ(1-40)はinsuln受容体に結合するもののinsulin受容体の自己リン酸化を引き起こさないことから(Xie et al., J. Neurosci. 22:RC221 (1-5), 2002)、insulin受容体およびIGF-II受容体を介してエンドサイトーシスされている可能性は低いと考えられた。したがって、IGF-I受容体についてAβ(1-40)の脳排泄への関与が予測される。そこで、発明者らはIGF-I受容体の中和抗体を用いてIGF-I受容体の関与を検討したところ、[125I]Aβ(1-40)の脳排泄速度はcontrolと同程度であることを確認した。その結果、Aβ(1-40)はIGF-I受容体を介して脳から排泄されていない可能性が示唆された(これらの詳細については、実施例3で詳述する)。すなわち、Aβ(1-40)特異的トランスポーターは既知のinsulin受容体またはその関連受容体とは異なる可能性があることが確認された。
3.5 ネプリライシンとその阻害剤による影響
Aβ(1-42)の脳内代謝に重要な役割を果たすことが確認されているネプリライシン(Neprilysin:NEP)が、Aβ(1-40)の代謝にも関与している可能性が示唆されている。発明者らは、[125I] Aβ(1-40)とNEP阻害剤であるthiorphanをラットに併用投与し、[125I] Aβ(1-40)の脳からの排泄速度が有意に低下することを確認した。しかし、Aβ(1-42)の場合とは異なり、その排泄阻害は部分的なものであった。この結果は、Aβ(1-40)にはNEPによる代謝を受けない排泄経路が存在することを示すが、同時にNEPは関与せず、thiorphanがAβ(1-40)特異的トランスポーターを直接阻害し、Aβ(1-40)の排泄を部分的に阻害しうることも予測させた。
いずれにしても、Aβ(1-40)特異的トランスポーターを介したAβ(1-40)の代謝・排泄経路は、NEPおよびその阻害剤の影響を部分的に受ける可能性があることが確認された。
4.アルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング方法
4.1 Aβ排泄機構調整物質の利用方法
本発明の方法でスクリーニングされるAβ排泄機構調整物質は、Aβ排泄機構阻害物質とAβ排泄機構促進物質の両方を含む。前記したように、Aβは正常脳でも恒常的に産生されている生理的なペプチドであるが、その産生、代謝、排泄に何らかの異常が生じると、脳内での過剰なAβの蓄積(凝集・沈着)が起きる。
したがって、Aβ排泄機構促進物質は、Aβの蓄積が原因となって生じる老人斑、アルツハイマー病、遺伝性アミロイド型脳出血(オランダ型)等の予防もしくは治療薬となりうる。一方、Aβ排泄機構阻害物質は上記老人斑、アルツハイマー病、遺伝性アミロイド型脳出血(オランダ型)等の誘発薬となりうる。
4.2 アルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング
全アルツハイマー病の90%以上を占めている孤発性アルツハイマー病においては、Aβの過剰産生は起こっていないことから、Aβの消失(代謝・排泄)過程の異常がアルツハイマー病の発症に関わっている可能性が高い。特に、Aβ(1-40)特異的トランスポーターのように高活性のトランスポーターの機能低下はAβ(1-40)の脳からの消失に重大な影響を及ぼし、孤発性アルツハイマー病の発症や悪化の原因になりうる。
一方、Aβ(1-40)が脳内で過剰産生されている家族性アルツハイマー病患者の脳では、Aβ(1-40)特異的トランスポーターの排泄能が飽和していることが考えられる。したがって、Aβ(1-40)特異的トランスポーターの機能低下は家族性アルツハイマー病悪化の原因ともなりうる。
したがって、Aβ(1-40)特異的トランスポーターを介したAβ(1-40)輸送活性は、全てのアルツハイマー病に対する治療薬、あるいは誘発薬探索の指標として、利用することができる。
すなわち、本発明はまた、Aβ(1-40)排泄活性を指標としたアルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング方法を提供する。なお、前記「治療薬」には、予防から改善まで、アルツハイマー病の阻害因子となる全ての薬剤が含まれる。また、「誘発薬」には、誘発から悪化まで、アルツハイマー病の危険因子となる全ての薬剤が含まれる。
4.3 Aβ排泄機構調整剤を阻害または促進する物質
本発明はまた、本発明の方法でスクリーニングされたβアミロイド排泄機構調整物質に対し、その作用を阻害または促進させる物質をアルツハイマー病の治療薬または誘発薬として有用と判定する、アルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング方法を提供する。
例えば、本発明者らの研究により、インスリンやインスリン関連タンパクはAβ(1-40)特異的トランスポーターの機能を阻害することが確認されたが、このインスリンやインスリン関連タンパクの作用を阻害する物質もまた、アルツハイマー病の治療薬として利用できる。同様に、インスリンやインスリン関連タンパクの作用を促進する物質は、アルツハイマー病の誘発薬として利用できる。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の実施例中で用いたすべてのAβ(1-40)は、ヒト由来の(ヒトAβ(1-40)のアミノ酸配列を有する)ものである。
〔実施例1〕 ラットにおける[125I] Aβ(1-40) の脳排泄
1.BEI法を用いた[125I] Aβ(1-40) 脳排泄の解析
Brain efflux index(BEI)法を用いて、ラット脳からの[125I] Aβ(1-40)の消失について検討した。
1)試験方法
Kakeeらの方法(Kakee, A., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 277, 1550-1559 (1996))に従い、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(チャールズリバー社製、N=16)の左大脳 Par2領域に、ECF buffer pH 7.4(調製方法は前述のKakeeらの文献に記載)に溶解した[125I] Aβ(1-40) 0.2μCi/μl(パーキンエルマーライフサイエンス社製)を麻酔下でマイクロインジェクションした。なお、[125I] Aβ(1-40)は、内部標準として[14C]carboxyl-inulin 0.1 μCi/μl (パーキンエルマーライフサイエンス社製)を混合し、Total 0.5μl投与した。投与側の脳、および反対側の脳、小脳、CFSにおける各放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。
2)試験結果
投与した[125I] Aβ(1-40)は、keff = 0.0142 ± 0.0011 (min-1)で脳から速やかに消失した(図1a)。なお、keffは100-BEI値を時間に対して片対数プロットしたときの傾き(図1aの直線の傾き)である。脳からの排泄を示す100-BEI(%)は一相性を示し、半減期は48.8 minであった。反対側の脳、小脳、CFS中の放射能は痕跡程度であったことから、この排泄は血液脳関門を介した脳から血液側へのeffluxであると考えられた。以上より、[125I] Aβ(1-40)は分子量約4500という高分子であるにも関わらず、速やかに血液脳関門から排泄されていることが明らかとなった。
2. [125I] Aβ(1-40)脳排泄速度に対する投与溶液濃度依存性
[125I] Aβ(1-40)の脳排泄機構が飽和性を有する排泄機構であるか確認するため、脳排泄速度keffの投与溶液濃度依存性を検討した。
1)試験方法
実施例1と同様の方法で、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(各濃度N=16)の大脳 Par2領域に、[125I] Aβ(1-40) 0.2μCi/μlを種々の濃度のAβ(1-40)の非標識体(Bachem社製)とともに、Total 0.5μl 麻酔下でマイクロインジェクションし、投与側の脳における放射活性を測定した。
2)試験結果
keffは投与溶液濃度依存的に低下し、[125I] Aβ(1-40)の脳排泄機構は飽和性を有する排泄機構であることが明らかとなった(図1b)。しかしながら、投与溶液濃度20μM という高濃度においても[125I] Aβ(1-40)の脳排泄は完全には阻害されなかったことから、非特異的な排泄機構の存在も示唆された。
さらに、下式に基づき速度論的解析を行った。表1に各種パラメーターの値を示す。
Figure 0004270976
なお、後述するようにAβ(1-40)が凝集していると考えられる50μMのkeffはこの解析には使用していない。
Figure 0004270976
(式中、kmax、km、k、Cは、それぞれ最大脳排泄速度、ミカエリス定数、非特異的脳排泄速度、投与溶液濃度である。)
その結果、kmax = 0.00286 ± 0.0088 (μmol/l/min)、km = 0.258 ± 0.089 (μM)、k = 0.00407 ± 0.0050 (min-1)であった(表1)。
投与溶液の脳内での希釈を考慮すると(Kakee, A., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 277, 1550-1559 (1996))、脳内におけるkm,brainは8.51 nMであり、高親和性の排泄機構であることが明らかとなった。Aβ(1-40)感受性effluxの半減期は62.5 min、total effluxの半減期は45.7 minであった。投与溶液濃度50 μMでは脳排泄速度は極端に低下した。この投与溶液濃度ではAβ(1-40)は凝集している可能性が考えられ、凝集したAβ(1-40)はAβ(1-40) 感受性の輸送および非特異的な輸送もされず、脳内に蓄積するものと考えられた。
〔実施例2〕 ラット[125I] Aβ(1-40)投与後の血中排泄物の分析
脳内に投与された[125I] Aβ(1-40)が未変化体として排泄されているのか、代謝されて排泄されているのかを確認した。
1)試験方法
実施例1と同様の方法で、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(N=1)の大脳 Par2領域に、[125I] Aβ(1-40) 約2000000 cpm/μl, 0.5μl を麻酔下でマイクロインジェクションした。なお、この実験ではinulin等の内部標準は用いていない。脳内投与5分後に投与脳側頸静脈の血漿を採取し、ゲル濾過(PD-10カラム、アマシャムファルマシアバイオテク社製)にかけ、放射活性が認められたフラクションについてHPLC分析(LC-6A、島津製作所社製)を行った。なお、[125I] Aβ(1-40)は、基本的にWoらの方法(Wo, D., et al., J. Clin. Investig. 100, 1804-1812 (1997))に従ってAβ(1-40)の非標識体(Bachem社製)を125I標識した。
2)試験結果
得られた血漿のゲル濾過溶出液のフラクション8と17に、2つの放射能ピークが認められた(図2a)。それぞれをHPLCにより分析したところ、高分子フラクションには2つのピーク、低分子フラクションには3つのピークが認められた(図2bおよび2c)。高分子フラクションに未変化体のピーク(図2b、12.5 minのピーク)が確認できたことから、血液脳関門にはAβ(1-40)の未変化体を基質として認識する排泄機構が存在していると考えられた。また、高分子フラクションおよび低分子フラクションに未変化体以外のピークが確認されたことから、Aβ(1-40)は血漿中に代謝物としても排泄されていることが明らかとなった。
〔実施例3〕 ラット[125I] Aβ(1-40) 脳排泄に及ぼす各種阻害剤の影響
1.LRP-1、SR-Aのリガンド(RAP、fucoidan)の影響
マウスにおいてAβ(1-40)はLRP-1を介して排泄されていると報告されている(前掲)。また、SR-A(scavenger receptor type A)の阻害剤であるfucoidanで排泄の促進効果が認められている。そこでLRP-1のリガンドであるRAP(receptor-associated protein)およびSR-AのリガンドであるfucoidanがAβ(1-40)排泄に及ぼす影響について検討した。
1)試験方法
実施例1と同様にして、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(各N=12〜16)の左大脳 Par2領域に、[125I] Aβ(1-40) 0.2μCi/μl を、RAP 5μM(ラットリコンビナントhis:RAP:c-myc融合タンパク、Research Diagnostics社製)またはfucoidan 100 μg/ml(fucus vesiculosus由来、シグマ社製)とともに Total 0.5μl 麻酔下でマイクロインジェクションし、投与側脳における各放射活性を測定した。さらに、希釈効果を無視できるpreadministrationの手法(Kakee, A., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 277, 1550-1559 (1996))を用いて、上記5μM RAP 50μlを前投与した後、[125I] Aβ(1-40) 0.5μlによる阻害効果を検討した。
2)試験結果
RAPあるいはfucoidanを併用しても[125I] Aβ(1-40)の脳排泄速度は変化せず(図3a)、LRP-1およびSR-AはAβ(1-40)の脳排泄に大きく関与していない可能性が示唆された。しかしながらマイクロインジェクションの場合、脳内で投与溶液の希釈がおこるため、十分な阻害効果がみられなかった可能性がある。そこで希釈効果を無視できるpreadministrationの手法を用いてRAPによる阻害効果を検討したところ、[125I] Aβ(1-40)投与後60 minにおける100-BEI値はbuffer投与と同等であり(図3b)、阻害効果は認められなかった。以上の結果から、[125I] Aβ(1-40)の脳排泄に及ぼすLRP-1の寄与はラットでは非常に小さいことが明らかとなった。
2.NEP阻害剤(thiorphan)の影響
Aβ(1-42)はin vivoにおいて脳内でneprilysin(NEP)によって代謝を受けることが明らかとされている。またin vitroでは、Aβ(1-40)、Aβ(1-42)とも、NEPによって代謝を受けることが明らかとされている。そこで[125I] Aβ(1-40)の脳排泄に及ぼすthiorphanの影響を検討した。
1)試験方法
1.と同様にして、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(各N=16)の左大脳 Par2領域に、[125I] Aβ(1-40) 0.2μCi/μl をthiorphan 1 mM(シグマ社製)とともに Total 0.5μl 麻酔下でマイクロインジェクションし、投与側脳における各放射活性を測定した。
2)試験結果
NEP阻害剤であるthiorphanを併用すると[125I] Aβ(1-40)の脳排泄は有意に低下し(図4a)、[125I] Aβ(1-40)がNEPにより代謝を受けてから排泄されている可能性が示唆された。しかしながら阻害の程度は部分的なものであったことから、NEPによる代謝を受けない排泄経路も存在すると考えられた。
3.Insulinおよびinsulin様栄養因子の影響
Aβ(1-40)はin vitroにおいてinsulin-degrading enzyme(IDE)によって代謝されることから、[125I] Aβ(1-40)の脳排泄に及ぼすinsulin、IGF-IおよびIGF-IIの影響を検討した。
1)試験方法
1.と同様にして、7週齢のSprague-Dawley系雄ラット(各N=16)の左大脳 Par2領域に、[125I] Aβ(1-40) 0.2μCi/μl を、insulin 100 μg/ml(ヒトリコンビナント、シグマ社製)、IGF-I 100 μg/ml(ヒトリコンビナント、シグマ社製)またはIGF-II 100 μg/ml(ヒトリコンビナント、シグマ社製)とともに Total 0.5μl 麻酔下でマイクロインジェクションし、投与側脳における各放射活性を測定した。
さらに、IGF-I受容体により排泄される可能性を検討するため,抗IGF-I受容体抗体 100 μg/ml(ヒトIGF-I受容体のマウスモノクローナル抗体、Oncogene Research Products社製)を併用投与した。
2)試験結果
insulinの併用投与により[125I] Aβ(1-40)の脳排泄は顕著に低下し、Aβ(1-40)感受性の脳排泄はほぼ完全に阻害された。insulin様の栄養因子であるIGF-IおよびIGF-IIでも同様に強い排泄阻害が認められた(図4b)。
一方、中和抗体である抗IGF-I受容体抗体の併用によって、[125I]Aβ(1-40)の脳排泄速度は変化しなかった(図4c)。
IGF-I受容体の中和抗体で阻害が認められなかったことから、[125I]Aβ(1-40)がIGF-I受容体によって輸送される可能性は否定された。insulin受容体の内在化には、insulin受容体の自己リン酸化が必須であるが、Aβ(1-40)はinsuln受容体に結合するもののinsulin受容体の自己リン酸化を引き起こさないこと(Xie et al., J. Neurosci. 22:RC221 (1-5), 2002)、および表2に示すとおり、今回投与したIGF-Iはinsulin受容体を完全に阻害できる濃度ではないことから、insulin受容体を介して排泄されているのではないと考えられた。
Figure 0004270976
以上を考慮すると、[125I] Aβ(1-40)は、insulin受容体およびinsulin関連受容体を介して排泄されているのではないと考えられた。
〔実施例4〕 TM-BBB4細胞を用いた[125I]Aβ(1-40)取り込み活性の検討
マウス脳毛細血管内皮細胞由来の不死化細胞株TM-BBB4(特開平11−341982号参照)を用いて、血液脳関門を介した排泄を評価するin vitro系を作製し、Aβ(1-40)取り込み活性について種々の検討を行った。
1.TM-BBB4細胞への[125I]Aβ(1-40)取り込み活性の測定
1)試験方法
24穴細胞培養プレート(2 cm2)にTM-BBB4株を0.5 x 105/ウエル/ml培地となるように播種し、33℃のCO2インキュベーターで48時間培養して、細胞をコンフルエントにした。
コンフルエントになった細胞に対し、まず培地を吸引し、37℃に温めた取り込み用緩衝液 [122 mM NaCl, 3 mM KCl, 1.4 mM CaCl2, 1.2 mM MgSO4(7H2O), 0.4 mM K2HPO4, 10 mM glucose, 10 mM HEPES, 25 mM NaHCO3の溶液を5 % CO2/95 % O2で10分間バブリングして、1 N NaOHでpH 7.4にしたもの]で3回洗浄後、37℃に温めた 1.5 kBq/ウエルの[125I] Aβ(1-40)(Amersham社製)を含む取り込み用緩衝液0.2 mlを加えた。さらに37℃で一定時間インキュベーションした後、取り込み用緩衝液を除去した。なお、インキュベーション時間は2分、5分、10分、30分、60分、120分で変化させた。
次に、氷冷した取り込み用緩衝液1 mlを加え3回洗浄した後、氷冷した酸性洗浄用緩衝液 [28 mM Sodium acetate, 120 mM NaCl, 20 mM Sodium barbital, 1 N HClでpH 3.0にしたもの] 1 mlで10分間インキュベートした。さらに、氷冷した酸性洗浄用緩衝液1 mlで4回洗浄した。こうして、酸性洗浄用緩衝液で洗浄された画分の全量を酸可溶性画分とした。さらに、酸性洗浄用緩衝液を除去後、プレートに0.5 N NaOH 1 ml加えて一晩放置し細胞を可溶化し、その全量を耐酸性画分とした。
上記酸可溶性画分と耐酸性画分の各々について、[125I]放射活性をガンマーカウンターを用いてカウントした。
2)試験結果
上記酸可溶性画分および耐酸性画分について、タンパク1 mgあたりの[125I]放射活性を求め、これを取り込み用緩衝液1μlあたりの放射活性に対する比として表した(Cell/Medium 比)。図5に、耐酸性画分のCell/Medium 比(Acid resistant)と、酸可溶性画分と耐酸性画分のCell/Medium 比の総和(Total binding)をそれぞれ経時的にプロットしたグラフを示す。なお、耐酸性画分のCell/Medium 比は細胞内に内在化した[125I]Aβ(1-40)量(すなわち、取り込み活性)を示すものである。図5より明らかなように、TM-BBB4細胞の37℃におけるAβ(1-40)取り込み活性は少なくとも10分までは時間依存的に上昇し、その後はほぼ一定値を示した。これは、急速にInfluxしたAβ(1-40)が徐々に細胞外へEffluxするためと考えられる。なお、この取り込み活性は4℃では、30分で80%に減少し、TM-BBB4細胞のAβ(1-40)取り込み活性には、温度依存性があることが確認された。
また、耐酸性画分のCell/Medium比は、TM-BBB4細胞の実内容積(4μl/mg protein)より約10倍も高い40μl/mg proteinと、濃縮的な取り込みであることが示された。この結果は、Aβ(1-40)の取り込みが能動輸送系を介したものであることを示唆するものであった。
2.[125I]Aβ(1-40)取り込み活性に対する非標識Aβ(1-40)の濃度依存性効果
1)試験方法
前項1.に記載の[125I] Aβ(1-40)取り込み用緩衝液について、さらに非標識Aβ(1-40)(Bachem社製)100 nM添加したものと、添加しないものの二種を調製した。各々の取り込み時間を5分間とし、それ以外は前項1.と同様にして、酸可溶性画分と耐酸性画分の各々について、[125I]放射活性を測定した。
2)試験結果
Aβ(1-40)の取り込み活性は、100 nMの非標識Aβ(1-40)添加により、Controlの54.2%まで阻害された。
3.[125I]Aβ(1-40)取り込み活性に対する浸透圧効果
1)試験方法
コンフルエントになるまで培養したTM-BBB4細胞は、培地を吸引し、37℃に温めた取り込み用緩衝液で3回洗浄後、37℃に温めた取り込み用高張緩衝液[取り込み用緩衝液に1.2 M sucroseを溶解したもの]を加え、20分間プレインキュベートした。さらに、1.5 kBq/ウエルの[125I] Aβ(1-40)を含む取り込み用高張緩衝液を0.2 ml加えて、37℃で5分間インキュベーションした後、取り込み用高張緩衝液を除去した。
次に、氷冷した取り込み用緩衝液1 mlを加えて3回洗浄した後、氷冷した酸性洗浄用緩衝液 [28 mM Sodium acetate, 120 mM NaCl, 20 mM Sodium barbital, 1N HClでpH 3.0にしたもの] 1 mlを加えて10分間インキュベートした。さらに、氷冷した酸性洗浄用緩衝液1 mlで4回洗浄し、酸性洗浄用緩衝液で洗浄された画分の全量を酸可溶性画分とした。酸性洗浄用緩衝液を除去後、プレートに0.5 N NaOH 1 mlを加え、一晩放置して細胞を可溶化し、その全量を耐酸性画分とした。酸可溶性画分と耐酸性画分の各々の[125I]放射活性をガンマーカウンターでカウントした。なお、対照群としての等張条件には、取り込み用高張緩衝液の代わりに、1.に記載した取り込み用緩衝液を用いて同様に実施した。
2)試験結果
Aβ(1-40)取り込み活性は、高浸透圧条件下で、Controlの18%まで減少し、TM-BBB4細胞のAβ(1-40)取り込みには浸透圧依存性があることが確認された。この結果は、高浸透圧条件下で細胞内容積が小さくなるとAβ(1-40)取り込み活性が低下することを示しており、TM-BBB4細胞におけるAβ(1-40)内在化が能動輸送系を介した取り込みであるという1.の結果を支持するものであった。
図1は、ラット[125I]Aβ(1-40)の脳排泄をBEI法を用いて解析した結果を示すグラフである。図1aは、[125I]Aβ(1-40)脳排泄を経時的に観察したものである。図1bは、[125I]Aβ(1-40)脳排泄の投与濃度依存性を観察したものである。 図2は、ラット[125I]Aβ(1-40)の投与脳側頸静脈の血漿の分析結果を示すグラフである。図2aはゲル濾過分析の結果を、図2bおよび図2cはHPLC分析(それぞれ、フラクション8および17)の結果を示す。 図3は、ラット[125I]Aβ(1-40)脳排泄に対するLRP-1リガンド(RAP)、およびSR-Aリガンド(fucoidan)の影響を示すグラフである。図3aは投与後のkeff値を示す。図3bはRAP preadministration法における投与60分後の100−BEI(%)を示す。 図4は、ラット[125I]Aβ(1-40)脳排泄に対する各種薬剤の影響を示すグラフである。図4aはNEP阻害剤(thiorphan)投与後のkeff値を示す。図4bはinsulinおよびinsulin様栄養因子(IGF-I,IGF-II)投与後のkeff値を示す。図4cは抗IGF-I受容体抗体(anti-IGFIR)を示す。 図5は、TM-BBB4細胞の[125I]Aβ(1-40)取り込み活性の経時的変化を表すグラフである。図中、縦軸は[125I]放射活性のCell/Medium比(μl/mg protein)、横軸は時間(min)を示す。また、耐酸性画分の値は(Acid resistant:−□−)、酸可溶性画分と耐酸性画分を総和は(Total binding:−◇−)で示されている。

Claims (12)

  1. 以下の工程を含む、βアミロイド(1-40)の輸送活性を指標とした、βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法:
    1)動物の脳内に標識したβアミロイド(1-40)を投与する;
    2)LRP-1リガンドの存在下および非存在下において、上記動物の血液脳関門を介したβアミロイド(1-40)の排泄活性を被験物質の投与および非投与条件下で評価する;
    3)被験物質の投与条件下におけるβアミロイド(1-40)の排泄活性が、非投与条件下における排泄活性に比較して有意に変化するが、その活性はLRP-1リガンドの存在によって変化しないものである場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
  2. LRP-1リガンドがRAPである、請求項1に記載の方法。
  3. βアミロイド(1-40)の排泄活性が、下式(I)に示されるBEI値を用いて評価されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
    Figure 0004270976
  4. 動物がマウスまたはラットである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 以下の工程を含む、βアミロイド(1-40)の輸送活性を指標とした、βアミロイド排泄機構調整物質のスクリーニング方法:
    1)培養細胞に標識したβアミロイド(1-40)を添加し、酸で洗浄する;
    2)LRP-1リガンドの存在下および非存在下において、上記細胞を介したβアミロイド(1-40)の取り込み活性を被験物質の添加および非添加条件下で評価する;
    3)被験物質の添加条件下におけるβアミロイド(1-40)の取り込み活性が、非添加条件下における取り込み活性に比較して有意に変化するが、その活性はLRP-1リガンドの存在によって変化しないものである場合、該被験物質をβアミロイド排泄機構調整物質として有用と判定する。
  6. LRP-1リガンドがRAPである、請求項5に記載の方法。
  7. βアミロイド(1-40)の取り込み活性が、細胞内へのβアミロイド(1-40)取り込み量の経時的変化から評価されることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
  8. 細胞内へのβアミロイド(1-40)取り込み量が、下式(II)で示されるCell/Medium 比を用いてあらわされることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
    Figure 0004270976
  9. 培養細胞が、血管内皮細胞、脳毛細血管内皮細胞、またはそれらと実質的に同等のβアミロイド(1-40)輸送活性を有する組換え細胞である、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 培養細胞が、TM−BBB、TR−BBB、hBME、およびMBEC4から選ばれるいずれか一種である、請求項9に記載の方法。
  11. βアミロイド排泄機構調整物質がアルツハイマー病の治療薬または誘発薬である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法において、さらに以下の工程を含むアルツハイマー病の治療薬または誘発薬のスクリーニング方法:
    スクリーニングされたβアミロイド排泄機構調整物質に対し、その作用を阻害または促進させる物質をアルツハイマー病の治療薬または誘発薬として有用と判定する。
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