JP4246823B2 - 2軸配向ポリエチレン管およびその製造方法 - Google Patents

2軸配向ポリエチレン管およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は2軸配向ポリオレフィン管およびその製造方法に関し、より詳細には、管の肉厚が均一であると共に、埋設管として用いられる際に求められる管の強度が高いだけでなく、さらに容易に製造することができる2軸配向ポリオレフィン管およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、配水管、給湯管、ガス管、上水道管、下水道管、プラント管などとして、PVC製管、鋳鉄製管、コンクリート管などが用いられているが、近年では、地面に埋設されて埋設管としても用いられており、耐震性、地盤変動などに対する信頼性が高いという理由から、ポリオレフィン樹脂を素材とするポリオレフィン管の需要が高まり、急速に普及している。
【0003】
ポリオレフィン管が広く市場に浸透していっている現在、ポリオレフィン管の管の変形追従性、周方向の弾性、耐内圧性、長期強度性などのような信頼性の向上に対する要求は益々高まっている。このような要求に応えるため、ポリオレフィン管を軸方向または周方向に延伸させてポリオレフィン分子を特定の方向に配向させた配向ポリオレフィン管が注目されている。
【0004】
例えば、特公平4−55379号公報では、(1)延伸可能な熱可塑性ポリマー含有中空加工物をダイの入口側から供給し、(2)ダイの出口側に送られた中空加工物に、該加工物の引張破壊を生じさせるには不十分であるが、該加工物を固相でダイおよび該加工物の初期内部横断面積よりも大きな横断面積を有して該加工物の内部に配設したフォーマーを同時に通して延伸変形させて該加工物のバルク横断面積を現象させるのには充分の引張強度を加え、(3)このようにして延伸されることにより変形した中空加工物をダイの出口側から回収することにより、未変形の素材と比較して強度を向上させた管を得る方法が開示されている。
【0005】
また、成型加工第10巻第6号394頁に記載されている中丸らの報告では、ダイとマンドレルとを組み合わせた延伸手段を用いて、ビレットと呼ばれる原管を引っ張りながらこの延伸手段を通すことにより、2軸配向管を作製する「Die Drawing法」が開示されている。
【0006】
特定の方向にポリオレフィン管を延伸してポリオレフィン分子を配向させると、その方向の弾性は向上するが、管の変形追従性が低下する傾向がある。従って、特定の方向にポリオレフィン管を延伸すると、その方向の弾性が向上するため、その特定の方向からの少々の外力によって塑性変形することがなくなり、管としての機能を維持することができるが、塑性変形することが困難となるので、例えば、埋設された管が地震に遭遇した場合には、管が破断してしまうおそれがある。
【0007】
上記の公報および報告によっては、ポリオレフィン管は周方向と比較して、軸方向に大きく延伸するため、管の変形追従性が著しく低下し、軸方向に塑性変形することができなくなるので、ポリオレフィン管が埋設された際に地震が発生すると、管が軸方向に破断するおそれがある。また、上記の公報および報告によっては、ポリオレフィン管の周方向および軸方向の延伸変形比を制御することにより、軸方向および周方向にポリオレフィン分子を任意に配向させることができることは実質的に困難である。
【0008】
一方、特開昭57−36628号公報に記載されているように、熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで熱可塑性樹脂管を加温した後、管の内部から外部に向かって圧縮流体、圧縮気体などの圧力媒体を加えて熱可塑性樹脂管を延伸する圧力媒体法が開示されている。この圧力媒体法は、周方向および軸方向の延伸変形比を比較的自由に制御することができるので、軸方向および周方向に熱可塑性樹脂の分子を任意に配向させることができる。
【0009】
しかし、この方法を適用することができる熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタラートのような比較的容易に延伸することができる樹脂に限定され、ポリオレフィンに適用することは困難である。なぜなら、固相状態にあるポリオレフィン管にこの方法を適用すると、ポリオレフィン管の一部分が他の部分と比較して極端に延伸され、得られる2軸配向ポリオレフィン管の肉厚が不均一となったり、または当該一部分が破けてしまうというような問題が頻繁に生じる。このため、ポリオレフィン管を特開昭57−36628号公報に記載された方法により延伸することは極めて困難であり、この方法による2軸配向ポリオレフィン管の製造を工業化することには至っていない。
【0010】
通常、ポリオレフィン管は複数本、接合して用いられるため、2軸配向ポリオレフィン管の肉厚が不均一である場合には、その接合部から管内部を流れる流体が漏れ出してしまう。従って、2軸配向ポリオレフィン管の肉厚はできる限り均一であることが望まれている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記課題を解決するためになされ、その目的とするところは、管の肉厚が均一であると共に、埋設管として用いられる際に求められる管の強度が高いだけでなく、さらに容易に製造することができる2軸配向ポリエチレン管およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する、本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管の製造方法は、未延伸状態のポリエチレン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、該ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるポリエチレン樹脂からなるポリエチレン管を加温しながら、ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%以上25%以下の状態でポリエチレン管を軸方向および周方向に延伸することを特徴とする。
【0013】
一般に、ポリオレフィン樹脂は非晶部分と結晶部分とから構成され、加熱すると結晶部分が融解して非晶部分が多くなり、冷却すると非晶部分が凝固して結晶部分が多くなる。本明細書において用いられる用語「結晶化度」は、以下の式で求められるように、非晶部分と結晶部分とから構成されるポリオレフィン樹脂における結晶部分の割合(重量比)である:
【0014】
結晶部分の重量 結晶部分の重量
結晶化度=――――――――――――――――=―――――――――――
非晶部分の重量+結晶部分の重量 ポリオレフィン樹脂の重量
【0015】
ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%未満の状態でポリオレフィン管を延伸させると、実質上ポリオレフィン樹脂が溶融した状態でポリオレフィン管を延伸させることになるため、延伸応力は延伸と同時に緩和され、得られた2軸ポリオレフィン管では、軸方向および周方向にポリオレフィン分子が配向せず、特に管が埋設された際に必要とされる強度が管に確保されない。また、実質上溶融している状態であるため、延伸させる際に管が垂れてしまい、管を均一に延伸させることができなかったり、管の形状を保てないこともある。
【0016】
一方、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%越える状態でポリオレフィン管を延伸させると、非晶部分を構成する高分子鎖の運動性が不十分であるため、延伸応力がポリオレフィン管全体に伝わらず、ポリオレフィン管の一部分が他の部分と比較して極端に延伸され、得られる2軸配向ポリオレフィン管の肉厚が不均一となったり、または当該一部分が破けてしまう。
【0017】
本発明においては、上記のように、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%以上25%以下の状態でポリオレフィン管を延伸する必要があるが、さらにポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、該ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差(以下、この温度の差を「ΔAB」と記述する)は8℃以上であることが必要である。
【0018】
ΔABが8℃未満である場合には、温度変化に対する結晶化度の変化が大きすぎるため、ポリオレフィン管の一部分が他の部分と比較して極端に延伸され、得られる2軸配向ポリオレフィン管の肉厚が不均一となったり、または当該一部分が破けてしまうことが頻繁に生じるため、工業的に2軸配向ポリオレフィン管を製造することが困難となる。
【0019】
本明細書において用いられる用語「2軸配向ポリオレフィン管」とは、周方向の屈折率(nh)の平均値および軸方向の屈折率(na)の平均値がそれぞれ無配向状態の屈折率(nn)より0.002以上大きく、かつ管の外径(D)と管の肉厚(t)との比(D/t)が100以下であるポリオレフィン製の管を意味する。周方向の屈折率(na)の平均値または軸方向の屈折率(nh)の平均値のいずれかが無配向状態の屈折率(nn)より0.002未満である場合には、ポリオレフィン分子の配向が不十分であり、強度の向上を図ることができない。
【0020】
屈折率と配向度との関係は、ある特定方向の屈折率が無配向状態の屈折率(nn)より高ければ高いほど、その方向の配向度が高く、ほぼ比例関係にあるといえる。屈折率の測定には、測定方法が簡単であるため、ナトリウムD線(波長589nm)を照射するアッベ屈折計が用いられることが多いが、アッベ屈折計では、ナトリウムD線がサンプルを充分に透過することが必要であり、光学的に不透明なポリオレフィン管の屈折率をアッベ屈折計を用いて測定するのはあまり適切ではない。そのため、本発明においては、ポリオレフィンなどの高分子物質の分子主鎖のねじれなどの局所運動に起因する誘電緩和が観測されるマイクロ波領域、その中でも特に19GHz近辺のマイクロ波をポリオレフィン管に対して照射することによって誘電率(’ε)を測定し、Maxwellの式((屈折率(n)=√(’ε))から屈折率を求めることが適切である。
【0021】
無配向状態の屈折率(nn)は、配向前のポリオレフィン樹脂の屈折率をそのまま無配向状態の屈折率(nn)としてもよいが、正確性を期すためには、ポリオレフィン管を延伸して配向させた後に、管を(その融点+40℃)以上に加熱し、次いで10℃/分程度の速度で冷却することにより配向をキャンセルした管の屈折率を無配向状態の屈折率(nn)とすることが好ましい。
【0022】
2軸配向ポリオレフィン管の肉厚は、通常のポリオレフィン管、PVC管と同等もしくは薄いことが好ましい。管の外径により好ましい肉厚は異なるが、管の外径(D)と管の肉厚(t)の比(D/t)は上記のように100以下であることが好ましい。特に2軸配向ポリオレフィン管に耐クリープ性が要求される場合には、比(D/t)は30以下であることが好ましい。また、2軸配向ポリオレフィン管の形状は、通常、円筒状であるが、必ずしもこれに限られず、管が用いられる用途に応じて、断面楕円形、卵形、角筒形(例えば、四角筒形、三角筒形)などの異形状にしてもよい。
【0023】
本発明におけるポリオレフィン管を形成するポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンのようなポリオレフィン重合体およびエチレン−プロピレン共重合体などのようなポリオレフィン共重合体が挙げられる。
【0024】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。もちろん、ポリエチレンの製造方法は特に限定されないが、高圧ラジカル重合法により重合された中〜低密度ポリエチレン、ならびにチーグラーナッタ触媒またはフィリップ触媒を用いることにより重合されたポリエチレンを用いることもできる。
【0025】
ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンの他、エチレン−プロピレン共重合体であるランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが挙げられる。また、立体規則性の異なる樹脂を用いても良い。
【0026】
ポリオレフィン共重合体としては、上記の他に、α−オレフィン、ブタジエン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン、スチレン誘導体などを共重合した共重合体、無水マレイン酸、イタコン酸などをグラフト変性させた共重合体、その他アイオノマー、EVALなどを挙げることができる。α−オレフィンとしては、炭素数が3以上12以下のものが好ましく、具体的には、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0027】
なお、このなかでも、従来より管として用いられており、高倍率に配向することができるという観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。ポリエチレン樹脂の中でも、耐クリープ性が保たれるという観点から、高密度ポリエチレンが好ましい。
【0028】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量および分子量分布(=重量平均分子量/数平均分子量)は特に限定されないが、重量平均分子量は3万以上1000万以下が好ましく、8万以上100万以下がより好ましい。分子量分布は2以上80以下が好ましく、3以上40以下がより好ましい。
【0029】
本発明においては、ΔABが8℃以上であるポリオレフィン樹脂を単独で用いても良く、または融点、分子量、MFRなどが異なる2種以上のポリオレフィン重合体を混合して用いることにより、その混合ポリオレフィン樹脂のΔABを8℃以上としてもよい。この場合、各ポリオレフィン重合体のΔABは必ずしも8℃以上である必要はない。
【0030】
また、管を積層管とし、ポリオレフィン管を多層構造として、中間層に酸素バリア性が高い樹脂を用いることにより、ポリオレフィン管の酸素透過性を低減させることもできる。
【0031】
ポリオレフィン樹脂には、得られる2軸配向ポリオレフィン管に悪影響を与えない限り、任意の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃化剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの他に、ポリオレフィン樹脂に結晶核剤を添加することにより、ポリオレフィン樹脂の結晶を微細化して、物性を均一化してもよい。また、同様にポリオレフィン樹脂には、フィラーが含まれていても良い。用いられ得るフィラーとしては、ガラス繊維、カーボン繊維、アスベストなどの繊維状フィラーの他、タルク、マイカ、スメクタイトなどの層状体の酸塩などの板状粒子、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの球状粒子および粉砕粒子などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン樹脂は必要に応じて顔料、染料などで着色されていても良い。もちろん、管の表面に印字または加飾を施しても良い。
【0032】
次に、本発明に係るポリオレフィン管の製造方法を説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂から原管(ビレット)を形成する。これは、ポリオレフィン樹脂を押出機内部で溶融混練し、押出機先端に取り付けた管製造用の金型を通してポリオレフィン樹脂を管状に成形し、次いで金型から押し出された管状ポリオレフィン樹脂を引き取り機で引っ張りながら水槽などで冷却した後、切断機で所定の長さに切断することにより達成される。
【0033】
次に、ビレットを延伸させて周方向および軸方向の2方向に管のポリオレフィン分子を配向させる方法としては特に限定されず、周方向および軸方向の同時2軸延伸法、周方向の延伸を行った後に軸方向の延伸を行う逐次延伸法のいずれでもよいが、延伸工程を簡略化できるという観点から、同時2軸延伸法が好ましい。同時2軸延伸としては、(1)圧力流体法、(2)ダイ・マンドレル法、および(3)固体押出法が挙げられる。
【0034】
(1)の圧力流体法は、管の内部から圧縮空気などの加圧流体を用いてビレットを内側から外側へ押圧して周方向に延伸すると共に、管の両端に油圧などを用いた引張装置を取り付けて管を軸方向に延伸する方法である。
【0035】
(2)のダイ・マンドレル法は、径が拡大していくコーン状のマンドレル表面に管を進行させた後、油圧などを利用した引張装置により管をマンドレルに密着させながら先端から引っ張ることにより、管の内径を拡げて周方向および軸方向に同時に延伸する方法である。この方法では、マンドレルと共に、得られる管の肉厚に対応した空間(クリアランス)を挟むようにしてこれに外嵌されるダイを組み合わせることが好ましい。
【0036】
(3)の固体押出法は、径が拡大していくコーン状のマンドレル表面に管を進行させた後、油圧などを利用した押出装置により管をマンドレルに密着させながら後方からマンドレルに押し込むことにより、管の内径を拡げて周方向および軸方向に同時に延伸する方法である。この方法では、上記と同様にダイを組み合わせることが好ましい。
【0037】
管を延伸させる際には管を加温するが、本発明においては、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%以上25%以下の状態になるように加温する。具体的な加温温度は、ポリオレフィン樹脂の種類、分子量、分子量分布などによって若干変動するが、ポリエチレン樹脂の場合にはおおよそ約108℃以上約126℃以下である。約108℃未満の場合には、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%を越えてしまう場合があり、同様に約126℃以上の場合には、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%を下回る場合がある。
【0038】
得られた2軸延伸ポリオレフィン管の外径、内径、および肉厚は、上述したように、外径が肉厚の100倍以下であれば特に限定されないが、得られた2軸延伸ポリオレフィン管の肉厚は、約0.5mm以上20mm以下であることが好ましく、約1mm以上10mm以下であることがより好ましい。
【0039】
このようにして延伸することにより本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管を得ることができる。本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管は、従来より、配水管、給湯管、ガス管、上水道管、下水道管、プラント管、農下水管などの輸送管として用いられるだけでなく、光ファイバー、電線などの周囲に設けられる保護管として、または缶詰、ボトルなどを内蔵して保存する保存管として用いられ得る。
【0040】
また、得られた2軸配向ポリオレフィン管に、寸法安定性、耐クリープ性を向上させて品質をさらに改善するために、アニーリング、後架橋などの後処理を施してもよい。なお、アニーリングを行う場合は、ポリオレフィン樹脂の融点以下の温度で行われることが好ましい。
【0041】
また、得られた2軸配向ポリオレフィン管に受け口加工、曲げ加工、穴開け加工などを施し、管としての施工性を向上させることが好ましい。また、複数本の2軸配向ポリオレフィン管を継ぎ合わせてもよい。継ぎ合わせ方法としては、EF(エレクトロフュージョン)融着、BUTT融着、回転接合、ソケット接合、フランジ接合(ボルト締め)などが挙げられる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面と共により詳細に説明する。
図1は、ビレット2を延伸させて本発明に係る2軸配向ポリエチレン系樹脂管を作製する延伸装置1を示す。この延伸装置1は、圧力流体法によりビレット2を延伸させて2軸配向ポリエチレン系樹脂管を作製する装置である。
【0043】
この延伸装置1は、ヒーター(図示せず)が設けられた外径規制型11と、ビレット2の両端を把持し、ビレット2を延伸させるパイプチャック12とを備えている。パイプチャック12は、ビレット2の両端を把持してビレット2を軸方向に延伸すると共に、その気体輸送管13から送られてきた加圧加温された気体をビレット2の内側からビレット2に加えて周方向にビレット2を延伸する。パイプチャック12には、モータ14が備えられており、モータ14のスイッチを入れると、ビレット2が軸方向に延伸されるようになっていると共に、気体輸送管13に加圧加温された気体が送られるようになっている。なお、気体輸送管13からパイプチャック12に送られてきた気体は漏れずにビレット2に送られるよう、パイプチャック12はエアーシール構造となっている。
【0044】
まず、ポリエチレン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるポリエチレン樹脂を押出機(図示せず)に投入し、この押出機内部で混合しながら溶融混練した後、押出機の先端に備えられた管製造用金型より押し出すことにより、ビレット2を作製する。このようにして作製されたビレット2は、上記の延伸装置1により圧縮流体法により軸方向および周方向の両方に延伸されて2軸配向ポリエチレン管とされる。
【0045】
本発明においては、ポリエチレン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるため、このようなポリエチレン樹脂における温度に対する結晶化度の変化が緩やかである。上記のような第1温度と第2温度との間の温度下でビレット2を延伸させるため、管の一部分が他の部分と比較して極端に延伸されたり、当該一部分が破けてしまうことがなく、均一に延伸された2軸配向ポリエチレン管を得ることができる。このように、本発明に係る2軸配向ポリエチレン管は均一に延伸されているため、その肉厚が非常に均一である。
【0046】
また、本発明に係る2軸配向ポリエチレン管は、周方向に延伸されているため、周方向に対する弾性が向上している。これにより、管内部を流れる流体から管に加えられる内圧、および管が埋設された場合には管周囲の土などから加えられる土圧に十分耐えることができる。
【0047】
さらに、結晶化度が25%である第1温度と、結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるポリオレフィン樹脂は、異なる分子量、融点などを有する2種以上のポリオレフィン樹脂を溶融混練することや、オレフィンを重合させる際に共重合成分の導入量を適切に調節することなどにより、比較的容易に得ることができる。また、このように異なる分子量、融点などを有する2種以上のポリオレフィン樹脂を溶融混練することや、オレフィンを重合させる際に共重合成分の導入量を適切に調節するといった、2軸配向ポリオレフィン管のポリオレフィン樹脂の配合は自由に行うことができるので、用いるポリオレフィン樹脂を適切に選択することによって、最終的に作製される2軸配向ポリオレフィン管に求められる性能を付与することができる。
【0048】
例えば、2軸配向ポリオレフィン管に長期耐圧クリープ性が求められる場合には、押出賦形性と耐クリープ性とを同時に満足するために、一般に広い分子量分布を有するポリエチレン樹脂を用いるが、このような特徴を本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管に付与することは容易に行うことができる。また、延伸は圧力流体法などの公知の方法により行うことができるので、ビレット2を周方向および軸方向に所望の配向を付与することができると共に、本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管は容易に製造され得る。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を以下の実施例と共に詳細に説明するが、以下の実施例は例示の目的にのみ用いられ、限定の目的に用いられてはならない。
(実施例1)
30重量部のポリオレフィン樹脂A(旭化成工業社製、商品名:「サンテックHD(グレード:S360)」、密度:0.953g/cm3、MFR:1.1g/10分、分子量:約129000、融点132℃)をノーベント型単軸押出機(シリンダー径65mm、L/D=30)と、70重量部の密度ポリオレフィン樹脂B(ダウケミカル社製、商品名:「アフィニティ(グレード:FW1650)」、密度:0.902g/cm3、MFR:3.0g/10分、分子量:約78000、融点108℃)とをロール混練装置に投入し、210℃にて10分間充分溶融混練して高密度ポリオレフィン樹脂混合物を作製した。次いでこの
高密度ポリオレフィン樹脂混合物をノーベント型単軸押出機(シリンダー径65mm、L/D=30)に投入し、この押出機内部で混合しながら220℃で溶融混練して押出機の先端に備えられた管製造用金型(ランド部内径92mm、コア部外径32mm)より押し出すことにより、外径89mm、内径30mmのビレットを作製した。
【0050】
次に、このビレット2におけるポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、結晶化度が10%である第2温度とを、Perkin elmer社製の示唆走査型熱量計(DSC)を用いて測定した。
【0051】
ここで、DSCを用いた上記測定方法をより詳細に以下に説明する。まず、アルミニウム製の筒状容器にビレット2を入れ、常温下からビレット2を10℃/分の割合でポリエチレン樹脂がすべて非晶化する温度(約200℃)まで加温してポリエチレン樹脂を融解させ、次いで10℃/分の割合で20℃まで冷却する。次に、このポリエチレン管を、図2に示すように、20℃から1℃/分の割合でポリエチレン樹脂がすべて非晶化する温度(約200℃)まで加温してポリエチレン樹脂を融解させながら、DSC(示唆走査熱量計)を用いて融解開始前の温度(約80℃)からポリエチレン樹脂がすべて非晶化する温度(約200℃)までポリエチレン樹脂が吸熱した全非晶化熱量を算出する(図2では、143mJ/mg)。なお、アルミニウム製の筒状容器は、窒素ガスが50ml/分注入される雰囲気下におかれ、ポリエチレン樹脂を加熱する際に、ポリエチレン樹脂が酸化しないようにした。また、示唆走査型熱量計(DSC)の種類は問わないが、本発明においては、必ずJIS K 7122に基づいて温度−吸熱量の曲線を作図する。
【0052】
次に、DSCにより当該所定温度におけるポリエチレン樹脂が融解するために吸熱した吸熱量を求め、融解開始前の結晶化度(ポリエチレン樹脂の場合には、約65.0%)から、以下の式に従って、所定温度における結晶化度を求める:
【0053】
所定温度における 所定温度における吸熱量
結晶化度(%)=融解開始前の結晶化度×(1−――――――――――――)
全非晶化熱量

【0054】
例えば、非結晶化熱量が143mJ/mgであり、101℃に加熱するまでの吸熱量が22mJ/mgである場合には、101℃における結晶化度は、
【0055】
101℃における 22
結晶化度(%)=65%×(1−――――)=55.0(%)
143
と算出され、122℃に加熱するまでの吸熱量が121mJ/mgである場合には、122℃における結晶化度は、
【0056】
122℃における 121
結晶化度(%)=65%×(1−――――)=10.0(%)
143
と算出される。
【0057】
この測定方法により、ビレット2に対して100℃から130℃の間で1℃ずつ結晶化度を求めたところ、得られた2軸配向ポリオレフィン管におけるポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は110℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は126℃であった(すなわち、ΔABは16℃であった)。
【0058】
次いで、上記ビレット2を図1に示す延伸装置1を用いて延伸することにより2軸配向ポリエチレン系樹脂管を作製した。まず、上記ビレット2をギアーオーブン内で30分間、116℃まで加温した後、図1に示すように、ビレット2の両端をパイプチャック12に接合した後、ビレット2の内側から30MPa、116℃の空気をビレット2に加えることにより、ビレット2の温度を116℃に維持しながらビレット2を周方向に延伸すると共に、パイプチャック12をモータ14により回転させることによってビレット2を軸方向に延伸した。なお、外径規制型11の直径は145mmであり、これに備えられているヒーターを用いることにより、外径規制型11の温度も116℃に維持した。また、延伸時には、周方向の延伸速度を変位計で測定しながら、軸方向の延伸速度を周方向の延伸速度と同じ速度に調節しながら延伸した。得られた2軸配向ポリエチレン系樹脂管の2軸配向ポリエチレン系樹脂管の最大肉厚と最小肉厚との差は0.3mmであった。
【0059】
(実施例2)
ビレット2を111℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製した。得られた2軸配向ポリオレフィン管の最大肉厚と最小肉厚との差は0.5mmであった。また、ビレット2において、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は110℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は126℃であった(すなわち、ΔABは16℃であった)。
【0060】
(実施例3)
ポリオレフィン樹脂AおよびBを用いずに、ポリオレフィン樹脂C(三井化学社製、商品名:「フルトゼックス(グレード:OZ2520F)」、密度:0.925g/cm3、MFR:2.0g/10分、分子量:約106000)のみを用いてビレット2を作製し、ビレット2を109℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製した。得られた2軸配向ポリオレフィン管の最大肉厚と最小肉厚との差は0.4mmであった。また、ビレット2において、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は107℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は117℃であった(すなわち、ΔABは10℃であった)。
【0061】
(実施例4)
高密度ポリオレフィン樹脂AおよびBを用いずに、高密度ポリオレフィン樹脂Cのみを用いてビレット2を作製し、ビレット2を115℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製した。得られた2軸配向ポリオレフィン管の最大肉厚と最小肉厚との差は0.6mmであった。また、ビレット2において、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は107℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は117℃であった(すなわち、ΔABは10℃であった)。
【0062】
(比較例1)
ビレット2を127℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製しようとしたが、延伸中にビレット2が破断し、2軸配向ポリオレフィン管を得ることはできなかった。また、ビレット2において、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は110℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は126℃であった(すなわち、ΔABは16℃であった)。
【0063】
(比較例2)
ビレット2を107℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製しようとしたが、延伸中にビレット2が破断し、2軸配向ポリオレフィン管を得ることはできなかった。なお、本比較例2においては、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は110℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は126℃であった(すなわち、ΔABは16℃であった)。
【0064】
(比較例3)
高密度ポリオレフィン樹脂Bを用いずに、高密度ポリオレフィン樹脂Aのみを用いてビレット2を作製し、ビレット2を125℃に加温した状態で延伸すること以外は、実施例1と同様に2軸配向ポリオレフィン管を作製しようとしたが、延伸中にビレット2が破断し、2軸配向ポリオレフィン管を得ることはできなかった。なお、本比較例3においては、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度は121℃、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度は127℃であった(すなわち、ΔABは6℃であった)。
【0065】
次に、上記各実施例により得られた各2軸配向ポリオレフィン管と管継手とをEF(エレクトロフュージョン)融着法によりそれぞれ接合し、この各接合管に1秒当たり1リットルの水を1時間にわたって流し続けたところ、実施例1から4における各接合管においては、2軸配向ポリオレフィン管と管継手との接合部から水が漏れ出すことはなく、配管材として適切な性能を有することが確認された。なお、上記実施例および比較例の結果を、以下の表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1より、各実施例と比較例1、2とを比較すると、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%以上25%以下の状態でポリオレフィン管を延伸した場合には、得られた2軸配向ポリオレフィン管の最大肉厚と最小肉厚との差が1mm以内となり、極めて肉厚が均一な2軸配向ポリオレフィン管を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%未満または25%を越える状態でポリオレフィン管を延伸した場合には、延伸の初期段階において管は非常に不均一に延伸され、延伸が終了するまでに破断に至る。(比較例1〜3)。
【0068】
また、各実施例と比較例3とを比較すると、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、該ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差(ΔAB)が8℃以上である場合には(得られた2軸配向ポリオレフィン管の最大肉厚と最小肉厚との差が1mm以内となり)、極めて肉厚が均一な2軸配向ポリオレフィン管を得ることができる。一方、この差(ΔAB)が8℃未満である場合には、延伸中にビレットが破断してしまい、本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管を得ることができない。
【0069】
【発明の効果】
本発明においては、結晶化度が25%である第1温度と、結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であり、これらの第1温度と第2温度との間でポリオレフィン管を延伸して2軸配向ポリオレフィン管は極めて均一な肉厚分布を有する。従って、本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管は十分な耐圧強度を有し、また複数本接合した場合であっても、その接合部から管内部を流れる流体が漏れ出すことがない。
【0070】
また、本発明に係る2軸配向ポリエチレン管は、周方向に延伸されているので、周方向の弾性が向上している。従って、管内部を流れる流体から管に加えられる内圧、および管が埋設された場合には管周囲の土などから加えられる土圧に十分耐えることができる。
【0071】
さらに、結晶化度が25%である第1温度と、結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるポリオレフィン樹脂は、比較的容易に得ることができるだけでなく、ビレット2を周方向および軸方向に所望の配向を付与することができる圧力流体法などを用いることができるので、本発明に係る2軸配向ポリオレフィン管は容易に製造され得る。
【0072】
従って、本発明により、管の肉厚が均一であると共に、埋設管として用いられる際に求められる管の強度が高いだけでなく、さらに容易に製造することができる2軸配向ポリオレフィン管およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 圧力流体法によって本発明に係る2軸配向ポリエチレン系樹脂管を作製する延伸装置1を示す図である。
【図2】 DSCを用いた結晶化度の測定方法を説明するために用いられる図である。
【符号の説明】
1…延伸装置
11…外径規制型 12…パイプチャック
13…気体輸送管 14…モータ
2…ビレット

Claims (1)

  1. 未延伸状態のポリエチレン樹脂の結晶化度が25%である第1温度と、該ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%である第2温度との差が8℃以上であるポリエチレン樹脂からなるポリエチレン管を加温しながら、ポリエチレン樹脂の結晶化度が10%以上25%以下の状態でポリエチレン管を軸方向および周方向に延伸する2軸配向ポリエチレン管の製造方法。
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