JP4251850B2 - X線管装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、絶縁油を強制的に循環して冷却する絶縁油冷却器(以下、冷却器と略称する)を備えたX線管装置に係り、特にX線管装置に内挿されたX線管及びX線管と組み合わせて使用される部品の冷却特性を向上する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
医用診断に用いられるX線管装置では、X線発生時に入力エネルギーの約99%が熱エネルギーに変換されるため、X線管のターゲットにおいて多量の熱が発生し、X線管及びX線管容器内の部品が加熱される。X線管装置内には通常回転陽極X線管が内挿されているが、使用中にはその回転陽極のターゲットの温度が約1,000℃にまで達し、X線管容器内の温度も上昇する。X線管容器内の温度上昇を防ぎ、X線管を効率的に冷却するため、X線管の周囲には熱伝達に優れた絶縁油が充填されている。
【0003】
しかし、X線管のX線負荷入力の大きいX線管装置では、X線管容器内の絶縁油の熱伝達のみでは、X線管で発生した熱を外部に排出することが不十分であり、X線管容器内の絶縁油や絶縁物部品の温度上昇が過大となり、そのためにX線管の使用制限を受ける場合がある。このような場合には、X線管容器の外部に絶縁油を冷却するための冷却器を設け、この冷却器とX線管容器との間で絶縁油を強制的に循環させて、X線管容器内の絶縁油を冷却する方式が採用されている。このようなX線管装置は絶縁油強制循環型冷却器付きX線管装置と呼ばれている。
【0004】
次に、従来の絶縁油強制循環型冷却器付きX線管装置の一例についてその構造の概要を説明する。上記の如く、このX線管装置はX線管装置本体と絶縁油冷却器とから構成され、両者はゴムホースなどの送油管で接続されている。ここで、X線管装置本体は、マイナス電位の陰極とプラス電位の回転陽極とこれらの電極を真空気密に内包しX線放射窓を有するアース電位の外囲器とを備えた回転陽極X線管(以下、X線管と略称する)と、回転陽極を回転駆動するステーターコイルと、X線管などを収納するX線管容器と、X線管などを絶縁、冷却するためにX線管容器内に満たされる絶縁油などで構成される。また、X線管容器の一端部には絶縁油流入口が、他端部には絶縁油流出口がそれぞれ設けられている。
【0005】
また、冷却器は絶縁油の放熱を行う熱交換器と、熱交換器に送風する送風機と、熱交換器に連結され、絶縁油を強制循環させるポンプと、上記の絶縁油流入口及び絶縁油流出口とポンプ及び熱交換器との間を連結する送油管などで構成される。
【0006】
また、X線管装置の動作時には、X線管の陰極と回転陽極との間に数十kVから百数十kVの高電圧が印加され、陰極の高温に加熱されたフィラメントから放出された熱電子が回転陽極のターゲットに衝突し、ターゲット表面からX線が放射される(同時に2次電子も放射される)。この時、熱電子の衝突エネルギーの約99%はターゲットにて熱エネルギーに変換されるため、ターゲットに熱エネルギーが蓄積され温度上昇する。ターゲットの熱エネルギーは主に熱輻射により周囲の外囲器、特にX線放射窓周辺部に放散される。また、ターゲットから放射された2次電子も、同様に熱入力として周囲の外囲器に入射する。これらの熱エネルギーは、外囲器を経由して絶縁油に放散される。
【0007】
また、ターゲットの熱エネルギーの一部は熱伝導によってターゲットを支持する回転陽極の部品を経由して陽極端から絶縁油に放散される。更に、ステーターコイルを附勢してX線管の回転陽極を起動、制動させることにより、ステーターコイルが発熱し、ステーターコイルからの熱も絶縁油に放散される。以上のことから、X線管装置本体内では、X線管の外囲器の中央部、特にX線放射窓の周辺部やステーターコイルの周辺部や陰極の周辺部において、発熱が大きくなるため、その部分の絶縁油の温度上昇が大きい。
【0008】
これに対し、従来のX線管装置における冷却技術では、上記の如く、X線管装置本体に冷却器が接続されて、強制的に絶縁油を循環させて冷却する方法が採られていて、X線管容器内のX線管及びステーターコイルで発生した熱は絶縁油に放散され、この加熱された絶縁油がX線管容器の一方の端部に設けられた絶縁油流出口から流出して、冷却器を通過するときに冷却された後、再びX線管容器の他方の端部に設けられた絶縁油流入口から流入して、X線管及びステーターコイルを冷却するように構成されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術では、次のような問題があった。X線管容器内のX線管及びステーターコイルは絶縁油への熱伝達によって冷却される。X線管容器から流出した絶縁油は冷却器で冷却された後再びX線管容器に流入するが、この絶縁油は絶縁油流入口からX線管容器内に流入すると、絶縁油流出口に向かってほぼ一様に流れるため、その流速が大きく減速し、X線管の外囲器表面での流速は絶縁油流出入口の値に対して数%の値となり、X線管の外囲器から絶縁油への熱伝達効率が大幅に低下している。このため、X線管のターゲットからの熱輻射及び2次電子によりX線管の外囲器、特にX線放射窓の周辺部が局部的に加熱され、過剰な温度上昇を起こし、その結果X線管の外囲器のX線放射窓が破壊したり、絶縁油の劣化を加速したりするという問題があった。
【0010】
また、回転陽極を駆動するステーターコイルに関しては、その温度が上昇することにより、X線管の回転特性が低下してしまうという問題、X線管の陰極周辺部に関しては、陰極側のガラスステム内に滞留する絶縁油が局部的に温度上昇して、陰極のリード間の絶縁が低下したり、ガラスステムに蒸飛しているゲッタ膜をいためたりするという問題などもあった。
【0011】
上記の問題点に対処するための技術が、特許文献1、特許文献2などに開示されている。特許文献1記載の技術では強制的に絶縁油を循環冷却する冷却器を備えたX線管装置において、X線管を収納するX線管容器内に冷却器からの絶縁油を流入する際に、その絶縁油の流れの方向をX線管容器内の局部的に加熱される部分に向ける絶縁油流入方向偏向具を設けたものが開示されている。従来のX線管装置では、冷却器で冷却された絶縁油はX線管容器内に流入すると通常一様に流れるが、本X線管装置ではこの流れる方向を局部的に加熱される部分、特にX線管外囲器のX線放射窓、ステーターコイル、X線管の陰極のガラスステム内などに偏向、集中させることにより、熱源からの熱伝達が向上して、冷却効率が向上し、また絶縁油の劣化が防止されている。
【特許文献1】
特開平7−262943号公報
【特許文献2】
特開平10−189285号公報
【0012】
また、特許文献2記載の技術では、X線管容器内に充填された絶縁油をX線管容器外部に設けられた熱交換器を通して循環させて、X線管容器内部を冷却する医用X線管装置において、X線管容器内の絶縁油の流れが悪い箇所の近辺にノズルを設け、外部の熱交換器からの絶縁油をこのノズルに直接送出するものが開示されている。このX線管装置では、外部の熱交換器で冷却された絶縁油がX線管の存在するX線管容器内に流入するが、この絶縁油がX線管容器内の絶縁油の流れが悪い箇所の近辺に設けられたノズルにまで直接送り込まれるので、このノズルから出た高速の絶縁油は流れが悪い箇所の絶縁油の流速及び流量を増加させることができ、冷却効率を高めることができる。
【0013】
しかし、特許文献1記載のX線管装置では、局所的に過熱される部分については冷却が改善され、その部分の温度上昇は抑制されるが、絶縁油の流路を偏向、集中させたことにより、X線管装置内での絶縁油の全体としての流れが変わり、局部的に流れがよどむ場所が発生し、その部分で絶縁油が異常に温度上昇し、絶縁油の劣化を早める場合が生じている。
【0014】
また、特許文献2記載のX線管装置では、絶縁油の流れの悪い箇所の温度上昇は抑制されるが、絶縁油の流れの悪い箇所ごとにノズルを設けることにした場合、多数のノズルが必要となるので、実用的にはステーターコイルの内周側などの重点的な箇所にのみノズルを設けることになり、その結果絶縁油の流路をその部分に偏向、集中させることになるので、特許文献1記載の装置の場合と同様に絶縁油の全体的な流れが変わり、絶縁油の流れの局部的なよどみ現象が発生する場合がある。
【0015】
このため、本発明のX線管装置では、X線管容器内の絶縁油の流れを改善し、X線管容器内の発熱部分の冷却効率の向上と絶縁油の流れの局部的なよどみ現象の排除を目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のX線管装置は、X線管を収納し、絶縁油中に浸漬、支持して絶縁、冷却するX線管容器と、X線管容器内の絶縁油を取り出して冷却した後にX線管容器内に戻す絶縁油冷却器(以下、冷却器と略称する)とを備えたX線管装置において、X線管容器内に冷却器から戻された絶縁油を複数の流れに分流する複数個の噴出口を持つ絶縁油流入方向偏向具を備え、前記複数個の噴出口のうちの少なくとも1個の噴出口が、その噴出口から流出した絶縁油の流れが全体としてX線管の陰極及び陽極のうちの一方の極の端部から他方の極の端部へ向くように、配設されているものである(請求項1)。
【0017】
この構成では、X線管容器内に設けた絶縁油流入偏向具(以下、ノズルという)の複数個の噴出口のうちの少なくとも1個の噴出口から流出した絶縁油が全体として、X線管の外周に沿ってX線管の陰極及び陽極のうちの一方の極の端部から他方の極の端部に向けて流れるので、この絶縁油の流れによってX線管容器内のX線管の外周部に局部的に発生する絶縁油の流れのよどみが除去され、その結果としてX線管の外周部における局部的な絶縁油の温度上昇は低減される。
【0018】
また、本発明のX線管装置は、X線管を収納し、絶縁油中に浸漬、支持して絶縁、冷却するX線管容器と、X線管容器内の絶縁油を取り出して冷却した後にX線管容器内に戻す冷却器とを備えたX線管装置において、X線管容器内に冷却器から戻された絶縁油を複数の流れに分流する複数個の噴出口を持つ絶縁油流入方向偏向具(以下、ノズルという)を備え、前記複数個の噴出口のうちの少なくとも1個の噴出口(以下、外向き噴出口という)の出口をX線管の中央部とは逆方向のX線管容器の陰極端または陽極端の一方の端部に向けて配設したものである。
【0019】
この構成では、前記ノズルの外向き噴出口の出口から流出した絶縁油はX線管の中央部とは逆方向のX線管容器の陰極端及び陽極端のうちの一方の端部に向けて流れ、その一方の端部で流れの方向を反転させた後、X線管の外周に沿って他方の端部に向けて流れる。この結果、X線管容器の一方の端部から他方の端部への絶縁油の流れによってX線管の外周部に局部的に発生する絶縁油の流れのよどみが除去され、X線管の外周部における局部的な絶縁油の温度上昇が低減される。
【0020】
また、本発明のX線管装置では、更に前記ノズルの外向き噴出口から流出する絶縁油の流量を前記ノズルから流出する絶縁油の全流量の5%以上とする。
【0021】
ノズルの外向き噴出口からX線管容器の一方の端部に向けて流出する絶縁油は、流量が少ない場合にはX線管容器の一方の端部から他方の端部へ向けての絶縁油の流れを形成することが困難となるが、この流量がノズルの全流量の5%以上であれば、X線管の外周に沿って一方の端部から他方の端部に向けての絶縁油の流れを形成することが可能となり、X線管の外周部における絶縁油のよどみを除去することができる。
【0022】
また、本発明のX線管装置では、更に前記ノズルの外向き噴出口から流出する絶縁油の流量を、前記ノズルから流出する絶縁油の全流量の25%以下とする。
【0023】
ノズルの外向き噴出口からX線管容器の一方の端部に向けて流出する絶縁油の流量が多くなると、X線管容器の一方の端部から他方の端部へ向けての絶縁油の流れの形成は容易になるが、ノズルの本来の目的であるX線管容器内の放熱部の冷却のための他の噴出口からの絶縁油の流出量が減少し、それに伴い流速も低下するために、放熱部の冷却効率が低下し、その結果、放熱部の温度が上昇することになり、本来の目的を損なうことになる。この構成では、外向き噴出口から流出する絶縁油の流量を25%以下に制限して、放熱部の冷却のための他の噴出口からの絶縁油の流量の低下を抑制し、放熱部の冷却効率の低下を抑制している。
【0024】
また、本発明のX線管装置では、前記外向き噴出口以外の噴出口のうちの少なくとも1個の噴出口(以下、放熱部向き噴出口という)の流路の断面が、X線管容器の絶縁油流入口とノズルの結合部において広い面積を持ち、出口に近づくにつれて徐々に面積が狭くなり、出口の近傍において最も狭くなるように形成されている。更に、前記放熱部向き噴出口の出口における絶縁油の流路の断面が、横幅が広くて、縦幅の狭いほぼ帯状の長方形になるように形成されている。
【0025】
放熱部向き噴出口の流路の断面を出口に近づくにつれて徐々に狭くしていくことにより、この噴出口を流れる絶縁油の流速が高速に保たれるため、この噴出口から流出した絶縁油は冷却対象の放熱部を効率良く冷却することができる。また、放熱部向き噴出口の出口の横幅を広くしているので、この噴出口から流出した絶縁油を横幅方向に大きく広がらずに高速を保って放熱部に向かわせることができるので、放熱部の冷却効率を向上することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1に本発明に係るX線管装置の第一の実施例の概略構造図を、図2に本実施例のX線管装置本体の陰極側から見た外観図を、図3に本実施例のX線管装置本体の内部構造図を、図4に本実施例の要部周辺の構造図を、図5に図4の要部の詳細構造図を、それぞれ示す。
【0027】
先ず、図1を用いて、本実施例のX線管装置全体の構成について説明する。図1において、本実施例のX線管装置10は、X線管装置本体12と、これを冷却する冷却器(絶縁油冷却器)14とから構成され、両者の間は冷却器14からの2本の送油管16(16a、16b)で接続されている。X線管装置本体12はX線管20と、これを内蔵するX線管容器22と、X線管20の陽極と陰極に正、負の高電圧を供給するための陽極側ケーブルレセプタクル24と陰極側ケーブルレセプタクル26と、X線管20の陽極を回転駆動するステーター28と、X線管20の陽極を絶縁支持する陽極支持体30と、X線管20の陰極側を絶縁支持する陰極支持体32と、ステーター28を支持するステーター支持体34と、X線管20で発生したX線を外部に放射するためのX線放射窓36と、X線管容器22内に充填されて、X線管20などを絶縁、冷却する絶縁油38などから構成されている。
【0028】
冷却器14は、X線管装置本体12内の絶縁油38を送油管16で外部に導き出して冷却するもので、絶縁油38を空気で冷却するラジエータ40と、ラジエータ40に送風する冷却ファン42と、絶縁油38を冷却器14とX線管装置本体12との間で巡回させるポンプ44と、絶縁油38を導く送油管16とから構成される。送油管16は、送油ポンプ44とX線管装置本体12を接続する第1の送油管16aと、ラジエータ40とX線管装置本体12を接続する第2の送油管16bと、ラジエータ40と送油ポンプ44を接続する第3の送油管16cなどから成る。冷却器14の種類によっては、ラジエータ40と送油ポンプ44とが直結していて第3の送油管16cがないものもある。
【0029】
次に、図1と図2を用いて、X線管装置本体12と冷却器14との接続について説明する。X線管装置本体12のX線管容器22には、冷却器14にて冷却された絶縁油38を受入れるための絶縁油流入口46と、加熱された絶縁油38を冷却器14に戻すための絶縁油流出口48が設けられている。本実施例では、絶縁油流入口46はX線管容器22の陰極側ケーブルレセプタクル26を支持する陰極側ケーブルレセプタクル取付部50の近傍に、絶縁油流出口48は陽極側ケーブルレセプタクル24を支持する陽極側ケーブルレセプタクル取付部52の近傍に、それぞれ設けられている。絶縁油流入口46と絶縁油流出口48の取付位置は、X線管20の中心軸を基準にしてケーブルレセプタクル取付部50、52の取付位置に対し約90度回転した位置にあり、高電圧ケーブルの挿入口の方向と同じにしてある。このようにすることにより、高電圧ケーブルの引き出し方向と送油管16a、16bの引き出し方向が同じになり、両者の引き出し及び取扱いが容易になる。
【0030】
しかし、絶縁油流入口46、絶縁油流出口48の取付位置については、上記に限定されることはなく、他の位置につけてもよいことは言うまでもない。例えば、絶縁油流入口46をX線管容器22の陽極側に取付、絶縁油流出口48を陰極側に取り付けてもよい。また、両者の取付位置のX線管中心軸方向に対する角度についても、他の角度でもよい。
【0031】
X線管装置本体12と冷却器14との接続では、冷却器14の第1の送油管16aがX線管容器22の絶縁油流入口46に接続され、冷却器14の第2の送油管16bがX線管容器22の絶縁油流出口48に接続されている。この結果、本実施例では、冷却器14で冷却された絶縁油38はX線管装置本体12の陰極側に導かれ、絶縁油流入口46からX線管容器22内に流入した後、全体としてX線管20の陰極側から陽極側へと向かって流れ、途中X線管20やステーター28などを冷却し、加熱された絶縁油38は陽極側の絶縁油流出口48からX線管容器22の外部に排出され、第2の送油管16bを経由して冷却器14に導かれる。
【0032】
次に、図3を用いてX線管20の構造及び機能について簡単に説明する。X線管20は回転陽極X線管で、ターゲットを回転する回転機構を持つ回転陽極(以下、単に陽極ともいう)60と、陰極62と、これらの両電極を真空気密に内包し、絶縁支持する外囲器64とから構成される。回転陽極60は円盤状のターゲット66と、ターゲット66を支持するローター68と、ローターを支持する回転軸と、回転軸を回転自在に支持する軸受と、軸受を支持する固定部70とから構成される。陰極62は熱電子を放出するフィラメントと、フィラメントを支持し熱電子を集束する集束電極72と、集束電極72を支持するホルダー73を絶縁、支持し、外囲器64と接続されるステム74とから構成される。外囲器64は、回転陽極60のターゲット66と陰極62の集束電極72を囲む外囲器中央部76と、回転陽極60全体を絶縁支持する外囲器陽極部78と、陰極62のステム74に接続され、陰極62全体を絶縁支持する外囲器陰極部80とから構成される。
【0033】
外囲器中央部76は、太い円筒形状をしており、本実施例も含めて熱容量の大きいX線管では、通常銅やステンレス鋼などの金属材料で構成されており、その側面のターゲット66のX線源(焦点)82に近い部分にX線管20としてのX線放射窓84が取り付けられている。X線放射窓84はベリリウムなどのX線透過性のよい耐熱性金属材料から成り、窓枠などを用いて外囲器中央部76に結合されている。外囲器陽極部78は細い円筒形状をしており、耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物で構成されており、その内側には回転陽極60のローター68が配置され、その外側にはローター68を回転駆動するステーター28が配置されている。外囲器陰極部80も円筒形状をしており、通常耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物で構成され、その一端で陰極62のステム74と結合され、陰極62全体を支持する。
【0034】
次に、図2〜図5を用いて本実施例の要部となるX線管装置本体の絶縁油流入口周辺部の構造について説明する。図3は、本実施例のX線管装置本体の内部構造を示したもの、図4は本実施例の要部となる絶縁油流入口周辺部の構造図、図5は要部の詳細構造図である。図2において、X線管装置本体12のX線放射窓36の取付位置の方向(下側)から約90度回転した方向(右側)の陰極側及び陽極側の位置に絶縁油流入口46と絶縁油流出口48が取り付けられており、それぞれに送油管16aと送油管16bが接続されている。2本の送油管16a、16bは上記の如く取扱い上の便宜から高電圧ケーブル54と同じ方向に引き出されている。
【0035】
また、図3において、X線管装置本体12のX線管容器22の長手方向(X線管20の中心軸方向に対応)のほぼ全域にわたってX線管20が配置され、その陰極端に近い位置に絶縁油流入口46が、その陽極端に近い位置に絶縁油流出口48が、それぞれ図面の手前側に取り付けられている。絶縁油流入口46と絶縁油流出口48のX線管容器22のX線管中心軸方向(以下、管軸方向と略称する)での取付位置は、陰極側及び陽極側ケーブルレセプタクル取付部50、52とほぼ同じ位置か、その近傍となる。図示の例では、陰極側及び陽極側ケーブルレセプタクル取付部50、52よりわずか中心に近い位置に絶縁油流入口46と絶縁油流出口48が取り付けられている。
【0036】
図3において、絶縁油流入口46の内側、すなわちX線管容器22の内部側には、破線で示した如く、絶縁油流入方向偏向具(以下、ノズルと略称する)90が取り付けられている。このノズル90は、外部からX線管容器22内に流入された絶縁油38の流れを調整するもので、複数個の噴出口を持ち、それらの噴出口の位置と絶縁油の流量を適正にして、X線管装置本体12内を効率良く冷却するものである。
【0037】
図4及び図5は、本実施例でのノズル90の配置及びノズル90の構造図を示したものである。図4は図3の紙面の裏側から見た図で、X線管装置20の中央部から陰極側にかけての部分を示したものであり、図5はノズル90の詳細断面図を示したものである。図4において、本実施例では、ノズル90は2個の噴出口、すなわち第1の噴出口92と第2の噴出口94を備え、第1の噴出口(以下、放熱部向き噴出口ともいう)92は主にX線管20の外囲器中央部76を冷却するもので、第2の噴出口(以下、外向き噴出口ともいう)94はX線管容器22の内部の部品を全体的に冷却するものである。
【0038】
本実施例では、図4に示す如く、ノズル90の第1の噴出口92から流出した絶縁油38が矢印91aで示したX線管20のX線放射窓84の方向に向くようにノズル90を配置している。このため、ノズル90の長手方向は管軸方向に対して20度から60度傾けて配置されている。このとき、ノズル90の第2の噴出口94はX線管容器22の陰極端96側に向けられている。このようにノズル90の第1の噴出口92を配置することにより、ノズル90の第1の噴出口92から流出した絶縁油38は、X線管20のX線放射窓84の周辺部と外囲器中央部76を効率良く冷却した後、X線管容器22の陽極部側に向い、外囲器陽極部78やステーター28の周辺部を冷却する。
【0039】
ノズル90の第2の噴出口94から流出した絶縁油38は、矢印91bで示す如くX線管容器22の陰極端96側へ向かう。この絶縁油38の流れはX線管容器22の陰極端96において、反転して陰極端96から陽極端98に向かう全体的な絶縁油38の流れを形成し、外囲器陰極部80やX線管20の陰極62のステム74の部分などを冷却するとともに、陰極側ケーブルレセプタクル26や陽極側ケーブルレセプタクル24の周辺部における絶縁油38の流れのよどみを除去している。
【0040】
図5には、ノズル90の構造が拡大して示してある。図5において、ノズル90はカバー部90aと底部90bとから成り、内部は絶縁油38を流す管状の通路(以下、流路という)を形成している。本実施例では、ノズル90の材料として防X線の観点から鉛材を用いている。底部90bについてはX線管容器22の内壁(鉛板から成る)を共用している。ノズル90の長手方向はほぼ直線状をしており、その一端側が第1の噴出口92を構成し、その他端側が第2の噴出口94を構成している。第1の噴出口92の長さは長く、第2の噴出口94の長さは短く形成され、それぞれの端面に出口92a、94aが設けられている。ノズル90と絶縁油流入口46との結合は第2の噴出口94の出口94aに近い部分で行われている。
【0041】
本実施例のノズル90では、高温となるX線放射窓84の周辺部などを効率良く冷却するために、第1の噴出口92から噴出される絶縁油38の流量を多くし、流速を高速にするように配慮されている。すなわち、第1の噴出口92では、ノズル90内の絶縁油38の流路92bの断面積を大きくするとともに、出口92aの開口面積も第2の噴出口94の出口94aより大きくし、絶縁油38の流路92bの断面積は出口92aに近づくにつれて、わずかずつ徐々に狭くなってくるように形成されている。また、出口92aでは流路92bの断面形状を横幅が広く、縦幅の狭い帯状のものとしている。このように流路92bの断面を形成することにより、絶縁油38の流れの流速を高速に保持するとともに、流れの横幅を広くし、放熱部の冷却効果を向上させている。図示の例では、流路92bの断面形状は四角形をしており、絶縁油流入り口46との接続部では正方形に近い形状をしているが、途中では長方形状となり、出口92aの近傍では偏平な長方形状(帯状)をしている。第1の噴出口92の流路92bの断面形状については上記の四角形に限定されず、円形、楕円形、台形などの他の形状でもよいことは言うまでもない。
【0042】
ノズル90の第2の噴出口94は、X線管容器22の陰極端96から陽極端98に向けての絶縁油38の流れを形成して、絶縁油38の流れのよどみをなくすことを目的として設けられているため、この第2の噴出口94では、絶縁油38の流速よりも絶縁油38の流量の確保が重要となる。このため、ノズル90の第2の噴出口94では、絶縁油流入口46との接続部を第1の噴出口92と共有し、その流路94bの断面形状及び断面積はその端面まで同じに形成され、その端面に小さい開口面積の出口94aが設けられている。図示の例では、流路94bの断面形状は四角形で、出口94aの開口は円形をしている。
【0043】
ノズル90の第1の噴出口92の長さ及び向きは、放熱部(ここでは、X線放射窓84など)の位置と絶縁油38の流れなどを考慮して決める必要がある。第1の噴出口92の出口92aの位置は放熱部にできるだけ接近させた方がよいが、近すぎると絶縁油38の流れの幅が狭くなる場合もあるので、適正な位置を選ぶ必要がある。
【0044】
ノズル90の第2の噴出口94については、この噴出口94からの絶縁油38の流量が少ないので、その長さよりは向きを重視すればよい。第2の噴出口94の向きは、X線管容器22の陰極端96の方に向いていればよい。図示の例では、加工を容易にするためにノズル90の長手方向を直線状としていることから、第2の噴出口94も第1の噴出口92と同様に管軸方向に対して20度から60度傾けて配置されているが、この傾き角度はこれに限定されず、管軸方向を中心にして両側に約60度までの範囲の方向に向けて配置されていてよい。要は、ノズル90の第2の噴出口94から流出した絶縁油38の流れが、X線管容器22の陰極端96の近傍で反転した後、陽極端98の方に向うものとなればよいので、第2の噴出口94の出口94bがその方向に向けて配置されていればよい。
【0045】
第2の噴出口94の出口94aの開口面積や形状はX線管容器22の陰極端96側へ流す絶縁油38の流量を考慮して決定される。本実施例では出口94aの開口形状は単純な円形の穴になっているが、これに限定されず、四角形や楕円形などの他の形状のものであってもよい。また、出口94aの開口面積は絶縁油38の流量を決めるものであり、ノズル90全体の構造と関係するもので、第1の噴出口92の構造と関連して決定される。本実施例では、第2の噴出口94の出口94aの開口面積は、第2の噴出口94からの絶縁油38の流量が全体の流量の約10%程度になるように決定されている。この流量については後述の如く適量の範囲があり、少なすぎても、多すぎても問題がある。適量の範囲としては、全体の流量の約5%から約25%の範囲が推奨される。
【0046】
次に、本実施例のX線管装置本体内の絶縁油の流れを、従来のX線管装置本体内のものと比較しながら説明する。図6、図7には本実施例のX線管装置本体内の絶縁油の流れを、図8、図9、図10、図11には従来のX線管装置本体内の構造と絶縁油の流れを、それぞれ示している。図6は本実施例のX線管装置本体内部の絶縁油の流れを90度ずつ角度をずらして4方向の場合について示したもの、図7は本実施例のX線管装置本体内部の全体としての絶縁油の流れを図3の内部構造図と対応させて示したものである。同様に、図8、図9は従来のX線管装置本体の内部構造を図4、図5と対比して示したもの、図10、図11は従来のX線管装置本体内部の絶縁油の流れを図6、図7と対比して示したものである。
【0047】
先ず、図8〜図11を用いて、従来のX線管装置本体内部の絶縁油の流れについて説明する。図8、図9に示した従来のX線管装置本体100の内部構造は絶縁油流入口46に取り付けたノズル102の構造及び配置を除いて図4、図5に示す第一の実施例の構造とほぼ同じである。図8、図9において、ノズル102は絶縁油38の流路を形成するカバー部102aと底部102b(X線管容器の内壁を共用)とから成るが、絶縁油38の噴出口104を1個しか持たず、またその噴出口104の絶縁油38の流路106は断面積が大きく、長さが短いものであった。ノズル102の噴出口104はX線管20の外囲器中央部76のX線放射窓84に向けて配置されている。
【0048】
この従来例では、X線管装置本体100の内部での発熱量はX線管20のターゲットで発生するものが最も大きく、他の部分に比べて格段に大きいため、ターゲットから放散される熱の冷却を主眼としている。ターゲットで発生した熱の大部分は熱輻射によって外囲器中央部76に放散され、一部が熱伝導によって回転陽極のローターを経由して陽極端または外囲器陽極部78に放散される。ターゲットから外囲器中央部76への熱放散では、ターゲットのX線源の近傍に配設されているX線放射窓84及びその周辺部への放熱量が特に大きくなり、その部分の温度上昇が大きくなるため、この部分の冷却が最重要課題となっている。
【0049】
上記の理由から、ノズル102の噴出口104は放熱部であるX線放射窓84の方向に向けられている。このようにノズル102の噴出口104を配置することにより、ノズル102から噴出した絶縁油38は先ずX線放射窓84の方向に向かって流れ、X線放射窓84及びその周辺部を冷却した後、X線管20の外囲器64やステーター28などを冷却して、絶縁油流出口48まで流れていく。この絶縁油38の流れの状況を示したものが図10と図11である。
【0050】
先ず、図10を用いて90度ずつ視点をずらして見たX線管装置本体100内部の絶縁油38の流れの状況について説明する。図10において、図10(a)はX線放射窓36の取付方向を基準にして90度回転した送油管16a、16bの引出方向(高電圧ケーブル54の引出方向と同じ)に視点を置いたときの絶縁油38の流れ図、図10(b)はX線放射窓36の取付方向に視点を置いたときのもの、図10(c)は送油管16a、16bの引出方向とは反対の方向に視点を置いたときのもの、図10(d)はX線放射窓36の取付方向とは反対の方向に視点を置いたときのものである。
【0051】
図10(a)において、絶縁油流入口46がX線管容器22の陰極部22aの手前側に取り付けられており、その絶縁油38の出口側にノズル102が、図8に示した如く、その噴出口104の出口104aをX線放射窓36の方向を向くようにして結合されているため、絶縁油38の主流は右下方向に高速で流れている。これらの絶縁油38はX線管容器22の中央部22bでは、その中央部から下部にわたっての左側から右側、すなわち陰極側から陽極側への流れを形成している。しかし、中央部から上部にわたっては逆方向、すなわち陽極側から陰極側への流速の遅い絶縁油38の流れを形成している。前者の絶縁油38の流れはX線管20のX線放射窓84及びその周辺部を冷却するもので、その大部分は陽極側へ流れて行く。X線管容器22の陽極部22cでは、その手前側には、絶縁油流出口48が設けられているので、絶縁油38のほぼ全体の流れが絶縁油流出口48に向っている。
【0052】
図10(b)において、X線管容器22の陰極部22aでは、絶縁油38の流れはX線放射窓36方向への主流の他に、下部方向への部分的な流れも生じている。X線管容器22の中央部22bでは、絶縁油38の流れの主流はX線放射窓36及びその周辺部を通り、大部分は陽極側へ流れるが、一部分はX線管20の外囲器中央部76の外周を周方向に沿って下部方向へ巡回する流れに変わる。また、X線管容器22の陽極部22cでは、下部から上部へ向かう絶縁油38の巡回流が生じており、この部分の絶縁油38の流れの向きは、X線管容器22の陰極部22aや中央部22bのものとは逆向きになっている。
【0053】
また、図10(c)において、絶縁油流入口46の取付方向と反対側では、X線管容器22の中央部22bと陰極部22aの両者で、上部から下部へ、すなわちX線放射窓36の位置からその反対側に向かう絶縁油38の流れが生じており、下部においては絶縁油38は陰極部22a側に逆戻りしている。X線放射窓36の近傍を通過した絶縁油38はX線管20の高温部を冷却しているので温度が高くなっており、その高温の絶縁油38が陰極部22aに逆戻りし、陰極22aの陰極側ケーブルレセプタクル取付部50の近傍の絶縁油38の温度を上昇させている。また、X線管容器22の陽極部22cでは、中央部22bからの絶縁油38が陽極端98に向けて流れており、大部分は上側へ、一部分は下側へ向っている。
【0054】
また、図10(d)において、陰極側及び陽極側ケーブルレセプタクル取付部50,52の側では、絶縁油38はほぼ全領域で、右側から左側へ、すなわち、陽極側から陰極側に向って流れている。これは、絶縁油38の本流が陰極側から陽極側に向って流れているのに対し逆流していることになる。また、こちら側の絶縁油38の流速は、図10(b)のX線放射窓36側の絶縁油38の流速と比べ、格段に遅くなっている。
【0055】
図11は、従来例のX線管装置100本体内部の全体としての絶縁油の流れを図3および図8の内部構造図と対比させて示したもので、視点の方向は図10(a)と同じく、送油管16a、16bの引出方向と同じである。図11において、X線管20の周囲の絶縁油38の流れとしては、絶縁油流入口46からX線管容器22内に流入してノズル102の噴出口104から噴出した後、X線管20の外囲器中央部76のX線放射窓84に向かって流れ、X線放射窓84及びその周辺部を冷却する。その後、大部分の絶縁油38はX線管20の外囲器陽極部78やステーター28を冷却した後、絶縁油流出口48に向かう。一部分の絶縁油38は外囲器中央部76の外周に沿って、X線放射窓84の反対側にまわり、更に外囲器陰極部80の外周面に沿って逆行してX線管容器22の陰極部22aへと流れ、その部分で滞留し、周方向に巡回する遅い絶縁油38の流れとなる。
【0056】
このため、従来例のX線管装置本体100では、X線管20のX線放射窓84及びその周辺部については効率良く冷却されるが、X線管20の外囲器中央部76のX線放射窓84の反対側やX線管容器22の陰極部22a、特に陰極側ケーブルレセプタクル取り付け部50などの絶縁油38の流れは非常に遅くなり、殆んど滞留した状態を出現させている。更に、それらの部分には、X線放射窓84を冷却した高温の絶縁油38が流れて行くことになるため、それらの部分の絶縁油の温度は非常に高温になっていた。
【0057】
次に、図6、図7を用いて本実施例のX線管装置本体12内部の絶縁油の流れについて説明する。先ず、図6を用いて90度ずつ視点をずらして見たX線管装置本体12内部の絶縁油38の流れについて説明する。図6(a)において、X線管容器22の陰極部22aの手前側に、絶縁油流入口46が取り付けられており、図4に示した如くその絶縁油38の出口側にノズル90がその第1の噴出口92がX線放射窓36の方向を向くように結合されているため、主流110となる大部分の絶縁油38は右下方向に高速に流れている。本実施例ではノズル90の第1の噴出口92の反対側に第2の噴出口94を設けているため、一部分112の絶縁油38はX線管容器22の陰極端96側に向かって流れる。
【0058】
この結果、X線管容器22の陰極部22aでは、右下方向への絶縁油38の主流110に左上方向への分流112が加わったことにより、X線管容器22の中央部22bからの絶縁油38の逆流がなくなっている。また、X線管容器22の中央部22bでは、下部、すなわちX線放射窓36の近傍で左側から右側への強い絶縁油38の流れがあり、他に上部から下部へのX線管20の外囲器中央部76の外周に沿った絶縁油38の巡回流が加わっている。また、X線管容器22の陽極部22cでは、その手前側に設けられた絶縁油流出口48に向かって、ほぼ全体の絶縁油38が流れている。
【0059】
図6(b)において、X線管容器22の陰極部22aでは、絶縁油38の流れはX線放射窓36方向への主流110の他に、下部方向への部分的な流れも生じており、その流れは更に中央部22b側へと向かっている。X線管容器22の中央部22bでは、絶縁油38の流れの主流110はX線放射窓36及びその周辺部を通り、大部分は陽極側へ流れるが、一部分はX線管20の外囲器中央部76の外周に沿って下部方向へ巡回する流れに変わる。また、X線管容器22の陽極部22cでは、下部から上部へ向かう絶縁油38の巡回流が生じており、この部分の絶縁油38の流れの向きは、X線管容器22の中央部22bの巡回流の向きとは逆向きになっている。
【0060】
図6(c)において、X線管容器22の陰極部22aでは、陰極端96に近い部分で下部方向への絶縁油38の流れがあり、この流れは下部で方向を変え、上部方向への流れと陽極側への流れとに変わっている。X線管容器22の中央部22bでは、上部から下部へ、すなわちX線放射窓36の位置からその反対側に向かう絶縁油38の流れ(巡回流)が生じている。この部分には陰極側へ向かう流れがなくなっている。また、X線管容器22の陽極部22cでは、中央部22bからの絶縁油38がX線管容器22の陽極端98に向けて流れており、その大部分は上側へ、一部分は陽極端98において下側へ向かっている。
【0061】
図6(d)において、X線管容器22の陰極部22aでは、ほぼ全領域で陰極端96から中央部22bの側へ絶縁油38が流れている。また、X線管容器22の中央部22bでは、図6(c)と同様に上部から下部へ向かう絶縁油38の流れ(巡回流)が生じ、X線管容器22の陽極部22cでは右側から左側、すなわち陽極端98から中央部22bへ向かう絶縁油38の流れが生じている。
【0062】
図7は、本実施例のX線管装置本体12内部における全体としての絶縁油の流れを図3の内部構造図と対比させて示したもので、視点の方向は図6(a)と同じく、送油管16a、16bの引出方向と同じである。図7において、X線管20の周囲の絶縁油38の流れとしては、絶縁油流入口46からX線管容器22内に流入してノズル90の第1の噴出口92から噴流した絶縁油38の主流110はX線管20の外囲器中央部76のX線放射窓84に向かって右下方向に流れて、X線放射窓84及びその周辺部を冷却し、ノズル90の噴出口94から噴流した絶縁油38の分流112はX線管容器22の陰極端96に向かって左上方向に流れる。
【0063】
絶縁油38の主流110は、X線放射窓84などを冷却した後、その大部分は陽極側へと流れ、その一部分は外囲器中央部76の外周に沿って巡回した後、陽極側へと流れる。これらの絶縁油38はX線管20の外囲器陽極部78やステーター28を冷却した後、絶縁油流出口48へと向かう。
【0064】
絶縁油38の分流112はX線管容器22の陰極端96に向かった後、陰極端96においてX線管容器22の内周に沿った巡回流となるが、その後向きを陽極側方向に変え、X線管20の外周に沿って陽極側へと流れる。この絶縁油38の分流112は、全体として陰極側から陽極側へと流れる絶縁油38の流れを形成し、この結果、陰極側ケーブルレセプタクル取付部50やX線管容器22の中央部22bのX線放射窓36の反対側などにおいて絶縁油38の流れが改善され、従来例の場合に発生していた絶縁油38の流れの停滞がなくなっている。
【0065】
本実施例では、上記の如くX線管装置本体12の内部での絶縁油38の流れが従来例に対し改善されたことにより、X線管容器22内の絶縁油38の温度上昇の抑制効果が現れている。その効果は、従来絶縁油38の流れによどみが生じていたX線管容器22の陰極部22aの陰極側ケーブルレセプタクル取付部50や中央部22bのX線放射窓36の裏側部において顕著に現れている。図8の構造の従来例と図4の構造の本実施例について、X線管容器22の表面温度の比較を行ったので、以下その結果を説明する。
【0066】
X線管容器22の表面温度の測定は、室温約25℃の中でX線管装置をほぼ定格負荷で動作させて行っている。図12は、X線管容器22をX線放射窓の反対側から見た図で、従来例と本実施例の表面温度の比較は主に図示のA、B、Cの点について行っている。点AはX線管容器22の陰極部22aの陰極側ケーブルレセプタクル取付部50、点Bは中央部22bのX線放射窓36の裏側部、点Cは陽極部22cの陽極側ケーブルレセプタクル取付部52である。点A、Bは、図8の構造の従来例で、絶縁油38のよどみが生じて、表面温度が非常に高くなっていた位置である。
【0067】
X線管容器22の表面温度の測定結果によれば、先ず、点Aにおいては従来例では約80〜90℃の温度上昇であったのに対し、本実施例では約25〜35℃の温度上昇となり、温度上昇は約1/3に低減されている。点Bにおいては、従来例では約50〜60℃の温度上昇であったのに対し、本実施例では約20〜30℃の温度上昇となり、温度上昇は約1/2以下に低減されている。また、点Cにおいては、従来例では約25〜35℃の温度上昇であったのに対し、本実施例では約20〜30℃の温度上昇となり、若干の温度上昇の低減がみられる。
【0068】
以上説明した如く、本実施例においては、ノズル90にX線管容器22の陰極端96側を向く第2の噴出口94を設けて、陰極側から陽極側に向けて流れる絶縁油38の流れを形成することにより、陰極部22aの陰極側ケーブルレセプタクル取付部50の近傍や中央部22bのX線放射窓36の裏側部に発生していた絶縁油38の流れのよどみは除去され、これらの部分での絶縁油38の局部的な温度上昇は大幅に低減されている。この結果、絶縁油38の温度上昇による絶縁劣化が抑制され、X線管装置の信頼性が向上する。
【0069】
本発明においては、ノズルの構造及び配置が重要な構成要素となる。第一の実施例のX線管装置では、ノズル90を直線状の管状体として、その管状体を二分割して、一方を第1の噴出口92、他方を第2の噴出口94とし、第1の噴出口92を最大の放熱部であるX線管20のX線放射窓84の周辺部に向け、第2の噴出口94をX線管容器22の陰極端96側に向けて配置している。この実施例では、ノズル90が2個の噴出口92,94を備え、一方の噴出口92は、X線管容器22内の放熱部を冷却するために、その放熱部に向けて配置され、他方の噴出口は、X線管容器22の陰極側から陽極側への絶縁油38の流れを形成するために、X線管容器22の陰極端96に向けて配置されていることに特徴がある。
【0070】
本実施例では、1個の放熱部、すなわちX線管容器22内の最大の放熱部であるX線管20のX線放射窓84とその周辺部を冷却するための噴出口92しか備えていないが、放熱部としては他にステーター28やX線管20の陽極端やX線管20の陰極のステム内などがあるので、それらに向けての他の噴出口を設けてもよいことは言うまでもない。一例をあげれば、これらの場合には、放熱部と絶縁油流入口46と間の距離が離れているので、ノズルに複数個の短い噴出口を設け、その先端に絶縁物などからなる管状体の一端を接続し、その管状体の他端を放熱部の近傍に配置することにより、放熱部の冷却は可能となる。
【0071】
また、第一の実施例では、ノズル90の第1の噴出口92の流路92bの構造として、流路92bの断面積を絶縁油流入口46との接続部で大きく、出口92aで小さくし、その間では徐々に小さくなるようにしている。このように流路92bの断面積をなだらかに狭くして行くことにより、第1の噴出口から噴出される絶縁油38の流速を高速に保つことが可能となる。また、出口92aでは流路の横幅を広くして帯状にしているので、放熱部を横幅の広い絶縁油38の流れで冷却することが可能となっている。この結果、放熱部を高速の絶縁油38で冷却することができるので、放熱部の冷却効率を高めることができる。
【0072】
また、第一の実施例では、ノズル90の第2の噴出口94は図4において第1の噴出口92と同じ方向で、反対側に右上方向を向いて配置されているが、この第2の噴出口94の向きは、これに限定されず、X線管20の中心軸86と同じ向きでもよく、また右下方向を向いていてもよい。しかし、第2の噴出口94の出口94aから噴出した絶縁油38は、X線管容器22の陰極端96に向かって流れた後、陰極端96で反転して陰極側から陽極側へ向かう流れを形成し、陰極側ケーブルレセプタクル取付部50の近傍やX線放射窓36の裏側部の絶縁油38の流れのよどみを除去するためのものであるので、第2の噴出口94は右上方向を向いていた方が有利である。
【0073】
また、第一の実施例で、ノズル90の第2の噴出口94の出口94aから噴出される絶縁油38の流量も重要な構成要素となる。第1の実施例では、この絶縁油38の流量は、絶縁油流入口46からの全流入量の約5%でも、上記の絶縁油38の流れのよどみの除去の効果が得られ、X線管容器22の点A、Bの表面温度の温度上昇抑制効果が得られる。第2の噴出口94からの絶縁油38の流量については、全体の約15%程度の流量までは、流量の増加とともにX線管容器22の表面温度の温度上昇抑制効果は改善されて行くが、流量が約20%程度になると、効果は飽和し、また流量が約25%を越えると効果の低下が起こる。この理由は、第1の噴出口92による放熱部の冷却効果の低下に起因している。
【0074】
また、第一の実施例では、X線管容器22の絶縁油流入口46は陰極側に、絶縁油流出口48は陽極側に設けられているが、本発明はこれに限定されず、絶縁油流入口が陽極側に、絶縁油流出口が陰極側に設けられている場合にも適用することができる。この場合にも、ノズルがX線管容器の陽極側に設けられた絶縁油流入口に結合されて、その外向き噴出口はその出口が陽極端に向くように配置され、その放熱部向き噴出口の一個はその出口がX線管のX線放射窓及びその周辺部に向けて配置されることになる。その結果、外向き噴出口から流出した絶縁油は、先ず陽極端に向かって流れ、陽極端で反転した後、全体として陽極側から陰極側に向かう絶縁油の流れを形成する。
【0075】
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明のX線管装置では、X線管容器の絶縁油流入口に複数個の噴出口を備えた絶縁油流入方向偏向具(ノズル)を接続し、そのうちの1個の噴出口、すなわち外向き噴出口をその出口から噴出する絶縁油がX線管容器の一方の極の端部(陰極端、又は陽極端)に向かうよう配置しているので、この外向き噴出口からの絶縁油は一方の極の端部で流れの向きを反転した後、一方の極の端部(陽極端、又は陰極端)に向けて流れるので、X線管容器内のX線管の外周近傍に生じ易い局部的な絶縁油の流れのよどみを除去することができ、X線管容器の局部的な表面温度の上昇を抑制することができる。
【0076】
また、本発明のX線管装置では、外向き噴出口からの絶縁油の流出量をノズルから流出量の約5%以上約25%以下としているので、X線管のX線放射窓やその周辺部などの放熱部の冷却効果を損なわずに、X線管容器内の外周近傍に生じ易い局部的な絶縁油の流れのよどみを除去することができる。
【0077】
また、本発明のX線管装置では、上記ノズルの複数の噴出口のうち、X線管容器内の放熱部を冷却する放熱部向き噴出口について、その噴出口の流路の断面積を絶縁油流入口から出口までの間にわたって徐々に小さくなるようにし、更に出口の流路の断面を横幅の広い帯状になるように構成しているので、これらの放熱部向き噴出口では絶縁油の流速が幅広い範囲で高速に保たれるため、上記放熱部を効率よく冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るX線管装置の第一の実施例の概略構造図。
【図2】本発明に係るX線管装置の第一の実施例のX線管装置本体の陰極側から見た外観図。
【図3】本発明に係るX線管装置の第一の実施例のX線管装置本体の内部構造図。
【図4】本発明に係るX線管装置の第一の実施例の要部周辺の構造図。
【図5】図4の要部の詳細構造図。
【図6】本発明に係るX線管装置の第一の実施例のX線管装置本体の内部の絶縁油の流れを90度ずつ角度をずらして4方向について示したもの。
【図7】本発明に係るX線管装置の第一の実施例のX線管装置本体の内部の全体としての絶縁油の流れを概略内部構造と対応させて示したもの。
【図8】従来例のX線管装置本体の内部構造を図4と対比して示したもの。
【図9】図8の要部の詳細構造図。
【図10】従来のX線管装置本体内部の絶縁油の流れを90度ずつ角度をずらして4方向について示したもの。
【図11】従来のX線管装置本体内部の全体としての絶縁油の流れを図7の内部構造図と対応させて示したもの。
【図12】 X線管装置の表面温度測定位置を示す図。
【符号の説明】
10・・・X線管装置
12,100・・・X線管装置本体
14・・・冷却器(絶縁油冷却器)
16,16a、16b、16c・・・送油管
20・・・X線管
22・・・X線管容器
22a・・・陰極部
22b・・・中央部
22c・・・陽極部
24・・・陽極側ケーブルレセプタクル
26・・・陰極側ケーブルレセプタクル
28・・・ステーター
36・・・X線放射窓(X線管容器)
38・・・絶縁油
40・・・ラジエーター
42・・・冷却ファン
44・・・送油ポンプ
46・・・絶縁油流入口
48・・・絶縁油流出口
50・・・陰極側ケーブルレセプタクル取付部
52・・・陽極側ケーブルレセプタクル取付部
60・・・回転陽極(陽極)
62・・・陰極
64・・・外囲器
66・・・ターゲット
72・・・集束電極
74・・・ステム
76・・・外囲器中央部
78・・・外囲器陽極部
80・・・外囲器陰極部
82・・・X線源(焦点)
84・・・X線放射窓(X線管)
86・・・中心軸
90,102・・・絶縁油流入方向偏向具(ノズル)
90a、102a・・・カバー部
90b、102b・・・底部
91a、91b・・・矢印
92・・・第1の噴出口
92a、94a、104a・・・出口
92b、94b、106・・・流路
94・・・第2の噴出口
96・・・陰極端
98・・・陽極端
104・・・噴出口
110・・・主流
112・・・分流
Claims (7)
- X線管を収納し、絶縁油中に浸漬、支持して絶縁、冷却するX線管容器と、X線管容器内の絶縁油を取り出して冷却した後にX線管容器内に戻す絶縁油冷却器とを備えたX線管装置において、
X線管容器内に絶縁油冷却器から戻された絶縁油を複数の流れに分流する複数個の噴出口を持つ絶縁油流入方向偏向具を備え、
前記複数個の噴出口のうちの少なくとも1個の第一の噴出口は放熱部を、前記第一の噴出口と異なる少なくとも1個の第二の噴出口は前記第一の噴出口とは略逆方向を、それぞれ向くよう配設されること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項1記載のX線管装置であって、
前記第二の噴出口から噴出される前記絶縁油の流量は、前記X線管容器内に流入する全前記絶縁油の流入量の5〜25%であること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項1または2記載のX線管装置であって、
前記絶縁油流入方向偏向具の流路断面積は、前記絶縁油冷却器から前記X線管容器内に流入する流入口から前記第一の噴出口に向けて徐々に小さくなること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項1から3いずれか1項記載のX線管装置であって、
前記第一の噴出口は、前記X線管容器の内壁面に平行な方向が広く、前記X線管容器の内壁面に垂直な方向が狭い帯状の長方形状を有すること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項1から4いずれか1項記載のX線管装置であって、
前記第二の噴出口は、陽極端および陰極端のいずれか一の方向を向くよう配設されること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項1から5いずれか1項記載のX線管装置であって、
前記絶縁油流入方向偏向具は、長手方向にほぼ直線形状を有し、当該絶縁油流入方向偏向具の長手方向の一端に前記第一の噴出口が形成され、他端に前記第二の噴出口が形成されていること
を特徴とするX線管装置。 - 請求項6記載のX線管装置であって、
前記絶縁油流入方向偏向具は、当該絶縁油流入方向偏向具の長手方向が、当該X線管装置の管軸方向に対して20度から60度傾けて配置されていること
を特徴とするX線管装置。
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